説明

車体底部構造

【課題】車体底部を構成する部材同士の誤った組付けを防止できる車体底部構造を提供することを目的とする。
【解決手段】車体底部構造100は、フロアパネル112の側縁に沿って車両前後方向に延びるサイドシルインナーパネルと、フロアパネルの下面に配置され車幅方向に延びていてサイドシルインナーパネル側の一端に形成されたフランジ部144を有し、フランジ部がサイドシルインナーパネルに接合されるクロスメンバとを備え、クロスメンバは、フランジ部に切欠部146が形成された第1クロスメンバ122、あるいは、切欠部が形成されていない第2クロスメンバ122Aであり、サイドシルインナーパネルは、フランジ部と接合される面に下方に突出していて切欠部に入り込むように車幅方向に延びたビード部150が形成された第1サイドシルインナーパネル114、あるいは、ビード部が形成されていない第2サイドシルインナーパネル114Aである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などの車体底部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車体では、例えば、各種仕様に応じて組付けられる部材が設定されている。ところが、仕様の異なる部材であっても、単に材質が異なるだけで、形状が同一である場合がある。このような場合、作業者が仕様の異なる部材同士を誤って組付けてしまう可能性がある。
【0003】
特許文献1には、ルーフサイドに衝撃吸収パッドを備えた衝撃吸収パッド仕様の車体と、この車体に組付けられる第1フロントピラートリムと、フロントピラーおよびルーフサイドにカーテンエアバックを備えたカーテンエアバック仕様の車体と、この車体に組付けられる第2フロントピラートリムとが記載されている。
【0004】
特許文献1では、衝撃吸収パッドに突出片を設け、第2フロントピラートリムに突出片と干渉する干渉部を設けることで、第1フロントピラートリムと第2フロントピラートリムとが取り違えられ、車体に誤って組付けられることを防止するとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−95225号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の技術は、フロントピラートリムの誤った組付けを防止する構造であるが、車体底部構造を構成する部材同士の誤った組付けを防止する点については記載されていない。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑み、車体底部を構成する部材同士の誤った組付けを防止できる車体底部構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明にかかる車体底部構造の代表的な構成は、車体の床面を形成するフロアパネルと、フロアパネルの側縁に沿って車両前後方向に延びるサイドシルインナーパネルと、フロアパネルの下面に配置され車幅方向に延びていてサイドシルインナーパネル側の一端に形成されたフランジ部を有しフランジ部がサイドシルインナーパネルに接合されるクロスメンバとを備えた車体底部構造において、クロスメンバは、フランジ部に切欠部が形成された第1クロスメンバであり、あるいは、切欠部が形成されていない第2クロスメンバであり、サイドシルインナーパネルは、フランジ部と接合される面に下方に突出していて切欠部に入り込むように車幅方向に延びたビード部が形成された第1サイドシルインナーパネルであり、あるいは、ビード部が形成されていない第2サイドシルインナーパネルであり、第1サイドシルインナーパネルは、ビード部が第1クロスメンバの切欠部に入り込むことにより第1クロスメンバには接合可能であるが、ビード部が第2クロスメンバのフランジ部とは干渉することにより第2クロスメンバには接合不能であることを特徴とする。
【0009】
上記構成によれば、第1サイドシルインナーパネルには、第1クロスメンバのみが接合可能となり、第2クロスメンバが接合されない。一例として、第1サイドシルインナーパネルおよび第1クロスメンバを第1仕様とし、第2サイドシルインナーパネルおよび第2クロスメンバを第2仕様とした場合、第1仕様のサイドシルインナーパネルに第2仕様のクロスメンバが誤って組付けられることを防止できる。よって、サイドシルインナーパネルとクロスメンバとの誤った組付けを防止できる。なお、第1仕様と第2仕様とは、剛性に着目して鋼材とハイテン材とで区別してもよく、あるいは、メッキ材とメッキなどが施されていない裸材とで区別してもよい。
【0010】
第2クロスメンバは、第1クロスメンバよりも剛性が高い部材であり、第2サイドシルインナーパネルは、第1サイドシルインナーパネルよりも剛性が高い部材であるとよい。このため、剛性の低い仕様となる第1クロスメンバと第1サイドシルインナーパネルとの接合、また、剛性の高い仕様となる第2クロスメンバと第2サイドシルインナーパネルとの接合が可能となる。さらに、剛性の高い仕様の第2クロスメンバに、剛性の低い仕様の第1サイドシルインナーパネルが誤って接合されることがない。なお、剛性の低い仕様の第1クロスメンバに、剛性の高い仕様の第2サイドシルインナーパネルが接合されることは、車体底部構造の剛性を確保する上で許容される。
【0011】
ビード部は、第1サイドシルインナーパネルの車外側の端部まで延びているとよい。このため、ビード部に水が流れ込んだとしても、車外側の端部から排出されることになり、ビード部に水が溜まることがない。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、車体底部を構成する部材同士の誤った組付けを防止できる車体底部構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態における車体底部構造が適用される車両の一部を示す図である。
【図2】図1の車体底部構造の底面図である。
【図3】図2の車体底部構造のA−A断面図である。
【図4】図2の車体底部構造の一部を拡大して示す図である。
【図5】図3の車体底部構造の一部を拡大して示す図である。
【図6】他の車体底部構造の一部を拡大して示す図である。
【図7】仕様の異なる部材同士が干渉する様子を示す図である。
【図8】図7の一部を示す断面図である。
【図9】第1サイドシルインナーパネルの形状を説明する図である。
【図10】仕様の異なる部材同士が組み付けられた様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0015】
図1は、本実施形態における車体底部構造100が適用される車両110の一部を示す図である。図1では、エンジンルームなどを除く車両110を斜め下方から見た状態を示し、また、各部材を適宜省略した状態で車体底部構造100を示している。なお、図中の矢印Frは車両前側、矢印Rhは車両右側を示すものとする。図2は、図1の車体底部構造100の底面図である。
【0016】
車体底部構造100は、図2に示すように、車体の床面を形成するフロアパネル112と、第1サイドシルインナーパネル114、116と、フロアサイドリアメンバ118、120と、フロアパンロアクロスメンバ(第1クロスメンバ)122、124とを備えている。フロアパネル112は、平板状の車幅方向に沿って配置されたメインフロアパン126、128と、メインフロアパン126、128の中央に配置され車室内側に突出した凸形状のメインフロアトンネル130とから構成されている。
【0017】
第1サイドシルインナーパネル114、116は、メインフロアパン126、128の側縁に沿ってそれぞれ配置された部材であり、車両前後方向に延びていて、車内側の面を形成する。フロアサイドリアメンバ118、120は、メインフロアパン126、128の下面に配置され、車両前後方向に延びる梁状の部材である。第1クロスメンバ122、124は、メインフロアパン126、128の下面に配置され車幅方向に延びる部材であり、車外側の一端が第1サイドシルインナーパネル114、116に接合され、車内側の他端がフロアサイドリアメンバ118、120に接合される。
【0018】
図3は、図2の車体底部構造100のA−A断面図である。以下では、車両右側のB領域(図2参照)に含まれる各部材についてのみ説明するが、車両左側に配置される各部材も車両110の中心線を基準にしてほぼ対称な構造を有している。車体底部構造100は、上記各部材に加えて、図3に示すように、フロントシートリアアウトサイドブラケット132と、サイドボディアウタパネル134と、サイドシルストレングス136と、センターピラーインナパネル138と、リアドアヒンジリンフォース140と、遮音用発泡材142とをさらに備えている。
【0019】
フロントシートリアアウトサイドブラケット132は、メインフロアパン126の上面に配置され、車内側の面を形成する上記第1サイドシルインナーパネル114に車内側から接合されている。サイドボディアウタパネル134は、車体側部の外面を形成する部材である。サイドシルストレングス136は、サイドボディアウタパネル134と第1サイドシルインナーパネル114との間に配置されていて、下端側でサイドボディアウタパネル134および第1サイドシルインナーパネル114に接合されている。
【0020】
また、サイドシルストレングス136は、上端側で第1サイドシルインナーパネル114およびセンターピラーインナパネル138に接合されている。さらに、サイドシルストレングス136は、図示のように、車外側に湾曲した面でリアドアヒンジリンフォース140に接合されている。リアドアヒンジリンフォース140には、車外側に位置する上記遮音用発泡材142が設置されている。
【0021】
図4は、図2の車体底部構造100の一部を拡大して示す図である。図4は、図2で示すB領域に対応していて、フロアサイドリアメンバ118を省略して示している。図5は、図3の車体底部構造100の一部を拡大して示す図である。図5は、図3で示すC領域に対応している。
【0022】
ここまで、車体底部構造100の一部である第1サイドシルインナーパネル114および第1クロスメンバ122を説明してきたが、これらは、要求される剛性に応じた第1仕様のものである。第1仕様の第1サイドシルインナーパネル114および第1クロスメンバ122は、一般材としての鋼材である。第1仕様に代えて第2仕様の部材を用いてもよく、第2仕様の第2サイドシルインナーパネル114Aおよび第2クロスメンバ122Aは、例えば鋼材の剛性を高めた高張力鋼(ハイテン材)である。要求される剛性が異なるため、仕様が異なるサイドシルインナーパネルおよびクロスメンバ同士を組付けることは好ましくない。このため、車体底部構造100では、仕様に応じてサイドシルインナーパネルおよびクロスメンバの形状を変更することで、誤った組付けを防止している。便宜上、図4および図5では第1仕様の第1サイドシルインナーパネル114および第1クロスメンバ122を用いている。以下、具体的に説明する。
【0023】
第1クロスメンバ122の車外側の端部には、車外側に張り出したフランジ部144が形成されている。このフランジ部144には、図示のように切欠部146が形成されている。第1サイドシルインナーパネル114は、第1クロスメンバ122のフランジ部144と接合される接合面148を有している。この接合面148には、図示のように下方に突出したビード部150が形成されている。ビード部150は、フランジ部144の切欠部146に入り込むように車幅方向に延びている。第1仕様同士である第1サイドシルインナーパネル114と第1クロスメンバ122とは、ビード部150が切欠部146に入り込むことで、図示のように、接合面148とフランジ部144とが確実に接合され組付けられる。
【0024】
図6は、他の車体底部構造100Aの一部を拡大して示す図である。車体底部構造100Aでは、第1仕様よりも高い剛性が要求される第2仕様の第2サイドシルインナーパネル114Aおよび第2クロスメンバ122Aが用いられている。
【0025】
第2クロスメンバ122Aは、車外側に張り出したフランジ部144Aに上記切欠部146が形成されていない点で、第1仕様の第1クロスメンバ122と異なる。第2サイドシルインナーパネル114Aは、フランジ部144Aと接合される接合面148Aに上記ビード部150が形成されていない点で、第1仕様の第1サイドシルインナーパネル114と異なる。第2仕様同士である第2サイドシルインナーパネル114Aと第2クロスメンバ122Aとは、図示のように、接合面148Aとフランジ部144Aとが重なり合い、確実に接合され組付けられる。
【0026】
図7は、仕様の異なる部材同士が干渉する様子を示す図である。図8は、図7の一部を示す断面図である。なお、図8は、図5と対応するように示している。ここでは、第2仕様の第2クロスメンバ122Aを、第1仕様の第1サイドシルインナーパネル114に組付けようとした状態を示している。この場合には、第2クロスメンバ122Aのフランジ部144Aが第1サイドシルインナーパネル114のビード部150に干渉し、例えば図示のように、フランジ部144Aがビード部150に乗り上げてしまう。その結果、フランジ部144Aは、第1サイドシルインナーパネル114の接合面148に接触せず、組付けが不能となる。つまり、高剛性が必要な第2仕様の第2クロスメンバ122Aに、第1仕様の第1サイドシルインナーパネル114が誤って組付けられることを防止できる。
【0027】
図9は、第1サイドシルインナーパネル114の形状を説明する図である。第1仕様の第1サイドシルインナーパネル114は、ビード部150が形成されていることで、図示のように第1仕様の第1クロスメンバ122が組付けられることを許容し、図7および図8に示すように第2仕様の第2クロスメンバ122Aが誤って組付けられることを防止する。この機能は、ビード部150が仮想線で示すような形状を有するビード部152であっても損なわれない。
【0028】
しかし、ビード部152の形状では、図示のように、上方から見て下方に窪んだ領域Dが形成される。この領域Dには、水などが溜まる場合がある。この場合には、第1サイドシルインナーパネル114に錆が発生し易くなる。この対策として、第1サイドシルインナーパネル114では、ビード部150が車外側の端部まで延びていて、領域Dを形成しない形状としている。よって、第1仕様の第1サイドシルインナーパネル114では、ビード部150に水が溜まることがなく、錆の発生を低減できる。なお、ビード部150に代えて、穴を形成したとしても、水の浸入を防止するためにキャップなどの部品が必要となってしまう。
【0029】
図10は、仕様の異なる部材同士が組み付けられた様子を示す図である。ここでは、第1仕様のクロスメンバ112に、第2仕様の第2サイドシルインナーパネル114Aが組付けられた状態を示している。第2仕様の第2サイドシルインナーパネル114Aには、ビード部150が形成されていないため、第2仕様の第2クロスメンバ122Aだけでなく、図示のように第1仕様の第1クロスメンバ122も組付け可能となる。仮に、このような組付けが行われても、剛性の低い第1仕様のクロスメンバ112に、剛性の高い第2仕様の第2サイドシルインナーパネル114Aが接合されることは、車体底部構造の剛性を確保する上で許容される。
【0030】
本実施形態では、第1仕様および第2仕様同士の第1クロスメンバ122、第2クロスメンバ122Aと第1サイドシルインナーパネル114、第2サイドシルインナーパネル114Aとの組付けを確実に行うことができる。また、高剛性が必要な第2仕様の第2クロスメンバ122Aに、第1仕様の第1サイドシルインナーパネル114が誤って組付けられることを防止できる。このとき、第2クロスメンバ122Aのフランジ部144Aが第1サイドシルインナーパネル114のビード部150に干渉し、物理的に組付け不能となるので、近接センサーを用いる必要がなく、設備費を削減できる。
【0031】
なお、仕様としては、剛性に着目して鋼材とハイテン材とで区別したが、これに限られず、メッキ材とメッキなどが施されていない裸材とで区別してもよい。
【0032】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、自動車などの車体底部構造に利用することができる。
【符号の説明】
【0034】
100…車体底部構造、110…車両、112…フロアパネル、114、116…第1サイドシルインナーパネル、114A…第2サイドシルインナーパネル、118、120…フロアサイドリアメンバ、122、124…第1クロスメンバ、122A…第2クロスメンバ、126、128…メインフロアパン、130…メインフロアトンネル、144、144A…フランジ部、146…切欠部、148…接合面、150…ビード部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の床面を形成するフロアパネルと、
前記フロアパネルの側縁に沿って車両前後方向に延びるサイドシルインナーパネルと、
前記フロアパネルの下面に配置され車幅方向に延びていて前記サイドシルインナーパネル側の一端に形成されたフランジ部を有し該フランジ部が前記サイドシルインナーパネルに接合されるクロスメンバとを備えた車体底部構造において、
前記クロスメンバは、前記フランジ部に切欠部が形成された第1クロスメンバであり、あるいは、該切欠部が形成されていない第2クロスメンバであり、
前記サイドシルインナーパネルは、前記フランジ部と接合される面に下方に突出していて前記切欠部に入り込むように車幅方向に延びたビード部が形成された第1サイドシルインナーパネルであり、あるいは、該ビード部が形成されていない第2サイドシルインナーパネルであり、
前記第1サイドシルインナーパネルは、前記ビード部が前記第1クロスメンバの切欠部に入り込むことにより該第1クロスメンバには接合可能であるが、前記ビード部が前記第2クロスメンバのフランジ部とは干渉することにより該第2クロスメンバには接合不能であることを特徴とする車体底部構造。
【請求項2】
前記第2クロスメンバは、前記第1クロスメンバよりも剛性が高い部材であり、
前記第2サイドシルインナーパネルは、前記第1サイドシルインナーパネルよりも剛性が高い部材であることを特徴とする請求項1に記載の車体底部構造。
【請求項3】
前記ビード部は、前記第1サイドシルインナーパネルの車外側の端部まで延びていることを特徴とする請求項1または2に記載の車体底部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−99997(P2013−99997A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−244424(P2011−244424)
【出願日】平成23年11月8日(2011.11.8)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】