説明

車体後部構造

【課題】スペアタイヤ収納部廻りを簡易に補強することを可能にするとともに、後方からの衝撃に対する剛性の向上を図ることを可能にする。
【解決手段】フロアパネル14の後部に下方に向けて形成され、スペアタイヤを収納するスペアタイヤ収納部15と、このスペアタイヤ収納部15に設けられ、スペアタイヤ収納部15廻りの剛性を向上させる補強部材16とを備えた車体後部構造10において、補強部材16は、略Y字形状を呈する部材であり、スペアタイヤ収納部15の下面37で且つ中央に前後方向に沿わせて延びる本体部41と、この本体部41の前端から略V字状前方に広がって両先端が上方へ屈曲され、スペアタイヤ収納部15の下面37の角部稜線39から前面に渡り沿わせたアーム部42とから構成され、これらのアーム部42及び本体部41の所定箇所がスペアタイヤ収納部15に接合される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体の床後部に設けられ、スペアタイヤを収納する凹部廻りの剛性を向上させた車体後部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車体後部構造として、車体の床後部にスペアタイヤを収納する凹部を形成し、この凹部にスペアタイヤを収納して固定するものが知られている。
この種の車体後部構造は、スペアタイヤを収納する凹部を、他の機能部品と関連を持たせることなく形成されることが一般的であったが、中には他の機能部品と関連させ車体の剛性の向上を図るものもある。
【0003】
このような車体後部構造として、スペアタイヤを収納する凹部の下方にクロスメンバを渡したものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2006−123708公報(第6頁、図1)
【0004】
特許文献1の技術を説明する。
図7は従来の車体後部構造の基本構成を説明する図である。
車体後部構造200は、左・右のサイドメンバ201,202と、これらのサイドメンバ201,202を繋ぐクロスメンバ203と、これらの左・右のサイドメンバ201,202及びクロスメンバ203の上部に被せたフロアパネル204と、このフロアパネル204に形成され、スペアタイヤ(不図示)を収納するスペアタイヤ収納部205と、
このスペアタイヤ収納部205の前方に略ハ字状に配置され、且つ左右のサイドメンバに後端が連結され、ディファレンシャルギヤユニット(不図示)を支持するディファレンシャルマウントメンバ207,208と、クロスメンバ203の中央且つ下方に設けられ、ディファレンシャルギヤユニットを支持するディファレンシャルマウントブラケット209とから構成され、スペアタイヤ収納部205は、クロスメンバ203、ディファレンシャルマウントメンバ207,208及びディファレンシャルマウントブラケット209などで剛性の向上が図られる。
【0005】
しかし、車体後部構造200では、FF(front engine front drive)車においては、スペアタイヤ収納部205下方にディファレンシャルシャフト(不図示)などのディファレンシャルユニットが配置されないので、スペアタイヤ収納部205を補強することはできない。
また、車体後部構造200では、スペアタイヤ収納部205の下方にディファレンシャルマウントブラケット209が配置されるので、スペアタイヤ収納部205廻りの重量の増加を招くことがある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、スペアタイヤ収納部廻りを簡易に補強することができ、後方からの衝撃に対する剛性の向上を図ることができる車体後部構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、フロアパネルの後部に下方に向けて形成され、スペアタイヤを収納するスペアタイヤ収納部と、このスペアタイヤ収納部に設けられ、スペアタイヤ収納部廻りの剛性を向上させる補強部材とを備えた車体後部構造において、補強部材は、略Y字形状を呈する部材であり、スペアタイヤ収納部の下面で且つ中央に前後方向に沿わせて延びる本体部と、この本体部の前端から略V字状前方に広がって両先端が上方へ屈曲され、スペアタイヤ収納部の下面の角部稜線から前面に渡り沿わせたアーム部とから構成され、これらのアーム部及び本体部の所定箇所がスペアタイヤ収納部に接合されたことを特徴とする。
【0008】
請求項2に係る発明は、本体部が、後端に牽引用フックを備えることを特徴とする。
【0009】
請求項3に係る発明は、スペアタイヤ収納部に、スペアタイヤを収納するスペアタイヤパンと、スペアタイヤを取付ける取付けブラケットとを備え、本体部、スペアタイヤパン及び取付けブラケットを一体的に溶接したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明では、スペアタイヤを収納するスペアタイヤ収納部と、スペアタイヤ収納部廻りの剛性を向上させる補強部材とを備える。
補強部材のアーム部は、本体部の前端から略V字状に前方に広がって両先端部が上方へ屈曲され、スペアタイヤ収納部の下面の角部稜線から前面に渡り沿わせ、アーム部及び本体部の所定箇所がスペアタイヤ収納部に接合されたので、後方から衝撃を受けた場合(後突時)にも車体の後部の変形を抑えることができる。
また、補強部材を本体部とアーム部とから構成したので、簡易で軽量な構造とすることができ、車体重量の増加を最小限に止めることができる。
【0011】
請求項2に係る発明では、本体部の後端に牽引用フックを備えたので、牽引時の荷重が本体部から略V字のアーム部に分散されるので、スペアタイヤ収納部の凹部の角部稜線から前面で牽引時の荷重を受けることができる。この結果、牽引用フックに新たな補強部材を必要とせず、車体の軽量化を図ることができる。
【0012】
請求項3に係る発明では、本体部、スペアタイヤパン及び取付けブラケットを一体的に溶接したので、スペアタイヤを強固に支持することができる。この結果、車体の振動の低減を図ることができ、車両の静粛性の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
図1は本発明に係る車体後部構造の背面図であり、図2は本発明に係る車体後部構造の斜視図であり、図3は図1の3−3線断面図であり、図4は図1の4−4線断面図である。
【0014】
車体後部構造10は、車体前後方向に延ばされるとともに、車体後部に設けられる左・右のリヤフレーム11,12と、これらのリヤフレーム11,12に渡されるクロスメンバ13と、これらの左・右のリヤフレーム11,12及びクロスメンバ13に被せられたフロアパネル(車体フロア)14と、このフロアパネル14の後部に車体下方に向けて形成され、スペアタイヤ(不図示)を収納するスペアタイヤ収納部15と、このスペアタイヤ収納部15の下部に設けられ、スペアタイヤ収納部15を外方から補強をする補強部材16と、この補強部材16の後部に取付けられ、他車両を牽引するために牽引用ロープ(不図示)を取付ける牽引用フック17とから構成される。
【0015】
スペアタイヤ収納部15は、フロアパネル14の後部に形成され、スペアタイヤを収納するスペアタイヤパン21と、このスペアタイヤパン21に設けられ、スペアタイヤを取付ける取付けブラケット22とからなる。
スペアタイヤパン21は、取付けブラケット22が位置決めされる複数の位置決め部23と、水抜きをするセンタ水抜き孔24と、水抜きをする左・右水抜き孔25,26とが形成される。
【0016】
取付けブラケット22は、略筒状に形成されたブラケット本体31と、このブラケット本体31に形成され、スペアタイヤパン21に溶接されるフランジ32と、ブラケット本体31に取付けられ、スペアタイヤ固定用のねじ(不図示)がねじ込まれるナット33と、このナット33を臨ますことのできる孔34とを備える。さらに、図3に示されるように、取付けブラケット22は、スペアタイヤパン21及び補強部材16に一体的に溶接された部材である。
【0017】
図5は本発明に係る車体後部構造の補強部材の斜視図であり、図6は本発明に係る車体後部構造の下方からの斜視図である。
補強部材16は、スペアタイヤパン21の下面37からスペアタイヤパン21の前方側壁部38に渡って所定箇所がスペアタイヤ収納部15に接合(具体的には溶接)される部材であり、車体前後方向に延ばされ、スペアタイヤ収納部15の車体前後方向に中央部分を補強する本体部41と、この本体部41の前端から浅いV字状に広がりを持たせて延出され、スペアタイヤ収納部の下面からスペアタイヤパン21の前方側壁部38の補強をするアーム部42とからなる。さらに、補強部材16は、本体部41の前端にアーム部42が適宜溶接されることで一体的に取付けられ、略Y字状を呈する部材となる。
【0018】
本体部41は、前方に形成され、アーム部42に接続される本体部側接続部44と、両側方から前方に渡って形成され、剛性の向上を図るフランジ部45と、後方から折り曲げ形成され、剛性の向上を図るとともに牽引用フック17の後端部66を取付ける後壁部46と、下方に向けて凹状に形成されるとともにスペアタイヤパン21に溶接され、取付けブラケット22の接続部分を補強する凹部47と、上方に向けて凸状に形成され、下方から牽引用フック17の前端部64が取付けられる取付部48と、前方より中央に開けられ、水抜きをする本体部側水抜き孔49とを備える。
補強部材側水抜き孔49は、スペアタイヤパン21のセンタ水抜き孔24と同軸に設けられた水抜き孔である。
【0019】
アーム部42は、後方中央に形成され、本体部側接続部44に接続されるアーム部側接続部53(図6参照)と、前方に形成され、剛性の向上を図る前部フランジ部54と、アーム部側接続部53の左右に形成され剛性の向上を図る後部フランジ部55,55と、スペアタイヤパン21の前方側壁部38に沿わせて形成されるとともに、先端が上方へ屈曲され、前方側壁部38を補強する左・右曲げ部(フランジ)56,57と、中央後方部分に形成された複数の水抜き孔58と、左右に形成された水抜き孔59,59と、左右に形成され、図1に示されるように、リヤサスペンション(サスペンションアーム)などを支持するリヤサブフレーム18を左・右のステー27,28を介してが連結される複数の連結部61とを備える。左・右のステー27,28は、複数のボルト29で複数の連結部61に取付けられる。
すなわち、アーム部42は、スペアタイヤ収納部15の下面37の角部稜線39から前面に渡り沿わせて延出された部材である。
【0020】
牽引用フック17は、車体前後方向に直線上に延ばされ、先に説明したように補強部材16に取付けられる前端部64と、この前端64から下方へ向かいさらに上方に向かうように形成され、牽引ロープを掛ける略U形状のフック部65と、このフック部65から延出され、先に説明したように補強部材に取付けられる後端部66とを連続的に形成した部材である。
【0021】
図3に示されるように、車体後部構造10では、本体部41、スペアタイヤパン21及び取付けブラケット22を一体的に溶接したので、スペアタイヤを強固に支持することができる。この結果、車体の振動の低減を図ることができ、車両の静粛性の向上を図ることができる。
【0022】
図6に示されるように、補強部材16のアーム部42は、本体部41の前端から略V字状に前方に広がって両先端が上方へ屈曲され、スペアタイヤ収納部15の下面37の角部稜線39から前面に渡り沿わせ、アーム部42及び本体部41の所定箇所がスペアタイヤ収納部15に接合されたので、後方から衝撃を受けた場合(後突時)にも車体の後部の変形を抑えることができる。
また、補強部材16を本体部41とアーム部42とから構成したので、簡易で軽量な構造とすることができ、車体重量の増加を最小限に止めることができる。
【0023】
図6に示されるように、車体後部構造10では、本体部41の後端に牽引用フック17を備えたので、牽引時の荷重が本体部から略V字のアーム部42に分散されるので、スペアタイヤ収納部15の下面37の角部稜線39から前面で牽引時の荷重を受けることができる。この結果、牽引用フック17に新たな補強部材を必要とせず、車体の軽量化を図ることができる。
【0024】
また、図1に示されたように、アーム部42の底面(連結部61)に、前方にあるリヤサスペンション(不図示)用のリヤサブフレーム18の後部両端下面を支持する左・右のステー27,28を連結したので、リヤサブフレーム18の横剛性が向上する。この結果、操縦安定性(操安性)の向上を図ることができる。
【0025】
尚、本発明に係る車体後部構造10は、図3に示すように、取付けブラケット22は略筒状のブラケットであったが、これに限るものではなく、板材が折り曲げ形成されたものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明に係る車体後部構造は、セダンやワゴンなどの乗用車に採用するのに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る車体後部構造の背面図である。
【図2】本発明に係る車体後部構造の斜視図である。
【図3】図1の3−3線断面図である。
【図4】図1の4−4線断面図である。
【図5】本発明に係る車体後部構造の補強部材の斜視図である。
【図6】本発明に係る車体後部構造の下方からの斜視図である。
【図7】従来の車体後部構造の基本構成を説明する図である。
【符号の説明】
【0028】
10…車体後部構造、14…フロアパネル、15…スペアタイヤ収納部、16…補強部材、37…下面、41…本体部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロアパネルの後部に下方に向けて形成され、スペアタイヤを収納するスペアタイヤ収納部と、このスペアタイヤ収納部に設けられ、スペアタイヤ収納部廻りの剛性を向上させる補強部材とを備えた車体後部構造において、
前記補強部材は、略Y字形状を呈する部材であり、前記スペアタイヤ収納部の下面で且つ中央に前後方向に沿わせて延びる本体部と、この本体部の前端から略V字状前方に広がって両先端が上方へ屈曲され、前記スペアタイヤ収納部の下面の角部稜線から前面に渡り沿わせたアーム部とから構成され、
これらのアーム部及び本体部の所定箇所が前記スペアタイヤ収納部に接合されたことを特徴とする車体後部構造。
【請求項2】
前記本体部は、後端に牽引用フックを備えることを特徴とする請求項1記載の車体後部構造。
【請求項3】
前記スペアタイヤ収納部は、スペアタイヤを収納するスペアタイヤパンと、前記スペアタイヤを取付ける取付けブラケットとを備え、
前記本体部、前記スペアタイヤパン及び前記取付けブラケットを一体的に溶接したことを特徴とする請求項1記載の車体後部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−1185(P2009−1185A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−165028(P2007−165028)
【出願日】平成19年6月22日(2007.6.22)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】