説明

車体組立方法

【課題】 簡易な治具で所望な品質が得られるフロントコンポーネントの組立方法を提供する。
【解決手段】 ダッシュボードロア2にサイドフレーム3L,3Rとホイールハウスハウジング4L,4Rを夫々溶接した後に、サイドフレーム3L,3Rとホイールハウスハウジング4L,4Rを溶接し、サイドフレーム3L,3Rとホイールハウスハウジング4L,4Rを溶接した後に、ホイールハウスハウジング4L,4Rとバルクヘッド5を溶接する。また、サイドフレーム3L,3Rとホイールハウスハウジング4L,4Rを溶接する前に、サイドフレーム3L,3Rとバルクヘッド5を溶接する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダッシュボード、サイドフレームやホイールハウスハウジングなどの車体の構成部品を溶接してフロントコンポーネントを組み立てる車体組立方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フロントコンポーネントの組立方法としては、第1のセット治具に、フロントコンポーネントの構成部品である左右のサイドフレームと、左右のホイールハウスハウジングをセットし、溶接ロボットにより第1のセット治具上の構成部品を溶接して左のサイドフレームと左のホイールハウスハウジング、右のサイドフレームと右のホイールハウスハウジングを夫々組み立て、次に、第2のセット治具に第1のセット治具で組み立てられた左右夫々のサイドフレームとホイールハウスハウジングを移載し、バルクヘッドとダッシュボードロアをセットし、溶接ロボットによりフロントコンポーネントを溶接してフロントコンポーネントを組み立てる方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、サイドフレームとホイールハウスハウジングを治具に載せた状態では、それらの接合面にプレス製品のばらつきによって隙間が生じることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−151174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の組立方法おいては、先にサイドフレームとホイールハウスハウジングを溶接すると、隙間を埋める力でサイドフレームとホイールハウスハウジングに捩れが発生し、後でサイドフレームとホイールハウスハウジングをダッシュボードロアに溶接しようとしても捩れ力が強いため、治具のクランプ箇所を追加したりクランプ力を大きくしたりしなければならない。
【0005】
また、このような状態で、サイドフレームとホイールハウスハウジングをダッシュボードロアに溶接すれば、サイドフレームが浮き上がってしまうという問題がある。
【0006】
更に、サイドフレームとホイールハウスハウジングの位置決めと、サイドフレームとホイールハウスハウジングとダッシュボードロアの位置決めを両立できる治具を製作するのは、クランプの配置やスポット溶接の打点位置などの点から困難である。
【0007】
本発明は、従来の技術が有するこのような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、簡易な治具で所望な品質が得られるフロントコンポーネントの組立方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決すべく請求項1に係る発明は、ダッシュボード(ダッシュボードロアおよびダッシュボードロアとダッシュボードアッパとが結合したダッシュボードを含む)とサイドフレームとホイールハウスハウジングを溶接してフロントコンポーネントを組み立てる車体組立方法であって、ダッシュボードにサイドフレームとホイールハウスハウジングを夫々溶接した後に、サイドフレームとホイールハウスハウジングを溶接するものである。
【0009】
請求項2に係る発明は、ダッシュボードとサイドフレームとホイールハウスハウジングとバルクヘッドを溶接してフロントコンポーネントを組み立てる車体組立方法であって、ダッシュボードにサイドフレームとホイールハウスハウジングを夫々溶接した後に、サイドフレームとホイールハウスハウジングを溶接し、サイドフレームとホイールハウスハウジングを溶接した後に、ホイールハウスハウジングとバルクヘッドを溶接するものである。
【0010】
請求項2記載の車体組立方法において、サイドフレームとホイールハウスハウジングを溶接する前に、サイドフレームとバルクヘッドを溶接することもできる。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明によれば、最初にダッシュボードにサイドフレームとホイールハウスハウジングを夫々溶接するので、ダッシュボードによってサイドフレームとホイールハウスハウジングの捩れが制限され、サイドフレームとホイールハウスハウジングの拘束力が増すため、クランプの追加やクランプ力の増加などの対応をしなくても、サイドフレームとホイールハウスハウジングの治具内での動きを抑制することができる。
【0012】
また、ダッシュボードにサイドフレームとホイールハウスハウジングを夫々溶接した後に、サイドフレームとホイールハウスハウジングを溶接するので、所望の位置決め精度が得られた製品を組み立てることができる。
【0013】
また、先にダッシュボードにサイドフレームとホイールハウスハウジングを夫々溶接するので、ダッシュボード自体が治具のような役割を果たすため位置決め精度が維持され、一つの組立治具で専用治具を用いることなくフロントコンポーネントを組み立てることができる。
【0014】
請求項2に係る発明によれば、ホイールハウスハウジングとバルクヘッドの接合部の板厚は、サイドフレームとホイールハウスハウジングの接合部など他の部位の板厚に比べて薄いので、力の影響を受け易いが、サイドフレームとホイールハウスハウジングの溶接後にホイールハウスハウジングとバルクヘッドを溶接するため、溶接後にホイールハウスハウジングに力が掛からないようにしてホイールハウスハウジングとバルクヘッドの接合精度を上げることができる。
【0015】
また、サイドフレームとホイールハウスハウジングを溶接する前にサイドフレームとバルクヘッドを溶接するので、バルクヘッド自体が治具のような役割を果たすため位置決め精度が維持され、一つの組立治具で専用治具を用いることなくフロントコンポーネントを組み立てることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る車体組立方法により組み立てられたフロントコンポーネントの分解斜視図
【図2】本発明に係る車体組立方法の第1実施の形態の概要説明図で、(a)は部品の組立治具へのセット状態、(b),(c)は溶接を実施した状態、(d)は組立治具から開放された状態
【図3】本発明に係る車体組立方法の第2実施の形態の概要説明図で、(a)は部品の組立治具へのセット状態、(b),(c),(d)は溶接を実施した状態、(e)は組立治具から開放された状態
【図4】本発明に係る車体組立方法の第3実施の形態の概要説明図で、(a)は部品の組立治具へのセット状態、(b),(c),(d),(e)は溶接を実施した状態、(f)は組立治具から開放された状態
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。本発明に係る車体組立方法により組み立てられたフロントコンポーネント1は、図1に示すように、ダッシュボードロア2と、左右のサイドフレーム3L,3Rと、左右のホイールハウスハウジング4L,4Rと、バルクヘッド5の6部品からなる。
【0018】
先ず、本発明に係る車体組立方法の第1実施の形態は、図2(a)に示すように、先ず組立治具6にダッシュボードロア2、左右のサイドフレーム3L,3R、左右のホイールハウスハウジング4L,4R、バルクヘッド5を一括セットする。この状態で左右のサイドフレーム3L,3Rと左右のホイールハウスハウジング4L,4Rの各接合面7L,7Rには、間隙9が生じている。なお、図2ではバルクヘッド5を図示していない。
【0019】
次いで、図2(b)に示すように、ダッシュボードロア2に左右のサイドフレーム3L,3Rと左右のホイールハウスハウジング4L,4Rを溶接する。10はダッシュボードロア2と左右のサイドフレーム3L,3Rの溶接ポイントであり、11はダッシュボードロア2と左右のホイールハウスハウジング4L,4Rの溶接ポイントである。これらの溶接ポイント10,11により、左右のサイドフレーム3L,3Rと左右のホイールハウスハウジング4L,4Rの各機能管理ポイントが位置決めされる。
【0020】
先にダッシュボードロア2に左右のサイドフレーム3L,3Rと左右のホイールハウスハウジング4L,4Rを溶接することにより、ダッシュボードロア2によって左右のサイドフレーム3L,3Rと左右のホイールハウスハウジング4L,4Rの捩れを制限し、左右のサイドフレーム3L,3Rと左右のホイールハウスハウジング4L,4Rの拘束力が増すので、クランプの追加やクランプ力の増加などが必要とされず、組立治具6内での左右のサイドフレーム3L,3Rと左右のホイールハウスハウジング4L,4Rの動きを制限することができる。
【0021】
次いで、図2(c)に示すように、左右のサイドフレーム3L,3Rと左右のホイールハウスハウジング4L,4Rの間隙9が生じている各接合面7L,7Rを溶接する。12は接合面7L,7Rの溶接ポイントである。ダッシュボードロア2に左右のサイドフレーム3L,3Rと左右のホイールハウスハウジング4L,4Rを溶接した後に、左右のサイドフレーム3L,3Rと左右のホイールハウスハウジング4L,4Rの各接合面7L,7Rを溶接するので、これらの位置決め精度を維持した状態で組み立てることができる。
【0022】
また、ダッシュボードロア2と左右のサイドフレーム3L,3Rの位置は、溶接ポイント10により凍結されているので、左右のサイドフレーム3L,3Rと左右のホイールハウスハウジング4L,4Rの間隙9が生じている各接合面7L,7Rを溶接しても左右のホイールハウスハウジング4L,4Rに弾性歪が蓄積されるだけで、機能管理ポイントの位置決め精度には影響を与えない。
【0023】
次いで、図2(d)に示すように、アンクランプして組立治具6を開放しても、フロントコンポーネント1としての精度は維持される。従って、最初にダッシュボードロア2に左右のサイドフレーム3L,3Rと左右のホイールハウスハウジング4L,4Rを夫々溶接するので、ダッシュボードロア2自体が治具のような役割を果たすため位置決め精度が維持され、一つの組立治具6で専用治具を用いることなくフロントコンポーネント1を組み立てることができる。
【0024】
次に、本発明に係る車体組立方法の第2実施の形態は、図3(a)に示すように、組立治具6にダッシュボードロア2、左右のサイドフレーム3L,3R、左右のホイールハウスハウジング4L,4R、バルクヘッド5を一括セットする。次いで、図3(b)に示すように、ダッシュボードロア2に左右のサイドフレーム3L,3Rと左右のホイールハウスハウジング4L,4Rを溶接する。更に、図3(c)に示すように、左右のサイドフレーム3L,3Rと左右のホイールハウスハウジング4L,4Rの間隙9が生じている各接合面7L,7Rを溶接する。ここまでは、図2(a)〜図2(c)に示す本発明の第1実施の形態と同様である。
【0025】
次いで、図3(d)に示すように、左右のホイールハウスハウジング4L,4Rとバルクヘッド5を溶接する。なお、図3(d)ではダッシュボードロア2を図示していない。20は左右のホイールハウスハウジング4L,4Rとバルクヘッド5の溶接ポイントである。
【0026】
左右のホイールハウスハウジング4L,4Rとバルクヘッド5の接合部21L,21Rの板厚は、左右のサイドフレーム3L,3Rと左右のホイールハウスハウジング4L,4Rの接合部など他の部位の板厚に比べて薄いので、力の影響を受け易い。しかし、左右のサイドフレーム3L,3Rと左右のホイールハウスハウジング4L,4Rの溶接後に、左右のホイールハウスハウジング4L,4Rとバルクヘッド5を溶接するため、溶接後に左右のホイールハウスハウジング4L,4Rに力が掛からないようにして左右のホイールハウスハウジング4L,4Rとバルクヘッド5の接合精度を上げることができる。
【0027】
次いで、図3(e)に示すように、アンクランプして組立治具6を開放しても、フロントコンポーネント1としての精度は維持される。なお、図3(e)ではダッシュボードロア2を図示していない。
【0028】
次に、本発明に係る車体組立方法の第3実施の形態は、図4(a)に示すように、組立治具6にダッシュボードロア2、左右のサイドフレーム3L,3R、左右のホイールハウスハウジング4L,4R、バルクヘッド5を一括セットする。次いで、図4(b)に示すように、ダッシュボードロア2に左右のサイドフレーム3L,3Rと左右のホイールハウスハウジング4L,4Rを溶接する。ここまでは、図2(a)〜図2(b)に示す本発明の第1実施の形態と同様である。
【0029】
次いで、図4(c)に示すように、左右のサイドフレーム3L,3Rとバルクヘッド5を溶接する。なお、図4(c)ではダッシュボードロア2を図示していない。30は左右のサイドフレーム3L,3Rとバルクヘッド5の溶接ポイントである。
【0030】
次いで、図4(d)に示すように、左右のサイドフレーム3L,3Rと左右のホイールハウスハウジング4L,4Rの間隙9が生じている各接合面7L,7Rを溶接する。なお、図4(d)ではダッシュボードロア2を図示していない。31は接合面7L,7Rの溶接ポイントである。
【0031】
左右のサイドフレーム3L,3Rと左右のホイールハウスハウジング4L,4Rを溶接する前に、左右のサイドフレーム3L,3Rとバルクヘッド5を溶接するので、バルクヘッド5自体が組立治具のような役割を果たすため位置決め精度が維持され、一つの組立治具6で専用治具を用いることなくフロントコンポーネント1を組み立てることができる。
【0032】
また、左右のサイドフレーム3L,3Rと左右のホイールハウスハウジング4L,4Rを溶接する前に、左右のサイドフレーム3L,3Rとバルクヘッド5を溶接するので、バルクヘッド5によって左右のサイドフレーム3L,3Rの捩れを制限し、左右のサイドフレーム3L,3Rの拘束力を増すので、クランプの追加やクランプ力の増加などが必要とされず、組立治具6内での左右のサイドフレーム3L,3Rの動きを制限することができる。
【0033】
次いで、図4(e)に示すように、左右のホイールハウスハウジング4L,4Rとバルクヘッド5を溶接する。なお、図4(e)ではダッシュボードロア2を図示していない。32は左右のホイールハウスハウジング4L,4Rとバルクヘッド5の溶接ポイントである。ここでの作用・効果は、図3(d)に示す本発明の第2実施の形態と同様である。
【0034】
次いで、図4(f)に示すように、アンクランプして組立治具6を開放しても、フロントコンポーネント1としての精度は維持される。なお、図4(f)ではダッシュボードロア2を図示していない。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明によれば、クランプの追加やクランプ力の増加などの対応をしなくても、サイドフレームとホイールハウスハウジングの治具内での動きを抑制することができ、一つの組立治具で専用治具を用いることなく所望の位置決め精度でフロントコンポーネントを組み立てることが可能な車体組立方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0036】
1…フロントコンポーネント、2…ダッシュボードロア、3L…左のサイドフレーム、3R…右のサイドフレーム、4L…左のホイールハウスハウジング、4R…右のホイールハウスハウジング、5…バルクヘッド、6…組立治具、7L,7R…接合面、9…間隙、10,11,12,20,30,31,32…溶接ポイント。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダッシュボードとサイドフレームとホイールハウスハウジングを溶接してフロントコンポーネントを組み立てる車体組立方法であって、ダッシュボードにサイドフレームとホイールハウスハウジングを夫々溶接した後に、サイドフレームとホイールハウスハウジングを溶接することを特徴とする車体組立方法。
【請求項2】
ダッシュボードとサイドフレームとホイールハウスハウジングとバルクヘッドを溶接してフロントコンポーネントを組み立てる車体組立方法であって、ダッシュボードにサイドフレームとホイールハウスハウジングを夫々溶接した後に、サイドフレームとホイールハウスハウジングを溶接し、サイドフレームとホイールハウスハウジングを溶接した後に、ホイールハウスハウジングとバルクヘッドを溶接することを特徴とする車体組立方法。
【請求項3】
請求項2記載の車体組立方法において、前記サイドフレームとホイールハウスハウジングを溶接する前に、サイドフレームとバルクヘッドを溶接することを特徴とする車体組立方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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