説明

車載内燃機関の制御装置

【課題】車両操作に基づく自動停止・再始動可能な車載内燃機関にあって、同機関の再始動性を改善することの可能な車載内燃機関の制御装置を提供する。
【解決手段】手動変速機32を備え、車両操作の所定の条件下において自動停止・再始動の可能な車載内燃機関10を制御の対象とする。また、手動変速機32の変速段がニュートラルであることを含む所定の条件のもとに停止指令が発せられた後、再始動条件の成立に基づくスタータ20を用いた再始動に際し、アクセルペダルの踏み込みがないときにはアイドル回転数を機関運転に係る目標回転数として設定する。そして、機関回転数がこのアイドル回転数よりも高い燃料カット許可回転数以上であるときには、内燃機関に対する燃料カットを一時的に実行するものの、再始動条件の成立時以降に上記手動変速機32の変速段がニュートラルから1速に変更されたときには、燃料カットの実行を禁止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車載内燃機関の制御装置に関し、特に車両操作の所定の条件下において自動停止・再始動の可能な内燃機関を対象としてその再始動時の始動性を制御する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば特許文献1に記載の装置のように、車両操作に係る所定の条件が成立した場合に内燃機関の運転を自動的に停止させるとともに、この条件の解除を契機として再び内燃機関を始動させる、いわゆるエコノミーランニング機能を有する車載内燃機関の制御装置が知られている。より詳細には、こうした車載内燃機関の制御装置は、その制御対象である内燃機関を搭載した車両が信号待ち等により一時的に停車したとき、すなわち、車両の走行速度が所定以下であること、機関冷却水温が所定温度以上であること、手動変速機の変速段がニュートラルであること、及び運転者によるクラッチペダルの踏み込みがないこと等の条件が成立したとき、内燃機関の自動停止条件が成立したと判断する。そして、この判断のもとに内燃機関に噴射する燃料量を「0」とする、いわゆる燃料カットを実行して機関運転を自動停止させる。その後、運転者によるクラッチペダルの踏み込みがある等の条件が成立したとき、内燃機関の再始動条件が成立したと判断して機関運転を再開させる。同文献に記載の制御装置では、こうした一連の制御により、機関運転に係る燃料消費量の低減を可能としている。
【0003】
一方、例えば特許文献2に記載の装置のように、内燃機関の始動装置であるスタータとして、その出力軸に設けられたピニオンギヤと同ピニオンギヤの回転力を内燃機関のクランクシャフトに伝達するリングギヤとが機関始動時に限らず常に噛み合わされた状態におかれるスタータが広く知られており、これが内燃機関に採用されることも多い。こうした常時噛み合い式のスタータによれば、機関始動時にのみピニオンギヤとリングギヤとが噛み合わされるスタータに比べて機関始動に係る時間を短縮することが可能となる。そのため、上記特許文献1に記載の装置のような自動停止・再始動の可能な内燃機関での再始動時、すなわち通常の機関始動時よりも迅速さが求められる場面においては、この常時噛み合い式のスタータによる機関始動が特に有効である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−223674号公報
【特許文献2】特開2006−63913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
こうした常時噛み合い式のスタータを搭載した自動停止・再始動の可能な車載内燃機関では、上記自動停止条件の成立に基づき機関運転の停止処理が実行された後、これも上述の再始動条件が成立すると、スタータの作動とともに、燃料噴射及びこの噴射燃料への点火が実行されて機関運転が再開される。このとき、運転者によるアクセルペダルの踏み込み量が「0」に維持されている、すなわち、機関負荷がほとんどない状態で運転が行われていると、この状態において機関運転を維持可能な最低限の機関回転数、例えば当該内燃機関のアイドル運転時の目標回転数であるアイドル回転数が、機関運転に係る目標回転数として設定される。ところが、上記再始動条件の成立時から機関燃焼を継続すると、機関負荷がごく小さいために機関回転数が過剰に上昇し、上記目標回転数から大きく乖離する、いわゆる機関回転の吹き上がりが生じる可能性がある。そこで、こうした乖離を抑制す
るために、機関回転数が目標回転数よりも大きい所定の回転数であることを条件に燃料カットが実行されている。これにより、機関回転数を目標回転数以上に保ちつつも、その過度の上昇を抑制することが可能となっている。
【0006】
しかしながら、この目標回転数とは上述のように、内燃機関に対する負荷がほとんどない状態で同機関の運転維持に必要とされる最低限のトルクが得られる回転数に設定されている。そのため、運転者によるアクセルペダルの踏み込みがないとはいえ、この目標回転数を維持するような機関運転により得られるトルクでは、機関回転の維持が困難となるほどの負荷が内燃機関に与えられた際に機関がストールに陥る虞がある。
【0007】
なお、上述のように始動装置として常時噛み合い式のスタータを備える車載内燃機関に限らず、上記機関始動時にのみピニオンギヤとリングギヤとが噛み合わされるスタータを備え、これを用いて機関の自動停止後の再始動を実施する車載内燃機関、あるいはこうした常時噛み合い式でないスタータと発電電動機であるモータジェネレータとを備え、このモータジェネレータにより上記自動停止後の再始動を実施する車載内燃機関等にあってもこうした実情は概ね共通したものとなっている。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、車両操作に基づく自動停止・再始動可能な車載内燃機関にあって、同機関の再始動性を改善することの可能な車載内燃機関の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明は、運転者の操作によって変速段が変更される手動変速機を備えるとともに、車両操作の所定の条件下において自動停止・再始動の可能な車載内燃機関を制御の対象とし、前記手動変速機の変速段がニュートラルであることを含む車両操作の所定の条件のもとに停止指令が発せられた後、再始動条件の成立に基づく始動装置を用いた再始動に際し、運転者によるアクセルペダルの踏み込みがないときには前記内燃機関の運転を維持し得る機関回転数を機関運転に係る目標回転数として設定し、且つ機関回転数がこの目標回転数よりも高い所定の回転数以上であるときには、内燃機関に対する燃料カットを一時的に実行する車載内燃機関の制御装置であって、前記再始動条件の成立時以降に前記手動変速機の変速段がニュートラル以外の変速段に変更されたとき、前記燃料カットの実行を禁止することをその要旨とする。
【0010】
上記構成によれば、車両操作の所定の条件に基づく停止指令、すなわち自動停止指令が発せられた内燃機関において再始動条件が成立し、これに基づいて機関運転が再開されて以降にこの内燃機関が搭載された車両の運転者によるアクセルペダルの踏み込みがないときには機関回転数が上記目標回転数に設定されるとともに、機関回転数がこの目標回転数よりも高い所定の回転数以上であるときには、内燃機関に対する燃料カットが一時的に実行されるものの、上記再始動条件の成立時以降に手動変速機の変速段がニュートラル以外の変速段、例えば1速等に変更された場合には、この燃料カットの実行が禁止されるようになる。
【0011】
このように、手動変速機の変速段がニュートラル以外に変更された場合、換言すれば、上記目標回転数に対応した機関運転によって得られるトルクが機関運転を維持するに十分でない場合には燃料噴射が実行されるようにすることにより、こうした状況にあっても機関運転を維持できるほどのトルクを得ることが可能な機関回転数とすることができるようになる。すなわち、機関がストールに陥ることを抑制し、ひいては自動停止・再始動可能な車載内燃機関に係る再始動性を改善することができるようになる。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記始動装置は、機関出力軸との常時噛み合い式のスタータであることをその要旨とする。
上記請求項1に記載の自動停止・再始動の可能な車載内燃機関における自動停止後の再始動時には、イグニッションスイッチのオンに伴う通常の始動時よりも機関始動を迅速に完了する必要がある。
【0013】
そこで上記請求項2に記載の発明のように、上記始動装置として、機関出力軸との常時噛み合い式のスタータを採用するようにすれば、機関始動の度に機関出力軸、正確には機関出力軸に設けられたリングギヤと、スタータの出力軸、正確にはスタータの出力軸に設けられたピニオンギヤとを噛み合わせるといった動作が割愛可能である分、始動に係る時間を短縮することができるため、上記要求を満足することができるようになる。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、前記目標回転数が、当該内燃機関のアイドル運転時の目標回転数であるアイドル回転数に設定されるとともに、この目標回転数よりも高い前記所定の回転数が燃料カット許可回転数に設定されることをその要旨とする。
【0015】
上記内燃機関のアイドル回転数としては、車両停止時等であって内燃機関に対する負荷がごく小さい場合に機関運転を維持し得る最低限の回転数が設定されている。そのため、請求項3に記載のように、再始動以降の機関回転数の目標回転数をこのアイドル回転数に設定するようにすれば、機関運転を確実に維持できるとともに、必要以上の機関回転数を維持するための燃料消費を回避することも可能となる。
【0016】
また、このアイドル回転数よりも高い上記所定の回転数を燃料カット許可回転数に設定しているため、燃料カットを実行しても機関回転を確実に維持でき、同機関がストールに陥ることを抑制することが可能ともなる。
【0017】
なお、上記アイドル回転速度が600rpmである場合、上記所定の回転数である燃料カット許可回転数についてはこれを700rpm程度に設定することが望ましい。
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の発明において、前記所定の回転数は、当該内燃機関を冷却する機関冷却水温の温度が高いほど低回転数に設定されることをその要旨とする。
【0018】
機関冷却水温とは内燃機関そのものの温度を反映しており、機関冷却水温が高いほど内燃機関がより暖機されているといえる。また一般に、機関運転を維持可能な最低限の回転数であるアイドル回転数は、内燃機関の温度が高いほど低回転数に設定されるものである。
【0019】
そこで、請求項4に記載の発明のように、上記目標回転数がアイドル回転数に設定される場合、上記所定の回転数(燃料カット許可回転数)も機関冷却水の温度に応じて可変なものとする、具体的には機関冷却水温が高いほど低回転数に設定するようにすれば、燃料カットを開始するタイミングを早めることができるようになる。
【0020】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の発明において、前記燃料カットの一時的な実行を許可する期間は、前記燃料カットを実行しても当該内燃機関の回転数が前記目標回転数を下回らない期間に制限されることをその要旨とする。
【0021】
上記構成によれば、内燃機関の機関回転数をその運転が維持可能な範囲に確実に維持でき、同機関がストールに陥ることを確実に回避することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る車載内燃機関の制御装置の一実施の形態が適用される手動変速機付きの直列4気筒内燃機関の概略構成を示す平面図及びブロック図。
【図2】同内燃機関に採用される常時噛み合い式スタータの概略構成を示す部分断面図。
【図3】本実施の形態に係る車載内燃機関の制御装置により実行されるエコノミーランニングに係るモードの推移状態を示す状態遷移図。
【図4】同実施の形態に係る制御装置の再始動処理についてその処理手順を示すフローチャート。
【図5】上記再始動処理に係る燃料カットフラグ処理についてその処理手順を示すフローチャート。
【図6】上記再始動処理の実行時における、(a)走行モードの推移例、(b)スタータの駆動時期、(c)機関回転数の推移例、(d)経過時間、(e)シフト位置の推移例、(f)クラッチスイッチのオン・オフ、(g)アイドルスイッチのオン・オフ、及び(h)燃料カットフラグの挙動の一例を示すタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る車載内燃機関の制御装置を手動変速機付車両、いわゆるMT車に搭載されて、車両操作の所定の条件下における自動停止・再始動が可能な内燃機関に適用した一実施の形態について、図1〜図6を参照して説明する。
【0024】
まず、本実施の形態の制御装置が制御の対象とする車載内燃機関の概要について図1〜図3を参照して説明する。
図1は、手動変速機付車両に搭載される直列4気筒内燃機関及びその周辺構成の概略を示したものである。この図1に示されるように、内燃機関10の直列に配列された4つのシリンダ#1,#2,#3,#4には、これらシリンダ#1,#2,#3,#4に空気を供給する吸気管13、及び同シリンダ#1,#2,#3,#4での燃料と空気とからなる混合気の燃焼による燃焼ガスが排出される排気管16がそれぞれ接続されている。なお、これら吸気管13及び排気管16は、シリンダ#1,#2,#3,#4との接続部で1本から4本に分岐しており、吸気管13についてはこの分岐点よりも上流に、その流入空気量を調量するスロットルバルブ12と、同流入空気量を計測するエアフローメータ47とが設けられている。また、上記シリンダ#1,#2,#3,#4での燃焼に供される燃料を高圧化しつつ燃料タンクから同シリンダ#1,#2,#3,#4へ輸送する燃料供給管14が設けられているとともに、この燃料供給管14には上記高圧燃料をシリンダ#1,#2,#3,#4内に直接噴射する燃料噴射弁15が接続されている。
【0025】
一方、上記シリンダ#1,#2,#3,#4のそれぞれには、吸気管13から供給される空気と燃料噴射弁15から噴射される燃料との混合気の燃焼に伴い、同シリンダ内#1,#2,#3,#4を上下運動するピストンが設けられている。そして、これらピストンのそれぞれは、その上下運動を回転運動に変換するコネクティングロッドを介して1本のクランクシャフト11に連結されている。このクランクシャフト11は、その一端が手動変速機32、すなわち、車両の運転状態に応じた運転者によるシフトレバー33の操作によって選択された変速段に対応して、現在の変速段を変更後の変速段とする変速機を介して駆動輪に接続されている。また、上記クランクシャフト11と手動変速機32との間には、これらの連結を断接するクラッチ30が設けられており、このクラッチ30による断接を制御するクラッチペダル31が同クラッチ30と機械的に接続された状態で、車室内における運転席の足下に設けられている。そして、上記クランクシャフト11の他端にはプーリ37が設けられているとともに、同プーリ37と発電電動機36の出力軸の端部に設けられたプーリ38とにはベルト39が掛架されている。この発電電動機36は、クランクシャフト11の回転を利用して発電し、その電力をバッテリ34に充電するとともに
、同クランクシャフト11の回転が停止している際にエアコンディショナー(正確にはそのコンプレッサ)等の補機を駆動させるときには電動機として機能するものである。なお、クランクシャフト11の上記プーリ37との連結部には、ベルト39を介しての発電電動機36との駆動連結を断接する電磁クラッチ35が設けられている。
【0026】
このような内燃機関10の運転時には、機関運転状態に応じてスロットルバルブ12によって調量された空気が、吸気管13からシリンダ#1,#2,#3,#4に供給されるとともに、シリンダ#1,#2,#3,#4内でこの空気と燃料噴射弁15から噴射された燃料との混合気が燃焼され、この燃焼によって生じた燃焼ガスが排気管16に排出される。こうした燃焼に伴って、シリンダ#1,#2,#3,#4内を上下動するピストンの運動はコネクティングロッドにより回転運動に変換されてクランクシャフト11を回転させる。このクランクシャフト11の回転は、電磁クラッチ35によって接続されたプーリ38を介して発電電動機36に伝達され、同発電電動機36において発電が行われる。一方、内燃機関10の停止時に上記エアコンディショナー(コンプレッサ)等の補機を駆動するような場合には、電磁クラッチ35によりクランクシャフト11とプーリ37との接続が断たれた後、発電電動機36が電動機として機能して上記補機を駆動する。また、こうした内燃機関10を搭載する車両において、運転者がその運転状態から手動変速機32における変速機の変更が必要であると判断した場合、まず、運転者によりクラッチペダル31が一杯に踏み込まれると、クラッチ30により手動変速機32とクランクシャフト11との連結が断たれる。このクラッチ31の踏み込みとほぼ同時に、これも運転者によりシフトレバー33の位置が現在のシフト位置から所望とするシフト位置に、例えば車両の発進時であればニュートラルから1速に変更させるとともに、これに応じた変速段が手動変速機32において選択されることとなる。
【0027】
一方内燃機関10には、その運転が停止している際、イグニッションスイッチがオンされたことを契機に、上記バッテリ34から供給される電力を用いてクランクシャフト11を回転させ、内燃機関10の自律運転を促す始動装置としてスタータ20が設けられている。
【0028】
次に、このスタータ20、及び同スタータ20の回転力をクランクシャフト11に伝達する機構についてその構成を図2を参照して詳述する。
同図2に示されるように、クランクシャフト11の手動変速機32側端部に設けられた大径部11aには、転がり軸受である玉軸受26が圧入されているとともに、この玉軸受26の外周には、円盤状をなすリングギヤ21の内周に設けられたインナーレース23が嵌合されている。また、クランクシャフト11には、リングギヤ21のインナーレース23と径方向にて対向し、リングギヤ21の上記クランクシャフト11に対する特定方向の回転のみを伝達するワンウェイクラッチ22を狭持するアウターレース25を備えてこれも円盤状をなすアウターレース部材24が挿入されている。そして、このアウターレース部材24は、クランクシャフト11の手動変速機32側に挿入されて同クランクシャフト11の回転むらを抑制するフライホイール11bとともに、上記大径部11aにボルト27により締結されている。一方、上記リングギヤ21は、その外周に設けられた歯が、スタータ20の出力軸20aに設けられたピニオンギヤ20bの歯と常時噛み合わされている。
【0029】
このようなスタータ20を用いて停止状態にあるとする内燃機関10の始動を行う際には、次のような態様にて、その動力の伝達、解除が行われることとなる。
まず、イグニッションスイッチのオンに伴い、バッテリ34から供給された電力によりスタータ20が回転する。このスタータ20の回転により、その出力軸20aに設けられたピニオンギヤ20bが回転し、このピニオンギヤ20bの回転がこれと常時噛み合わされているリングギヤ21に伝達される。こうしてリングギヤ21に対する動力伝達が開始
されると、このリングギヤ21と上記アウターレース部材24とを継合するワンウェイクラッチ22により、アウターレース部材24ともどもこれが締結されているクランクシャフト11が回転される。
【0030】
他方、こうしたクランクシャフト11の回転を経て内燃機関10が自律運転を開始し、クランクシャフト11の回転速度がスタータ20の回転速度、すなわちスタータ20に連動して回転するリングギヤ21の回転速度よりも高くなると、リングギヤ21の回転方向がクランクシャフト11と連動して回転するアウターレース部材24の回転方向に対して相対的に逆向きとなる。これにより、ワンウェイクラッチ22によるリングギヤ21とアウターレース部材24との継合が解除されることとなり、クランクシャフト11の回転がアウターレース部材24及びリングギヤ21を介してスタータ20に伝達されることはなくなる。そのため、上記ピニオンギヤ20bとリングギヤ21とが常時噛み合わされた状態であっても、例えば機関始動時のように必要なときに限りスタータ20及びリングギヤ21を回転させることができるようになる。そして、こうした常時噛み合い式のスタータ20によれば、スタータ20の駆動毎にピニオンギヤ20bとリングギヤ21とを噛み合わせるタイプのスタータと比較して、これらギヤ20b、21同士の噛み合わせに係る時間を省略できる分、内燃機関10の始動に係る時間を短縮することが可能となる。
【0031】
また一方、先の図1に示されるように、内燃機関10、あるいは同内燃機関10の搭載された車両には、これら内燃機関10あるいは車両の運転状態を検出するセンサとして、上記エアフローメータ47の他に、
・内燃機関10の機関回転数を検出する機関回転数センサ41。
【0032】
・内燃機関10の搭載された車両の走行速度を検出する車速センサ42。
・内燃機関10を冷却する機関冷却水の温度を検出する冷却水温センサ43。
・シフトレバー33にて選択された変速段を検出するシフト位置センサ44。
【0033】
・内燃機関10の運転状態がアイドル運転であることを検出するアイドルスイッチ45。
・運転者によるクラッチペダル31の踏み込みを検出するクラッチスイッチ46。
等々が設けられており、これらセンサ41〜46による検出信号及び上記エアフローメータ47の検出信号が、電子制御装置40に入力される。なお、上記機関回転数センサ41としては、クランクシャフト11の近傍に設けられて、この回転角度を検出するクランク角センサが、また、車速センサ42としては、車両が備える駆動輪の回転速度を検出する車輪速センサが、そして、アイドルスイッチ45としては、スロットルバルブ12の近傍に設けられて、その全閉状態を検出したときにオンとなるもの、あるいはアクセルペダルの近傍に設けられて、運転者による同ペダルの踏み込みがないことを検出したときにオンとなるものが、それぞれ採用可能である。また、クラッチスイッチ46は、運転者により上記クラッチペダル31が一杯に踏み込まれたとき、いわゆるクラッチオフのときオフとなり、他方、運転者によるクラッチペダル31の踏み込みがないとき、いわゆるクラッチオンのときオンとなるものである。
【0034】
上記電子制御装置40は、演算処理装置(CPU)やプログラムメモリ(ROM)、データメモリ(RAM)等を有して上記燃料噴射弁15、及びスタータ20等の制御を含む各種制御を実行するマイクロコンピュータを中心に構成されている。そして、このマイクロコンピュータの周辺回路として、上記各種センサ等41〜47の検出信号が取り込まれる入力部、そしてマイクロコンピュータからの指令に基づき各種アクチュエータを駆動するドライバ等が設けられている。この電子制御装置40の入力部には上述の各種センサ等が、他方出力部には、各々対応するドライバを介して燃料噴射弁15、スタータ20等がそれぞれ電気的に接続されている。
【0035】
また、このように構成された電子制御装置40は、上記内燃機関10を搭載した車両の運転状態や、その操作に応じて内燃機関10の運転を自動的に停止及び再始動させる、いわゆるエコノミーランニングに係る制御も実行する。このエコノミーランニングに係る制御の詳細を、図3を参照して以下に説明する。
【0036】
同図3に示されるように、停止状態にある車両のイグニッションスイッチ(IG)が運転者によって「OFF(オフ)」位置から「ON(オン)」位置に操作され、上記電子制御装置40が起動されると、同電子制御装置40はエコノミーランニングに係る制御の制御モードを通常の内燃機関10の運転停止を示すモードである「モード0」に設定する。また、運転者によりイグニッションスイッチが「STA(スタート)」位置に操作されると、上記スタータ20が回転駆動され、この回転に伴ってクランクシャフト11が回転されることにより内燃機関10が始動される。そして、こうした始動が完了し、内燃機関10が自律運転を開始すると、制御装置により上記制御モードが機関運転状態を示す「モード1」に設定される。この「モード1」が設定された状態で、運転者により再びイグニッションスイッチが操作されて、その位置が「OFF(オフ)」位置とされると、電子制御装置40により、通常の機関停止処理を実行して内燃機関10を停止させるとともに、制御モードが変更されて「モード0」となる。なお、制御モードが上記「モード1」にあるときには、クランクシャフト11に設けられた上記電磁クラッチ35(図1)により、同クランクシャフト11と発電電動機36とが連結される。そのため、発電電動機36はクランクシャフト11の回転に連動して回転されて発電し、この発電された電力がバッテリ34に充電されることとなる。
【0037】
一方、内燃機関10が運転状態にあるときに、換言すれば上記制御モードが「モード1」に設定されているときに、例えば信号待ち等で車両が一時的に停止したことによって内燃機関10を自動停止させる条件が成立すると、上記電子制御装置40により制御モードが「モード2」に変更される。なお、上記自動停止条件としては、
・車速が所定速度以下であること。
【0038】
・冷却水温が所定温度以上であること。
・手動変速機32の変速段がニュートラルであること。
・クラッチ30がオンの状態であること。
等が挙げられ、特に、本実施の形態においては、電子制御装置40により、その入力部に接続された各種センサ等42,43,44,46の検出信号からこうした条件が全て成立したと判断したときに、内燃機関10の自動停止条件が成立したと判断されるようにしている。なお、上記自動停止条件の成立判断に用いられる閾値である各種数値、すなわち所定の車両速度及び所定の冷却水温は、予め実験等によって算出され、電子制御装置40(マイクロコンピュータ)の備えるプログラムメモリ(ROM)に記憶されている。
【0039】
このように上記自動停止条件の成立によって制御モードが「モード2」に設定されると、電子制御装置40により、燃料噴射弁15によるシリンダ#1,#2,#3,#4内への燃料噴射が停止され、機関運転が停止に向かう。その後、内燃機関10の運転が完全に停止すると、例えば機関回転数センサ41の検出信号により機関回転数が「0」であると判断できる等すると、電子制御装置40により上記制御モードを自動停止による機関運転の停止を表す「モード3」に変更される。なお、制御モードがこの「モード3」にあるときには、上記電磁クラッチ35によるクランクシャフト11と発電電動機36との連結が解除される。そして、この解除に伴い、発電電動機36が電動機として駆動され、この出力によりエアコンディショナー(コンプレッサ)等の補機が駆動されることとなる。
【0040】
他方、制御モードが上記「モード3」に設定されているときに、内燃機関10を再始動
させる条件が成立すると、電子制御装置40は制御モードを「モード4」に変更する。この再始動条件としては、
・クラッチ30がオフであること。
が挙げられ、本実施の形態においては、電子制御装置40によりその入力部に接続されたクラッチスイッチ46の信号からこの条件が成立したと判断されたときに、同電子制御装置40により内燃機関10の再始動条件が成立したと判断されるようにしている。
【0041】
こうして上記制御モードが「モード4」に設定されると、上記常時噛み合い式のスタータ20が駆動され、これに伴いクランクシャフト11が回転されるとともに、上記シリンダ#1,#2,#3,#4に対する燃料噴射及び噴射燃料への点火が実行され、内燃機関10が再始動される。また、上記電磁クラッチ35によりクランクシャフト11と発電電動機36とが再び接続され、同発電電動機36は発電機として機能するようになる。その後、スタータ20による再始動を経て内燃機関10が自律運転を開始すると、例えば、内燃機関10の機関回転数が800rpm以上である、あるいは上記「モード4」に変更されてからの経過時間が5000msec以上であるという条件のうちのいずれかが成立すると、電子制御装置40により制御モードが「モード1」に設定される。
【0042】
このように、本実施の形態の電子制御装置40は、内燃機関10あるいは車両の運転状態や車両操作に応じて、機関運転を自動停止・再始動させることで、内燃機関10が消費する燃料量の低減を可能としている。
【0043】
ところで上述のように、運転者によるクラッチペダル31の踏み込みがあり、内燃機関10の再始動条件が成立すると、常時噛み合い式スタータ20が駆動されるとともに、これに連結するクランクシャフト11が回転し、機関回転数が大きくなる。ここで、再始動条件の成立時も含め、再始動処理の実行中に渡り運転者によるアクセルペダルの踏み込み量が「0」に維持され、アイドルスイッチ45がオンの状態であるとき、すなわち、機関負荷がほとんどない状態で運転が行われているときの機関運転制御を以下に詳述する。こうした状態においては、機関運転を維持可能な最低限の機関回転数、換言すれば当該内燃機関10のアイドル運転時の目標回転数であるアイドル回転数が、機関運転に係る目標回転数として設定されるようになる。ところが、上記再始動条件の成立時から機関燃焼を継続すると、機関負荷がごく小さいために機関回転数が過剰に上昇することとなり、実回転数が上記目標回転数から大きく乖離する現象である、いわゆる機関回転の吹き上がりが生じる可能性がある。そこで、こうした乖離を抑制するために、機関回転数が目標回転数よりも大きい所定の回転数、すなわち燃料カット許可回転数であることを条件に、上記シリンダ#1,#2,#3,#4に対する燃料噴射を停止する、いわゆる燃料カットを実行するようにしている。これにより、機関回転数を上記アイドル回転数以上に保ちつつも、その過度の上昇を抑制することが可能となっている。なお、アイドル回転数は例えば600rpm、また、燃料カット回転数は例えば700rpmに設定されるとともに、これらアイドル回転数、燃料カット回転数ともに、内燃機関10の冷却水温、換言すれば内燃機関の暖機状態に応じて設定される値である。詳細には、両回転数とも、冷却水温が高いほど小さな値に設定される傾向を有する。
【0044】
しかしながら、このアイドル回転数とは上述のように、内燃機関10に対する負荷がほとんどない状態で同機関10の運転維持に必要とされる最低限のトルクが得られる回転数に設定されている。そのため、運転者によるアクセルペダルの踏み込みがないとはいえ、アイドル運転により得られるトルクでは、機関回転の維持が困難となるほどの負荷が内燃機関に与えられた際には、機関がストールに陥る虞がある。具体的には、手動変速機32の変速段が、上記停止条件の1つであるニュートラルの状態から一速に変更されて、クランクシャフト11と手動変速機32とが連結されることにより内燃機関10にかかる負荷が増大する場合である。
【0045】
そこで、本実施の形態の電子制御装置40では更に、内燃機関10の自動停止後の再始動処理を通じて、再始動条件の成立以降、機関運転がアイドル回転数を目標として実行されているときに渡り、手動変速機32の変速段がニュートラルから他の変速段、通常は一速に変更されたときにおける、機関の再始動性を改善するようにしている。
【0046】
以下に、上記電子制御装置40にて実行されるこうした再始動処理の詳細を図4〜図6を参照して説明する。
図4は、上記電子制御装置40を通じて実行される内燃機関10の再始動処理の処理手順を示すフローチャートである。この再始動に係る処理は、上記自動停止条件の成立後、再始動条件が成立することをもって実行される。
【0047】
同図4に示されるように、この処理ではまず、上記機関運転の自動停止の条件が成立した後、同機関運転を再始動させる条件が成立したことを契機に、スタータ20が作動される(ステップS401、ステップS402)。そして、このスタータ20の作動にともない、内燃機関10に対する燃料の噴射とこの噴射された燃料への点火が実行され、これにより、内燃機関10の運転状態が所定の状態、すなわち、機関負荷がごく小さい状態で機関運転を実行する状態であると判断されたときには、同内燃機関10に対する燃料噴射の停止である燃料カットが実行される(ステップS403)。正確には、このステップS403では、燃料カットを実行するか否かを示す燃料カットフラグ、詳しくは、燃料カットの実行時には「1」に設定され、他方、燃料カットの非実行時には「0」に設定されるフラグの処理が実行される。
【0048】
次に、上記燃料カットフラグ処理(ステップS403)の詳細について、図5を参照して説明する。
同図5に示されるように、この燃料カットフラグ処理では、上記再始動処理によりスタータ20の作動、燃料噴射、及び燃料点火が実行されて、機関回転数が400rpm以上となったことを条件に、燃料カットが許可される時間、詳しくは、機関回転数が400rpm以上であると判断された時点から700ms未満の時間の計測が開始される(ステップS501〜ステップS503)。なお、上記から明らかなように、燃料カットは燃料カットの許可条件が成立している限り、計時開始から700msに満たない時間に限って実行されるものである。この700msとは、燃料カットの実行を継続しても、機関回転数が目標回転数とするアイドル回転数を下回らないような時間として設定されたものである。また、上記400rpmとは、スタータ20による強制的なクランクシャフト11の回転、燃料噴射、及び燃料点火等の実行により、内燃機関10が自律運転を開始したと判断できる回転数である。そして、この経過時間の測定は、例えば電子制御装置40の備えるカウンタを用いて行われるものであり、計測を開始してから次回再始動処理が実行されるまでの間のいずれかのタイミングで、その計時カウントがリセットされるものであればよい。そして、上記ステップS502での計時開始から700ms未満の間は、燃料カット許可条件、すなわち
a.アイドルスイッチ45がオンであること。
【0049】
b.冷却水温が40度以上であること、且つ冷却水温検出が正常であること。
c.車速が5km/h未満であること、且つ車速検出が正常であること。
d.機関回転数が燃料カット許可回転数以上であること。
【0050】
e.学習スピードアップが完了していること。
f.自動停止条件が成立した後の機関再始動時であること。
g.シフト位置がニュートラルであること。
等の条件が全て成立していると判断された場合に限り燃料カットを許可する燃料カットフ
ラグが「1」に設定され、この燃料カットフラグが「1」に設定されている期間は燃料噴射の実行が停止される(ステップS505,ステップS506)。他方、これら条件のうちの1つでも成立していない場合には、燃料カットは許可されず、燃料カットフラグも「0」に設定される(ステップS504)。なお、上記条件の判断方法、あるいは基準について順次詳述すれば、アイドルスイッチ45がオンであるとは上述のように、運転者によるアクセルペダルの踏み込みがないことを示しており、再始動処理時には、このアイドルスイッチ45がオンであることにより、機関回転数の目標回転数が当該内燃機関10のアイドル回転数、例えば600rpmに設定される。また、冷却水温検出、及び車速検出が正常であるとは、冷却水温センサ43、車速センサ42自身の故障、これらセンサ42,43及び電子制御装置40間の伝送線路における切断等の異常、若しくは電子制御装置40における受信に係る異常等がなく、上記センサ42,43の検出信号が正常に処理されている場合を指す。そして、燃料カット回転数とは、このとき機関回転数の目標回転数に設定されているアイドル回転数よりも高い回転数であって、燃料カットを実行しても、この目標回転数から大きく乖離しない回転数のことであり、例えば700rpmに設定される。さらに、学習スピードアップが完了しているとの条件における「学習」とは、機関回転数のフィードバック補正に係る吸入空気量を学習することであり、「スピードアップが完了」とは、目標回転数に対する機関回転数の乖離が大きいときにこうした学習を強制実行することで、機関回転数と目標回転数との偏差を±20rpm程度とすることができた状態のことである。加えて、自動停止条件が成立した後の機関再始動時であるとは、上記スタータ作動に伴って実行される燃料噴射のパターンにより判断されるとともに、シフト位置はシフト位置センサ44の検出信号から判断される。ちなみに、上記アイドル回転数は、冷却水温に応じて、すなわち内燃機関10の暖機状態に応じてその回転数が可変に設定されるものであり、より詳しくは、冷却水温が高いほど低い回転数が設定される傾向を有する。また、本実施の形態では、このアイドル回転数の変更に応じたかたちで、上記燃料カット許可回転数も冷却水温が高いほど低い回転数に設定されるようにしている。これにより、冷却水温が高く、目標回転数であるアイドル回転数が低い場合にはより早期に燃料カットが実行可能になり、燃料消費の削減効果が向上するとともに、燃料カット回転数をアイドル回転数よりも確実に高い回転数に設定しつつも、その乖離度合いが極端に大きくならないようにし、これによっても燃料消費の削減効果を向上可能である。
【0051】
図6は、図4、図5に示した再始動処理に基づく動作例として、(a)走行モード、すなわちエコモードの推移例、(b)スタータの駆動時期、(c)機関回転数の推移例(実線)、(d)経過時間、(e)シフト位置の推移例、(f)クラッチスイッチのオン・オフ、(g)アイドルスイッチのオン・オフ、及び(h)燃料カットフラグの挙動をそれぞれタイミングチャートとして示したものである。
【0052】
同図6に示されるように、タイミングt1にて、機関運転の自動停止条件の成立により自動停止した内燃機関10の再始動条件が成立した、すなわち、オンの状態であったクラッチスイッチ46が、運転者によるクラッチペダル31の踏み込みによりオフなったとすると、電子制御装置40により上記制御モード(エコモード)が「モード3」から「モード4」に変更される。そして、これに伴い、スタータ20の駆動、燃料噴射及び燃料点火が実行され、機関回転数が上昇する(タイミングt1〜タイミングt2)。こうした機関回転数の上昇により、タイミングt2にて、機関回転速度が400rpm以上になると、燃料カット許可時間の計時が開始される。その後、機関運転によりその回転数が燃料カット許可回転数である700rpm以上になると、上記他の燃料カット許可条件が成立していれば、燃料カットフラグが「1」に設定され、燃料カットが実行される(タイミングt3)。次いで、機関回転数が800rpm以上になると、電子制御装置40により制御モード(エコモード)が「モード4」から「モード1」に変更され、再始動が完了したとして通常の機関運転が実施され(タイミングt4)、タイミングt5にて手動変速機32のシフトがニュートラルから1速に変更されると、燃料カットフラグが「0」に設定されて
、燃料カットが実行されなくなる。このシフト位置の変更後に運転者によるクラッチペダル31の踏み込みがなくなり、再びクラッチスイッチ46がオンとなるとともに(タイミングt5〜タイミングt6の間のいずれかのタイミング)、タイミングt6にて計時開始からの時間が700msとなる。
【0053】
なお、図6(c)において二点鎖線で参考までに表す機関回転数の推移例は、手動変速機32のシフト位置がニュートラルから1速に変更になった後も、上記他の燃料カット条件が成立しているという条件のもとに燃料カットを実行した場合の挙動の一例である。この図6(b)に二点鎖線で示すように、タイミングt5にてシフト位置が1速に変更されたにもかかわらず燃料カットを実行しており、このシフト変更に伴う機関負荷の増大により、機関回転数が減少し(タイミングt5〜タイミングt51)、燃料カット許可回転数である700rpmを下回ると、燃料カットフラグが「0」に設定されて、燃料カットが実行されなくなる。なお、この例では燃料カットの継続による機関回転数の落ち込みが600rpmから700rpmの間となっているものの、上記手動変速機32のシフト位置が変更されるタイミングや、機関回転数等の機関運転状態によっては、上記落ち込みがアイドル回転数以下あるいはそれ以上低い値となり、機関がストールに陥る可能性がある。この点、本実施の形態においては上述のように、再始動の条件が成立して以降に、アイドル回転数を目標回転数とした機関運転状態、及び燃料カット許可回転数以上での機関運転状態にあったとしても、運転者によるシフトレバー33の操作によって手動変速機32の変速段がニュートラルから1速に変更された場合には、燃料カットを実行しないようにしている。これにより、アイドル回転数での機関運転で得られるトルクでは、同運転の継続ができない程の機関負荷が印加されても、機関運転を維持することができるようになる。
【0054】
以上説明したように、本実施の形態に係る車載内燃機関の制御装置によれば、以下に列挙する効果が得られるようになる。
(1)本実施の形態では、内燃機関10の再始動処理の実行時に、運転者によるアクセルペダルの踏み込みがないことを条件に、たとえ機関回転数が燃料カット許可回転数以上であっても、手動変速機32の変速段がニュートラルから1速に変更されているときには、燃料カットを実行しないようにしている。そのため、上記変速段の変更、換言すれば、アイドル回転数に対応した機関運転によって得られるトルクが、該内燃機関10の運転を維持するに十分でない場合には、燃料噴射が実行されることにより、こうした状況にあっても機関運転を維持できるほどのトルクを得ることが可能な機関回転数とすることができるようになる。すなわち、機関回転数のアイドル回転数以下への落ち込みや、機関がストールに陥ることを抑制し、ひいては自動停止・再始動可能な車載内燃機関10に係る再始動性を改善することができるようになる。
【0055】
(2)内燃機関10の始動装置として、クランクシャフト11との常時噛み合い式のスタータ20を採用するようした。これにより、クランクシャフト11に設けられたリングギヤ21と、スタータ20の出力軸20aに設けられたピニオンギヤ20bとを、機関始動の度に噛み合わせるといった動作が割愛可能である分、始動に係る時間を短縮することができる。故に、こうしたスタータ20を採用することは、上述のように自動停止及び再始動を頻繁に繰り返す内燃機関10として、より望ましい構成である。
【0056】
(3)再始動以降の機関回転数の目標回転数を、運転者によるアクセルペダルの踏み込みがなく、アイドルスイッチ45がオンであるときにアイドル回転数に設定するようにした。これにより、機関運転を確実に維持することはもとより、必要以上の機関回転数を維持するための燃料消費を回避し、燃料消費量を削減可能である。
【0057】
(4)燃料カット許可回転数を、機関冷却水の温度に応じて可変とし、冷却水温が高いほど低回転数に設定するようにした。これにより、冷却水温が高い、すなわち、内燃機関
10がより暖機された状態にあるときには、燃料カットを開始するタイミングを早めることができる。
【0058】
(5)また、この燃料カット許可回転数の変更は、アイドル回転数の変更に同期して実行されるものであることから、いかなる機関温度にあっても、燃料カット許可回転数が確実に目標回転数としてのアイドル回転数を上回るようにもなる。
【0059】
(6)上記燃料カットの実行期間は、最長でも、機関回転数が400rpm以上、すなわち、内燃機関10が自律運転を開始したと見なせる回転数となってから、700msに満たない範囲で設定されるようにした。これにより、燃料カットの継続期間が最長となっても、機関回転数がアイドル回転数を下回ることはなく、その運転も確実に維持可能となる。
【0060】
なお、上記実施の形態は、これを適宜変更した以下の形態にて実行することも可能である。
・上記燃料カット許可条件として、7つの条件を挙げ、これら条件が全て成立したときに燃料カットの実行を許可することとした。これに限らず、燃料カットの許可条件としては、機関回転数が400rpm以上となった時点から700ms未満であることに加え、先の条件のうちの
a.アイドルスイッチ45がオンであること。
【0061】
d.機関回転数が燃料カット許可回転数以上であること。
f.自動停止条件が成立した後の機関再始動時であること。
という条件が最低限成立しているときに燃料カットの実行を許可するようにしてもよい。
【0062】
・内燃機関10の自動停止・再始動条件は上記実施の形態にて例示した条件に限らず、一時的な車両走行の停止であること、あるいはこうした走行停止からの復帰であることが判断できる条件であればよい。
【0063】
・ワンウェイクラッチ22等の構成も上記実施の形態で例示したものに限らない。要は、常時噛み合い式のスタータであって、スタータからクランクシャフト11への回転伝達は可能であるが、その逆の回転伝達はなされないような構成であればよい。
【0064】
・制御対象となる内燃機関10は、そのシリンダ#1,#2,#3,#4内(気筒内)に直接燃料を噴射する、いわゆる直噴式の内燃機関としたが、これに限らず吸気管13に燃料噴射弁を備えるポート噴射式の内燃機関でもよい。また、直列4気筒内燃機関に限らず、どのような気筒配列の内燃機関にもこの発明は適用可能である。
【0065】
・上記実施の形態では、内燃機関10の自動停止の条件が成立したことにより、機関運転が完全に停止した、すなわち制御モードが「モード2」から「モード3」に変更されたときに、上記燃料カットフラグ処理を含む再始動処理が実行されるものとした。これに限らず、上記始動停止の条件の成立によって機関運転が完全に停止していない場合に再始動の条件が成立することを契機にスタータ20が駆動するとともに、その後アイドル回転数を目標回転数とし、燃料カットを実行するような機関運転制御にあっても、上記再始動処理は適用可能である。
【0066】
・内燃機関10の再始動に係る処理は、自動停止条件の成立後、再始動条件が成立することをもって、すなわち、上記制御モードが「モード4」に設定されたときに実行されるものとした。これに限らず、上記再始動に係る処理は、全ての制御モードに渡り、所定期間毎に実行されるようにしてもよい。
【0067】
・上記実施の形態では、燃料カット許可時間を、機関回転数が400rpmとなってから、最大でも700msに満たない期間とするようにした。これに限らず、燃料カット許可時間の最大値は、機関回転数が目標回転数であるアイドル回転数を下回らないような期間でありさえすれば任意である。ただし、燃料カット許可期間は、これを継続しても機関回転数が目標回転数を下回らない最長の時間に設定することにより、その燃料消費の削減に対する効果がより顕著となるものであり、上記700msはこの条件を満たす時間である。
【0068】
・燃料カット許可回転数は700rpmに限らず、目標回転数とされるアイドル回転数よりも高い回転数であって、燃料カットを実行しても所定の期間はアイドル回転数以上での機関運転を維持することのできる回転数であればよい。ただし、この燃料カット許可回転数とは、燃料カットを実行しても所定の期間はアイドル回転数以上の運転が可能な最低の回転数に選択されることで、より早期の燃料カットの実行を可能とし、ひいては燃料消費の削減効果を更に促進し得る回転数であり、上記700rpmはこうした条件を満たす回転数でもある。
【0069】
・燃料カット許可回転数は、冷却水温に応じて可変に設定されるものとしたが、これに限らず、ある特定の回転数に設定されるようにしてもよい。こうした構成にあっても、上記(1)〜(3)、(6)に準ずる効果は得られるとともに、燃料カット許可回転数の設定に係る処理を割愛することができる。
【0070】
・始動装置は、上述のような常時噛み合い式のスタータ20に限らず、機関始動の度にクランクシャフトと始動装置の出力軸とのそれぞれが備えるギヤを噛み合わせるスタータや、他の電動機等であってもよい。こうした始動装置を用いた場合でも、上記(1)、(3)〜(6)に準ずる効果を奏することはできる。
【符号の説明】
【0071】
10…内燃機関、11…クランクシャフト、11a…大径部、11b…フライホイール、12…スロットルバルブ、13…吸気管、14…燃料供給管、15…燃料噴射弁、16…排気管、20…スタータ、20a…出力軸、20b…ピニオンギヤ、21…リングギヤ、22…ワンウェイクラッチ、23…インナーレース、24…アウターレース部材、25…アウターレース、26…玉軸受、27…ボルト、30…クラッチ、31…クラッチペダル、32…手動変速機、33…シフトレバー、34…バッテリ,35…電磁クラッチ、36…発電電動機、37,38…プーリ、39…ベルト、40…電子制御装置、41…機関回転数センサ、42…車速センサ、43…冷却水温センサ、44…シフト位置センサ、45…アイドルスイッチ、46…クラッチスイッチ、47…エアフローメータ、#1,#2,#3,#4…シリンダ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者の操作によって変速段が変更される手動変速機を備えるとともに、車両操作の所定の条件下において自動停止・再始動の可能な車載内燃機関を制御の対象とし、前記手動変速機の変速段がニュートラルであることを含む車両操作の所定の条件のもとに停止指令が発せられた後、再始動条件の成立に基づく始動装置を用いた再始動に際し、運転者によるアクセルペダルの踏み込みがないときには前記内燃機関の運転を維持し得る機関回転数を機関運転に係る目標回転数として設定し、且つ機関回転数がこの目標回転数よりも高い所定の回転数以上であるときには、内燃機関に対する燃料カットを一時的に実行する車載内燃機関の制御装置であって、
前記再始動条件の成立時以降に前記手動変速機の変速段がニュートラル以外の変速段に変更されたとき、前記燃料カットの実行を禁止する
ことを特徴とする車載内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記始動装置は、機関出力軸との常時噛み合い式のスタータである
請求項1に記載の車載内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記目標回転数が、当該内燃機関のアイドル運転時の目標回転数であるアイドル回転数に設定されるとともに、この目標回転数よりも高い前記所定の回転数が燃料カット許可回転数に設定される
請求項1または2に記載の車載内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記所定の回転数は、当該内燃機関を冷却する機関冷却水温の温度が高いほど低回転数に設定される
請求項3に記載の車載内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記燃料カットの一時的な実行を許可する期間は、前記燃料カットを停止しても当該内燃機関の回転数が前記目標回転数を下回らない期間に制限される
請求項1〜4のいずれか一項に記載の車載内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−185315(P2010−185315A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−28913(P2009−28913)
【出願日】平成21年2月10日(2009.2.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】