車載動力伝達装置
【課題】CVT22を介して動力を伝達することで動力伝達損失が大きくなること。
【解決手段】動力分割機構20は、1の遊星歯車機構にて構成される。動力分割機構20のサンギアSには、CVT22を介してモータジェネレータ10が機械的に連結されるとともに、CVT22、クラッチC1、ギアG2α,G2βを介してキャリアCが機械的に連結されている。また、リングギアRには、ギアG5,G6およびディファレンシャルギア24を介して駆動輪14が機械的に連結されている。こうした構成において、クラッチC1を締結状態とすることで、サンギアSおよびキャリアC間で動力循環が生じて且つ、クラッチC2を締結状態とすることで動力循環を解消する。クラッチC2の締結時においてクラッチC3を締結することで、エンジン12を駆動輪14に直結する。
【解決手段】動力分割機構20は、1の遊星歯車機構にて構成される。動力分割機構20のサンギアSには、CVT22を介してモータジェネレータ10が機械的に連結されるとともに、CVT22、クラッチC1、ギアG2α,G2βを介してキャリアCが機械的に連結されている。また、リングギアRには、ギアG5,G6およびディファレンシャルギア24を介して駆動輪14が機械的に連結されている。こうした構成において、クラッチC1を締結状態とすることで、サンギアSおよびキャリアC間で動力循環が生じて且つ、クラッチC2を締結状態とすることで動力循環を解消する。クラッチC2の締結時においてクラッチC3を締結することで、エンジン12を駆動輪14に直結する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動源および駆動輪間の動力分割のための回転体であって且つ互いに連動して回転する複数の動力分割用回転体と、該動力分割用回転体に機械的に連結されて変速比を可変とする変速装置とを備える車載動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の車載動力伝達装置としては、例えば下記特許文献1に見られるように、一対の遊星歯車機構と無段変速装置を組み合わせたものも提案されている。詳しくは、この動力伝達装置は、一対の遊星歯車機構同士の機械的な連結態様を変更するための低速用クラッチと高速用クラッチとを備えている。これにより、低速時には、低速用クラッチを締結状態として且つ高速用クラッチを解除状態とすることで、入力軸を回転させた状態で出力軸の回転をゼロにできるいわゆるギアードニュートラル状態を実現している。ここで、ギアードニュートラル状態は、出力軸に機械的に連結される動力分割用回転体以外の回転体の動力の符号に相違するものがあることが実現のための条件となる。ただし、この場合には、動力の符号が互いに相違するもの同士で動力循環が生じ、エネルギ利用効率が低くなる。これに対し、高速時には、低速用クラッチを解除状態として且つ高速用クラッチを締結状態とすることで、エンジンから入力軸に加えられるトルクよりも無段変速装置に加えられるトルクを小さくすることができ、無段変速装置の伝達効率の向上等が図れるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−308039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記の場合、低速用クラッチを解除状態として且つ高速用クラッチを締結状態とする場合であっても、エンジンの動力は無段変速装置を介して出力される。ただし、無段変速装置では一般に動力伝達にロスが生じる。
【0005】
本発明は、上記課題を解決する過程でなされたものであり、その目的は、駆動源および駆動輪間の動力分割のための回転体であって且つ互いに連動して回転する複数の動力分割用回転体と、該動力分割用回転体に機械的に連結されて変速比を可変とする変速装置とを備える新たな車載動力伝達装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、上記課題を解決するための手段、およびその作用効果について記載する。
【0007】
請求項1記載の発明は、駆動源および駆動輪間の動力分割のための回転体であって且つ互いに連動して回転する複数の動力分割用回転体と、該動力分割用回転体に機械的に連結されて変速比を可変とする変速装置とを備える車載動力伝達装置において、前記駆動源から出力される動力が、前記変速装置を介して前記駆動輪に伝達される変速モードと、前記駆動源から出力される動力が前記変速装置を介すことなく前記駆動輪に伝達される直達モードとを切り替える切替手段を備えることを特徴とする。
【0008】
上記発明では、直達モードを有するため、変速装置を介して動力を伝達させる場合と比較して動力の伝達効率を向上させることができる。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記動力分割用回転体は、前記駆動輪に機械的に連結される第1の回転体と、該第1の回転体とは別の第2の回転体および第3の回転体とを備え、前記変速モードにおいて、前記第2の回転体および前記第3の回転体を前記変速装置を介して機械的に連結することで前記駆動源の動力を前記第2の回転体および前記第3の回転体の少なくとも一方を介して前記第1の回転体に伝達させるに際し前記第2の回転体および前記第3の回転体のいずれか一方から他方へと動力が流動する動力循環が生じる循環用経路をさらに備えることを特徴とする。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の発明において、前記動力分割用回転体は、前記駆動輪に機械的に連結される第1の回転体と、該第1の回転体とは別の第2の回転体および第3の回転体とを備え、前記第1の回転体および前記第2の回転体を前記変速装置を介して機械的に連結する駆動輪側経路と、前記変速装置の一対の回転軸のうち前記第2の回転体に機械的に連結される側と前記駆動源との間の動力の伝達および遮断を切り替える変速用動力伝達規制手段と、前記変速装置の一対の軸のうちの前記第1の回転体に機械的に連結される側と前記駆動源との間の動力の伝達および遮断を切り替える直達用動力伝達規制手段とをさらに備えることを特徴とする。
【0011】
上記発明では、変速用動力伝達規制手段が伝達状態であって且つ直達用動力伝達規制手段が遮断状態である場合に変速モードを実現し、変速用動力伝達規制手段が遮断状態であって且つ直達用動力伝達規制手段が伝達状態である場合に直達モードを実現することができる。
【0012】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の発明において、前記直達用動力伝達規制手段は、前記駆動源側の軸と前記変速装置側の軸との締結および解除を行う電子制御式の締結手段を備えることを特徴とする。
【0013】
上記発明では、締結手段の電子制御によって直達モードへの切り替えを実現することができる。
【0014】
請求項5記載の発明は、請求項3記載の発明において、前記直達用動力伝達規制手段は、出力側である前記変速装置側に対する入力側である前記駆動源側の相対回転速度が負でないことを条件に動力を伝達させる一方向伝達機構を備えることを特徴とする。
【0015】
上記発明では、変速装置の変速比の操作によって直達モードへの切り替えを行うことが可能となる。
【0016】
請求項6記載の発明は、請求項3記載の発明において、前記直達用動力伝達規制手段が、前記駆動源側の軸と前記変速装置側の軸との締結および解除を行う電子制御式の締結手段であって且つ前記変速用動力伝達規制手段が、出力側である前記変速装置側に対する前記駆動源側である入力側の相対回転速度が負でないことを条件に動力を伝達させる一方向伝達機構である、または前記直達用動力伝達規制手段が、出力側である前記変速装置側に対する入力側である前記駆動源側の相対回転速度が負でないことを条件に動力を伝達させる一方向伝達機構であって且つ前記変速用動力伝達規制手段が、前記駆動源側の軸と前記変速装置側の軸との締結および解除を行う電子制御式の締結手段であり、前記直達モードが選択されている状況下、前記変速装置の変速比の操作を、前記一方向伝達機構の出力側の回転速度が入力側の回転速度以下とならないように制限する制限手段を備えることを特徴とする。
【0017】
上記発明では、一方向伝達機構および変速装置を介した動力の伝達が意図せずして行われることを回避することができる。
【0018】
請求項7記載の発明は、請求項3記載の発明において、前記直達用動力伝達規制手段が、出力側である前記変速装置側に対する入力側である前記駆動源側の相対回転速度が負でないことを条件に動力を伝達させる一方向伝達機構であって且つ、前記変速用動力伝達規制手段が、出力側である前記変速装置側に対する前記駆動源側である入力側の相対回転速度が負でないことを条件に動力を伝達させる一方向伝達機構であることを特徴とする。
【0019】
上記発明では、変速装置の変速比の操作によって、変速モードと直達モードとの切り替えを簡易に行うことができる。
【0020】
請求項8記載の発明は、請求項3〜7のいずれか1項に記載の発明において、前記第2の回転体および前記第3の回転体を前記変速装置を介して機械的に連結することで前記駆動源の動力を前記第2の回転体および前記第3の回転体の少なくとも一方を介して前記第1の回転体に伝達させるに際し前記第2の回転体および前記第3の回転体のいずれか一方から他方へと動力が流動する動力循環が生じる循環用経路と、前記循環用経路を介した前記第2の回転体と前記第3の回転体との動力の伝達および遮断を切り替える循環用動力伝達規制手段と、前記駆動輪側経路に介在して且つ、前記変速装置の一対の軸のうちの前記第1の回転体に機械的に連結される側と前記第1の回転体との間の動力の伝達および遮断を切り替える駆動輪側動力伝達規制手段とをさらに備えることを特徴とする。
【0021】
上記発明では、循環用動力伝達規制手段を伝達状態として且つ駆動輪側動力伝達規制手段を遮断状態とすることで、第2の回転体および第3の回転体を介した動力循環を生じさせて且つ、循環用動力伝達規制手段を遮断状態として且つ駆動輪側動力伝達規制手段を伝達状態とすることで、動力循環を解消することなどが可能となる。
【0022】
請求項9記載の発明は、請求項8記載の発明において、前記変速用動力伝達規制手段および前記直達用動力伝達規制手段によって動力の伝達および遮断の切り替えがなされる前記駆動源が内燃機関であり、前記第2の回転体には、回転電機がさらに機械的に連結されていることを特徴とする。
【0023】
請求項10記載の発明は、請求項9記載の発明において、前記第3の回転体と前記内燃機関との間の動力の伝達および遮断を切り替える起動用動力伝達規制手段をさらに備えることを特徴とする。
【0024】
上記発明では、起動用動力伝達規制手段を備えることで、第3の回転体の動力を用いて内燃機関を起動させることができる。
【0025】
請求項11記載の発明は、請求項10記載の発明において、前記起動用動力伝達規制手段は、前記3の回転体と前記内燃機関の回転軸との締結および解除を行う電子制御式の締結手段を備えることを特徴とする。
【0026】
上記発明では、締結手段を備えることで、内燃機関を始動させる以前において第3の回転体から内燃機関の回転軸へと動力が伝達されることを回避することができ、ひいては、内燃機関の始動処理以前に回転軸に回転力が付与されることに起因する無駄なエネルギ消費を回避することができる。
【0027】
請求項12記載の発明は、請求項10または11記載の発明において、前記起動用動力伝達規制手段は、前記内燃機関側である出力側に対する前記3の回転体側である入力側の相対回転速度が負でないことを条件に動力を伝達させる一方向伝達機構を備えることを特徴とする。
【0028】
内燃機関の燃焼室における燃焼開始に伴ってトルクが生成されると、内燃機関の回転軸の回転速度が急上昇する。ここで、燃焼開始に伴うトルクの急上昇は非常に短い時間で発生するため、燃焼開始を検出して内燃機関と第3の回転体との機械的な連結を解除することは非常に困難であるか不可能である。そして、この回転変動が第3の回転体に伝達される場合には、動力伝達装置にトルク脈動が生じるおそれがある。一方、上記一方向伝達機構によれば、内燃機関の回転軸の回転速度が上昇し一方向伝達機構の出力側の回転速度が入力側の回転速度を上回る際には、内燃機関の回転軸から第3の回転体への動力の伝達が生じない。上記発明では、一方向伝達機構のこうした機能を利用することで、内燃機関の燃焼室における燃焼開始に伴ってトルク脈動が生成される際、このトルク脈動が第3の回転体を介してドライバに体感されることを好適に回避することができる。
【0029】
請求項13記載の発明は、請求項10〜12のいずれか1項に記載の発明において、前記循環用動力伝達規制手段が遮断状態とされて且つ前記駆動輪側動力伝達規制手段が伝達状態とされる状況下、前記起動用動力伝達規制手段が伝達状態となる場合、前記駆動輪側動力伝達規制手段を介して前記第1の回転体および前記第2の回転体の一方から他方へと動力が流動する動力循環が生じることを特徴とする。
【0030】
上記発明では、第1の回転体および第2の回転体間で動力循環が生じるため、第3の回転体の回転速度をゼロや極低速としたり、第3の回転体の動力を非常に小さい値にしたりすることが容易となる。このため、内燃機関の停止状態において第3の回転体の動力を用いて内燃機関に初期回転を付与する場合であっても、この初期回転の付与によって動力伝達装置に振動が生じることを好適に抑制することができる。
【0031】
しかも、上記発明では、駆動輪が様々な速度をとる場合であっても、変速比の操作によって第3の回転体の回転速度を制御することができる。このため、起動用動力伝達規制手段によって第3の回転体のトルクが内燃機関に伝達される際の第3の回転体の回転速度を好適に制御することができる。
【0032】
請求項14記載の発明は、請求項1〜13のいずれか1項に記載の発明において、前記駆動輪の回転速度が所定の速度領域となることを条件に前記直達モードに切り替える直達制御手段をさらに備えることを特徴とする。
【0033】
請求項15記載の発明は、請求項1〜13のいずれか1項に記載の発明において、前記変速装置は、ベルト式の無段変速装置であり、前記無段変速装置の異常の有無を判断する判断手段と、前記判断手段によって前記無段変速装置に異常があると判断される場合、前記直達モードに切り替える直達制御手段をさらに備えることを特徴とする。
【0034】
請求項16記載の発明は、請求項10〜13のいずれか1項に記載の発明において、前記回転電機は、前記変速装置を介して前記第2の回転体に機械的に連結されており、前記駆動輪の回転が停止される状況下、前記循環用動力伝達規制手段および前記駆動輪側動力伝達規制手段の双方を遮断状態として且つ前記直達用動力伝達規制手段を伝達状態とすることで前記内燃機関の動力を前記回転電機によって電気エネルギに変換する処理を行う発電制御手段をさらに備えることを特徴とする。
【0035】
上記発明では、変速装置を介すことなく内燃機関の動力を回転電機に供給することができるため、発電に際してのエネルギ利用効率を高めることができる。
【0036】
請求項17記載の発明は、請求項2記載の発明において、前記第1の回転体および前記第2の回転体を前記変速装置を介して機械的に連結する駆動輪側経路と、前記駆動輪側経路に介在して且つ、前記変速装置の一対の軸のうちの前記第1の回転体に機械的に連結される側と前記第1の回転体との間の動力の伝達および遮断を切り替える駆動輪側動力伝達規制手段と、前記循環用経路を介した前記第2の回転体と前記第3の回転体との動力の伝達および遮断を切り替える循環用動力伝達規制手段とを備え、前記駆動輪側経路のうち前記変速装置および前記第1の回転体間に前記駆動源が機械的に連結され、前記切替手段を、前記駆動輪側動力伝達規制手段および前記循環用動力伝達規制手段を備えて構成することで、前記駆動輪側動力伝達規制手段が伝達状態とされて且つ前記循環用動力伝達規制手段が遮断状態とされる場合、前記直達モードを実現することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】第1の実施形態にかかるシステム構成図。
【図2】同実施形態における車両発進時の動力伝達態様を示す図。
【図3】同実施形態にかかるEV走行時の動力伝達態様を示す図。
【図4】同実施形態にかかるエンジン始動時の動力伝達態様を示す図。
【図5】同実施形態にかかるエンジン走行時の動力伝達態様を示す図。
【図6】同実施形態にかかる動力伝達装置のギア比と伝達効率とを示す図。
【図7】同実施形態にかかるモード3時の動力伝達態様を示す図。
【図8】同実施形態にかかるモード3の切替処理の手順を示す流れ図。
【図9】第2の実施形態にかかるシステム構成図。
【図10】第3の実施形態にかかるシステム構成図。
【図11】第4の実施形態にかかるシステム構成図。
【図12】第5の実施形態にかかる発電制御態様を示す図。
【図13】第6の実施形態にかかるフェールセーフ処理の態様を示す図。
【図14】同実施形態にかかるフェールセーフ処理の態様を示す図。
【図15】第7の実施形態にかかるシステム構成図。
【図16】第8の実施形態にかかるシステム構成図。
【図17】第9の実施形態にかかるシステム構成図。
【図18】上記実施形態の変形例にかかるモード3の設定を示す図。
【図19】上記第1の実施形態における定量的な説明に用いる図。
【発明を実施するための形態】
【0038】
<第1の実施形態>
以下、本発明にかかる車載動力伝達装置の第1の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0039】
図1に、本実施形態にかかるシステム構成図を示す。
【0040】
図示されるモータジェネレータ10は、3相交流の電動機兼発電機である。このモータジェネレータ10は、内燃機関(エンジン12)とともに、車両走行用の動力発生装置としての機能を有する。一方、動力分割機構20は、これらモータジェネレータ10、エンジン12、および駆動輪14間の動力を分割する装置である。
【0041】
動力分割機構20は、1の遊星歯車機構からなり、動力分割用回転体としてのサンギアS,キャリアC、およびリングギアRを備えている。そして、動力分割機構20のサンギアSには、無段変速装置(CVT22)を介して、モータジェネレータ10の回転軸10aが機械的に連結されている。また、サンギアSには、CVT22、クラッチC2、ギアG5を介してリングギアRが機械的に連結されている。このため、モータジェネレータ10も、クラッチC2およびギアG5を介してリングギアRに機械的に連結されている。すなわち、モータジェネレータ10とリングギアRとは、互いに連動して回転するための機械的な結合経路として、動力分割機構20を構成するほかの動力分割用回転体を備えない経路を有している。ちなみに、CVT22として、本実施形態では、機械式のものを想定している。詳しくは、金属ベルトやゴムベルトを用いたベルト式のものを想定している。また、ギアG5は、入力側と出力側との回転速度の比を固定された比率で変換する手段であって且つ入力側と出力側との回転速度の符号を反転させる手段(カウンタギア)である。さらに、クラッチC2は、入力側および出力側間の締結状態および解除状態を切り替えるべく油圧駆動される電子制御式の締結手段である。なお、入力側、出力側は、それぞれエネルギの入力側とエネルギの出力側とを意味するが、この関係は、固定されたものではなく変化しうるものである。
【0042】
動力分割機構20のリングギアRには、駆動輪14が機械的に連結されている。詳しくは、リングギアRには、ギアG5、G6およびディファレンシャルギア24を介して駆動輪14が機械的に連結されている。ここで、ギアG6は、入力側と出力側との回転速度の比を固定された比率で変換する手段であるが、入力側と出力側とで回転速度の符号を同一に保つ手段(正転ギア)である。
【0043】
動力分割機構20のキャリアCには、ギアG2α、ギアG2β、クラッチC1およびCVT22を介してサンギアSが機械的に連結されている。ここで、ギアG2αおよびギアG2βは、入力側と出力側との回転速度の比を固定された比率で変換する手段であって且ついずれも入力側と出力側との回転速度の符号を反転させる手段(カウンタギア)である。また、クラッチC1は、入力側および出力側間の締結状態および解除状態を切り替えるべく油圧駆動される電子制御式の締結手段である。なお、クラッチC1とクラッチC2とは、その入力側および出力側のいずれか一方が同一の1の回転軸に直結されている。
【0044】
上記キャリアCには、さらに、ワンウェイベアリング26およびクラッチC4を介してエンジン12のクランク軸(回転軸12a)が機械的に連結されている。ワンウェイベアリング26は、回転軸12a側(出力側)に対するキャリアC側(入力側)の相対回転速度が負でないことを条件に動力を伝達させる一方向伝達機構である。換言すれば、出力側の回転速度の方が入力側の回転速度よりも大きくならない限り、入力側によって出力側がつれまわされるようにするものである。一方、クラッチC4は、入力側および出力側間の締結状態および解除状態を切り替えるべく油圧駆動される電子制御式の締結手段である。詳しくは、本実施形態では、ノーマリーオープン式のものを用いている。
【0045】
エンジン12の回転軸12aは、さらに、ワンウェイベアリング28を介してサンギアSが機械的に連結可能とされている。ここで、ワンウェイベアリング28は、サンギアS側(出力側)に対する回転軸12a側(入力側)の相対回転速度が負でないことを条件に動力を伝達させる一方向伝達機構である。換言すれば、出力側の回転速度の方が入力側の回転速度よりも大きくならない限り、入力側によって出力側がつれまわされるようにするものである。このため、エンジン12は、ワンウェイベアリング28、CVT22,クラッチC2およびギアG5を介してリングギアRに機械的に連結されている。
【0046】
また、エンジン12の回転軸12aは、クラッチC3およびギアG3ならびにCVT22を介してサンギアSに機械的に連結されている。ここで、クラッチC3は、入力側および出力側間の締結状態および解除状態を切り替えるべく油圧駆動される電子制御式の締結手段である。また、ギアG3は、入力側と出力側との回転速度の比を固定された比率で変換する手段であるが、入力側と出力側とで回転速度の符号を同一に保つ手段(正転ギア)である。
【0047】
なお、ギアG2α、G2β、G3、G5,G6は、実際には、複数の歯車を備えて入力側と出力側との回転速度の比を固定された比率で変換する手段であってもよい。
【0048】
制御装置40は、上記動力伝達装置を制御対象とする制御装置である。詳しくは、制御装置40は、クラッチC1,C2,C3,C4やCVT22を操作することで動力伝達態様を制御する処理や、エンジン12の制御量を制御する処理、さらには、電力変換回路42を操作することでモータジェネレータ10の制御量を制御する処理を行う。
【0049】
特に、制御装置40は、クラッチC1が締結状態であって且つクラッチC2が解除状態であるモード1と、クラッチC1が解除状態であって且つクラッチC2が締結状態であるモード2と、クラッチC1が解除状態であって且つクラッチC2,C3が締結状態であるモード3とのいずれかの状態を実現する処理を行う。以下では、「モード1」に特有の処理を説明した後、「モード2」に特有の処理について説明し、次に「モード1からモード2への切替」処理について説明し、最後に「モード3」について説明する。
「モード1」
図2に、本実施形態にかかるモータジェネレータ10による車両の発進処理について説明する。ここで、図2(a)に、発進時における動力伝達経路を示し、図2(b)に、このときの動力分割機構20の共線図を、エンジン12の回転速度とともに示す。なお、図2(b)において、リングギアRの回転速度の負方向を前進と定義しているが、これは、ギアG5がカウンタギアであるためである。また、共線図において、矢印は、トルクの向きを示すものである。
【0050】
図示されるように、この場合には、上記クラッチC4を解除状態とし、エンジン12を停止状態とする。この場合、動力分割機構20が備える動力分割用回転体の回転速度は、モータジェネレータ10の回転速度と、CVT22の変速比とによって制御される。すなわち、共線図において、サンギアSの回転速度、キャリアCの回転速度、およびリングギアRの回転速度は、一直線上に並ぶ。このため、サンギアSの回転速度とキャリアCの回転速度とを定めることで、残りの回転体であるリングギアRの回転速度が一義的に定まることとなる。
【0051】
ここで、本実施形態では、モード1において、図2(c)に示すように、動力分割機構20を構成するリングギアR以外の回転体であるサンギアSおよびキャリアCの動力(パワー)の符号が互いに相違し、サンギアSおよびキャリアC間で動力循環が生じる。すなわち、キャリアCから出力される動力がギアG2α,G2βおよびCVT22を備える経路を介してサンギアSに流動する。この動力循環が生じる場合、モータジェネレータ10を稼働した状態で、駆動輪14の回転速度をゼロとするギアードニュートラル状態を実現したり、回転速度の符号を反転させたりすることができる。そして、特に駆動輪14の回転速度を極低速にすることで、駆動輪14に付与されるトルクを高トルクとすることができる。このため、モータジェネレータ10を大型化することなく、モータジェネレータ10による発進に際して高トルクが生成可能となる。ちなみに、各動力分割用回転体の動力の符号は、当該動力分割用回転体が動力分割機構20の外部に対して仕事をする場合を正と定義する。また、駆動輪14に付与されるトルクが高トルクとなる定量的な説明については、本明細書最後部の<備考>における「モード1における高トルクの生成について」の欄を参照のこと。
【0052】
なお、モータジェネレータ10の出力の絶対値がゼロではないにもかかわらずリングギアRの回転速度をゼロとするためには、上記動力循環が生じることが条件となる。これは、キャリアCとサンギアSとの間のループ経路において動力循環状態が実現されないにもかかわらずリングギアRの回転速度がゼロとなるなら、エネルギ保存則の観点から、モータジェネレータ10の動力は、動力分割機構20内において熱エネルギとして全て消費されなければならないこととなるためである。
「モード2」
図3(a)に、モード2において、特にモータジェネレータ10のみによって車両を走行させるいわゆるEV走行時の動力伝達経路を示し、図3(b)に、その際の共線図を示す。なお、この際、クラッチC4は、解除状態とされている。
【0053】
図示されるように、この場合には、動力分割機構20を介すことなく、クラッチC2およびギアG6を介してモータジェネレータ10および駆動輪14間で動力が伝達される。これは、キャリアC、サンギアSおよびリングギアRのトルクが互いに比例関係にあることから(本明細書最後部の<備考>の式(c1),(c2)参照)、キャリアCにトルクが加わらない場合、サンギアSおよびリングギアRについてもトルクが加わらないためである。
【0054】
この状態では、モータジェネレータ10の動力がCVT22を介すことなくダイレクトに駆動輪14に伝達されるため、動力損失を低減することができる。
【0055】
図4(a)に、モード2におけるエンジン12の始動時の動力伝達経路を示し、図4(b)に、その際の共線図を示す。
【0056】
図示されるように、クラッチC4が締結状態とされることで、動力分割機構20を介したトルクの伝達が可能となる。すなわち、ワンウェイベアリング26によって、エンジン12を起動するための起動用回転体(キャリアC)の回転エネルギが、エンジン12の回転軸12aに伝達される。図4(c)に、動力分割機構20の各回転体の動力等の符号を示す。図示されるように、この場合、サンギアSの動力の符号とリングギアRの動力の符号とが互いに相違し、サンギアSおよびリングギアR間で動力循環が生じる。すなわち、リングギアRから出力される動力がサンギアSに流入する。このため、モータジェネレータ10や駆動輪14の出力の絶対値がゼロではない場合であっても、キャリアCの回転速度をゼロや極低速とすることや、キャリアCの動力の絶対値を小さい値にすることができる。このため、エンジン12の回転軸12aが停止している際にクラッチC4を締結状態に切り替えたとしても、ワンウェイベアリング26の出力側に対する入力側の回転速度差を極めて小さくすることができる。このため、クラッチC4の締結状態への切替に起因して動力分割機構20に振動が生じる事態を好適に抑制することができる。
【0057】
なお、クラッチC4を締結状態とするのは、エンジン12の回転速度がエンジン12を安定して稼動状態に保つための最小回転速度以下である場合とすることが望ましい。それ以外の場合には、回転中のエンジン12において燃焼制御を開始すればよい。
【0058】
図5(a)に、モード2におけるエンジン12による車両走行時の動力伝達経路を示し、図5(b)に、その際の共線図を示す。
【0059】
図示されるように、エンジン12の回転速度が上昇し、ワンウェイベアリング28の入力側の回転速度が出力側の回転速度となることで、ワンウェイベアリング28を介してエンジン12の駆動力がワンウェイベアリング28の出力側に出力される。ただし、この場合、クラッチC4を解除状態とすることで、動力分割機構20を介すことなく、モータジェネレータ10およびエンジン12と駆動輪14との間で動力が伝達される。ここで、エンジン12の出力は、その回転速度がCVT22によって変速された後、駆動輪14に伝達される。
【0060】
なお、エンジン12による走行時においては、モータジェネレータ10を、必ずしも電動機として機能させる必要はなく、例えば発電機として機能させてもよい。また、これに代えて、モータジェネレータ10の駆動を停止させることで、無負荷状態としてもよい。
「モード1からモード2への切替」
図6(a)に、エンジン12から駆動輪14までのトータルのギア比と、CVT22のギア比との関係を示し、図6(b)に、モータジェネレータ10から駆動輪14までのトータルのギア比と、CVT22のギア比との関係を示す。ここで、aからbまでのトータルのギア比とは、「(bの回転速度)/(aの回転速度)」のことであり、変速比の逆数である。
【0061】
図示されるように、モード1において、CVT22のギア比を連続的に変化させていくことで、駆動輪14の反転(後退)から速度ゼロを経て高速側へと変化させることができる。そして、所定のギア比となることで、モード2へと切り替える。これにより、エンジン12に関してはトータルのギア比の可変領域を拡大することができる。
【0062】
すなわち、図6(a)に示すように、モード1においてCVT22のギア比を変化させることで、エンジン12から駆動輪14までのトータルのギア比を増加させることができる。そして、モード切替点Pにおいてモード2に切り替えるとともにCVT22のギア比の変化方向を逆方向に切り替える(折り返し処理)ことで、トータルのギア比を更に増加させることができる。
【0063】
この設定は、CVT22のギア比の変化に対するトータルのギア比の変化速度の符号を、モード1とモード2とで互いに逆とする設定によって実現されるものである。この条件は、CVT22のギア比を独立変数としトータルのギア比を従属変数とする関数のCVT22のギア比による微分値について、モード1およびモード2のそれぞれにおける値の符号が互いに逆となる条件である。これを実現する手段は、上記ギアG2α、G2β、G5である。詳しくは、これらのギア比の積の符号によって、折り返し処理が実現可能か否かが定まる。なお、折り返し処理が可能となる条件については、この明細書の最後部における<備考>の「折り返し処理について」の欄において導出してある。
【0064】
また、本実施形態では、モード切替を、モータジェネレータ10やエンジン12の回転速度を入力回転速度とし駆動輪14の回転速度を出力回転速度とするトータルのギア比が変化しない条件で行っている。この場合、クラッチC1によって連結される一対の回転体の回転速度と、クラッチC2によって連結される一対の回転体の回転速度とが互いに等しい条件で切替がなされることとなる。このため、クラッチC1,C2の双方を締結状態とする状態を経由してモード1およびモード2間の切替を行うことができることから、駆動輪14にトルクが伝達されない期間が生じるいわゆるトルク抜けを回避することができる。
【0065】
トルク抜けを回避することを可能とする手段は、先の図1に示したギアG2α,G2β、G5である。すなわち、動力分割機構20のサンギアS,キャリアCおよびリングギアRの回転速度は、全てが等しいか全てが相違する。ここで、本実施形態では、サンギアSおよびリングギアRの回転速度の符号が共線図上互いに逆となる設定のため、回転速度がゼロとなる場合以外には、サンギアS、キャリアCおよびリングギアRの回転速度は全て相違する。このため、CVT22のみでは、クラッチC1によって連結される一対の回転体の回転速度とクラッチC2によって連結される一対の回転体の回転速度とが互いに等しい状態を実現することはできない。このため、動力分割機構20のリングギアRおよびクラッチC2間のギアG5と動力分割機構20のキャリアCおよびクラッチC1間のギアG2α、G2βとの少なくとも一方が、キャリアCの回転速度とリングギアRの回転速度との差を補償する手段として必要である。ちなみに、トルク抜けを生じさせないためのギアG2α,G2β、G5とCVT22とのギア比の条件は、この明細書の最後部の備考欄における「トルク抜けの生じない切替条件」の欄において導出されている。
【0066】
上記のように、本実施形態では、モード1とモード2との切替を行うことで、トータルのギア比の可変領域を拡大することができるため、CVT22を小型化することが可能となる。さらに、モード2においては、基本的に動力循環が生じないため、モード1のみとした場合と比較して、入力エネルギと出力エネルギとの比である動力伝達効率を高くすることもできる。図6(c)に、エンジン12についてのトータルのギア比と伝達効率との関係を示す。図示されるように、モード1においては伝達効率が非常に低い領域が存在するものの、モード2においては伝達効率は高いものとなっている。なお、図6(c)では、モード2への切替直前におけるモード1の伝達効率がモード2の伝達効率よりも高くなっているが、このことは、モード1のみとした場合にモード2に切り替える場合と比較して伝達効率を高くできることを意味しない。
【0067】
このように、本実施形態では、モード1を採用することで、伝達効率は低いものの、駆動輪14に付与するトルクを大きくすることができることから、モータジェネレータ10の小型化が可能となる。そして駆動輪14の回転速度が所定以上となる領域においてモード2に切り替えることで、伝達効率を向上させるとともに、トータルのギア比の可変領域を拡大できるというメリットを有する。しかも、モード2に切り換えた場合、動力分割機構20は、駆動輪14へ駆動力を伝達させる上で必要がなくなるのであるが、利用されなくなったキャリアCを用いてエンジン12に初期回転を付与することが可能となる。このため、エンジン12の起動のための手段を、モード2において利用されない部材を流用して構成することができる。
「モード3」
上記モード2においては、トータルのギア比は、エンジン12のエネルギ利用効率が最も高くなるように操作される。ここで、モータジェネレータ10については、トータルのギア比を可変させないのは、モータジェネレータ10によるエネルギ利用効率を向上させるための設定である。すなわち、モータジェネレータ10のエネルギ利用効率が、動作点(トルクおよび回転速度によって定まる点)によって変化する率は、極低速回転領域を除くとエンジン12と比較して非常に小さい。一方、CVT22を介して動力を伝達させる場合、CVT22による動力伝達ロスが生じる。そしてこのロスは、通常のギア等と比較して大きなものとなっている。このため、モータジェネレータ10については、トータルのギア比を最適化すべくCVT22を介して動力伝達を行うと、少なくともモード2においては、エネルギ利用効率が低下する懸念がある。これに対し、エンジン12については、動作点毎のエネルギ利用効率の変化が大きいため、トータルのギア比を操作することによって動作点を最適化することで、CVT22による動力伝達ロスを上回るエネルギ利用効率の向上効果が見込める。
【0068】
ただし、エンジン12の回転速度領域を制限すれば、CVT22を介すことなくエンジン12の動力を駆動輪14に伝達させた方がエネルギ利用効率がよい。このため、本実施形態では、図7に示すモード3を設ける。
【0069】
すなわち、この場合、図7(a)に示すように、エンジン12の動力は、クラッチC3、ギアG3、クラッチC2、ギアG6を介して駆動輪14に伝達される。このため、CVT22による動力伝達ロスを回避することができる。なお、この際には、ワンウェイベアリング28の出力側回転速度の方が入力側回転速度よりも大きくなるようにCVT22のギア比を操作する。これは、ワンウェイベアリング28を介してCVT22にエンジン12の動力が伝達される事態を回避するための設定である。これは、図7(b)に示すように、CVT22のギア比を、モード2においてモード3におけるトータルのギア比を実現する値よりも小さい側にすることで実現することができる。
【0070】
図8に、本実施形態にかかるモード3の切り替え制御の処理手順を示す。この処理は、制御装置40によって、例えば所定周期で繰り返し実行される。
【0071】
この一連の処理では、まずステップS10において、クラッチC3が締結状態であるか否かを判断する。この処理は、モード3であるか否かを判断するためのものである。そして、ステップS10において否定判断される場合、ステップS12において、クラッチC3の一対の回転体の回転速度差がゼロとなったか否かを判断する。この処理は、クラッチC3の締結条件が成立したか否かを判断するためのものである。ここで、ステップS12において肯定判断されるのは、モード2におけるエンジン12から駆動輪14までのトータルのギア比がモード3におけるものと一致する場合である。この条件は、例えば車両の走行速度に応じてCVT22が操作されることで実現される。
【0072】
ステップS12において肯定判断される場合、ステップS14においてクラッチC3を締結状態とする。続くステップS16では、CVTギア比を小さい側に変更する。この処理は、ワンウェイベアリング28を介してエンジン12の動力がCVT22へと伝達されることを回避するためのものである。
【0073】
一方、上記ステップS10において肯定判断される場合、ステップS18において、車速が第1速度VL以上であって第2速度VH以下の速度領域であるか否かを判断する。ここで、上記速度領域は、トータルのギア比をモード3のものに固定した場合の方がモード2とするよりもエンジン12のエネルギ利用効率が高くなると想定される領域である。そして、ステップS18において否定判断される場合、ステップS20においてCVT22のギア比を増大操作し、ステップS22においてクラッチC3を解除操作することでモード2に戻る。
【0074】
なお、上記ステップS16,S22の処理が完了する場合や、ステップS12において否定判断される場合、さらにはステップS18において肯定判断される場合には、この一連の処理を一旦終了する。
【0075】
上記モード3におけるトータルのギア比は、ギアG3のギア比等によって調節することができる。このトータルのギア比は、車両の走行速度が狙いとする速度領域(例えば30〜80km/hの領域内の所定の速度領域)となる際のエンジン12のエネルギ利用効率を向上させるように設定されることが望ましい。例えば、ある程度高速度で走行する際のエネルギ消費量を低減するうえでは、モード3を用いる車速を「50〜70km/h」とすることが望ましく、また市街地等での走行をメインに考える場合には、「30〜50km/h」とすることが望ましい。
【0076】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0077】
(1)モード3を設けることで、エンジン12の動力をCVT22を介すことなく駆動輪14に伝達させることができる。
【0078】
(2)モータジェネレータ10をクラッチC1,C2の間に機械的に連結することで、モード2において、モータジェネレータ10の動力をCVT22を介すことなく駆動輪14に機械的に連結することができる。
【0079】
(3)クラッチC3を介してエンジン12をCVT22を介すことなく駆動輪14に直結した。これにより、クラッチC3の操作によって、モード3を実現することができる。
【0080】
(4)クラッチC3の締結処理後、CVT22のギア比を低減操作した。これにより、エンジン12の動力がワンウェイベアリング28を介してCVT22に出力される自体を回避することができる。
【0081】
(5)エンジン12とサンギアSとの間に、出力側であるサンギアS側に対する入力側であるエンジン12側の相対回転速度が負でないことを条件に動力を伝達させるワンウェイベアリング28を備えた。これにより、入力側の回転速度が出力側の回転速度に一致することでエンジン12のトルクがサンギアS側に付与されるようになるため、サンギアS側に対する内燃機関の駆動力の付与を簡易に開始することができる。
【0082】
(6)モード1およびモード2の切替を行なった。これにより、モータジェネレータ10、エンジン12、および駆動輪14のそれぞれと動力分割用回転体との機械的な連結を、これらの駆動状態に応じてより適切なものとすることができる。
【0083】
(7)モータジェネレータ10(エンジン12)の回転速度の符号を特定の符号に固定した場合、モード1において、キャリアCの動力とサンギアSの動力との符号が互いに逆となって且つ、モード2において、サンギアSの動力とリングギアRの動力とがゼロとなるようにした。これにより、モード1において、駆動輪14に機械的に連結される回転体以外の回転体間で動力循環が生じるため、ギアードニュートラル状態を実現することが可能となる等のメリットがある。また、モード2では、動力循環が生じないため、動力伝達効率を向上させることなどができる。しかも、これらの切り替えに際し、モータジェネレータ(エンジン12)の回転速度を反転させる必要もない。
【0084】
(8)モード1、モード2の双方で、共通のCVT22を利用可能とした。これにより、部品点数を低減することができる。
【0085】
(9)エンジン12から駆動輪14までのトータルのギア比を従属変数としCVT22のギア比を独立変数とする関数について、モード1およびモード2のそれぞれにおける上記独立変数による上記関数の1階の微分値同士の符号が互いに逆となるように設定した。これにより、折り返し処理が可能となり、トータルのギア比の可変領域を拡大することができる。さらに、このようにギア比を拡大することができることから、CVT22自体を小型化することも可能となる。
【0086】
(10)モード1とモード2との間の切替に際し、キャリアCとリングギアRとの回転速度の差を補償する手段(ギアG2α、G2β、G5)を備えた。これにより、モード1とモード2との切り替えに際し、トルクの伝達が中断される事態を好適に回避することができる。
【0087】
(11)エンジン12の起動用回転体(キャリアC)とエンジン12との間の動力の伝達を遮断するための電子制御式のクラッチC3を備えた。これにより、エンジン12を始動させる以前において起動用回転体(キャリアC)からエンジン12へと動力が伝達されることを回避することができ、ひいては、エンジン12の始動処理以前に回転軸12aに回転力が付与されることに起因する無駄なエネルギ消費を回避することができる。
【0088】
(12)出力側であるエンジン12側の回転速度に対する入力側である起動用回転体(キャリアC)側の相対的な回転速度が負でないことを条件に動力を伝達させるワンウェイベアリング26を備えた。これにより、エンジン12の燃焼室における燃焼開始に伴ってトルクが生成されることでエンジン12の回転軸12aの回転速度が急上昇する場合であっても、この際、起動用回転体へとエンジン12のトルクが伝達されない。これは、ワンウェイベアリング26の入力側の回転速度よりも出力側(エンジン12側)の回転速度の方が高くなることで、ワンウェイベアリング26の出力側から入力側への動力伝達ができない状態となるためである。そしてこれにより、起動用回転体を介してドライバにトルク脈動が体感されることを好適に回避することができる。
【0089】
(13)1つの回転軸にクラッチC1およびクラッチC2を直結させた。これにより、クラッチC1およびクラッチC2を近接配置することができ、ひいては動力伝達装置自体の小型化が容易となる。
<第2の実施形態>
以下、第2の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0090】
図9(a)に、本実施形態にかかるシステム構成を示す。なお、図9(a)において、先の図1に示した部材と対応する部材については、便宜上同一の符号を付している。
【0091】
図示されるように、本実施形態では、クラッチC3に代えて、ワンウェイベアリング60を設けた。これにより、図9(b)に示すように、CVT22のギア比の操作のみによって、モード2とモード3との切り替えを実現することができる。
【0092】
すなわち、クラッチC1が締結且つクラッチC2が解除であるモード1において、CVT22のギア比が大きい間は、ワンウェイベアリング60の出力側に対する入力側の相対回転速度が負となる一方、ワンウェイベアリング28の出力側に対する入力側の相対回転速度が負でなくなる。このため、ワンウェイベアリング28のみが動力伝達状態となる。そして、モード1において、CVT22のギア比がギア比p3となることで、ワンウェイベアリング60とワンウェイベアリング28との双方について、それらの出力側に対する入力側の相対回転速度が負でなくなり、ワンウェイベアリング28とワンウェイベアリング60との双方ともに動力伝達状態となる。そして、CVT22のギア比がさらに小さくなると、ワンウェイベアリング60の出力側に対する入力側の相対回転速度が負でない一方、ワンウェイベアリング28の出力側に対する入力側の相対回転速度が負となる。このため、ワンウェイベアリング60のみが動力伝達状態となる。
【0093】
一方、クラッチC1が解除且つクラッチC2が締結である状態においても、CVT22のギア比がギア比p3よりも小さい間は、ワンウェイベアリング60の出力側に対する入力側の相対回転速度が負でない一方、ワンウェイベアリング28の出力側に対する入力側の相対回転速度が負となる。このため、ワンウェイベアリング60のみが動力伝達状態となり、モード3となる。これに対し、CVT22のギア比をギア比p3を超えて大きくすると、ワンウェイベアリング60の出力側に対する入力側の相対回転速度が負となる一方、ワンウェイベアリング28の出力側に対する入力側の相対回転速度が負でなくなる。このため、ワンウェイベアリング28のみが動力伝達状態となり、モード2となる。
【0094】
以上説明した本実施形態によれば、先の第1の実施形態の上記(1),(2),(5)〜(13)の各効果に加えて、さらに以下の効果が得られるようになる。
【0095】
(14)出力側(CVT22およびクラッチC2間側)に対する入力側(エンジン12側)の相対回転速度が負でないことを条件に動力を伝達させるワンウェイベアリング60を備えた。これにより、CVT22の操作によってモード3への切り替えを行うことが可能となる。
<第3の実施形態>
以下、第3の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0096】
図10に、本実施形態にかかるシステム構成を示す。なお、図10において、先の図1に示した部材と対応する部材については、便宜上同一の符号を付している。
【0097】
図示されるように、本実施形態では、車載空調装置のコンプレッサ50を、動力分割機構20のサンギアSに機械的に連結した。これにより、コンプレッサ50に動力を供給するための駆動源を別途設ける必要が生じない。
【0098】
ここで、モータジェネレータ10による走行時にコンプレッサ50を稼動させる場合、CVT22のギア比の操作によって可変容量コンプレッサと同様の機能を実現させることができる。また、モード3においても、CVT22のギア比の操作によって可変容量コンプレッサと同様の機能を実現させることができる。ただし、この場合には、CVT22のギア比を、トータルのギア比がモード2とモード3とで一致する点よりも小さい側とするとの条件を付与する。
<第4の実施形態>
以下、第4の実施形態について、先の第3の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0099】
図11(a)に、本実施形態にかかるシステム構成を示す。なお、図11(a)において、先の図10に示した部材と対応する部材については、便宜上同一の符号を付している。
【0100】
本実施形態では、ワンウェイベアリング28に代えて、クラッチC5を用いる。クラッチC5は、入力側および出力側間の締結状態および解除状態を切り替えるべく油圧駆動される電子制御式の締結手段である。これにより、モード3において、クラッチC5を解除状態とすることで、図11(b)に示すように、CVT22のギア比の許容可変領域をCVT22の可変領域の全域とすることができる。このため、モード3において、CVT22とコンプレッサ50との協働で、可変容量コンプレッサを好適に実現することができる。
<第5の実施形態>
以下、第5の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0101】
本実施形態は、車両の停止時における制御に関する。すなわち、図12に示すように、駆動輪14に制動力が付与された状態で、クラッチC1,C2,C4を解除状態として且つ、クラッチC3を締結状態とし、エンジン12の動力をモータジェネレータ10によって電力に変換する。この動力伝達経路には、CVT22が含まれないため、動力伝達効率を向上させることができる。
【0102】
もっとも、エンジン12にとって効率の良い動作点において発電を行う場合には、クラッチC3をも解除状態とし、エンジン12の動力をワンウェイベアリング28、CVT22を介してモータジェネレータ10に伝達させてもよい。
【0103】
以上説明した本実施形態によれば、先の第1の実施形態の上記(1)〜(13)の各効果に加えて、さらに以下の効果が得られるようになる。
【0104】
(15)車両の停止時において、エンジン12の動力をクラッチC3を介してモータジェネレータ10に伝達させることで、発電処理を行った。これにより、発電効率を向上させることができる。
<第6の実施形態>
以下、第6の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0105】
本実施形態は、CVT22のベルトが切れる等、CVT22の動力伝達に異常が生じる場合のフェールセーフ処理に関する。ここで、CVT22のベルト切れ等の異常は、例えばプライマリプーリとセカンダリプーリとの回転速度差を検出し、これとCVT22の操作量から想定される回転速度差との差を比較することで検出すればよい。
【0106】
図13(a)は、モード3を利用した退避走行を例示する。すなわち、この場合、エンジン12およびモータジェネレータ10の双方ともCVT22を介すことなく駆動輪14に直結されるため、エンジン12およびモータジェネレータ10の双方の動力を駆動輪14に伝達させることができる。なお、モータジェネレータ10による退避走行からエンジン12を起動する処理は、クラッチC3を介してモータジェネレータ10の動力をエンジン12に伝達させることで行うことができる。
【0107】
図13(b)は、クラッチC1〜C3を締結状態とする退避走行を例示する。この場合であっても、エンジン12やモータジェネレータ10から駆動輪14までのトータルのギア比は先の図13(a)に示した場合と同一である。ただし、この場合、モータジェネレータ10による退避走行からエンジン12を起動する処理を、クラッチC4を締結状態とすることによっても行うことができる。
【0108】
図14(a)は、クラッチC1,C2を締結状態とする退避走行を例示する。この場合、動力分割機構20のサンギアS、キャリアCおよびリングギアRの回転速度同士の比が固定される。そしてこの場合、サンギアSを介して動力を伝達することが可能となる。そこで、この例では、エンジン12の動力をワンウェイベアリング28を介してサンギアSに伝達している。なお、モータジェネレータ10による退避走行からエンジン12を起動する処理は、クラッチC3,C4のいずれかを締結状態とすることで行うことができる。
【0109】
図14(b)は、クラッチC1,C3を締結状態とする退避走行を例示する。
<第7の実施形態>
以下、第7の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0110】
図15(a)に、本実施形態にかかるシステム構成図を示す。なお、図15(a)において、先の図1に示した部材と対応するものについては、便宜上同一の符号を付している。
【0111】
図示されるように、本実施形態にかかる動力分割機構20は、第1遊星歯車機構20aおよび第2遊星歯車機構20bを備えて構成されている。ここで、第1遊星歯車機構20aのリングギアRと第2遊星歯車機構20bのキャリアCとは、機械的に連結されており、また、第1遊星歯車機構20aのサンギアSと第2遊星歯車機構20bのサンギアSとは、機械的に連結されている。そして、第2遊星歯車機構20bのリングギアRには、モータジェネレータ10の回転軸10aが機械的に連結されている。また、第1遊星歯車機構20aのリングギアRおよび第2遊星歯車機構20bのキャリアCには、ギアG6およびディファレンシャルギア24を介して駆動輪14が機械的に連結されている。
【0112】
また、第1遊星歯車機構20aのキャリアCは、ワンウェイベアリング26およびクラッチC4を介してエンジン12のクランク軸(回転軸12a)に機械的に連結可能とされている。第1遊星歯車機構20aのサンギアSおよび第2遊星歯車機構20bのサンギアSは、CVT22およびワンウェイベアリング28を介してエンジン12の回転軸12aに機械的に連結されている。第1遊星歯車機構20aのサンギアSおよび第2遊星歯車機構20bのサンギアSは、CVT22、クラッチC1およびギアG7を介して、モータジェネレータ10の回転軸10aに機械的に連結されている。ここで、ギアG7は、入力側と出力側との回転速度の比を固定された比率で変換する手段であって且つ、入力側と出力側との回転速度の符号を反転させる手段(カウンタギア)である。
【0113】
また、第1遊星歯車機構20aのサンギアSおよび第2遊星歯車機構20bのサンギアSは、CVT22、クラッチC2およびギアG4を介して、第1遊星歯車機構20aのリングギアRおよび第2遊星歯車機構20bのキャリアCに機械的に連結されている。
【0114】
こうした構成においても、クラッチC1を締結状態として且つクラッチC2を解除状態とすることで、動力循環を生じさせることができる。すなわち、この場合、第2遊星歯車機構20bのサンギアSから出力される動力がCVT22、クラッチC1およびギアG7を介して第2遊星歯車機構20bのリングギアRに入力される。また、クラッチC1を解除状態として且つクラッチC2を締結状態とすることで、上記動力循環の生じないモード2を実現することができる。さらに、この際、モータジェネレータ10を無負荷状態とすることで、図15(b)に示すように、エンジン12の動力をCVT22を介すことなく駆動輪14に伝達させるモード3を実現することができる。
<第8の実施形態>
以下、第8の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0115】
図16に、本実施形態にかかるシステム構成図を示す。なお、図16において、先の図1に示した部材と対応するものについては、便宜上同一の符号を付している。
【0116】
図示されるように、本実施形態では、動力分割用回転体として、第1遊星歯車機構20aのサンギアS,キャリアCおよびリングギアR、ならびに第2遊星歯車機構20bのサンギアS,キャリアCおよびリングギアRの6つの回転体を備え、これらにより動力分割を行なう。
【0117】
上記モータジェネレータ10は、第1遊星歯車機構20aのサンギアSに機械的に連結されるとともに、ギアG8を介して第2遊星歯車機構20bのキャリアCに機械的に連結され、またCVT22を介して第2遊星歯車機構20bのサンギアSに機械的に連結されている。ここで、ギアG8は、入力側と出力側との回転速度の比を固定された比率で変換する手段であるが、入力側と出力側とで回転速度の符号を同一に保つ手段(正転ギア)である。
【0118】
一方、駆動輪14は、ディファレンシャルギア24およびギアG7を介して第1遊星歯車機構20aのリングギアRに機械的に連結されている。ここで、ギアG7は、入力側と出力側との回転速度の比を固定された比率で変換する手段であって且つ、入力側と出力側との回転速度の符号を反転させる手段(カウンタギア)である。
【0119】
また、第1遊星歯車機構20aのキャリアCと第2遊星歯車機構20bのリングギアRとは、ギアG5およびクラッチC1を介して機械的に連結されている。また、第1遊星歯車機構20aのキャリアCと第2遊星歯車機構20bのサンギアSとは、クラッチC2およびギアG4を介して機械的に連結されている。ここで、ギアG4,G5は、いずれも入力側と出力側との回転速度の比を固定された比率で変換する手段であって且つ、入力側と出力側との回転速度の符号を反転させる手段(カウンタギア)である。
【0120】
さらに、上記第2遊星歯車機構20bのリングギアRには、ワンウェイベアリング26およびクラッチC4を介してエンジン12の回転軸12aが機械的に連結されている。また、エンジン12の回転軸12aは、ワンウェイベアリング28を介して第2遊星歯車機構20bのキャリアCに機械的に連結されている。さらに、エンジン12の回転軸12aは、クラッチC3を介して、第1遊星歯車機構20aのリングギアRおよびギアG7間に機械的に連結されている。
【0121】
こうした構成によっても、クラッチC1を締結状態として且つクラッチC2を解除状態とするモード1において、動力循環を生じさせることができる。すなわち、この場合、第1遊星歯車機構20aのキャリアCから出力される動力が、クラッチC1、第2遊星歯車機構20bのリングギアR、第2遊星歯車機構20bのサンギアS、CVT22を介して第1遊星歯車機構20aのサンギアSに入力される。一方、クラッチC1を解除状態として且つクラッチC2を締結状態とすることで、上記動力循環の生じないモード2を実現することができる。さらに、クラッチC1、C2,C4を解除状態としてクラッチC3を締結状態とすることで、エンジン12の動力をCVT22を介すことなく駆動輪14に伝達させるモード3を実現することができる。
<第9の実施形態>
以下、第9の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0122】
本実施形態は、車載主機がモータジェネレータ10のみである電気自動車に関するものである。
【0123】
図17に、本実施形態にかかるシステム構成図を示す。なお、図17において、先の図1に示した部材と対応するものについては、便宜上同一の符号を付している。
【0124】
このシステムでは、モード1によって動力循環を生じさせて且つ、モード2によってモータジェネレータ10の動力をCVT22を介すことなく駆動輪14に伝達させることができる。特にこの電気自動車は、モード1によって、駆動輪14の極低速回転時や停止時において電力変換回路42の発熱の問題を好適に回避することができる。すなわち、モータジェネレータ10を駆動輪14に直結する場合、駆動輪14の極低速回転時や停止時において大きなトルクを生成すべくモータジェネレータ10の電流を大きくする場合、特定の相のスイッチング素子の電流が大きくなる状態が継続し、発熱量が過大となることに起因して、電力変換回路42の信頼性の低下が問題となる。これに対し、本実施形態では、動力循環を生じさせることで、駆動輪14の極低速回転時や停止時においてモータジェネレータ10の回転速度をある程度高くすることができるため、こうした問題を回避することができる。
<その他の実施形態>
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
【0125】
「モード3への切替条件について」
モード3への切替条件としては、車速についての条件に限らない。要は、クラッチC3の両側の回転軸の回転速度が一致する条件であればよい。もっとも、クラッチC3の解除状態から締結状態への切り替えに際して半クラッチ状態を利用するなら、この条件も必須ではない。
【0126】
「モード3への切り替えギア比について」
モード3への切り替えギア比としては、例えば図18(a)に例示するように、トータルのギア比がモード1とモード2とで同一となるギア比としてもよい。この場合、クラッチC1,C2,C3を同時に締結状態とすることもできる。なぜなら、図18(a)の点Pにおいては、クラッチC1によって連結される一対の回転体の回転速度と、クラッチC2によって連結される一対の回転体の回転速度と、クラッチC3によって連結される一対の回転体の回転速度とがそれぞれ互いに等しくなるからである。このため、モード2とモード3との切替のみならず、モード1とモード3との切り替えをもトルク抜けを生じることなく行うことができる。ただし、この場合には、点PがCVTのギア比の上限値や下限値とならないようにする必要がある。なぜなら、点Pに対してギア比をずらさない限りエンジン12の動力がCVT22の両側に出力されることとなるからである。
【0127】
もっとも、上記第4の実施形態(図11)に示すように、ワンウェイベアリング28に代えてクラッチC5を用いる場合には、図18(b)に示すように、CVT22のギア比の許容可変領域を拡大させることができる。ただし、クラッチC5を用いる場合には、図18(c)に例示するように、点PをCVTのギア比の上限値や下限値とすることで、トータルギア比の可変領域を拡大することが望ましい。
【0128】
「補機に機械的に連結される動力分割用回転体について」
例えば、図10、図11に示した構成に代えて、モータジェネレータ10とCVT22との間にコンプレッサ50を機械的に連結してもよい。この構成は、モータジェネレータ10からコンプレッサ50への動力伝達効率を向上させるうえで優れている。すなわち、CVT22を介して動力伝達を行う場合、その効率が低下しやすいのに対し、CVT22を介在させないようにすることで、伝達効率を向上させることができる。
【0129】
「補機について」
動力分割用回転体の回転力やモータジェネレータ10、エンジン12の動力を用いる補機としては、車載空調装置のコンプレッサ50に限らない。例えば駆動輪14等に制動力を付与するための油圧を生成するブレーキポンプや、エンジン12の冷却水用のウォータポンプ、冷却ファン等であってもよい。
【0130】
「起動用動力伝達規制手段について」
エンジン12を起動すべくエンジン12と動力分割機構20の起動用回転体との間のトルクの伝達および遮断を行う起動用動力伝達規制手段としては、クラッチC4およびワンウェイベアリング26を備えて構成されるものに限らない。例えば、クラッチC4のみを備えるものであってもよい。この場合、例えばエンジン12の回転軸12aに初期回転を付与した後、エンジン12の燃焼開始に先立ちクラッチC4を遮断するなら、エンジン12における燃焼開始時に急増するトルクが動力分割機構20に伝達されることを好適に回避することができる。また例えばワンウェイベアリング26のみを備えるものであってもよい。
【0131】
また、ワンウェイベアリング26の入力側にクラッチC4を設けてもよい。
【0132】
さらに、エンジン12の回転軸12a側(出力側)に対する動力分割機構20の起動用回転体側(入力側)の相対回転速度が負でないことを条件に動力を伝達させる一方向伝達機構としては、ワンウェイベアリング26に限らず、例えばワンウェイクラッチであってもよい。また、入力側によって出力側が滑ることなくつれまわされるものに限らず、滑りつつも動力が付与されるものであってもよい。
【0133】
エンジン12を始動するために動力分割機構20からエンジン12の回転軸12aへと動力を伝達する経路の動力伝達を遮断する遮断手段としては、ノーマリーオープン式のクラッチC4に限らない。例えばノーマリークローズ式のクラッチであってもよい。
【0134】
「変速用動力伝達規制手段について」
エンジン12のトルクを駆動輪14に付与すべく出力側(動力分割機構20の伝達用回転体側)の回転速度に対する入力側(エンジン12側)の相対回転速度が負でないことを条件に動力を伝達する一方向伝達機構としては、ワンウェイベアリング28に限らず、例えばワンウェイクラッチであってもよい。また、入力側によって出力側が滑ることなくつれまわされるものに限らず、滑りつつも動力が付与されるものであってもよい。
【0135】
さらに、一方向伝達機構とクラッチC5とを併用してもよい。
【0136】
「直達用動力伝達規制手段について」
エンジン12の動力をCVT22を迂回して駆動輪14に付与すべく出力側(駆動輪14側)に対する入力側(エンジン12側)の相対回転速度が負でないことを条件に動力を伝達する一方向伝達機構としては、ワンウェイベアリング60に限らず、例えばワンウェイクラッチであってもよい。また、入力側によって出力側が滑ることなくつれまわされるものに限らず、滑りつつも動力が付与されるものであってもよい。
【0137】
さらに、一方向伝達機構とクラッチC4とを併用してもよい。
【0138】
なお、この一方向伝達機構を、先の図16に示した構成等において採用してもよい。
【0139】
「第2の実施形態について」
上記第2の実施形態において、ワンウェイベアリング28をクラッチC5に変更してもよい。特に第2の実施形態では、エンジン起動直後においてモード3となると考えられるため、エンジン12における燃焼開始時のトルクが動力分割機構20に伝達することを回避するうえではワンウェイベアリング28を用いなくてもよい。
【0140】
上記実施形態では、トータルギア比が大きくなることでモード3からモード2に移行するようにしたが、トータルギア比が大きくなることでモード2からモード3に移行するようにしてもよい。
【0141】
「動力循環(モード1)の利用について」
上記各実施形態では、駆動源(モータジェネレータ10等)の回転速度の符号を固定しつつ駆動輪14の回転速度を正、ゼロ、負に切り替えるために動力循環を利用したが、これに限らない。例えば、駆動源の回転速度の符号を一定に保った状態における駆動輪14の回転速度をゼロを境とする一方向の領域に限ってもよい。この場合、モータジェネレータ10を反転させることで駆動輪14の回転速度の符号を反転させることができる。もっともこれに代えて、動力分割用回転体と駆動源や駆動輪14との機械的な連結態様を変更することでモータジェネレータ10の回転速度の符号を反転させること無く駆動輪14の回転速度の符号を反転させてもよい。これは例えば、先の図1に示した構成において、サンギアSとCVT22との間にクラッチを設けるとともに、サンギアSを固定する手段を備えることで行うことができる。
【0142】
このように、CVT22のギア比を操作することで駆動輪14の回転速度の符号が反転するような利用をしない場合、モード1におけるCVT22のギア比の操作に対するトータルギア比の変化量を小さくでき、CVT22の耐量を低減できることが発明者らによって見出されている。
【0143】
「クラッチC1〜C3の締結条件について」
クラッチC1〜C3の締結条件としては、上記各実施形態において例示したものに限らない。例えば停車時、牽引時においては、クラッチC1,C2,C3を解除状態とすればよい。これにより、牽引によってCVT22が回転されることを回避することが可能となり、CVT22として金属ベルトを備えるもの等を利用する場合であってもCVT22の劣化を抑制することができる。これは、例えば先の図1の構成の場合、クラッチC1,C2,C3の双方を解除状態とすることで、モータジェネレータ10の負荷等によってCVT22が回転することなくクラッチC1,C2,C3が空転する状態を実現可能であるためである。
【0144】
また、クラッチC1,C2を締結状態、クラッチC3を解除状態として且つ、トータル変速比が所定以上の高速変速比となる状態としてもよい。さらに、モード1,2でトータル変速比が相違するようにCVT22の変速比を操作した状態で、クラッチC1,C2を締結状態としてもよい。これにより、駆動輪14をロックさせることができる。
【0145】
「クラッチC4の締結条件について」
上記各実施形態では、エンジン12の回転速度がエンジン12を安定して稼動状態に保つための最小回転速度以下である場合であって且つエンジン12の始動要求が生じた場合にクラッチC4を締結状態としたがこれに限らない。例えば車両の制動力が要求されることを条件としてもよい。これは、モータジェネレータ10を小型化しても、発進トルクを確保することができる上記各実施形態の構成にとって特に有効である。すなわち、モータジェネレータ10を小型化(例えば十数kW)すると、モータジェネレータ10の回生運転によって生成される車両の制動力を大きくすることができなくなる懸念がある。しかし、こうした場合であっても、クラッチC4を締結状態として動力分割機構20にエンジン12の負荷トルクを付与してエンジンブレーキを利用することで、制動力を大きくすることができる。
【0146】
もっとも、これに限らず、例えば回生運転後、エンジン12を再始動させるに際しモータジェネレータ10の動力を消費しないようにすべく、回生運転の間、クラッチC4を締結状態とすることでエンジン12の回転速度を燃焼制御を開始することのできる回転速度の下限値以上に維持してもよい。
【0147】
「動力分割機構について」
動力分割機構としては、上記各実施形態に例示したものに限らない。例えば、先の図1や、図15、図16、図17に例示した構成において、サンギアS、キャリアCおよびリングギアRを入れ替えてもよい。この場合であっても、遊星歯車機構とモータジェネレータ10、エンジン12、駆動輪14との間に介在するギアの設定によって、上記各実施形態と同様の効果を奏することが可能となる。
【0148】
「動力分割用回転体について」
上記実施形態では、動力分割用回転体を構成する遊星歯車機構として、サンギアSとリングギアRの回転速度の符号が互いに相違する場合にキャリアCの回転速度がゼロとなりうるものを採用したが、これに限らない。例えば、サンギアSとリングギアRとの回転速度の符号が同一である場合にキャリアCの回転速度がゼロとなり得るものを用いてもよい。この遊星歯車機構は、いわゆるダブルピニオンを有する遊星歯車機構(例えば特開2001−108073号公報参照)によって実現できる。
【0149】
また、遊星歯車機構を構成するものにも限らず、例えばデフギアを構成するものであってもよい。
【0150】
「変速装置の種類について」
機械式の無段変速装置としては、ベルト式のものに限らず、例えばトラクションドライブ式のものであってもよい。また、機械式のものに限らず、油圧式のものであってもよい。更に、無段変速装置にも限らず、有段変速装置であっても、これを介在させた場合の動力伝達効率が直達モードと比較して低下するなら、直達モードを設けることは有効である。もっとも、動力伝達効率の低下の有無にかかわらず、変速装置の異常時におけるフェールセーフ処理として、直達モードを利用することは有効である。
【0151】
「そのほか」
・車両としては、ハイブリッド車や電気自動車に限らず、例えば車載主機としてエンジン12のみを備える車両であってもよい。これは、例えば先の図1に示した構成において、モータジェネレータ10や、ワンウェイベアリング26、クラッチC4を削除することで実現することができる。
【0152】
・モード1とモード2との間の切り替えに際し、トルク抜けが生じる設定であっても上記第1の実施形態の(1)等の効果を得ることはできる。この場合、クラッチC1,C2のうち解除状態から締結状態へと切り替える側において、締結力を漸増させることで半クラッチを利用すればよい。もっとも、フェールセーフ処理時等、モード切替に伴うショック等よりも迅速なモード切替の優先度の方が高い状況下にあっては、モード1とモード2とでトータル変速比が相違するCVT22のギア比において、上記締結力の漸増処理を行うことなく強制的にモード切替を行なってもよい。
【0153】
・回転電機としては、3相の交流回転電機に限らず、例えばブラシ付DCモータや誘導モータ等であってもよい。
<備考>
上記第1の実施形態に記載の構成について、様々な関係を導出する場合、図19に示す一般的な構成において導出すれば足りる。ここで、ギアG1は、CVT22に対応している。ちなみに、図19に示す構成と第1の実施形態に示す構成との相違は、第1の実施形態にはギアG4が無く、ギアG2a、G2bを有する点である。図の構成は、第1の実施形態の構成を一般化したものであるにもかかわらず、ギアG2a,G2bをギアG2にまとめることとしたのは、クラッチC1およびキャリアC間に介在するギアをギアG2として一般化することができるためである。すなわち、この図の構成から第1の構成にいたるには、第1の実施形態のギアG2a,G2bのトータルのギア比を図19の構成のギアG2のギア比r2として且つ、ギアG4のギア比r4を「1」とすればよい。なお、ギア比ri(i=1〜6)は、図中、aの回転速度に対するbの回転速度の比である。
【0154】
ここで、動力分割機構20のリングギアRの歯数Zrに対するサンギアSの歯数Zsの比Zs/Zrを比ρとし、リングギアR、サンギアSおよびキャリアCのトルクをそれぞれトルクTr,Ts、Tcとして且つこれらの回転速度を回転速度wR,wS,wCとすると、以下の式が成立する。
【0155】
Tr=−Tc/(1+ρ) …(c1)
Ts=−ρTc/(1+ρ) …(c2)
ρwS−(1+ρ)wC+wR=0 …(c3)
「モード1における高トルクの生成について」
モータジェネレータ10を駆動源とする場合、図中、IN2が供給動力となる。今、モータジェネレータ10のトルクをトルクTmとし、先の図2(c)に示した関係からエネルギ保存則を立てると、以下の式が成立する(ただし、ギアG1、G2の質量を無視する理想化を行っている)。
【0156】
wC・(Tc+Tm/r2)=−wSTs …(c4)
上記の式(c1)および式(c2)を用いて上記式(c4)からトルクTs,Tcを消去することで、下記の式(c5)を得る。
【0157】
Tr=Tm/r2{(1+ρ)−ρ(wS/wC)} …(c5)
上記の式(c5)によれば、比「wS/wC」を「(1+ρ)/ρ」に近似させることで、リングギアRのトルクTrは、非常に大きなものとなり得ることがわかる。換言すれば、駆動輪14に伝達されるトルクが非常に大きなものとなり得ることがわかる。
【0158】
「モード1のトータルのギア比について」
1.駆動源がエンジンの場合
モード1においては、サンギアSの回転速度wSと、キャリアCの回転速度wCとの間には、以下の式(c6)にて表現される関係がある。
【0159】
wC=r1・r2・wS …(c6)
一方、ギアG6の出力側の回転速度wG6bは、以下の式(c7)にて表現できる。
【0160】
wG6b=r6・r5・wR …(c7)
上記の式(c6)、(c7)を上記の式(c3)に代入することで以下の式(c8)を得る。
【0161】
wG6b=r6・r5・{r1・r2・(1+ρ)−ρ}wS …(c8)
したがって、トータルのギア比は、以下の式(c9)となる。
【0162】
(トータルギア比)=r6・r5・{r1・r2・(1+ρ)−ρ} …(c9)
2.駆動源がモータジェネレータ10の場合
この場合、入力軸がギアG1の出力側となるため、上記の式(c8)の右辺のwSをギア比r1で除算したものを用いることで、以下の式が導出できる。
【0163】
(トータルギア比)=r6・r5・{r2・(1+ρ)−ρ/r1} …(c10)
「モード2のトータルギア比について」
モード2においては、駆動源がエンジンの場合、ギアG1,G4,G6の経路を考えることで、トータルギア比は、以下の式(c11)となる。
【0164】
(トータルのギア比)=r1・r4・r6 …(c11)
「トルク抜けの生じない切替条件」
ギアG1の回転速度wG1bが、ギアG2の回転速度wG2aとギアG4の回転速度wG4aとの双方と一致することが条件となる。これは、以下の式にて表現することができる。
【0165】
wC/r2=wS・r1=wR・r5/r4 …(c12)
上記の式(c12)において、例えばサンギアSおよびリングギアRの回転速度wS,wRをキャリアCの回転速度wCで表現して且つ、上記の式(c3)に代入することで以下の式(c13)を得る。
【0166】
r1=ρr5/{r2r5(1+ρ)−r4} …(c13)
すなわち、CVT22(ギアG1)のギア比r1が上記の式(c13)の右辺の値をとりうる設定とすれば、上記(c13)の条件成立時においてトルク抜けを回避した切替を行うことができる。
【0167】
「折り返し処理について」
これは、トータルのギア比を従属変数としギア比r1を独立変数とする関数をギア比r1によって微分した値についてのモード1とモード2との積が負であることを条件とすればよい。
【0168】
上記の式(c9)および式(c11)を用いる場合には、これは以下の式(c14)に示す条件となる。
【0169】
{r6・r5・r2・(1+ρ)}・{r4・r6}<0
すなわち、r5・r4・r2<0 …(c14)
ちなみに、上記第1の実施形態では、ギアG5やギアG2a、G2bをカウンタギアとしたため、ギア比r2>0、ギア比r5<0であり、またギアG4を除いたため、ギア比r4=1であり、この条件を満たす。
【符号の説明】
【0170】
20…動力分割機構、S…サンギア(動力分割用回転体の一実施形態)、C…キャリア(動力分割用回転体の一実施形態)、R…リングギア(動力分割用回転体の一実施形態)、C3…クラッチ(直達用動力伝達規制手段、締結手段の一実施形態)、26…ワンウェイベアリング(起動用動力伝達規制手段、一方向伝達機構の一実施形態)、28…ワンウェイベアリング(伝達用動力伝達規制手段、一方向伝達機構の一実施形態)。
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動源および駆動輪間の動力分割のための回転体であって且つ互いに連動して回転する複数の動力分割用回転体と、該動力分割用回転体に機械的に連結されて変速比を可変とする変速装置とを備える車載動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の車載動力伝達装置としては、例えば下記特許文献1に見られるように、一対の遊星歯車機構と無段変速装置を組み合わせたものも提案されている。詳しくは、この動力伝達装置は、一対の遊星歯車機構同士の機械的な連結態様を変更するための低速用クラッチと高速用クラッチとを備えている。これにより、低速時には、低速用クラッチを締結状態として且つ高速用クラッチを解除状態とすることで、入力軸を回転させた状態で出力軸の回転をゼロにできるいわゆるギアードニュートラル状態を実現している。ここで、ギアードニュートラル状態は、出力軸に機械的に連結される動力分割用回転体以外の回転体の動力の符号に相違するものがあることが実現のための条件となる。ただし、この場合には、動力の符号が互いに相違するもの同士で動力循環が生じ、エネルギ利用効率が低くなる。これに対し、高速時には、低速用クラッチを解除状態として且つ高速用クラッチを締結状態とすることで、エンジンから入力軸に加えられるトルクよりも無段変速装置に加えられるトルクを小さくすることができ、無段変速装置の伝達効率の向上等が図れるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−308039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記の場合、低速用クラッチを解除状態として且つ高速用クラッチを締結状態とする場合であっても、エンジンの動力は無段変速装置を介して出力される。ただし、無段変速装置では一般に動力伝達にロスが生じる。
【0005】
本発明は、上記課題を解決する過程でなされたものであり、その目的は、駆動源および駆動輪間の動力分割のための回転体であって且つ互いに連動して回転する複数の動力分割用回転体と、該動力分割用回転体に機械的に連結されて変速比を可変とする変速装置とを備える新たな車載動力伝達装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、上記課題を解決するための手段、およびその作用効果について記載する。
【0007】
請求項1記載の発明は、駆動源および駆動輪間の動力分割のための回転体であって且つ互いに連動して回転する複数の動力分割用回転体と、該動力分割用回転体に機械的に連結されて変速比を可変とする変速装置とを備える車載動力伝達装置において、前記駆動源から出力される動力が、前記変速装置を介して前記駆動輪に伝達される変速モードと、前記駆動源から出力される動力が前記変速装置を介すことなく前記駆動輪に伝達される直達モードとを切り替える切替手段を備えることを特徴とする。
【0008】
上記発明では、直達モードを有するため、変速装置を介して動力を伝達させる場合と比較して動力の伝達効率を向上させることができる。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記動力分割用回転体は、前記駆動輪に機械的に連結される第1の回転体と、該第1の回転体とは別の第2の回転体および第3の回転体とを備え、前記変速モードにおいて、前記第2の回転体および前記第3の回転体を前記変速装置を介して機械的に連結することで前記駆動源の動力を前記第2の回転体および前記第3の回転体の少なくとも一方を介して前記第1の回転体に伝達させるに際し前記第2の回転体および前記第3の回転体のいずれか一方から他方へと動力が流動する動力循環が生じる循環用経路をさらに備えることを特徴とする。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の発明において、前記動力分割用回転体は、前記駆動輪に機械的に連結される第1の回転体と、該第1の回転体とは別の第2の回転体および第3の回転体とを備え、前記第1の回転体および前記第2の回転体を前記変速装置を介して機械的に連結する駆動輪側経路と、前記変速装置の一対の回転軸のうち前記第2の回転体に機械的に連結される側と前記駆動源との間の動力の伝達および遮断を切り替える変速用動力伝達規制手段と、前記変速装置の一対の軸のうちの前記第1の回転体に機械的に連結される側と前記駆動源との間の動力の伝達および遮断を切り替える直達用動力伝達規制手段とをさらに備えることを特徴とする。
【0011】
上記発明では、変速用動力伝達規制手段が伝達状態であって且つ直達用動力伝達規制手段が遮断状態である場合に変速モードを実現し、変速用動力伝達規制手段が遮断状態であって且つ直達用動力伝達規制手段が伝達状態である場合に直達モードを実現することができる。
【0012】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の発明において、前記直達用動力伝達規制手段は、前記駆動源側の軸と前記変速装置側の軸との締結および解除を行う電子制御式の締結手段を備えることを特徴とする。
【0013】
上記発明では、締結手段の電子制御によって直達モードへの切り替えを実現することができる。
【0014】
請求項5記載の発明は、請求項3記載の発明において、前記直達用動力伝達規制手段は、出力側である前記変速装置側に対する入力側である前記駆動源側の相対回転速度が負でないことを条件に動力を伝達させる一方向伝達機構を備えることを特徴とする。
【0015】
上記発明では、変速装置の変速比の操作によって直達モードへの切り替えを行うことが可能となる。
【0016】
請求項6記載の発明は、請求項3記載の発明において、前記直達用動力伝達規制手段が、前記駆動源側の軸と前記変速装置側の軸との締結および解除を行う電子制御式の締結手段であって且つ前記変速用動力伝達規制手段が、出力側である前記変速装置側に対する前記駆動源側である入力側の相対回転速度が負でないことを条件に動力を伝達させる一方向伝達機構である、または前記直達用動力伝達規制手段が、出力側である前記変速装置側に対する入力側である前記駆動源側の相対回転速度が負でないことを条件に動力を伝達させる一方向伝達機構であって且つ前記変速用動力伝達規制手段が、前記駆動源側の軸と前記変速装置側の軸との締結および解除を行う電子制御式の締結手段であり、前記直達モードが選択されている状況下、前記変速装置の変速比の操作を、前記一方向伝達機構の出力側の回転速度が入力側の回転速度以下とならないように制限する制限手段を備えることを特徴とする。
【0017】
上記発明では、一方向伝達機構および変速装置を介した動力の伝達が意図せずして行われることを回避することができる。
【0018】
請求項7記載の発明は、請求項3記載の発明において、前記直達用動力伝達規制手段が、出力側である前記変速装置側に対する入力側である前記駆動源側の相対回転速度が負でないことを条件に動力を伝達させる一方向伝達機構であって且つ、前記変速用動力伝達規制手段が、出力側である前記変速装置側に対する前記駆動源側である入力側の相対回転速度が負でないことを条件に動力を伝達させる一方向伝達機構であることを特徴とする。
【0019】
上記発明では、変速装置の変速比の操作によって、変速モードと直達モードとの切り替えを簡易に行うことができる。
【0020】
請求項8記載の発明は、請求項3〜7のいずれか1項に記載の発明において、前記第2の回転体および前記第3の回転体を前記変速装置を介して機械的に連結することで前記駆動源の動力を前記第2の回転体および前記第3の回転体の少なくとも一方を介して前記第1の回転体に伝達させるに際し前記第2の回転体および前記第3の回転体のいずれか一方から他方へと動力が流動する動力循環が生じる循環用経路と、前記循環用経路を介した前記第2の回転体と前記第3の回転体との動力の伝達および遮断を切り替える循環用動力伝達規制手段と、前記駆動輪側経路に介在して且つ、前記変速装置の一対の軸のうちの前記第1の回転体に機械的に連結される側と前記第1の回転体との間の動力の伝達および遮断を切り替える駆動輪側動力伝達規制手段とをさらに備えることを特徴とする。
【0021】
上記発明では、循環用動力伝達規制手段を伝達状態として且つ駆動輪側動力伝達規制手段を遮断状態とすることで、第2の回転体および第3の回転体を介した動力循環を生じさせて且つ、循環用動力伝達規制手段を遮断状態として且つ駆動輪側動力伝達規制手段を伝達状態とすることで、動力循環を解消することなどが可能となる。
【0022】
請求項9記載の発明は、請求項8記載の発明において、前記変速用動力伝達規制手段および前記直達用動力伝達規制手段によって動力の伝達および遮断の切り替えがなされる前記駆動源が内燃機関であり、前記第2の回転体には、回転電機がさらに機械的に連結されていることを特徴とする。
【0023】
請求項10記載の発明は、請求項9記載の発明において、前記第3の回転体と前記内燃機関との間の動力の伝達および遮断を切り替える起動用動力伝達規制手段をさらに備えることを特徴とする。
【0024】
上記発明では、起動用動力伝達規制手段を備えることで、第3の回転体の動力を用いて内燃機関を起動させることができる。
【0025】
請求項11記載の発明は、請求項10記載の発明において、前記起動用動力伝達規制手段は、前記3の回転体と前記内燃機関の回転軸との締結および解除を行う電子制御式の締結手段を備えることを特徴とする。
【0026】
上記発明では、締結手段を備えることで、内燃機関を始動させる以前において第3の回転体から内燃機関の回転軸へと動力が伝達されることを回避することができ、ひいては、内燃機関の始動処理以前に回転軸に回転力が付与されることに起因する無駄なエネルギ消費を回避することができる。
【0027】
請求項12記載の発明は、請求項10または11記載の発明において、前記起動用動力伝達規制手段は、前記内燃機関側である出力側に対する前記3の回転体側である入力側の相対回転速度が負でないことを条件に動力を伝達させる一方向伝達機構を備えることを特徴とする。
【0028】
内燃機関の燃焼室における燃焼開始に伴ってトルクが生成されると、内燃機関の回転軸の回転速度が急上昇する。ここで、燃焼開始に伴うトルクの急上昇は非常に短い時間で発生するため、燃焼開始を検出して内燃機関と第3の回転体との機械的な連結を解除することは非常に困難であるか不可能である。そして、この回転変動が第3の回転体に伝達される場合には、動力伝達装置にトルク脈動が生じるおそれがある。一方、上記一方向伝達機構によれば、内燃機関の回転軸の回転速度が上昇し一方向伝達機構の出力側の回転速度が入力側の回転速度を上回る際には、内燃機関の回転軸から第3の回転体への動力の伝達が生じない。上記発明では、一方向伝達機構のこうした機能を利用することで、内燃機関の燃焼室における燃焼開始に伴ってトルク脈動が生成される際、このトルク脈動が第3の回転体を介してドライバに体感されることを好適に回避することができる。
【0029】
請求項13記載の発明は、請求項10〜12のいずれか1項に記載の発明において、前記循環用動力伝達規制手段が遮断状態とされて且つ前記駆動輪側動力伝達規制手段が伝達状態とされる状況下、前記起動用動力伝達規制手段が伝達状態となる場合、前記駆動輪側動力伝達規制手段を介して前記第1の回転体および前記第2の回転体の一方から他方へと動力が流動する動力循環が生じることを特徴とする。
【0030】
上記発明では、第1の回転体および第2の回転体間で動力循環が生じるため、第3の回転体の回転速度をゼロや極低速としたり、第3の回転体の動力を非常に小さい値にしたりすることが容易となる。このため、内燃機関の停止状態において第3の回転体の動力を用いて内燃機関に初期回転を付与する場合であっても、この初期回転の付与によって動力伝達装置に振動が生じることを好適に抑制することができる。
【0031】
しかも、上記発明では、駆動輪が様々な速度をとる場合であっても、変速比の操作によって第3の回転体の回転速度を制御することができる。このため、起動用動力伝達規制手段によって第3の回転体のトルクが内燃機関に伝達される際の第3の回転体の回転速度を好適に制御することができる。
【0032】
請求項14記載の発明は、請求項1〜13のいずれか1項に記載の発明において、前記駆動輪の回転速度が所定の速度領域となることを条件に前記直達モードに切り替える直達制御手段をさらに備えることを特徴とする。
【0033】
請求項15記載の発明は、請求項1〜13のいずれか1項に記載の発明において、前記変速装置は、ベルト式の無段変速装置であり、前記無段変速装置の異常の有無を判断する判断手段と、前記判断手段によって前記無段変速装置に異常があると判断される場合、前記直達モードに切り替える直達制御手段をさらに備えることを特徴とする。
【0034】
請求項16記載の発明は、請求項10〜13のいずれか1項に記載の発明において、前記回転電機は、前記変速装置を介して前記第2の回転体に機械的に連結されており、前記駆動輪の回転が停止される状況下、前記循環用動力伝達規制手段および前記駆動輪側動力伝達規制手段の双方を遮断状態として且つ前記直達用動力伝達規制手段を伝達状態とすることで前記内燃機関の動力を前記回転電機によって電気エネルギに変換する処理を行う発電制御手段をさらに備えることを特徴とする。
【0035】
上記発明では、変速装置を介すことなく内燃機関の動力を回転電機に供給することができるため、発電に際してのエネルギ利用効率を高めることができる。
【0036】
請求項17記載の発明は、請求項2記載の発明において、前記第1の回転体および前記第2の回転体を前記変速装置を介して機械的に連結する駆動輪側経路と、前記駆動輪側経路に介在して且つ、前記変速装置の一対の軸のうちの前記第1の回転体に機械的に連結される側と前記第1の回転体との間の動力の伝達および遮断を切り替える駆動輪側動力伝達規制手段と、前記循環用経路を介した前記第2の回転体と前記第3の回転体との動力の伝達および遮断を切り替える循環用動力伝達規制手段とを備え、前記駆動輪側経路のうち前記変速装置および前記第1の回転体間に前記駆動源が機械的に連結され、前記切替手段を、前記駆動輪側動力伝達規制手段および前記循環用動力伝達規制手段を備えて構成することで、前記駆動輪側動力伝達規制手段が伝達状態とされて且つ前記循環用動力伝達規制手段が遮断状態とされる場合、前記直達モードを実現することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】第1の実施形態にかかるシステム構成図。
【図2】同実施形態における車両発進時の動力伝達態様を示す図。
【図3】同実施形態にかかるEV走行時の動力伝達態様を示す図。
【図4】同実施形態にかかるエンジン始動時の動力伝達態様を示す図。
【図5】同実施形態にかかるエンジン走行時の動力伝達態様を示す図。
【図6】同実施形態にかかる動力伝達装置のギア比と伝達効率とを示す図。
【図7】同実施形態にかかるモード3時の動力伝達態様を示す図。
【図8】同実施形態にかかるモード3の切替処理の手順を示す流れ図。
【図9】第2の実施形態にかかるシステム構成図。
【図10】第3の実施形態にかかるシステム構成図。
【図11】第4の実施形態にかかるシステム構成図。
【図12】第5の実施形態にかかる発電制御態様を示す図。
【図13】第6の実施形態にかかるフェールセーフ処理の態様を示す図。
【図14】同実施形態にかかるフェールセーフ処理の態様を示す図。
【図15】第7の実施形態にかかるシステム構成図。
【図16】第8の実施形態にかかるシステム構成図。
【図17】第9の実施形態にかかるシステム構成図。
【図18】上記実施形態の変形例にかかるモード3の設定を示す図。
【図19】上記第1の実施形態における定量的な説明に用いる図。
【発明を実施するための形態】
【0038】
<第1の実施形態>
以下、本発明にかかる車載動力伝達装置の第1の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0039】
図1に、本実施形態にかかるシステム構成図を示す。
【0040】
図示されるモータジェネレータ10は、3相交流の電動機兼発電機である。このモータジェネレータ10は、内燃機関(エンジン12)とともに、車両走行用の動力発生装置としての機能を有する。一方、動力分割機構20は、これらモータジェネレータ10、エンジン12、および駆動輪14間の動力を分割する装置である。
【0041】
動力分割機構20は、1の遊星歯車機構からなり、動力分割用回転体としてのサンギアS,キャリアC、およびリングギアRを備えている。そして、動力分割機構20のサンギアSには、無段変速装置(CVT22)を介して、モータジェネレータ10の回転軸10aが機械的に連結されている。また、サンギアSには、CVT22、クラッチC2、ギアG5を介してリングギアRが機械的に連結されている。このため、モータジェネレータ10も、クラッチC2およびギアG5を介してリングギアRに機械的に連結されている。すなわち、モータジェネレータ10とリングギアRとは、互いに連動して回転するための機械的な結合経路として、動力分割機構20を構成するほかの動力分割用回転体を備えない経路を有している。ちなみに、CVT22として、本実施形態では、機械式のものを想定している。詳しくは、金属ベルトやゴムベルトを用いたベルト式のものを想定している。また、ギアG5は、入力側と出力側との回転速度の比を固定された比率で変換する手段であって且つ入力側と出力側との回転速度の符号を反転させる手段(カウンタギア)である。さらに、クラッチC2は、入力側および出力側間の締結状態および解除状態を切り替えるべく油圧駆動される電子制御式の締結手段である。なお、入力側、出力側は、それぞれエネルギの入力側とエネルギの出力側とを意味するが、この関係は、固定されたものではなく変化しうるものである。
【0042】
動力分割機構20のリングギアRには、駆動輪14が機械的に連結されている。詳しくは、リングギアRには、ギアG5、G6およびディファレンシャルギア24を介して駆動輪14が機械的に連結されている。ここで、ギアG6は、入力側と出力側との回転速度の比を固定された比率で変換する手段であるが、入力側と出力側とで回転速度の符号を同一に保つ手段(正転ギア)である。
【0043】
動力分割機構20のキャリアCには、ギアG2α、ギアG2β、クラッチC1およびCVT22を介してサンギアSが機械的に連結されている。ここで、ギアG2αおよびギアG2βは、入力側と出力側との回転速度の比を固定された比率で変換する手段であって且ついずれも入力側と出力側との回転速度の符号を反転させる手段(カウンタギア)である。また、クラッチC1は、入力側および出力側間の締結状態および解除状態を切り替えるべく油圧駆動される電子制御式の締結手段である。なお、クラッチC1とクラッチC2とは、その入力側および出力側のいずれか一方が同一の1の回転軸に直結されている。
【0044】
上記キャリアCには、さらに、ワンウェイベアリング26およびクラッチC4を介してエンジン12のクランク軸(回転軸12a)が機械的に連結されている。ワンウェイベアリング26は、回転軸12a側(出力側)に対するキャリアC側(入力側)の相対回転速度が負でないことを条件に動力を伝達させる一方向伝達機構である。換言すれば、出力側の回転速度の方が入力側の回転速度よりも大きくならない限り、入力側によって出力側がつれまわされるようにするものである。一方、クラッチC4は、入力側および出力側間の締結状態および解除状態を切り替えるべく油圧駆動される電子制御式の締結手段である。詳しくは、本実施形態では、ノーマリーオープン式のものを用いている。
【0045】
エンジン12の回転軸12aは、さらに、ワンウェイベアリング28を介してサンギアSが機械的に連結可能とされている。ここで、ワンウェイベアリング28は、サンギアS側(出力側)に対する回転軸12a側(入力側)の相対回転速度が負でないことを条件に動力を伝達させる一方向伝達機構である。換言すれば、出力側の回転速度の方が入力側の回転速度よりも大きくならない限り、入力側によって出力側がつれまわされるようにするものである。このため、エンジン12は、ワンウェイベアリング28、CVT22,クラッチC2およびギアG5を介してリングギアRに機械的に連結されている。
【0046】
また、エンジン12の回転軸12aは、クラッチC3およびギアG3ならびにCVT22を介してサンギアSに機械的に連結されている。ここで、クラッチC3は、入力側および出力側間の締結状態および解除状態を切り替えるべく油圧駆動される電子制御式の締結手段である。また、ギアG3は、入力側と出力側との回転速度の比を固定された比率で変換する手段であるが、入力側と出力側とで回転速度の符号を同一に保つ手段(正転ギア)である。
【0047】
なお、ギアG2α、G2β、G3、G5,G6は、実際には、複数の歯車を備えて入力側と出力側との回転速度の比を固定された比率で変換する手段であってもよい。
【0048】
制御装置40は、上記動力伝達装置を制御対象とする制御装置である。詳しくは、制御装置40は、クラッチC1,C2,C3,C4やCVT22を操作することで動力伝達態様を制御する処理や、エンジン12の制御量を制御する処理、さらには、電力変換回路42を操作することでモータジェネレータ10の制御量を制御する処理を行う。
【0049】
特に、制御装置40は、クラッチC1が締結状態であって且つクラッチC2が解除状態であるモード1と、クラッチC1が解除状態であって且つクラッチC2が締結状態であるモード2と、クラッチC1が解除状態であって且つクラッチC2,C3が締結状態であるモード3とのいずれかの状態を実現する処理を行う。以下では、「モード1」に特有の処理を説明した後、「モード2」に特有の処理について説明し、次に「モード1からモード2への切替」処理について説明し、最後に「モード3」について説明する。
「モード1」
図2に、本実施形態にかかるモータジェネレータ10による車両の発進処理について説明する。ここで、図2(a)に、発進時における動力伝達経路を示し、図2(b)に、このときの動力分割機構20の共線図を、エンジン12の回転速度とともに示す。なお、図2(b)において、リングギアRの回転速度の負方向を前進と定義しているが、これは、ギアG5がカウンタギアであるためである。また、共線図において、矢印は、トルクの向きを示すものである。
【0050】
図示されるように、この場合には、上記クラッチC4を解除状態とし、エンジン12を停止状態とする。この場合、動力分割機構20が備える動力分割用回転体の回転速度は、モータジェネレータ10の回転速度と、CVT22の変速比とによって制御される。すなわち、共線図において、サンギアSの回転速度、キャリアCの回転速度、およびリングギアRの回転速度は、一直線上に並ぶ。このため、サンギアSの回転速度とキャリアCの回転速度とを定めることで、残りの回転体であるリングギアRの回転速度が一義的に定まることとなる。
【0051】
ここで、本実施形態では、モード1において、図2(c)に示すように、動力分割機構20を構成するリングギアR以外の回転体であるサンギアSおよびキャリアCの動力(パワー)の符号が互いに相違し、サンギアSおよびキャリアC間で動力循環が生じる。すなわち、キャリアCから出力される動力がギアG2α,G2βおよびCVT22を備える経路を介してサンギアSに流動する。この動力循環が生じる場合、モータジェネレータ10を稼働した状態で、駆動輪14の回転速度をゼロとするギアードニュートラル状態を実現したり、回転速度の符号を反転させたりすることができる。そして、特に駆動輪14の回転速度を極低速にすることで、駆動輪14に付与されるトルクを高トルクとすることができる。このため、モータジェネレータ10を大型化することなく、モータジェネレータ10による発進に際して高トルクが生成可能となる。ちなみに、各動力分割用回転体の動力の符号は、当該動力分割用回転体が動力分割機構20の外部に対して仕事をする場合を正と定義する。また、駆動輪14に付与されるトルクが高トルクとなる定量的な説明については、本明細書最後部の<備考>における「モード1における高トルクの生成について」の欄を参照のこと。
【0052】
なお、モータジェネレータ10の出力の絶対値がゼロではないにもかかわらずリングギアRの回転速度をゼロとするためには、上記動力循環が生じることが条件となる。これは、キャリアCとサンギアSとの間のループ経路において動力循環状態が実現されないにもかかわらずリングギアRの回転速度がゼロとなるなら、エネルギ保存則の観点から、モータジェネレータ10の動力は、動力分割機構20内において熱エネルギとして全て消費されなければならないこととなるためである。
「モード2」
図3(a)に、モード2において、特にモータジェネレータ10のみによって車両を走行させるいわゆるEV走行時の動力伝達経路を示し、図3(b)に、その際の共線図を示す。なお、この際、クラッチC4は、解除状態とされている。
【0053】
図示されるように、この場合には、動力分割機構20を介すことなく、クラッチC2およびギアG6を介してモータジェネレータ10および駆動輪14間で動力が伝達される。これは、キャリアC、サンギアSおよびリングギアRのトルクが互いに比例関係にあることから(本明細書最後部の<備考>の式(c1),(c2)参照)、キャリアCにトルクが加わらない場合、サンギアSおよびリングギアRについてもトルクが加わらないためである。
【0054】
この状態では、モータジェネレータ10の動力がCVT22を介すことなくダイレクトに駆動輪14に伝達されるため、動力損失を低減することができる。
【0055】
図4(a)に、モード2におけるエンジン12の始動時の動力伝達経路を示し、図4(b)に、その際の共線図を示す。
【0056】
図示されるように、クラッチC4が締結状態とされることで、動力分割機構20を介したトルクの伝達が可能となる。すなわち、ワンウェイベアリング26によって、エンジン12を起動するための起動用回転体(キャリアC)の回転エネルギが、エンジン12の回転軸12aに伝達される。図4(c)に、動力分割機構20の各回転体の動力等の符号を示す。図示されるように、この場合、サンギアSの動力の符号とリングギアRの動力の符号とが互いに相違し、サンギアSおよびリングギアR間で動力循環が生じる。すなわち、リングギアRから出力される動力がサンギアSに流入する。このため、モータジェネレータ10や駆動輪14の出力の絶対値がゼロではない場合であっても、キャリアCの回転速度をゼロや極低速とすることや、キャリアCの動力の絶対値を小さい値にすることができる。このため、エンジン12の回転軸12aが停止している際にクラッチC4を締結状態に切り替えたとしても、ワンウェイベアリング26の出力側に対する入力側の回転速度差を極めて小さくすることができる。このため、クラッチC4の締結状態への切替に起因して動力分割機構20に振動が生じる事態を好適に抑制することができる。
【0057】
なお、クラッチC4を締結状態とするのは、エンジン12の回転速度がエンジン12を安定して稼動状態に保つための最小回転速度以下である場合とすることが望ましい。それ以外の場合には、回転中のエンジン12において燃焼制御を開始すればよい。
【0058】
図5(a)に、モード2におけるエンジン12による車両走行時の動力伝達経路を示し、図5(b)に、その際の共線図を示す。
【0059】
図示されるように、エンジン12の回転速度が上昇し、ワンウェイベアリング28の入力側の回転速度が出力側の回転速度となることで、ワンウェイベアリング28を介してエンジン12の駆動力がワンウェイベアリング28の出力側に出力される。ただし、この場合、クラッチC4を解除状態とすることで、動力分割機構20を介すことなく、モータジェネレータ10およびエンジン12と駆動輪14との間で動力が伝達される。ここで、エンジン12の出力は、その回転速度がCVT22によって変速された後、駆動輪14に伝達される。
【0060】
なお、エンジン12による走行時においては、モータジェネレータ10を、必ずしも電動機として機能させる必要はなく、例えば発電機として機能させてもよい。また、これに代えて、モータジェネレータ10の駆動を停止させることで、無負荷状態としてもよい。
「モード1からモード2への切替」
図6(a)に、エンジン12から駆動輪14までのトータルのギア比と、CVT22のギア比との関係を示し、図6(b)に、モータジェネレータ10から駆動輪14までのトータルのギア比と、CVT22のギア比との関係を示す。ここで、aからbまでのトータルのギア比とは、「(bの回転速度)/(aの回転速度)」のことであり、変速比の逆数である。
【0061】
図示されるように、モード1において、CVT22のギア比を連続的に変化させていくことで、駆動輪14の反転(後退)から速度ゼロを経て高速側へと変化させることができる。そして、所定のギア比となることで、モード2へと切り替える。これにより、エンジン12に関してはトータルのギア比の可変領域を拡大することができる。
【0062】
すなわち、図6(a)に示すように、モード1においてCVT22のギア比を変化させることで、エンジン12から駆動輪14までのトータルのギア比を増加させることができる。そして、モード切替点Pにおいてモード2に切り替えるとともにCVT22のギア比の変化方向を逆方向に切り替える(折り返し処理)ことで、トータルのギア比を更に増加させることができる。
【0063】
この設定は、CVT22のギア比の変化に対するトータルのギア比の変化速度の符号を、モード1とモード2とで互いに逆とする設定によって実現されるものである。この条件は、CVT22のギア比を独立変数としトータルのギア比を従属変数とする関数のCVT22のギア比による微分値について、モード1およびモード2のそれぞれにおける値の符号が互いに逆となる条件である。これを実現する手段は、上記ギアG2α、G2β、G5である。詳しくは、これらのギア比の積の符号によって、折り返し処理が実現可能か否かが定まる。なお、折り返し処理が可能となる条件については、この明細書の最後部における<備考>の「折り返し処理について」の欄において導出してある。
【0064】
また、本実施形態では、モード切替を、モータジェネレータ10やエンジン12の回転速度を入力回転速度とし駆動輪14の回転速度を出力回転速度とするトータルのギア比が変化しない条件で行っている。この場合、クラッチC1によって連結される一対の回転体の回転速度と、クラッチC2によって連結される一対の回転体の回転速度とが互いに等しい条件で切替がなされることとなる。このため、クラッチC1,C2の双方を締結状態とする状態を経由してモード1およびモード2間の切替を行うことができることから、駆動輪14にトルクが伝達されない期間が生じるいわゆるトルク抜けを回避することができる。
【0065】
トルク抜けを回避することを可能とする手段は、先の図1に示したギアG2α,G2β、G5である。すなわち、動力分割機構20のサンギアS,キャリアCおよびリングギアRの回転速度は、全てが等しいか全てが相違する。ここで、本実施形態では、サンギアSおよびリングギアRの回転速度の符号が共線図上互いに逆となる設定のため、回転速度がゼロとなる場合以外には、サンギアS、キャリアCおよびリングギアRの回転速度は全て相違する。このため、CVT22のみでは、クラッチC1によって連結される一対の回転体の回転速度とクラッチC2によって連結される一対の回転体の回転速度とが互いに等しい状態を実現することはできない。このため、動力分割機構20のリングギアRおよびクラッチC2間のギアG5と動力分割機構20のキャリアCおよびクラッチC1間のギアG2α、G2βとの少なくとも一方が、キャリアCの回転速度とリングギアRの回転速度との差を補償する手段として必要である。ちなみに、トルク抜けを生じさせないためのギアG2α,G2β、G5とCVT22とのギア比の条件は、この明細書の最後部の備考欄における「トルク抜けの生じない切替条件」の欄において導出されている。
【0066】
上記のように、本実施形態では、モード1とモード2との切替を行うことで、トータルのギア比の可変領域を拡大することができるため、CVT22を小型化することが可能となる。さらに、モード2においては、基本的に動力循環が生じないため、モード1のみとした場合と比較して、入力エネルギと出力エネルギとの比である動力伝達効率を高くすることもできる。図6(c)に、エンジン12についてのトータルのギア比と伝達効率との関係を示す。図示されるように、モード1においては伝達効率が非常に低い領域が存在するものの、モード2においては伝達効率は高いものとなっている。なお、図6(c)では、モード2への切替直前におけるモード1の伝達効率がモード2の伝達効率よりも高くなっているが、このことは、モード1のみとした場合にモード2に切り替える場合と比較して伝達効率を高くできることを意味しない。
【0067】
このように、本実施形態では、モード1を採用することで、伝達効率は低いものの、駆動輪14に付与するトルクを大きくすることができることから、モータジェネレータ10の小型化が可能となる。そして駆動輪14の回転速度が所定以上となる領域においてモード2に切り替えることで、伝達効率を向上させるとともに、トータルのギア比の可変領域を拡大できるというメリットを有する。しかも、モード2に切り換えた場合、動力分割機構20は、駆動輪14へ駆動力を伝達させる上で必要がなくなるのであるが、利用されなくなったキャリアCを用いてエンジン12に初期回転を付与することが可能となる。このため、エンジン12の起動のための手段を、モード2において利用されない部材を流用して構成することができる。
「モード3」
上記モード2においては、トータルのギア比は、エンジン12のエネルギ利用効率が最も高くなるように操作される。ここで、モータジェネレータ10については、トータルのギア比を可変させないのは、モータジェネレータ10によるエネルギ利用効率を向上させるための設定である。すなわち、モータジェネレータ10のエネルギ利用効率が、動作点(トルクおよび回転速度によって定まる点)によって変化する率は、極低速回転領域を除くとエンジン12と比較して非常に小さい。一方、CVT22を介して動力を伝達させる場合、CVT22による動力伝達ロスが生じる。そしてこのロスは、通常のギア等と比較して大きなものとなっている。このため、モータジェネレータ10については、トータルのギア比を最適化すべくCVT22を介して動力伝達を行うと、少なくともモード2においては、エネルギ利用効率が低下する懸念がある。これに対し、エンジン12については、動作点毎のエネルギ利用効率の変化が大きいため、トータルのギア比を操作することによって動作点を最適化することで、CVT22による動力伝達ロスを上回るエネルギ利用効率の向上効果が見込める。
【0068】
ただし、エンジン12の回転速度領域を制限すれば、CVT22を介すことなくエンジン12の動力を駆動輪14に伝達させた方がエネルギ利用効率がよい。このため、本実施形態では、図7に示すモード3を設ける。
【0069】
すなわち、この場合、図7(a)に示すように、エンジン12の動力は、クラッチC3、ギアG3、クラッチC2、ギアG6を介して駆動輪14に伝達される。このため、CVT22による動力伝達ロスを回避することができる。なお、この際には、ワンウェイベアリング28の出力側回転速度の方が入力側回転速度よりも大きくなるようにCVT22のギア比を操作する。これは、ワンウェイベアリング28を介してCVT22にエンジン12の動力が伝達される事態を回避するための設定である。これは、図7(b)に示すように、CVT22のギア比を、モード2においてモード3におけるトータルのギア比を実現する値よりも小さい側にすることで実現することができる。
【0070】
図8に、本実施形態にかかるモード3の切り替え制御の処理手順を示す。この処理は、制御装置40によって、例えば所定周期で繰り返し実行される。
【0071】
この一連の処理では、まずステップS10において、クラッチC3が締結状態であるか否かを判断する。この処理は、モード3であるか否かを判断するためのものである。そして、ステップS10において否定判断される場合、ステップS12において、クラッチC3の一対の回転体の回転速度差がゼロとなったか否かを判断する。この処理は、クラッチC3の締結条件が成立したか否かを判断するためのものである。ここで、ステップS12において肯定判断されるのは、モード2におけるエンジン12から駆動輪14までのトータルのギア比がモード3におけるものと一致する場合である。この条件は、例えば車両の走行速度に応じてCVT22が操作されることで実現される。
【0072】
ステップS12において肯定判断される場合、ステップS14においてクラッチC3を締結状態とする。続くステップS16では、CVTギア比を小さい側に変更する。この処理は、ワンウェイベアリング28を介してエンジン12の動力がCVT22へと伝達されることを回避するためのものである。
【0073】
一方、上記ステップS10において肯定判断される場合、ステップS18において、車速が第1速度VL以上であって第2速度VH以下の速度領域であるか否かを判断する。ここで、上記速度領域は、トータルのギア比をモード3のものに固定した場合の方がモード2とするよりもエンジン12のエネルギ利用効率が高くなると想定される領域である。そして、ステップS18において否定判断される場合、ステップS20においてCVT22のギア比を増大操作し、ステップS22においてクラッチC3を解除操作することでモード2に戻る。
【0074】
なお、上記ステップS16,S22の処理が完了する場合や、ステップS12において否定判断される場合、さらにはステップS18において肯定判断される場合には、この一連の処理を一旦終了する。
【0075】
上記モード3におけるトータルのギア比は、ギアG3のギア比等によって調節することができる。このトータルのギア比は、車両の走行速度が狙いとする速度領域(例えば30〜80km/hの領域内の所定の速度領域)となる際のエンジン12のエネルギ利用効率を向上させるように設定されることが望ましい。例えば、ある程度高速度で走行する際のエネルギ消費量を低減するうえでは、モード3を用いる車速を「50〜70km/h」とすることが望ましく、また市街地等での走行をメインに考える場合には、「30〜50km/h」とすることが望ましい。
【0076】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0077】
(1)モード3を設けることで、エンジン12の動力をCVT22を介すことなく駆動輪14に伝達させることができる。
【0078】
(2)モータジェネレータ10をクラッチC1,C2の間に機械的に連結することで、モード2において、モータジェネレータ10の動力をCVT22を介すことなく駆動輪14に機械的に連結することができる。
【0079】
(3)クラッチC3を介してエンジン12をCVT22を介すことなく駆動輪14に直結した。これにより、クラッチC3の操作によって、モード3を実現することができる。
【0080】
(4)クラッチC3の締結処理後、CVT22のギア比を低減操作した。これにより、エンジン12の動力がワンウェイベアリング28を介してCVT22に出力される自体を回避することができる。
【0081】
(5)エンジン12とサンギアSとの間に、出力側であるサンギアS側に対する入力側であるエンジン12側の相対回転速度が負でないことを条件に動力を伝達させるワンウェイベアリング28を備えた。これにより、入力側の回転速度が出力側の回転速度に一致することでエンジン12のトルクがサンギアS側に付与されるようになるため、サンギアS側に対する内燃機関の駆動力の付与を簡易に開始することができる。
【0082】
(6)モード1およびモード2の切替を行なった。これにより、モータジェネレータ10、エンジン12、および駆動輪14のそれぞれと動力分割用回転体との機械的な連結を、これらの駆動状態に応じてより適切なものとすることができる。
【0083】
(7)モータジェネレータ10(エンジン12)の回転速度の符号を特定の符号に固定した場合、モード1において、キャリアCの動力とサンギアSの動力との符号が互いに逆となって且つ、モード2において、サンギアSの動力とリングギアRの動力とがゼロとなるようにした。これにより、モード1において、駆動輪14に機械的に連結される回転体以外の回転体間で動力循環が生じるため、ギアードニュートラル状態を実現することが可能となる等のメリットがある。また、モード2では、動力循環が生じないため、動力伝達効率を向上させることなどができる。しかも、これらの切り替えに際し、モータジェネレータ(エンジン12)の回転速度を反転させる必要もない。
【0084】
(8)モード1、モード2の双方で、共通のCVT22を利用可能とした。これにより、部品点数を低減することができる。
【0085】
(9)エンジン12から駆動輪14までのトータルのギア比を従属変数としCVT22のギア比を独立変数とする関数について、モード1およびモード2のそれぞれにおける上記独立変数による上記関数の1階の微分値同士の符号が互いに逆となるように設定した。これにより、折り返し処理が可能となり、トータルのギア比の可変領域を拡大することができる。さらに、このようにギア比を拡大することができることから、CVT22自体を小型化することも可能となる。
【0086】
(10)モード1とモード2との間の切替に際し、キャリアCとリングギアRとの回転速度の差を補償する手段(ギアG2α、G2β、G5)を備えた。これにより、モード1とモード2との切り替えに際し、トルクの伝達が中断される事態を好適に回避することができる。
【0087】
(11)エンジン12の起動用回転体(キャリアC)とエンジン12との間の動力の伝達を遮断するための電子制御式のクラッチC3を備えた。これにより、エンジン12を始動させる以前において起動用回転体(キャリアC)からエンジン12へと動力が伝達されることを回避することができ、ひいては、エンジン12の始動処理以前に回転軸12aに回転力が付与されることに起因する無駄なエネルギ消費を回避することができる。
【0088】
(12)出力側であるエンジン12側の回転速度に対する入力側である起動用回転体(キャリアC)側の相対的な回転速度が負でないことを条件に動力を伝達させるワンウェイベアリング26を備えた。これにより、エンジン12の燃焼室における燃焼開始に伴ってトルクが生成されることでエンジン12の回転軸12aの回転速度が急上昇する場合であっても、この際、起動用回転体へとエンジン12のトルクが伝達されない。これは、ワンウェイベアリング26の入力側の回転速度よりも出力側(エンジン12側)の回転速度の方が高くなることで、ワンウェイベアリング26の出力側から入力側への動力伝達ができない状態となるためである。そしてこれにより、起動用回転体を介してドライバにトルク脈動が体感されることを好適に回避することができる。
【0089】
(13)1つの回転軸にクラッチC1およびクラッチC2を直結させた。これにより、クラッチC1およびクラッチC2を近接配置することができ、ひいては動力伝達装置自体の小型化が容易となる。
<第2の実施形態>
以下、第2の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0090】
図9(a)に、本実施形態にかかるシステム構成を示す。なお、図9(a)において、先の図1に示した部材と対応する部材については、便宜上同一の符号を付している。
【0091】
図示されるように、本実施形態では、クラッチC3に代えて、ワンウェイベアリング60を設けた。これにより、図9(b)に示すように、CVT22のギア比の操作のみによって、モード2とモード3との切り替えを実現することができる。
【0092】
すなわち、クラッチC1が締結且つクラッチC2が解除であるモード1において、CVT22のギア比が大きい間は、ワンウェイベアリング60の出力側に対する入力側の相対回転速度が負となる一方、ワンウェイベアリング28の出力側に対する入力側の相対回転速度が負でなくなる。このため、ワンウェイベアリング28のみが動力伝達状態となる。そして、モード1において、CVT22のギア比がギア比p3となることで、ワンウェイベアリング60とワンウェイベアリング28との双方について、それらの出力側に対する入力側の相対回転速度が負でなくなり、ワンウェイベアリング28とワンウェイベアリング60との双方ともに動力伝達状態となる。そして、CVT22のギア比がさらに小さくなると、ワンウェイベアリング60の出力側に対する入力側の相対回転速度が負でない一方、ワンウェイベアリング28の出力側に対する入力側の相対回転速度が負となる。このため、ワンウェイベアリング60のみが動力伝達状態となる。
【0093】
一方、クラッチC1が解除且つクラッチC2が締結である状態においても、CVT22のギア比がギア比p3よりも小さい間は、ワンウェイベアリング60の出力側に対する入力側の相対回転速度が負でない一方、ワンウェイベアリング28の出力側に対する入力側の相対回転速度が負となる。このため、ワンウェイベアリング60のみが動力伝達状態となり、モード3となる。これに対し、CVT22のギア比をギア比p3を超えて大きくすると、ワンウェイベアリング60の出力側に対する入力側の相対回転速度が負となる一方、ワンウェイベアリング28の出力側に対する入力側の相対回転速度が負でなくなる。このため、ワンウェイベアリング28のみが動力伝達状態となり、モード2となる。
【0094】
以上説明した本実施形態によれば、先の第1の実施形態の上記(1),(2),(5)〜(13)の各効果に加えて、さらに以下の効果が得られるようになる。
【0095】
(14)出力側(CVT22およびクラッチC2間側)に対する入力側(エンジン12側)の相対回転速度が負でないことを条件に動力を伝達させるワンウェイベアリング60を備えた。これにより、CVT22の操作によってモード3への切り替えを行うことが可能となる。
<第3の実施形態>
以下、第3の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0096】
図10に、本実施形態にかかるシステム構成を示す。なお、図10において、先の図1に示した部材と対応する部材については、便宜上同一の符号を付している。
【0097】
図示されるように、本実施形態では、車載空調装置のコンプレッサ50を、動力分割機構20のサンギアSに機械的に連結した。これにより、コンプレッサ50に動力を供給するための駆動源を別途設ける必要が生じない。
【0098】
ここで、モータジェネレータ10による走行時にコンプレッサ50を稼動させる場合、CVT22のギア比の操作によって可変容量コンプレッサと同様の機能を実現させることができる。また、モード3においても、CVT22のギア比の操作によって可変容量コンプレッサと同様の機能を実現させることができる。ただし、この場合には、CVT22のギア比を、トータルのギア比がモード2とモード3とで一致する点よりも小さい側とするとの条件を付与する。
<第4の実施形態>
以下、第4の実施形態について、先の第3の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0099】
図11(a)に、本実施形態にかかるシステム構成を示す。なお、図11(a)において、先の図10に示した部材と対応する部材については、便宜上同一の符号を付している。
【0100】
本実施形態では、ワンウェイベアリング28に代えて、クラッチC5を用いる。クラッチC5は、入力側および出力側間の締結状態および解除状態を切り替えるべく油圧駆動される電子制御式の締結手段である。これにより、モード3において、クラッチC5を解除状態とすることで、図11(b)に示すように、CVT22のギア比の許容可変領域をCVT22の可変領域の全域とすることができる。このため、モード3において、CVT22とコンプレッサ50との協働で、可変容量コンプレッサを好適に実現することができる。
<第5の実施形態>
以下、第5の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0101】
本実施形態は、車両の停止時における制御に関する。すなわち、図12に示すように、駆動輪14に制動力が付与された状態で、クラッチC1,C2,C4を解除状態として且つ、クラッチC3を締結状態とし、エンジン12の動力をモータジェネレータ10によって電力に変換する。この動力伝達経路には、CVT22が含まれないため、動力伝達効率を向上させることができる。
【0102】
もっとも、エンジン12にとって効率の良い動作点において発電を行う場合には、クラッチC3をも解除状態とし、エンジン12の動力をワンウェイベアリング28、CVT22を介してモータジェネレータ10に伝達させてもよい。
【0103】
以上説明した本実施形態によれば、先の第1の実施形態の上記(1)〜(13)の各効果に加えて、さらに以下の効果が得られるようになる。
【0104】
(15)車両の停止時において、エンジン12の動力をクラッチC3を介してモータジェネレータ10に伝達させることで、発電処理を行った。これにより、発電効率を向上させることができる。
<第6の実施形態>
以下、第6の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0105】
本実施形態は、CVT22のベルトが切れる等、CVT22の動力伝達に異常が生じる場合のフェールセーフ処理に関する。ここで、CVT22のベルト切れ等の異常は、例えばプライマリプーリとセカンダリプーリとの回転速度差を検出し、これとCVT22の操作量から想定される回転速度差との差を比較することで検出すればよい。
【0106】
図13(a)は、モード3を利用した退避走行を例示する。すなわち、この場合、エンジン12およびモータジェネレータ10の双方ともCVT22を介すことなく駆動輪14に直結されるため、エンジン12およびモータジェネレータ10の双方の動力を駆動輪14に伝達させることができる。なお、モータジェネレータ10による退避走行からエンジン12を起動する処理は、クラッチC3を介してモータジェネレータ10の動力をエンジン12に伝達させることで行うことができる。
【0107】
図13(b)は、クラッチC1〜C3を締結状態とする退避走行を例示する。この場合であっても、エンジン12やモータジェネレータ10から駆動輪14までのトータルのギア比は先の図13(a)に示した場合と同一である。ただし、この場合、モータジェネレータ10による退避走行からエンジン12を起動する処理を、クラッチC4を締結状態とすることによっても行うことができる。
【0108】
図14(a)は、クラッチC1,C2を締結状態とする退避走行を例示する。この場合、動力分割機構20のサンギアS、キャリアCおよびリングギアRの回転速度同士の比が固定される。そしてこの場合、サンギアSを介して動力を伝達することが可能となる。そこで、この例では、エンジン12の動力をワンウェイベアリング28を介してサンギアSに伝達している。なお、モータジェネレータ10による退避走行からエンジン12を起動する処理は、クラッチC3,C4のいずれかを締結状態とすることで行うことができる。
【0109】
図14(b)は、クラッチC1,C3を締結状態とする退避走行を例示する。
<第7の実施形態>
以下、第7の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0110】
図15(a)に、本実施形態にかかるシステム構成図を示す。なお、図15(a)において、先の図1に示した部材と対応するものについては、便宜上同一の符号を付している。
【0111】
図示されるように、本実施形態にかかる動力分割機構20は、第1遊星歯車機構20aおよび第2遊星歯車機構20bを備えて構成されている。ここで、第1遊星歯車機構20aのリングギアRと第2遊星歯車機構20bのキャリアCとは、機械的に連結されており、また、第1遊星歯車機構20aのサンギアSと第2遊星歯車機構20bのサンギアSとは、機械的に連結されている。そして、第2遊星歯車機構20bのリングギアRには、モータジェネレータ10の回転軸10aが機械的に連結されている。また、第1遊星歯車機構20aのリングギアRおよび第2遊星歯車機構20bのキャリアCには、ギアG6およびディファレンシャルギア24を介して駆動輪14が機械的に連結されている。
【0112】
また、第1遊星歯車機構20aのキャリアCは、ワンウェイベアリング26およびクラッチC4を介してエンジン12のクランク軸(回転軸12a)に機械的に連結可能とされている。第1遊星歯車機構20aのサンギアSおよび第2遊星歯車機構20bのサンギアSは、CVT22およびワンウェイベアリング28を介してエンジン12の回転軸12aに機械的に連結されている。第1遊星歯車機構20aのサンギアSおよび第2遊星歯車機構20bのサンギアSは、CVT22、クラッチC1およびギアG7を介して、モータジェネレータ10の回転軸10aに機械的に連結されている。ここで、ギアG7は、入力側と出力側との回転速度の比を固定された比率で変換する手段であって且つ、入力側と出力側との回転速度の符号を反転させる手段(カウンタギア)である。
【0113】
また、第1遊星歯車機構20aのサンギアSおよび第2遊星歯車機構20bのサンギアSは、CVT22、クラッチC2およびギアG4を介して、第1遊星歯車機構20aのリングギアRおよび第2遊星歯車機構20bのキャリアCに機械的に連結されている。
【0114】
こうした構成においても、クラッチC1を締結状態として且つクラッチC2を解除状態とすることで、動力循環を生じさせることができる。すなわち、この場合、第2遊星歯車機構20bのサンギアSから出力される動力がCVT22、クラッチC1およびギアG7を介して第2遊星歯車機構20bのリングギアRに入力される。また、クラッチC1を解除状態として且つクラッチC2を締結状態とすることで、上記動力循環の生じないモード2を実現することができる。さらに、この際、モータジェネレータ10を無負荷状態とすることで、図15(b)に示すように、エンジン12の動力をCVT22を介すことなく駆動輪14に伝達させるモード3を実現することができる。
<第8の実施形態>
以下、第8の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0115】
図16に、本実施形態にかかるシステム構成図を示す。なお、図16において、先の図1に示した部材と対応するものについては、便宜上同一の符号を付している。
【0116】
図示されるように、本実施形態では、動力分割用回転体として、第1遊星歯車機構20aのサンギアS,キャリアCおよびリングギアR、ならびに第2遊星歯車機構20bのサンギアS,キャリアCおよびリングギアRの6つの回転体を備え、これらにより動力分割を行なう。
【0117】
上記モータジェネレータ10は、第1遊星歯車機構20aのサンギアSに機械的に連結されるとともに、ギアG8を介して第2遊星歯車機構20bのキャリアCに機械的に連結され、またCVT22を介して第2遊星歯車機構20bのサンギアSに機械的に連結されている。ここで、ギアG8は、入力側と出力側との回転速度の比を固定された比率で変換する手段であるが、入力側と出力側とで回転速度の符号を同一に保つ手段(正転ギア)である。
【0118】
一方、駆動輪14は、ディファレンシャルギア24およびギアG7を介して第1遊星歯車機構20aのリングギアRに機械的に連結されている。ここで、ギアG7は、入力側と出力側との回転速度の比を固定された比率で変換する手段であって且つ、入力側と出力側との回転速度の符号を反転させる手段(カウンタギア)である。
【0119】
また、第1遊星歯車機構20aのキャリアCと第2遊星歯車機構20bのリングギアRとは、ギアG5およびクラッチC1を介して機械的に連結されている。また、第1遊星歯車機構20aのキャリアCと第2遊星歯車機構20bのサンギアSとは、クラッチC2およびギアG4を介して機械的に連結されている。ここで、ギアG4,G5は、いずれも入力側と出力側との回転速度の比を固定された比率で変換する手段であって且つ、入力側と出力側との回転速度の符号を反転させる手段(カウンタギア)である。
【0120】
さらに、上記第2遊星歯車機構20bのリングギアRには、ワンウェイベアリング26およびクラッチC4を介してエンジン12の回転軸12aが機械的に連結されている。また、エンジン12の回転軸12aは、ワンウェイベアリング28を介して第2遊星歯車機構20bのキャリアCに機械的に連結されている。さらに、エンジン12の回転軸12aは、クラッチC3を介して、第1遊星歯車機構20aのリングギアRおよびギアG7間に機械的に連結されている。
【0121】
こうした構成によっても、クラッチC1を締結状態として且つクラッチC2を解除状態とするモード1において、動力循環を生じさせることができる。すなわち、この場合、第1遊星歯車機構20aのキャリアCから出力される動力が、クラッチC1、第2遊星歯車機構20bのリングギアR、第2遊星歯車機構20bのサンギアS、CVT22を介して第1遊星歯車機構20aのサンギアSに入力される。一方、クラッチC1を解除状態として且つクラッチC2を締結状態とすることで、上記動力循環の生じないモード2を実現することができる。さらに、クラッチC1、C2,C4を解除状態としてクラッチC3を締結状態とすることで、エンジン12の動力をCVT22を介すことなく駆動輪14に伝達させるモード3を実現することができる。
<第9の実施形態>
以下、第9の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0122】
本実施形態は、車載主機がモータジェネレータ10のみである電気自動車に関するものである。
【0123】
図17に、本実施形態にかかるシステム構成図を示す。なお、図17において、先の図1に示した部材と対応するものについては、便宜上同一の符号を付している。
【0124】
このシステムでは、モード1によって動力循環を生じさせて且つ、モード2によってモータジェネレータ10の動力をCVT22を介すことなく駆動輪14に伝達させることができる。特にこの電気自動車は、モード1によって、駆動輪14の極低速回転時や停止時において電力変換回路42の発熱の問題を好適に回避することができる。すなわち、モータジェネレータ10を駆動輪14に直結する場合、駆動輪14の極低速回転時や停止時において大きなトルクを生成すべくモータジェネレータ10の電流を大きくする場合、特定の相のスイッチング素子の電流が大きくなる状態が継続し、発熱量が過大となることに起因して、電力変換回路42の信頼性の低下が問題となる。これに対し、本実施形態では、動力循環を生じさせることで、駆動輪14の極低速回転時や停止時においてモータジェネレータ10の回転速度をある程度高くすることができるため、こうした問題を回避することができる。
<その他の実施形態>
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
【0125】
「モード3への切替条件について」
モード3への切替条件としては、車速についての条件に限らない。要は、クラッチC3の両側の回転軸の回転速度が一致する条件であればよい。もっとも、クラッチC3の解除状態から締結状態への切り替えに際して半クラッチ状態を利用するなら、この条件も必須ではない。
【0126】
「モード3への切り替えギア比について」
モード3への切り替えギア比としては、例えば図18(a)に例示するように、トータルのギア比がモード1とモード2とで同一となるギア比としてもよい。この場合、クラッチC1,C2,C3を同時に締結状態とすることもできる。なぜなら、図18(a)の点Pにおいては、クラッチC1によって連結される一対の回転体の回転速度と、クラッチC2によって連結される一対の回転体の回転速度と、クラッチC3によって連結される一対の回転体の回転速度とがそれぞれ互いに等しくなるからである。このため、モード2とモード3との切替のみならず、モード1とモード3との切り替えをもトルク抜けを生じることなく行うことができる。ただし、この場合には、点PがCVTのギア比の上限値や下限値とならないようにする必要がある。なぜなら、点Pに対してギア比をずらさない限りエンジン12の動力がCVT22の両側に出力されることとなるからである。
【0127】
もっとも、上記第4の実施形態(図11)に示すように、ワンウェイベアリング28に代えてクラッチC5を用いる場合には、図18(b)に示すように、CVT22のギア比の許容可変領域を拡大させることができる。ただし、クラッチC5を用いる場合には、図18(c)に例示するように、点PをCVTのギア比の上限値や下限値とすることで、トータルギア比の可変領域を拡大することが望ましい。
【0128】
「補機に機械的に連結される動力分割用回転体について」
例えば、図10、図11に示した構成に代えて、モータジェネレータ10とCVT22との間にコンプレッサ50を機械的に連結してもよい。この構成は、モータジェネレータ10からコンプレッサ50への動力伝達効率を向上させるうえで優れている。すなわち、CVT22を介して動力伝達を行う場合、その効率が低下しやすいのに対し、CVT22を介在させないようにすることで、伝達効率を向上させることができる。
【0129】
「補機について」
動力分割用回転体の回転力やモータジェネレータ10、エンジン12の動力を用いる補機としては、車載空調装置のコンプレッサ50に限らない。例えば駆動輪14等に制動力を付与するための油圧を生成するブレーキポンプや、エンジン12の冷却水用のウォータポンプ、冷却ファン等であってもよい。
【0130】
「起動用動力伝達規制手段について」
エンジン12を起動すべくエンジン12と動力分割機構20の起動用回転体との間のトルクの伝達および遮断を行う起動用動力伝達規制手段としては、クラッチC4およびワンウェイベアリング26を備えて構成されるものに限らない。例えば、クラッチC4のみを備えるものであってもよい。この場合、例えばエンジン12の回転軸12aに初期回転を付与した後、エンジン12の燃焼開始に先立ちクラッチC4を遮断するなら、エンジン12における燃焼開始時に急増するトルクが動力分割機構20に伝達されることを好適に回避することができる。また例えばワンウェイベアリング26のみを備えるものであってもよい。
【0131】
また、ワンウェイベアリング26の入力側にクラッチC4を設けてもよい。
【0132】
さらに、エンジン12の回転軸12a側(出力側)に対する動力分割機構20の起動用回転体側(入力側)の相対回転速度が負でないことを条件に動力を伝達させる一方向伝達機構としては、ワンウェイベアリング26に限らず、例えばワンウェイクラッチであってもよい。また、入力側によって出力側が滑ることなくつれまわされるものに限らず、滑りつつも動力が付与されるものであってもよい。
【0133】
エンジン12を始動するために動力分割機構20からエンジン12の回転軸12aへと動力を伝達する経路の動力伝達を遮断する遮断手段としては、ノーマリーオープン式のクラッチC4に限らない。例えばノーマリークローズ式のクラッチであってもよい。
【0134】
「変速用動力伝達規制手段について」
エンジン12のトルクを駆動輪14に付与すべく出力側(動力分割機構20の伝達用回転体側)の回転速度に対する入力側(エンジン12側)の相対回転速度が負でないことを条件に動力を伝達する一方向伝達機構としては、ワンウェイベアリング28に限らず、例えばワンウェイクラッチであってもよい。また、入力側によって出力側が滑ることなくつれまわされるものに限らず、滑りつつも動力が付与されるものであってもよい。
【0135】
さらに、一方向伝達機構とクラッチC5とを併用してもよい。
【0136】
「直達用動力伝達規制手段について」
エンジン12の動力をCVT22を迂回して駆動輪14に付与すべく出力側(駆動輪14側)に対する入力側(エンジン12側)の相対回転速度が負でないことを条件に動力を伝達する一方向伝達機構としては、ワンウェイベアリング60に限らず、例えばワンウェイクラッチであってもよい。また、入力側によって出力側が滑ることなくつれまわされるものに限らず、滑りつつも動力が付与されるものであってもよい。
【0137】
さらに、一方向伝達機構とクラッチC4とを併用してもよい。
【0138】
なお、この一方向伝達機構を、先の図16に示した構成等において採用してもよい。
【0139】
「第2の実施形態について」
上記第2の実施形態において、ワンウェイベアリング28をクラッチC5に変更してもよい。特に第2の実施形態では、エンジン起動直後においてモード3となると考えられるため、エンジン12における燃焼開始時のトルクが動力分割機構20に伝達することを回避するうえではワンウェイベアリング28を用いなくてもよい。
【0140】
上記実施形態では、トータルギア比が大きくなることでモード3からモード2に移行するようにしたが、トータルギア比が大きくなることでモード2からモード3に移行するようにしてもよい。
【0141】
「動力循環(モード1)の利用について」
上記各実施形態では、駆動源(モータジェネレータ10等)の回転速度の符号を固定しつつ駆動輪14の回転速度を正、ゼロ、負に切り替えるために動力循環を利用したが、これに限らない。例えば、駆動源の回転速度の符号を一定に保った状態における駆動輪14の回転速度をゼロを境とする一方向の領域に限ってもよい。この場合、モータジェネレータ10を反転させることで駆動輪14の回転速度の符号を反転させることができる。もっともこれに代えて、動力分割用回転体と駆動源や駆動輪14との機械的な連結態様を変更することでモータジェネレータ10の回転速度の符号を反転させること無く駆動輪14の回転速度の符号を反転させてもよい。これは例えば、先の図1に示した構成において、サンギアSとCVT22との間にクラッチを設けるとともに、サンギアSを固定する手段を備えることで行うことができる。
【0142】
このように、CVT22のギア比を操作することで駆動輪14の回転速度の符号が反転するような利用をしない場合、モード1におけるCVT22のギア比の操作に対するトータルギア比の変化量を小さくでき、CVT22の耐量を低減できることが発明者らによって見出されている。
【0143】
「クラッチC1〜C3の締結条件について」
クラッチC1〜C3の締結条件としては、上記各実施形態において例示したものに限らない。例えば停車時、牽引時においては、クラッチC1,C2,C3を解除状態とすればよい。これにより、牽引によってCVT22が回転されることを回避することが可能となり、CVT22として金属ベルトを備えるもの等を利用する場合であってもCVT22の劣化を抑制することができる。これは、例えば先の図1の構成の場合、クラッチC1,C2,C3の双方を解除状態とすることで、モータジェネレータ10の負荷等によってCVT22が回転することなくクラッチC1,C2,C3が空転する状態を実現可能であるためである。
【0144】
また、クラッチC1,C2を締結状態、クラッチC3を解除状態として且つ、トータル変速比が所定以上の高速変速比となる状態としてもよい。さらに、モード1,2でトータル変速比が相違するようにCVT22の変速比を操作した状態で、クラッチC1,C2を締結状態としてもよい。これにより、駆動輪14をロックさせることができる。
【0145】
「クラッチC4の締結条件について」
上記各実施形態では、エンジン12の回転速度がエンジン12を安定して稼動状態に保つための最小回転速度以下である場合であって且つエンジン12の始動要求が生じた場合にクラッチC4を締結状態としたがこれに限らない。例えば車両の制動力が要求されることを条件としてもよい。これは、モータジェネレータ10を小型化しても、発進トルクを確保することができる上記各実施形態の構成にとって特に有効である。すなわち、モータジェネレータ10を小型化(例えば十数kW)すると、モータジェネレータ10の回生運転によって生成される車両の制動力を大きくすることができなくなる懸念がある。しかし、こうした場合であっても、クラッチC4を締結状態として動力分割機構20にエンジン12の負荷トルクを付与してエンジンブレーキを利用することで、制動力を大きくすることができる。
【0146】
もっとも、これに限らず、例えば回生運転後、エンジン12を再始動させるに際しモータジェネレータ10の動力を消費しないようにすべく、回生運転の間、クラッチC4を締結状態とすることでエンジン12の回転速度を燃焼制御を開始することのできる回転速度の下限値以上に維持してもよい。
【0147】
「動力分割機構について」
動力分割機構としては、上記各実施形態に例示したものに限らない。例えば、先の図1や、図15、図16、図17に例示した構成において、サンギアS、キャリアCおよびリングギアRを入れ替えてもよい。この場合であっても、遊星歯車機構とモータジェネレータ10、エンジン12、駆動輪14との間に介在するギアの設定によって、上記各実施形態と同様の効果を奏することが可能となる。
【0148】
「動力分割用回転体について」
上記実施形態では、動力分割用回転体を構成する遊星歯車機構として、サンギアSとリングギアRの回転速度の符号が互いに相違する場合にキャリアCの回転速度がゼロとなりうるものを採用したが、これに限らない。例えば、サンギアSとリングギアRとの回転速度の符号が同一である場合にキャリアCの回転速度がゼロとなり得るものを用いてもよい。この遊星歯車機構は、いわゆるダブルピニオンを有する遊星歯車機構(例えば特開2001−108073号公報参照)によって実現できる。
【0149】
また、遊星歯車機構を構成するものにも限らず、例えばデフギアを構成するものであってもよい。
【0150】
「変速装置の種類について」
機械式の無段変速装置としては、ベルト式のものに限らず、例えばトラクションドライブ式のものであってもよい。また、機械式のものに限らず、油圧式のものであってもよい。更に、無段変速装置にも限らず、有段変速装置であっても、これを介在させた場合の動力伝達効率が直達モードと比較して低下するなら、直達モードを設けることは有効である。もっとも、動力伝達効率の低下の有無にかかわらず、変速装置の異常時におけるフェールセーフ処理として、直達モードを利用することは有効である。
【0151】
「そのほか」
・車両としては、ハイブリッド車や電気自動車に限らず、例えば車載主機としてエンジン12のみを備える車両であってもよい。これは、例えば先の図1に示した構成において、モータジェネレータ10や、ワンウェイベアリング26、クラッチC4を削除することで実現することができる。
【0152】
・モード1とモード2との間の切り替えに際し、トルク抜けが生じる設定であっても上記第1の実施形態の(1)等の効果を得ることはできる。この場合、クラッチC1,C2のうち解除状態から締結状態へと切り替える側において、締結力を漸増させることで半クラッチを利用すればよい。もっとも、フェールセーフ処理時等、モード切替に伴うショック等よりも迅速なモード切替の優先度の方が高い状況下にあっては、モード1とモード2とでトータル変速比が相違するCVT22のギア比において、上記締結力の漸増処理を行うことなく強制的にモード切替を行なってもよい。
【0153】
・回転電機としては、3相の交流回転電機に限らず、例えばブラシ付DCモータや誘導モータ等であってもよい。
<備考>
上記第1の実施形態に記載の構成について、様々な関係を導出する場合、図19に示す一般的な構成において導出すれば足りる。ここで、ギアG1は、CVT22に対応している。ちなみに、図19に示す構成と第1の実施形態に示す構成との相違は、第1の実施形態にはギアG4が無く、ギアG2a、G2bを有する点である。図の構成は、第1の実施形態の構成を一般化したものであるにもかかわらず、ギアG2a,G2bをギアG2にまとめることとしたのは、クラッチC1およびキャリアC間に介在するギアをギアG2として一般化することができるためである。すなわち、この図の構成から第1の構成にいたるには、第1の実施形態のギアG2a,G2bのトータルのギア比を図19の構成のギアG2のギア比r2として且つ、ギアG4のギア比r4を「1」とすればよい。なお、ギア比ri(i=1〜6)は、図中、aの回転速度に対するbの回転速度の比である。
【0154】
ここで、動力分割機構20のリングギアRの歯数Zrに対するサンギアSの歯数Zsの比Zs/Zrを比ρとし、リングギアR、サンギアSおよびキャリアCのトルクをそれぞれトルクTr,Ts、Tcとして且つこれらの回転速度を回転速度wR,wS,wCとすると、以下の式が成立する。
【0155】
Tr=−Tc/(1+ρ) …(c1)
Ts=−ρTc/(1+ρ) …(c2)
ρwS−(1+ρ)wC+wR=0 …(c3)
「モード1における高トルクの生成について」
モータジェネレータ10を駆動源とする場合、図中、IN2が供給動力となる。今、モータジェネレータ10のトルクをトルクTmとし、先の図2(c)に示した関係からエネルギ保存則を立てると、以下の式が成立する(ただし、ギアG1、G2の質量を無視する理想化を行っている)。
【0156】
wC・(Tc+Tm/r2)=−wSTs …(c4)
上記の式(c1)および式(c2)を用いて上記式(c4)からトルクTs,Tcを消去することで、下記の式(c5)を得る。
【0157】
Tr=Tm/r2{(1+ρ)−ρ(wS/wC)} …(c5)
上記の式(c5)によれば、比「wS/wC」を「(1+ρ)/ρ」に近似させることで、リングギアRのトルクTrは、非常に大きなものとなり得ることがわかる。換言すれば、駆動輪14に伝達されるトルクが非常に大きなものとなり得ることがわかる。
【0158】
「モード1のトータルのギア比について」
1.駆動源がエンジンの場合
モード1においては、サンギアSの回転速度wSと、キャリアCの回転速度wCとの間には、以下の式(c6)にて表現される関係がある。
【0159】
wC=r1・r2・wS …(c6)
一方、ギアG6の出力側の回転速度wG6bは、以下の式(c7)にて表現できる。
【0160】
wG6b=r6・r5・wR …(c7)
上記の式(c6)、(c7)を上記の式(c3)に代入することで以下の式(c8)を得る。
【0161】
wG6b=r6・r5・{r1・r2・(1+ρ)−ρ}wS …(c8)
したがって、トータルのギア比は、以下の式(c9)となる。
【0162】
(トータルギア比)=r6・r5・{r1・r2・(1+ρ)−ρ} …(c9)
2.駆動源がモータジェネレータ10の場合
この場合、入力軸がギアG1の出力側となるため、上記の式(c8)の右辺のwSをギア比r1で除算したものを用いることで、以下の式が導出できる。
【0163】
(トータルギア比)=r6・r5・{r2・(1+ρ)−ρ/r1} …(c10)
「モード2のトータルギア比について」
モード2においては、駆動源がエンジンの場合、ギアG1,G4,G6の経路を考えることで、トータルギア比は、以下の式(c11)となる。
【0164】
(トータルのギア比)=r1・r4・r6 …(c11)
「トルク抜けの生じない切替条件」
ギアG1の回転速度wG1bが、ギアG2の回転速度wG2aとギアG4の回転速度wG4aとの双方と一致することが条件となる。これは、以下の式にて表現することができる。
【0165】
wC/r2=wS・r1=wR・r5/r4 …(c12)
上記の式(c12)において、例えばサンギアSおよびリングギアRの回転速度wS,wRをキャリアCの回転速度wCで表現して且つ、上記の式(c3)に代入することで以下の式(c13)を得る。
【0166】
r1=ρr5/{r2r5(1+ρ)−r4} …(c13)
すなわち、CVT22(ギアG1)のギア比r1が上記の式(c13)の右辺の値をとりうる設定とすれば、上記(c13)の条件成立時においてトルク抜けを回避した切替を行うことができる。
【0167】
「折り返し処理について」
これは、トータルのギア比を従属変数としギア比r1を独立変数とする関数をギア比r1によって微分した値についてのモード1とモード2との積が負であることを条件とすればよい。
【0168】
上記の式(c9)および式(c11)を用いる場合には、これは以下の式(c14)に示す条件となる。
【0169】
{r6・r5・r2・(1+ρ)}・{r4・r6}<0
すなわち、r5・r4・r2<0 …(c14)
ちなみに、上記第1の実施形態では、ギアG5やギアG2a、G2bをカウンタギアとしたため、ギア比r2>0、ギア比r5<0であり、またギアG4を除いたため、ギア比r4=1であり、この条件を満たす。
【符号の説明】
【0170】
20…動力分割機構、S…サンギア(動力分割用回転体の一実施形態)、C…キャリア(動力分割用回転体の一実施形態)、R…リングギア(動力分割用回転体の一実施形態)、C3…クラッチ(直達用動力伝達規制手段、締結手段の一実施形態)、26…ワンウェイベアリング(起動用動力伝達規制手段、一方向伝達機構の一実施形態)、28…ワンウェイベアリング(伝達用動力伝達規制手段、一方向伝達機構の一実施形態)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源および駆動輪間の動力分割のための回転体であって且つ互いに連動して回転する複数の動力分割用回転体と、該動力分割用回転体に機械的に連結されて変速比を可変とする変速装置とを備える車載動力伝達装置において、
前記駆動源から出力される動力が、前記変速装置を介して前記駆動輪に伝達される変速モードと、前記駆動源から出力される動力が前記変速装置を介すことなく前記駆動輪に伝達される直達モードとを切り替える切替手段を備えることを特徴とする車載動力伝達装置。
【請求項2】
前記動力分割用回転体は、前記駆動輪に機械的に連結される第1の回転体と、該第1の回転体とは別の第2の回転体および第3の回転体とを備え、
前記変速モードにおいて、前記第2の回転体および前記第3の回転体を前記変速装置を介して機械的に連結することで前記駆動源の動力を前記第2の回転体および前記第3の回転体の少なくとも一方を介して前記第1の回転体に伝達させるに際し前記第2の回転体および前記第3の回転体のいずれか一方から他方へと動力が流動する動力循環が生じる循環用経路をさらに備えることを特徴とする請求項1記載の車載動力伝達装置。
【請求項3】
前記動力分割用回転体は、前記駆動輪に機械的に連結される第1の回転体と、該第1の回転体とは別の第2の回転体および第3の回転体とを備え、
前記第1の回転体および前記第2の回転体を前記変速装置を介して機械的に連結する駆動輪側経路と、
前記変速装置の一対の回転軸のうち前記第2の回転体に機械的に連結される側と前記駆動源との間の動力の伝達および遮断を切り替える変速用動力伝達規制手段と、
前記変速装置の一対の軸のうちの前記第1の回転体に機械的に連結される側と前記駆動源との間の動力の伝達および遮断を切り替える直達用動力伝達規制手段とをさらに備えることを特徴とする請求項1または2記載の車載動力伝達装置。
【請求項4】
前記直達用動力伝達規制手段は、前記駆動源側の軸と前記変速装置側の軸との締結および解除を行う電子制御式の締結手段を備えることを特徴とする請求項3記載の車載動力伝達装置。
【請求項5】
前記直達用動力伝達規制手段は、出力側である前記変速装置側に対する入力側である前記駆動源側の相対回転速度が負でないことを条件に動力を伝達させる一方向伝達機構を備えることを特徴とする請求項3記載の車載動力伝達装置。
【請求項6】
前記直達用動力伝達規制手段が、前記駆動源側の軸と前記変速装置側の軸との締結および解除を行う電子制御式の締結手段であって且つ前記変速用動力伝達規制手段が、出力側である前記変速装置側に対する前記駆動源側である入力側の相対回転速度が負でないことを条件に動力を伝達させる一方向伝達機構である、または前記直達用動力伝達規制手段が、出力側である前記変速装置側に対する入力側である前記駆動源側の相対回転速度が負でないことを条件に動力を伝達させる一方向伝達機構であって且つ前記変速用動力伝達規制手段が、前記駆動源側の軸と前記変速装置側の軸との締結および解除を行う電子制御式の締結手段であり、
前記直達モードが選択されている状況下、前記変速装置の変速比の操作を、前記一方向伝達機構の出力側の回転速度が入力側の回転速度以下とならないように制限する制限手段を備えることを特徴とする請求項3記載の車載動力伝達装置。
【請求項7】
前記直達用動力伝達規制手段が、出力側である前記変速装置側に対する入力側である前記駆動源側の相対回転速度が負でないことを条件に動力を伝達させる一方向伝達機構であって且つ、前記変速用動力伝達規制手段が、出力側である前記変速装置側に対する前記駆動源側である入力側の相対回転速度が負でないことを条件に動力を伝達させる一方向伝達機構であることを特徴とする請求項3記載の車載動力伝達装置。
【請求項8】
前記第2の回転体および前記第3の回転体を前記変速装置を介して機械的に連結することで前記駆動源の動力を前記第2の回転体および前記第3の回転体の少なくとも一方を介して前記第1の回転体に伝達させるに際し前記第2の回転体および前記第3の回転体のいずれか一方から他方へと動力が流動する動力循環が生じる循環用経路と、
前記循環用経路を介した前記第2の回転体と前記第3の回転体との動力の伝達および遮断を切り替える循環用動力伝達規制手段と、
前記駆動輪側経路に介在して且つ、前記変速装置の一対の軸のうちの前記第1の回転体に機械的に連結される側と前記第1の回転体との間の動力の伝達および遮断を切り替える駆動輪側動力伝達規制手段とをさらに備えることを特徴とする請求項3〜7のいずれか1項に記載の車載動力伝達装置。
【請求項9】
前記変速用動力伝達規制手段および前記直達用動力伝達規制手段によって動力の伝達および遮断の切り替えがなされる前記駆動源が内燃機関であり、
前記第2の回転体には、回転電機がさらに機械的に連結されていることを特徴とする請求項8記載の車載動力伝達装置。
【請求項10】
前記第3の回転体と前記内燃機関との間の動力の伝達および遮断を切り替える起動用動力伝達規制手段をさらに備えることを特徴とする請求項9記載の車載動力伝達装置。
【請求項11】
前記起動用動力伝達規制手段は、前記3の回転体と前記内燃機関の回転軸との締結および解除を行う電子制御式の締結手段を備えることを特徴とする請求項10記載の車載動力伝達装置。
【請求項12】
前記起動用動力伝達規制手段は、前記内燃機関側である出力側に対する前記3の回転体側である入力側の相対回転速度が負でないことを条件に動力を伝達させる一方向伝達機構を備えることを特徴とする請求項10または11記載の車載動力伝達装置。
【請求項13】
前記循環用動力伝達規制手段が遮断状態とされて且つ前記駆動輪側動力伝達規制手段が伝達状態とされる状況下、前記起動用動力伝達規制手段が伝達状態となる場合、前記駆動輪側動力伝達規制手段を介して前記第1の回転体および前記第2の回転体の一方から他方へと動力が流動する動力循環が生じることを特徴とする請求項10〜12のいずれか1項に記載の車載動力伝達装置。
【請求項14】
前記駆動輪の回転速度が所定の速度領域となることを条件に前記直達モードに切り替える直達制御手段をさらに備えることを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の車載動力伝達装置。
【請求項15】
前記変速装置は、ベルト式の無段変速装置であり、
前記無段変速装置の異常の有無を判断する判断手段と、
前記判断手段によって前記無段変速装置に異常があると判断される場合、前記直達モードに切り替える直達制御手段をさらに備えることを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の車載動力伝達装置。
【請求項16】
前記回転電機は、前記変速装置を介して前記第2の回転体に機械的に連結されており、
前記駆動輪の回転が停止される状況下、前記循環用動力伝達規制手段および前記駆動輪側動力伝達規制手段の双方を遮断状態として且つ前記直達用動力伝達規制手段を伝達状態とすることで前記内燃機関の動力を前記回転電機によって電気エネルギに変換する処理を行う発電制御手段をさらに備えることを特徴とする請求項10〜13のいずれか1項に記載の車載動力伝達装置。
【請求項17】
前記第1の回転体および前記第2の回転体を前記変速装置を介して機械的に連結する駆動輪側経路と、
前記駆動輪側経路に介在して且つ、前記変速装置の一対の軸のうちの前記第1の回転体に機械的に連結される側と前記第1の回転体との間の動力の伝達および遮断を切り替える駆動輪側動力伝達規制手段と、
前記循環用経路を介した前記第2の回転体と前記第3の回転体との動力の伝達および遮断を切り替える循環用動力伝達規制手段とを備え、
前記駆動輪側経路のうち前記変速装置および前記第1の回転体間に前記駆動源が機械的に連結され、
前記切替手段を、前記駆動輪側動力伝達規制手段および前記循環用動力伝達規制手段を備えて構成することで、前記駆動輪側動力伝達規制手段が伝達状態とされて且つ前記循環用動力伝達規制手段が遮断状態とされる場合、前記直達モードを実現することを特徴とする請求項2記載の車載動力伝達装置。
【請求項1】
駆動源および駆動輪間の動力分割のための回転体であって且つ互いに連動して回転する複数の動力分割用回転体と、該動力分割用回転体に機械的に連結されて変速比を可変とする変速装置とを備える車載動力伝達装置において、
前記駆動源から出力される動力が、前記変速装置を介して前記駆動輪に伝達される変速モードと、前記駆動源から出力される動力が前記変速装置を介すことなく前記駆動輪に伝達される直達モードとを切り替える切替手段を備えることを特徴とする車載動力伝達装置。
【請求項2】
前記動力分割用回転体は、前記駆動輪に機械的に連結される第1の回転体と、該第1の回転体とは別の第2の回転体および第3の回転体とを備え、
前記変速モードにおいて、前記第2の回転体および前記第3の回転体を前記変速装置を介して機械的に連結することで前記駆動源の動力を前記第2の回転体および前記第3の回転体の少なくとも一方を介して前記第1の回転体に伝達させるに際し前記第2の回転体および前記第3の回転体のいずれか一方から他方へと動力が流動する動力循環が生じる循環用経路をさらに備えることを特徴とする請求項1記載の車載動力伝達装置。
【請求項3】
前記動力分割用回転体は、前記駆動輪に機械的に連結される第1の回転体と、該第1の回転体とは別の第2の回転体および第3の回転体とを備え、
前記第1の回転体および前記第2の回転体を前記変速装置を介して機械的に連結する駆動輪側経路と、
前記変速装置の一対の回転軸のうち前記第2の回転体に機械的に連結される側と前記駆動源との間の動力の伝達および遮断を切り替える変速用動力伝達規制手段と、
前記変速装置の一対の軸のうちの前記第1の回転体に機械的に連結される側と前記駆動源との間の動力の伝達および遮断を切り替える直達用動力伝達規制手段とをさらに備えることを特徴とする請求項1または2記載の車載動力伝達装置。
【請求項4】
前記直達用動力伝達規制手段は、前記駆動源側の軸と前記変速装置側の軸との締結および解除を行う電子制御式の締結手段を備えることを特徴とする請求項3記載の車載動力伝達装置。
【請求項5】
前記直達用動力伝達規制手段は、出力側である前記変速装置側に対する入力側である前記駆動源側の相対回転速度が負でないことを条件に動力を伝達させる一方向伝達機構を備えることを特徴とする請求項3記載の車載動力伝達装置。
【請求項6】
前記直達用動力伝達規制手段が、前記駆動源側の軸と前記変速装置側の軸との締結および解除を行う電子制御式の締結手段であって且つ前記変速用動力伝達規制手段が、出力側である前記変速装置側に対する前記駆動源側である入力側の相対回転速度が負でないことを条件に動力を伝達させる一方向伝達機構である、または前記直達用動力伝達規制手段が、出力側である前記変速装置側に対する入力側である前記駆動源側の相対回転速度が負でないことを条件に動力を伝達させる一方向伝達機構であって且つ前記変速用動力伝達規制手段が、前記駆動源側の軸と前記変速装置側の軸との締結および解除を行う電子制御式の締結手段であり、
前記直達モードが選択されている状況下、前記変速装置の変速比の操作を、前記一方向伝達機構の出力側の回転速度が入力側の回転速度以下とならないように制限する制限手段を備えることを特徴とする請求項3記載の車載動力伝達装置。
【請求項7】
前記直達用動力伝達規制手段が、出力側である前記変速装置側に対する入力側である前記駆動源側の相対回転速度が負でないことを条件に動力を伝達させる一方向伝達機構であって且つ、前記変速用動力伝達規制手段が、出力側である前記変速装置側に対する前記駆動源側である入力側の相対回転速度が負でないことを条件に動力を伝達させる一方向伝達機構であることを特徴とする請求項3記載の車載動力伝達装置。
【請求項8】
前記第2の回転体および前記第3の回転体を前記変速装置を介して機械的に連結することで前記駆動源の動力を前記第2の回転体および前記第3の回転体の少なくとも一方を介して前記第1の回転体に伝達させるに際し前記第2の回転体および前記第3の回転体のいずれか一方から他方へと動力が流動する動力循環が生じる循環用経路と、
前記循環用経路を介した前記第2の回転体と前記第3の回転体との動力の伝達および遮断を切り替える循環用動力伝達規制手段と、
前記駆動輪側経路に介在して且つ、前記変速装置の一対の軸のうちの前記第1の回転体に機械的に連結される側と前記第1の回転体との間の動力の伝達および遮断を切り替える駆動輪側動力伝達規制手段とをさらに備えることを特徴とする請求項3〜7のいずれか1項に記載の車載動力伝達装置。
【請求項9】
前記変速用動力伝達規制手段および前記直達用動力伝達規制手段によって動力の伝達および遮断の切り替えがなされる前記駆動源が内燃機関であり、
前記第2の回転体には、回転電機がさらに機械的に連結されていることを特徴とする請求項8記載の車載動力伝達装置。
【請求項10】
前記第3の回転体と前記内燃機関との間の動力の伝達および遮断を切り替える起動用動力伝達規制手段をさらに備えることを特徴とする請求項9記載の車載動力伝達装置。
【請求項11】
前記起動用動力伝達規制手段は、前記3の回転体と前記内燃機関の回転軸との締結および解除を行う電子制御式の締結手段を備えることを特徴とする請求項10記載の車載動力伝達装置。
【請求項12】
前記起動用動力伝達規制手段は、前記内燃機関側である出力側に対する前記3の回転体側である入力側の相対回転速度が負でないことを条件に動力を伝達させる一方向伝達機構を備えることを特徴とする請求項10または11記載の車載動力伝達装置。
【請求項13】
前記循環用動力伝達規制手段が遮断状態とされて且つ前記駆動輪側動力伝達規制手段が伝達状態とされる状況下、前記起動用動力伝達規制手段が伝達状態となる場合、前記駆動輪側動力伝達規制手段を介して前記第1の回転体および前記第2の回転体の一方から他方へと動力が流動する動力循環が生じることを特徴とする請求項10〜12のいずれか1項に記載の車載動力伝達装置。
【請求項14】
前記駆動輪の回転速度が所定の速度領域となることを条件に前記直達モードに切り替える直達制御手段をさらに備えることを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の車載動力伝達装置。
【請求項15】
前記変速装置は、ベルト式の無段変速装置であり、
前記無段変速装置の異常の有無を判断する判断手段と、
前記判断手段によって前記無段変速装置に異常があると判断される場合、前記直達モードに切り替える直達制御手段をさらに備えることを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の車載動力伝達装置。
【請求項16】
前記回転電機は、前記変速装置を介して前記第2の回転体に機械的に連結されており、
前記駆動輪の回転が停止される状況下、前記循環用動力伝達規制手段および前記駆動輪側動力伝達規制手段の双方を遮断状態として且つ前記直達用動力伝達規制手段を伝達状態とすることで前記内燃機関の動力を前記回転電機によって電気エネルギに変換する処理を行う発電制御手段をさらに備えることを特徴とする請求項10〜13のいずれか1項に記載の車載動力伝達装置。
【請求項17】
前記第1の回転体および前記第2の回転体を前記変速装置を介して機械的に連結する駆動輪側経路と、
前記駆動輪側経路に介在して且つ、前記変速装置の一対の軸のうちの前記第1の回転体に機械的に連結される側と前記第1の回転体との間の動力の伝達および遮断を切り替える駆動輪側動力伝達規制手段と、
前記循環用経路を介した前記第2の回転体と前記第3の回転体との動力の伝達および遮断を切り替える循環用動力伝達規制手段とを備え、
前記駆動輪側経路のうち前記変速装置および前記第1の回転体間に前記駆動源が機械的に連結され、
前記切替手段を、前記駆動輪側動力伝達規制手段および前記循環用動力伝達規制手段を備えて構成することで、前記駆動輪側動力伝達規制手段が伝達状態とされて且つ前記循環用動力伝達規制手段が遮断状態とされる場合、前記直達モードを実現することを特徴とする請求項2記載の車載動力伝達装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
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【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
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【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2012−72792(P2012−72792A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−216465(P2010−216465)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【Fターム(参考)】
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