説明

車載機器用高周波ノイズフィルタおよびフィルタ結線方法

【課題】電磁ノイズを輻射する車両上の負荷の近傍にアースと接続された導電体が露出していない場合であっても、設計時に想定した周波数帯で十分なノイズ低減効果を得る。
【解決手段】車載機器用高周波ノイズフィルタ10Aの一端側P1および他端側P2にそれぞれ複数の電線を接続可能な端子を設ける。前記車載機器用高周波ノイズフィルタ10Aの一端側P1に電源ライン31および負荷の一端22aを接続し、前記負荷の他端22b側はアース接続することなく第1の電線27で前記自己共振型フィルタの他端側P2と接続し、前記自己共振型フィルタの他端側P2を第2の電線26でアース接続点28に接続する。第2の電線26のインダクタ成分Leがフィルタの共振周波数に影響しなくなり減衰量−周波数特性の変化に伴う特性劣化が防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載機器用高周波ノイズフィルタおよびフィルタ結線方法に関し、例えばラジオ放送の周波数帯で発生する高周波ノイズを低減するために利用される。
【背景技術】
【0002】
例えば、車載ラジオ受信機で中波放送(520kHz〜1650kHzの周波数帯のAM(振幅変調)放送)の電波を受信し聴取する場合、車上の機器から発生する高周波の電磁ノイズの周波数が放送の周波数帯と重なるため、このノイズが車載ラジオ受信機のアンテナで受信され、受信した放送にノイズが混入し、スピーカから出力される音響にノイズが現れる。
【0003】
車両上にはエンジンの周囲などに電流のスイッチングを行う様々な機器やスイッチ等が搭載されているので、これらがノイズ源となって高周波の電磁ノイズが発生する。また、車載ラジオ用のアンテナの近傍には、リアデフォッガー(後部窓用の結露防止器)やハイマウントストップランプなどが存在している場合が多い。
【0004】
従って、車両上のノイズ源で発生した高周波の電磁ノイズは、電源ラインを経由してリアデフォッガーやハイマウントストップランプなどの負荷に伝搬する。そして、このような負荷から輻射される電磁ノイズは、その近傍に存在するアンテナで受信され、車載ラジオ用の入力に混入して悪影響を及ぼす。
【0005】
そこで、高周波ノイズの輻射を低減するために、ノイズが伝搬するリアデフォッガー等の負荷と接続される電源ラインには、ノイズフィルタを挿入するのが一般的である(特許文献1)。このような用途に用いられるノイズフィルタは、外観上は1個のコンデンサで構成されているが、このコンデンサが内部に残留インダクタンスを有しているので、等価的には1個のコンデンサの容量(キャパシタンス)成分(C)と残留インダクタンス成分(L)とが直列に接続された回路を形成しており、自己共振型トラップフィルタになっている。つまり、共振周波数の近傍で回路のインピーダンスが小さくなるので、電源ラインとアースの間にこのノイズフィルタを接続することにより、共振周波数の近傍の高周波ノイズ成分だけが濾波され、輻射される電磁波(ノイズ)が低減される。
【0006】
また、この種のノイズフィルタに関する他の従来技術として、例えば特許文献2や特許文献3が知られている。特許文献2においては、コイルの空芯部にコアとコネクタ端子を同時に収容するボビンケースを設けてコイルとコネクタ端子とを直接接合する構成を提案している。これにより、フィルタ部とコネクタ部を一体化し、インピーダンス特性のばらつきを抑制すると共に、小型化や低コスト化が実現する。また、特許文献3においては、特許文献1と同様のコンデンサを用いたノイズフィルタをジョイントコネクタに内蔵し、配線量や配線作業数を減らすことを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−238529号公報
【特許文献2】特開2009−54713号公報
【特許文献3】特開2009−146570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献1や特許文献3に示されたようなコンデンサを用いた自己共振型トラップフィルタの場合には、リアデフォッガー等の負荷と接続される電源ライン(通常は+12Vのライン)にフィルタであるコンデンサの一端を接続し、このコンデンサの他端をアースに接続する必要がある。
【0009】
自動車においては、一般的に鉄等の金属で構成される車体が、この車両上に搭載された電源であるバッテリーや発電機等のマイナス側電極、つまりアース端子と電気的に接続されている。従って、例えば特許文献3に示されたジョイントコネクタのように、フィルタであるコンデンサの他端(アース側端子)と接続された金属製のブラケットをボルト等を用いて車体に固定すれば、これだけでコンデンサをアースに接続することができる。
【0010】
しかしながら、近年は様々な構造の自動車が存在し、アースである車体と電気的に接続された導電体が外部に露出していない箇所が多い場合もある。従って、例えば車両上のリアデフォッガーの電源ラインにコンデンサ型のフィルタを接続しようとする場合に、リアデフォッガーの近傍に車体側の導電体が露出していない時には、コンデンサと接続されたブラケットを車体に固定することはできない。そのため、コンデンサのアース側端子と接続された電線を追加し、この電線を車体のアースと接続された導電体が存在する位置まで延長してその電線の先端を前記導電体と固定してアース接続を実現することになる。
【0011】
ところが、アース接続のために電線を追加すると、フィルタの電気的特性に変動が生じてしまう。具体的には、フィルタの実質的な共振周波数が追加された電線の影響を受けて変化する。コンデンサ型のフィルタの減衰量の特性は、例えば図4に示すように共振点である減衰極周波数で最大になり、この減衰極周波数から上下に離れるに従って減衰量は小さくなる。電線の追加によって共振周波数が変化すると、設計の際に想定した周波数帯で所望のノイズ低減効果が得られなくなってしまう。
【0012】
つまり、例えば520kHz〜1650kHzの周波数帯の全域に渡って十分な減衰量が得られるように設計したフィルタを接続したにもかかわらず、電線の追加によって共振周波数が変化し、520kHz〜1650kHzの周波数帯の中で大きな電磁ノイズが輻射され、これがアンテナを経由して車載ラジオの入力に混入することになる。
【0013】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、電磁ノイズを輻射する車両上の負荷の近傍にアースと接続された導電体が露出していない場合であっても、設計時に想定した周波数帯で十分な減衰量が得られる車載機器用高周波ノイズフィルタおよびフィルタ結線方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前述した目的を達成するために、本発明に係る車載機器用高周波ノイズフィルタは、下記(1)〜(5)を特徴としている。
(1) キャパシタ成分とインダクタ成分とが直列に接続された共振回路を形成する自己共振型フィルタにより構成される車載機器用高周波ノイズフィルタであって、
前記自己共振型フィルタの一端側は、車載直流電源の一端と車載機器の負荷の一端を接続する電源ラインに電気的に接続可能であり、前記自己共振型フィルタの他端側は、接地可能であるとともに前記負荷の他端に電気的に接続可能である、
こと。
(2) 上記(1)に記載の車載機器用高周波ノイズフィルタであって、
前記自己共振型フィルタの一端側である第1の電極に接続され、前記電源ラインの一部を前記第1の電極と接続可能にする第1の接続端子と、
前記自己共振型フィルタの他端側である第2の電極に接続され、アース及び前記負荷の他端を前記第2の電極と接続可能にする第2の接続端子と、
を備えること。
(3) 上記(2)に記載の車載機器用高周波ノイズフィルタであって、
前記第1の接続端子および第2の接続端子の少なくとも一方が、前記自己共振型フィルタを囲む電気絶縁性のケースの外周の互いに異なる箇所から引き出された複数の外部電極を備えること。
(4) 上記(2)に記載の車載機器用高周波ノイズフィルタであって、
前記第1の接続端子および第2の接続端子の少なくとも一方が、前記自己共振型フィルタを囲む電気絶縁性のケースの外周の同じ箇所から引き出された複数の外部電極を備えること。
(5) 上記(1)に記載の車載機器用高周波ノイズフィルタであって、
前記自己共振型フィルタの一端側および前記自己共振型フィルタの他端側の少なくとも一方が、前記自己共振型フィルタを囲む電気絶縁性のケースの外周から引き出されていること。
【0015】
上記(1)または(2)の構成の車載機器用高周波ノイズフィルタによれば、アース接続のために電線を追加して配線する場合であっても、フィルタの共振周波数が変化するのを防止することが可能である。従って、電磁ノイズを輻射する車両上の負荷の近傍にアースと接続された導電体が露出していない場合であっても、設計時に想定した周波数帯で十分な減衰量が得られる。
上記(3)の構成の車載機器用高周波ノイズフィルタによれば、前記第1の接続端子及び/又は第2の接続端子に、同時に複数の電線を接続することができる。アース側の端子に複数の電線を接続することにより、これらを介して負荷側の端子および電源側のアース電極とそれぞれ独立に接続することができる。
上記(4)の構成の車載機器用高周波ノイズフィルタによれば、前記第1の接続端子及び/又は第2の接続端子に、同時に複数の電線を接続することができる。アース側の端子に複数の電線を接続することにより、これらを介して負荷側の端子および電源側のアース電極とそれぞれ独立に接続することができる。
上記(5)の構成の車載機器用高周波ノイズフィルタによれば、ケースに自己共振型フィルタを収容した状態でそのフィルタを電線に接続することができる。
【0016】
前述した目的を達成するために、本発明に係るフィルタ結線方法は、下記(6)を特徴としている。
(6) キャパシタ成分とインダクタ成分とが直列に接続された共振回路を形成する自己共振型フィルタを車載直流電源と車載機器の負荷との間に接続して高周波ノイズを低減するためのフィルタ結線方法であって、
前記車載直流電源の一端と前記負荷の一端とを接続する電源ラインに、前記自己共振型フィルタの一端を接続し、
前記負荷の他端側を、接地することなく所定の第1の電線を経由して前記自己共振型フィルタの他端と接続するとともに、前記第1の電線と前記自己共振型フィルタの他端との接続点の近傍で、もしくは前記接続点から所定の第2の電線を経由して前記接続点よりも車載直流電源のアース側の他端と近い位置でアース接続点を形成する
こと。
【0017】
上記(6)の構成のフィルタ結線方法によれば、電磁ノイズを輻射する車両上の負荷の近傍にアースと接続された導電体が露出していない場合であっても、前記第1の電線および第2の電線を用いてアース側を接続することにより、設計時に想定した周波数帯で十分な減衰量が得られる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の車載機器用高周波ノイズフィルタおよびフィルタ結線方法によれば、フィルタ自身のアース近傍にアースと接続された導電体が露出していない場合であっても、設計時に想定した周波数帯で十分な減衰量が得られる。
【0019】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施形態におけるノイズフィルタの接続例を示す車載機器の電気回路の結線図である。
【図2】図1に示した接続例に対応する等価回路を表す電気回路図である。
【図3】実施形態の2種類の車載機器用高周波ノイズフィルタの構成を示す結線図である。
【図4】ノイズフィルタを接続した時の減衰量−周波数特性の具体例を示すグラフである。
【図5】従来のノイズフィルタの接続例を示す車載機器の電気回路の結線図である。
【図6】図5に示した接続例に対応する等価回路を表す電気回路図である。
【図7】従来例のノイズフィルタの外観を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の車載機器用高周波ノイズフィルタおよびフィルタ結線方法に関する具体的な実施形態について、各図を参照しながら以下に説明する。
【0022】
本発明の実施形態である2種類の車載機器用高周波ノイズフィルタ10A、10Bの構成が図3に示されている。なお、図3において互いに対応する要素は同一の符号を付けて示してある。図3に示す車載機器用高周波ノイズフィルタ10A、10Bは、いずれも1個のフィルタ素子11を主体として構成されている。
【0023】
このフィルタ素子11は、キャパシタ(コンデンサ)型の自己共振型フィルタであり、外観は1個のコンデンサのように見えるが、図2に示された等価回路のように、キャパシタ(C:例えば2μFの静電容量)成分とインダクタ(L)成分とが直列に接続された共振回路を形成する。すなわち、この共振回路の共振周波数の近傍の周波数帯(例えば、520kHz〜1650kHz)においてフィルタ素子11の両端の間のインピーダンスが小さくなるので、該当する周波数帯の成分を含む高周波ノイズを減衰させることができる。
【0024】
図3に示すように、各車載機器用高周波ノイズフィルタ10A、10Bのフィルタ素子11は、電気絶縁性の材料(例えば樹脂)で構成されるフィルタケース12で覆われてその中に固定されている。
【0025】
一方の車載機器用高周波ノイズフィルタ10Aについては、図3に示すように、フィルタ素子11の一端である第1の電極11aに2つの外部電極13、14が電気的に接続されている。また、2つの外部電極13、14はそれぞれ異なる箇所からフィルタケース12の外側の表面に露出するように配置されている。また、フィルタ素子11の他端である第2の電極11bにも2つの外部電極15、16が電気的に接続されている。また、2つの外部電極15、16はそれぞれ異なる箇所からフィルタケース12の外側の表面に露出するように配置されている。
【0026】
もう一方の車載機器用高周波ノイズフィルタ10Bについては、図3に示すように、フィルタ素子11の一端である第1の電極11aには、フィルタケース12の外側の表面に露出した第1の接続端子17が接続されている。また、フィルタ素子11の他端である第2の電極11bには、フィルタケース12の外側の表面に露出した第2の接続端子18が接続されている。第1の接続端子17には2つの外部電極17a、17bが設けてあり、第2の接続端子18には2つの外部電極18a、18bが設けてある。
【0027】
従って、図3に示す車載機器用高周波ノイズフィルタ10Aを使用する場合には、フィルタ素子11の第1の電極11aと接続するための端子として、外部電極13および14の両方を利用できる。また、第2の電極11bと接続するための端子として、外部電極15および16の両方を利用できる。つまり、外部電極13、14、15および16のそれぞれの箇所に電線を接続することができる。
【0028】
同様に、図3に示す車載機器用高周波ノイズフィルタ10Bを使用する場合には、フィルタ素子11の第1の電極11aと接続するための端子として、外部電極17aおよび17bの両方を利用できる。また、第2の電極11bと接続するための端子として、外部電極18aおよび18bの両方を利用できる。つまり、外部電極17a、17b、18aおよび18bのそれぞれの箇所に電線を接続することができる。
【0029】
尚、図3を参照して説明した本発明の実施形態では、フィルタ素子11の一端を電源ライン31に電気的に接続するために第1の電極11a、外部電極13、14、及び第1の接続端子17の部材を利用し、フィルタ素子11の他端を接地可能であるとともに負荷22の他端22bに電気的に接続するために第2の電極11b、外部電極15、16及び第2の接続端子18の部材を利用した。これにより、フィルタケース12に自己共振型フィルタを収容した状態でそのフィルタ素子11を電線に接続することができる。しかし、これらの部材は本発明を実施する上で必須のものではない。フィルタ素子11の一端側が、車載直流電源21の一端と車載機器の負荷22の一端22aを接続する電源ライン31に電気的に接続可能であり、フィルタ素子11の他端側が、接地可能であるとともに負荷22の他端22bに電気的に接続可能でありさえすればよい。例えば、フィルタ素子11の一端側およびフィルタ素子11の他端側の少なくとも一方が、フィルタケース12の外周から引き出されていればよい。
【0030】
本発明のフィルタ結線方法を適用したノイズフィルタの接続例(結線図)が図1に示されている。なお、図1においては前述の車載機器用高周波ノイズフィルタ10Aを用いているが、代わりに車載機器用高周波ノイズフィルタ10Bを使用することもできる。
【0031】
図1においては、車載機器の電気回路に影響を及ぼす電磁ノイズを低減することを想定している。すなわち、車両上には様々な電気機器が車載機器として搭載されており、大きな電流のスイッチングを高速で繰り返すインバータなどのスイッチング回路や、リレーやスイッチなどを備えている場合も多い。このようなスイッチング回路等は、ノイズ源となり様々な周波数の高周波ノイズを発生する。
【0032】
このようなノイズ源23は、図1に示すように車載直流電源21の電源ライン31と直接接続されているか、あるいはこの電源ライン31と近接した状態で配置されたワイヤハーネス(図示せず)と接続されている場合が多い。従って、ノイズ源23で発生した高周波ノイズが電源ライン31を経由して様々な車載機器に伝搬することになる。
【0033】
例えば、車両に搭載されたリアデフォッガーの負荷である熱線やハイマウントストップランプなどの近傍には、車載ラジオ受信機のアンテナが存在する場合が多い。そのため、ノイズ源23で発生した高周波ノイズが電源ライン31を経由してリアデフォッガー等に伝搬し、その負荷である熱線の箇所から電磁ノイズとして輻射され、これが前記アンテナを経由して車載ラジオ受信機の入力に混入する。
【0034】
従って、リアデフォッガー等から輻射される電磁ノイズを低減するために、その負荷の近傍の電源ラインとアースラインとの間に、キャパシタ(コンデンサ)型の自己共振型フィルタを接続するのが一般的である。これにより、フィルタの共振周波数に近い高周波の電磁ノイズは負荷の手前で振幅が減衰するので、負荷から輻射される電磁ノイズが低減される。
【0035】
このような用途には、一般的には図7に示すような構成のノイズフィルタCFが用いられている。このノイズフィルタCFは、キャパシタ(C)成分とインダクタ(L)成分とが直列に接続された共振回路を形成するフィルタ素子(コンデンサ)を内蔵しており、端子41、42とアースブラケット43を備えている。すなわち、端子41を電源ラインと接続し、端子42を負荷と接続する。また、金属製のアースブラケット43をアースである車体にねじ止めして固定し、これによりフィルタ素子をアースと接続する。
【0036】
しかし、鉄等の導電体で構成された車体の箇所が負荷の近傍に露出していない場合もある。この場合、アースブラケット43を車体にねじ止めすることができず、したがって、アースブラケット43をアースと接続することができない。従って、ノイズフィルタCFを機能させるために、正しくアースを接続するには、図5に示すように、ノイズフィルタCFのアースブラケット43の電極(P2)と車載直流電源21のアースとの間に適当なアース接続用電線32を接続しなければならない。
【0037】
ところで、図5に示した接続例の状態は、図6に示した等価回路と同じである。すなわち、アース接続用電線32自体にインダクタ成分(Le:例えば200nH)が存在するので、ノイズフィルタCFのアース側電極(P2)は、このインダクタ成分(Le)を経由してアース接続点28でアースに接続される。
【0038】
しかし、図6に示した等価回路においては、ノイズフィルタCFのインダクタ成分(L)およびキャパシタ成分(C)とアース接続用電線32のインダクタ成分(Le)とが直列共振回路を構成するので、ノイズフィルタCFの実際の特性にインダクタ成分(Le)の影響が現れる。すなわち、この場合の共振周波数foは次式で表される。
fo=1/(2π√((L+Le)・C)) ・・・(1)
【0039】
つまり、設計時に想定されるノイズフィルタCF単独の共振周波数に比べて、アース接続用電線32のインダクタ成分(Le)相当分だけ共振周波数にずれが生じてしまう。この種のノイズフィルタの減衰量特性は、一般的に図4に示すように共振周波数の近傍(減衰極周波数)で減衰量が最大になり、この共振周波数からその上下に離れるに従って小さくなる傾向がある。従って、アース接続用電線32のインダクタ成分(Le)の影響を受けて共振周波数foが変化すると、ノイズフィルタCFの減衰量特性の減衰極周波数が図4に示すように移動してしまう。また、実際には配線の長さ1mあたり1μH程度のインダクタ成分(Le)が存在するので、使用するアース接続用電線32の長さの影響も受ける。その結果、設計時に想定した周波数帯(例えば、520kHz〜1650kHz)の一部分又は全域において十分な減衰量が得られなくなる。
【0040】
このような減衰極周波数の移動を防止するために、本発明のフィルタ結線方法を適用して図1に示すように結線する。すなわち、図1に示すように、電線24の一端を車載直流電源21の電源ライン31と接続し、この電線24の他端を外部電極13の箇所(P1)で車載機器用高周波ノイズフィルタ10Aと接続する。また、電線25の一端を外部電極14の箇所(P1)で車載機器用高周波ノイズフィルタ10Aと接続し、この電線25の他端を負荷22の一端22aと接続する。このため、電線24、25もまた、電線ラインを形成することになる。更に、負荷22の他端22bは接地することなく、第1の電線27の一端と接続し、この第1の電線27の他端を、外部電極16の箇所(P2)で車載機器用高周波ノイズフィルタ10Aと接続する。また、第2の電線26の一端を外部電極15の箇所(P2)で車載機器用高周波ノイズフィルタ10Aと接続し、この第2の電線26の他端を適当なアース接続点28でアースの電極(例えば車体)と接続する。
【0041】
図1に示した接続例に対応する等価回路が図2に示されている。図2に示す等価回路においては、第2の電線26を使用することによって車載機器用高周波ノイズフィルタ10Aのアース側端子の位置(P2)からアース接続点28までの距離が長くなる場合であっても、インダクタ成分(Le)が減衰極周波数に影響を与えない。
【0042】
すなわち、車載機器用高周波ノイズフィルタ10Aの一端(P1)が電線25を介して負荷22の一端22aと接続され、車載機器用高周波ノイズフィルタ10Aの他端(P2)が第1の電線27を介して負荷22の他端22bと直接接続されているので、これらの回路からインダクタ成分(Le)の影響が除外される。つまり、負荷22から輻射される電磁ノイズに影響するフィルタの共振周波数foは次式で表される。
fo=1/(2π√(L・C)) ・・・(2)
【0043】
従って、図1に示すように第2の電線26を用いて車載機器用高周波ノイズフィルタ10Aのアース側端子(P2)をこの位置から離れたアース接続点28でアースに接続する場合であっても、このフィルタの減衰極周波数がインダクタ成分(Le)の影響で移動することはない。
【0044】
なお、使用するアース接続用電線32の長さやアース接続点28の位置については適宜変更することができ、これらを変更しても減衰極周波数は変化しない。例えば、車載機器用高周波ノイズフィルタ10Aの一端(P2)の近傍でアースに接続しても良い。しかし、ノイズ低減対象となるリアデフォッガー等の負荷22の近傍に車体側の導電体が露出していない場合には、図7に示すアースブラケット43のような部材でアースに接続することができないので、適当な長さのアース接続用電線32を介して車載機器用高周波ノイズフィルタ10Aの一端(P2)を適当な位置のアース接続点28でアースと接続する必要がある。
【0045】
なお、車載機器用高周波ノイズフィルタ10Bを用いる場合には、図1に示す電線24、電線25、第2の電線26、および第1の電線27をそれぞれ外部電極17a、17b、18a、および18bと接続すればよい。
【0046】
いずれにしても、図3に示した車載機器用高周波ノイズフィルタ10A又は10Bを用いて図1に示すように結線することにより、アース接続用電線32を使用する場合のインダクタ成分(Le)がフィルタの減衰量−周波数特性に影響するのを防止できる。従って、実際の車載機器用高周波ノイズフィルタ10A又は10Bの実装状態においても、設計時に想定した周波数帯(例えば、520kHz〜1650kHz)の全域で十分な減衰量が得られ、電磁ノイズが車載ラジオ受信機等の入力に混入するのを防止できる。
【0047】
以上のように、本発明の車載機器用高周波ノイズフィルタおよびフィルタ結線方法は、車両上で発生した電磁ノイズが車載ラジオ受信機等の入力に混入するのを防止するために利用できる。特に、ノイズフィルタを接続すべき位置(例えばリアデフォッガー)の近傍に車体側の導電体が露出していない場合であっても、ノイズフィルタの性能に影響を及ぼすことなく簡単にアース接続することが可能になる。
【符号の説明】
【0048】
10A,10B 車載機器用高周波ノイズフィルタ
11 フィルタ素子
11a 第1の電極
11b 第2の電極
12 フィルタケース
13,14,15,16 外部電極
17 第1の接続端子
17a,17b 外部電極
18 第2の接続端子
18a,18b 外部電極
21 車載直流電源
22 車載機器の負荷
23 ノイズ源
24,25 電線
26 第2の電線
27 第1の電線
28 アース接続点
31 電源ライン
32 アース接続用電線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャパシタ成分とインダクタ成分とが直列に接続された共振回路を形成する自己共振型フィルタにより構成される車載機器用高周波ノイズフィルタであって、
前記自己共振型フィルタの一端側は、車載直流電源の一端と車載機器の負荷の一端を接続する電源ラインに電気的に接続可能であり、前記自己共振型フィルタの他端側は、接地可能であるとともに前記負荷の他端に電気的に接続可能である、
ことを特徴とする車載機器用高周波ノイズフィルタ。
【請求項2】
前記自己共振型フィルタの一端側である第1の電極に接続され、前記電源ラインの一部を前記第1の電極と接続可能にする第1の接続端子と、
前記自己共振型フィルタの他端側である第2の電極に接続され、アース及び前記負荷の他端を前記第2の電極と接続可能にする第2の接続端子と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の車載機器用高周波ノイズフィルタ。
【請求項3】
前記第1の接続端子および第2の接続端子の少なくとも一方が、前記自己共振型フィルタを囲む電気絶縁性のケースの外周の互いに異なる箇所から引き出された複数の外部電極を備えることを特徴とする請求項2に記載の車載機器用高周波ノイズフィルタ。
【請求項4】
前記第1の接続端子および第2の接続端子の少なくとも一方が、前記自己共振型フィルタを囲む電気絶縁性のケースの外周の同じ箇所から引き出された複数の外部電極を備えることを特徴とする請求項2に記載の車載機器用高周波ノイズフィルタ。
【請求項5】
前記自己共振型フィルタの一端側および前記自己共振型フィルタの他端側の少なくとも一方が、前記自己共振型フィルタを囲む電気絶縁性のケースの外周から引き出されていることを特徴とする請求項1に記載の車載機器用高周波ノイズフィルタ。
【請求項6】
キャパシタ成分とインダクタ成分とが直列に接続された共振回路を形成する自己共振型フィルタを車載直流電源と車載機器の負荷との間に接続して高周波ノイズを低減するためのフィルタ結線方法であって、
前記車載直流電源の一端と前記負荷の一端とを接続する電源ラインに、前記自己共振型フィルタの一端を接続し、
前記負荷の他端側を、接地することなく所定の第1の電線を経由して前記自己共振型フィルタの他端と接続するとともに、前記第1の電線と前記自己共振型フィルタの他端との接続点の近傍で、もしくは前記接続点から所定の第2の電線を経由して前記接続点よりも車載直流電源のアース側の他端と近い位置でアース接続点を形成する
ことを特徴とするフィルタ結線方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−105081(P2012−105081A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−252073(P2010−252073)
【出願日】平成22年11月10日(2010.11.10)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】