説明

車輌に付着した有害生物を死滅させる方法および熱処理施設

【課題】本発明の目的は、車輌に付着した有害生物を死滅させる方法を提供することにある。また本発明はそのための施設を提供することにある。
【解決手段】本発明は、ブース内に車輌を収納し、ブース内の気体の温度を上昇させ、車輌に付着した有害生物を死滅させる方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輌に付着した有害生物を死滅させる方法およびそのための熱処理施設に関する。さらに詳しくは車輌に付着した有害生物を短時間に安全に死滅させるための加熱処理方法およびそのための熱処理施設に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、中古車の輸出が盛んに行われている。この際、独自の生態系を有するオセアニア諸国では、その生態系を維持するため、輸入する全ての中古車輌の検査が行われ、車輌に付着した有害生物を無害化することを要求している。ニュージーランドもその例外ではない。
日本からのニュージーランド向け中古車の輸出台数は12〜17万台/年で、その内の50〜60%が日本で検査が行われている。しかし車輌数が多いため、検査の精度の低下が懸念されている。また有害生物が発見された中古車の措置方法にも課題がある。
有害生物を死滅させる方法として燻蒸による方法が知られている。しかし、燻蒸による方法は、人体に有毒で、環境にも悪影響を与える、臭化メチルなどを用いるためその利用は制限される傾向にある。
そこで、有害な薬物を用いる燻蒸以外の方法で車輌に付着した有害生物を死滅させる方法の開発が求められている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、車輌に付着した有害生物を死滅させる方法を提供することにある。また本発明はそのための施設を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、燻蒸以外の方法で車輌に付着した有害生物を死滅させる方法について検討した。その結果、車輌を密封したブース内に収納し、ブース内の気体の温度を上昇させると、車輌に付着した有害生物を死滅させることができることを見出し、本発明を完成した。
即ち本発明は、ブース内に車輌を収納し、ブース内の気体の温度を上昇させ、車輌に付着した有害生物を死滅させる方法である。また本発明は、車輌に付着した有害生物を死滅させるための熱処理を行うブースを有する施設であって、(i)該ブースは、床部、搬入出部を備えた前壁部、後壁部、左右の側壁部およびこれらを被う屋根部を有し、(ii)該ブースの後壁部、側壁部および屋根部には断熱材を有し、(iii)該ブースは、加熱装置および気体流動装置を有する、車輌の熱処理施設である。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、有害な薬物を用いることなく車輌に付着した有害生物を死滅させることができる。また本発明によれば、車輌内部の温度を隈なく上昇させることができる。また本発明によれば、ブース内のガソリン濃度を上昇させることなく安全に車輌に付着した有害生物を死滅させることができる。また本発明によれば、短時間で車輌を処理することができる。
本発明の施設は、断熱性に優れブース内の気体温度を一定に保つことができる。また本発明の施設は、密閉性に優れブース内の気体を保持することができる。本発明の施設は、車輌の搬入、搬出が容易である。本発明の施設は、ブース内の気体温度のばらつきを小さくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
<熱処理施設>
本発明の熱処理施設は、車輌に付着した有害生物を死滅させるための熱処理を行うブースを有する。本発明の熱処理施設は、複数のブースを有することが好ましい。
【0007】
(ブース)
ブースは、床部(1)、搬入出部(2)を備えた前壁部(3)、後壁部(4)、左右の側壁部(5)およびこれらを被う屋根部(6)を有する。ブースの一例を図1に示す。
ブースの形状は箱型、ドーム型、立体型など車輌が搬入出できる形状のものであればよく、その形状に特に制限はない。ブースは風雨に直接曝されることのない、加熱気体の熱ロスを最小限にする2重構造の建屋を有するのがよい。ブースは、長さ15〜40m、幅9〜40mであることが好ましい。また、ブースの車輌の収容台数は、3〜40台であるのがよい。2台では処理台数の効率が悪く実用的でなく、好ましくは4台がよく、収納台数41台以上になると車輌全体の気体の温度が均一にならず、好ましくは16台がよい。
ブースの後壁部(4)、左右の側壁部(5)およびこれらを被う屋根部(6)には断熱材を有する。断熱材の厚みは5〜200mmまでがよい。5mm未満では断熱効果が悪く、好ましくは20mmであり、また201mm以上ではこれより厚くても断熱効果に変りがなく無駄となり、好ましくは100mmがよい。断熱材としてはポリスチレンフォーム、硬質ポリウレタンフォーム、ロックウール、グラスウール、繊維混入セメントボードなどがよい。本発明の熱処理施設は、複数のブースを有していてもよい。
【0008】
搬入出部(2)を備えた前壁部の床には、幅が10〜100mm、深さが10〜100mmの水溝を設置し、搬入出部の天井から熱バリヤー性のシートを吊るして水溝に漬けてブースの気密を確保し加熱空気の熱ロスを防ぐことが好ましい。熱バリヤー性シートの厚みは0.1〜50mmがよい。0.1mmより薄いと断熱効果に劣り、好ましくは2mmで、50mmより厚いと車輌の搬入出の邪魔となり、好ましくは10mmがよい。熱バリヤー性シートは塩化ビニール樹脂、ポリエチレン樹脂などのプラスチックシート、また綿布、合成繊維布、ゴムなどが挙げられる。
ブースは、車輌の搬入、搬出ための開閉部として、前壁部の上部から吊り下げられたシートを有することが好ましい。また、該シートの裾部は、水溝中に入れられ、水溝中の水により気密性が保たれていることが好ましい。即ち、ブースは、前壁部の上部から吊り下げられたシートを有し、該シートの裾部は、水溝中に入れられ、水溝中の水により気密性が保たれていることが好ましい。
車輌の搬入および搬出を容易にするため、ブースの床部にタイヤガイドを有することが好ましい。
【0009】
(建屋)
建屋は内部にブースを設置できる構造であればよく、構造に特に制限はない。建屋は風、雨、地震などの防げる構造で、車輌の搬入出ができるシャッターがある気密な構造であることが好ましい。建屋はシート、平板またはこれら組合せ、並びに支柱からなることが好ましい。建屋は、支柱および平板より構成されていてもよい。平板としてプラスチックシート、金属板、セメント板などが挙げられる。建屋は、支柱およびシートよりなるテントであってもよい。シートは難燃シートが好ましい。
建屋は、ブースを1個以上設置できる大きさであればよく、好ましくはブースを2個以上設置できる大きさがよい。従って、建屋は、横5〜50m、長さ10〜80m、高さ2〜5mであることが好ましい。
【0010】
(加熱装置)
ブースは、加熱装置および気体流動装置を有することが好ましい。かかる本発明のブース内の気体を上昇させる加熱装置として、ボイラー、シーズヒーター、赤外線ヒーター、遠赤外線ヒーター、燃焼バーナー、熱交換器、面状発熱体およびこれらを組合わせが挙げられる。好ましくは熱交換器、シーズヒーター、面状発熱体である。より好ましくは熱交換器である。熱交換器は、エロフィン方式、プレートフィン方式、フィンチューブ方式のいずれでもよい。熱交換器の熱媒体は、水、油などの液体、または蒸気、ガスなどいずれでもよい。蒸気または油が好ましい。
また、加熱気体の吹き出し口は、床部、左右の側壁面部、天井部、搬入出部を備えた前壁部、後壁部などいずれでもよい。好ましくは、床部または/および左右の側壁部がよい。また、加熱気体の吹き出し口の数は、好ましくは2箇所以上である。吹き出し口が2箇所以上あれば、ブース内の気体の温度のバラツキが少なくなる。
ボイラー(7)、蒸気ヘッダー(8)、蒸気熱交換コイル(9)、循環ファン(10)、気体吹出口(11)、気体吸入口(12)、蒸気配管系統(13)および気体循環配管系統(14)を有すブースの平面図の一例を図2に示す。
【0011】
(気体流動装置)
気体流動装置として、送風機、撹伴機およびこの組合わせが挙げられる。また、送風機、攪拌機として、シロッコファン、ルーツブロワー、軸流ファン、油圧換気扇、扇風機などが挙げられる。気体流動装置は、ブース内の加熱およびブース内の気体を排出するのに用いることができる。気体流動装置を取り付ける場所は特に限定しないが、好ましくは、天井部、側壁部である。気体の吹き出し口の数は、好ましくは2個以上である。また、吹き出し口の取り付ける場所は、好ましくは床部、側壁部である。ブースは、ブロワーを取り付けた導管を有することが好ましい。
【0012】
(可燃性ガス警報装置)
ブースは、可燃性ガス検知警報装置を有することが好ましい。警報装置の型式としてはハンデー型、壁掛け型、定置型が挙げられるが、好ましくは定置型がよい。また、測定方式としては赤外線方式、接触燃焼方式、半導体方式が挙げられる。
【0013】
(防爆装置)
ブースは、防爆設備を有することが好ましい。防爆設備を必要とする装置は、加熱装置、気体流動装置、排気装置、可燃性ガス警報装置および照明器具等が挙げられる。
【0014】
(爆発防止自動制御システム)
ブースは、爆発防止自動制御システムを有することが好ましい。該システムは、ガソリン濃度を定置型濃度測定器で三箇所以上測定し、そのいずれか1箇所の濃度が1000ppm以上において、排気ファンを自動的に稼動して外気の気体を吸入し、ガソリン濃度を10ppm以下まで下げる。10ppm未満に下がったら排気ファンを自動的に停止する。また、万一ガソリン濃度が危険濃度(10000ppm以上)域に達したときは自動的に加熱を停止すると共に緊急警報システムにより自動的に排気ファンで外気の気体と置換するシステムである。
【0015】
(その他)
ブースに車輌を搬入出するとき、車輌はバッテリーの充電切れで動かないものが多くある。そのため、施設には、車輌を搬入出させるためのバッテリーを充電する充電装置またはウインチ等の駆動装置があるものがよい。また、ローラーを取り付けて搬入出してもよく、コンベヤーを取り付けて搬入出してもよい。
【0016】
<車輌に付着した有害生物を死滅させる方法>
本発明は、ブース内に車輌を収納し、ブース内の気体の温度を上昇させ、車輌に付着した有害生物を死滅させる方法である。
本発明の対象車輌は、主に輸出中古車輌であるが、輸出新車輌も含まれる。車輌の種類としては乗用車、ワゴン車、RV車、ライトバン、バス、トラック、およびオートバイなどが挙げられる。有害生物として、昆虫網、クモ類などの節足動物、アフリカマイマイ、カタツムリ類などの軟体動物などが挙げられる。
また、本発明の熱処理方法はブース内の気体湿度が50〜80%のとき有害生物に対して効果的に作用する。また、ブース内の気体は、空気であるが、二酸化炭素ガス、窒素ガスなどを併用してもよい。
本発明は、
(1)車輌をブース内に搬入する搬入工程、
(2)ブース内の気体の温度を上昇させ、50〜80℃に維持する加熱工程、
(3)ブース内の気体を排出する冷却工程、および
(4)車輌をブース外に搬出する搬出工程、
を含むことが好ましい。
【0017】
(搬入工程)
車輌をブース内に搬入する工程である。搬入は、車輌のエンジンを起動して自走して行うことができる。自走して行う場合、車輌はバッテリーの充電切れで動かないものが多くある。そのため、バッテリーを充電する必要がある場合がある。また、ローラーやコンベヤーで搬入することもできる。
【0018】
(加熱工程)
加熱工程は、ブース内の気体の温度を上昇させ、50〜80℃に維持する工程である。車輌はタンク内に可燃性のガソリンを有しており、加熱により上昇するブース内のガソリン濃度を出来るだけ低くする必要がある。また、車輌内部は複雑な形状を有しており、車輌内の温度のばらつきを抑え、出来るだけ均一に加熱する必要がある。また、時間当たり出来るだけ多くの車輌を処理するため、短時間で処理する必要がある。
以上のような車輌を加熱する際に特有の課題に着目して検討した結果、ブース内へ送られる気体の温度、送風量などを特定の範囲とすることにより、ガソリン濃度の上昇を抑え、車輌の温度を殺虫に必要な温度まで上昇させることができることを見出した。
【0019】
気体の温度の上昇は、加熱装置で行う。加熱装置の熱媒体の温度は、好ましくは50〜500℃、より好ましくは80〜300℃である。50℃未満ではブース内の気温の上昇が悪く、500℃を超えると熱源のコストが高くなる。
また、加熱装置で加熱された気体は、気体流動装置によりブース内に送られる。気体の流速は、好ましくは1〜5m/秒、より好ましくは2〜3m/秒である。1m/秒未満ではブース内の気温の上昇が悪く、5m/秒を超えると気体温度を50℃以上にコントロールするのに風量が大きすぎて加熱装置のコストが高くなる。
気体流動装置からブース内へ送られる気体の温度は、好ましくは60〜80℃である。気体の温度が60℃未満ではブース内の気体の温度上昇に時間が長くかかり、車輌の処理台数の効率が悪くなる。また80℃を超えると、ガソリンタンクからガソリンの漏洩が多くなり、ブース内のガソリン濃度が高くなり爆発の危険性が増し、また、車輌に障害が生じる恐れがある。
【0020】
加熱工程は、下記式(1)で表される送風量(V)で、温度60〜80℃の気体をブース内に送風することにより行うことが好ましい。
0.5V≦V (1)
但し、Vはブースの容積(m)、Vは1分間あたりの送風量(m)である。
送風量が大きすぎると熱量のむだとなる。また、流動が少ないと温度のムラが生じる。従って、0.5V≦V≦1.5Vであることがより好ましい。
ブース内の気体の温度は、1〜2℃/分の速度で上昇させることが好ましい。加熱工程の時間は、好ましくは10分間〜3時間、より好ましくは30分間〜2時間である。加熱工程の時間が10分未満だと加熱設備と熱量コストが高くなる。3時間を超えると、ガソリンタンクからガソリンの漏洩が多くなってブース内のガソリン濃度が高くなり爆発の危険性が増す。また加熱工程の時間が長いと多くの車輌が処理しきれないのでブースの数を増やす必要がありコストが高くなる。
加熱工程では、ブース内の気体を維持する時間を設けることが好ましい。即ち、ブース内の気体の温度を50〜80℃で、5分間から1時間維持することが好ましい。維持する時間が短すぎると、有害生物に対する効果が無く、また、長すぎると有害生物に対する効果に差がなく、またガソリン濃度が上昇して危険性が増す。
【0021】
(冷却工程)
冷却工程は、ブース内の気体を排出する工程である。ブース内の気体を排出する風量は、好ましくは8〜1000m/分、より好ましくは10〜500m/分である。風量が8m/分未満ではブース内の冷却が遅く、あまり風量が大きすぎてもエネルギーの無駄となる。排出は、送風機または/および撹伴機を用いて行うことが出来る。送風機、攪拌機として、シロッコファン、ルーツブロワー、軸流ファン、油圧換気扇などが挙げられる。
また送風機等は、別に取り付けてもよいが、好ましくはブース内に気体を送風する装置と同一の物を使用するのがよい。また、2つ以上のブースを使用するとき、排出する気体は導管を用いて車輌の搬入が終了した他のブースに接続し、有効に加熱気体を利用することが好ましい。
加熱工程および冷却工程において、火災の危険性を回避するためには、ブース内のガソリン濃度を1Vol%以下に維持することが好ましい。ブース内のガソリン濃度は、0.1Vol%に維持することがより好ましい。従って、加熱工程および冷却工程は、可燃性ガス検知警報装置を作動させて行なう必要がある。また、警報装置の型式としてはハンデー型、壁掛け型、定置型が挙げられるが、好ましくは定置型がよい。また、測定方式としては赤外線方式、接触燃焼方式、半導体方式が挙げられる。
【0022】
(搬出工程)
車輌をブース外に搬出する工程である。搬出は、車輌のエンジンを起動して自走して行なうことができる。自走して行う場合、車輌はバッテリーの充電切れで動かないものが多くある。そのため、バッテリーを充電する必要がある場合がある。また、ローラーやコンベヤーで搬出することもできる。
【0023】
(処理サイクル)
本発明のブースを効率的に使用する方法として、AブースおよびBブースの2つを用い、各ブースで搬入工程、加熱工程、冷却工程および搬出工程を順次行ない車輌に付着した有害生物を死滅させる方法であって、AブースとBブースとで以下の第1〜第6段階を実施した後、第3〜第6段階を繰り返す方法が好ましい。
第1段階:Aブースで搬入工程を実施する。
第2段階:Aブースで加熱工程を実施する。
第3段階:Aブースで冷却工程を実施し、Bブースで搬入工程を実施する。
第4段階:Aブースで搬出工程を実施し、Bブースで加熱工程を実施する。
第5段階:Aブースで搬入工程を実施し、Bブースで冷却工程を実施する。
第6段階:Aブースで加熱工程を実施し、Bブースで搬出工程を実施する。
これにより多数の車輌が効率的に処理できる。
【0024】
更に、ブースを効率的に使用する方法として、Aブース〜Dブースの4つのブースを用い、各ブースで搬入工程、加熱工程、冷却工程および搬出工程を順次行ない、Aブース〜Dブースで以下の第1〜第7段階を実施した後、第4〜第7段階を繰り返す方法が好ましい。
第1段階:Aブースで搬入工程を実施する。
第2段階:Aブースで加熱工程を実施し、Bブースで搬入工程を実施する。
第3段階:Aブースで冷却工程を実施し、Bブースで加熱工程を実施し、Cブースで搬入工程を実施する。
第4段階:Aブースで搬出工程を実施し、Bブースで冷却工程を実施し、Cブースで加熱工程を実施し、Dブースで搬入工程を実施する。
第5段階:Aブースで搬入工程を実施し、Bブースで搬出工程を実施し、Cブースで冷却工程を実施し、Dブースで加熱工程を実施する。
第6段階:Aブースで加熱工程を実施し、Bブースで搬入工程を実施し、Cブースで搬出工程を実施し、Dブースで冷却工程を実施する。
第7段階:Aブースで冷却工程を実施し、Bブースで加熱工程を実施し、Cブースで搬入工程を実施し、Dブースで搬出工程を実施する。
これにより多数の車輌を効率的に処理できる。
【実施例】
【0025】
実施例1(ブースの設置)
(建屋)
軽量鉄骨材の枠組みにターポリンシート(カボターロンターポリン、厚さ:0.35mm、カンボウプラス(株)製)をかぶせ建屋(長さ:9000mm、幅:3150mm、高さ:3600mm)を設置した。建屋の車輌の出入口には高速シャッターを設けた。
【0026】
(ブース)
建屋内に、乗用車1台が収納できる箱型(長さ:5400mm、幅:2250mm、高さ:1800mm)のブース(21.9m)を建設した。このブースは軽量鉄骨材で枠組みし、後壁部、側壁部、および屋根部に厚さ4mmの合板を取り付けた。
【0027】
(後壁部、側壁部および屋根部)
また、後壁部、側壁部および屋根部には、約50mmの繊維混入セメントボード(アキレスソトダンSDパネル、メーカー:アキレス)の断熱材を取り付け、更に、同部分を20mmの硬質ウレタンホームの断熱材で保護した。
【0028】
(前壁部)
搬入出部の床には長さ2250mm、幅50mm、深さ100mmの水溝を設け、前壁部の天井から吊るした厚さ2mmのプラスチックシートを水に漬けた。また、ブース内の床部には、乗用車が搬入出しやすいように幅400mm、長さ5000mm、深さ80mmのタイヤガイドを取り付けた。
【0029】
(加熱装置、気体流動装置)
熱風発生機(型式;TSK:101B,能力はヒーター容量:45kW(200V,3相)、送風量(型式;YU−2200):32m/分、メーカー:(株)竹鋼製作所)を建屋内に設置し、熱風発生機の吸入口をブースの上部に、吐出口をブースの下部にアルミ製ダクトで接続し、加熱装置、気体流動装置とした。
【0030】
(可燃性ガス検知器)
ブースには、可燃性ガスの検知器を設置した。
【0031】
実施例2(有害生物の駆除)
<評価方法>
(温度)
自記記録温度計(おんどとり:TR−72S型、Thermo Recorder製)をブース内の下部(a)、車内空間の下(座席シートの下)(b)、ボンネットの中(c)およびブースの外(外気温)(d)に設置し、各部の温度の経時変化を測定した。設置場所を図3に示す。
(殺虫効果)
コクゾウムシ成虫100頭を200メッシュ金網付き蓋の容器に入れ、車内座席シートの下(b)、ボンネットの中(c)に置き、殺虫効果を試験した。
殺虫効果は、所定の加熱処理時間後、車内に設置していた供試虫を25℃、70%の恒温器に24時間保管した後、供試虫の動きを肉眼で観察し、生死の判定を行い殺虫率を算出した。未処理区の供試虫はブースの外に所定時間放置し、供試虫と同様に生死の判定を行った。
【0032】
(ガソリン濃度)
テフロン(登録商標)パイプ(内径:4mm)をブース内の下部(a)および車内座席シートの下(b)に設置し、ガソリン測定用検知管(型式:101または101L,メーカー:(株)ガスッテク)で経時的に測定した。
また、同時にポリエチレンパイパイプを車内空間に設置し、これに可燃性ガス警報器(型式:GP−88A、接触燃焼式、理研計器(株)製)を取り付け監視した。
【0033】
<搬入工程>
ガソリンが約4分の1残っている乗用車(平成10年式、セダン、2500cc、長さ:4760mm、幅:1750mm、高さ:1390mm)をバッテリー充電装置でエンジンを掛け、窓およびグローブボックスを開けた後、建屋の高速シャッターを開け、ブース内の塩化ビーニールシート(厚み:2.5mm)はそのままの状態で、乗用車を搬入した。
【0034】
<加熱工程>
熱風発生機の加熱温度は200℃で、風量はインバーターで設定して30m/分とし、熱風吐出温度の設定は80℃とした。a〜cの測定箇所の温度計の表示温度が全て65℃になったら熱風吐出温度の設定を65℃として、10分間維持し、加熱を終了する。
【0035】
(冷却工程)
加熱工程の終了後、熱風発生機のブロワーを利用して、ブース内に外気を取り入れ乗用車を各箇所の表示温度が約30℃になるまで冷却した。設置した供試虫および全ての温度計を回収した。
【0036】
(搬出工程)
再び乗用車にバッテリー充電装置で車にエンジンをかけ、搬入したときと同様にして建屋外に搬出した。
各部の温度、ガソリン濃度の経時変化を表1に示す。また殺虫効果を表2に示す。また実験中、可燃性ガスの発火はなかった。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
加熱条件が加熱設定温度:200℃で、熱風吐出温度:80℃で、循環風量:30m/分のとき、ブース内の下部(1)、車内座席シートの下(2)、ボンネットの中(3)は加熱開始後、30分で50℃以上となり、また40分後には65.4〜67.8℃とほぼ均一になった。また、65℃になってから10分間均一に維持できた。この結果より、熱量に対して循環風量が適正であることが分かる。
ガソリン濃度は、温度上昇により加速的に増加する。しかし、ブース内の気体の温度および循環風量を維持することにより、ガソリン濃度の上昇を抑えることができる。
供試したコクゾウムシ成虫を全て殺虫することができた。
供試した中古乗用車は正常に駆動できた。このことにより、本発明方法が車輌の駆動に障害を与えないことが分かる。
可燃性ガスに異常はなかった。このことにより、本発明方法が安全な方法であることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】ブースの斜視図である。
【図2】ブースの平面図である。
【図3】実施例における供試虫の設置位置、温度およびガソリン濃度の測定位置を示す図である。
【符号の説明】
【0041】
1 床部
2 搬入出部
3 前壁部
4 後壁部
5 側壁部
6 屋根部
7 ボイラー
8 蒸気ヘッダー
9 蒸気熱交換コイル
10 循環ファン
11 気体吹出口
12 気体吸入口
13 蒸気配管系統
14 気体循環配管系統
a ブース内の下部
b 車内座席シートの下
c ボンネットの中

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブース内に車輌を収納し、ブース内の気体の温度を上昇させ、車輌に付着した有害生物を死滅させる方法。
【請求項2】
(1)車輌をブース内に搬入する搬入工程、
(2)ブース内の気体の温度を上昇させ、50〜80℃に維持する加熱工程、
(3)ブース内の気体を排出する冷却工程、および
(4)車輌をブース外に搬出する搬出工程、
を含む請求項1記載の方法。
【請求項3】
加熱工程は、下記式(1)で表される送風量(V)で、温度60〜80℃の気体をブース内に送風することにより行う請求項2記載の方法。
0.5V≦V (1)
(但し、Vはブースの容積(m)、Vは1分間あたりの送風量(m)を表す。
【請求項4】
加熱工程において、ブース内の気体の温度を50〜80℃で5分間から1時間維持する請求項2記載の方法。
【請求項5】
加熱工程および冷却工程において、ブース内のガソリン濃度を1Vol%以下に維持する請求項2記載の方法。
【請求項6】
AブースおよびBブースの2つを用い、各ブースで搬入工程、加熱工程、冷却工程および搬出工程を順次行い車輌に付着した有害生物を死滅させる方法であって、AブースとBブースとで以下の第1〜第6段階を実施した後、第3〜第6段階を繰り返す請求項2記載の方法。
第1段階:Aブースで搬入工程を実施する。
第2段階:Aブースで加熱工程を実施する。
第3段階:Aブースで冷却工程を実施し、Bブースで搬入工程を実施する。
第4段階:Aブースで搬出工程を実施し、Bブースで加熱工程を実施する。
第5段階:Aブースで搬入工程を実施し、Bブースで冷却工程を実施する。
第6段階:Aブースで加熱工程を実施し、Bブースで搬出工程を実施する。
【請求項7】
Aブース〜Dブースの4つのブースを用い、各ブースで搬入工程、加熱工程、冷却工程および搬出工程を順次行い車輌に付着した有害生物を死滅させる方法であって、Aブース〜Dブースで以下の第1〜第7段階を実施した後、第4〜第7段階を繰り返す請求項2記載の方法。
第1段階:Aブースで搬入工程を実施する。
第2段階:Aブースで加熱工程を実施し、Bブースで搬入工程を実施する。
第3段階:Aブースで冷却工程を実施し、Bブースで加熱工程を実施し、Cブースで搬入工程を実施する。
第4段階:Aブースで搬出工程を実施し、Bブースで冷却工程を実施し、Cブースで加熱工程を実施し、Dブースで搬入工程を実施する。
第5段階:Aブースで搬入工程を実施し、Bブースで搬出工程を実施し、Cブースで冷却工程を実施し、Dブースで加熱工程を実施する。
第6段階:Aブースで加熱工程を実施し、Bブースで搬入工程を実施し、Cブースで搬出工程を実施し、Dブースで冷却工程を実施する。
第7段階:Aブースで冷却工程を実施し、Bブースで加熱工程を実施し、Cブースで搬入工程を実施し、Dブースで搬出工程を実施する。
【請求項8】
車輌に付着した有害生物を死滅させるための熱処理を行うブースを有する施設であって、
(i)該ブースは、床部、搬入出部を備えた前壁部、後壁部、左右の側壁部およびこれらを被う屋根部を有し、
(ii)該ブースの後壁部、側壁部および屋根部には断熱材を有し、
(iii)該ブースは、加熱装置および気体流動装置を有する、
車輌の熱処理施設。
【請求項9】
複数のブースを有する請求項8記載の熱処理施設。
【請求項10】
前壁部の上部から吊り下げられたシートを有し、該シートの裾部は、水溝中に入れられ、水溝中の水により気密性が保たれている請求項8記載の熱処理施設。
【請求項11】
ブースの床部にタイヤガイドを有する請求項8記載の熱処理施設。
【請求項12】
ブースは、ブロワーを取り付けた導管を有する請求項8記載の熱処理施設。
【請求項13】
ブースは、可燃性ガス警報装置を有する請求項8記載の熱処理施設。
【請求項14】
ブースは、防爆装置を有する請求項8記載の熱処理施設。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−17846(P2009−17846A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−184248(P2007−184248)
【出願日】平成19年7月13日(2007.7.13)
【出願人】(503235813)テクノ化成株式会社 (3)
【Fターム(参考)】