説明

車輪用転がり軸受装置

【課題】被水量の低減を図ると共に、密封部材に浸入した泥水の排水性の向上を図った車輪用転がり軸受装置を提供する。
【解決手段】車体側に固定される外輪部材24と、外輪部材24内に挿通されて配置され軸方向一端部に車輪を取付けるためのハブフランジ42を有するハブ軸部材30と、ハブ軸部材30と外輪部材24との間に介装される玉26(転動体)と、を備えてハブ軸部材30が外輪部材24に対し軸心回りに回動可能に支承される転がり軸受が構成され、外輪部材24とハブ軸部材30の間の環状空間のハブフランジ42側の位置に、転がり軸受用密封装置50(密封部材)が設けられている車輪用転がり軸受装置20であって、ハブフランジ42と、これに対向する外輪部材24の軸方向端面との間の隙間は、相対的に、車輪の接地面である地側隙間が大きく、地側隙間と反対の天側隙間が小さく設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は車輪用転がり軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車のホイール用軸受として、特許文献1のような車輪用転がり軸受装置が知られている。この車輪用転がり軸受装置は、車体側に固定される外輪部材と、この外輪部材内に挿通されて配置され軸方向一端部に車輪を取付けるためのハブフランジを有するハブ軸部材と、このハブ軸部材と外輪部材との間に介装される転動体と、を備えてハブ軸部材が外輪部材に対し軸心回りに回動可能に支承される転がり軸受が構成されており、転がり軸受が構成される外輪部材とハブ軸部材の間の環状空間のハブフランジ側の位置に、密封部材が設けられている。そして、一般的な使用環境においては、外輪部材とハブ軸部材の間にラビリンスすきまを設けて、密封部材への被水量を低減して泥水浸入の防止を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−49852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、過酷な自然環境下や悪質な道路状態などの泥水環境が厳しい地域での使用では、上記構成のラビリンスすきまによっては十分な耐泥水性能を確保できないおそれがある。また、一度ラビリンスすきまを抜けて密封部材に浸入した泥水は抜け難いといった問題が懸念される。
【0005】
而して、本発明は、このような点に鑑みて創案されたものであり、本発明が解決しようとする課題は、被水量の低減を図ると共に、密封部材に浸入した泥水の排水性の向上を図った車輪用転がり軸受装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の車輪用転がり軸受装置は次の手段をとる。
先ず、第1の発明に係る車輪用転がり軸受装置は、車体側に固定される外輪部材と、該外輪部材内に挿通されて配置され軸方向一端部に車輪を取付けるためのハブフランジを有するハブ軸部材と、該ハブ軸部材と外輪部材との間に介装される転動体と、を備えて前記ハブ軸部材が外輪部材に対し軸心回りに回動可能に支承される転がり軸受が構成されており、該転がり軸受が構成される前記外輪部材とハブ軸部材の間の環状空間の前記ハブフランジ側の位置に、密封部材が設けられている車輪用転がり軸受装置であって、前記ハブ軸部材のハブフランジと、これに対向する外輪部材の軸方向端面との間の隙間は、相対的に、車輪の接地面である地側が大きく、該地側と反対の天側が小さく設定されていることを特徴とする。
【0007】
この第1の発明によれば、ハブ軸部材のハブフランジと、これに対向する外輪部材の軸方向端面との間の隙間は、相対的に、車輪の接地面である地側が大きく、地側と反対の天側が小さく設定されている。天側の隙間を詰めることで密封部材への被水を低減することができる。また地側の隙間は、相対的に天側の隙間より大きく設定されていることから排水性も確保されている。これにより、被水量の低減を図ると共に、密封部材に浸入した泥水の排水性の向上を図ることができる。
【0008】
次に、第2の発明に係る車輪用転がり軸受装置は、前記ハブ軸部材のハブフランジと、これに対向する外輪部材の軸方向端面との間の隙間は、前記外輪部材の軸方向端面を段差形状で一体形成することで構成されることを特徴とする。
【0009】
この第2の発明によれば、天側及び地側の隙間は、外輪部材の軸方向端面を段差形状で一体形成することで構成される。これは、外輪部材の軸方向端面の形状を利用して隙間を構成するものであり、新たな部材を要することがなくコストアップの抑制が図れる。
【発明の効果】
【0010】
本発明は上記各発明の手段をとることにより、被水量の低減を図ると共に、密封部材に浸入した泥水の排水性の向上を図った車輪用転がり軸受装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態1に係る車輪用転がり軸受装置に車輪が装着された状態を示す断面図である。
【図2】本発明の実施形態1に係る車輪用転がり軸受装置を示す断面図である(図1のII部分の部分拡大断面図)。
【図3】図2のIII部分の部分拡大断面図である。
【図4】図2のIV部分の部分拡大断面図である。
【図5】本発明の実施形態1に係る車輪用転がり軸受装置の外輪部材の側面図である(図2のV方向矢視図)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
この発明を実施するための実施形態1を図1〜図5にしたがって説明する。なお、各図に適宜矢印で示す方向は、車輪用転がり軸受装置20を適用する車両の外方側、内方側、天側、地側とそれぞれ一致する方向である。
図1に図示されるように、車両において、タイヤ12及びホイール14から構成される車輪10を懸架装置(図示省略)に支持するとともに、ブレーキディスクロータ16を介して車輪10を回転可能に支持する車輪用転がり軸受装置20が構成されている。
この車輪用転がり軸受装置20は、図2に図示されるように外輪部材24と、ハブ軸部材30と、複数の玉(転動体)26、26と、転がり軸受用密封装置50(密封部材)と、を主体として構成される。
【0013】
図2に図示されるように、外輪部材24は、車体側のナックルアーム等の懸架装置(図示省略)に固定される部材である。外輪部材24は、略円筒状に構成された部材である。内周面に複列の外輪軌道面24aが形成されている。なお、外輪部材の軸方向端面の段差形状については、後述する。
【0014】
図2に図示されるように、ハブ軸部材30は、外輪部材24内に挿通されて配置され軸方向一端部に車輪10(図1参照)を取付けるためのハブフランジ42を有する。
詳しくは、ハブ軸部材30は、外輪部材24内に挿通されるとともに転がり軸受が組み付けられる軸部32と、この軸部32の一端に形成されかつこの軸部32よりも大径で車輪10(図1参照)の中心孔が嵌込まれる嵌合軸部36と、軸部32と嵌合軸部36との間に位置する外周面に外径方向へ放射状に延出されかつ車輪10(図1参照)を締め付けるハブボルト38が配置されるボルト孔40が貫設されたハブフランジ42とを有している。
この軸部32のハブフランジ42側の根元部33に内輪軌道面33aが形成されている。また軸部32の端部に嵌合される内輪素子22の外周面に内輪軌道面22aが形成されている。これら内輪軌道面33a及び内輪軌道面22aによって内輪を構成している。また、内輪軌道面33a及び内輪軌道面22aの外周側には、内周面に複列の外輪軌道面24aが形成される外輪部材24が構成されている。
【0015】
また、ハブ軸部材30の内輪軌道面33a及び内輪素子22の内輪軌道面22aと、外輪部材24の外輪軌道面24aの間には複数の玉(転動体)26、26が配置構成されている。また、この転動体26を内輪軌道面22aと外輪軌道面24aとの間で転動可能に保持する保持器28が構成されている。
これらの構成によって、ハブ軸部材30の軸部32の外周面には、転がり軸受としての複列のアンギュラ玉軸受が組み付けられる構成となる。よって、ハブ軸部材30は外輪部材24に対し軸心回りに回動可能に支承される。
【0016】
図2に図示されるように、この車輪用転がり軸受装置20の内部空間にはグリースが封入されており、低摩擦化、低磨耗化を図っている。
そして、図3、4に図示されるように車輪用転がり軸受装置20の外輪部材24とハブ軸部材30の間の環状空間の開口端のうちハブフランジ42側の位置には、先端にシールリップ62を有する弾性シール部材60を取付けた環状部材52が構成される転がり軸受用密封装置50(密封部材)が介挿されている。
この転がり軸受用密封装置50(密封部材)は、上記車輪用転がり軸受装置20の内部空間に封入したグリースが外部に漏洩するのを防止すると共に外部からの水、埃、泥等の異物の侵入を防止するために構成されるものである。
【0017】
図3、4に図示されるように、転がり軸受用密封装置50は、環状部材52と弾性シール部材60から構成されている。
環状部材52は、シールリップ62を有する弾性シール部材60を環状に配置形成するための骨格となるものである。この環状部材52は、金属製(例えば、炭素鋼板)の板状部材をプレス成型等の塑性加工、打ち抜き加工等により形成されており、外周面が外輪部材24の内周面に嵌合する第1円筒部54と、この第1円筒部54の端部から径方向内方に延出した環状平板部56と、この環状平板部56における第1円筒部54が配設される径方向端部とは反対側の端部から軸方向に延出した第2円筒部58と、によって断面略U字状の環状に一体形成されている。この環状部材52には、外部からの水、埃、泥等の異物の侵入を防止するために弾性シール部材60のシールリップ62が配設されている。
【0018】
図3、4に図示されるように、この弾性シール部材60における先端のシールリップ62は、内輪としても構成されるハブ軸部材30の軸部32の根元部33側に構成される2つの摺接面に摺接することで外部からの水、埃、泥等の異物の侵入を防止する構成とされている。まず、ハブ軸部材30の軸部32の根元部33の外周に構成されるのが根元部摺接面34である。次に、ハブ軸部材30の軸部32とハブフランジ42が交差する部位には、ハブフランジ42に向けて滑らかな隅Rの面形状が形成されている。そして、ハブ軸部材30のハブフランジ42においてこの隅R近傍に構成されるのがハブフランジ摺接面44である。
この弾性シール部材60における先端のシールリップ62は、この根元部摺接面34とハブフランジ摺接面44に向かって3方向に突き出し状に環状形成され、主リップ64、補助リップ66、サイドリップ68の3つの構成からなる。根元部摺接面34に対し径方向の弾性力を付与して摺接するのが主リップ64、補助リップ66である。また、ハブフランジ摺接面44に対し軸方向の弾性力を付与して摺接するのがサイドリップ68である。
【0019】
更に、図3、4に図示されるように外輪部材24は、ハブ軸部材30のハブフランジ42と対向する軸方向端面が段差形状で一体形成されている。
図4に図示されるように、車輪10(図1参照)の接地面である地側には地側外輪端面241が形成されている。また図3に図示されるように、地側外輪端面241と反対の天側には天側外輪端面243が形成されている。この地側外輪端面241、天側外輪端面243の構成により、ハブ軸部材30のハブフランジ42との間に2つの隙間を有している。
図4に図示されるように、地側外輪端面241とハブフランジ42との間の隙間は、地側隙間241dとして構成される。図3に図示されるように、天側外輪端面243とハブフランジ42との間の隙間は、天側隙間243dとして構成される。
【0020】
図3、4に図示されるように、両隙間241d、243dの関係は、相対的に地側隙間241dが大きく、天側隙間243dが小さく設定されている。
詳細には、図4に図示されるように地側隙間241dは、1.2mm〜2.0mmであることが好ましい。
これは、地側隙間241dは、1.2mm未満であると泥水の円滑な排水が期待できないし、2.0mmより大きいとかかる地側隙間241dから泥水の浸入が促進されるおそれがあるためである。
【0021】
図3に図示されるように、天側隙間243dは、0.4mm〜0.8mmであることが好ましい。
これは、密封性を担保するために、天側隙間243dを0.4mm未満にすると天側外輪端面243とハブフランジ42との間が非常に近接した状態となる。そうすると、車両に車輪用転がり軸受装置20を搭載したときに、車輪10(図1参照)からの捩れ荷重によりハブフランジ42が倒れることがある。この倒れにより、ハブフランジ42が、天側外輪端面243や転がり軸受用密封装置50と干渉して、天側外輪端面243の磨耗が発生したり、転がり軸受用密封装置50の密封性能が損なわれることが発生し得るためである。一方、天側隙間243dが0.8mmより大きいと、被水量の低減が図れないおそれがあるためである。
【0022】
また、地側外輪端面241の形成領域245は、図5に図示されるように外輪部材24の軸方向の側面視において、外輪部材24の軸中心244の中心角で60度〜150度であることが好ましい。これは、地側外輪端面241の形成領域245が、60度未満であると泥水の円滑な排水が期待できないし、150度より大きいと地側隙間241dから泥水の浸入が促進されるおそれがあるためである。
【0023】
この地側外輪端面241は、外輪部材24の鍛造成形時において予め形成することが好ましい。この地側外輪端面241による地側隙間241dは、1.2mm〜2.0mmと天側隙間243dに比べて大きく、鍛造による成形時において形成が容易であるからである。
一方、天側隙間243dが構成される天側外輪端面243は、鍛造成形後、旋削加工によって端面を仕上げ加工する。また、必要に応じて研磨加工を施す。
これは、被水量の低減に鑑み、ハブフランジ42との距離を極力詰める必要があるためである。すなわち、天側隙間243dは0.4mm〜0.8mmに設定されることが好ましく精密な寸法精度が要求されるため上記仕上げ加工が必要となる。
【0024】
このように、実施形態1の車輪用転がり軸受装置によれば、ハブ軸部材30のハブフランジ42と、これに対向する外輪部材24の軸方向端面との間の隙間は、相対的に地側隙間241dが大きく、天側隙間243dが小さく設定されている。すなわち、天側隙間243dを詰めることで転がり軸受用密封装置50(密封部材)への被水を低減することができる。また地側隙間241dは、相対的に天側隙間243dより大きく設定されていることから排水性も確保されている。これにより、被水量の低減を図ると共に、転がり軸受用密封装置50に浸入した泥水の排水性の向上を図ることができる。
【0025】
また、地側隙間241d、天側隙間243dは、外輪部材24の軸方向端面が段差形状の地側外輪端面241と天側外輪端面243で一体形成することで構成される。これは、外輪部材24の軸方向端面の形状を利用して地側隙間241d、天側隙間243dを構成するものであり、新たな部材を要することがなくコストアップの抑制が図れる。
【0026】
以上、本発明の実施形態1について説明したが、本発明の車輪用転がり軸受装置は、本実施の形態に限定されず、その他各種の形態で実施することができるものである。
例えば、実施形態1において、転動体が玉で構成されるものについて示した。しかしながらこれに限定されるものではなく、本発明における車輪用転がり軸受装置の転動体は、ころであってもよい。
また、実施形態1における車輪用転がり軸受装置は、従動輪のものについて示したが、本発明における車輪用転がり軸受装置は、駆動輪についても適用できるものである。
【符号の説明】
【0027】
10 車輪
12 タイヤ
14 ホイール
16 ブレーキディスクロータ
20 車輪用転がり軸受装置
22 内輪素子
22a 内輪軌道面
24 外輪部材
24a 外輪軌道面
241 地側外輪端面
241d 地側隙間
243 天側外輪端面
243d 天側隙間
244 外輪部材の軸中心
245 地側外輪端面の形成領域
26 玉(転動体)
28 保持器
30 ハブ軸部材
32 軸部
33 根元部
33a 内輪軌道面
34 根元部摺接面
36 嵌合軸部
38 ハブボルト
40 ボルト孔
42 ハブフランジ
44 ハブフランジ摺接面
50 転がり軸受用密封装置(密封部材)
52 環状部材
54 第1円筒部
56 環状平板部
58 第2円筒部
60 弾性シール部材
62 シールリップ
64 主リップ
66 補助リップ
68 サイドリップ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側に固定される外輪部材と、
該外輪部材内に挿通されて配置され軸方向一端部に車輪を取付けるためのハブフランジを有するハブ軸部材と、
該ハブ軸部材と外輪部材との間に介装される転動体と、を備えて前記ハブ軸部材が外輪部材に対し軸心回りに回動可能に支承される転がり軸受が構成されており、該転がり軸受が構成される前記外輪部材とハブ軸部材の間の環状空間の前記ハブフランジ側の位置に、密封部材が設けられている車輪用転がり軸受装置であって、
前記ハブ軸部材のハブフランジと、これに対向する外輪部材の軸方向端面との間の隙間は、相対的に、車輪の接地面である地側が大きく、該地側と反対の天側が小さく設定されていることを特徴とする車輪用転がり軸受装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車輪用転がり軸受装置であって、
前記ハブ軸部材のハブフランジと、これに対向する外輪部材の軸方向端面との間の隙間は、前記外輪部材の軸方向端面を段差形状で一体形成することで構成されることを特徴とする車輪用転がり軸受装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−67219(P2013−67219A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−205591(P2011−205591)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】