説明

車輪用軸受装置

【課題】車輪用軸受の軸ブレを早期に検出し、異音や振動等の不具合が悪化することを防止できる車輪用軸受装置を提供すること。
【解決手段】車体に揺動可能に設けた車体側部材13に対し、車輪を回転自在に支持する車輪用軸受51と、車輪用軸受51と同軸上に配置され、車輪用軸受51の軸ブレ非発生時には車輪側部材35に所定の間隙Kをあけて対向し、車輪用軸受51の軸ブレ発生時には車輪側部材35に接触して一体的に回転する軸ブレ検出部材55と、軸ブレ検出部材55の回転を検出する回転センサ60と、回転センサ60により軸ブレ検出部材55の回転が検出されたら、車輪用軸受51の軸ブレが発生したと判断する制御部62と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体に揺動可能に設けた車体側部材に対して車輪を回転自在に支持する車輪用軸受装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、モータケース内において、電動モータと減速機との間に設けられた軸支持壁を廃止し、モータ回転軸と、車輪と一体回転する減速機の出力軸とを同軸に突き合わせて対向配置した軸支承構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-37355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、一般的に、出力軸を回転自在に支持する車輪用軸受には、想定外の入力荷重が作用して損傷が生じることがある。これに対し、従来の軸支承構造では、車体に対して揺動可能に設けたモータケースと出力軸の間に車輪用軸受を介在させ、車輪と一体に回転する出力軸を回転自在に支持している。このため、車輪用軸受の損傷により発生した軸ブレを放置してしまうと、異音や振動等が悪化するという問題があった。
【0005】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、車輪用軸受の軸ブレを早期に検出し、異音や振動等の不具合の悪化を防止することができる車輪用軸受装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の車輪用軸受装置では、車輪用軸受と、軸ブレ検出部材と、回転センサと、制御部と、を備えている。
前記車輪用軸受は、車体に揺動可能に設けた車体側部材に対し、車輪を回転自在に支持する。
前記軸ブレ検出部材は、前記車輪用軸受と同軸上に配置され、前記車輪用軸受の軸ブレ非発生時には、前記車輪と一体回転する車輪側部材に所定の間隙をあけて対向し、前記車輪用軸受の軸ブレ発生時には、前記車輪側部材に接触して一体的に回転する。
前記回転センサは、前記軸ブレ検出部材の回転を検出する。
前記制御部は、前記回転センサにより前記軸ブレ検出部材の回転が検出されたら、前記車輪用軸受の軸ブレが発生したと判断する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の車輪用軸受装置にあっては、車輪を回転自在に支持する車輪用軸受と同軸上に配置された軸ブレ検出部材が、車輪用軸受の軸ブレ非発生時、車輪側部材に所定の間隙をあけて対向し、車輪用軸受の軸ブレ発生時、車輪側部材に接触して一体的に回転する。そして、この軸ブレ検出部材が回転すれば、回転センサによりその回転が検出され、制御部により車輪用軸受の軸ブレが発生したと判断される。
すなわち、車輪側部材の不規則な動きにより、この車輪側部材と一体的に回転する軸ブレ検出部材の回転を検出することで、車輪用軸受のがたつきや軸ブレが発生していることを検知する。
これにより、車輪用軸受に軸ブレが生じていることを早期に検出することができ、走行を停止する等の対策をすぐに講じることができて、異音や振動等の不具合の悪化を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1の車輪用軸受装置が適用された車両を模式的に示す全体構造図である。
【図2】実施例1の車輪用軸受装置が適用されたインホイールモータユニットを示す縦断面図である。
【図3】図2に示すインホイールモータユニットの要部を示す拡大図である。
【図4】図3におけるA部拡大図である。
【図5】実施例1の車輪用軸受装置における基本制御の流れを示すフローチャートである。
【図6】実施例2の車輪用軸受装置が適用されたインホイールモータユニットの要部を示す拡大図である。
【図7】図6におけるB部拡大図である。
【図8】実施例3の車輪用軸受装置における舵角センサ方式制御の流れを示すフローチャートである。
【図9】実施例4の車輪用軸受装置における3次元加速度センサ方式制御の流れを示すフローチャートである。
【図10】実施例2の車輪用軸受装置が適用されたインホイールモータの他の例を示す要部縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の車輪用軸受装置を実施するための形態を、図面に示す実施例1〜実施例4に基づいて説明する。
【実施例1】
【0010】
まず、実施例1の車輪用軸受装置における構成を、「車輪用軸受装置の適用例の構成」、「車輪用軸受装置の構成」に分けて説明する。
【0011】
[車輪用軸受装置の適用例の構成]
図1は、実施例1の車輪用軸受装置が適用された車両を模式的に示す全体構造図である。
【0012】
図1に示す車両1は、電動モータを走行駆動源とする電気自動車である。この車両1は、ハンドル2により舵取り装置3を介して転舵操作される左右前輪4L,4Rと、インホイールモータユニットMUがそれぞれ直結された左右後輪5L,5Rと、を有している。
【0013】
ここで、この車両1は、舵角センサ6と、3次元加速度センサ7と、を有している。前記舵角センサ6は、ハンドル2と舵取り装置3とを連結するハンドル軸2aに取り付けられ、ハンドル2の操作角度を検出する。前記3次元加速度センサ7は、車両1のほぼ中央位置に設けられ、この車両1に上下左右前後の各方向から作用する外力を検出する。
【0014】
図2は、実施例1の車輪用軸受装置が適用されたインホイールモータユニットを示す縦断面図である。図3は、図2に示すインホイールモータユニットの要部を示す拡大図である。
【0015】
図2に示すインホイールモータユニットMUは、左後輪5L又は右後輪5Rである車輪40を個別に駆動・制動する電動モータ20を、この車輪40を支持するホイール41の内側に配置したものであり、モータケース10と、電動モータ20と、減速機30と、を有している。
【0016】
前記モータケース10は、図1の左側におけるモータ側ケース部分11と、中央における減速機側ケース部分12と、図1の右側における出力軸側ケース部分(車体側部材)13とを相互に合体させて構成する。このモータケース10内には、回転駆動源となる電動モータ20と、この電動モータ20の回転を減速して出力する減速機30とが同軸に配置収納される。また、このモータケース10は、図示しないサスペンション機構を介して、サイドメンバ等の車体に対して揺動可能に保持されている。
【0017】
前記電動モータ20は、モータ側ケース部分11の内側に位置し、環状のステータ21と、このステータ21内に同心に配置したロータ22と、を有している。
【0018】
前記ステータ21は、コイル21aを巻線して具え、モータ側ケース部分11の内周に、外周面を焼き嵌めする等の方法で固定される。
【0019】
前記ロータ22は、ロータ回転軸22aと、フランジ部22bと、積層鋼板22cと、不図示の永久磁石と、を有している。
前記ロータ回転軸22aは、モータ側ケース部分11に貫通させて形成した開口11aの内側に嵌着された第1ロータ軸受23Aに回転自在に支持され、他端が減速機30の後述するキャリア34の内側端に嵌着された第2ロータ軸受23Bに回転自在に支持される。そして、このロータ回転軸22aから径方向に突出したフランジ部22bの外周に積層鋼板22cが固設され、この積層鋼板22cの外周に図示しない永久磁石が埋設される。
なお、このロータ22は、積層鋼板22cの外周に埋設した永久磁石がステータ21の内周面と正対する軸線方向位置に配置され、この位置を保ってロータ回転軸22aが支持される。
【0020】
前記減速機30は、前記フランジ部22bと前記減速機側ケース部分12との間に設けられる。この減速機30は、図3に明示するごとく、ロータ回転軸22a上に形成したサンギヤ31と、減速機側ケース部分12内に突起爪等で多少の揺動のみ可能に固定したリングギヤ32と、サンギヤ31に噛合する大径ピニオン部分33a及びリングギヤ32に噛合する小径ピニオン部分33bの一体成形になる3個(ここでは1個のみ図示)の段付きピニオン33と、これら段付きピニオン33を回転自在に支持したキャリア34と、を有する遊星歯車組で構成する。
【0021】
前記キャリア34は、減速機30の出力メンバであり、ロータ回転軸22aと出力軸35の間で、この両軸22a,35と同軸位置に配置される。また、このキャリア34は、3個の段付きピニオン33を円周方向等間隔に配置して回転自在に支持する。
【0022】
前記出力軸35は、車輪40と一体回転する車軸であり、一端がキャリア34と一体化され、他端が出力軸側ケース部分13の開口13aを貫通している。この出力軸35の出力軸側ケース部分13から突出した部分には、ホイールハブ(車輪側部材)36が嵌合され、ローディングナット36Aにより抜け止めされている。また、この出力軸35は、ホイールハブ36と出力軸側ケース部分13との間に配置した車輪用軸受装置50を介して、出力軸側ケース部分13に対して回転自在に支持されている。なお、ローディングナット36Aによりホイールハブ36が減速機30側に押圧されるため、車輪用軸受装置50のハブベアリング(車輪用軸受)51における転動体54には、常に与圧が与えられることとなる。
【0023】
さらに、出力軸35には、車輪40を支持するホイール41が固定されている。ここで、出力軸35にホイール41を固定するには、まず、ホイールハブ36に、ブレーキドラム37を同心に重ね合わせ、これらホイールハブ36及びブレーキドラム37を貫通して軸線方向に突出するよう複数個のホイールボルト38を植設する。そして、ホイール41のホイールディスク42に穿ったボルト孔(図示せず)にホイールボルト38が貫通するようブレーキドラム37の側面にホイールディスク42を密接させ、この状態でホイールボルト38にホイールナット39を緊締螺合させる。これにより、出力軸35に対してホイール41の取り付けを行う。
【0024】
[車輪用軸受装置の構成]
図4は、図3におけるA部拡大図である。
【0025】
前記車輪用軸受装置50は、図4に示すように、ハブベアリング(車輪用軸受)51と、軸ブレ検出部材55と、回転センサ60と、制御部62と、を備えている。
【0026】
前記ハブベアリング51は、図示しないサイドメンバ等の車体構造体に対して、図示しないサスペンション機構等を介して揺動可能に設けた車体側部材であるモータケース10の出力軸側ケース部分13と、車輪40と一体回転可能に設けた車輪側部材であるホイールハブ36との間に設けられ、ホイールハブ36を出力軸側ケース部分13に対して回転自在に支持する。
【0027】
前記ハブベアリング51は、図4に示すように、外方部材52と、内方部材53と、転動体54と、を有している。
【0028】
前記外方部材52は、出力軸側ケース部分13に形成された出力軸35が貫通する開口13aの内周面に形成され、ここでは出力軸側ケース部分13と一体になっている。この外方部材52は、内方部材53に対向する外側面に、転動体54と接触する外側転走面を有している。
【0029】
前記内方部材53は、ホイールハブ36の外周面、及び、このホイールハブ36に固定される内方部材片53aにより形成されている。この内方部材53は、外方部材52に対向する外側面に、転動体54と接触する内側転走面を有している。
【0030】
前記転動体54は、外方部材52と内方部材53の間で回転する金属球体であり、外側転走面と内側転走面の間に回転可能に挟持されている。なお、この転動体54は、ここでは軸方向に並説されている。また、転動体54の軸方向両側には、それぞれシール部材54a,54aが設けられている。このシール部材54aは、いわゆるグリースシールである。
【0031】
前記軸ブレ検出部材55は、オイルシール保持壁56に保持されて、ハブベアリング51と同軸上に配置された環状ベアリングであり、モータケース10に対して出力軸35を回転可能とする軸受構造を有している。そして、この軸ブレ検出部材55は、オイルシール保持壁56に固定された外方部材57と、転動体58を介して外方部材57に摺動可能に保持された内方部材59と、を備えている。さらに、この内方部材59の軸方向端部には、軸方向に沿って突出した被検出片59aが設けられている。
【0032】
ここで、「オイルシール保持壁56」とは、電動モータ20の冷却や減速機30の潤滑のためにモータケース10内に収納された潤滑油の漏出を防止するために、出力軸35の周面に設けられたオイルシール56aを保持する円環状の壁面である。このオイルシール保持壁56は、減速機側ケース部分12に周縁部が固定され、減速機30とハブベアリング51との間において、モータケース10の内側に向かって立設する。すなわち、このオイルシール保持壁56は、モータケース10と一体にされている。
【0033】
そして、前記軸ブレ検出部材55の内方部材59の回転内側面59bは、車輪40と一体回転する出力軸35の外周面35aに対して所定の間隙Kをあけて対向する。この所定の間隙Kの寸法は、出力軸35の軸方向がロータ回転軸22aの軸方向に対して偏心又は傾斜すると、外周面35aが回転内側面59bに干渉する寸法であり、例えば数十μmである。これにより、軸ブレ検出部材55の内方部材59は、ハブベアリング51の軸ブレ非発生時には、出力軸35に所定の間隙Kをあけて対向し、ハブベアリング51の軸ブレ発生時には、出力軸35に接触して、この出力軸35と一体的に回転する。
【0034】
前記回転センサ60は、軸ブレ検出部材55の内方部材59の回転を検出するセンサであり、内方部材59の被検出片59aに対向する検出部61を有している。この回転センサ60は、出力軸側ケース部分13に固定されている。また、この回転センサ60からの検出信号は、制御部62に入力される。
【0035】
前記制御部62は、回転センサ60から入力された検出信号を判断し、軸ブレ検出部材55の内方部材59が回転していると判断すれば、図示しない報知手段を介して運転者にハブベアリング51の軸ブレ発生を報知する。
【0036】
図5は、制御部により実行される実施例1の車輪用軸受装置における基本制御の流れを示すフローチャートである。以下、図5に基づいて、車輪用軸受装置50の基本制御を説明する。
【0037】
ステップS1では、回転センサ60からの検出信号を読み込み、ステップS2へと進む。
【0038】
ステップS2では、ステップS1で読み込んだ検出信号に基づいて、軸ブレ検出部材55の内方部材59が回転しているか否かを判断し、YES(回転している)の場合はステップS3へ進み、NO(回転していない)場合にはエンドへ進んで基本制御を終了する。
【0039】
ステップS3では、ステップS2での内方部材59が回転しているとの判断に続き、ハブベアリング51に軸ブレが発生しているとして、ハブベアリング51の交換を促すコーションを図示しない報知手段へと出力し、エンドへ進んで基本制御を終了する。
【0040】
なお、ステップS2において内方部材59が回転しないと判断した場合には、ハブベアリング51の交換を促すコーションは出力しない。
【0041】
次に、実施例1の車輪用軸受装置における作用を、「軸ブレ非発生時不報知作用」、「軸ブレ発生時報知作用」に分けて説明する。
【0042】
[軸ブレ非発生時不報知作用]
実施例1のインホイールモータユニットMUにおいて、電動モータ20のロータ22が回転すると、この回転は、ロータ回転軸22aから減速機30のサンギヤ31を介してキャリア34へと伝達される。このキャリア34には出力軸35が一体形成されているので、キャリア34が回転することで出力軸35が回転し、この出力軸35に固定された車輪40が回転して、車両1が走行する。
【0043】
このとき、出力軸35は、外周に嵌着されて一体となって回転するホイールハブ36と、出力軸側ケース部分13との間に配置されたハブベアリング51によって回転自在に支持されている。
【0044】
そして、このハブベアリング51において軸ブレが生じておらず、ロータ回転軸22aの軸方向と出力軸35の軸方向とが一致した状態で回転しているときには、出力軸35の外周面35aに対して、軸ブレ検出部材55の内方部材59が所定の間隙Kをあけて対向する。そのため、出力軸35が回転しても軸ブレ検出部材55の内方部材59に干渉することはないため、この内方部材59が回転することはない。
【0045】
すなわち、図5に示すフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→エンドへと進み、制御部62によるハブベアリング51の交換を促すコーションを報知することはない。
【0046】
[軸ブレ発生時報知作用]
次に、ハブベアリング51において軸ブレが発生した場合を考える。なお、この「軸ブレ」とは、ハブベアリング51の内方部材53が外方部材52に対してがたつき、振れ回ってしまう現象である。ここで、通常ハブベアリング51は、転動体54に与圧が与えられており、内方部材53が振れ回る軸ブレ現象は発生しない。
【0047】
しかしながら、例えば過大な外力が車輪40を介してハブベアリング51に入力した場合には、転動体54に接触している外側転走面や内側転走面に圧痕が発生し、転動体54に与えられている与圧が抜けてしまい、内方部材53が振れ回ることが想定される。またハブベアリング51の内部、つまり外方部材52と内方部材53の間に泥水等が浸入した場合には、転動体54に接触している外側転走面や内側転走面に異常摩耗が発生し、その結果、転動体54に与えられている与圧が抜けて、内方部材53が振れ回ることが想定される。
【0048】
そして、何らかの原因によりハブベアリング51の内方部材53が振れ回る軸ブレが発生すると、このハブベアリング51によって回転自在に支持されている出力軸35にがたつきが発生する。このため、ロータ回転軸22aの軸方向に対して、出力軸35の軸方向が偏心又は傾斜した状態で回転してしまう。
【0049】
これにより、出力軸35の外周面35aと軸ブレ検出部材55の内方部材59の回転内側面59bとが干渉し、内方部材59が出力軸35によって回転させられる。
【0050】
このとき、内方部材59の回転は回転センサ60によって検出され、図5に示すフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3へと進み、軸ブレ悪化前に、制御部62によりハブベアリング51の交換を促すコーションが報知される。そして、このコーションを受けて、車両1を停止したり、ハブベアリング51を交換する等の適切な処理をすぐに施すことで、異音や振動等の悪化を防止することができる。また、減速機30におけるギヤノイズの悪化も防止することができる。
【0051】
また、実施例1の車輪用軸受装置50では、軸ブレ検出部材55が、オイルシール保持壁56に固定された外方部材57に対して、内方部材59が摺動可能に保持されている。そのため、この軸ブレ検出部材55は、モータケース10に固定されて一体となったオイルシール保持壁56に対して、出力軸35を回転可能とする軸受構造を有することとなる。
【0052】
これにより、出力軸35が軸ブレ検出部材55の内方部材59に干渉したことで、内方部材59が回転したときには、この軸ブレ検出部材55によって荷重を負担することが可能となる。そのため、ハブベアリング51に作用する外力の一部を、軸ブレ検出部材55によって支持することができ、ハブベアリング51の転動体54等の摩耗の進行を遅延させることができる。
【0053】
さらに、実施例1の車輪用軸受装置50では、減速機30とハブベアリング51との間に軸ブレ検出部材55が配置されている。すなわち、軸ブレ検出部材55は、ハブベアリング51よりも車両内側に設けられることとなる。
【0054】
このため、ハブベアリング51において並設した転動体54の間隔寸法よりも、この転動体54から軸ブレ検出部材55までの寸法を大きく確保することができる。これにより、転動体54の摩耗が僅かであって、並設した転動体54間での軸ブレ角度が小さくても、軸ブレ検出部材55ではハブベアリング51における軸ブレ角度が拡大されるために検出することができ、検出感度を向上できる。この結果、軸ブレ発生の早期にハブベアリング51の異常を検出することができる。
【0055】
次に、効果を説明する。
実施例1の車輪用軸受装置にあっては、下記に挙げる効果を得ることができる。
【0056】
(1) 車体に揺動可能に設けた車体側部材(出力軸側ケース部分)13に対し、車輪40を回転自在に支持する車輪用軸受(ハブベアリング)51と、
前記車輪用軸受51と同軸上に配置され、前記車輪用軸受51の軸ブレ非発生時には、前記車輪40と一体回転する車輪側部材(出力軸)35に所定の間隙Kをあけて対向し、前記車輪用軸受51の軸ブレ発生時には、前記車輪側部材35に接触して一体的に回転する軸ブレ検出部材55と、
前記軸ブレ検出部材55の回転を検出する回転センサ60と、
前記回転センサ60により前記軸ブレ検出部材55の回転が検出されたら、前記車輪用軸受51の軸ブレが発生したと判断する制御部62と、
を備えた構成とした。
このため、車輪用軸受51の軸ブレを早期に検出し、異音や振動等の悪化を防止することができる。
【0057】
(2) 前記軸ブレ検出部材55は、前記車輪用軸受(ハブベアリング)51よりも車両内側に配置された構成とした。
このため、車輪用軸受51と軸ブレ検出部材55との距離を確保することができ、検出感度を向上して、軸ブレ角度が小さくても異常を検出することができる。
【0058】
(3) 前記軸ブレ検出部材55は、前記車体側部材(出力軸側ケース部分)13に対し、前記車輪側部材(出力軸)35を回転可能とする軸受構造を有する構成とした。
このため、車輪用軸受51に作用する外力の一部を、軸ブレ検出部材55によって支持することができ、車輪用軸受51の転動体54等の摩耗の進行を遅延させることができる。
【実施例2】
【0059】
実施例2は、インホイールモータユニットに適用した車輪用軸受装置において、軸ブレ検出部材を車輪用軸受に内蔵させた例である。
【0060】
まず、構成を説明する。なお、この実施例2を適用したインホイールモータユニットの構成は実施例1と同等であるため、ここでは説明を省略する。
図6は、実施例2の車輪用軸受装置が適用されたインホイールモータユニットの要部を示す拡大図である。図7は、図6におけるB部拡大図である。
【0061】
実施例2の車輪用軸受装置70は、図6及び図7に示すように、ハブベアリング(車輪用軸受)71と、軸ブレ検出部材75と、回転センサ80と、制御部82と、を備えている。
【0062】
前記ハブベアリング71の構成は、図7に示すように、外方部材72と、内方部材73と、転動体74と、を有しており、構成は実施例1と同様であるので、詳細な説明を省略する。
【0063】
前記軸ブレ検出部材75は、ハブベアリング71の外方部材72を構成する出力軸側ケース部分13に保持されている。そして、この軸ブレ検出部材75は、出力軸側ケース部分13に固定された外方部材77と、転動体78を介して外方部材77に摺動可能に保持された内方部材79と、を備えている。さらに、この内方部材79の軸方向端部には、軸方向沿って突出した被検出片79aが設けられている。
【0064】
そして、前記軸ブレ検出部材75の内方部材79の回転内側面79bは、車輪40と一体回転するハブベアリング71の内方部材73の外側面73aに対して、所定の間隙Kをあけて対向する。この所定の間隙Kの寸法は、内方部材73の軸方向がロータ回転軸22aの軸方向に対して偏心又は傾斜すると、外側面73aが回転内側面79bに干渉する寸法であり、例えば数十μm程度である。なお、この外側面73aとは、外方部材72側に臨む面である。
【0065】
これにより、ハブベアリング71の内方部材73が、ハブベアリング51の軸ブレ非発生時に、軸ブレ検出部材75が対向し、ハブベアリング51の軸ブレ発生時に、軸ブレ検出部材75が接触して一体的に回転する車輪側部材となっている。
【0066】
前記回転センサ80は、内方部材79の被検出片79aに検出部81が対向する状態で、出力軸側ケース部分13に固定されている。
【0067】
次に、作用を説明する。
【0068】
実施例2の車輪用軸受装置70は、軸ブレを検出するハブベアリング71そのものに軸ブレ検出部材75を設けている。すなわち、ハブベアリング71の外方部材72に、軸ブレ検出部材75の外方部材77が固定されている。
【0069】
そのため、軸ブレ検出部材75の内方部材79とハブベアリング71の内方部材73との間の寸法管理、すなわち軸ブレ検出部材75の取り付け精度の管理を容易に行うことができる。さらに、軸ブレ検出部材75の取り付け精度の管理が容易になることで、上記回転内側面79bと外側面73aとの間の所定の間隙Kの寸法を小さい値に設定することができる。そして、この間隙Kの寸法を小さい値に設定することで、軸ブレ角度が僅かであっても軸ブレ検出部材75が内方部材73に干渉して回転することとなり、軸ブレ検出精度を向上することができる。
【0070】
次に、効果を説明する。
実施例2の車輪用軸受装置にあっては、下記に挙げる効果を得ることができる。
【0071】
(4) 前記車輪用軸受(ハブベアリング)51は、前記車体側部材(出力軸側ケース部分)13に固定された外方部材72と、前記外方部材72に転動体74を介して摺動可能に対向した内方部材73と、を有し、
前記軸ブレ検出部材75は、前記外方部材72に設けられ、
前記車輪側部材は、前記内方部材73とする構成とした。
このため、軸ブレ検出部材75と車輪側部材である内方部材73との間の寸法管理、すなわち軸ブレ検出部材75の取り付け精度の管理を容易に行うことができ、軸ブレ検出精度を向上することができる。
【実施例3】
【0072】
実施例3は、ハンドルの状態を加味した上で、車輪用軸受における軸ブレを検出する例である。
【0073】
図8は、実施例3の車輪用軸受装置における舵角センサ方式制御の流れを示すフローチャートである。以下、図8の各ステップについて説明する。なお、この実施例3の車輪用軸受装置の構成については、実施例1と同様であるので、説明を省略する。
【0074】
ステップS10では、回転センサ60からの検出信号を読み込み、ステップS11へと進む。
【0075】
ステップS11では、ステップS10で読み込んだ検出信号に基づいて、軸ブレ検出部材55の内方部材59が回転しているか否かを判断し、YES(回転している)の場合はステップS12へ進み、NO(回転していない)場合にはステップS10へ戻る。
【0076】
ステップS12では、ステップS11での内方部材59が回転しているとの判断に続き、車両1に設けた舵角センサ6からの検出信号を読み込み、ステップS13へと進む。
【0077】
ステップS13では、ステップS12で読み込んだ検出信号に基づいて、ハンドル2の操作角度が所定角度以上回っているか否か、すなわち、ハンドル2の操作状態がほぼ中立位置にあり、車両1がほぼ直進状態となっているか否かを判断する。YES(操作角度が所定角度未満)の場合はステップS14へ進み、NO(操作角度が所定角度以上)の場合はステップS10へ戻る。
【0078】
ステップS14では、ステップS13でのハンドル2の操作角度が所定角度未満との判断に続き、コーナリングによる横力が作用していないとして、ハブベアリング51に軸ブレが発生していると判断し、ハブベアリング51の交換を促すコーションを図示しない報知手段へと出力し、エンドへ進んで制御を終了する。
【0079】
このように、実施例3の車輪用軸受装置では、車両1に設けた舵角センサ6を用いてハンドル2の操作角度を判断した上で、ハブベアリング51に軸ブレが発生していると判断する。ハンドル2の操作角度を加味することで、車輪40に入力する車両1のコーナリングヨー力の影響を排除することができ、より正確な軸ブレの有無の判断を行うことができる。すなわち、ハンドル2がほぼ中立位置にあり、車両1がほぼ直進状態であれば、コーナリング等の外力が作用していないと考えられ、このとき軸ブレ検出部材55が回転していればハブベアリング51の異常(軸ブレ)を示すことになる。
【0080】
このような実施例3の車輪用軸受装置にあっては、下記に挙げる効果を得ることができる。
【0081】
(5) ハンドル2の位置を検出する舵角センサ6を有し、
前記制御部62は、前記ハンドル2の位置がほぼ中立位置にあるとき、前記回転センサ60により前記軸ブレ検出部材55の回転が検出されたら、前記車輪用軸受(ハブベアリング)51の軸ブレが発生したと判断する構成とした。
このため、車輪40に入力する外力の影響を排除することができ、軸ブレ検出精度の向上を図ることができる。
【実施例4】
【0082】
実施例4は、車両に作用する加速度の状態を加味した上で、車輪用軸受における軸ブレを検出する例である。
【0083】
図9は、実施例4の車輪用軸受装置における3次元加速度センサ方式制御の流れを示すフローチャートである。以下、図9の各ステップについて説明する。なお、この実施例4の車輪用軸受装置の構成については、実施例1と同様であるので、説明を省略する。
【0084】
ステップS20では、回転センサ60からの検出信号を読み込み、ステップS21へと進む。
【0085】
ステップS21では、ステップS20で読み込んだ検出信号に基づいて、軸ブレ検出部材55の内方部材59が回転しているか否かを判断し、YES(回転している)の場合はステップS22へ進み、NO(回転していない)場合にはステップS20へ戻る。
【0086】
ステップS22では、ステップS21での内方部材59が回転しているとの判断に続き、車両1に設けた3次元加速度センサ7からの検出信号を読み込み、ステップS23へと進む。
【0087】
ステップS23では、ステップS22で読み込んだ検出信号に基づいて、車両1の左右方向に作用する加速度が所定値未満であるか否かを判断する。YES(左右方向G所定値未満)の場合はステップS24へ進み、NO(左右方向G所定値以上)の場合はステップS20へ戻る。
【0088】
ステップS24では、ステップS23での左右方向の加速度が所定値未満との判断に続き、車両1の上下方向に作用する加速度が所定値未満であるか否かを判断する。YES(上下方向G所定値未満)の場合はステップS25へ進み、NO(上下方向G所定値以上)の場合はステップS20へ戻る。
【0089】
ステップS25では、ステップS24での上下方向の加速度が所定値未満との判断に続き、車両1に過大な外力が作用していないとして、ハブベアリング51に軸ブレが発生していると判断し、ハブベアリング51の交換を促すコーションを図示しない報知手段へと出力し、エンドへ進んで制御を終了する。
【0090】
このように、実施例4の車輪用軸受装置では、車両1に設けた3次元加速度センサ7を用いて車両1の左右方向及び上下方向に沿った外力が作用していない状態を確認した上で、ハブベアリング51に軸ブレが発生していると判断する。すなわち、車両1の揺れが小さいときに、ハブベアリング51の軸ブレを判断する。
これにより、コーナリング力だけでなく悪路走行等による外力の影響を排除することができ、さらに正確な軸ブレの有無の判断を行うことができる。
【0091】
なお、図9のフローチャートでは車両1の前後方向に作用する加速度については判断していないが、車両1の前後方向に作用する加速度の大きさについての判断を追加することで、ブレーキ操作等による外力の影響も排除することができる。
【0092】
このような実施例4の車輪用軸受装置にあっては、下記に挙げる効果を得ることができる。
【0093】
(6) 車両の揺れを検出する3次元加速度センサ7を有し、
前記制御部は、前記3次元加速度センサの検出値が所定値未満のとき、前記回転センサにより前記軸ブレ検出部材の回転が検出されたら、前記車輪用軸受の軸ブレが発生したと判断する構成とした。
このため、車輪40に入力する外力の影響を排除することができ、軸ブレ検出精度の向上を図ることができる。
【0094】
以上、本発明の車輪用軸受装置を実施例1から実施例4に基づき説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0095】
上記各実施例では、車輪用軸受装置をインホイールモータユニットMUに適用した例を示したが、これに限らない。車体側部材に対して車輪を回転自在に支持する車輪用軸受を有する車両であれば、エンジン自動車やハイブリッド自動車、1つの駆動用モータによって走行する電気自動車等の車両一般に適用することができる。
【0096】
また、車体側部材は出力軸側ケース部分13に限らず、車体から搖動可能に伸びたトレーリングアーム等であってもよい。また、車輪側部材は出力軸35やホイールハブ36に限らない。車輪40と一体回転する部材であればよい。
【0097】
そして、実施例1及び実施例2に示す減速機30では、段付きピニオン33がキャリア34のみに支持されているが、例えば、減速機側ケース部分12の内側に、キャリア34のキャリアプレート34a,34aを回転自在に支持するキャリア軸受34B,34Cを設けてもよい(図10参照)。この場合には、キャリア34がキャリア軸受34B,34Cによって支持されるため、段付きピニオン33も安定支持されることとなる。さらに、ハブベアリング51に作用する荷重もこのキャリア軸受34B,34Cによって分担支持することができるため、ハブベアリング51の軸ブレ発生を抑制することもできる。
【符号の説明】
【0098】
1 車両
2 ハンドル
6 舵角センサ
7 3次元加速度センサ
10 モータケース
13 出力軸側ケース部分(車体側部材)
20 電動モータ
21 ステータ
22 ロータ
22a ロータ回転軸
30 減速機
34 キャリア
35 出力軸(車輪側部材)
35a 外周面
36 ホイールハブ
40 車輪
41 ホイール
50 車輪用軸受装置
51 ハブベアリング(車輪用軸受)
52 外方部材
53 内方部材
54 転動体
55 軸ブレ検出部材
57 外方部材
58 転動体
59 内方部材
59a 被検出片
59b 回転内側面
60 回転センサ
62 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に揺動可能に設けた車体側部材に対し、車輪を回転自在に支持する車輪用軸受と、
前記車輪用軸受と同軸上に配置され、前記車輪用軸受の軸ブレ非発生時には、前記車輪と一体回転する車輪側部材に所定の間隙をあけて対向し、前記車輪用軸受の軸ブレ発生時には、前記車輪側部材に接触して一体的に回転する軸ブレ検出部材と、
前記軸ブレ検出部材の回転を検出する回転センサと、
前記回転センサにより前記軸ブレ検出部材の回転が検出されたら、前記車輪用軸受の軸ブレが発生したと判断する制御部と、
を備えたことを特徴とする車輪用軸受装置。
【請求項2】
請求項1に記載された車輪用軸受装置において、
前記軸ブレ検出部材は、前記車輪用軸受よりも車両内側に配置されたことを特徴とする車輪用軸受装置。
【請求項3】
請求項1に記載された車輪用軸受装置において、
前記車輪用軸受は、前記車体側部材に固定された外方部材と、前記外方部材に転動体を介して摺動可能に対向した内方部材と、を有し、
前記軸ブレ検出部材は、前記外方部材に設けられ、
前記車輪側部材は、前記内方部材とすることを特徴とする車輪用軸受装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載された車輪用軸受装置において、
前記軸ブレ検出部材は、前記車体側部材に対し、前記車輪側部材を回転可能とする軸受構造を有することを特徴とする車輪用軸受装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載された車輪用軸受装置において、
ハンドル位置を検出する舵角センサを有し、
前記制御部は、前記ハンドル位置がほぼ中立位置にあるとき、前記回転センサにより前記軸ブレ検出部材の回転が検出されたら、前記車輪用軸受の軸ブレが発生したと判断することを特徴とする車輪用軸受装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載された車輪用軸受装置において、
車両の揺れを検出する3次元加速度センサを有し、
前記制御部は、前記3次元加速度センサの検出値が所定値未満のとき、前記回転センサにより前記軸ブレ検出部材の回転が検出されたら、前記車輪用軸受の軸ブレが発生したと判断することを特徴とする車輪用軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−83328(P2013−83328A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−224624(P2011−224624)
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】