説明

軟エキス高含有カプセル剤及びその製造方法

【課題】ミツロウ等の乳化剤を併用して軟エキスを油脂と合わせて乳化ないし分散させた上でソフトカプセルに封入しても、カプセルの表面に凹みが生じないように水分含量を調整すると、1カプセル当りのエキス分の含量が少なくなってしまう。
【解決手段】軟エキスと、軟エキス中の揮発成分を、親水性の食用油脂、例えば、オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸、リノレン酸等とを強制分散(乳化ないし分散)させたものを内容物としてソフトカプセルを成形すると、軟エキスに含まれる揮発成分が該食用油脂に抱き込まれて揮発し難くなり、その後の乾燥工程においても揮発せず、カプセルの表面に凹みが生じない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雑貨・食品・医薬部外品・医薬品の分野に適用される、軟エキスの含量が多いカプセル剤及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
軟エキスは、主となる原料から水やアルコール、ヘキサン等で抽出させて水アメ状にしたものであり、瓶容器等に入った形態にて市販されているので、スプーン等ですくい取りそのまま経口摂取することができる。
しかしながら、軟エキスは主となる原料由来の強烈なくせのある味・匂いを呈するものが多い為、そのまま経口摂取することに抵抗を持つ人が多い。また、瓶容器等に入っている為、携帯には不便である。
そのため、味・匂いのマスキングや、小型化が可能であり、携帯に便利なカプセルに軟エキスを封入すること、特に、体内で溶け易いうえ、体液となじみ易い軟エキスをそのままに摂取できるソフトカプセルに封入することが求められている。
【0003】
従来の技術では、軟エキスを、ミツロウ、グリセリン脂肪酸エステル、硬化油等の乳化剤や分散剤と油脂と合わせて乳化ないし懸濁させた上でカプセルに封入することが提案されている。しかしながら、その場合には、軟エキスを、乾燥後にカプセルの表面が凹まない程度、即ち10重量%程度まで揮発成分の含量を少なくした状態で配合しなければならず、その結果として、軟エキス分の含量はこの軟エキスの乾燥粉末を配合した場合よりも少なくなってしまう場合が少なくない。
【0004】
軟エキスをスプレードライ加工やフリーズドライ加工等で粉末にして油脂(中鎖脂肪酸トリグリセリド等)中に懸濁させた場合には、カプセル封入時に必要な流動性(粘度)を確保するために、この軟エキスの乾燥粉末の量を限定する必要があり、結果として、乾燥粉末に含まれるエキス分の含量は、カプセル全体の20重量%未満になってしまう事もある。
従って、必要な量だけエキス分を摂取するためには摂取するカプセルの数を増やさなければならず、利便性に欠ける。
【0005】
一方、軟エキスのみでカプセル封入時に必要な流動性を確保すると、軟エキス中のエキス分は70重量%程度となるが、残りの30重量%以上は、エキス抽出溶媒である水分等の揮発成分が占めることになる。従って、そのままカプセルに封入するとその後の乾燥工程で20重量%程度以上の水分等の揮発成分が蒸発してしまい、カプセルの表面が凹んでしまう。従って、外観的商品価値が著しく下がる。また、カプセル内容物の水分が10重量%以上であると、カプセルの耐熱性、耐付着性が低い。カプセル封入時においては、ポンプピストンの摩擦熱等により軟エキスが焼き焦げてしまう可能性があり、軟エキスの成分変性や物性変化の可能性、使用機械の破損の危険性がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
それ故、本発明は、軟エキスの含量が多く、故にエキス分の含量が多いカプセル剤を提供することを目的とする。
本発明は、特に、カプセルの表面に凹みが無いソフトカプセル形態のカプセル剤及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
それ故、本発明者は、前記課題の解決を目指し鋭意検討を重ねてきた。その結果、意外にも、軟エキス中の揮発成分を、親水性の食用油脂と合わせて強制分散(乳化ないし懸濁)し、さらに減圧濃縮させることにより、軟エキスを比較的多く含有させても、その軟エキスに含まれる揮発成分が該食用油脂に抱き込まれて揮発し難くなり、ソフトカプセルの内容物としてカプセル封入しても、乾燥後にカプセルの表面に凹みが生じないことを見出し、本発明を完成するに至った。
なお、このカプセル剤は、揮発成分の揮発化を阻止した点に特徴があることから、製造後の保管時の形態安定性を考慮すれば、ハードカプセル形態に適用しても好ましいことは言うまでもない。
【0008】
請求項1の発明は、軟エキスと親水性食用油脂の混合液をカプセル内容物とすることを特徴とする軟エキス高含有カプセル剤である。
請求項2の発明は、カプセル内容物中の軟エキス分の含量が20重量%以上であることを特徴とする、請求項1に記載の軟エキス高含有カプセル剤である。
請求項3の発明は、ソフトカプセルのカプセル表面に凹みが無いことを特徴とする、請求項1又は2に記載の軟エキス高含有カプセル剤である。
請求項4の発明は、カプセル内容物中には分散剤や乳化剤を含まないことを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の軟エキス高含有カプセル剤である。
【0009】
請求項5の発明は、請求項1から4のいずれかに記載の軟エキス高含有カプセル剤の製造方法においてカプセル内容物の軟エキスの出発原料としての配合量を60重量%以上に調整することを特徴とする、軟エキス高含有カプセル剤の製造方法である。
請求項6の発明は、請求項5に記載の軟エキス高含有カプセル剤の製造方法において、軟エキスを、食用油脂と合わせて強制分散し、さらに減圧濃縮させることにより得たカプセル内容物をソフトカプセルに封入することを特徴とする、軟エキス高含有カプセル剤の製造方法である。
請求項7の発明は、カプセル封入直前のカプセル内容物の揮発成分含量を10〜25重量%、粘度を5,000〜50,000cP(センチポイズ)に調整することを特徴とする、請求項項5又は6に記載の軟エキス高含有カプセル剤の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、軟エキスの含量、即ちエキス分の含量が多いカプセル剤が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
先ず、原料を説明する。
A.軟エキス
軟エキスは、蓄肉、魚介類、野菜等から水やアルコール等の溶媒を用いて有効成分(エキス分)を抽出したものであり、植物由来のものとしては、大蒜、蜂蜜、ローヤルゼリー、シイタケ、マツバ、イチョウ葉、クマザサ、高麗人参、杜仲、黒酢、各種果汁等のエキスが例示され、動物由来としては、オットセイ、深海ザメ、スッポン、プラセンタ、マロー、カキ等のエキスが例示される。これらは複数混合したものでもよい。これらの軟エキスは複数併用してもよい。
【0012】
B.軟エキスと強制分散(乳化及び懸濁)できる食用油脂
本明細書中では、食用油脂とは常温で液体の可食に適した油脂を意味する。
軟エキスと強制分散できる食用油脂としては、遊離脂肪酸、構成脂肪酸として中鎖(炭素数が8以上12以下)又は短鎖脂肪酸(炭素数が6以下)を含むトリグリセリド、ジグリセリド等が例示される。これらの油脂を、軟エキスと合わせて強制分散すると、軟エキス中の揮発成分が油脂に抱き込まれた状態、即ち乳化ないし懸濁状態となり、カプセル注入後の揮発成分の揮発が抑制される。
好ましい油脂は、遊離脂肪酸であり、尚且つ炭素数が少ない脂肪酸が好ましい。脂肪酸のカルボキシル基は水と親和力があることから、軟エキスともなじむことが出来る。炭素数が少ない脂肪酸(短鎖脂肪酸)を使用した場合は、炭素の鎖の影響を受けにくい為、軟エキスとなじみ易い傾向になる。逆に炭素数が多い脂肪酸(長鎖脂肪酸)を使用した場合、炭素の鎖の影響を受ける傾向になる。よって強制分散に好ましい油脂は、遊離脂肪酸であり、尚且つ炭素数が少ない脂肪酸が好ましい。
【0013】
次に、好適な例のソフトカプセルの製造方法を説明する。
(1)軟エキス中の揮発成分を、親水性の食用油脂と合わせて強制分散(乳化及び懸濁)する。
(2)揮発成分の含量が多い場合には、エキスを濃縮したり、分散物を濃縮することで含量を調整する。馴染みを促進する為、加温して濃縮を行う場合もある。
【0014】
軟エキス中の揮発成分の含量は、カプセル封入直前には、10〜25重量%になるよう調節しておくことが好ましい。揮発成分の含量が多いと結果としてエキス分の含量も多くできるので、なるべく水分含量を従来の製造方法による場合より多くしたいが、25重量%より多いと油脂の不揮発化機能の許容限度を越えてしまい、カプセル成形後の乾燥により、カプセルの表面に凹みが生じ易いからである。
また、カプセル内容物の粘度は5,000〜50,000cP(センチポイズ)の範囲にあることが好ましい。50,000cPより高いと、カプセル封入時にカプセル皮膜が破れ易いからである。従って、この粘度範囲に納まるように、軟エキスと油脂を配合することが好ましい。
【0015】
強制分散は、分散剤や乳化剤を使用せず、ホモミキサー等を利用して物理的に行うのが好ましい。また、濃縮する場合には、軟エキスの成分変性や物性変化が発生しない温度(30〜40℃程度)に加温しながら真空脱泡器等を利用して脱泡を同時に行うのが好ましい。
【0016】
なお、市販されている軟エキスであれば、カプセル内容物の出発原料として軟エキスを60重量%以上配合しても、カプセルの表面には凹みが生じないソフトカプセルを製造できることが確認されている。
【実施例1】
【0017】
(種々の処方によるカプセル内容物の調製)
〔本発明品〕
ニンニクエキス600g(エキス分30重量%、水70重量%)及びオレイン酸400gをステンレス製寸胴に投入し、ホモミキサーにて均一に強制分散するまで混合した。その後、懸濁液を30〜40℃に加温しながら、真空脱泡機にて濃縮及び脱泡処理し、強制分散液の固形分を乾燥基準で80重量%にした。
従って、カプセル封入直前のカプセル内容物の配合比は、エキス分:40重量%、水:20重量%、オレイン酸:40重量%となった。
【0018】
〔比較品1〕
ミツロウ140g及び中鎖脂肪酸トリグリセリド710gをステンレス製寸胴に投入し、60〜70℃に加温し、ミツロウを溶解した。その後、撹拌冷却し、40℃以下になったらニンニクエキス150g(エキス分30重量%、水70重量%)を配合し、ホモミキサーにて均一に乳化ないし懸濁するまで混合した。その後、得られた液を真空脱泡機にて脱泡処理した。
従って、カプセル封入直線のカプセル内容物の配合比は、エキス分:4.5重量%、水:10.5重量%、中鎖脂肪酸トリグリセリド:71重量%、ミツロウ:14重量%となった。
比較品1は従来の処方である。
【0019】
〔比較品2〕
ミツロウ200g及び中鎖脂肪酸トリグリセリド200gをステンレス製寸胴に投入し、60〜70℃に加温し、ミツロウを溶解した。その後、撹拌冷却し、40℃以下になったらニンニクエキス600g(エキス分30重量%、水70重量%)を配合し、ホモミキサーにて均一に乳化ないし懸濁するまで混合した。その後、得られた液を真空脱泡機にて脱泡処理した。
従って、カプセル内容物の配合比は、エキス分:18重量%、水:42重量%、中鎖脂肪酸トリグリセリド:20重量%、ミツロウ:20重量%となった。
比較品2は、最初に軟エキスを本発明品と同量配合させた例であるが、本発明品は濃縮しているので、カプセル内容物中の水分含量には大きな差がある。
【0020】
(ソフトカプセルの製造)
上記のカプセル内容物を用いて、回転金型式カプセル充填機を用いて打ち抜き法にてフットボール型のソフトカプセルを製造した。なお、ゼラチン皮膜液は、ゼラチン:100、グリセリン:35、精製水:100の重量比率にて溶解したものを使用した。
【0021】
(評価)
【表1】

【表2】

凹みは、乾燥処理後のカプセルの表面を肉眼観察し、凹みが有った場合には×とした。
カプセル成形性は、カプセル内容物を封入したときのカプセル皮膜を肉眼観察し、破れが生じた場合には×とした。
分散安定性は、カプセル封入後30日間静置したときに、懸濁物が層分離した場合には×とした。
【0022】
本発明品と比較品1は、カプセルの表面に凹みが無く、しかも分散安定性も良かった。しかしながら、本発明品と比較品1とでは、エキス分の含量が大きく異なる。
一方、比較品2は、エキス分の含量が比較的多いが水分含量も多いため、ソフトカプセルの乾燥工程途中から、カプセルが凹み始め、乾燥後も凹んだままであった。
【実施例2】
【0023】
(種々の処方によるカプセル内容物の調製)
〔本発明品〕
ニンニクエキス800g(エキス分70重量%、水30重量%)及びオレイン酸200gをステンレス製寸胴に投入し、ホモミキサーにて均一に強制分散するまで混合した。その後、強制分散液を30〜40℃に加温しながら、真空脱泡機にて濃縮及び脱泡処理し、強制分散液の固形分を乾燥基準で80重量%にした。
従って、カプセル内容物の配合比は、エキス分:60重量%、水:20重量%、オレイン酸:20重量%となった。また粘度は28,000cPであった。
【0024】
〔比較品1〕
ミツロウ100g及び中鎖脂肪酸トリグリセリド550gをステンレス製寸胴に投入し、60〜70℃に加温し、ミツロウを溶解した。その後、撹拌冷却し、40℃以下になったらニンニクエキス350g(エキス分70重量%、水30重量%)を配合し、ホモミキサーにて均一に乳化ないし分散するまで混合した。その後、得られた液を真空脱泡機にて脱泡処理した。
従って、カプセル内容物の配合比は、エキス分:24.5重量%、水:10.5重量%、中鎖脂肪酸トリグリセリド:55重量%、ミツロウ:10重量%となった。
比較品1は従来の処方である。
【0025】
〔比較品2〕
ミツロウ180g及び中鎖脂肪酸トリグリセリド20gをステンレス製寸胴に投入し、60〜70℃に加温し、ミツロウを溶解した。その後、撹拌冷却し、40℃以下になったら濃縮したニンニクエキス800g(エキス分70重量%、水30重量%)を配合し、ホモミキサーにて均一に乳化ないし分散するまで混合した。その後、得られた液を真空脱泡機にて脱泡処理した。
従って、カプセル内容物の配合比は、エキス分:56重量%、水:24重量%、中鎖脂肪酸トリグリセリド:2重量%、ミツロウ:18重量%となった。また、粘度は60,000cPであった。
比較品2は、軟エキスを本発明品と同量配合させた例であるが、本発明品は濃縮しているので、水分含量には大きな差がある。
【0026】
(ソフトカプセルの製造)
上記のカプセル内容物を用いて、回転金型式カプセル充填機を用いて打ち抜き法にてフットボール型のソフトカプセルを製造した。なお、ゼラチン皮膜液は、ゼラチン:100、濃グリセリン:35、精製水:100の重量比率にて溶解したものを使用した。
【0027】
(評価)
【表3】

【表4】

評価基準は実施例1と同じにした。
【0028】
本発明品と比較品1は、いずれもカプセルの表面に凹みが無かった。しかしながら、比較品1は本発明品と比較すると軟エキスの配合量が極端に少ない。
一方、比較品2は、カプセル内容物の粘度が高いので、成形時に液漏れ不良や、充填量不足不良が生じてしまった。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明によれば、1カプセル当りのエキス分の含量(配合量)を多くしても、ソフトカプセルの表面が凹まないので、商品価値の高いソフトカプセルを市場に提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟エキスと親水性食用油脂の混合液をカプセル内容物とすることを特徴とする軟エキス高含有カプセル剤。
【請求項2】
カプセル内容物中の軟エキス分の含量が20重量%以上であることを特徴とする、請求項1に記載の軟エキス高含有カプセル剤。
【請求項3】
ソフトカプセルのカプセル表面に凹みが無いことを特徴とする、請求項1又は2に記載の軟エキス高含有カプセル剤。
【請求項4】
カプセル内容物中には分散剤や乳化剤を含まないことを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の軟エキス高含有カプセル剤。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の軟エキス高含有カプセル剤の製造方法においてカプセル内容物の軟エキスの出発原料としての配合量を60重量%以上に調整することを特徴とする、軟エキス高含有カプセル剤の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の軟エキス高含有カプセル剤の製造方法において、軟エキスを、食用油脂と合わせて強制分散し、さらに減圧濃縮させることにより得たカプセル内容物をソフトカプセルに封入することを特徴とする、軟エキス高含有カプセル剤の製造方法。
【請求項7】
カプセル封入直前のカプセル内容物の揮発成分含量を10〜25重量%、粘度を5,000〜50,000cP(センチポイズ)に調整することを特徴とする、請求項項5又は6に記載の軟エキス高含有カプセル剤の製造方法。

【公開番号】特開2006−321718(P2006−321718A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−143482(P2005−143482)
【出願日】平成17年5月17日(2005.5.17)
【出願人】(396020279)三生医薬株式会社 (11)
【Fターム(参考)】