説明

転がり軸受ユニットの状態量測定装置の検査方法

【課題】複数のセンサ6a、6b同士の位置関係を目視により確認できなくても、これら各センサ6a、6b同士の位置関係が適切であるか否かを、容易且つ確実に判定できる検査方法を実現する。
【解決手段】上記各センサ6a、6bを保持するカバー5を完成後の状態に結合する以前に、検査用エンコーダ10の検査用被検出面に、上記各センサ6a、6bの検出部を対向させる。そして、この状態で、上記検査用エンコーダ10を一定の速度で変位させつつ、上記各センサ6a、6bの出力信号同士の間に存在する位相差を求める。更に、この位相差に基づいて、上記カバー5に対する上記各センサ6a、6bの取付位置の適否を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明の検査方法の対象となる転がり軸受ユニットの状態量測定装置は、この転がり軸受ユニットを構成する静止側軌道輪と回転側軌道輪との間に作用する外力等の状態量を測定する為に利用する。更に、この求めた状態量を、自動車等の車両の走行安定性確保を図る為に利用する。本発明は、この様な転がり軸受ユニットの状態量測定装置を構成する複数のセンサが、カバー等の保持部材に対して正規の位置関係で組み付けられているか否かを容易に、且つ、正確に判定できる検査方法を実現するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車の車輪は懸架装置に対し、複列アンギュラ型等の転がり軸受ユニットにより回転自在に支持する。又、自動車の走行安定性を確保する為に、例えばアンチロックブレーキシステム(ABS)やトラクションコントロールシステム(TCS)、更には、電子制御式ビークルスタビリティコントロールシステム(ESC)等の車両用走行安定化装置が使用されている。この様な各種車両用走行安定化装置を制御する為には、車輪の回転速度、車体に加わる各方向の加速度等を表す信号が必要になる。そして、より高度の制御を行なう為には、車輪を介して上記転がり軸受ユニットに加わる荷重(例えばラジアル荷重とアキシアル荷重との一方又は双方)の大きさを知る事が好ましい場合がある。
【0003】
この様な事情に鑑みて、特許文献1には、特殊なエンコーダを使用して、転がり軸受ユニットに加わる荷重の大きさを測定する発明が記載されている。図19は、この特許文献1に記載された構造ではないが、この特許文献1に記載された構造と同じ荷重の測定原理を採用している、転がり軸受ユニットの状態量測定装置に関する従来構造の第1例を示している。この従来構造の第1例は、使用時にも回転しない静止側軌道輪である外輪1の内径側に、使用時に車輪を支持固定した状態でこの車輪と共に回転する、回転側軌道輪であるハブ2を、複数個の転動体3、3を介して、回転自在に支持している。これら各転動体3、3には、互いに逆向きの(図示の場合には背面組み合わせ型の)接触角と共に、予圧を付与している。尚、図示の例では、上記転動体3として玉を使用しているが、重量が嵩む自動車用の軸受ユニットの場合には、玉に代えて円すいころを使用する場合もある。
【0004】
又、上記ハブ2の軸方向内端部には、円環状のエンコーダ4を、上記ハブ2と同心に支持固定している。又、特許請求の範囲に記載した保持部材としての役目も有し、上記外輪1の内端開口を塞ぐ有底円筒状のカバー5の内側に、1対のセンサ6a、6bを支持固定すると共に、これら両センサ6a、6bの検出部を、上記エンコーダ4の被検出面である外周面に近接対向させている。このエンコーダ4は、芯金7とエンコーダ本体8とを組み合わせて成る。このうちの芯金7は、軟鋼板等の磁性金属板により、断面クランク形で全体を段付円筒状に構成している。又、上記エンコーダ本体8は、上記芯金7のうちで大径側部分の外周面の全周に円筒状の磁性部材(永久磁石材、高保磁力材)を添着固定(接着固定、モールドによる固定等)した後、この磁性部材に着磁する事により構成している。被検出面である、上記エンコーダ本体8の外周面には、S極に着磁された部分とN極に着磁された部分とを、円周方向に関して交互に且つ等間隔で配置している。円周方向に隣り合うS極とN極との境界は、上記外周面の軸方向に対して所定方向に所定角度で漸次変化している。又、変化する方向は、この外周面の軸方向片半部と他半部とで、互いに逆にしている。従って、上記S極に着磁された部分と上記N極に着磁された部分とは、軸方向中央部が円周方向に関して最も突出した(又は凹んだ)、「V」字形(又は「く」字形)となっている。
【0005】
又、上記両センサ6a、6bの検出部には、ホールIC、ホール素子、MR素子、GMR素子等の磁気検知素子を組み込んでいる。そして、これら両センサ6a、6bのうち、一方のセンサ6aの検出部を上記エンコーダ本体8の外周面の軸方向他半部に、他方のセンサ6bの検出部を同じく軸方向他半部に、それぞれ近接対向させている。上記外輪1と上記ハブ2との間にアキシアル荷重が作用しない状態で、上記S極に着磁された部分と上記N極に着磁された部分との軸方向中央部で円周方向に関して最も突出した部分が、上記両センサ6a、6bの検出部同士の間の丁度中央位置に存在する様に、各部材の軸方向の設置位置を規制している。同じ状態で、上記両センサ6a、6bの検出部と、上記エンコーダ本体8の外周面の変化の位相との関係が所定通りになる様に、上記両センサ6a、6bの円周方向の設置位置を規制している。
【0006】
上述の様に構成する転がり軸受ユニットの状態量測定装置の場合、上記外輪1とハブ2との間にアキシアル荷重が作用すると、上記両センサ6a、6bの出力信号が変化する位相がずれる。即ち、上記外輪1とハブ2との間にアキシアル荷重が作用しておらず、これら外輪1とハブ2とが相対変位していない、中立状態では、上記両センサ6a、6bの検出部は、上記エンコーダ8の外周面で、上記最も突出した部分から軸方向に同じだけずれた部分に対向する。従って、上記両センサ6a、6bの出力信号の位相は、上記所定の関係により定まる通り、一致若しくは所定値だけずれる。これに対し、上記エンコーダ4を固定したハブ2にアキシアル荷重が作用した場合には、上記両センサ6a、6bの検出部は、このアキシアル荷重の方向に応じた方向に、このアキシアル荷重の大きさに応じた分だけずれた部分に対向する。この状態では上記両センサ6a、6bの出力信号の位相は、上記アキシアル荷重の方向に応じた方向に、このアキシアル荷重の大きさに応じた分だけずれる。
【0007】
この様に、上述した従来構造の第1例の場合には、上記両センサ6a、6bの出力信号の位相が、上記外輪1とハブ2との間に加わるアキシアル荷重の作用方向(これら外輪1とハブ2とのアキシアル方向の相対変位の方向)に応じた向きにずれる。又、このアキシアル荷重(相対変位)により上記両センサ6a、6bの出力信号の位相がずれる程度は、このアキシアル荷重(相対変位)が大きくなる程大きくなる。従って、上記両センサ6a、6bの出力信号の位相ずれの有無、ずれが存在する場合にはその向き及び大きさに基づいて、上記外輪1とハブ2とのアキシアル方向の相対変位の向き及び大きさ、並びに、これら外輪1とハブ2との間に作用しているアキシアル荷重の作用方向及び大きさを求められる。尚、上記両センサ6a、6bの出力信号同士の間に存在する位相差に基づいて上記アキシアル方向の相対変位及び荷重を算出する処理は、図示しない演算器により行なう。この為、この演算器のメモリ中には、予め理論計算や実験により調べておいた、上記位相差と、上記アキシアル方向の相対変位又は荷重との関係を、計算式やマップ等の型式で記憶させておく。
【0008】
尚、上述した従来構造の第1例の場合には、それぞれの検出部をエンコーダ本体8の外周面に対向させた1対のセンサ6a、6bから成るセンサ組を1組だけ設けている。これに対し、特願2006−143097、特願2006−345849には、それぞれが1対のセンサから成るセンサ組を複数組設ける事で、多方向の変位或は外力を求められる構造が開示されている。
【0009】
次に、図20は、転がり軸受ユニットの状態量測定装置に関する従来構造の第2例を示している。この従来構造の第2例の場合には、外輪1とハブ2との径方向に関する相対変位量、或いは、これら外輪1とハブ2との間に作用するラジアル荷重を測定する様に構成している。この為に本例の場合には、エンコーダ4aを構成する永久磁石製のエンコーダ本体8aを円輪状とし、1対のセンサ6a、6bの検出部を、このエンコーダ本体8aの軸方向側面のうちで、径方向にずれた2個所位置に対向させている。このエンコーダ本体8aの軸方向側面には、軸方向から見た形状が「V」字形或いは「く」字形であるS極とN極とが、円周方向に関して交互に配置されている。この為、上記外輪1とハブ2とが、ラジアル荷重に基づいて径方向に相対変位すると、上記両センサ6a、6bの出力信号の位相が中立位置からずれる。そして、前述した従来構造の第1例の場合と同様の機構により、上記径方向に関する相対変位量やラジアル荷重、或いはモーメントを求められる。
【0010】
上述の様な従来から知られている転がり軸受ユニットの状態量測定装置により、上記外輪1と上記ハブ2との間の相対変位量やこれら外輪1とハブ2との間に作用する荷重や力を精度良く求める為には、互いに組となる、上記1対のセンサ6a、6b同士の位置関係が、設計通り、正確に規制されている事が必要である。この位置関係が設計値からずれていた場合には、いくら演算処理の精度を向上させても、上記荷重や力を精度良く求める事はできない。
【0011】
一方、上記転がり軸受ユニットの状態量測定装置を工業的に製造する場合には、図19、20に示す様に、上記各センサ6a、6bを前記保持部材であるカバー5内に、合成樹脂製のホルダ9を介して保持固定する事が考えられる。即ち、このホルダ9内に上記各センサ6a、6bを包埋した(これら各センサ6a、6bを上記カバー5と共に射出成形型内にセットした状態でホルダ9を射出成形した)状態で、このホルダ9を上記カバー5内に保持固定(射出成形後に内嵌固定、或いは上記各センサ6a、6bを包埋すると同時にモールド成形)する。この様な構造を採用すれば、上記カバー5に対する上記各センサ6a、6bの保持固定を容易に行なえ、しかも、長期間に亙る使用に拘らず、これら各センサ6a、6b同士の位置関係がずれ動く事を防止できる。
【0012】
但し、上記各センサ6a、6bを上記ホルダ9内に包埋した状態では、これら各センサ6a、6bを外部から目視できなくなり、上記各センサ6a、6b同士の位置関係が規定通りであるか否かを目視により確認する事はできなくなる。これに対して、上記各センサ6a、6b同士の位置関係は、上記ホルダ9を射出成形する際、金型内に高圧で注入される溶融樹脂に押されてずれる可能性がある。そして、射出成形後の状態で上記各センサ6a、6bは、それぞれの検出部を含めて合成樹脂により覆われる為、上述の様に、これら各センサ6a、6b同士の位置関係が規定通りであるか否かを目視により確認する事はできなくなる。一方、互いに位置関係が不正規のままの各センサ6a、6bを組み込んだ転がり軸受ユニットの状態量測定装置では、上述の様に、前記外輪1と前記ハブ2との間の相対変位量、或いは、これら外輪1とハブ2との間に作用する荷重や力を精度良く求める事はできない。
【0013】
尚、上記各センサ6a、6b同士の位置関係の規定からのずれが僅かであれば、演算器にインストールしたソフトウェア中の計算式やマップ等の零点(更に必要に応じてゲイン)を補正する事で、上記荷重や力を、必要な精度を確保しつつ求められる。但し、上記ずれが大きくなり過ぎると、これら荷重や力を必要な精度を確保しつつ求める事が難しくなる他、仮に求められても面倒な処理が必要になる可能性がある。即ち、上記各センサ6a、6bの出力信号同士の間には、上記荷重や力が作用していない中立状態で、所定の位相差を設定しておく事が好ましい。この理由は、荷重や力の作用方向に関係なく、前記外輪1と前記ハブ2との相対回転の方向が同じである限り、上記各センサ6a、6bの出力信号同士の前後関係が逆転しない様にする為である。
【0014】
例えば、1対のセンサ6a、6bの出力信号同士の位相が180度ずれる様に、これら各センサ6a、6bの検出部を、前記エンコーダ本体8aの着磁ピッチに関して「0.5+n(nは0又は自然数)」ピッチ分だけ円周方向にずらせる事が好ましい。ところが、上記各センサ6a、6bの円周方向に関するずれ量が「0.2+n」であったり、「0.8+n」であったりと、「0.5+n」から大きくずれると、大きな荷重や力が作用した場合に、上記各センサ6a、6bの出力信号同士の前後関係が逆転する可能性が生じる。この様な場合に、逆転の事実を把握して上記荷重や力を精度良く求める為には、複雑な演算処理が必要になり、演算器として、処理能力の大きな高価なものが必要になったり、処理速度が遅くなって、上記荷重や力を表す信号に基づいて適切な制御を行なう事ができなくなってしまう。
【0015】
【特許文献1】特開2006−113017号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、転がり軸受ユニットの状態量測定装置に組み込んだ複数のセンサ同士の位置関係を目視により確認できなくても、これら各センサ同士の位置関係が適切であるか否かを、容易且つ確実に判定できる検査方法を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の検査方法による検査の対象となる転がり軸受ユニットの状態量測定装置は、転がり軸受ユニットと、状態量測定装置とを備える。
このうちの転がり軸受ユニットは、静止側周面に静止側軌道を有し、使用時にも回転しない静止側軌道輪と、回転側周面に回転側軌道を有し、使用時に回転する回転側軌道輪と、上記静止側軌道と上記回転側軌道との間に転動自在に設けられた複数個の転動体とを備える。
又、上記状態量測定装置は、エンコーダと、上記静止側軌道輪に対し保持部材を介して支持固定されたセンサ装置と、演算器とを備える。
このうちのエンコーダは、上記回転側軌道輪の一部に直接又は他の部材を介して支持固定されたもので、この回転側軌道輪と同心の被検出面を備える。そして、この被検出面の特性を円周方向に関して交互に変化させると共に、この被検出面の特性が円周方向に関して変化するピッチ若しくは位相を、少なくともこの被検出面の幅方向一部分で、この幅方向に関して連続的に変化させている。
又、上記センサ装置は、複数個のセンサを備えたもので、これら各センサの検出部を上記被検出面に対向させると共に、このうちの少なくとも1個のセンサの検出部を、上記被検出面のうちで、上記特性変化の位相若しくはピッチが幅方向に関して連続的に変化する部分に対向させた状態で、上記保持部材を上記静止側軌道輪に対し結合固定する事により、この静止側軌道輪に対し支持している。且つ、上記各センサはそれぞれ、上記回転側軌道輪の回転に伴い、上記被検出面のうちで自身の検出部を対向させた部分の特性変化に対応してその出力信号を変化させる。
又、上記演算器は、上記各センサの出力信号に関する情報に基づいて、上記静止側軌道輪と上記回転側軌道輪との間の相対変位と、これら両軌道輪同士の間に作用する外力とのうちの、少なくとも一方の状態量を算出する機能を有する。
【0018】
本発明の転がり軸受ユニットの状態量測定装置の検査方法は、上述の様な転がり軸受ユニットの状態量測定装置に関して、上記各センサの位置関係が適正であるか否かを検査する。
この様な本発明の転がり軸受ユニットの状態量測定装置の検査方法では、上記保持部材を上記静止側軌道輪に結合する以前に、検査用被検出面の特性を既知の状態で変化させた検査用エンコーダの検査用被検出面に上記各センサの検出部を対向させた状態で、この検査用エンコーダを一定の速度で変位させつつ、上記各センサの出力信号同士の間に存在する位相差を求める。そして、この位相差に基づいて、上記保持部材に対する上記各センサの取付位置の適否を判定する。
尚、速度の大きさは既知である事が好ましいが、必ずしも既知である必要はない。この理由は、上記適否を、上記各センサの出力信号同士の間の位相差比(=位相差/1周期)により判断すれば、上記速度の大きさの影響を排除できる為である。但し、速度が変化すると信頼できる位相差比を求められない為、上記各センサの出力信号を取り込む際に、上記検査用エンコーダの速度が一定である事は必須である。
【0019】
上述の様な本発明の転がり軸受ユニットの状態量測定装置の検査方法を実施する場合に於ける具体的方法に就いては、測定すべき状態量の方向、複数のセンサ同士の位置関係のうちの検査すべき方向に応じて、各種の態様が考えられる。
先ず、測定すべき状態量の方向がアキシアル方向であって、状態量測定装置を構成する各センサの検出部がエンコーダの被検出面に径方向に対向する構造であり、適否を判断すべき、保持部材に対する上記各センサの位置関係が、上記エンコーダの円周方向に関する位置関係である場合には、請求項2に記載した態様により実施する。
この場合には、検査用エンコーダの検査用被検出面を、この検査用エンコーダの周面である円筒面とし、この検査用被検出面の特性が変化する境界を、この検査用エンコーダの中心軸と平行にする。又、この境界を、回転方向に関して既知のピッチで存在させる。
そして、上記検査用エンコーダを一定の回転速度で回転させつつ、上記各センサの出力信号同士の間に存在する位相差を求める。
【0020】
又、測定すべき状態量の方向がアキシアル方向であって、状態量測定装置を構成する各センサの検出部がエンコーダの被検出面に径方向に対向する構造であり、適否を判断すべき、保持部材に対する上記各センサの位置関係が、上記エンコーダの軸方向に関する位置関係である場合には、例えば、請求項3に記載した態様により実施する。
この場合も、検査用エンコーダの検査用被検出面を、この検査用エンコーダの周面である円筒面とする。但し、この検査用被検出面の特性が変化する境界を、この検査用エンコーダの円周方向とし、この境界を、この検査用エンコーダの軸方向に関して既知のピッチで存在させる。
そして、上記検査用エンコーダを一定の速度で軸方向に移動させつつ、上記各センサの出力信号同士の間に存在する位相差を求める。
【0021】
又、測定すべき状態量の方向がアキシアル方向であって、状態量測定装置を構成する各センサの検出部がエンコーダの被検出面に径方向に対向する構造であり、適否を判断すべき、保持部材に対する上記各センサの位置関係が、上記エンコーダの軸方向に関する位置関係である場合には、請求項4に記載した態様で実施する事もできる。
この場合も、検査用エンコーダの検査用被検出面を、この検査用エンコーダの周面である円筒面とする。但し、上記請求項4に記載した態様の場合には、上記検査用被検出面の特性が変化する境界を、この検査用エンコーダの軸方向及び円周方向に対して既知の角度で傾斜させる。
そして、上記検査用エンコーダを一定の速度で回転させつつ、上記各センサの出力信号同士の間に存在する位相差を求める。
【0022】
又、測定すべき状態量の方向がラジアル方向であって、状態両測定装置を構成する各センサの検出部がエンコーダの被検出面に軸方向に対向する構造であり、適否を判断すべき、保持部材に対する上記各センサの位置関係が、上記エンコーダの円周方向に関する位置関係である場合には、例えば、請求項5に記載した態様で実施する。
この場合には、検査用エンコーダの検査用被検出面を、この検査用エンコーダの軸方向側面である円輪面とし、この検査用被検出面の特性が変化する境界を、この検査用エンコーダの放射方向(径方向)とする。又、この境界を、回転方向に関して既知のピッチで存在させる。
そして、上記検査用エンコーダを一定の回転速度で回転させつつ、上記各センサの出力信号同士の間に存在する位相差を求める。
【0023】
又、測定すべき状態量の方向がラジアル方向であって、状態量測定装置を構成する各センサの検出部がエンコーダの被検出面に軸方向に対向する構造であり、適否を判断すべき、保持部材に対する上記各センサの位置関係が、上記エンコーダの径方向に関する位置関係である場合には、請求項6に記載した態様で実施する。
この場合には、検査用エンコーダの検査用被検出面を、この検査用エンコーダの軸方向側面である円輪面とし、この検査用被検出面の特性が変化する境界を、上記エンコーダの径方向に対し直角方向とする。又、この境界を、この検査用エンコーダの径方向に関して既知のピッチで存在させる。
そして、この検査用エンコーダを一定の速度で径方向に移動させつつ、上記各センサの出力信号同士の間に存在する位相差を求める。
【0024】
又、測定すべき状態量の方向がラジアル方向であって、状態量測定装置を構成する各センサの検出部がエンコーダの被検出面に軸方向に対向する構造であり、適否を判断すべき、保持部材に対する上記各センサの位置関係が、上記エンコーダの径方向に関する位置関係である場合には、請求項7に記載した態様で実施する事もできる。
この場合も、検査用エンコーダの検査用被検出面を、この検査用エンコーダの軸方向側面である円輪面とする。但し、上記請求項7に記載した態様の場合には、上記検査用被検出面の特性が変化する境界を、上記検査用エンコーダの径方向及び円周方向に対して既知の角度で傾斜させる。
そして、この検査用エンコーダを一定の速度で回転させつつ、上記各センサの出力信号同士の間に存在する位相差を求める。
【0025】
尚、本発明を実施する場合に、検査用エンコーダの被検出面の特性を変化させる態様に就いては、位置関係を検査すべき各センサの構造(機能)に応じて選択する。
例えば、上記各センサが、ホールIC、ホール素子、MR素子、GMR素子等の磁気検知素子を組み込んでいるが永久磁石を備えていない場合には、請求項8に記載した様に、上記検査用エンコーダを永久磁石製とする。そして、この検査用エンコーダの被検出面にS極とN極とを、この検査用エンコーダの移動方向に関して交互に配置する。
一方、上記各センサが、上述の様な磁気検知素子と共に永久磁石を備えているものである場合には、請求項9に記載した様に、上記検査用エンコーダを磁性材製とする。そして、この検査用エンコーダの被検出面に凸部或いは柱部等の充実部と、凹部或いは透孔等の除肉部とを、この検査用エンコーダの移動方向に関して交互に配置する。
【発明の効果】
【0026】
上述の様に構成する本発明の転がり軸受ユニットの状態量測定装置の検査方法によれば、転がり軸受ユニットの状態量測定装置に組み込んだ複数のセンサ同士の位置関係を目視により確認できなくても、これら各センサ同士の位置関係が適切であるか否かを、容易且つ確実に判定できる。
この為、互いに位置関係が不正規のままの各センサを組み込んだ転がり軸受ユニットの状態量測定装置を出荷する事を防止できて、転がり軸受ユニットを構成する静止側軌道輪と回転側軌道輪との相対変位、これら各軌道輪同士の間に作用する荷重や力等の測定値に関する信頼性を確保できる。そして、処理能力が高い高価な制御器を使用しなくても、これら荷重や力の測定値を利用した制御を精度良く行なえる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
[実施の形態の第1例]
図1〜3は、請求項1、2、8に対応する、本発明の実施の形態の第1例を示している。本例による検査の対象となる転がり軸受ユニットの状態量測定装置は、前述の図19に示す様に、測定すべき状態量の方向がアキシアル方向である。そして、状態量測定装置を構成する各センサ6a、6bの検出部が、エンコーダ4の被検出面である外周面に、径方向に対向する構造である。本例の場合には、この様な構造に関して、カバー5に上記各センサ6a、6bが保持固定された状態で、上記エンコーダ4の円周方向に関する、これら各センサ6a、6b同士の位置関係が適正であるか否かを判断する。
【0028】
この様な本例の転がり軸受ユニットの状態量測定装置の検査方法では、上記カバー5内に上記各センサ6a、6bを、合成樹脂製のホルダ9を介して保持固定した後、このカバー5を静止側軌道輪である外輪1(図19参照)に結合する以前に、検査用エンコーダ10により上記各センサ6a、6bの出力信号を変化させる。そして、これら各センサ6a、6bの出力信号同士の間に存在する位相差に基づいて、これら各センサ6a、6bの設置位置の適否を判断する。この為に、上記カバー5の開口端部を検査装置の取付フレーム11に設けた円形の取付孔12に、軽い(検査後に上記カバー5を傷めずに外せる程度の)締り嵌めで内嵌支持した状態で、上記ホルダ9の内径側で上記検査用エンコーダ10を、一定の速度(好ましくは既知の一定速度)で回転させる。
【0029】
本例の場合には、上記検査用エンコーダ10を、磁性金属板製で円環状の芯金13と、ゴム磁石等の永久磁石製の検査用エンコーダ本体14とから構成している。このうちの芯金13は、基端側(図1の左端側)の小径部と中間部乃至先端側(図1の右端側)の大径部とを段差部で連続させた、段付円筒状としている。そして、このうちの基端部を図示しない回転軸に、この回転軸と同心に外嵌支持して、所定の方向に一定の回転速度で回転駆動自在としている。又、上記検査用エンコーダ本体14は、径方向に着磁しており、着磁方向を、円周方向に関して交互に、且つ、等間隔で変化させている。従って、上記検査用エンコーダ10の被検出面である、上記検査用エンコーダ本体14の外周面には、S極とN極とが、円周方向に関して交互に、且つ、等間隔で配置されている。この検査用エンコーダ本体14の外周面に存在するS極とN極との境界は、上記検査用エンコーダ10の中心軸と平行である。又、この境界を、回転方向に関して既知のピッチ(中心角ピッチ)PC で存在させる。尚、本例に限らず、本発明を実施する場合に、検査用エンコーダの検査用被検出面に存在する、異なる特性部分同士の境界位置は、精度良く設定しておく。
【0030】
尚、上記検査用エンコーダ10の外周面に存在するS極とN極とのピッチPC は、前記状態量測定装置を構成するエンコーダ4のピッチと同じである必要はない。言い換えれば、これら両エンコーダ10、4のピッチは、関連させずに、互いに独立して設定できる。但し、これら両エンコーダ10、4のピッチを同じにする事が、これら両エンコーダ10、4のピッチの相違に関する換算処理を行なう事なく、前記各センサ6a、6bの設置位置の適否を容易に判定する面からは好ましい。又、上記両エンコーダ10、4のピッチを同じにすれば、上記各センサ6a、6bの設置位置が適正位置に対して、上記エンコーダ4の1ピッチ分以上ずれた場合に、これら各センサ6a、6bの出力信号が状態量の測定に使用可能か否かを容易に判定できる。この理由は、適正位置に対し丁度1ピッチ分ずれた場合、上記各センサ6a、6bは、適正位置である場合と同じ信号を出力する事になり、そのまま使用可能になる事が直接的に分かる為である。尚、1ピッチ分以上ずれた事を把握する事はできないが、その様に大きなずれが生じる事は殆どないと考えられる。
【0031】
上述の様な設備を利用して、前記各センサ6a、6bの設置位置の適否を判断するには、上記検査用エンコーダ10を一定の回転速度で回転させつつ、上記各センサ6a、6bの出力信号同士の間に存在する位相差を求める。図2に示す様に、これら各センサ6a、6bの検出部の円周方向に関するずれを中心角で表した場合に「PC +θ」であるとした場合、上記各センサ6a、6bの出力信号の位相は、図3に示す様に、t(∝θ)分だけずれる。即ち、これら各センサ6a、6bの検出部を上記検査用エンコーダ10の回転方向に関して「θ+n・PC (nは0又は自然数)」分だけずらせて配置した場合、「n・PC 」分のずれは上記各センサ6a、6bの出力信号の位相のずれには結び付かず、θ分のずれが、上記図3に示したずれ(位相差t)に結び付く。
【0032】
そこで、この図3に示した上記各センサ6a、6bの出力信号の位相差tに基づいて、前記カバー5に対するこれら各センサ6a、6bの取付位置の適否を判定する。この場合に、上記検査用エンコーダ10の回転速度が既知であれば、上記図3に表れた位相差tに基づいて、上記取付位置の適否を判定できる。これに対して、上記回転速度が既知でなくても一定であれば、位相差比(位相差θ/1周期T、T∝PC )に基づいて、上記取付位置の適否を判定できる。例えば、この位相差比が0.4〜0.6の範囲にあれば、この取付位置が適正である(必要に応じて演算器にインストールしたソフトウェア中の計算式やマップ等の零点を補正する事により、荷重や力を、必要な精度を確保しつつ求められる)と判定する。これに対して、上記位相差比が0.4未満であったり0.6を越えた場合には、荷重や力の作用方向によっては、上記各センサ6a、6bの出力信号同士の前後関係が逆転する可能性があり、上記荷重や力を、必要な精度を確保しつつ求められないと判定する。
【0033】
[実施の形態の第2例]
図4〜6は、請求項1、3、8に対応する、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例による検査の対象となる転がり軸受ユニットの状態量測定装置も、前述の図19に示す様に、測定すべき状態量の方向がアキシアル方向である。そして、状態量測定装置を構成する各センサ6a、6bの検出部が、エンコーダ4の被検出面である外周面に、径方向に対向する構造である。本例の場合には、この様な構造に関して、カバー5に上記各センサ6a、6bが保持固定された状態で、上記エンコーダ4の軸方向に関する、これら各センサ6a、6b同士の位置関係(軸方向に関するこれら各センサ6a、6bの検出部のピッチ)が適正であるか否かを判断する。尚、これら各センサ6a、6bの軸方向に関する位置関係を適正にする事は、これら各センサ6a、6aと上記エンコーダ4とのアキシアル方向のずれが大きくなった場合に、何れかのセンサ6a、6aがこのエンコーダ4の被検出面から外れたり、或いは、このエンコーダ4の被検出面に存在する、特性変化の境界の傾斜方向が変化する位置を跨ぐ事を防止する為に必要である。
【0034】
この様な本例の転がり軸受ユニットの状態量測定装置の検査方法の場合も、上記カバー5内に上記各センサ6a、6bを、合成樹脂製のホルダ9を介して保持固定した後、このカバー5を静止側軌道輪である外輪1(図19参照)に結合する以前に、検査用エンコーダ10aにより上記各センサ6a、6bの出力信号を変化させる。そして、これら各センサ6a、6bの出力信号同士の間に存在する位相差に基づいて、これら各センサ6a、6bの設置位置の適否を判断する。特に、本例の場合には、上記カバー5の開口端部を検査装置の取付フレーム11に設けた円形の取付孔12に、軽い締り嵌めで内嵌支持した状態で、上記ホルダ9の内径側で上記検査用エンコーダ10aを、一定の速度(好ましくは既知の一定速度)で軸方向に平行移動させる。
【0035】
本例の場合も、上記検査用エンコーダ10aを、磁性金属板製で円環状の芯金13と、ゴム磁石等の永久磁石製の検査用エンコーダ本体14aとから構成している。このうちの芯金13の形状は、上述した実施の形態の第1例と同様であるが、基端部を図示しない支持軸に、この支持軸と同心に外嵌支持して、中心軸方向に一定の速度で平行移動自在としている。又、上記検査用エンコーダ本体14aは、径方向に着磁しており、着磁方向を、軸方向に関して交互に、且つ、等間隔で変化させている。従って、上記検査用エンコーダ10aの被検出面である、上記検査用エンコーダ本体14aの外周面には、S極とN極とが、軸方向に関して交互に、且つ、等間隔で配置されている。この検査用エンコーダ本体14aの外周面に存在するS極とN極との境界は、上記検査用エンコーダ10aの中心軸に対し直交する仮想平面上に存在する。又、この境界を、軸方向に関して既知のピッチPA で存在させる。このピッチPA を、上記各センサ6a、6bの設置位置との関係で規制する点に関しては、方向が円周方向から軸方向にずれた点以外、前述した実施の形態の第1例の場合と同様である。
【0036】
上述の様な設備を利用して、前記各センサ6a、6bの設置位置の適否を判断するには、上記検査用エンコーダ10aを一定の速度で軸方向に平行移動させつつ、上記各センサ6a、6bの出力信号同士の間に存在する位相差を求める。図5に示す様に、これら各センサ6a、6bの検出部の軸方向に関するずれが「PA +α」であるとした場合、上記各センサ6a、6bの出力信号の位相は、図6に示す様に、t(∝θ)分だけずれる。即ち、これら各センサ6a、6bの検出部を上記検査用エンコーダ10aの軸方向に関して「α+n・PA (nは0又は自然数)」分だけずらせて配置した場合、「n・PA 」分のずれは上記各センサ6a、6bの出力信号の位相のずれ(位相差t)には結び付かず、α分のずれが、上記図6に示した位相差tに結び付く。
そこで、この図6に示した上記各センサ6a、6bの出力信号の位相差tに基づいて、前述した実施の形態の第1例の場合と同様の処理により、前記カバー5に対するこれら各センサ6a、6bの取付位置の適否を判定する。
【0037】
[実施の形態の第3例]
図7〜9は、請求項1、4、8に対応する、本発明の実施の形態の第3例を示している。本例も、上述した実施の形態の第2例の場合と同様に、前述の図19に示す様な構造に関して、エンコーダ4の軸方向に関する、各センサ6a、6b同士の位置関係が適正であるか否かを判断する。
特に、本例の場合には、検査用エンコーダ10bの検査用被検出面である、検査用エンコーダ本体14bの外周面に、S極とN極とを、互いの間の境界が円周方向及び軸方向に関して傾斜した状態で設けている。これら各境界が軸方向及び円周方向に対して傾斜している角度は、既知の値(例えば45度)としている。
【0038】
上述の様な設備を利用して、上記各センサ6a、6bの設置位置の適否を判断するには、上記検査用エンコーダ10bを一定の速度で回転させつつ、上記各センサ6a、6bの出力信号同士の間に存在する位相差を求める。図8に示す様に、これら各センサ6a、6bの検出部の円周方向に関するずれが「PC +θ」、同じく軸方向に関するずれがαであるとした場合、上記各センサ6a、6bの出力信号の位相は、これら両方向のずれ「PC +θ」、αに基づいて、図9に示す様に、t{∝(PC +θ+α)}分だけずれる。
そこで、この図9に示した上記各センサ6a、6bの出力信号の位相差tに基づき、上記円周方向に関するずれ「PC +θ」の影響を差し引いてから、前述した実施の形態の第2例の場合と同様の処理により、前記カバー5に対するこれら各センサ6a、6bの取付位置の適否を判定する。
【0039】
尚、本例の検査方法により上記各センサ6a、6bの軸方向に関する位置関係が適正であるか否かを検査する以前に、前述の実施の形態の第1例の検査方法により、上記各センサ6a、6bの円周方向に関する位置関係が適正である事を確認しておく。即ち、本例の検査方法により軸方向に関する位置関係が適正であるか否かを検査するのは、上記円周方向に関する位置関係が適正であるとされたものに限る。又、上記検査用エンコーダ本体14bの外周面に配置したS極とN極との境界の傾斜角度は、既知の値であれば良く、45度に限定するものではない。但し、45度にする事で、t∝(PC +θ+α)の関係を単純に成立させられる等、位相差tに基づいて上記取付位置の適否を判定する為の処理が容易になる。
【0040】
[実施の形態の第4例]
図10〜11は、請求項1、2、8に対応する、本発明の実施の形態の第4例を示している。本例の場合には、カバー5のうちの径方向反対側(例えば上下両端部)2個所位置に、それぞれ1対ずつ、合計4個のセンサ6a、6b、6c、6dを配置している。そして、これら各センサ6a、6b、6c、6dの円周方向に関する取付位置の適否を、前述した実施の形態の第1例に使用したものと同様の検査用エンコーダ10を使用して判定する様にしている。
【0041】
本例の場合、互いに対となるセンサ6a、6b同士、センサ6c、6d同士の位置関係の適否は、前述した実施の形態の第1例の場合と同様の処理で判定できる。但し、径方向反対側に存在するセンサ6a、6b、6c、6d同士の位置関係に関しては、間部分に多数のS極及びN極が存在する事から、処理が面倒になる。そこで本例の場合には、図示しない回転軸を介して上記検査用エンコーダ10を回転駆動する電動モータに付属のロータリエンコーダのZ相の信号を基準パルスとして利用する。そして、図11に示す様に、この基準パルスと上記各センサ6a、6b、6c、6dの出力信号との位相差t1 〜t4 を求め、これら位相差t1 〜t4 から、これら各センサ6a、6b、6c、6d同士の、円周方向に関する位置関係を求める様にしている。そして、求めた位置関係に基づき、この位置関係の適否を判定する。
【0042】
本例の様に、合計4個のセンサ6a、6b、6c、6dの構造を対象として、これら各センサ6a、6b、6c、6dの軸方向位置の適否を判定する場合に、前述した実施の形態の第2〜3例の検査方法を適用できる。
又、本例を含め、本発明を実施する場合に使用する検査用エンコーダとしては、永久磁石製のものに限らず、磁性材製のもの、永久磁石と磁性材とを組み合わせたもの等を使用できる。図12は、永久磁石と磁性材とを組み合わせた検査用エンコーダ10cの1例を示している。この検査用エンコーダ10cは、径方向に、且つ、全周に亙り一方向に着磁した永久磁石15に、磁性金属板製のトーンリング16を外嵌固定している。このトーンリング16の幅方向中央部には、透孔17、17と柱部18、18とを、円周方向に関して交互に、且つ、等間隔で配置している。この様な構成により、センサの検出部が上記透孔17、17に対向した場合と柱部18、18に対向した場合とで、この検出部に達する磁束の密度を変化させ、上記センサの出力信号を変化させる様にする。尚、センサの側に永久磁石を組み込んだ構造を対象とする場合には、検査用エンコーダの側に永久磁石は不要である。
【0043】
[実施の形態の第5例]
図13〜15は、請求項1、5、8に対応する、本発明の実施の形態の第5例を示している。本例による検査の対象となる転がり軸受ユニットの状態量測定装置は、前述の図20に示す様に、測定すべき状態量の方向がラジアル方向である。そして、状態量測定装置を構成する各センサ6a、6bの検出部が、エンコーダ4aの被検出面である軸方向側面に、軸方向に対向する構造である。本例の場合には、この様な構造に関して、カバー5に上記各センサ6a、6bが保持固定された状態で、上記エンコーダ4aの円周方向に関する、これら各センサ6a、6b同士の位置関係が適正であるか否かを判断する。
【0044】
この様な検査を行なう本例の場合には、検査用エンコーダ10dの検査用被検出面を、この検査用エンコーダ10dの軸方向側面である円輪面とする。又、この検査用被検出面の特性が変化する境界を、上記検査用エンコーダ10dの放射方向(径方向)とする。又、この境界を、回転方向に関して既知のピッチで存在させる。そして、上記検査用エンコーダ10dを一定の回転速度で回転させつつ、図15に示す様に、上記各センサ6a、6bの出力信号を取り出し、これら各センサ6a、6bの出力信号同士の間に存在する位相差βを求める。更に、この位相差βに基づいて、上記検査用エンコーダ10dの回転方向に関する、上記各センサ6a、6b同士の位置関係(ピッチPR )を求め、この位置関係の適否を判定する。上記位相差βに基づいてこの位置関係を求める手法に関しては、方向が異なる以外、基本的には、前述した実施の形態の第1例と同様である。
【0045】
[実施の形態の第6例]
図16〜18は、請求項1、6、8に対応する、本発明の実施の形態の第6例を示している。本例による検査の対象となる転がり軸受ユニットの状態量測定装置も、前述の図20に示す様に、測定すべき状態量の方向がラジアル方向である。本例は、この様な構造に関して、エンコーダ4aの径方向に関する、各センサ6a、6b同士の位置関係(径方向に関するこれら各センサ6a、6bの検出部のピッチ)が適正であるか否かを判断する。これら各センサ6a、6bの径方向に関する位置関係を適正にする必要性に就いては、前述した実施の形態の第2例の場合と同様である。
【0046】
上記径方向に関する位置関係を求める為に本例の場合には、ホルダ9の内径側で検査用エンコーダ10eを、一定の速度で、上記各センサ6a、6bを保持したカバー5の径方向に平行移動させる。上記検査用エンコーダ10eは、このカバー5の軸方向に着磁しており、着磁方向を、このカバー5の径方向に関して交互に、且つ、等間隔で変化させている。従って、上記検査用エンコーダ10eの被検出面である軸方向片面には、S極とN極とが、上記カバー5の径方向に関して交互に、且つ、等間隔で配置されている。
【0047】
上記各センサ6a、6bの設置位置(ピッチPD )の適否を判断するには、上記検査用エンコーダ10eを一定の速度で上記カバー5の径方向に平行移動させつつ、図18に示す様に上記各センサ6a、6bの出力信号を取り出し、これら各センサ6a、6bの出力信号同士の間に存在する位相差γを求める。更に、この位相差γに基づいて、上記カバー5の径方向に関する、上記各センサ6a、6b同士の位置関係を求め、この位置関係の適否を判定する。上記位相差γに基づいてこの位置関係を求める手法に関しては、方向が異なる以外、基本的には、前述した実施の形態の第2例と同様である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を示す断面図。
【図2】1対のセンサ及び検査用エンコーダを取り出して径方向から見た図。
【図3】検査用エンコーダの回転に伴う1対のセンサの出力信号の変化状況を示す線図。
【図4】本発明の実施の形態の第2例を示す断面図。
【図5】1対のセンサ及び検査用エンコーダを取り出して径方向から見た図。
【図6】検査用エンコーダの回転に伴う1対のセンサの出力信号の変化状況を示す線図。
【図7】本発明の実施の形態の第3例を示す断面図。
【図8】1対のセンサ及び検査用エンコーダを取り出して径方向から見た図。
【図9】検査用エンコーダの回転に伴う1対のセンサの出力信号の変化状況を示す線図。
【図10】本発明の実施の形態の第4例を示す断面図。
【図11】検査用エンコーダの回転に伴う各センサの出力信号の変化状況を示す線図。
【図12】検査用エンコーダの別例を示す斜視図。
【図13】本発明の実施の形態の第5例を示す断面図。
【図14】1対のセンサ及び検査用エンコーダを取り出して軸方向から見た図。
【図15】検査用エンコーダの回転に伴う1対のセンサの出力信号の変化状況を示す線図。
【図16】本発明の実施の形態の第6例を示す断面図。
【図17】1対のセンサ及び検査用エンコーダを取り出して軸方向から見た図。
【図18】検査用エンコーダの回転に伴う1対のセンサの出力信号の変化状況を示す線図。
【図19】本発明による検査の対象となる転がり軸受ユニットの状態量測定装置の第1例を示す断面図。
【図20】同第2例を示す断面図。
【符号の説明】
【0049】
1 外輪
2 ハブ
3 転動体
4、4a エンコーダ
5 カバー
6a、6b、6c、6d センサ
7 芯金
8、8a エンコーダ本体
9 ホルダ
10、10a、10b、10c、10d 検査用エンコーダ
11 取付フレーム
12 取付孔
13 芯金
14、14a、14b 検査用エンコーダ本体
15 永久磁石
16 トーンリング
17 透孔
18 柱部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転がり軸受ユニットと、状態量測定装置とを備え、
このうちの転がり軸受ユニットは、静止側周面に静止側軌道を有し、使用時にも回転しない静止側軌道輪と、回転側周面に回転側軌道を有し、使用時に回転する回転側軌道輪と、上記静止側軌道と上記回転側軌道との間に転動自在に設けられた複数個の転動体とを備えたものであり、
上記状態量測定装置は、エンコーダと、上記静止側軌道輪に対し保持部材を介して支持固定されたセンサ装置と、演算器とを備え、
このうちのエンコーダは、上記回転側軌道輪の一部に直接又は他の部材を介して支持固定されたもので、この回転側軌道輪と同心の被検出面を備え、この被検出面の特性を円周方向に関して交互に変化させると共に、この被検出面の特性が円周方向に関して変化するピッチ若しくは位相を、少なくともこの被検出面の幅方向一部分で、この幅方向に関して連続的に変化させており、
上記センサ装置は、複数個のセンサを備えたもので、これら各センサの検出部を上記被検出面に対向させると共に、このうちの少なくとも1個のセンサの検出部を、上記被検出面のうちで、上記特性変化の位相若しくはピッチが幅方向に関して連続的に変化する部分に対向させた状態で、上記保持部材を上記静止側軌道輪に対し結合固定する事により、この静止側軌道輪に対し支持されており、且つ、上記各センサはそれぞれ、上記回転側軌道輪の回転に伴い、上記被検出面のうちで自身の検出部を対向させた部分の特性変化に対応してその出力信号を変化させるものであり、
上記演算器は、上記各センサの出力信号に関する情報に基づいて、上記静止側軌道輪と上記回転側軌道輪との間の相対変位と、これら両軌道輪同士の間に作用する外力とのうちの、少なくとも一方の状態量を算出する機能を有するものである、
転がり軸受ユニットの状態量測定装置に関して、
上記各センサの位置関係が適正であるか否かを検査する転がり軸受ユニットの状態量測定装置の検査方法であって、
上記保持部材を上記静止側軌道輪に結合する以前に、特性を既知の状態で変化させた検査用エンコーダの検査用被検出面に上記各センサの検出部を対向させた状態で、この検査用エンコーダを一定の速度で変位させつつ、上記各センサの出力信号同士の間に存在する位相差を求め、この位相差に基づいて、上記保持部材に対する上記各センサの取付位置の適否を判定する、
転がり軸受ユニットの状態量測定装置の検査方法。
【請求項2】
状態量測定装置を構成する各センサの検出部がエンコーダの被検出面に径方向に対向する構造であり、適否を判断すべき、保持部材に対する上記各センサの位置関係が、上記エンコーダの円周方向に関する位置関係であり、検査用エンコーダの検査用被検出面がこの検査用エンコーダの周面である円筒面であり、この検査用被検出面の特性が変化する境界がこの検査用エンコーダの中心軸と平行であって、この境界が回転方向に関して既知のピッチで存在しており、この検査用エンコーダを一定の回転速度で回転させつつ上記各センサの出力信号同士の間に存在する位相差を求める、請求項1に記載した転がり軸受ユニットの状態量測定装置の検査方法。
【請求項3】
状態量測定装置を構成する各センサの検出部がエンコーダの被検出面に径方向に対向する構造であり、適否を判断すべき、保持部材に対する上記各センサの位置関係が、上記エンコーダの軸方向に関する位置関係であり、検査用エンコーダの検査用被検出面がこの検査用エンコーダの周面である円筒面であり、この検査用被検出面の特性が変化する境界がこの検査用エンコーダの円周方向であって、この境界がこの検査用エンコーダの軸方向に関して既知のピッチで存在しており、この検査用エンコーダを一定の速度で軸方向に移動させつつ上記各センサの出力信号同士の間に存在する位相差を求める、請求項1に記載した転がり軸受ユニットの状態量測定装置の検査方法。
【請求項4】
状態量測定装置を構成する各センサの検出部がエンコーダの被検出面に径方向に対向する構造であり、適否を判断すべき、保持部材に対する上記各センサの位置関係が、上記エンコーダの軸方向に関する位置関係であり、検査用エンコーダの検査用被検出面がこの検査用エンコーダの周面である円筒面であり、この検査用被検出面の特性が変化する境界がこの検査用エンコーダの軸方向及び円周方向に対して既知の角度で傾斜しており、この検査用エンコーダを一定の速度で回転させつつ上記各センサの出力信号同士の間に存在する位相差を求める、請求項1に記載した転がり軸受ユニットの状態量測定装置の検査方法。
【請求項5】
状態量測定装置を構成する各センサの検出部がエンコーダの被検出面に軸方向に対向する構造であり、適否を判断すべき、保持部材に対する上記各センサの位置関係が、上記エンコーダの円周方向に関する位置関係であり、検査用エンコーダの検査用被検出面がこの検査用エンコーダの軸方向側面である円輪面であり、この検査用被検出面の特性が変化する境界がこの検査用エンコーダの放射方向あって、この境界が回転方向に関して既知のピッチで存在しており、この検査用エンコーダを一定の回転速度で回転させつつ上記各センサの出力信号同士の間に存在する位相差を求める、請求項1に記載した転がり軸受ユニットの状態量測定装置の検査方法。
【請求項6】
状態量測定装置を構成する各センサの検出部がエンコーダの被検出面に軸方向に対向する構造であり、適否を判断すべき、保持部材に対する上記各センサの位置関係が、上記エンコーダの径方向に関する位置関係であり、検査用エンコーダの検査用被検出面がこの検査用エンコーダの軸方向側面である円輪面であり、この検査用被検出面の特性が変化する境界が上記エンコーダの径方向に対し直角方向であって、この境界がこの検査用エンコーダの径方向に関して既知のピッチで存在しており、この検査用エンコーダを一定の速度で径方向に移動させつつ上記各センサの出力信号同士の間に存在する位相差を求める、請求項1に記載した転がり軸受ユニットの状態量測定装置の検査方法。
【請求項7】
状態量測定装置を構成する各センサの検出部がエンコーダの被検出面に軸方向に対向する構造であり、適否を判断すべき、保持部材に対する上記各センサの位置関係が、上記エンコーダの径方向に関する位置関係であり、検査用エンコーダの検査用被検出面がこの検査用エンコーダの軸方向側面である円輪面であり、この検査用被検出面の特性が変化する境界がこの検査用エンコーダの径方向及び円周方向に対して既知の角度で傾斜しており、この検査用エンコーダを一定の速度で回転させつつ上記各センサの出力信号同士の間に存在する位相差を求める、請求項1に記載した転がり軸受ユニットの状態量測定装置の検査方法。
【請求項8】
検査用エンコーダが永久磁石製であって、この検査用エンコーダの被検出面にS極とN極とを、この検査用エンコーダの移動方向に関して交互に配置している、請求項1〜7のうちの何れか1項に記載した転がり軸受ユニットの状態量測定装置の検査方法。
【請求項9】
検査用エンコーダが磁性材製であって、この検査用エンコーダの被検出面に充実部と除肉部とを、この検査用エンコーダの移動方向に関して交互に配置している、請求項1〜7のうちの何れか1項に記載した転がり軸受ユニットの状態量測定装置の検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2009−14381(P2009−14381A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−173929(P2007−173929)
【出願日】平成19年7月2日(2007.7.2)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】