説明

転がり軸受

【課題】自動車の電装部品、エンジン補機、ガスヒートポンプ用電磁クラッチ及びコンプレッサ用で、白色組織剥離を起こすことがなく、長寿命の転がり軸受を提供する。
【解決手段】内輪、外輪及び転動体の少なくとも1つに、40℃における動粘度が10〜400mm/sの鉱油及び合成油より選ばれる基油に、アルキルコハク酸、アルキルコハク酸ハーフエステル、アルケニルコハク酸、アルケニルコハク酸ハーフエステルから選ばれるカルボン酸系防錆添加剤、カルボン酸塩系防錆剤及びエステル系防錆剤の少なくとも1種を0.1〜20質量%の割合で含有する防錆油を予め塗布し、その後、グリースを封入してなる自動車の電装部品、エンジン補機、ガスヒートポンプ用電磁クラッチ及びコンプレッサ用転がり軸受。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車の電装部品、エンジン補機であるオルタネータや中間プーリ、カーエアコン用電磁クラッチ、ガスヒートポンプ用電磁クラッチ、コンプレッサ等の白色組織変化を伴った剥離を起こしやすい箇所に使用でき、優れた剥離寿命を有する転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
上記した自動車の電装部品、エンジン補機であるオルタネータや中間プーリ、カーエアコン用電磁クラッチ、コンプレッサ等に使用される転がり軸受は、高温、高速、高荷重下で使用されることが多く、近年、コンパクト化や高性能化の要求によりこれらの使用条件はますます厳しくなってきている。そのため、特許文献1に記載されているように、封入したグリースが分解して水素を発生し、この水素が内輪や外輪、転動体を形成する軸受鋼中に侵入して水素脆性による白色組織変化を伴った剥離(以下、「白色組織剥離」という)を引き起こすことがあり、その防止が新たな重要課題になっている。
【0003】
また、これらの転がり軸受は、エンジン外部にあるベルト駆動の補助機械用軸受であることから、路面より跳ね上げられる泥水や雨水が浸入しやすい。これらの転がり軸受では、通常、接触ゴムシールにより外部からの水の浸入を防止する構成となっているが、完全な防止はできないのが現状である。更に、自動車のエンジンは、稼働と休止を繰り返す機械であるため、エンジンが休止しているときに軸受のハウジング内の温度が下がり、露点に達して軸受周りの空気中の水分が凝縮して水滴となり、この水滴が軸受に付着してグリース中に混入することがある。その結果、特許文献2にも記載されているように、浸入水分からの水素が同様の白色組織剥離を引き起こし、上記したグリースからの水素と相まって、白色組織剥離がより発生しやすくなっている。
【0004】
白色組織剥離の対策としては、封入グリースによるものが多く、例えば特許文献1では亜硝酸ナトリウム等の不働態酸化剤を配合したグリース、特許文献3では有機アンチモン化合物や有機モリブデン化合物を配合したグリース、特許文献4では粒径2μm以下の無機系化合物を配合したグリースをそれそれ封入することを提案している。これらは、配合物に由来する被膜を転がり接触部に生成することにより軸受材料への水素の侵入を防止している。しかし、被膜が生成するまでの間の水素の侵入を防止できず、また振動や速度変動による転動体の滑り等が起こると、転がり接触部で金属剥離が起こって生成被膜が破壊され、ここから水素が侵入するようになる。
【0005】
封入グリース以外の対策として、例えば特許文献5では、軸受材料をステンレス鋼にした転がり軸受を提案しており、特許文献6では転動体をセラミックスにした転がり軸受を提案している。しかし、これらの転がり軸受は、通常、コスト増を招く。
【0006】
また、転がり軸受では、潤滑剤中に水分が混入すると寿命が大きく低下する。例えば、古村らは、潤滑油(#180タービン油)に6%の水分が混入すると、混入がない場合に比べ、数分の1から20分の1に転がり疲れ寿命が低下することを報告している(非特許文献1)。また、Schatzbergらは、潤滑油中に僅か100ppmの水分が混入するだけで、鋼の転がり強さが32〜48%も低下することを報告している(非特許文献2)。
【0007】
そのため、錆の発生を抑える目的で、グリースを封入する前に、軸受内部に防錆油を塗布することも行われている。この防錆油には、防錆効果を高めるために防錆剤が配合されており、防錆能力の高さからスルフォン酸金属塩が一般的に使用されている。しかし、スルフォン酸金属塩は、特許文献1でも指摘しているように、水素の発生を助長し、白色組織剥離の発生原因となる可能性があり、しかもスルフォン酸金属塩は金属への吸着性が非常に高く、容易に軸受部材の表面にスルフォン酸の吸着膜を成膜して上記配合物に由来する被膜の生成を阻害するため、上記各部品に使用される転がり軸受への適用は好ましくない。
【0008】
【特許文献1】特許第2878749号公報
【特許文献2】特開平11−72120号公報
【特許文献3】特再平6−803565号公報
【特許文献4】特開平9−169989号公報
【特許文献5】特開平3−173747号公報
【特許文献6】特開平4−244624号公報
【非特許文献1】古村恭三郎、城田伸一、平川清:表面起点および内部起点の転がり疲れについて、NSK Bearing Journal, No636, pp.1-10, 1977
【非特許文献2】P.Schatzberg, I.M.Felsen:Effects of water and oxygen during rolling contact lubrication, wear, 12,pp.331-342, 1968
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、前記各部品用軸受では、使用条件に加えて外部からの浸入水分により白色組織剥離が発生しやすく、また防錆剤との併用も困難となっている。従って、本発明は、高温、高速、高荷重で、更に外部からの水の浸入を受けやすい環境下で使用される自動車の電装部品、エンジン補機、ガスヒートポンプ用電磁クラッチ及びコンプレッサ用で、白色組織剥離を起こすことがなく、長寿命の転がり軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明は、自動車の電装部品、エンジン補機、ガスヒートポンプ用電磁クラッチ及びコンプレッサに使用され、内輪と、外輪と、複数の転動体と、前記転動体を保持する保持器とを備え、グリースを封入した転がり軸受であって、前記内輪、前記外輪及び前記転動体の少なくとも1つに、40℃における動粘度が10〜400mm/sの鉱油及び合成油より選ばれる基油に、アルキルコハク酸、アルキルコハク酸ハーフエステル、アルケニルコハク酸、アルケニルコハク酸ハーフエステルから選ばれるカルボン酸系防錆添加剤、カルボン酸塩系防錆添加剤及びエステル系防錆剤の少なくとも1種を0.1〜20質量%の割合で含有する防錆油を予め塗布し、その後、グリースを封入してなることを特徴とする転がり軸受を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、防錆性能及び剥離防止効果に極めて優れた長寿命で、自動車の電装部品、エンジン補機であるオルタネータや中間プーリ、カーエアコン用電磁クラッチ、ガスヒートポンプ用電磁クラッチ、コンプレッサに使用される転がり軸受が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の転がり軸受に関してより詳細に説明する。
【0013】
本発明の転がり軸受は、その構成自体は制限されるものではなく、例えば図1に断面図として示す玉軸受1を例示することができる。この玉軸受1は、内輪10と外輪11との間に保持器12を介して複数の転動体である玉13を略等間隔で回動自在に保持してなり、更に内輪10、外輪11及び玉13で形成される軸受空間Sにグリースを所定量充填し、シール14で封止して構成される。
【0014】
但し、本発明においては、この玉軸受1の内輪10、外輪11及び玉13の少なくとも1つに、下記に示される防錆油が塗布される。
【0015】
防錆油は、鉱油または合成油を基油とし、これに防錆剤として後述されるカルボン酸系防錆添加剤、カルボン酸塩系防錆添加剤及びエステル系防錆剤の少なくとも一種を配合したものである。
【0016】
[基油]
鉱油は、減圧蒸留、油剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、硫酸洗浄、白土精製、水素化精製等を、適宜組み合わせて精製したものを用いることができる。
【0017】
また、合成油は、炭化水素系油、芳香族系油、エステル系油、エーテル系油等が挙げられる。炭化水素系油としては、ノルマルパラフィン、イソパラフィン、ポリブテン、ポリイソブチレン、1−デセンオリゴマー、1−デセンとエチレンコオリゴマー等のポリ−α−オレフィンまたはこれらの水素化物等が挙げられる。芳香族系油としては、モノアルキルベンゼン、ジアルキルベンゼン等のアルキルベンゼン、あるいはモノアルキルナフタレン、ジアルキルナフタレン、ポリアルキルナフタレン等のアルキルナフタレン等が挙げられる。エステル系油としては、ジブチルセバケート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート、ジオクチルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジトリデシルグルタレート、メチル・アセチルシノレート等のジエステル油、あるいはトリオクチルトリメリテート、トリデシルトリメリテート、テトラオクチルピロメリテート等の芳香族エステル油、さらにはトリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールベラルゴネート等のポリオールエステル油、さらにはまた、多価アルコールと二塩基酸・一塩基酸の混合脂肪酸とのオリゴエステルであるコンプレックスエステル油等が挙げられる。エーテル系油としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールモノエーテル、ポリプロピレングリコールモノエーテル等のポリグリコール、あるいはモノアルキルトリフェニルエーテル、アルキルジフェニルエーテル、ジアルキルジフェニルエーテル、ペンタフェニルエーテル、テトラフェニルエーテル、モノアルキルテトラフェニルエーテル、ジアルキルテトラフェニルエーテル等のフェニルエーテル油等が挙げられる。これらの合成油は、単独または混合物として用いることができる。
【0018】
尚、上記鉱油及び合成油は、低温流動性不足による低温起動時の異音発生を防止するために、40℃における動粘度が10〜400mm2/sec、好ましくは20〜250mm2/secのものを使用することが望ましい。
【0019】
[防錆剤]
カルボン酸系防錆剤としては、アルキルコハク酸、アルキルコハク酸ハーフエステル、アルケニルコハク酸、アルケニルコハク酸ハーフエステルを挙げることができる。
【0020】
カルボン酸塩系防錆剤としては、脂肪酸、ナフテン酸、アビエチン酸、ラノリン脂肪酸、アルケニルコハク酸、アミノ酸誘導体等の金属塩等が挙げられる。また、金属元素としてはコバルト、マンガン、亜鉛、アルミニウム、カルシウム、バリウム、リチウム、マグネシウム、銅等が挙げられる。
【0021】
エステル系防錆剤としては、ソルビトール、ペンタエリスリトール、ショ糖、グリセリン等の多価アルコールとオレイン酸、ラウリル酸等のカルボン酸の部分エステルやオレイルアルコール、ステアリルアルコール、ラウリルアルコール等の高級脂肪酸アルコール等が挙げられる。
【0022】
上記カルボン酸系防錆剤、カルボン酸塩系防錆剤、エステル系防錆剤は、それぞれ単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
[濃度]
防錆剤の配合量は、防錆油全量に対して0.1〜20質量%である。防錆剤量が0.1質量%未満では、十分な防錆性能を付与できない。一方、20質量%を超える場合には、防錆剤の軸受部材表面への吸着量が多くなりすぎ、封入グリースに由来する酸化膜等の生成を阻害して白色組織剥離を発生する恐れがでてくる。防錆性能を確かにし、白色組織剥離を考慮すると、この防錆剤の配合量は、防錆油全量に対して0.25〜15質量%とすることが望ましい。
【0024】
[有機金属塩]
白色組織剥離の発生を抑制するには、上記の防錆剤による作用に加えて、転がり接触部に酸化膜が形成しやすくなれば、より効果的となる。そこで、防錆油には、更に有機金属塩を添加することが好ましい。
【0025】
上記の防錆剤と併用して、白色組織剥離の発生をより効果的に抑制そ得る有機金属塩として、下記一般式(1)で表されるジアルキルジチオカルバミン酸(DTC)系化合物、並びに下記一般式(2)で表されるジアルキルジチオリン酸(DTP)系化合物を挙げることができる。
【0026】
【化1】

【0027】
一般式(1)、(2)において、Mは金属種を示し、具体的にはSb,Bi,Sn,Ni,Te,Se,Fe,Cu,Mo,Znから選択できる。また、R1、R2は、同一基であってもよく、異なる基であってもよく、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基から選択される。R1、R2として特に好ましい基としては、1,1,3,3−テトラメチルブチル基、1,1,3,3−テトラメチルヘキシル基、1,1,3−トリメチルヘキシル基、1,3−ジメチルブチル基、1−メチルウンデカン基、1−メチルヘキシル基、1−メチルペンチル基、2−エチルブチル基、2−エチルヘキシル基、2−メチルシクロヘキシル基、3−ヘプチル基、4−メチルシクロヘキシル基、n−ブチル基、イソブチル基、イソプロピル基、イソヘプチル基、イソペンチル基、ウンデシル基、エイコシル基、エチル基、オクタデシル基、オクチル基、シクロオクチル基、シクロドデシル基、シクロペンチル基、ジメチルシクロヘキシル基、デジル基、テトラデシル基、ドコシル基、ドデシル基、トリデシル基、トリメチルシクロヘキシル基、ノニル基、プロピル基、ヘキサデシル基、ヘキシル基、ヘニコシル基、ヘプタデシル基、ヘプチル基、ペンタデシル基、ペンチル基、メチル基、第三ブチルシクロヘキシル基、第三ブチル基、2−ヘキセニル基、2−メタリル基、アリル基、ウンデセニル基、オレイル基、デセニル基、ビニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、ヘプタデセニル基、トリル基、エチルフェニル基、イソプロピルフェニル基、第三ブチルフェニル基、第二ペンチルフェニル基、n−ヘキシルフェニル基、第三オクチルフェニル基、イソノニルフェニル基、n−ドデシルフェニル基、フェニル基、ベンジル基、1−フェニルメチル基、2−フェニルエチル基、3−フェニルプロピル基、1,1−ジメチルベンジル基、2−フェニルイソプロピル基、3−フェニルヘキシル基、ベンズヒドリル基、ビフェニル基等があり、またこれらの基はエーテル基を有していてもよい。
【0028】
また、有機金属塩として、下記一般式(3)〜(5)で表される有機亜鉛化合物も好適である。
【0029】
【化2】

【0030】
一般式(3)〜(5)において、R3、R4は、同一基であってもよく、異なる基であってもよく、炭素数1〜18の炭化水素基及び水素原子から選択される。特に、R3、R4が共に水素原子である、メルカプトベンゾチアゾール亜鉛(一般式(3))、ベンゾアミドチオフェノール亜鉛(一般式(4))、メルカプトベンゾイミダゾール亜鉛(一般式(5))を好適に使用することができる。
【0031】
更に、有機金属塩として、下記一般式(6)で表されるアルキルキサントゲン酸亜鉛も好適である。
【0032】
【化3】

【0033】
一般式(6)において、R5は炭素数1〜18の炭化水素基である。
【0034】
上記に挙げた有機金属塩は、各々単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。尚、混合使用する際の組み合わせは特に制限されない。また、有機金属塩の添加量は、単独使用、混合使用ともに、防錆油全量に対して0.1〜0.5質量%である。有機金属塩の添加量が、0.1質量%未満では酸化膜の形成促進に効果がなく、一方0.5質量%を超えても増分に見合う効果の向上が得られないばかりか、軸受材料との酸化反応を異常に促進して腐食や異常摩耗を発生させるおそれがある。
【0035】
[防錆油塗布方法]
転がり軸受に防錆油を塗布する方法は特に制限されるものではないが、防錆油中に転がり軸受を浸漬し、取り出した後、エアーを吹き付けたり、遠心分離機を用いたりして余分な防錆油を除去する方法が簡便で好ましい。また、塗布量は軸受の種類やサイズ等に応じて適宜調整される。
【0036】
[封入グリース]
本発明において、潤滑のために封入されるグリースは特に制限されるものではないが、従来より白色組織剥離を防止する目的で封入されるグリースを用いることが好ましい。例えば、例えば特許文献1に記載されているような亜硝酸ナトリウム等の不働態酸化剤を配合したグリース、特許文献3に記載されているような有機アンチモン化合物や有機モリブデン化合物を配合したグリース、特許文献4に記載されているような粒径2μm以下の無機系化合物を配合したグリースを用いることが好ましい。特に、酸化膜を成膜し得る成分を含有するグリースを用いることが好ましい。本発明では、これらのグリースを用いても、上記特定の防錆剤を用いることにより、従来のような防錆剤の軸受部材への吸着がなくなり、酸化膜等の生成が阻害されることがない。
【実施例】
【0037】
以下に、実施例および比較例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。
【0038】
(試験軸受の作製−1)
表1に示す組成にて調製した各防錆油中に、単列深溝玉軸受(内径φ17mm、外径φ47mm、幅14mm)を浸漬し、取り出した後エアーを吹き付けて液切りを行い、更に遠心分離機により余分の防錆油を除去して軸受内の防錆油の塗布量を100mgに調整した。次いで、表2に示すグリースを2.36g封入して試験軸受を作製した。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
(剥離試験)
試験軸受をエンジンのオルタネータに組み込み、急加減速させることで評価した。試験条件は、エンジン回転速度1000〜6000min−1(軸受回転数2400〜13300min−1)の繰り返し、室温雰囲気下、プーリ荷重1560Nで連続回転させ、500時間を目標に試験を行った。そして、軸受外輪転走面に剥離が生じて振動が発生したときに回転を停止した。試験は各10例行い、下記式により剥離発生確率を算出した。結果を図2に示す。
剥離発生確率=(剥離発生数/試験数)×100
【0042】
(防錆試験)
上記と同様にして防錆油を塗布した単列深溝玉軸受(内径φ17mm、外径φ47mm、幅14mm)を、20℃で90%HRの湿潤環境に3時間保持と、50℃で90%HRの湿潤環境に3時間保持とを交互に繰り返し、7日間放置した後、軸受を分解し、内外輪軌道面の錆の発生状況を確認した。評価は下記に示すとおりであり、しみ錆以下を合格とした。結果を図3に示す。
錆評価点 1 2 3 4
錆状況 錆なし しみ錆 点錆 小錆
【0043】
剥離試験及び防錆試験の各結果から、防錆剤として、カルボン酸系防錆添加剤、カルボン酸塩系防錆添加剤またはエステル系防錆剤を使用し、防錆油全量に対して0.1〜20質量%の割合で配合した防錆油を用いることにより、優れた防錆性能とともに、白色組織剥離の発生を大幅に低減することができることがわかる。
【0044】
(試験軸受の作製−2)
表3に示す組成にて調製した防錆油中に、単列深溝玉軸受(内径φ17mm、外径φ47mm、幅14mm)を浸漬し、取り出した後エアーを吹き付けて液切りを行い、更に遠心分離機により余分の防錆油を除去して軸受内の防錆油の塗布量を100mgに調整した。次いで、表4に示すグリースを2.36g封入して試験軸受を作製した。
【0045】
【表3】

【0046】
【表4】

【0047】
(剥離試験)
試験軸受をエンジンのオルタネータに組み込み、急加減速させることで評価した。試験条件は、エンジン回転速度1000〜6000min−1(軸受回転数2400〜13300min−1)の繰り返し、室温雰囲気下、プーリ荷重1560Nで連続回転させ、1000時間を目標に試験を行った。そして、軸受外輪転走面に剥離が生じて振動が発生したときに回転を停止した。試験は各10例行い、下記式により剥離発生確率を算出した。結果を図4に示す。
剥離発生確率=(剥離発生数/試験数)×100
【0048】
(高速四球式摩耗試験)
図5に示す高速四球試験機を用い、ASTM D 2266に準拠して試験を行った。図示される高速四球試験機において、ポールポット20の中央部に設けられた凹部21に、3つの鋼球22が相互に接触し合うように正三角形の各頂点に配置され、固定具23により固定される。また、3つの鋼球22からなる正三角形の重心上には鋼球24が載置されており、チャック25により高速回転される。また、ボールポット26にはロックナット26が螺合され、鋼球24の回転に際して所定の荷重を負荷できるように構成されている。
【0049】
試験は、1/2インチ鋼球(SUJ2)を用い、これを表3に示す防錆油中に浸漬し、取り出した後エアーを吹き付けて液切りを行い、更に遠心分離機により余分の防錆油を除去して防錆油の塗布量を100mgに調整した。そして、表4に示すグリースを塗布し、雰囲気温度75℃、回転数1200min−1、荷重196Nの条件にて60分連続回転させ、回転終了後に鋼球表面を観察して摩耗痕跡を測定した。結果を図4に併記した。評価は、摩耗痕跡1.5mm以下が合格である。
【0050】
剥離試験及び高速四球式摩耗試験の各結果から、防錆剤に更にジアルキルジチオカルバミン酸系化合物を0.1〜0.5質量%添加することにより、白色組織剥離の発生をより抑制でき、同時に耐摩耗性も改善できることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の転がり軸受の一実施形態を示す断面図である。
【図2】実施例1〜3、比較例1における剥離試験の結果を示すグラフである。
【図3】実施例1〜3、比較例1における防錆試験の結果を示すグラフである。
【図4】実施例4における剥離試験及び高速四球式耐摩耗試験の結果を示すグラフである。
【図5】高速四球式耐摩耗試験に用いた高速四球試験機を示す断面図である。
【符号の説明】
【0052】
1 玉軸受
10 内輪
11 外輪
12 保持器
13 玉(転動体)
14 シール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の電装部品、エンジン補機、ガスヒートポンプ用電磁クラッチ及びコンプレッサに使用され、内輪と、外輪と、複数の転動体と、前記転動体を保持する保持器とを備え、グリースを封入した転がり軸受であって、前記内輪、前記外輪及び前記転動体の少なくとも1つに、40℃における動粘度が10〜400mm/sの鉱油及び合成油より選ばれる基油に、アルキルコハク酸、アルキルコハク酸ハーフエステル、アルケニルコハク酸、アルケニルコハク酸ハーフエステルから選ばれるカルボン酸系防錆添加剤、カルボン酸塩系防錆添加剤及びエステル系防錆剤の少なくとも1種を0.1〜20質量%の割合で含有する防錆油を予め塗布し、その後、グリースを封入してなることを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
前記防錆油が、ジアルキルジチオカルバミン酸系化合物を0.1〜0.5質量%の割合で含有することを特徴とする請求項1記載の転がり軸受。
【請求項3】
前記防錆油が、ナフテン酸亜鉛と、ジアルキルジチオカルバミン酸亜鉛とを含有することを特徴とする請求項2記載の転がり軸受。
【請求項4】
前記グリースが、増ちょう剤としてウレア化合物を含有することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−120956(P2009−120956A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−325613(P2008−325613)
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【分割の表示】特願2002−208620(P2002−208620)の分割
【原出願日】平成14年7月17日(2002.7.17)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】