説明

転がり軸受

【課題】潤滑剤の摩耗による劣化を抑制し、長寿命化を図った転がり軸受を提供する。
【解決手段】外輪2と内輪3との間に複数の転動体4が転動可能に配設され、外輪2と内輪3との間に転動体4を覆ってこれら外輪2と内輪3との間を塞ぐシール部材6が取り付けられ、外輪2と内輪3とシール部材6とに囲まれた軸受内部に潤滑剤7が充填されてなる転がり軸受1である。シール部材6の内側に可動部材が設けられている。可動部材はシール部材6に固定されてなる固定端8aと、外輪2と内輪3とのうちの一方が他方に対して回転している間、回転による発熱による温度上昇によって固定端8aが固定されたシール部材6側に位置し、回転が停止している間、発熱が無いことによる温度下降によって転動体4側に位置する可動端側8bと、を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に転がり軸受は、内輪と外輪との間に保持器で保持した複数の転動体を介装した構成からなり、通常は、外輪または内輪の両肩部または一方の肩部に、グリース等の潤滑剤の飛散防止と外部からの塵埃等の異物侵入を防止するため、シール部材を取り付けるようにしている。
【0003】
潤滑剤を例えばグリースとする場合、転動体の転がり動作に伴い、潤滑剤が転動体の転がり経路から離れた位置に押し退けられ、そこに留まりやすいため、使用経過に伴い潤滑不足を招くおそれがある。そこで、シール部材の内側に可動部材を設け、この可動部材を、内輪又は外輪を回転させて転動体を転動させた際の、回転(転動)に伴う発熱によって軸受内方へ移動させるようにした転がり軸受が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−17238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記特許文献1の転がり軸受では、発熱が起こり、したがって潤滑剤の劣化による軸受の摩耗が始まっているときに可動部材が動作するため、潤滑剤の劣化の抑制という点では効果が期待できなかった。
【0006】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたもので、潤滑剤の劣化による軸受の摩耗を抑制し、長寿命化を図った転がり軸受を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の転がり軸受は、外輪と内輪との間に複数の転動体が転動可能に配設され、前記外輪と前記内輪との間に前記転動体を覆ってこれら外輪と内輪との間を塞ぐシール部材が取り付けられ、前記外輪と前記内輪と前記シール部材とに囲まれた軸受内部に潤滑剤が充填されてなる転がり軸受であって、
前記シール部材の内側に可動部材が設けられ、
前記可動部材は、前記シール部材に固定されてなる固定端と、前記外輪と前記内輪とのうちの一方が他方に対して回転している間、該回転による発熱による温度上昇によって固定端が固定されたシール部材側に位置し、前記回転が停止している間、前記発熱が無いことによる温度下降によって転動体側に位置する可動端側と、を有していることを特徴としている。
【0008】
また、前記転がり軸受において、前記可動部材は、バイメタルあるいは形状記憶合金からなる複数の可動片からなり、前記可動片は、前記シール部材の周方向に沿って整列配置されているのが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の転がり軸受によれば、可動部材が、シール部材に固定されてなる固定端と、外輪又は内輪が回転している間、該回転による発熱による温度上昇によって固定端が固定されたシール部材側に位置し、回転が停止している間、発熱が無いことによる温度下降によって転動体側に位置する可動端側と、を有しているので、回転が停止した際に、可動部材の可動端側がシール部材側の潤滑剤を転動体側に寄せるようになる。したがって、回転・非回転(回転停止)の繰り返し毎に軸受内部の潤滑剤を混合することができ、これにより、潤滑剤の劣化による軸受の摩耗を抑制することができる。よって、長寿命化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る転がり軸受の一実施形態を示す要部断面斜視図である。
【図2】(a)、(b)は可動部材(可動片)の動作を説明するための図である。
【図3】(a)、(b)は可動部材(可動片)の動作を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の転がり軸受を詳しく説明する。
図1は、本発明の転がり軸受の一実施形態を示す要部断面斜視図であり、図1中符号1は転がり軸受である。この転がり軸受1は、深溝玉軸受とされ、外輪2と内輪3との対向間に鋼球からなる多数の転動体4を介装し、この多数の転動体4を保持器5で円周方向略等間隔に保持させた構成になっている。
【0012】
外輪2は、その軸方向中間に軌道溝2aが設けられており、この軌道溝2aの両肩部には大径となった段差部(図示せず)が形成されている。内輪3は、その軸方向中間に軌道溝3aが設けられており、この軌道溝2aの両肩部には小径となった段差部(図示せず)が設けられている。
【0013】
この転がり軸受では、外輪2の両肩部にシール部材6を取り付けて内輪3との間に密封部を作ることにより、外輪2と内輪3との対向間を塞いで、この塞いだ外輪2と内輪3との対向間にグリース等の潤滑剤7を封入するようにしている。この潤滑剤7は、例えばふっ素系グリースが挙げられるが、その他のグリースであってもよい。
【0014】
シール部材6は、内輪3の外周面に微小すきまを介して対向されて内輪3との間に非接触密封部を作る非接触タイプになっている。このシール部材6は、例えば環状板からなり、その外周には外輪2の両肩部の段差部にそれぞれ係合される取付部(図示せず)が設けられていて、この取付部よりも内径側部分には、軸受外側へ向けて膨出して軸受内方に潤滑剤7を貯留する潤滑剤貯留部を作る膨出部6aが設けられている。この膨出部6aは、図1中の右側に示すように上半分の断面が「コ」の字形に屈曲されて形成されており、軸受内部空間の容積を大きくするように機能している。
【0015】
そして、シール部材6の膨出部6aの内面側には、複数の可動片8からなる可動部材9が設けられている。可動片8は、例えば矩形状の薄膜片であり、その四辺のうちのいずれか一辺をシール部材6に固定された固定端とし、該一辺と反対の辺側全体を、シール部材6に対して離間可能な可動端側としたものである。例えば、図2(a)、(b)に示すように内輪3側の一辺を固定端8aとし、その反対側を可動端側8bとしている。
【0016】
可動片8は、例えばバイメタルや形状記憶合金等からなるもので、本実施形態では転動体4の数より多い数設けられている。ただし、可動片8の数については、特に制限はなく、可動部材9としての後述する動作が可能であれば、転動体4の数より多くても少なくとも、また同数でもよい。
【0017】
このようにバイメタルや形状記憶合金等からなっていることで、可動片8の可動端側8bは、前記外輪2と前記内輪3とのうちの一方が他方に対して回転している間、該回転による発熱による温度上昇によって図2(a)に示すようにシール部材6の内面側に位置し、前記回転が停止している間、前記発熱が無いことによる温度下降によって図2(b)に示すように転動体4側に位置するようになっている。
【0018】
すなわち、回転が停止した際に、図2(a)に示した状態から図2(b)に示した状態に可動片8の可動端側8bが変形することにより、可動端側8bはシール部材6側の潤滑剤7を転動体4側に寄せるようになっている。
【0019】
なお、可動片8をバイメタルとする場合には、例えば二枚の線膨張係数の異なる金属を軸受外側と軸受内側とに配置して貼り合わせた構成とすれば、これらの二枚の金属の線膨張係数の差を利用して前述したような変形が可能になる。この二枚の金属としては、例えばアンバー、真鍮等とすることができるが、その他の金属の組み合わせとしてもよい。アンバーとは、例えばNi−Mn−Fe系、Ni−Cr−Fe系のニッケル鉄合金である。
【0020】
また、可動片8をバイメタルとした場合、図2(a)、(b)に示した例では、1箇所の屈曲部を形成するようにバイメタル部を形成すればよいが、例えば図3(a)、(b)中にA、Bで示すように2箇所の屈曲部を形成するように、バイメタル部についてもこれらA、Bに対応する箇所にそれぞれ形成するようにしてもよい。なお、図3(a)、(b)に示した例では、A、Bのそれぞれの箇所において、異なる組み合わせのバイメタルを用いるか、もしくは異なる向き(逆向き)のバイメタルを用いることで、形成することができる。
【0021】
このように2箇所で屈曲するように可動片8を形成すれば、可動片8の可動端側8b全体の変位量が大きくなり、後述するように潤滑剤7を転動体4側に寄せる効果が大きくなる。すなわち、図2(a)、(b)に示した可動片8では可動端側8bの先端部分のみしか大きく変位せず、したがって可動端側8b全体での変位量は少なくなっているのに対し、図3(a)、(b)に示した可動片8では、可動端側8b全体を変位させることで、より多くの潤滑剤7を転動体4側に寄せることができる。
【0022】
なお、可動片8を形状記憶合金で形成すれば、前記回転が停止している間、前記発熱が無いことによる温度下降により、図3(b)に示した形状に変形させるように可動片8を構成することもできる。
【0023】
次に、転がり軸受1の動作を説明する。
例えば外輪2を非回転にし、内輪3を回転させる状態とする。そして、内輪3を回転させ、転動体3を転がすと、この転がり動作に伴って転がり軸受1は発熱し、シール部材6や潤滑剤7は温度上昇する。すると、可動片8の可動端側8bは図2(a)あるいは図3(a)に示すようにシール部材6の膨出部6aの内面側に位置し、したがって潤滑剤7に対して働かない(押圧しない)状態となる。
【0024】
次に、内輪3の回転を停止し、転動体3の転がりも停止させると、転がり動作に伴う転がり軸受1の発熱が無くなり、シール部材6や潤滑剤7の温度は雰囲気温度にまで低下する。すると、可動片8の可動端側8bは図2(b)あるいは図3(b)に示すようにシール部材6側から転動体4側に変位する。これにより、可動端8b側に位置している潤滑剤7は、可動端側8bの変位によって転動体4側に寄せられ、元々転動体4側にあった潤滑剤7に混合されるようになる。
【0025】
したがって、本実施形態の転がり軸受1にあっては、回転・非回転(回転停止)の繰り返し毎に軸受内部の潤滑剤7を混合することができ、これにより、潤滑剤の劣化による軸受の摩耗を抑制することができる。すなわち、従来では転がり軸受が寿命であるとして交換された際、その内部を見ると、シール部材6の内面側に、摩耗による劣化をほとんど起こしていない潤滑剤が固着したまま残っていた。しかし、本実施形態の転がり軸受1によれば、このようにシール部材6の内面側に残ってしまう潤滑剤7を有効利用するようにしたので、その長寿命化を図ることができる。
【0026】
なお、可動片8(可動部材9)を変形させる温度については、任意に調整することができ、例えば転がり軸受を使用する場所や使用条件等、転がり軸受の温度上昇に応じて、適宜に設定するのが好ましい。
【0027】
また、前記実施形態では、シール部材6の内径側に膨出部6aを設けたが、本発明はこれに限定されることなく、膨出部6aを設けない構成としてもよく、また、図1に示した形状と異なる膨出部を設けた構成としてもよい。
さらに、前記実施形態では、シール部材6を外輪2側に取り付けていたが、内輪3側に取り付けるようにしてもよい。
また、本発明に係る転がり軸受は、一般的に周知の玉軸受、ころ軸受の総てに適用することができる。
【符号の説明】
【0028】
1…転がり軸受、2…外輪、3…内輪、4…転動体、5…保持器、6…シール部材、7…潤滑剤、8…可動片、8a…固定端、8b…可動端側、9…可動部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪と内輪との間に複数の転動体が転動可能に配設され、前記外輪と前記内輪との間に前記転動体を覆ってこれら外輪と内輪との間を塞ぐシール部材が取り付けられ、前記外輪と前記内輪と前記シール部材とに囲まれた軸受内部に潤滑剤が充填されてなる転がり軸受であって、
前記シール部材の内側に可動部材が設けられ、
前記可動部材は、前記シール部材に固定されてなる固定端と、前記外輪と前記内輪とのうちの一方が他方に対して回転している間、該回転による発熱による温度上昇によって固定端が固定されたシール部材側に位置し、前記回転が停止している間、前記発熱が無いことによる温度下降によって転動体側に位置する可動端側と、を有していることを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
前記可動部材は、バイメタルあるいは形状記憶合金からなる複数の可動片からなり、
前記可動片は、前記シール部材の周方向に沿って整列配置されていることを特徴とする請求項1記載の転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−41948(P2012−41948A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−181208(P2010−181208)
【出願日】平成22年8月13日(2010.8.13)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】