説明

転写装置および転写装置の製造方法、その転写装置を用いた画像形成装置

【課題】表面に凹凸を有する紙に画像欠陥のないトナー転写を行う転写装置およびこれを用いた画像形成装置を提供する。
【解決手段】本発明による転写装置は、トナー像担持体と、コロナ転写手段とを対向して設置し、該トナー像担持体を挟んで該コロナ転写手段に対向する位置に、該トナー像担持体の裏面に振動エネルギーを付与する加振装置を設け、該加振装置が、表面に電極を形成した一対の圧電体を導電性弾性部材(シム材)の両面に貼り合わせた構造の圧電バイモルフ素子の一端を支持し、かつ、他端に突起部を設けた片持ち支持構造体を含み、該圧電体の表面の電極と導電性弾性部材との間に駆動電圧を印加した時、該圧電バイモルフ素子を支持する部位の該圧電体に電圧が印加されない構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は感光体ベルトや中間転写ベルト等のトナー像担持体に対向してコロナ転写手段を設け、トナー像担持体上に形成されたトナー像をトナー像担持体とコロナ転写手段間の転写領域に搬送された記録媒体上に転写する装置およびこれを用いた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式を用いた画像形成装置は、感光体や中間転写体等のトナー像担持体上に形成されたトナー像を記録媒体上に転写し、定着機により記録媒体面に溶融・固着する。図14は従来の転写装置を示し、感光体ベルト25や中間転写ベルト19上に形成されたマイナス帯電トナーを、表面に凹部17を有する用紙16に転写する場合を示している。
【0003】
図14(a)は、低価格な用紙として代表的な粗面紙や第1面へのトナー像定着時の熱により用紙変形を生じた用紙の第2面のように凹部17が存在する用紙16面に転写する場合を示す。凹部17の深さdは30〜50μm、凹部17の幅Whが8〜10mmである。この場合、コロナ転写器18により用紙16の裏面に付与されたプラス電荷20と感光体ベルト25の電極層25bとの間に働く静電電界により、マイナス帯電トナー21を用紙16面に引きつける必要がある。用紙16の平坦部では用紙16面とトナー像とが密着するため、トナー21aには十分な転写電界が働き、トナー21aの転写性は良い。一方、用紙16面の凹部17に対向するトナー21bには用紙16面との間に空隙dが存在するため、トナー21bに働く転写電界が小さくなり、トナー21bの転写性が低下して画像欠陥が生じる。
【0004】
図14(b)はコート紙に梨地、布目、絹目等のエンボス(浮き出し)加工が行われ、人工的に凹凸が形成されたエンボス紙面に中間転写ベルト19上のカラートナー像を転写する場合を示す。エンボス紙はチケットやカタログ、パンフレットなどの表紙に使用される。凹部17の深さdはエンボス加工の種類によっても異なるが、dは10〜30μm、その幅Whは0.2〜0.4mmである。この場合、中間転写ベルト19上に形成された2〜3層のカラートナーを一括して、より幅の狭い凹部17内部に転写する必要がある。図14(a)の場合と同様、凹部17に対向するトナー層に対しては転写電界が小さく、かつ、カラー画像の場合トナーが多層になる。この場合、中間転写ベルト19面と接触する側のトナー21a、22a、23a、24aには転写電界が作用しにくく、これらトナー21a、22a、23a、24aの転写性がさらに低下する。
【0005】
図15は静電転写時にトナーに働く力を説明する図である。図15(a)は感光体ベルトや中間転写ベルト等のトナー像担持体38の表面に形成されたトナー21を、コロナ転写器18を用いて用紙16に転写する場合にトナー21に働く力について説明したものである。トナー21のトナー像担持体38面への付着力は、鏡像力Fとファンデルワールス力Fとの和である。一方、トナー21を用紙16に引きつける力は、用紙16の裏面に付与されたプラス電荷20(トナーの帯電電荷と逆極性)に基づく静電気力Fである。
【0006】
この鏡像力Fおよびファンデルワールス力Fの合力に打ち勝ってトナー21を用紙16に転写するためには、静電気力Fを大きくする必要がある。このため、コロナ転写器18に印加する電圧/電流値を高くして用紙16裏面に付与するプラス電荷20のコロナ電荷量を増加し、転写電界Eを高める方法がある。しかし、転写電界Eを高くしすぎると局部的な電界集中によりトナー21の飛び散り等の画質劣化が発生する。これを防ぐ方法として、トナー21のトナー担持体38面への付着力(鏡像力Fとファンデルワールス力F)を低減し、トナー21を用紙16の方向に向かわせる新たな力をトナー21に付与すること等が考えられる。
【0007】
鏡像力Fはトナー21の帯電電荷とトナー担持体38に生じた鏡像電荷との間に働く静電気力で、トナー21の粒径と帯電電荷、トナー像担持体38の誘電率と厚さに依存する。一方、ファンデルワールス力Fは非静電的な力であり、次式で与えられる。
=A×R/(6×D) …(1)
ここで、AはHamaker定数で、トナー21とトナー担持体38とを構成する物質に依存する。Rはトナー21の半径、Dはトナー21とトナー担持体38面との分離距離である。(1)式からわかるように、Fはトナー21の半径Rに比例し、トナー21とトナー担持体38面との分離距離Dの2乗に反比例する。
【0008】
トナー21の感光体面への付着力を低減する方法として、図15(b)に示すようにトナー担持体38の裏面に接触してトナー担持体38を加振する装置39を設置し、トナー像担持体38を上下に振動させることによりトナー21に慣性力Fを付与し、Fと合わせてトナー像担持体38からのトナー21の離脱力を増加させ、トナー21を用紙16の凹部17内に移動・転写させるものである。なお、慣性力Fは、後述するが、トナー21の重量、振動周波数および振動変位に依存する。慣性力Fの付与により、表面に凹凸のある用紙16へのモノクロトナー画像の転写(図15(a))や多層トナー像となるカラートナー像の転写(図14(b))が可能となる。
【0009】
感光体ベルトや中間転写ベルト等のトナー担持体38の裏側から振動エネルギーを付与する手段として、電磁振動子や超音波振動子を用いる方法が提案されている(特許文献1)。このうち、実用化されているのは超音波振動子を用いる方式である。
【0010】
この方法は図15(b)に示すように、圧電体の縦振動(d33モード)を利用した超音波振動子39bとホーン39aとを組み合わせて周波数20〜100kHz、振動変位が数μmの共振器を構成し、ホーン39aの振動先端部を感光体ベルトや中間転写ベルト等のトナー担持体38の裏面に接触させることにより、トナー担持体38を介してトナー21に振動エネルギーを与えることにより、トナー21に慣性力Fを生じさせ、用紙16へのトナー21の転写性を向上するものである。
【0011】
【特許文献1】特公昭55−20231号公報
【特許文献2】特開平4−234076号公報
【特許文献3】特開平4−234082号公報
【特許文献4】特開昭62−248953号公報
【特許文献5】特公平4−20276号公報
【特許文献6】特開2005−303937号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
プリンタや複写器等の画像形成装置においては、広幅印刷のニーズが増加している。カット紙プリンタでA3サイズ幅以上、連続紙プリンタで20インチ幅以上に至るサポートが要望されている。このため、トナー像担持体の幅も広くなり、加振源による振動エネルギー付与領域も420〜500mm、あるいは500mmを超えるものとなっている。
【0013】
一方、一つの共振器でカバーできる加振装置の幅は、超音波振動子39bとホーン39aとの共振特性で決まり、対応可能な幅は2〜3インチである。このため、20インチ幅以上をサポートするには7〜10個、あるいはそれ以上の共振器を横一列に配列する必要がある。この場合の課題は、複数個の共振器を駆動する時の相互干渉(クロスカップリングという現象)であり、隣接するホーンを接触させないようにする(特許文献2)等の対策が必要になる。しかし、この場合、隣接ホーン間は、トナー像担持体に振動エネルギーを付与できないという問題がある。
【0014】
また、共振器を複数個配列した場合、相互干渉により個々の共振器の振動特性(主に振動速度)が均一とならず、特に両サイドで振動速度が低下する傾向がある。このため、振動特性が均一となるように中央部と両サイド部とで駆動電圧を変える必要があり、それぞれの共振器の駆動を別々の大きさの電圧で駆動する(特許文献3)等の対策が提案されている。
【0015】
さらに、超音波振動子としては、一般にボルト締めランジェバン型振動子が用いられ、これを複数個並べる。ランジェバン型振動子の駆動電力は1台あたり、70〜140Wであり、20インチ幅をサポートすると必要電力は数百W程度となる。このため、周波数が20kHz以上の高周波・高電圧電源が必要となり、高コストになる。
【0016】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点に鑑み、表面に凹凸を有するエンボス紙や粗面紙への転写や、第1面へのトナー像定着時の熱による用紙変形(シワ等)により生じた用紙第2面の凹部への画像欠陥のない、良好なトナー転写を可能とする転写装置およびこれを用いた画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の転写装置は、トナー像担持体と、コロナ転写手段とを対向して設置し、該トナー像担持体と該コロナ転写手段との間の転写領域に搬送される記録媒体に、該トナー像担持体上に形成されたトナー像を静電的に転写する転写装置であって、該トナー像担持体を挟んで該コロナ転写手段に対向する位置に、該トナー像担持体の裏面に振動エネルギーを付与する加振装置を設け、該加振装置が、圧電バイモルフ型アクチュエータの一端を支持固定した片持ち支持構成体を有し、表面に電極を形成した一対の圧電体を貼り合わせた構造を有し、該片持ち支持構成体の支持固定部とは反対側の端部に突起部を設け、該圧電体に電圧を印加した時に生じる往復振動を、該突起部を介して該トナー像担持体の裏面に伝える構成であることを特徴とする。これにより、従来の超音波振動子を用いる方式と比べて低消費電力かつ高周波、高電圧電源を必要とせずに、良好なトナー転写が可能となる。
【0018】
本発明の転写装置は、トナー像担持体に対向して設置されたコロナ転写手段と、前記コロナ転写手段に対向する位置でトナー像担持体の裏面に振動エネルギーを付与する加振手段とを有し、前記トナー像担持体上のトナー像を記録媒体上に静電的に転写するものであって、前記加振手段が、表面に電極を形成した一対の圧電体を導電性弾性部材(以下、シム材と称する)の両面に貼り合わせた構造の圧電バイモルフ素子の一端を支持し、かつ、他端に突起部を設けた片持ち支持構造体であり、圧電体表面の電極とシム材との間に駆動電圧を印加した時、前記圧電バイモルフ素子の支持される圧電体領域には、電圧が印加されないようにすることにより、前記圧電バイモルフ素子の寿命が向上する効果が加わる。
【0019】
この方法としては、前記圧電バイモルフ素子として、圧電バイモルフ素子を構成する圧電体の表面電極領域とシム材領域とが重なる領域であって、実質的に逆圧電効果による歪みが生じる圧電体領域には、前記圧電バイモルフが支持される領域を含まないようにすればより好ましい。
【0020】
また、前記圧電バイモルフ素子は、圧電バイモルフ素子を構成する圧電体の表面電極領域とシム材領域とが重なる領域であって、実質的に逆圧電効果による歪みが生じる圧電体領域には、バイモルフ素子の自由端を含む振動領域のみとなるようにすればより好ましい。
【0021】
前記圧電バイモルフ素子を構成する圧電セラミックス板あるいは圧電フィルムは、全面が厚さ方向に分極処理されたものであって、バイモルフ素子を駆動するための電極を前記圧電セラミックス板あるいは圧電フィルム面の特定の領域のみに形成したことを特徴とする。
【0022】
前記転写装置は、圧電体が圧電セラミックス板あるいは圧電フィルムであって、シム材の幅が、記録媒体への転写領域幅と同じか、それ以上であって、シム材の両面に、所定の間隙を設けて複数個の圧電体を転写領域幅方向に配列して貼り合わせ、電圧印加時における個々の圧電体部材の伸張・収縮を、シム材を共通ベースとする広幅バイモルフ素子としたことを特徴とする。
【0023】
本発明の画像形成装置は、トナー画像が表面に形成された中間転写ベルトあるいは感光ベルト等のトナー像担持体と、回動する前記トナー像担持体に対向して配置され、前記トナー画像を記録媒体上に転写する転写部とを備えるものであって、前記転写部として上記の転写装置を用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、1枚のシム材(弾性補強板)に複数の圧電体を貼り合わせてバイモルフ型アクチュエータを構成し、片持ち端のアクチュエータの反対端に突起部を設けてトナー担持体に往復振動を加える新規な方式である。本発明によれば、トナー担持体の全幅にわたって均一な振動を与えることができ、複数の圧電体の動きが1枚のシム材の動きとして現れるため、クロスカップリング現象がなく、広幅印刷(20インチ以上)に対して一つのアクチュエータで対応することができる。また、本発明のアクチュエータの駆動電圧は10〜40Vであり、従来の共振器方式の1/2〜1/3に低電圧化が可能で、駆動周波数も20kHz以下である。また、投入電力も数分の1に低減することができる。
【0025】
本発明の圧電バイモルフ素子では、駆動時に逆圧電効果が生じるのは自由端領域のみとなる。このため、下記の効果が得られる。
【0026】
圧電バイモルフ素子と固定部材との境界では応力は生じない。このため、高い周波数で、かつ、大きな変位で振動しても、圧電バイモルフ素子を構成する圧電セラミック(PZT)の破損等がなく、信頼性に優れた加振手段が得られる。
【0027】
なお、本発明の素子構造は広幅のシム材にも適用できるため、広幅転写対応の圧電バイモルフ素子においても同じ効果を得ることができる。
【0028】
なお、本発明の素子構造は広幅のシム材にも適用できるため、広幅転写対応の圧電バイモルフ素子においても、同じ効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0030】
まず、本発明の転写装置の要部である加振装置の主要構成を説明する。
【0031】
本発明の加振装置は、広幅のトナー像担持体を高速で加振する手段として、相互干渉(クロスカップリング)が生ずる縦振動(d33モード)を利用した共振器方式ではなく、圧電体の横効果振動(d31モード)を利用したバイモフル型アクチュエータ方式を利用する。
【0032】
図12、図13は圧電バイモルフ素子の説明図であり、PZT(ジルコン酸チタン酸塩)等の圧電セラミックスやPVDF(ポリフッ化ビニリデン)等の圧電フィルムによる圧電体の逆圧電効果を利用した圧電バイモルフ素子7の動作原理を示す。
【0033】
図12は、圧電体の厚さ方向に電圧を印加した時、厚さと直交する方向すなわち、面方向に伸張と収縮とを行う横効果のアクチュエータの動作を示す図である。図12(a)は、PZT(ジルコン酸チタン酸塩)等の圧電セラミックスや、PVDF等の圧電フィルムで形成された圧電体1表面に電極3g、3hを形成したものである。
【0034】
131は圧電体の自発分極を示している。図12(b)は、圧電体1に自発分極131の方向に対して逆方向の電界が働くように、直流電圧源132により直流電圧Vdを印加した場合を示す。圧電体1は面方向の両側に、それぞれΔL/2だけ伸びる。
【0035】
一方、図12(c)は、圧電体1に自発分極131の方向と同方向に電界が働くように直流電圧Vdを印加した場合を示す。圧電体1は面方向の両側にそれぞれΔL/2だけ収縮する。伸縮量ΔLは圧電体の圧電歪定数d31、長さL、厚さtを用いて(2)式で示される。
ΔL=d31×L×Vd/t (2)
圧電歪定数d31の値は圧電体を構成する材料組成によって変わる。PZTと包括的に分類されるものでも、80×10−12〜375×10−12C/Nと、その値の異なるものが実用化されている。
【0036】
図13に示す逆圧電効果とは圧電体に電界を加えた時、電界に比例した歪みを生じる現象である。圧電バイモルフ素子7は、導電性の弾性部材(以下、シム材)4の両側に2枚の圧電体1、5をそれぞれの自発分極2の分極方向を同方向にして導電性接着剤を用いて貼りつけたものである。導電性接着剤を用いるのは、接着剤層での電圧分担による駆動電圧の増加を防ぐためである。圧電素子1、5の表面にはそれぞれ、電極3、6が形成されており、それぞれ給電線14、15を接続して両電極3、6と導電性の弾性部材4との間に直流電源33による電圧Vdを印加する。この圧電バイモルフ素子7の一端を支持固定部材10a、10bで挟持した片持ち支持構造とする。ここで、逆圧電効果とは、圧電体に電界を加えた時、電界に比例した歪みを生じる現象である。
【0037】
図13(a)は、圧電体の電極3、6をプラス電位、シム材4をアース電位とした場合である。圧電体1では自発分極2の分極方向と印加電界の方向とが同じであるため圧電体は収縮し、圧電体5では自発分極2の方向と印加電界の方向は逆になるため、圧電体5は伸びる。その結果、圧電バイモルフ素子7はシム材4を中心軸として上方向に変位Uで曲がる。
【0038】
図13(b)は、逆に、圧電体の電極3、6をアース電位とし、シム材4をプラス電位とした場合であり、圧電バイモルフ素子7は下側方向に変位Uで曲がる。圧電バイモルフ素子7に交流電圧を印加すると、図13(a)と図13(b)の状態を交互に繰り返して上下振動を生じる。
【0039】
圧電バイモルフ素子7の変位U(m)および共振周波数f(Hz)は(3)、(4)式で与えられる。
変位U=3×d31×(L/t×(1+t/t)×α×V …(3)
共振周波数f=0.162×(t/L)×√(Y/ρ) …(4)
ここで、tは圧電体1、5およびシム材4を合わせた全体の厚さ、tはシム材4の厚さ、また、αは非線形補正係数で2である。Yは圧電バイモルフ素子7(圧電体とシム材含む)としてのヤング率、ρは同様に密度であり、d31は圧電定数、Lは振動長、Vは印加電圧である。
【0040】
圧電バイモルフ素子7は超音波振動子に比べて振動周波数は数kHz以下と低いが、変位Uは数百μm〜数mmで、超音波圧電素子の10μm以下に比べて、数桁を大きく取れる特長がある。また、駆動電力も小さく、電磁的雑音が発生しない等の長所もある。
【0041】
圧電セラミックスであるPZTおよび圧電フィルムであるPVDFについて説明する。
【0042】
PZTは、PbO、TiO、ZrO等の粉末を混合粉砕した後、700〜800℃で仮焼成し、これにバインダ、PVAなどの有機物を入れて練合する。つぎに、300〜500℃で加熱してバインダを除去した後、更に1100〜1300℃で本焼成する。その後、所定寸法に加工し、メッキ、焼き付け、蒸着等により表面に電極を形成する。
【0043】
分極処理は、100℃前後の絶縁油の中で電極間に2〜3kV/mmの直流電圧を印加し、数十分間保持することにより完成する。
【0044】
PVDFはフッ化ビニリデン樹脂の一軸延伸フィルムを高電圧で分極処理したものである。PZT等の圧電セラミックスに比べて圧電歪定数が1/5以下と小さいものの、大面積で薄膜化が可能という特徴がある。
【0045】
特許文献4には、圧電フィルム製の圧電バイモルフ素子を片持ち支持し、交流電圧を印加して機械的共振を生じさせ、前記バイモルフ素子の自由端が振動することで空気流を生じさせ、サーミスタ等への送風源とする開示がある。また、特許文献5には、先端にワイヤが取り付けられた複数の片持ち支持の圧電バイモルフ素子が配置され、印刷信号によりそれぞれが独立にインクリボンを記録体に押しつけて印字を行う装置が開示されている。また、特許文献6には、圧電バイモルフ素子をタッチパネルに適用するための両持ち支持構造が開示されている。
【0046】
一方、複数のバイモルフ型アクチュエータを幅方向に並べる構成は、従来の超音波圧電素子とホーンとを組み合わせた共振器を用いた場合の課題と同様、隣接アクチュエータ間でトナー像担持体に振動を付与できないという問題を有する。そこで、本発明では、幅広対応のアクチュエータを用いた加振装置について工夫を行った。
【0047】
図4は本発明のバイモルフ型アクチュエータの基本構成を示している。シム材4には、厚さ50〜300μmのステンレス、燐青銅またはチタン、あるいは一方向に沿って配列したカーボン繊維にエポキシ樹脂を含浸したカーボン繊維シートなどを使用する。シム材4の幅Wsは、印刷幅Wpと同等か、それ以上とする。ここでは、Wpを20インチ(508mm)とする。導電性接着剤を用いてシム材4の表の面に長さLc1、幅Wc(80mm)の圧電体6枚(1a、1b、1c、1d、1e、1f)、裏の面にも同様に、圧電体6枚(5a、5b、5c、5d、5e、5f)を接着した。なお、隣接する圧電体間にわずかのスペースを設けて接着しても良い。
【0048】
圧電体1、5表面に形成した駆動電極3、6の幅は(Lc1−Lt)で、圧電体1、5の片端面の、電極が形成されていない長さLtの領域に、金属あるいは樹脂で形成された長さLt、幅Wt、高さHの突起部12を、絶縁性接着剤8を用いて接着固定した。なお、突起部12の幅Wtは印刷幅Wpと同等か、それ以上、かつ、シム材4の幅Wsと同等か、それ以下とする。圧電体1a〜1f、5a〜5fの表面に形成された複数の電極3a〜3f、6a〜6fは、それぞれを一括して引き出して電極端子と接続し、広幅一体型の圧電バイモルフ素子7を構成する。構成は図8(a)に示すようになる。
【0049】
重要なことは、突起部12が接着固定される圧電体面の領域(長さLt)には電極3、6が形成されていないことである。これは電極3、6を形成しておくと、この領域も伸縮を生じる活性領域となり、圧電体1と突起部12との接着界面に剪断力が作用して界面剥離を生じるためである。以下、電極が形成されない、この領域を不活性領域(ダミー領域)とよぶ。
【0050】
不活性領域にする方法として、上記の説明のように駆動電極3、6を形成しないか、あるいは、分極処理の対象からこの領域を外す方法がある。
【0051】
(3)、(4)式からわかるように、変位U、共振周波数fは、圧電素子の長さLおよび厚さtに依存する。シム材4を挟んで両面に取り付けられた各圧電素子に電圧を印加した時の収縮・伸張特性は、圧電バイモルフ素子7としての機能を示す。これは、圧電体1の先端面に設けられた突起部12の上下振動となる。このような構成の圧電バイモルフ素子7は、広幅対応であるにもかかわらず、従来の超音波振動子を用いたときのような相互干渉の問題は生じない。
【0052】
図5は、図4とは別のバイモルフ型アクチュエータの基本構成を示している。図4との違いは、圧電素子表面に形成する電極領域を狭めた点にあり、図8(b)に示すような圧電バイモルフ素子7を片持ち構成とする時の支持固定領域部に相当する領域(幅Lk)を、駆動用電極3、6を設けないダミー領域とした。これにより、支持固定部材10と圧電体1、5との間で剪断力が発生するのを防止し、圧電体1、5が機械的破壊するのを防いでいる。
【0053】
図6は、更に別の構成を示すもので、図4の構成との違いはシム材4の表面側に貼り付ける圧電体1a〜1fの長さを短くしたもので、この長さLc2はLc1よりもLtだけ短い。なお、下側の圧電体5a〜5f(5a〜5eは見えない)の長さはLc1とした。これにより、シム材4の片側端面を露出し、このシム材4の表面に直接、接着剤8を用いて突起部7を固定した構成である。
【0054】
図7は更に別の構成を示すもので、図4、図5の構成の違いと同様、圧電体1、5表面に形成する電極3、6を、圧電バイモルフ素子7を片持ち構成とする時の支持固定領域部に相当する領域(幅Lk)を除いて形成したものである。図6、図7の構成は圧電体1、5が短くなった分、バイモルフ型アクチュエータを軽くするという効果がある。ここでは、シム材4の裏面側に貼り付ける圧電体5の長さをLc1としたが、表面側の圧電体1と同じくLc2としても良い。この場合、強度上、シム材4の厚さを厚くすることが望ましい。
【0055】
図8は、本発明の圧電バイモルフ素子を用いた加振装置を説明する平面図である。圧電バイモルフ素子7としては、図4に示す構成のものを用いている。使用した圧電体1、5(PZT)の圧電歪定数d31は110×10−12(C/N)、ヤング率Yは6.96×1010N/m、密度ρは7.5×10kg/mである。圧電体1、5の厚さtは300μm、幅Wcは80mm、長さLc1は20mmである。シム材4として厚さ50μmのステンレス板を用い、導電性接着剤8を用いて圧電体1、5をシム材4の両面に貼り付けた。見かけ上のシム材4の厚さtsは接着剤層8を含め100μmである。Ltは5mm、電極形成領域長(Lc1−Lt)は15mm、片持ち構成とするときの支持固定領域部に相当する領域の幅Lkは10mmである。突起部12はアルミニウムを加工して製作したものである。圧電体1a〜1fの電極3a〜3fを導電ペーストにて一括して引き出し、同様に、圧電体5a〜5fの電極6a〜6fを導電ペーストにて一括して引き出した。この圧電バイモルフ素子7を支持固定部材10の幅Lkにてチャックした。チャック幅Lkは10mmで、圧電体1、5の振動長L(=Lc1−Lk)は10mmである。
【0056】
図8(b)に加振装置の側面図を示す。アクチェータの電極端子を交番電圧電源13に接続した。駆動波形Vrを波高値±30Vの正弦波交流とし、駆動周波数を変えて突起部12の上端の振動変位をレーザ変位計で測定した。その結果、振動振幅が最大となる共振周波数fは3kHz、変位Uは4μmとなった。これは、(3)、(4)式で算出した値(共振周波数f:3.5kHz、変位U:4.6μm)とほぼ一致した。
【0057】
つぎに、駆動波形を波高値±30Vの矩形波交流とすると、共振周波数fは変わらないものの、変位Uが5μmと大きくなることがわかった。この要因としては、矩形波交流の方が電圧の立ち上がりdV/dtが大きいこと、投入エネルギーが大きくなるためと推定される。また、図8において、図5、図7に示す圧電バイモルフ素子7を用いることもできる。図5、図7の構成の場合には、電極を形成していないダミー領域(幅Lk)を支持固定部材10でチャックすることにより長期間駆動時の圧電体の破損を防止できる効果がある。
【0058】
図9は本発明の圧電バイモルフ素子7を用いた別の加振装置を説明する図である。圧電バイモルフ素子7としては、図6に示す構造のものを用いた。圧電体1、5の接着領域外におけるシム材4の長さLJは10mmである。Lc2は5mmである。圧電バイモルフ素子7のシム材4におけるLJの領域を直接、支持固定部材10でチャックした構成であり、シム材部を片支持固定部として振動する。この場合、加振装置の寿命を支配する機械ストレスは圧電体1、5ではなく、シム材4に加わる。シム材4は弾性体であるため、セラミックスであるPZTに比べて曲げ応力に強いため、長寿命化を図ることができる。
【0059】
図10は加振装置によるトナー担持ベルトへの加振特性を示す図である。図10(a)は、トナー画像が形成されたトナー像担持ベルト19が走行し、その裏側に圧電バイモルフ素子7が設置され、突起部12の上下振動によりトナー像担持ベルト19の裏面に振動エネルギーが加えられる状態を示す。図10(b)は駆動電圧波形、図10(c)はトナー像担持ベルト19の振動振幅(変位U)の時間変化を示す。トナー像担持ベルト19が上部に押し上げられた時、トナー115、117には慣性力Fが働きトナー像担持体面との付着力が低減する。圧電バイモルフ素子7の振動周波数をf(Hz)とすると、トナー像担持ベルト19を押し上げる期間は1周期Tの1/2、すなわち、1/(2f)(秒)となる。
【0060】
図8で説明したアクチュエータを使用し、共振周波数は3kHzで駆動する。トナー画像の印刷密度を600dpiとしたとき、単純にトナーに対し1回振動を与えれば良いと仮定すれば、印刷速度で約5ips(インチ/秒)まで対応できることになる。しかし、より高精細化、高速化には、トナー像担持ベルト19を押し上げる期間(押し上げ周期)を増す必要がある。また、カラー印刷の場合にはトナーは多層となり、より大きな慣性力Fを付与することが求められる。慣性力Fは振動振幅と振動周波数とに比例するため、押し上げる期間(押し上げ周期)を短くすることは慣性力の増加につながる。
【0061】
このための方策として、(3)式、(4)式からわかるように圧電歪定数d31やヤング率Yの大きな圧電材料の選択や構成部品の寸法適正化等の設計的な対策がある。もう一つは加振装置の構成によるものである。
【0062】
図11は2つのバイモルフ型アクチュエータを用いる加振装置の構成を示す。図11(a)では、2つの圧電バイモルフ素子7a、7bをそれぞれの突起部12a、12bが近接するように配置している。圧電バイモルフ素子7a、7bを駆動する交流電源はVr1、Vr2である。図11(b)および図11(c)に示すように、Vr1、Vr2は両者間で位相を1/2周期ずらしたことに特徴がある。これにより、圧電バイモルフ素子7aがトナー像担持ベルト19を上部に押し上げている期間は、圧電バイモルフ素子7bは下方に位置しトナー像担持ベルト19に非接触な状態となる。また、圧電バイモルフ素子7aが像担持体ベルト19の下方に位置している期間は、圧電バイモルフ素子7bはトナー像担持ベルト19を上方に押し上げるように作用する。この結果、トナー像担持ベルト19は図11(d)に示すようにパルス的な振幅で振動エネルギーを受け、これがトナー像担持ベルト19上のトナー115、117に慣性力Fを付与することになる。この結果、トナー115、117に慣性力を付与する期間は、図10の構成に比べて2倍にすることができる。
【0063】
圧電バイモルフ素子7を画像形成装置にて使用する際、振動特性(振動振幅と振動周波数)に加え、デバイスとしての寿命および信頼性の確保が重要である。圧電バイモルフ素子7は片持ち支持構成で使用されるため、固定部材10a、10bによる支持固定部、およびトナー像担持ベルト19に接触する作用を担う突起部12a、12bの接合部には、機械的応力が加わらないことが必要である。よって、固定部材10a、10bによる支持固定部や突起部12a、12bの接合部に接触する圧電体1、5は不活性であることが望ましく、構成としては圧電体1、5表面の上記領域には電極3、6を設けない図5、図7の構成が最良である。また、圧電バイモルフ素子7は圧電体1、5およびシム材4の積層構造であり、両者は接着剤8を用いて接着するが、駆動電圧の増加を防ぐため導電性接着剤が望ましい。
【0064】
ここで、従来構造の圧電バイモルフ素子を、本発明の目的である振動エネルギーを付与する加振機構として用いた場合の問題点について検討する。
【0065】
図21は従来の圧電バイモルフ素子を加振手段として使用した転写装置の構成図である。圧電バイモルフ素子7は表面全域に電極3、6が形成された圧電体1、5がシム材4を挟んで積層された構造である。電極3、6は圧電体1、5の分極処理として形成されたものである。この圧電バイモルフ素子7のうち、領域35は固定部材10a、10bにより上下から固定され、領域34は電圧印加時に上下振動による振動エネルギーを取り出す自由端領域、領域36は圧電体1、5それぞれの表面の電極3、6への給電端子接続部である。交流電源13から前記電極3、6とシム材4との間に交流電圧が印加されると、自由端領域34は矢印で示すように上下振動をする。この変位U、共振周波数fは、(3)、(4)式でLをLとすることにより求まる。
【0066】
一方、圧電体1、5の全域に電圧が印加されるため、領域35、領域36にも逆圧電効果によって電界に比例した歪み(応力)が発生する。このため、本来、上下振動をする領域35を押さえつけている固定部材の両サイド37a、37b近傍の圧電体1、5は駆動周波数で繰り返しの大きな応力を受ける。また、領域36でも振幅は領域34に比べて小さいが、上下に振動する。この時の変位U、共振周波数fは(3)、(4)式でLをLとして計算により求まる。L>Lであるのでf<fとなる。このため、自由端領域34の振動(f)に高周波の振動(f)が重畳されることになる。
【0067】
図21に示す圧電バイモルフ素子7により、トナー像担持体38の裏面に振動エネルギーを加えてトナーに慣性力Fを付与し、トナーとトナー像担持体との付着力を低減させる場合を考える。慣性力F(N)は(5)式で与えられる。
=4π・U・m …(5)
ここで、fは圧電バイモルフ素子7の振動周波数、mはトナー1個の重量である。
【0068】
(5)式からわかるように、Fは振動周波数fの2乗、変位Uに比例する。このため、従来の圧電バイモルフ素子構造では、次のような問題がある。
(イ)自由端領域34の上下振動に給電端子接続部36の振動が重畳されるため、自由端34の振動特性は不均一な振動モードとなり、加振源としての振動特性が悪くなる。(ロ)慣性力Fを大きくするためには、振動周波数fと変位Uを大きくする必要があるが、この時の応力が大きくなり、圧電体の破損等の信頼性に係わる課題が生じる。
【0069】
そこで、圧電バイモルフ素子7に電圧印加時に逆圧電効果を生じる領域が、自由振動を生じる領域34のみとなるように、圧電体1、5の表面に電極3、6およびシム材4を所定の形状で形成する。
【0070】
図19は本発明の圧電バイモフル素子の構成を示す。図19(a)は圧電バイモルフ素子を構成する上側の圧電体1の形状と、この圧電体面の電極の形状を示している。図19(a−1)は表面に形成されたL型形状の電極3a、図19(a−2)は裏面に形成した長方形状の電極3bを示す。この電極の形状は、PZT圧電体の製造方法で説明したように、焼結・成形されたPZT板を分極処理するために圧電体1の両面全域に形成した電極を、分極処理後に図19(a)に示すような電極領域3a、3bのみを残して除去することによって得られる。
【0071】
なお、分極2は電極のない領域も含め、厚さ方向の全域に形成されている。当初、圧電体1の両面に電極3a、3bを形成して分極処理したところ、分極領域と分極していない領域の境界で大きな歪みが発生してクラックが入ることがわかり、上記の方法に変更した。
【0072】
同様に、図19(c)には圧電バイモルフ素子を構成する下側の圧電体5の形状と、この圧電体5の面に形成した電極6a、6bの形状を示し、図19(c−1)には表面に形成した長方形状の電極6a、図19(c−2)は裏面に形成したL型形状の電極6bを示す。図19(b)にはシム材4の形状を示す。本実施例では、シム材4はT型形状である。シム材4としてはステンレスや燐青銅等のシム材が用いられる。
【0073】
図19(d)には、圧電体1、シム材4および圧電体5に接着剤を用いて積層・接着して製作した圧電バイモルフ素子7の形状を示す。T型形状のシム材44a領域の両側には、シム材4と、圧電体1の電極3bおよび圧電体5の電極6aとを導通するために導電性接着剤8を用い、シム材4のその他の領域4b(圧電体1の裏面の電極3b、圧電体5表面の電極6aを除く領域)には絶縁性接着剤9を用いる。ここで、領域3aL、6bLは、それぞれ、圧電体1、5の電極3a、6bへの給電端子接続部で、4bはシム材4への給電端子接続部となる。
【0074】
図20は図19(d)に示した本発明の圧電バイモルフ素子7を用いた片持ち支持構成の加振手段を示す。固定支持部材10a、10bの幅Lhを圧電バイモルフ素子7の幅Lhと一致させた。また、固定支持部材10aの一部に切り込み部11aを設け、ここから給電端子を電極領域3aLに導電性ペーストを用いて接続、同様に、固定支持部材10bの一部に切り込み部11bを設け、給電端子を電極領域6bLに接続する。
【0075】
また、圧電バイモルフ素子7の振動エネルギーをトナー像担持体の裏面に付与するため、突起部12を圧電体1の自由端の表面に接着剤により取り付けている。交流電源13から圧電バイモルフ素子7の給電端子に電圧を付与することにより、突起部12は上下に振動する。交流電源13は周波数が数kHz以下、±数十Vで、消費電力も数W以下である。
【0076】
圧電バイモルフ素子7を用いた加振手段を用いてコロナ転写性能の向上を図る場合、振動の安定性(振動振幅と振動周波数の均一性)と圧電バイモルフ素子7の寿命とを含めた信頼性を確保することが重要である。
【0077】
図19において、圧電体1、5とシム材4とを積層接着する場合に、1種類の接着剤(絶縁性接着剤または導電性接着剤)を用いて接合することも可能であるが、下記の問題がある。
【0078】
絶縁性接着剤で行うと、自由端領域34では印加電圧の一部が接着層8で分担されるため、実質的に圧電体1、5に印加される電圧が低下し、(3)式からわかるように変位Uが小さくなる。一方、導電性接着剤で行うと、シム材4が実質的に全面に拡がったことになる。このため、自由端領域34では上記の問題は解決されるが、給電端子接続部で圧電体1、5に電圧が印加されることになり、逆圧電効果による歪みが生じ、切り込み部11の周辺で振動時の圧電体1、5が破損するという問題を生じる危険がある。
【0079】
このため、本発明の最良の形態としては、固定部材で固定される固定領域35では絶縁性接着剤で接合し、振動領域34は導電性接着剤で接合する構成である。このとき、同じ温度で硬化が可能で、硬化後の両接着剤層8の厚さが同じで、かつ、ガラス転移温度、硬度もほぼ同じになるような接着剤組成および接着剤塗布条件を選ぶことが望ましい。
【0080】
以上のように、本発明の転写装置は、トナー像担持体19と、コロナ転写手段18とを対向して設置し、トナー像担持体19を挟んでコロナ転写手段18に対向する位置に、トナー像担持体19の裏面に振動エネルギーを付与する加振手段25を設け、トナー像担持体19上のトナー像を記録媒体上に静電的に転写するものである。加振手段25は、表面に電極3、6を形成した一対の圧電体1、5をシム材4の両面に貼り合わせた構造の圧電バイモルフ素子7の一端を支持したものである。そして、他端に突起部12を設けた片持ち支持構造体であって、圧電体1、5表面の電極3、6とシム材4との間に駆動電圧を印加した時、圧電バイモルフ素子7の支持される圧電体1、5領域には、電圧が印加されない構成となる。すなわち、圧電バイモルフ素子7の支持される圧電体1、5領域には、電極3、6を設けない。
【0081】
さらに、本発明の転写装置は、圧電体の横振動(d31モード)を利用したバイモルフ構成素子の機械振動を応用したもので、広い面積にわたってトナー画像を均一に転写することが可能である。また従来の圧電体の縦振動(d33モード)を利用した超音波振動子とホーンとを組み合わせる方式に比べて、加振装置の小型化および低消費電力化が可能である。これにより、本発明の転写装置を用いた画像形成装置では、従来の電子写真方式では対応できなかったさまざまな種類の用紙や広幅の用紙に高い品質で印刷できるようになる。粗面紙、両面印刷、エンボス紙などにも対応できる。
【実施例1】
【0082】
図1は本発明の実施例1による転写装置の構成を示す。OPC感光体ベルト19上に形成されたトナー115、117により形成されたトナー画像を、粗面紙あるいは両面印刷時の用紙第2面へ転写する構成を示している。用紙16の表面には、深さ約20〜30μm、幅50から100μmの空隙部16が存在する。トナー115、117は粒径9μmの負帯電トナーである。プロセス速度(感光体ベルト19の移動速度)23ips、用紙幅20.5インチ、印刷幅19.5インチの連続紙プリンタである。加振装置は、図5に示すバイモルフ型アクチュエータ7を、図8に示す片持ち支持構成としたものであり、非駆動時において突起部12は感光体ベルト19の裏面に非接触の状態にある。バイモルフ型アクチュエータ7は、厚さ50μm、幅560mm、長さ25mmのステンレス板をシム材4として、この両面に、厚さtが200μm、幅Wcが80mm、長さLc1が20mmのPZTプレートを、それぞれ各6個、エポキシ系の導電性接着剤にて接着・固定したものである。積層体全体の厚さは500μmである。また、突起部12はアルミニウムを一体加工したもので、圧電体1、5の端部で、電極3、6が形成されていない部分にエポキシ接着剤8にて接着固定した。
【0083】
また、電源13は矩形波交流電源であり、圧電体1、5の電極3、6とシム材4との間に交流電圧を印加した。一方、用紙16の裏面側には直流高圧電源113に接続されたコロナ転写器18が配置されている。このコロナ転写器18により、用紙16裏面に正極性のコロナ電荷が付与されてコロナ転写器18と対向する領域のトナーには静電気力Fが働く。一方、トナーと感光体ベルト11間には付着力として鏡像力Fとファンデルワールス力Fが働く。鏡像力Fはトナーの帯電電荷量によって異なる。一方、ファンデルワールス力Fはトナーの表面状態によって異なる。通常、トナーの表面には外添材としてシリカが付着している。一般的な外添材の被覆率である25%の時、Fは約10nNとなる。鏡像力Fは静電的付着力であるため、コロナ転写器18による静電気力Fを大きくすることにより打ち勝つことができる。一方、ファンデルワールス力Fは非静電的付着力である。印刷時、バイモルフ型アクチュエータ7に、周波数が5kHz、波高値が±40Vの矩形波交流を印加したところ、突起部12は振幅約18μmで上下振動した。この結果、感光体ベルト19上のトナー115には11nNの慣性力Fが働いた。この値はファンデルワールス力Fよりも大きい。この結果、トナー115は静電気力Fおよび慣性力Fにより、鏡像力とファンデルワールス力による束縛から逃れて空隙17を飛翔するトナー117となり、大きな表面凹凸のある用紙16に転写できることがわかった。本実施例では、用紙16として連続紙を用いた場合について説明したが、カット紙であっても同様の効果が得られることは言うまでもない。バイモルフ型アクチュエータ7として、図5の構成のものを用いたが、図4、図6、図7の構成のものを用いても良い。
【実施例2】
【0084】
図2は本発明の実施例2による転写装置の構成を示す。ポリイミド樹脂を用いた中間転写ベルト19上に、Y(イエロ)、M(マゼンタ)、C(シアン)、K(黒)の4色のトナー20a、21a、22a、115の色重ねによって形成されたカラートナー画像をエンボス紙16の表面に転写する装置の構成を示したものである。エンボス紙16は、表面に多種形状の空隙17が多数形成されている。このため、多層の各トナー20a、21a、22a、115を中間転写ベルト19から飛翔させて空隙17表面に転写させるためには、より大きな慣性力を各トナー20a、21a、22a、115に付与する必要がある。ここでトナー20a、21a、22a、115の粒径は9μmの負帯電トナーである。印刷密度600dpi、プロセス速度(中間転写ベルト19の移動速度)は16ips、用紙幅は20.5インチ、転写幅が19.5インチの連続紙プリンタである。中間転写ベルト19の裏面側に、図7に示した構成の2つのバイモルフ型アクチュエータ7a、7bを図11(a)に示すように配置した。なお、バイモルフ型アクチュエータ7a、7bに電圧が印加されない非駆動時には、突起部12a、12bが中間転写ベルト19の裏面に接触しないように位置を調整してある。バイモルフ型アクチュエータ7a、7bは、厚さ50μm、幅560mm、長さ25mmのステンレス板をシム材4として、この両面に厚さtが300μm、幅Wcが80mm、長さLc2が10mm(このうち、電極3の長さは5mm)のPZTプレートを、それぞれ各6個、エポキシ系の導電性接着剤にて接着・固定したものである。バイモルフ型アクチュエータ7a、7bは、積層体全体の厚さが700μmであり、共振周波数が3kHzである。波高値が±40V、周波数5kHzの矩形波交流を印加したところ、突起部12a、12bが振動振幅U18μm、周波数5kHzで上下振動した。ここで、電源13a、13bの矩形波交流波形の位相差を180度(1/2周期)とした。その結果、中間転写ベルト19の振動特性は図11(b)のようになり、1秒間に10×10回のパルス状の上方向加振が得られた。これは600dpi、16ipsのライン数である9.6×10回よりも大きく、中間転写ベルト19上のトナー20a、21a、22a、115に十分な慣性力Fを付与することができ、そのFの値は16nNであった。この結果、トナー20a、21a、22a、115は、コロナ転写器18によりエンボス紙16の裏面に付与された電荷による静電気力Fと慣性力Fとによりファンデルワールス力による束縛から逃れて空隙17を飛翔するトナー20b、21b、22bとなり、凹凸のあるエンボス紙16に良好な転写が可能であることがわかった。本実施例ではエンボス紙16として連続紙を用いた場合について説明したが、カット紙であっても同様の効果が得られることは言うまでもない。バイモルフ型アクチュエータ7a、7bとして、図7の構成のものを用いたが、図4、図5、図6の構成のものを用いても良い。
【実施例3】
【0085】
図3は本発明の転写装置を用いた画像形成装置の構成を示す図である。28a、28b、28c、28dはそれぞれ、Kトナー画像形成部、Cトナー画像形成部、Mトナー画像形成部、Yトナー画像形成部であり、現像剤が異なるだけで基本的に同じ構成である。Kトナー画像形成部28aで構成を説明すると、OPC感光ドラム123aを帯電器124aで帯電後、露光部125aにより印刷画像に対応した静電潜像を形成し、現像機126aにて感光ドラム123a上にKトナー画像を形成する。トナー20a、21a、22a、115は負帯電トナーであり、トナー画像は正極性の電圧が印加された転写ロール27aにより中間転写ベルト19面に転写される。回動する中間転写ベルト19面に順次、Cトナー画像、Mトナー画像、Yトナー画像が転写され、中間転写ベルト19上にフルカラー画像が形成される。回動する中間転写ベルト19を挟んでコロナ転写器18およびバイモルフ型アクチュエータ7a、7bが配置してある。印刷用紙16はカット紙で、レジストローラ29により転写部に搬送される。バイモルフ型アクチュエータ7a、7bには駆動電源13a、13bが接続してある。
【0086】
本実施例の転写器の構成は実施例2で説明しているため説明を省略する。用紙16上に転写されたトナー20、21、22、115は、ヒートロール30aおよびバックアップロール30bから構成されるヒートロール定着装置により用紙16に溶融固着される。この場合、加振装置は画像形成装置内への実装上、回動する中間転写ベルト19によって囲まれる空間内に設ける必要があり、実施例2との違いは、中間転写ベルト19に対する加振装置の取り付けが上下逆になる点である。このため、バイモルフ型アクチュエータ7a、7bは突起部12a、12bが下方に変位した時に中間転写ベルト19の裏面に接触して振動させ、トナーに慣性力Fを付与する。突起部12a、12bの材質としては、耐摩耗性に優れ、かつ比重の小さいものが好適であり、アルミニウムやポリカーボネートが良い。
【0087】
バイモルフ型アクチュエータ7a、7bで構成される加振装置の駆動は、用紙16の種類に応じて選択することができる。コート紙や表面の比較的平坦な上質紙の場合にはコロナ転写だけで行い、エンボス紙等の表面に凹凸のある用紙の場合にのみ加振装置を動作させても良い。もちろん、用紙16の種類に係わらず、加振装置を動作させればトナーに慣性力が付与される分、転写性能が向上することは言うまでもない。
【0088】
ここでは説明しなかったが、バイモルフ型アクチュエータとしては、図4、5、6、7に示すいずれの構成のものも使用することができる。
【実施例4】
【0089】
図16は本発明で用いる転写性向上のための加振手段の主要デバイスである広幅圧電バイモルフ素子7の別の構成図である。図16(b)はシム材4の形状を示す。これは図19(b)に示すT型形状領域(4a、4b)を3個、長方形状の領域4cで、つなげた形状である。厚さ50μm、幅Lが30mm、幅Lが422mmの燐青銅板を加工したもので、Lは140mm、Lは1mmである。図16(a)に広幅圧電バイモルフ素子7の形状を示す。
【0090】
シム材4の両面に、厚さ300μm、幅Lが140mm、長さLが30mmのPZT板1、5を各3個、分極2の方向が同じ方向(図16(a)では下向き)になるように接着剤で接着する。図19と同様、シム材の領域4aと圧電体1、5との接着領域8には銀粒子を混入した導電性接着剤を、それ以外の領域9では絶縁性の接着剤を用いた。ともに硬化後の硬度は60〜80(ショアD)、ガラス転移点は70〜80℃とし、両接着剤の特性の差を小さくした。これは広幅圧電バイモルフ素子7として振動したとき、両接着剤硬化層8の境界で歪みが生じて界面剥離が生じるのを防ぐためである。
【0091】
なお、使用したPZTは、図8で用いたPZT特性と異なり、圧電歪定数d31は330×10−12(C/N)、ヤング率Yは5.9×1010(N/m)、密度7.75×10(kg/m)である。d31は3倍と大きいため、駆動電圧を±40Vに下げることができ、振動変位量も大きい。接着剤は、使用したPZTのキューリー点(160℃)よりも低い60℃で、6時間かけて硬化させた。隣接する圧電体間にスペースLを設けたのは、圧電バイモルフ素子7に電圧を印加した際、圧電体1、5の変形がY方向だけでなく、X方向にも生じるため、隣接する圧電体同士が接触するのを防止するためである。
【0092】
図16(c)は図16(a)の広幅圧電バイモルフ素子7を用いた加振装置の構成を示す。広幅圧電バイモルフ素子7を、固定部材10a、10bを用いて広幅圧電バイモルフ素子7の幅Lhの領域を上下より挟持したものである。給電用引き出し線14を10aに設けた切り込み部11a1、11a2、11a3から、上側の各圧電体の電極3aL1、3aL2、3aL3に接続する。同様に、給電用引き出し線15を10bに設けた切り込み部11b1、11b2、11b3(図示せず)から下側の各圧電体の電極6bL1、6bL2、6bL3(図示せず)に接続する。
【0093】
給電線14、15をまとめて駆動電源13の高圧側に、シム材14への給電線を駆動電源のアース側に接続する。交流駆動電源13により、広幅圧電バイモルフ素子7に電圧を印加したとき、自由端領域34(長さLf)面の設けられた突起部材12が上下に振動する。
【0094】
図17は本発明の転写装置を示す構成図である。ポリイミド樹脂を用いた中間転写ベルト19上にY(イエロ)、M(マゼンタ)、C(シアン)、K(黒)の4色のマイナス帯電トナー22、23、24、21の色重ねによって形成されたカラートナー画像をエンボス紙16の表面に転写する。中間転写ベルト19の裏面側に図16に示した加振手段を配置した。用紙の裏面にはコロナ転写器18でプラス電荷20が付与される。
【0095】
中間転写ベルト19の裏面に振動エネルギーを与えてトナー22、23、24、21に慣性力を生じさせることにより、中間転写ベルト19からトナー22、23、24、21を飛翔させて用紙16表面の空隙17内に転写させる。ここでトナー22、23、24、21の粒径は9μmである。Lfが10mmの時、共振周波数は、1.6kHzとなる。広幅圧電バイモルフ素子7に駆動電圧として、波高値が±40V、周波数1.6kHzの矩形波交流を印加したところ、突起部12は約±200μmの変位で上下に振動した。これにより、中間転写ベルト19上の各トナー22、23、24、21には約12nNの慣性力Fが働く。
【0096】
この結果、トナー21b、22b、23b、24bはコロナ転写器18により用紙16の裏面に付与されたプラス電荷20による静電気力Fの他に、上記慣性力Fが加わり、ファンデルワールス力による束縛から逃れて、用紙16の凹部17および平坦部に飛翔する。これにより、エンボス紙に良好な転写が可能になることがわかった。ここでは、用紙16としてエンボス紙のカット紙を用いた場合を示したが、これにこだわることはなく、表面に凹凸のある用紙、平坦な用紙、また、連続紙を含む全ての用紙形態に適用できることはいうまでもない。
【0097】
本実施例では広幅圧電バイモルフ素子7として、幅L2が422mmのものを用いたが、シム材4の幅を拡げ、圧電体1、5の数を増やすことにより20インチ幅以上の広幅圧電バイモルフ素子7を用いることができる。また、圧電体1、5として圧電フィルムであるPVDFフィルムを用いることができる。
【実施例5】
【0098】
図18は本発明の転写装置を用いた画像形成装置の他の構成を示す図である。回動するOPC感光体ベルト228に対向して、Kトナー画像形成部230a、Cトナー画像形成部230b、Mトナー画像形成部230c、Yトナー画像形成部230dを配置している。それぞれ現像剤が異なる点を除けば、基本的に同じ構成である。以下、Kトナー画像形成部230aおよびCトナー画像形成部230bについて構成とプロセスを説明する。
【0099】
OPC感光体ベルト228を帯電器226aで帯電後、レーザ光学系やLED等の露光部227aでKトナー画像に対応した光パターンを露光して静電潜像を形成し、現像機229aにてOPC感光体ベルト228上にKトナー画像を形成する。次に、帯電器226bでOPC感光体ベルト228面を帯電して、露光部227aの光照射で電位低下した領域の電位を回復させる。次に、露光部227bでCトナー画像に対応した光パターンを露光して静電潜像を形成し、現像機229bによりOPC感光体ベルト228上にCトナー画像を形成する。
【0100】
ここで、少なくとも現像機229b、229c、229dの現像ロール面は、感光体ベルト228面と非接触に構成されていて、感光体ベルト228上に形成されたトナー画像を現像機ロールが掻き取るのを防止する。このようにして、順次、Mトナー画像、Yトナー画像を形成することにより、感光体ベルト228上にKトナー21a、Cトナー22a、Mトナー23a、Yトナー24aからなるカラー画像が形成される。
【0101】
回動するOPC感光体ベルト228の外側にコロナ転写器18、内側に圧電バイモルフ素子7を用いた加振手段325を配置している。加振手段325には駆動電源13が接続されている、駆動電源13は矩形波交流または正弦波交流源である。圧電バイモルフ素子7の突起部12が下方に変位したときに感光体ベルト228の裏面に接触し、トナー21a、22a、23a、24aに慣性力Fを付与する機能を持つ。
【0102】
印刷用紙16はカット紙で、レジストローラ31により転写部に搬送される。用紙16に転写されたトナー21a、22a、23a、24aは、ヒートロール30aとバックアップロール30bとを含むヒートロール定着装置により、用紙16に溶融固着され、印刷が完了する。
【0103】
加振手段325の駆動は用紙16の種類に応じて選択できる。コート紙や表面の比較的平坦な上質紙の場合にはコロナ転写だけを行い、エンボス紙のように表面に凹凸のある場合には加振装置を動作させるようにする。もちろん、用紙16の種類にかかわらず加振手段325を動作させれば、トナー21a、22a、23a、24aに慣性力が付与される分、転写性能が向上することは言うまでもない。また、ここではカット紙を使用した場合を示したが、用紙16の搬送系を連続紙対応に変更すれば、連続紙にも対応可能である。
【0104】
実施例3のOPC感光体ベルト228は、実施例2の中間転写ベルト19と同様、トナー像担持体となる。このように、可撓性を有するトナー像担持体から記録媒体にトナー像を転写する場合に、本発明の転写装置が適用できる。また、実施例2、3では4色のトナー21a、22a、23a、24aを用いたカラー印刷の場合を示したが、モノクロ画像にも適用できることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0105】
電子写真方式のプリンタは高速で可変情報を用紙等の記録媒体に印刷できるという特長があり、業務用印刷の分野から個人印刷用途まで幅広い分野で用いられるようになった。これに伴い、従来、電子写真方式の画像形成装置では対応できなかった多種用紙や広幅用紙への印刷が要望されるようになってきた。用紙種としては低価格用紙である粗面紙への印刷、紙資源の有効活用としての用紙両面への印刷、チケットやパンフレット等の用途でのエンボス紙へのカラー印刷である。また、広幅用紙としてはA3カット紙横幅(420mm)から20.5インチ幅超の連続紙まである。これらに対応するための転写機構部の課題は、用紙表面の凹凸が大きく、感光体や中間転写体等のトナー像担持体との密着性が悪い状態であっても、広い面積にわたってトナー画像を均一に転写することが可能で、かつ、これを小型、低消費電力の転写装置を開発することである。
【0106】
本発明の転写装置は、圧電体の横振動(d31モード)を利用したバイモルフ構成素子の機械振動を応用したもので、広い面積にわたってトナー画像を均一に転写することが可能である。また、従来の圧電体の縦振動(d33モード)を利用した超音波振動子とホーンとを組み合わせる方式に比べて加振装置の小型化と低消費電力化が可能である。これにより、本発明の転写装置を適用することにより、従来の電子写真方式では対応できなかった様々な種類の用紙や広幅の用紙に高い品質で印刷できるようになり、粗面紙、両面印刷、エンボス紙に対応できる画像形成装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】本発明による実施例1の転写装置を示す構成図である。
【図2】本発明による実施例2の転写装置を示す構成図である。
【図3】本発明による実施例3の転写装置を示す構成図である。
【図4】本発明による実施例を示す圧電バイモルフ素子の構成図である。
【図5】本発明による他の実施例を示す圧電バイモルフ素子の構成図である。
【図6】本発明による他の実施例を示す圧電バイモルフ素子の構成図である。
【図7】本発明による他の実施例を示す圧電バイモルフ素子の構成図である。
【図8】本発明による圧電バイモルフ素子を用いた加振装置の構成を示す説明図である。
【図9】本発明による圧電バイモルフ素子を用いた加振装置の他の構成を示す説明図である。
【図10】本発明による圧電バイモルフ素子を用いたベルトへの加振特性の説明図である。
【図11】本発明による圧電バイモルフ素子を用いた別の加振装置によるベルトへの加振特性の説明図である。
【図12】圧電体の横効果振動を示す説明図である。
【図13】圧電バイモルフ素子の構成および電圧印加時の変位特性を示す説明図である。
【図14】表面に凹部を有する用紙へのトナーの静電転写を示す説明図である。
【図15】静電転写時にトナーに働く力を示す説明図である。
【図16】本発明による実施例4の広幅圧電バイモルフ素子およびこれを用いた加振手段を示す構成図である。
【図17】本発明による実施例4を示す加振手段を用いた転写装置の構成図である。
【図18】本発明による実施例5の画像形成装置を示す構成図である。
【図19】本発明による圧電バイモルフ素子を説明する分解図である。
【図20】本発明による圧電バイモルフ素子を用いた加振手段を説明する構成図である。
【図21】従来の圧電バイモルフ素子を示す構成図である。
【符号の説明】
【0108】
1、5:圧電体、2:自発分極、4:シム材、3、6:電極、7:圧電バイモルフ素子、8:導電性接着剤層、9:絶縁性接着剤層、10:固定部材、11:固定部材の切り込み部、12:突起部、13:駆動電源、16:用紙、17:用紙表面の空隙、18:コロナ転写器、19:中間転写ベルト、21、22、23、24:トナー、25:加振手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トナー像担持体と、コロナ転写手段とを対向して設置し、該トナー像担持体と該コロナ転写手段との間の転写領域に搬送される記録媒体に、該トナー像担持体上に形成されたトナー像を静電的に転写する転写装置であって、該トナー像担持体を挟んで該コロナ転写手段に対向する位置に、該トナー像担持体の裏面に振動エネルギーを付与する加振装置を設け、該加振装置が、圧電バイモルフ型アクチュエータの一端を支持固定した片持ち支持構成体を有し、表面に電極を形成した一対の圧電体を貼り合わせた構造を有し、該片持ち支持構成体の支持固定部とは反対側の端部に突起部を設け、該圧電体に電圧を印加した時に生じる往復振動を、該突起部を介して該トナー像担持体の裏面に伝える構成であることを特徴とする転写装置。
【請求項2】
前記圧電体が圧電セラミックスあるいは圧電フィルムであって、弾性補強板である1枚のシム材に複数個の前記圧電体を貼り合わせた構成であることを特徴とする請求項1記載の転写装置。
【請求項3】
前記シム材の幅が、前記記録媒体への転写領域幅と同じか、それ以上であって、シム材を挟んで両側の表面に電極を形成した複数個の圧電セラミックス板を転写領域幅方向に配列して貼り合わせ、電圧を印加した時に生じる個々の圧電体の伸張・収縮を、シム材を共通ベースとして転写領域に伝達する、広幅の圧電バイモルフ型アクチュエータを設けたことを特徴とする請求項2に記載の転写装置。
【請求項4】
前記圧電バイモルフ型アクチュエータの支持固定部とは反対側の端部に設けた前記突起部が、金属あるいは樹脂で作られた一体構造体を含み、前記圧電体あるいは前記シム材の表面に接着固定したものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の転写装置。
【請求項5】
前記支持固定部の圧電体領域を、電圧印加時に伸張・収縮しない不活性領域とすることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の転写装置。
【請求項6】
前記支持固定部とは反対側の端部に設けた前記突起部の圧電体領域を、電圧印加時に伸張・収縮しない不活性領域とすることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の転写装置。
【請求項7】
前記不活性領域は前記圧電体の分極処理時にあらかじめ分極しない領域を設けておくか、あるいは前記圧電体の全面が分極されたものであっても、圧電体面に駆動電極を持たないことを特徴とする請求項5または6に記載の転写装置。
【請求項8】
前記圧電バイモルフ型アクチュエータが、前記シム材を挟んで両側に、前記圧電体を、前記圧電体の厚さ方向の分極方向が互いに同方向になるように貼り合わせたパラレル構成であって、前記突起部を設ける側の前記圧電体の寸法を前記シム材の寸法より短くし、前記圧電体よりはみ出した前記シム材の表面に前記突起部を設けたことを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の転写装置。
【請求項9】
前記圧電バイモルフ型アクチュエータが、前記シム材を挟んで両側に、前記圧電体を、前記圧電体の厚さ方向の分極方向が互いに同方向になるように貼り合わせたパラレル構成であって、前記支持固定部を設ける側の前記シム材の寸法を前記圧電体の寸法より長くし、前記圧電体からはみ出した前記シム材を支持固定したことを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の転写装置。
【請求項10】
前記圧電体に印加するための電源が、交番電圧を発生させるものであり、該交番電圧は、正弦交流あるいは矩形波交流であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の転写装置。
【請求項11】
前記圧電体に印加する電源が、片側極性のパルス電圧を発生させるものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の転写装置。
【請求項12】
前記突起部を設けた構成の圧電バイモルフ型アクチュエータ2個を、2個の圧電バイモルフ型アクチュエータの突起部を近接させて、前記トナー像担持体を挟んで前記コロナ転写手段に対向する位置に配置したことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の転写装置。
【請求項13】
前記2個の圧電バイモルフ型アクチュエータに印加するための電源が、交番電圧あるいはパルス電圧を発生させるものであり、一方の圧電体に印加する電圧波形の位相と、もう一方の圧電体に印加する電圧波形の位相とが、1/2周期ずれていることを特徴とする請求項12記載の転写装置。
【請求項14】
前記電源の交番電圧あるいはパルス電圧の周波数を、前記片持ち支持構成体の共振周波数としたことを特徴とする請求項10、11または13に記載の転写装置。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれかに記載の転写装置と、前記記録媒体に転写されたトナー画像を定着する定着機とを備えた画像形成装置。
【請求項16】
トナー像担持体と、コロナ転写手段とを対向して設置し、該トナー像担持体を挟んで該コロナ転写手段に対向する位置に、該トナー像担持体の裏面に振動エネルギーを付与する加振装置を設け、該トナー像担持体と該コロナ転写手段との間の転写領域に搬送される記録媒体に、該トナー像担持体上に形成されたトナー像を静電的に転写する転写装置であって、該加振装置が、表面に電極を形成した一対の圧電体をシム材の両面に貼り合わせた構造の圧電バイモルフ素子の一端を支持し、かつ、他端に突起部を設けた片持ち支持構造体を含み、該圧電体の表面の電極とシム材との間に駆動電圧を印加した時、該圧電バイモルフ素子を支持する部位の該圧電体には、電圧が印加されないことを特徴とする転写装置。
【請求項17】
前記圧電体の表面に形成した電極とシム材とが重なる部分を有し、実質的に逆圧電効果による歪みが生じる前記圧電体の部位には、前記圧電バイモルフ素子を支持する部位を含まないことを特徴とする請求項16記載の転写装置。
【請求項18】
前記圧電体の表面に形成した前記電極と前記シム材とが重なる部分を有し、実質的に逆圧電効果による歪みが生じる前記圧電体の部位は、前記圧電バイモルフ素子の自由端を含む振動領域のみとなることを特徴とする請求項16記載の転写装置。
【請求項19】
前記圧電体が圧電セラミックス板あるいは圧電フィルムで形成され、前記圧電体の全面が厚さ方向に分極処理され、前記電極は、該圧電セラミックス板あるいは該圧電フィルムの表面の、特定の領域のみに形成したことを特徴とする請求項16〜18のいずれかに記載の転写装置。
【請求項20】
前記圧電バイモルフ素子が、前記シム材を挟んで両側に、前記圧電体を、接着剤層を介して接着してあり、前記圧電体と前記シム材との接着部位が、導電性接着剤を用いる部位と絶縁性接着剤を用いる部位とを含むことを特徴とする請求項16記載の転写装置。
【請求項21】
前記導電性接着剤および前記絶縁性接着剤の硬化後の硬度とそれらのガラス転移点がほぼ同じであることを特徴とする請求項20記載の転写装置。
【請求項22】
前記圧電体表面の前記電極からの引き出し線を、前記圧電バイモルフ素子の支持部材領域に設けたことを特徴とする請求項16〜18のいずれかに記載の転写装置。
【請求項23】
前記圧電体が圧電セラミックス板あるいは圧電フィルムを含み、前記シム材の幅が、記録媒体への転写領域幅と同じか、それ以上であって、前記シム材の両面に、所定間隙を設けて複数個の前記圧電体を転写領域幅方向に配列して貼り合わせ、電圧印加時における個々の前記圧電体の伸張・収縮を、前記シム材を共通ベースとして受容する、広幅の圧電バイモルフ素子としたことを特徴とする請求項16〜22のいずれかに記載の転写装置。
【請求項24】
トナー画像が表面に形成された中間転写ベルトあるいは感光ベルトを含むトナー像担持体と、回動する該トナー像担持体に対向して配置され、該トナー画像を記録媒体に転写する請求項23記載の転写装置とを備えたことを特徴とする画像形成装置。
【請求項25】
感光ドラムと、帯電器と、印刷画像に対応した光パターンを露光して該感光ドラム上にトナー画像を形成する露光部と、該トナー画像を転写ロールにより転写する中間転写ベルトと、回動する該中間転写ベルトに対応して配置され、該トナー画像を記録媒体上に静電的に転写する請求項23記載の転写装置とを備えたことを特徴とする画像形成装置。
【請求項26】
帯電器と、印刷画像に対応した光パターンを露光して感光体ベルト上にトナー画像を形成する露光部と、回動する該感光体ベルトに対応して配置され、該トナー画像を記録媒体上に静電的に転写する請求項23記載の転写装置を備えたことを特徴とする画像形成装置。
【請求項27】
前記圧電セラミックス板の両面に電極を設け、前記圧電セラミックス板の、該電極を設けた領域が、直流高電圧を印加して分極処理したものであり、該電極の一部を除去し、前記圧電バイモルフ素子として駆動するための駆動電圧を印加するために必要な領域のみに該電極を残したことを特徴とする請求項19記載の転写装置。
【請求項28】
トナー像担持体と、コロナ転写手段とを対向して設置し、該トナー像担持体を挟んで該コロナ転写手段に対向する位置に、該トナー像担持体の裏面に振動エネルギーを付与する加振装置を設け、該加振装置が、表面に電極を形成した一対の圧電体をシム材の両面に貼り合わせた構造の圧電バイモルフ素子の一端を支持し、かつ、他端に突起部を設けた片持ち支持構造体を含み、該トナー像担持体と該コロナ転写手段との間の転写領域に搬送される記録媒体に、該トナー像担持体上に形成されたトナー像を静電的に転写する転写装置の製造方法であって、該圧電体を圧電セラミックス板で形成する工程と、該圧電体の全面を厚さ方向に分極処理する分極処理工程とを含み、該分極処理工程が、該圧電セラミックス板の両面に分極処理用電極を形成する工程と、該分極処理用電極に直流高電圧を印加して分極処理を行う工程と、該分極処理用電極の一部を除去し、該圧電セラミックス板の表面の電極とする工程とを含むことを特徴とする転写装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2009−15288(P2009−15288A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−327268(P2007−327268)
【出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【出願人】(302057199)リコープリンティングシステムズ株式会社 (1,130)
【Fターム(参考)】