説明

転動体支持荷重推定装置及び転動体支持荷重推定方法

【課題】軸受外輪と軸受ハウジングの境界が存在しない場合でも、転動体支持荷重の推定を行うことが可能な転動体支持荷重推定方法を提供する。
【解決手段】軸受外輪20とボール22との接触部に向けて、超音波探触子1から横波あるいは高周波の縦波の超音波を照射するステップと、接触部からの反射波の強度を検出するステップと、反射波の強度と転動体支持荷重との関係を予め求めた較正曲線データに基づいて転動体支持荷重の大きさを算出するステップとを備え、超音波探触子1は、外輪20の円周方向に沿って超音波を発信及び受信する領域を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波探触子から超音波を測定対象域に照射し、この測定対象域からの反射波を測定することで転動体支持荷重を推定する転動体支持荷重推定装置及び転動体支持荷重推定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
軸受は、回転する軸を支持する機械要素としてよく知られている。軸受の一般的な構成として、内輪と外輪と内輪と外輪に挟持されて転動するボール(転動体に相当)を備えている。外輪の外径部分が軸受ハウジングに形成された嵌合孔に挿入され、内輪の内径部分に回転軸が嵌合される。
【0003】
かかる軸受の寿命を知る方法として、軸受に作用する荷重を測定する方法が知られている。一般的に機械は運転中に振動や衝撃を伴うことが多く、また、組み立て状態や使用環境下での軸との嵌め合いの程度を知ることは難しいため、転動体に加わっている実際の荷重(または、軸受に作用する荷重)を把握できない。軸受に作用する荷重を知ることができれば、軸受の寿命(余寿命)を正しく推定することができると考えられる。
【0004】
そこで、軸受に作用する軸受荷重を非接触で計測する方法として、超音波探触子を用いた計測技術が知られている(例えば、下記特許文献1)。超音波探触子は、自ら超音波を照射し、調査対象物に反射して跳ね返ってきた反射波(エコー)を受信する。具体的には、超音波探触子は軸受ハウジングに取り付けられ、軸受外輪に向けて超音波を照射し、軸受ハウジングと軸受外輪との境界からの反射波を受信する。そして、軸受ハウジングと軸受外輪との接触面積が、超音波照射領域内で大きな割合を占めるようになると、発せられた超音波は境界から透過し、この透過率は上記接触面積に比例する。
【0005】
ここで軸受荷重が大きいときは、接触面積が大きくなるので超音波の透過率が大きくなる。透過率が大きくなるということは、反射波の大きさは小さくなる。逆に、軸受荷重が小さいときは、反射波の大きさは大きくなる。従って、この反射波の強度を測定することにより、軸受荷重の大きさを推定することができる。
【特許文献1】特開2002−257796号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年においては、軽量化や省スペース化のために、軸受外輪と軸受ハウジングとを一体化したような軸受構造が知られている。すなわち、ハウジングを外輪に、軸を内輪に見立ててレース面の加工を施し、ユニット化した軸受構造が用いられている。このような軸受の場合、軸受外輪と軸受ハウジングの境界が存在しないため、かかる境界からの反射波に基づいて、軸受荷重の推定を行うことができない。
【0007】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その課題は、軸受外輪と軸受ハウジングの境界が存在しない場合でも、転動体支持荷重の推定を行うことが可能な転動体支持荷重推定装置、推定方法、及び較正曲線取得方法を提供することである。なお、転動体支持荷重を知ることができれば、軸受荷重の推定を行うことができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため本発明に係る軸受荷重推定装置は、
軸受外輪と転動体との接触部に向けて、横波あるいは高周波の縦波の超音波を照射する超音波探触子と、
前記接触部からの反射波の強度を検出する反射波検出手段と、
反射波の強度と転動体支持荷重との関係を予め求めた較正曲線データを保存しておく較正曲線データ保存手段と、
この較正曲線データに基づいて転動体支持荷重の大きさを算出する転動体支持荷重算出手段とを備え、
前記超音波探触子は、外輪の円周方向に沿って超音波を照射及び受信する領域を有していることを特徴とするものである。
【0009】
かかる構成による転動体支持荷重推定装置の作用・効果を説明する。超音波探触子からの超音波は、軸受外輪と転動体との接触部に向けて発せられる。軸受外輪と転動体との接触状態は、転動体支持荷重(軸受荷重)の大きさに応じて変動する。すなわち、転動体支持荷重が大きければ弾性変形に伴う接触面積は大きくなり、転動体支持荷重が小さくなれば接触面積も小さくなる。従って、超音波照射領域内のこの面積の大きさに応じて、反射波の強度が変化するため、軸受外輪と軸受ハウジングとの境界が存在しなくても、転動体支持荷重の推定が可能になる。
【0010】
なお、本発明に係る接触面積とは後述するような弾性流体潤滑膜が形成されている面積(ヘルツ接触面積と言う)のことを指し、固体同士の直接接触の面積は固体接触面積と称する。ただし、混合潤滑領域(転動体支持荷重を弾性流体潤滑膜と固体接触の双方で分担して支持する領域)では、接触面積中に固体接触面積が含まれる構造となる。
【0011】
反射波の強度を検出することで、予め求めておいた較正曲線データに基づいて、転動体支持荷重の大きさを知ることができる。この較正曲線データは、反射波の強度と転動体支持荷重の大きさを予め測定したものである。なお、反射波の強度を測定する場合の物理量として、例えば、特許文献1に開示されているエコー高さ比を用いることができる。エコー高さ比Hは、次式で定義される。
【0012】
H=(1−h/h0)×100
hは外的な軸受荷重が作用しているときのエコー高さであり、h0は外的な軸受荷重が作用していないとき(無負荷時)のエコー高さに相当する値である。なお、100倍しているのは%表示するためであり、必ずしも必要なものではない。軸受荷重が大きいほどhは小さくなるため(反射波の大きさは小さくなる)、エコー高さ比(H)は大きくなる。従って、エコー高さ比から転動体支持荷重を推定することができるので、予めエコー高さ比と転動体支持荷重との関係式や関数等を較正曲線データとして求めておくことにより、転動体支持荷重の測定を行うことができる。
【0013】
また軸受荷重と個々の転動体に作用する転動体支持荷重との関係は予め求めておくことができるので、転動体支持荷重が求まれば軸受荷重の推定を行うことができる。例えば、2個以上の超音波探触子を用いて測定したエコー高さから、軸受荷重を推定可能である。
【0014】
また、超音波探触子は、横波超音波あるいは高周波の縦波超音波を発するようにしており、これにより、軸受外輪と転動体との接触状態に応じた反射波を受信することができる。
【0015】
なお、厳密には使用する超音波の種類は、以下の3条件により異なってくる。
【0016】
(条件1)転がり軸受全体が潤滑油に浸かっている場合。すなわち、超音波が照射している全領域に渡って、外輪の内面(転動体が当る面)に、少なくとも超音波の油中波長の2倍以上の厚さの潤滑膜が安定して存在することにより、隣接する転動体の中央に探触子が存在する基準状態でのエコー高さh0が安定し、一定の値を維持できる環境下では、縦波も利用できる。縦波の場合、EHL部以外の、周辺の薄膜部での多重反射の影響を受けるが、上述の基準測定箇所を含め、外乱は少なく、測定されるエコー高さの変動は、EHL状態にある接触部とその周辺部の薄膜の厚さ、そして接触面積により決まると考えられる。それらは共に荷重によって変化するため、結局、エコー高さから、転動体の支持荷重を推定することが可能となる。勿論、横波での転動体支持荷重の測定は、問題なく可能である。
【0017】
(条件2)高速の転がり軸受では、摩擦の低減のために、噴霧式での潤滑が行われている場合がある。また、上述のように、軸受全体が潤滑油に浸されている事は少なく、例えば、軸受直径の半分程度に止まることがよくある。このような場合、外輪の内面(転動体が当る面)に上述のような十分な厚さの油膜が形成されず、円周方向にむらのある油膜が付着したり、ひどい場合には油滴状になり付着したりする。このような場合、接触面からの第1反射波の最大音圧振幅(普通、先頭から1波長以上の時間距離にある)がそのような付着膜部での音波の多重反射の影響を受けて変化するため、これを基準エコー高さh0にとることはできない。そこで、その影響が極力少なくなるよう、第1反射波の先頭の1波長もしくは半波長での最大音圧振幅で決まるエコー高さを基準エコー高さh0にとり(観測するエコー高さも同じ)、さらに、油中での超音波の波長が短くなる高周波の縦波を用いる。このとき測定されるエコー高さの変動は、EHL状態にある接触部とその周辺部の薄膜の厚さ、そして接触面積により決まると考えられえる。それらは共に、荷重によって変化するため、たとえば10MHz以上の高周波の縦波超音波を用いて、上述の条件1と同様、エコー高さから、転動体の支持荷重を推定することが可能となる。勿論、横波での転動体支持荷重の測定は、問題なく可能である。
【0018】
(条件3)特に高速の軸受などでは、油の攪拌のために、油中に微小な気泡が発生する場合がある。また、水分(水滴)の混入によって場所場所での音響性質が異なる場合も想定される。このような場合、油中を伝播する縦波では、基準エコー高さh0 が大きく変動する恐れがある他、EHL周辺の薄膜での音波の反射もその影響を受けることが十分考えられる。したがって、このような潤滑条件では、上記の条件1と2の測定法は使えないことになる。そこで、普通、液体中を伝播しない横波を用いることを考える。EHL部に気泡や水分が進入することは難しいため、そこでは連続的な油膜が形成されていると考えてよい。
【0019】
すなわち、軸受外輪と転動体の接触部には、潤滑油が介在するが、外輪と転動体で挟持されて高圧が作用する領域は弾性流体潤滑部(EHL部)となる。横波の場合、常圧下において、潤滑油中を伝播しないという性質があるが、高圧状態のEHL部は伝播(透過)するという性質がある。しかも、EHL部の大きさは軸受荷重の大きさに対応して変動するため、反射波の大きさも軸受荷重の大きさに依存して変化することになる。低周波の横波の場合、EHL膜の厚さに余り関係なく、膜部に入射した超音波はほとんど透過する。このEHL部は、音響的にはあたかも固体接触に近い状態であり、反射波の強度はEHL膜が形成されている超音波照射領域内の接触面積の大きさに支配される。従って、横波超音波を用いることで、正確に転動体支持荷重の大きさを推定することができる。
【0020】
また、超音波探触子の大きさについて言えば、外輪の円周方向に沿って照射及び受信をする領域を有していることが好ましい。前述したEHL部の大きさはごく狭い領域であり、超音波探触子の大きさが円周方向に小さいサイズだと、音波の拡散角度が大きく、反射波の一部が超音波探触子では受信できない方向に進むこともあり、転動体支持荷重の広範囲での検出が難しくなる。そこで、超音波探触子の大きさを円周方向に沿って所定の大きさにすることで、広範囲の大きさの転動体支持荷重を推定することができる。以上のように、軸受外輪と軸受ハウジングの境界が存在しない場合でも、転動体支持荷重の推定を行うことが可能な転動体支持荷重推定装置を提供することができる。
【0021】
上記課題を解決するため本発明に係る転動体支持荷重推定方法は、
軸受外輪と転動体との接触部に向けて、超音波探触子から横波の超音波を照射するステップと、
前記接触部からの反射波の強度を検出するステップと、
反射波の強度と軸受荷重との関係を予め求めた較正曲線データに基づいて転動体支持荷重の大きさを算出するステップとを備え、
前記超音波探触子は、外輪の円周方向に沿って超音波を照射及び受信する領域を有することを特徴とするものである。
【0022】
かかる構成による作用・効果は、前述したとおりである。
【0023】
本発明において、前記照射及び受信領域は転動体の配列ピッチとほぼ同じか配列ピッチよりも少し短くなるように設定されていることが好ましい。
【0024】
超音波探触子を円周方向に沿って長くする場合には、隣接する転動体からの影響を受けない程度にしておく必要がある。そこで、転動体の配列ピッチとほぼ同じか、少し短くなるようにすることで、できるだけ広範囲の転動体支持荷重を測定できるようになる。
【0025】
本発明において、超音波探触子の前記照射及び受信面は、転動体の公転中心と同心の円筒面であることが好ましい。
【0026】
すなわち、超音波探触子の軸受外輪に対する取付面は、転動体の公転中心と同心の円筒面とすれば、外輪半径方向での音波の拡散を少なく抑えることができるため、転動体が超音波探触子の下部を通過するときの接触部からの反射波を捕らえやすくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明に係る転動体支持荷重推定装置(推定方法)の好適な実施形態を図面を用いて説明する。図1は、転動体支持荷重推定装置の構成を示す模式図である。
【0028】
<転動体支持荷重推定装置の構成>
本発明において測定対象となる軸受2は、外輪20と、内輪21と、外輪20と内輪21との間に挟持される多数個のボール22(転動体)とを備えている。内輪21の内径部分には回転軸3が圧入等の適宜の方法により固定される。外輪20の外周部分20aも円筒形に形成されており、超音波探触子1が接着等の適宜の方法で取り付けられる。軸受2の外輪20は、通常は軸受ハウジングと呼ばれる部材に嵌合されることが多いが、本発明においては、外輪20と軸受ハウジングとが一体化した構造に適した転動体支持荷重推定装置を提供する。小型化、低コスト化を目指す機械装置では、軸受とハウジングと軸とがユニット化された部品で供給されることがある。
【0029】
超音波探触子1は、取り付け面に対して垂直な方向に横波超音波を発生する。図1の例だと、発生した超音波は回転軸3の回転中心に向かって進行する。この超音波は、外輪20の内周部分20bで反射するか、ボール22が音軸上に来ているときは、ボール22と外輪20との接触部で反射もしくは透過する。超音波探触子1は、内周部分20bで反射した反射波を受信する機能も有している。なお、音軸は超音波が進行する軸のことであるが、本実施形態においては、超音波探触子1の中心と回転軸3の中心とを結ぶ直線Lとして設定されている。
【0030】
超音波探触子1は超音波探傷器4(反射波検出手段に相当)と接続されている。超音波探傷器4には、超音波探触子1を駆動する駆動回路や、反射波を受信するための受信回路等が組み込まれている。また、超音波探傷器4はパソコン5(コンピュータ)に接続されており、超音波探触子1により受信した信号はA/D変換されてパソコン5に送信される。パソコン5には、受信した反射波の信号からボール支持荷重及び軸受荷重を推定するコンピュータプログラムが組み込まれている。
【0031】
<原理の説明>
次に、超音波探触子1を用いてボール支持荷重を推定する方法の原理を図2により説明する。図2(a)は超音波探触子1の直下(音軸上)にボール22が位置している状態、(b)は超音波探触子1の直下にボール22とボール22の間が位置している状態である。超音波探触子1から発せられた超音波は、外輪20とボール22との境界(外輪20の内周部分20b)に向かい、一部はその境界から透過し、残りは境界で反射する。この反射波を超音波探触子1により受信する。
【0032】
そして、外輪20とボール22の接触面積が大きいと発せられた超音波は境界から透過しやすくなり、この透過率は上記接触面積にほぼ比例する。図2(a)のように、ボール22が超音波探触子1の直下に位置するときは、超音波の照射領域内での接触面積が大きくなり反射波の大きさは小さくなる。逆に(b)のような状態だと、ボール22が存在しないため、超音波は透過しにくくなり、反射波の大きさは大きくなる。上記接触面積は、軸受荷重(ボール支持荷重)が大きくなれば大きくなる。
【0033】
本発明において、上記反射波の大きさを定量的に表すために、エコー高さ比と呼ばれる物理量を用いる。エコー高さ比(H)とは、次式により定義される。
【0034】
H=(1−h/h0)×100
hは外的な軸受荷重(図1にWで示す)が作用している時のエコー高さである。h0は外的な軸受荷重が作用していない時(無負荷時)のエコー高さであり、実際には隣接する転動体の中央に探触子が位置するときのエコー高さを用いる。なお、100倍しているのは%表示するためであり、必ずしも必要とされるものではない。軸受荷重が大きいほど外輪20とボール22の接触面積は大きくなり、hは小さくなる(反射波の大きさは小さくなる)ため、エコー高さ比(H)は大きくなる。
【0035】
<超音波探触子>
次に、超音波探触子1の大きさについて説明する。図3は、超音波探触子1の大きさや音圧分布の関係を示す図である。超音波探触子1は外輪20の円周方向に沿って配置されており、円周方向に所定の幅寸法Aを有する。この寸法Aの大きさは、ボール22の配列ピッチγと同じか、それよりも少し短い程度が好ましい。
【0036】
超音波探触子1の寸法Aが短いと、図4に示すように、超音波探触子1により超音波が照射される範囲が非常に狭くなり、荷重を推定できる領域が狭くなってしまう。そこで、超音波探触子1の長さを大きくすることにより、図3に示すような円周方向に長い音圧分布を得ることができ、荷重の推定が可能な範囲も広げることができる。ただし、隣のボール22による影響を受けないようにするためには、寸法A(角度で測った寸法)は、ボール22の配列ピッチ(角度γ)よりも少し短い程度が良い。探触子の取付面は、外輪20の円周面(円筒面)に沿った形状を有している。
【0037】
また、図3には遅延材15付きの超音波探触子1を代表的に示している。これは外輪20が薄く、超音波探触子1とEHL部までの距離が短い近距離音場限界距離内であれば、照射領域内での音圧が複雑に変化するため、得られるエコー高さと接触面積との対応がつかなくなる。音軸から半径方向に音圧がなだらかに変化する(例えば、図3に示す音圧分布のように)領域での測定ができるように、鋼より音速の遅い高分子等で作製した遅延材15を探触子先端に装着し、EHL部を遠距離音場に置くようにすれば良い。
【0038】
<横波超音波>
次に、使用される超音波として横波を使用することが好ましいことを説明する。今までは、外輪20とボール22との接触面積が大きくなれば、反射波の大きさは小さくなることを説明したが、実際には外輪20とボール22との接触部には潤滑油が存在する。特に外輪20とボール22とに挟持される領域は高圧となり、EHL(弾性流体潤滑)部と呼ばれる領域が形成される。EHL部の周囲は、高圧状態ではないが潤滑油が存在する領域である。EHL部は、図3において、接触面積Aで示される領域である。
【0039】
特に、前述した条件3のような場合において、縦波超音波を使用すると、EHL部のみならず、その周囲の潤滑油が存在する領域も超音波が伝達する。従って、全般的に超音波が透過していく状態となり、軸受荷重の推定を行うには好ましくない状況となる。
【0040】
これに対して横波を使用すると、常圧下においては、横波は潤滑油内を伝播しないという性質がある。しかしながら、EHL部は潤滑油が高圧で圧縮された領域であり、単に潤滑油が存在している領域とは異なり、超音波が伝播していくことができる。このEHL部の大きさ(ヘルツ接触面積)は、軸受荷重により変動する性質を有しており、軸受荷重が大きくなればヘルツ接触面積も大きくなる。従って、反射波の大きさも超音波照射領域内のヘルツ接触面積の大きさに依存して変化することになる。
【0041】
0.1GPa以上の高圧になると、常圧では液体中を伝播しない横波でも、液体の粘度が極めて高く、せん断剛性が極めて大きくなるため、液体を透過し、EHL部で多重反射する現象が発生する。図5は、反射エコー高さと膜厚/波長(あるいは、1/せん断剛性)との関係を示すグラフである。低周波(例えば、2MHz以下)の超音波を用いれば、膜厚が小さな領域、すなわち、EHL部においては、膜厚の大きさに関係なく、超音波はほとんどがEHL膜部から透過していく(エコー高さはほとんどゼロとなる)。このため、かかるEHL膜部は、音響的には、あたかも全面固体接触に近い状態となる。従って、そこでのエコー高さは、実際の固体接触面積の大小よりは、EHL膜が形成されている接触面積の大小に支配される。従って、部分的に固体接触が生じている混合潤滑下で運転される転がり軸受であっても、エコー高さが荷重のX乗に比例するというEHL潤滑と同じような関係が得られる。このことから、超音波法による転動体支持荷重の測定が、EHL潤滑から混合潤滑の全領域にわたって可能となる。
【0042】
なお、荷重変動によるEHL膜厚の変化の影響も併せて測定して、軸受荷重(ボール支持荷重)を推定してもよい。その場合、膜厚によるエコー高さ変動が大きな高周波の使用が好ましい。この場合は、高周波の縦波でも良い。
【0043】
<縦波超音波>
以上、横波超音波を用いた場合を説明したが、前述した条件1,2の場合は、高周波の縦波超音波を用いても良い。条件2の場合、その第1反射波の先頭の一波長もしくは半波長(図6のSで示す部分)での最大振幅で決まるエコー高さを測定することにより、EHL部外周の外輪内面に付着する比較的厚い油膜や油滴等での超音波の多重反射の影響を受けないようにすることができる。EHL部とその近傍での膜厚もまた軸受荷重の影響を受けて変化する。従って、例えば、10MHz以上の高周波の縦波超音波を用いても、転動体支持荷重を測定することができる。
【0044】
ただし、軸受全体が潤滑油に浸漬された場合であれば、前にあげた条件1で説明したように、所定の環境下では高周波縦波ではなく通常の縦波を用いてもよく、もちろん、横波でも可能である。
【0045】
<パソコンの機能>
次に、パソコン5に組み込まれるコンピュータプログラムの機能について説明する。図7に示すように、パソコン5には、超音波探触子1により受信した反射波信号に基づいて、軸受荷重を算出するためのソフトウェアとして軸受荷重推定プログラム10がインストールされている。
【0046】
エコー高さ比算出手段10aは、受信した反射波の強度に基づいて、エコー高さ比を算出する機能を有する。ボール支持荷重算出手段10bは、算出されたエコー高さ比に基づいて、ボール支持荷重や軸受荷重を算出する機能を有する。エコー高さ比とボール支持荷重との関係式は、較正曲線として予め求めておき、較正曲線データ保存手段11に保存しておく。較正曲線データが分かっておれば、エコー高さ比から軸受荷重(ボール支持荷重)を求めることができる。較正曲線算出手段10cは、エコー高さ比と予め分かっているボール支持荷重の大きさから較正曲線を算出する機能を有する。
【0047】
表示データ生成手段10dは、受信したデータや算出したボール支持荷重などをモニター19に表示させるための表示データを生成する機能を有する。
【0048】
<較正曲線について>
エコー高さ比を求めて軸受荷重を推定するためには、予め較正曲線を求めておく必要がある。図8は、較正曲線の一例を示す図である。縦軸がエコー高さ比(H)であり、横軸がボール支持荷重wである。回転軸に作用する軸受荷重の大きさが既知であれば、各ボール22により分担して支持される支持荷重の大きさは、ボール22の角位置φに応じて計算で求めることができる。従って、較正曲線を求める場合には、数種類の既知の大きさの軸受荷重を回転軸に作用させて、そのときのエコー高さ比を求めるようにすれば良い。なお、較正曲線としては、ボール支持荷重の代わりに回転軸に作用する軸受荷重を用いてもよい。
【0049】
図8において、θ=0は、ちょうどボール22が音軸上にある状態を示しており、図3に示すように、音軸Lを基準にθ座標を取っている。通常はボール22の中心が音軸上にあるときに、エコー高さ比が最も大きくなり、θが大きくなるにつれてエコー高さ比は小さくなる傾向がある。
【0050】
なお、図3に示すようにボール22の位置を検出するためのセンサー6を設けておけば、ボール22がセンサー位置に来たときの信号を検出することができる。すなわち、音軸上にセンサー6を設けておけば、θ=0にボール22が来たときのエコー高さ比を求めることができる。θが0でない時のエコー高さ比については、ボール22が公転する速度が予めわかっているため、センサー6でボール22を検出したタイミングから所定時間後のエコー高さ比を求めることで、得ることができる。
【0051】
なお、エコー高さ比が最大となるのは常にθ=0の時とは限らず、θが有限の時にエコー高さ比が最大になることもある。特に変動荷重下では、θ=0以外の位置でエコー高さ比が最大になることは良く見られる。かかる場合を考慮して、ボールを検出するセンサー6(図3を参照)を設けて、ボール22の位置とエコー高さ比との対応関係を予め求めておくことが好ましい。
【0052】
<別実施形態>
本実施形態では転動体の一例としてボール(球体)を説明したが、これに限定されるものではなく、円柱形の転動体等を使用する場合にも本発明は応用できるものである。
【0053】
超音波探触子の取り付け位置は、第1,2象限だけでなく、第3,4象限にも取り付けることができる。この場合、回転荷重の測定も可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】軸受荷重推定装置の構成を示す模式図
【図2】超音波探触子を用いて軸受荷重を推定するときの原理を説明する図
【図3】超音波探触子、音圧分布、EHL部の関係を説明する図
【図4】超音波照射領域の小さな超音波探触子を用いた場合の音圧分布を示す図
【図5】エコー高さと膜厚の関係を示すグラフ
【図6】縦波超音波を使用したときのエコー高さ信号を示す図
【図7】軸受荷重推定プログラムの機能を示す図
【図8】ボール支持荷重とエコー高さ比との関係を示す図
【符号の説明】
【0055】
1 超音波探触子
2 軸受
3 回転軸
4 超音波探傷器
5 パソコン
6 センサー
10 軸受荷重推定プログラム
10a エコー高さ比算出手段
10b 軸受荷重算出手段
10c 較正曲線算出手段
10d 表示データ生成手段
11 較正曲線データ保存手段
12 アレイ型探触子
19 モニター
20 外輪
20a 外周部分
20b 内周部分
21 内輪
22 ボール
H エコー高さ比
w ボール支持荷重

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受外輪と転動体との接触部に向けて、横波あるいは高周波の縦波の超音波を照射する超音波探触子と、
前記接触部からの反射波の強度を検出する反射波検出手段と、
反射波の強度と転動体支持荷重との関係を予め求めた較正曲線データを保存しておく較正曲線データ保存手段と、
この較正曲線データに基づいて転動体支持荷重の大きさを算出する転動体支持荷重算出手段とを備え、
前記超音波探触子は、外輪の円周方向に沿って超音波を照射及び受信する領域を有していることを特徴とする転動体支持荷重推定装置。
【請求項2】
軸受外輪と転動体との接触部に向けて、超音波探触子から横波あるいは高周波の縦波の超音波を照射するステップと、
前記接触部からの反射波の強度を検出するステップと、
反射波の強度と転動体支持荷重との関係を予め求めた較正曲線データに基づいて転動体支持荷重の大きさを算出するステップとを備え、
前記超音波探触子は、外輪の円周方向に沿って超音波を照射及び受信する領域を有することを特徴とする転動体支持荷重推定方法。
【請求項3】
前記照射及び受信領域は転動体の配列ピッチとほぼ同じか配列ピッチよりも少し短くなるように設定されていることを特徴とする請求項2に記載の転動体支持荷重推定方法。
【請求項4】
超音波探触子の前記照射及び受信面は、転動体の公転中心と同心の円筒面であることを特徴とする請求項3に記載の転動体支持荷重推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−214904(P2006−214904A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−28834(P2005−28834)
【出願日】平成17年2月4日(2005.2.4)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【出願人】(392000110)オートマックス株式会社 (16)
【出願人】(597154966)学校法人高知工科大学 (141)
【Fターム(参考)】