説明

軸及びニードル軸受を備えた軸受装置

本発明は、軸受ジャーナル(2,3)を備えた軸(1)と、ケージ(16)及びケージ(16)内に収容されているニードルローラ(11)を備えた、軸受ジャーナル(2,3)に配置されているニードル軸受(9)とを有し、軸受ジャーナル(2,3)にニードルローラ(11)のための、硬化され、精密加工されたインナレース(10)が設けられており、軸受ジャーナル(2)は軸線方向肩部(12,13)に隣り合っている軸区分(4,5,6,7)に対して少なくとも周方向で部分的に半径方向に引き込んでいて、軸線方向肩部(12,13)が、軸線方向肩部(12,13)の間に嵌め込まれているケージ(16)の軸線方向端面(14,15)に対する接触面として働く軸受装置を提案する。本発明において、インナレース(10)の両側に夫々延在している、軸線方向肩部(12,13)の全周面領域に亘って、軸線方向肩部(12,13)の互いの軸線方向間隔(D)が、軸線方向肩部(12,13)の間に存在するインナレース(10)の幅(B1)よりも明らかに大きく寸法設定されたアンダカット(17,18)が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受ジャーナルを備えた軸と、ケージとこのケージ内に収容されたニードルローラを備えた、軸受ジャーナルに配置されたニードル軸受とを有する軸受装置に関する。この構成において、軸受ジャーナルにはニードルローラのための、硬化されていてかつ精密加工されたインナレースが備え付けられており、軸線方向肩部に隣り合う軸区分が少なくとも部分的に周面に亘って半径方向に引き込んでいて、軸線方向肩部は、軸線方向肩部の間に嵌め込まれているケージの軸線方向端面のための接触面として働く。
【0002】
発明の背景
上記軸受装置は、雑誌エンジンテクノロジMTZ(06/2008、第518〜524頁)において、ニードル支承されたアンバランス軸の形式において、内燃機関の質量補償装置の一部分として公知になっている。耐磨耗性の、音響に関して容認可能な転がり支承を保証するために、全周に亘って半径方向に引き込んでいる軸受ジャーナルにおけるインナレースに対して表面硬さ及び表面粗さに関する高い要求が課される。
【0003】
しかし一般的に軸受ジャーナルの誘導加熱による、軸受ジャーナルにおける軸の局所的な硬化時に供給される熱は、上記軸受ジャーナルの形状に基づいてうまく排出されないので、インナレースに直接的に接続している軸線方向肩部の過度の加熱がもたらされることがある。これにより軸線方向肩部及び隣接する軸区分における応力亀裂の危険性が発生する。
【0004】
本発明の目的
本発明の目的は、冒頭で述べた形式の軸受装置を、軸受ジャーナルの熱処理をプロセスにおいて確実に実施することができるように、可能な限り少ない手間で構造的に改良することである。
【0005】
発明の要約
本発明により上記目的は、インナレースの両側に夫々延びている、軸線方向肩部の全周面領域に亘って、軸線方向肩部の互いの軸線方向間隔が、軸線方向肩部の間にあるインナレースの幅よりも明らかに大きいように寸法設定されたアンダカットが設けられていることにより達成される。軸受ジャーナルの熱処理中に、熱の大部分はアンダカットを介して導出されて、軸線方向肩部は明らかに小さな程度しか加熱されない。したがって、応力亀裂の発生に対する上述の危険性は明らかに減じられる。
【0006】
本発明の構成において軸は、この軸の回転軸線に対して偏心的な質量中心を備えたアンバランス軸として形成されていることが望ましい。インナレースは、負荷区域においてインナレースを加圧するアンバランスマスに対して相対的にほぼ静止しており、負荷区域は軸線方向肩部の周面領域の360°より明らかに小さい範囲、有利には170〜190°内において延在している。冒頭で述べた先行技術とは異なり軸線方向肩部は、対応する円環状の軸線方向接触面を全周に亘って備えて形成されているのではなく、インナレース上の定置の負荷区域の領域において、単に局所的に円形環状部材形の軸線方向接触面を備えて形成されている。この構成において、ニードル軸受のケージは変わらず十分に軸受ジャーナルにおいて軸線方向に保持されている一方で、負荷区域に直径上で相対する軸線方向肩部区分の省略によりアンバランス軸の有利な質量削減がもたらされる。
【0007】
欧州特許出願公開第1775484号明細書において根本的に公知になっているように、特に有利なアンバランス軸の質量削減はさらに、インナレースが周面に亘って変化する幅を有しており、負荷区域を起点として負荷区域の外側において明確に先細りしているか、又は周面において局所的に零の幅を有することによって中断されていることにより達成することができる。中断されているインナレースを備えた軸受ジャーナルは、円形の横断面を有していない。可能な横断面形状はむしろ、欠けている扇形又は円弧形状を備えた円横断面に基づいているか、又は、例えば国際出願公開特許第2007121861号明細書において開示されている開放型の形状である。
【0008】
上記構成において、純粋な円筒形状とは異なる、例えばベルト仕上げといった精密研磨加工のインナレースの幾何学形状は達成できないか又は簡単には達成できないので、ホーニング加工によりインナレースを精密加工することは有利である。インナレースの両側において延びているアンダカットは、軸線方向肩部へ過剰に熱が供給されることを防ぐだけでなく、均一な加工結果に必要なホーニング工具のオーバランも軸線方向において両側に付与されているように寸法設定することができる。仕上げプロセスにおける振動振幅にとって、各側少なくとも2mmの幅が有利である。構成部分の寸法及び形状に応じて、アンダカット幅を両側において明らかに大きく構成することもできる。
【0009】
さらに、軸線方向肩部の間に存在するインナレースの幅は、ニードルローラの長さよりも大きくなっているようにしてよい。ケージは、ニードルローラの両側において軸線方向に延びている周面に亘って分配されている開口によって貫通されている。射出成形されたプラスチックケージの有利な構成において上記開口は、金型の条件に基づいて必要であってよく、これに対して金属ケージにおいては、重量、ケージの幅に亘る均一な質量分布及びニードルローラの改良された油霧潤滑に関する利点をもたらすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】ニードル軸受を備えていないアンバランス軸の斜視図である。
【図2】2つの軸受ジャーナルの一方を拡大して示す図である。
【図3】ニードル軸受が組み付けられた状態の、図2に示した軸受ジャーナルを示す図である。
【0011】
本発明のさらなる利点及び別の実施の形態は、以下の記載、及び本発明に係る軸受装置の実施の形態を示す図面から明らかになる。
【0012】
図面の詳細な説明
図1に質量補償装置のためのアンバランス軸1を示す。この質量補償装置は直列4気筒型の内燃機関の二次自由慣性力及び慣性モーメントを相殺するために働く。質量補償装置は、この実施の形態において、クランクシャフトの2倍の回転数で反対方向に回転する2つのアンバランス軸1を有している。このアンバランス軸1の駆動のために必要な構成部分、例えばスプロケット及び歯車は図面を見やすくするために省略する。
【0013】
鍛造されたアンバランス軸1は、横断面において円形の2つの軸受ジャーナル2,3を有している。これらの軸受ジャーナル2,3は誘導的に硬化されており、内燃機関においてアンバランス軸1は軸受ジャーナル2,3に半径方向で転がり支承されている。軸受ジャーナル2,3の両側において隣接する軸区分4〜7は夫々、硬化されていないアンバランス区分として形成されていて、アンバランス軸1は、このアンバランス軸1の回転軸線8(図2参照)に対して偏心的で、かつアンバランスマスを形成する質量中心を有する。
【0014】
図2,3には軸受ジャーナル2を、この軸受ジャーナル2に組み付けられたニードル軸受9を備えた状態若しくは備えていない状態において拡大して示す。以下の説明は同様に軸受ジャーナル3にも当てはまる。軸受ジャーナル2には、ニードルローラ11のための精密加工された、本実施の形態においてはホーニング加工されたインナレース10が備え付けられており、軸受ジャーナル2は約180°の部分周面に亘って、隣接する軸区分4,5の軸線方向肩部12,13に対して半径方向に引き込んでいる。軸線方向肩部12,13は、ニードル軸受9のケージ16の軸線方向端面14,15のための円環状部材形の軸線方向接触面として働く。このニードル軸受9は軸線方向肩部12,13の間に少しの軸線方向間隔を持って圧入されている。インナレース10の両側において延びているアンダカット17,18は幅に関して、軸線方向肩部12,13の全周面領域に亘って、軸線方向肩部12,13の互いの軸線方向間隔Dが、軸線方向肩部12,13の間に存在するインナレース10の幅B1よりも明確に大きいように寸法設定されている。
【0015】
軸受ジャーナル2の構造上の実施の形態は、インナレース10の誘導加熱時に十分に高い排熱がアンダカット17,18を介して行われ、著しく高められた亀裂応力に対する安定性のために軸線方向肩部12,13は熱的に保護されていることをもたらす。さらに、本実施の形態において約3mmの幅のアンダカット17,18は、最終位置において軸線方向に越える、インナレース10を精密加工するためのホーニング工具にとっての十分なオーバランを可能にする。
【0016】
図2からさらに見て取られるように、インナレース10はアンバランス軸1の回転時に一緒に回転するアンバランスマスによって負荷をかけられるので、インナレース10において、力学的な効果の観点から定置の、つまり回転するインナレース10に対して相対的に静止している、斑点状の表面区分により図示されている負荷区域19が形成される。この負荷区域19は軸線方向肩部12,13の180°の部分周面の内側において、軸線方向肩部12,13に対して対称的に延在している。負荷区域19の外側のインナレース10の小さな荷重は、周方向に亘って変化する幅を備えたインナレース10の構成を可能にし、インナレース10は負荷区域19を起点として、負荷区域19の外側において幅B2を備えて明らかに先細りされている。
【0017】
図3において、軸受ジャーナル2に組み付けられて示されているニードル軸受9は、負荷区域19の領域においてインナレース10の幅B1が、ニードルローラ11の長さLよりも大きいように構成されている一方で、ニードルローラ11の長さLの幅B2に対する関係はその逆である。可能な限り均一な質量分配、ニードルローラ11の改良された油霧潤滑及び重量削減の理由から、長手方向にスリットを入れられた、軸受ジャーナル2にクリップ止めされているプラスチックケージ16は、ニードルローラ11の軸線方向両側に延在している2列の開口20によって貫通されている。
【符号の説明】
【0018】
1 アンバランス軸、 2,3 軸受ジャーナル、 4,5,6,7 軸区分、 8 回転軸線、 9 ニードル軸受、 10 インナレース、 11 ニードルローラ、 12,13 軸線方向肩部、 14,15 軸線方向端面、 16 ケージ、 17,18 アンダカット、 19 負荷区域、 20 開口、 D 軸線方向肩部の軸線方向間隔、 B1 軸線方向肩部の間のインナレースの幅、 B2 先細り部の領域におけるインナレースの幅、 L ニードルローラの長さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受ジャーナル(2,3)を備えた軸(1)と、ケージ(16)及び該ケージ(16)内に収容されているニードルローラ(11)を備えた、前記軸受ジャーナル(2,3)に配置されているニードル軸受(9)とを有する軸受装置であって、前記軸受ジャーナル(2,3)にはニードルローラ(11)のための、硬化され、精密加工されたインナレース(10)が設けられており、前記軸受ジャーナル(2,3)は軸線方向肩部(12,13)に隣り合っている軸区分(4,5,6,7)に対して周方向で少なくとも部分的に半径方向に引き込んでいて、前記軸線方向肩部(12,13)は、該軸線方向肩部(12,13)の間に嵌め込まれている前記ケージ(16)の軸線方向端面(14,15)に対する接触面として働く、軸受装置において、
前記インナレース(10)の両側に夫々延在している、前記軸線方向肩部(12,13)の全周面領域に亘って、前記軸線方向肩部(12,13)の互いの軸線方向間隔(D)が、前記軸線方向肩部(12,13)の間に存在する前記インナレース(10)の幅(B1)よりも明らかに大きくなっているように、寸法設定されたアンダカット(17,18)が設けられていることを特徴とする、軸受装置。
【請求項2】
前記軸(1)は該軸(1)の回転軸線(8)に対して偏心的な質量中心を備えたアンバランス軸として形成されており、前記インナレース(10)は、負荷区域(19)において前記インナレース(10)に負荷をかけるアンバランスマスに対して相対的にほぼ静止しており、前記負荷区域(19)は前記軸線方向肩部(12,13)の、明らかに360°より小さな周面領域の内側において延在していることを特徴とする、請求項1記載の軸受装置。
【請求項3】
前記軸線方向肩部(12,13)の周面領域は、170°より大きく、190°より小さく寸法設定されていることを特徴とする、請求項2記載の軸受装置。
【請求項4】
前記インナレース(10)は周面に亘って変化する幅(B1,B2)を有しており、前記負荷区域(19)を起点として、該負荷区域(19)の外側において明らかに先細りしているか、又は周面において幅が局所的に零であることによって中断されていることを特徴とする、請求項2記載の軸受装置。
【請求項5】
前記インナレース(10)はホーニング加工により精密加工されていることを特徴とする、請求項1記載の軸受装置。
【請求項6】
前記軸線方向肩部(12,13)の間に存在する、前記インナレース(10)の幅(B1)は、前記ニードルローラ(11)の長さ(L)よりも大きく、前記ケージ(16)は前記ニードルローラ(11)の軸線方向両側に延びている、周面に亘って分配されている開口(20)により貫通されていることを特徴とする、請求項1記載の軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−531569(P2012−531569A)
【公表日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−518845(P2012−518845)
【出願日】平成22年5月28日(2010.5.28)
【国際出願番号】PCT/EP2010/057475
【国際公開番号】WO2011/000645
【国際公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(510068035)シェフラー テクノロジーズ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト (69)
【氏名又は名称原語表記】Schaeffler Technologies GmbH & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Industriestrasse 1−3, D−91074 Herzogenaurach, Germany
【Fターム(参考)】