説明

軸受装置及びその検査方法

【課題】軸受装置を構成する構成部材の誤組付けが生じても容易に選別を行うことが可能な軸受装置の検査方法及び製造方法、軸受装置を提供すること。
【解決手段】構成部材の一部を誤組付注意対象部材3として、該誤組付注意対象部材3は組立体1において、正規の組付け方向として定められた第一の組付け方向と、正規の組付け方向とは異なる第二の組付け方向とのいずれかによる組付けが可能とされ、 誤組付注意対象部材3の定められた位置に電波源となるICチップ6を予め取付けておき、当該誤組付注意対象部材3を組付けて組立体1を構成した後、 当該組立体1に対して一定の位置関係となるように受信器7を配置し、誤組付注意対象部材3の組付け方向が第一の組付け方向となっているか又は第二の組付け方向となっているかに応じて、受信器7におけるICチップ6からの受信電波強度が相違することに基づいて、誤組付注意対象部材3の組付け方向を検査する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受装置及びその検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軸受装置は、一般に軌道輪(内輪・外輪)、転動体及び保持器を基本構成とし、さらに密封装置等の他の部材など、複数の構成部材の組立体として構成されている。
【0003】
【特許文献1】特開2004−263724号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
軸受装置の構成部材の中には、組立体に対する組付けにおいて、正規の組付け方向の他に、それとは異なる組付け方向でも組立体における機械的な組付け状態としては成立し得るものがある。かかる構成部材は、自身が有する機能を発揮すべく正規の組付け方向が定められており、誤った組付け方向で組付けられてしまうと本来の機能を十分に発揮することができないものとなってしまう。しかも、かかる構成部材は、正規の組付けの場合と誤った組付けの場合とで外観上の差異がほとんど生じないものが多く、誤組付けが発見されずに、軸受装置が不具合を抱えたまま出荷されてしまう危険性がある。
【0005】
例えば、図6に示す軸受装置の内外輪間を密封するための密封装置3では、その内部のゴム製のシール33が、外部からの泥水等の浸入を防ぐとともに内外輪間にグリースを封止しておくための形状とされており、かかる機能を発揮すべく正規の組付け方向(図の組付け方向)が定められている。しかし、当該密封装置3は、180度反転させても外形上ほぼ同じであることから、反転した状態で組付けられてしまう恐れがあり、しかも誤組付けを外観から判別することが大変困難である。密封装置3が誤組付けされた場合、グリースが密封装置3内に漏れ出すとともに、外部からの水滴侵入に対するシール効果が弱まって内外輪間に水滴が侵入するといった不具合が生じる。
【0006】
本発明は、上記問題を鑑みて為されたものであり、軸受装置を構成する構成部材の誤組付けが生じても容易に選別を行うことが可能な軸受装置の検査方法、またそれにより得られる軸受装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段・発明の効果】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の軸受装置の検査方法は、
複数の構成部材の組立体として構成された軸受装置の検査方法であって、構成部材の一部のものを誤組付注意対象部材として、該誤組付注意対象部材は組立体において、正規の組付け方向として定められた第一の組付け方向と、正規の組付け方向とは異なるが組立体における機械的な組付け状態としては成立し得る第二の組付け方向とのいずれかによる組付けが可能とされ、
誤組付注意対象部材の定められた位置に電波源となるICチップを予め取付けておき、当該誤組付注意対象部材を組付けて組立体を構成した後、
当該組立体に対して一定の位置関係となるように受信器を配置し、誤組付注意対象部材の組付け方向が第一の組付け方向となっているか又は第二の組付け方向となっているかに応じて、受信器におけるICチップからの受信電波強度が相違することに基づいて、誤組付注意対象部材の組付け方向を検査することを特徴とする。
【0008】
上記本発明によると、誤組付注意対象部材の定められた位置にICチップを取付けておき、第一の組付け方向で組付けた場合と第二の組付け方向で組付けた場合とで電波源となるICチップの位置が相違することを利用している。すなわち、電波源となるICチップの位置の相違によって、受信器における受信電波強度が相違することとなるので、その強度差に基づいて組付け方向を検査することで、誤組付注意対象部材の組付け方向の正誤を良好に判定することが可能となる。
【0009】
次に、本発明の軸受装置の検査方法では、誤組付注意対象部材は軸受装置の内外輪間を密封するリング状密封装置であり、内外輪間のアキシャル方向の端面側にICチップが位置する組付け方向が第一の組付け方向となり、内外輪間の転動体に面する側にICチップが位置する組付け方向が第二の組付け方向となるものとすることができる。リング状密封装置は、反転させて組立体に組付けてしまうことが大いに起こり得ることであるので、このような点から当該発明は特に有効であるといえる。
【0010】
また、上記ICチップに、組立体の製造過程追跡用の情報が電波を搬送波として受信器側に転送可能な形で記憶させておくことにより、上記のような誤組付注意対象部材の誤組付けの判別に加えて、製品出荷後においてICチップに記憶されている製造過程追跡用の情報の参照を可能とするトレーサビリティを実現することが可能となる。
【0011】
他にも、本発明の軸受装置の検査方法では、誤組付注意対象部材へのICチップの取付け位置と受信器の配置位置とは、誤組付注意対象部材を第一の組付け方向に組付けた場合にはICチップと受信器とが対向し、第二の組付け方向に組付けた場合にはICチップと受信器との間に誤組付注意対象部材自身が介在するように定めることができる。
【0012】
また、誤組付注意対象部材は、ICチップが取付けられた第一部材及びICチップが非取付けとなる第二部材からなる副組立部であり、当該副組立部の組付け方向が第一の組付け方向と第二の組付け方向とで入れ替わるに伴い、第一部材と第二部材との受信器から見た相対的な組付け位置も相互に入れ替わるように構成することができる。
【0013】
また、副組立部が組立体において軸受装置のアキシャル方向に隣接して配置される2つのリング状部材からなるとともに、当該副組立部のアキシャル方向の一方の端面がICチップの取付け面として定められ、当該副組立部の直径軸線周りにおいて互いに180度反転した2つの組付け方向が第一及び第二の組付け方向として成立し得るように構成することができる。
【0014】
また、副組立部は、第一の組付け方向に組付けた場合に組立体のアキシャル方向の端面で軌道輪と共に回転する部位に、周方向にN極部とS極部とが交互に形成された回転検知用のパルサリングとICチップとが取付けられてなり、内外輪間のアキシャル方向の端面側にパルサリング及びICチップが位置する組付け方向が第一の組付け方向となり、内外輪間の転動体に面する側にパルサリング及びICチップが位置する組付け方向が第二の組付け方向となるように構成することができる。
【0015】
また、副組立部は互いに形状の異なるリング状部材をアキシャル方向に複数組み合わせて一つの軌道輪とする合わせ軌道輪であり、当該合わせ軌道輪は、組立体のアキシャル方向の一方の端面側に受信器を配置したとき、組立体の受信器が配置された側の端面にICチップが位置する組付け方向が第一の組付け方向となり、組立体の受信器が配置されていない側の端面にICチップが位置する組付け方向が第二の組付け方向となるように構成することができる。
【0016】
なお、以上に記載した本発明の軸受装置の検査方法によれば、その検査結果に基づいて組立体の選別を行うことにより、誤組付けのない良好な組立体を製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照しながら説明する。図1に、本発明の軸受装置の製造方法を概略的に表す。図1(a)は、本発明の製造方法により得られる軸受装置1の一例としての深溝玉軸受の断面図を示している。この軸受装置1は、内輪5、外輪4、複数の玉(転動体)2、保持器(図示せず)を主要な構成要素としている。内輪5は外周面に軌道5aを、外輪4は内周面に軌道4aを有しており、これらの間に玉2が転動自在に介在している。玉2は、図示しない保持器によって円周方向に所定の間隔で保持されている。また、軸受装置1は、内輪5と外輪4との間を密封する密封装置3を有している。密封装置3は、内外輪間を密封するものであるため、図3に示すように内輪5及び外輪4とともにリング形状とされている。
【0018】
このように、軸受装置1は複数の構成部材の組立体100として構成されているが、その中で密封装置3は、図2(a)の拡大図にも示すように、内側に有するシール33が外部からの泥水等の浸入を防止するとともに内外輪間にグリースの封止しておくための形状とされており、これにより正規の組付け方向が定められている(以下、第一の組付け方向ともいう)。しかし、密封装置3はその外形状から、図1(b)及び図2(b)に示すように、正規の組付け方向とは180度反転させて組付けた場合であっても組立体100における機械的な組付け状態として成立し得る(以下、第二の組付け方向ともいう)。
【0019】
具体的には、密封装置3は、内輪5の外周面に固定される断面L形のスリンガ31と、該スリンガ31の内面に摺接するシール33が一体化されるとともに外輪4の内周面に固定される断面逆L形のシール環体32と、が組み合わされたものであり、図2(b)に示すように組立体100に対して第二の組付け方向に組付けた場合に、図2(a)に示す第一の組付け方向に組付けた場合よりも、シール33による内外輪間への水滴侵入に対するシール効果が弱くなる構造を有する。従って、密封装置3は第一の組付け方向によって組立体100に組付けられる必要がある。シール33は、スリンガ31の内面に摺接する複数のリップ33rを有しており、図2(a)に示す第一の組付け方向に組付けた場合に、転動体2側に位置するものが主にグリースを封止する役割、外部側に位置するものが主に外部からの水滴侵入を防止する役割を果たしている。また、リップ33rは、スリンガ31の内面に対して鋭角に摺接しており、水滴等によって広角側から圧力が加わるとリップ33rがスリンガ31の内面に向かって押し付けられるようになっている。これによって、広角側からの圧力に対するシール効果は、鋭角側からの圧力に対するものと比較して数段大きなものとなっている。このシール効果はリップ33rの摺接角度が小さいほど高まることとなるため、外部からの水滴侵入を防止する役割を果たす最外側に位置するリップ33rは、他のリップ33rと比べて特に小さな角度でスリンガ31の内面に摺接している。
【0020】
このような密封装置3は、反転させても外形状ほぼ同じであることから、誤って第二の組付け方向で組付けられてしまうことが少なくない。この場合、第一の組付け方向により組付けた場合と外観上の差異がほとんど生じないことから誤組付けを検出することが困難であり、かかる不具合を抱えたまま製品が出荷されてしまう危険性がある。そこで、本発明の軸受装置の検査方法では、このような密封装置3を誤組付注意対象部材として、ICチップ6を利用した誤組付けの判別を行う。
【0021】
誤組付けの判別は、誤組付注意対象部材とされた密封装置3の定められた位置に電波源となるICチップ6を予め取付けておき、密封装置3を組付けて組立体100を構成した後、図1に示すように、組立体100に対して一定の位置関係となるように受信器7を配置し、密封装置3の組付け方向が第一の組付け方向となっているか又は第二の組付け方向となっているかに応じて、受信器7におけるICチップ6からの受信電波強度が相違することに基づいて、密封装置3の組付け方向を検査することによって行う。
【0022】
ここで、ICチップ6は、自身が有するアンテナが外部(受信器7)から特定周波数の電波を受信することで電力誘起され、その誘起電力を用いてアンテナを介して受信器7へ向けて電波を発信するデバイスであり、例えばミューチップ(商品名,日立製作所
製)と呼ばれる極小のシリコンチップを用いることができる。また、受信器7は、後述するようにリーダー/ライター機能を有するものとすることができ、ICチップ6のメモリ内から情報を読み出すこと、メモリ内に情報を記憶することが可能である。また、ICチップ6は、接着剤による貼り付けや塗料等の樹脂皮膜中への埋め込み等によってスリンガ31(フランジ部32b)の外面に取付けられる。
【0023】
また、密封装置3は、軸受装置のアキシャル方向に隣接して配置される2つのリング状部材(スリンガ31及びシール環体32)からなる副組立部であり、組立体100のアキシャル方向の端面となるべき面(スリンガ31のフランジ部32bにおける外面)にICチップ6が取付けられており、受信器7は当該端面と対向する位置に配置される。これにより、図1に示すように、密封装置3を第一の組付け方向に組付けた場合にはICチップ6と受信器7とが対向し、第二の組付け方向に組付けた場合にはICチップ6と受信器7との間に密封装置3自身が介在するようになっている。また、密封装置3の組付け方向が直径軸線周りにおいて互いに180度反転して第一の組付け方向と第二の組付け方向とで入れ替わるに伴い、スリンガ31とシール環体32との受信器7から見た相対的な組付け位置も相互に入れ替わる。このように構成されることにより、第一の組付け方向と第二の組付け方向とが入れ替わった場合に、受信器7におけるICチップ6からの受信電波の強度差が大きなものとなるため、密封装置3の組付け方向の正誤を良好に判定することが可能となる。
【0024】
さらに、密封装置3は、内外輪間のアキシャル方向の端面側にICチップ6が位置する組付け方向が第一の組付け方向となり、内外輪間の玉(転動体)2に面する側にICチップ6が位置する組付け方向が第二の組付け方向となっている。すなわち、密封装置3が第二の組付け方向で組付けられると、ICチップ6までもが内外輪間に密封されてしまうことになるが、ICチップ6を取り囲む組立体100は金属部材(一部がセラミックス部材の場合もある)により構成されているため、受信器7からの電波が遮蔽されて内部のICチップ6へ届かないか、又は、届いてもICチップ6が発する電波が遮蔽により外部へ漏れていかないか若しくは漏れても極微弱なものとなる。そのため、ICチップ6が受信器7と対向する第一の組付け方向の場合と比べて、受信器7が受信する電波強度が大きく異なったものとなるため、その間に適宜閾値を設定することにより、密閉装置3の組付け方向の正誤を良好に判別することができる。
【0025】
このような電波の強度差に基づく判別は、例えば光学的な判別等と比較しても信頼性が高く好適である。特に、軸受装置は製造過程で油等の飛沫が表面に付着することが多く光学的な判別では良好な信頼性が得られないため、本発明における電波の強度差に基づく判別との効果の差は歴然である。
【0026】
なお、図1では、片側の密封装置3のみにICチップ6を取付けた図を示しているが、軸受装置1には通常両側に密封装置3が組付けられるので、各密封装置3にICチップ6を取付けることができる。この場合、組立体100のアキシャル方向の各端面に対向するように受信器7をそれぞれ配置して検査を行うことができる。
【0027】
次に、組立体100に取付けられたICチップ6は、以上に述べたような製造過程における構成部品の誤組付けの判別に用いることができるとともに、更には出荷する製品に対するトレーサビリティ付与にも利用することができる。すなわち、ICチップ6には、組立体100の製造過程追跡用の情報が電波を搬送波として受信器7側に転送可能な形で記憶されている。図7は、ICチップ6及び受信器7の構成説明図である。受信器7のリーダー/ライター(R/W)機能制御部71がコイル状のアンテナ72に電流を流すと、アンテナ72に磁界が発生してICチップ6へ特定周波数の電波を送信する。ICチップ6は、例えばミューチップと呼ばれる極小のシリコンチップを用いることができるが、受信器7からの電波をコイル状のアンテナ63が受信すると、電磁誘導により電力が誘起されて制御回路62が作動する。制御回路62は、メモリ61に記憶された情報を読み書き可能であり、更にその読み出した情報をアンテナ63を介して受信器7へ返信する機能を有する。この返信電波に乗せられた情報は、受信器7のアンテナ72を介してR/W機能制御部71で読み取られる。
【0028】
ここで、ICチップ6のメモリ61には、組立体100の製造過程追跡用の情報、例えば、部品番号,ロット番号,材質,製造番号,製造年月日,製造工場,部品の検査成績表,封入グリース名,シール種別等を記録させておくことができる。そして、これらの情報を上記した受信器7により読み取ることで製造過程を追跡でき、工程管理,在庫管理,販売管理等に利用することができる(生産トレーサビリティ)。ICチップ6を用いることで、従来より行われている刻印による付番等の方法よりも多量の情報を軸受装置に付帯させておくことが可能となる。また、ICチップ6には、更に製品の出荷後における在庫情報や出荷情報等の流通過程追跡用の情報を記憶させることもでき、在庫管理,出荷管理,流通管理,メンテナンス管理や顧客管理等に利用することができる(流通トレーサビリティ)。さらには、このようなICチップ6は模倣品や偽物の流通を防止する上でも役立つ。なお、以上のように利用されるICチップ6は、一般に「ICタグ」と称される。また、量産時に誤組付注意対象部材の誤組付けがロッド単位で発生し、しかも誤組付けが上記の検査で検出されずに万が一誤って出荷され拡散してしまった場合であっても、ICチップ6にロッド情報や出荷情報等を記憶させておくことにより、その情報を利用して誤組付け製品の回収を図ることも可能である。
【0029】
次に、本発明は回転検知用のパルサリングが取付けられた軸受装置の製造にも適用可能である。図4に、パルサリング8が取付けられた密封装置3を誤組付注意対象部材(副組立部)とした例を示す。すなわち、密封装置3は、第一の組付け方向に組付けた場合に組立体100のアキシャル方向の端面で軌道輪(内輪5)と共に回転する部位に、周方向にN極部とS極部とが交互に形成された回転検知用のパルサリング8とICチップ6とが取付けられてなり、図に示す内外輪間のアキシャル方向の端面側にパルサリング8及びICチップ6が位置する組付け方向が第一の組付け方向となり、内外輪間の転動体2に面する側にパルサリング8及びICチップ6が位置する組付け方向が第二の組付け方向となる。
【0030】
パルサリング8は、車軸の回転速度情報の検出に用いられるものであり、永久磁石材料にて構成されたN極部とS極部とを交互に形成されており、内輪4と共に回転するスリンガ31(フランジ部32b)の外面に、ICチップ6とともに取付けられる。一方、固定された外輪4側には、パルサリング8の回転により生じる磁界変動を検出し、それを車軸の回転速度情報として出力する検知ユニット(図示せず)が、パルサリング8と一定の距離を隔てて取付けられる。この検知ユニットは、周知のホール素子ICユニット等にて構成される。
【0031】
このようにパルサリング8は、車軸の回転速度の検知のため、密封装置3と共に第一の組付け方向で組付けられて組立体100のアキシャル方向の端面に位置する必要がある。しかし、第二の組付け方向で組付けられると、パルサリング8までもが内外輪間に密封されてしまうこととなり、組立体100のアキシャル方向の端面側に設けられた検知ユニットが磁界変動を検出できなくなるという不具合を生じる。そこで、上記のごとき本発明の検査を行うことで、このような誤組付けによる不具合を良好に防止できる。
【0032】
次に、本発明は、互いに形状の異なるリング状部材をアキシャル方向に複数組み合わせて一つの軌道輪とする合わせ軌道輪を有する軸受装置の製造にも適用可能である。図5に、かかる構成を有する軸受装置10の一例として、複列アンギュラ玉軸受を示す。この軸受装置10は、中心軸に垂直な平面で2つのリング状部材51,52に分割されている内輪5と、外輪4と、2列の玉2を有している。内輪5を構成する各リング状部材51,52の外周面には軌道溝51a,52aが一つずつ設けられており、外輪4の内周面には二つの軌道溝41a,42aが設けられている。なお、内輪5は、各軌道溝51a,52aの外側に鍔がある形状となっており、外輪4は、二つの軌道溝41a,42aの間に鍔がある形状となっている。
【0033】
合わせ軌道輪を有する軸受装置10は、内輪5を構成する環状部材51,52が互いに異なる形状に設計される場合がある。図6では、例として、一方の環状部材51における内周面の外縁部51bが、他方の環状部材52よりも曲率が大きい場合を示している。この場合に、環状部材51,52が入れ替わって組付けられて誤組付けとなることがあるため、合わせ軌道輪5を誤組付注意対象部材(副組立部)として、上記のごとき検査を行い組付け方向の正誤を判別する。すなわち、中心軸に垂直な平面で2つのリング状部材51,52に分割されている内輪5(合わせ軌道輪)について、組立体100のアキシャル方向の一方の端面側に受信器7を配置したとき、組立体100の受信器7が配置された側の端面にICチップ6が位置する組付け方向が第一の組付け方向となり、組立体100の受信器7が配置されていない側の端面にICチップ6が位置する組付け方向が第二の組付け方向となるように構成する。このように構成した場合、第一の組付け方向で組付けた場合にはICチップ6と受信器7とが対向する一方、第二の組付け方向で組付けた場合には、受信器7がある側とは反対側の端面にICチップ6が位置し、ICチップ6と受信器7との間が組立体100により遮られることとなる。これによって、受信器7におけるICチップ6からの受信電波強度が第一の組付け方向の場合と第二の組付け方向の場合とで大きく異なったものとなり、合わせ軌道輪5(リング状部材51,52)の組付け方向の正誤を判別することが可能となる。
【0034】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されず、その要旨を逸脱しない範囲で適宜変更して実施し得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係る軸受装置の製造方法を概略的に表す図
【図2】図1の要部拡大図
【図3】軸受装置の側面図
【図4】第一変形例に係る軸受装置の製造方法を概略的に表す図
【図5】第二変形例に係る軸受装置の製造方法を概略的に表す図
【図6】従来例を表す図
【図7】ICチップ及び送受信器の構成を表す図
【符号の説明】
【0036】
1 軸受装置
2 転動体
3 密封装置
31 スリンガ
32 シール環体
33 シール
4 外輪
5 内輪
6 ICチップ
7 受信器
8 パルサリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の構成部材の組立体として構成された軸受装置の検査方法であって、前記構成部材の一部のものを誤組付注意対象部材として、該誤組付注意対象部材は前記組立体において、正規の組付け方向として定められた第一の組付け方向と、前記正規の組付け方向とは異なるが前記組立体における機械的な組付け状態としては成立し得る第二の組付け方向とのいずれかによる組付けが可能とされ、
前記誤組付注意対象部材の定められた位置に電波源となるICチップを予め取付けておき、当該誤組付注意対象部材を組付けて前記組立体を構成した後、
当該組立体に対して一定の位置関係となるように受信器を配置し、前記誤組付注意対象部材の組付け方向が前記第一の組付け方向となっているか又は前記第二の組付け方向となっているかに応じて、前記受信器における前記ICチップからの受信電波強度が相違することに基づいて、前記誤組付注意対象部材の組付け方向を検査することを特徴とする軸受装置の検査方法。
【請求項2】
前記誤組付注意対象部材は軸受装置の内外輪間を密封するリング状密封装置であり、前記内外輪間のアキシャル方向の端面側に前記ICチップが位置する組付け方向が前記第一の組付け方向となり、前記内外輪間の転動体に面する側に前記ICチップが位置する組付け方向が前記第二の組付け方向となることを特徴とする請求項1に記載の軸受装置の検査方法。
【請求項3】
複数の構成部材の組立体として構成された軸受装置であって、前記構成部材の一部のものを誤組付注意対象部材として、該誤組付注意対象部材は前記組立体において、正規の組付け方向として定められた第一の組付け方向と、前記正規の組付け方向とは異なるが前記組立体における機械的な組付け状態としては成立し得る第二の組付け方向とのいずれかによる組付けが可能とされ、
前記誤組付注意対象部材の定められた位置に電波源となるICチップが取付けられてなることを特徴とする軸受装置。
【請求項4】
前記誤組付注意対象部材は軸受装置の内外輪間を密封するリング状密封装置であり、前記内外輪間のアキシャル方向の端面側に前記ICチップが位置する組付け方向が前記第一の組付け方向となり、前記内外輪間の転動体に面する側に前記ICチップが位置する組付け方向が前記第二の組付け方向となることを特徴とする請求項3に記載の軸受装置。
【請求項5】
前記リング状密封装置は、前記内輪の外周面に固定される断面L形のスリンガと、該スリンガの内面に摺接するシールが一体化されるとともに外輪の内周面に固定される断面逆L形のシール環体と、が組み合わされたものであり、前記組立体に対して前記第二の組付け方向に組付けた場合に、前記第一の組付け方向に組付けた場合よりも、前記シールによる前記内外輪間への水滴侵入に対するシール効果が弱くなる構造を有するものであることを特徴とする請求項4に記載の軸受装置。
【請求項6】
前記ICチップには、前記組立体の製造過程追跡用の情報が前記電波を搬送波として前記受信器側に転送可能な形で記憶されていることを特徴とする請求項3ないし5のいずれか1項に記載の軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−275884(P2006−275884A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−97741(P2005−97741)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】