説明

軸受装置

【課題】内輪と、当該内輪両外側に配置される環状部材(前蓋、後蓋)とを、嵌合部材を介して相互に嵌合(連結)させ、環状部材の外れ防止を図る低コストの軸受装置を提供する。
【解決手段】互いに相対回転可能に対向配置された環状の外輪1及び内輪3と、内輪の軸方向両外側に配置され、周方向に沿って連続した環状部材(前蓋、後蓋19)と、内輪と少なくとも一方の環状部材とを相互に嵌合させる環状の嵌合部材29とを有し、嵌合部材は、内輪に圧入させる一方側環状圧入部29aと、環状部材に圧入させる他方側環状圧入部29bとを一体的に備えて構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内輪と、当該内輪両外側に配置される環状部材(前蓋、後蓋)とを、嵌合部材を介して相互に嵌合(連結)させることで、回転軸部材(例えば、鉄道車両車軸)に軸受を圧入する際における環状部材の外れ防止を図る軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の軸受装置としては、例えば特許文献1,2に示すように、鉄道車両車軸に適用されているものが知られている。鉄道車両車軸には、軸受装置の構成を成す各種の円すいころ軸受が用いられており、その一例として図4に示された円すいころ軸受は、常時非回転状態に維持された環状の静止輪構成体(例えば、1つの環状の外輪1)と、静止輪構成体(外輪1)に対向して回転可能に配置された環状の回転輪構成体(例えば、2つの環状の内輪3)とを備えている。
【0003】
また、静止輪構成体及び回転輪構成体において、その外輪1と各内輪3とは、互いに相対回転可能に対向配置されている。この場合、各内輪3は、その背面同士を(例えば、間座5に)当て付けた状態で、所定の回転軸部材(例えば、鉄道車両車軸7(以下、車軸7という))に嵌合(圧入)されており、一方、外輪1は、車軸7の外周側に対向しているハウジング(図示しない)に嵌合されている。
【0004】
外輪1及び内輪3の対向面には、それぞれ、周方向に沿って連続した環状の軌道面(外輪軌道面1s、内輪軌道面3s)が互いに対向して形成されている。この場合、内輪軌道面3sは、それぞれ、間座5側から離間する方向に向かって末広がり状に傾斜して形成されており、一方、外輪軌道面1sは、それぞれ、内輪軌道面3sに沿って同様の傾斜角度を成して形成されている。
【0005】
また、外輪1と内輪3との間の軸受内部空間、具体的には、上記した軌道面1s,3s相互間(即ち、外輪軌道面1sと内輪軌道面3sとの間)には、複数の転動体(ころ)9が1つずつ保持器11で保持された状態で回転可能に組み込まれており、これにより、1つの円すいころ軸受が構成されている。なお、各転動体(ころ)9を保持しつつ各内輪軌道面3sに沿って案内するために、内輪3の対向面(即ち、外周面)には、つば部13,15が、各内輪軌道面3sの両側に沿って連続し、かつ、当該内輪軌道面3sよりも突出して設けられている。
【0006】
また、回転輪構成体として、2つの内輪3の軸方向両外側には、これに隣接して、周方向に沿って連続した環状部材がそれぞれ配置されている。環状部材は、前蓋17(油切ともいう)と後蓋19とで構成されており、これら前蓋17及び後蓋19は、車軸7に嵌合(圧入)されている。
【0007】
この場合、前蓋(環状部材)17と、上記した円すいころ軸受と、後蓋(環状部材)19とは、これら3点がセットになって同時に、車軸7に嵌合(圧入)され、その状態で、前蓋(環状部材)17に対して押圧体21をアキシアル方向に当て付けて、ボルト23で締め付ける。これにより、当該円すいころ軸受は所定の位置に固定される。
【0008】
このような円すいころ軸受によれば、外内輪1,3が相対回転する間(軸受回転中)、外内輪1,3間(即ち、軸受内部空間)に組み込まれた複数の転動体(ころ)5が、各つば部13,15によって保持・案内されながら、当該軌道面1s,3sに沿って転動することで、車軸7を円滑に回転させることができる。なお、このとき、外内輪1,3及び車軸7は、共通する1本の回転軸Axを中心に回転することとなる。
【0009】
また、円すいころ軸受には、軸受回転中の潤滑性能や回転性能などを一定に維持するために、所定量の潤滑剤(例えば、油、グリース)が軸受内部空間に封入されている。この場合、軸受内部空間に封入された潤滑剤(例えば、油、グリース)の漏洩を防止すると共に、軸受内部空間に対する異物(例えば、水、塵埃)の侵入を防止するために、静止輪構成体と回転輪構成体との間には、軸受装置の構成を成す密封機構が設けられている。
【0010】
密封機構は、静止輪構成体(1つの外輪1)の軸方向両外側と、回転輪構成体(2つの内輪3)の軸方向両外側との間(隙間)をそれぞれ覆うように設けられている。一方の密封機構は、その基端部25eが外輪1に嵌合(固定)され、その先端部25tが前蓋17に対して非接触状態で位置決めされた環状のシールケース25を有しており、他方の密封機構は、その基端部25eが外輪1に嵌合(固定)され、その先端部25tが後蓋19に対して非接触状態で位置決めされた環状のシールケース25を有している。
【0011】
それぞれのシールケース25は、互いに同一形状を成していると共に、基端部25eから先端部25tに向かうに従って先細り形状を成しており、これにより、全体として中空の円すい台の外観形状として構成されている。そして、当該シールケース25は、静止輪構成体と回転輪構成体との隙間を覆うように設けることで、上記した軸受内部空間を密封された状態(環境下)に維持させることを可能にしている。
【0012】
また、それぞれのシールケース25には、これと前蓋17(後蓋19)との間に、既存の各種密封部材27をセット(収容、配置)することを可能にするセット部25sが設けられている。この場合、密封部材27としては、例えば、リップシールやパックシール、或いは、シールやシールド等の密封板など、各種のものをセットすることができる。
【0013】
図面では一例として、密封部材27は、シールケース25に固定されて、回転輪構成体(図面では一例として、前蓋17(後蓋19))に向けて延出した環状のスリンガ27aと、スリンガ27aの内径側に固定されて、回転輪構成体に向けて延出した環状のシール部材27bとを備えている。なお、スリンガ27aの延出端は、回転輪構成体に対して非接触状態に位置決めされており、一方、シール部材27bの延出端は、回転輪構成体に対して接触状態に位置決めされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平9−68232号公報
【特許文献2】特開2008−19905号公報
【特許文献3】特開2008−267431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
ところで、上記した環状部材(例えば、後蓋19)と共に、円すいころ軸受を車軸7に嵌合(圧入)する際、当該環状部材が軸受から外れる場合がある。このため、例えば特許文献3では、内輪と環状部材とを軸方向及び半径方向のすきまをもって凹凸嵌合させることで、環状部材の外れ防止が図られた軸受装置が提案されている。
【0016】
しかしながら、軸方向及び半径方向のすきまをもって凹凸嵌合させる場合、軸方向及び半径方向のすきまの程度によっては、環状部材が外れ易くなってしまう。かかる不具合を防止するためには、例えば、内輪と環状部材との間で、バラツキの許容できる範囲(寸法公差)を予め設定しておく必要がある。そうなると、凹凸嵌合部分の高い寸法精度が要求され、そうなると、その要求に応えるための手間や時間がかかり、軸受装置の製造コストが上昇してしまう。
【0017】
本発明は、このような問題を解決するためになされており、その目的は、内輪と、当該内輪両外側に配置される環状部材(前蓋、後蓋)とを、嵌合部材を介して相互に嵌合(連結)させるだけで、環状部材の外れ防止を図ることを可能にする低コストの軸受装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
このような目的を達成するために、本発明の軸受装置は、互いに相対回転可能に対向配置された環状の外輪及び内輪と、内輪の軸方向両外側に配置され、周方向に沿って連続した環状部材と、内輪と少なくとも一方の環状部材とを相互に嵌合させる環状の嵌合部材とを有し、嵌合部材は、内輪に圧入させる一方側環状圧入部と、環状部材に圧入させる他方側環状圧入部とを一体的に備えて構成されている。
本発明では、嵌合部材において、一方側環状圧入部は、内輪の内径面又は外径面に圧入させ、他方側環状圧入部は、環状部材の内径面に圧入させる。
本発明において、内輪及び環状部材の少なくともいずれか一方から嵌合部材が脱落するのを防止するために、嵌合部材と、これに対向する内輪及び環状部材との間に脱落防止機構が構成されており、脱落防止機構は、対向部材に向けて被対向部材を一部突出させて形成された突起部と、対向部材を一部窪ませて形成され、突起部が嵌合可能な嵌合溝とを備えている。
本発明では、脱落防止機構において、突起部及び嵌合溝は、対向部材及び被対向部材の周方向に沿って連続して又は断続して形成されている。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、内輪と、当該内輪両外側に配置される環状部材(前蓋、後蓋)とを、嵌合部材を介して相互に嵌合(連結)させるだけで、環状部材の外れ防止を図ることを可能にする低コストの軸受装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係る軸受装置の構成を示す断面図であって、(a)は、後蓋を嵌合部材を介して内輪に嵌合(連結)させた状態を示す図、(b)は、同図(a)に示された嵌合部材の他の構成例を示す図。
【図2】本発明の一実施形態に係る軸受装置の構成を示す断面図であって、(a)は、前蓋を嵌合部材を介して内輪に嵌合(連結)させた状態を示す図、(b)は、同図(a)に示された嵌合部材の他の構成例を示す図。
【図3】(a)は、本発明の変形例に係る軸受装置の構成を示す断面図、(b)は、本発明の変形例に係る軸受装置の構成を示す断面図。
【図4】鉄道車両車軸に適用された軸受装置の構成を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態に係る軸受装置について、添付図面を参照して説明する。なお、本実施形態は、図4に示された軸受装置の改良であるため、以下、改良部分の説明にとどめる。この場合、上記した軸受装置(図4)と同一の構成については、その構成に付された参照符号と同一の符号を本実施形態に用いた図面上に付すことで、その説明を省略する。
【0022】
図1(a)に示すように、本実施形態の軸受装置において、環状部材(以下、後蓋19という)と内輪3とは、環状の嵌合部材29を介して相互に嵌合(連結)させることができるようになっている。嵌合部材29は、内輪3に圧入させる一方側環状圧入部29aと、後蓋19に圧入させる他方側環状圧入部29bとを一体的に備えて構成されている。かかる嵌合部材29において、一方側環状圧入部29aは、内輪3の内径面3fに圧入させ、他方側環状圧入部29bは、後蓋19の内径面19fに圧入させる。
【0023】
具体的に説明すると、一方側環状圧入部29aは、上記した回転軸Ax(図4参照)に沿って平行に延在する中空円筒状を成しており、その外径側に構成された圧入面Saを内輪3の内径面3fに圧入させるように構成されている。この場合、内輪3の正面3p(即ち、後蓋19に対向する周面)の内径側を周方向に連続して窪ませて円筒状の凹所3tを形成し、その凹所3tに構成された内径面3fに、一方側環状圧入部29aの圧入面Sa(外径面ともいう)を圧入させる。
【0024】
このとき、一方側環状圧入部29aの圧入面(外径面)Saの外径寸法を、内輪3の内径面3fの内径寸法よりも大きく設定することで、一方側環状圧入部29aの圧入面(外径面)Saを内輪3の内径面3fに圧入させることができる。なお、これら圧入面(外径面)Saの外径寸法と内径面3fの内径寸法との差分値(しめしろ)は、圧入後の嵌合部材29が内輪3から脱落しない程度に設定すればよい。また、一方側環状圧入部29aの軸方向長さや広さについては、これを圧入させる内輪3の大きさや形状、或いは、強度などに応じて設定されるため、ここでは特に数値限定しない。
【0025】
一方、他方側環状圧入部29bは、上記した回転軸Ax(図4参照)に沿って平行に延在する中空円筒状を成しており、その外径面Sbを後蓋19の内径面19fに圧入されるように構成されている。この場合、後蓋19の内径側を周方向に連続して窪ませて円筒状の内径面19fを形成し、当該内径面19fに、他方側環状圧入部29bの外径面Sbを圧入させる。
【0026】
このとき、他方側環状圧入部29bの外径面Sbの外径寸法を、後蓋19の内径面19fの内径寸法よりも大きく設定することで、他方側環状圧入部29bの外径面Sbを後蓋19の内径面19fに圧入させることができる。なお、これら外径面Sbの外径寸法と内径面19fの内径寸法との差分値(しめしろ)は、圧入後の嵌合部材29が後蓋19から脱落しない程度に設定すればよい。また、他方側環状圧入部29bの軸方向長さや広さについては、これを圧入させる後蓋19の大きさや形状、或いは、強度などに応じて設定されるため、ここでは特に数値限定しない。
【0027】
また、一方側環状圧入部29aと他方側環状圧入部29bとは、肉厚差を有して構成されている。図面では一例として、一方側環状圧入部29aの圧入面(外径面)Saの外径寸法は、他方側環状圧入部29bの外径面Sbの外径寸法よりも大きく設定されている。このため、一方側環状圧入部29aと他方側環状圧入部29bとの間には、これら圧入部29a,29b相互を連続させるための環状移行部(面)Scが構成されている。
【0028】
環状移行部(面)Scは、その形状や大きさ等について特に制限されることはないが、図面では一例として、一方側環状圧入部29aから他方側環状圧入部29bに向けて先細り形状を成して構成されている。この場合、当該環状移行部(面)Scは、嵌合部材29を介して内輪3と後蓋19とを相互に嵌合(連結)させる際において、内輪3と後蓋19との位置決め手段として、別の捉え方をすると、内輪3及び後蓋19に対する嵌合部材29自身の位置決め手段として用いることができる。
【0029】
これにより、内輪3に嵌合部材29を圧入させた後、嵌合部材29を後蓋19に圧入させる際、後蓋19の内径側端面が環状移行部(面)Scに当接することで、内輪3の正面3pを後蓋19に隙間無く当て付けた状態で位置決めすることができる。
【0030】
また、本実施形態の軸受装置によれば、一方側環状圧入部29aを内輪3に圧入させると共に、他方側環状圧入部29bを後蓋19に圧入させるだけで、当該嵌合部材29を介して、内輪3と後蓋19相互を堅牢に嵌合(連結)させることができる。
【0031】
これにより、回転軸部材(例えば、鉄道車両車軸7)に上記した円すいころ軸受を圧入する際において(図4参照)、内輪3から後蓋19が外れないように防止することができる。このため、回転軸部材(鉄道車両車軸7)に対する装着作業のし易さ、効率化を図ることができる。
【0032】
なお、上記した嵌合部材29の材質としては、例えば、鉄、樹脂など各種の材料を適用することができるため、ここでは特に限定しない。
【0033】
図1(b)には、上記した実施形態の軸受装置の他の構成例が示されており、当該軸受装置において、後蓋19と内輪3とは、環状の嵌合部材29を介して相互に嵌合(連結)させることができるようになっている。嵌合部材29は、内輪3に圧入させる一方側環状圧入部29aと、後蓋19に圧入させる他方側環状圧入部29bとを一体的に備えて構成されている。かかる嵌合部材29において、一方側環状圧入部29aは、内輪3の外径面3eに圧入させ、他方側環状圧入部29bは、後蓋19の内径面19fに圧入させる。
【0034】
具体的に説明すると、一方側環状圧入部29aは、上記した回転軸Ax(図4参照)に沿って平行に延在する中空円筒状を成しており、その内径側に構成された圧入面Saを内輪3の外径面3eに圧入させるように構成されている。この場合、内輪3の外径面3eをそのまま利用し、当該外径面3eに、一方側環状圧入部29aの圧入面Sa(内径面ともいう)を圧入させる。
【0035】
このとき、一方側環状圧入部29aの圧入面(内径面)Saの内径寸法を、内輪3の外径面3eの外径寸法よりも小さく設定することで、一方側環状圧入部29aの圧入面(内径面)Saを内輪3の外径面3eに圧入させることができる。なお、これら圧入面(内径面)Saの内径寸法と外径面3eの外径寸法との差分値(しめしろ)は、圧入後の嵌合部材29が内輪3から脱落しない程度に設定すればよい。また、一方側環状圧入部29aの軸方向長さや広さについては、これを圧入させる内輪3の大きさや形状、或いは、強度などに応じて設定されるため、ここでは特に数値限定しない。
【0036】
一方、他方側環状圧入部29bは、上記した回転軸Ax(図4参照)に沿って平行に延在する中空円筒状を成しており、その外径面Sbを後蓋19の内径面19fに圧入されるように構成されている。この場合、後蓋19の内径側を周方向に連続して窪ませて円筒状の内径面19fを形成し、当該内径面19fに、他方側環状圧入部29bの外径面Sbを圧入させる。
【0037】
このとき、他方側環状圧入部29bの外径面Sbの外径寸法を、後蓋19の内径面19fの内径寸法よりも大きく設定することで、他方側環状圧入部29bの外径面Sbを後蓋19の内径面19fに圧入させることができる。なお、これら外径面Sbの外径寸法と内径面19fの内径寸法との差分値(しめしろ)は、圧入後の嵌合部材29が後蓋19から脱落しない程度に設定すればよい。また、他方側環状圧入部29bの軸方向長さや広さについては、これを圧入させる後蓋19の大きさや形状、或いは、強度などに応じて設定されるため、ここでは特に数値限定しない。
【0038】
また、一方側環状圧入部29aと他方側環状圧入部29bとの間には、これら圧入部29a,29b相互を連続させるための環状移行部(面)Scが構成されている。環状移行部(面)Scは、中空円板状を成しており、内輪3と後蓋19との間を径方向に沿って横断(例えば、直交)して構成されている。そして、当該中空円板状の環状移行部(面)Scの両側に一方側環状圧入部29aと他方側環状圧入部29bがそれぞれ一体的に構成されている。
【0039】
更に、本実施形態の軸受装置には、内輪3から嵌合部材29が脱落するのを防止するために、嵌合部材29と、これに対向する内輪3との間(具体的には、一方側環状圧入部29aの圧入面(内径面)Saと、内輪3の外径面3eとの間)に脱落防止機構が構成されている。脱落防止機構は、対向部材(例えば、内輪3の外径面3e)に向けて被対向部材(例えば、一方側環状圧入部29aの圧入面(内径面)Sa)を一部突出させて形成された突起部Tと、対向部材(内輪3の外径面3e)を一部窪ませて形成され、突起部Tが嵌合可能な嵌合溝Gとを備えている。なお、突起部Tは、嵌合部材29と一体成形してもよいし、或いは、当該嵌合部材29と別体で成形し、後付けしてもよい。
【0040】
脱落防止機構において、突起部T及び嵌合溝Gは、対向部材及び被対向部材の周方向に沿って連続して又は断続して形成されている。具体的に説明すると、突起部Tが、被対向部材(一方側環状圧入部29aの圧入面(内径面)Sa)の周方向に沿って連続して形成されている場合、嵌合溝Gは、これに対向して、対向部材(内輪3の外径面3e)の周方向に沿って連続して形成すればよい。また、突起部Tが、被対向部材(一方側環状圧入部29aの圧入面(内径面)Sa)の周方向に沿って断続して形成されている場合、嵌合溝Gは、これに対向して、対向部材(内輪3の外径面3e)の周方向に沿って連続して又は断続して形成すればよい。
【0041】
この場合、上記した脱落防止機構は、内輪3及び後蓋19に対する嵌合部材29自身の位置決め手段として用いることができる。この場合、内輪3に嵌合部材29を圧入させると、突起部Tが嵌合溝Gに嵌合することで、内輪3から嵌合部材29が脱落するのを防止することができると共に、その状態において、当該嵌合部材29の環状移行部(面)Scが、内輪3の正面3pに隙間無く当て付けられることで、嵌合部材29の位置決めがされる。
【0042】
これにより、嵌合部材29を後蓋19に圧入させる際、後蓋19の内輪3側端面が環状移行部(面)Scに当接することで、内輪3の正面3pを、環状移行部(面)Scを介して後蓋19に隙間無く当て付けた状態で位置決めすることができる。なお、他の効果は、上記した実施形態(図1(a)参照)と同様であるため、その説明は省略する。
【0043】
図2(a)に示すように、上記した嵌合部材29を介して、環状部材(以下、前蓋17という)と内輪3とを相互に嵌合(連結)させるようにしてもよい。この場合、嵌合部材29は、内輪3に圧入させる一方側環状圧入部29aと、前蓋17に圧入させる他方側環状圧入部29bとを一体的に備えて構成されている。かかる嵌合部材29において、一方側環状圧入部29aは、内輪3の内径面3fに圧入させ、他方側環状圧入部29bは、前蓋17の内径面17fに圧入させる。
【0044】
具体的に説明すると、一方側環状圧入部29aは、上記した回転軸Ax(図4参照)に沿って平行に延在する中空円筒状を成しており、その外径側に構成された圧入面Saを内輪3の内径面3fに圧入させるように構成されている。この場合、内輪3の正面3p(即ち、前蓋17に対向する周面)の内径側を周方向に連続して窪ませて円筒状の凹所3tを形成し、その凹所3tに構成された内径面3fに、一方側環状圧入部29aの圧入面Sa(外径面ともいう)を圧入させる。
【0045】
このとき、一方側環状圧入部29aの圧入面(外径面)Saの外径寸法を、内輪3の内径面3fの内径寸法よりも大きく設定することで、一方側環状圧入部29aの圧入面(外径面)Saを内輪3の内径面3fに圧入させることができる。なお、これら圧入面(外径面)Saの外径寸法と内径面3fの内径寸法との差分値(しめしろ)は、圧入後の嵌合部材29が内輪3から脱落しない程度に設定すればよい。また、一方側環状圧入部29aの軸方向長さや広さについては、これを圧入させる内輪3の大きさや形状、或いは、強度などに応じて設定されるため、ここでは特に数値限定しない。
【0046】
一方、他方側環状圧入部29bは、中空円筒状を成しており、その外径面Sbを前蓋17の内径面17fに圧入されるように構成されている。この場合、前蓋17の内径側を周方向に連続して窪ませて円筒状の内径面17fを形成し、当該内径面17fに、他方側環状圧入部29bの外径面Sbを圧入させる。
【0047】
このとき、他方側環状圧入部29bの外径面Sbの外径寸法を、前蓋17の内径面17fの内径寸法よりも大きく設定することで、他方側環状圧入部29bの外径面Sbを前蓋17の内径面17fに圧入させることができる。なお、これら外径面Sbの外径寸法と内径面17fの内径寸法との差分値(しめしろ)は、圧入後の嵌合部材29が前蓋17から脱落しない程度に設定すればよい。また、他方側環状圧入部29bの軸方向長さや広さについては、これを圧入させる前蓋17の大きさや形状、或いは、強度などに応じて設定されるため、ここでは特に数値限定しない。
【0048】
また、一方側環状圧入部29aと他方側環状圧入部29bとは、肉厚差を有して構成されている。図面では一例として、一方側環状圧入部29aの圧入面(外径面)Saの外径寸法は、他方側環状圧入部29bの外径面Sbの外径寸法よりも大きく設定されている。このため、一方側環状圧入部29aと他方側環状圧入部29bとの間には、これら圧入部29a,29b相互を連続させるための環状移行部(面)Scが構成されている。
【0049】
環状移行部(面)Scは、その形状や大きさ等について特に制限されることはないが、図面では一例として、一方側環状圧入部29aから他方側環状圧入部29bに向けて先細り形状を成して構成されている。この場合、当該環状移行部(面)Scは、嵌合部材29を介して内輪3と前蓋17とを相互に嵌合(連結)させる際において、内輪3と前蓋17との位置決め手段として、別の捉え方をすると、内輪3及び前蓋17に対する嵌合部材29自身の位置決め手段として用いることができる。
【0050】
これにより、内輪3に嵌合部材29を圧入させた後、嵌合部材29を前蓋17に圧入させる際、前蓋17の内径側端面が環状移行部(面)Scに当接することで、内輪3の正面3pを前蓋17に隙間無く当て付けた状態で位置決めすることができる。
【0051】
また、本実施形態の軸受装置によれば、一方側環状圧入部29aを内輪3に圧入させると共に、他方側環状圧入部29bを前蓋17に圧入させるだけで、当該嵌合部材29を介して、内輪3と前蓋17相互を堅牢に嵌合(連結)させることができる。
【0052】
これにより、回転軸部材(例えば、鉄道車両車軸7)に上記した円すいころ軸受を圧入する際において(図4参照)、内輪3から前蓋17が外れないように防止することができる。このため、回転軸部材(鉄道車両車軸7)に対する装着作業のし易さ、効率化を図ることができる。
【0053】
なお、上記した嵌合部材29の材質としては、例えば、鉄、樹脂など各種の材料を適用することができるため、ここでは特に限定しない。
【0054】
図2(b)には、上記した実施形態の軸受装置の他の構成例が示されており、当該軸受装置において、前蓋17と内輪3とは、環状の嵌合部材29を介して相互に嵌合(連結)させることができるようになっている。嵌合部材29は、内輪3に圧入させる一方側環状圧入部29aと、前蓋17に圧入させる他方側環状圧入部29bとを一体的に備えて構成されている。かかる嵌合部材29において、一方側環状圧入部29aは、内輪3の外径面3eに圧入させ、他方側環状圧入部29bは、前蓋17の内径面17fに圧入させる。
【0055】
具体的に説明すると、一方側環状圧入部29aは、上記した回転軸Ax(図4参照)に沿って平行に延在する中空円筒状を成しており、その内径側に構成された圧入面Saを内輪3の外径面3eに圧入させるように構成されている。この場合、内輪3の外径面3eをそのまま利用し、当該外径面3eに、一方側環状圧入部29aの圧入面Sa(内径面ともいう)を圧入させる。
【0056】
このとき、一方側環状圧入部29aの圧入面(内径面)Saの内径寸法を、内輪3の外径面3eの外径寸法よりも小さく設定することで、一方側環状圧入部29aの圧入面(内径面)Saを内輪3の外径面3eに圧入させることができる。なお、これら圧入面(内径面)Saの内径寸法と外径面3eの外径寸法との差分値(しめしろ)は、圧入後の嵌合部材29が内輪3から脱落しない程度に設定すればよい。また、一方側環状圧入部29aの軸方向長さや広さについては、これを圧入させる内輪3の大きさや形状、或いは、強度などに応じて設定されるため、ここでは特に数値限定しない。
【0057】
一方、他方側環状圧入部29bは、上記した回転軸Ax(図4参照)に沿って平行に延在する中空円筒状を成しており、その外径面Sbを前蓋17の内径面17fに圧入されるように構成されている。この場合、前蓋17の内径側を周方向に連続して窪ませて円筒状の内径面17fを形成し、当該内径面17fに、他方側環状圧入部29bの外径面Sbを圧入させる。
【0058】
このとき、他方側環状圧入部29bの外径面Sbの外径寸法を、前蓋17の内径面17fの内径寸法よりも大きく設定することで、他方側環状圧入部29bの外径面Sbを前蓋17の内径面17fに圧入させることができる。なお、これら外径面Sbの外径寸法と内径面17fの内径寸法との差分値(しめしろ)は、圧入後の嵌合部材29が前蓋17から脱落しない程度に設定すればよい。また、他方側環状圧入部29bの軸方向長さや広さについては、これを圧入させる前蓋17の大きさや形状、或いは、強度などに応じて設定されるため、ここでは特に数値限定しない。
【0059】
また、一方側環状圧入部29aと他方側環状圧入部29bとの間には、これら圧入部29a,29b相互を連続させるための環状移行部(面)Scが構成されている。環状移行部(面)Scは、中空円板状を成しており、内輪3と前蓋17との間を径方向に沿って横断(例えば、直交)して構成されている。そして、当該中空円板状の環状移行部(面)Scの両側に一方側環状圧入部29aと他方側環状圧入部29bがそれぞれ一体的に構成されている。
【0060】
更に、本実施形態の軸受装置には、内輪3から嵌合部材29が脱落するのを防止するために、嵌合部材29と、これに対向する内輪3との間(具体的には、一方側環状圧入部29aの圧入面(内径面)Saと、内輪3の外径面3eとの間)に脱落防止機構が構成されている。脱落防止機構は、対向部材(例えば、内輪3の外径面3e)に向けて被対向部材(例えば、一方側環状圧入部29aの圧入面(内径面)Sa)を一部突出させて形成された突起部Tと、対向部材(内輪3の外径面3e)を一部窪ませて形成され、突起部Tが嵌合可能な嵌合溝Gとを備えている。なお、突起部Tは、嵌合部材29と一体成形してもよいし、或いは、当該嵌合部材29と別体で成形し、後付けしてもよい。
【0061】
脱落防止機構において、突起部T及び嵌合溝Gは、対向部材及び被対向部材の周方向に沿って連続して又は断続して形成されている。具体的に説明すると、突起部Tが、被対向部材(一方側環状圧入部29aの圧入面(内径面)Sa)の周方向に沿って連続して形成されている場合、嵌合溝Gは、これに対向して、対向部材(内輪3の外径面3e)の周方向に沿って連続して形成すればよい。また、突起部Tが、被対向部材(一方側環状圧入部29aの圧入面(内径面)Sa)の周方向に沿って断続して形成されている場合、嵌合溝Gは、これに対向して、対向部材(内輪3の外径面3e)の周方向に沿って連続して又は断続して形成すればよい。
【0062】
この場合、上記した脱落防止機構は、内輪3及び前蓋17に対する嵌合部材29自身の位置決め手段として用いることができる。この場合、内輪3に嵌合部材29を圧入させると、突起部Tが嵌合溝Gに嵌合することで、内輪3から嵌合部材29が脱落するのを防止することができると共に、その状態において、当該嵌合部材29の環状移行部(面)Scが、内輪3の正面3pに隙間無く当て付けられることで、嵌合部材29の位置決めがされる。
【0063】
これにより、嵌合部材29を前蓋17に圧入させる際、前蓋17の内輪3側端面が環状移行部(面)Scに当接することで、内輪3の正面3pを、環状移行部(面)Scを介して前蓋17に隙間無く当て付けた状態で位置決めすることができる。なお、他の効果は、上記した実施形態(図2(a)参照)と同様であるため、その説明は省略する。
【0064】
ここで、上記した各実施形態(図1、図2参照)を相互に組み合わせてもよい。これによれば、円すいころ軸受(具体的には、2つの内輪3)の軸方向両外側に、上記した嵌合部材29を介して前蓋17と後蓋19とを相互に嵌合(連結)させることができる。これにより、前蓋17と後蓋19と円すいころ軸受とを含めた軸受装置全体を一体とした移動操作が容易になるため、より一層の回転軸部材(鉄道車両車軸7)に対する装着作業のし易さ、効率化を図ることができる。
【0065】
また、図1(b)及び図2(b)に示された各実施形態では、内輪3から嵌合部材29が脱落するのを防止するための脱落防止機構を想定して説明したが、図3(a)に示すように、
嵌合部材29と、これに対向する前蓋17(後蓋19)との間に、当該前蓋17(後蓋19)から嵌合部材29が脱落するのを防止するための脱落防止機構を増設してもよい。
【0066】
この場合、増設した脱落防止機構として、対向部材(前蓋17(後蓋19)の内径面17f(19f))に向けて被対向部材(例えば、他方側環状圧入部29bの外径面Sb)を一部突出させて突起部Tを形成すると共に、対向部材(前蓋17(後蓋19)の内径面17f(19f))を一部窪ませて、突起部Tが嵌合可能な嵌合溝Gを形成すればよい。
【0067】
また、図1(a)及び図2(a)に示された各実施形態では、嵌合部材29の脱落防止機構について言及しなかったが、図3(b)に示すように、嵌合部材29と、これに対向する内輪3との間、並びに、嵌合部材29と、これに対向する前蓋17(後蓋19)との間の一方、或いは、双方に、上記した図3(a)と同様の脱落防止機構を構成してもよい。
【0068】
また、上記した各実施形態(図1、図2参照)並びに各変形例(図3)では、嵌合部材29に突起部Tを構成し、内輪3及び前蓋17(後蓋19)に嵌合溝Gを構成する場合を想定したが、これとは逆に、嵌合部材29に嵌合溝Gを構成し、内輪3及び前蓋17(後蓋19)に突起部Tを構成してもよい。
【符号の説明】
【0069】
1 外輪
3 内輪
17 前蓋(環状部材)
19 後蓋(環状部材)
29 嵌合部材
29a 一方側環状圧入部
29b 他方側環状圧入部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに相対回転可能に対向配置された環状の外輪及び内輪と、
内輪の軸方向両外側に配置され、周方向に沿って連続した環状部材と、
内輪と少なくとも一方の環状部材とを相互に嵌合させる環状の嵌合部材とを有し、
嵌合部材は、内輪に圧入させる一方側環状圧入部と、環状部材に圧入させる他方側環状圧入部とを一体的に備えて構成されていることを特徴とする軸受装置。
【請求項2】
嵌合部材において、一方側環状圧入部は、内輪の内径面又は外径面に圧入させ、他方側環状圧入部は、環状部材の内径面に圧入させることを特徴とする請求項1に記載の軸受装置。
【請求項3】
内輪及び環状部材の少なくともいずれか一方から嵌合部材が脱落するのを防止するために、嵌合部材と、これに対向する内輪及び環状部材との間に脱落防止機構が構成されており、
脱落防止機構は、対向部材に向けて被対向部材を一部突出させて形成された突起部と、対向部材を一部窪ませて形成され、突起部が嵌合可能な嵌合溝とを備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の軸受装置。
【請求項4】
脱落防止機構において、突起部及び嵌合溝は、対向部材及び被対向部材の周方向に沿って連続して又は断続して形成されていることを特徴とする請求項3に記載の軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−172742(P2012−172742A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−34092(P2011−34092)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】