説明

軸合わせ方法およびX線撮影装置

【課題】作業者の負担を軽減させることが可能な軸合わせ方法およびX線撮影装置を提供することを目的とする。
【解決手段】軸合わせ方法およびX線撮影装置において、X線管3の磁場発生器29は、陰極25から照射された電子ビームを偏向させて陽極31の所定の位置に当てて、X線を発生させている。その磁場発生器29を操作することで、X線を発生する焦点位置が移動することを利用して、X線管3等の取付時におけるX線検出器5の検出面5a中心に照射されたX線の中心軸であるX線軸を位置合わせする軸合わせを行う。軸合わせを、例えばX線が遮蔽された装置から離れた場所から操作することができるので、X線の被ばくを軽減することができる。また、軸合わせを容易に行うことができるので、工数を抑えることができる。よって、作業者の負担を軽減させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線検出器の検出面中心にX線軸を位置合わせする軸合わせ方法、およびX線撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線撮影装置は、被検体にX線を照射するX線管と、このX線管の照射口に取り付けられて照射させたX線の照射野を調整するコリメータと、被検体を透過したX線を検出するX線検出器とを備えている。これらコリメータを含むX線管とX線検出器は、例えば、C字形の支持アーム(以下「C字形アーム」と称する)の両端に取り付けられて支持される。X線撮影装置は、X線検出器で検出されたX線の強度分布に応じたX線検出信号に基づいてX線画像を取得している。
【0003】
また、X線撮影装置に用いられるX線管としては、例えば、陽極が外囲器と一体となって回転する外囲器回転型のX線管がある。このX線管は、X線管本体(外囲器)内の軸中心に設けられた陰極の電子源から発生された電子ビームを、X線管本体の外に設けられた磁場発生器で集束、偏向させて、陽極のターゲットディスク上の所定位置に焦点を形成し、X線を発生させている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−170718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のX線撮影装置は、その据付(組立)時にX線管、コリメータおよびX線検出器をC字形アームに取り付けることが多い。このとき、組立時の部材間での寸法の遊びによる位置ズレや製造加工精度などを補うために、X線管から照射されたX線の中心軸であるX線軸とX線検出器の検出面の中心とを位置合わせする軸合わせを行っている。作業者は、実際にX線を照射して、透視画像を見ながら、X線管やコリメータなどを手で支えるなどして移動させて軸合わせを行い、固定している。そのため、作業者は被ばくし、また、軸合わせのための工数がかかるなど、作業者の負担となっている。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、作業者の負担を軽減させることが可能な軸合わせ方法およびX線撮影装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、このような目的を達成するために、次のような構成をとる。
すなわち、本発明に係る軸合わせ方法は、電子ビームを発生させる陰極と前記陰極からの電子ビームを偏向させる電子ビーム偏向部と前記電子ビーム偏向部で偏向された電子ビームの衝突によりX線を発生させる陽極とを有するX線を照射するX線管と、前記X線管から照射されたX線を検出するX線検出器とを備えたX線撮影装置におけるX線検出器の検出面中心に照射されたX線の中心軸であるX線軸を位置合わせする軸合わせ方法であって、前記X線検出器の検出面中心に対するX線軸の位置ズレ情報に基づき、前記電子ビーム偏向部の電子ビームの偏向を調整し、前記X線検出器の検出面中央にX線軸を位置合わせするものである。
【0008】
本発明に係る軸合わせ方法によれば、X線管の電子ビーム偏向部は、陰極から照射された電子ビームを偏向させて陽極の所定の位置に当てて、X線を発生させている。その電子ビーム偏向部を操作することにより、電子ビームが衝突する陽極の焦点位置が移動する。このように、X線を発生する焦点位置が移動することを利用して、X線管等の取付時におけるX線検出器の検出面中心に照射されたX線の中心軸であるX線軸を位置合わせする軸合わせを行う。すなわち、X線検出器の検出面中心に対するX線軸の位置ズレ情報に基づき、電子ビーム偏向部の電子ビームの偏向を調整し、X線検出器の検出面中央にX線軸を位置合わせする。したがって、軸合わせを、例えばX線が遮蔽された装置から離れた場所から操作することができるので、X線の被ばくを軽減することができる。また、電子ビーム偏向部で電子ビームの偏向を調整することにより軸合わせを容易に行うことができるので、工数を抑えることができる。よって、作業者の負担を軽減させることができる。
【0009】
また、本発明に係るX線撮影装置は、電子ビームを発生させる陰極と、前記陰極からの電子ビームを偏向させる電子ビーム偏向部と、前記電子ビーム偏向部で偏向された電子ビームの衝突によりX線を発生させる陽極とを有するX線を照射するX線管と、前記X線管から照射されたX線を検出するX線検出器と、前記X線検出器の検出面中心に対する、照射されたX線の中心軸であるX線軸の位置ズレ情報に基づき、前記電子ビーム偏向部の電子ビームの偏向を調整し、前記X線検出器の検出面中央にX線軸を位置合わせする偏向調整制御部と、を備えていることを特徴とするものである。
【0010】
本発明に係るX線撮影装置によれば、X線管の電子ビーム偏向部は、陰極から照射された電子ビームを偏向させて陽極の所定の位置に当てて、X線を発生させている。偏向調整制御部により電子ビーム偏向部を操作することにより、電子ビームが衝突する陽極の焦点位置が移動する。このように、X線を発生する焦点位置が移動することを利用して、X線管等の取付時におけるX線検出器の検出面中心に照射されたX線の中心軸であるX線軸を位置合わせする軸合わせを行う。すなわち、偏向調整制御部は、X線検出器の検出面中心に対するX線軸の位置ズレ情報に基づき、電子ビーム偏向部の電子ビームの偏向を調整し、X線検出器の検出面中央にX線軸を位置合わせする。したがって、軸合わせを、例えばX線が遮蔽された装置から離れた場所から操作することができるので、X線の被ばくを軽減することができる。また、電子ビーム偏向部で電子ビームの偏向を調整することにより軸合わせを容易に行うことができるので、工数を抑えることができる。よって、作業者の負担を軽減させることができる。
【0011】
また、本発明に係るX線撮影装置は、前記X線検出器から取得した画像に基づいて前記X線検出器の検出面中心に対するX線軸の位置ズレ情報を算出する位置ズレ情報算出部を備え、前記偏向調整制御部は、算出された位置ズレ情報に基づいて前記X線検出器の検出面中心にX線軸を位置合わせすることが好ましい。X線検出器から取得した画像に基づいて位置ズレ情報算出部でX線検出器の検出面の中心に対する位置ズレ情報を算出する。この位置ズレ情報に基づいて、偏向調整制御部は、電子ビーム偏向部を操作することで焦点位置を移動させてX線検出器の検出面中心にX線軸を位置合わせする。すなわち、軸合わせを自動で行うことができるので、軸合わせを容易に行うことができ、さらに工数を抑えることができる。
【0012】
また、本発明に係るX線撮影装置は、前記X線管のX線照射側に取り付けられ、X線の照射野を調整するコリメータを備えていることが好ましい。従来のように、コリメータを手で支えるなどして移動させながら軸合わせを行い、固定していたが、コリメータを移動させずに、偏向調整制御部により、X線検出器の検出面中心に対するX線軸の位置ズレ情報に基づき、電子ビーム偏向部の電子ビームの偏向を調整し、軸合わせすることができる。
【0013】
また、本発明に係るX線撮影装置は、X線照射側に取り付けられ、X線を遮蔽するマーカーを備えていることが好ましい。X線管からX線が照射されるとマーカーがX線を遮蔽する。そのため、X線検出器で取得された画像のマーカーの位置に基づいて、X線検出器の検出面中心にX線軸を移動させることを容易に行うことができる。
【0014】
また、本発明に係るX線撮影装置は、前記コリメータの複数枚のリーフにより形成される開口部の中心でかつ、前記複数枚のリーフと同じ高さに取り付けられ、X線を遮蔽するマーカーを備えていることが好ましい。焦点から照射されてマーカーで遮蔽されたX線がX線検出器の検出面に入射される。すなわち、マーカーにより、焦点とマーカーとを結ぶ線およびその延長線で構成される線をX線軸として軸合わせが行われる。しかしながら、マーカーの位置により、コリメータで調整される実際のX線の中心軸とマーカーにより形成されるX線軸とでズレが生じる。このズレを抑えることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る軸合わせ方法およびX線撮影装置によれば、X線管の電子ビーム偏向部は、陰極から照射された電子ビームを偏向させて陽極の所定の位置に当てて、X線を発生させている。その電子ビーム偏向部を操作することにより、電子ビームが衝突する陽極の焦点位置が移動する。このように、X線を発生する焦点位置が移動することを利用して、X線管等の取付時におけるX線検出器の検出面中心に照射されたX線の中心軸であるX線軸を位置合わせする軸合わせを行う。すなわち、X線検出器の検出面中心に対するX線軸の位置ズレ量に基づき、電子ビーム偏向部の電子ビームの偏向を調整し、X線検出器の検出面中央にX線軸を位置合わせする。したがって、軸合わせを、例えばX線が遮蔽された装置から離れた場所から操作することができるので、X線の被ばくを軽減することができる。また、電子ビーム偏向部で電子ビームの偏向を調整することにより軸合わせを容易に行うことができるので、工数を抑えることができる。よって、作業者の負担を軽減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1に係るX線撮影装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】コリメータの説明に供する図である。
【図3】(a)はX線管の概略側面図であり、(b)はX線管の磁場発生器の概略正面図である。
【図4】実施例1に係るX線撮影装置の軸合わせ方法のフローチャートである。
【図5】軸合わせの説明に供する図である。
【図6】マーカー位置の説明に供する図である。
【図7】実施例2に係るX線撮影装置の概略構成を示すブロック図である。
【図8】実施例2に係るX線撮影装置の軸合わせ方法のフローチャートである。
【図9】実施例3に係るX線撮影装置の概略構成を示すブロック図である。
【図10】実施例3に係るX線撮影装置の軸合わせ方法のフローチャートである。
【実施例1】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。図1は、実施例1に係るX線撮影装置の概略構成を示すブロック図であり、図2は、コリメータの説明に供する図である。図3(a)はX線管の概略側面図であり、図3(b)はX線管の磁場発生器の概略正面図である。
【0018】
図1を参照する。X線撮影装置1は、X線を照射するX線管3と、X線管3と対向して配置され、X線管3から照射されたX線を検出するX線検出器5と、X線管3の照射側に取り付けられ、X線管3から照射されたX線の照射野を調整するコリメータ7とを備えている。X線管3およびX線検出器5は、C字形アーム9の両端に取り付けられて支持されている。
【0019】
X線管3は、X線管制御部11によりX線照射に必要な制御が実行される。X線管制御部11は、X線管3の管電圧や管電流を発生させる高電圧発生部13を有している。X線管制御部11は、後述する入力部21で設定された管電圧や管電流や照射時間等のX線条件に応じてX線管3からX線を照射させている。
【0020】
X線検出器5は、X線管3から照射されたX線を検出し、X線強度分布に応じた信号であるX線検出信号を出力する。X線検出器5は、フラットパネル型X線検出器(FPD)やイメージインテンシファイア等で構成される。
【0021】
コリメータ7は、図2に示すように、ある方向に鏡像対象に移動して開閉動作を行う一対のリーフ7aと、このリーフ7aと直交する方向に鏡像対象に移動して開閉動作を行う一対のリーフ7bとから構成される。また、各リーフ7a、7bによって、矩形の照射野を調整している。なお、図2では、リーフ7a,7bは、4枚で構成されるが、他の枚数であってもよい。
【0022】
図1に戻る。X線検出器5の後段には、画像処理部15が設けられている。画像処理部15は、X線検出器5から出力されたX線検出信号に基づく画像に対して種々の処理を行う。また、X線撮影装置1は、この装置1の各構成を統括的に制御する主制御部17と、画像処理部15で処理された画像を表示する表示部19と、作業者(操作者)が入力設定や各種操作を行う入力部21と、処理された画像を記憶するメモリ部23とを備えている。
【0023】
主制御部17は、中央演算処理装置(CPU)などで構成されている。表示部19は、液晶モニタ等で構成される。入力部21は、キーボードやマウスやジョイスティック等で構成される。メモリ部23は、ROM(Read-only Memory)、RAM(Random-Access Memory)またはハードディスク等の記憶媒体で構成される。
【0024】
X線管3の構成を具体的に説明する。X線管3は、外囲器回転型で構成される。X線管3は、図3(a)に示すように、電子ビームを発生させる陰極25と、その陰極25を溝の中に取り付けた円筒電極27と、陰極25から照射された電子ビームを集束・偏向させるために磁場を発生させる磁場発生器29と、その磁場発生器29によって集束・偏向した電子ビームの衝突によりX線を発生させる陽極31と、陰極25、円筒電極27および陽極31等を内部に収容し、陽極31と一体となって回転する外囲器33とを備えている。なお、磁場発生器29は、本発明における電子ビーム偏向部に相当する。
【0025】
陰極25は、例えばタングステンで形成されたフィラメントで構成されている。陰極25は、フィラメントなどに代表される熱電子放出型の他に、電界放出型であってもよく特に限定されない。磁場発生器29は、図3(b)に示すように、4つの磁極29aとそれらを支持する多角形(図3(b)では八角形)のヨーク29bとで構成される。ヨーク29bは、図3(a)に示すように、X線管本体である外囲器33の外周部を囲む環状に構成されている。磁極29aにはコイル29cが直接巻かれている。別の構成として、コイル29cはボビン(筒)に巻かれ、そのボビンを磁極29aに差し込むことで、磁極29aにコイル29cを巻いてもよい。なお、図3(b)で磁極29aは4つであるが、他の個数、例えば8つであってもよい。
【0026】
陽極31は外囲器33内部に、外囲器33と一体となって配設されている。陽極31にはターゲット傾斜部31aを設けており、集束、偏向した電子ビームが、高電圧が作る電界により陽極31に向けて加速し、ターゲット傾斜部31aに衝突することでX線を発生させる。外囲器33は真空排気されている。外囲器33の陰極25側には陰極側回転軸35を配設しており、外囲器33の陽極31側には陽極側回転軸37を配設している。両回転軸35,37を回転させることで、陽極31と一体となって外囲器33が回転する。また、外囲器33の外部には、冷却用のオイルあるいは空気などで充填されて、X線窓を有するハウジング(いずれも図示しない)が設けられている。
【0027】
磁場発生器29の各磁極29aに巻かれているコイル29cには、図1に示すように、電源部39からそれぞれに任意の電流が供給される。各磁極29aのコイル29cに供給された電流により、各磁極29aの磁力を強めたり弱めたりすることで、陰極25からの電子ビームの方向を偏向させる。電源部39は、入力部41により、各磁極29aのコイル29cに供給する電流の操作情報(以下適宜、「電流情報」)が入力される。なお、入力部21から各磁極29aのコイル29cに供給する電流情報を入力して電源部39に電流情報を与えるようにしてもよい。
【0028】
X線撮影装置1は、X線照射側(X線管3やコリメータ7)に取り付けられ、X線を遮蔽するマーカー43が取り付けられている。マーカー43は、鉛などのX線を遮蔽する物体で構成されている。マーカー43は、コリメータ7の複数枚のリーフ7a,7bにより形成される開口部(絞り)の中心でかつ、複数枚のリーフ7a,7bと同じ高さに取り付けられている。すなわち、X線を発生する焦点とマーカー43とを結ぶ線およびその延長線をX線軸と仮定している。また、例えば、板状の樹脂中に埋められたマーカー43を、リーフ7a,7bに隣接して配置するようにしたり、リーフ7a,7bの間に配置したりするようにしてもよい。マーカー43は、軸合わせの時のみ取り付けられる。
【0029】
次に、図4を参照して、本実施例のX線撮影装置1の動作、特に軸合わせ方法をフローチャートに沿って説明する。
【0030】
〔ステップS01〕X線管等の取付
X線撮影装置1を組み立てる。C字形アーム9は、そのC字形の曲がりに沿ってC字形アーム9をスライド回転(符号p)させたり、水平軸haを中心にC字形アーム9を回転(符号q)させたりする回転機構(図示しない)に支持されている。そのC字形アーム9にX線管3、X線検出器5およびコリメータ7を所定の順番で取り付ける。取付は、ボルトや、位置決めのための突起、穴および切り欠き部等により、予め設定された位置に取り付けられる。そのため、ある程度の精度を持ってX線管3、X線検出器5およびコリメータ7が取り付けられる。この状態において、X線管3から照射されたX線の中心軸であるX線軸とX線検出器5の検出面5a中心とを位置合わせする軸合わせを行う。
【0031】
〔ステップS02〕マーカーの取付
マーカー43は、コリメータ7の複数枚のリーフ7a,7bにより形成される開口部の中心でかつ、前記複数枚のリーフと同じ高さに取り付けられる。
【0032】
〔ステップS03〕X線の照射
マーカー43の取り付け後、入力部21で予め入力された管電圧や管電流や照射時間等のX線透視条件に基づき、X線管制御部11の高電圧発生部13から高電圧が発生されてX線管3に供給される。X線管3は、高電圧発生部13からの高電圧に基づき、X線を照射する。
【0033】
〔ステップS04〕位置ズレの確認
X線管3から照射されたX線は、X線検出器5で検出される。X線検出器5からX線の強度分布に応じてX線検出信号が出力される。このX線検出信号に基づき取得した画像は、画像処理部15により必要な種々の画像処理が行われる。そして、取得した画像は、表示部19に表示される。表示部19の表示画面には、マーカー43が映される(図1)。それにより、作業者は、そのマーカー43が画面の中央に対してどの程度で位置ズレしているかについて確認することができる。
【0034】
〔ステップS05〕位置ズレの判定
作業者は、マーカー43が表示された表示部19を観察して、マーカー43が表示画面の中央に対して位置ズレを確認する。位置ズレしている場合は、ステップS06に進み、位置ズレが無い場合は、終了する(ENDに進む)。
【0035】
〔ステップS06〕X線軸の位置合わせ(電流情報入力)
図5に示すように、X線検出器5の検出面5a中心に対して、X線軸が位置ズレしているとする。位置ズレしているX線軸を符号XA1で示し、位置ズレ量を符号d1で示す。作業者は、ステップS04において、表示部19に表示されたマーカー43の位置ズレ情報(位置ズレ量、方向)、すなわち、X線検出器5の検出面5a中心に対するX線軸XA1の位置ズレ情報に基づき、磁場発生器29の電子ビームの偏向を調整し、X線検出器5の検出面5a中央にX線軸XA1を位置合わせする。
【0036】
具体的には、作業者は、入力部41により、磁場発生器29の各磁極29aのコイル29c(図3)に供給する電流情報を入力する。各磁極29aにより、陰極25から照射された電子ビームが偏向されて、図5に示すように、陽極31に衝突させる焦点位置f1から焦点位置f2に移動する。すると、マーカー43を通るX線軸が、X線軸XA1からX線軸XA2に移動する。これにより、表示部19の表示画面の中央、すなわちX線検出器5の検出面5aにX線軸を位置合わせすることができる。
【0037】
なお、ステップS04〜ステップS06を繰り返し、ステップS05において、位置ズレが無い場合は、終了する(ENDに進む)。なお、図5では、横方向(X方向)の位置ズレを示すが、奥行き方向(Y方向)の位置ズレする場合も、同様に軸合わせ作業が行われる。
【0038】
本実施例に係るX線撮影装置1の軸合わせ方法によれば、X線管3の磁場発生器29は、陰極25から照射された電子ビームを偏向させて陽極31の所定の位置に当てて、X線を発生させている。その磁場発生器29を操作することにより、電子ビームが衝突する陽極31の焦点位置が移動する。このように、X線を発生する焦点位置が移動することを利用して、X線管3等の取付時におけるX線検出器5の検出面中心に照射されたX線の中心軸であるX線軸を位置合わせする軸合わせを行う。すなわち、X線検出器5の検出面5a中心に対するX線軸の位置ズレ情報に基づき、磁場発生器29の電子ビームの偏向を調整し、X線検出器5の検出面5a中央にX線軸を位置合わせする。したがって、軸合わせを、例えばX線が遮蔽された装置1から離れた場所から操作することができるので、X線の被ばくを軽減することができる。また、磁場発生器29で電子ビームの偏向を調整することにより軸合わせを容易に行うことができるので、工数を抑えることができる。よって、作業者の負担を軽減させることができる。
【0039】
また、従来のように、X線管3やコリメータ7等を手で支えるなどして移動させながら軸合わせを行い、固定していたが、X線管3やコリメータ7を移動させずに、X線検出器5の検出面5a中心に対するX線軸の位置ズレ情報に基づき、磁場発生器29の電子ビームの偏向を調整し、軸合わせすることができる。
【0040】
また、X線管3からX線が照射されるとマーカー43がX線を遮蔽する。そのため、X線検出器5で取得された画像のマーカー43の位置に基づいて、X線検出器5の検出面5a中心にX線軸を移動させることを容易に行うことができる。
【0041】
また、マーカー43は、コリメータ7の複数枚のリーフ7a,7bにより形成される開口部の中心でかつ、複数枚のリーフ7a,7bと同じ高さに取り付けられている。すなわち、マーカー43により、焦点とマーカー43とを結ぶ線およびその延長線で構成される線をX線軸として軸合わせが行われる。しかしながら、マーカー43の位置により、コリメータ7で調整される実際のX線の中心軸とマーカー43により形成されるX線軸とでズレが生じる。このズレを抑えることができる。
【0042】
図6を参照して、マーカー43の位置について、具体的に説明する。マーカー43は、例えば、筒状の樹脂中に埋められているものとする。そして、このマーカー43は、図6のように、コリメータ7の照射側の端面に取り付けられている。焦点位置f1からマーカー43を介するX線軸XA1を軸合わせして、焦点位置f3からマーカー43を介するX線軸XA3にする。このとき、焦点位置f3からコリメータ7の各リーフ7a,7bを介して照射されるX線における、実際のX線軸は符号XA4となる。すなわち、マーカー43を介したX線軸XA3と、コリメータ7を介したX線における実際のX線軸XA4とでズレ(符号d2)が生じる。そのため、マーカー43は、リーフ7a,7bとほぼ同じ高さに取り付けられていることが好ましい。リーフ7a,7bにより形成される開口部の中心から外れる場合もズレが生じる。
【実施例2】
【0043】
次に、図面を参照して本発明の実施例2を説明する。図7は、実施例2に係るX線撮影装置の概略構成を示すブロック図である。なお、上述した実施例と重複する構成については、その説明を省略する。
【0044】
上述した実施例1は、電源部39を備え、作業者は、表示部19に表示されたマーカー43の位置ズレ情報に基づき、磁場発生器29の各磁極29aのコイル29cに供給する電流情報を入力し、各磁極29aのコイル29cに電流を供給していた。すなわち、作業者が各磁極29aのコイル29cに供給する電流情報を入力して軸合わせを行っていた。実施例2のX線撮影装置50では、電源部39から供給する電流情報を、移動情報(位置ズレ情報)に基づいて電流情報に変換する電流情報変換部51を備えている。
【0045】
図7を参照する。電流情報変換部51は、入力部21により入力される移動情報に基づいて、磁場発生器29の各磁極29aのコイル29cに供給する電流情報に変換する。この電流情報は、例えば、各磁極29aのコイル29cに供給する電流情報と、X線軸の検出面5a上の移動量との関係から求められる。また、理論上、焦点の移動量から求められ、焦点の移動量は、焦点とマーカー43との距離、マーカー43と検出面5aとの距離、検出面におけるX線軸の移動量(位置ズレ量)等、陽極31のターゲット傾斜部31aを考慮して求められる。電源部39は、電流情報変換部51で変換された電流情報に基づいて、磁場発生器29の各磁極29aのコイル29cに電流を供給する。偏向調整制御部53は、電源部39と電流情報変換部51等から構成される。
【0046】
次に、図8を参照して、本実施例のX線撮影装置50の動作、特に軸合わせ方法を説明する。ステップS11〜ステップS15は、実施例1のステップS01〜ステップS05と同じであるので、その説明を省略する。
【0047】
〔ステップS16〕X線軸の位置合わせ(移動情報入力)
図5に示すように、X線軸XA1が位置ズレしているとする。作業者は、ステップS14において、表示部19に表示されたマーカー43の位置ズレ量、すなわち、X線検出器5の検出面5a中心に対するX線軸XA1の位置ズレ量に基づき、磁場発生器29の電子ビームの偏向を調整し、X線検出器5の検出面5a中央にX線軸XA1を位置合わせする。
【0048】
具体的には、作業者は、入力部21から、X線軸を位置合わせする移動情報を入力する。例えば、作業者は、ジョイスティックで操作する。この操作により、予め設定された移動情報が入力される。そして、電流情報変換部51は、移動情報(移動量と方向)に応じた電流情報に変換する。電源部39は、電流情報に基づき、磁場発生器29の各磁極29aのコイル29cにそれぞれ電流を供給する。
【0049】
なお、ステップS14〜ステップS16を繰り返し、ステップS15において、位置ズレが無い場合は、終了する(ENDに進む)。
【0050】
本実施例に係るX線撮影装置50によれば、X線管3の磁場発生器29は、陰極25から照射された電子ビームを偏向させて陽極31の所定の位置に当てて、X線を発生させている。偏向調整制御部53により磁場発生器29を操作することにより、電子ビームが衝突する陽極31の焦点位置が移動する。このように、X線を発生する焦点位置が移動することを利用して、X線管3等の取付時におけるX線検出器5の検出面5a中心に照射されたX線の中心軸であるX線軸を位置合わせする軸合わせを行う。すなわち、偏向調整制御部53は、X線検出器5の検出面5a中心に対するX線軸の位置ズレ情報に基づき、磁場発生器29の電子ビームの偏向を調整し、X線検出器5の検出面5a中央にX線軸を位置合わせする。したがって、軸合わせを、例えばX線が遮蔽された装置から離れた場所から操作することができるので、X線の被ばくを軽減することができる。また、磁場発生器29で電子ビームの偏向を調整することにより軸合わせを容易に行うことができるので、工数を抑えることができる。よって、作業者の負担を軽減させることができる。
【実施例3】
【0051】
次に、図面を参照して本発明の実施例3を説明する。図9は、実施例3に係るX線撮影装置の概略構成を示すブロック図である。なお、上述した実施例と重複する構成については、その説明を省略する。
【0052】
上述した実施例2は、偏向調整制御部53(電源部39と電流情報変換部51等)を備え、作業者は、表示部19に表示されたマーカー43の位置ズレ情報に基づき、X線軸を位置合わせする移動情報(位置ズレ情報)を入力することで、移動情報に応じた電流情報に変換し、各磁極29aのコイル29cにそれぞれ電流を供給していた。すなわち、作業者が移動情報を入力することで軸合わせを行っていた。実施例3のX線撮影装置60では、移動情報(位置ズレ情報)を、X線検出器5から取得した画像に基づいて算出する位置ズレ情報算出部61を備えている。
【0053】
図9を参照する。画像処理部15は、位置ズレ情報算出部61を有する。位置ズレ情報算出部61は、X線検出器5から取得した画像に基づいてX線検出器5の検出面5a中心に対するX線軸の位置ズレ情報を算出する。位置ズレ情報算出部61は、X線検出器5の検出面5a中心、すなわち画像の中心と、画像に含まれるマーカー43の位置との位置ズレ情報(位置ズレ量と方向)を算出する。この位置ズレ情報は偏向調整制御部53に送信される。なお、位置ズレ情報算出部61は、画像処理部15と独立して設けられていてもよい。
【0054】
次に、図10を参照して、本実施例のX線撮影装置60の動作、特に軸合わせ方法を説明する。ステップS21〜ステップS23は、実施例1のステップS01〜ステップS03と同じであるので、その説明を省略する。
【0055】
〔ステップS24〕位置ズレ情報の算出
X線管3から照射されたX線は、X線検出器5で検出される。X線検出器5からX線の強度分布に応じてX線検出信号が出力される。このX線検出信号に基づき取得した画像は、画像処理部15により必要な種々の画像処理が行われる。そして、取得した画像は、表示部19に表示される。表示部19の表示画面には、マーカー43が映される。また、位置ズレ情報算出部61は、X線検出器5から取得した画像に基づいてX線検出器5の検出面5a中心に対するX線軸の位置ズレ情報を算出する。
【0056】
〔ステップS25〕位置ズレの判定
位置ズレ情報算出部61で算出された位置ズレ情報に基づき、位置ズレの有無を判定する。判定は、例えば、位置ズレ量が予め設定された値以下(未満)の場合に、位置ズレ無しと判定し、位置ズレ量が予め設定された値より大きい(以下)の場合に、位置ズレ有りと判定する。位置ズレしている場合は、ステップS26に進み、位置ズレが無い場合は、終了する(ENDに進む)。
【0057】
〔ステップS26〕X線軸の位置合わせ(移動情報入力)
図5に示すように、X線軸XA1が位置ズレしているとする。作業者は、入力部21から軸合わせの作業をX線撮影装置60に実行させる。偏向調整制御部53は、算出された位置ズレ情報に基づいてX線検出器5の検出面5a中心にX線軸XA1を位置合わせする。
【0058】
具体的には、作業者の入力部21からの指示により、X線撮影装置60の位置ズレ情報算出部61は、X線検出器5から取得した画像に基づいてX線検出器5の検出面5a中心に対するX線軸の位置ズレ情報を算出する。電流情報変換部51は、位置ズレ情報(移動情報)に応じた電流情報に変換し、電源部39は、電流情報に基づき、磁場発生器29の各磁極29aのコイル29cにそれぞれ電流を供給する。それにより、表示部19の表示画面の中央、すなわちX線検出器5の検出面5aにX線軸を位置合わせすることができる。
【0059】
なお、ステップS24〜ステップS26を繰り返し、ステップS25において、位置ズレが無い場合は、終了する(ENDに進む)。
【0060】
本実施例に係るX線撮影装置60によれば、X線検出器5から取得した画像に基づいて位置ズレ情報算出部61でX線検出器5の検出面5aの中心に対する位置ズレ情報を算出する、この位置ズレ情報に基づいて、偏向調整制御部53は、磁場発生器29を操作することで焦点位置を移動させて、X線検出器5の検出面5a中心にX線軸を位置合わせする。すなわち、軸合わせを自動で行うことができるので、軸合わせを容易に行うことができ、さらに工数を抑えることができる。
【0061】
本発明は、上記実施形態に限られることはなく、下記のように変形実施することができる。
【0062】
(1)非破壊検査機器などの工業用装置やX線診断装置などの医用装置にも適用することができる。
【0063】
(2)上述した各実施例では、外囲器33は、陽極31と一体となって回転するが、これに限定されない。例えば、外囲器33は固定され、陽極31のみ回転するようにしてもよい。
【0064】
1,50,60 … X線撮影装置
3 … X線管
5 … X線検出器
7 … コリメータ
15 … 画像処理部
25 … 陰極
29 … 磁場発生器
29a… 磁極
31 … 陽極
39 … 電源部
43 … マーカー
51 … 電流情報変換部
53 … 偏向調整制御部
61 … 位置ズレ情報算出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビームを発生させる陰極と前記陰極からの電子ビームを偏向させる電子ビーム偏向部と前記電子ビーム偏向部で偏向された電子ビームの衝突によりX線を発生させる陽極とを有するX線を照射するX線管と、前記X線管から照射されたX線を検出するX線検出器とを備えたX線撮影装置におけるX線検出器の検出面中心に照射されたX線の中心軸であるX線軸を位置合わせする軸合わせ方法であって、
前記X線検出器の検出面中心に対するX線軸の位置ズレ情報に基づき、前記電子ビーム偏向部の電子ビームの偏向を調整し、前記X線検出器の検出面中央にX線軸を位置合わせする軸合わせ方法。
【請求項2】
電子ビームを発生させる陰極と、前記陰極からの電子ビームを偏向させる電子ビーム偏向部と、前記電子ビーム偏向部で偏向された電子ビームの衝突によりX線を発生させる陽極とを有するX線を照射するX線管と、
前記X線管から照射されたX線を検出するX線検出器と、
前記X線検出器の検出面中心に対する、照射されたX線の中心軸であるX線軸の位置ズレ情報に基づき、前記電子ビーム偏向部の電子ビームの偏向を調整し、前記X線検出器の検出面中央にX線軸を位置合わせする偏向調整制御部と、
を備えていることを特徴とするX線撮影装置。
【請求項3】
請求項2に記載のX線撮影装置において、
前記X線検出器から取得した画像に基づいて前記X線検出器の検出面中心に対するX線軸の位置ズレ情報を算出する位置ズレ情報算出部を備え、
前記偏向調整制御部は、算出された位置ズレ情報に基づいて前記X線検出器の検出面中心にX線軸を位置合わせすることを特徴とするX線撮影装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載のX線撮影装置において、
前記X線管のX線照射側に取り付けられ、X線の照射野を調整するコリメータを備えていることを特徴とするX線撮影装置。
【請求項5】
請求項2から4のいずれかに記載のX線撮影装置において、
X線照射側に取り付けられ、X線を遮蔽するマーカーを備えていることを特徴とするX線撮影装置。
【請求項6】
請求項4に記載のX線撮影装置において、
前記コリメータの複数枚のリーフにより形成される開口部の中心でかつ、前記複数枚のリーフと同じ高さに取り付けられ、X線を遮蔽するマーカーを備えていることを特徴とするX線撮影装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−196327(P2012−196327A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62633(P2011−62633)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】