説明

軸流形回転流体機械

【課題】共振を防止する軸流形回転流体機械を提供すること。
【解決手段】静翼4の端部を周方向に連結する静翼環2、3は、180度ずつで上下分離して車室に組み付けられるのが通常である。本発明は、まず、この組み付けをコーキング等で固定せずに、車室の分割面からガイドに沿って静翼環2、3を通す、いわゆるフローティング構造として、周方向に移動可能にしておく。そして、静翼環2、3を運転中に周方向に回動可能とする。静翼環2を回動させる具体的な機構としては、車室内または車室外に取り付けたモータ10や原動機で、ラック&ピニオン機構のようなねじ機構を動かすもの等が挙げられる。なお、これらの機構は、静翼環2の一カ所に設けてもよいし、周上の複数箇所に設けてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスタービンや蒸気タービン等の軸流形回転流体機械に関し、更に詳しくは、回転軸に対して直角となる平面を回転する動翼に対し、励振力として作用する静翼環の構造に工夫を加え、励振力の周波数成分を当該動翼の固有振動数と一致しないようにする軸流形回転流体機械に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ガスタービンや蒸気タービン等の軸流形回転流体機械の動翼には、運転中に励振力を受けることが知られている(たとえば、特許文献1)。これらの励振力には、動翼の前段に設けられる静翼(蒸気タービンでは翼形ノズルと呼ばれることが多い)のウェイクによるものや、回転する動翼の後段に設けられる静翼とのポテンシャル干渉が代表的である。
【0003】
図9は、運転中の動翼の応力を示すキャンベル線図であり、横軸は動翼の回転数、縦軸は振動数である。同図で丸印23となっている所は、応力の大きい箇所を示している。上記静翼のウェイクやポテンシャル干渉が動翼に対する励振力となる場合は、当該励振力の周波数は、静翼や動翼の枚数に比例するから、タービンの回転数が上がるに従って、励振力が引き起こす振動の振動数も大きくなる。動翼の応力は、当該振動数が点線で示した動翼の固有振動数と一致する点で大きくなる。
【0004】
【特許文献1】特開平8−61001号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、ガスタービンや蒸気タービンが発電機として用いられる場合は、定格回転数で高いタービン効率が求められる。設計も定格運転での性能を第一にされる。したがって、タービン停止状態から定格回転数に至るまでの過程での振動は、定格回転数に至るまでの過渡的な現象として、大きな工夫がされていないのが現状である。しかしながら、励振周波数が動翼の固有振動数と一致し、共振によって大きくなると、最悪の場合、動翼が破損するおそれが生じてしまう。
【0006】
そこで、本発明は上記に鑑みてなされたものであって、静翼の翼環に工夫を加えることにより、動翼に対する励振力の周期を操作し、固有振動数における激しい共振によって動翼が破損する事態を避けることのできる軸流形回転流体機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するために、請求項1に係る軸流形回転流体機械は、動力軸に直角な平面を当該動力軸中心に回転する動翼と、前記動翼の回転面に対向して平行に設けられる静翼と、前記静翼の端部を周方向に連結する静翼環と、を有する軸流形回転流体機械において、前記静翼環は、車室のガイド溝により摺動可能にされると共に、運転中にアクチュエータ機構によって周方向に回動可能であるようにしたものである。
【0008】
機械の運転中に静翼環がアクチュエータと歯車・リンク等の組み合わせであるアクチュエータ機構によって周方向に回動可能であると、静翼と動翼との干渉によって発生する励振力の周波数成分が変わる。これにより、動翼の激しい共振を回避可能となる。なお、軸流形回転流体機械とは、回転軸にそって動作流体が流れ、その流体のエネルギーを機械的エネルギーに変換する機械であり、ガスタービンや蒸気タービンといったターボ流体機械が代表的である。軸流形回転流体機械は、定格回転数のときの効率を第一に設計され、静翼と動翼との位相も当該定格回転数となった状態で設定される。この発明は、機械始動から定格回転数に至るまでの過渡状態における、動翼の激しい共振回避に用いることができるし、定格回転数に至った後の微調整にも用いることができる。
【0009】
また、請求項2に係る軸流形回転流体機械は、前記軸流形回転流体機械において、前記静翼環が、360度全周が一様に回動可能であるようにしたものである。
【0010】
静翼環が連結する静翼は、タービン軸が定格回転数となったときに最も効率よく動翼を動かせるようにクロッキングされる場合がある。しかしながら、クロッキングは、静翼のウェイクによる動翼への励振力を増大させてしまうという性質がある。そこで、軸流形回転流体機械が定格回転数に至るまでの過渡状態においては、静翼環の全体が周方向に一様に回動可能とされることで、励振力の周波数成分が可変となり、激しい共振が回避される。なお、静翼環全体を回動させるために、静翼環は、ガイド式のフローティング構造で車室に組み付けられる。
【0011】
また、請求項3に係る軸流形回転流体機械は、前記軸流形回転流体機械において、前記静翼環が、180度半周分が一様に回動可能であるようにしたものである。
【0012】
静翼環の180度半周分が一様に回動可能となりオフセットされると、静翼配置の非対称化に伴う性能変化を最小にし、かつ静翼と動翼との干渉による励振力の周波数成分が可変となる。これによって、動翼の応答が低減される。
【0013】
また、請求項4に係る軸流形回転流体機械は、前記軸流形回転流体機械において、前記静翼環が、外周部に突起めねじ部または歯部が設けられ、当該突起めねじ部または歯部に係合するおねじ、または歯車機構が原動機によって動作することによって回動可能であるようにしたものである。
【0014】
また、請求項5に係る軸流形回転流体機械は、前記軸流形回転流体機械において、前記静翼環が、半径方向に突起部を有し、電磁石、油圧アクチュエータ、差圧アクチュエータによって当該突起部が周方向に動かされることによって回動可能であるようにしたものである。
【0015】
静翼環の回動方式としては、静翼環の外周部にねじ部または歯部が設けられ、当該ねじ部または歯部に係合するねじ機構または歯車機構が原動機によって動作するようにしてもよいし、静翼環の半径方向に突起部を有するようにして、電磁石、油圧アクチュエータ、または差圧アクチュエータによって当該突起部が周方向に動かされるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明にかかる軸流形回転流体機械によれば、静翼の翼環に工夫を加えることにより、動翼に対する励振力の周波数を操作し、固有振動数における共振によって動翼の破損を招くような事態を回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明に係る軸流形回転流体機械の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【実施例】
【0018】
図1は、動力軸方向からみた静翼と静翼環を示す外観図である。同図は、ガスタービンのタービン軸(動力軸)中心に回転する動翼に対向して平行に設けられる静翼4と静翼環2、3の組み合わせ体1を示しているが、これに限らず、蒸気タービンの仕切板でも基本的に同様に考えられる。また、タービンの静翼4と静翼環2、3に限らず、圧縮機の静翼、静翼環に適用してもよい。タービンでは、図示しない動翼と静翼4とがタービン軸方向に多段に組み合わされるが、ここでは、そのうちの一つの静翼4、静翼環2、3について説明する。他の段については同様に考えればよい。なお、動翼はタービン軸に直角な平面を回転する。
【0019】
静翼4の端部を周方向に連結する静翼環2、3は、多段に設ける静翼環の間に、動翼輪を通して組み合わせることから、180度ずつで上下分離して車室に組み付けられるのが通常である。本発明は、まず、この組み付けをコーキング等で固定せずに、車室の分割面からガイド溝(図示省略)に沿って静翼環2、3を通す、いわゆるフローティング構造として、周方向に摺動(移動)可能にしておく。そして、ねじ機構、歯車機構、リンク機構、電磁石、油圧装置、差圧装置、その他これらとアクチュエータの組み合わせ(以後、アクチュエータ機構という)によって、静翼環2、3を運転中に周方向に回動可能とする。
【0020】
回転流体機械の運転中に静翼環2、3が周方向に回動可能であると、静翼との干渉(ウェイク、ポテンシャル干渉)によって発生する動翼への励振力の周波数成分が変わる。これにより、励振力の周波数が固有振動数と一致して動翼が共振により大きな応力を発生するに至り、破損するという事態を回避可能となる。軸流形回転流体機械は、定格回転数のときの効率を第一に設計され、静翼4と動翼との位相も当該定格回転数となった状態を想定して決定される。定格回転数となった状態では、静翼環2、3を回動させる必要はないが、この発明は、機械始動から定格回転数に至るまでの過渡状態における、動翼の共振回避に用いると効果的である。なお、定格回転数に至った後の微調整にも用いることもできる。
【0021】
また、静翼環2、3を回動可能にすることは、静翼4の配置をずらすということであるが、ずらす大きさは、静翼4のピッチでいえば0〜0.2ピッチほどで十分効果が得られる。したがって、静翼4の配列の非対称性に伴う性能変化も少なくて済むという効果もある。なお、当該非対称性に伴う性能変化を最小にするには、上記静翼環2、3のうち、どちらか片方の180度分の静翼環2、3を回動可能にする。
【0022】
ここで、多段に設けられる静翼4、6と動翼5との配置について説明する。図2は、静翼4、6と動翼5の関係を示す説明図である。これらの翼配置については、学術的にも研究が進んでいる分野であり、時間平均した場合に前段の静翼6からのウェイクWが後段の静翼4の先端に流れるような配置がタービン効率上最も好ましいと言われている。このような配置決定はクロッキングと言われる。
【0023】
しかし、静翼4、6と動翼5をクロッキング配置すると、タービン効率上は好ましくなる一方で、前段の静翼6のウェイクWにより圧力分布の差が大きくなり、励振力が増大するということもわかっている。そこで、このような場合は、図3に示すように、360度全周にわたって静翼環2、3を回動可能にするとよい。これにより、励振力の周波数成分が変わり、励振力の大きさを低減させることができる。なお、励振力の全周を回動可能にするには、180度分ずつに分割された静翼環にアクチュエータ機構を設けて、同時に作動させてもよいし、180度分ずつに分割された静翼環を結合部7でボルト結合する等して、一つのアクチュエータ機構で回動させるようにしてもよい。
【0024】
図4は、モータとねじ機構によって静翼環2を回動させる様子を示す説明図である。図5は、歯車機構によって静翼環2を回動させる様子を示す説明図である。静翼環2を回動させる具体的な機構としては、車室内または車室外に取り付けたモータ10や原動機で、ラック&ピニオン機構のようなねじ機構を動かすものや、歯車機構が挙げられる。なお、これらの機構は、静翼環2の一カ所に設けてもよいし、周上の複数箇所に設けてもよい。
【0025】
図6は、電磁石を用いた機構で静翼環2を回動させる様子を示す説明図である。図7は、油圧アクチュエータを用いた機構で静翼環2を回動させる様子を示す説明図である。図8は、差圧アクチュエータを用いた機構で静翼環2を回動させる様子を示す説明図である。これらは、静翼環の半径方向に突起部16、18、21を有するようにして、電磁石15、油圧アクチュエータ17、または弁18の切り替えによって高圧部20の圧力がピストンを一方向に動かす差圧アクチュエータによって当該突起部16、18、21を周方向に動かすものである。なお、これらの機構を複数箇所に設けてもよいのは上述した通りである。
【0026】
このように、本発明にかかる軸流形回転流体機械によれば、一般的なアクチュエータ機構を用いて、運転中の静翼環をを回動可能にできるので、動翼に対する励振力の周波数成分を操作でき、固有振動数における共振によって動翼の破損を招く事態を回避することができる。特に、機械始動から定格回転に至るまでの過渡状態における動翼の振動を抑制するのに極めて効果的である。
【産業上の利用可能性】
【0027】
以上のように、本発明にかかる軸流形回転流体機械は、ガスタービンや蒸気タービン等の軸流形ターボ機械等の多段タービンに用いることができる。したがって、本発明は、定格運転時のみならず停止状態から定格運転時までの過渡状態時においても、動翼を破損するおそれのある状態を回避することのできる軸流形回転流体機械の生産に資する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】動力軸方向からみた静翼と静翼環(分割環)を示す外観図である。
【図2】静翼4、6と動翼5の関係を示す説明図である。
【図3】動力軸方向からみた静翼と静翼環(全周)を示す外観図である。
【図4】モータとねじ機構によって静翼環2を回動させる様子を示す説明図である。
【図5】歯車機構によって静翼環2を回動させる様子を示す説明図である。
【図6】電磁石を用いた機構で静翼環2を回動させる様子を示す説明図である。
【図7】油圧アクチュエータを用いた機構で静翼環2を回動させる様子を示す説明図である。
【図8】差圧アクチュエータを用いた機構で静翼環2を回動させる様子を示す説明図である。
【図9】運転中の動翼の応力を示すキャンベル線図である。
【符号の説明】
【0029】
1 静翼と静翼環との組み合わせ体
2 静翼環
4、5、6 静翼
5 動翼
7 結合部
10 モータ
15 電磁石
16 突起部
17 油圧アクチュエータ
18 弁
20 高圧部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力軸に直角な平面を当該動力軸中心に回転する動翼と、
前記動翼の回転面に対向して平行に設けられる静翼と、
前記静翼の端部を周方向に連結する静翼環と、
を有する軸流形回転流体機械において、
前記静翼環は、車室のガイド溝により摺動可能にされると共に、運転中にアクチュエータ機構によって周方向に回動可能であることを特徴とする軸流形回転流体機械。
【請求項2】
前記静翼環は、360度全周が一様に回動可能であることを特徴とする請求項1に記載の軸流形回転流体機械。
【請求項3】
前記静翼環は、180度半周分が一様に回動可能であることを特徴とする請求項1に記載の軸流形回転流体機械。
【請求項4】
前記静翼環は、外周部に突起めねじ部または歯部が設けられ、当該突起めねじ部または歯部に係合するおねじ、または歯車機構が原動機によって動作することによって回動可能であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の軸流形回転流体機械。
【請求項5】
前記静翼環は、半径方向に突起部を有し、電磁石、油圧アクチュエータ、差圧アクチュエータによって当該突起部が周方向に動かされることによって回動可能であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の軸流形回転流体機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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