説明

軽量性に優れた建物用遮熱材

【課題】軽量性や遮熱のほか、通気性や通水性などの耐候性にも優れた、建物用遮熱材を提供する。
【解決手段】繊維軸方向に不連続な中空部を有する合成繊維を用いた繊維構造体からなる、屋外設置用の建物用遮熱材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は軽量性に優れた建物用遮熱材に関する。さらに詳しくは、軽量性と熱線反射性に優れると共に熱気などを容易に逃がしうる繊維構造体からなる屋外で用いる建物用遮熱材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、合成繊維の技術開発はめざましい発展を遂げ、様々な新機能を備えた繊維が開発されている。その中でも「熱」の制御を謳った繊維あるいは繊維構造体の開発については、(1)少子高齢化に伴い、衣服内環境を制御しうる快適衣料の市場が拡大、(2)アウトドアスポーツの人気・定着により保温衣料の市場が拡大、(3)省エネルギー化の高まりに伴い様々な内外装材構造が変化(重厚長大なものから軽薄短小なものへ)、などの面から注目されている。そしてそれら熱の制御においては、往々にして軽量化も求められているのが実情である。
【0003】
繊維構造体を形成する繊維自体にこれら熱の制御機能を担持する方法としては、主に繊維を形成する材料(一般的に高分子材料)に比熱の異なる材料(金属あるいは金属酸化物、相転移材料など)を担持する方法と、比熱の大きい空気層(例えば中空部)を設ける方法がある。しかし前者においては多くの場合、優れた機能を持つ繊維材料と成すには繊維の見かけ比重が大きくなる、すなわち繊維構造体が重くなりがちであるために、少量混ぜたり、一部分のみに適用したりと限定的な使用に留まることが多かったし、一方で後者のような繊維中に中空部を設ける方法では、確かに軽量性も具備しうるものの、中空部が潰れて機能を逸したり、逆に中空部の潰れを抑制するために中空部を小さくしてしまうために、軽量性が劣りがちになるなど、一長一短であった。
【0004】
例えば、中空のポリエステル繊維を用いた建物内部に用いる断熱構造体についての技術が提案されている(特許文献1参照)。該技術においては、中空繊維の断熱効果を利用した不織布を作製して、これを建物内部(例えば屋根裏)の壁に断熱材として用いるのであるが、単に中空部の空気層による断熱効果のみを利用したのであって、通気性はなくまた屋外での使用についての技術指針や示唆はなかった。
【0005】
本発明者らは、繊維中に無数の中空部を有する繊維からなる軽量性と遮光性に優れる繊維製品(カーテンやブラインド、あるいはテント)を既に提案している(特許文献2参照)。該技術においては、繊維中に有する無数の中空部により、高い軽量性と光反射性を具備し、また中空部が微細であるために中空部が潰れにくく、長期間にわたってこれら性能が衰えることがない。しかし高い光反射性能を有するべく光の透過を許さない繊維構造体を目指したものであって、さらに耐候性、特に屋外での使用に際し、強い風雨に晒された用途においては技術的な指針を見いだしたものではなかった。
【特許文献1】特表2003−525772号公報(特許請求の範囲、段落[0046])
【特許文献2】特開2005−248340号公報(特許請求の範囲、段落[0090])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解消し、軽量性と遮熱性に優れ、屋外での使用に適した、十分な耐候性を有する繊維構造を有する建物用遮熱材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するため、以下の構成を採用するものである。
【0008】
(1)繊維軸方向に不連続な中空部を有する合成繊維を用いた繊維構造体からなる、屋外設置用の建物用遮熱材。
【0009】
(2)着色された合成繊維を用いた繊維構造体であることを特徴とする前記(1)に記載の建物用遮熱材。
【0010】
(3)繊維構造体が編物および/または網状物であることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の建物用遮熱材。
【0011】
(4)繊維構造体における合成繊維の空間充填率が40体積%〜95体積%であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか1項記載の建物用遮熱材。
【0012】
(5)波長域600〜1400nmにおける透過光率が40%以下であることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか1項記載の建物用遮熱材。
【0013】
(6)通気度が10cc/cm/秒以上であることを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれか1項記載の建物用遮熱材。
【0014】
(7)屋根上設置用であることを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれか1項記載の建物用遮熱材。
【発明の効果】
【0015】
本発明の建物用遮熱材は、構成する繊維自体の特徴として、繊維軸方向に不連続な中空部が、繊維軸方向に垂直な繊維横断面において無数に存在する、すなわち微細な中空部を繊維中に多数有していることから、高い軽量性と優れた遮光性能を有した繊維構造体が形成されており、結果的に太陽から発せられる熱線を反射して高い遮熱性能を有している。また繊維構造体としてのスペック(布帛構造、通気度、繊維の空間充填率)をより最適なものとすることによって、設置する場所の機構に応じた遮熱材としうるものであり、特に通気性あるいは雨水など通水性の高い繊維構造体を形成しうるため、例えば強い風雨を伴う台風の通過に際しても、効果的に雨水と風を逃がすことが可能で、また繊維自身の高い破断強度と相まって、破損しにくい耐候性の優れる遮熱材が得られる。特に本発明の建物用遮熱材は、建物の温度上昇を防ぐことで夏場(高温期)の省エネルギーに寄与しうるし、施工面でも軽量性に優れることから持ち運びが容易でかつ少量でも高い遮熱性能を有することから、柔軟性や可撓性にも優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の建物用遮熱材を形成する繊維材料は、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、ポリフェニレンサルファイド、フッ素系ポリマー、セルロース系ポリマーなど、繊維状の構造を形成できるものが好適に用いられるが、屋外に設置して用いられる際に素材の耐久性、耐候性に優れ、また溶融紡糸により容易に成型が可能であることから、ポリエステルが特に好ましい。本発明でいうポリエステルとは、カルボン酸とアルコールのエステル化反応により形成されるポリエステルであって、ジカルボン酸化合物とジオール化合物のエステル結合から形成される重合体を挙げることができ、これらにかかるポリマとしては、ポリエチレンテレフタレート(以下、PET系ポリマーと略記する)、ポリプロピレンテレフタレート(ポリトリメチレンテレフタレートとも言う、以下、3GT系ポリマーと略記する)、ポリブチレンテレフタレート(ポリテトラメチレンテレフタレートとも言う、以下、PBT系ポリマーと略記する)、ポリエチレンナフタレート(以下、PEN系ポリマーと略記する)、ポリシクロヘキサンジメタノールテレフタレート(以下、PCHDMT系ポリマーと略記する)などが挙げられる。
【0017】
またこれらジカルボン酸化合物とジオール化合物のエステル結合から形成される重合体には、本発明の目的、すなわち高い軽量性と高い遮光性(遮熱性)を損ねない範囲で他の成分が共重合されていても良く、共重合成分として、例えば、ジカルボン酸化合物としては、例えば、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルエタンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、5ーナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、といった芳香族、脂肪族、脂環族ジカルボン酸およびそれらのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体、光学異性体を挙げることができ、これらジカルボン酸化合物のうち1種を単独で用いても良いし、または発明の目的を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0018】
また共重合成分として、例えばジオール化合物としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、ハイドロキノン、レゾルシン、ジヒドロキシビフェニル、ナフタレンジオール、アントラセンジオール、フェナントレンジオール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4´−ジヒドロキシジフェニルエーテル、ビスフェノールS、といった芳香族、脂肪族、脂環族ジオール化合物およびそれらのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体、光学異性体を挙げることができ、これらジオール化合物のうち1種を単独で用いても良いし、または発明の目的を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0019】
また共重合成分として、1つの化合物に水酸基とカルボン酸を具有する化合物、すなわちヒドロキシカルボン酸を挙げることができ、該ヒドロキシカルボン酸としては、例えば乳酸、3−ヒドロキシプロピオネート、3−ヒドロキシブチレート、3−ヒドロキシブチレートバリレート、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシナフトエ酸、ヒドロキシアントラセンカルボン酸、ヒドロキシフェナントレンカルボン酸、(ヒドロキシフェニル)ビニルカルボン酸といった芳香族、脂肪族、脂環族ジオール化合物およびそれらのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体、光学異性体を挙げることができ、これらヒドロキシカルボン酸のうち1種を単独で用いても良いし、または発明の目的を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0020】
さらに共重合成分としては、1つの化合物に1分子内に3つ以上のエステル形成性官能基を有する多官能性分子であっても良く、該エステル形成性官能基としては、水酸基、カルボキシル基、水酸基とカルボキシル基の縮合により形成されるエステル結合、のいずれかの官能基であれば良く、該多官能性分子としては、例えばペンタエリスリトール、ピロメリット酸、トリメチロールプロパン、トリメリット酸、ジメチロールプロピオン酸、ジペンタエリスリトール、グリセロール、ソルビトール、トリメチロールエタン、トリメチロールブタン、1,3,5−トリメチロールベンゼン、1,2,6−ヘキサントリオール、2,2,6,6−テトラメチロールシクロヘキサノール、ヘミメット酸、トリメシン酸、プレニット酸、メロファン酸、5−ヒドロキシイソフタル酸、2,5−ジヒドロキシイソフタル酸、2,5−ジヒドロキシテレフタル酸、等およびこれらのエステル化合物が挙げられ、これらはアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体、光学異性体であっても良く、これら多官能性分子のうち1種を単独で用いても良いし、または発明の目的を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いても良い。これら多官能性分子を共重合させた場合には、中空部がより多く、あるいはより小さく緻密に生成するため好ましい。
【0021】
また本発明におけるポリエステルとしては、芳香族、脂肪族、脂環族などの1つの化合物がカルボン酸と水酸基を両方有したヒドロキシカルボン酸化合物を主たる繰り返し単位とする重合体であっても良く、これらにかかる重合体としては、ポリ乳酸、ポリ(3−ヒドロキシプロピオネート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレートバリレート)、といったポリ(ヒドロキシカルボン酸)を挙げることができ、その他にも、これらポリ(ヒドロキシカルボン酸)には、本発明の目的を損ねない範囲で芳香族、脂肪族、脂環族ジカルボン酸、あるいは芳香族、脂肪族、脂環族ジオール成分が用いられていてもよく、あるいは複数種のヒドロキシカルボン酸が共重合されていても良い。
【0022】
そしてこれらポリエステルのうち、PET系ポリマー、3GT系ポリマー、PBT系ポリマー、あるいはポリ乳酸がより好ましく、PET系ポリマー、3GT系ポリマー、PBT系ポリマーは特に軽量性が発現しやすく、また融点が高くて耐変形特性も優れるため、最も好ましい。
【0023】
前述の好ましいとする繊維素材であるポリエステルは、通常合成繊維に供する固有粘度(以下IV)のポリエステルを使用することができる。PET系ポリマーであれば、IV0.4〜1.5であることが好ましく、0.5〜1.3であることがより好ましい。また、3GT系ポリマーであれば、IV0.7〜2.0であることが好ましく、0.8〜1.8であることがより好ましい。あるいはPBT系ポリマーであれば、IV0.8〜2.5であることが好ましく、1.0〜2.0であることがより好ましい。また本発明に用いるポリエステルで、IVにて評価しないものとしてポリ乳酸に代表されるポリ(ヒドロキシカルボン酸)があるが、これらは重量平均分子量(以下単に平均分子量と称することがある)にて記載しうるものであり、例えばポリ乳酸であれば平均分子量が5万〜50万のものが通常用いられ、好ましくは10万〜30万、加工性や紡糸性を考えると15万〜25万の平均分子量のポリ乳酸がより好ましく用いられる。
【0024】
本発明の建物用遮熱材において、好ましいとされるポリエステル繊維中のポリエステルの含有量は、前述の耐候性に優れる観点から50重量%以上であることが好ましい。特に、繊維物性において強度を高くしうることから、繊維におけるポリエステル含有量は高いほど好ましく、70重量%以上であることが好ましく、より好ましくは80重量%以上、さらにより好ましくは85重量%以上である。また繊維中に不連続な中空部を生成するべくポリエステルと非相溶の重合体を含有することから、繊維中のポリエステルの含有量は99重量%以下が好ましい。
【0025】
本発明の建物用遮熱材に好ましく用いられるポリエステルからなる繊維(以下、ポリエステル繊維と略記することがある)は、前述のポリエステルと、ポリエステルに対して非相溶の重合体(以下、非相溶ポリマーと略記することがある)とからなるブレンド繊維である。具体的には、非相溶ポリマーは、ポリエステルに対して非相溶であるために、ポリエステル繊維の繊維軸方向に垂直な単繊維横断面において、島状に存在して見える。本発明において「非相溶」とは、ポリエステルと非相溶ポリマーとが高分子の分子鎖サイズオーダーで相溶せず、ポリエステルの中で非相溶ポリマーにより形成される島の平均サイズ(島の最も短い直径相当長さ)が、少なくとも10nmの大きさを有するものを指す。ポリエステルと非相溶ポリマーとが相溶性である場合、すなわち島状の非相溶ポリマーの平均サイズが10nm以下である場合、得られた繊維は繊維軸方向に不連続な中空部(以下、繊維軸方向に不連続な中空部をただ単に「中空部」とのみ略記することがある)を有することがないか、もしくは軽量性に優れた繊維となるのに必要な中空部が十分に発現しない。つまり結果的に軽量性に劣る繊維となる。
【0026】
本発明における非相溶ポリマーは、ポリエステルに対して前述のとおり非相溶であれば、多種多様な重合体を使用することができる。その重合体としては、例えば、ポリアミド、ポリオレフィンやその他ビニル重合体、フッ素系ポリマ、シリコーン系ポリマー、などの重合体を好適なものとして挙げることができる。
【0027】
より具体的には、例えばビニル基を有したモノマーが、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合といった付加重合反応、もしくは開環重合反応により合成されるポリオレフィンやその他のビニル重合体などを挙げることができる。ポリオレフィンであればポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリメチルペンテンの単独重合体あるいは共重合体、誘導体が挙げられ、またその他のビニル重合体であればポリスチレン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリロニトリル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニリデン、ポリシアン化ビニリデン、およびこれらの共重合体や誘導体などが挙げられるものの、これら付加重合反応もしくは開環重合反応により合成されるポリマーの中で、臨界表面張力が低いために前述で好ましいとするポリエステルとの界面が剥離しやすく、繊維中に中空部を生成しやすい、あるいはポリマーの密度が小さいために軽量性に優れるなどの観点から、好ましいものとしてポリオレフィンを挙げることができる。
【0028】
該好ましいとするポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリメチルブテン、ポリメチルペンテン、ポリエチルペンテン、ポリヘキセン、などが挙げられる。これらポリオレフィンの中で融点が高く、また臨界表面張力が低いことからポリプロピレン、ポリブテン、ポリメチルペンテンが特に好ましい。これら好ましいとするポリオレフィンについては、モノマーが80モル%以上を占める共重合体あるいは単一モノマーからなる単独重合体のどちらであっても良い、単独重合体がより好ましい。特に該ポリメチルペンテンは融点が200℃以上と高く、かつ臨界表面張力も低く、最も好ましい。
【0029】
そのほかに、脂環族モノマーの開環重合、付加重合などにより合成される、例えば下記化学式1、化学式2、あるいは化学式3に示す、環状構造を有するポリオレフィンが好ましいものとして挙げられる。
【0030】
【化1】

【0031】
【化2】

【0032】
【化3】

【0033】
ここで置換基X、Yはそれぞれ、水素、アルキル基、脂環基、シアノ基、アルキルエステル基、脂環エステル基の中から選ばれる基である。
【0034】
上記これら非相溶ポリマーとして用いられるポリオレフィンは、モノマー1種類を単独で用いた単独重合体であっても良く、あるいは複数種を用いた共重合体であっても良く、さらにはオレフィンと他のビニル化合物とを共重合した共重合体であってもよい。共重合成分として具体的には、2〜6個の炭素原子を有する飽和脂肪族カルボン酸のビニルエステルや、1〜20個の炭素原子を有するアルコールから導かれるアクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルや、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、テトラヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、ナジック酸などの不飽和カルボン酸あるいは該不飽和カルボン酸の酸ハライド、アミド、イミド、酸無水物およびエステルや、スチレンあるいはスチレン誘導体や、アクリロニトリルあるいはアクリロニトリル誘導体や、ビニロキシアルキル誘導体(アルコール型あるいはカルボン酸型)といったビニル化合物、あるいは脂肪族系の環状構造(脂環構造)を持つビニル化合物などが挙げられる。
【0035】
また非相溶ポリマーとしては、変形しにくい観点から、ガラス転移温度(Tg)が高いポリマーが好ましく、ポリスチレン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、あるいはポリアクリロニトリルのか今日ポリマーが好ましいポリマー挙げられる。特にポリスチレンやポリメタクリル酸メチルの架橋構造体は、Tgが100℃以上と高く、かつ架橋構造のため極めて変形性に乏しいことに加え、前述にて好ましいとされるポリエステルとの親和性も高く微分散しうることから、本発明で用いられるポリエステル繊維において微細な中空部を効率的に生成しうるため、結果的に繊維の軽量性が高くて好ましい。
【0036】
本発明にて用いる繊維中の非相溶ポリマーは、前述に列挙した多種多様なポリマを1種類を単独で用いても良く、あるいは発明の目的を損ねない範囲において、複数種を併用しても良い。
【0037】
本発明の建物用遮熱材に用いられる繊維は、繊維を形成するポリマー、特に好ましくはポリエステルと非相溶ポリマーとからなる中空部を有する繊維であるが、繊維中の繊維軸方向に不連続な中空部は緻密となり軽量性に優れることから、該非相溶ポリマーの繊維軸に垂直な単繊維横断面における平均分散直径は5μm以下であることが好ましい。本発明での繊維は非相溶ポリマーがブレンドされた繊維であり、前述の通り、繊維を形成するポリマーが海成分、非相溶ポリマーが島成分を形成する際に、該島成分は繊維軸方向に不連続に分散化あるいは伸長化して存在する。よって本発明での繊維における繊維を形成するポリマーと該非相溶ポリマーとのブレンド界面の面積は非常に大きくなり、軽量繊維となした場合には、繊維軸に対して垂直な繊維横断面に見られる、繊維軸方向に不連続な中空部の数が非常に多くなり、結果として軽量性に優れる繊維となる。しかし繊維中の島成分が繊維軸方向に連続している場合、すなわち繊維が芯鞘複合繊維あるいは海島複合繊維である場合には、もはやブレンドされた繊維ではなく、その複合界面(芯と鞘の界面もしくは海と島の界面)の面積はブレンド繊維と比較して非常に小さくなり、中空部は生成しないか、もしくは格段に低減し軽量性に非常に乏しい。
【0038】
また前述の通り非相溶ポリマーの繊維軸に垂直な繊維横断面における平均分散直径が5μm以下である場合、前述したようにブレンド界面の面積が非常に大きくなり、繊維軸方向に不連続な中空部の数が非常に多くなり、軽量性に非常に優れるポリエステル繊維となることに加え、生成した中空部が過度に大きいものではなく、繊維の欠陥とはなりがたいため、繊維の繊維強度も低下せずに非常に優れたものとなる。そして該非相溶ポリマーの繊維軸に垂直な繊維横断面における平均分散直径は、繊維の単繊維直径に比べて小さいほど好ましく、好ましくは3μm以下、より好ましくは1μm以下、さらにより好ましくは0.5μm以下である。また、該平均分散直径の繊維軸に垂直な繊維横断面の直径(換言すると単繊維直径)に対する比率は、より多くの中空部が生成するあるいは繊維物性が優れるという点において、[単繊維直径/島成分の平均分散直径]の値が5以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましく、100以上であることがさらにより好ましい。
【0039】
前述の非相溶ポリマーは、建物用遮熱材の軽量性がより高まることから、密度が1.0g/cm以下であることが好ましい。そして該非相溶ポリマーは、密度が小さいほど好適であり、好ましくは密度が0.95g/cm以下であり、特に好ましくは0.90g/cm以下である。特にポリプロピレンは比重0.91g/cm、ポリメチルペンテンは比重0.83g/cmで、これらは密度の小さいものとして好ましい。またこれら非相溶ポリマーの平均分子量については、ポリエステルとの混練性が優れる、あるいは繊維中における形態保持性、剛性といった点から数平均分子量が2000〜10000000であることが好ましく、5000〜5000000であることがより好ましく、10000〜1000000であることがさらにより好ましい。
【0040】
これら非相溶ポリマーの繊維中の含有量は、より軽量性に優れ、かつ得られたポリエステル繊維の糸物性が優れるという点で、繊維中で1〜30重量%であることが好ましく、3〜20重量%であることがより好ましく、3〜15重量%であることがさらにより好ましい。
【0041】
またこれら非相溶ポリマーは、本発明の中空繊維を形成する際にブレンド界面において中空部を生成しやすくし、結果的により比重が小さく、軽量性に優れるという点で、該非相溶ポリマーの臨界表面張力が35dyne/cm以下であることが好ましく、33dyne/cm以下であることがより好ましく、32dyne/cm以下であることが特に好ましい。また該非相溶ポリマーの臨界表面張力は低いほど好ましいものの、通常得られる非相溶ポリマーの臨界表面張力は10dyne/cm以上である。
【0042】
また一方で、繊維を構成するポリマーの臨界表面張力についても、前述の通り繊維軸方向に不連続な中空部が生成する際に非相溶ポリマーとの剥離性がより高いことが好ましいことから、臨界表面張力は35dyne/cmより高いことが好ましく、38dyne/cm以上であることがより好ましい。例えばPET系ポリマーは44dyne/cm、3GT系ポリマーは43dyne/cmなど、ポリエステル系で臨界表面張力が高いものが好ましい。また脂肪族ポリエステルであるポリ乳酸は臨界表面張力が約36dyne/cmである。またさらに、より臨界表面張力を高くしうる共重合成分、例えばスルホイソフタル酸塩や、リン酸塩などの極性基を有する成分を共重合させた共重合ポリエステルなどではそれら極性基を有する成分を共重合していないポリエステルに比べて、より大きな臨界表面張力をとりうるため好ましい。なお臨界表面張力は後述G.の方法で定義される。
【0043】
本発明における非相溶ポリマーは、ポリエステル繊維の耐熱性が良好で高温での軽量性に優れるという点で、融点(Tm)が150℃以上であることが好ましく、180℃以上であることがより好ましい。ここで融点(Tm)とは後述実施例のF.の方法で定義される。
【0044】
本発明における非相溶ポリマーの溶融粘度は、用いるポリエステルの溶融紡糸温度で、剪断速度が12.16secー1の剪断粘度が50〜2000パスカル秒([Pa・秒])のポリマが通常用いられ、好ましくは80〜1000[Pa・秒]である。ここで該溶融粘度は後述するJ.の方法で測定できる。
【0045】
本発明における非相溶ポリマーは、発明の目的を損ねない範囲で難燃剤、滑剤、酸化防止剤、結晶核剤、末端基封止剤等の添加剤を少量含有していても良い。
【0046】
本発明の建物用遮熱材に用いられる繊維は、繊維を構成するポリマーと非相溶ポリマーの相溶性が悪いために微細なボイドが生成しにくく、軽量性が乏しい場合がある。そこで繊維中に生成する中空部が微細となるために相溶化剤を含有していることが好ましい。本発明における相溶化剤とは、非相溶ポリマーを海成分(好ましいものとしてポリエステル)に含有せしめるときにブレンド界面における相互作用を変化させて両者の相溶性を高め、該非相溶ポリマーの分散径を制御する化合物である。該相溶化剤としては、低分子化合物あるいは高分子化合物など多種多様の化合物を採用することができるが、好ましいものとして、ポリアルキレンオキシドあるいはポリ(アルキレンオキシド−エチレン)コポリマー、ポリ(アルキレンオキシド−プロピレン)コポリマーなどのアルキレンオキシドと各ビニル誘導体のコポリマー、あるいはポリアルキレンオキシドの誘導体、アルキレンテレフタレートとアルキレングリコールのコポリマー、アルキレンテレフタレートとポリ(アルキレンオキシド)グリコールのコポリマー、アルキレンテレフタレートとポリアルキレンジオールとのコポリマー、などといったポリマーが挙げられる。
【0047】
これら相溶化剤の含有量としては、相溶化がより効果的に発現し、得られるポリエステル繊維の繊維物性が優れたものとなるという点で、相溶化剤の含有量は、非相溶ポリマーに対し10〜200重量%であることが好ましく、20〜100重量%であることがより好ましい。
【0048】
本発明の建物用遮熱材に用いる繊維は、細長い形状を有していて、その見かけ直径に対する長さの比が少なくとも20であるものを指す。また長繊維(フィラメント)あるいは短繊維(ステープル)のいずれであっても良いが、取り扱い性を考慮すると長繊維が好ましい。また繊維の単繊維直径に関しては、繊維物性に優れ、また建物用遮熱材として形成させた場合の取り扱い性、あるいは施工性がより向上するという点で、繊維直径は5000μm以下であることが好ましく、より好ましくは2000μm以下であり、1000μm以下であることがさらにより好ましい。また繊維直径の下限については非相溶ポリマーの大きさに比して、中空部を形成するために十分大きい必要があることから、1.0μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましい。
【0049】
本発明の建物用遮熱材に用いられる中空部を有する繊維は、前述のとおり、繊維軸方向に不連続な中空部を有している。該特徴的な中空部を有することで本発明の建物用遮熱材は非常に軽量性に優れ、また太陽からの熱線を極度に乱反射させて、本遮熱材により太陽光が遮られた建物に対して遮熱効果を発現する。また該中空部は1つ1つが微細であることから繊維構造における欠点となり難く、潰れも起こりがたい。なお該繊維軸方向に不連続な中空部が生成する理由あるいはメカニズムの詳細は不明であるが、おそらく該中空部は、繊維を形成するポリマーと非相溶ポリマーとのブレンド界面が剥離する、(2)該非相溶ポリマーが紡糸時あるいは延伸時に繊維を形成するポリマーの変形に追従できずに割裂して広がる、(3)繊維を形成するポリマーと非相溶ポリマーとの界面を起点として繊維を形成するポリマー自体あるいは繊維を形成するポリマーと非相溶ポリマーとの複合体が裂ける、などこれら剥離や割裂などの現象が単独よりはむしろ複合的に発現し、相乗効果で繊維軸方向に向けて不連続な中空部が生成すると推測している。さらにこの中空部生成は繊維中にランダムかつ無数に発現するため、中空部は繊維軸方向に不連続であるとも推測している。
【0050】
該繊維軸方向に不連続な中空部は、繊維軸に垂直な繊維横断面において、該中空部の平均直径が0.10〜5.0μmであることが好ましい。該平均直径がこの範囲であることで軽量性に優れることはもとより、中空部が潰れがたい。そして該平均直径は0.10〜3.0μmであることがより好ましく、0.15〜1.0μmであることが特に好ましい。また該中空部の平均直径については、その繊維断面内の分布が中空部の潰れに関係しうるものであり、特に繊維軸に垂直な繊維横断面において、繊維半径が半分で断面の中心を共有する相似断面形状によって、元の繊維断面形状を繊維の外層部と内層部に分けた場合に、内層部に存在する繊維軸方向に不連続な中空部の平均直径が外層部に存在する繊維軸方向に不連続な中空部の平均直径より大きいことが好ましい。このことにより、繊維中心部には直径の大きい中空部が配置され、また繊維外層部には直径の小さな緻密な中空部が配置され、繊維の曲げに対して中空部が潰れにくくなりかつ高い軽量性を具備しうる。なお該中空部の平均直径は、後述C.項により測定される。特に、該内層部に存在する繊維軸方向に不連続な中空部の平均直径が、外層部に存在する繊維軸方向に不連続な中空部の平均直径より1.2倍以上大きいことが好ましい。
【0051】
また該繊維軸方向に不連続な中空部に関し、繊維軸に垂直な繊維横断面における直径0.10μm以上の繊維軸方向に不連続な中空部の数の平均(すなわち平均中空部数)は、該中空部が潰れにくく好ましいことから、100〜100,000個であることが好ましく、300〜50,000個であることがより好ましく、500〜30,000個であることが特に好ましい。なお該平均中空部数は、後述C.項に方法により算出される。
【0052】
また、繊維中の中空部の容積の割合を示す中空部率については、本発明での繊維の見かけ比重が後述の通り小さく、軽量性に優れたものとなりうる点から15%以上の中空部率を有することが好ましく、25%以上の中空部率を有することがより好ましい。
【0053】
本発明の建物用遮熱材に用いられる繊維は、前述の通り、遮熱材自体が軽量性に優れることから、見かけ比重が1.20以下であることが好ましい。従来の遮熱材は繊維素材からなるものが多いものの、繊維構造体の上に遮熱性を高めるべくコーティング層を何層も設けて重厚なものであったが、繊維の見かけ比重が小さくもので遮熱材を形成させると、同等の嵩(体積)で軽量性に優れることは、取り扱い性、特に施工面で非常に好ましい特性となる。そしてかかるポリエステル繊維の見かけ比重は、1.10以下が好ましく、1.05以下がより好ましく、1.00以下がさらにより好ましく、0.95以下が特に好ましい。また見掛け比重は小さいほど優れ好ましいものの、下限としては生産しうるものとして、見掛け比重は通常0.40以上、汎用的には0.50以上の中空部を有する軽量化された繊維を生産しうる。
【0054】
建物用遮熱材として形成させた場合に、丈夫で容易に破損せず、施工上問題がないことが好ましく、これは繊維の破断強度が関係することから、本発明の建物用遮熱材に用いられる繊維の破断強度は、これら実用性を考慮して4.0cN/dtex以上であることが好ましい。そしてかかるポリエステル繊維の強度は4.2cN/dtex以上であることが好ましく、4.5cN/dtex以上であることがより好ましく、4.7cN/dtex以上であることがさらにより好ましい。そして該強度は高いほど好ましいものの、高々10cN/dtex以下の強度の繊維が得られ、汎用的には8cN/dtex以下の強度の繊維が得られる。
【0055】
本発明の建物用遮熱材に用いられる繊維には、発明の目的を損ねない範囲で難燃剤、滑剤、酸化防止剤、結晶核剤、末端基封止剤等の添加剤を少量保持しても良い。
【0056】
本発明の建物用遮熱材は繊維構造体であるが、繊維構造体、すなわち布帛状としての形態は、前述のように、軽量性や遮熱性、遮光性を具備するほか、実際に用いられる場合に、優れた耐候性を発現しうるための通気性や通水性を確保するために、織物および/または編物および/または網状物であることが好ましい。織物構造としては、ブロード、ボイル、ローン、ギンガム、トロピカル、タフタ、シャンタン、デシンなどの平織、デニム、サージ、ギャバジンなどの綾織、サテン、ドスキンなどの朱子織、バスケット、パナマ、マット、ホップサック、オックスフォードなどのななこ織、グログラン、オットマン、ヘアコードなどの畝織、フランス綾、ヘリンボーン、ブロークンツイルなどの急斜文、緩斜文、山形斜文、破れ斜文、飛び斜文、曲り斜文、飾斜文や、不規則朱子、重ね朱子、拡げ朱子、昼夜朱子や、蜂巣織、ハック織、梨地織、ナイアガラなどが好ましいものとして挙げられ、また2枚の織物を合わせて1枚の織物となした2重織物としては、ピケ、フクレ織などの経2重織、ベッドフォードコードなどの緯2重織、風通織、袋織などの経緯2重織なども好ましいものとして挙げられる。また編物構造としては、天竺やシングルなどの平編、ゴム編やフライスなどのリブ編、リンクスなどのパール編の他、鹿の子、梨地、アコーディオン編、スモールパターン、レース編、裏毛編、片畦編、両畦編、リップル、ミラノリブ、ダブルピケ、等の緯編、あるいはトリコット、ラッセル、ミラニーズなどの経編などが好ましい。これら編物および/または網状物であれば常法の精練、染色、熱セット等の加工を受けてもよく、その他に柔軟加工、ヒートセッティングなどの物理的処理加工や、コーティング加工、防汚加工、撥水加工、帯電防止加工、防炎加工、防虫加工、衛生加工、泡樹脂加工などの化学的処理加工や、その他にマイクロ波応用や、超音波応用、遠赤外線応用、紫外線応用、低温プラズマ応用などの応用処理がなされていても良い。
【0057】
本発明の建物用遮熱材は、屋外設置用である。建物の屋外に設置して、建物へ熱線、特に太陽光が直接、少なくとも建物の一部に照射されるのを遮るものである。屋外の中では、建物の壁への照射を遮ったり、屋根への照射を遮ったりすることが可能であるが、建物の屋根上設置用であることがより好ましい。
【0058】
本発明の建物用遮熱材は、建物への熱線照射を防ぐために着色されていることが好ましい。該着色の方法としては、あらかじめ繊維自体が着色されたものを用いて本発明の遮熱材を形成するか、遮熱材を形成させた後に着色するかいずれの方法でも良いが、着色の耐久性や遮熱材自体の軽量性がより優れるという点で、あらかじめ繊維自体が着色された繊維を用いた繊維構造体からなる建物用遮熱材であることが好ましい。そして着色された繊維としては、着色剤を繊維表面上に付着させたものや、繊維を形成させる以前の任意の段階で、繊維の内部に染料や顔料などの着色剤を含有せしめた、繊維自体が着色したものがあるものの、より耐久性に優れ、均一な着色が可能であるという点で、繊維を形成させた時点で繊維自体が着色しているものが好ましい。
【0059】
本発明の建物用遮熱材は、繊維構造体として、繊維構造体における合成繊維の空間充填率が40体積%〜80体積%であることが好ましい。該空間充填率の範囲において、前述のように、軽量性、遮熱性のほかに通気性や通水性を具備し得、本発明が建物の屋外に設置した際に、効果的な遮熱効果を発揮しつつ、風雨に暴露された場合であっても容易に凌ぎ、耐候性に優れている。ここで空間充填率は、あらかじめ、面積および厚みより算出された理論体積(A)が分かっている遮熱材を4℃の水中に入れ、その際に増える実体積(B)との比R(R=B/A)にて計算し、該計測3回の平均から求める。
【0060】
本発明の建物用遮熱材は、波長域600nm〜1400nmにおける透過光率が40%以下であることが好ましく、35%以下がより好ましい。透過光率が低いほど本発明にて目的とする遮熱効果は向上して好ましい。そして該透過光率は低いほど好ましく、30%以下が特に好ましい。
【0061】
本発明の建物用遮熱材は、前述のように優れた耐候性を有することから、通気度が10cc/cm/秒以上であることが好ましく、20cc/cm/秒以上であることがより好ましい。該範囲において、風雨に晒された場合であっても、風圧および雨水を容易に逃がすことが可能となり、耐久性に優れる。
【0062】
以下実施例により、本発明を具体的かつより詳細に説明する。本発明は、当然ながら以下の実施例に制限されるものではない。なお、実施例中の物性値は以下の方法によって測定した。
【実施例】
【0063】
A.繊維の破断強度の測定
オリエンテック社製テンシロン引張試験機を用い、遮熱材から取り出した繊維フィラメントを用いて初期試料長50mm、引張速度200mm/分で測定し、5回測定した平均値を測定値とした。
【0064】
B.遮熱材から取り出した繊維の見かけ比重の測定および中空部率の算出
遮熱材から取り出した繊維の見かけ比重は、以下の(a),(b)の方法で測定・算出した。
【0065】
(a)繊維の見かけ比重が0.659以上の場合
JIS−L−1013(1999) 8.17.1項(日本規格協会発行、化学繊維フィラメント糸試験方法)に定められた浮沈法を参考にして、20℃±0.1℃の温度下、繊維の見かけ比重が1以上であればNaBr水溶液を用いて、繊維の見かけ比重が1〜0.789の間であれば重液に水を軽液にエチルアルコールを用いた混合液体にて、繊維の見かけ比重が0.789〜0.659の間であれば重液にエチルアルコールを軽液にn−ヘキサンを用いた混合液体にて、それぞれ繊維を30分放置した後の浮沈平衡状態を確認し、前述8.17.1項記載の通り、浮かびも沈みもしない混合液体の比重値を測定し、繊維5本を測定した比重値の平均値を測定比重値(Q)とした。
【0066】
(b)繊維の見かけ比重が0.659未満の場合
本発明の遮熱材100g±10gを用いて事前に重量を測定し、またあらかじめ重量および体積の分かったおもりを筒編みした布帛に固定し、4℃±1℃に調製したイオン交換水に沈めて5分間の超音波による脱泡を行った後、遮熱材の体積を測定し、10枚測定した遮熱材の比重値の平均値を測定比重値(Q)とした。
【0067】
中空部率の算出には、以下の式を用いた。
中空部率(%)=100(1−Q/R),R=100/(S1/V1+S2/V2+(100−S1−S2)/Vp)
ただし、
R:中空部のない場合の繊維の見かけ比重
S1:非相溶ポリマーの添加量(重量%)
S2:相溶化剤の添加量(重量%)
V1:非相溶ポリマーの密度(g/cm
V2:相溶化剤の密度(g/cm
Vp:繊維を形成するベースポリマーの密度(g/cm
非相溶ポリマー、相溶化剤及び繊維を形成するベースポリマーの密度(V1,V2,Vp)については前述(a)浮沈法に基づいて3回測定した値の平均値を用いた。例えばポリエステルを繊維を形成するベースポリマーとして用いて、かつ該ポリエステルがポリエチレンテレフタレートである場合については、未延伸糸であれば1.34を、延伸糸であれば1.38がそれぞれ求められ、この数字を用いた。ただし後述する、相溶化剤として用いた明成化学工業社製のポリ(エチレンオキシド)であるアルコックス(登録商標、タイプE−30あるいはR−150)については浮沈法で測定できなかったため、密度を1.0g/cmとして算出した。
【0068】
C.単繊維直径、中空部の平均直径等、平均中空部数、および中空部の繊維軸方向の不連続性の確認
試料台に貼り付けたカーボンテープ上に単繊維を設置し、白金蒸着処理(蒸着膜圧:25〜50オングストローム 処理時間:約120秒)を行った後、収束イオンビーム(FIB)切削加工−走査型電子顕微鏡(SEM)観察装置(FEI社製 STRATADB235)にて、加速電圧30kVで加速したGa収束イオンビームにより、粗切削加工(電流:約7000pA、処理時間:約20分)、および精密切削加工(電流:約3000pA、処理時間:約4分)の2工程で、真空度1.4×10−13Paの雰囲気中において、繊維横断面観察を行う際は試料を繊維軸方向に対して垂直に切削し、繊維縦断面観察を行う場合には試料の繊維中心付近を繊維軸方向に平行に繊維直径の5倍以上の長さで切削した。切削加工を施した後、該装置が所持する走査型電子顕微鏡を用い、真空度1.4×10−19Paの雰囲気中において、試料傾斜52度、加速電圧5kVの条件で、倍率200〜100000倍の任意の倍率で繊維横断面(繊維直径の確認)、および繊維縦断面の観察(中空部の繊維軸方向の不連続性の確認)を行った。ここで該不連続性については、一つの縦断面写真において繊維軸方向に途切れている中空部が存在することによって確認した。繊維軸方向に不連続な中空部を有する場合は○、該中空部が連続であるか、もしくは中空部を有さない場合は×として評価した。また繊維軸方向に不連続な中空部の平均直径及び平均中空部数については、繊維横断面の画像を白黒にデジタル化し、コンピュータソフトウェアの三谷商事社製WinROOF(バージョン2.3)を用いて算出した。該中空部の平均直径については横断面画像上に存在する中空部の大きい順から上位100個の中空部全ての面積をそれぞれ計算し、該面積値から略円形と判断して計算した中空部の直径から平均値を求めることによって算出した。また直径0.1μm以上の平均中空部数は、繊維横断面々において前述同様に全ての中空部の直径を算出した後に中空部の直径が0.1μmのものについて数を数えることによって算出し、同様の方法により繊維直径よりも大きく離れた任意の繊維横断面5枚について該平均中空部数を求めた。さらに繊維軸に垂直な繊維横断面における繊維外層部と内層部の繊維軸方向に不連続な中空部の平均直径の比較についても、繊維横断面を略円形と見なし、直径の半分の大きさで区切り、外層部と内層部の平均直径を比較した。比較した結果、平均直径の比(=[内層部の繊維軸方向に不連続な中空部の平均直径]/[外層部の繊維軸方向に不連続な中空部の平均直径])が1.0未満を劣る(△)、1.0以上を良好(○)、1.2以上を優れる(二重丸)として評価した。
【0069】
D.非相溶ポリマーの繊維中の非相溶性及び平均分散直径の確認
繊維をエポキシ樹脂中に包埋したブロックに酸化ルテニウム溶液を用いて染色を施し、ウルトラミクロトームにて繊維軸と垂直方向に切削して単繊維横断面の超薄切片を作製し、透過型電子顕微鏡(TEM)観察装置(日立製作所製 H−7100FA型)にて、加速電圧75kVで、倍率5000〜1000000倍の任意の倍率で横断面観察を行い、得られた写真を白黒にデジタル化した。該断面写真をコンピュータソフトウェアの三谷商事社製WinROOF(バージョン2.3)において画像解析することによって非相溶ポリマーの非相溶性及び平均分散直径について確認した。平均分散直径については横断面写真上に存在する非相溶ポリマーの大きい順から上位100個の全ての非相溶ポリマーの面積をそれぞれ計算し、該面積値から略円形と判断して計算した非相溶ポリマーの直径の平均値によって算出した。更に非相溶性については、該平均分散直径が10nm以上であれば非相溶であると判断した。
【0070】
F.ガラス転移温度(TgpあるいはTg)および融点(Tm)の測定
パーキンエルマー社製示差走査熱量分析装置(DSC−2)を用いて試料10mgで、昇温速度16℃/分で測定した。Tm、Tgの定義は、一旦昇温速度16℃/分で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、Tm1+20℃の温度で5分間保持した後、室温まで急冷し、(急冷時間および室温保持時間を合わせて5分間保持)、再度16℃/分の昇温条件で測定した際に、段状の基線のずれとして観測される吸熱ピーク温度をTgとし、結晶の融解温度として観測される吸熱ピーク温度をTmとした。
【0071】
G.臨界表面張力の測定
繊維を形成するベースポリマーあるいは非相溶ポリマーからなるフィルムにおいて、純水72.8dyne/cm、エチルアルコール(特級以上)22.3dyne/cm、ジオキサン33.6dyne/cm、ヘキサン18.4dyne/cm、20%アンモニア水59.3dyne/cmの5種類の液体を用いて、20℃、湿度60%、静置の条件下、平面試料上に液滴を置いて液滴が静止したときに、液滴が接している固体平面と液滴が空気層と接している液滴表面とがなす角度を接触角θとして測定し、用いた液体の表面張力に対しcosθをプロットし(Zismanプロット)、完全に濡れる、すなわちcosθ=1となるときの表面張力をプロットした点について外挿することで臨界表面張力を求めた。
【0072】
H.ポリエステルとしてポリ乳酸を用いた場合の重量平均分子量の測定
(株)島津製作所製高速液体クロマトグラフLC−6A(示差屈折計RID−6A,ポンプLC−9A,カラムオーブンCTO−6A,カラムShim-pack GPC-801C,-804C,-806C,-8025C)を用いて、溶媒にクロロフォルム(流速1mL/分,サンプル量200μL(ただしサンプル0.5w/w%をクロロフォルムに溶解したもの)を用いて、カラム温度40℃で測定して得た。
【0073】
I.固有粘度(IV)の測定
試料をオルソクロロフェノール溶液に溶解し、オストワルド粘度計を用いて25℃で測定した。
【0074】
J.溶融粘度の測定
(株)東洋精機社製キャピログラフ1Bを用い、窒素雰囲気下、バレル径9.55mm、ノズル長10mm,ノズル内径1mmで、剪断速度12.16[sec−1]時の剪断粘度値を求めた。そして5回求めた値の平均値を溶融粘度の測定値とした。なお測定時間については、試料の劣化を防ぐため5回の測定を30分以内で完了した。
【0075】
K.繊維構造体の600nm〜1400nmにおける透過光率の評価方法
布帛試料(繊維構造体)の標準白板に対する分光透過率特性を島津製作所製紫外可視近赤外分光光度計UV−3600にて600nm〜1400nmの範囲の熱線透過光率を測定した。各試料において一つの測定箇所につき3回、測定個所を違えて3回測定した結果を平均して得られた分光透過率特性から該波長域における平均透過率を求めた。そして遮光性の評価として、平均透過率が30%以下のものを2重丸(優れる)、30%を超えて以上40%以下のものを○(良好)、40%を超えて50%以下のものを△(使用可能)、50%を超えるものを×(劣る)と評価した。
【0076】
L.通気度
(株)大栄科学精器製作所製フラジール型通気度試験機AP−360SMを用いて、JIS L 1096−1999 8.27.1 A法(フラジール形法)に準じて測定した。遮熱材(試料)の異なる5か所から約20cm×20cmの試験片を採取し、フラジール形試験機を用い、円筒の一端(吸気側)に試験片を取り付けた。試験片の取り付けに際し、円筒の上に試験片を置き、試験片上から吸気部分を塞がないように均等に約98N(10kgf)の荷重を加え試験片の取り付け部におけるエアーの漏れを防止した。試験片を取り付けた後、加減抵抗器によって傾斜形気圧計が125Paの圧力を示すように吸込みファンを調整し、そのときの垂直形気圧計の示す圧力と、使用した空気孔の種類とから、試験機に付属の表によって試験片を通過する空気量を求め、5枚の試験片についての平均値を算出した。
<繊維軸方向に不連続な中空部を有する繊維の製造>
[ポリエステルの製造]
テレフタル酸166重量部とエチレングリコール75重量部からの通常のエステル化反応によって得た低重合体に、着色防止剤としてリン酸85%水溶液を0.03重量部、重縮合触媒として三酸化アンチモンを0.06重量部、調色剤として酢酸コバルト4水塩を0.06重量部添加して重縮合反応を行い、通常用いられるIV0.70のポリエチレンテレフタレートを得た。
【0077】
このポリエステルを用いて、2軸エクストルーダ型溶融紡糸機を用いて、溶融紡糸を行う際に、非相溶ポリマーとして、JSR(株)製ノルボルネン系樹脂アートン(登録商標、実施例17、タイプF5023、以下アートン)を10重量%添加して、紡糸温度290℃で孔径が0.3mm、孔数が24個の口金を用いて溶融紡糸を行い、1500m/分の引き取り速度で引き取って、722dtex−24フィラメントの、断面形状が丸状のポリエステルマルチフィラメント繊維を得た。紡糸中に糸切れは発生せず、製糸性は優れていた。
【0078】
得られたポリエステル繊維について延伸を行うに際し、送糸ローラーの送糸速度を100m/分とし、送糸ローラーの次に設置した第1ローラーと第2ローラー間で延伸を行うために長さ50cmの、70℃に加熱した熱板を設置し、この表面に繊維を通過させることにより、延伸倍率5.0倍で延伸し、第2ローラーを120℃で熱処理した後、25℃の冷ローラーで糸を冷却した後に巻き取った。延伸中に糸切れは発生せず、延伸性は優れていた。
得られた糸の物性は、強度5.1cN/dtex,伸度21%、比重0.86、繊維直径29.9μm、平均中空部数7,808個、中空部の平均直径0.191μm、非相溶ポリマーの平均分散直径0.116μm、単繊維直径/島成分(非相溶ポリマー)の平均分散直径=257で、中空部が繊維軸方向に不連続で軽量性に優れていた。
【0079】
実施例1〜3
該得られた糸を55本の合糸(総繊度約7942dtex)となして、網の作製密度が表1に示されるように、実施例2では実施例1に対して網状構造の異なるものとして、また実施例3では実施例1の繊維構造体を灰色に着色して遮熱材を作製し、それぞれの透過光率、空間充填率を測定した。そして該繊維構造体を遮熱材として屋根に載せ、遮熱材を載せない屋根の場所と温度を実測して、屋根上の低減温度を測定した。なお測定当日は、天候:快晴、午後2時の気温16.3℃の条件下、同時刻(午後2時)の温度として評価した。
【0080】
【表1】

【0081】
表1に示すとおり、屋根上の低減温度は空間充填率や遮熱材の色によって制御しうることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の遮熱材は、太陽から発せられる熱線を反射して高い遮熱性能を有しているため、一般家庭のみならず、大きな電力を夏季に使う商業ビルやコンビニエンスストアーなどに用いることにより、冷房効率を高められるなど、省エネルギーに寄与しうる。また施工面でも従来素材に比して軽量性に優れることから持ち運びが容易でかつ少量でも高い遮熱性能を有することから、柔軟性や可撓性にも優れ、より汎用性が高く、好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維軸方向に不連続な中空部を有する合成繊維を用いた繊維構造体からなる、屋外設置用の建物用遮熱材。
【請求項2】
着色された合成繊維を用いた繊維構造体であることを特徴とする請求項1記載の建物用遮熱材。
【請求項3】
繊維構造体が編物および/または網状物であることを特徴とする請求項1または2記載の建物用遮熱材。
【請求項4】
繊維構造体における合成繊維の空間充填率が40体積%〜95体積%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の建物用遮熱材。
【請求項5】
波長域600〜1400nmにおける透過光率が40%以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の建物用遮熱材。
【請求項6】
通気度が10cc/cm/秒以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の建物用遮熱材。
【請求項7】
屋根上設置用であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の建物用遮熱材。

【公開番号】特開2009−167652(P2009−167652A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−5482(P2008−5482)
【出願日】平成20年1月15日(2008.1.15)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】