説明

輸液ポンプ

【課題】カムによるフィンガの往復動作を行うポンプ機構において、フィンガを戻すためのばねを不要とした輸液ポンプを提供する。
【解決手段】輸液ポンプのポンプユニット300は、輸液チューブの軸方向に沿う方向に配列された複数のフィンガ310と、モータにより駆動されるカムシャフト302とを有する。カムシャフトは、複数のフィンガの各々に対してカム部材を備えている。複数のフィンガは、第一カム面と接触する第一端部と、第一端部に対向して設けられ、輸液チューブを押圧するためのパッドを有する第二端部とを有するフィンガ本体と、一端がフィンガ本体に接続され、他端が第二カム面と接触し設けられた、略U字形状のフック部材とを有する。そして、カムシャフトの回転によるカム部材が回転すると、第一カム面と第一端部との当接により輸液チューブを押圧するようにフィンガが押し出され、第二カム面とフックとの当接によりフィンガが引き戻される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輸液チューブの外周面を押圧して送液を行う輸液ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
薬液バッグと接続された輸液チューブを保持し、その輸液チューブの外周面を複数のフィンガの押圧動作によって送液を行うポンプ機構を備えた輸液ポンプが特許文献1、特許文献2に記載されている。このような複数のフィンガを備えたポンプ機構では、フィンガ毎に設けられたカムによりそれぞれのフィンガが個別に順次動作するようになっている。すなわち、カム面に沿ってフィンガを個別に往復動作させることによって、所定の連携されたタイミングで輸液チューブの押圧と開放を行い、これにより、所望の速度(流量)での送液を実現している。
【0003】
一般に、輸液ポンプは、図1により後述するように、輸液バッグがセットされた輸液スタンドに装着されて用いられる。したがって、輸液ポンプは軽量、小型であることが望まれる。輸液ポンプ内には、上述した複数のフィンガ、これらフィンガを駆動するカム機構、カム機構を駆動するモータ、モータを駆動するためのバッテリなどが搭載されており、これらの配置を工夫することで小型化が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−058738号公報
【特許文献2】特開2005−253999号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
カム機構によるフィンガの往復駆動においては、カム機構のカム面によりフィンガを押し出す力が提供されるが、当該カム面によりフィンガを引き戻す力を付与することはできない。そのため、この種の輸液ポンプでは、カムにより押し出されたフィンガをばねの力によって引き戻す構造が採用されている。しかしながら、ばねが装着される分、ポンプ機構のサイズが大きくなってしまい、輸液ポンプの筺体サイズの小型化が阻害されるという課題がある。また、ばねが金属疲労するとフィンガの戻りのレスポンスが低下し、精度の高い送液を行えなくなるという課題がある。
【0006】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、カムによるフィンガの往復動作を行うポンプ機構において、フィンガを戻すためのばねを不要とした輸液ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するための本発明の一態様による輸液ポンプは以下の構成を備える。すなわち、
輸液チューブの外周面を押圧して送液を行う輸液ポンプであって、
前記輸液チューブを保持した状態において、前記輸液チューブの軸方向に沿う方向に配列された複数のフィンガと、
モータにより駆動されるカムシャフトと、
前記カムシャフトに設けられ、前記複数のフィンガの各々に対して第一カム面と第二カム面とを提供するカム部材とを備え、
前記複数のフィンガの各々は、
前記第一カム面と接触する第一端部と、前記第一端部に対向して設けられ、前記輸液チューブを押圧するためのパッドを有する第二端部とを有するフィンガ本体と、
一端が当該フィンガ本体に接続され、他端が前記第二カム面と接触するように設けられた、略U字形状のフック部材とを有し、
前記カムシャフトの駆動により前記カム部材が回転すると、前記第一カム面と前記第一端部との当接により前記輸液チューブを押圧するように前記フィンガが押し出され、前記第二カム面と前記フックとの当接により前記フィンガが引き戻される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、輸液ポンプにおける、カムによるフィンガの往復動作を行うポンプ機構において、フィンガを引き戻すためのばねが不要となり、組立てやメンテナンスが容易で、故障が低減する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施形態に係る輸液チューブが固定される輸液ポンプの外観構成の一例を示す図である。
【図2】実施形態に係る輸液ポンプのドア部を開いた状態の一例を示す図である。
【図3】実施形態に係る輸液ポンプの内部構成例を示す図である。
【図4】実施形態に係るポンプ機構の外観を示す図である。
【図5】実施形態に係るポンプ機構における、カムシャフトとフィンガの組み合わせを説明する図である。
【図6】実施形態に係るポンプ機構の、カムシャフトを示す図である。
【図7】実施形態に係るポンプ機構の、フィンガを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の各実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0011】
1.輸液ポンプの外観構成
図1は、本発明の一実施形態に係る輸液チューブ100が固定される輸液ポンプの正面の外観構成の一例を示す図である。
【0012】
図1に示すように、輸液チューブ100の送液方向上流側には、所定の薬液が収容され輸液バッグ101が接続され、また、送液方向下流側には、クレンメ(クランプ部材)102及び静脈刺針103が接続される。そして、当該静脈刺針103が患者の静脈に刺針されることで、輸液バッグ101内の薬液が設定入力された流量(mL/h)で患者に注入される。
【0013】
輸液ポンプ110は、不図示の本体部に開閉可能に取り付けられたドア部120を備え、ドア部120の表面には、各種情報が表示される表示部130と、操作スイッチ類が配列された操作部140と、ドアロックレバー150とが配されている。
【0014】
表示部130には、単位時間あたりの流量(送液速度)の設定値と実績値とを切り替えて表示する流量表示部131と、予定流量と積算流量とを切り替えて表示する予定量積算量表示部132と、各種アラームを表示するアラーム表示部133と、輸液チューブ100の閉塞圧力の設定レベルを「L」、「M」、「H」で表示する閉塞圧設定表示部134とが配されている。
【0015】
なお、アラーム表示部133には、更に、後述する気泡検出センサにより、輸液チューブ100内の気泡が検出された場合に点灯する気泡検出表示部135と、輸液ポンプ110の内蔵バッテリの電圧が低下した場合に点灯するバッテリ電圧低下表示部136とが配されている。また、輸液チューブ100の閉塞圧力が設定レベルに到達した場合に点灯する閉塞異常表示部137と、ドア部120が開状態になった場合に点灯するドア開状態表示部138と、輸液が完了した場合に点灯する完了表示部139とが配されている。
【0016】
一方、操作部140には、送液速度や予定流量を設定するためのアップダウンスイッチ141と、押圧されている間、設定された送液速度(mL/h)よりも高い送液速度での送液が可能となる送液スイッチ142とが配されている。
【0017】
また、押圧されることで、輸液が開始される開始スイッチ144と、押圧されることで輸液が強制停止される停止スイッチ143と、輸液ポンプ110の電源のON/OFFを指示するための電源スイッチ145とが配されている。
【0018】
なお、電源スイッチ145に隣接して、商用電源または直流電源を使用している場合に点灯する電源ランプ146と、内蔵バッテリを充電中に点灯するとともに、内蔵バッテリの残量を表示するバッテリランプ147とが配されている。
【0019】
動作インジケータ160の内部には赤色と緑色に発光する発光ダイオードが内蔵されており、動作状態に応じて点灯するようにしている。すなわち、送液中と早送り中は点滅し、スタンバイ機能が働いている時は、赤色と緑色が交互に点滅して、輸液を即座に開始できる状態であることを知らせるようにしている。
【0020】
2.ドア部裏面及び本体部の構成
次に、輸液ポンプ110のドア部120裏面側の構成及び本体部200の構成について説明する。
【0021】
図2は、ドア部120が開状態である輸液ポンプ110の外観構成を示す図である。図2において、201はドアベースであり、ヒンジ部202を介して本体ベース211に回動可能に接続される。これにより、ドア部120が本体部200に対して開閉自在となっている。
【0022】
203はドアシールゴムであり、エラストマーにより形成され、ドア部120が閉状態となった場合に、本体部200の内部に薬液が浸入するのを防止する。
【0023】
204はバックプレート機構であり、ドア部120が閉じた状態で、後述するフィンガによって輸液チューブが押圧された場合に、該輸液チューブの背面を支持する。205は閉塞押え板であり、ドア部120が閉じた状態で、後述する閉塞センサとの間で輸液チューブを挟持する。
【0024】
212は気泡検出センサであり、輸液チューブ100の内部に混入する気泡の内で、チューブ内における長さが所定長さ(例えば、約10mm)となる所定量(約0.08cc)以上のものを検出する。気泡検出センサ212により気泡が検出されるとされたときに、それ以降の動作を強制的に停止される。また、気泡検出センサ212に対向する位置となるドアベース201側にはチューブ押え部206が形成されており、ドアベース201を閉じたときに輸液チューブ100を不動状態にすることで正確な気泡検出を行えるようにしている。
【0025】
300はポンプ機構であり、輸液チューブを順次押圧するフィンガ310−1〜310−5が送液方向に一列に複数配列されている。ポンプ機構300の詳細については、図3を参照して後述する。
【0026】
215は閉塞センサであり、永久磁石と、該永久磁石の移動量をアナログ的に検出するためのピックアップとから構成されている。閉塞センサ215は、輸液チューブ100の閉塞状態に伴う内圧変化に応じて移動した永久磁石の移動量を検出することで、閉塞状態を検出する。
【0027】
216はチューブクランプ保持部であり、輸液チューブ100に取り付けられたクランプを保持するクランプを保持するとともに、ドア部120が開状態になった場合に、当該クランプに対して、輸液チューブを一時的に圧閉するための押圧力を付加する。
【0028】
217は解除レバーであり、当該解除レバー217が操作されることで、チューブクランプ保持部216によるクランプに対する押圧力の付加が解除(つまり、クランプによる輸液チューブの圧閉が解除)される。
【0029】
218は溝部であり、輸液チューブ100が本体部200に固定された際に、輸液チューブの幅方向の位置を規定する。219は、輸液ポンプ110を持ち運ぶ際にユーザが把持するためのハンドルである。
【0030】
3.本体内部の構成
次に、図2及び図3を参照して、本実施形態による輸液ポンプ110(本体部200)の内部構成を説明する。図3は輸液ポンプ110の横断面図である。図2に示したように、本体ベース211には、その略中央部において上下方向に形成される溝部218が形成されており、この溝部218内に輸液チューブ100をセットするように構成されている。この溝部218の略中間部位にはポンプユニットとしてのポンプ機構300が着脱可能なようにネジ止めにより設けられている。すなわち、ポンプ機構300が薬液などで汚染されて、フィンガ310−1〜310−5の動きが悪くなったときには、ポンプ機構300を本体ベース211から取り出し、所定洗剤で洗浄することで薬液を洗い流し、動きが正常に復帰できるように設計されている。ポンプ機構300に設けられるフィンガ310−1〜310−5の各々は、耐薬液、薬品性に優れる、例えばポリアセタール樹脂材料等の熱可塑性樹脂から射出成形されている。
【0031】
ポンプ機構300の動作原理は、装着された輸液チューブ100を、上流側から順に並ぶフィンガ310−1〜310−5で押圧して、設定された時間あたりの流量で持続的に輸液するものである。マイクロコンピュータ(CPU)に記憶した情報によりモータ回転信号を生成し、この回転信号によってステッピングモータ306を回転させ、ポンプを駆動し、輸液の流量を調節するようにしている。フィンガ310−1〜310−5の夫々は、ポンプベース301内において図2の紙面前後方向に往復駆動されるように内蔵されている。
【0032】
また、図2に示すように、第1フィンガ310−1と第4フィンガ310−4の形状は他のフィンガ(第2フィンガ310−2、第3フィンガ310−3、第5フィンガ310−5)とは異なっている。すなわち、第1フィンガ310−1と第4フィンガ310−4の押圧面には凸部が形成されている。第1フィンガ310−1と第4フィンガ310−4の押圧面に形成された凸部で輸液チューブ100を上流側と下流側のみ完全に圧閉し、第2フィンガ310−2、第3フィンガ310−3で途中部位を完全には圧閉しないようにすることで、輸液チューブの肉厚の影響をなくした高い精度の送液を可能にしている。第1フィンガ310−1と第4フィンガ310−4は輸液チューブ100を完全に圧閉するときに輸液チューブ100が左右に広がる状態になるので第1フィンガと第4フィンガの幅寸法を他のフィンガの幅寸法より大きくしてもよい。尚、第5フィンガ310−5は脈動を補正するためのものである。なお、第1フィンガ310−1、第2フィンガ310−2、第3フィンガ310−3、第4フィンガ310−4のすべてで、輸液チューブ100を順次完全に圧閉・開放するようにしてもよい。
【0033】
また、通常の蠕動運動方式の場合には、全てのフィンガ310−1〜310−5を第2フィンガ310−2と同じものにすることで完全に輸液チューブ100を圧閉することで輸液チューブの蠕動運動を行うことができるようになる。また、バックプレート機構204は、ポンプ機構300の各フィンガ310に対向するように設けられ、フィンガ310による押圧の受け面を形成するものである。また、バックプレート機構204は、紙面の前後方向に移動するように設けられており、何らかの過剰負荷が発生したときに紙面裏面側に向けて後退するようにして輸液チューブ2の損傷を防止する機能を備えている。
【0034】
本体ベース211に取り付けられたポンプ機構300は、ポンプベース301に、カムシャフト302を回転自在に支持するベアリングを内蔵したベアリングブロック303が固定された構成を有する。このカムシャフト302の上端の軸体には歯付きプーリ304が固定される。また、上プレート311にはステッピングモータ306が固定されており、その出力軸には、上記の歯付きプーリ304よりも小径または同じ大きさの歯付きプーリ307が固定されている。そして、プーリ304とプーリ307との間に張架される歯付きベルト305により、ステッピングモータ306の回転力がカムシャフト302に伝達される。さらに回転検出センサ308は、歯付きプーリ304の上側面に取り付けられた不図示のタイミングディスクを光学的に読み取ることで上記のカムシャフト302の回転位置と回転数を読み取る。
【0035】
バッテリユニット312がステッピングモータ306の下方に配置され、下プレート313に形成された開口部313aを介して電池が交換可能になるように配置されている。このため、本体の底部を塞ぐための裏蓋314が下プレート313に対してネジ止めされるように設けられ、また、この裏蓋314には装置全体をスタンドに固定するための固定ネジ孔部材315が固定されている。
【0036】
4.ポンプ機構の詳細な説明
図4の(a)はポンプ機構300の外観を示す斜視図、図4の(b)はポンプ機構300を側面から見た図であり、ポンプベース301の片側をはずした状態を示している。上述したように、ポンプ機構300は、ポンプベース301にフィンガ310とカムシャフト302が組み込まれた構成である。上述のように、ポンプベース301には、ベアリングを内蔵した一対のベアリングブロック303が固定され、カムシャフト302を回転自在に支持している。また、フィンガ310−1〜310−5のそれぞれの端部には小型のラジアルベアリング320が設けられており、カムシャフト302の第一カム面302aに当接する状態になるように構成されている。この第一カム面302aとラジアルベアリング320の当接により、フィンガ310はチューブを押圧する方向へ押し出される。以下、これらフィンガを総称する場合には、フィンガ310と記載する。
【0037】
図5は本実施形態のポンプ機構300に組み込まれているカムシャフト302、ベアリングブロック303、及びフィンガ310を抜き出して示した図であり、(a)はその平面図、(b)は正面図、(c)は斜視図である。
【0038】
カムシャフト302は、複数のフィンガ310の各々に対して第一カム面302aと第2カム面302bとを提供するカム部を有している。フィンガ310は、一端が第一カム面302aと接触し、他端が輸液チューブ100を押圧するフィンガ本体310aと、一端がフィンガ本体310aに接続された略U字形状のフック部材310bとを有する。そして、カムシャフト302の駆動によるカム部材の回転に応じて、第一カム面302aがフィンガ本体310aの一端(ラジアルベアリング320)と当接して輸液チューブを押圧する方向へフィンガ310を押し出し、第二カム面302bがフック部材310bに当接してフィンガ310を引き戻すように動作する。
【0039】
図6は、ポンプ機構300に組み込まれているカムシャフト302を示す図であり、(a)はその平面図、(b)は正面図、(c)は斜視図である。カムシャフト302の外周面には、上述したようにフィンガ310のフィンガ本体310aに当接する第一カム面302aとフック部材310bに当接する第二カム面とを有する偏芯カム形状部が精度を確保してコンピュータ制御加工装置により一体加工されている。カムシャフト302の精度が高いので、寸法精度の良い輸液チューブを用いれば、例えば流量精度±5%以内を保証できることになる。この一体型のカムシャフト302は、SUS304などのステンレス鋼から機械加工されている。なお、第二カム面302bは、複数のフィンガ310に対応して設けられた隣接する第一カム面302aの間に設けることができ、最も上流側の第二カム面もベアリングブロック303と第一カム面との間に設けることができる。したがって、第二カム面の形成は、ポンプ機構300のカムシャフト302の軸方向へのサイズにほとんど影響を与えることはない。
【0040】
図7は本実施形態のポンプ機構300に組み込まれているフィンガ310の外観を示す図であり、(a),(b)はその斜視図、(c)は正面図である。
【0041】
フィンガ310は、上述したようにフィンガ本体310aとフィンガ戻し用のフック部材310bを有する。フィンガ本体310aのカムシャフト302側に向けて配置される端部310cには小型のラジアルベアリング320(図4,図5参照)が装着されて、カムシャフト302の第一カム面302aと接する第一端部を形成する。フィンガ本体310aにおける端部310cの反対側にはパッド310dが設けられ、輸液チューブを押圧するための第二端部が形成されている。
【0042】
フック部材310bは、略U字型の形状を有しており、フィンガ本体310aと連結、固定されている。フィンガ310は一体成形されていても良いし、例えば、フィンガ本体310a、フック部材310b、パッド310dが別部品から構成され、組み立てられたものであってもよい。
【0043】
図4〜図7に示すように、カムシャフト302の第一カム面302aとフィンガ本体310aの第一端部を構成する小型のラジアルベアリング320が接触することにより、フィンガ310はチューブを押圧する方向へ押し出される。一方、フック部材310bの面310eはカムシャフト302の第二カム面302bと接触するように構成されており、これによりフィンガ310はチューブの押圧時とは反対方向へ、すなわちフィンガ310はフック部材310bを介してカムシャフト302の方向へ引き戻される。したがって、フィンガ310の各々に対して、第一カム面302aと第二カム面302bを設け、これらカム面をフィンガ310の押し出しと引き戻しのタイミングが整合するように形成することで、従来用いられていたようなフィンガ引き戻し用のばねを用いることなく、フィンガ310のスムーズな押し出しと引き戻しが可能になる。
【0044】
なお、フィンガ310が引っかかってカムシャフト側へ戻らなくなったような場合、ステップモータ106にかかる負荷が変動する。したがって、このような負荷変動を検出して、フィンガ部(ポンプ機構)の異常を検出するようにしても良い。
【0045】
また、上記実施形態では、第一カム面302aと第二カム面302bとを有するカム部材とカムシャフト302とを一体成形しているが、これに限られるものではない。第一カム面302aと第二カム面302bとを提供するカム部材とシャフトとを別体として形成し、シャフトにカム部材を固定してカムシャフト302を形成するようにしてもよい。さらに、カム部材は、第一カム面302aと第二カム面302bとを別々のカム板で提供するようにしても良い。
【0046】
以上のように、上記実施形態によれば、ポンプ機構300においてフィンガ310を引き戻すためのばね部材を省略することが可能となり、フィンガ長を短縮することが可能となり、輸液ポンプをより小型化することができる。また、ばねの劣化によりフィンガの戻りが悪くなるというような経時的な変化が低減され、常に精度の良い輸液を実現することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
輸液チューブの外周面を押圧して送液を行う輸液ポンプであって、
前記輸液チューブを保持した状態において、前記輸液チューブの軸方向に沿う方向に配列された複数のフィンガと、
モータにより駆動されるカムシャフトと、
前記カムシャフトに設けられ、前記複数のフィンガの各々に対して第一カム面と第二カム面とを提供するカム部材とを備え、
前記複数のフィンガの各々は、
前記第一カム面と接触する第一端部と、前記第一端部に対向して設けられ、前記輸液チューブを押圧するためのパッドを有する第二端部とを有するフィンガ本体と、
一端が当該フィンガ本体に接続され、他端が前記第二カム面と接触するように設けられた、略U字形状のフック部材とを有し、
前記カムシャフトの駆動により前記カム部材が回転すると、前記第一カム面と前記第一端部との当接により前記輸液チューブを押圧するように前記フィンガが押し出され、前記第二カム面と前記フックとの当接により前記フィンガが引き戻されることを特徴とする輸液ポンプ。
【請求項2】
前記カム部材は前記カムシャフトに一体成形されていることを特徴とする請求項1に記載の輸液ポンプ。
【請求項3】
前記カム部材を、前記カム部材とは別体のシャフトに固定することで前記カムシャフトが形成されることを特徴とする請求項1に記載の輸液ポンプ。
【請求項4】
前記カム部材が、前記第一カム面を提供するカム板と前記第二カム面を提供するカム板とが別体であることを特徴とする請求項3に記載の輸液ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−206211(P2011−206211A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−76175(P2010−76175)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】