説明

輸送機

【課題】潰れ残り領域を縮小できる衝撃吸収装置を備えた輸送機を提供する。
【解決手段】輸送機に備わる衝撃吸収装置10Aを構成する吸収材14,17は、断面の形が灰皿状の結合部材23,26により後方の吸収材17,20に結合されている。最後方に位置する吸収材20は溶接でベース29に結合されている。吸収材14,17,20に作用した荷重によって、吸収材14,17,20の崩壊領域15,18,21は潰れ、長さが短くなる。吸収材14,17の潰れ残り領域16,19は後方の吸収材17,20の潰れ残り領域19,22と重なる。このため、潰れ残り領域16,19,22は結合部材23,26の凹部内に収まるので、衝撃吸収装置全体の潰れ残り領域の長手方向の寸法を短縮することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両やモノレールカー等の軌条車両や自動車等、衝突による衝撃の発生が予測される輸送機に関する。本発明は、特に、衝突時の衝撃を吸収するために衝撃吸収特性の優れた材料で構成した吸収材から成る衝撃吸収装置を備えた鉄道車両に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、鉄道車両においては、衝突時の乗務員及び乗客の安全を確保するため、衝突時の衝撃を吸収するクラッシャブルゾーンを設置することが望まれている。これに対して、先頭車(最後尾車を含む。)及び中間車の車体長手方向端部に衝撃吸収装置を設置して、衝突時に作用する荷重を本装置で負担し、衝撃を緩和しようとすることが提案されている(特許文献1)。
【0003】
鉄道車両構体においては、十分な客室空間を確保するため、極力小さなクラッシャブルゾーンで衝突時の衝撃を吸収することが求められる。しかし、吸収材の圧壊後には潰れ残りが発生するため、実際にはこの潰れ残り領域を除いた領域で衝撃を吸収する必要がある。いわば、潰れ残り領域は、クラッシャブルゾーン内において衝撃の吸収に寄与しないデッドゾーンとなる。
【特許文献1】特許第0372540号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、潰れ残り領域を極力小さくすることが、クラッシャブルゾーンの縮小化、延いては、輸送機内の客室空間の拡張に対して有効となる。
【0005】
本発明の目的は、潰れ残り領域を可及的に縮小することができる衝撃吸収装置を備えた輸送機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、この発明による輸送機は、衝撃を吸収する吸収材からなる衝撃吸収装置を備えた輸送機において、前記衝撃吸収装置は、衝撃吸収作用方向に複数の前記吸収材を備えており、該複数の吸収材からなる前記衝撃吸収装置の2つの吸収材において、衝撃を受ける前方側の前記吸収材の後端部は、それよりも後方側の前記吸収材の前端部に挿入されて重なっており、または、前記前方側の前記吸収材の後端部は、それよりも後方側の前記吸収材の前端部を含んで覆って重なっており、前記前方側の吸収材と前記後方側の吸収材とは、前記衝撃作用方向において結合部材を介して結合されていること、を特徴とする輸送機を構成することにより、達成できる。
【0007】
この輸送機によれば、衝撃吸収装置の前方側の吸収材の潰れ残り領域は、後方側の吸収材の潰れ残り領域に重なり、衝撃吸収装置の潰れ残り領域が縮小されるので、衝撃吸収装置の長さを小さくすることができる。
【発明の効果】
【0008】
このため、本発明によれば、衝撃吸収装置の潰れ残り領域を縮小できるので、クラッシャブルゾーンの縮小化、延いては、客室空間の拡張が可能な輸送機が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明による輸送機の一実施例を図1〜図3に基づいて説明する。
【0010】
図3において、5は輸送機の一例としての鉄道車両の構体であり、上面を構成する屋根構体1、側面を構成する二枚の側構体2,2、下面を構成する台枠3、及び端面を構成する2枚の妻構体4,4で構成される。屋根構体1、側構体2,2、台枠3、妻構体4,4は、それぞれ複数の押出し形材を接合して構成されている。屋根構体1、側構体2,2、台枠3を構成する押出し形材はアルミニウム合金製の中空形材であり、それらの押出し方向は鉄道車両構体5の前後方向と一致している。妻構体4,4を構成する押出し形材はアルミニウム合金製のリブ付き形材であり、その押出し方向は鉄道車両構体5の上下方向に一致している。鉄道車両構体5の長手方向端部の台枠3の下面には、当該長手方向に向けて衝撃吸収装置10Aが設置されている。
【0011】
図3では左端を先頭にして示しているが、図1では右端を先頭として示している。図1の右端が荷重作用部である。
【0012】
衝撃吸収装置10Aには、先端(右端)に荷重作用部11が、その後方(左側)に吸収材14,17,20がある。荷重の伝達経路に沿って並ぶ吸収材14と吸収材17とは結合部材23を介して結合されており、また、荷重の伝達経路に沿って並ぶ吸収材17と吸収材20とは結合部材26を介して結合されている。吸収材20は鉄道車両構体5の台枠3の下面にベース29を介して結合されている。
【0013】
吸収材14,17,20は衝撃吸収特性の優れた材料(例えば、アルミニウム合金製押出し形材:A6063S−T5)で構成した断面が八角形の中空押出し形材で、吸収材14,17,20の外径は荷重作用方向の後方(左側)の吸収材17,20に向かうに従って大きくなっている。吸収材14,17,20の断面積は後方の吸収材に向かうに従って僅かずつ大きくなっていく。
【0014】
ここで、前記『外径』について説明する。吸収材14,17,20は押出し方向に対して直角方向の断面が八角形であるので、円形ではないが、その外接円の径を『外径』として考える。また、例えば、吸収材14,17,20の形状は、八角形でなく六角形でも、またはそれ以上の多角形でもよい。特許請求の範囲の『円形』はこれも同様である。
【0015】
また、吸収材14(17、20)は、内筒の面板14a(17a、20a)と、外筒の面板14b(17b、20b)と、両者をトラス状に接続する接続板14c(17c、20c)と、から成る。このため、吸収材14,17,20は押出し中空形材である。押出し中空形材は閉断面形状である。また、押出し中空形材は、押出し方向の軸芯に沿って中央部が空間で貫通している。
【0016】
また、吸収材(中空押出し形材)14の押出し方向の軸芯は他の吸収材(中空押出し形材)17,20の軸芯に沿っている。即ち、吸収材14,17,20(中空押出し形材)の中心軸は一致している。吸収材14の前端は塞ぎ板12に隅肉溶接で結合されている。塞ぎ板12は前方の荷重作用部11にボルト・ナット13にて結合されている。荷重作用部11は厚板である。
【0017】
吸収材14(17)の後端は、荷重の伝達経路に沿って隣に並ぶ吸収材17(20)の前端に挿入され、中心軸に沿った方向での存在領域がそれぞれの一部で重なっている。吸収材14(17)の後端と吸収材17(20)の前端とは結合部材23(26)を介して結合されている。
【0018】
結合部材23(26)は厚板である。結合部材23(26)はその前方の吸収材14(17)、後方の吸収材17(20)に隅肉溶接されている。
【0019】
吸収材14(17)の後端と吸収材17(20)との結合部材を介した結合とは、溶接または、ボルト・ナットによる締結である。溶接は前記実施例のように隅肉溶接である。ボルト・ナットによる結合は、吸収材17(20)の前端に板を隅肉溶接し、この板と結合部材23(26)の外周との重なり部をボルト・ナットで結合する。ナットはなくてもよい。ボルトは荷重作用部11側から締結する。吸収材14(17)と結合部材23(26)との締結も同様である。
【0020】
また、吸収材17の後端と吸収材20の前端とは、前記と同様に、結合部材26を介して結合されている。
【0021】
吸収材20の後端はベース29に溶接されている。ベース29は台枠3の下部に設置されている。
【0022】
ベース29はボルト(図示せず。)を介して鉄道車両構体5に結合されており、衝撃吸収装置10Aの交換はこのボルトの取り外しにより容易に行われる。
【0023】
吸収材14,17,20はそれぞれ崩壊領域15,18,21と潰れ残り領域16,19,22に分けられる。衝突時に衝撃を吸収する領域は崩壊領域15,18,21であり、潰れ残り領域16,19,22は衝撃を吸収しないデッドゾーンとなる。
【0024】
図2に示すように、結合部材23,26は正面(前方)から見た形が二重の八角形である。これは挿入する吸収材14,17が八角形であり、結合部材23,26を受ける吸収材17,20が八角形であるためである。結合部材23,26は内側受け部25,28と外側受け部24,27とが段差に形成されている灰皿状であり、内側受け部25,28には前方の吸収材14,17が、外側受け部24,27には後方の吸収材17,20が溶接されている。
【0025】
結合部材23(26)において、前方に位置する外側受け部24(27)と後方に位置する内側受け部25(28)との間の長手方向(荷重作用方向)の距離は、前方の吸収材14(17)の潰れ残り領域16(19)及び後方の吸収材17(20)の潰れ残り領域19(22)の長手方向の寸法とほぼ等しい
【0026】
即ち、吸収材14,17,20の潰れ残り領域16,19,22の長手方向の寸法は実質的に等しい。これらの寸法は、結合部材23の外側受け部24と内側受け部25との間の長手方向の距離、及び結合部材26の外側受け27部と内側受け部28との間の長手方向の距離と実質的に等しい。
【0027】
かかる構造においては、衝撃吸収装置10Aの潰れ残り領域を縮小することができる。図4は、新旧の衝撃吸収装置10A,30の崩壊状態の比較を示す。上段の図は、本発明による衝撃吸収装置10Aが衝撃で崩壊した状態を示す図である。下段の図は、上段の本発明による衝撃吸収装置10Aの長手方向(荷重作用方向)の長さと同一の長さの従来の衝撃吸収装置30が崩壊した状態を示す図である。
【0028】
衝撃吸収装置10Aにおいて、吸収材14,17,21はそれぞれ、その長さの3/4が崩壊し、1/4が潰れ残り量として残る。この潰れ残り量には、崩壊して縮んで残った長さを含む。従来の縮んだ衝撃吸収装置30も同様である。
【0029】
衝撃吸収装置10Aにおいては、吸収材14,17の潰れ残り領域16,19が後方の吸収材17,20の潰れ残り領域19,22の領域に入るので、衝撃吸収装置10A全体の潰れ残り領域は小さくなり、従来の衝撃吸収装置30の1/4の潰れ残り領域32よりも小さくなる。
【0030】
衝撃吸収装置10Aでは崩壊領域15,18,21において衝撃を吸収するのに対して、衝撃吸収装置30では崩壊領域31において衝撃を吸収する。この差は、衝撃吸収装置10Aと衝撃吸収装置30における潰れ残り領域の長手方向の寸法の差33と同等である。即ち、衝撃吸収装置10Aは、衝撃吸収装置30と比較して潰れ残り領域の長手方向の寸法の差33の分、衝撃を多く吸収できる。
【0031】
これより、衝撃吸収装置10Aは衝撃吸収装置30と比較して長手方向の寸法が小さい状態で、衝撃吸収装置30と同等の衝撃を吸収することができる。即ち、衝撃吸収装置10Aを適用することにより、クラッシャブルゾーンを縮小化、延いては、客室空間を拡張することができる。
【0032】
前記『縮小化』について説明する。同じ長さであれば、衝撃吸収量は衝撃吸収装置10Aのほうが、衝撃吸収装置30よりも多い。即ち、言い換えれば、同じ衝撃量を吸収するのに要する長さは衝撃吸収装置10Aの方が短い。
【0033】
本発明の他の実施例を図5及び図6に基づいて説明する。
【0034】
図5及び図6に示す衝撃吸収装置10Bは、図1の実施例において、荷重作用部11とベース29を左右に反転させたものである。
【0035】
かかる構造においては、荷重作用部11が広くなったことにより、より広範囲の荷重に対して、衝撃吸収装置10Bを作用させることができる。
【0036】
しかし、荷重作用部11に上下方向や左右方向の荷重が作用した際に強度的に厳しい状態となる。吸収材20の外径が小さいので、図1の実施例と比較してこれらの荷重に対する対応が不十分となる可能性がある。この点では、図1のほうがよいと考えられる。
【0037】
次に、図7、図8に示す実施例について説明する。これまでの実施例は断面が八角形の中空押出し形材であったが、図7に示す衝撃吸収装置10Cは、長方形の中空押出し形材を用いている。吸収材54(57、60)はそれぞれ2つの中空形材54B,54C(57B,57C、60B,60C)からなり、上下の2箇所において押出し方向を水平にして設置している。上下の中空形材54B,54C(57B,57C、60B,60C)はその幅方向端部を板54D(57D、60D)で溶接している。幅方向とは、押出し方向(荷重作用方向)に対する幅方向(水平方向)である。板54D(57D、60D)によって中空形材54B,54C(57B,57C、60B,60C)が一体になっているので、中空形材54B,54C(57B,57C、60B,60C)は一体となって崩壊する。板54D(57D、60D)の板厚は薄い。
【0038】
吸収材54(57)と吸収材57(60)とは結合部材55(58)を介して結合されている。結合部材55,58の形状は八角形ではなく、荷重作用方向から見て四角形である。結合部材55,58の深さは、吸収材54(57)と吸収材57(60)との重なり代と同等である。
【0039】
図9の実施例を説明する。図8の実施例では中空形材54B,54C,57B,57C,60B,60Cの押出し方向は荷重作用方向(水平方向)に沿っていたが、図9に示す衝撃吸収装置10Dにおいては、中空形材54B,54C,57B,57C,60B,60Cの押出し方向は荷重作用方向(水平方向)に対して傾斜されている。中空形材54B,54C、57B,57C,60B,60Cは、板54D、57D,60Dに接続(溶接)されている。他は、前記実施例(図7,図8)に同様である。本実施例では、衝撃吸収装置10Dの設置に必要な空間を縮小することができる。
【0040】
上記各実施例では吸収材は中空押出し形材で構成したが、中空形材である必要はない。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明による衝撃吸収装置の一実施例を示す縦断面図。
【図2】図1のII−II矢視図。
【図3】鉄道車両構体の斜視図。
【図4】本発明の衝撃吸収装置と従来の衝撃吸収装置の吸収材の崩壊後の比較図。
【図5】本発明による衝撃吸収装置の他の実施例を示す縦断面図。
【図6】図5のVI−VI矢視図。
【図7】本発明による衝撃吸収装置の他の実施例を示す縦断面図。
【図8】図7のVIII−VIII矢視図。
【図9】本発明による衝撃吸収装置の他の実施例を示す縦断面図。
【符号の説明】
【0042】
1:屋根構体 2:側構体
3:台枠 4:妻構体
5:鉄道車両構体 10A〜10D,30:衝撃吸収装置
11:荷重作用部 12:塞ぎ板
13:ボルト・ナット 14,17,20:吸収材
15,18,21,31:崩壊領域 16,19,22,32:潰れ残り領域
23,26:結合部材 24,27:外側受け部
25,28:内側受け部 29:ベース
33:潰れ残り領域の長手方向の寸法の差
54,57,60:吸収材
54B,54C,57B,57C,60B,60C:中空形材
54D,57D,60D:板 55,58:結合部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
衝撃を吸収する吸収材からなる衝撃吸収装置を備えた輸送機において、
前記衝撃吸収装置は、衝撃吸収作用方向に複数の前記吸収材を備えており、
該複数の吸収材からなる前記衝撃吸収装置の2つの吸収材において、
衝撃を受ける前方側の前記吸収材の後端部は、それよりも後方側の前記吸収材の前端部に挿入されて重なっており、
または、前記前方側の前記吸収材の後端部は、それよりも後方側の前記吸収材の前端部を含んで覆って重なっており、
前記前方側の吸収材と前記後方側の吸収材とは、前記衝撃作用方向において結合部材を介して結合されていること、
を特徴とする輸送機。
【請求項2】
請求項1記載の輸送機において、
前記吸収材は、前記衝撃作用方向を押出し方向を押出し方向とした押出し形材からなること、
を特徴とする輸送機。
【請求項3】
請求項2記載の輸送機において、
前記押出し形材は、中空押出し形材であり、
その押出し方向に対して直角方向の断面が6角形または8角形または多角形または円形であり、
前記複数の吸収材からなる前記衝撃吸収装置の2つの中空形材において、
前記前方側の中空形材の後端部は、後方側の中空形材の前端部に挿入されて重なっており、
前記複数の中空形材は、後方側に行くに従って前記中空形材の外径が大きくなっており、
前記中空形材はその中央部に貫通する空間があること、
最も後方側の中空形材はベースを介して車両構体の台枠に設置されていること、
を特徴とする輸送機。
【請求項4】
請求項2記載の輸送機において、
前記押出し形材は、中空押出し形材であり、
その押出し方向に対して直角方向の断面が6角形または8角形または多角形または円形であり、
前記複数の吸収材からなる前記衝撃吸収装置の2つの中空形材において、
前記前方側の中空形材の後端部は、後方側の中空形材の前端部を覆って重なっており、
前記複数の中空形材は、後方側に行くに従って前記中空形材の外径が小さくなっており、
前記中空形材はその長手方向の中央部に貫通する空間があること、
を特徴とする輸送機。
【請求項5】
請求項2記載の輸送機において、
前記吸収装置の1つの吸収材は、2つの押出し中空形材と、該2つの押出し中空形材の幅方向端部を接続する板とから成り、
前記押出し方向は前記衝撃作用方向を向いていること、
を特徴とする輸送機。
【請求項6】
請求項5記載の輸送機において、
前記押出し中空形材は平行に設置されていること、
を特徴とする輸送機。
【請求項7】
請求項5記載の輸送機において、
前記押出し中空形材は、押出し方向を他方の中空形材に対して傾斜して配置されていること、
を特徴とする輸送機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2008−239083(P2008−239083A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−85370(P2007−85370)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】