説明

近赤外反射フィルム、近赤外反射フィルムの製造方法及び近赤外反射体

【課題】水系の屈折率形成用塗布液を用い、製造コストが安く、大面積化が可能であり、膜柔軟性に優れ、可視光透過率が高く、近赤外反射性と耐久性に優れた近赤外反射フィルムとその製造方法及びその近赤外反射フィルムを設けた近赤外反射体を提供する。
【解決手段】基材上に、高屈折率層と低屈折率層とから構成されるユニットを少なくとも1つ有し、該高屈折率層と該低屈折率層との屈折率差が0.1以上である近赤外反射フィルムにおいて、該高屈折率層及び該低屈折率層の少なくとも1層が、金属酸化物粒子、ゼラチンまたはコラーゲンペプチド、及び酸またはその塩を含有し、かつ該ユニットの膜面pHが4.0以上、6.0以下であることを特徴とする近赤外反射フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外反射性、可視光透過性及び耐久性(膜柔軟性)に優れた近赤外反射フィルム、近赤外反射フィルムの製造方法及び近赤外反射フィルムを設けた近赤外反射体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネルギー対策の一環として、冷房設備にかかる負荷を減らす観点から、建物や車両の窓ガラスに装着させて、太陽光の熱線の透過を遮断する近赤外反射フィルムへの要望が高まってきている。
【0003】
近赤外反射フィルムの形成方法としては、主には、高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層させた構成からなる積層体ユニットを、蒸着法、スパッタ法などのドライ製膜法を用いて形成する方法が提案されている。しかし、ドライ製膜法は、形成に用いる真空装置等が大型になり、製造コストが高くなり、大面積化も困難であり、かつ適用可能な基材としては耐熱性素材に限定される等の課題を抱えている。
【0004】
近年、上記のような課題を有しているドライ製膜法に代えて、湿式塗布法を用いて近赤外反射フィルムを形成する方法の検討が盛んになされている。
【0005】
例えば、金属酸化物、金属化合物微粒子を含む熱硬化型シリコーン樹脂、紫外線硬化型アクリル樹脂等を有機溶媒中に分散させた高屈折率層塗布液を、バーコーターを用いた湿式塗布方式により基材上に塗布して透明積層体を形成する方法(例えば、特許文献1参照。)や、ルチル型の酸化チタン、複素環系窒素化合物(例えば、ピリジン)、紫外線硬化型バインダー及び有機溶剤から構成される高屈折率塗膜形成用組成物を、バーコーターを用いた湿式塗布方式により基材上に塗布して透明積層体を形成する方法(例えば、特許文献2参照。)が開示されている。
【0006】
一方、球状ルチル型酸化チタン粒子のメタノール分散スラリーと、メタノールシリカゾルを用いて交互積層する方法(例えば、特許文献3参照。)も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−110401号公報
【特許文献2】特開2004−123766号公報
【特許文献3】特開2003−266577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に開示されている方法では、高屈折率層形成用塗布液の媒体は、主に有機溶剤により形成されているため、高屈折率層形成及び乾燥時に、多量の有機溶剤を飛散させることになり、環境上の課題を抱えている。更に、上記開示されている方法では、バインダーとして紫外線硬化型バインダーや熱硬化型バインダーを用いて高屈折率層を形成した後、紫外線あるいは熱により硬化するため、柔軟性に乏しい塗膜物性となっている。更に、ルチル型酸化チタン粒子を有機溶媒中に表面処理剤を用いて分散したスラリーを使用しているため、チタン粒子の粒度分布が広く、塗膜中の屈折率が面内で不均一になるという課題、並びに表面処理剤の影響により、長期保存した過程で塗膜が変色してしまうという課題があった。
【0009】
また、特許文献3に記載されている方法では、粒子同士の結着による膜形成を行っているため、得られる膜が脆く、さらにルチル型酸化チタン粒子の結着により形成した高屈折率層では、粒子界面に生じる空隙により、ヘイズが高いという課題があった。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は、水系の屈折率形成用塗布液を用いて製造でき、製造コストが安く、大面積化が可能であり、膜柔軟性に優れ、可視光透過率が高く、近赤外反射性と耐久性に優れた近赤外反射フィルムとその製造方法及びその近赤外反射フィルムを設けた近赤外反射体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の上記目的は、以下の構成により達成される。
【0012】
1.基材上に、高屈折率層と低屈折率層とから構成されるユニットを少なくとも1つ有し、該高屈折率層と該低屈折率層との屈折率差が0.1以上である近赤外反射フィルムにおいて、該高屈折率層及び該低屈折率層の少なくとも1層が、金属酸化物粒子、ゼラチンまたはコラーゲンペプチド、及び酸またはその塩を含有し、かつ該ユニットの膜面pHが4.0以上、6.0以下であることを特徴とする近赤外反射フィルム。
【0013】
2.前記酸またはその塩が、分子量が300以下のカルボン酸と、アルカリ金属またはアルカリ土類金属との塩であることを特徴とする前記1に記載の近赤外反射フィルム。
【0014】
3.前記高屈折率層及び前記低屈折率層の少なくとも1層が、1)重量平均分子量が5万以下である低分子量ゼラチンまたはコラーゲンペプチドと、2)重量平均分子量が10万以上の高分子量ゼラチンとを含有することを特徴とする前記1または2に記載の近赤外反射フィルム。
【0015】
4.前記高屈折率層が金属酸化物粒子を含有し、該金属酸化物粒子が、体積平均粒径100nm以下のルチル型酸化チタン粒子であることを特徴とする前記1から3のいずれか1項に記載の近赤外反射フィルム。
【0016】
5.前記高屈折率層及び前記低屈折率層の少なくとも1層が、セルロース類、増粘多糖類及び反応性官能基を有するポリマー類から選ばれる少なくとも1種の水溶性高分子を含有することを特徴とする前記1から4のいずれか1項に記載の近赤外反射フィルム。
【0017】
6.基材上に、高屈折率層と低屈折率層とから構成されるユニットを少なくとも1つを有し、該高屈折率層と該低屈折率層との屈折率差が0.1以上である近赤外反射フィルムを製造する近赤外反射フィルムの製造方法において、該高屈折率層及び該低屈折率層の少なくとも1層は、少なくとも金属酸化物粒子、ゼラチンまたはコラーゲンペプチド、及び酸またはその塩を含有する水系塗布液を用いて形成し、形成した該ユニットの膜面pHが4.0以上、6.0以下であることを特徴とする近赤外反射フィルムの製造方法。
【0018】
7.前記酸またはその塩が、分子量が300以下のカルボン酸と、アルカリ金属またはアルカリ土類金属との塩であることを特徴とする前記6に記載の近赤外反射フィルムの製造方法。
【0019】
8.前記高屈折率層及び該低屈折率層の少なくとも1層を形成する水系塗布液のpHが、3.8以上、5.8以下であることを特徴とする前記6または7に記載の近赤外反射フィルムの製造方法。
【0020】
9.前記高屈折率層及び該低屈折率層の少なくとも1層を形成する水系塗布液が含有する前記ゼラチンまたはコラーゲンペプチドが、1)重量平均分子量が5万以下である低分子量ゼラチンまたはコラーゲンペプチドと、2)重量平均分子量が10万以上の高分子量ゼラチンであることを特徴とする前記6から8のいずれか1項に記載の近赤外反射フィルムの製造方法。
【0021】
10.前記高屈折率層及び該低屈折率層の少なくとも1層を形成する水系塗布液が、前記金属酸化物粒子の表面を、前記1)重量平均分子量が5万以下である低分子量ゼラチンまたはコラーゲンペプチドで被覆した後、前記2)重量平均分子量が10万以上の高分子量ゼラチンを添加して調製されることを特徴とする前記9に記載の近赤外反射フィルムの製造方法。
【0022】
11.基体の少なくとも一方の面側に、前記1から5のいずれか1項に記載の近赤外反射フィルムを有することを特徴とする近赤外反射体。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、水系の屈折率形成用塗布液を用い、製造コストが安く、大面積化が可能であり、膜柔軟性に優れ、可視光透過率が高く、近赤外反射性と耐久性に優れた近赤外反射フィルムとその製造方法及びその近赤外反射フィルムを設けた近赤外反射体を提供することができた。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
【0025】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、基材上に、高屈折率層と低屈折率層とから構成されるユニットを少なくとも1つ有し、該高屈折率層と該低屈折率層との屈折率差が0.1以上である近赤外反射フィルムにおいて、該高屈折率層及び該低屈折率層の少なくとも1層は、金属酸化物粒子、ゼラチンまたはコラーゲンペプチド、及び酸またはその塩を含有し、かつ該ユニットの膜面pHが4.0以上、6.0以下であることを特徴とする近赤外反射フィルムにより、製造コストが安く、大面積化が可能であり、膜柔軟性に優れ、可視光透過率が高く、近赤外反射性と耐久性に優れた近赤外反射フィルムを実現できること、また、基材上に、高屈折率層と低屈折率層とから構成されるユニットを少なくとも1つを有し、該高屈折率層と該低屈折率層との屈折率差が0.1以上である近赤外反射フィルムを製造する近赤外反射フィルムの製造方法において、該高屈折率層及び該低屈折率層の少なくとも1層が、少なくとも金属酸化物粒子、ゼラチンまたはコラーゲンペプチド、及び酸またはその塩を含有する水系塗布液を用いて形成され、形成した該ユニットの膜面pHが4.0以上、6.0以下であることを特徴とする近赤外反射フィルムの製造方法により、水系の屈折率形成用塗布液を用い、製造コストが安く、大面積化が可能であり、膜柔軟性に優れ、可視光透過率が高く、近赤外反射性と耐久性に優れた近赤外反射フィルムが得られる近赤外反射フィルムの製造方法を実現できることを見出し、本発明に至った次第である。
【0026】
すなわち、従来の近赤外反射フィルムの作製方法において、樹脂バインダー中に金属酸化物粒子を分散した高屈折率層の形成方法としては、主には、媒体として有機溶剤を用いた高屈折率層塗布液により形成していたが、塗膜均一性あるいは環境適性で問題を抱えていた。
【0027】
従来の方法において、樹脂ポリマーと金属酸化物粒子、例えば、酸化チタン粒子を含む高屈折率層塗布液が水系の塗布液として適用されてこなかった理由としては、水系の高屈折率層塗布液を用いて塗膜形成した場合には、乾燥過程で塗膜が固化するまでの間に、乾燥風により塗膜表面に波紋(この様な現象を「吹かれムラ」ともいう)が生じて塗膜の平面性が損なわれること、あるいは水系媒体である水溶性高分子溶液中に酸化チタン粒子を安定して分散させることが困難であったことが実情であると考えられる。
【0028】
本発明者は、上記課題に対し鋭意検討を進めた結果、水系の屈折率制御層(高屈折率層と低屈折率層からなるユニット)を形成する塗布液として、金属酸化物粒子、ゼラチンまたはコラーゲンペプチドと、酸またはその塩とを含有する塗布液を用いて形成することにより、水系媒体中に屈折率制御の主要成分である金属酸化物を高濃度で安定に分散させて存在させることができると共に、塗布液として低温環境での増粘性を確保することができ、塗布乾燥時に形成した塗膜において吹かれムラを生じることなく、環境適性にも優れた製造方法で均一な塗膜を得ることができ、かつ形成された塗膜品質は光学特性品質と保存性に優れた近赤外反射フィルムを得ることができたものである。
【0029】
本発明においては、金属酸化物粒子、ゼラチンまたはコラーゲンペプチドと、酸またはその塩とを含有する塗布液を用いて形成し、塗布、乾燥させることにより、高屈折率層と低屈折率層からなるユニットの膜面pHが4.0以上、6.0以下となるように塗膜を形成することが必要である。
【0030】
本発明における更に好ましい態様としては、近赤外反射フィルムとしては、本発明に係る高屈折率層及び前記低屈折率層の少なくとも1層が、1)重量平均分子量が5万以下である低分子量ゼラチンまたはコラーゲンペプチドと、2)重量平均分子量が10万以上の高分子量ゼラチンとを含有すること、あるいは本発明に係る高屈折率層が金属酸化物粒子を含有し、該金属酸化物粒子が、体積平均粒径100nm以下のルチル型酸化チタン粒子であることが好ましい。
【0031】
また、近赤外反射フィルムの製造方法として更に好ましい態様としては、本発明に係る高屈折率層及び該低屈折率層の少なくとも1層を形成する水系塗布液のpHが、3.8以上、5.8以下であること、本発明に係る高屈折率層及び該低屈折率層の少なくとも1層を形成する水系塗布液が含有する上記ゼラチンまたはコラーゲンペプチドが、1)重量平均分子量が5万以下である低分子量ゼラチンまたはコラーゲンペプチドと、2)重量平均分子量が10万以上の高分子量ゼラチンであること、本発明に係る高屈折率層及び該低屈折率層の少なくとも1層を形成する水系塗布液が、金属酸化物粒子の表面を、1)重量平均分子量が5万以下である低分子量ゼラチンまたはコラーゲンペプチドで被覆した後、2)重量平均分子量が10万以上の高分子量ゼラチンを添加して調製されることが好ましい態様である。
【0032】
本発明で規定する上記各構成を採ることにより、本発明の目的効果が得られる技術的なメカニズムとしては、本発明者らは以下のように推測している。
【0033】
本発明においては、酸またはその塩を用いて、ユニットの膜面の膜面pHを4.0以上、6.0以下となるよう制御することを特徴とする。この時、ユニットの膜面の膜面pHが6.0を超えるということは、多くの場合、その屈折率層の形成に用いる塗布液のpHとしては、5.8を越える状態となる。この様にpH値として5.8を越える塗布液においては、pH環境としてゼラチンまたはコラーゲンペプチドが有する等電点に近くなり、ゼラチンまたはコラーゲンペプチドを構成する分子鎖の反発力が低下するため、金属酸化物粒子に対する保護コロイド性が低下し、金属酸化物粒子の安定した分散性を維持することができなくなる。その結果、金属酸化物粒子の凝集を生じ、屈折率層塗膜の透明性の低下を招くことになる。また、金属酸化物粒子の凝集を生じることにより、高屈折率層と低屈折率層の間で、層間混合性が低下し、その結果、熱線取得率(近赤外反射性)が劣化することになる。
【0034】
一方、ユニットの膜面の膜面pHが4.0未満ということは、多くの場合、その屈折率層の形成に用いる塗布液のpHとしては、3.8未満の状態となる。pH値として3.8未満の塗布液においては、酸化チタン粒子と酸化珪素粒子との混合性が劣化し、形成した屈折率層のヘイズが低下する。また、塗布液のpHが低くなりすぎることにより、塗膜形成時の低温セット性が低下し、高屈折率層と低屈折率層の間での層間混合性が劣化し、その結果、近赤外反射性が低下することになる。加えて、塗布液のpHが低くなりすぎると、ゼラチンまたはコラーゲンペプチドに対する硬膜剤の反応性が低下して膜硬度が不十分となり、高温高湿環境下で保存した際に、塗膜耐久性が低下する。
【0035】
以下、本発明の近赤外反射フィルムの構成要素、及び本発明を実施するための形態等について詳細な説明をする。
【0036】
《近赤外反射フィルム》
本発明の近赤外反射フィルムは、基材上に、高屈折率層と低屈折率層から構成されるユニットを少なくとも1つ有し、隣接する該高屈折率層と該低屈折率層との屈折率差が0.1以上であることを一つの特徴とする。更には、本発明の近赤外反射フィルムの光学特性としては、JIS R3106−1998で示される可視光領域の透過率が50%以上であり、かつ、波長900nm〜1400nmの領域に反射率50%を超える領域を有することが好ましい。
【0037】
一般に、近赤外反射フィルムにおいては、高屈折率層と低屈折率層の屈折率の差を大きく設計することが、少ない層数で赤外反射率を高くすることができる観点で好ましいが、本発明では、高屈折率層と低屈折率層から構成されるユニットの少なくとも1つにおいて、隣接する該高屈折率層と低屈折率層との屈折率差が0.1以上であることを特徴とし、好ましくは0.3以上であり、更に好ましくは0.4以上である。
【0038】
特定波長領域の反射率は、隣接する2層の屈折率差と積層数で決まり、屈折率の差が大きいほど、少ない層数で同じ反射率を得られる。この屈折率差と必要な層数については、市販の光学設計ソフトを用いて計算することができる。例えば、赤外反射率90%以上を得るためには、屈折率差が0.1より小さいと、20層以上の積層が必要になり、生産性が低下するだけでなく、積層界面での散乱が大きくなり、透明性が低下し、また故障なく製造することも非常に困難になる。反射率の向上と層数を少なくする観点からは、屈折率差に上限はないが、実質的には1.40程度が限界である。
【0039】
次いで、本発明の近赤外反射フィルムにおける高屈折率層と低屈折率層の基本的な構成概要について説明する。
【0040】
本発明の近赤外反射フィルムにおいては、基材上に、高屈折率層と低屈折率層から構成されるユニットを少なくとも1つ積層した構成であればよいが、好ましい高屈折率層と低屈折率層の層数としては、上記の観点から、総層数の範囲としては、100層以下、すなわち50ユニット以下であり、より好ましくは40層(20ユニット)以下であり、さらに好ましくは20層(10ユニット)以下である。
【0041】
また、本発明の近赤外反射フィルムにおいては、隣接する該高屈折率層と低屈折率層との屈折率差が0.1以上であることを特徴するが、高屈折率層と低屈折率層を上記のようにそれぞれ複数層有する場合には、全ての屈折率層が本発明で規定する要件を満たすことが好ましい。ただし、最表層や最下層に関しては、本発明で規定する要件外の構成であっても良い。
【0042】
また、本発明の近赤外反射フィルムにおいては、高屈折率層の好ましい屈折率としては1.80〜2.50であり、より好ましくは1.90〜2.20である。また、低屈折率層の好ましい屈折率としては1.10〜1.60であり、より好ましくは1.30〜1.50である。
【0043】
また、本発明の近赤外反射フィルムにおいては、金属酸化物として体積平均粒径100nm以下のルチル型酸化チタンを、高屈折率層に添加することが好ましく、金属酸化物を高屈折率層と低屈折率層の両層に添加することがより好ましい。本発明において、高屈折率層中における金属酸化物の含有量としては、高屈折率層全質量の15質量%以上、50質量%以下であることが好ましく、更に好ましくは、20質量%以上、40質量%以下である。
【0044】
また、本発明に係る高屈折率層及び低屈折率層の少なくとも1層が、ゼラチンまたはコラーゲンペプチドとして、重量平均分子量が5万以下である低分子量ゼラチンまたはコラーゲンペプチドと、重量平均分子量が10万以上の高分子量ゼラチンを含有することが好ましい態様の一つである。本発明において、高屈折率層または低屈折率層中における低分子量ゼラチンまたはコラーゲンペプチドの含有量としては、高屈折率層または低屈折率層の全質量の10質量%以上、50質量%以下であることが好ましく、更に好ましくは、15質量%以上、30質量%以下である。また、高屈折率層または低屈折率層中における高分子量ゼラチンの含有量としては、高屈折率層または低屈折率層の全質量の10質量%以上、50質量%以下であることが好ましく、更に好ましくは、20質量%以上、40質量%以下である。
【0045】
本発明において、高屈折率層、低屈折率層のそれぞれの屈折率は、下記の方法に従って求めることができる。
【0046】
基材上に屈折率の測定対象の屈折率層を単層で塗設したサンプルを作製し、このサンプルを10cm×10cmに断裁した後、下記の方法に従って屈折率を求める。分光光度計として、U−4000型(日立製作所社製)を用いて、サンプルの測定面とは反対側の面(裏面)を粗面化処理した後、黒色のスプレーで光吸収処理を施して裏面における光反射を防止して、5度正反射の条件にて可視光領域(400nm〜700nm)の反射率を25点測定して、その平均値を求め、これを屈折率層の屈折率として求める。
【0047】
〔高屈折率層〕
本発明に係る高屈折率層の一つの態様として、金属酸化物粒子、ゼラチンまたはコラーゲンペプチド、及び酸またはその塩を含有することが好ましく、更には、1)重量平均分子量が5万以下である低分子量ゼラチンまたはコラーゲンペプチドと、2)重量平均分子量が10万以上の高分子量ゼラチンと、3)金属酸化物粒子と、4)酸またはその塩を含有することが好ましい。
【0048】
(金属酸化物粒子)
本発明に係る高屈折率層に用いられる金属酸化物粒子としては、屈折率が2.0以上で、体積平均粒径が100nm以下の金属酸化物粒子を用いることが好ましく、例えば、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化チタン等を挙げることができるが、特に、体積平均粒径が100nm以下のルチル型酸化チタン粒子を用いることが好ましい。
【0049】
〈ルチル型酸化チタン〉
一般的に、酸化チタン粒子は、粒子表面の光触媒活性の抑制や、溶媒等への分散性を向上する目的で、表面処理が施された状態で使用されることが多く、例えば、酸化チタン粒子表面をシリカからなる被覆層で覆われ、粒子表面が負電荷を帯びたものや、アルミニウム酸化物からなる被覆層が形成されたpH8〜10で表面が正電荷を帯びたものが知られている。
【0050】
本発明においては、金属酸化物粒子が、体積平均粒径が100nm以下のルチル型(正方晶形)の酸化チタン粒子であることが好ましい。
【0051】
本発明に係るルチル型酸化チタン粒子の体積平均粒径は、100nm以下であることが好ましいが、4nm以上、50nm以下であることがより好ましく、更に好ましくは4nm以上、30nm以下である。体積平均粒径が100nm以下であれば、ヘイズが少なく可視光透過性に優れる観点で好ましい。体積平均粒径が100nmを超える酸化チタン粒子は、本発明に限らず高屈折率層に用いるには適当であるとはいえない。
【0052】
本発明に係るルチル型酸化チタン粒子の体積平均粒径とは、粒子そのものあるいは屈折率層の断面や表面に現れた粒子を電子顕微鏡で観察し、1,000個の任意の粒子の粒径を測定し、それぞれd、d・・・d・dの粒径を持つ粒子がそれぞれn、n・・・n・n個存在する金属酸化物粒子の集団において、粒子1個当りの表面積をa、体積をvとした場合に、体積平均粒径mv={Σ(v・d)}/{Σ(v)}で表される体積で重み付けされた平均粒径である。
【0053】
一方、媒体中に分散された一次粒子または二次粒子の平均粒径は、下記で示す方法で測定された体積で重み付けされた平均粒径であり、レーザー回折/散乱法、動的光散乱法等により測定された体積で重み付けされた平均粒径として算出できる。
【0054】
さらに、本発明に係る酸化チタン粒子は、単分散であることが好ましい。ここでいう単分散とは、下記式で求められる単分散度が40%以下をいう。更に好ましくは30%以下であり、特に好ましくは0.1〜20%となる粒子である。
【0055】
単分散度=(粒径の標準偏差)/(粒径の平均値)×100
〈ルチル型酸化チタンゾルの製造方法〉
本発明の近赤外反射フィルムの製造方法において、水系の高屈折率層塗布液を調製する際に、ルチル型酸化チタンとして、pHが1.0以上、3.0以下で、かつチタン粒子のゼータ電位が正である水系の酸化チタンゾルを用いることが好ましい。
【0056】
一般に、酸化チタン粒子は、粒子表面の光触媒活性の抑制や溶媒等への分散性を向上する目的で表面処理を施された状態で使用されることが多く、例えば、酸化チタン粒子表面をシリカからなる被覆層で覆われ、粒子表面が負電荷を帯びたものや、アルミニウム酸化物からなる被覆層が形成されたpH8〜10で表面が正電荷を帯びたものが知られているが、本発明においては、このような表面処理が施されていないpHが1.0〜3.0で、かつゼータ電位が正であるルチル型酸化チタンの水系ゾルが用いることが好ましい。
【0057】
本発明で用いることのできるルチル型酸化チタンゾルの調製方法としては、例えば、特開昭63−17221号公報、特開平7−819号公報、特開平9−165218号公報、特開平11−43327号公報、特開昭63−17221号公報、特開平7−819号公報、特開平9−165218号公報、特開平11−43327号公報等に記載された方法を参照にすることができる。
【0058】
また、本発明に係るルチル型酸化チタンのその他の製造方法としては、例えば、「酸化チタン−物性と応用技術」清野学 p255〜258(2000年)技報堂出版株式会社、或いはWO2007/039953号明細書の段落番号0011〜0023に記載の工程(2)の製造方法を参考にすることができる。
【0059】
上記工程(2)による製造方法とは、二酸化チタン水和物をアルカリ金属の水酸物又はアルカリ土類金属の水酸化物からなる群から選択される、少なくとも1種の塩基性化合物で処理する工程(1)の後に、得られた二酸化チタン分散物を、カルボン酸基含有化合物及び無機酸で処理する工程(2)からなる。本発明では、工程(2)により得られた無機酸により、pHを1.0〜3.0に調整されたルチル型酸化チタンの水系ゾルを用いることができる。
【0060】
〔低屈折率層〕
本発明では、前述の高屈折率層よりも屈折率が少なくとも0.1以上低い低屈折率層を有する。低屈折率層は、屈折率が1.6以下であることが好ましい。さらには、1.30〜1.50である。
【0061】
本発明に係る低屈折率層においては、水溶性高分子中に、金属酸化物粒子を分散したものを用いる。なお、低屈折率層で用いる水溶性高分子化合物は、上記高屈折率層で用いることのできる後述する水溶性高分子と同様のもの、すなわち、セルロース類、増粘多糖類、反応性官能基を有するポリマー類や各種ゼラチン類を使用できる。なお、高屈折率層と低屈折率層で用いられる水溶性高分子等は、同一であっても異なっていても良いが、同一であることが同時重層塗布を実施する上で好ましい。
【0062】
本発明に係る低屈折率層においては、金属酸化物粒子として二酸化ケイ素を用いることが好ましく、酸性のコロイダルシリカゾルを用いることが特に好ましい。
【0063】
本発明において、二酸化ケイ素は、その体積平均粒径が100nm以下であることが好ましい。本発明に係る二酸化ケイ素の体積平均粒径は、上記ルチル型酸化チタン粒子の体積平均粒径の測定と同様の方法で測定することができる。
【0064】
また、本発明のユニットにおける好ましい体積平均粒径を満たすためには、一次粒子の状態で分散された二酸化ケイ素の一次粒子の平均粒径(塗設前の分散液状態での粒径)は、20nm以下のものが好ましく、より好ましくは10nm以下である。また二次粒子の平均粒径としては、30nm以下であることが、ヘイズが少なく可視光透過性に優れる観点で好ましい。
【0065】
本発明に係る金属酸化物の平均粒径は、粒子そのものあるいは屈折率層の断面や表面に現れた粒子を電子顕微鏡で観察し、1,000個の任意の粒子の粒径を測定し、その単純平均値(個数平均)として求められる。ここで個々の粒子の粒径は、その投影面積に等しい円を仮定したときの直径で表したものである。
【0066】
次いで、本発明に係る高屈折率層、低屈折率層の主要構成要素の詳細について、更に説明する。
【0067】
〔ゼラチン、コラーゲンペプチド〕
本発明においては、本発明に係る高屈折率層及び低屈折率層の少なくとも1層が、金属酸化物粒子と酸またはその塩と共に、ゼラチンまたはコラーゲンペプチドを含有することを特徴とし、更に好ましくは、本発明に係る高屈折率層及び低屈折率層の少なくとも1層が、1)重量平均分子量が5万以下である低分子量ゼラチンまたはコラーゲンペプチドと、2)重量平均分子量が10万以上の高分子量ゼラチンとを含有することである。
【0068】
本発明に適用可能なゼラチンとしては、従来、ハロゲン化銀写真感光材料分野で広く用いられてきた各種ゼラチンを適用することができ、例えば、酸処理ゼラチン、アルカリ処理ゼラチンの他に、ゼラチンの製造過程で酵素処理をする酵素処理ゼラチン及びゼラチン誘導体、すなわち分子中に官能基としてのアミノ基、イミノ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基を持ち、それと反応して得る基を持った試薬で処理し改質したものでもよい。ゼラチンの一般的製造法に関しては良く知られており、例えばT.H.James:The Theory of Photographic Process 4th. ed. 1977(Macmillan)55項、科学写真便覧(上)72〜75項(丸善)、写真工学の基礎−銀塩写真編119〜124(コロナ社)等の記載を参考にすることができる。また、リサーチ・ディスクロージャー誌第176巻、No.17643(1978年12月)のIX項に記載されているゼラチンを挙げることができる。
【0069】
〈低分子量ゼラチン〉
本発明に係る低分子量ゼラチンまたはコラーゲンペプチドは、重量平均分子量が5万以下であることが好ましく、更には分子量が10万以上の高分子量ゼラチン成分の含有量が1.0質量%以下であることが好ましい。
【0070】
本発明でいうコラーゲンペプチドとは、ゼラチンに低分子化処理を施して、ゾルゲル変化を発現させなくしたタンパク質であると定義する。
【0071】
本発明に係る低分子量ゼラチンやコラーゲンペプチドは、重量平均分子量が5万以下のものであることが好ましいが、より好ましくは2,000〜30,000であり、特に好ましくは5,000〜25,000である。
【0072】
低分子量ゼラチンやコラーゲンペプチドの重量平均分子量は、ゲル濾過クロマトグラフィーを用いて測定することができる。低分子量ゼラチンあるいはコラーゲンペプチドは、通常用いられる重量平均分子量10万程度の高分子量ゼラチンの水溶液にゼラチン分解酵素を加えて酵素分解したり、酸またはアルカリを加えて加熱し加水分解したり、大気圧下または加圧下での加熱により熱分解したり、超音波照射して分解したり、それらの方法を併用したりして得ることができる。
【0073】
より具体的には、本発明に係る低分子量ゼラチンやコラーゲンペプチドは、次のようにして調製することができる。
【0074】
通常用いられる方法としては、重量平均分子量が10万以上の高分子量ゼラチンを水に溶かし、ゼラチン分解酵素を加えて、ゼラチン分子を酵素分解する。この方法については、R.J.Cox.Photographic Gelatin II,Academic Press,London,1976年、P233〜251、P335〜P346の記載を参考にすることができる。この場合、酵素が分解する結合位置は決まっているため、比較的分子量分布の狭い低分子量ゼラチンが得られ、好ましい。この場合、酵素分解時間を長くする程、より低分子量化する。
【0075】
その他、低pH(pH1〜3)もしくは高pH(pH10〜12)雰囲気下で加熱し、加水分解する方法もある。重量平均分子量が5万を超えると、本発明の効果が少なくなる。重量平均分子量が2000未満ではゼラチンやコラーゲンペプチドの製造上、難点がある。
【0076】
本発明に係る低分子ゼラチンやコラーゲンペプチドにおいては、上記低分子ゼラチンやコラーゲンペプチドの調製工程において、原料として用いる重量平均分子量が10万以上の高分子量ゼラチンの分解を十分に行い、その含有量を1.0質量%以下となる様に、高分子量ゼラチン分子の酵素分解を最適に行う様に、ゼラチン分解酵素の種類、添加量や、酵素分解時の温度や時間等の条件を適宜設定することが好ましい。
【0077】
〈高分子量ゼラチン〉
本発明においては、高屈折率層及び低屈折率層の少なくとも1層が、重量平均分子量が10万以上の高分子量ゼラチンを含有することが好ましく、高分子量ゼラチンの重量平均分子量としては、10万以上、20万以下の範囲にあることがより好ましい。
【0078】
本発明において、用いられる高分子量ゼラチンの重量平均分子量は、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフ法によって測定することができる。ゼラチンの分子量分布及び重量平均分子量についても、一般的な公知の方法であるゲルパーミエーションクロマトグラ法(GPC法)によって測定することができる。
【0079】
ゼラチンの分子量については、D.Lorry and M.Vedrines,Proceedings of the 4th IAG Conference,Sept.1983,P.35、大野隆司、小林裕幸、水澤伸也、日本写真学会誌、47,237(1984)等に記載されているように、コラーゲンの構成単位であるα成分(分子量約10万)及び、その二量体、三量体であるβ成分、γ成分、単量体である高分子両性分、更にはこれらの成分が不規則に切断された低分子量成分からなるのが一般的である。
【0080】
本発明に係る重量平均分子量が10万以上の高分子量ゼラチンとしては、上記各成分の中でも、コラーゲンの構成単位であるα成分(分子量約10万)及び、その二量体、三量体であるβ成分、γ成分が主体のゼラチンである。
【0081】
ゼラチン分子量分布の測定は、上記文献や特開昭60−80838号、同62−87952号、同62−265645号、同62−279329号、同64−46742号の各公報に記載されているように、ゲルパーミエーションクロマトグラフ法によって行われる。
【0082】
本発明においては、ゼラチンの各分子量成分の割合は、以下の条件でGPC法によって求めることができる。
【0083】
a)カラム:Asahipak、GS−620(旭化成工業社製)
2本直列接続 カラム温度50℃
b)溶離液:0.1モル/LのKHPOと0.1モル/LのNaHPOとの等量混合溶液
pH6.8 流速1.0ml/min
c)試料:ゼラチンの0.2%溶離液溶液
注入量 100μl
d)検出:紫外線吸収分光光度計(UV波長230nm)
リテンションタイム(Retention Time)による230nmの吸収の変化をみると、先ず排除限界のピークが現れ、次にゼラチンのγ成分、β成分、α成分によるピークが順次現れ、更にリテンションタイムが長くなるにつれて、徐々に減衰するような形となる。標準サンプルにて校正した流出曲線のリテンションタイム(Retention Time)から分子量を求めることができる。
【0084】
α成分は、分子量約10万のポリペプチド鎖で構成され、α鎖の二量体(β成分)、三量体(γ成分)等ゼラチンは種々の分子量を持つゼラチン分子の集合体となっており、またゼラチンメーカーから所定の重量平均分子量を有するゼラチンを入手することもできる。
【0085】
また、本発明に係る重量平均分子量が10万以上の高分子量ゼラチンの製法としては、例えば、下記の方法などが挙げられる。
【0086】
1)ゼラチン製造中の抽出操作で、抽出後期の抽出物を使用して抽出初期のもの(低分子量成分)は排除する。
【0087】
2)前記製法において、抽出以後乾燥までの工程において、処理温度を40℃未満とする。
【0088】
3)ゼラチンを冷水(15℃)透析する。
【0089】
上記の方法を単独又は併用して用いることにより、重量平均分子量が10万以上の高分子量ゼラチンを得ることができる。
【0090】
本発明においては、本発明に係る高屈折率層及び低屈折率層の少なくとも1層が、1)重量平均分子量が5万以下である低分子量ゼラチンまたはコラーゲンペプチド及び2)重量平均分子量が10万以上の高分子量ゼラチンを含有することが好ましい態様の1つであるが、高屈折率層または低屈折率層が本発明で規定する上記要件を満たしているか否かは、下記の方法で確認することができる。
【0091】
近赤外反射フィルムを構成する高屈折率層または低屈折率層を単離した後、上記ゲルパーミエーションクロマトグラ法(GPC法)によってゼラチンの分子量分布を測定した後、横軸にゼラチンの分子量を、縦軸に含有量をプロットして、分子量分布曲線を作製した後、分子量が5万以下と、分子量が10万以上に2つの含有量の極大ピークが出現することで判定する。
【0092】
〔ゼラチンの硬膜剤〕
本発明に係る高屈折率層塗布液または低屈折率層塗布液には、高屈折率層または低屈折率層を形成した後に、ゼラチン塗膜を硬化するため、必要に応じて硬膜剤を添加することもできる。
【0093】
用いることのできる硬膜剤としては、従来、ハロゲン化銀写真感光材料を構成する写真乳剤層の硬膜剤として使用されている公知の化合物を使用でき、例えば、ビニルスルホン化合物、尿素−ホルマリン縮合物、メラニン−ホルマリン縮合物、エポキシ系化合物、アジリジン系化合物、活性オレフィン類、イソシアネート系化合物などの有機硬膜剤、クロム、アルミニウム、ジルコニウムなどの無機多価金属塩類などを挙げることができる。
【0094】
〔酸またはその塩〕
次に、本発明に係る酸またはその塩について説明する。
【0095】
本発明においては、本発明に係る高屈折率層及び低屈折率層の少なくとも1層が、金属酸化物粒子とゼラチンまたはコラーゲンペプチドと共に、酸またはその塩を含有することを特徴とする。
【0096】
本発明に係る酸またはその塩は、特に、水分とともに容易に揮発し、また常圧で分解せずに揮発する酸であることが好ましい。ここで容易に揮発するとは、近赤外線反射フィルムの製造工程において、塗布液を基材上に塗布した以後、高屈折率層塗膜または低屈折率層塗膜の含水率の低下に伴って、有意に揮発性を確認できることをいう。近赤外反射フィルムを製造する際の塗布、乾燥工程において、乾燥温度は用いる素材や基材の材質などの所望の特性に合わせ種々の温度が選択されうるが、本発明においては0〜150℃の範囲で揮発性を示す酸を用いることが好ましい。酸の揮発性は、例えば、近赤外反射フィルム中に残留する酸の定量分析を行うことで求めることができる。
【0097】
本発明で用いることのできる酸の具体例としては、塩酸、硝酸、弗酸、炭酸、及び酢酸など、炭素数が10以下の低級脂肪酸が挙げられる。これらの中でも、その酸性度、取扱性などの観点から炭酸、酢酸、またはそれらの塩を用いることが好ましい。
【0098】
本発明において、酸は、カチオン性化合物との塩の形態で使用することも好ましい。具体例としては、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン等のアルカリ金属イオンとの塩、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、バリウムイオン等のアルカリ土類金属イオンとの塩、アルミニウムイオン、ジルコニウムイオン、亜鉛イオン等の金属イオン及びこれらの金属イオンを含む錯イオンとの塩、トリエタノールアンモニウムイオン、ピリジニウムイオン等の無機あるいは有機のアンモニウムイオンとの塩、カチオン性基を有する他の有機化合物やポリマーとの塩等が挙げられる。
【0099】
本発明に係る酸またはその塩としては、特には、分子量が300以下のカルボン酸と、アルカリ金属またはアルカリ土類金属との塩であることが好ましく、特に好ましくは酢酸ナトリウムである。
【0100】
また、本発明に係る酸またはその塩としては、酸またはその塩が含有する塗布液のpH値に対し、乾燥して形成した塗膜のpH値を高くする機能を備えていることが好ましく、より好ましくは、膜面pH値を、塗布液pH値に対し、0.2以上高くする機能を備えている酸またはその塩であることが好ましい。
【0101】
本発明に係る酸またはその塩の特性としては、酸の揮発後に近赤外反射フィルムを構成する屈折率層の膜面pHが上昇することが好ましく、カチオン性化合物としては、酸よりも揮発度が低い、酸の酸性度よりもカチオン性化合物の塩基性度の方が高い、などの特性を有するものが好ましく用いられる。好ましいカチオン化合物の具体例としては、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン等が挙げられるが、用いる酸の揮発度及び酸性度、適用する材料の製造工程温度、湿度及び製造時間等によって種々の組合せで用いることができる。
【0102】
〔塗布液pH〕
本発明の近赤外反射フィルムの製造方法においては、本発明に係る高屈折率層及び低屈折率層の少なくとも1層を形成する水系塗布液のpHが、3.8以上、5.8以下であることが好ましい。
【0103】
本発明において、塗布液のpHとは、実際に基材上に塗工される高屈折率層塗布液または低屈折率層塗布液のpHをいう。また、複数の屈折率層塗布液を塗工する場合、全ての屈折率層塗布液を混合した液のpHをもって、屈折率層塗布液のpHと定義する。従って、何らかの化合物等をインライン添加により添加して塗工する場合、インライン添加した後のpHを本発明における屈折率層塗布液のpHとする。
【0104】
〔膜面pH〕
本発明においては、高屈折率層と低屈折率層とから構成されるユニットにおける膜面pHが4.0以上、6.0以下であることを特徴とする。
【0105】
本発明でいう高屈折率層と低屈折率層とから構成されるユニットにおける膜面pHとは、以下の方法により求めることができる。
【0106】
すなわち、J.TAPPI紙パルプ試験方法No.49に記載の方法に準じて、50μlの蒸留水を用い、電極を近赤外反射層の湿潤膜面に接触させてから30秒後に測定して求めることができる。高屈折率層と低屈折率層とから構成されるユニットが1ユニットであっても、2つ以上の複数のユニットから構成されている場合であっても、最終形態の近赤外反射フィルムの屈折率層形成面に50μlの蒸留水を付与して測定を行う。なお、測定温度は、25℃とする。また、膜面pHの具体的な測定方法としては、測定装置として東亜電波工業社のデジタルpHメーターHM−18Bを使用し、pHメーターを標準化したのち、マイクロピペットで蒸留水を50μl測り取り、測定すべき近赤外反射フィルムの屈折率層ユニットの形成面に滴下し、該水滴に対し垂直にpHメーターの測定電極を下ろして膜面に設置し、30秒後の測定値を膜面pHとして求めることができる。
【0107】
〔水溶性高分子〕
本発明の近赤外反射フィルムにおいては、高屈折率層または低屈折率層が、セルロース類、増粘多糖類及び反応性官能基を有するポリマー類等の水溶性高分子を含有することが好ましい。本発明でいう水溶性高分子とは、該水溶性高分子が最も溶解する温度で、0.5質量%の濃度に水に溶解させた際、G2グラスフィルタ(最大細孔40〜50μm)で濾過した場合に濾別される不溶物の質量が、加えた該水溶性高分子の50質量%以内であるものを言う。
【0108】
〈セルロース類〉
本発明で用いることのできるセルロース類としては、水溶性のセルロース誘導体が好ましく用いることができ、例えば、カルボキシメチルセルロース(セルロースカルボキシメチルエーテル)、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の水溶性セルロース誘導体や、カルボン酸基含有セルロース類であるカルボキシメチルセルロース(セルロースカルボキシメチルエーテル)、カルボキシエチルセルロース等を挙げることができる。その他には、ニトロセルロース、セルロースアセテートプロピオネート、酢酸セルロース、セルロース硫酸エステル等のセルロース誘導体を挙げることができる。
【0109】
〈増粘多糖類〉
本発明で用いることのできる増粘多糖類としては、特に制限はなく、例えば、一般に知られている天然単純多糖類、天然複合多糖類、合成単純多糖類及び合成複合多糖類に挙げることができ、これら多糖類の詳細については、「生化学事典(第2版),東京化学同人出版」、「食品工業」第31巻(1988)21頁等を参照することができる。
【0110】
本発明でいう増粘多糖類とは、糖類の重合体であり分子内に水素結合基を多数有するもので、温度により分子間の水素結合力の違いにより、低温時の粘度と高温時の粘度差が大きな特性を備えた多糖類であり、さらに金属酸化物微粒子を添加すると、低温時にその金属酸化物微粒子との水素結合によると思われる粘度上昇を起こすものであり、その粘度上昇幅は、添加することにより15℃における粘度が1.0mPa・s以上の上昇を生じる多糖類であり、好ましくは5.0mPa・s以上であり、更に好ましくは10.0mPa・s以上の粘度上昇能を備えた多糖類である。
【0111】
本発明に適用可能な増粘多糖類としては、例えば、ガラクタン(例えば、アガロース、アガロペクチン等)、ガラクトマンノグリカン(例えば、ローカストビーンガム、グアラン等)、キシログルカン(例えば、タマリンドガム等)、グルコマンノグリカン(例えば、蒟蒻マンナン、木材由来グルコマンナン、キサンタンガム等)、ガラクトグルコマンノグリカン(例えば、針葉樹材由来グリカン)、アラビノガラクトグリカン(例えば、大豆由来グリカン、微生物由来グリカン等)、グルコラムノグリカン(例えば、ジェランガム等)、グリコサミノグリカン(例えば、ヒアルロン酸、ケラタン硫酸等)、アルギン酸及びアルギン酸塩、寒天、κ−カラギーナン、λ−カラギーナン、ι−カラギーナン、ファーセレラン等の紅藻類に由来する天然高分子多糖類等が挙げられ、塗布液中に共存する金属酸化微粒子の分散安定性を低下させない観点から、好ましくは、その構成単位がカルボン酸基やスルホン酸基を有しないものが好ましい。その様な多糖類としては、例えば、L−アラビトース、D−リボース、2−デオキシリボース、D−キシロースなどのペントース、D−グルコース、D−フルクトース、D−マンノース、D−ガラクトースなどのヘキソースのみからなる多糖類であることが好ましい。具体的には、主鎖がグルコースであり、側鎖もグルコースであるキシログルカンとして知られるタマリンドシードガムや、主鎖がマンノースで側鎖がグルコースであるガラクトマンナンとして知られるグアーガム、カチオン化グアーガム、ヒドロキシプロピルグアーガム、ローカストビーンガム、タラガムや、主鎖がガラクトースで側鎖がアラビノースであるアラビノガラクタンを好ましく使用することができる。本発明においては、特には、タマリンド、グアーガム、カチオン化グアーガム、ヒドロキシプロピルグアーガムが好ましい。
【0112】
本発明においては、更には、二種類以上の増粘多糖類を併用することが好ましい。
【0113】
〈反応性官能基を有するポリマー類〉
本発明に適用可能な水溶性高分子としては、反応性官能基を有するポリマー類が挙げられ、例えば、ポリビニルアルコール類、ポリビニルピロリドン類、ポリアクリル酸、アクリル酸−アクリルニトリル共重合体、アクリル酸カリウム−アクリルニトリル共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体、若しくはアクリル酸−アクリル酸エステル共重合体などのアクリル系樹脂、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸共重合体、若しくはスチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体などのスチレンアクリル酸樹脂、スチレン−スチレンスルホン酸ナトリウム共重合体、スチレン−2−ヒドロキシエチルアクリレート共重合体、スチレン−2−ヒドロキシエチルアクリレート−スチレンスルホン酸カリウム共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体、酢酸ビニル−マレイン酸エステル共重合体、酢酸ビニル−クロトン酸共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸共重合体などの酢酸ビニル系共重合体及びそれらの塩が挙げられる。これらの中で、特に好ましい例としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン類及びそれを含有する共重合体が挙げられる。
【0114】
水溶性高分子の重量平均分子量は、1,000以上200,000以下が好ましい。更には、3,000以上40,000以下がより好ましい。
【0115】
本発明で好ましく用いられるポリビニルアルコールには、ポリ酢酸ビニルを加水分解して得られる通常のポリビニルアルコールの他に、末端をカチオン変性したポリビニルアルコールやアニオン性基を有するアニオン変性ポリビニルアルコール等の変性ポリビニルアルコールも含まれる。
【0116】
酢酸ビニルを加水分解して得られるポリビニルアルコールは、平均重合度が1,000以上のものが好ましく用いられ、特に平均重合度が1,500〜5,000のものが好ましく用いられる。また、ケン化度は、70〜100%のものが好ましく、80〜99.5%のものが特に好ましい。
【0117】
カチオン変性ポリビニルアルコールとしては、例えば、特開昭61−10483号公報に記載されているような、第一〜三級アミノ基や第四級アンモニウム基を上記ポリビニルアルコールの主鎖または側鎖中に有するポリビニルアルコールであり、カチオン性基を有するエチレン性不飽和単量体と酢酸ビニルとの共重合体をケン化することにより得られる。
【0118】
カチオン性基を有するエチレン性不飽和単量体としては、例えば、トリメチル−(2−アクリルアミド−2,2−ジメチルエチル)アンモニウムクロライド、トリメチル−(3−アクリルアミド−3,3−ジメチルプロピル)アンモニウムクロライド、N−ビニルイミダゾール、N−ビニル−2−メチルイミダゾール、N−(3−ジメチルアミノプロピル)メタクリルアミド、ヒドロキシルエチルトリメチルアンモニウムクロライド、トリメチル−(2−メタクリルアミドプロピル)アンモニウムクロライド、N−(1,1−ジメチル−3−ジメチルアミノプロピル)アクリルアミド等が挙げられる。カチオン変性ポリビニルアルコールのカチオン変性基含有単量体の比率は、酢酸ビニルに対して0.1〜10モル%、好ましくは0.2〜5モル%である。
【0119】
アニオン変性ポリビニルアルコールは、例えば、特開平1−206088号公報に記載されているようなアニオン性基を有するポリビニルアルコール、特開昭61−237681号公報および同63−307979号公報に記載されているような、ビニルアルコールと水溶性基を有するビニル化合物との共重合体及び特開平7−285265号公報に記載されているような水溶性基を有する変性ポリビニルアルコールが挙げられる。
【0120】
また、ノニオン変性ポリビニルアルコールとしては、例えば、特開平7−9758号公報に記載されているようなポリアルキレンオキサイド基をビニルアルコールの一部に付加したポリビニルアルコール誘導体、特開平8−25795号公報に記載されている疎水性基を有するビニル化合物とビニルアルコールとのブロック共重合体等が挙げられる。ポリビニルアルコールは、重合度や変性の種類違いなど二種類以上を併用することもできる。
【0121】
本発明においては、反応性官能基を有するポリマーを使用する場合には、硬化剤を使用してもよい。反応性官能基を有するポリマーがポリビニルアルコールの場合には、ホウ酸及びその塩やエポキシ系硬化剤が好ましい。
【0122】
本発明においては、上記各水溶性高分子は、屈折率層の全質量に対し、5.0質量%以上、50質量%以下の範囲で含有させることが好ましく、10質量%以上、40質量%以下がより好ましい。但し、水溶性高分子と共に、例えば、エマルジョン樹脂を併用する場合には、3.0質量%以上含有すればよい。水溶性高分子が少ないと、屈折率層を塗工した後の乾燥時に、膜面が乱れて透明性が劣化する傾向が大きくなる。一方、含有量が50質量%以下であれば、相対的な金属酸化物の含有量が適切となり、高屈折率層と低屈折率層の屈折率差を大きくすることが容易になる。
【0123】
〔その他の添加剤〕
本発明に係る高屈折率層及び低屈折率層には、必要に応じて各種添加剤を用いることができる。例えば、本発明では、金属酸化物の分散安定性付与のためにアミノ酸の添加や、あるいは塗膜の脆弱性を改質するためにエマルジョン樹脂を用いることができる。
【0124】
〈等電点が6.5以下のアミノ酸〉
本発明でいうアミノ酸とは、同一分子内にアミノ基とカルボキシル基を有する化合物であり、α−アミノ酸、β−アミノ酸、γ−アミノ酸など、いずれのタイプのアミノ酸でもよいが、等電点が6.5以下のアミノ酸であることが好ましい。一般に、アミノ酸には光学異性体が存在するものもあるが、本発明においては光学異性体による効果の差はなく、いずれの異性体も単独であるいはラセミ体でも使用することができる。
【0125】
本発明に適用可能なアミノ酸の詳しい解説は、化学大辞典1縮刷版(共立出版;昭和35年発行)268頁〜270頁の記載を参照することができる。
【0126】
具体的に好ましいアミノ酸として、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン、セリン、等を挙げることができ、特にグリシン、セリンが好ましい。
【0127】
アミノ酸の等電点とは、アミノ酸は特定のpHにおいて分子内の正・負電荷が釣り合い、全体としての電荷が0となるので、このpH値を等電点という。本発明においては、等電点が6.5以下のアミノ酸を用いることができるが、各アミノ酸の等電点については、低イオン強度での等電点電気泳動で求めることができる。
【0128】
〈エマルジョン樹脂〉
本発明においては、本発明に係る高屈折率層または低屈折率層が、更にエマルジョン樹脂を含有することが好ましい。
【0129】
本発明でいうエマルジョン樹脂とは、油溶性のモノマーを、分散剤を含む水溶液中でエマルジョン状態に保ち、重合開始剤を用いて乳化重合させた樹脂微粒子である。
【0130】
エマルジョン樹脂の重合時に使用される分散剤としては、一般的には、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ジエチルアミン、エチレンジアミン、4級アンモニウム塩のような低分子の分散剤の他に、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリエキシエチレンラウリル酸エーテル、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドンのような高分子分散剤が挙げられる。
【0131】
エマルジョン樹脂は、水系媒体中に微細な、例えば、平均粒径が0.01〜2.0μm程度の樹脂粒子がエマルジョン状態で分散されている樹脂であり、油溶性のモノマーを、水酸基を有する高分子分散剤を用いてエマルジョン重合して得られる。用いる分散剤の種類によって、得られるエマルジョン樹脂のポリマー成分に基本的な違いは見られないが、水酸基を有する高分子分散剤を用いてエマルジョン重合すると、微細な微粒子の少なくとも表面に水酸基の存在が推定され、他の分散剤を用いて重合したエマルジョン樹脂とはエマルジョン樹脂粒子の化学的、物理的性質が異なる。
【0132】
水酸基を含む高分子分散剤とは、重量平均分子量が10000以上の高分子の分散剤で、側鎖または末端に水酸基が置換されたものであり、例えば、ポリアクリル酸ソーダ、ポリアクリルアミドのようなアクリル系の高分子で、2−エチルヘキシルアクリレートが共重合されたもの、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールのようなポリエーテル、ポリビニルアルコールなどが挙げられ、特にポリビニルアルコールが好ましい。
【0133】
高分子分散剤として使用されるポリビニルアルコールは、ポリ酢酸ビニルを加水分解して得られる通常のポリビニルアルコールの他に、カチオン変性したポリビニルアルコールやカルボキシル基のようなアニオン性基を有するアニオン変性ポリビニルアルコール、シリル基を有するシリル変性ポリビニルアルコール等の変性ポリビニルアルコールも含まれる。ポリビニルアルコールは、平均重合度は高い方がインク吸収層を形成する際のクラックの発生を抑制する効果が大きいが、平均重合度が5000以内であると、エマルジョン樹脂の粘度が高くなく、製造時に取り扱いやすい。したがって、平均重合度は300〜5000のものが好ましく、1500〜5000のものがより好ましく、3000〜4500のものが特に好ましい。ポリビニルアルコールのケン化度は70〜100モル%のものが好ましく、80〜99.5モル%のものがより好ましい。
【0134】
上記の高分子分散剤で乳化重合される樹脂としては、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、ビニル系化合物、スチレン系化合物といったエチレン系単量体、ブタジエン、イソプレンといったジエン系化合物の単独重合体または共重合体が挙げられ、例えばアクリル系樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂、エチレン−酢酸ビニル系樹脂等が挙げられる。
【0135】
〈各屈折率層のその他の添加剤〉
本発明に係る高屈折率層と低屈折率層に適用可能な各種の添加剤を以下に列挙する。例えば、特開昭57−74193号公報、同57−87988号公報及び同62−261476号公報に記載の紫外線吸収剤、特開昭57−74192号、同57−87989号公報、同60−72785号公報、同61−146591号公報、特開平1−95091号公報及び同3−13376号公報等に記載されている退色防止剤、アニオン、カチオンまたはノニオンの各種界面活性剤、特開昭59−42993号公報、同59−52689号公報、同62−280069号公報、同61−242871号公報および特開平4−219266号公報等に記載されている蛍光増白剤、硫酸、リン酸、酢酸、クエン酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム等のpH調整剤、消泡剤、ジエチレングリコール等の潤滑剤、防腐剤、帯電防止剤、マット剤等の公知の各種添加剤を含有させることもできる。
【0136】
〔基材〕
本発明の近赤外反射フィルムに適用する基材としては、フィルム支持体であることが好ましく、フィルム支持体は、透明であっても不透明であってもよく、種々の樹脂フィルムを用いることができ、ポリオレフィンフィルム(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリエステルフィルム(ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリ塩化ビニル、3酢酸セルロース等を用いることができ、好ましくはポリエステルフィルムである。ポリエステルフィルム(以降ポリエステルと称す)としては、特に限定されるものではないが、ジカルボン酸成分とジオール成分を主要な構成成分とするフィルム形成性を有するポリエステルであることが好ましい。主要な構成成分のジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルエタンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルチオエーテルジカルボン酸、ジフェニルケトンジカルボン酸、フェニルインダンジカルボン酸などを挙げることができる。また、ジオール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビスフェノールフルオレンジヒドロキシエチルエーテル、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ハイドロキノン、シクロヘキサンジオールなどを挙げることができる。これらを主要な構成成分とするポリエステルの中でも、透明性、機械的強度、寸法安定性などの点から、ジカルボン酸成分として、テレフタル酸や2,6−ナフタレンジカルボン酸、ジオール成分として、エチレングリコールや1,4−シクロヘキサンジメタノールを主要な構成成分とするポリエステルが好ましい。中でも、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートを主要な構成成分とするポリエステルや、テレフタル酸と2,6−ナフタレンジカルボン酸とエチレングリコールからなる共重合ポリエステル、およびこれらのポリエステルの二種以上の混合物を主要な構成成分とするポリエステルが好ましい。
【0137】
本発明に係るフィルム支持体の厚みは、10〜300μmであることが好ましく、より好ましくは20〜150μmである。また、本発明のフィルム支持体は、2枚を重ねたものであっても良く、この場合、その種類が同じでも異なってもよい。
【0138】
《近赤外反射フィルムの製造方法》
本発明の近赤外反射フィルムの製造方法においては、基材上に、高屈折率層と低屈折率層とから構成されるユニットを少なくとも1つを有し、該高屈折率層と該低屈折率層との屈折率差が0.1以上であり、該高屈折率層及び該低屈折率層の少なくとも1層が、少なくとも金属酸化物粒子と、ゼラチンまたはコラーゲンペプチドと、酸またはその塩を含有する水系塗布液を用いて形成され、形成した該ユニットの膜面pHが4.0以上、6.0以下であることを特徴とする。
【0139】
また、より好ましい態様としては、
(1)本発明に係る高屈折率層及び該低屈折率層の少なくとも1層を形成する水系塗布液のpHが、3.8以上、5.8以下であること、
(2)本発明に係る高屈折率層及び該低屈折率層の少なくとも1層を形成する水系塗布液が含有するゼラチンまたはコラーゲンペプチドが、1)重量平均分子量が5万以下である低分子量ゼラチンまたはコラーゲンペプチドと、2)重量平均分子量が10万以上の高分子量ゼラチンであること、
(3)本発明に係る高屈折率層及び該低屈折率層の少なくとも1層を形成する水系塗布液が、金属酸化物粒子の表面を、1)重量平均分子量が5万以下である低分子量ゼラチンまたはコラーゲンペプチドで被覆した後、2)重量平均分子量が10万以上の高分子量ゼラチンを添加して調製されること、である。
【0140】
本発明に係る高屈折率層塗布液あるいは低屈折率層塗布液を調製する際に、本発明に係る酸またはその塩は、調液時のいずれの段階でも添加することができるが、上記(3)に記載のプロセスにおいては、金属酸化物粒子の表面を上記低分子ゼラチンまたはコラーゲンペプチドで被覆し、高分子量ゼラチンを添加した後に酸またはその塩を添加する、もしくは高分子量ゼラチンと酸またはその塩を混合して添加したものを添加することが好ましい。
【0141】
本発明の近赤外反射フィルムの製造方法では、基材上に高屈折率層と低屈折率層から構成されユニットを積層して形成されるが、具体的には高屈折率層と低屈折率層とを交互に塗布、乾燥して積層体を形成することが好ましい。
【0142】
塗布方式としては、例えば、ロールコーティング法、ロッドバーコーティング法、エアナイフコーティング法、スプレーコーティング法、カーテン塗布方法、あるいは米国特許第2,761,419号、同第2,761,791号公報に記載のホッパーを使用するスライドビード塗布方法、エクストルージョンコート法等が好ましく用いられる。
【0143】
同時重層塗布を行う際の高屈折率層塗布液と低屈折率層塗布液の粘度としては、スライドビード塗布方式を用いる場合には、5〜100mPa・sの範囲が好ましく、さらに好ましくは10〜50mPa・sの範囲である。また、カーテン塗布方式を用いる場合には、5〜1200mPa・sの範囲が好ましく、さらに好ましくは25〜500mPa・sの範囲である。
【0144】
また、塗布液の15℃における粘度としては、100mPa・s以上が好ましく、100〜30,000mPa・sがより好ましく、さらに好ましくは3,000〜30,000mPa・sであり、最も好ましいのは10,000〜30,000mPa・sである。
【0145】
塗布および乾燥方法としては、高屈折率層塗布液と低屈折率層塗布液を30℃以上に加温して、塗布を行った後、形成した塗膜の温度を1〜15℃に一旦冷却し、10℃以上で乾燥することが好ましく、より好ましくは、乾燥条件として、湿球温度5〜50℃、膜面温度10〜50℃の範囲の条件で行うことである。また、塗布直後の冷却方式としては、形成された塗膜均一性の観点から、水平セット方式で行うことが好ましい。
【0146】
本発明においては、上記高屈折率層塗布液を調製する際、体積平均粒径が100nm以下のルチル型の酸化チタンを添加、分散して調製した水系の高屈折率層塗布液を用いて、高屈折率層を形成することが好ましい。この時、ルチル型の酸化チタンとしては、pHが1.0以上、3.0以下で、かつチタン粒子のゼータ電位が正である水系の酸化チタンゾルとして、高屈折率層塗布液に添加して調製することが好ましい。
【0147】
《近赤外反射フィルムの応用》
本発明の近赤外反射フィルムは、幅広い分野に応用することができる。例えば、建物の屋外の窓や自動車窓等長期間太陽光に晒らされる設備に貼り合せ、熱線反射効果を付与する熱線反射フィルム等の窓貼用フィルム、農業用ビニールハウス用フィルム等として、主として耐候性を高める目的で用いられる。
【0148】
特に、本発明の近赤外反射フィルムが直接もしくは接着剤を介してガラスもしくはガラス代替樹脂基材に貼合されている部材には好適である。
【0149】
接着剤は、窓ガラスなどに貼り合わせたとき、近赤外反射フィルムが日光(熱線)入射面側にあるように設置する。また近赤外反射フィルムを窓ガラスと基材との間に挟持すると、水分等周囲ガスから封止でき耐久性に好ましい。本発明の近赤外反射フィルムを屋外や車の外側(外貼り用)に設置しても環境耐久性があって好ましい。
【0150】
本発明に適用可能な接着剤としては、光硬化性もしくは熱硬化性の樹脂を主成分とする接着剤を用いることができる。
【0151】
接着剤は紫外線に対して耐久性を有するものが好ましく、アクリル系粘着剤またはシリコーン系粘着剤が好ましい。更に粘着特性やコストの観点から、アクリル系粘着剤が好ましい。特に剥離強さの制御が容易なことから、アクリル系粘着剤において、溶剤系及びエマルジョン系の中で溶剤系が好ましい。アクリル溶剤系粘着剤として溶液重合ポリマーを使用する場合、そのモノマーとしては公知のものを使用できる。
【0152】
また、合わせガラスの中間層として用いられるポリビニルブチラール系樹脂、あるいはエチレン−酢酸ビニル共重合体系樹脂を用いてもよい。具体的には可塑性ポリビニルブチラール(積水化学工業社製、三菱モンサント社製等)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(デュポン社製、武田薬品工業社製、デュラミン)、変性エチレン−酢酸ビニル共重合体(東ソー社製、メルセンG)等である。なお、接着層には紫外線吸収剤、抗酸化剤、帯電防止剤、熱安定剤、滑剤、充填剤、着色、接着調整剤等を適宜添加配合してもよい。
【実施例】
【0153】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
【0154】
実施例1
《近赤外反射フィルムの作製》
〔近赤外反射フィルム試料101の作製〕
(高屈折率層塗布液H1の調製)
下記の添加物1)〜6)をこの順序で添加、混合して、高屈折率層塗布液H1を調製した。
【0155】
はじめに、酸化チタン粒子表面を低分子ゼラチンで被覆するため、下記1)酸化チタン粒子ゾルを攪拌しながら50℃まで昇温した後、下記2)低分子ゼラチンを添加して30分間攪拌混合して、酸化チタン粒子ゾルと低分子ゼラチンの混合液を調製した。次いで、下記3)高分子量ゼラチンと下記4)純水を添加し、90分間攪拌混合した後、下記5)界面活性剤、下記6)硬膜剤を添加して、高屈折率層塗布液H1を調製した。上記調製した高屈折率層塗布液H1の40℃におけるpHを、東亜電波工業(株)のデジタルpHメーターHM−30Sを用いて測定した結果、3.5であった。
【0156】
1)20質量%酸化チタン粒子ゾル(体積平均粒径35nm、ルチル型酸化チタン粒子) 60g
2)5.0質量%低分子量ゼラチン(GelL1)水溶液 125g
3)5.0質量%高分子量ゼラチン(GelH1)水溶液 100g
4)純水 150g
5)5.0質量%界面活性剤水溶液(ニッサンカチオン−2−DB−500E、4級アンモニウム塩系カチオン性界面活性剤、日油社製) 0.45g
6)5.0質量%硬膜剤Aの水溶液 12g
〈5.0質量%の硬膜剤Aの水溶液の調製)
下記硬膜剤Aの50gとβアラニンの2.4gとを、適量の純水に60℃で90分間かけて溶解し、1Lに仕上げて、硬膜剤Aの水溶液を調製した。
【0157】
【化1】

【0158】
2)で使用したGelL1はアルカリ処理により加水分解を施した重量平均分子量2万の低分子量ゼラチンであり、3)で使用したGelH1は重量平均分子量13万の酸処理ゼラチン(高分子量ゼラチン)である。
【0159】
(低屈折率層塗布液L1の調製)
下記の添加物1)〜6)をこの順序で添加、混合して、低屈折率層塗布液L1を調製した。
【0160】
はじめに、下記1)コロイダルシリカを攪拌しながら40℃まで昇温した後、下記2)低分子ゼラチンを添加して10分間攪拌混合し、コロイダルシリカと低分子ゼラチンの混合液を調製した。次いで、下記3)高分子量ゼラチンと下記4)純水を添加し、10分間攪拌混合した後、下記5)界面活性剤、下記6)硬膜剤を添加する調製パターンで、低屈折率層塗布液L1を調製した。上記調製した低屈折率層塗布液L1の40℃におけるpHを、東亜電波工業(株)のデジタルpHメーターHM−30Sを用いて測定した結果、3.7であった。
【0161】
1)20質量%コロイダルシリカ(シリカドール20P、日本化学工業製カチオン性コロイダルシリカ、体積平均粒径4〜6nm) 68g
2)5.0質量%低分子量ゼラチン(GelL1)水溶液(前出) 180g
3)5.0質量%高分子量ゼラチン(GelH1)水溶液(前出) 100g
4)純水 240g
5)5.0質量%界面活性剤水溶液(ニッサンカチオン−2−DB−500E、4級アンモニウム塩系カチオン性界面活性剤、日油社製) 0.64g
6)5.0質量%硬膜剤Aの水溶液(前出) 14g
(積層体の形成)
〈高屈折率層HA1の形成〉
上記調製した高屈折率層用塗布液H1を45℃に保温しながら、45℃に加温した厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上に、乾燥膜厚が135nmとなる条件で塗布し、次いで、膜面が15℃以下となる条件で冷風を1分間吹き付けて塗布膜を冷却させた後、80℃の温風を吹き付けて乾燥させて、高屈折率層HA1を形成した。
【0162】
〈低屈折率層LA1の形成〉
次いで、低屈折率層用塗布液L1を45℃に保温しながら、45℃に加温した上記ポリエチレンテレフタレートフィルムの高屈折率層HA1上に、乾燥膜厚が175nmとなる条件で塗布し、次いで、膜面が15℃以下となる条件で冷風を1分間吹き付けて冷却させた後、80℃の温風を吹き付けて乾燥させて、低屈折率層LA1を形成した。
【0163】
〈ユニットの積層〉
上記形成した低屈折率層1上に、同様にして高屈折率層HA1/低屈折率層LA1から構成されるユニットを更に5ユニット積層し、それぞれ6層の高屈折率層及び低屈折率層(合計12層)から構成された近赤外反射フィルムである試料101を作製した。
【0164】
《近赤外反射フィルム試料102〜108の作製》
上記試料101の作製に用いた高屈折率層塗布液H1、低屈折率層塗布液L1の調製において、高屈折率層塗布液の調製に用いた低分子量ゼラチンの重量平均分子量、各屈折率層塗布液のpHが表1に記載の値となるように酢酸ナトリウム水溶液を高分子量ゼラチン溶液に添加した以外は同様にして、各屈折率層塗布液を調製し、表1の組み合わせで、試料102〜108を作製した。
【0165】
なお、試料104の高屈折率層塗布液H3の調製に用いたGelL2は、重量平均分子量が1.6万のコラーゲンペプチドであり、試料105の高屈折率層塗布液H4の調製に用いたGelL3は、重量平均分子量が6万の酸処理ゼラチンである。また、試料107の作製に用いた高屈折率層塗布液H5中の低分子量ゼラチン(GelL1)量は、試料101の高屈折率層塗布液H1における高分子量ゼラチン(GelH1)と低分子量ゼラチン(GelL1)の総量と同一の量とした。
【0166】
《特性値の測定》
(塗布液pHの測定)
試料101〜108の作製に用いた各高屈折率層塗布液、低屈折率塗布液の40℃におけるpHを、東亜電波工業(株)のデジタルpHメーターHM−30Sを用いて測定した。
【0167】
(膜面pHの測定)
試料101〜108の屈折率層ユニットを設けた面の膜面pHを下記の方法で測定した。
【0168】
東亜電波工業社のデジタルpHメーターHM−18Bを使用し、pHメーターを標準化したのち、マイクロピペットで蒸留水を50μl測り取り、測定すべき近赤外反射フィルムの屈折率層ユニットの形成面に滴下し、該水滴に対し垂直にpHメーターの測定電極を下ろして膜面に設置し、30秒後の測定値を読み取り、これを膜面pHとした。
【0169】
(各層の屈折率の測定)
基材上に屈折率を測定する対象層(高屈折率層、低屈折率層)をそれぞれ単層で塗設したサンプルを作製し、下記の方法に従って、各高屈折率層及び低屈折率層の屈折率を求めた。
【0170】
分光光度計として、U−4000型(日立製作所社製)を用いて、各サンプルの測定側の裏面を粗面化処理した後、黒色のスプレーで光吸収処理を行って裏面での光の反射を防止して、5度正反射の条件にて可視光領域(400nm〜700nm)の反射率の測定結果より、屈折率を求めた。
【0171】
上記方法に従って各層の屈折率を測定した結果、高屈折率層、低屈折率層の屈折率差は、いずれも0.1以上であることを確認した。
【0172】
【表1】

【0173】
《近赤外反射フィルムの評価》
上記作製した各近赤外反射フィルムについて、下記の性能評価を行った。
【0174】
(可視光透過性の評価)
分光光度計(積分球使用、日立製作所社製、U−4000型)を用い、各近赤外反射フィルムの300nm〜2000nmの領域における透過率を測定し、550nmにおける透過率の値を可視光透過率として求め、下記の基準に従って可視光透過性を評価した。
【0175】
◎:可視光透過率が、85%以上である
○:可視光透過率が、75%以上、85%未満である
△:可視光透過率が、50%以上、70%未満である
×:可視光透過率が、50%未満である
(近赤外透過性の評価)
分光光度計(積分球使用、日立製作所社製、U−4000型)を用い、各近赤外反射フィルムの300nm〜2000nmの領域における透過率を測定し、1200nmにおける透過率の値を近赤外透過率として求め、下記の基準に従って近赤外透過性を評価した。
【0176】
◎:近赤外透過率が、35%未満である
○:近赤外透過率が、35%以上、45%未満である
△:近赤外透過率が、45%以上、60%未満である
×:近赤外透過率が、60%以上である
(耐久性の評価)
上記作製した各近赤外反射フィルムを、40℃で80%RHの高温高湿環境下で72時間保存した後、近赤外反射フィルムを、屈折率層ユニット形成面を外側にして折り曲げと開放を5回繰り返した後、屈折率層ユニットの形成面を目視観察し、下記の基準に従って耐久性(高温高湿保存性)を評価した。
【0177】
◎:近赤外反射フィルム表面に、折り曲げ跡やひび割れの発生は認められない
○:近赤外反射フィルム表面に、わずかに折り曲げ跡が観察されるが、ひび割れの発生は認められない
△:近赤外反射フィルム表面に、微小なひび割れが僅かに観察されるが、実用上許容される品質である
×:近赤外反射フィルム表面に、明らかなひび割れが多数発生しており、実用上問題となる品質である
以上により得られた測定結果、評価結果を、表2に示す。
【0178】
【表2】

【0179】
表2に記載の結果より明らかなように、本発明の近赤外反射フィルムは、可視光透過率を低下させることなく、近赤外透過率を低下させることが可能であり、かつ耐久性(高温高湿保存性)に優れていることが分かる。
【0180】
実施例2
《近赤外反射フィルムの作製》
〔試料201の作製〕
実施例1に記載の試料103の作製において、高屈折率層塗布液H2及び低屈折率層塗布液L2に代えて、それぞれ下記高屈折率層塗布液H21及び低屈折率層塗布液L21を用いた以外は同様にして、近赤外反射フィルムである試料201を作製した。
【0181】
(高屈折率層塗布液H21の調製)
下記の添加物1)〜8)をこの順序で添加、混合して、高屈折率層塗布液H21を調製した。
【0182】
はじめに、酸化チタン粒子表面を低分子ゼラチンで被覆するため、下記1)酸化チタン粒子ゾルを攪拌しながら50℃まで昇温した後、下記2)低分子ゼラチンを添加して30分間攪拌混合して、酸化チタン粒子ゾルと低分子ゼラチンの混合液を調製した。次いで、下記3)高分子量ゼラチンと下記4)純水を添加し、90分間攪拌混合した後、下記5)水溶性高分子(ヒドロキシエチルセルロース)、下記6)酢酸ナトリウム、下記7)界面活性剤、下記8)硬膜剤を添加して、高屈折率層塗布液H21を調製した。
【0183】
1)20質量%酸化チタン粒子ゾル(体積平均粒径35nm、ルチル型酸化チタン粒子) 60g
2)5.0質量%低分子量ゼラチン(GelL1)水溶液(前出) 125g
3)5.0質量%高分子量ゼラチン(GelH1)水溶液(前出) 100g
4)純水 37g
5)1.0質量%ヒドロキシエチルセルロース(表3にはHECと略記)水溶液
113g
6)3.3質量%酢酸ナトリウム水溶液 16g
7)5.0質量%界面活性剤水溶液(ニッサンカチオン−2−DB−500E、4級アンモニウム塩系カチオン性界面活性剤、日油社製) 0.45g
8)5.0質量%硬膜剤A水溶液(前出) 12g
(低屈折率層塗布液L21の調製)
下記の添加物1)〜8)をこの順序で添加、混合して、低屈折率層塗布液L21を調製した。
【0184】
はじめに、下記1)コロイダルシリカを攪拌しながら40℃まで昇温した後、下記2)低分子ゼラチンを添加して10分間攪拌混合し、酸化チタン粒子ゾルと低分子ゼラチンの混合液を調製した。次いで、下記3)高分子量ゼラチンと下記4)純水を添加し、10分間攪拌混合した後、下記5)水溶性高分子(ヒドロキシエチルセルロース)、下記6)酢酸ナトリウム、下記7)界面活性剤、下記8)硬膜剤を添加する調製パターンで、低屈折率層塗布液L21を調製した。
【0185】
1)20質量%コロイダルシリカ 68g
2)5.0質量%低分子量ゼラチン(GelL1)水溶液(前出) 180g
3)5.0質量%高分子量ゼラチン(GelH1)水溶液(前出) 100g
4)純水 110g
5)1.0質量%ヒドロキシエチルセルロース(表3にはHECと略記)水溶液
130g
6)5.0質量%酢酸ナトリウム水溶液 10g
7)5.0質量%界面活性剤水溶液(ニッサンカチオン−2−DB−500E、4級アンモニウム塩系カチオン性界面活性剤、日油社製) 0.64g
8)5.0質量%の硬膜剤A水溶液(前出) 14g
〔試料202の作製〕
上記試料201の作製において、高屈折率層塗布液H21及び低屈折率層塗布液L21のそれぞれの調製に用いたヒドロキシエチルセルロース(HEC)を、同固形分量のタマリンシードガム(表3には多糖類1と標記)に変更した以外は同様にして、試料202を作製した。
【0186】
〔試料203の作製〕
上記試料201の作製において、高屈折率層塗布液H21及び低屈折率層塗布液L21のそれぞれの調製に用いたヒドロキシエチルセルロース(HEC)を、同固形分量のローストビンガム(表3には多糖類2と標記)に変更した以外は同様にして、試料203を作製した。
【0187】
〔各特性値の測定〕
各試料の作製に用いた各屈折率層塗布液のpHと、各試料の膜面pHを、実施例1に記載の方法と同様にして測定した。
【0188】
【表3】

【0189】
《近赤外反射フィルムの評価》
上記作製した各近赤外反射フィルムについて、実施例1に記載の方法と同様にして、可視光透過性、近赤外透過性及び耐久性の評価を行い、得られた結果を表4に示す。
【0190】
【表4】

【0191】
表4に記載の結果より明らかなように、本発明の近赤外反射フィルムは、高屈折率層及び低屈折率層に水溶性高分子を添加することにより、優れた可視光透過性及び近赤外透過性を維持しながら、耐久性が更に向上していることが分かる。
【0192】
実施例3
実施例1に記載の試料103の作製で用いた高屈折率層塗布液H2及び低屈折率層塗布液L2の調製において、酢酸ナトリウムに代えて、それぞれ炭酸ナトリウム、トリエタノールアミンを塗布液pHが4.8となるように添加した以外は同様にして、各高屈折率層塗布液及び低屈折率層塗布液を調製して、それらを用いた以外は、実施例1に記載の試料103の作製と同様にして、試料301、試料302を作製した。
【0193】
次いで、上記作製した近赤外反射フィルムである試料301、302について、実施例1に記載の方法と同様にして、可視光透過性、近赤外透過性及び耐久性の評価を行った結果、実施例1に記載の試料103と同様の効果が得られることを確認することができた。
【0194】
実施例4
〔近赤外反射体401〜406の作製〕
実施例1で作製した試料102〜107の近赤外反射フィルムを用いて近赤外反射体401〜406を作製した。厚さ5mm、20cm×20cmの透明アクリル樹脂板上に、試料102〜107の近赤外反射フィルムをそれぞれアクリル接着剤で接着して、近赤外反射体401〜406を作製した。
【0195】
〔評価〕
上記作製した本発明の近赤外反射体401〜406は、近赤外反射体のサイズが大きいにもかかわらず、容易に利用可能であり、また、本発明の近赤外反射フィルムを利用することで、優れた近赤外反射性を確認することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、高屈折率層と低屈折率層とから構成されるユニットを少なくとも1つ有し、該高屈折率層と該低屈折率層との屈折率差が0.1以上である近赤外反射フィルムにおいて、該高屈折率層及び該低屈折率層の少なくとも1層が、金属酸化物粒子、ゼラチンまたはコラーゲンペプチド、及び酸またはその塩を含有し、かつ該ユニットの膜面pHが4.0以上、6.0以下であることを特徴とする近赤外反射フィルム。
【請求項2】
前記酸またはその塩が、分子量が300以下のカルボン酸と、アルカリ金属またはアルカリ土類金属との塩であることを特徴とする請求項1に記載の近赤外反射フィルム。
【請求項3】
前記高屈折率層及び前記低屈折率層の少なくとも1層が、1)重量平均分子量が5万以下である低分子量ゼラチンまたはコラーゲンペプチドと、2)重量平均分子量が10万以上の高分子量ゼラチンとを含有することを特徴とする請求項1または2に記載の近赤外反射フィルム。
【請求項4】
前記高屈折率層が金属酸化物粒子を含有し、該金属酸化物粒子が、体積平均粒径100nm以下のルチル型酸化チタン粒子であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の近赤外反射フィルム。
【請求項5】
前記高屈折率層及び前記低屈折率層の少なくとも1層が、セルロース類、増粘多糖類及び反応性官能基を有するポリマー類から選ばれる少なくとも1種の水溶性高分子を含有することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の近赤外反射フィルム。
【請求項6】
基材上に、高屈折率層と低屈折率層とから構成されるユニットを少なくとも1つを有し、該高屈折率層と該低屈折率層との屈折率差が0.1以上である近赤外反射フィルムを製造する近赤外反射フィルムの製造方法において、該高屈折率層及び該低屈折率層の少なくとも1層は、少なくとも金属酸化物粒子、ゼラチンまたはコラーゲンペプチド、及び酸またはその塩を含有する水系塗布液を用いて形成し、形成した該ユニットの膜面pHが4.0以上、6.0以下であることを特徴とする近赤外反射フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記酸またはその塩が、分子量が300以下のカルボン酸と、アルカリ金属またはアルカリ土類金属との塩であることを特徴とする請求項6に記載の近赤外反射フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記高屈折率層及び該低屈折率層の少なくとも1層を形成する水系塗布液のpHが、3.8以上、5.8以下であることを特徴とする請求項6または7に記載の近赤外反射フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記高屈折率層及び該低屈折率層の少なくとも1層を形成する水系塗布液が含有する前記ゼラチンまたはコラーゲンペプチドが、1)重量平均分子量が5万以下である低分子量ゼラチンまたはコラーゲンペプチドと、2)重量平均分子量が10万以上の高分子量ゼラチンであることを特徴とする請求項6から8のいずれか1項に記載の近赤外反射フィルムの製造方法。
【請求項10】
前記高屈折率層及び該低屈折率層の少なくとも1層を形成する水系塗布液が、前記金属酸化物粒子の表面を、前記1)重量平均分子量が5万以下である低分子量ゼラチンまたはコラーゲンペプチドで被覆した後、前記2)重量平均分子量が10万以上の高分子量ゼラチンを添加して調製されることを特徴とする請求項9に記載の近赤外反射フィルムの製造方法。
【請求項11】
基体の少なくとも一方の面側に、請求項1から5のいずれか1項に記載の近赤外反射フィルムを有することを特徴とする近赤外反射体。

【公開番号】特開2012−185342(P2012−185342A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−48614(P2011−48614)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】