説明

近赤外線遮蔽材料微粒子分散体、近赤外線遮蔽体、および近赤外線遮蔽材料微粒子の製造方法、並びに近赤外線遮蔽材料微粒子

【課題】耐熱性が改善された近赤外線遮蔽材料微粒子分散体とこれに含有する近赤外線遮蔽材料微粒子等を提供する。
【解決手段】この近赤外線遮蔽材料微粒子分散体に含有する近赤外線遮蔽材料微粒子は、一般式MyWOz(MはCs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr、Mgの内から選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で表記される六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物微粒子と酸化亜鉛微粒子の混合物であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光領域においては透明で、耐熱性が改善された近赤外線遮蔽材料微粒子が媒体中に分散して成る近赤外線遮蔽材料微粒子分散体、この近赤外線遮蔽材料微粒子分散体から製造される近赤外線遮蔽体、および近赤外線領域においては吸収を持つ近赤外線遮蔽材料微粒子の製造方法、並びに当該近赤外線遮蔽材料微粒子の製造方法により製造された近赤外線遮蔽材料微粒子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、各種建築物や車両の窓材等の分野において、可視光線を十分に取り入れながら近赤外領域の光を遮蔽し、明るさを維持しつつ室内の温度上昇を抑制することを目的とした近赤外線遮蔽体の需要が急増し、これに伴って近赤外線遮蔽材料や近赤外線遮蔽ガラス等の開発が盛んになされている。
【0003】
例えば、特許文献1では、透明なガラス基板上に、基板側より第1層として周期律表のIIIa族、IVa族、Vb族、VIb族およびVIIb族から成る群から選ばれた少なくとも1種
の金属イオンを含有する複合酸化タングステン膜を設け、上記第1層上に第2層として透明誘電体膜を設け、第2層の透明誘電体膜上に第3層として周期律表のIIIa族、IVa族
、Vb族、VIb族およびVIIb族から成る群から選ばれた少なくとも1種の金属イオンを含有する複合酸化タングステン膜を設け、かつ、上記第2層を構成する透明誘電体膜の屈折率を第1層および第3層の複合酸化タングステン膜の屈折率よりも低くすることにより、高い可視光透過率および良好な熱線遮蔽性能が要求される部位に好適に使用できる熱線遮断ガラスが提案されている。
【0004】
また、特許文献2では、特許文献1と同様の方法で、透明なガラス基板上に、基板側より第1層として第1の誘電体膜を設け、この第1層上に第2層として酸化タングステン膜を設け、この第2層上に第3層として上記第2層の誘電体膜を設けた熱線遮断ガラスが提案されている。
【0005】
また、特許文献3では、特許文献1と同様な方法で、透明な基板上に、基板側より第1層として同様の金属元素を含有する複合酸化タングステン膜を設け、この第1層上に第2層として透明誘電体膜を設けた熱線遮断ガラスが提案されている。
【0006】
更に、特許文献4では、水素、リチウム、ナトリウム、カリウム等の添加元素を含有する三酸化タングステン(WO)、三酸化モリブデン(MoO)、五酸化ニオブ(Nb)、五酸化タンタル(Ta)、五酸化バナジウム(V)および二酸化バナジウム(VO)の1種以上から選択された金属酸化物膜を、CVD法あるいはスプレー法でガラスシートに被覆しかつ250℃程度で熱分解して形成された太陽光遮蔽特性を有する太陽光制御ガラスシートが提案されている。
【0007】
特許文献5では、タングステン酸を加水分解して得られたタングステン酸化物を用い、このタングステン酸化物にポリビニルピロリドンという特定の構造の有機ポリマーを添加することにより、太陽光が照射されると光線中の紫外線が上記タングステン酸化物に吸収されて励起電子とホールとが発生し、少量の紫外線量により5価タングステンの出現量が著しく増加して着色反応が速くなり、これに伴って着色濃度が高くなると共に、光を遮断することによって5価タングステンが極めて速やかに6価に酸化されて消色反応が速くなる特性を用い、太陽光に対する着色および消色反応が速く、着色時に近赤外域の波長1250nmに吸収ピークが現れ、太陽光の近赤外線を遮断することができる太陽光可変調光断熱材料が提案されている。
【0008】
また、特許文献6では、六塩化タングステンをアルコールに溶解し、そのまま溶媒を蒸発させるか、または加熱還流した後に溶媒を蒸発させ、その後100℃〜500℃で加熱することにより、三酸化タングステン若しくはその水和物または両者の混合物から成る粉末を得ること、このタングステン酸化物微粒子を用いてエレクトロクロミック素子が得られること、多層の積層体を構成し膜中にプロトンを導入したときに当該膜の光学特性を変化させることができること等が提案されている。
【0009】
また、特許文献7では、メタ型タングステン酸アンモニウムと水溶性の各種金属塩を原料とし、約300〜700℃に加熱しながらその混合水溶液の乾固物に対し、不活性ガス(添加量;約50vol%以上)または水蒸気(添加量;約15vol%以下)が添加された水素ガスを供給することにより、MWO(M;アルカリ Ia族、IIa族、希土類等の金属元素、0<x<1)で表記される種々のタングステンブロンズを調製する方法が提案されている。
【0010】
更に、特許文献8には、タングステン酸化物微粒子または/および複合タングステン酸化物微粒子から成る近赤外線遮蔽材料微粒子を、樹脂、ガラス等の媒体中に分散させて成る近赤外線遮蔽材料微粒子分散体、この分散体から製造される近赤外線遮蔽体、上記近赤外線遮蔽材料微粒子の製造方法、および、近赤外線遮蔽材料微粒子が提案されている。
【0011】
ところで、特許文献1〜3に記載の近赤外線遮蔽体(熱線遮断ガラス)は、主にスパッタリング法、蒸着法、イオンプレーティング法および化学気相法(CVD法)等の真空成膜方式による乾式法を用いた方法で製造されるため、大型の製造装置を必要とし、製造コストが高くなるという問題がある。また、上記方法で製造されることから、近赤外線遮蔽体の基材が高温のプラズマに曝されたり、成膜後に加熱を必要としたりすることになるため、ガラスに替えてフィルム等の樹脂を基材とする場合には、別途、設備上、成膜条件の検討を行う必要があった。
【0012】
また、特許文献4に記載の近赤外線遮蔽体(太陽光制御被覆ガラスシート)は、原料である金属酸化物をCVD法またはスプレー法と熱分解法との併用によりガラス上に被膜形成するが、前駆体となる原料が高価であること、高温で分解すること等から、ガラスシートに代えてフィルム等の樹脂を基材とする場合には、別途、成膜条件の検討を行う必要があった。
【0013】
また、特許文献5に記載の太陽光可変調光断熱材料や、特許文献6に記載のエレクトロクロミック素子は、紫外線や電位差によりその色調を変化させる材料であるため、膜の構造が複雑であり、色調変化が望まれない用途分野には適用が困難な問題があった。
【0014】
更に、特許文献7にはタングステンブロンズの調製方法が記載されているが、得られた粉体の粒子直径や光学特性の記載は皆無である。これは、特許文献7において、タングステンブロンズの用途としては電解装置や燃料電池の電極材料および有機合成の触媒材料が考えられており、上述した近赤外線遮蔽体を用途としていないためと考えられる。
【0015】
他方、特許文献1〜7に記載された上述の従来技術と比べ、特許文献8においては近赤外線遮蔽体の製造に用いられるタングステン酸化物微粒子または/および複合タングステン酸化物微粒子が提案され、これ等酸化物微粒子は優れた可視光透過性と良好な近赤外線遮蔽効果を有している。このため、各種建築物や車両の窓材等の分野において好適に利用される近赤外線遮蔽体として注目されている。
【0016】
しかし、これ等複合タングステン酸化物微粒子の耐熱性については十分満足できない場合があり、未だ改善の余地が残されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開平8−59300号公報
【特許文献2】特開平8−12378号公報
【特許文献3】特開平8−283044号公報
【特許文献4】特開2000−119045号公報
【特許文献5】特開平9−127559号公報
【特許文献6】特開2003−121884号公報
【特許文献7】特開平8−73223号公報
【特許文献8】特許第4096205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明はこのような問題点に着目してなされたもので、その課題とするところは、耐熱性が改善された近赤外線遮蔽材料微粒子(複合タングステン酸化物微粒子と酸化亜鉛微粒子を含有)が媒体中に分散してなる近赤外線遮蔽材料微粒子分散体、近赤外線遮蔽材料微粒子の製造方法とその近赤外線遮蔽材料微粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
そこで、上記課題を解決するため、本発明者等が鋭意研究を継続した結果、一般式MyWOz(但し、MはCs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr、Mgの内から選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で表記される六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物微粒子と酸化亜鉛微粒子を含有する近赤外線遮蔽材料微粒子が、耐熱性に優れていることを発見するに至り、かつ、この近赤外線遮蔽材料微粒子が分散されてなる近赤外線遮蔽材料微粒子分散体や近赤外線遮蔽体も、上記耐熱性に優れていることを発見するに至った。本発明はこのような技術的発見に基づき完成されている。
【0020】
すなわち、請求項1に係る発明は、
近赤外線遮蔽材料微粒子が媒体中に分散してなる近赤外線遮蔽材料微粒子分散体において、
前記近赤外線遮蔽材料微粒子が、一般式MyWOz(但し、MはCs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr、Mgの内から選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で表記される六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物微粒子と酸化亜鉛微粒子を含有し、これらの粒子直径が1nm以上500nm以下であることを特徴とし、
請求項2に係る発明は、
複合タングステン酸化物微粒子に対する酸化亜鉛微粒子の含有量は、酸化物換算で0.1重量%〜50重量%であることを特徴とし、
請求項3に係る発明は、
近赤外線遮蔽材料微粒子が分散される上記媒体が、樹脂またはガラスであることを特徴とし、
請求項4に係る発明は、
上記樹脂が、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコ−ル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂の内から選択される1種類以上であることを特徴とし、
請求項5に係る発明は、
請求項1〜4のいずれかに記載の近赤外線遮蔽材料微粒子分散体が、板状、フィルム状若しくは薄膜状に形成されたものであることを特徴とし、
請求項6に係る発明は、
近赤外線領域において吸収を持つ近赤外線遮蔽材料微粒子の製造方法において、
一般式MyWOz(但し、MはCs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr、Mgの内から選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物微粒子と酸化亜鉛微粒子を混合して、前記近赤外線遮蔽材料微粒子を製造することを特徴とし、
請求項7に係る発明は、
請求項6の製造方法により製造された、
一般式MyWOz(但し、MはCs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr、Mgの内から選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で表記される六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物微粒子と酸化亜鉛微粒子の混合物であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る近赤外線遮蔽材料微粒子分散体は、一般式MyWOz(但し、MはCs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr、Mgの内から選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で表記される六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物微粒子と酸化亜鉛微粒子を含有するため、従来の近赤外線遮蔽材料微粒子分散体と比べて耐熱性に極めて優れている。
【0022】
従って、従来の高い可視光透過性能と近赤外線吸収性能を維持したまま、耐熱性をも発揮することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】六方晶を有する複合タングステン酸化物の結晶構造の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0025】
1.近赤外線遮蔽材料微粒子
近赤外線領域において吸収を持つ本発明に係る近赤外線遮蔽材料微粒子は、
一般式MyWOz(但し、MはCs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr、Mgの内から選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で表記される六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物微粒子と酸化亜鉛微粒子とで構成されていることを特徴とするものである。
【0026】
まず、一般式MyWOzで表記される複合タングステン酸化物において、タングステン(W)の組成を1としたときの酸素(O)の組成比zは、各一般式のカッコ中に示されているように2.2以上3.0以下である。組成比zがこの範囲の場合、材料としての化学的安定性を得ることができるため、有効な近赤外線遮蔽材料として適用できる。また、タングステン(W)の組成を1としたときの元素(M)の組成比yは各一般式のカッコ中に示されているように光学特性の観点から0.1以上0.5以下であることを要する。yの値が0.1未満であると、一般式MyWOzで表記される複合タングステン酸化物が化合物として不安定になり、WO3やWO2等の異相が析出する。また、yの値が大きいほど近赤外線吸収特性は向上するが、上記複合タングステン酸化物が化合物として安定に存在する最大の値は0.5以下であり、好ましくは0.33付近である。
【0027】
また、一般式MyWOzで表記される複合タングステン酸化物微粒子が六方晶の結晶構造を有する場合、この微粒子の可視光領域での透過性が向上しかつ近赤外域での吸収性が向上する。この六方晶の結晶構造の模式的な平面図である図1を参照して説明する。図1において、符号1で示すWO単位にて形成される8面体が、6個集合して六角形の空隙(トンネル)が構成され、当該空隙中に、符号2で示す元素(M)が配置して1箇の単位を構成し、この1箇の単位が多数集合して六方晶の結晶構造を構成する。
【0028】
この六角形の空隙に元素(M)の陽イオンが添加されて存在するとき、近赤外線領域の吸収が向上する。ここで、一般的には、イオン半径の大きな元素(M)を添加したとき当該六方晶が形成されるので好ましい。
【0029】
六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物粒子が均一な結晶構造を有するとき、元素(M)の添加量yは、上述したように0.1以上0.5以下であり、好ましくは0.33付近である。酸素(O)の組成比z=3のとき、yの値が0.33となることで、元素(M)が六角形の空隙の全てに配置されると考えられる。
【0030】
また、一般式MyWOzで表記される複合タングステン酸化物微粒子が、上述した六方晶以外に、正方晶、立方晶のタングステンブロンズの構造をとるときも近赤外線遮蔽材料として有効である。上記複合タングステン酸化物微粒子がとる結晶構造によって、近赤外線領域の吸収位置が変化する傾向があり、この近赤外線領域の吸収位置は、立方晶よりも正方晶のときが長波長側に移動し、更に六方晶のときは正方晶のときよりも長波長側に移動する傾向がある。また、上記吸収位置の変動に付随して、可視光線領域の吸収は六方晶が最も少なく、次に正方晶であり、立方晶はこの中では最も大きい。よって、より可視光領域の光を透過し、より近赤外線領域の光を遮蔽する用途には、上述したように六方晶のタングステンブロンズを用いることが必要である。但し、ここで述べた光学特性の傾向は、あくまで大まかな傾向であり、添加元素の種類や、添加量、酸素量によっても変化するものであり、これに限定されるわけではない。従って、一般式MyWOzで表記される複合タングステン酸化物微粒子に、上述した六方晶以外の、正方晶、立方晶のタングステンブロンズ構造が若干含まれていても本発明の近赤外線遮蔽材料として使用することは可能である。
【0031】
次に、一般式MyWOzで表記される複合タングステン酸化物微粒子に対する酸化亜鉛微粒子の混合割合は、酸化物換算で0.1重量%〜50重量%である。0.1重量%未満では耐熱効果を発揮しない。他方、50重量%を超えてもさらなる効果は見られず、逆にヘイズが高くなる。
【0032】
ところで、一般式MyWOzで表記される複合タングステン酸化物と酸化亜鉛の共存下で耐熱性が改善される理由は現在のところ不明であるが、Csの酸化脱離を抑制する酸化亜鉛微粒子の触媒作用もしくは酸化亜鉛微粒子の両性元素の性質が影響していると推察している。
【0033】
一般式MyWOzで表記される複合タングステン酸化物と酸化亜鉛を含有する本発明に係る近赤外線遮蔽材料微粒子は、特に波長1000nm付近の光を大きく吸収するためその透過色調は青色系となる。また、本発明に係る近赤外線遮蔽材料微粒子の粒子直径については、近赤外線遮蔽材料微粒子の使用目的によって適宜選定することができる。まず、透明性を保持した目的に使用する場合は500nm以下の粒子直径を有していることが好ましい。この理由は、500nmよりも小さい粒子は散乱により光を完全に遮蔽することが無く、可視光領域の視認性を保持し同時に効率よく透明性を保持することができるからである。特に可視光領域の透明性を重視する場合は、粒子による散乱を更に考慮することが好ましい。
【0034】
上記粒子による散乱の低減を重視するときは、粒子直径は200nm以下、好ましくは100nm以下がよい。この理由は、粒子の粒子直径が小さければ、幾何学散乱若しくはミー散乱による400nm〜780nmの可視光線領域の光の散乱が低減される結果、近赤外線遮蔽体が曇りガラスのようになって鮮明な透明性が得られなくなる弊害を回避できるからである。すなわち、粒子直径が200nm以下になると、上記幾何学散乱若しくはミー散乱が低減しレイリー散乱領域になる。レイリー散乱領域では、散乱光は粒子径の6乗に反比例して低減するため、粒子直径の減少に伴って散乱が低減し透明性が向上するからである。更に、粒子直径が100nm以下になると、散乱光は非常に少なくなり好ましい。光の散乱を回避する観点からは粒子直径が小さい方が好ましく、粒子直径が1nm以上であれば工業的な製造は可能である。
【0035】
本発明に係る近赤外線遮蔽材料微粒子の粒子直径を500nm以下に選定することにより、樹脂やガラス等の媒体中に近赤外線遮蔽材料微粒子を分散させて成る近赤外線遮蔽材料微粒子分散体のヘイズ値は、可視光透過率85%以下でヘイズ30%以下とすることができる。なお、ヘイズが30%よりも大きい値であると曇りガラスのようになり、鮮明な透明性が得られない。
【0036】
なお、本発明に係る近赤外線遮蔽材料微粒子表面が、Si、Ti、Zr、Alの一種類以上の元素を含有する酸化物で被覆されていることは、近赤外線遮蔽材料微粒子の耐候性を向上させる観点から好ましい。
【0037】
2.近赤外線遮蔽材料微粒子の製造
(1)一般式MyWOzで表記される複合タングステン酸化物微粒子の製造
まず、一般式MyWOz(但し、MはCs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr、Mgの内から選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物の製造方法について説明する。
【0038】
タングステン化合物として、タングステン酸(HWO)、タングステン酸アンモニウム、六塩化タングステン、アルコールに溶解した六塩化タングステンに水を添加して加水分解させた後に溶媒を蒸発させたタングステンの水和物から選ばれる1種以上のタングステン化合物と、M元素(Cs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr、Mg)を有する化合物として、タングステン酸塩、塩化物塩、硝酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩、酸化物、炭酸塩、水酸化物等のM元素を有する化合物とを乾式混合し、得られた混合粉体を、不活性ガス単独または不活性ガスと還元性ガスの混合ガス雰囲気下において1ステップで1段焼成して製造するか、あるいは、上記混合粉体を、1ステップ目の不活性ガスと還元性ガスの混合ガス雰囲気下で焼成し、かつ2ステップ目の不活性ガス雰囲気下において焼成する2段焼成して製造する方法が例示される。なお、上記タングステン化合物に替えてタングステン酸化物微粒子を用いてもよい。
【0039】
また、上記方法とは異なる製造方法として以下の方法が例示される。
【0040】
すなわち、タングステン化合物として、タングステン酸(HWO)、タングステン酸アンモニウム、六塩化タングステン、アルコールに溶解した六塩化タングステンに水を添加して加水分解させた後に溶媒を蒸発させたタングステンの水和物から選ばれる1種以上のタングステン化合物と、上記M元素の塩を含む水溶液とを湿式混合して調製された混合液を乾燥して乾燥粉を得、得られた乾燥粉を、不活性ガス単独または不活性ガスと還元性ガスの混合ガス雰囲気下において1ステップで1段焼成して製造するか、あるいは、上記乾燥粉を、1ステップ目の不活性ガスと還元性ガスの混合ガス雰囲気下で焼成しかつ2ステップ目の不活性ガス雰囲気下において焼成する2段焼成して製造する方法が例示される。なお、上記タングステン化合物に替えてタングステン酸化物微粒子を用いてもよい。また、上記M元素の塩としては特に限定されるものでなく、例えば、硝酸塩、硫酸塩、塩化物、炭酸塩等が挙がられる。また、湿式混合して調製された上記混合液を乾燥させる際の乾燥温度や時間は、特に限定されるものでない。
【0041】
そして、上記混合粉体または乾燥粉を不活性ガスと還元性ガスの混合ガス雰囲気下で焼成する場合、不活性ガス中における還元性ガスの濃度については、焼成温度に応じて適宜選定すれば特に限定されないが、好ましくは20vol %以下、より好ましくは10 vol%以下、更に好ましくは7〜0.01volvol %である。不活性ガス中における還元性ガスの濃度が20vol %以下であると、上記タングステン化合物の急速な還元を回避することができるからである。
【0042】
焼成温度については雰囲気に応じて適宜選定すればよいが、上記混合粉体または乾燥粉を不活性ガス単独の雰囲気下で焼成する場合は、一般式MyWOzで表記される複合タングステン酸化物微粒子としての結晶性や着色力の観点から500℃を超え1200℃以下、好ましくは1100℃以下、より好ましくは1000℃以下である。一方、上記混合粉体または乾燥粉を不活性ガスと還元性ガスとの混合ガス雰囲気下で焼成する場合は、還元性ガス濃度に応じてWOが生成しない温度を適宜選定すればよい。更に、2段焼成して複合タングステン酸化物微粒子を製造する場合は、1ステップ目の不活性ガスと還元性ガスの混合ガス雰囲気下において100℃以上650℃以下で焼成し、2ステップ目の不活性ガス雰囲気下において500℃を超え1200℃以下で焼成する条件が、近赤外線遮蔽特性の観点から好ましい条件として例示される。このときの焼成処理時間は、焼成温度に応じて適宜選択すればよいが、5分以上10時間以下で十分である。
【0043】
ここで、タングステン酸(HWO)、タングステン酸アンモニウム、六塩化タングステン、アルコールに溶解した六塩化タングステンに水を添加して加水分解させた後に溶媒を蒸発させたタングステンの水和物、および、タングステン酸化物微粒子から選ばれる1種以上のタングステン化合物に対し、タングステン酸塩、塩化物塩、硝酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩、酸化物、炭酸塩、水酸化物等のM元素を有する化合物を上述した乾式混合法を用いて添加するとき、M元素を有する化合物としては酸化物、水酸化物が好ましい。
【0044】
また、上記乾式混合は、市販の擂潰機、ニーダー、ボールミル、サンドミル、ペイントシェーカー等で行えばよい。
(2)酸化亜鉛微粒子の製造方法
酸化亜鉛の工業的製法は、溶融亜鉛を蒸気酸化させる乾式法と、硫酸(塩化)亜鉛水溶液にソーダ灰溶液を加えてできる塩基性炭酸亜鉛を焼成する湿式法に大別されるが、本発明においては、より粒子径が細かい結晶が得られる湿式粉を原料として用いることとした。具体的には、亜鉛水溶液とアルカリ性水溶液とから沈殿物を生成させ、熟成、洗浄した後、当該沈殿物を必要に応じてアルコールで湿潤させて乾燥を開始し酸化亜鉛微粒子前駆体を得た後、当該酸化亜鉛微粒子前駆体を焼成して酸化亜鉛微粒子とするものである。
【0045】
ここで、亜鉛水溶液を調製するための亜鉛化合物は特に限定されるものでなく、例えば硝酸亜鉛、塩化亜鉛、酢酸亜鉛、硫酸亜鉛などが挙げられるが、不純物除去の容易さから硝酸塩が好ましい。
一方、アルカリ性水溶液も、特に限定されず、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素アンモニウム、アンモニア等の水溶液が挙げられる。当該アルカリ性水溶液中における水酸化ナトリウム等のアルカリ濃度は、亜鉛化合物が水酸化物となるに必要な化学当量の1.0〜1.5倍過剰量とするのが好ましい。化学当量以上のアルカリとすれば、投入した亜鉛化合物が反応できるためであり、1.5倍過剰量以下であれば、残留アルカリの除去の洗浄時間が長くならないからである。
【0046】
次に、沈殿物の生成、熟成について説明する。
沈殿物の生成は、連続的に攪拌されているアルカリ性水溶液へ、亜鉛化合物の水溶液を滴下することで行う。アルカリ性水溶液へ、亜鉛化合物の水溶液を滴下することにより、瞬時に過飽和度に到達して沈殿が生成することから、均一な粒径の炭酸亜鉛および/または塩基性炭酸亜鉛の微粒子の沈殿物が得られる。亜鉛化合物の水溶液へ、アルカリ性溶液を滴下しても、亜鉛化合物の溶液とアルカリ性溶液とを並行滴下しても、上述のような粒子サイズが揃った炭酸亜鉛および水酸化炭酸亜鉛の微粒子の沈殿物を得ることは困難である。
【0047】
沈殿物の生成時におけるアルカリ性水溶液温度は、特に限定されないが、50℃以下、好ましくは室温である。アルカリ性水溶液の温度の下限は、定められないが、低すぎると新たに冷却装置などが必要になってくることからそのような装置を要しない温度とすることが好ましい。アルカリ性水溶液への亜鉛化合物水溶液の滴下時間は、生産性の観点から30分間未満、好ましくは20分間以下、さらに好ましくは10分間以下とする。滴下完了後、系内の均一化を図るために、継続的に攪拌して熟成を行う。熟成の温度は沈殿生成時の温度と同温とする。また、継続的に撹拌する時間は特に限定されないが、生産性の観点から30分間以下、好ましくは15分間以下である。
【0048】
前記熟成後に得られた沈澱物は、デカンテ−ションによって洗浄するが、洗浄液の導電率が1mS/cm以下になるまで十分洗浄する。これは、微粒子中に残留する塩素イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、酢酸イオンなどの不純物が少なければ、所望とする耐熱効果が発現しないためである。従って、当該洗浄後の上澄み液の導電率が、1mS/cm以下(残留不純物量1.5%以下に相当する。)となるまで十分洗浄することが好ましい。
【0049】
次に、洗浄した沈殿物を必要に応じてアルコール溶液で湿潤処理して湿潤処理物とし、その後、当該湿潤処理物を乾燥することによって酸化亜鉛微粒子前駆体を得る。当該湿潤処理を行うことで、乾燥後の酸化亜鉛微粒子前駆体の凝集を回避できる。
当該アルコール溶液のアルコール濃度は、50質量%以上であることが好ましい。アルコール濃度が50質量%以上であれば、酸化亜鉛微粒子が強凝集体となることを回避でき、優れた分散性を発揮するからである。
湿潤処理で用いられるアルコール溶液について説明する。当該アルコール溶液に用いられるアルコールは特に限定されないが、水に溶解し、沸点100℃以下のアルコールが好ましい。例えば、メタノ−ル、エタノ−ル、プロパノ−ル、tert−ブチルアルコ−ルが挙げられる。
【0050】
湿潤処理について説明する。当該湿潤処理は、濾過洗浄された沈殿物をアルコール溶液中へ投入して攪拌すればよく、このときの時間や攪拌速度は処理量に応じて適宜選択すればよい。当該沈殿物をアルコール溶液中に投入する際のアルコール溶液量は、当該沈殿物が容易に攪拌できて流動性を確保できる液量があれば良い。攪拌時間や攪拌速度は、上述した濾過洗浄時に一部凝集した部分を含む沈殿物が、アルコール溶液中において、当該凝集部分が解消するまで均一に混合されることを条件に適宜選択される。
【0051】
また、湿潤処理の際、温度は通常室温下で行えば良いが、必要に応じて、アルコ−ルが蒸発して失われない程度に加温しながら行うことも可能である。好ましくは、アルコールの沸点以下の温度で加熱することで、湿潤処理中におけるアルコールの消失を回避でき、湿潤処理の効果がなくなることを回避できる。湿潤処理中にアルコールの存在が保たれることで、湿潤処理の効果が得られ、乾燥後には沈殿物が強凝集体とならないので好ましい。
【0052】
乾燥処理された酸化亜鉛前駆体の焼成は、大気中、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガス中、前記不活性ガスと水素などの還元性ガスとの混合ガス中、のいずれかの雰囲気下で行う。このときの処理温度は、所望とする耐熱性発現の観点から下限は350℃を超え、上限は500℃以下が好ましい。このときの処理時間は、酸化亜鉛前駆体の処理量や焼成温度に応じて適宜選択すればよい。
(3)一般式MyWOzで表記される複合タングステン酸化物微粒子と酸化亜鉛微粒子の混合方法
本発明の近赤外線遮蔽粒子は、一般式MyWOzで表記される複合タングステン酸化物微粒子と酸化亜鉛微粒子を混合して得ることができる。混合方法は、タングステン酸化物微粒子と酸化亜鉛微粒子を後述する近赤外線遮蔽材微粒子分散体や近赤外線遮蔽体を製造する際に混合しても良いし、市販の擂潰機、ニーダー、ボールミル、サンドミル、ペイントシェーカー等で混合しても良い。
【0053】
3.近赤外線遮蔽材料微粒子分散体と近赤外線遮蔽体
一般式MyWOz(但し、Znは亜鉛、MはCs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr、Mgの内から選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物微粒子と酸化亜鉛微粒子とで構成される本発明に係る近赤外線遮蔽材料微粒子の適用方法としては、この微粒子を適宜媒体中に分散し所望の基材表面に形成する方法がある。この方法は、予め高温で焼成した近赤外線遮蔽材料微粒子を、基材中若しくはバインダーによって基材表面に結着させることが可能なため、樹脂材料等の耐熱温度の低い基材材料への応用が可能であり、形成の際に大型の装置を必要とせず安価であるという利点を有している。
【0054】
以下、上記近赤外線遮蔽材料微粒子が媒体中に分散して成る本発明に係る近赤外線遮蔽材料微粒子分散体と、この近赤外線遮蔽材料微粒子分散体を用いて製造される本発明に係る近赤外線遮蔽体について説明する。
【0055】
(1)微粒子を液体媒体中に分散し、基材表面に薄膜状に形成する方法
本発明に係る近赤外線遮蔽材料微粒子(複合タングステン酸化物微粒子と酸化亜鉛微粒子)を適宜液体媒体中で粉砕と分散を進めて近赤外線遮蔽材料微粒子の分散液を得るか(共分散)、あるいは、上記近赤外線遮蔽材料微粒子を構成する複合タングステン酸化物微粒子と酸化亜鉛微粒子を別々に液体媒体中で粉砕と分散を進めてた液を混合するか、もしくは上記近赤外線遮蔽材料微粒子を構成する複合タングステン酸化物微粒子と酸化亜鉛微粒子を予め乾式混合した後、粉砕と分散を進めて近赤外線遮蔽材料微粒子の分散液を得る。
【0056】
そして、得られた近赤外線遮蔽材料微粒子の分散液に樹脂媒体を添加した後、適宜基材表面にコーティングして塗膜を形成し、然る後に溶媒を蒸発させて所定方法により樹脂を硬化させることにより、近赤外線遮蔽材料微粒子が樹脂媒体中に分散した薄膜(近赤外線遮蔽体)の形成が可能となる。なお、コーティングの方法は、近赤外線遮蔽材料微粒子を含有する樹脂膜(塗膜)を基材表面上に均一にコートできれば特に限定されず、バーコート法、グラビヤコート法、スプレーコート法、ディップコート法等が例示される。また、近赤外線遮蔽材料微粒子を直接バインダー樹脂中に分散させたものは、基材表面に塗布後、溶媒を蒸発させる必要がないため、環境的、工業的に好ましい。
【0057】
上記樹脂媒体としては、例えば、UV硬化型樹脂、熱硬化型樹脂、電子線硬化型樹脂、常温硬化型樹脂、熱可塑性樹脂等が目的に応じて適宜選定可能である。具体的には、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂等が挙げられる。これ等の樹脂は、単独使用であっても混合使用であってもよい。また、金属アルコキシドを用いたバインダーの利用も可能である。上記金属アルコキシドとしては、Si、Ti、Al、Zr等のアルコキシドが代表的である。これ等の金属アルコキシドを用いたバインダーは、加熱等により加水分解・縮重合させることで、酸化物膜を形成することが可能である。
【0058】
また、近赤外線遮蔽材料微粒子の分散液等が塗布される上記基材としては、所望によりフィルムでもボードでもよく、形状は限定されない。透明の基材材料としては、PET、アクリル、ウレタン、ポリカーボネート、ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル、フッ素樹脂等が、各種目的に応じて使用可能である。また、樹脂以外ではガラスを用いることができる。
【0059】
(2)固体媒体中に微粒子を分散させ、板(ボード)状、フィルム状に形成する方法
次に、本発明に係る近赤外線遮蔽材料微粒子を用いる別の方法として、微粒子を固体媒体(基材)中に直接分散させてもよい。微粒子を固体媒体(基材)中に分散させるには、基材表面から浸透させてもよいし、基材の溶融温度以上に温度を上げて基材を溶融させた後、微粒子と基材とを混合してもよい。このようにして得られた近赤外線遮蔽材料微粒子を含有する樹脂(近赤外線遮蔽材料微粒子分散体)を、所定の方法でフィルムや板(ボード)状に成形し、近赤外線遮蔽体として応用が可能である。なお、ここで言う微粒子とは、微粒子分散液から溶剤を除去して得られる分散粉も含む。
【0060】
例えば、固体媒体としてのPET樹脂に近赤外線遮蔽材料微粒子を分散する方法として、上述した方法により上記微粒子が分散された分散液をまず調製し、かつ、上記PET樹脂とこの微粒子分散液とを混合した後、分散液を蒸発させてからPET樹脂の溶融温度である300℃程度に加熱し、更に、PET樹脂を溶融させて混合して冷却することにより、微粒子が分散したPET樹脂の作製が可能となる。
【0061】
そして、上記近赤外線遮蔽材料微粒子を粉砕あるいは分散させる方法は、特に限定されず、例えば、超音波照射、ビーズミル、サンドミル等を使用することができる。また、均一な分散体を得るために、各種添加剤や分散剤を添加したり、pHを調整したりしてもよい。分散剤は用途に合わせて適宜選定可能であり、例えば、高分子系分散剤やシラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、等が挙げられるが、これ等に限定されるものではない。
【実施例】
【0062】
以下、本発明の実施例について比較例を挙げて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0063】
ここで、各実施例において、近赤外線遮蔽体の可視光透過率と日射透過率は、日立製作所(株)製の「分光光度計U−4000」を用いて測定し、JIS R 3106に基づいて算出した。また、膜評価(すなわち、複合タングステン酸化物微粒子と酸化亜鉛微粒子が分散した近赤外線遮蔽材料微粒子分散体の評価)は、近赤外線遮蔽材料微粒子と紫外線硬化樹脂を有する混合液(塗布液)を用いて線径の異なる3種のバーコーターにより成膜し、かつ、得られた膜厚が相違する3種類の近赤外線遮蔽材料微粒子分散体についてその可視光透過率、日射透過率を測定すると共に、可視光(波長域380nm〜780nm)透過率70%のときの日射(波長域200nm〜2600nm)透過率を上記膜(近赤外線遮蔽材料微粒子分散体)の3点プロットから求めている。
【0064】
[実施例1]
タングステン酸(HWO)34.57kgに対し、炭酸セシウム7.43kgを水6.70kgに溶解させた水溶液を添加し、混合した後、100℃で攪拌しながら水分を除去して乾燥粉を得た。
【0065】
次に、Nガスをキャリアーとした5%のHガスを供給しながら(すなわち、不活性ガスと還元性ガスの混合ガス雰囲気下において)上記乾燥粉を加熱し、800℃の温度条件で5.5時間焼成して、Cs0.33WO微粒子(すなわち、複合タングステン酸化物微粒子)を得た。得られた焼成粉のX線回折による結晶相の同定の結果、Cs0.33WO単相であった。
【0066】
次に、塩基性炭酸亜鉛(中央電気工業製)を大気中で1時間焼成して、ZnO微粒子を得た。得られた焼成粉のX線回折による結晶相の同定の結果、ZnO単相であった。
【0067】
次に、上記Cs0.33WO微粒子8重量%、ZnO微粒子1.9重量%、高分子系分散剤(固型分40%)8重量%、バランスとしてトルエンを秤量し、0.3mmφZrO2ビーズを入れたペイントシェーカーで8時間粉砕・分散処理して、複合タングステン酸化物微粒子とZnO微粒子が分散された分散液(A液)を得た。なお、上記分散液(A液)中における微粒子の粒子直径は、TEM観察の結果、10nm〜50nmであった。
【0068】
次に、上記分散液(A液)66.7重量%と、紫外線硬化樹脂〔東亜合成(株)社製UV3701〕33.3重量%をよく混合してCs0.33WO微粒子とZnO微粒子とを含有する塗布液を調製し、線径の異なる3種のバーコーター(すなわち、番手10、24、30のバー)を用い、厚さ3mmのガラス基板上に上記塗布液を塗布して膜厚が異なる3種の塗膜(近赤外線遮蔽材料微粒子分散体)を形成し、かつ、70℃で1分間乾燥して溶媒を蒸発させた後、高圧水銀ランプにより紫外線を塗膜へ照射して実施例1に係る近赤外線遮蔽体を得た。
【0069】
そして、実施例1に係る近赤外線遮蔽体(ガラス基板とこのガラス上に形成された複合タングステン酸化物微粒子と酸化亜鉛微粒子とを有する被膜で構成される)の光学特性を測定したところ、可視光透過率70%のときの日射透過率は32.8%、ヘイズは0.4%であった。従って、実施例1に係る近赤外線遮蔽体は、可視光領域においては透明で、近赤外線領域においては吸収を持つ近赤外線遮蔽体として好適に利用できるものであった。
【0070】
次に、実施例1に係る近赤外線遮蔽体の耐熱性を調べるため加速劣化試験を行った。
【0071】
すなわち、上記塗布液を用いて、厚さ3mmのガラス基板上に初期の可視光透過率が70%となるように成膜した後、このガラス基板を120℃大気雰囲気下に暴露して72時間後の△VTLを測定した。以下、120℃の大気雰囲気下に暴露した加速劣化試験を耐熱試験と略称し、かつ、表1において「耐熱」と表記する。
【0072】
その結果、耐熱試験における72時間後のΔVLTは2.1%であり、以下に記載する比較例1と比べて耐熱性の向上が確認された。
【0073】
[実施例2]
Cs0.33WO微粒子8重量%に対し、ZnO微粒子1.9重量%添加した実施例1の条件に替えて、ZnO微粒子1.4重量%添加したことを除いて実施例1と同様にして、実施例2に係る近赤外線遮蔽体を製造した。
【0074】
なお、実施例1と同様にして調製した分散液中における微粒子の粒子直径は、TEM観察の結果、10nm〜50nmであった。
【0075】
そして、実施例1と同様、実施例2に係る近赤外線遮蔽体の光学特性を測定したところ、可視光透過率70%のときの日射透過率は32.9%、ヘイズは0.4%であった。
【0076】
また、上記耐熱試験における72時間後のΔVLTは2.4%であり、以下に記載する比較例1と比べて耐熱性の向上が確認された。
【0077】
[実施例3]
Cs0.33WO微粒子8重量%に対し、ZnO微粒子1.9重量%添加した実施例1の条件に替えて、ZnO微粒子0.9重量%添加したことを除いて実施例1と同様にして、実施例3に係る近赤外線遮蔽体を製造した。
【0078】
なお、実施例1と同様にして調製した分散液中における微粒子の粒子直径は、TEM観察の結果、10nm〜50nmであった。
【0079】
そして、実施例1と同様、実施例3に係る近赤外線遮蔽体の光学特性を測定したところ、可視光透過率70%のときの日射透過率は33.3%、ヘイズは0.4%であった。
【0080】
また、上記耐熱試験における72時間後のΔVLTは3.1%であり、以下に記載する比較例1と比べて耐熱性の向上が確認された。
【0081】
[実施例4]
Cs0.33WO微粒子8重量%に対し、ZnO微粒子1.9重量%添加した実施例1の条件に替えて、ZnO微粒子0.7重量%添加したことを除いて実施例1と同様にして、実施例4に係る近赤外線遮蔽体を製造した。
【0082】
なお、実施例1と同様にして調製した分散液中における微粒子の粒子直径は、TEM観察の結果、10nm〜50nmであった。
【0083】
そして、実施例1と同様、実施例4に係る近赤外線遮蔽体の光学特性を測定したところ、可視光透過率70%のときの日射透過率は33.3%、ヘイズは0.4%であった。
【0084】
また、上記耐熱試験における72時間後のΔVLTは3.3%であり、以下に記載する比較例1と比べて耐熱性の向上が確認された。
【0085】
[実施例5]
Cs0.33WO微粒子8重量%に対し、ZnO微粒子1.9重量%添加した実施例1の条件に替えて、ZnO微粒子0.2重量%添加したことを除いて実施例1と同様にして、実施例5に係る近赤外線遮蔽体を製造した。
【0086】
なお、実施例1と同様にして調製した分散液中における微粒子の粒子直径は、TEM観察の結果、10nm〜50nmであった。
【0087】
そして、実施例1と同様、実施例5に係る近赤外線遮蔽体の光学特性を測定したところ、可視光透過率70%のときの日射透過率は33.3%、ヘイズは0.4%であった。
【0088】
また、上記耐熱試験における72時間後のΔVLTは3.3%であり、以下に記載する比較例1と比べて耐熱性の向上が確認された。
【0089】
[実施例6]
Cs0.33WO微粒子8重量%に対し、ZnO微粒子1.9重量%添加した実施例1の条件に替えて、ZnO微粒子3.8重量%添加したことを除いて実施例1と同様にして、実施例6に係る近赤外線遮蔽体を製造した。
【0090】
なお、実施例1と同様にして調製した分散液中における微粒子の粒子直径は、TEM観察の結果、10nm〜50nmであった。
【0091】
そして、実施例1と同様、実施例5に係る近赤外線遮蔽体の光学特性を測定したところ、可視光透過率70%のときの日射透過率は33.3%、ヘイズは0.4%であった。
【0092】
また、上記耐熱試験における72時間後のΔVLTは2.3%であり、以下に記載する比較例1と比べて耐熱性の向上が確認された。
【0093】
[実施例7]
ポリカーボネート樹脂に、実施例1で得られた分散液(A液)を、Cs0.33WO微粒子換算での濃度が0.062重量%となるように添加し、ブレンダーで混合し、二軸押出機で均一に溶融混練した後、Tダイを用いて厚さ2mmに押出成形し、熱線遮蔽機能を有する微粒子が全体に均一に分散したポリカーボネートシートから成る近赤外線遮蔽体を作製した。
【0094】
得られた近赤外線遮蔽体中の複合タングステン酸化物微粒子の分散粒子径は30nm〜70nmであった。
【0095】
そして、実施例1と同様、実施例5に係る近赤外線遮蔽体の光学特性を測定したところ、可視光透過率75%のときの日射透過率は45.2%で、ヘイズ値は1.0%であった。
【0096】
また、上記耐熱試験における72時間後のΔVLTは0.5%であり、以下に記載する比較例1と比べて耐熱性の向上が確認された。
【0097】
[実施例8]
真空乾燥機を使用して、実施例1で得られた分散液(A液)から有機溶剤(トルエン)を除去し、熱線遮蔽樹脂シート材製造用粉末(A粉)を製造した。
【0098】
次に、得られたポリカーボネートシートから成る近赤外線遮蔽体製造用粉末(A粉)を、ポリカーボネート樹脂に対して、Cs0.33WO微粒子換算での濃度が0.062重量%となるように添加し、かつ、ブレンダーで混合し、二軸押出機で均一に溶融混練した後、Tダイを用いて厚さ2mmに押出成形して、熱線遮蔽機能を有する微粒子が全体に均一に分散した実施例6に係るポリカーボネートシートから成る近赤外線遮蔽体を作製した。
【0099】
得られた近赤外線遮蔽体中の微粒子の分散粒子径は30nm〜70nmであった。
【0100】
そして、実施例1と同様、実施例6に係る近赤外線遮蔽体の光学特性を測定したところ、表1に示すように、可視光透過率75%のときの日射透過率は45.5%で、ヘイズ値は1.0%であった。
【0101】
また、上記耐熱試験における72時間後のΔVLTは0.5%であり、以下に記載する比較例1と比べて耐熱性の向上が確認された。
[比較例1]
実施例1において製造したCs0.33WO微粒子(複合タングステン酸化物微粒子)のみを近赤外線遮蔽材料微粒子として適用した以外は実施例1と同様にして、比較例1に係る近赤外線遮蔽体を製造した。
【0102】
なお、実施例1と同様にして調製した分散液中における微粒子の粒子直径は、TEM観察の結果、10nm〜50nmであった。
【0103】
そして、実施例1と同様、比較例1に係る近赤外線遮蔽体の光学特性を測定したところ、可視光透過率70%のときの日射透過率は33.3%、ヘイズは0.5%であった。
【0104】
また、上記耐熱試験における72時間後のΔVLTは4.4%、実施例1〜4と比べて耐熱性に劣ることが確認された。
【表1】



[評 価]
(1)Cs0.33WO微粒子(複合タングステン酸化物A微粒子)とZnO微粒子から成る微粒子を近赤外線遮蔽材料微粒子として適用した実施例1〜6に係る近赤外線遮蔽体は、可視光透過率70%のときの日射透過率が全て34%未満であり、かつ、上記耐熱試験における72時間後のΔVLTは全て3.4%未満である。また、実施例7〜8に係るポリカ−ボネ−トシ−トから成る近赤外線遮蔽体は、可視光透過率75%のときの日射透過率が全て46%未満であり、かつ、上記耐熱試験における72時間後のΔVLTは全て0.5%以下である。
従って、実施例1〜8に係る近赤外線遮蔽体は優れた可視光透過性能と良好な近赤外線遮蔽性能を備えているため各種建築物や車両の窓材等の分野において好適に利用できることが確認され、かつ耐熱性にも優れていることが確認される。
(2)他方、Cs0.33WO微粒子(複合タングステン酸化物微粒子)を近赤外線遮蔽材料微粒子として適用した比較例1に係る近赤外線遮蔽体は、可視光透過率70%のときの日射透過率が全て34%未満であるものの、上記耐熱試験における72時間後のΔVLTが4.4%であり、実施例1〜8と比べて耐熱性に問題があることが確認される。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明に係る近赤外線遮蔽材料微粒子は優れた可視光透過性能と良好な近赤外線遮蔽性能を備え、かつ耐熱性にも優れているため、各種建築物や車両の窓材等の分野において広く用いられている近赤外線遮蔽体の構成材料として利用される産業上の利用可能性を有している。
【符号の説明】
【0106】
1 WO単位
2 元素(M)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
近赤外線遮蔽材料微粒子が媒体中に分散してなる近赤外線遮蔽材料微粒子分散体において、
前記近赤外線遮蔽材料微粒子が、一般式MyWOz(但し、MはCs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr、Mgの内から選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で表記される六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物微粒子と酸化亜鉛微粒子を含有し、これらの粒子直径が1nm以上500nm以下であることを特徴とする近赤外線遮蔽材料微粒子分散体。
【請求項2】
複合タングステン酸化物微粒子に対する酸化亜鉛微粒子の含有量は、酸化物換算で0.1重量%〜50重量%であることを特徴とする請求項1に記載の近赤外線遮蔽材料微粒子分散体。
【請求項3】
近赤外線遮蔽材料微粒子が分散される上記媒体が、樹脂またはガラスであることを特徴とする請求項1または2に記載の近赤外線遮蔽材料微粒子分散体。
【請求項4】
上記樹脂が、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコ−ル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂の内から選択される1種類以上であることを特徴とする請求項3に記載の近赤外線遮蔽材料微粒子分散体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の近赤外線遮蔽材料微粒子分散体が、板状、フィルム状若しくは薄膜状に形成されたものであることを特徴とする近赤外線遮蔽体。
【請求項6】
近赤外線領域において吸収を持つ近赤外線遮蔽材料微粒子の製造方法において、
一般式MyWOz(但し、MはCs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr、Mgの内から選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物微粒子と酸化亜鉛微粒子を混合して、前記近赤外線遮蔽材料微粒子を製造することを特徴とする近赤外線遮蔽材料微粒子の製造方法。
【請求項7】
請求項6の製造方法により製造された、
一般式MyWOz(但し、MはCs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr、Mgの内から選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で表記される六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物微粒子と酸化亜鉛微粒子の混合物であることを特徴とする近赤外線遮蔽材料微粒子。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−157504(P2011−157504A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−21345(P2010−21345)
【出願日】平成22年2月2日(2010.2.2)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】