追尾装置
【課題】バイアス誤差推定精度を向上させた追尾装置を得る。
【解決手段】目標Tの動態データを取得する第1のセンサ11と、目標Tの距離、仰角および方位角を取得する第2のセンサ12と、動態データを第2のセンサ12の航跡出力時刻に時刻合わせを行う補正処理部40と、時刻合わせが行われた動態データと第2のセンサ12の航跡とを比較して一致度を出力する一致度判定処理部50と、一致度に基づき、バイアス誤差推定処理部70における予測処理で使用する予測ベクトル算出式を切替える運動モデル設定処理部60と、運動モデル設定処理部60の設定結果に基づき、カルマンフィルタによるバイアス誤差推定処理を行うバイアス誤差推定処理部70と、バイアス誤差ベクトル推定値を蓄積するバイアス誤差データベース80と、バイアス誤差ベクトル推定値を用いてバイアス誤差補正値を算出するバイアス誤差補正処理部90とを備える。
【解決手段】目標Tの動態データを取得する第1のセンサ11と、目標Tの距離、仰角および方位角を取得する第2のセンサ12と、動態データを第2のセンサ12の航跡出力時刻に時刻合わせを行う補正処理部40と、時刻合わせが行われた動態データと第2のセンサ12の航跡とを比較して一致度を出力する一致度判定処理部50と、一致度に基づき、バイアス誤差推定処理部70における予測処理で使用する予測ベクトル算出式を切替える運動モデル設定処理部60と、運動モデル設定処理部60の設定結果に基づき、カルマンフィルタによるバイアス誤差推定処理を行うバイアス誤差推定処理部70と、バイアス誤差ベクトル推定値を蓄積するバイアス誤差データベース80と、バイアス誤差ベクトル推定値を用いてバイアス誤差補正値を算出するバイアス誤差補正処理部90とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、センサのバイアス誤差を推定する機能を備えた追尾装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、追尾装置においては、センサのバイアス誤差を推定する際に、目標の運動モデルを使用せずにバイアス誤差の推定が行われている(たとえば、特許文献1参照)。
ここで、図11を参照しながら、追尾装置に用いられるセンサのバイアス誤差を補正する目的について説明する。
【0003】
図11は2つのセンサA、Bの各々のバイアスを補正するPPI(Plan Position Indicator)の表示例を示す説明図である。
図11(a)において、2つのセンサA、Bは、それぞれ、方位方向(破線座標参照)にバイアス誤差を有するものとし、3つの目標T1、T2、T3(○印、△印、□印参照)を同時に観測しているものとする。
【0004】
このとき、センサA、Bで同一目標を観測していたとしても、各センサA、Bがバイアス誤差を有することから、センサA、Bで表示された目標同士を重ね合わせた場合に、目標同士が重ならず、図11(b)に示すように、各目標T1、T2、T3がだぶって見える状況となる。
【0005】
そこで、図11(b)のようなバイアス誤差により目標T1、T2、T3がたぶって見える状況を改善するために、バイアス誤差を推定して、バイアス誤差推定値を用いた補正を行うことにより、図11(c)に示すように、2つのセンサA、Bの表示を重ね合わせることが要求される。
つまり、各センサA、Bで観測した目標の状態量(目標の位置、速度、加速度など)を一致させることが必要となる。
【0006】
ここで、バイアス誤差としては、たとえば距離および角度による極座標で定義してもよい。また、距離、仰角および方位角を得る3次元レーダの場合には、距離、仰角および方位角でバイアス誤差を定義してもよい。
また、バイアス誤差として、距離および方位角、仰角および方位角、距離および仰角、のいずれで構成してもよく、さらに、距離のみ、仰角のみ、または方位角のみで構成してもよい。
【0007】
つまり、バイアス誤差の成分は、事前に自由に定義することができる。
同様に、バイアス誤差は、直交座標X、Y、Zの成分からなるバイアス誤差としてもよく、また、バイアス誤差の成分は、上記距離、仰角および方位角の極座標の組合せと同様に、直交座標、または緯度、経度および高度からなる座標、または地球中心座標など、他の種々の座標で定義することができる。
【0008】
さらに、バイアス誤差の成分は、極座標のみで定義することもでき、極座標の3成分のうちの2成分または1成分で定義することもでき、極座標と直交座標との組合せで定義することもでき、種々の組合せで定義することができる。
【0009】
従来の追尾装置において、上記2台のセンサA、Bのバイアス誤差を推定する際には、2台のセンサA、Bの時刻同期が取れていることが前提である。
しかし、従来装置においては、目標の運動を考慮して時刻同期を取るような処理は行われていないので、従来技術で時刻同期を取る方法を実現しようとする場合を考える。
【0010】
たとえば、各目標T1、T2、T3が等速直線運動を行うなどの仮定を前提として、各センサA、Bの或る時刻における観測値または航跡を、基準時刻まで外挿するなどの時刻同期を取る方法が考えられる。
ただし、実際には、目標T1、T2、T3の運動は未知であることから、等速直線運動の仮定が崩れると、各センサA、Bの観測値または航跡を外挿した結果が悪くなるので、かえってバイアス誤差推定精度が劣化するといった問題が考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第3302870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来の追尾装置は、目標が等速直線運動を行うなどの仮定を前提として、各センサの或る時刻における観測値または航跡を、基準時刻まで外挿するなどの時刻同期方法を適用してバイアス誤差を推定しているので、等速直線運動の仮定が崩れると、かえってバイアス誤差推定精度が劣化するという課題があった。
【0013】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、バイアス誤差推定精度を向上させた追尾装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明に係る追尾装置は、目標の動態データを取得する第1のセンサと、目標の距離、仰角および方位角を取得する第2のセンサと、動態データを第2のセンサの航跡出力時刻に時刻合わせを行う補正処理部と、補正処理部により時刻合わせが行われた動態データと第2のセンサの航跡とを比較して両者の一致度を出力する一致度判定処理部と、一致度に基づき、バイアス誤差推定処理部における予測処理で使用する予測ベクトル算出式を切替える運動モデル設定処理部と、運動モデル設定処理部の設定結果に基づき、カルマンフィルタによるバイアス誤差推定器を用いてバイアス誤差推定処理を行うバイアス誤差推定処理部と、バイアス誤差推定処理部により得られるバイアス誤差ベクトル推定値を時系列に蓄積するバイアス誤差データベースと、バイアス誤差データベース内のバイアス誤差ベクトル推定値を用いてバイアス誤差補正値を算出するバイアス誤差補正処理部と、制御工学における遅延部と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、カルマンフィルタによるバイアス誤差推定処理を行う際に、第1のセンサの動態データと第2のセンサの航跡との一致度を比較して、予測ベクトル算出式を適切に選択することにより、目標が旋回運動を行う場合であっても高精度のバイアス誤差推定値を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明の実施の形態1に係る追尾装置を示すブロック構成図である。
【図2】XYZ座標と姿勢角との関係を示す説明図である。
【図3】UVW座標を示す説明図である。
【図4】第2のセンサが有するバイアス誤差を直交座標で示す説明図である。
【図5】第2のセンサが有するバイアス誤差を極座標で示す説明図である。
【図6】第2のセンサが有するバイアス誤差を回転角で示す説明図である。
【図7】図1内の補正処理部による時刻合わせ処理を示す説明図である。
【図8】この発明の実施の形態4に係る追尾装置を示すブロック構成図である。
【図9】この発明の実施の形態5に係る追尾装置を示すブロック構成図である。
【図10】この発明の実施の形態6に係る追尾装置を示すブロック構成図である。
【図11】一般的な追尾装置のバイアス誤差を補正する目的を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
実施の形態1.
以下、図面を参照しながら、この発明の好適な実施の形態について説明する。
図1はこの発明の実施の形態1に係る追尾装置を示すブロック構成図である。
図1において、追尾装置は、複数のセンサを含むセンサ群10と、補正処理部40と、一致度判定処理部50と、運動モデル設定処理部60と、カルマンフィルタによるバイアス誤差推定器(図示せず)を含むバイアス誤差推定処理部70と、バイアス誤差データベース80と、バイアス誤差補正処理部90と、制御工学における遅延部100とを備えている。
【0018】
センサ群10は、第1のセンサ11と、任意数の第2のセンサ12とを備えており、第1および第2のセンサ11、12は、目標Tを同時に観測している。
第1のセンサ11は、基準座標に対するバイアス誤差が存在しないセンサからなり、目標に搭載されたGPS(Global Positioning System:全地球測位システム)/IMU(Inertial Measurement Unit:慣性計測装置)からの目標Tの動態データを取得し、動態データを補正処理部40に入力する。
【0019】
なお、動態データとは、目標Tの位置、速度、姿勢角、姿勢角速度、機体加速度からなるデータとする。また、以下の説明において、特に断りがなければ、各データにはすべて時刻が付与されているものとする。
動態データは、以下の式(1)で表される状態ベクトルを有するものとする。
【0020】
X(O)=[P、V、δP、δV、A]’ ・・・(1)
【0021】
式(1)において、X(0)は、第1のセンサ11における状態ベクトルを表す。
また、記号「’」は、ベクトルおよび行列の転置を表しており、このことは後述の数式においても同様である。
【0022】
さらに、式(1)において、PはXYZ座標における3次元の位置成分を表し、VはXYZ座標における3次元の速度成分を表し、δPはXYZ座標のX、Y、Z各軸からの基準の軸からの姿勢角を表し、δVはXYZ座標のX、Y、Z各軸からの姿勢角の速度を表し、AはUVW座標における3次元加速度を表す。
【0023】
図2はXYZ座標と姿勢角[dx、dy、dz]との関係を示す説明図である。
図2において、姿勢角[dx、dy、dz]は、x軸、y軸およびz軸周りの回転角に相当する。
【0024】
図3はUVW座標を示す説明図である。
図3において、UVW座標は、レーダ位置を原点Oとし、目標Tの速度ベクトル方向をu軸の正方向とし、水平面に平行な面内で速度ベクトルに対して垂直で右手の方向をv軸の正方向とし、速度ベクトルに対して垂直で下向きの方向をw軸の正方向とした座標系である。
【0025】
図1に戻り、第2のセンサ12は、たとえば基準座標に対するバイアス誤差を有するセンサからなり、目標Tの距離、仰角および方位角を取得する。
たとえば、第2のセンサ12を原点とする北基準の直交座標系において、距離、仰角および方位角のバイアス誤差を有するものとする。
【0026】
つまり、第2のセンサ12の観測値(距離、仰角および方位角)には、基準座標に対するバイアス誤差が付加されている。
また、第2のセンサ12は、基準座標に対するバイアス誤差が付加された観測値を入力情報とした追尾を行い、追尾結果として、基準座標に対するバイアス誤差が付加された航跡を算出する。
【0027】
ここで、第2のセンサ12の航跡は、たとえば、以下の式(2)のように、第2のセンサ12における状態ベクトルX(A)(位置成分Pおよび速度成分Vからなる)を有するものとする。
【0028】
X(A)=[P、V]’ ・・・(2)
【0029】
式(2)において、位置成分PはXYZ座標における3次元位置、速度成分VはXYZ座標における3次元速度をそれぞれ表す。
また、第2のセンサ12の航跡は、状態ベクトルX(A)の誤差共分散行列を有する。
第2のセンサ12の航跡の誤差共分散行列は、ERRMAT(A)で表される。
【0030】
ここで、第2のセンサ12が有するバイアス誤差は、図4のように直交座標で定義することもでき、図5のように極座標で定義することもでき、図6のように回転角で定義することもできる。
【0031】
図4、図5、図6において、第2のセンサ12が有するバイアス誤差は、それぞれ、1点鎖線で示されている。
また、ここでは図示しないが、前述と同様に、バイアス誤差は、緯度、経度および高度で定義することもでき、どのような座標でもバイアス誤差を定義することは可能である。
【0032】
第2のセンサ12は、観測値として距離、仰角および方位角を補正処理部40に入力するとともに、第2のセンサ12で追尾フィルタにより算出した航跡(第2のセンサ12の航跡)を補正処理部40に入力する。
【0033】
補正処理部40は、第1のセンサ11から得られる動態データに対して、第2のセンサ12の航跡が得られた最新時刻まで時刻合わせ処理を行い、時刻合わせが行われた動態データX#(O)を一致度判定処理部50に入力する。
時刻合わせが行われた動態データX#(O)は、以下の式(3)のように定義される。
【0034】
X#(O)=[P#、V#]’ ・・・(3)
【0035】
式(3)において、右辺のP#、V#は、第1のセンサ11から得られる動態データに対して、第2のセンサ12の航跡が得られた最新時刻まで時刻合わせ処理を施した動態データの位置成分および速度成分を、それぞれ表す。
【0036】
図7は補正処理部40による時刻合わせ処理を示す説明図である。
図7において、第1のセンサ11から補正処理部40への動態データの入力タイミングは時刻t1であり、第2のセンサ12の航跡の補正処理部40への入力タイミングは時刻t2であり、第2のセンサ12の航跡と動態データとの時刻差Δt(=t2−t1)が生じるが、補正処理部40の出力タイミングは、時刻t2に合わせられる。
【0037】
このように、時刻合わせが行われた(第2のセンサ12の航跡が得られた最新時刻まで時刻合わせ処理が施された)動態データX#(O)は、以下の式(4)のように求められる。
【0038】
X♯(O)=ΦX(O)+α(δP、δV、A) ・・・(4)
【0039】
式(4)において、X(O)は第1のセンサ11から得られる動態データであり、Φは動態データX(O)を第2のセンサ12の航跡が得られた最新時刻まで等速直線運動モデルにしたがい時刻あわせを行う行列である。
【0040】
また、α(δP、δV、A)は、姿勢角δP、姿勢角速度δVおよびUVW座標における3次元加速度Aに対して、第2のセンサ12の航跡が得られた最新時刻まで時刻あわせ処理が施されたときの、XYZ座標における位置成分Pおよび速度成分Vへの運動補償係数を表す。
【0041】
したがって、式(4)から分かるように、時刻合わせが行われた動態データX#(0)は、等速直線運動モデルにしたがい外挿された動態データX(O)の位置成分Pおよび速度成分Vに、運動補償係数α(δP、δV、A)を加算した値となる。
このように、補正処理部40からは、第2のセンサ12の航跡すなわち状態ベクトルX(A)と、第2のセンサ12の航跡が得られた最新時刻まで時刻合わせが行われた動態データX#(O)とが出力される。
【0042】
一致度判定処理部50は、第2のセンサ12の航跡(状態ベクトル)X(A)と、第2のセンサ12の航跡が得られた最新時刻まで時刻合わせが行われた動態データX#(O)との一致度を算出する。
このとき、両者が一致しているか否かは、以下の式(5)、式(6)のように判定される。
【0043】
|X(A)−X#(O)|≦TH、であれば「一致フラグ」を出力 ・・・(5)
|X(A)−X#(O)|>TH、であれば「不一致フラグ」を出力 ・・・(6)
【0044】
式(5)、式(6)において、| |はノルムを表しており、ユークリッドノルムであっても、最大値を取るノルムであってもよく、ユーザが自由に事前に定義することができる。
なお、一致度は、式(5)、式(6)の左辺|X(A)−X#(O)|で定義される。
また、式(5)、式(6)の右辺は、事前に設定された閾値THを示している。
【0045】
一致度判定処理部50は、式(5)、式(6)を用いて、第2のセンサ12の航跡(状態ベクトル)X(A)と、第2のセンサ12の航跡が得られた最新時刻まで時刻合わせが行われた動態データX#(O)とが一致するか否かを判定し、一致する場合には一致フラグを生成し、不一致の場合には不一致フラグを生成し、一致度(判定結果)として運動モデル設定処理部60に入力する。
【0046】
運動モデル設定処理部60は、一致度判定処理部50から得られる一致度(一致フラグまたは不一致フラグ)に基づき、後段のバイアス誤差推定処理部70で使用されるカルマンフィルタによるバイアス誤差推定器による予測ベクトル算出用の制御信号を、バイアス誤差推定処理部70に入力する。
【0047】
すなわち、運動モデル設定処理部60は、一致度判定処理部50から一致フラグが得られた場合には、以下の式(7)により予測ベクトルXpを算出するための制御信号を、バイアス誤差推定処理部70に入力する。
【0048】
Xp=ΦXs ・・・(7)
【0049】
一方、一致度判定処理部50から不一致フラグが得られた場合には、運動モデル設定処理部60は、以下の式(8)により予測ベクトルを算出するための制御信号を、バイアス誤差推定処理部70に入力する。
【0050】
Xp=ΦXs+α(δP、δV、A) ・・・(8)
【0051】
式(7)、式(8)において、Xsは、バイアス誤差推定処理部70(バイアス誤差推定器)における1サンプリング前の目標Tの状態ベクトル平滑値であり、Xpは、バイアス誤差推定処理部70における現時刻の目標Tの状態ベクトル予測値である。
【0052】
バイアス誤差推定処理部70は、第1のセンサ11から得られる動態データの位置観測値と、第2のセンサ12から得られる位置観測値とを、バイアス誤差推定処理部70内のバイアス誤差推定器に入力する。
【0053】
カルマンフィルタによるバイアス誤差推定器は、運動モデル設定処理部60から得られる制御信号にしたがい、式(7)または式(8)を用いて予測ベクトルを算出し、予測ベクトルの算出値を用いて、第2のセンサ12のバイアス誤差ベクトル推定値を算出し、バイアス誤差データベース80に格納する。
【0054】
このように、バイアス誤差推定処理部70内のカルマンフィルタによるバイアス誤差推定器を用いてバイアス誤差ベクトルを推定する場合、バイアス誤差ベクトル推定値bsとしては、以下の式(9)のように、第2のセンサ12の距離、仰角および方位角の各バイアス誤差成分が得られる。
【0055】
bs=[ΔR、ΔE、ΔAz]’ ・・・(9)
【0056】
式(9)において、ΔR、ΔE、ΔAzは、バイアス誤差ベクトル推定値bsの距離、仰角および方位角の各バイアス誤差成分である。
【0057】
なお、距離バイアス誤差成分ΔRを除いて、第2のセンサ12の仰角および方位角のバイアス誤差成分ΔE、ΔAzを、バイアス誤差推定処理部70内のバイアス誤差推定器で仮定する場合、バイアス誤差ベクトル推定値bsは、以下の式(10)から得られる。
【0058】
bs=[ΔE、ΔAz]’ ・・・(10)
【0059】
バイアス誤差データベース80は、バイアス誤差推定処理部70で算出されたバイアス誤差ベクトル推定値bsを、時系列的に、かつ複数の第2のセンサ12ごとに蓄積する。
【0060】
バイアス誤差補正処理部90は、バイアス誤差データベース80から得られる時系列のバイアス誤差ベクトル推定値bsのNサンプリング分の平均値または最新値(いずれを用いるかは事前にユーザにより決定される)を用いて、第2のセンサ12のバイアス誤差補正処理に用いられるバイアス誤差を算出し、バイアス誤差補正値を遅延部100に入力する。
【0061】
すなわち、バイアス誤差補正処理部90は、バイアス誤差補正処理をリアルタイム(バイアス誤差ベクトル推定値bsの最新値)で行うことをユーザが決定した場合には、現時刻の第2のセンサ12の観測値のバイアス誤差を補正するためのバイアス誤差補正値を遅延部100に入力する。
【0062】
一方、バイアス誤差補正処理を平均値で行う(リアルタイムで行わない)ことをユーザが決定した場合には、バイアス誤差補正処理部90は、現時刻の第2のセンサ12の観測値のバイアス誤差を補正するためのバイアス誤差補正値を出力せずに、ユーザがバイアス誤差推定の開始を指示した場合のみに、バイアス誤差補正値を遅延部100に入力する。
【0063】
最後に、遅延部100は、バイアス誤差補正処理部90から得られるバイアス誤差補正値を、第2のセンサ12の最新時刻まで遅延させ、遅延後のバイアス誤差補正値をセンサ群10に入力する。
【0064】
これにより、センサ群10内の第2のセンサ12は、バイアス誤差補正処理部90から遅延部100を介して得られるバイアス誤差補正値に基づき、第2のセンサ12で得られる観測値のバイアス誤差補正を行う。
【0065】
以上のように、この発明の実施の形態1(図1)に係る追尾装置は、目標Tの動態データを取得する第1のセンサ11と、目標Tの距離、仰角および方位角を取得する第2のセンサ12と、動態データを第2のセンサの航跡出力時刻に時刻合わせを行う補正処理部40と、補正処理部40により時刻合わせが行われた動態データと第2のセンサ12の航跡とを比較して両者の一致度を出力する一致度判定処理部50と、一致度(判定フラグ)に基づき、バイアス誤差推定処理部70における予測処理で使用する予測ベクトル算出式を切替える運動モデル設定処理部60と、運動モデル設定処理部60の設定結果(制御信号)に基づき、カルマンフィルタによるバイアス誤差推定器を用いてバイアス誤差推定処理を行うバイアス誤差推定処理部70と、バイアス誤差推定処理部70により得られるバイアス誤差ベクトル推定値を時系列に蓄積するバイアス誤差データベース80と、バイアス誤差データベース80内のバイアス誤差ベクトル推定値を用いてバイアス誤差補正値を算出するバイアス誤差補正処理部90と、制御工学における遅延部100と、を備えている。
【0066】
一致度判定処理部50は、動態データの3次元加速度A、または、補正処理部40から出力される運動補償係数に基づき、一致度を判定する。
このように、カルマンフィルタによるバイアス誤差推定処理を行う際に、第1のセンサ11の動態データと、第2のセンサ12の航跡との一致度を比較して、予測ベクトル算出式を適切に選択することにより、目標Tが旋回運動を行う場合であっても、高精度のバイアス誤差推定値を得ることが可能となる。
【0067】
実施の形態2.
なお、上記実施の形態1(図1)では、一致度判定処理部50において、第2のセンサ12の航跡(状態ベクトル)X(A)と、時刻合わせが行われた動態データX#(O)との比較に基づき一致度を判定したが、UVW座標における3次元加速度Aのユークリッドノルムによる大きさに基づき一致度を判定してもよい。
【0068】
この場合、一致度判定処理部50は、UVW座標における3次元加速度Aのユークリッドノルムによる大きさが、事前に決めた閾値TH以下の場合には、「一致フラグ」を出力し、閾値THよりも大きい場合には、「不一致フラグ」を出力する。
【0069】
以上のように、この発明の実施の形態2によれば、バイアス誤差推定処理部70においてカルマンフィルタによるバイアス誤差推定処理を行う際に、第1のセンサ11の動態データと第2のセンサ12の航跡との一致度を、動態データのUVW座標における3次元加速度Aのユークリッドノルムによる大きさと閾値THとの比較に基づいて判定することにより、前述と同様に、カルマンフィルタによるバイアス誤差推定処理部70で使用する予測ベクトル算出式を適切に選択することができる。
したがって、目標Tが旋回運動を行う場合でも、高精度なバイアス誤差推定値を得ることが可能となる。
【0070】
実施の形態3.
なお、上記実施の形態2では、一致度判定処理部50において、UVW座標における3次元加速度Aのユークリッドノルムによる大きさに基づき一致度を判定したが、運動補償係数のユークリッドノルムによる大きさに基づき一致度を判定してもよい。
この場合、一致度判定処理部50は、運動補償係数のユークリッドノルムによる大きさが事前に決めた閾値TH以下の場合には、「一致フラグ」を出力し、閾値THよりも大きい場合には、「不一致フラグ」を出力する。
【0071】
以上のように、この発明の実施の形態3によれば、バイアス誤差推定処理部70においてカルマンフィルタによるバイアス誤差推定処理を行う際に、第1のセンサ11の動態データと第2のセンサ12の航跡との一致度を、運動補償係数のユークリッドノルムによる大きさに基づく加速度と閾値THとの比較に基づいて判定することにより、前述と同様に、カルマンフィルタによるバイアス誤差推定処理部70で使用する予測ベクトル算出式を適切に選択することができる。
したがって、目標Tが旋回運動を行う場合でも、高精度なバイアス誤差推定値を得ることが可能となる。
【0072】
実施の形態4.
なお、上記実施の形態1〜3(図1)では、一致度(一致フラグまたは不一致フラグ)に応答する運動モデル設定処理部60のみを用いて、バイアス誤差推定処理部70(カルマンフィルタによるバイアス誤差推定器)で使用される予測ベクトル算出用の制御信号を生成したが、図8のように、ユーザの設定条件にしたがう運動モデル制御処理部130を追加してもよい。
【0073】
図8はこの発明の実施の形態4に係る追尾装置を示すブロック構成図であり、前述(図1参照)と同様のものについては、前述と同一符号を付して詳述を省略する。
図8において、運動モデル設定処理部60には、運動モデル制御処理部130が接続されている。
【0074】
運動モデル制御処理部130は、所定の運動モデル(事前にユーザが動態データで設定する)を常に使い続けるための制御信号を生成し、これを運動モデル設定処理部60に入力する。すなわち、運動モデル制御処理部130は、運動モデル設定処理部60において動態データを使用し続けるための制御信号を出力する。
【0075】
これにより、運動モデル設定処理部60は、運動モデル制御処理部130からの制御信号に応答して、前述の式(8)に基づき、予測ベクトルを算出するための制御信号をバイアス誤差推定処理部70に入力する。
【0076】
以上のように、この発明の実施の形態4(図8)によれば、目標Tが常に旋回している状況において、その都度の毎回にわたり、式(7)、式(8)の予測ベクトル算出式の切替が頻繁に行われる可能性がある場合であっても、バイアス誤差推定処理部70における予測ベクトル算出式として、式(8)に基づく制御信号にしたがう算出式を常に使い続けることができるので、目標Tが常に旋回運動を行う場合であっても、高精度なバイアス誤差推定値を得ることが可能となる。
【0077】
実施の形態5.
なお、上記実施の形態4(図8)では、動態データを使用し続けるための制御信号を運動モデル設定処理部60に入力する運動モデル制御処理部130を追加したが、図9のように、第2のセンサ12から得られるサンプリングレートに基づく制御信号を運動モデル設定処理部60に入力する運動モデル制御処理部140を追加してもよい。
【0078】
図9はこの発明の実施の形態5に係る追尾装置を示すブロック構成図であり、前述(図1、図8参照)と同様のものについては、前述と同一符号を付して詳述を省略する。
図9において、補正処理部40、一致度判定処理部50、運動モデル設定処理部60およびバイアス誤差推定処理部70には、運動モデル制御処理部140が接続されている。
【0079】
運動モデル制御処理部140は、第2のセンサ12から得られるサンプリングレートが事前に決めたサンプリング閾値よりも小さい場合には、等速直線運動に基づく予測ベクトル算出処理によりバイアス誤差推定を行うための制御信号を運動モデル設定処理部60に入力する。
【0080】
すなわち、運動モデル制御処理部140は、第2のセンサ12から得られるサンプリングレートがサンプリング閾値よりも小さい場合には、等速直線運動に基づく予測ベクトル算出処理を行うため、つまり、前述の式(7)に基づくバイアス誤差推定をバイアス誤差推定処理部70で行うための制御信号を、運動モデル設定処理部60に入力する。
【0081】
これにより、バイアス誤差推定処理部70は、式(7)による等速直線運動モデルを用いてバイアス誤差推定を行う。
また、運動モデル制御処理部140は、補正処理部40、一致度判定処理部50および運動モデル設定処理部60に対して、処理停止信号を入力して各処理を中止し、センサ群10からの観測値を、バイアス誤差推定処理部70で使用する処理のみ動作させるようにする。
【0082】
以上のように、この発明の実施の形態5(図9)によれば、バイアス誤差推定処理部70においてカルマンフィルタによるバイアス誤差推定処理を行う際に、第2のセンサ12のサンプリングレートが小さい場合には、実際の目標Tが旋回していたとしても、等速直線運動モデルに基づくバイアス誤差推定精度はあまり劣化しないと考えられるので、目標Tの旋回判定に関わる補正処理部40、一致度判定処理部50および運動モデル設定処理部60の計算を中止することにより、演算負荷の低減を実現することができる。
【0083】
また、一致度判定処理部50における閾値THの誤設定に起因して、運動モデルの切替が頻繁に起こるような状況が生じた場合でも、等速直線運動モデルに固定することができるので、バイアス誤差推定精度の劣化を防ぐことができる。
さらに、前述と同様に、目標Tが旋回運動を行う場合でも、高精度なバイアス誤差推定値を得ることが可能となる。
【0084】
実施の形態6.
なお、上記実施の形態1〜5(図1、図8、図9)では、言及しなかったが、図10のように、第1のセンサ11からの動態データに基づき、第2のセンサ12の航跡を上書きするセンサ航跡更新処理部150を追加してもよい。
【0085】
図10はこの発明の実施の形態6に係る追尾装置を示すブロック構成図であり、前述(図1、図8、図9参照)と同様のものについては、前述と同一符号を付して詳述を省略する。
図10において、補正処理部40には、第1のセンサ11の動態データに基づき、第2のセンサ12の航跡を上書きするセンサ航跡更新処理部150が接続されている。
【0086】
以上のように、この発明の実施の形態6によれば、第2のセンサ12の航跡よりも精度が高い第1のセンサ11の動態データが得られる状況下において、精度の低い(または、劣化している)第2のセンサ12の航跡を、精度の高い第1のセンサ11の動態データで上書きすることにより改善し、目標Tの追尾維持率を向上させることができる。
【0087】
また、第2のセンサ12の目標Tの追尾維持率が向上するので、第2のセンサ12が目標Tの探知に失敗して、第2のセンサ12から目標Tの観測値が出力されない状況を防ぐことが可能となり、結果として、バイアス誤差推定値を継続して計算し続けることができる。
さらに、前述と同様に、目標Tが旋回運動を行う場合でも、高精度なバイアス誤差推定値を得ることが可能となる。
【符号の説明】
【0088】
11 第1のセンサ、12 第2のセンサ、40 補正処理部、50 一致度判定処理部、60 運動モデル設定処理部、70 バイアス誤差推定処理部、80 バイアス誤差データベース、90 バイアス誤差補正処理部、100 遅延部、130、140 運動モデル制御処理部、150 センサ航跡更新処理部、T 目標。
【技術分野】
【0001】
この発明は、センサのバイアス誤差を推定する機能を備えた追尾装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、追尾装置においては、センサのバイアス誤差を推定する際に、目標の運動モデルを使用せずにバイアス誤差の推定が行われている(たとえば、特許文献1参照)。
ここで、図11を参照しながら、追尾装置に用いられるセンサのバイアス誤差を補正する目的について説明する。
【0003】
図11は2つのセンサA、Bの各々のバイアスを補正するPPI(Plan Position Indicator)の表示例を示す説明図である。
図11(a)において、2つのセンサA、Bは、それぞれ、方位方向(破線座標参照)にバイアス誤差を有するものとし、3つの目標T1、T2、T3(○印、△印、□印参照)を同時に観測しているものとする。
【0004】
このとき、センサA、Bで同一目標を観測していたとしても、各センサA、Bがバイアス誤差を有することから、センサA、Bで表示された目標同士を重ね合わせた場合に、目標同士が重ならず、図11(b)に示すように、各目標T1、T2、T3がだぶって見える状況となる。
【0005】
そこで、図11(b)のようなバイアス誤差により目標T1、T2、T3がたぶって見える状況を改善するために、バイアス誤差を推定して、バイアス誤差推定値を用いた補正を行うことにより、図11(c)に示すように、2つのセンサA、Bの表示を重ね合わせることが要求される。
つまり、各センサA、Bで観測した目標の状態量(目標の位置、速度、加速度など)を一致させることが必要となる。
【0006】
ここで、バイアス誤差としては、たとえば距離および角度による極座標で定義してもよい。また、距離、仰角および方位角を得る3次元レーダの場合には、距離、仰角および方位角でバイアス誤差を定義してもよい。
また、バイアス誤差として、距離および方位角、仰角および方位角、距離および仰角、のいずれで構成してもよく、さらに、距離のみ、仰角のみ、または方位角のみで構成してもよい。
【0007】
つまり、バイアス誤差の成分は、事前に自由に定義することができる。
同様に、バイアス誤差は、直交座標X、Y、Zの成分からなるバイアス誤差としてもよく、また、バイアス誤差の成分は、上記距離、仰角および方位角の極座標の組合せと同様に、直交座標、または緯度、経度および高度からなる座標、または地球中心座標など、他の種々の座標で定義することができる。
【0008】
さらに、バイアス誤差の成分は、極座標のみで定義することもでき、極座標の3成分のうちの2成分または1成分で定義することもでき、極座標と直交座標との組合せで定義することもでき、種々の組合せで定義することができる。
【0009】
従来の追尾装置において、上記2台のセンサA、Bのバイアス誤差を推定する際には、2台のセンサA、Bの時刻同期が取れていることが前提である。
しかし、従来装置においては、目標の運動を考慮して時刻同期を取るような処理は行われていないので、従来技術で時刻同期を取る方法を実現しようとする場合を考える。
【0010】
たとえば、各目標T1、T2、T3が等速直線運動を行うなどの仮定を前提として、各センサA、Bの或る時刻における観測値または航跡を、基準時刻まで外挿するなどの時刻同期を取る方法が考えられる。
ただし、実際には、目標T1、T2、T3の運動は未知であることから、等速直線運動の仮定が崩れると、各センサA、Bの観測値または航跡を外挿した結果が悪くなるので、かえってバイアス誤差推定精度が劣化するといった問題が考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第3302870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来の追尾装置は、目標が等速直線運動を行うなどの仮定を前提として、各センサの或る時刻における観測値または航跡を、基準時刻まで外挿するなどの時刻同期方法を適用してバイアス誤差を推定しているので、等速直線運動の仮定が崩れると、かえってバイアス誤差推定精度が劣化するという課題があった。
【0013】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、バイアス誤差推定精度を向上させた追尾装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明に係る追尾装置は、目標の動態データを取得する第1のセンサと、目標の距離、仰角および方位角を取得する第2のセンサと、動態データを第2のセンサの航跡出力時刻に時刻合わせを行う補正処理部と、補正処理部により時刻合わせが行われた動態データと第2のセンサの航跡とを比較して両者の一致度を出力する一致度判定処理部と、一致度に基づき、バイアス誤差推定処理部における予測処理で使用する予測ベクトル算出式を切替える運動モデル設定処理部と、運動モデル設定処理部の設定結果に基づき、カルマンフィルタによるバイアス誤差推定器を用いてバイアス誤差推定処理を行うバイアス誤差推定処理部と、バイアス誤差推定処理部により得られるバイアス誤差ベクトル推定値を時系列に蓄積するバイアス誤差データベースと、バイアス誤差データベース内のバイアス誤差ベクトル推定値を用いてバイアス誤差補正値を算出するバイアス誤差補正処理部と、制御工学における遅延部と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、カルマンフィルタによるバイアス誤差推定処理を行う際に、第1のセンサの動態データと第2のセンサの航跡との一致度を比較して、予測ベクトル算出式を適切に選択することにより、目標が旋回運動を行う場合であっても高精度のバイアス誤差推定値を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明の実施の形態1に係る追尾装置を示すブロック構成図である。
【図2】XYZ座標と姿勢角との関係を示す説明図である。
【図3】UVW座標を示す説明図である。
【図4】第2のセンサが有するバイアス誤差を直交座標で示す説明図である。
【図5】第2のセンサが有するバイアス誤差を極座標で示す説明図である。
【図6】第2のセンサが有するバイアス誤差を回転角で示す説明図である。
【図7】図1内の補正処理部による時刻合わせ処理を示す説明図である。
【図8】この発明の実施の形態4に係る追尾装置を示すブロック構成図である。
【図9】この発明の実施の形態5に係る追尾装置を示すブロック構成図である。
【図10】この発明の実施の形態6に係る追尾装置を示すブロック構成図である。
【図11】一般的な追尾装置のバイアス誤差を補正する目的を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
実施の形態1.
以下、図面を参照しながら、この発明の好適な実施の形態について説明する。
図1はこの発明の実施の形態1に係る追尾装置を示すブロック構成図である。
図1において、追尾装置は、複数のセンサを含むセンサ群10と、補正処理部40と、一致度判定処理部50と、運動モデル設定処理部60と、カルマンフィルタによるバイアス誤差推定器(図示せず)を含むバイアス誤差推定処理部70と、バイアス誤差データベース80と、バイアス誤差補正処理部90と、制御工学における遅延部100とを備えている。
【0018】
センサ群10は、第1のセンサ11と、任意数の第2のセンサ12とを備えており、第1および第2のセンサ11、12は、目標Tを同時に観測している。
第1のセンサ11は、基準座標に対するバイアス誤差が存在しないセンサからなり、目標に搭載されたGPS(Global Positioning System:全地球測位システム)/IMU(Inertial Measurement Unit:慣性計測装置)からの目標Tの動態データを取得し、動態データを補正処理部40に入力する。
【0019】
なお、動態データとは、目標Tの位置、速度、姿勢角、姿勢角速度、機体加速度からなるデータとする。また、以下の説明において、特に断りがなければ、各データにはすべて時刻が付与されているものとする。
動態データは、以下の式(1)で表される状態ベクトルを有するものとする。
【0020】
X(O)=[P、V、δP、δV、A]’ ・・・(1)
【0021】
式(1)において、X(0)は、第1のセンサ11における状態ベクトルを表す。
また、記号「’」は、ベクトルおよび行列の転置を表しており、このことは後述の数式においても同様である。
【0022】
さらに、式(1)において、PはXYZ座標における3次元の位置成分を表し、VはXYZ座標における3次元の速度成分を表し、δPはXYZ座標のX、Y、Z各軸からの基準の軸からの姿勢角を表し、δVはXYZ座標のX、Y、Z各軸からの姿勢角の速度を表し、AはUVW座標における3次元加速度を表す。
【0023】
図2はXYZ座標と姿勢角[dx、dy、dz]との関係を示す説明図である。
図2において、姿勢角[dx、dy、dz]は、x軸、y軸およびz軸周りの回転角に相当する。
【0024】
図3はUVW座標を示す説明図である。
図3において、UVW座標は、レーダ位置を原点Oとし、目標Tの速度ベクトル方向をu軸の正方向とし、水平面に平行な面内で速度ベクトルに対して垂直で右手の方向をv軸の正方向とし、速度ベクトルに対して垂直で下向きの方向をw軸の正方向とした座標系である。
【0025】
図1に戻り、第2のセンサ12は、たとえば基準座標に対するバイアス誤差を有するセンサからなり、目標Tの距離、仰角および方位角を取得する。
たとえば、第2のセンサ12を原点とする北基準の直交座標系において、距離、仰角および方位角のバイアス誤差を有するものとする。
【0026】
つまり、第2のセンサ12の観測値(距離、仰角および方位角)には、基準座標に対するバイアス誤差が付加されている。
また、第2のセンサ12は、基準座標に対するバイアス誤差が付加された観測値を入力情報とした追尾を行い、追尾結果として、基準座標に対するバイアス誤差が付加された航跡を算出する。
【0027】
ここで、第2のセンサ12の航跡は、たとえば、以下の式(2)のように、第2のセンサ12における状態ベクトルX(A)(位置成分Pおよび速度成分Vからなる)を有するものとする。
【0028】
X(A)=[P、V]’ ・・・(2)
【0029】
式(2)において、位置成分PはXYZ座標における3次元位置、速度成分VはXYZ座標における3次元速度をそれぞれ表す。
また、第2のセンサ12の航跡は、状態ベクトルX(A)の誤差共分散行列を有する。
第2のセンサ12の航跡の誤差共分散行列は、ERRMAT(A)で表される。
【0030】
ここで、第2のセンサ12が有するバイアス誤差は、図4のように直交座標で定義することもでき、図5のように極座標で定義することもでき、図6のように回転角で定義することもできる。
【0031】
図4、図5、図6において、第2のセンサ12が有するバイアス誤差は、それぞれ、1点鎖線で示されている。
また、ここでは図示しないが、前述と同様に、バイアス誤差は、緯度、経度および高度で定義することもでき、どのような座標でもバイアス誤差を定義することは可能である。
【0032】
第2のセンサ12は、観測値として距離、仰角および方位角を補正処理部40に入力するとともに、第2のセンサ12で追尾フィルタにより算出した航跡(第2のセンサ12の航跡)を補正処理部40に入力する。
【0033】
補正処理部40は、第1のセンサ11から得られる動態データに対して、第2のセンサ12の航跡が得られた最新時刻まで時刻合わせ処理を行い、時刻合わせが行われた動態データX#(O)を一致度判定処理部50に入力する。
時刻合わせが行われた動態データX#(O)は、以下の式(3)のように定義される。
【0034】
X#(O)=[P#、V#]’ ・・・(3)
【0035】
式(3)において、右辺のP#、V#は、第1のセンサ11から得られる動態データに対して、第2のセンサ12の航跡が得られた最新時刻まで時刻合わせ処理を施した動態データの位置成分および速度成分を、それぞれ表す。
【0036】
図7は補正処理部40による時刻合わせ処理を示す説明図である。
図7において、第1のセンサ11から補正処理部40への動態データの入力タイミングは時刻t1であり、第2のセンサ12の航跡の補正処理部40への入力タイミングは時刻t2であり、第2のセンサ12の航跡と動態データとの時刻差Δt(=t2−t1)が生じるが、補正処理部40の出力タイミングは、時刻t2に合わせられる。
【0037】
このように、時刻合わせが行われた(第2のセンサ12の航跡が得られた最新時刻まで時刻合わせ処理が施された)動態データX#(O)は、以下の式(4)のように求められる。
【0038】
X♯(O)=ΦX(O)+α(δP、δV、A) ・・・(4)
【0039】
式(4)において、X(O)は第1のセンサ11から得られる動態データであり、Φは動態データX(O)を第2のセンサ12の航跡が得られた最新時刻まで等速直線運動モデルにしたがい時刻あわせを行う行列である。
【0040】
また、α(δP、δV、A)は、姿勢角δP、姿勢角速度δVおよびUVW座標における3次元加速度Aに対して、第2のセンサ12の航跡が得られた最新時刻まで時刻あわせ処理が施されたときの、XYZ座標における位置成分Pおよび速度成分Vへの運動補償係数を表す。
【0041】
したがって、式(4)から分かるように、時刻合わせが行われた動態データX#(0)は、等速直線運動モデルにしたがい外挿された動態データX(O)の位置成分Pおよび速度成分Vに、運動補償係数α(δP、δV、A)を加算した値となる。
このように、補正処理部40からは、第2のセンサ12の航跡すなわち状態ベクトルX(A)と、第2のセンサ12の航跡が得られた最新時刻まで時刻合わせが行われた動態データX#(O)とが出力される。
【0042】
一致度判定処理部50は、第2のセンサ12の航跡(状態ベクトル)X(A)と、第2のセンサ12の航跡が得られた最新時刻まで時刻合わせが行われた動態データX#(O)との一致度を算出する。
このとき、両者が一致しているか否かは、以下の式(5)、式(6)のように判定される。
【0043】
|X(A)−X#(O)|≦TH、であれば「一致フラグ」を出力 ・・・(5)
|X(A)−X#(O)|>TH、であれば「不一致フラグ」を出力 ・・・(6)
【0044】
式(5)、式(6)において、| |はノルムを表しており、ユークリッドノルムであっても、最大値を取るノルムであってもよく、ユーザが自由に事前に定義することができる。
なお、一致度は、式(5)、式(6)の左辺|X(A)−X#(O)|で定義される。
また、式(5)、式(6)の右辺は、事前に設定された閾値THを示している。
【0045】
一致度判定処理部50は、式(5)、式(6)を用いて、第2のセンサ12の航跡(状態ベクトル)X(A)と、第2のセンサ12の航跡が得られた最新時刻まで時刻合わせが行われた動態データX#(O)とが一致するか否かを判定し、一致する場合には一致フラグを生成し、不一致の場合には不一致フラグを生成し、一致度(判定結果)として運動モデル設定処理部60に入力する。
【0046】
運動モデル設定処理部60は、一致度判定処理部50から得られる一致度(一致フラグまたは不一致フラグ)に基づき、後段のバイアス誤差推定処理部70で使用されるカルマンフィルタによるバイアス誤差推定器による予測ベクトル算出用の制御信号を、バイアス誤差推定処理部70に入力する。
【0047】
すなわち、運動モデル設定処理部60は、一致度判定処理部50から一致フラグが得られた場合には、以下の式(7)により予測ベクトルXpを算出するための制御信号を、バイアス誤差推定処理部70に入力する。
【0048】
Xp=ΦXs ・・・(7)
【0049】
一方、一致度判定処理部50から不一致フラグが得られた場合には、運動モデル設定処理部60は、以下の式(8)により予測ベクトルを算出するための制御信号を、バイアス誤差推定処理部70に入力する。
【0050】
Xp=ΦXs+α(δP、δV、A) ・・・(8)
【0051】
式(7)、式(8)において、Xsは、バイアス誤差推定処理部70(バイアス誤差推定器)における1サンプリング前の目標Tの状態ベクトル平滑値であり、Xpは、バイアス誤差推定処理部70における現時刻の目標Tの状態ベクトル予測値である。
【0052】
バイアス誤差推定処理部70は、第1のセンサ11から得られる動態データの位置観測値と、第2のセンサ12から得られる位置観測値とを、バイアス誤差推定処理部70内のバイアス誤差推定器に入力する。
【0053】
カルマンフィルタによるバイアス誤差推定器は、運動モデル設定処理部60から得られる制御信号にしたがい、式(7)または式(8)を用いて予測ベクトルを算出し、予測ベクトルの算出値を用いて、第2のセンサ12のバイアス誤差ベクトル推定値を算出し、バイアス誤差データベース80に格納する。
【0054】
このように、バイアス誤差推定処理部70内のカルマンフィルタによるバイアス誤差推定器を用いてバイアス誤差ベクトルを推定する場合、バイアス誤差ベクトル推定値bsとしては、以下の式(9)のように、第2のセンサ12の距離、仰角および方位角の各バイアス誤差成分が得られる。
【0055】
bs=[ΔR、ΔE、ΔAz]’ ・・・(9)
【0056】
式(9)において、ΔR、ΔE、ΔAzは、バイアス誤差ベクトル推定値bsの距離、仰角および方位角の各バイアス誤差成分である。
【0057】
なお、距離バイアス誤差成分ΔRを除いて、第2のセンサ12の仰角および方位角のバイアス誤差成分ΔE、ΔAzを、バイアス誤差推定処理部70内のバイアス誤差推定器で仮定する場合、バイアス誤差ベクトル推定値bsは、以下の式(10)から得られる。
【0058】
bs=[ΔE、ΔAz]’ ・・・(10)
【0059】
バイアス誤差データベース80は、バイアス誤差推定処理部70で算出されたバイアス誤差ベクトル推定値bsを、時系列的に、かつ複数の第2のセンサ12ごとに蓄積する。
【0060】
バイアス誤差補正処理部90は、バイアス誤差データベース80から得られる時系列のバイアス誤差ベクトル推定値bsのNサンプリング分の平均値または最新値(いずれを用いるかは事前にユーザにより決定される)を用いて、第2のセンサ12のバイアス誤差補正処理に用いられるバイアス誤差を算出し、バイアス誤差補正値を遅延部100に入力する。
【0061】
すなわち、バイアス誤差補正処理部90は、バイアス誤差補正処理をリアルタイム(バイアス誤差ベクトル推定値bsの最新値)で行うことをユーザが決定した場合には、現時刻の第2のセンサ12の観測値のバイアス誤差を補正するためのバイアス誤差補正値を遅延部100に入力する。
【0062】
一方、バイアス誤差補正処理を平均値で行う(リアルタイムで行わない)ことをユーザが決定した場合には、バイアス誤差補正処理部90は、現時刻の第2のセンサ12の観測値のバイアス誤差を補正するためのバイアス誤差補正値を出力せずに、ユーザがバイアス誤差推定の開始を指示した場合のみに、バイアス誤差補正値を遅延部100に入力する。
【0063】
最後に、遅延部100は、バイアス誤差補正処理部90から得られるバイアス誤差補正値を、第2のセンサ12の最新時刻まで遅延させ、遅延後のバイアス誤差補正値をセンサ群10に入力する。
【0064】
これにより、センサ群10内の第2のセンサ12は、バイアス誤差補正処理部90から遅延部100を介して得られるバイアス誤差補正値に基づき、第2のセンサ12で得られる観測値のバイアス誤差補正を行う。
【0065】
以上のように、この発明の実施の形態1(図1)に係る追尾装置は、目標Tの動態データを取得する第1のセンサ11と、目標Tの距離、仰角および方位角を取得する第2のセンサ12と、動態データを第2のセンサの航跡出力時刻に時刻合わせを行う補正処理部40と、補正処理部40により時刻合わせが行われた動態データと第2のセンサ12の航跡とを比較して両者の一致度を出力する一致度判定処理部50と、一致度(判定フラグ)に基づき、バイアス誤差推定処理部70における予測処理で使用する予測ベクトル算出式を切替える運動モデル設定処理部60と、運動モデル設定処理部60の設定結果(制御信号)に基づき、カルマンフィルタによるバイアス誤差推定器を用いてバイアス誤差推定処理を行うバイアス誤差推定処理部70と、バイアス誤差推定処理部70により得られるバイアス誤差ベクトル推定値を時系列に蓄積するバイアス誤差データベース80と、バイアス誤差データベース80内のバイアス誤差ベクトル推定値を用いてバイアス誤差補正値を算出するバイアス誤差補正処理部90と、制御工学における遅延部100と、を備えている。
【0066】
一致度判定処理部50は、動態データの3次元加速度A、または、補正処理部40から出力される運動補償係数に基づき、一致度を判定する。
このように、カルマンフィルタによるバイアス誤差推定処理を行う際に、第1のセンサ11の動態データと、第2のセンサ12の航跡との一致度を比較して、予測ベクトル算出式を適切に選択することにより、目標Tが旋回運動を行う場合であっても、高精度のバイアス誤差推定値を得ることが可能となる。
【0067】
実施の形態2.
なお、上記実施の形態1(図1)では、一致度判定処理部50において、第2のセンサ12の航跡(状態ベクトル)X(A)と、時刻合わせが行われた動態データX#(O)との比較に基づき一致度を判定したが、UVW座標における3次元加速度Aのユークリッドノルムによる大きさに基づき一致度を判定してもよい。
【0068】
この場合、一致度判定処理部50は、UVW座標における3次元加速度Aのユークリッドノルムによる大きさが、事前に決めた閾値TH以下の場合には、「一致フラグ」を出力し、閾値THよりも大きい場合には、「不一致フラグ」を出力する。
【0069】
以上のように、この発明の実施の形態2によれば、バイアス誤差推定処理部70においてカルマンフィルタによるバイアス誤差推定処理を行う際に、第1のセンサ11の動態データと第2のセンサ12の航跡との一致度を、動態データのUVW座標における3次元加速度Aのユークリッドノルムによる大きさと閾値THとの比較に基づいて判定することにより、前述と同様に、カルマンフィルタによるバイアス誤差推定処理部70で使用する予測ベクトル算出式を適切に選択することができる。
したがって、目標Tが旋回運動を行う場合でも、高精度なバイアス誤差推定値を得ることが可能となる。
【0070】
実施の形態3.
なお、上記実施の形態2では、一致度判定処理部50において、UVW座標における3次元加速度Aのユークリッドノルムによる大きさに基づき一致度を判定したが、運動補償係数のユークリッドノルムによる大きさに基づき一致度を判定してもよい。
この場合、一致度判定処理部50は、運動補償係数のユークリッドノルムによる大きさが事前に決めた閾値TH以下の場合には、「一致フラグ」を出力し、閾値THよりも大きい場合には、「不一致フラグ」を出力する。
【0071】
以上のように、この発明の実施の形態3によれば、バイアス誤差推定処理部70においてカルマンフィルタによるバイアス誤差推定処理を行う際に、第1のセンサ11の動態データと第2のセンサ12の航跡との一致度を、運動補償係数のユークリッドノルムによる大きさに基づく加速度と閾値THとの比較に基づいて判定することにより、前述と同様に、カルマンフィルタによるバイアス誤差推定処理部70で使用する予測ベクトル算出式を適切に選択することができる。
したがって、目標Tが旋回運動を行う場合でも、高精度なバイアス誤差推定値を得ることが可能となる。
【0072】
実施の形態4.
なお、上記実施の形態1〜3(図1)では、一致度(一致フラグまたは不一致フラグ)に応答する運動モデル設定処理部60のみを用いて、バイアス誤差推定処理部70(カルマンフィルタによるバイアス誤差推定器)で使用される予測ベクトル算出用の制御信号を生成したが、図8のように、ユーザの設定条件にしたがう運動モデル制御処理部130を追加してもよい。
【0073】
図8はこの発明の実施の形態4に係る追尾装置を示すブロック構成図であり、前述(図1参照)と同様のものについては、前述と同一符号を付して詳述を省略する。
図8において、運動モデル設定処理部60には、運動モデル制御処理部130が接続されている。
【0074】
運動モデル制御処理部130は、所定の運動モデル(事前にユーザが動態データで設定する)を常に使い続けるための制御信号を生成し、これを運動モデル設定処理部60に入力する。すなわち、運動モデル制御処理部130は、運動モデル設定処理部60において動態データを使用し続けるための制御信号を出力する。
【0075】
これにより、運動モデル設定処理部60は、運動モデル制御処理部130からの制御信号に応答して、前述の式(8)に基づき、予測ベクトルを算出するための制御信号をバイアス誤差推定処理部70に入力する。
【0076】
以上のように、この発明の実施の形態4(図8)によれば、目標Tが常に旋回している状況において、その都度の毎回にわたり、式(7)、式(8)の予測ベクトル算出式の切替が頻繁に行われる可能性がある場合であっても、バイアス誤差推定処理部70における予測ベクトル算出式として、式(8)に基づく制御信号にしたがう算出式を常に使い続けることができるので、目標Tが常に旋回運動を行う場合であっても、高精度なバイアス誤差推定値を得ることが可能となる。
【0077】
実施の形態5.
なお、上記実施の形態4(図8)では、動態データを使用し続けるための制御信号を運動モデル設定処理部60に入力する運動モデル制御処理部130を追加したが、図9のように、第2のセンサ12から得られるサンプリングレートに基づく制御信号を運動モデル設定処理部60に入力する運動モデル制御処理部140を追加してもよい。
【0078】
図9はこの発明の実施の形態5に係る追尾装置を示すブロック構成図であり、前述(図1、図8参照)と同様のものについては、前述と同一符号を付して詳述を省略する。
図9において、補正処理部40、一致度判定処理部50、運動モデル設定処理部60およびバイアス誤差推定処理部70には、運動モデル制御処理部140が接続されている。
【0079】
運動モデル制御処理部140は、第2のセンサ12から得られるサンプリングレートが事前に決めたサンプリング閾値よりも小さい場合には、等速直線運動に基づく予測ベクトル算出処理によりバイアス誤差推定を行うための制御信号を運動モデル設定処理部60に入力する。
【0080】
すなわち、運動モデル制御処理部140は、第2のセンサ12から得られるサンプリングレートがサンプリング閾値よりも小さい場合には、等速直線運動に基づく予測ベクトル算出処理を行うため、つまり、前述の式(7)に基づくバイアス誤差推定をバイアス誤差推定処理部70で行うための制御信号を、運動モデル設定処理部60に入力する。
【0081】
これにより、バイアス誤差推定処理部70は、式(7)による等速直線運動モデルを用いてバイアス誤差推定を行う。
また、運動モデル制御処理部140は、補正処理部40、一致度判定処理部50および運動モデル設定処理部60に対して、処理停止信号を入力して各処理を中止し、センサ群10からの観測値を、バイアス誤差推定処理部70で使用する処理のみ動作させるようにする。
【0082】
以上のように、この発明の実施の形態5(図9)によれば、バイアス誤差推定処理部70においてカルマンフィルタによるバイアス誤差推定処理を行う際に、第2のセンサ12のサンプリングレートが小さい場合には、実際の目標Tが旋回していたとしても、等速直線運動モデルに基づくバイアス誤差推定精度はあまり劣化しないと考えられるので、目標Tの旋回判定に関わる補正処理部40、一致度判定処理部50および運動モデル設定処理部60の計算を中止することにより、演算負荷の低減を実現することができる。
【0083】
また、一致度判定処理部50における閾値THの誤設定に起因して、運動モデルの切替が頻繁に起こるような状況が生じた場合でも、等速直線運動モデルに固定することができるので、バイアス誤差推定精度の劣化を防ぐことができる。
さらに、前述と同様に、目標Tが旋回運動を行う場合でも、高精度なバイアス誤差推定値を得ることが可能となる。
【0084】
実施の形態6.
なお、上記実施の形態1〜5(図1、図8、図9)では、言及しなかったが、図10のように、第1のセンサ11からの動態データに基づき、第2のセンサ12の航跡を上書きするセンサ航跡更新処理部150を追加してもよい。
【0085】
図10はこの発明の実施の形態6に係る追尾装置を示すブロック構成図であり、前述(図1、図8、図9参照)と同様のものについては、前述と同一符号を付して詳述を省略する。
図10において、補正処理部40には、第1のセンサ11の動態データに基づき、第2のセンサ12の航跡を上書きするセンサ航跡更新処理部150が接続されている。
【0086】
以上のように、この発明の実施の形態6によれば、第2のセンサ12の航跡よりも精度が高い第1のセンサ11の動態データが得られる状況下において、精度の低い(または、劣化している)第2のセンサ12の航跡を、精度の高い第1のセンサ11の動態データで上書きすることにより改善し、目標Tの追尾維持率を向上させることができる。
【0087】
また、第2のセンサ12の目標Tの追尾維持率が向上するので、第2のセンサ12が目標Tの探知に失敗して、第2のセンサ12から目標Tの観測値が出力されない状況を防ぐことが可能となり、結果として、バイアス誤差推定値を継続して計算し続けることができる。
さらに、前述と同様に、目標Tが旋回運動を行う場合でも、高精度なバイアス誤差推定値を得ることが可能となる。
【符号の説明】
【0088】
11 第1のセンサ、12 第2のセンサ、40 補正処理部、50 一致度判定処理部、60 運動モデル設定処理部、70 バイアス誤差推定処理部、80 バイアス誤差データベース、90 バイアス誤差補正処理部、100 遅延部、130、140 運動モデル制御処理部、150 センサ航跡更新処理部、T 目標。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標の動態データを取得する第1のセンサと、
前記目標の距離、仰角および方位角を取得する第2のセンサと、
前記動態データを前記第2のセンサの航跡出力時刻に時刻合わせを行う補正処理部と、
前記補正処理部により時刻合わせが行われた動態データと前記第2のセンサの航跡とを比較して両者の一致度を出力する一致度判定処理部と、
前記一致度に基づき、後記バイアス誤差推定処理部における予測処理で使用する予測ベクトル算出式を切替える運動モデル設定処理部と、
前記運動モデル設定処理部の設定結果に基づき、カルマンフィルタによるバイアス誤差推定器を用いてバイアス誤差推定処理を行うバイアス誤差推定処理部と、
バイアス誤差推定処理部により得られるバイアス誤差ベクトル推定値を時系列に蓄積するバイアス誤差データベースと、
前記バイアス誤差データベース内のバイアス誤差ベクトル推定値を用いてバイアス誤差補正値を算出するバイアス誤差補正処理部と、
制御工学における遅延部と、
を備えたことを特徴とする追尾装置。
【請求項2】
前記一致度判定処理部は、前記動態データの加速度に基づき前記一致度を判定することを特徴とする請求項1に記載の追尾装置。
【請求項3】
前記一致度判定処理部は、前記補正処理部から出力される運動補償係数に基づき前記一致度を判定することを特徴とする請求項1に記載の追尾装置。
【請求項4】
前記運動モデル設定処理部に接続された運動モデル制御処理部を備え、
前記運動モデル制御処理部は、前記運動モデル設定処理部において前記動態データを使用し続けるための制御信号を、前記運動モデル制御処理部に入力することを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の追尾装置。
【請求項5】
前記補正処理部、前記一致度判定処理部および前記運動モデル設定処理部に接続された運動モデル制御処理部を備え、
前記運動モデル制御処理部は、前記第2のセンサから得られるサンプリングレートが事前に決めたサンプリング閾値よりも小さい場合には、等速直線運動に基づく予測ベクトル算出処理によりバイアス誤差推定を行うための制御信号を前記運動モデル制御処理部に入力するとともに、前記補正処理部、前記一致度判定処理部および前記運動モデル設定処理部に処理停止信号を入力することを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の追尾装置。
【請求項6】
前記動態データに基づき、前記第2のセンサの航跡を上書きするセンサ航跡更新処理部を備えたことを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の追尾装置。
【請求項1】
目標の動態データを取得する第1のセンサと、
前記目標の距離、仰角および方位角を取得する第2のセンサと、
前記動態データを前記第2のセンサの航跡出力時刻に時刻合わせを行う補正処理部と、
前記補正処理部により時刻合わせが行われた動態データと前記第2のセンサの航跡とを比較して両者の一致度を出力する一致度判定処理部と、
前記一致度に基づき、後記バイアス誤差推定処理部における予測処理で使用する予測ベクトル算出式を切替える運動モデル設定処理部と、
前記運動モデル設定処理部の設定結果に基づき、カルマンフィルタによるバイアス誤差推定器を用いてバイアス誤差推定処理を行うバイアス誤差推定処理部と、
バイアス誤差推定処理部により得られるバイアス誤差ベクトル推定値を時系列に蓄積するバイアス誤差データベースと、
前記バイアス誤差データベース内のバイアス誤差ベクトル推定値を用いてバイアス誤差補正値を算出するバイアス誤差補正処理部と、
制御工学における遅延部と、
を備えたことを特徴とする追尾装置。
【請求項2】
前記一致度判定処理部は、前記動態データの加速度に基づき前記一致度を判定することを特徴とする請求項1に記載の追尾装置。
【請求項3】
前記一致度判定処理部は、前記補正処理部から出力される運動補償係数に基づき前記一致度を判定することを特徴とする請求項1に記載の追尾装置。
【請求項4】
前記運動モデル設定処理部に接続された運動モデル制御処理部を備え、
前記運動モデル制御処理部は、前記運動モデル設定処理部において前記動態データを使用し続けるための制御信号を、前記運動モデル制御処理部に入力することを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の追尾装置。
【請求項5】
前記補正処理部、前記一致度判定処理部および前記運動モデル設定処理部に接続された運動モデル制御処理部を備え、
前記運動モデル制御処理部は、前記第2のセンサから得られるサンプリングレートが事前に決めたサンプリング閾値よりも小さい場合には、等速直線運動に基づく予測ベクトル算出処理によりバイアス誤差推定を行うための制御信号を前記運動モデル制御処理部に入力するとともに、前記補正処理部、前記一致度判定処理部および前記運動モデル設定処理部に処理停止信号を入力することを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の追尾装置。
【請求項6】
前記動態データに基づき、前記第2のセンサの航跡を上書きするセンサ航跡更新処理部を備えたことを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の追尾装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−47490(P2012−47490A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−187472(P2010−187472)
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
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