説明

送信機の振幅リミッタ回路

【課題】電波形式ごとの切替が可能で、且つリミッタの制限値及び応答速度が調整可能な送信機の振幅リミッタ回路を提供する。
【解決手段】FPGAによるIF段でのデジタル信号処理の中にIFリミッタ23を設ける。上記IFリミッタ23は、IF信号が入力されると、乗算器33でリミッタゲインGを乗じて入力信号の振幅を制御する。乗算器33の出力信号の絶対値を絶対値回路35により取り出し、比較器36に入力して振幅制限値保持部37に保持されている振幅制限値と比較する。比較器36の比較結果を乗算器38に入力し、係数設定回路39にて選択された係数μatt又はμrecと乗算し、リミッタゲインGとしてピーク制限回路40を介して乗算器33に与える。係数設定回路39は、入力の絶対値が振幅制限値を上回っているかどうかを判断し、上回っていれば係数μattを選択し、下回っていれば係数μrecを選択する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送信機に実装し、IF(Intermediate Frequency)信号に振幅制限をかける送信機の振幅リミッタ回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、送信機におけるIF信号(中間周波信号)の振幅を制限する方法としては、信号の振幅をある一定値でクリップする方法が最も一般的である。例えば各種ダイオード及びオペアンプを用いたアナログ回路によるリミッタ回路が広く利用されている。
【0003】
また、本発明に関連する公知技術として、基準高周波信号を振幅変調処理し送信トリガに応じてパルス信号を出力する送信機において、送信出力信号の一部を振幅リミッタにより振幅を揃えて取出し、その信号に基づいて位相補償信号を生成し、上記基準高周波信号の位相を変化させて送信信号に含まれる位相変調成分を減少するようにした技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平3−3507号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の各種ダイオード及びオペアンプを用いたアナログ回路によるリミッタ回路は、ダイオードのリカバリータイムや時定数により高速動作が望めないという欠点がある。また、信号の振幅をある一定値でクリップすると、クリップした部分は完全な矩形波となってしまうため、送信機としては致命的な帯域の広がりの要因となる。更に、ハードウェアによる構成のためリミッタの調整範囲に制限があることや、既存の回路に組み込む場合に電波形式ごとの対応が難しいという問題があった。
【0005】
本発明は上記の課題を解決するためになされたもので、IF段でのデジタル信号処理により各電波形式ごとの切替が可能であり、且つリミッタの制限値及び応答速度が調整可能な送信機の振幅リミッタ回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、送信機におけるFPGAによる中間周波数段でのデジタル信号処理部に設けられる振幅リミッタ回路において、入力される中間周波信号にリミッタゲインを乗じて入力信号の振幅を制限する第1の乗算器と、前記第1の乗算器から出力される信号の一部を取り出して絶対値を求める絶対値回路と、前記絶対値回路により取り出された信号の絶対値と目的とする振幅制限値とを比較する比較器と、前記比較器の比較結果に係数を乗じて前記リミッタゲインを出力する第2の乗算器と、前記第1の乗算器により振幅制限された中間周波信号と前記リミッタ処理される前の中間周波信号とを電波形式に応じて選択するセレクタとを具備することを特徴とする送信機の振幅リミッタ回路。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、振幅リミッタ回路は、送信機におけるFPGAによる中間周波数段でデジタル信号処理を行なっているので、従来のようにダイオードのリカバリータイムや時定数を考慮する必要がなく、動作速度を向上することができる。また、リミッタ処理は、リミッタゲインの値によって入力信号の振幅を徐々に変化させることができるため、リミッタゲインの値を制御する係数の値を調整することでリミッタ通過後の帯域の広がりを十分に軽減することができる。また、上記係数の調整により、リミッタの応答時間の調整も行なうことができる。また、リミッタ処理する前の入力信号とリミッタ処理後の信号をセレクタにより電波形式に応じて選択することにより、電波形式に応じてリミッタ動作を切替えることができる。更に、上記の処理を全てFPGAで行なうことにより、アナログ回路に比較して回路構成を簡略化できると共に回路変更等も容易であり、生産効率を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態を説明する。
図1は、本発明を導入した送信機10の概略構成例を示すブロック図である。図1において、11は基準周波数の信号を発生する基準発振器で、この基準発振器11から出力される基準信号は、SSB(Single Side Band)変調器12に入力されると共にシンセサイザ13に入力される。このシンセサイザ13は、基準発振器11から出力される基準信号に基づいて所定周波数の信号を生成して周波数変換器14に出力する。
【0009】
上記SSB変調器12は、詳細を後述するようにリミッタ機能を備えたもので、外部から入力されるAF(Audio Frequency)信号をSSB変調処理すると共にIF信号に変換し、このIF信号をリミッタ処理して周波数変換器14へ出力する。この周波数変換器14は、SSB変調器12から出力されるIF信号を、上記シンセサイザ13から与えられる所定周波数の信号に基づいて高周波信号に変換する。上記周波数変換器14から出力される高周波信号は、励振増幅器15及び電力増幅器16で増幅された後、同調・整合回路17を介してアンテナ18へ送られ、このアンテナ18から外部に送信される。
【0010】
図2は、上記SSB変調器12の構成例を示すブロック図である。
SSB変調器12は、FPGA(Field Programmable Gate Array)により構成してデジタル信号処理を行なうようにしたもので、SSB変調処理部21及び振幅リミッタ回路22により構成している。この振幅リミッタ回路22は、IFリミッタ23、ローパスフィルタ(LPF)24及びセレクタ25からなっている。
【0011】
上記SSB変調処理部21は、外部から入力されるAF(Audio Frequency)信号をSSB変調処理すると共にIF信号に変換して出力する。このSSB変調処理部21から出力されるIF信号は、2系統に分けられて振幅リミッタ回路22のIFリミッタ23及びセレクタ25の入力端子Aに入力される。上記IFリミッタ23については詳細を後述する。
上記のように送信機10におけるFPGAによる中間周波数段でのデジタル信号処理部に振幅リミッタ回路22が設けられる。
【0012】
そして、上記SSB変調処理部21からIFリミッタ23に入力されたIF信号は、リミッタ処理されてローパスフィルタ24へ送られる。このローパスフィルタ24は、IFリミッタ23におけるリミッタ処理の際に発生する高調波成分を除去するためのもので、その出力信号はセレクタ25の入力端子Bに入力される。このセレクタ25は、外部から入力される電波形式選択信号によって入力端子A又は入力端子Bの入力信号を選択し、図1に示した周波数変換器14へ出力する。電波形式としては、例えば「A1A」、「F1B」、「J3E」、…等の種々の形式があるが、セレクタ25の選択動作は使用要求に応じて任意に設定することが可能である。この例では、例えば周波数変調による「F1B」の電波形式を使用する場合にセレクタ25を入力端子B側に切替えてリミッタ動作を行なわせ、その他の電波形式ではセレクタ25を入力端子A側に切替えてリミッタ動作を行なわないように設定する。周波数変調の場合、信号の振幅は一定であることが望ましいので、リミッタ処理されたIF信号を選択するようにセレクタ25を切替えている。
【0013】
図3は、上記IFリミッタ23の構成例を示すブロック図である。
IFリミッタ23は、入力端子31と出力端子32との間に可変ゲインの乗算器33が設けられる。上記可変ゲインの乗算器33と出力端子32との間を接続する信号ライン34に絶対値回路35が接続される。この絶対値回路35は、乗算器33から出力される信号の一部を取り出し、その絶対値を比較器36に入力する。また、この比較器36には、振幅制限値保持部37に保持されている目的とする振幅制限値が入力される。上記比較器36は、絶対値回路35により取り出された信号の絶対値と上記振幅制限値とを比較し、その比較結果を乗算器38に入力する。
【0014】
また、上記乗算器38には、係数設定回路39で設定される係数μが与えられる。この係数設定回路39は、入力の絶対値が振幅制限値を上回った場合と下回った場合で別々の値を設定してリミッタの応答波形を調整できるようになっている。すなわち、係数設定回路39は、FPGA処理により入力の絶対値と振幅制限値との大小関係を判断し、入力の絶対値が振幅制限値を上回った場合に係数μattを選択し、入力の絶対値が振幅制限値を下回った場合に係数μrecを選択して乗算器38に与える。上記係数μ(μatt、μrec)の値は、リミッタ通過後の帯域の広がりとリミッタの応答時間を考慮して設定する。
【0015】
上記乗算器38は、比較器36の比較結果に対して係数設定回路39で選択された係数μattあるいは係数μrecを乗じ、その結果をリミッタゲインGとして乗算器33に与える。この場合、乗算器38で比較器36の出力に係数μ(μatt、μrec)を乗じた結果をそのまま用いると、リミッタゲインGは増加もしくは減少を続ける可能性があるので、ピーク制限回路40を設けてリミッタゲインGの最大値Gmax、最小値Gminを所定の値に制限している。
【0016】
上記のように構成されたIFリミッタ23は、SSB変調処理部21でSSB変調処理されたIF信号が入力されると、乗算器33でリミッタゲインGを乗じて入力信号の振幅が目的とする値となるように制御する。この場合、G<1のときは振幅が減少方向へ、G>1のときは逆に増加方向へ修正されるが、G=1では振幅に変化はない。上記リミッタゲインGの値は、入力と乗算器33に対するフィードバックループにより決定される。
【0017】
すなわち、上記乗算器33から出力される信号の絶対値を絶対値回路35により取り出し、比較器36に入力して振幅制限値保持部37に保持されている振幅制限値と比較する。上記比較器36の比較結果は乗算器38に送られ、係数設定回路39にて選択された係数μatt又はμrecと乗算されてリミッタゲインGが更新される。上記係数設定回路39は、入力の絶対値が振幅制限値を上回っているかどうかを判断し、入力の絶対値が振幅制限値を上回っていれば係数μattを選択し、また、入力の絶対値が振幅制限値を下回っていれば係数μrecを選択する。
【0018】
上記乗算器38から出力されるリミッタゲインGは、ピーク制限回路40で最大値Gmax及び最小値Gminが制限されて乗算器33に入力される。乗算器33では、入力信号にリミッタゲインGを乗じて入力信号の振幅が目的とする値に近付くように制御する。従って、上記リミッタゲインGによる振幅制御を繰り返すことにより、入力信号の振幅を目的とする値に保持することができる。
【0019】
上記のようにSSB変調処理部21から出力されるIF信号は、IFリミッタ23において予め設定された振幅値に制限され、図2に示したローパスフィルタ24へ送られる。このローパスフィルタ24は、IFリミッタ23から出力されるIF信号に対し、リミッタ処理の際に発生する高調波成分を除去してセレクタ25の入力端子Bに入力する。このセレクタ25は、上記したように外部から入力される電波形式選択信号によって入力端子A又は入力端子Bの入力信号を選択し、図1に示した周波数変換器14へ出力する。上記セレクタ25は、電波形式が予め設定された特定の電波形式例えば周波数変調による「F1B」である場合に、入力端子B側に入力されるリミッタ処理されたIF信号を選択し、その他の電波形式である場合には入力端子A側に入力されるリミッタ処理されていないIF信号を選択して出力する。
【0020】
上記実施形態によれば、振幅リミッタ回路22は、送信機10におけるFPGAによる中間周波数段IF段でデジタル信号処理を行なっているので、従来のようにダイオードのリカバリータイムや時定数を考慮する必要がなく、動作速度を向上することができる。
【0021】
また、IFリミッタ23におけるリミッタ処理は、乗算器38から出力されるリミッタゲインGの値によって入力信号の振幅を徐々に変化させることができるため、係数設定回路39における係数μの値を調整することでリミッタ通過後の帯域の広がりを十分に軽減することができる。すなわち、乗算器33に与えられるリミッタゲインGの値は、比較器36の比較結果に対して係数μを乗じた値であるので、係数μの値を調整することでリミッタゲインGの値を調整することができる。リミッタゲインGの変化が大きい場合は、IF信号の出力変化も大きくなるため、入力に対する歪みが大きくなる。時間領域での波形の歪みは、周波数領域では帯域の広がりとなるため、結果的に係数μを調節することで帯域の広がりを調整することができる。
【0022】
また、上記係数設定回路39における係数μの調整により、リミッタの応答時間の調整も行なうことができる。上記リミッタの応答時間は、出力信号が振幅制限値に達するまでに要する時間であり、上記係数μの値が大きいほどその時間を短縮することができる。なお、上記リミッタ通過後の「帯域の広がり」と「リミッタの応答時間」は相反関係にあるため、両者が最適値になるように係数μを調整する。
【0023】
また、リミッタ処理する前の入力信号を2系統に分けてIFリミッタ23とセレクタ25に入力し、電波形式に応じてセレクタ25がIFリミッタ23のオン/オフを選択して出力するようにしているので、電波形式に応じてリミッタ動作を切替えることができる。
【0024】
更に、上記の処理を全てFPGAで行なっているため、アナログ回路に比較して回路構成を簡略化できると共に回路変更等も容易であり、生産効率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態に係る送信機の概略構成例を示すブロック図である。
【図2】図1におけるSSB変調器の構成例を示すブロック図である。
【図3】図2におけるIFリミッタの構成例を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0026】
10…送信機、11…基準発振器、12…SSB変調器、13…シンセサイザ、14…周波数変換器、15…励振増幅器、16…電力増幅器、17…同調・整合回路、18…アンテナ、21…SSB変調処理部、22…振幅リミッタ回路、23…IFリミッタ、24…ローパスフィルタ(LPF)、25…セレクタ、31…入力端子、32…出力端子、33…乗算器、34…信号ライン、35…絶対値回路、36…比較器、37…振幅制限値保持部、38…乗算器、39…係数設定回路、40…ピーク制限回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信機におけるFPGAによる中間周波数段でのデジタル信号処理部に設けられる振幅リミッタ回路において、
入力される中間周波信号にリミッタゲインを乗じて入力信号の振幅を制限する第1の乗算器と、
前記第1の乗算器から出力される信号の一部を取り出して絶対値を求める絶対値回路と、
前記絶対値回路により取り出された信号の絶対値と目的とする振幅制限値とを比較する比較器と、
前記比較器の比較結果に係数を乗じて前記リミッタゲインを出力する第2の乗算器と、
前記第1の乗算器により振幅制限された中間周波信号と前記リミッタ処理される前の中間周波信号とを電波形式に応じて選択するセレクタとを具備することを特徴とする送信機の振幅リミッタ回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−352766(P2006−352766A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−179367(P2005−179367)
【出願日】平成17年6月20日(2005.6.20)
【出願人】(000001122)株式会社日立国際電気 (5,007)
【Fターム(参考)】