説明

逆ミセル液、無機ナノ粒子及び無機ナノ粒子の製造方法

【課題】長期間安定な逆ミセル液と、このような特徴を有する逆ミセル液を用いて製造される粒径変動および粒子間の組成変動の少ない単分散な無機ナノ粒子およびその製造法を提供する。
【解決手段】本発明の逆ミセル液は、水と、疎水性有機溶媒と、界面活性剤と、前記疎水性有機溶媒を基準にして溶解度パラメータの差が0〜5の親水性有機溶媒とを含むか、あるいは、水と、疎水性有機溶媒と、界面活性剤と、前記界面活性剤を基準にして無機性値/有機性値比の差が±1.5以内である親水性有機溶媒とを含み、親水性有機溶媒は、全容積1リットル当り2ミリモル〜300ミリモル含む。無機ナノ粒子は、これらの逆ミセル液を用いた製造方法によって得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、逆ミセル液、無機ナノ粒子及び無機ナノ粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的によく知られているミセルは、界面活性剤を用いて、水相中に油を油滴として分散させた状態の正常ミセルと呼ばれるものである。これに対して、界面活性剤を用いて、油相中に水を水滴として分散させた状態は逆ミセルと呼ばれている。
逆ミセル法は、油相中に閉じ込められた小さい水滴中で、還元反応、酸化反応ゾルゲル反応または交換反応などを起こさせて、無機ナノ粒子を得る方法である。
【0003】
近年、無機ナノ粒子は、多方面の分野で利用されつつあり、有望視されている。例えば、有機無機ナノコンポジット膜、触媒膜、電磁遮蔽膜、誘電体膜、抗菌および殺菌シートなどの機能性膜材料、単電子トンネルデバイス、光スイッチ、超高密度磁気記録媒体などのナノデバイス、バイオセンサー、造影剤、DDSなどの医療材料、赤外線センサ、ガスセンサ、湿度センサなどのセンサ材料、ナノ配線材料、液晶用材料、塗料材料が挙げられる。
【0004】
逆ミセル法は古くから研究されており、還元反応、酸化反応、ゾルゲル反応および交換反応などについても数多く知られており、多くの研究論文が発表されている。また、逆ミセルを安定に存在させるために、親水性有機溶媒を添加することも知られており、例えば、非特許文献1〜4に記載されている。
しかし、非特許文献1〜4では、親水性有機溶媒としてアルコールを、(親水性有機溶媒の添加量mol数)/(逆ミセル形成に使用する水の体積+逆ミセル形成に使用する疎水性有機溶媒の体積+親水性有機溶媒の体積)という計算に基づいて算出した場合、添加量500mmol/l以上で使用して逆ミセルでの無機粒子を製造している。
しかし、非特許文献1〜4のような添加量の場合、逆ミセル液は不安定な領域となり、無機粒子の粒径変動および粒子間の組成変動を小さくすることは困難であった。
【0005】
【非特許文献1】Xu,J.;Han,X.;Liu,H.;Hu,Y.,Colloids and Surfaces A : Physicochem. Eng. Aspects.273,179−183(2006)
【非特許文献2】Sato,H.;Ohtsu,T.;Komasawa,I.,J. Collid Interface Sci. 230,200−204(2000)
【非特許文献3】Weihua,W.;Xuelin,T.;Kai,C.;Gengyu,C.,Colloids and Surfaces A:Physicochem. Eng. Aspects.273,35−42(2006)
【非特許文献4】Carpenter,E. E.;Sims,J. A.;Wienmann,J. A.;Zhou,W. L.;O’Connor,C. J.,J. Appl. Phys. 87(9),5615−5617(2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来技術において達成できていない、長期間安定な逆ミセル液を提供することを目的とする。
また、このような特徴を有する逆ミセル液を用いて製造される粒径変動および粒子間の組成変動の少ない単分散な無機ナノ粒子及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に対し、鋭意検討の結果、以下に示す本発明により解決できることを見出した。
<1> 水と、疎水性有機溶媒と、界面活性剤と、前記疎水性有機溶媒を基準にして溶解度パラメータの差が0〜5の親水性有機溶媒とを含み、前記親水性有機溶媒が、全容積1リットル当り2ミリモル〜300ミリモルである逆ミセル液。
<2> 水と、疎水性有機溶媒と、界面活性剤と、前記界面活性剤を基準にして無機性値/有機性値比の差が±1.5以内である親水性有機溶媒とを含み、前記親水性有機溶媒が、全容積1リットル当り2ミリモル〜300ミリモルである逆ミセル液。
【0008】
<3> 前記界面活性剤が、前記疎水性有機溶媒1リットルに対して50ミリモル〜500ミリモル含有することを特徴とする<1>又は<2>記載の逆ミセル液。
<4> 前記水が、前記界面活性剤1モルに対して1モル〜300モルであることを特徴とする<1>〜<3>記載の逆ミセル液。
<5> 上記<1>〜<4>のいずれかに記載の逆ミセル液を利用して製造されることを特徴とする無機ナノ粒子。
<6> 上記<1>〜<4>のいずれかに記載の逆ミセル液を使用することを含む無機ナノ粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、長期間安定な逆ミセル液を提供することができる。また、このような特徴を有する逆ミセル液を用いて製造される粒径変動および粒子間の組成変動の少ない単分散な無機ナノ粒子およびその製造法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下において、本発明の逆ミセル液について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることであるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本発明において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0011】
本発明の逆ミセル液は、水と、疎水性有機溶媒と、界面活性剤と、前記疎水性有機溶媒を基準にして溶解度パラメータの差が0〜5の親水性有機溶媒とを含み、前記親水性有機溶媒が、全容積1リットル当り2ミリモル〜300ミリモルである。
また本発明の他の逆ミセル液は、水と、疎水性有機溶媒と、界面活性剤と、前記界面活性剤を基準にして無機性値/有機性値比の差が±1.5以内である親水性有機溶媒とを含み、前記親水性有機溶媒が、全容積1リットル当り2ミリモル〜300ミリモルである。
【0012】
親水性有機溶媒の溶解度パラメータは、よく知られているように、Hildebrandによって導入された正則溶液論をもとに定義された値で、分子間力を表す尺度である。正則溶液論とは、溶媒−溶質間に作用する力が分子間力のみと仮定したものである。実際の溶液は正則溶液であるとは限らないが、溶媒と溶質間(または、溶媒と溶媒)の溶解度パラメータの差が小さいほど溶解しやすい(相溶性が高い)。溶解度パラメータは、δ、SP値、溶解パラメータ、ヒルデブラントパラメータとも表現され、モル蒸発熱(ΔH:cal/mol)とモル容積(V:cm3/mol)がわかれば計算できる。
【0013】
化合物における無機性値/有機性値比は、その化合物が有する元素や官能基などの無機性値と有機性値とをもとに比を求めることで得られる。例えば、炭素は無機性値=0、有機性値=20であり、アルカン類の無機性値/有機性値比はすべて0となる。また、OH基は無機性値=100、有機性値=0であり、メタノールは、100/20=5となる。
【0014】
本発明の逆ミセル液における親水性有機溶媒としては、疎水性有機溶媒を基準にして、溶解度パラメータの差が0〜5のものが用いられる。より好ましくは0〜4であり、もっとも好ましくは0〜3である。溶解度パラメータの差が0〜5であれば、逆ミセル液を安定に存在させることができる。
【0015】
また、本発明の逆ミセル液における親水性有機溶媒としては、界面活性剤を基準にして、無機性値/有機性値比の差が±1.5以内のものが用いられる。より好ましくは±1以内であり、もっとも好ましくは±0.5以内である。無機性値/有機性値比の差が±1.5以内であれば、逆ミセル液を安定に存在させることができる。
【0016】
本発明に使用可能な親水性有機溶媒は、後述する疎水性有機溶媒や界面活性剤に対して上述したような条件を満たすことが必要である。使用する疎水性有機溶媒や界面活性剤に応じて選択する必要があり、親水性有機溶媒としては、1−プロパノール(溶解度パラメータ:11.1、無機性値/有機性値比:1.7)、イソプロパノール(溶解度パラメータ:11.5、無機性値/有機性値比:2.0)、1−ブタノール(溶解度パラメータ:10.5、無機性値/有機性値比:1.3)、1−ヘキサノール(溶解度パラメータ:9.6、無機性値/有機性値比:0.8)、1−オクタノール(溶解度パラメータ:8.7、無機性値/有機性値比:0.6)、ベンジルアルコール(溶解度パラメータ:10.9、無機性値/有機性値比:0.8)、シクロヘキサノール(溶解度パラメータ:9.8、無機性値/有機性値比:0.9)などを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0017】
本発明の逆ミセル液における親水性有機溶媒の量は、逆ミセル液の安定性の観点から逆ミセル液の全容積1リットル当り、2ミリモル〜300ミリモルであり、20ミリモル〜100ミリモルであることが好ましい。
【0018】
本発明で使用可能な疎水性有機溶媒は、界面活性剤を溶解することができると共に親水性有機溶媒に対する上記条件を満たすことができるものであればよい。好ましくはアルカン及びエーテルが該当する。アルカンは、炭素数7〜12のアルカン類であることが好ましい。具体的には、ヘプタン(溶解度パラメータ:6.9)、オクタン(溶解度パラメータ:6.9)、ノナン、デカン(溶解度パラメータ:7.0)、ウンデカン、ドデカンが挙げられる。一方、エーテルとしては、ジエチルエーテル(溶解度パラメータ:7.3)、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテルを挙げることができる。
【0019】
本発明の逆ミセル液における疎水性有機溶媒の量は、製造する全容積を決定する基準であり、任意に決定すればよい。これにより、他のものの量が決定される。
【0020】
本発明における界面活性剤の例としては、油溶性界面活性剤が用いられ、スルホン酸塩型、例えばエーロゾルOT(和光純薬(株)製、無機性値/有機性値比:0.9)、4級アンモニウム塩型、例えばセチルトリメチルアンモニウムブロマイド(無機性値/有機性値比:1.1)、エーテル型、例えばペンタエチレングリコールドデシルエーテル(無機性値/有機性値比:0.9)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
これらの界面活性剤のうち、溶解度の観点から、好ましくはエーロゾルOTである。
【0021】
本発明における疎水性有機溶媒に対する界面活性剤の量は、界面活性剤の溶解度によっても変わり得るが、前記疎水性有機溶媒1リットルに対して50ミリモル〜500ミリモルであることが好ましい。
【0022】
本発明における逆ミセル液中の水の量は、上記界面活性剤1モルに対して1モル〜300モルであることが好ましく、1モル〜100モルであることがより好ましい。
【0023】
本発明の逆ミセル液は、無機ナノ粒子を製造するために好ましく用いられる。本発明の逆ミセル液を用いて作成可能な無機ナノ粒子としては、金属、合金又は酸化物の無機ナノ粒子が含まれる。無機ナノ粒子としては、Ag、Au、Pt、Pd、Cu、Co、Feなどの金属および金属化合物、あるいはこれらの元素を二種以上含む合金または混合物、TiO、ZnO、Fe、InSnOxなどの酸化物等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
本発明の逆ミセル液を用いて無機ナノ粒子を製造するために、逆ミセル液には、上記の疎水性有機溶媒、界面活性剤、親水性有機溶媒及び水に加えて、無機ナノ粒子を得るための金属化合物が含まれる。
本発明において、金属、合金または酸化物を得るための原料に用いる金属化合物としては、多種類の市販されている化合物を用いることができる。
以下に、無機ナノ粒子の製造方法について説明する。
【0024】
本発明における無機ナノ粒子は、1種以上の金属化合物を含む逆ミセル溶液(I)と還元剤、酸化剤または窒化剤等の反応剤を含む逆ミセル溶液(II)とを混合、反応させて製造できる。必要であれば、反応後に温度を上げて、熟成することにより無機ナノ粒子が製造できる。
【0025】
金属化合物の水溶液に含有される金属化合物としては、硝酸塩、硫酸塩、塩酸塩、酢酸塩、塩素イオンを配位子とする金属錯体の水素酸、塩素イオンを配位子とする金属錯体のカリウム塩、塩素イオンを配位子とする金属錯体のナトリウム塩、シュウ酸イオンを配位子とする金属錯体のアンモニウム塩などが挙げられ、本発明の製造方法では、これらを任意に選択して使用することができる。
【0026】
各々の金属化合物水溶液中の金属化合物としての濃度は、0.1μモル〜5000μモル/mlであることが好ましく、1μモル〜2000μモル/mlであることがより好ましい。
【0027】
本発明に用いる還元剤水溶液は、例えば、水素化ホウ素化合物、アスコルビン酸、アルコール類、ポリオール類、ホルマリン、ヒドラジン、H等と水とからなり、これらの還元剤を単独または2種以上を併用することが好ましい。
水溶液中の還元剤量は、金属化合物1モルに対して、3〜50モルであることが好ましい。
【0028】
本発明に用いる酸化剤水溶液は、例えば、オキソ酸塩(硝石、塩素酸塩、次亜塩素酸塩、ヨウ素酸塩、臭素酸塩、クロム酸塩、過マンガン酸塩、バナジン酸塩、ビスマス酸塩など )、過酸化物(H、Na、BaO、HSOなど)、Br、I等と水とからなり、これらの酸化剤を単独または2種以上を併用することが好ましい。
水溶液中の酸化剤量は、金属化合物1モルに対して、3〜50モルであることが好ましい。
【0029】
本発明に用いるその他の反応剤水溶液は、例えば、炭酸塩、ホウ酸塩、硫化物等と水とからなり、これらの反応剤を単独または2種以上を併用することが好ましい。
水溶液中の反応剤量は、金属化合物1モルに対して、3〜50モルであることが好ましい。
【0030】
逆ミセル溶液(I)と(II)における水と界面活性剤の比率は同一でも異なっていてもかまわないが、系を均一にするために同比率であることが好ましい。
【0031】
以上のようにして調製した逆ミセル溶液(I)と(II)とを混合する。
混合方法は特に限定されるものではないが、還元の均一性を考慮して、逆ミセル溶液(I)を撹拌しながら、逆ミセル溶液(II)を添加して混合することが好ましい。混合終了後、反応を進行させることになるが、その際の温度は−5〜30℃の範囲で一定の温度とする。温度が−5℃以上であれば、水相が凝結することもなく反応を均一にすることができ、また30℃以下であれば、凝集または沈殿が起こりにくく、系を安定化させることができる。好ましい温度は0〜25℃であり、さらに好ましくは5〜25℃である。
ここで、前記「一定温度」とは、設定温度をT(℃)とした場合、温度がT±3℃の範囲にあることをいう。なお、このようにした場合であっても、当該Tの上限および下限は、上記温度(−5〜30℃)の範囲にあるものとする。
【0032】
反応の時間は、逆ミセル溶液(I)および(II)の量等により適宜設定する必要があるが、1〜30分とすることが好ましく、5〜20分とすることがより好ましい。
【0033】
本発明においては、反応中に、さらに、同種または別種の逆ミセル液を添加することが可能である。逆ミセル液としては、金属化合物、還元剤、酸化剤または窒化剤等の逆ミセル液が添加できる。また、pHを調節するための酸またはアルカリを加えてもよい。
【0034】
反応は、得られる無機粒子の粒径分布の単分散性に大きな影響を与えるため、できるだけ高速攪拌しながら行うことが好ましい。
本発明における攪拌装置として、市販の各種装置を用いることができる。剪断力はあっても、無くてもどちらでもよいが、無い方が好ましい。
【0035】
前記逆ミセル溶液(I)および(II)の反応後に、少なくとも1種の分散剤を、作製しようとする無機ナノ粒子1モル当たりに0.001〜10モル添加することが好ましい。分散剤の添加量は、0.001〜10モルであれば、無機ナノ粒子の単分散性をより向上させることができ、かつ凝集も起こらない。
【0036】
前記分散剤としては、無機ナノ粒子表面に吸着する基を有する有機化合物が好ましい。具体的には、アミノ基、カルボキシ基、スルホン酸基、ヒドロキシ基またはスルフィン酸基を1〜3個有するものであり、これらを単独または併用して用いることができる。
構造式としては、R−NH、HN−R−NH、HN−R(NH)−NH、R−COOH、HOCO−R−COOH、HOCO−R(COOH)−COOH、R−SOH、HOSO−R−SOH、HOSO−R(SOH)−SOH、R−SOH、HOSO−R−SOH、HOSO−R(SOH)−SOH、R−OH、HO−R−OHで表される化合物であり、式中のRは直鎖、分岐または環状の飽和または不飽和の炭化水素残基である。このような分散剤としては、オレイン酸、オレイルアミン、エルカ酸、リノール酸等を挙げることができる。
【0037】
分散剤の添加時期は、特に限定されるものではないが、反応直後から下記の熟成工程開始までの間であることが好ましい。かかる分散剤を添加することで、より単分散で、凝集のない無機ナノ粒子を得ることができる。
【0038】
本発明の製造方法では、必要に応じて、前記反応が終了した後、昇温させて熟成する工程を有してもよい。
熟成温度は、30〜90℃の間で一定の温度とすることが好ましく、その温度は、前記反応の温度より高くすることが適当である。また、熟成時間は、5〜180分とすることが好ましい。熟成温度および熟成時間が上記範囲内であれば、凝集や沈殿が起こり難く、かつ反応を完結させ、組成を一定にすることができる。
【0039】
ここで、前記「一定温度」とは、還元反応の温度の場合と同義(但し、この場合、「還元温度」は「熟成温度」となる)であるが、特に、上記熟成温度の範囲(30〜90℃)内で、前記還元反応の温度より5℃以上高いことが好ましく、10℃以上高いことがより好ましい。当該温度を5℃以上高くすることにより、処方通りの組成を得ることができる。
【0040】
前記熟成を行った後は、室温に戻した後、水と1級アルコールとの混合溶液で前記熟成後の溶液を洗浄し、その後、1級アルコールで沈殿化処理を施して沈殿物を生成させ、該沈殿物を有機溶媒で分散させる洗浄・精製工程を設けることが好ましい。かかる洗浄・精製工程を設けることにより、不純物が除去され、純粋な無機ナノ粒子分散液を得ることができる。
上記洗浄および精製は、少なくともそれぞれ1回、好ましくは、それぞれ2回以上行うことが好ましい。
【0041】
洗浄、精製で用いられる1級アルコールは、特に限定されるものではないが、メタノール、エタノール等が好ましい。水と1級アルコールの体積混合比(水/1級アルコール)は、10/1〜2/1の範囲にあることが好ましく、5/1〜3/1の範囲にあることがより好ましい。水の比率が高いと、界面活性剤が除去されにくくなることがあり、逆に1級アルコールの比率が高いと、凝集を起こしてしまうことがある。
【0042】
以上のようにして、溶液中に分散した無機ナノ粒子が得られる。当該無機ナノ粒子は、単分散であるため、支持体に塗布しても、これらが凝集することなく均一に分散した状態を保つことができる。
【0043】
本発明における、アニール前の無機ナノ粒子の粒径は、逆ミセル中の水滴径によって制御可能であり、水滴径は、HO/界面活性剤のモル比を変更することで変化し、HO/界面活性剤のモル比が大きいと粒径は大きく、逆にHO/界面活性剤のモル比が小さいと粒径は小さくなる。
【0044】
本発明によって得られた無機ナノ粒子の粒径評価は、粒子を電子顕微鏡(TEM)用のメッシュに載せて撮影したネガを、カールツァイス社製のKS−300の解析ソフトを用いて測定することで可能である。数平均粒径、粒径の変動係数および合一粒子の存在率について比較できる。
【実施例】
【0045】
以下に実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、組成比、合成法、媒体作製法などは、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0046】
<逆ミセル液>
〔実施例1〕
L−アスコルビン酸の2質量%水溶液12ml(アスコルビン酸1.36ミリモル、水0.65モル)に、エーロゾルOT(商品名、東京化成(株)製)12g(0.027モル)をデカン(和光純薬(株)製)120ml(87.6g、0.62モル)に溶解したデカン溶液を添加し、さらに、1−ヘキサノールを1.3ml(1.07g、0.011モル)混合して全容積145mlの逆ミセル溶液(A)を調製した。以降、溶解度パラメータの差(25℃)=(親水性有機溶媒の溶解度パラメータ)−(疎水性有機溶媒の溶解度パラメータ)、無機性値/有機性値比の差=(親水性有機溶媒の無機性値/有機性値比)−(界面活性剤の無機性値/有機性値比)で示すこととする。この式より、溶解度パラメータの差は2.6、無機性値/有機性値比の差は−0.1である。1−ヘキサノールは全容積1リットル当り、76ミリモルである。ここでの親水性有機溶媒のモル数は、(親水性有機溶媒の添加量mol数)/(逆ミセル形成に使用する水の体積+逆ミセル形成に使用する疎水性有機溶媒の体積+親水性有機溶媒の体積)という計算に基づいて算出したものである。
【0047】
〔実施例2〕
L−アスコルビン酸の1質量%水溶液の量を24mlにする以外は、実施例1と同様にして、逆ミセル液(B)を調製した。溶解度パラメータの差は2.6、無機性値/有機性値比の差は−0.1である。1−ヘキサノールは全容積1リットル当り、70ミリモルである。
【0048】
〔実施例3〕
実施例1に対して、1−ヘキサノール1.3mlを1−ブタノール1mlにする以外は、実施例1と同様にして、逆ミセル液(C)を調製した。溶解度パラメータの差は3.5、無機性値/有機性値比の差は0.4である。1−ブタノールは全容積1リットル当り、76ミリモルである。
【0049】
〔実施例4〕
実施例1に対して、1−ヘキサノール1.3mlを1−オクタノール1.7mlにする以外は実施例1と同様にして、逆ミセル液(D)を調製した。溶解度パラメータの差は1.7、無機性値/有機性値比の差は−0.3である。1−オクタノールは全容積1リットル当り、75ミリモルである。
【0050】
〔実施例5〕
実施例1に対して、1−ヘキサノール1.3mlをベンジルアルコール1.1mlにする以外は実施例1と同様にして、逆ミセル液(E)を調製した。溶解度パラメータの差は3.9、無機性値/有機性値比の差は−0.1である。ベンジルアルコールは全容積1リットル当り、76ミリモルである。
【0051】
〔実施例6〕
実施例1に対して、デカン120mlをオクタン120ml(84g、0.74mol)にする以外は実施例1と同様にして、逆ミセル液(F)を調製した。溶解度パラメータの差は2.7、無機性値/有機性値比の差は−0.1である。1−ヘキサノールは全容積1リットル当り、76ミリモルである。
【0052】
〔比較例1〕
実施例1に対して、親水性有機溶媒を添加しない逆ミセル液(a)を調製した。
【0053】
〔比較例2〕
実施例1に対して、1−ヘキサノール1.3mlを9.6ml(7.87g、0.077モル)にする以外は実施例1と同様にして、全容積152mlの逆ミセル液(b)を調製した。1−ヘキサノールは全容積1リットル当り507ミリモルである。
【0054】
〔逆ミセル液の評価〕
実施例の逆ミセル液(A)〜(F)および比較例の逆ミセル液(a)、(b)について、マグネチックスターラーで30分攪拌した後、静置して逆ミセルが相分離するかどうか調べた。
その結果、本発明に相当する実施例の逆ミセル液(A)〜(F)は約1ヶ月静置しても相分離することはなかった。一方、比較例の逆ミセル液(a)および(b)は数時間で相分離した。これにより、本発明の逆ミセル液は非常に安定であることが明らかとなった。
【0055】
<無機ナノ粒子分散液>
〔実施例7〕
高純度Nガス中で下記の操作を行った。
三シュウ酸三アンモニウム鉄(Fe(NH(C)(和光純薬(株)製)0.30gと塩化白金酸カリウム(KPtCl)(和光純薬(株)製)0.29gとをHO(脱イオンおよび脱酸素処理済み)36mlに溶解した金属塩水溶液に、エーロゾルOT(商品名、東京化成(株)製)12gをデカン(和光純薬(株)製)120mlに溶解したアルカン溶液および1−ヘキサノール1.3ml(1.07g、10.5ミリモル)を添加、混合して、全容積169mlの逆ミセル溶液(I)を調製した。
【0056】
NaBH(和光純薬(株)製)0.48gをHO(脱酸素処理済み)36mlに溶解した還元剤水溶液に、エーロゾルOT12gをデカン120mlに溶解したアルカン溶液および1−ヘキサノール1.3mlを添加、混合して、全容積169mlの逆ミセル溶液(II)を調製した。
【0057】
NaBH0.12gを8質量%のNaOH5ml+HO(脱酸素処理済み)4mlに溶解した還元剤水溶液に、エーロゾルOT3gをデカン30mlに溶解したアルカン溶液および1−ヘキサノール0.33ml(0.27g、2.65ミリモル)を添加、混合して、全容積42mlの逆ミセル溶液(III)を調製した。
【0058】
L−アスコルビン酸(和光純薬(株)製)0.09gを8質量%のNaOH5ml+HO(脱酸素処理済み)4mlに溶解した還元剤水溶液に、エーロゾルOT3gをデカン30mlに溶解したアルカン溶液および1−ヘキサノール0.33mlを添加、混合して、全容積42mlの逆ミセル溶液(IV)を調製した。
【0059】
NaBH0.12gを8質量%のNaOH1ml+HO(脱酸素処理済み)8mlに溶解した還元剤水溶液に、エーロゾルOT3gをデカン30mlに溶解したアルカン溶液および1−ヘキサノール0.33mlを添加、混合して、全容積42mlの逆ミセル溶液(V)を調製した。
【0060】
逆ミセル溶液(II)を22℃に設定し、テフロン(登録商標)製羽根を用いて300rpmの回転で攪拌しながら、逆ミセル溶液(I)を3分間で添加した。スタートから7分後に逆ミセル溶液(III)を添加した。また、スタートから9分後にオレイルアミン(東京化成(株)製)3mLを添加した。さらに、スタートから11分後に逆ミセル溶液(IV)を瞬時に添加した。スタートから13分後に、40℃に昇温した後、180分間熟成した。熟成途中60分で逆ミセル溶液(V)を添加した。
【0061】
室温に冷却後、オレイン酸(和光純薬(株)製)3mlを添加、混合して、大気中に取出した。逆ミセルを破壊するために、HO450mlとメタノール450mlとの混合液を添加して水相と油相とに分離した。油相側にナノ粒子が分散した状態が得られた。油相側をHO900ml+メタノール300mlで1回洗浄した。その後、上澄み液にエタノールを300ml添加して、3000rpm、10分間遠心分離してナノ粒子を沈降させた。上澄み液を除去して、ヘプタン(和光純薬(株)製)40mlを添加して再分散した。さらに、エタノール40ml添加して、前記と同様の遠心分離操作を行ってナノ粒子を沈降させた。この操作をさらに2回行い最終的にヘプタン15ml、オクチルアミン75μlおよびオレイン酸75μlを添加してFePtナノ粒子分散液(G)を得た。
【0062】
〔実施例8〕
実施例7に対し、逆ミセル溶液(I)および逆ミセル溶液(II)の1−ヘキサノールを1−オクタノール各1.7ml、逆ミセル溶液(III)〜(V)の1−ヘキサノールを1−オクタノール各0.43mlに変える以外は、実施例7と同様に行い、FePtナノ粒子分散液(H)を得た。
【0063】
〔比較例3〕
実施例7に対し、逆ミセル溶液(I)〜(V)の1−ヘキサノールを除去する以外は実施例7と同様に行い、FePtナノ粒子分散液(c)を得た。
【0064】
〔比較例4〕
実施例7に対し、逆ミセル溶液(I)および(II)の1−ヘキサノールを各12ml、逆ミセル溶液(III)〜(V)の1−ヘキサノールを各3.05mlに変える以外は、実施例7と同様に行い、FePtナノ粒子分散液(d)を得た。
【0065】
〔比較例5〕
実施例7に対し、逆ミセル溶液(I)〜(V)の1−ヘキサノールをメタノール(溶解度パラメータ:13.9、無機性値/有機性値比:5)に変える以外は、実施例7と同様に行い、FePtナノ粒子分散液(e)を得た。
【0066】
〔実施例9〕
高純度Nガス中で下記の操作を行った。
塩化金酸ナトリウム(Na(AuCl)・2HO)(和光純薬(株)製)0.80gをHO(脱イオンおよび脱酸素処理済み)18mlに溶解した金属塩水溶液に、エーロゾルOT(商品名、東京化成(株)製)12gをデカン(和光純薬(株)製)120mlに溶解したアルカン溶液および1−ヘキサノール1.3ml(1.07g、10.5ミリモル)を添加、混合して、全容積151mlの逆ミセル溶液(I)を調製した。
【0067】
NaBH(和光純薬(株)製)0.57gをHO(脱酸素処理済み)18mlに溶解した還元剤水溶液に、エーロゾルOT12gをデカン120mlに溶解したアルカン溶液および1−ヘキサノール1.3mlを添加、混合して、全容積151mlの逆ミセル溶液(II)を調製した。
【0068】
NaBH0.14gを8質量%のNaOH1ml+HO(脱酸素処理済み)3.5mlに溶解した還元剤水溶液に、エーロゾルOT3gをデカン30mlに溶解したアルカン溶液および1−ヘキサノール0.33ml(0.27g、2.65ミリモル)を添加、混合して、全容積38mlの逆ミセル溶液(III)を調製した。
【0069】
逆ミセル溶液(II)を22℃に設定し、テフロン(登録商標)製羽根を用いて250rpmの回転で攪拌しながら、逆ミセル溶液(I)を瞬時に添加した。スタートから4分後に逆ミセル溶液(III)を添加した。また、スタートから6分後にオレイルアミン(東京化成(株)製)3mLを添加した。さらに、スタートから8分後に、40℃に昇温した後、120分間熟成した。
【0070】
室温に冷却後、1−ドデカンチオール(和光純薬(株)製)2mlを添加、混合して、大気中に取出した。逆ミセルを破壊するために、HO450mlとメタノール450mlとの混合液を添加して水相と油相とに分離した。油相側に金属ナノ粒子が分散した状態が得られた。油相側をHO900ml+メタノール300mlで1回洗浄した。その後、上澄み液にエタノールを300ml添加して、3000rpm、10分間遠心分離してナノ粒子を沈降させた。上澄み液を除去して、ヘプタン(和光純薬(株)製)40mlを添加して再分散した。さらに、エタノール40ml添加して、前記と同様の遠心分離操作を行ってナノ粒子を沈降させた。この操作をさらに2回行い最終的にヘプタン15mlを添加してAuナノ粒子分散液(J)を得た。
【0071】
〔比較例6〕
実施例9に対し、逆ミセル溶液(I)〜(III)の1−ヘキサノールを除去する以外は実施例9と同様に行い、Auナノ粒子分散液(f)を得た。
【0072】
〔実施例10〕
塩化亜鉛(ZnCl)(和光純薬(株)製)0.68gをHO(脱イオンおよび脱酸素処理済み)36mlに溶解した金属塩水溶液に、エーロゾルOT(商品名、東京化成(株)製)12gをデカン(和光純薬(株)製)120mlに溶解したアルカン溶液および1−ヘキサノール1.3ml(1.07g、10.5ミリモル)を添加、混合して、全容積169mlの逆ミセル溶液(I)を調製した。
【0073】
NaOH(和光純薬(株)製)1.6gをHO(脱酸素処理済み)35mlに溶解した還元剤水溶液に、エーロゾルOT12gをデカン120mlに溶解したアルカン溶液および1−ヘキサノール1.3mlを添加、混合して、全容積169mlの逆ミセル溶液(II)を調製した。
【0074】
逆ミセル溶液(II)を22℃に設定し、テフロン(登録商標)製羽根を用いて250rpmの回転で攪拌しながら、逆ミセル溶液(I)を瞬時に添加した。スタートから8分後に、60℃に昇温した後、120分間熟成した。
【0075】
室温に冷却後、逆ミセルを破壊するために、HO200mlとメタノール200mlとの混合液を添加して水相と油相とに分離した。水相側にナノ粒子が分散した状態が得られた。水相側を取り出し、ヘプタン300ml+メタノール300mlで2回洗浄した。その後、水相側にHOを添加しながら限外ろ過して不純物を極力除去した。最終的にZnOナノ粒子分散液(K)を得た。伝導度は、HORIBA 480Cにより25℃で測定したところ、30μS/cmであった。
【0076】
〔比較例7〕
実施例10に対し、逆ミセル溶液(I)および(II)の1−ヘキサノールを除去する以外は実施例10と同様に行い、ZnOナノ粒子分散液(g)を得た。
【0077】
〔比較例8〕
実施例10に対し、逆ミセル溶液(I)および(II)の1−ヘキサノールをメタノールに変える以外は実施例10と同様に行い、ZnOナノ粒子分散液(h)を得た。
【0078】
<無機ナノ粒子の評価>
実施例の無機ナノ粒子分散液(G)、(H)、(J)、(K)および比較例の無機ナノ粒子分散液(c)〜(h)について、各粒子を電子顕微鏡(TEM)用のメッシュに載せて撮影したネガをカールツァイス社製のKS−300の解析ソフトを用いて測定し、数平均粒径、粒径の変動係数および合一粒子の存在率について比較した。
表1から明らかなように、本発明の無機ナノ粒子分散液(G)〜(J)のナノ粒子は比較例の無機ナノ粒子分散液(c)〜(h)のナノ粒子に対し、粒径の変動係数が小さく、合一粒子の存在率も低かった。
【0079】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、疎水性有機溶媒と、界面活性剤と、前記疎水性有機溶媒を基準にして溶解度パラメータの差が0〜5の親水性有機溶媒とを含み、前記親水性有機溶媒が、全容積1リットル当り2ミリモル〜300ミリモルである逆ミセル液。
【請求項2】
水と、疎水性有機溶媒と、界面活性剤と、前記界面活性剤を基準にして無機性値/有機性値比の差が±1.5以内である親水性有機溶媒とを含み、前記親水性有機溶媒が、全容積1リットル当り2ミリモル〜300ミリモルである逆ミセル液。
【請求項3】
前記界面活性剤が、前記疎水性有機溶媒1リットルに対して50ミリモル〜500ミリモル含有することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の逆ミセル液。
【請求項4】
前記水が、界面活性剤1モルに対して1モル〜300モルであることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項記載の逆ミセル液。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか1項記載の逆ミセル液を利用して製造されることを特徴とする無機ナノ粒子。
【請求項6】
請求項1〜請求項4のいずれか1項記載の逆ミセル液を使用することを含む無機ナノ粒子の製造方法。

【公開番号】特開2009−82828(P2009−82828A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−256643(P2007−256643)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】