説明

透光型表示体の製造方法

【課題】加飾層を目的とする色味に容易に形成することができ、さらに透光性基材表面の荒れも防止できるようにした、透光型表示体の製造方法を提供する。
【解決手段】透光性基材1の一の面1a(3a)側に下地層4を有し、下地層4上に加飾層5を有してなる積層構造体6に対して、透光性基材1の一の面1a(3a)と対向する側の面1bからレーザー光7を照射し、下地層4及び加飾層5を選択的に除去することにより、透光型表示体を製造する方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透光型表示体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機や電卓等の携帯製品などでは、押しボタン構造のキーパッド(表示体)を備えたものが知られている。このようなキーパッドとして、文字やアイコンの形状を透光させることで、これら文字やアイコンを視認可能にしたものが提案されている。
このようなキーパッドを製造するには、光透過性樹脂で形成したボタン基材の表面に塗装膜を形成し、レーザー光の照射によって文字等の形状に塗装膜(加飾層)を除去する方法が用いられている。
【0003】
ところが、前記塗装膜が例えば白色塗料などの、光を吸収し難く反射し易い遮光性の材料からなっている場合、この塗装膜がレーザー光を反射してしまい、目的の形に塗装膜(加飾層)を除去するのが困難になる。
また、仮に塗装膜(加飾層)を除去することができたとしても、塗装膜自体の光隠蔽性が低い場合には、レーザー光によって抜かれた箇所以外からも光が透過してしまうため、表示体(キーパッド)として表示性能が低下してしまう。
【0004】
そこで、レーザー光の吸収性向上と周囲の光隠蔽性向上の目的で、透光性の基材上に光隠蔽性の高い黒色等の下地層を設け、この下地層上に加飾層(表面着色層)を設け、その後、加飾層にレーザー光を照射し、加飾層と同時にその直下の下地層を取り除く方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−172378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記特許文献1の技術では、以下に述べる改善すべき課題がある。
前記の技術では、レーザー光を吸収させるべく加飾層(表面着色層)の下に下地層を形成して2層塗りを行っているため、加飾層はレーザー光をある程度透過させる必要上、遮光性が低くなるように例えばその層厚を薄くする必要がある。したがって、加飾層は光隠蔽性が低くなるため、形成された表示体(キーパッド)はその外観的色味が、加飾層の塗料自体の色とは異なり、下地層を透過した色になってしまう。すなわち、加飾層を黒系以外の光隠蔽性が低い塗料で形成した場合、この加飾層が視認される色味は、下地色が透過した色、つまり加飾層に下地層の色が加えられた色味になってしまう。したがって、目的とする色味の外観を有する表示体(キーパッド)の製造が非常に困難になっている。
【0007】
また、前記の技術において、文字やアイコンの形状をより鮮明(クリア)に形成する(抜く)には、レーザー光を2回照射するのが望ましい。これは、1回の照射では塗装膜がきれいに除去しきれないからである。しかし、このように2回照射を行うと、1回照射に比べて加工工数が倍になり生産性が低下するとともに、既に除去された箇所にもレーザー光が照射されるため、透光性基材表面を荒らしてしまうおそれがある。
【0008】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、加飾層を目的とする色味に容易に形成することができ、さらに透光性基材表面の荒れも防止できるようにした、透光型表示体の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため本発明の透光型表示体の製造方法は、透光性基材の一の面側に下地層を有し、該下地層上に加飾層を有してなる積層構造体に対して、前記透光性基材の前記一の面と対向する側の面からレーザー光を照射し、前記下地層及び前記加飾層を選択的に除去することを特徴としている。
【0010】
この透光型表示体の製造方法によれば、透光性基材の一の面と対向する側の面(例えば一の面の裏面)からレーザー光を照射し、これによって該対向する側の面から透光性基材を透過させて前記一の面側の下地層にレーザー光を照射するようにしたので、加飾層を透過させることなく透光性基材を介して下地層に直接レーザー光を選択的に照射することができ、したがって下地層を選択的に焼却除去するともに、この下地層の直上に位置する加飾層も共に焼却除去することができる。
よって、加飾層についてはその遮光性の高低に関係なく下地層と共に焼却除去できるため、例えば遮光性の高い白色の塗料であっても支障なく用いることができ、しかも下地層の色に影響されずに目的とする色味が出せるよう、例えば厚さを十分に厚くすることで塗料単体の色味を出すことができる。
また、下地層に直接レーザー光を照射するため、加飾層を介して下地層にレーザー光を照射する場合に比べ、照射パワーを低く設定することが可能になり、したがって、レーザー光の照射回数を1回にしても下地層、加飾層を共にきれいに除去することが可能になり、透光性基材表面を荒らしてしまうおそれが解消される。
【0011】
また、前記製造方法において、前記加飾層は、前記レーザー光に対して遮光性を有するものであってもよく、例えば白色塗料からなっていてもよい。
前述したように、加飾層が例えば遮光性の高い白色の塗料であっても、支障なく用いることができる。したがって、例えば従来の技術では困難であった白色の色味を、単に目的とする色味の白色塗料を用いるだけで実現することができる。
【0012】
また、前記製造方法において、前記一の面と、該一の面と対向する側の面とは、互いに表裏の位置関係にあるのが好ましい。
このようにすれば、レーザー光を照射する際、目的とする除去箇所に対して垂直にレーザー光を照射することにより、透光性基材を透過する際の屈折にほとんど影響されることなく、目的とする文字やアイコン等の形状を容易に選択的除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の製造方法の一実施形態を説明するための要部側断面図である。
【図2】本発明の製造方法の一実施形態を説明するための要部側断面図である。
【図3】本発明の製造方法の一実施形態を説明するための要部側断面図である。
【図4】本発明の製造方法の一実施形態を説明するための要部側断面図である。
【図5】本発明の製造方法の他の実施形態を説明するための要部側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明を詳しく説明する。なお、以下の図面においては、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
本発明は、携帯電話機や電卓等の携帯製品などにおける、押しボタン構造のキーパッドなどの表示体に係るもので、特に文字やアイコンの形状を透光させることにより、これら文字やアイコンを視認可能にした透光型表示体の、製造方法である。
【0015】
図1〜図4は、前記した本発明の製造方法の一実施形態を説明するための要部側断面図である。
本実施形態では、まず、図1に示すように透光性基材1を用意する。この透光性基材1は、キーパッド形状に成形されたアクリル樹脂等の透明樹脂からなるもので、平板部2と、この平板部2上に設けられた側面が矩形状の凸部3と、からなるものである。
【0016】
凸部3は、押圧する部分、すなわちボタン部となるもので、これを押圧することにより、平板部2を介してキーパッドに対応する携帯電話機等の押圧部(図示せず)を押圧するようになっている。したがって、この凸部3が、文字やアイコンの形状を透光させてこれらを視認可能にする、透光型の表示体(表示要素)となる箇所となり、本実施形態において加工対象部分となる。なお、この凸部3は透明であり、後述するようにレーザー光を透過させる透光性であることから、その厚さについては特に限定されることなく、任意の厚さとされる。
【0017】
次に、前記透光性基材1の一の面1a側、本実施形態では凸部3を形成した側の面1a全体に、下地層4を形成する。下地層4の形成材料としては、光吸収性が高く、遮光性や光反射性が低いものが好適とされ、例えば黒色や灰色、銀色(シルバー)などの塗料が好適に用いられる。塗装方法としては、レシプロ、エアー、ロータリー、印刷など公知の手法が採用可能である。
【0018】
膜厚については、特に限定されないものの、0.01mm〜0.1mm程度とされる。0.01mm未満では、膜厚を均一に形成するのが難しくなり、後述するようにレーザー光を照射した際、光吸収性にむらが生じるおそれがあるからである。また、0.1mmを超えると、これを所望形状に抜く際の照射するレーザー光のパワーを大きくする必要があり、1回の照射で加工が終了できなくなったり、透光性基材1の表面を荒らすおそれがあるからである。
【0019】
次いで、この下地層4上に、図2に示すように加飾層5を形成する。加飾層5の形成材料としては、この加飾層5がキーパッド、すなわち本発明に係る透光型表示体の外観部を形成することから、目的とする色味の塗料が用いられる。例えば、白色等の遮光性が高く光反射性が高いものも、十分使用可能である。塗装方法としては、下地層4の場合と同様、レシプロ、エアー、ロータリー、印刷など公知の手法が採用可能である。
【0020】
膜厚については、特に限定されないものの、0.01mm〜0.15mm程度とされる。0.01mm未満では、白色塗料等の光遮蔽性の低い材料を用いた場合に、下地層4の色が加飾層5に影響を与えてしまい、目的とした色味の外観が得られなくなるおそれがあるからである。また、0.15mmを超えると、これを所望形状に抜く際の照射するレーザー光のパワーを大きくする必要があり、1回の照射で加工が終了できなくなったり、透光性基材1の表面を荒らすおそれがあるからである。
【0021】
このようにして透光性基材1上に下地層4、加飾層5を積層し、積層構造体6を形成したら、図3に示すようにこの積層構造体6に対して、図示しないレーザー光源からレーザー光7を、目的とする文字等の形状になぞって選択的に照射する。本実施形態では、透光性基材1の一の面1aに対向する面1b、すなわち凸部3を形成した側の面の裏側の面からレーザー光7を照射する。なお、本実施形態では、実際の加工対象となる面は凸部3における上面3aであり、したがって本発明における一の面は、この上面3aとなる。よって、この凸部3を形成した側の面の裏側の面(裏面)1b全体が、一の面である上面3aに対向した面となる。
【0022】
照射するレーザー光7としては、YAG(YVO)レーザー(波長;1064nm)が好適に用いられる。出力(パワー)については、積層構造体6の材質や厚さ等に応じて適宜に決定される。また、レンズ等の光学系を用い、照射位置や照射スポットの径などの調整を行ってもよいのはもちろんである。
【0023】
レーザー光7の照射に際しては、文字やアイコンの形状になぞって照射スポットを走査(移動)させつつ行う。また、レーザー光7の入射角度については、目的とする文字等の形成位置に対して垂直に入射するよう、透光性基材1の裏面(対向する面)1bに対して垂直に入射させるのが好ましい。このように裏面1bに対して垂直に入射させることにより、透光性基板1に入射する際の屈折や出射する際の屈折の影響をほとんど受けることがなくなり、目的とする位置にレーザー光7を正確に入射させることができる。なお、透光性基材1の裏面1b側に遮光性の部材が設けられている場合には、屈折率を考慮したうえで、レーザー光7を斜めから入射させるようにしてもよい。
また、レーザー光7の焦点については、下地層4上となるように調整する。
【0024】
このようにしてレーザー光7を走査させつつ入射すると、レーザー光7は透光性基材1を透過して下地層4を照射する。すると、下地層4は例えば光吸収性が高く、遮光性や光反射性が低い黒色塗料等によって形成されているので、良好にレーザー光を吸収して発熱し、自身が焼却除去される。また、この下地層4の直上に位置する加飾層5も、下地層4の発熱によって加熱されることにより、この加飾層5も下地層4と共に焼却除去される。
【0025】
よって、選択的にレーザー光7が照射された位置の下地層4と、この下地層4の直上に位置する加飾層5とが共に焼却除去されることにより、積層構造体6には、図4に示すように文字等の形状に抜かれた透光部8が形成される。そして、この透光部8が、透光性基材1側からの透光を可能にすることで、その形状に対応した文字やアイコンが視認可能になる。したがって、このような透光部8を形成することにより、この透光部8を有する凸部3を備えた、本発明に係る透光型表示体9を得ることができる。
【0026】
このような透光型表示体9の製造方法にあっては、レーザー光7を透光性基材1の裏面1b側から照射し、透光性基材1を介してレーザー光7を下地層4に直接照射するようにしたので、加飾層5についてはその遮光性の高低に関係なく、下地層4と共に焼却除去することができる。したがって、加飾層5の形成材料として、例えば遮光性の高い白色の塗料でも支障なく用いることができ、しかも下地層4の色に影響されずに目的とする色味を出すことができる。
【0027】
また、従来のように加飾層5を介して下地層4にレーザー光7を照射する場合に比べ、レーザー光7の照射パワーを低く設定することが可能になり、したがって、レーザー光7の照射回数を1回にしても下地層4、加飾層5を共にきれいに除去することができる。よって、生産性を向上することができるとともに、透光性基材1表面を荒らしてしまうことも防止することができる。
【0028】
なお、本発明は前記実施形態に限定されることなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
例えば、前記実施形態では、透光性基材1として、凸部3の側面形状が矩形のものを用いたが、図1中二点鎖線で示すように、その側面形状が台形状であってもよい。その場合には、上面3aだけではなく、側面3bについても、レーザー光7の照射によって文字等の形状からなる前記透光部を形成することができる。その際にも、透光性基材1の裏面1bは、これら側面3b(一の面)に対して対向する面となるため、この裏面1bからレーザー光7を照射することにより、透光部を形成することができる。
【0029】
また、前記実施形態では、透光性基材1として、平板部2と凸部3とを形成したものを用いたが、図5に示すように単に平板状の透光性基材10を用いることもできる。このような透光性基材10に対し、その一の面(表面)10a上に下地層4、加飾層5を形成し、得られた積層構造体に対して透光性基材10の裏面10b側からレーザー光を照射することにより、文字等に対応した透光部8を形成することができる。このようにして得られた透光型表示体は、例えば静電パッド式の操作パネルとして好適に用いることができる。
【0030】
(実験例)
図5に示す構造の透光型表示体を、以下のようにして形成した。
まず、厚さ1.0mmの平板状の透明アクリル樹脂からなる透光性基材10の一方の面に、黒色塗料(ニッペホーム株式会社製;ラッカースプレーEXE つやなしブラック[成分;ニトロセルロース、合成樹脂(アルキド) 顔料 有機溶剤])をスプレー法で厚さ0.02mm〜0.05mm程度に塗装し、下地層4を形成した。
続いて、この下地層4上に、白色塗料(株式会社カンペハピオ製;ラッカースプレー白[成分;ニトロセルロース、合成樹脂(アクリル) 顔料 有機溶剤])をスプレー法で厚さ0.03mm〜0.06mm程度に塗装し、加飾層5を形成した。
【0031】
その後、このようにして形成した積層構造体に対し、本発明の方法と、従来の方法とでそれぞれレーザー光を照射し、透光部を形成した。レーザー光の照射には、株式会社キーエンスの「レーザーマーカー MD−V9900」を用い、YAGレーザー(波長;1064nm)を照射した。また、レーザー光の走査スピードは600〜1200mm/sec、パワーは20%、35%、50%、65%、80%(ただし、100%を13Wとする)、周波数は30Hzとした。
【0032】
このような条件のもとで、従来の方法では加飾層5側からレーザー光を照射し、一方、本発明の方法では透光製基材10の裏面10b側からレーザー光を照射した。
すると、本発明の方法では、パワーを20%、35%、50%、65%、80%とした場合の、いずれの条件でも、一回のレーザー光照射で透光部8をきれいに形成することができた。また、レーザー光を二回照射した場合にも、一回の場合と同様に透光部8をきれいに形成することができた。
【0033】
これに対して従来の方法では、パワーを20%、35%、50%、65%、80%とした場合の、いずれの条件でも、一回のレーザー光照射では透光部8をきれいに形成することができなかった。また、レーザー光を二回照射した場合には、パワーを65%、80%としたときには比較的に透光部8をきれいに形成することができた。
したがって、本発明の方法では、従来の方法に比べ、一回のレーザー照射でも、その照射パワーを上げることなく、透光部8をきれいに形成できることが確認された。
【符号の説明】
【0034】
1…透光性基材、1a…一の面、1b…対向する面(対向する側の面、裏面)、3…凸部、3a…上面(一の面)、4…下地層、5…加飾層、6…積層構造体、7…レーザー光、8…透光部、9…透光型表示体、10…透光性基材、10a…一の面、10b…裏面(対向する側の面)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性基材の一の面側に下地層を有し、該下地層上に加飾層を有してなる積層構造体に対して、前記透光性基材の前記一の面と対向する側の面からレーザー光を照射し、前記下地層及び前記加飾層を選択的に除去することを特徴とする透光型表示体の製造方法。
【請求項2】
前記加飾層は、前記レーザー光に対して遮光性を有することを特徴とする請求項1記載の透光型表示体の製造方法。
【請求項3】
前記加飾層は、白色塗料からなることを特徴とする請求項2記載の透光型表示体の製造方法。
【請求項4】
前記一の面と、該一の面と対向する側の面とは、互いに表裏の位置関係にあることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の透光型表示体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−141957(P2011−141957A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−439(P2010−439)
【出願日】平成22年1月5日(2010.1.5)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】