説明

透明ポリオレフィン系シート状成形体、及びその製造方法

【課題】粘着性を有し、透明性及び耐加水分解性に優れるポリオレフィン系シート状成形体を提供する。
【解決手段】低結晶性ポリプロピレンを50〜100重量%及び軟化剤を0〜50重量%含むポリプロピレン樹脂組成物をシート状に熱成形して、熱成形シートとし、前記熱成形シートを−20℃以上40℃以下に急冷して、急冷シートとし、前記急冷シートを70℃以上100℃以下で熱処理して得られる、透明ポリオレフィン系シート状成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明ポリオレフィン系シート状成形体、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粘着材は、日用品、工業品等の多くの分野で使用されており、特にアクリル系粘着剤及びゴム系粘着剤が、様々な用途に広く使われる。近年、ディスプレイ等の光学部品にも透明粘着材が使用されているが、ゴム系粘着材は透明性、耐光性及び耐熱性に劣るため、その多くはアクリル系粘着材であった。
しかしながら、アクリル系粘着材は、酸性官能基、エステル基等を有する成分を含むため、加水分解が発生することで白濁、変色、腐食等が生じ、化学的安定性及び耐加水分解性に劣る問題があった。
【0003】
特許文献1は、低腐食性アクリル系粘着剤を開示するが、アクリル基を有する成分を含むため、上記の化学的安定性及び耐加水分解性の本質的に解決はできていない。特許文献2は、結晶化度が10%以下である炭素原子数2〜12のα−オレフィン共重合体からなる粘着材を使用した粘着フィルムを開示するが、透明性が考慮されておらず、光学部品に使用できない。特許文献3は、透明ポリプロピレンシートを開示するが、粘着性がないため粘着剤として使用できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−215923号公報
【特許文献2】特開平7−233354号公報
【特許文献3】特開2003−170485号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、粘着性を有し、透明性及び耐加水分解性に優れるポリオレフィン系シート状成形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、以下の粘着性を有する透明ポリオレフィン系シート状成形体等が提供される。
1.下記(a)及び(b)を満たす低結晶性ポリプロピレンを50〜100重量%及び軟化剤を0〜50重量%含むポリプロピレン樹脂組成物をシート状に熱成形して、熱成形シートとし、
前記熱成形シートを−20℃以上40℃以下に急冷して、急冷シートとし、
前記急冷シートを70℃以上100℃以下で熱処理して得られる、透明ポリオレフィン系シート状成形体。
[低結晶性ポリプロピレン]
(a)示差走査型熱量計(DSC)を用いて、窒素雰囲気下−30℃で5分間保持した後10℃/分で昇温させることにより得られた融解吸熱カーブの最も高温側に観測されるピークのピークトップとして定義される融点(Tm−D)が0〜120℃である
(b)立体規則性指数([mm])が50〜90モル%である。
2.下記(a)及び(b)を満たす低結晶性ポリプロピレンを50〜100重量%及び軟化剤を0〜50重量%含むポリプロピレン樹脂組成物を炭化水素系溶剤に溶解し、炭化水素系溶剤に溶解したポリプロピレン樹脂組成物をシート状基材上に塗布及び乾燥して塗膜を形成し、塗膜を溶融して溶融シート積層体とし、
前記溶融シート積層体を−20℃以上40℃以下に急冷して、急冷シート積層体とし、
前記急冷シート積層体を70℃以上100℃以下で熱処理し、シート状基材を剥離して得られる、透明ポリオレフィン系シート状成形体。
[低結晶性ポリプロピレン]
(a)示差走査型熱量計(DSC)を用いて、窒素雰囲気下−30℃で5分間保持した後10℃/分で昇温させることにより得られた融解吸熱カーブの最も高温側に観測されるピークのピークトップとして定義される融点(Tm−D)が0〜120℃である
(b)立体規則性指数([mm])が50〜90モル%である。
3.前記低結晶性ポリプロピレンが、下記(c)〜(h)の全てを満たす1又は2に記載の粘着性を有する透明ポリオレフィン系シート状成形体。
(c)[mmmm]=20〜60モル%
(d)[rrrr]/(1−[mmmm])≦0.1
(e)[rmrm]>2.5モル%
(f)[mm]×[rr]/[mr]≦2.0
(g)質量平均分子量(Mw)=10,000〜200,000
(h)分子量分布(Mw/Mn)<4
4.ヘイズが下記式を満たす1〜3のいずれかに記載の透明ポリオレフィン系シート状成形体。
1[%]>成形体のヘイズ値/(成形体の厚み[μm]/100)
5.下記(a)及び(b)を満たす低結晶性ポリプロピレンを50〜100重量%及び軟化剤を0〜50重量%含むポリプロピレン樹脂組成物をシート状基材上にシート状に熱成形して、熱成形シート積層体とし、
前記熱成形シート積層体を−20℃以上40℃以下に急冷して、急冷シート積層体とし、
前記急冷シート積層体を70℃以上100℃以下で熱処理して得られる、透明ポリオレフィン系シート状成形体とシート状基材を含む積層体。
[低結晶性ポリプロピレン]
(a)示差走査型熱量計(DSC)を用いて、窒素雰囲気下−30℃で5分間保持した後10℃/分で昇温させることにより得られた融解吸熱カーブの最も高温側に観測されるピークのピークトップとして定義される融点(Tm−D)が0〜120℃である
(b)立体規則性指数([mm])が50〜90モル%である。
6.下記(a)及び(b)を満たす低結晶性ポリプロピレンを50〜100重量%及び軟化剤を0〜50重量%含むポリプロピレン樹脂組成物を炭化水素系溶剤に溶解し、炭化水素系溶剤に溶解したポリプロピレン樹脂組成物をシート状基材上に塗布及び乾燥して塗膜を形成し、塗膜を溶融して溶融シート積層体とし、
前記溶融シート積層体を−20℃以上40℃以下に急冷して、急冷シート積層体とし、
前記急冷シート積層体を70℃以上100℃以下で熱処理して得られる、透明ポリオレフィン系シート状成形体とシート状基材を含む積層体。
[低結晶性ポリプロピレン]
(a)示差走査型熱量計(DSC)を用いて、窒素雰囲気下−30℃で5分間保持した後10℃/分で昇温させることにより得られた融解吸熱カーブの最も高温側に観測されるピークのピークトップとして定義される融点(Tm−D)が0〜120℃である
(b)立体規則性指数([mm])が50〜90モル%である。
7.前記低結晶性ポリプロピレンが、下記(c)〜(h)の全てを満たす5又は6に記載の透明ポリオレフィン系シート状成形体とシート状基材を含む積層体。
(c)[mmmm]=20〜60モル%
(d)[rrrr]/(1−[mmmm])≦0.1
(e)[rmrm]>2.5モル%
(f)[mm]×[rr]/[mr]≦2.0
(g)質量平均分子量(Mw)=10,000〜200,000
(h)分子量分布(Mw/Mn)<4
8.下記(a)及び(b)を満たす低結晶性ポリプロピレンを50〜100重量%及び軟化剤を0〜50重量%含むポリプロピレン樹脂組成物をシート状に熱成形して、熱成形シートとし、
前記熱成形シートを−20℃以上40℃以下に急冷して、急冷シートとし、
前記急冷シートを70℃以上100℃以下で熱処理する透明ポリオレフィン系シート状成形体の製造方法。
[低結晶性ポリプロピレン]
(a)示差走査型熱量計(DSC)を用いて、窒素雰囲気下−30℃で5分間保持した後10℃/分で昇温させることにより得られた融解吸熱カーブの最も高温側に観測されるピークのピークトップとして定義される融点(Tm−D)が0〜120℃である
(b)立体規則性指数([mm])が50〜90モル%である。
9.下記(a)及び(b)を満たす低結晶性ポリプロピレンを50〜100重量%及び軟化剤を0〜50重量%含むポリプロピレン樹脂組成物を炭化水素系溶剤に溶解し、炭化水素系溶剤に溶解したポリプロピレン樹脂組成物をシート状基材上に塗布及び乾燥して塗膜を形成し、塗膜を溶融して溶融シート積層体とし、
前記溶融シート積層体を−20℃以上40℃以下に急冷して、急冷シート積層体とし、
前記急冷シート積層体を70℃以上100℃以下で熱処理し、シート状基材を剥離する透明ポリオレフィン系シート状成形体の製造方法。
[低結晶性ポリプロピレン]
(a)示差走査型熱量計(DSC)を用いて、窒素雰囲気下−30℃で5分間保持した後10℃/分で昇温させることにより得られた融解吸熱カーブの最も高温側に観測されるピークのピークトップとして定義される融点(Tm−D)が0〜120℃である
(b)立体規則性指数([mm])が50〜90モル%である。
10.前記低結晶性ポリプロピレンが、下記(c)〜(h)の全てを満たす8又は9に記載の透明ポリオレフィン系シート状成形体の製造方法。
(c)[mmmm]=20〜60モル%
(d)[rrrr]/(1−[mmmm])≦0.1
(e)[rmrm]>2.5モル%
(f)[mm]×[rr]/[mr]≦2.0
(g)質量平均分子量(Mw)=10,000〜200,000
(h)分子量分布(Mw/Mn)<4
11.下記(a)及び(b)を満たす低結晶性ポリプロピレンを50〜100重量%及び軟化剤を0〜50重量%含むポリプロピレン樹脂組成物をシート状基材上にシート状に熱成形して、熱成形シート積層体とし、
前記熱成形シート積層体を−20℃以上40℃以下に急冷して、急冷シート積層体とし、
前記急冷シート積層体を70℃以上100℃以下で熱処理して得られる、透明ポリオレフィン系シート状成形体とシート状基材を含む積層体の製造方法。
[低結晶性ポリプロピレン]
(a)示差走査型熱量計(DSC)を用いて、窒素雰囲気下−30℃で5分間保持した後10℃/分で昇温させることにより得られた融解吸熱カーブの最も高温側に観測されるピークのピークトップとして定義される融点(Tm−D)が0〜120℃である
(b)立体規則性指数([mm])が50〜90モル%である。
12.下記(a)及び(b)を満たす低結晶性ポリプロピレンを50〜100重量%及び軟化剤を0〜50重量%含むポリプロピレン樹脂組成物を炭化水素系溶剤に溶解し、炭化水素系溶剤に溶解したポリプロピレン樹脂組成物をシート状基材上に塗布及び乾燥して塗膜を形成し、塗膜を溶融して溶融シート積層体とし、
前記溶融シート積層体を−20℃以上40℃以下に急冷して、急冷シート積層体とし、
前記急冷シート積層体を70℃以上100℃以下で熱処理する透明ポリオレフィン系シート状成形体とシート状基材を含む積層体の製造方法。
[低結晶性ポリプロピレン]
(a)示差走査型熱量計(DSC)を用いて、窒素雰囲気下−30℃で5分間保持した後10℃/分で昇温させることにより得られた融解吸熱カーブの最も高温側に観測されるピークのピークトップとして定義される融点(Tm−D)が0〜120℃である
(b)立体規則性指数([mm])が50〜90モル%である。
13.前記低結晶性ポリプロピレンが、下記(c)〜(h)の全てを満たす11又は12に記載の透明ポリオレフィン系シート状成形体とシート状基材を含む積層体の製造方法。
(c)[mmmm]=20〜60モル%
(d)[rrrr]/(1−[mmmm])≦0.1
(e)[rmrm]>2.5モル%
(f)[mm]×[rr]/[mr]≦2.0
(g)質量平均分子量(Mw)=10,000〜200,000
(h)分子量分布(Mw/Mn)<4
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、粘着性を有し、透明性及び耐加水分解性に優れるポリオレフィン系シート状成形体が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[第1の粘着性を有する透明ポリオレフィン系シート状成形体]
本発明の第1の粘着性を有する透明ポリオレフィン系シート状成形体は、低結晶性ポリプロピレンを50〜100重量%及び軟化剤を0〜50重量%含むポリプロピレン樹脂組成物を、シート状に熱成形して熱成形シートとし、得られた熱成形シートを−20℃以上40℃以下に急冷して急冷シートとし、得られた急冷シートを70℃以上100℃以下で熱処理することにより得られる。
【0009】
[低結晶性ポリプロピレン]
低結晶性ポリプロピレンは、下記(a)及び(b)を満たすポリプロピレンである
(a)示差走査型熱量計(DSC)を用いて、窒素雰囲気下−30℃で5分間保持した後10℃/分で昇温させることにより得られた融解吸熱カーブの最も高温側に観測されるピークのピークトップとして定義される融点(Tm−D)が0〜120℃である
(b)立体規則性指数([mm])が50〜90モル%である。
【0010】
(a)の融点(Tm−D)は、0〜120℃であり、好ましくは20〜100℃である。
低結晶性ポリプロピレンの融点(Tm−D)が120℃超の場合、ポリプロピレンの軟質性が十分ではなく、粘着強度が低く、結晶による白濁化がおこり透明性が悪くなるおそれがある。一方、低結晶性ポリプロピレンの融点(Tm−D)が0℃未満の場合、耐熱性が低くなり使用時に粘着面がずれるなどの変形が発生となるおそれがある。
【0011】
上記融点(Tm−D)は、例えば示差走査型熱量計(パーキン・エルマー社製、DSC−7)を用い、低結晶性ポリプロピレン10mgを窒素雰囲気下−30℃で5分間保持した後、10℃/分で昇温させることにより得られた融解吸熱カーブの最も高温側に観測されるピークのピークトップとして求めることができる。
また、上記により低結晶性ポリプロピレンのガラス転移温度Tgも測定可能である。
【0012】
(b)の立体規則性指数[mm]は、この値が大きいほどポリマーの立体規則性が高いことを示し、低結晶性ポリプロピレンの立体規則性指数[mm]は、50〜90モル%であり、好ましくは60〜90モル%であり、より好ましくは60〜80モル%である。
低結晶性ポリプロピレンの立体規則性指数[mm]が90モル%超であると、結晶化による透明性の低下が発生し、得られる成形体の透明性が損なわれるおそれがある。一方、低結晶性ポリプロピレンの立体規則性指数[mm]が50モル%未満であると、得られる成形体の耐熱性が低下するおそれがある。
立体規則性指数[mm]の測定方法は、後述するメソペンタッド分率[mmmm]の測定方法と併せて説明する。
【0013】
低結晶性ポリプロピレンは、好ましくはさらに下記(c)〜(h)の全てを満たす。
(c)[mmmm]=20〜60モル%
(d)[rrrr]/(1−[mmmm])≦0.1
(e)[rmrm]>2.5モル%
(f)[mm]×[rr]/[mr]≦2.0
(g)質量平均分子量(Mw)=10,000〜200,000
(h)分子量分布(Mw/Mn)<4
【0014】
(c)のメソペンタッド分率[mmmm]は、この値が大きいほどポリマーの立体規則性が高いことを示し、低結晶性ポリプロピレンのメソペンタッド分率[mmmm]は、好ましくは20〜60モル%であり、より好ましくは30〜50モル%であり、さらに好ましくは40〜50モル%である。
低結晶性ポリプロピレンのメソペンタッド分率[mmmm]が20モル%未満の場合、得られる成形体の耐熱性が低下するおそれがある。一方、低結晶性ポリプロピレンのメソペンタッド分率[mmmm]が60モル%超の場合、結晶化度が高くなりすぎて、得られる成形体の透明性が低下するおそれがある。
【0015】
低結晶性ポリプロピレンのメソペンタッド分率[mmmm]、ラセミペンタッド分率[rrrr]及びラセミメソラセミメソペンダッド分率[rmrm]は、エイ・ザンベリ(A.Zambelli)等により「Macromolecules,6,925(1973)」で提案された方法に準拠し、13C−NMRスペクトルのメチル基のシグナルにより測定されるポリプロピレン分子鎖中のペンタッド単位でのメソ分率、ラセミ分率、及びラセミメソラセミメソ分率である。この際、低結晶性ポリプロピレンのトリアッド分率[mm]、[rr]及び[mr]も算出できる。
【0016】
低結晶性ポリプロピレンの13C−NMRスペクトルの測定は、エイ・ザンベリ(A.Zambelli)等により「Macromolecules,8,687(1975)」で提案されたピークの帰属に従い、下記の装置及び条件にて行うことができる。
得られた測定結果から、下記計算式からメソペンタッド分率M、ラセミペンタッド分率R等が算出される。
[装置及び条件]
装置:日本電子(株)製JNM−EX400型 13C−NMR装置
方法:プロトン完全デカップリング法
濃度:220mg/ml
溶媒:1,2,4−トリクロロベンゼンと重ベンゼンの90:10(容量比)混合溶媒
温度:130℃
パルス幅:45°
パルス繰り返し時間:4秒
積算:10000回
[計算式]
M=m/S×100
R=γ/S×100
S=Pββ+Pαβ+Pαγ
S:全プロピレン単位の側鎖メチル炭素原子のシグナル強度
Pββ:19.8〜22.5ppm
Pαβ:18.0〜17.5ppm
Pαγ:17.5〜17.1ppm
γ:ラセミペンタッド連鎖:20.7〜20.3ppm
m:メソペンタッド連鎖:21.7〜22.5ppm
【0017】
(d)の[rrrr]/[1−mmmm]の値は、低結晶性ポリプロピレンの規則性分布の均一さを示す指標である。
低結晶性ポリプロピレンの[rrrr]/[1−mmmm]は、好ましくは0.1以下であり、より好ましくは0.05以下であり、さらに好ましくは0.04以下である。[rrrr]/[1−mmmm]の値が0.1以下であることで、得られる成形体の粘着剤としての品質を安定化することができる。
ポリプロピレンの[rrrr]/[1−mmmm]が0.1超である場合、当該ポリプロピレンは、一般的なポリプロピレンのように高規則性ポリプロピレンとアタクチックポリプロピレンの混合物であることを意味し、得られる成形体の粘着剤としての品質が不安定となるおそれがある。
[rrrr]/[1−mmmm]の値は、(c)の装置及び条件、並びに計算式から算出できる。
【0018】
(e)の[rmrm]の値は、低結晶性ポリプロピレンのランダム性を示す指標である。
低結晶性ポリプロピレンのラセミメソラセミメソ分率[rmrm]は、好ましくは2.5モル%超であり、より好ましくは2.6モル%以上、さらに好ましくは2.7モル%以上である。
低結晶性ポリプロピレンの[rmrm]の値が2.5モル%超であると、低結晶性ポリプロピレンのランダム性が高いことを意味し、得られる成形体の粘着性を向上させることができる。
[rmrm]の値は、(c)の装置及び条件、並びに計算式から算出できる。
【0019】
(f)の[mm]×[rr]/[mr]の値は、低結晶性ポリプロピレンのランダム性を示す指標であり、この値が0.25に近いほどランダム性が高いことを意味する。
低結晶性ポリプロピレンの[mm]×[rr]/[mr]の値は、好ましくは2.0以下であり、より好ましくは0.25超1.8以下、さらに好ましくは0.5以上1.5以下である。
低結晶性ポリプロピレンの[mm]×[rr]/[mr]の値が2.0以下であると、得られる成形体の粘着性を向上させることができる。
[mm]×[rr]/[mr]の値は、(c)の装置及び条件、並びに計算式から算出できる。
【0020】
(e)低結晶性ポリプロピレンの質量平均分子量(Mw)は、好ましくは10,000〜200,000であり、より好ましくは30,000〜150,000であり、さらに好ましくは50,000〜150,000である。
低結晶性ポリプロピレンの質量平均分子量が上記範囲であると、該低結晶性ポリプロピレンの粘度が低すぎず適度のものとなるため、ポリプロピレン組成物の成形加工性及び塗布性が向上する。尚、低結晶性ポリプロピレンの質量平均分子量が200,000超であると、低結晶性ポリプロピレンの溶融時及び溶液時の粘度が高すぎて、成形性及び塗布性が悪化するおそれがある。
質量平均分子量(Mw)の測定方法は、後述する分子量分布(Mw/Mn)の測定方法と併せて説明する。
【0021】
(h)低結晶性ポリプロピレンの分子量分布Mw/Mnは、好ましくは4未満であり、より好ましくは3以下である。
低結晶性ポリプロピレンの分子量分布Mw/Mnが4未満であることで、得られる成形体の粘着剤としての粘着強度を向上させることができる。
【0022】
低結晶性ポリプロピレンの分子量分布(Mw/Mn)は、低結晶性ポリプロピレンのポリスチレン換算の質量平均分子量Mw、及び低結晶性ポリプロピレンのポリスチレン換算の数平均分子量Mnから算出される。
低結晶性ポリプロピレンのポリスチレン換算の質量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnは、ゲルパーミエイションクロマトグラフィ(GPC)法により測定でき、例えば下記装置及び条件で測定できる。
[GPC測定装置]
カラム :TOSO GMHHR−H(S)HT
検出器 :液体クロマトグラム用RI検出器 WATERS 150C
[測定条件]
溶媒 :1,2,4−トリクロロベンゼン
測定温度 :145℃
流速 :1.0ml/分
試料濃度 :2.2mg/ml
注入量 :160μl
検量線 :Universal Calibration
解析プログラム:HT−GPC(Ver.1.0)
【0023】
上記(a)〜(h)を満たす低結晶性ポリプロピレンは、触媒の選択等の反応条件を調整することにより製造でき、例えばWO2003/087172に開示のメタロセン触媒等の均一系触媒を用いることにより調製できる。
【0024】
[軟化剤]
低結晶性ポリプロピレンを含むポリプロピレン樹脂組成物は、軟化剤を含んでもよい。
ポリプロピレン樹脂組成物が軟化剤を含むことにより、組成物の溶融粘度を下げることができ、タック、可塑性等を向上させることができる。
使用できる軟化剤は特に限定されず、例えばパラフィン系オイル、ナフテン系オイル等が挙げられる。
【0025】
ポリプロピレン樹脂組成物中の軟化剤の含有量は、0〜50重量%であり、好ましくは0〜30重量%である。
軟化剤の含有量が50重量%超の場合、軟化剤が低結晶性ポリプロピレンと完全相溶せずににじみ出し、軟化剤のにじみ出しによって得られる成形体の透明性が低下するおそれがある。
【0026】
ポリプロピレン樹脂組成物は、上記(a)及び(b)を満たす低結晶性ポリプロピレンと、任意に軟化剤を含めばよく、さらに酸化防止剤、スリップ剤、中和剤、造核剤、アンチブロッキング剤、帯電防止剤、防曇剤、安定剤、滑剤、着色剤等を本発明の効果を損なわない範囲で含んでもよい。
【0027】
[第1の粘着性を有する透明ポリオレフィン系シート状成形体の製造方法(熱成形法)]
(1)熱成形シートの製造
本発明の第1の粘着性を有する透明ポリオレフィン系シート状成形体(以下、単に第1のシート状成形体という場合がある)を製造するため、まず、低結晶性ポリプロピレンを50〜100重量%及び軟化剤を0〜50重量%含むポリプロピレン樹脂組成物を調製し、当該ポリプロピレン樹脂組成物をシート状に熱成形して、熱成形シートを製造する。
【0028】
ポリプロピレン樹脂組成物の調製は、例えば混練のための適当な形状を持つブレードを備えたブレードミキサーに低結晶性ポリプロピレン、及び任意に軟化剤等を投入して加熱混練する;又は、一軸もしくは二軸のスクリューを備えた押出機型混練機、バンバリーミキサー等を用いて連続的に調製する等が挙げられる。
上記のほか、低結晶性ポリプロピレン、及び任意に軟化剤等を、トルエン等の炭化水素系溶剤に添加し、攪拌混合することでも調製できる。炭化水素系溶剤を含むポリプロピレン樹脂組成物は、さらに予めエマルジョン化した炭化水素樹脂を攪拌混合してポリプロピレン樹脂エマルジョンとすることもできる。
【0029】
ポリプロピレン樹脂組成物をシート状にする熱成形は、例えば溶融押し出し法であり、好ましくはTダイ押し出し法である。
熱成形時の加熱温度は、例えば150〜300℃であり、好ましくは180〜250℃である。加熱温度が150℃未満の場合、溶融状態の樹脂粘度が高くなりすぎ、押し出し量低下による生産性の低下やシート成形性が悪くなり、良好なシート成形体を得ることが困難になるおそれがある。一方、加熱温度が300℃超の場合、溶融状態の樹脂粘度が粘度が低く、成形体厚み制御が困難になったり、樹脂の熱劣化により黄変、分子量低下、異物発生等の不良現象が生じるおそれがある。
【0030】
(2)冷却シートの製造
熱成形シート製造後、当該熱成形シートを−20℃以上40℃以下に急冷して、一旦形状が固定された急冷シートを製造する。当該急冷は、水冷、空冷、エンドレスベルト又はロール等により実施できる。
熱成形シートの急冷は、好ましくは冷却水が流下するスリットに熱成形シートを通過させることにより実施する。当該方法によれば、シート形状に歪み等を発生させずに、熱成形シートを冷却固化して冷却シートとすることができる。
尚、上記急冷の冷却速度は、例えば10℃/秒以上、30℃/秒以上又は50℃/秒以上である。
【0031】
熱成形シートの急冷時の冷却温度は、例えば−20℃〜40℃であり、好ましくは−10℃〜25℃である。
冷却温度が−20℃未満であると、生産性が低下するおそれがある。一方、冷却温度が40℃超であると、得られる成形体の透明性が低下するおそれがある。
【0032】
(3)急冷シートの熱処理
急冷シート製造後、当該急冷シートを熱処理することで、一旦固化したシート(急冷シート)の表面を綺麗に仕上げることができ、第1のシート状成形体が得られる。
熱処理は、例えばエンドレスベルト、ロール等を用いて実施することができ、好ましくは鏡面を有する金属製エンドレスベルト及び/又は金属ロールで、急冷シートの表裏面を挟持して加熱することにより実施する。これは、エンドレスベルト及び金属ロールが鏡面を有することで、急冷シートの表面を鏡面加工することができるためである。
【0033】
急冷シートの熱処理温度は、例えば低結晶性ポリプロピレンの平衡融点以下であり、好ましくは70℃以上100℃以下である。
熱処理温度が70℃未満の場合、熱処理が不十分となり得られる成形体の透明安定性が低下するおそれがある。一方、熱処理温度が低結晶性ポリプロピレンの平衡融点を超える場合、シートが融解して変形するおそれがある。
【0034】
上記熱成形シートの代わりに、後述するシート状基材上にポリプロピレン樹脂組成物をシート状に熱成形して、熱成形シート積層体としてもよい。この場合、透明ポリオレフィン系シート状成形体とシート状基材を含む積層体が得られる。
【0035】
[第2の粘着性を有する透明ポリオレフィン系シート状成形体の製造方法(溶液法)]
本発明の第2の粘着性を有する透明ポリオレフィン系シート状成形体(以下、単に第2のシート状成形体という場合がある)は、第1のシート状成形体の製造方法の(1)熱成形シートを製造する代わりに溶融シート積層体を製造し、当該溶融シート積層体を急冷して得られる急冷シート積層体の熱処理後にシート状基材を剥離する他は同様である。即ち、溶融シート積層体を製造し、溶融シート積層体を急冷して急冷シート積層体を製造し、急冷シート積層体を熱処理して基材から剥離することで、第2のシート状成形体が得られる。
【0036】
溶融シート積層体は、(a)及び(b)を満たす低結晶性ポリプロピレンを50〜100重量%及び軟化剤を0〜50重量%含むプロピレン樹脂組成物が炭化水素系溶剤に溶解した組成物(粘着剤組成物)を、シート状基材上に塗布及び乾燥して塗膜を形成し、当該塗膜を溶融することにより得られる。
【0037】
低結晶性ポリプロピレンを溶解する炭化水素系溶剤としては、トルエン、キシレン、ノルマルヘキサンが挙げられ、炭化水素系溶剤の使用量は、例えば溶液中の低結晶性ポリプロピレン樹脂組成物の濃度が10重量%〜50重量%となる量である。ここで濃度は下記式で表される。
濃度=ポリプロピレン樹脂組成物/(溶剤+ポリプロピレン樹脂組成物)x100
【0038】
ポリプロピレン樹脂組成物を塗布するシート状基材としては、例えばプラスチックフィルム、反射防止(AR)フィルム、偏光板、位相差板等の各種光学フィルムが挙げられる。
上記プラスチックフィルム等の素材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のアクリル系樹脂;ポリカーボネート、トリアセチルセルロース、ポリサルフォン、ポリアリレート、商品名「アートン(環状オレフィン系ポリマー;JSR社製)」、商品名「ゼオノア(環状オレフィン系ポリマー;日本ゼオン社製)」等のプラスチック材料等が挙げられる。
尚、プラスチック材料は単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0039】
シート状基材の厚さは、特に限定されず、好ましくは10〜1000μmである。
シート状基材は、単層及び2種以上の単層の積層体のいずれの形態でもよい。また、シート状基材表面には、例えば、コロナ放電処理、プラズマ処理等の物理的処理、下塗り処理等の化学的処理等の公知の表面処理が施されていてもよい。
【0040】
粘着剤組成物を塗布する方法は、通常の塗布方法である塗布機にて基材に塗布することができ、例えばディップコーティング法、スピンコート法、スリットダイコート法、グラビアコート法、リーバースコーター法、スプレー法、ロールコーティング法といった公知の方法を用いることができる。
0.1mm以上の厚さを有する基板に粘着剤組成物を塗布する場合、ディップコート法、又はスリットダイコート法が好ましく用いられる。
【0041】
急冷シート積層体熱処理後の、シート状成形体のシート状基材からの剥離は、公知の方法が実施できる。
【0042】
[粘着性を有する透明ポリオレフィン系シート状成形体]
第1の粘着性を有する透明ポリオレフィン系シート状成形体及び第2の粘着性を有する透明ポリオレフィン系シート状成形体(以下、これらをまとめて本発明のシート状成形体という場合がある)は、優れた透明性及び粘着性を有する。これは、結晶化度が高く、結晶サイズが比較的大きいために透明性が低く且つ粘着性が低い従来のポリプロピレンシート成形体とは異なり、本発明のシート状成形体では、低結晶性ポリプロピレンを用い、且つ特定の熱処理を施すことによって結晶性を低く、且つその結晶サイズを極力小さくしているためと推測される。
また、本発明のシート状成形体は、低結晶性ポリプロピレン及び軟化剤を含む成形体であり、加水分解性のアクリル基を有する成分を含まないため、耐加水分解性(耐湿性)を有する透明粘着材である。
【0043】
本発明のシート状成形体は、その透明性が好ましくは下記式を満たす。
1%>(成形体のヘイズ値)/(成形体の厚み[μm]/100)
この式は、シート状成形体の100μm厚み換算ヘイズ値が1%未満であることを意味する。シート状成形体の100μm厚み換算ヘイズ値が1%以上の場合、成形体は目視では白っぽいもので透明性がなく、光学用途に使用できないおそれがある。
【0044】
シート状成形体のヘイズ値は、例えばASTM D1003準拠することで測定できる。具体的には、ヘイズメーター(日本電色工業株式会社製 商品名:NDH5000)を用いて、成形体の厚み100μmにてを測定することでヘイズ値が得られる。
【0045】
本発明のシート状成形体は、好ましくはアルミ板に2kgローラーの2往復圧着により貼り付けた後、得られたシート状成形体及びアルミ板の積層体を23℃で1時間放置後の接着強さ(N/25mm)が0.5以上である。
【0046】
本発明のシート状成形体は、好ましくは50℃×500時間の加熱処理後であってもヘイズ1%以下を保ち、より好ましくは85℃×500時間の加熱処理後であってもヘイズ1%以下を保つ。
【実施例】
【0047】
[低結晶性ポリプロピレンの製造]
製造例1
攪拌機付きの内容積20Lのステンレス製反応器に、n−ヘプタンを20L/hで連続供給し、トリイソブチルアルミニウムを15mmol/hで連続供給し、ジメチルアニリニウムテトラキスペンタフルオロフェニルボレートと(1,2’−ジメチルシリレン)(2,1’−ジメチルシリレン)−ビス(3−トリメチルシリルメチルインデニル)ジルコニウムジクロライドとトリイソブチルアルミニウムを、質量比1:2:20で事前に接触させて得られた触媒成分を、ジルコニウム換算で6μmol/hで連続供給した。
重合温度を70℃に設定し、反応器の気相部の水素濃度が8モル%、及び反応器内の全圧が0.7MPa・Gに保たれるように、さらにプロピレンと水素を連続供給して重合反応を行った。
重合反応終了後、得られた重合溶液に、安定剤としてイルガノックス1010(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)をその含有割合が500質量ppmになるように添加し、次いで溶媒であるn−ヘプタンを除去することによって、低結晶性ポリプロピレンPP1を得た。
【0048】
得られた低結晶性ポリプロピレンPP1について、下記装置及び条件で、融点(Tm−D)、立体規則性指数([mm])、メソペンタッド分率[mmmm]、ラセミメソラセミメソ分率[rmrm]、[rrrr]/(1−[mmmm])、[mm]×[rr]/[mr]、質量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)をそれぞれ評価した。結果を表1に示す。
[装置及び条件]
装置:日本電子(株)製JNM−EX400型 13C−NMR装置
方法:プロトン完全デカップリング法
濃度:220mg/ml
溶媒:1,2,4−トリクロロベンゼンと重ベンゼンの90:10(容量比)混合溶媒
温度:130℃
パルス幅:45°
パルス繰り返し時間:4秒
積算:10000回
【0049】
製造例2
重合温度を67℃に設定し、反応器の気相部の水素濃度が0.8モル%、及び反応器内の全圧が0.75MPa・Gに保たれるように、プロピレンと水素を連続供給した他は製造例1と同様にして低結晶性ポリプロピレンPP2を製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
[ポリオレフィン系シート状成形体の製造及び評価]
実施例1
低結晶性ポリプロピレンPP1をトルエンに65℃で溶解し、低結晶性ポリプロピレンPP1の含有量が25重量%であるポリプロピレン樹脂組成物を調製した。
得られたポリプロピレン樹脂組成物をガラス板の上にアプリケータを用いて塗布、乾燥して塗膜を形成し、得られた塗膜を130℃×15分溶融した。溶融した塗膜を5℃の水中で5分急冷して急冷シートとし、当該急冷シートを90℃×15分オーブン中で熱処理した。その後、ガラス板から剥離することによって、膜厚が約100μmのポリオレフィン系シート状成形体を製造した。
得られたシート状成形体について、下記の物性を評価した。結果を表2に示す。
【0052】
(1)長期耐熱試験
シート状成形体を加熱オーブン(いすす製作所 EPR−114)を用いて、85℃で500時間加熱し、加熱後の成形体のヘイズ値を測定した。
ヘイズ値の測定はASTM D1003準拠し、ヘイズメータ(日本電色工業株式会社製 商品名:NDH5000)を用いて成形体厚み100μmにて測定した。
【0053】
(2)耐湿試験
シート状成形体を恒温恒湿機(ESPEC SH221)を用いて、65℃95%RHで500時間加湿環境下に暴露し、暴露後の成形体のヘイズ値を測定した。
ヘイズ値の測定はASTM D1003準拠し、ヘイズメータ(日本電色工業株式会社製 商品名:NDH5000)を用いて成形体厚み100μmにて測定した。
【0054】
(3)接着力
シート状成形体をアルミ板に2kgローラーの2往復圧着により貼り付けた後、得られた積層体を23℃で1時間放置し、放置後の接着強さ(N/25mm)を測定した。
上記接着強さの測定は、引張速度300mm/分、180度ピールで実施した。
【0055】
実施例2,4−6及び比較例1−4
表2に示す割合でポリプロピレン及び軟化剤を添加してポリプロピレン樹脂組成物を調製した他は、実施例1と同様に溶液塗布法でシート状成形体を製造し、評価した結果を表2及び3に示す。
尚、実施例2,4−6及び比較例1−4は、いずれもポリプロピレンの含有量が25重量%であるポリプロピレン樹脂組成物であり、使用した軟化剤及び高結晶性ポリプロピレンPP3は、以下の通りである:
軟化剤PW380:パラフィン系プロセスオイル(出光興産株式会社製)
軟化剤NM280:ナフテン系プロセスオイル(出光興産株式会社製)
高結晶性ポリプロピレンPP3:高結晶性ポリプロピレンY2000GP
((Tm−D):165℃、プライムポリマー社製)
【0056】
実施例3
低結晶性ポリプロピレンPP2を単軸押出機(塚田樹機製作所製:TLC35−20型)にて200℃で押し出し造粒してペレットを得た。得られたペレットを熱プレス(井元製作所、IMC−11FA)にて200℃で表面鏡面加工のアルミ板に挟み、約100μm厚みにプレス成形、5℃冷水にて急冷し、その後90℃×15分熱処理を行ったのち、アルミ板から剥離し、シート状成型体を得た。
得られたシート状成形体について、実施例1と同様にして成形体の物性を評価した。結果を表2に示す。
【0057】
実施例7及び比較例5−6
表2に示す割合でポリプロピレン及び軟化剤を添加してポリプロピレン樹脂組成物を調製した他は、実施例3と同様に熱成形法でシート状成形体を製造し、評価した結果を表2及び3に示す。
【0058】
【表2】

【0059】
【表3】

【0060】
比較例1のように、溶融状態からの急冷が無い場合、徐冷により結晶が形成し、結晶成長が促されてしまうため、得られる成形体の初期透明性が悪くなってしまう。また、比較例3のように、急冷温度が高すぎる場合も、結晶が形成してしまうため初期透明性が悪くなってしまう。
比較例2のように、熱処理が無い場合、初期透明性は良いものの、耐熱試験で結晶が形成してしまい、結晶成長が促されるため透明性が低下してしまう。また、比較例4のように、熱処理温度が高い場合も、結晶化が進んでしまい透明性が低下してしまう。
比較例5のように、高結晶性ポリプロピレンの場合、初期透明性は良いものの、耐熱試験で高結晶性ポリプロピレンは結晶になりやすく、結晶成長が促されるために透明性が低下してしまう。また、比較例6のように、さらに軟化剤を含む場合であっても、耐熱試験で高結晶性ポリプロピレンは結晶になりやすく、結晶成長が促されるため透明性が低下してしまう。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の透明ポリオレフィン系シート状成形体は粘着性を有するシート状成形体であり、ディスプレイ(プラズマディスプレイパネル(PDP)、タッチパネル、液晶パネル)など好適に用いられる。中でも、耐腐食性能、透明性、粘着特性の観点から、タッチパネル等の金属薄膜に直接貼り付け固定する用途が特に好ましい用途である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)及び(b)を満たす低結晶性ポリプロピレンを50〜100重量%及び軟化剤を0〜50重量%含むポリプロピレン樹脂組成物をシート状に熱成形して、熱成形シートとし、
前記熱成形シートを−20℃以上40℃以下に急冷して、急冷シートとし、
前記急冷シートを70℃以上100℃以下で熱処理して得られる、透明ポリオレフィン系シート状成形体。
[低結晶性ポリプロピレン]
(a)示差走査型熱量計(DSC)を用いて、窒素雰囲気下−30℃で5分間保持した後10℃/分で昇温させることにより得られた融解吸熱カーブの最も高温側に観測されるピークのピークトップとして定義される融点(Tm−D)が0〜120℃である
(b)立体規則性指数([mm])が50〜90モル%である。
【請求項2】
下記(a)及び(b)を満たす低結晶性ポリプロピレンを50〜100重量%及び軟化剤を0〜50重量%含むポリプロピレン樹脂組成物を炭化水素系溶剤に溶解し、炭化水素系溶剤に溶解したポリプロピレン樹脂組成物をシート状基材上に塗布及び乾燥して塗膜を形成し、塗膜を溶融して溶融シート積層体とし、
前記溶融シート積層体を−20℃以上40℃以下に急冷して、急冷シート積層体とし、
前記急冷シート積層体を70℃以上100℃以下で熱処理し、シート状基材を剥離して得られる、透明ポリオレフィン系シート状成形体。
[低結晶性ポリプロピレン]
(a)示差走査型熱量計(DSC)を用いて、窒素雰囲気下−30℃で5分間保持した後10℃/分で昇温させることにより得られた融解吸熱カーブの最も高温側に観測されるピークのピークトップとして定義される融点(Tm−D)が0〜120℃である
(b)立体規則性指数([mm])が50〜90モル%である。
【請求項3】
前記低結晶性ポリプロピレンが、下記(c)〜(h)の全てを満たす請求項1又は2に記載の粘着性を有する透明ポリオレフィン系シート状成形体。
(c)[mmmm]=20〜60モル%
(d)[rrrr]/(1−[mmmm])≦0.1
(e)[rmrm]>2.5モル%
(f)[mm]×[rr]/[mr]≦2.0
(g)質量平均分子量(Mw)=10,000〜200,000
(h)分子量分布(Mw/Mn)<4
【請求項4】
ヘイズが下記式を満たす請求項1〜3のいずれかに記載の透明ポリオレフィン系シート状成形体。
1[%]>成形体のヘイズ値/(成形体の厚み[μm]/100)
【請求項5】
下記(a)及び(b)を満たす低結晶性ポリプロピレンを50〜100重量%及び軟化剤を0〜50重量%含むポリプロピレン樹脂組成物をシート状基材上にシート状に熱成形して、熱成形シート積層体とし、
前記熱成形シート積層体を−20℃以上40℃以下に急冷して、急冷シート積層体とし、
前記急冷シート積層体を70℃以上100℃以下で熱処理して得られる、透明ポリオレフィン系シート状成形体とシート状基材を含む積層体。
[低結晶性ポリプロピレン]
(a)示差走査型熱量計(DSC)を用いて、窒素雰囲気下−30℃で5分間保持した後10℃/分で昇温させることにより得られた融解吸熱カーブの最も高温側に観測されるピークのピークトップとして定義される融点(Tm−D)が0〜120℃である
(b)立体規則性指数([mm])が50〜90モル%である。
【請求項6】
下記(a)及び(b)を満たす低結晶性ポリプロピレンを50〜100重量%及び軟化剤を0〜50重量%含むポリプロピレン樹脂組成物を炭化水素系溶剤に溶解し、炭化水素系溶剤に溶解したポリプロピレン樹脂組成物をシート状基材上に塗布及び乾燥して塗膜を形成し、塗膜を溶融して溶融シート積層体とし、
前記溶融シート積層体を−20℃以上40℃以下に急冷して、急冷シート積層体とし、
前記急冷シート積層体を70℃以上100℃以下で熱処理して得られる、透明ポリオレフィン系シート状成形体とシート状基材を含む積層体。
[低結晶性ポリプロピレン]
(a)示差走査型熱量計(DSC)を用いて、窒素雰囲気下−30℃で5分間保持した後10℃/分で昇温させることにより得られた融解吸熱カーブの最も高温側に観測されるピークのピークトップとして定義される融点(Tm−D)が0〜120℃である
(b)立体規則性指数([mm])が50〜90モル%である。
【請求項7】
前記低結晶性ポリプロピレンが、下記(c)〜(h)の全てを満たす請求項5又は6に記載の透明ポリオレフィン系シート状成形体とシート状基材を含む積層体。
(c)[mmmm]=20〜60モル%
(d)[rrrr]/(1−[mmmm])≦0.1
(e)[rmrm]>2.5モル%
(f)[mm]×[rr]/[mr]≦2.0
(g)質量平均分子量(Mw)=10,000〜200,000
(h)分子量分布(Mw/Mn)<4
【請求項8】
下記(a)及び(b)を満たす低結晶性ポリプロピレンを50〜100重量%及び軟化剤を0〜50重量%含むポリプロピレン樹脂組成物をシート状に熱成形して、熱成形シートとし、
前記熱成形シートを−20℃以上40℃以下に急冷して、急冷シートとし、
前記急冷シートを70℃以上100℃以下で熱処理する透明ポリオレフィン系シート状成形体の製造方法。
[低結晶性ポリプロピレン]
(a)示差走査型熱量計(DSC)を用いて、窒素雰囲気下−30℃で5分間保持した後10℃/分で昇温させることにより得られた融解吸熱カーブの最も高温側に観測されるピークのピークトップとして定義される融点(Tm−D)が0〜120℃である
(b)立体規則性指数([mm])が50〜90モル%である。
【請求項9】
下記(a)及び(b)を満たす低結晶性ポリプロピレンを50〜100重量%及び軟化剤を0〜50重量%含むポリプロピレン樹脂組成物を炭化水素系溶剤に溶解し、炭化水素系溶剤に溶解したポリプロピレン樹脂組成物をシート状基材上に塗布及び乾燥して塗膜を形成し、塗膜を溶融して溶融シート積層体とし、
前記溶融シート積層体を−20℃以上40℃以下に急冷して、急冷シート積層体とし、
前記急冷シート積層体を70℃以上100℃以下で熱処理し、シート状基材を剥離する透明ポリオレフィン系シート状成形体の製造方法。
[低結晶性ポリプロピレン]
(a)示差走査型熱量計(DSC)を用いて、窒素雰囲気下−30℃で5分間保持した後10℃/分で昇温させることにより得られた融解吸熱カーブの最も高温側に観測されるピークのピークトップとして定義される融点(Tm−D)が0〜120℃である
(b)立体規則性指数([mm])が50〜90モル%である。
【請求項10】
前記低結晶性ポリプロピレンが、下記(c)〜(h)の全てを満たす請求項8又は9に記載の透明ポリオレフィン系シート状成形体の製造方法。
(c)[mmmm]=20〜60モル%
(d)[rrrr]/(1−[mmmm])≦0.1
(e)[rmrm]>2.5モル%
(f)[mm]×[rr]/[mr]≦2.0
(g)質量平均分子量(Mw)=10,000〜200,000
(h)分子量分布(Mw/Mn)<4
【請求項11】
下記(a)及び(b)を満たす低結晶性ポリプロピレンを50〜100重量%及び軟化剤を0〜50重量%含むポリプロピレン樹脂組成物をシート状基材上にシート状に熱成形して、熱成形シート積層体とし、
前記熱成形シート積層体を−20℃以上40℃以下に急冷して、急冷シート積層体とし、
前記急冷シート積層体を70℃以上100℃以下で熱処理して得られる、透明ポリオレフィン系シート状成形体とシート状基材を含む積層体の製造方法。
[低結晶性ポリプロピレン]
(a)示差走査型熱量計(DSC)を用いて、窒素雰囲気下−30℃で5分間保持した後10℃/分で昇温させることにより得られた融解吸熱カーブの最も高温側に観測されるピークのピークトップとして定義される融点(Tm−D)が0〜120℃である
(b)立体規則性指数([mm])が50〜90モル%である。
【請求項12】
下記(a)及び(b)を満たす低結晶性ポリプロピレンを50〜100重量%及び軟化剤を0〜50重量%含むポリプロピレン樹脂組成物を炭化水素系溶剤に溶解し、炭化水素系溶剤に溶解したポリプロピレン樹脂組成物をシート状基材上に塗布及び乾燥して塗膜を形成し、塗膜を溶融して溶融シート積層体とし、
前記溶融シート積層体を−20℃以上40℃以下に急冷して、急冷シート積層体とし、
前記急冷シート積層体を70℃以上100℃以下で熱処理する透明ポリオレフィン系シート状成形体とシート状基材を含む積層体の製造方法。
[低結晶性ポリプロピレン]
(a)示差走査型熱量計(DSC)を用いて、窒素雰囲気下−30℃で5分間保持した後10℃/分で昇温させることにより得られた融解吸熱カーブの最も高温側に観測されるピークのピークトップとして定義される融点(Tm−D)が0〜120℃である
(b)立体規則性指数([mm])が50〜90モル%である。
【請求項13】
前記低結晶性ポリプロピレンが、下記(c)〜(h)の全てを満たす請求項11又は12に記載の透明ポリオレフィン系シート状成形体とシート状基材を含む積層体の製造方法。
(c)[mmmm]=20〜60モル%
(d)[rrrr]/(1−[mmmm])≦0.1
(e)[rmrm]>2.5モル%
(f)[mm]×[rr]/[mr]≦2.0
(g)質量平均分子量(Mw)=10,000〜200,000
(h)分子量分布(Mw/Mn)<4

【公開番号】特開2013−71980(P2013−71980A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−211038(P2011−211038)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】