説明

透明導電性フィルム

【課題】透明性及び耐熱性に優れるのみならず、強度、生産性及び安定性が高められた透明導電性フィルム等を提供すること。
【解決手段】基材と該基材の少なくとも片面に積層された透明導電膜とを備え、前記基材は、少なくともスチレン系樹脂を含む樹脂組成物からなる位相差フィルムであり、該位相差フィルムのNZ係数が−0.7以下である、透明導電性フィルム

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電性フィルムに関し、より詳しくは、スチレン系樹脂を含む樹脂組成物からなる位相差フィルムの少なくとも片面に透明導電膜を備える透明導電性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、画像表示装置として液晶表示装置が注目され、また、液晶表示装置上に透明なタッチパネルを搭載した入力装置が情報端末等に用いられている。この種のタッチパネルの基板として、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上にインジウムとスズの複合酸化物(ITO)等の金属酸化物からなる透明導電膜が設けられた透明導電性フィルムが用いられている。
【0003】
そして、透明導電性フィルムに位相差フィルムとしての機能も持たせて光学補償を行うことで、さらに高機能化しようとする技術が提案されている(特許文献1参照)。この特許文献1に記載された技術においては、光学補償を行う上で必要となる所望のリタデーションをもつ位相差フィルムを基材とし、その表面に透明導電膜を形成することで、機能性を高めている。
【0004】
また、液晶表示装置の液晶ディスプレイの透明電極に用いられる透明導電性フィルムの基材としても、位相差フィルム上に透明導電膜を形成した透明導電性フィルムの使用が提唱されている(特許文献2参照)。
上記の通り、基材に位相差フィルムを用いた透明導電性フィルムにおいては、種々の用途が提案されており、今後も用途拡大が期待されている。
【0005】
一方、透明導電性フィルムの基材として使用される位相差フィルムとしては、さまざまな材料によるものが提唱されており、その1つとして、スチレン系樹脂であるポリスチレンによる位相差フィルムが提案されている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−308675号公報
【特許文献2】特開平6−186421号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】IDW’06 Digest,pp.315(2006) (IDW’06予稿集Volume1 315ページ)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本発明者らが上記非特許文献1に記載された位相差フィルムを用いた透明導電性フィルムを検討したところ、この透明導電性フィルムは、製造時や取り扱い時に破損し易く、しかも、タッチパネルとして或いは液晶表示装置に組み込んで使用した際に、貼合した他のフィルム・部材との収縮差による応力で割れる等の不具合が生じ易く、未だ十分な性能を有するものではなかった。
【0009】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、透明性及び耐熱性に優れるのみならず、強度、生産性及び安定性が高められた透明導電性フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、特定の光学特性を有するスチレン系樹脂含有位相差フィルムの少なくとも片面に透明導電膜を配することで、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下(1)〜(5)を提供する。
(1)基材と該基材の少なくとも片面に積層された透明導電膜とを備え、
前記基材は、少なくともスチレン系樹脂を含む樹脂組成物からなる位相差フィルムであり、該位相差フィルムのNZ係数が−0.7以下である、
透明導電性フィルム。
(2)前記基材は、少なくともスチレン系樹脂及び(メタ)アクリル系樹脂を含む樹脂組成物の位相差フィルムである、
上記(1)に記載の透明導電性フィルム。
(3)前記スチレン系樹脂は、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、及びスチレン−無水マレイン酸共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である、
上記(1)又は(2)に記載の透明導電性フィルム。
(4)前記(メタ)アクリル系樹脂は、メタクリル酸メチル−アクリル酸メチル共重合体である、
上記(2)又は(3)に記載の透明導電性フィルム。
(5)前記位相差フィルムは、二軸延伸フィルムである。
上記(1)〜(4)のいずれか一項に記載の透明導電性フィルム。
(6)JIS P8115に準拠したMIT耐折疲労試験における屈曲回数が、10回以上である、上記(1)〜(5)のいずれか一項に記載の透明導電性フィルム。なお、本明細書において「JIS P8115に準拠したMIT耐折疲労試験の屈曲回数」とは、後述する実施例における測定条件で測定される数値を意味する。
【0012】
また、本発明は、以下(7)及び(8)をも提供する。
(7)少なくともスチレン系樹脂を含む樹脂組成物からなり、且つ、NZ係数が−0.7以下の位相差フィルムを準備する工程と、
前記位相差フィルムの少なくとも片面に透明導電膜を形成する工程と、
を有する、透明導電性フィルムの製造方法。
(8)前記位相差フィルムは、少なくともスチレン系樹脂及び(メタ)アクリル系樹脂を含む樹脂組成物からなる、
上記(7)に記載の透明導電性フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、透明性及び耐熱性に優れるのみならず、強度、生産性及び安定性が高められた透明導電性フィルムが実現可能である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「実施形態」ともいう。)について詳細に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は以下の実施形態のみに限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変更して実施することができる。
【0015】
本実施形態の透明導電性フィルムは、少なくともスチレン系樹脂を含む樹脂組成物からなる位相差フィルムの少なくとも片面に透明導電膜を有するものであって、その位相差フィルムのNZ係数が−0.7以下であることを特徴とするものである。
【0016】
まず、位相差フィルムのNZ係数について説明する。
本明細書において、NZ係数とは、位相差フィルムを波長550nmの光で測定した際の面内の遅相軸方向の屈折率をNx、面内の遅相軸と面内で直交する方向の屈折率をNy、厚さ方向の屈折率をNzとしたときに、NZ係数=(Nx−Nz)/(Nx−Ny)で定義される値である。このとき、面内リタデーション(Re)と厚み方向リタデーション(Rth)は、厚みをd(nm)としたときに、それぞれRe=(Nx−Ny)×d、Rth={(Nx−Ny)/2−Nz}×dで定義される。なお、本実施形態において、位相差フィルムの面内リタデーションは、特に制限されない。
【0017】
本実施形態の透明導電性フィルムにおいては、上述した効果を得るために、特定のNZ係数、すなわちNZ係数が−0.7以下の位相差フィルムが用いられる。本発明者らの知見によれば、位相差フィルムのNZ係数が−0.7以下であると、フィルム強度及び生産性が格別に高められることが判明した。かかる効果が奏される理由は、未だ明らかでないものの、位相差フィルムのNZ係数が小さいと分子配向がより等方性になるためと推測される。
【0018】
位相差フィルムのNZ係数は、−1以下であることが好ましく、さらに好ましくは−2以下、特に好ましくは−20以下である。一方、NZ係数の下限値は、特に限定されない。例えば、Nx=Nyの場合には、理論上、NZ係数は−∞となるが、この場合でも、フィルムの強度及び生産性の向上効果は期待される。
【0019】
本実施形態で用いる位相差フィルムは、少なくともスチレン系樹脂を含む樹脂組成物からなり、且つ、上述した特定のNZ係数を有するものであれば特に限定されない。少なくともスチレン系樹脂を含む樹脂組成物としては、スチレン系樹脂(E)を含むもの、並びに、スチレン系樹脂(E)及び(メタ)アクリル系樹脂(F)を含むものが例示される。ここで、樹脂組成物は、スチレン系樹脂(E)及び/又は(メタ)アクリル系樹脂(F)を主成分として含むことが好ましく、スチレン系樹脂(E)のみを含む樹脂組成物、並びに、スチレン系樹脂(E)及び(メタ)アクリル系樹脂(F)のみを含む樹脂組成物であることがさらに好ましい。なお、「主成分」とは、樹脂組成物の総量に対し、固形分換算で、50質量%以上含まれていることを意味する。
【0020】
スチレン系樹脂(E)及び(メタ)アクリル系樹脂(F)は、高い透明性を有し、且つ、固有複屈折が負となる樹脂である。ここで、固有複屈折とは、応力が付加された時に屈折率が変化する性質を示す。負の固有複屈折を有する材料とは、応力の方向に対して垂直な方向の屈折率が大きくなる材料である。これらの樹脂は、そのような負の固有複屈折を有しているため、正の固有服屈折を有する樹脂(代表例としては、通常のトリアセチルセルロース(TAC)やポリカーボネート(PC)等)とは異なる光学補償が可能となるので有用である。
【0021】
ここで、スチレン系樹脂(E)とは、スチレン系単量体の(共)重合割合が50質量%以上であるものを意味し、スチレン系単量体のみから得られる重合体、及び、スチレン系単量体と他の単量体とを共重合させて得られる共重合体の双方を包含する概念である。ここで、「スチレン系単量体」とは、その構造中にスチレン骨格を有する単量体、すなわち、スチレン、及び、スチレン分子中の水素原子が他の原子又は1価の基に置換されたものを意味する。
【0022】
スチレン系単量体の具体例としては、特に限定されないが、例えば、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、エチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン等に代表される核アルキル置換スチレン;α−メチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレン等に代表されるα−アルキル置換スチレン等のビニル芳香族化合物単量体が挙げられる。これらの中でも、スチレンが好ましい。なお、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
スチレン系単量体と共重合可能な他の単量体の具体例としては、特に限定されないが、例えば、メチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、メチルフェニルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート等に代表されるアルキル(メタ)アクリレート等の不飽和カルボン酸アルキルエステル;メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、桂皮酸等の不飽和カルボン酸;無水マレイン酸、イタコン酸、エチルマレイン酸、メチルイタコン酸、クロルマレイン酸等の無水物である不飽和ジカルボン酸無水物;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル;1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン(イソプレン)、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン等の共役ジエン等が挙げられる。なお、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
特に好適に用いることができるスチレン系樹脂(E)は、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、及び、スチレン−無水マレイン酸共重合体からなる群より選ばれる1種以上の樹脂である。これらを用いることで、耐熱性が高くなる傾向にある。また、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体及びスチレン−無水マレイン酸共重合体は、(メタ)アクリル系樹脂との相溶性が高いので、これらを(メタ)アクリル系樹脂と併用した場合、透明性の高いフィルムが得られるとともに、使用中に相分離を起こして透明性が低下するリスクが低減される。この観点から、(メタ)アクリル系樹脂(F)を併用する場合には、上述した3種のスチレン系共重合体をスチレン系樹脂(E)として用いることが好ましい。
【0025】
スチレン系樹脂(E)としてスチレン−アクリロニトリル共重合体を用いる場合、共重合体中のアクリロニトリルの共重合割合は、1〜40質量%であることが好ましく、より好ましくは1〜30質量%、さらに好ましくは1〜25質量%である。共重合体中のアクリロニトリルの共重合割合が1〜40質量%であると、透明性に優れる傾向にある。
【0026】
スチレン系樹脂(E)としてスチレン−メタクリル酸共重合体を用いる場合、共重合体中のメタクリル酸の共重合割合は、0.1〜50質量%であることが好ましく、より好ましくは0.1〜40質量%、さらに好ましくは0.1〜30質量%である。共重合体中のメタクリル酸の共重合割合が0.1質量%以上であると耐熱性に優れる傾向にあり、50質量%以下であると透明性に優れる傾向にある。
【0027】
スチレン系樹脂(E)としてスチレン−無水マレイン酸共重合体を用いる場合、共重合体中の無水マレイン酸の共重合割合は、0.1〜50質量%であることが好ましく、より好ましくは0.1〜40質量%、さらに好ましくは0.1〜30質量%である。共重合体中の無水マレイン酸の共重合割合が0.1質量%以上であると耐熱性に優れる傾向にあり、50質量%以下であると透明性に優れる傾向にある。
【0028】
これらの中でも、耐熱性の観点から、スチレン系樹脂(E)としてスチレン−メタクリル酸共重合体及び/又はスチレン−無水マレイン酸共重合体を用いることが特に好ましい。なお、スチレン系樹脂(E)は、分子量、組成等が異なる2種以上のものを同時に用いてもよい。
【0029】
なお、上述したスチレン系樹脂(E)は、公知のスチレン系樹脂と同様の方法により製造することができる。
【0030】
一方、(メタ)アクリル系樹脂(F)とは、(メタ)アクリル系単量体の(共)重合割合が50質量%以上であるものを意味し、(メタ)アクリル系単量体のみから得られる重合体、及び、(メタ)アクリル系単量体と他の単量体とを共重合させて得られる共重合体の双方を包含する概念である。ここで、「(メタ)アクリル系単量体」とは、アクリル酸及びメタクリル酸、並びにこれらの誘導体を意味する。
【0031】
(メタ)アクリル系樹脂(F)の具体例としては、特に限定されないが、例えば、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸−tert−ブチルシクロヘキシル、メタクリル酸メチル等に代表されるメタクリル酸アルキルエステル、及び、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸−2−エチルヘキシル等に代表されるアクリル酸アルキルエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の単量体を(共)重合したもの等が挙げられる。(メタ)アクリル系樹脂(F)は、1種の(メタ)アクリル系単量体の単独重合体であっても、2種以上の(メタ)アクリル系単量体の共重合体であっても、(メタ)アクリル系単量体と他の単量体との共重合体であってもよい。これらの中でも、メタクリル酸メチルの単独重合体、及び、メタクリル酸メチルと他の単量体との共重合体が好ましく、メタクリル酸メチルと他の単量体との共重合体が特に好ましい。
【0032】
メタクリル酸メチルと共重合可能な他の単量体の具体例としては、特に限定されないが、例えば、メタクリル酸メチル以外の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;スチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、エチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン等に代表される核アルキル置換スチレン;α−メチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレン等に代表されるα−アルキル置換スチレン等の芳香族ビニル化合物;アクリロニトリル、メタクリルニトリル等のシアン化ビニル;N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド;無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸無水物;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸に代表される不飽和酸等が挙げられる。なお、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
特に好適に用いることができる(メタ)アクリル系樹脂(F)は、メタクリル酸メチルとアクリル酸アルキルエステルとの共重合体である。かかる共重合体は、耐熱分解性に優れるので、得られる樹脂組成物の成形加工時の流動性が良好となる傾向にある。
【0034】
(メタ)アクリル系樹脂(F)としてメタクリル酸メチルとアクリル酸アルキルエステルとの共重合体を用いる場合、共重合体中のアクリル酸アルキルエステルの共重合割合は、耐熱分解性の観点から0.1質量%以上であることが好ましく、耐熱性の観点から15質量%以下であることが好ましい。これらの観点から、アクリル酸アルキルエステルの共重合割合は、0.2〜14質量%であることがより好ましく、さらに好ましくは1〜12質量%である。
【0035】
アクリル酸アルキルエステルの中でも、アクリル酸メチル及びアクリル酸エチルが好ましい。これらは、共重合割合が0.1〜1質量%といった低い範囲でメタクリル酸メチルと共重合させた場合でも、成形加工時の流動性の改良効果が著しく高くなる傾向にある。
【0036】
(メタ)アクリル系樹脂(F)として、耐熱(メタ)アクリル系樹脂を用いることもできる。耐熱(メタ)アクリル系樹脂の具体例としては、例えば、メタクリル酸エステル及び/又はアクリル酸エステルと、α−メチルスチレンやα−メチル−p−メチルスチレン等に代表されるα−アルキル置換スチレン等の芳香族ビニル化合物;アクリロニトリルやメタクリルニトリル等のシアン化ビニル;N−フェニルマレイミドやN−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド;無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸無水物;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸等の不飽和酸との共重合体等が挙げられる。
【0037】
好ましい耐熱(メタ)アクリル系樹脂としては、例えば、メタクリル酸メチル−無水マレイン酸−スチレンの3元共重合体が挙げられ、とりわけ、共重合体中のメタクリル酸メチルの共重合割合が40〜90質量%、無水マレイン酸の共重合割合が3〜20質量%、スチレンの共重合割合が7〜40質量%であって、且つ、無水マレイン酸の共重合割合に対するスチレンの共重合割合の比(スチレン単位/無水マレイン酸単位)が1〜3であるものは、耐熱性及び光弾性係数に優れるので好ましい。より好ましくは、共重合体中のメタクリル酸メチルの共重合割合が40〜85質量%、無水マレイン酸の共重合割合が5〜20質量%、スチレンの共重合割合が10〜40質量%であり、さらに好ましくは、共重合体中のメタクリル酸メチルの共重合割合が45〜80質量%、無水マレイン酸の共重合割合が5〜15質量%、スチレンの共重合割合が15〜40質量%である。
【0038】
なお、上述した耐熱(メタ)アクリル系樹脂は、例えば、特公昭63−1964号公報等に記載されているような公知の方法を用いて製造することができる。
【0039】
特に好適に用いることができる(メタ)アクリル系樹脂(F)は、メタクリル酸メチル−アクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸メチル−アクリル酸エチル共重合体、メタクリル酸メチル−無水マレイン酸−スチレン共重合体である。これらの中でも、成形加工時の流動性及び耐熱性の両方をバランスよく兼ね備えているという点から、メタクリル酸メチル−アクリル酸メチル共重合体がより好ましい。なお、(メタ)アクリル系樹脂(F)は、分子量、組成等が異なる2種以上のものを同時に用いてもよい。
【0040】
(メタ)アクリル系樹脂(F)の重量平均分子量は、5万〜20万であることが好ましく、より好ましくは7万〜15万である。(メタ)アクリル系樹脂(F)の重量平均分子量は、成形品の強度の観点から、5万以上であることが好ましく、成形加工性及び流動性の観点から、20万以下であることが好ましい。なお、本明細書における重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定される値を意味し、より具体的には、ポリスチレンを標準物質とする検量線から導出されるものである。
【0041】
また、本実施の形態においては、アイソタクチックポリメタクリル酸エステルと、シンジオタクチックポリメタクリル酸エステルとを同時に用いることもできる。
【0042】
(メタ)アクリル系樹脂(F)の製造方法は、特に限定されず、例えば、キャスト重合、塊状重合、懸濁重合、溶液重合、乳化重合、アニオン重合等の重合方法を適宜用いることができる。ただし、光学用途においては、(メタ)アクリル系樹脂(F)中への微小な異物の混入をできるだけ避けるのが好ましく、この観点からは、懸濁剤や乳化剤を用いない塊状重合や溶液重合が好ましい。
【0043】
溶液重合により(メタ)アクリル系樹脂(F)を製造する場合には、上述した単量体の混合物を、トルエンやエチルベンゼン等の芳香族炭化水素の溶媒に溶解して調製した単量体溶液を用いることができる。また、塊状重合により(メタ)アクリル系樹脂(F)を製造する場合には、通常の塊状重合と同様に、加熱等によって生じる遊離ラジカルや電離性放射線照射等を利用して、重合を開始させることができる。
【0044】
(メタ)アクリル系樹脂(F)の重合反応においては、ラジカル重合において用いられている開始剤を用いることができ、これを単量体溶液に含有させてもよい。そのような開始剤としては、特に限定されないが、例えば、アゾビスイソブチルニトリル等のアゾ化合物、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート等の有機過酸化物等が挙げられる。
【0045】
90℃以上の高温下で単量体を重合して(メタ)アクリル系樹脂(F)を得る場合には、溶液重合が一般的に採用される。この場合は、開始剤として、10時間半減期温度が80℃以上で、且つ、用いる有機溶媒に可溶である過酸化物及びアゾビス開始剤等が好適に用いられる。これらの具体例としては、例えば、1,1−tert−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、シクロヘキサンパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、1,1−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)、2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル等が挙げられる。
【0046】
これらの開始剤は、単量体の全量100質量部に対して、好ましくは0.005〜5質量部の範囲で用いられる。
【0047】
(メタ)アクリル系樹脂(F)の重合反応においては、必要に応じて分子量調節剤を用いてもよく、これを単量体溶液に含有させてもよい。そのような分子量調節剤としては、通常のラジカル重合において用いられるものを適宜用いることができる。その具体例としては、例えば、ブチルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、チオグリコール酸−2−エチルヘキシル等のメルカプタン化合物が挙げられる。これらの分子量調節剤は、(メタ)アクリル系樹脂(F)の重合度が好ましい範囲内に制御されるような濃度範囲で単量体溶液に添加すればよい。
【0048】
上述したように、位相差フィルムに用いる材質は、スチレン系樹脂(E)を含む樹脂組成物、又は、スチレン系樹脂(E)及び(メタ)アクリル系樹脂(F)を含む樹脂組成物が好ましく用いられるが、特に、スチレン系樹脂(E)及び(メタ)アクリル系樹脂(F)を含む樹脂組成物を用いると光弾性係数が小さくなる傾向にあるため好ましい。光弾性係数を小さくする観点から、樹脂組成物中の(メタ)アクリル系樹脂(F)の含有割合は、スチレン系樹脂(E)及び(メタ)アクリル系樹脂(F)の合計量に対して、20〜80質量%であることが好ましく、より好ましくは30〜70質量%である。
【0049】
樹脂組成物の調整方法は、特に制限されるものではなく公知の方法が利用できる。例えば、単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ブラベンダー、各種ニーダー等の溶融混練機を用い、上述した樹脂成分に、必要に応じて耐加水分解抑制剤や上述したその他の成分を添加して溶融混練することにより、製造することができる。
【0050】
なお、光弾性係数は、外力による複屈折の変化の生じやすさを表す係数であり、本明細書においては、下式(1)により定義される。
[Pa−1]=|Δn/σ| ・・・(1)
式(1)中、σは伸張応力[Pa]、Δnは応力付加時の複屈折であり、Δnは下式(2)により定義される値である。
Δn=n−n ・・・(2)
式(2)中、nは伸張方向と平行な方向の屈折率、nは伸張方向と垂直な方向の屈折率である。
【0051】
光弾性係数の値がゼロに近いほど、外力による複屈折の変化が小さいことを示し、言い換えれば、各用途に応じて設計された複屈折が外力によって変化し難いことを意味する。つまり、光弾性係数が小さいと、環境変化等により積層フィルム間の収縮率差で生じた応力による位相差変化が少なくなるので、安定した画像が期待される。
【0052】
樹脂組成物は、スチレン系樹脂(E)及び(メタ)アクリル系樹脂(F)以外の他の樹脂成分を含んでいてもよい。そのような他の樹脂成分の具体例としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂;ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエステル、脂肪族ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアセタール等の熱可塑性樹脂;フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂等が挙げられる。これらの樹脂成分は、1種を単独で、もしくは2種以上を併用して用いることができる。
【0053】
上記の他の樹脂成分の含有割合は、スチレン系樹脂(E)及び(メタ)アクリル系樹脂(F)の合計量100質量部に対して、20質量部以下であることが好ましい。
【0054】
また、樹脂組成物は、各種目的に応じて、公知の添加剤を含有していてもよい。このような添加剤の具体例としては、特に限定されないが、例えば、二酸化珪素等の無機充填剤;酸化鉄等の顔料;ステアリン酸、ベヘニン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、エチレンビスステアロアミド等の滑剤;離型剤;パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル、パラフィン、有機ポリシロキサン、ミネラルオイル等の軟化剤或いは可塑剤;ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系熱安定剤等の酸化防止剤;ヒンダードアミン系光安定剤;難燃剤;帯電防止剤;有機繊維、ガラス繊維、炭素繊維、金属ウィスカ等の補強剤;着色剤;紫外線吸収剤等が挙げられる。なお、これらの添加剤は、1種を単独で用いても2種以上を併用して用いてもよい。
【0055】
これらの添加剤の含有割合は、スチレン系樹脂(E)及び(メタ)アクリル系樹脂(F)の合計量100質量部に対して、0.01質量部以上50質量部以下であることが好ましい。
【0056】
上述の添加剤は、成形加工性に優れる傾向にあるという点から、20℃における蒸気圧(P)が1.0×10−4Pa以下であることが好ましく、より好ましくは1.0×10−6Pa以下、さらに好ましくは1.0×10−8Pa以下である。ここで、成形加工性に優れるとは、例えば、フィルム成形時に添加剤のロールへの付着が少ないこと等を意味する。添加剤がロールへ付着すると、例えば、成形体表面へ添加剤が付着して、外観及び光学特性を悪化させる傾向にある。
【0057】
また、上述の添加剤は、成形加工性に優れる傾向にあるという点から、融点(Tm)が80℃以上であることが好ましく、より好ましくは130℃以上、さらに好ましくは160℃以上である。
【0058】
さらに、上述の添加剤は、成形加工性に優れる傾向にあるという点から、23℃から260℃まで20℃/分の速度で昇温した場合の添加剤の質量減少率が50%以下であることが好ましく、より好ましくは15%以下、さらに好ましくは2%以下である。
【0059】
上述した添加剤の中でも、紫外線吸収剤は、液晶層及び偏光板の保護の観点から特に有用である。紫外線吸収剤の具体例としては、例えば、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾトリアジン系化合物、ベンゾエート系化合物、ベンゾフェノン系化合物、オキシベンゾフェノン系化合物、フェノール系化合物、オキサゾール系化合物、マロン酸エステル系化合物、シアノアクリレート系化合物、ラクトン系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンズオキサジノン系化合物等が挙げられる。これらの中でも、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾトリアジン系化合物が好ましい。なお、これらの紫外線吸収剤は、1種を単独で用いても2種以上を併用して用いてもよい。
【0060】
位相差フィルムは、上述した樹脂組成物をフィルム成形することにより得ることができる。成形方法は、特に制限されず、公知の方法を適用することができる。具体的には、例えば、射出成形、シート成形、ブロー成形、インジェクションブロー成形、インフレーション成形、押出成形、発泡成形、キャスト成形等の他、圧空成形や真空成形等の二次加工成形法も適用可能である。これらの中でも、押出成形、キャスト成形が好ましく用いられる。このとき、例えば、Tダイや円形ダイ等が装着された押出機等を用いて、未延伸フィルムを押出成形することができる。押出成形により成形品を得る場合には、事前に各種樹脂成分や添加剤等を溶融混練した材料を用いることができ、また、それらを押出成形時に溶融混練することもできる。さらに、各種樹脂成分に共通な溶媒、例えば、クロロホルムや二塩化メチレン等の溶媒を用いて、各種樹脂成分を溶解後、キャスト乾燥固化することにより未延伸フィルムをキャスト成形することもできる。
【0061】
必要に応じて、未延伸フィルムを機械的流れ方向に一軸延伸する、或いは、機械的流れ方向に直行する方向に一軸延伸することにより、一軸延伸フィルムにすることもできる。また、未延伸フィルムを、ロール延伸もしくはフローティング縦一軸延伸(非拘束縦一軸延伸)とテンター延伸等による逐次二軸延伸法や、テンター延伸等による同時二軸延伸法、チューブラー延伸等による二軸延伸法等によって延伸することにより、二軸延伸フィルムにすることもできる。
【0062】
このように、上述した樹脂組成物から特殊な手法を用いることなく、比較的容易に位相差フィルムを製造することが可能である。好ましい方法の1つとしては、例えば、下記の方法が挙げられる。すなわち、まず、Tダイを装着した押出機を用いて、上記樹脂組成物を押出成形することにより未延伸フィルムを得る。続いて、未延伸フィルムをフローティング縦一軸延伸(非拘束縦一軸延伸)及び/又はテンター延伸により、一軸延伸又は二軸延伸する。これにより、位相差フィルムを得ることができる。このときの延伸条件は、特に限定されず、常法にしたがって、フィルムか出来る温度、延伸倍率で行えばよい。一例を挙げると、二軸延伸フィルムの場合、115〜160℃の温度で、一方の延伸倍率を50〜110%とし、他方の延伸倍率を85〜140%とすることで、NZ係数が−0.7以下の位相差フィルムを再現性よく製造することができる。
【0063】
位相差フィルムの厚さは、ハンドリング性の観点から、5μm以上であることが好ましく、当該技術分野で求められている薄肉化の観点から、300μm以下であることが好ましい。同様の理由から、位相差フィルムの厚さは、10〜200μmであることがより好ましく、さらに好ましくは15〜100μmである。
【0064】
本実施形態の透明導電性フィルムは、上述した位相差フィルムの少なくとも片面に、透明導電膜を備えるものである。透明導電膜を構成する材料としては、従来、当該分野で導電性材料として用いられているものがいずれも使用可能であり、特に限定されない。具体的には、有機導電性化合物、有機導電性ポリマー、酸化インジウム、酸化錫、酸化亜鉛、インジウム−錫酸化物(ITO)、アンチモン−錫酸化物(ATO)、亜鉛−アルミニウム酸化物、インジウム−亜鉛酸化物(IZO)等の金属酸化物;金、銀、銅、パラジウム、アルミニウム等の金属が挙げられる。これらの中でも、酸化亜鉛、又は、酸化インジウムを主成分として含むものが好ましく、酸化インジウムを主成分として含むものがさらに好ましい。とりわけ、インジウム−錫酸化物は、高い透明性と導電性を兼ね備えているため特に好ましい。酸化インジウムの含有量は80〜99質量%であることが好ましく、さらに好ましくは90〜95質量%である。なお、「主成分」とは、透明導電膜の総量に対し、固形分換算で、60質量%以上含まれることを意味する。
【0065】
透明導電膜の厚みは、特に限定されないが、20〜300nmであることが好ましく、より好ましくは25〜200nm、さらに好ましくは30〜100nmである。透明導電膜の厚みが薄すぎる場合には、厚みや組成が不均一になる傾向にあり、一方、厚すぎる場合には、透明性が損なわれる傾向にある。
【0066】
位相差フィルム上に透明導電膜を設ける方法は、特に限定されない。例えば、コーティング法、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の公知の薄膜形成方法を適宜、適用可能である。これらの中でも、透明導電膜の膜厚及び組成の制御が容易で、位相差フィルムへの密着性に優れ、且つ、生産性に優れる観点から、スパッタリング法が好ましい。
【0067】
スパッタリング法を適用する場合、所望の透明導電膜と同一の組成を有する金属酸化物ターゲットを用いる通常のスパッタリング法のみならず、金属のターゲットを用い、スパッタリングガスとして酸素や窒素等を供給ながらターゲット又は基板上で反応させる方法(例えば、特開2008−138267号公報、特開2008−138268号公報のような方法)も適用可能である。スパッタの方式も特に限定されず、例えば、2極スパッタ、3極スパッタ、4極スパッタ、マグネトロンスパッタ、対向ターゲット式スパッタ(FTS)法、アンバランスドマグネトロンスパッタ等のプラズマ方式、イオンビームスパッタ、ECR(電子サイクロトロン共鳴)スパッタ等のビーム方式等の公知の方法を適用可能である。これらの中でも、マグネトロンスパッタ法、対向ターゲット式スパッタ(FTS)法が好ましい。なお、使用する電源は、高周波電源(RF)、直流電源(DC)のいずれであってもよい。
【0068】
スパッタリング法で透明導電膜を形成する際のスパッタガスとしては、例えば、アルゴン、ヘリウム、ネオン等の希ガスが挙げられる。また、反応性ガスとして、酸素や窒素等を用いてもよい。なお、スパッタリング時の真空度は、0.01〜2.0Paとするのが好ましく、より好ましくは0.1〜1.0Paである。真空度を上記範囲内にすると、放電が安定化し易いので、均一な膜厚及び組成の透明導電膜が得られ易く、また、透明導電膜と位相差フィルムとの密着性も良好となり易い。
【0069】
位相差フィルム上に透明導電膜を設ける際、位相差フィルムの変形を抑制する、或いは、位相差フィルムの表面平滑性が損なわれるのを抑制する観点から、位相差フィルムの表面温度が、位相差フィルムのガラス転移温度+30℃を超えない条件下で行うことが好ましく、より好ましくはガラス転移温度+20℃を超えない条件下、さらに好ましくはガラス転移温度を超えない条件下である。
【0070】
本実施形態の透明導電性フィルムは、全光線透過率が、80%以上であることが好ましく、より好ましくは85%以上である。透明性を向上させることで、より高い透明性が要求される用途に使用可能となる。
【0071】
本実施形態の透明導電性フィルムは、JIS P8115に準拠したMIT耐折疲労試験における屈曲回数(側手条件:荷重250g、屈曲角度135度、屈曲速度175回/分)が10回以上であることが好ましい。この屈曲回数が10回以上であると、高強度であり、製造時や取り扱い時の破損や、組み込み時や使用時の破損が抑制されたものとなる。
【0072】
以上説明したように、本実施形態の透明導電性フィルムは、少なくともスチレン系樹脂を含む樹脂組成物からなり且つNZ係数が−0.7以下である位相差フィルムを採用しているので、強度に優れ、製造時及び取り扱い時並びに使・BR>P時の破損が抑制される。したがって、歩留まり及び取り扱い性が向上し、生産性が高められるとともに、耐久性に優れたものとなる。よって、液晶表示装置やタッチパネル等の透明導電性フィルムとして、特に好適に用いることができる。
【実施例】
【0073】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0074】
フィルムの各種特性の測定と評価方法は以下の通りである。
(1)NZ係数、リタデーション(Re)、フィルム厚み
NZ係数、面内方向のリタデーション(Re)は、王子計測社製の位相差測定装置(商品名「KOBRA−WR」)により測定した。また、フィルムの厚みはミツトヨ社製ハイトゲージにより測定した。
【0075】
(2)強度
強度の指標として耐折疲労試験であるMIT試験を用いた。具体的には、東洋精機製作所製のMIT耐折疲労試験機(形式DA)を用いて、JIS P8115に準じて測定した。測定条件は、荷重250g、屈曲角度135度、屈曲速度175回/分、屈曲点治具のRを0.38mmとした。試験片は、位相差フィルム及び透明導電性フィルムから、15mm×110mmのサイズに切り出したものを用いた。この試験片は、その長辺が各フィルムのMD方向及びTD方向に対応するように2通りで切り出したものであり、各フィルムについて2種ずつ用意した。そして、試験片が破損するまで屈曲を繰り返し、破損した時の(屈曲)回数を観測した。試験は、上記のMD方向とTD方向の2通りで行ない、低い方の回数を強度とした。数字が大きいほど破損するまでの回数が多いので、強度に優れるフィルムと判断される。この回数が10回以下といった低い回数であると、生産時、使用時に破損の問題が生じやすくなるため好ましくない。
【0076】
(3)光弾性係数
Macromolecules 2004,37,1062−1066に詳細に記載される複屈折測定装置を用いて測定した。具体的には、レーザー光の経路に引っ張り装置を配置し、幅7mmの位相差フィルムの試験片に23℃で伸張応力をかけながら、その複屈折を測定した。伸張時の歪速度は、チャック間距離を100%としたときに、20%/分(チャック間:30mm、チャック移動速度:6mm/分)とした。このようにして測定された値を、複屈折(Δn)をy軸、伸張応力(σ)をx軸としてプロットし、その関係から、最小二乗近似により初期線形領域の直線の傾きを求めることで、光弾性係数(C)を算出した。傾きの絶対値が小さいほど光弾性係数が0に近いことを示し、好ましい光学特性であることを示す。
【0077】
(4)全光線透過率
以下の測定機を用いて行った。
測定機:村上色彩技術研究所社製積分球式分光透過率測定機「DOT−3C」
【0078】
[スチレン系樹脂(E)及び(メタ)アクリル系樹脂(F)の合成]
(P−1)スチレン−無水マレイン酸共重合体
装置の全てがステンレス鋼製である重合装置を用いて、連続溶液重合によりスチレン−無水マレイン酸共重合体を合成した。まず、スチレン91.7質量部、無水マレイン酸8.3質量部(合計100質量部)を、混合しないようにそれぞれ準備した。次いで、メチルアルコール5質量部、重合開始剤として1,1−tert−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン0.03質量部をスチレンに混合し、第1調合液を得た。この第1調合液を0.95kg/時間の速度で連続して内容積4Lのジャケット付き完全混合重合機に供給した。
一方、第2調合液として70℃に加熱した無水マレイン酸を、0.10kg/時間の速度で上記完全混合重合機へ供給し、111℃で重合した。重合転化率が54%となったところで、重合液を重合機から連続して取り出した。取り出した重合液を、まず230℃に予熱後、そのまま230℃に保温し、20torrに減圧された脱揮器に供給した。次いで、その脱揮器内に重合液を平均滞留時間で0.3時間保持した後、脱揮器の低部のギヤポンプより連続して重合液を排出した。排出した重合液を押出機に連続的に溶融状態で移送し、押出機にて押出成形してスチレン−無水マレイン酸共重合体(P−1)のペレットを得た。
得られたスチレン−無水マレイン酸共重合体(P−1)のペレットは無色透明であり、この重合体の中和滴定による組成分析の結果、スチレンの共重合割合は85質量%、無水マレイン酸単位の共重合割合は15質量%であった。ASTM−D1238に準拠して測定した230℃、2.16kg荷重のメルトフローレート値は2.0g/10分であった。
【0079】
(P−2)スチレン−メタクリル酸共重合体
装置の全てがステンレス鋼製である重合装置を用いて、連続溶液重合によりスチレン−メタクリル酸共重合体を合成した。まず、スチレン75.2質量%、メタクリル酸4.8質量%、エチルベンゼン20質量%を調合して、そこに重合開始剤として1,1−tert−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン0.03質量部を添加して調合液(単量体溶液)を得た。この調合液を1L/時間の速度で連続して内容積2Lの攪拌機付き完全混合重合機に供給し、136℃で重合した。固形分49%を含有する重合液を連続して取り出した。取り出した重合液を、まず230℃に予熱後、そのまま230℃に保温し、20Torrに減圧された脱揮器に供給した。次いで、その脱揮器内に重合液を平均滞留時間で0.3時間保持した後、脱揮器の低部のギヤポンプより連続して重合液を排出した。排出した重合液を押出機に連続的に溶融状態で移送し、押出機にて押出成形してスチレン−メタクリル酸共重合体(P−2)のペレットを得た。
得られたスチレン−メタクリル酸共重合体(P−2)のペレットは無色透明であり、この重合体の中和滴定による組成分析の結果、スチレンの共重合割合は92質量%、メタクリル酸の共重合割合は8質量%であった。ASTM−D1238に準拠して測定した230℃、3.8kg荷重のメルトフローレート値は5.1g/10分であった。
【0080】
(P−3)スチレン−アクリロニトリル共重合体
連続溶液重合によりスチレン−メタクリル酸共重合体を合成した。内容積3Lの攪拌機付き完全混合重合機に、スチレン72質量%、アクリロニトリル13質量%、エチルベンゼン15質量%からなる調合液(単量体溶液)を連続して供給し、150℃、滞留時間2時間で重合した。得られた重合液を押出機に連続的に溶融状態で移送し、押出機にて押出成形すると同時に未反応単量体及び溶媒を回収し、スチレン−アクリロニトリル共重合体(P−3)のペレットを得た。
得られたスチレン−アクリロニトリル共重合体(P−3)のペレットは無色透明であり、この重合体の中和滴定による組成分析の結果、スチレンの共重合割合は80質量%、アクリロニトリルの共重合割合は20質量%であった。ASTM−D1238に準拠して測定した220℃、10kg荷重のメルトフローレート値は13g/10分であった。
【0081】
(P−4)メタクリル酸メチル−アクリル酸メチル共重合体
メタクリル酸メチル89.2質量部、アクリル酸メチル5.8質量部、キシレン5質量部からなる混合物に、1,1−tert−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン0.0294質量部、及びオクチルメルカプタン0.115質量部を添加し、均一に混合して調合液(単量体溶液)を得た。
この調合液を内容積10Lの完全混合重合機に連続的に供給し、攪拌下で平均温度130℃、平均滞留時間2時間で重合した。その後、反応器に接続された貯槽に連続的に重合液を送り出し、一定条件下で揮発分を除去した。揮発分を除去した後の共重合体を押出機に連続的に溶融状態で移送し、押出機にて押出成形してメタクリル酸メチル−アクリル酸メチル共重合体(P−4)のペレットを得た。
得られたメタクリル酸メチル−アクリル酸メチル共重合体(P−4)の中和滴定による組成分析の結果、アクリル酸メチルの共重合割合は6.0質量%、メタクリル酸メチルの共重合割合は92.0質量%、ASTM−D1238に準拠して測定した230℃、3.8kg荷重のメルトフローレート値は1.0g/10分であった。
【0082】
[樹脂組成物の調製]
(C−1)〜(C−4)樹脂組成物
表1に記載の割合で(P−1)〜(P−3)のスチレン系樹脂(E)と(P−4)の(メタ)アクリル系樹脂(F)とをブレンドし、樹脂組成物(C−1)〜(C−4)を調整した。
【0083】
【表1】

【0084】
(実施例1〜10、比較例1〜3)
[位相差フィルムの作製]
表1に記載の組成の樹脂組成物(C−1乃至C−4)を用いて、以下の手順で位相差フィルムを作製した。
まず、プラスチック工学研究所製Tダイ装着押し出し機(BT−30−C−36−L型/幅400mmTダイ装着/リップ厚0.8mm)を用い、押出機シリンダー内の樹脂温度を235℃、押出機Tダイ温度を240℃とし、スクリュー回転数を調節して押出成形をすることにより、未延伸フィルムを得た。
次に、得られた未延伸フィルムを、以下の手順で2軸延伸した。ここでは、まず、市金工業社製テンター延伸機を用い、チャックを用いずに未延伸フィルムの縦一軸延伸(フィルムの流れ方向、押出方向、MD方向への延伸)を行った。この延伸処理では、延伸機入口にフィルムの繰り出し側ロールを、延伸機出口にフィルムの巻き取り側ロールを用意し、目標の設定延伸倍率にするために、二つのロール(繰り出し側ロール/巻き取り側ロール)の回転速度を変えてロール間で連続的に延伸を行った。引き続き、得られた縦一軸延伸フィルムのMD方向に垂直な方向(TD方向)への延伸を行った。TD方向への延伸は、上記のMD方向への延伸と同様に、市金工業社製テンター延伸機を用いて連続的に行った。
なお、この2軸延伸においては、目標とする設定延伸倍率にするために、テンターチャック間の距離を変え、また、テンター延伸機内の延伸ゾーンの温度を130〜145℃の温度範囲にコントロールし、表2に記載の倍率条件で縦延伸(MD方向の延伸)及び横延伸(TD方向の延伸)を行って、所望のNZ係数を持つ位相差フィルムを得た。得られた位相差フィルムの厚みは、40〜60μmの範囲であった。
表2に、得られた位相差フィルムのNZ係数、リタデーション(Re)、強度及び光弾性係数を示す。
【0085】
[透明導電膜の形成]
次いで、上記で得られた位相差フィルムの上に、透明導電膜を形成した。透明導電膜の形成は、酸化錫含有率10%のインジウム−錫酸化物(ITO)をターゲットに用いて、マグネトロンスパッタリング法で行ない、100nm厚のITO膜を位相差フィルムの片面に製膜し、これにより、位相差フィルムの片面に透明導電膜が積層された透明導電性フィルムを製造した。このとき、真空度は0.5Paとし、スパッタリングガスとしてアルゴンガス60sccm及び酸素ガス2sccm(20℃で規格化した値)を流した。また、製膜中、位相差フィルムの温度は20℃とした。何れの実施例、比較例においても、400Ω/□程度の表面抵抗値が得られた。
表2に、透明導電性フィルムの強度及び全光線透過率を示す。
【0086】
【表2】

【0087】
[性能評価]
表2から明らかなように、実施例1〜10の位相差フィルムは、耐折疲労試験の破壊に至るまでの回数が多く、強度に優れる。そして、これら実施例1〜10の位相差フィルムを用いた実施例1〜10の透明導電性フィルムにおいても、略同等の強度が示され、有効に機能していることがわかる。これに対し、比較例1〜3の位相差フィルム及び透明導電性フィルムにおいては、強度が著しく低い。また、非特許文献1で用いられているポリスチレンを材料に用いても、略同等の結果であった。
しかも、実施例1〜10の透明導電性フィルムは、強度に優れるので、製造時及び使用時の破損が抑制され、歩留まりが良好である。しかも、延伸倍率が200%を超えない範囲で実現可能なので、比較的に小型の延伸装置で作製可能である。よって、実施例1〜10の透明導電性フィルムは、従来に比して、生産性に優れる。
これらの結果から、実施例1〜10の透明導電性フィルムは、従来に比して、強度と生産性のバランスに優れるものであり、よって、工業製品として有用であると言える。
【0088】
また、表2から明らかなように、実施例1〜10の位相差フィルム及びこれを用いた透明導電性フィルムは、光弾性係数が小さいので、環境変化による画像の変化が小さい。つまり、安定性に優れる。これは、別途測定したPC(ポリカーボネート)フィルムの光弾性係数が80×10−12・Pa−1と大きい値であることとの比較から明白である。とりわけ、(メタ)アクリル系樹脂及びスチレン系樹脂を含む樹脂組成物を用いた実施例1〜8及び実施例10は、光弾性係数がより小さいとの理由で、特に優れる。
【0089】
さらに、表2から明らかなように、実施例1〜10の透明導電性フィルムは、全光線透過率が85%以上と透明性に優れる。
【0090】
また、実施例1〜10の位相差フィルム及びこれを用いた透明導電性フィルムは、ガラス転移温度(DSC法を用い、パーキンエルマー社製、示差走査熱量計「Pyris1」で測定)が、123−127℃であった。非特許文献1で用いられているポリスチレンのガラス転移温度が約100℃であることからの比較から、実施例1〜10の位相差フィルム及びこれを用いた透明導電性フィルムは、耐熱性に優れる。しかも、ガラス転移温度が123−127℃と高いので、透明導電膜の形成工程で、平面性が悪化する等のダメージも無かった。よって、実施例1〜10の位相差フィルム及びこれを用いた透明導電性フィルムは、より高い温度環境下でも使用でき、種々の用途において幅広く利用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の透明導電性フィルムは、透明性及び耐熱性のみならず、強度、生産性及び安定性に優れるので、液晶テレビ等に代表されるディスプレイ市場において、タッチパネルや液晶表示装置等の構成部材として、広く且つ有効に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と該基材の少なくとも片面に積層された透明導電膜とを備え、
前記基材は、少なくともスチレン系樹脂を含む樹脂組成物からなる位相差フィルムであり、該位相差フィルムのNZ係数が−0.7以下である、
透明導電性フィルム。
【請求項2】
前記基材は、少なくともスチレン系樹脂及び(メタ)アクリル系樹脂を含む樹脂組成物の位相差フィルムである、
請求項1に記載の透明導電性フィルム。
【請求項3】
前記スチレン系樹脂は、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、及びスチレン−無水マレイン酸共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である、
請求項1又は2に記載の透明導電性フィルム。
【請求項4】
前記(メタ)アクリル系樹脂は、メタクリル酸メチル−アクリル酸メチル共重合体である、
請求項2又は3に記載の透明導電性フィルム。
【請求項5】
前記位相差フィルムは、二軸延伸フィルムである。
請求項1〜4のいずれか一項に記載の透明導電性フィルム。
【請求項6】
JIS P8115に準拠したMIT耐折疲労試験における屈曲回数が、10回以上である、
請求項1〜5のいずれか一項に記載の透明導電性フィルム。

【公開番号】特開2010−165600(P2010−165600A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−8164(P2009−8164)
【出願日】平成21年1月16日(2009.1.16)
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【Fターム(参考)】