説明

透明導電積層体およびその製造方法

【課題】
本発明は、透明導電性及びガスバリア性が高く、かつ耐屈曲性に優れたCNTを導電性の層とする透明導電積層体を提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明の透明導電積層体は、厚み20〜188μmの透明基材の少なくとも片面上に[A]厚みが10〜500nmである含ケイ素無機層、[B]厚みが1〜50nmであるカーボンナノチューブ層、[C]厚みが10〜120nmである透明保護層が透明基材側からこの順に設けられ、[A]層の層内に、硫化亜鉛と二酸化ケイ素の合計に対する硫化亜鉛のモル分率が0.7〜0.9である硫化亜鉛−二酸化ケイ素共存相からなる、厚みが[A]の層の全厚みの40〜100%である層状の領域を有することを特徴とする透明導電積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリア性の層を有し、その上にカーボンナノチューブ(以下、CNTと略すこともある)からなる導電性の層を有し、さらにその上に透明保護層を有する透明導電積層体に関する。さらに、詳しくは、耐屈曲性に優れた透明導電積層体で、液晶ディスプレイ(以下、LCDと略すこともある)、有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、OLEDと略すこともある)、などディスプレイ関連、タッチパネル、調光ガラスおよび電子ペーパーなどに使用される透明導電積層体、特に電子ペーパーに使用される透明導電積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
透明導電積層体の導電性の層を形成する材料としては、インジウム−スズ酸化物(以下ITOと略すこともある)があり、ガスバリア性の層を形成する材料としては、酸化アルミニウム、酸化ケイ素がある。ITOは導電性及び耐環境性に優れ、酸化アルミニウム、酸化ケイ素は高い水蒸気遮断性の性能が得られることから、電子ペーパー用透明導電積層体における導電性の層とガスバリア性の層の積層材料として広く用いられている(例えば特許文献1)。
【0003】
しかしながら、導電性の層としてITO、ガスバリア性の層として酸化アルミニウム、酸化ケイ素を使用した透明導電積層体を、電子ペーパーに用いた場合、要求される耐屈曲性が未だ不足しており、さらなる改善が望まれている。
【0004】
ガスバリア性を向上させる技術としては、例えば、シラン化合物と酸素を含有するガスを用いてプラズマCVD法により、基材上にケイ素酸化物を主体とし、炭素、水素、ケイ素及び酸素を少なくとも1種類含有した化合物を形成することによって、透明かつガスバリア性を向上させる方法が提案されている(例えば特許文献2)。しかしながら、プラズマCVD法によりケイ素酸化物を主体としたガスバリア性の層を形成する方法では、形成されたガスバリア性の層が非常に緻密かつ高硬度な層であるため、温度60℃以上の高温環境や屈曲に対する基材の変形に追従できず、層にクラックが発生し、ガスバリア性が低下するという課題があった。
【0005】
一方、CNTを導電性の層として用いた透明導電積層体の開発も進んでいる。CNTは室温、大気圧下で導電性の層の塗布が可能であり、簡易なプロセスで導電性の層を形成することができる。また、屈曲性に富むため、柔軟な基材上に導電性の層を形成する場合であっても、基材の屈曲性に追従することができる。さらに、基材にフィルムを用いた場合には導電性の層を連続形成できることから、さらなるプロセスコストの低減が可能である。これらの導電性の層は、CNTの分散性を高め、かつ層の厚みを薄くすることによって、透明導電性を向上させることができる。CNTを導電性の層とする透明導電積層体は、従来、薄い導電性の層の耐久性、耐擦傷性の低下を改善させるために、透明な樹脂をCNTを用いた導電性の層上に塗布形成させることが提案されている(例えば特許文献3、特許文献4参照)。しかしながら、CNTを導電性の層とする透明導電積層体は透明導電性が不十分であり、各種用途においてITO透明導電積層体を置き換えるには至っていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−341225号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2010−077461号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特許第3665969号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】国際公開第2005−104141号パンフレット(実施例1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、電子ペーパー用途に好適な、透明導電性が高く、かつ熱や機械的な基材の変形にも透明導電性及びガスバリア性が悪化しない耐屈曲性に優れた透明導電積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用する。すなわち、厚み20〜188μmの透明基材の少なくとも片面上に[A]厚みが10〜500nmである含ケイ素無機層、[B]厚みが1〜50nmであるカーボンナノチューブ層、[C]厚みが10〜120nmである透明保護層が透明基材側からこの順に設けられ、[A]層の層内に、硫化亜鉛と二酸化ケイ素の合計に対する硫化亜鉛のモル分率が0.7〜0.9である硫化亜鉛−二酸化ケイ素共存相からなる、厚みが[A]層の全厚みの40〜100%である層状の領域を有することを特徴とする透明導電積層体である。
(2)前記[A]層と[B]層との間に以下の層を有する請求項1に記載の透明導電積層体であること、
[D]厚みが10〜100nmである金属酸化物層
(3)前記[C]層の波長550nmの屈折率と前記[B]層の波長550nmの屈折率との差が0.3以上で、かつ[B]層の波長550nmの屈折率が[C]層の波長550nmの屈折率より高く、かつ[B]層の波長550nmの屈折率が1.6〜1.9の範囲にあること、
(4)前記[C]層側の表面抵抗値が1×10Ω/□以上1×10Ω/□以下であること、にある。
(5)また、本発明の透明導電積層体は電子ペーパーに好ましく用いられる。
(6)また、厚み20〜188μmの透明基材の少なくとも片面上に[A]厚みが10〜500nmである含ケイ素無機層、[B]厚みが1〜50nmであるカーボンナノチューブ層、[C]厚みが10〜120nmである透明保護層が透明基材側からこの順に設けられ、[A]層の層内に、硫化亜鉛と二酸化ケイ素の合計に対する硫化亜鉛のモル分率が0.7〜0.9である硫化亜鉛−二酸化ケイ素共存相からなる、厚みが[A]層の全厚みの40〜100%である層状の領域を有する透明導電積層体の製造方法であって、前記[B]層を前記[A]層の上に非接触式塗工法によって設けることを特徴とする透明導電積層体の製造方法であり、
(7)前記[C]層を前記[B]層の上に非接触式塗工法によって設けることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、優れた透明導電性、耐屈曲性、および、水蒸気遮断性を有するため、特に、電子ペーパーの透明電極に好適な透明導電積層体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の透明導電積層体を電子ペーパーに適用した一例を示す模式図である。
【図2】耐屈曲性試験の概略図である。
【図3】流動床縦型反応装置の概略図である。
【図4】本発明のガスバリア性フィルムを製造するための巻き取り式スパッタリング装置を模式的に示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らは、透明性や導電性、水蒸気遮断性が高く、かつ耐屈曲性の高い透明積層体について鋭意検討を重ね、導電性の層としてCNT層を用い、さらにガスバリア性の層として硫化亜鉛(以下ZnSと略記する場合もある)および二酸化ケイ素(以下SiOと略記する場合もある)が特定の比率で含まれる硫化亜鉛−二酸化ケイ素共存相が特定の厚みで含まれる含ケイ素無機層を用い、透明保護層の厚みを特定の範囲としたところ、前記課題を一挙に解決することを究明したものである。
[透明導電積層体]
本発明の透明導電積層体は、厚み20〜188μmの透明基材の少なくとも片面上に[A]厚みが10〜500nmである含ケイ素無機層、[B]厚みが1〜50nmであるカーボンナノチューブ層、[C]厚みが10〜120nmである透明保護層が透明基材側からこの順に設けられたものである。各層の詳細は後述するが、含ケイ素無機層は高い水蒸気遮断性を有するガスバリア性の層であり、カーボンナノチューブ層は導電性の層、透明保護層は光反射による全光線透過率の悪化を防止する役割を果たす層である。透明保護層より波長550nmの屈折率(以降、単に屈折率と記した場合は、波長550nmの屈折率を示すものとする)の高い含ケイ素無機層やカーボンナノチューブ層が最表層に形成されると、光反射が大きくなり、透明導電積層体の光線透過率が悪化する。従って、透明保護層は、光線透過率を向上させる観点から、含ケイ素無機層やカーボンナノチューブ層より表層側(すなわち最表層に)に配置される。[A]〜[C]の以外の層をさらに設ける場合には、かかる層が透明保護層より屈折率が低く、かつ光線透過率が低下しない層の厚みであれば形成しても構わない。また、カーボンナノチューブ層が、含ケイ素無機層よりも透明基材側に形成された構成は、含ケイ素無機層が電気抵抗となり表面抵抗値が大幅に高くなるため、電子ペーパーに必要な表面抵抗値を越える問題が発生する。従って、本発明品の透明導電積層体は、透明基材側から、含ケイ素無機層、カーボンナノチューブ層、透明保護層の順に設ける。また、各層の応力バランスが崩れ、透明導電積層体に反りや変形が生じる場合など、応力調整を目的として透明基材の両面に、これら各層を設けても構わない。なお、[B]層を[A]層上に形成するとき、[C]層を[B]層上に形成するときにウエットコート法を採用する場合には、塗布面を傷つけ難く、バリア性能や、導電性能を損ない難いことから、非接触式の塗工方法を適用するのが好ましい。
[透明基材]
本発明に用いられる透明基材とは、透明な支持基材をいう。本発明において透明とは、可視光の透過率が高いことをいい、具体的には波長380〜780nmにおける全光線透過率が80%以上のもの、より好ましくは90%以上のものである。かかる透明基材の具体例としては、透明な樹脂を挙げることができる。
【0012】
また、本発明に用いられる透明基材は、その厚みが20〜188μmである。かかる厚みであることにより曲げ伸ばしの繰り返しに対する抵抗値の変化を低減することが可能となる電子ペーパー未使用時に曲げ伸ばし、巻き取りを行うことができれば、収納スペースを小さくすることができるという利点が得られる。また、電子ペーパーは紙の代替媒体として、曲面形状に貼り付けるなど紙と同様に曲げたり伸ばしたりすることができ、そのことにより導電性が変化しないことが望まれている。これらの観点から電子ペーパーおよび、その部材である透明導電基材には耐屈曲性が求められている。また、巻き取り可能なフィルムとすることで、Roll to Roll方式を採用することができ、生産コスト低減も図ることができる。また、生産時の取扱容易性の観点からは、透明基材は、その厚みが20μm以上であることが好ましい。より好ましくは100μm以上である。また、電子パーパーに要求される実用的な曲げ伸ばしを実現するためには、188μm以下とすることが好ましい。
【0013】
本発明に用いられる透明基材を構成する樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステル、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、アラミド、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ乳酸、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、脂環式アクリル樹脂、シクロオレフィン樹脂、トリアセチルセルロースなどを挙げることができる。
【0014】
さらに、透明基材は、必要に応じ、表面処理を施してあっても良い。表面処理は、グロー放電、コロナ放電、プラズマ処理、火炎処理等の物理的処理、あるいは樹脂層を設けてあっても良い。フィルムの場合、易接着層を形成したものであっても良く、例えば、帯電防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、充填剤等の添加剤を、本発明の効果を損なわない範囲内で添加してあっても良い。支持基材の種類は上述に限定されることはなく、用途に応じて透明性や耐久性や可撓性やコスト等から最適なものを選ぶことができる。
[含ケイ素無機層]
次に、[A]厚みが10〜500nmである含ケイ素無機層について詳細を説明する。本発明において[A]厚みが10〜500nmである含ケイ素無機層は、ガスバリア性の層として、透明基材と[B]厚みが1〜50nmであるカーボンナノチューブ層との間に配置される。
【0015】
発明者らの検討の結果、硫化亜鉛と二酸化ケイ素の合計に対する硫化亜鉛のモル分率が0.7〜0.9である硫化亜鉛−二酸化ケイ素共存相からなり、厚みが含ケイ素無機層の全厚みの40〜100%である層状の領域を有する含ケイ素無機層をガスバリア性の層として使用すると、ガスバリア性が良好かつ外部応力によって生じる機械的な曲げに対するフレキシブル性に優れた透明導電積層体を得ることが可能であることを見出した。(以下本明細書において硫化亜鉛と二酸化ケイ素の合計に対する硫化亜鉛のモル分率が0.7〜0.9である硫化亜鉛−二酸化ケイ素共存相を単に、「硫化亜鉛−二酸化ケイ素共存相」または「ZnS−SiO」と略記することもある。また、二酸化ケイ素(SiO)は、その生成時の条件によって、左記組成式のケイ素と酸素の組成比率から若干ずれたもの(SiO〜SiO)が生成することがあるが、本明細書においては二酸化ケイ素あるいはSiOと表記する)
本発明に使用する含ケイ素無機層の厚みは、含ケイ素無機層のガスバリア性が発現する含ケイ素無機層の厚みとして10nm以上、500nm以下が好ましい。含ケイ素無機層の厚みが10nmより薄くなると、十分にガスバリア性が確保できない箇所が発生し、基材面内でガスバリア性がばらつくなどの問題が生じる。含ケイ素無機層の厚みが500nmより厚くなると、含ケイ素無機層の層内に残留する応力が大きくなるため、高温高湿環境下で含ケイ素無機層にクラックが発生し、ガスバリア性が低下する問題が生じる。従って、含ケイ素無機層の厚みは10nm以上、500nm以下が好ましく、フレキシブル性を確保する観点から20nm以上、300nm以下がより好ましい。含ケイ素無機層の厚みは、透過型電子顕微鏡(TEM)による断面観察画像から、容易に測定することが可能である。
【0016】
本発明の透明導電積層体において含ケイ素無機層を適用することによりガスバリア性が良好となる理由は、含ケイ素無機層の全厚みの40〜100%を占める硫化亜鉛−二酸化ケイ素共存相からなる層状の領域が寄与しているものと考えている。すなわち、硫化亜鉛−二酸化ケイ素共存相においては硫化亜鉛に含まれる結晶質成分と二酸化ケイ素のガラス質成分とを共存させることによって、微結晶を生成しやすい硫化亜鉛の結晶成長が抑制され粒子径が小さくなるため層が緻密化し、酸素および水蒸気の透過が抑制されるためと推測している。また、結晶成長が抑制された硫化亜鉛を含む硫化亜鉛−二酸化ケイ素共存相からなる層状の領域は、無機酸化物または金属酸化物だけで形成された層よりも柔軟性が優れるため、熱や外部からの応力に対してクラックが生じにくいため、かかる層状の領域を有する含ケイ素無機層を適用することによりクラックの生成に起因するガスバリア性低下が抑制できたものと考えられる。
【0017】
かかる硫化亜鉛−二酸化ケイ素共存相の組成は、硫化亜鉛と二酸化ケイ素の合計に対する硫化亜鉛のモル分率が0.7〜0.9である。硫化亜鉛と二酸化ケイ素の合計に対する硫化亜鉛のモル分率が0.9より大きくなると、硫化亜鉛の結晶成長を抑制する酸化物が不足するため、空隙部分や欠陥部分が増加し、所定のガスバリア性が得られないなどの問題が発生する。また、硫化亜鉛と二酸化ケイ素の合計に対する硫化亜鉛のモル分率が0.7より小さくなると、層内部の二酸化ケイ素のガラス質成分が増加して層の柔軟度が低下するため、機械的な曲げに対するフレキシブル性が低下するなどの問題が発生する。従って、ガスバリア性とフレキシブル性の観点から、含ケイ素無機層は硫化亜鉛と二酸化ケイ素の合計に対する硫化亜鉛のモル分率は0.7〜0.9の範囲である硫化亜鉛−二酸化ケイ素共存相が好ましく、さらに好ましくは0.75〜0.85の範囲である。
【0018】
硫化亜鉛−二酸化ケイ素共存相に含まれる成分は硫化亜鉛および二酸化ケイ素が上記組成の範囲でかつ主成分であれば特に限定されず、例えば、Al、Ti、Zr、Sn、In、Nb、Mo、Ta等から形成された金属酸化物を含んでも構わない。ここで主成分とは、通常硫化亜鉛−二酸化ケイ素共存相の組成の60質量%以上であることを意味し、本発明においても同様であるが、80質量%以上であれば好ましい。
【0019】
本発明において、硫化亜鉛−二酸化ケイ素共存相は、含ケイ素無機層中にその全厚みの40〜100%の範囲である層状の領域をなす。厚みの100%の場合とは含ケイ素無機層が硫化亜鉛−二酸化ケイ素共存相のみからなる場合である。含ケイ素無機層の構成成分が、硫化亜鉛−二酸化ケイ素共存相が形成する層状の領域以外の領域を有する場合その領域を構成する成分としては、炭化ケイ素、窒化ケイ素、酸化ケイ素からなる群より選ばれる少なくとも1種の含ケイ素化合物が挙げられる。かかるケイ素化合物からなる層状の領域を有することにより、フレキシブル性を確保しつつ飛躍的にガスバリア性が改善した透明導電積層体を形成することが可能である。ガスバリア性が向上する理由は明確ではないが、恐らく硫化亜鉛および二酸化ケイ素からなる共存層表層に存在する欠陥部分にケイ素化合物が充填されるため、表層が緻密化し、結果としてガスバリア性が向上するものと考えられる。なお、ここで硫化亜鉛−二酸化ケイ素共存相がなすのは層状の領域と表しているが、硫化亜鉛−二酸化ケイ素共存相が形成する層状の領域以外の領域を炭化ケイ素、窒化ケイ素、酸化ケイ素等がなす場合、境界となる領域において、組成が明確な境界面を有さず組成が傾斜的になる場合があるからである。このように、組成が傾斜的になっている場合において、硫化亜鉛−二酸化ケイ素共存相に着目して、硫化亜鉛と二酸化ケイ素の合計に対する硫化亜鉛のモル分率が0.7〜0.9である範囲が層をなしていれば、層状の領域を形成しているという。
【0020】
本発明に使用するケイ素化合物層の厚みは、上述した含ケイ素無機層の組成分析により、含ケイ素無機層の厚みから、硫化亜鉛(ZnS)のモル分率が0.7〜0.9となる硫化亜鉛−二酸化ケイ素共存相の領域の厚みを除くことによって求めることが可能である
本発明の含ケイ素無機層は、硫化亜鉛−二酸化ケイ素共存相からなる層状の領域が含ケイ素無機層の全厚みの40%より小さくなると、含ケイ素無機層全体の柔軟度が低下するため、機械的な曲げに対するフレキシブル性が低下するなどの問題が発生する。従って、硫化亜鉛−二酸化ケイ素共存相は、含ケイ素無機層の全厚みの40〜100%の範囲である層状の領域を有することが好ましく、さらに好ましくは80〜100%の範囲である。
【0021】
含ケイ素無機層の組成は、層の形成時に使用した混合焼結材料と同等の組成で形成されるため、目的に合わせた組成の混合焼結材料を使用することで容易に含ケイ素無機層の組成調整が可能である。含ケイ素無機層の組成分析は、ICP発光分光分析により行い、この値を元にラザフォード後方散乱法を使用して、各元素を定量分析し硫化亜鉛と二酸化ケイ素および含有する無機酸化物の組成比を知ることができる。ICP発光分光分析は、試料をアルゴンガスとともにプラズマ光源部に導入した際に発生する発光スペクトルから、多元素の同時計測が可能であり調査試料の組成分析ができる。また、ラザフォード後方散乱法は高電圧で加速させた荷電粒子を試料に照射し、そこから跳ね返る荷電粒子の数、エネルギーから元素の特定、定量を行い、各元素の組成比を知ることができる。含ケイ素無機層上に無機層や樹脂層が積層されている場合、必要に応じてイオンエッチングや薬液処理により層を除去した後、ICP発光分光分析及び、ラザフォード後方散乱法にて分析することができる。
【0022】
透明基材上に含ケイ素無機層を形成する方法は特に限定されず、含ケイ素無機層中にその全厚みの40〜100%の範囲である層状の領域をなす硫化亜鉛−二酸化ケイ素共存相は例えば、硫化亜鉛と二酸化ケイ素の混合焼結材料を使用して、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等によって形成することができる。硫化亜鉛と二酸化ケイ素の単体材料を使用する場合は、硫化亜鉛と二酸化ケイ素をそれぞれ別の蒸着源またはスパッタ電極から同時に成膜し、所望の組成となるように混合させて形成することができる。これらの方法の中でも、本発明に使用する含ケイ素無機層の形成方法は、ガスバリア性と形成した層の組成再現性の観点から、混合焼結材料を使用したスパッタリング法がより好ましい。
【0023】
ケイ素化合物層を形成する方法は特に限定されず、例えば、CVD法、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等によって形成することができる。これらの方法の中でも、本発明に使用するケイ素化合物層の形成方法は、含ケイ素無機層表面の欠陥を効率よく充填させて飛躍的にガスバリア性を向上させる方法として、シラン化合物のモノマー気体をプラズマにより活性化し、重合反応によってケイ素化合物層を形成するCVD法が好ましい。
【0024】
シラン化合物とは、分子内部にケイ素を含有する化合物のことであり、例えば、シラン、メチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、テトラメチルシラン、エチルシラン、ジエチルシラン、トリエチルシラン、テトラエチルシラン、プロポキシシラン、ジプロポキシシラン、トリプロポキシシラン、テトラプロポキシシラン、ジメチルジシロキサン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラメチルジシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ウンデカメチルシクロヘキサシロキサン、ジメチルジシラザン、トリメチルジシラザン、テトラメチルジシラザン、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサメチルシクロトリシラザン、オクタメチルシクロテトラシラザン、デカメチルシクロペンタシラザン、ウンデカメチルシクロヘキサシラザンなどがあげられる。中でも取り扱い上の安全性からヘキサメチルジシロキサン、テトラエトキシシランが好ましい。
[金属酸化物層]
次に、[D]厚みが10〜100nmである金属酸化物層について詳細を説明する。発明者らの検討の結果、含ケイ素無機層の上に少なくとも1層の金属酸化物層を厚み10〜100nmの範囲で積層させることにより、フレキシブル性を確保しつつ飛躍的にガスバリア性が改善した透明導電積層体を形成することが可能であることを見出した。
【0025】
金属酸化物は、例えば、Al、Ti、Zr、Sn、In、Nb、Mo、Ta等から選択される金属の酸化物であることが好ましく、光透過性の観点から、Alがより好ましい。
【0026】
本発明に使用する金属酸化物層の厚みは、ガスバリア性を発現する層の厚みとして10nm以上、100nm以下が好ましい。金属酸化物層の厚みが10nmより薄くなると、十分にガスバリア性が確保できない箇所が発生し、基材面内でガスバリア性がばらつくなどの問題が生じる。また、金属酸化物層の厚みが100nmより厚くなると、層内に残留する応力が大きくなるため、含ケイ素無機層にクラックが発生しやすくなり、ガスバリア性が低下する問題が生じる。従って、金属酸化物層の厚みは5nm以上、100nm以下が好ましく、フレキシブル性を確保する観点から10nm以上、50nm以下がより好ましい。
【0027】
金属酸化物層を形成する方法は特に限定されず、例えば、CVD法、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等によって形成することができる。これらの方法の中でも、簡便かつ安価に金属酸化物層を形成可能な方法として、スパッタリング法が好ましい。
[カーボンナノチューブ層]
次に、[B]厚みが1〜50nmであるカーボンナノチューブ(CNT)層について詳細を説明する。本発明におけるCNT層はCNTを含んでいればよい。本発明において、CNT層に用いられるCNTは、単層CNT、二層CNT、三層以上の多層CNTのいずれでもよい。直径が0.3〜100nm、長さ0.1〜20μm程度のものが好ましく用いられる。CNT層の透明性を高め、表面抵抗を低減するためには、直径10nm以下、長さ1〜10μmの単層CNT、二層CNTがより好ましい。
【0028】
また、CNTの集合体にはアモルファスカーボンや触媒金属などの不純物は極力含まれないことが好ましい。これら不純物が含まれる場合は、酸処理や加熱処理などによって適宜精製することができる。このCNTは、アーク放電法、レーザーアブレーション法、触媒化学気相法(化学気相法の中で担体に遷移金属を担持した触媒を用いる方法)などによって合成、製造されるが、なかでも生産性よくアモルファスカーボン等の不純物の生成を少なくできる触媒化学気相法が好ましい。さらに、必要に応じて他のナノサイズの導電性材料を添加しても良い。
【0029】
本発明のCNT層の厚みは、導電性及び光線透過率の観点から、1〜50nmの範囲で形成される。CNT層の厚みが、1nmより小さくなると、電気抵抗が上昇し、導電性が不安定となるため、厚みは1nm以上が好ましい。CNT層の厚みが50nmより大きくなると、CNT自身の物性である光吸収により、光線透過率が十分に確保できない問題が発生するため、厚みは50nm以下が好ましい。従って、CNT層の厚みは、1〜50nmであることが好ましく、透明性の観点から、5〜20nmがさらに好ましい。
【0030】
本発明において、CNT層は、CNT分散液を塗布して形成することができる。CNT分散液を得るには、CNTを溶媒とともに、混合分散機や超音波照射装置によって分散処理を行うことが一般的であり、さらに分散剤を添加することが望ましい。
【0031】
分散剤としては、CNTが分散できれば特に限定はないが、CNT分散液を透明基材上に塗布、乾燥させたCNT層の基材との密着性、層の硬度、耐擦過性の点で、合成高分子、天然高分子のポリマーを選択することが好ましい。さらに、分散性を損わない範囲で架橋剤を添加してもよい。
【0032】
合成高分子は、例えば、ポリエーテルジオール、ポリエステルジオール、ポリカーボネートジオール、ポリビニルアルコール、部分けん化ポリビニルアルコール、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール、アセタール基変性ポリビニルアルコール、ブチラール基変性ポリビニルアルコール、シラノール基変性ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−ビニルアルコール−酢酸ビニル共重合樹脂、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、アクリル系樹脂、エポキシ樹脂、変性エポキシ系樹脂、フェノキシ樹脂、変性フェノキシ系樹脂、フェノキシエーテル樹脂、フェノキシエステル樹脂、フッ素系樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、フェノール樹脂、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドンである。天然高分子は、例えば、多糖類であるデンプン、プルラン、デキストラン、デキストリン、グアーガム、キサンタンガム、アミロース、アミロペクチン、アルギン酸、アラビアガム、カラギーナン、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、カードラン、キチン、キトサン、セルロースおよびその誘導体から選択できる。誘導体とはエステルやエーテルなどの従来公知の化合物を意味する。これらは、1種または2種以上を混合して用いることができる。中でも、カーボンナノチューブの分散性に優れることから、多糖類ならびにその誘導体が好ましい。さらにセルロースならびにその誘導体が、層の形成能が高く好ましい。中でもエステルやエーテル誘導体が好ましく、具体的には、カルボキシメチルセルロースやその塩などが好適である。
【0033】
CNT層の波長550nmにおける屈折率は1.6〜1.9の範囲が好ましい。CNT層の屈折率が1.6以上であると、CNT層との屈折率差が0.3以上になるため、安価でかつ生産性良好な透明保護層材料を用いることができるので好ましい。屈折率が1.9以下であると、透明保護層の厚みを薄くすることができ、表面抵抗値の上昇を抑えられるので好ましい。CNT層の屈折率は、CNT層中のCNTと分散剤との配合比を調整することで制御できる。
【0034】
CNTと分散剤の配合比は、CNT層の波長550nmにおける屈折率が1.6〜1.9の範囲となり、かつ基材との密着性、硬度、耐擦過性に問題のない配合比が好ましい。具体的には、CNTが層全体に対し10質量%〜90質量%の範囲にあることが好ましい。より好ましくは、30質量%〜70質量%の範囲である。CNTが10質量%以上であると、タッチパネルや調光ガラスに必要な透明導電性が得られ易く、ウエットコーティングでの透明導電性の均一性が良くなり好ましい。90質量%以下であると、CNTの溶媒中での分散性が良化、凝集し難くなり、良好なCNT塗布層が得られ易くなり、生産性が良いので好ましい。さらに塗布層も強固で、生産工程中に摩擦傷が発生し難くなり、表面抵抗値の均一性を維持できるので好ましい。
【0035】
CNT層は、CNT自身の物性により光を反射や吸収する。そのため、透明な支持基材上に設けたCNT層を含む透明導電積層体の透過率を上げるには、CNT層上に透明な材料で透明保護層を設け、この透明保護層側の波長450〜750nmでの平均反射率を2.5%以下とすることが効果的である。平均反射率が2.5%以下であると、電子ペーパー用途に用いる場合の全光線透過率80%以上の性能を生産性良く得ることができるので好ましい。CNT層を含ケイ素無機層上に形成する方法としては、形成しようとするCNT層の構成成分に応じて一般的な方法を適宜選択すれば良いが、キャスト、スピンコート、ディップコート、バーコート、スプレー、ブレードコート、スリットダイコート、グラビアコート、マイクログラビアコート、リバースコート、スクリーン印刷、鋳型塗布、印刷転写、インクジェットなどのウエットコート法が好ましい。なかでも、塗布面である含ケイ素無機層に傷を付け難いことから、非接触式塗工法が好ましい。含ケイ素無機層に傷がつくと水蒸気遮断性が損なわれるためである。非接触式塗工法の中では、透明保護層の厚みを10nm〜120nmの範囲で均一にかつ生産性良く形成できることとから、スリットダイコートが好ましい。
[透明保護層]
次に、[C]厚みが10〜120nmである透明保護層について詳細を説明する。本発明の透明導電積層体では、CNT層上に設ける透明保護層は、上記の光学的な役割に加え、CNT層の耐擦過性の向上、CNTの脱落の防止の役割も兼ねている。
【0036】
透明保護層は平均反射率を下げるために、その屈折率がCNT層の屈折率より低く、かつCNT層の屈折率との差が0.3以上のものが好ましく、さらに好ましくは0.4以上のものを用いるが好ましい。透明保護層の屈折率がCNT層の屈折率よりも高くなると、CNT層単独の時よりもかえって平均反射率が高くなる。また、屈折率差が0.3以上であると、ニュートラルな透過光でかつ平均反射率が2.5%以下とするための制御範囲が広くなり、生産でのプロセスマージンが拡大するので好ましい。
【0037】
透明保護層は、前記範囲に入る物質であれば、特に限定しないが、無機化合物、有機化合物、および無機・有機の複合物で構成されたもので内部に空洞を有する構成のあるものが良い。単一物質としては、ケイ素酸化物、フッ化マグネシウム、フッ化セリウム、フッ化ランタン、フッ化カルシウムなどの無機化合物、ケイ素元素、フッ素元素を含有するポリマーなどの有機化合物、複合体としては、内部に空洞を有するシリカ、アクリルなどの微粒子と単官能もしくは多官能(メタ)アクリル酸エステル、または/およびシロキサン化合物、または/およびパーフルオロアルキル基を有する有機化合物の単量体成分を重合して得られる重合体との混合物がある。
【0038】
ケイ素酸化物は、具体例に例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−i−プロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシランなどのテトラアルコシシラン類、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、i−プロピルトリメトキシシラン、i−プロピルトリエトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、n−ブチルトリエトキシシラン、n−ペンチルトリメトキシシラン、n−ペンチルトリエトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、n−ヘプチルトリメトキシシラン、n−オクチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、3,3,3−トリフロロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフロロプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−ヒドロキシエチルトリメトキシシラン、2−ヒドロキシエチルトリエトキシシラン、2−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、2−ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン、3−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、3−ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン等のトリアルコキシシラン類、メチルトリアセチルオキシシラン、メチルトリフェノキシシランなどのオルガノアルコシシランのアルコール、水、酸などから、加水分解・重合反応によって形成させるゾル−ゲルコーティング層、ケイ素酸化物のスパッタ蒸着層などが使用できる。
【0039】
透明保護層の厚みは、好ましくは10nm〜120nmである。透明保護層の厚みが10nm以上であると、透明保護層の強度が増加し、耐久性、耐擦傷性などのCNT層を保護する機能が向上する。一方、120nm以下であると、光の干渉による干渉縞が視認されず、かつ透過色調がニュートラル色となり、かつ透明導電積層体を折り曲げた際のCNT層の表面抵抗値の上昇を抑えることができる。透明保護層の厚みは、透過型電子顕微鏡(TEM)による断面観察画像から、容易に測定することが可能である。
【0040】
透明保護層には必要に応じ、粒子、導電剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、レベリング剤、滑り賦活剤、その他の成分を含有しても良い。
【0041】
透明保護層をCNT層上に形成する方法としては、形成する物質により最適な方法を選択すれば良く、真空蒸着、EB蒸着、スパッタ蒸着などのドライ法、キャスト、スピンコート、ディップコート、バーコート、スプレー、ブレードコート、スリットダイコート、グラビアコート、リバースコート、スクリーン印刷、鋳型塗布、印刷転写、インクジェットなどのウエットコート法等、一般的な方法を挙げることができる。なかでも、透明保護層の厚みを10nm〜120nmの範囲で均一にかつ生産性良く形成できる観点からマイクログラビアを使用したウエットコート法が好ましい。また、表面抵抗値を損なわないためにCNT層を傷つけずに設けることが出来る観点からは非接触式塗工法が好ましく、中でもスリットダイコートが好ましい。
【0042】
本発明の透明導電積層体の透明保護層側の表面抵抗値は、好ましくは1×10Ω/□以上、1×10Ω/□以下、より好ましくは1×10Ω/□以上、1.5×10Ω/□以下である。この範囲にあることで、電子ペーパー用の透明導電積層体として好ましく用いることができる。すなわち、1×10Ω/□以上であれば、透過率を高くすることができ、1×10Ω/□以下であれば、消費電力を少なくすることができる。
【0043】
本発明の透明導電積層体の透明性は、波長380〜780nmにおける全光線透過率が80%以上であることが好ましい。より好ましくは透過率85%以上である。透過率が80%以上であれば、電子ペーパーの視認性を良くすることができる。透過率を上げるための方法としては、前述した透明保護層側の波長450〜750nmでの平均反射率を2.5%以下とする方法以外に、一般的に透明な支持基材の厚みを薄くする方法、あるいは透過率の大きな材質を選定する方法が挙げられる。また、CNTの分散性を向上させることによって、より薄い層の厚みのCNT層で所望の表面抵抗値を得ることができ、透過率を上げることができる。
[電子ペーパー]
次に、本発明の電子ペーパーについて説明する。図1は本発明の透明導電積層体を電子ペーパーに適用した一例を示す模式断面図である。電子ペーパーは、透明なマイクロカプセル9が、上部に配置された本発明の透明導電積層体5と下部に配置された下部電極複合体12との間に隙間なく並べられた構造となっている。上部に配置された透明導電積層体5は透明基材1と含ケイ素無機層2とCNT層3と透明保護層4とから構成され、下部電極複合体12は下部電極10と支持基材11とから構成される。マクロカプセル9中には正に帯電した白色顔料粒子6と負に帯電した黒色顔料粒子8が透明分散媒7と共に収められている。
【0044】
図1に示す電子ペーパーでは、外部の制御回路からの電圧印加によって2枚の電極間に電解が生じ、正に帯電した白色顔料粒子6と負に帯電した黒色顔料粒子8が透明分散媒7中を泳動して、いずれか電圧によって選ばれた色の顔料粒子がカプセルの表示面側に集まることで、白黒の表示を行い、微小な電極によって作られる各画素ごとに白黒の表示が選ばれる。電圧を切っても顔料粒子は簡単に動かないため、印刷物のように読みとることができる。
【0045】
厚み20〜188μmの透明基材を用いることで、曲げ伸ばし可能な透明導電積層体を提供することができ、形状の自由度が大きいため電子ペーパーとして好適に使用できる。また、透明基材の少なくとも片面上に含ケイ素無機層とカーボンナノチューブ層と透明保護層とを透明基材側からこの順に設け、前記含ケイ素無機層は硫化亜鉛および二酸化ケイ素を特定の比率で含む硫化亜鉛−二酸化ケイ素共存相からなる層状の領域を有することで、折り曲げても抵抗値変化のないあるいは小さい透明導電積層体を提供することができ、電子ペーパーとして耐久性が良くに好適にできる。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例に基づき、具体的に説明する。ただし、本発明は下記実施例に限定されるものではない。まず、各実施例および比較例における評価方法を説明する。
【0047】
(1)層の厚み
断面観察用サンプルをマイクロサンプリングシステム(日立製FB−2000A)を使用してFIB法により(具体的には「高分子表面加工学」(岩森暁著)p.118〜119に記載の方法に基づいて)作製した。透過型電子顕微鏡(日立製H−9000UHRII)により、加速電圧300kVとして、観察用サンプルの断面を観察し、カスバリア層の含ケイ素無機層及び金属酸化物層、透明保護層の厚みを測定した。
【0048】
(2)全光線透過率
JIS−K7361(1997年)に基づき、濁度計NDH2000(日本電色工業(株)製)を用いて測定した。
【0049】
(3)波長550nmの屈折率
シリコンウエハーまたは石英ガラス上にコーターにて形成された塗層について、高速分光メーターM−2000(J.A.Woollam 社製)を用い、塗層の反射光の偏光状態の変化を入射角度60度、65度、70度で測定、解析ソフトWVASE32にて、波長550nmの屈折率を計算で求めた。
【0050】
(4)表面抵抗
透明保護層側の表面抵抗は、低抵抗計(ダイアインスツルメンツ製、ロレスタEPMCP−T360)を用い4探針法で100mm×50mmのサンプルの中央部分を測定した。
【0051】
(5)水蒸気透過率
温度40℃、湿度90%RH、測定面積50cmの条件で、米国、モコン(MOCON)社製の水蒸気透過率透過率測定装置(機種名:PERMATRAN(登録商標) W3/31)を使用して測定した。サンプル数は水準当たり2検体とし、測定回数は同一サンプルについて各10回とし、その平均値を水蒸気透過率(i)とした。
【0052】
加えて、水蒸気透過率が0.01以下となった水準については、同条件にて、英国、technolox社製の水蒸気透過率測定装置(機種名:DELTAPEM)を使用し、差圧法にて水蒸気透過率(ii)を測定した。
【0053】
(6)含ケイ素無機層の組成
含ケイ素無機層の組成分析はICP発光分光分析(セイコー電子工業(株)製、SPS4000)により行い、この値をもとにさらにラザフォード後方散乱法(日新ハイボルテージ(株)製AN−2500)を使用して、各元素を定量分析し硫化亜鉛と二酸化ケイ素の組成比を求めた。
【0054】
(7)耐屈曲性
図2参照。透明導電積層体を100mm×140mmにサンプリングし、このサンプルの両短辺に沿って幅10mm長さ100mmの範囲で銀ペースト電極(太陽インキ製造(株)製 ECM−100 AF4820)を塗布、90℃、30min乾燥させ端子電極13とした。このサンプルの透明導電積層体15の側、中央部に直径5mmの金属円柱16を固定し、この円柱に沿って、円柱の抱き角0°(サンプルが平面の状態)から、円柱への抱き角が130°(円柱で折り返した状態)となる範囲で、100回折り曲げ動作を行った。耐屈曲性は、曲げ動作前後の電極間抵抗値変化率及び水蒸気透過率を指標とした。折り曲げ前の端子電極間抵抗値をR、折り曲げ後抵抗値をRとしたときに、R/Rを電極間抵抗値変化率とした。端子電極間抵抗はデジタルマルチメーター(カイセ(株)製 KT−2011)で測定した。測定N数は1で行った。また、水蒸気透過率は、曲げ動作前後について(5)に示す方法で評価を行った。
【0055】
次に、本発明に用いたCNT塗液について説明する。
【0056】
(触媒調整)
クエン酸アンモニウム鉄(緑色)(和光純薬工業社製)2.459gをメタノール(関東化学社製)500mLに溶解した。この溶液に、軽質マグネシア(岩谷社製)を100g加え、室温で60分間攪拌し、40℃から60℃で攪拌しながら減圧乾燥してメタノールを除去し、軽質マグネシア粉末に金属塩が担持された触媒を得た。
【0057】
(CNT組成物製造)
図3に概略図を示す流動床縦型反応装置でCNTを合成した。反応器100は内径32mm、長さは1200mmの円筒形石英管である。中央部に石英焼結板101を具備し、石英管下方部には、不活性ガスおよび原料ガス供給ライン104、上部には排ガスライン105および、触媒投入ライン103を具備する。さらに、反応器を任意温度に保持できるように、反応器の円周を取り囲む加熱器106を具備する。加熱器106には装置内の流動状態が確認できるよう点検口107が設けられている。
【0058】
上記触媒12gを取り、密閉型触媒供給器102から触媒投入ライン103を通して、石英焼結板101上に前記「触媒調整」部分で示した触媒108をセットした。次いで、原料ガス供給ライン104からアルゴンガスを1000mL/分で供給開始した。反応器内をアルゴンガス雰囲気下とした後、温度を850℃に加熱した。
【0059】
850℃に到達した後、温度を保持し、原料ガス供給ライン104のアルゴン流量を2000mL/分に上げ、石英焼結板上の固体触媒の流動化を開始させた。加熱炉点検口107から流動化を確認した後、さらにメタンを95mL/分で反応器に供給開始した。該混合ガスを90分供給した後、アルゴンガスのみの流通に切り替え、合成を終了させた。
【0060】
加熱を停止させ室温まで放置し、室温になってから反応器から触媒とCNTを含有するCNT組成物を取り出した。
【0061】
上記で示した触媒付きCNT組成物23.4gを磁性皿に取り、予め446℃まで加熱しておいたマッフル炉(ヤマト科学社製、FP41)にて大気下、446℃で2時間加熱した後、マッフル炉から取り出した。次に、触媒を除去するため、CNT組成物を6Nの塩酸水溶液に添加し、室温で1時間攪拌した。濾過して得られた回収物を、さらに6Nの塩酸水溶液に添加し、室温で1時間攪拌した。これを濾過し、数回水洗した後、濾過物を120℃のオーブンで一晩乾燥することでマグネシアおよび金属が除去されたCNT組成物を57.1mg得ることができ、上記操作を繰り返すことによりマグネシアおよび金属が除去されたCNT組成物を500mg用意した。
【0062】
次に、マッフル炉で加熱して触媒を取り除いたCNT組成物80mgを濃硝酸(和光純薬工業社製 1級 Assay60〜61%)27mLに添加し、130℃のオイルバスで5時間攪拌しながら加熱した。加熱攪拌終了後、CNTを含む硝酸溶液をろ過し、蒸留水で水洗後、水を含んだウエット状態のままCNT組成物を1266.4mg得た。
【0063】
(CNT塗液)
50mLの容器に上記CNT組成物を10mg(乾燥時換算)、分散剤としてカルボキシメチルセルロースナトリウム(シグマ社製90kDa,50−200cps)10mgを量りとり、蒸留水を加え10gにし、超音波ホモジナイザー出力20W、20分間で氷冷下分散処理しCNT塗液を調製した。得られた液を高速遠心分離機にて10000G、15分遠心し、上清9mLを得た。この操作を複数回繰り返し得た上清145mLに純水を加え濃度調整を行い、コーターで塗布可能なCNT濃度約0.04質量%のCNT塗液A(CNTと分散剤の配合比1対1)を得た。
【0064】
(CNT塗液の塗布層の屈折率)
石英ガラスに塗布、乾燥したCNT層の屈折率は1.82であった。
【0065】
次に、透明保護層の材料について説明する。
【0066】
(透明保護層材料)
100mLポリ容器中に、エタノール20gを入れ、n−ブチルシリケート40gを添加し30分間撹拌した。その後、0.1N塩酸水溶液を10g添加した後2時間撹拌を行い(加水分解反応)、4℃で保管した。翌日、この溶液をイソプロピルアルコール、トルエンとn−ブタノール混合液(混合質量比2対1対1)で固形分濃度が、1.0、1.2、1.5、2.0質量%となるように希釈した。この液をシリコンウエハーに塗布、乾燥したケイ素酸化物の層の屈折率は、1.44であった。
【0067】
(実施例1)
厚み100μmのポリエチレンレテフタレートフィルム201(東レ株式会社製“ルミラー(登録商標)”U46)基材の片面に中国塗料(株)製のフォルシード420C固形分濃度50質量%)をトルエンで、固形分濃度30質量%まで希釈したハードコート剤をマイクログラビアコーター(グラビア線番200UR、グラビア回転比100%)で塗布、60℃で1分間乾燥後、紫外線を1.0J/cm照射、硬化させ、厚み3μmのハードコート層を設けた。
【0068】
次に、図4に示す装置構造の巻き取り式のスパッタリング装置を使用し、ポリエチレンテレフタレートフィルム201のハードコート層とは反対の面に、硫化亜鉛及び二酸化ケイ素で形成された混合焼結材であるスパッタターゲット(三菱マテリアル(株)製ターゲット、ST−IVシリーズ)を用いて、アルゴンガスプラズマによるスパッタリングを実施し、層の厚みが100nm、硫化亜鉛のモル分率が0.85の組成となるように含ケイ素無機層であるZnS−SiO層を1層設けた。図4は含ケイ素無機層を形成する製造方法を実施するための巻き取り式スパッタ装置の概略を示す装置構成図である。まず、巻き取り式スパッタ装置202の巻き取り室203の中で、巻き出しロール204にポリエチレンテレフタレートフィルム201をセットし、巻き出し、ガイドロール205,206,207を介して、クーリングドラム208に通した。プラズマ電極209には硫化亜鉛/二酸化ケイ素のモル組成比が85/15のスパッタターゲットが設置されていて、真空度2×10−1Paとなるようにアルゴンガスが導入された状態で高周波電源により投入電力500Wを印加すると、アルゴンガスプラズマが発生しスパッタリングが開始されるので、ポリエチレンテレフタレートフィルム201の表面上に含ケイ素無機層としてZnS−SiO層が形成された。この装置を用いてポリエチレンテレフタレートフィルム201のハードコート層を形成した反対面にZnS−SiO層を形成した。その後、この含ケイ素無機層が形成されたポリエチレンテレフタレートフィルム201をガイドロール210,211,212を介して巻き取りロール213に巻き取った。
【0069】
次に、ZnS−SiO層の上面に、CNT塗液をマイクログラビアコーター(グラビア線番100UR、グラビア回転比80%)で塗布、80℃で1分間乾燥する操作を2回繰り返し、層の厚み8.3nmのCNT層を設けた。
【0070】
次に、CNT層上に固形分濃度1.0質量%の透明保護層材料の塗液をマイクログラビアコート(グラビア線番110UR、グラビア回転比170%)で塗布、125℃で1分間乾燥し、透明導電積層体を得た。
【0071】
(実施例2)
厚み188μmのポリエチレンレテフタレートフィルム(東レ株式会社製“ルミラー(登録商標)”U46)を基材とする以外は、実施例1と同様にしてそれを用いた積層フィルムを得た。
【0072】
(実施例3)
実施例1において、硫化亜鉛/二酸化ケイ素のモル組成比が70/30のスパッタターゲットを使用して、硫化亜鉛のモル分率が0.70の組成となる層の厚み120nmの含ケイ素無機層を設ける以外は、実施例1と同様にして透明導電積層体を得た。
【0073】
(実施例4)
実施例1において、硫化亜鉛のモル分率が0.85の組成となる層の厚み120nmの含ケイ素無機層を設けた後、純度99.99質量%のAlスパッタターゲットを使用して、含ケイ素無機層上に層の厚み32nmの酸化アルミニウムの層を設ける以外は、実施例1と同様にして透明導電積層体を得た。
【0074】
(実施例5)
実施例1において、ZnS−SiO層上に巻き取り式CVD装置を使用し、アルゴンガス0.5L/minとヘキサメチルジシロキサン70cc/minを導入し、高周波電源によりプラズマ電極に投入電力500Wを印加して、二酸化ケイ素層の厚み21nmの層を設ける以外は、実施例1と同様にして透明導電積層体を得た。作製した透明導電積層体を透過型電子顕微鏡により断面観察を実施したところ、含ケイ素無機層はZnS−SiO層とSiO層から形成されていることを確認した。
(実施例6)
実施例1において、硫化亜鉛/二酸化ケイ素のモル組成比が80/20のスパッタターゲット及び純度99.99質量%のSiOスパッタターゲットを使用して同時にスパッタリングを行い、基材側から表層にかけてZnS−SiO層、SiO層の順に連続して形成する以外は実施例1と同様にして透明導電積層体を得た。作製した透明導電積層体を透過型電子顕微鏡により断面観察を実施したところ、含ケイ素無機層はZnS−SiO共存相からなる層状の領域とSiOの層状の領域が境界が無く連続して層として形成されていることを確認した。含ケイ素無機層の組成分析は、ICP発光分光分析及びラザフォード後方散乱法を使用して厚み方向の組成を調査し、硫化亜鉛−二酸化ケイ素共存相とケイ素化合物層の厚みを測定した。
(実施例7)
酸化アルミニウムの層の上面に、CNT塗液をスリットダイコーター(シム厚み50μm、キャストロールとの距離100μm、WET膜厚10μm)で塗布、80℃で1分間乾燥し、層の厚み8.3nmのCNT層を設けた。次に、CNT層上に固形分濃度1.0質量%の透明保護層材料の塗液をスリットダイコート(シム厚み50μm、キャストロールとの距離100μm、WET膜厚10μm)で塗布、125℃で1分間乾燥し、層の厚み0.1μmの透明保護層を得た以外は、実施例4と同様にして透明積層体を得た。
(実施例8)
二酸化ケイ素層の上面に、CNT塗液をスリットダイコーター(シム厚み50μm、キャストロールとの距離100μm、WET膜厚10μm)で塗布、80℃で1分間乾燥し、層の厚み8.3nmのCNT層を設けた。次に、CNT層上に固形分濃度1.0質量%の透明保護層材料の塗液をスリットダイコート(シム厚み50μm、キャストロールとの距離100μm、WET膜厚10μm)で塗布、125℃で1分間乾燥し、層の厚み0.1μmの透明保護層を得た以外は、実施例5と同様にして透明積層体を得た。
(実施例9)
含ケイ素無機層の上面に、CNT塗液をスリットダイコーター(シム厚み50μm、キャストロールとの距離100μm、WET膜厚10μm)で塗布、80℃で1分間乾燥し、層の厚み8.3nmのCNT層を設けた。次に、CNT層上に固形分濃度1.0質量%の透明保護層材料の塗液をスリットダイコート(シム厚み50μm、キャストロールとの距離100μm、WET膜厚10μm)で塗布、125℃で1分間乾燥し、層の厚み0.1μmの透明保護層を得た以外は、実施例6と同様にして透明積層体を得た。
(比較例1)市販されている基材厚み175μm、ITOフィルム ハイビーム(登録商標)(東レフィルム加工(株)製)を用い、(1)〜(7)の評価を実施した。
(比較例2)実施例1において、CNT層上に固形分濃度1.0質量%の透明保護層材料の塗液をバーコーター#14で塗布、125℃で1分間乾燥し、透明保護層を形成した以外は実施例1と同様にして透明導電積層体を得た。
(比較例3)透明保護層材料の塗液をバーコーター#20で塗布した以外は比較例2と同様にして透明導電積層体を得た。
(比較例4)
実施例1において、硫化亜鉛/二酸化ケイ素のモル組成比が95/5のスパッタターゲットを使用して、硫化亜鉛のモル分率が0.95の組成となるように層の厚み120nmのZnS−SiO層を設ける以外は、実施例1と同様にして透明導電積層体を得た。
(比較例5)
実施例1において、硫化亜鉛/二酸化ケイ素のモル組成比が50/50のスパッタターゲットを使用して、硫化亜鉛のモル分率が0.50の組成となるように層の厚み120nmのZnS−SiO層を設ける以外は、実施例1と同様にして透明導電積層体を得た。
(比較例6)
実施例1において、含ケイ素無機層であるZnS−SiO層を形成しない以外は、実施例1と同様にして透明導電積層体を得た。
(比較例7)
実施例1において、ZnS−SiO層上に巻き取り式CVD装置を使用し、アルゴンガス0.5L/minとヘキサメチルジシロキサン70cc/minを導入し、高周波電源によりプラズマ電極に投入電力500wを印加して、二酸化ケイ素層を層の厚み220nm設ける以外は、実施例1と同様にして透明導電積層体を得た。
【0075】
(比較例8)
実施例1において、CNT層を層の厚み55.1nmとして設ける以外は、実施例1と同様にして透明導電積層体を得た。
【0076】
実施例1〜9、比較例1〜8で得られた透明導電積層体について、(1)から(7)の評価を実施した結果を表1に示す。
【0077】
【表1】

【0078】
ここで、実施例1〜5と比較例1の比較から、ITO層単層で形成された比較例1は、水蒸気バリア性が劣り、耐屈曲性が非常に悪いことが分かる。実施例1〜4と比較例2、3の比較から、透明保護層の厚みは10〜120nmの範囲とすることで、屈曲前後における電極間抵抗値変化率は一般に抵抗値変動の閾値とされる10%以内であり優れていることがわかる。実施例1〜3と比較例4〜6の比較から、ZnS−SiO層をモル分率が、0.7以上、0.9以下の範囲で形成することによって、屈曲試験前後共に水蒸気バリア性が非常に優れていることが分かる。実施例5と比較例7の比較から、ZnS−SiO層の上にケイ素化合物層を形成することによって、水蒸気バリア性は大きく向上でき、さらに含ケイ素化合物層の厚みを含ケイ素無機層の全厚みの40〜100%の範囲とすることで、屈曲性も優れ居ていることが分かる。実施例1と比較例8との比較から、CNT層の厚みは、50nm以上になるとCNT自身のもつ光吸収により、光線透過率が大幅に低下することがわかる。実施例4〜6と実施例7〜9との比較から、CNT層および透明保護層を非接触式塗工法であるスリットダイによるウエットコーティング方法を用いて形成することにより、さらに水蒸気遮断性に優れた透明導電積層体が得られることがわかる。これは、水蒸気バリア性能を発現する含ケイ素無機層を傷つけることなく形成されたため、水蒸気遮断性能が維持されているものと考えられる。
【符号の説明】
【0079】
1 透明基材
2 含ケイ素無機層
3 CNT層
4 透明保護層
5 透明導電積層体
6 正に帯電した白色顔料粒子
7 透明分散媒
8 負に帯電した黒色顔料粒子
9 マイクロカプセル
10 下部電極
11 支持基材
12 下部電極複合体
13 端子電極
14 金属円柱
15 透明導電積層体
16 サンプル折り曲げ部分
100 反応器
101 石英焼結板
102 密閉型触媒供給機
103 触媒投入ライン
104 原料ガス供給ライン
105 排ガスライン
106 加熱器
107 点検口
108 触媒
201 ポリエチレンテレフタレートフィルム
202 巻き取り式スパッタリング装置
203 巻き取り室
204 巻き出しロール
205、206、207 巻き出し側ガイドロール
208 クーリングドラム
209 スパッタ電極
210、211、212:巻き取り側ガイドロール
213 巻き取りロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚み20〜188μmの透明基材の少なくとも片面上に[A]厚みが10〜500nmである含ケイ素無機層、[B]厚みが1〜50nmであるカーボンナノチューブ層、[C]厚みが10〜120nmである透明保護層が透明基材側からこの順に設けられ、[A]層の層内に、硫化亜鉛と二酸化ケイ素の合計に対する硫化亜鉛のモル分率が0.7〜0.9である硫化亜鉛−二酸化ケイ素共存相からなる、厚みが[A]層の全厚みの40〜100%である層状の領域を有することを特徴とする透明導電積層体。
【請求項2】
前記[A]層と[B]層との間に以下の層を有する請求項1または2に記載の透明導電積層体。
[D]厚みが10〜100nmである金属酸化物層
【請求項3】
前記[C]層の波長550nmの屈折率と前記[B]層の波長550nmの屈折率との差が0.3以上で、かつ[B]層の波長550nmの屈折率が[C]層の波長550nmの屈折率より高く、かつ[B]層の波長550nmの屈折率が1.6〜1.9の範囲にある請求項1に記載の透明導電積層体。
【請求項4】
前記[C]層側の表面抵抗値が1×10Ω/□以上1×10Ω/□以下である請求項1〜3のいずれかに記載の透明導電積層体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の透明導電積層体を用いた電子ペーパー。
【請求項6】
厚み20〜188μmの透明基材の少なくとも片面上に[A]厚みが10〜500nmである含ケイ素無機層、[B]厚みが1〜50nmであるカーボンナノチューブ層、[C]厚みが10〜120nmである透明保護層が透明基材側からこの順に設けられ、[A]層の層内に、硫化亜鉛と二酸化ケイ素の合計に対する硫化亜鉛のモル分率が0.7〜0.9である硫化亜鉛−二酸化ケイ素共存相からなる、厚みが[A]層の全厚みの40〜100%である層状の領域を有する透明導電積層体の製造方法であって、前記[B]層を前記[A]層の上に非接触式塗工法によって設けることを特徴とする透明導電積層体の製造方法。
【請求項7】
前記[C]層を前記[B]層の上に非接触式塗工法によって設ける請求項6に記載の透明導電積層体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−69515(P2012−69515A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−180185(P2011−180185)
【出願日】平成23年8月22日(2011.8.22)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】