説明

透明性フィルムの製造方法

【課題】 本発明は、フマル酸ジエステル重合体からなる透明性、表面平滑性、厚み精度、および機械強度に優れる透明性フィルムの製造方法を提供することにある。
【解決手段】 プラスチック製支持基板上に、フマル酸ジエステル重合体と有機溶剤からなるポリマー溶液を乾燥前のフィルム幅方向両端の耳部の厚さを前記耳部を除いた部分の平均厚みに対して20〜150μm厚くなるように流延し、乾燥工程で溶媒を蒸発させることを特徴とする透明性フィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フマル酸ジエステル重合体からなる透明性、表面平滑性、厚み精度、および機械強度に優れる透明性フィルムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイ、有機EL、PDPなどに代表されるフラットパネルディスプレイは、薄型、軽量である特徴が市場ニーズにマッチし、急速に普及、あるいはその利用範囲を拡大している。これらのフラットパネルディスプレイにおいては、数々の高分子フィルムが用いられており、例えば、プラスチック基板フィルム、偏光子保護フィルム、位相差フィルム、視野角補償フィルム、光拡散フィルム、光反射フィルム、電磁波遮蔽フィルム、ディスプレイ表面保護フィルムなどに利用されている。そして、これら高分子フィルムには、ディスプレイの視認性を低下させないよう、非常に高い透明性と優れた表面平滑性および厚み精度が要求されることが一般的である。
【0003】
一方、フマル酸ジエステルからなる重合体は、1981年大津らにより見出された(例えば非特許文献1参照)、また、フマル酸ジエステル重合体からなる光学材料が開示され、光学レンズ、プリズムレンズ、光学ファイバーが記載されている(例えば特許文献1、2参照。)。また、フマル酸ジエステル重合体の単分子膜を用いた液晶ディスプレイ用の高分子配向膜基板(例えば特許文献3参照。)が開示され、フマル酸ジエステル重合体の超薄膜の製造方法についても開示され、電気素子、パターンニング、マイクロリソグラフィー、光学素子(光導波路、非線型三次素子用バインダー樹脂)等の用途が記載されている(例えば特許文献4参照。)。また、フマル酸ジエステル重合体からなる低誘電性高分子材料、フィルム、基板および電子部品が開示され、溶液キャスト法によるフィルムについても記載されている(例えば特許文献5参照。)。
【0004】
しかしながら、フマル酸ジエステル重合体からなるフィルムを溶液流延法で工業的に生産するにはいくつかの課題があった。
【0005】
一つ目は、フマル酸ジエステル重合体からなるフィルムを単独で乾燥炉に導入すると成膜時のテンションにより、フィルムが延伸され、位相差が発現するという課題があった。
【0006】
二つ目は、フマル酸ジエステル重合体からなるフィルムの延伸を避けるため、プラスック製支持基板上で全ての乾燥工程を行った場合、フマル酸ジエステル重合体からなるフィルムがプラスチック製支持基板から部分的に剥離し、その後のフィルム走行性が不良となり、フィルムの生産性が低下するという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭61−028513号公報
【特許文献2】特開昭61−034007号公報
【特許文献3】特開平02−214731号公報
【特許文献4】特開平02−269130号公報
【特許文献5】特開平09−208627号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】ラジカル重合ハンドブック(314頁)、株式会社エス・ティー・エス
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、優れた透明性、良好な表面平滑性、厚み精度、および実用的な機械強度を有する透明性フィルムの工業的な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、プラスチック製支持基板上にフマル酸ジエステル重合体と有機溶剤からなるポリマー溶液を特定の条件で流延し、乾燥工程で溶媒を蒸発させることにより、前記課題を解決することを見出した。すなわち、本発明はプラスチック製支持基板上に、フマル酸ジエステル重合体と有機溶剤からなるポリマー溶液を乾燥前のフィルム幅方向両端の耳部の厚さを前記耳部を除いた部分の平均厚みに対して20〜150μm厚くなるように流延し、乾燥工程で溶媒を蒸発させることを特徴とする透明性フィルムの製造方法に関するものである。
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0012】
本発明におけるフマル酸ジエステル重合体は、特に制限はなく、その中でも一般式(1)に示されるフマル酸ジエステル残基単位50モル%以上であることが好ましく、特に耐熱性及び機械特性に優れた透明性フィルムとなることから80モル%以上、さらに90モル%以上であることが好ましい。
【0013】
【化1】

(ここで、R、Rはそれぞれ独立して炭素数1〜12のアルキル基、炭素数3〜12の分岐状アルキル基又は環状アルキル基を示す。)
ここで、一般式(1)に示されるフマル酸ジエステル残基単位のR、Rは、それぞれ独立して炭素数1〜12のアルキル基、炭素数3〜12の分岐アルキル基又は環状アルキル基であり、フッ素,塩素などのハロゲン基、エーテル基、エステル基若しくはアミノ基で置換されていても良い。
【0014】
、Rにおける炭素数1〜12のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基等が挙げられ、炭素数3〜12の分岐アルキル基としては、例えばイソプロピル基、s−ブチル基、t−ブチル基、s−ペンチル基、t−ペンチル基、s−ヘキシル基、t−ヘキシル基等が挙げられ、炭素数3〜12の環状アルキル基としては、例えばシクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0015】
これらの中でもR、Rとしては、特に耐熱性、機械特性に優れた透明性フィルムとなることからイソプロピル基、t−ブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基であることが好ましく、特に耐熱性、機械特性のバランスに優れた透明性フィルムとなること
からイソプロピル基が好ましい。
【0016】
一般式(1)に示されるフマル酸ジエステル残基単位としては、具体的にはフマル酸ジメチル残基、フマル酸ジエチル残基、フマル酸ジイソプロピル残基、フマル酸ジ−s−ブチル残基、フマル酸ジ−t−ブチル残基、フマル酸ジ−s−ペンチル残基、フマル酸ジ−t−ペンチル残基、フマル酸ジ−s−ヘキシル残基、フマル酸ジ−t−ヘキシル残基、フマル酸ジシクロプロピル残基、フマル酸ジシクロペンチル残基、フマル酸ジシクロヘキシル残基等が挙げられ、その中でもフマル酸ジイソプロピル残基、フマル酸ジ−t−ブチル残基、フマル酸ジシクロペンチル残基、フマル酸ジシクロヘキシル残基が好ましく、特に耐熱性、機械特性のバランスに優れた透明性フィルムとなることからフマル酸ジイソプロピル残基が好ましい。
【0017】
また、該フマル酸ジエステル重合体は、他の単量体残基を含有していてもよく、他の単量体残基としては、例えばスチレン残基、α−メチルスチレン残基等のスチレン類残基;(メタ)アクリル酸残基;(メタ)アクリル酸メチル残基、(メタ)アクリル酸エチル残基、(メタ)アクリル酸ブチル残基、下記一般式(2)に示されるオキセタニル基を有する(メタ)アクリル酸エステル残基、下記一般式(3)に示されるテトラヒドロフルフリル基を有する(メタ)アクリル酸エステル残基等の(メタ)アクリル酸エステル類残基;酢酸ビニル残基、プロピオン酸ビニル残基等のビニルエステル類残基;アクリロニトリル残基;メタクリロニトリル残基;メチルビニルエーテル残基、エチルビニルエーテル残基、ブチルビニルエーテル残基等のビニルエーテル類残基;N−メチルマレイミド残基、N−シクロヘキシルマレイミド残基、N−フェニルマレイミド残基等のN−置換マレイミド類残基;エチレン残基、プロピレン残基等のオレフィン類残基、より選ばれる1種又は2種以上を挙げることができる。これらの中でも他の単量体残基としては、下記一般式(2)に示されるオキセタニル基を有する(メタ)アクリル酸エステル残基、下記一般式(3)に示されるテトラヒドロフルフリル基を有する(メタ)アクリル酸エステル残基であることが好ましい。
【0018】
【化2】

(ここで、Rは水素、メチル基、Rは水素、炭素数1〜4の直鎖状アルキル基、炭素数3〜4の分岐状アルキル基、n=1または2を示す。)
【0019】
【化3】

(ここで、Rは水素、メチル基、Rは水素、炭素数1〜4の直鎖状アルキル基、炭素数3〜4の分岐状アルキル基を示す。)
ここで一般式(2)のRは水素、メチル基であり、Rは水素、炭素数1〜4の直鎖状アルキル基、炭素数3〜4の分岐状アルキル基であり、nは1または2である。Rにおける炭素数1〜4の直鎖状アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基等が挙げられ、炭素数3〜4の分岐状アルキル基としては、例えばイソプロピル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等が挙げられる。そして、具体的な一般式(2)で示されるオキセタニル基を有する(メタ)アクリル酸エステル残基としては、例えば(メタ)アクリル酸3−メチル−3−オキセタニルメチル残基、(メタ)アクリル酸3−エチル−3−オキセタニルメチル残基、(メタ)アクリル酸3−エチル−3−オキセタニルエチル残基等が挙げられる。
【0020】
また、一般式(3)のRは水素、メチル基であり、Rは水素、炭素数1〜4の直鎖状アルキル基、炭素数3〜4の分岐状アルキル基である。Rにおける炭素数1〜4の直鎖状アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられ、炭素数3〜4の分岐状アルキル基としては、例えばイソプロピル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等が挙げられる。そして、具体的な一般式(3)に示されるテトラヒドロフルフリル基を有する(メタ)アクリル酸エステル残基としては、例えばアクリル酸テトラヒドロフルフリル残基、アクリル酸2−メチルテトラヒドロフルフリル残基、アクリル酸2−エチルテトラヒドロフルフリル残基等が挙げられる。
【0021】
本発明におけるフマル酸ジエステル重合体は、ゲル・パーミエイション・クロマトグラフィー(以下、GPCと記す。)により測定した溶出曲線より得られる標準ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が30000以上200000以下であることが好ましく、特に機械特性に優れ、成膜時の成形加工性に優れた透明性フィルムとなることから40000以上100000以下であることが好ましい。
【0022】
本発明におけるフマル酸ジエステル重合体は、例えばフマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジプロピル、フマル酸ジイソプロピル、フマル酸ジ−n−ブチル、フマル酸ジイソブチル、フマル酸ジ−sec−ブチル、フマル酸ジ−tert−ブチル、フマル酸ジ−n−ペンチル、フマル酸ジ−イソペンチル、フマル酸ジ−sec−ペンチル、フマル酸ジ−tert−ペンチル、フマル酸ジ−n−ヘキシル、フマル酸ビス−(2−エチルヘキシル)、フマル酸ジシクロプロピル、フマル酸ジシクロブチル、フマル酸ジシクロペンチル、フマル酸ジシクロヘキシル等のフマル酸ジエステル類のラジカル重合によって製造することができる。
【0023】
また、該フマル酸ジエステル重合体が、他の単量体残基を含有している場合には、前記フマル酸ジエステル類と、例えばスチレン、α−メチルスチレン等のスチレン類;(メタ)アクリル酸;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、オキセタニル基を有する(メタ)アクリル酸エステル、テトラヒドロフルフリル基を有する(メタ)アクリル酸エステル等の(メタ)アクリル酸エステル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;アクリロニトリル;メタクリロニトリル;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;N−メチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド等のN−置換マレイミド類;エチレン、プロピレン等のオレフィン類等をラジカル共重合することにより得ることができる。
【0024】
前記ラジカル重合あるいはラジカル共重合は公知の重合方法、例えば塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、沈殿重合法、乳化重合法のいずれも採用可能である。
【0025】
本発明における有機溶剤は、特に制限はなく、その中でも芳香族系溶媒95〜5重量%および非芳香族溶剤5〜95重量%からなる混合溶剤であることが好ましく、特に芳香族溶剤85〜15重量%および非芳香族溶剤15〜85重量%、さらに芳香族溶剤75〜25重量%および非芳香族溶剤25〜75重量%、更に芳香族溶剤60〜40重量%および非芳香族溶剤40〜60重量%からなる混合溶剤であることが好ましい。
【0026】
該芳香族系溶剤としては、例えばベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、キュメン、クロロベンゼン等が挙げられ、その中でもフマル酸ジエステル重合体の溶解性、透明性フィルム成膜時の乾燥性からトルエン、キシレンが好ましい。
【0027】
該非芳香族溶剤としては、透明性フィルムの表面性、厚み精度の点から沸点が90℃以下の溶剤が好ましく、更に80℃以下の溶剤が好ましい。そして、具体的な非芳香族溶剤としては、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン等のケトン系溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル等のエステル系溶剤;テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,3−ジオキソラン等のエーテル系溶剤;ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン系溶剤が挙げられる。これらの中でもフマル酸ジエステル重合体の溶解性および透明性フィルム成膜時の乾燥性からケトン系溶剤、エステル系溶剤、エーテル系溶剤が好ましく、特にアセトン、メチルエチルケトン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、テトラヒドロフランが好ましい。これら非芳香族溶剤は、2種類以上組み合わせて用いることも出来る。
【0028】
本発明におけるポリマー溶液は、前記フマル酸ジエステル重合体を前記有機溶媒に溶解させることにより得られるものであり、その際には15重量%以上50重量%以下のフマル酸ジエステル重合体を含むことが好ましい。
【0029】
また、高い透明性を有し、且つ厚み精度、表面平滑性に優れた透明性フィルムを成膜する目的において、ポリマー溶液の溶液粘度は極めて重要な因子である。溶液粘度はポリマーの濃度、分子量および溶媒の種類に依存し、本発明におけるポリマー溶液の30℃で測定した溶液粘度は、1,000cP以上50,000cP以下であることが好ましく、特に好ましくは3,000cP以上10,000cP以下である。
【0030】
本発明に用いられるプラスチック製支持基板としては、ポリエチレンテレフタレ−ト等のポリエステル樹脂、トリアセチルセルロース等のアセテート樹脂、ポリカーボネート樹脂、等が挙げられる。なかでも、耐薬品性に優れ、安価である点から、ポリエステル樹脂が好ましく、ポリエチレンテレフタレートがより好ましい。
【0031】
本発明の透明性フィルムの製造方法は、ポリマー溶液を乾燥前のフィルム幅方向両端の耳部の膜厚を前記耳部を除いた部分の平均厚みに対して20〜150μm、好ましくは30〜100μm、より好ましくは40〜60μm厚くなるように流延し乾燥する方法であり、より具体的にはポリマー溶液をベルト状のプラスチック製支持基板上に流延した後、乾燥工程で溶媒を蒸発させてフィルムを得る方法である。ここで耳部の膜厚と耳部を除いた部分の平均厚みの差が20μmよりも小さい場合には、フマル酸ジエステル重合体からなるフィルムがプラスチック製支持基板から部分的に剥離し、その後のフィルム走行性が不良となり、150μmよりも大きい場合には、耳部のフィルムはスリットにより除去されるため、ポリマー溶液のロス率が高くなり、生産性が低下するため好ましくない。
【0032】
ポリマー溶液を流延する方法として、例えばTダイ法、ドクターブレード法、バーコーター法、ロールコータ法、リップコーター法等が用いられる。
【0033】
本発明において乾燥工程にて溶媒を蒸発させる方法としては、室温で自然乾燥させる方法や、加熱により強制的に蒸発させる方法があり、特に乾燥時間が短くなることから、加熱により蒸発させる方法が好ましい。そして、乾燥工程にて溶媒を蒸発させる際には、例えば1段階で蒸発させる方法、2段階以上で蒸発させる方法を用いることができ、その中でも特に2段階で蒸発させる方法が好ましい。2段階で乾燥させる際には、例えばドライラミネーターで乾燥した後、ロールトゥロール方式で乾燥を行うことができる。
【0034】
本発明で用いるフマル酸ジエステル重合体はフィルム化の際、フィルムの機械的強度が乾燥条件に大きく影響し、フィルム乾燥工程における初期の溶剤の揮発速度が重要であることから、フィルムに含まれる溶媒含有率を12重量%とするのに10〜60分の時間を要することが好ましく、特に好ましくは12〜30分、さらに好ましくは14〜20分である。
【0035】
本発明で得られる透明性フィルムの乾燥後の溶媒含有率は3重量%以下であることが好ましく、特に好ましくは2重量%以下である。
【0036】
溶媒含有率を12重量%から3重量%以下とするためには、溶媒含有率を12重量%とした乾燥に連続して実施しても、溶媒含有率を12重量%以下とした状態でロール状にフィルムを巻取り、別途乾燥を実施しても構わない。溶媒含有率を12重量%から3重量%以下にするための乾燥条件は特に限定はなく、特にフィルムの熱劣化を抑制するためには150℃以下で実施することが好ましい。
【0037】
本発明における乾燥後のフィルムの耳部を除いた部分の平均厚みは、10〜500μmであることが好ましく、より好ましくは50〜200μmである。
【0038】
本発明の製造方法で得られる透明性フィルムは、乾燥工程終了後にフマル酸ジエステル重合体フィルムをプラスチック製支持基板上から剥離させることが可能である。
【0039】
本発明の製造方法で得られる透明性フィルムは、発明の主旨を越えない範囲で、その他ポリマー、界面活性剤、高分子電解質、導電性錯体、無機フィラー、顔料、染料、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、アンチブロッキング剤、滑剤、可塑剤等が加えられていてもよい。
【0040】
本発明の製造方法で得られる透明性フィルムは、フラットパネルディスプレイ用透明性フィルム、例えば偏光子保護フィルム、視野角補償フィルム、透明電極フィルム、光拡散フィルム、光反射フィルム、電磁波遮蔽フィルム、ディスプレイ表面保護フィルム、プラスチック基板用フィルム等に利用可能である。
【発明の効果】
【0041】
本発明の製造方法により、フマル酸ジエステル重合体からなる優れた透明性、良好な表面平滑性、厚み精度、および実用的な機械強度を有する透明性フィルムを高い生産性で製造することが出来る。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0043】
実施例に示す諸物性は、以下の方法により測定した。
【0044】
〜数平均分子量〜
ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)装置(東ソー製、カラムGMHHR−H)を用い、クロロホルムを溶媒として、40℃で測定し、標準ポリスチレン換算から算出して求めた。
【0045】
〜フマル酸ジエステル重合体の組成〜
核磁気共鳴測定装置(日本電子製、商品名JNM−GX270)を用い、プロトン核磁気共鳴分光(H−NMR)スペクトル分析より求めた。
【0046】
〜ポリマー溶液の粘度〜
ポリマー溶液の粘度は、スピンドルタイプ粘度計(東機産業製、商品名TV−20)を用い、30℃で測定した。
【0047】
〜フィルムの溶媒含有率〜
溶媒含有率を測定するフィルムを200℃で10分間処理し、当該処理での重量減少量から、数式(1)に従い算出した。
【0048】
数式(1):200℃10分間処理での減少重量(g)/処理前フィルム重量(g)×100
〜透明性の評価方法〜
フマル酸ジエステル重合体の透明性を評価するために、溶液キャスト法で厚さ300μmのシートを作製し、ヘーズメーター(日本電色工業製、商品名NDH2000)を用いヘーズと全光線透過率を測定した。
【0049】
合成例1(フマル酸ジエステル重合体の合成)
攪拌機、冷却管、窒素導入管および温度計を備えた5Lのオートクレーブに、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(信越化学製、商品名メトローズ60SH−50)4g、蒸留水26000g、フマル酸ジイソプロピル1400g、および重合開始剤であるt−ブチルパーオキシピバレート7gを入れ、窒素バブリングを1時間行なった後、450rpmで攪拌しながら50℃で24時間保持することによりラジカル懸濁重合を行なった。室温まで冷却し、生成したポリマー粒子を含む懸濁液を遠心分離した。得られたポリマー粒子を蒸留水で2回およびメタノールで2回洗浄後、80℃で減圧乾燥した(収率:75%)。
【0050】
得られたフマル酸ジイソプロピル単独重合体の数平均分子量は52,000であった。
【0051】
合成例2(フマル酸ジエステル重合体の合成)
攪拌機、冷却管、窒素導入管および温度計を備えた50Lのオートクレーブに、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(信越化学製、商品名メトローズ60SH−50)40g、蒸留水26000g、フマル酸ジイソプロピル13750g、アクリル酸3−エチル−3−オキセタニルメチル250gおよび重合開始剤であるt−ブチルパーオキシピバレート80gを入れ、窒素バブリングを1時間行なった後、200rpmで攪拌しながら50℃で24時間保持することによりラジカル懸濁重合を行なった。室温まで冷却し、生成した重合体粒子を含む懸濁液を遠心分離した。得られた重合体粒子を蒸留水で2回およびメタノールで2回洗浄後、80℃で減圧乾燥した(収率:81%)。得られた重合体の数平均分子量は50,000であった。H−NMR測定により、得られた重合体は、フマル酸ジイソプロピル残基単位/アクリル酸3−エチル−3−オキセタニルメチル残基単位=97/3(モル%)であるフマル酸ジイソプロピル重合体であった。
【0052】
実施例1
トルエン4kgとメチルエチルケトン4kgからなる混合溶剤(有機溶剤)に、合成例1で合成したフマル酸ジエステル重合体2kgとフェノール系酸化防止剤10g(旭電化製、商品名AO−60)とリン系酸化防止剤20g(旭電化製、商品名PEP−36)を溶解させて、ポリマー溶液を得た。ポリマー溶液の溶液粘度は4500cPであった。
【0053】
溶液流延法にて連続式ドライラミネーターを用い、上記で得たポリマー溶液をプラスチック製支持基板であるポリエチレンテレフタレートフィルム上に流延した。この時、乾燥前のフィルム幅方向両端の耳部の厚さが、耳部を除いた部分の平均厚みに対して50μm厚くなるようにポリマー溶液を流延した。
【0054】
連続式ドライラミネーターでの乾燥条件は、50℃7.5分、60℃3.75分、90℃3.75分で、溶媒含有率は10重量%であった。本フィルムは一旦ロール状に巻取り、別途乾燥機でロールトゥロール方式で130℃で15分の乾燥を行い、溶媒含有率を1.8%とした。乾燥後のフィルムは、プラスチック製支持基板からの剥離は見られず、良好なフィルム走行性を示した。得られたフィルムの耳部を除いた部分の平均厚みは120μmで、ヘーズは0.6%、全光線透過率は93.1%で良好な透明性を示した。また、面内位相差は1.5nmであった。
【0055】
実施例2
合成例2で合成したフマル酸ジエステル重合体を用いた以外は実施例1と同じ方法でフィルムを得た。ポリマー溶液の溶液粘度は4300cPであった。
【0056】
乾燥後のフィルムの溶媒含有率は1.8%で、プラスチック製支持基板からの剥離は見られず、良好なフィルム走行性を示した。得られたフィルムの耳部を除いた部分の平均厚みは120μmで、ヘーズは0.7%、全光線透過率は92.9%で良好な透明性を示した。また、面内位相差は1.2nmであった。
【0057】
実施例3
乾燥前のフィルムの耳部の厚みが、耳部を除いた部分の平均膜厚よりも150μm厚くなるようにポリマー溶液を流延した以外は実施例2と同じ方法でフィルムを得た。
【0058】
乾燥後のフィルムの溶媒含有率は1.8%で、プラスチック製支持基板からの剥離は見られず、良好なフィルム走行性を示した。得られたフィルムの耳部を除いた部分の平均厚みは120μmで、ヘーズは0.6%、全光線透過率は93.0%で良好な透明性を示した。また、面内位相差は1.0nmであった。
【0059】
実施例4
乾燥前のフィルムの耳部の厚みが、耳部を除いた部分の平均膜厚よりも25μm厚くなるようにポリマー溶液を流延した以外は実施例2と同じ方法でフィルムを得た。
【0060】
乾燥後のフィルムの溶媒含有率は1.8%で、プラスチック製支持基板からの剥離は見られず、良好なフィルム走行性を示した。得られたフィルムの耳部を除いた部分の平均厚みは120μmで、ヘーズは0.7%、全光線透過率は92.8%で良好な透明性を示した。また、面内位相差は0.9nmであった。
【0061】
比較例1
乾燥前のフィルムの耳部の厚みが、耳部を除いた部分の平均膜厚と等しくなるようにポリマー溶液を流延した以外は実施例2と同じ方法でフィルムを得た。
【0062】
乾燥後のフィルムの溶媒含有率は1.8%であったが、フィルムがプラスチック製支持基板から部分的に剥離して、フィルム走行性が悪化したため、フィルムの巻取りが不良となり、生産性が低下した。
【0063】
比較例2
乾燥前のフィルムの耳部の厚みが、耳部を除いた部分の平均膜厚よりも180μm厚くなるようにポリマー溶液を流延した以外は実施例2と同じ方法でフィルムを得た。
【0064】
乾燥後のフィルムの溶媒含有率は1.8%で、プラスチック製支持基板からの剥離は見られなかったが、ロール状にフィルムを巻き取る工程においてズレが発生し、フィルムにシワが入り、良好なフィルムが得られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック製支持基板上に、フマル酸ジエステル重合体と有機溶剤からなるポリマー溶液を乾燥前のフィルム幅方向両端の耳部の厚さを前記耳部を除いた部分の平均厚みに対して20〜150μm厚くなるように流延し、乾燥工程で溶媒を蒸発させることを特徴とする透明性フィルムの製造方法。
【請求項2】
フマル酸ジエステル重合体が、一般式(1)に示されるフマル酸ジエステル残基単位50モル%以上からなることを特徴とする請求項1に記載の透明性フィルムの製造方法。
【化1】

(ここで、R、Rはそれぞれ独立して炭素数1〜12のアルキル基、炭素数3〜12の分岐状アルキル基又は環状アルキル基を示す。)
【請求項3】
有機溶剤が芳香族系溶剤95〜5重量%および非芳香族溶剤5〜95重量%からなる混合溶剤であり、ポリマー溶液が、15重量%以上50重量%以下のフマル酸ジエステル重合体を含み、かつそのポリマー溶液の30℃で測定した溶液粘度が、1,000cP以上50,000cP以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の透明性フィルムの製造方法。
【請求項4】
乾燥工程で、フィルムに含まれる溶媒含有率を12重量%とするのに10分以上60分以下の時間を要することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の透明性フィルムの製造方法。
【請求項5】
乾燥工程後のフィルムの溶媒含有率が3重量%以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の透明性フィルムの製造方法。
【請求項6】
乾燥工程終了後にフマル酸ジエステル重合体フィルムをプラスチック製支持基板上から剥離させることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の透明性フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2012−35638(P2012−35638A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−247308(P2011−247308)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【分割の表示】特願2007−38785(P2007−38785)の分割
【原出願日】平成19年2月20日(2007.2.20)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】