説明

透析患者用経口アミノ酸組成物

【課題】 血液透析、血液濾過及び血液濾過透析等の血液浄化療法を受けている慢性腎不全患者において、栄養状態を維持・改善することを可能とする経口アミノ酸組成物を提供すること。
【解決手段】 特定のアミノ酸を特定の割合で含有するアミノ酸組成物であり、具体的には、L−グルタミン90〜130重量部、L−ロイシン60〜100重量部、L−イソロイシン50〜90重量部、L−バリン40〜80重量部、L−アルギニン30〜70重量部、L−トレオニン20〜60重量部、L−リジン15〜40重量部、L−フェニルアラニン10〜40重量部、L−ヒスチジン5〜30重量部、L−トリプトファン2〜20重量部、及びL−メチオニン2〜20重量部を含有することを特徴とする経口アミノ酸組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は経口アミノ酸組成物に関し、特に血液透析、血液濾過及び血液濾過透析等の血液浄化療法を受けている慢性腎不全患者が使用することにより、栄養状態を維持・改善することを可能とする、特定のアミノ酸を特定の割合で含有することを特徴とする経口アミノ酸組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
慢性腎不全患者は、尿毒症物質の体内での増加や血清リン濃度の上昇を防ぐために意図的な蛋白制限を受けることや、食欲不振により低栄養となり血漿中アルブミン濃度の低下や筋蛋白の減少と体蛋白質の低下など栄養状態が悪い症例が多い。
また、腎不全患者が呈する代謝性アシドーシスや腎性貧血、炎症等はアミノ酸・蛋白代謝の異化要因となり、栄養不良につながりうる。
【0003】
一方、腎不全病態における蛋白・アミノ酸代謝については、健常人の血漿アミノ酸濃度を比較した場合、腎機能低下に反映したアミノ酸代謝異常が見られ、特に必須アミノ酸の減少が著しい。これは、腎不全病態において窒素バランスが破綻していることを意味し、尿毒症症状や腎不全病態の進行を促進させる要因ともなる。
【0004】
他方、わが国における血液透析に代表される血液浄化療法を受けている慢性腎不全患者(透析患者)が25万人にも迫り、さらに毎年約1万人ずつ増えている状況の中で高齢透析患者と糖尿病性腎症を原疾患とする透析患者の割合が増加している。栄養障害は特にこれらの患者で顕著であることから、栄養を積極的に補給する必要のある患者は増えてきているといえる。透析患者における栄養障害は、腎不全病態である食欲不振、代謝性アシドーシスや腎性貧血、炎症等に加え、透析自体が発症要因となりうる。すなわち、人工腎臓透析用液に配合されない他の低分子性の栄養成分、例えば、ビタミン、微量元素、アミノ酸は透析中には体内に返還される血液中に保持されず喪失することとなる。
【0005】
このような背景から、腎不全患者にみられる蛋白質を中心とした代謝異常を栄養学的立場から解決すべく登場したのが必須アミノ酸療法である。本療法は十分なエネルギーとともに必須アミノ酸を投与すれば、尿素窒素から生合成された非必須アミノ酸を利用して蛋白質を合成できるというものである。
【0006】
Giordanoは慢性腎不全患者を対象として、低蛋白食療法とともに必須アミノ酸を投与し、尿素窒素の低下と正の窒素バランスが得られたことを報告した(非特許文献1)。これが発端となり腎不全における窒素代謝の改善と栄養学的見地から、必須アミノ酸療法が提唱された。その後、8種類の必須アミノ酸に腎不全時には必須とされるヒスチジンを加えた9種類のアミノ酸からなる処方とし、尿素窒素の低下と窒素バランスの改善に加えて透析導入時期を遅らせることが確認された。
【0007】
上述の知見に基づき、Roseら(非特許文献2)及びFurst(非特許文献3)の8種類の必須アミノ酸及びヒスチジン必要量に準拠した9種類のアミノ酸処方からなる腎不全用経口アミノ酸製剤が1981年に上市された。その後多くの臨床経験から、窒素源のほとんどを上記腎不全用経口アミノ酸製剤に依存した場合、血中アンモニア濃度の上昇や血中アミノグラムの乱れが起こる可能性があることがわかってきた(非特許文献4及び5)。
【0008】
荻野らは、透析患者に対する上記の上市されている腎不全用経口アミノ酸製剤の長期服用時における栄養学的効果と副作用の検討を行い、アミノ酸組成上の考察を加えた(非特許文献6)。それによると、上記腎不全用経口アミノ酸製剤を長期服用すると、アミノ酸欠乏が原因と思われる透析患者の栄養状態の改善に有用である半面、高アンモニア血症を示す症例が認められた。また、アミノ酸分析の結果より得られた上記腎不全用経口アミノ酸製剤におけるアミノ酸組成上の問題点の対策として、分岐鎖アミノ酸(BCAA)の増量とフェニルアラニン(Phe)、メチオニン(Met)の減量、及びアルギニン(Arg)の添加が必要であることを指摘している。
【0009】
本発明者らは、血液透析患者のアミノ酸代謝の詳細を検討し、アミノ酸は1回の透析を行うことにより6〜12gが喪失することを明らかにした。特に、筋肉蛋白質代謝に関与しているBCAAは、アミノ酸の中でも透析時の喪失の仕方に特徴的なパターンがあることが明らかとなった(非特許文献7)。すなわち、BCAAは、他のアミノ酸と比べ透析排液への喪失量に比し透析前後の血中濃度減少率が小さかった。このことより、透析中のBCAAの血中からの喪失は、アミノ酸の最大のプールである骨格筋からアミノ酸が血中に供給される一方で、骨格筋内におけるアミノ酸は筋蛋白の分解により供給されていると考えられ、透析中、生体は急激な蛋白異化状態にあるものと推察される。BCAAの他にもグルタミン(Gln)は骨格筋を構成するアミノ酸の3分の一を占めることから、透析施行時にはアミノ酸の中でももっとも需要が増大していると考えられ、グルタミンは筋蛋白崩壊に至る過程の中で重要な役割を担うと考えられる。
したがって、透析患者ではアミノ酸代謝異常を呈しており、中でも必須アミノ酸、特にBCAAやグルタミンの低下に代表されるアミノ酸代謝異常は、筋肉量の低下、低アルブミン血症等の体蛋白の欠乏につながり、生命予後を悪化させると考えられる。
【0010】
以上の経緯から、血液透析、血液濾過及び血液濾過透析等の血液浄化療法を受けている慢性腎不全患者に対し、生体内のアミノ酸バランスが良好で安全であり、十分な栄養効果が得られるように最適化された透析患者用経口アミノ酸製剤が切望されているが、満足な成績を得るようなアミノ酸組成物は、いまだ開示されていない。
【非特許文献1】Giordano C: J. Lab. Clin. Med., 62, 231-246 (1963)
【非特許文献2】Rose WC, et al.: J. Biol. Chem., 217, 987-995 (1955)
【非特許文献3】Furst P: Scand. J. Clin. Lab. Invest., 30, 307-312 (1972)
【非特許文献4】Tepper T, et al.: Nephron. 29, 25-29 (1981)
【非特許文献5】Rapp RP, et al.: Clin. Pharm., 1, 276-280 (1982)
【非特許文献6】荻野晃ら:J-JSPEN 20, pp.356 (2005)
【非特許文献7】宮嶋功ら:J. Jpn. Soc. Dial. Ther., 39 (Suppl. 1), pp.680, O-247 (2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、特に血液透析、血液濾過及び血液濾過透析等の血液浄化療法を受けている慢性腎不全患者において、栄養状態を維持・改善することを可能とする経口アミノ酸組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究を行った結果、血液浄化療法施行中に漏出するアミノ酸を体内に補充するように配合されている経口アミノ酸組成物を開発することに成功し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、基本的態様として、以下の構成からなるものである。
(1)特定のアミノ酸を特定の割合で含有すること、すなわち、L−グルタミン90〜130重量部、L−ロイシン60〜100重量部、L−イソロイシン50〜90重量部、L−バリン40〜80重量部、L−アルギニン30〜70重量部、L−トレオニン20〜60重量部、L−リジン15〜40重量部、L−フェニルアラニン10〜40重量部、L−ヒスチジン5〜30重量部、L−トリプトファン2〜20重量部、及びL−メチオニン2〜20重量部を含有することを特徴とする経口アミノ酸組成物;
(2)血液透析、血液濾過及び血液濾過透析等の血液浄化療法を受けている慢性腎不全患者用に使用することを特徴とする上記(1)に記載の経口アミノ酸組成物;
(3)栄養状態の改善剤としての上記(2)に記載の経口アミノ酸組成物;
である。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、血液透析、血液濾過及び血液濾過透析等の血液浄化療法を受けている透析患者用の経口アミノ酸組成物が提供される。
本発明の経口アミノ酸組成物は、慢性腎不全患者において、アミノ酸代謝の異常を是正し、且つ、効果的に蛋白合成を促進し、また効果的に蛋白分解を抑制し、その結果、栄養状態を維持・改善し、且つ、合併症の発生リスクを回避し、患者のQuality of Life(QOL)の向上させ、生命予後の改善を可能にするものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の経口アミノ酸組成物において、特定のアミノ酸とは、L−グルタミン、L−ロイシン、L−イソロイシン、L−バリン、L−アルギニン、L−トレオニン、L−リジン、L−フェニルアラニン、L−ヒスチジン、L−トリプトファン、及びL−メチオニンである。メチオニンはL−体及びDL−体のいずれも使用することができるが、L−体を使用するのが好ましい。
【0015】
本発明で使用する上記の各アミノ酸は、各々、単品で高純度のものが好ましい。例えば、「食品添加物公定書」に規定する純度以上のアミノ酸を使用する。また、これらのアミノ酸としては、必ずしも遊離アミノ酸として用いられる必要はなく、医薬品又は飲食品で許容される塩の形態でもよく、例えば無機酸塩(L−リジン塩酸塩、L−ヒスチジン塩酸塩など)、有機酸塩、生体内で加水分解可能なエステル体、N−アシル誘導体などの形態で使用してもよい。また、同種あるいは異種のアミノ酸同士をペプチド結合させたペプチド類の形態で使用してもよい。なお、食用蛋白を酸又は酵素により加水分解して取得するアミノ酸混合物原料として使用することもできる。その際には、個別のアミノ酸について過不足分を調整して、規定するアミノ酸の構成比率に適合せしめて使用すればよい。
【0016】
本発明の経口アミノ酸組成物の調製には特別の制限や困難はなく、所定のアミノ酸を所定の割合で含有せしめることを除いては、適宜常法にしたがって調製することができる。
本発明が提供する経口アミノ酸組成物は、上記所定のアミノ酸を上記所定の割合で単に混合して調製する他に、必要に応じて若しくは所望により、適宜他の添加剤を含有させることもできる。
【0017】
そのような添加剤としては、味を調整改良する果汁、デキストリン、低熱量性の糖類(還元麦芽糖、還元乳糖、トレハロース、オリゴ糖類)、酸味料、甘味料(アスパルテームなど)、香料、抹茶粉末などの他、テクスチャー(質感)を改善する乳化剤、コラーゲン、全脂粉乳、増粘多糖類や寒天(ゼリー飲料の場合)などを挙げることができる。
更に、本発明の経口アミノ酸組成物を構成する上記アミノ酸以外のアミノ酸、ビタミン類、卵殻カルシウム、パテント酸カルシウム、その他のミネラル類、ローヤルゼリー、プロポリス、食物繊維、アガリクス、キチン、キトサン、漢方生薬、コンドロイチン、カプサイシン、食用色素、長鎖脂肪酸エステルなどの通常健康食品の成分として使用されているものを挙げることができる。
【0018】
なお、本発明が提供する経口アミノ酸組成物に添加する成分として、通常の熱量を有する糖類あるいは甘味料、すなわち、ブドウ糖、果糖、ショ糖、蜂蜜などは、摂食者に過剰の熱量を供給する結果となることがある。このような場合には、必要以上の添加は回避すべきであることはもちろんである。
【0019】
本発明が提供する経口アミノ酸組成物についての製品形態には特別の制限はなく、経口摂取(摂食)できる形態であればいずれの形態でもよい。このような形態としては、適当な賦形剤を使用した粉末、顆粒、タブレット、液体(飲料、ゼリー飲料など)、キャンディ(チョコレートなど)等、あるいは医薬上許容される担体、賦形剤、希釈剤などとともに混合し、散在、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、トローチ剤、シロップ剤等を挙げることができる。
【0020】
製品形態の極端な具体例としては、本発明の経口アミノ酸組成物を構成するアミノ酸の上記割合の単なる粉体混合物(粉末)を挙げることができる。
粉末の場合は、直接粉薬のようにそのまま水で飲んでもよいし、またオブラートに包んで飲むこともでき、あるいは水、牛乳、ジュースなどに溶解して飲むこともできる。
【0021】
本発明の経口アミノ酸組成物の製造は、これには特別の困難はない。すなわち、医療食、病者用食品、特定保健用食品などの食品にあるいは粉末あるいは液体の食品に、これらの製造に際し、本発明の経口アミノ酸組成物を構成するアミノ酸と同じ種類のアミノ酸を同じ割合で配合することで製造することができる。そして、医療食等と同じ流通形態をとることができる。
【0022】
本発明の経口アミノ酸組成物の摂取方法としては、摂取されるアミノ酸が蛋白合成に有効に利用されるようにとの観点から、非蛋白熱量を得るために食事と一緒に摂取することが好ましく、毎食後に摂取することが特に好ましい。
【0023】
血液透析、血液濾過及び血液濾過透析等の血液浄化療法を受けている慢性腎不全患者は、血液浄化療法を受ける日、及び受けない日を合わせて5gの負の窒素バランスを示すことが知られている(Borah MF, et al.: Kidney Int.: 14, 491-500, 1978)。したがって、アミノ酸6.25gは窒素(N)1gに相当することから、2日間で不足するアミノ酸量は約30gとなる。
このことから勘案して、本発明が提供する経口アミノ酸組成物の摂取量は、上記所定のアミノ酸を、上記所定の割合の混合物換算で1日3回、1回当たり2〜10g、好ましくは、4.0〜6.0gとすることができる。
しかしながら、生体に対する過剰な窒素負荷を軽減する点からみれば、より好ましくは、上記所定のアミノ酸量を、上記所定の割合の混合物換算で1日3回、1回当たり1〜5g、好ましくは、2.0〜3.5gとしたものがよい。
いずれにしても、本発明の経口アミノ酸生成物の製品における必須成分であるアミノ酸の含有量は、1日あたりの摂取回数も考慮して、適宜このような摂取量を満足せしめることのできる量とすればよい。
【実施例】
【0024】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1:経口アミノ酸組成物(5g顆粒剤)
下記表1の配合処方に従い、1日3回摂取の栄養補助食品においてアミノ酸として重量5gの顆粒剤(経口アミノ酸組成物)を調製した。
【0025】
表1:経口アミノ酸組成物の組成(アミノ酸総重量5g顆粒製剤)
【0026】
【表1】

【0027】
実施例2:経口アミノ酸組成物(2.5g顆粒剤)
下記表2の配合処方に従い、1日3回摂取の栄養補助食品においてアミノ酸として重量2.5gの顆粒剤(経口アミノ酸組成物)を調製した。
【0028】
表2:経口アミノ酸組成物の組成(アミノ酸総重量2.5g顆粒製剤)
【0029】
【表2】

【0030】
本発明の効果は、以下の試験により確認した。
試験例1:アミノ酸代謝異常改善試験
本発明の経口アミノ酸組成物の投与により、血液透析患者のアミノ酸代謝異常の改善がみられるか否かを検討した。
【0031】
[試験方法]
血液透析患者5名(平均年齢:76.6±4.7歳、平均透析期間:10.8±9.3年、平均体重:53.8±8.0kg)を対象に、上記の実施例2に記載の経口アミノ酸組成物(2.5g顆粒製剤)を、1日3回毎食後に1週間にわたり服用してもらい、投与前と投与1週間後における血漿アミノ酸組成を定量した。なお、採血は透析中2日の透析前に行った。
【0032】
[結果と考察]
図1に必須アミノ酸のアミノグラムの結果を示し、図2に非必須アミノ酸のアミノグラムの結果を示した。
図1に示した結果からも判明するように、本発明の経口アミノ酸組成物の投与前における透析患者の血漿必須アミノ酸において、トレオニン(Thr)、リジン(Lys)、トリプトファン(Trp)及びヒスチジン(His)は正常範囲内であったが、メチオニン(Met)、イソロイシン(Ile)及びフェニルアラニン(Phe)については正常範囲内であったものの下限に近い値であった。バリン(Val)及びロイシン(Leu)については下限を下回っていた。経口アミノ酸組成物を1週間投与した結果、正常範囲の下限付近または下回っていたアミノ酸は、Metを除いて顕著に上昇した。
【0033】
また、図2に示した結果からも判明するように、本発明の経口アミノ酸組成物の投与前における透析患者の血漿非必須アミノ酸において、アスパラギン酸(Asp)及びグルタミン酸(Glu)については正常範囲より高値であり、システイン(Cys)については低値であったが、それ以外のアスパラギン(Asn)、グルタミン(Gln)、プロリン(Pro)、グリシン(Gly)、アラニン(Ala)、チロシン(Tyr)及びアルギニン(Arg)については正常範囲内であった。
【0034】
本発明の経口アミノ酸組成物を1週間投与した結果、いずれの非必須アミノ酸も投与前の血漿レベルを維持していた。また、経口アミノ酸組成物の投与により、メチオニンなどの透析患者には有害なアミノ酸を増加させずに、低下していた必須アミノ酸の中でも特に分岐鎖アミノ酸が増加する特徴的な血漿アミノグラムを示し、投与した経口アミノ酸組成物の組成に反映した変化と考えられた。
【0035】
試験例2:栄養状態改善試験
本発明の経口アミノ酸生成物を8週間(2ヶ月)の長期にわたり投与し、血液透析患者のアミノ酸代謝異常が改善し、この改善に基づき栄養状態が改善するか検討した。
【0036】
[方法]
上記の試験例2に記載の血液透析患者5名を対象とし、上記の実施例2に記載の経口アミノ酸組成物(2.5g顆粒製剤)を、1日3回毎食後に8週間の長期にわたり服用してもらい、投与前と投与8週間後における血漿アミノ酸組成を定量するとともに、血清アルブミン値及び血清プレアルブミン値を測定した。なお、採血は透析中2日の透析前に行った。
【0037】
[結果と考察]
図3に必須アミノ酸のアミノグラムの結果を示し、図4に非必須アミノ酸のアミノグラムの結果を示した。
また、図5に血漿アルブミン濃度の結果を示し、図6に血漿プレアルブミン濃度の結果を示した。
図3に示した結果からも理解されるように、本発明の経口アミノ酸組成物の投与前における透析患者の血漿必須アミノ酸は、試験例2に示した結果と同様であるが、経口アミノ酸組成物を8週間の長期間投与した結果、正常範囲の下限付近または下回っていたアミノ酸は、いずれも顕著に上昇し、すべての必須アミノ酸が正常範囲内を維持するものであった。
【0038】
また、図4に示した結果から判明するように、本発明の経口アミノ酸組成物の投与前における透析患者の血漿非必須アミノ酸は実施例2に示した結果と同様であるが、経口アミノ酸組成物を8週間の長期間投与した結果、いずれの非必須アミノ酸も、投与前の血漿レベルと比べ変化は認められなかった。これらの血漿アミノグラムは、投与した経口アミノ酸組成物の組成に依存した是正と考えられた。
また、経口アミノ酸組成物の8週間の投与により、血漿アルブミン濃度(図5)及び血漿プレアルブミン濃度(図6)が上昇傾向を示し、栄養状態を改善させていた。
【0039】
以上の各結果から判明するように、本発明の経口アミノ酸組成物の投与前と投与2ヶ月後の血漿アミノ酸組成の比較において、血液透析患者のアミノ酸代謝異常の改善を確認できたともに、血清アルブミン値並びに血清プレアルブミン値の改善に基づく栄養状態の改善を確認することができた。
【産業上の利用可能性】
【0040】
以上記載のように、本発明により、特に血液透析、血液濾過及び血液濾過透析等の血液浄化療法を受けている慢性腎不全患者において、栄養状態を維持・改善することを可能とする経口アミノ酸組成物を提供される。
本発明が提供する経口アミノ酸組成物は、慢性腎不全患者において、アミノ酸代謝の異常を是正し、且つ、効果的に蛋白合成を促進し、また効果的に蛋白分解を抑制し、その結果、栄養状態を維持・改善するものであり、したがって、合併症の発生リスクを回避し、患者のQOLを向上させ、生命予後の改善を可能にするものであり、医療上の貢献度は多大なものである。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】試験例1における必須アミノ酸のアミノグラムの結果を示す図である。
【図2】試験例1における非必須アミノ酸のアミノグラムの結果を示す図である。
【図3】試験例2における必須アミノ酸のアミノグラムの結果を示す図である。
【図4】試験例2における非必須アミノ酸のアミノグラムの結果を示す図である。
【図5】試験例2における血漿アルブミン濃度の結果を示す図である。
【図6】試験例2における血漿プレアルブミン濃度の結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記アミノ酸を下記割合で含有することを特徴とする経口アミノ酸組成物。
L−グルタミン 90〜130重量部
L−ロイシン 60〜100重量部
L−イソロイシン 50〜90重量部
L−バリン 40〜80重量部
L−アルギニン 30〜70重量部
L−トレオニン 20〜60重量部
L−リジン 15〜40重量部
L−フェニルアラニン 10〜40重量部
L−ヒスチジン 5〜30重量部
L−トリプトファン 2〜20重量部
L−メチオニン 2〜20重量部
【請求項2】
血液透析、血液濾過及び血液濾過透析等の血液浄化療法を受けている慢性腎不全患者用に使用することを特徴とする請求項1に記載の経口アミノ酸組成物。
【請求項3】
栄養状態の改善剤としての請求項2に記載の経口アミノ酸組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−247896(P2008−247896A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−56088(P2008−56088)
【出願日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願人】(507219686)静岡県公立大学法人 (63)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】