説明

透過光測定用フローセル

【課題】高圧状態で使用できるフローセルを提供する。
【解決手段】透過光測定フローセルは、光透過材料製の一対の光学窓であって、各光学窓は、対向する第1面と、第1面より広い第2面とを備え、第2面の周辺部をフランジ形状とした一対の光学窓と、被測定流体を流す流路を設けた金属材料製のセル本体であって、前記流路の途中に、流路に直交する方向に貫通孔を備え、貫通孔に、一対の光学窓のフランジ形状部を支持する段付き部を設けるセル本体と、セル本体に支持された一対の光学窓を気密に固定する固定部材とからなる。ここで、一対の光学窓の第1面は流路内にあって一定間隔で互いに対向している。光学窓の表面は、被測定液体に接触する部分において第1面以外で不透明である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学特性の測定のためのフローセルに関する。
【背景技術】
【0002】
光は、液体を透過するとき、溶質により吸収され、光強度は溶質の濃度及び透過距離の積の関数で減衰する(ランバート・ベールの法則)。従って、液体中の溶質の濃度は、透過光の強度の測定により光学的に測定できる。ここで、あらかじめ検量線を求めておき、透過光強度を測定して溶質の濃度を求める。
【0003】
液体の光吸収を測定する装置において、フローセルに液体を流し、フローセルを透過する光について、光強度の減衰を測定する。フローセルは一定の透過距離(セル長)をもつ。
【0004】
なお、本発明では、フローセルに、段付き構造の光学窓を用いている。これについて従来技術を検索したところ、特開昭53−112785号公報に記載されたフローセルでは、高流速の試料を測定するため、1つのフローセルに、窓板の間隔が異なる複数の部分を形成している。これは、フローセルの光路長を短くしたときに流路断面積が減少して耐圧性に問題が生じるという問題を解決するためである。また、実開平1−151240号公報に記載された試料分析用セルでは、2つのセル窓の間隔を光路の外側で広げ、かつ、複数の試料入口を設けている。また、特開平7−12713号公報に記載された試料分析用セルでは、セル長が短い場合に加圧ポンプなどが必要になるという問題を解決するため、フローセルの周辺部に、余剰の流体を流すために配管の流路断面積にほぼ等しい断面積を持った流体通路を配設して、フローセルでの圧力損失を小さくしている。このフローセルでは、光透過部は、たとえば有底円筒やむく円柱棒の形状である。また、特開平7−12713号公報や特開平8−68746号公報には、腐食性の強い薬液の測定に用いられるフローセルが記載されている。
【特許文献1】特開昭53−112785号公報
【特許文献2】実開平1−151240号公報
【特許文献3】特開平7−12713号公報
【特許文献4】特開平8−68746号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
フローセルを用いた透過光測定は、種々の液体に対して適用されている。ここで、高圧状態の流体を対象とする場合にも測定可能とすることが要望されている。
本発明の目的は、高圧状態で使用できるフローセルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る透過光測定フローセルは、光透過材料製の一対の光学窓であって、それぞれ、対向する第1面と、第1面より広い第2面とを備え、第2面の周辺部をフランジ形状部とした一対の光学窓と、被測定流体を流す流路を設けた金属材料製のセル本体であって、前記流路の途中に、前記流路に直交する方向に貫通孔を備え、前記貫通孔に、前記一対の光学窓のフランジ形状部を支持する段付き部を設けるセル本体と、前記セル本体に支持された前記一対の光学窓を気密に固定する固定部材とからなる。ここで、前記一対の光学窓の前記第1面は前記流路内にあって一定間隔で互いに対向していて、前記一対の光学窓の表面は、被測定液体に接触する部分において前記第1面以外で不透明である。
【0007】
前記透過光測定フローセルにおいて、被測定液体に接触する前記部分は、前記第1面以外で、粗面加工(たとえばブラスト処理)された表面を備える。
【0008】
前記透過光測定フローセルにおいて、好ましくは、さらに、前記セル本体の外側に、前記一対の光学窓の前記第1面の間の流路に光を集光する集光光学系を備える。
【0009】
前記透過光測定フローセルにおいて、たとえば、1対の前記第1面の間隔は1mm以下であり、前記第1面は3mmと10mmの間の直径の円形である。
【0010】
分光光度計は、前記フローセルを備えるサンプリング部と、前記フローセルを透過する光を生成し、前記フローセルを透過した前記光を受光する分光部とを備える。
【0011】
本発明に係る液体クロマトグラフィ装置は、液体クロマトグラフィ用のカラムと、前記カラムで分離される液体試料を流す前記フローセルと、前記フローセルを透過する光を生成し、前記フローセルを透過した前記光を受光する検出器とを備える。
【発明の効果】
【0012】
フローセルは、高圧状態でも破損せずに使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、添付の図面を参照して発明の実施の形態を説明する。
図1は、高温高圧状態で使用できるフローセルの断面を示す。フローセルは、セル本体10、一対の光透過部材(光学窓)16及び窓板18からなる。高温高圧状態とは、たとえば液温130℃、圧力0.4MPaである。
【0014】
フローセルのセル本体10は、被測定液体により腐食されない金属材料(たとえばステンレス鋼)で作成される。細長いセル本体10の内部に、長手方向の一端から他端まで流路12が設けられ、流路12の両端には、高圧継手20を接続できる接続構造を設ける。セル本体10は、互いに平行な2つの外表面を備え、それらの外表面には、1対の貫通孔14が、流路12の途中に、流路12に直交する方向に互いに対向して設けられる。貫通孔14には、光学窓16を嵌合可能な形状の穴ぐり部14aが設けられる。図1に示す例では、2対の貫通孔が設けられる。
【0015】
光学窓16は、測定波長で透明な光透過材料(石英、サファイヤなど)で作成される。光学窓16は、厚みを大きくして耐圧性を持たせている。光学窓16は、対向する第1面16aと第2面16bを備えるとともに、段付き部16cを設ける(図2参照)。第2面16bは第1面16aより広く、第2面16bの縁はフランジの形状である。光を透過するための第1面16aは光学研磨される。なお、図示された光学窓16の構造は、2つの円板を重ねた形状であるが、光学研磨される第1面16aの周囲の形状は、図示された構造に限定されない。たとえば、3段階で厚さが変化する形状であってもよい。
【0016】
光学窓16の厚さ(窓厚)が大きいために第1面の周囲で外来光が入射して悪影響を及ぼす。そこで、光学窓16の被測定液体に接触する部分のうち第1面16a以外の部分は、粗面加工(たとえばブラスト処理)をほどこして、光を通さないようにする。なお、段付き構造の光透過部材を用いている従来の特開昭53−112785号公報のフローセルでは、異なるセル長の部分が隣接していて、光は所望のセル長部分に入射するように制御される。迷光の影響については言及されていない。
【0017】
円状開口を備えた窓板18は、セル本体10の外表面にねじ止めされ、セル本体16との間に光学窓16を保持する。このとき、光学窓16のフランジ形状部分(周辺のつば状)の内側を貫通孔12の穴ぐり部14aに密着させて、かつ、Oリング、パッキングなどを用いて、光学窓16をセル本体10に液密に固定する。窓板18は、光学窓16をセル本体10に液密に固定する固定部材の1例である。穴ぐり部14aの形状や、Oリング、パッキングなどの特性は、使用状態に応じて決定される。
【0018】
こうして構成されたフローセルにおいて、一対の光学窓14の第1面16aは一定間隔(セル長)で互いに対向していて、流路12に導入された被測定流体がその間を流れる。セル長はたとえば1.0〜0.5mmとし、第1面16aの直径は、たとえばφ3〜10、好ましくはφ5〜10とする。セル長が1.0mm以下と短くなった場合、空気の混入やゴミの付着率が高くなるので、10mmを上限として面積を小さくすることで、付着率を低減させる。下限は、使用する光路径によるが、ここでは3mmとしている。なお、光学窓14の厚さは、耐圧特性を考慮して決定される。
【0019】
以上に説明したように、セル本体10は非腐食性の金属材料からなり、かつ、光学窓16の厚さを大きくしている。このためフローセルは高圧下で使用できる。なお、光学窓16の側面部には液体が流れるが、これは、特開平7−12713号公報などに記載されたフローセルとは異なり、フローセルでの圧力損失を補うことを意図したものではない。また、セル本体10と光学窓16は、高温で使用できる材料から作成されているので、高温下で使用できる。たとえば、このフローセルは、たとえば液温130℃、圧力0.4MPaの高温高圧下の水溶液について破損せずに使用できる。
【0020】
図3の(a)に示すように、好ましくは、フローセルの両側に設けた光ファイバのコネクタ32の間にレンズ光学系(集光光学系)30を組み込む。一方の光ファイバを経てコネクタ32から導入される光は、レンズ光学系30によりフローセルのセル長部分に集光させて、ファイバ間の光の損失を少なくしている。フローセルを透過した光は他方のレンズ光学系30により集光されて他方のコネクタ32を経て、もう1つの光ファイバに導入される。入射光をセル長部分に集光させるので、光が透過しにくい濃色サンプルや濁ったサンプルも測定できる。また、測定装置の分光部において生成されたフローセルへの光を、光ファイバを介して導入するため、セル部分の変化(温度変化など)が、セル部分と離れて位置されている分光部に影響しない。
【0021】
図3の(b)に示すように、光学測定で、光学研磨を施している第1面16aの周囲の部分で光が透過すると、この透過光(迷光)が測定に悪影響をおよぼす。そこで、第1面16aだけに光を透過させるために、図3の(a)のフローセルでは、上述のとおり光のバイパス部分にブラスト処理を施している。これにより、入射光は流路において第1面16aのみを通るので、第1面16a以外を通る外来光、迷光による悪影響は防止できる。このため、光学研磨面16aに対して入射光が集光され、これにより、透過光強度が高くなり、ブラスト処理を施している部分へ入射するための光の減衰も少なくできる。
【0022】
表1は、サンドブラスト処理(マスク)の有無による光学変化を示す。測定サンプルは水である。表1に示す測定値は、同じ光を入射したときの光センサの測定値(光強度)である。大きな値は検出光強度が高いことを示す。検出光強度の増大は迷光によるものである。
【表1】

【0023】
なお、このフローセルは多段式セルであるので、自動でセル長を変更できる。したがって、セル長の異なった測定が行える。また、連続して異なるセル長の測定が行える。
【0024】
図4は、上述のフローセルを用いた赤外領域、可視領域または紫外領域での分光光度計の1例の構成を図式的に示す。分光光度計は、分光部40、サンプリング部60およびデータ処理部70からなる。
【0025】
分光部40において、たとえばタングステン・ハロゲンランプからなる光源42からの放射光は凸レンズ44により集光され、凸レンズ44の焦点位置に配置された絞り46を通る。回転円板50は、複数の干渉フィルタ48を等角度間隔で保持しており、駆動モータ52によりたとえば1000rpmで回転駆動される。回転円板50の干渉フィルタ48の透過波長は、試料に合わせて決定すればよい。いずれかの干渉フィルタ48を透過した光は凸レンズ44により集光される。集光された光は、サンプリング部60において、光ファイバ64を通って、コネクタ32に接続する。サンプリング部60は、図2に示すように、循環ラインの一部に直結されたフローセル62と、凸レンズと2本の光ファイバ64からなる。コネクタ32は凸レンズ56を介して、フローセル62を挟んで、試料の流れに直交する方向に光を透過するように位置され、光ファイバ64は、コネクタ32に接続される。また、フローセル62は、図示しないが、高圧状態の溶液試料を供給する循環ラインと直接に接続されている。フローセル62を透過した光は、凸レンズ56を介して、コネクタ32に接続されている光ファイバ64をとおり、受光素子58に入射する。受光素子58は入射光を光電流に変換する。
【0026】
データ処理部70では、増幅器71は、受光素子58から光電流として出力された、フローセル62の透過光の強度に対応する透過光強度信号を増幅し、A/D変換器72は、増幅器71の出力をディジタル信号に変換する。データ処理装置73は、A/D変換器72より入力する透過光強度信号から複数波長の光の吸光度をそれぞれ演算し、演算した各波長の光の吸光度および後述するように予め求められて記憶した検量線式に基づいて各波長の吸光度から溶質の濃度を演算する。データ処理装置73は、たとえば、濃度の演算を行なうマイクロプロセッサ74、検量線式や各種データを記憶するRAM75、マイクロプロセッサ74を動作させるためにプログラム等が格納されたROM76、データや各種の命令を入力するキーボード等の入力装置57、上記データ処理の結果を出力するプリンタやディスプレイ等の出力装置78などから構成される。また、マイクロプロセッサ74は、回転円板50を回転する駆動モータ52などの駆動制御信号を発生する。データ処理部70における濃度定量のためのデータ処理は、たとえば、特開平6−265471号公報に記載された公知の方法を用いればよい。
【0027】
また、上述のフローセルは、液体クロマトグラフィ装置においても使用できる。図5は、液体クロマトグラフィ装置の1例を示す。溶媒は、送液ポンプ80によりカラム84に送られる。一方、試料は、インジェクタ82により溶媒中に注入される。カラム84では、試料が成分ごとに分離される。次に各成分はフローセル86を流れ、検出器88により、光学特性(たとえば吸光度)が検出される。その後、フラクションコレクタにおいて、分離された各フラクションがそれぞれ別の容器に集められる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】フローセルの断面図
【図2】光学窓の図
【図3】集光光学系を設けたフローセルの図
【図4】フローセルを備える分光光度計のブロック図
【図5】フローセルを備える液体クロマトグラフィ装置のブロック図
【符号の説明】
【0029】
10 セル本体、 12 流路、 14 貫通孔、 16 光学窓、 16a 第1面、 18 窓板、 20 高圧継手、 30 レンズ光学系、 62 フローセル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過材料製の一対の光学窓であって、それぞれ、対向する第1面と、第1面より広い第2面とを備え、第2面の周辺部をフランジ形状部とした一対の光学窓と、
被測定流体を流す流路を設けた金属材料製のセル本体であって、前記流路の途中に、前記流路に直交する方向に貫通孔を備え、前記貫通孔に、前記一対の光学窓のフランジ形状部を支持する段付き部を設けるセル本体と、
前記セル本体に支持された前記一対の光学窓を気密に固定する固定部材とからなり、
前記一対の光学窓の前記第1面は前記流路内にあって一定間隔で互いに対向していて、
前記一対の光学窓の表面は、被測定液体に接触する部分において前記第1面以外で不透明である
透過光測定フローセル。
【請求項2】
請求項1に記載された透過光測定フローセルにおいて、被測定液体に接触する前記部分は、前記第1面以外で、粗面加工された表面を備える、透過光測定フローセル。
【請求項3】
請求項1に記載された透過光測定フローセルにおいて、さらに、前記セル本体の外側に、前記一対の光学窓の前記第1面の間の流路に光を集光する集光光学系を備える、透過光測定フローセル。
【請求項4】
請求項1に記載された透過光測定フローセルにおいて、前記一対の第1面の間隔は1mm以下であり、前記第1面は3mmと10mmの間の直径の円形である、透過光測定フローセル。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載されたフローセルを備えるサンプリング部と、
前記フローセルを透過する光を生成し、前記フローセルを透過した前記光を受光する分光部と
を備える分光光度計。
【請求項6】
液体クロマトグラフィ用のカラムと、
前記カラムで分離される液体試料を流す、請求項1〜4のいずれかに記載されたフローセルと、
前記フローセルを透過する光を生成し、前記フローセルを透過した前記光を受光する検出器と
を備える液体クロマトグラフィ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−216094(P2008−216094A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−55167(P2007−55167)
【出願日】平成19年3月6日(2007.3.6)
【出願人】(000001096)倉敷紡績株式会社 (296)
【Fターム(参考)】