説明

通信トラヒック予測装置及び方法及びプログラム

【課題】 通信ネットワークにおける新規イノベーション通信サービスに直接起因するトラヒックボリュームを予測可能にする。
【解決手段】 本発明は、新規通信サービスの普及過程において、サービス加入者層の質的変化に対応する構造変化点を用いた回帰分析処理を行ってサービス加入者数予測曲線を算出するサービス加入者数予測手段と、時系列データ記憶手段から取得した新規通信サービス加入者のサービス利用行動の履歴情報を利用しながら、将来時点での加入者のサービス利用行動を予測する加入者行動予測手段と、時系列データ記憶手段からストリーム変動予測に必要なデータを取得し、新規通信サービスの高品質化・多機能化に基づくストリームの排他的クラス間の利用頻度の変遷を観測しながら、将来時点のストリームの排他的クラス間での利用頻度の占有率を予測するストリーム予測手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信トラヒック予測装置及び方法及びプログラムに係り、特に、新規のイノベーション通信サービスに直接起因するトラヒックボリュームのピークを予測する技術に関する。詳しくは、当該新規イノベーション通信サービスのトラヒックボリュームのピークを、当該新規イノベーション通信サービスの加入者数と当該通信サービス加入者あたりのトラヒックボリュームのピークの積によって予測評価されるものとするが、前記新規イノベーション通信サービス加入者数に関して、特に、当該通信サービスの普及に伴いサービス加入者層に質的な変化が発生している点である構造変化点を検出し、「需要成長の構造的理論」と前記構造変化点に基づいて当該新規イノベーション通信サービス加入者数の中長期の予測精度を高め、かつ、前記通信サービス加入者あたりのピークトラヒックボリュームに関して、特に、加入者の行動特性に基づく要因と、新規イノベーション通信サービスの高品質化・多機能化に基づくストリームの広帯域化による変動を考慮して、当該新規イノベーション通信サービスのピークトラヒックボリュームの予測精度を高めること実現する通信トラヒック予測装置、通信サービス予測方法およびプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電話サービス、インターネット接続サービスなどの従来の通信トラヒックの予測は、従来技術においては、単純回帰モデル、重回帰モデルなどの様々な数理モデルに基づく、過去の実績データに対するデータフィッティングにより、将来のトラヒックを予測する技術がある(例えば、非特許文献1、特許文献1,2参照)。しかし、新規イノベーション通信サービスへの適用を想定した予測手法はなかった。
【0003】
さらに、イノベーション普及に関して、その加入者数・契約者数の中長期予測を行う手法がある(例えば、非特許文献2、3、4参照)。しかし、実績データを加えて、外挿予測を行う都度、その誤差が大きくなるという欠点を解決できていなかった。これに対して、加入者層の質的変化を考慮する手法がある(例えば、非特許文献5,特許文献3参照)。当該手法に基づく固有の考え方および理論を、ここでは、「需要成長の構造的理論」と定義している。ただし、「需要成長の構造的理論」を、新規イノベーション通信サービスの加入数ではなく、ピークトラヒックボリュームの予測に適用した方法は、これまでになかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−023114号公報
【特許文献2】特開 2004−056273号公報
【特許文献3】特開2008−305229号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】松田潤他(1991),日々トラヒック予測法に基づく交換機トラヒック管理技術、NTT R&D Vol.40, No.12, pp.1581-1588
【非特許文献2】Bass F. M. (1969), A new product growth model for consumer durables, Management Science Theory, Vol.15, No.5, January 1969, pp.215-227.
【非特許文献3】Saito H. (1987), A demand forecasting method for new telecommunication services Journal of the Operations Research Society of Japan, Vol.30, No.2, June 1987.
【非特許文献4】森村英典他監訳 (1997), マーケティングハンドブック,朝倉書店 (Eliashberg, J., and Lilien, G. L. , ed. (1993) Marketing, Handbooks in Operations Research and Management Science Vol.5)
【非特許文献5】Shimogawa, S., and Shinno, M. ,(2007). Mechanism of Diffusion of Fixed-Line Broadband Access Services in Japan and its Application to Long-Term Growth Prediction - Rapid Diffusion in Urban Areas -,
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
通信ネットワークを提供する通信事業者が、通信ネットワークのリンク帯域やノード設備などの容量を経済的に設計するためには、通信ネットワークにかかるピークトラヒックを高い精度で予測する必要がある。高い精度で予測できなければ、設備容量が過大となりコストのかかりすぎたサービス提供となる、あるいは、設備容量が過小の場合には、ピークトラヒック時に、サービス加入者の体感するサービス品質に劣化現象が発生して、通信事業者は顧客を喪失しまいかねないという問題につながる。
【0007】
しかしながら、新規に提供される通信サービスについては、過去の実績データが少なく、予測に必要な期間の長さに不足するため、従来技術での予測手法を適切に利用することができなかった。加えて、当該通信サービスがイノベーションである場合には、イノベーションの通信サービスの普及過程は、電話サービスやインターネット接続サービスのようなイノベーションではない通信サービスの普及過程とは本質的に異なるため、これを考慮しない従来技術では、当該新規イノベーション通信サービスのトラヒックの中長期予測には高い精度が期待できなかった。ただし、イノベーション通信サービスとは、従来の通信サービスのカテゴリに含まれない、全く新しい価値を加入者に提供する通信サービスとして定義している。
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するためのものであり、通信ネットワークにおける新規イノベーション通信サービスに直接起因するトラヒックボリュームを予測可能とする、通信トラヒック予測装置、通信トラヒック予測方法およびプログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、通信ネットワークにおける新規通信サービスに直接起因するトラヒックボリュームのピークを予測する通信トラヒック予測装置であって、
前記新規通信サービスの普及過程において、サービス加入者層の質的変化に対応する構造変化点を用いた回帰分析処理を行ってサービス加入者数予測曲線を算出するサービス加入者数予測手段と、
前記新規通信サービス加入者のサービス利用行動の履歴情報を利用しながら、将来時点での加入者のサービス利用行動を予測する加入者行動予測手段と、
前記新規通信サービスの高品質化・多機能化に基づくストリームの排他的クラス間の利用頻度の変遷を観測しながら、将来時点のストリームの排他的クラス間での利用頻度の占有率を予測するストリーム予測手段と、を備え、
前記サービス加入者数予測曲線は、サービス加入数の単位時間あたりの増加数が、所定の基準時点からの経過時間の負冪に比例する関数からなることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明の通信トラヒック予測装置の一構成例において、前記新規通信サービス加入者数予測手段は、新規通信サービスがイノベーション通信サービスである場合において、より適切な予測を行うため、特許文献3によって記述された、「需要成長の構造的理論」に基づくものである。
【0011】
「需要成長の構造的理論」とは、特許文献3内の記述によれば、以下のようなものである。「需要成長現象が、単一の正冪関数に表現できるという性質は、需要成長現象の前半のある時期までである。そこで、増分に正に限らない冪性を要求しつつデータフィッティングを施すと、ある時期から後半は、その前半の正冪成長とは関数クラスとして双対的なものである負冪増大に適合する。そして、その増分の冪指数として『−1』がよく適合する。」という性質が見られることを、「後発ユーザの利用開始行動が、身近な周囲からの情報の蓄積量が一定量に達することで、平均的に生ずるものとし、その情報のチャネルのサイズが身近な周囲を共有する人々の数によって決まるという仮説」に基づくことで導くものである。
【0012】
シンプルに言い換えた表現として、「需要成長の構造的理論」とは、イノベーションサービスを利用する先発ユーザの需要成長曲線が下に凸の関数の成長となり、かつ、後発ユーザの需要成長曲線がほぼ対数的な成長となり、両方の曲線が連続になることを導く理論と言え、正に、イノベーション通信サービスの事例であるブロードバンドサービスの日本国内加入者数成長の実績データが、その理論によって良く説明できる、というのが非特許文献5の内容である。
【0013】
したがって、「需要成長の構造的理論」に基づいている前記サービス加入者数予測手段は、構造変化点を検出し、構造変化点以前では下に凸の関数で実績データのデータフィッティングを行い、構造変化点以降では対数関数で実績データのデータフィッティングを行うため、特に、イノベーション通信サービスの加入者数については、従来技術よりも高い精度で予測することが可能である。
【0014】
また、本発明の通信トラヒック予測装置の一構成例において、前記加入者行動予測手段は、加入者別に当該通信サービスの利用履歴について、セッション単位の通信開始時間、通信終了時間、発側NWアドレス、着側NWアドレス、通信帯域の平均値、最大値、バースト特性などのトラヒック特性情報、通信されるコンテンツの各種属性情報などを一式として、時系列データとして記憶し、同時に、サービス利用時の天候、気温、湿度などの気象データ、各種イベント情報などと突き合わせた分析によって、日周期、週周期、月周期、年周期(季節変動)のような外部条件の周期変動を評価する加入者行動モデルや、ある種のイベントとの相関関係を有する加入者行動モデルを構築するので、将来時点での外部条件やイベント情報と組み合わせることで加入者あたりの平均トラヒックボリュームに対してのピーク係数などを正確に予測することが可能である。
【0015】
また、本発明の通信トラヒック予測装置の一構成例において、前記ストリーム予測手段は、対象とするサービスのトラヒックを形成する個々のストリームに対して属性把握により、適切に排他的クラス分類を行うとともに、それぞれのクラス別の通信回数などを計数し、それらのクラス間の通信回数の相関関係などの抽出を多重回帰分析などによって行うため、将来時点でのストリームのクラスの利用頻度、あるいは、クラス間の占有率(シェア)を正確に予測することが可能である。
【発明の効果】
【0016】
上記のように、本発明によれば、通信ネットワークにおける新規通信サービス、特に、新規イノベーション通信サービスに直接起因するトラヒックボリュームのピークを予測するにあたり、将来時点のサービス加入者数、加入者あたりの平均トラヒックボリュームに対してのピーク係数、ストリームの排他的クラス毎の利用頻度を従来よりも正確に予測することが可能であるため、通信ネットワークにおける新規通信サービスに直接起因するトラヒックボリュームのピークを正確に予測することが可能になる。これにより、通信ネットワークにかかるピークトラヒックを高い精度で予測することができるため、サービス利用者の体感品質の劣化を招くことなく設備容量の経済化が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施の形態における通信トラヒック予測装置の構成図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態における通信トラヒック予測装置の動作のフローチャートである。
【図3】本発明の第2の実施の形態における加入者数予測機能部によるあるイノベーションサービスの利用者数実績と予測線の例である。
【図4】本発明の第2の実施の形態におけるあるイノベーションサービスの加入者あたりのトラヒックボリュームの変化である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下図面と共に、本発明の実施の形態を説明する。
【0019】
[第1の実施の形態]
図1は、本発明の第1の実施の形態における通信トラヒック予測装置の構成を示す。
【0020】
図1を参照して、本発明の一実施の形態にかかる、通信トラヒック予測装置の構成について説明する。
【0021】
本通信トラヒック予測装置10は、全体としてコンピュータを用いた情報処理装置からなり、主な機能部として、データ入出力・蓄積機能部20、加入者数予測機能部30、加入者行動予測機能部40、ストリーム変動予測機能部50、予測結果統合処理機能部60を有する。
【0022】
データ入出力・蓄積機能部20は、データ入出力部21、操作入力部22、画面表示出力部23、主記憶部24、時系列データ記憶部25、処理データ記録部26、出力データ保存部27から構成される。
【0023】
データ入出力部21は、専用の通信インタフェース回路からなり、通信回線を介して外部装置と接続してデータ通信を行う機能と、外部装置から各種時系列データを読み込んで時系列データ記憶部25へ保存する機能と、出力データ保存部27から出力結果を読み込んで外部データへ出力送信する機能と、外部装置から各種コマンドやプログラムを読み込んで主記憶部24へ格納する機能とを有している。
【0024】
操作入力部22は、キーボードやマウスなどの操作入力装置からなり、オペレータによる通信トラヒック予測処理の開始操作やデータ入力操作などの各種操作を検出して、各機能部への動作命令を行う。
【0025】
画面表示出力部23は、各種画面表示装置からなり、各機能部からの処理メニュー、あるいは通信トラヒック予測値や通信トラヒック予測グラフなどの出力結果を画面表示する機能を有している。
【0026】
主記憶部24は、メモリやハードディスクなどの記憶装置からなり、各機能部での処理に用いるパラメータや、指定要求などの処理データに対するデフォルト値(初期値)やプログラムを記憶する機能を有している。
【0027】
時系列データ記憶部25は、メモリやハードディスクなどの記憶装置からなり、通信トラヒック予測の対象となる加入者向けの通信サービスに対して、セッション単位の通信開始時間、通信終了時間、発側ネットワーク(NW)アドレス、着側NWアドレス、通信帯域の平均値、最大値、バースト特性などのトラヒック特性情報、通信されるコンテンツの各種属性情報などを一式として、時系列データとして記憶する機能を有している。前記セッション単位のデータは、外部装置で取得されたデータ、あるいは、さらに統計処理されたデータであって、データ入出力部を通じて、当該時系列データ記憶部25に記憶される。また、天候、気温、湿度などの気象データ、各種イベント情報など、加入者行動予測機能部40に必要となる各種データ、および、コンテンツの排他的クラス別(映像コンテンツの場合には、SD(Standard Definition)品質、HD(High Definition)品質、3D品質など)のストリーム帯域、視聴頻度、今後のコンテンツのリリース情報など、ストリーム変動予測機能部50に必要にとなる各種データについても、時系列データとして当該時系列データ記憶部25に記憶される。
【0028】
処理データ記録部26は、メモリやハードディスクなどの記憶装置からなり、通信トラヒック予測処理の実行時に生成される、加入者数予測値、加入者行動予測結果、および、ストリーム変動予測結果など、各機能部において処理された各種データを記録する機能を有している。
【0029】
出力データ保存部27は、メモリやハードディスクなどの記憶装置からなり、通信トラヒック予測処理で得られた通信トラヒック予測値や通信トラヒック予測グラフなどの出力結果を保存する機能を有している。
【0030】
図2は、本発明の第1の実施の形態における通信トラヒック予測装置の動作のフローチャートである。
【0031】
以下、加入者数予測機能部30、加入者行動予測機能部40、ストリーム予測機能部50、予測結果統合処理機能部60の構成と共にその動作を説明する。
【0032】
加入者数予測機能部30は、構造変化点検出機能部31と加入者数予測演算機能部32から構成される。
【0033】
構造変化点検出機能部31は、時系列データ記憶部25から、予測対象のサービスの加入数実績データを読み出す。次に、時系列として与えられた当該サービスの加入数実績から、加入数の増加数を算出し、その変化が増加から減少に転じた時点を検出する。あるいは、前記時系列として与えられた当該サービスの加入数実績から、時間軸を、所定の基準時点からの経過時間に変換後、さらに、対数変換を施し、当該サービス加入数の実績値を線形近似を行い、その傾きに変化が生じた時点を検出する。検出された時点は、当該サービスの構造変化点として、処理データ記憶部26に蓄積する(ステップ101)。
【0034】
加入者数予測演算機能部32は、予測対象となるサービス加入数の時系列データを、時系列データ記憶部25から読み出し、所定の基準時点からの経過時間に時間軸を変換後、さらに、対数変換を施したサービス加入数実績の時系列データに対して、検出した当該構造変化点以降の実績データを用いて、最小二乗法などによる直線近似外挿を適用して、将来時点での当該サービス加入数の予測値として算出する。算出結果は、処理データ記憶部26に蓄積する(ステップ102)。
【0035】
加入者行動予測機能部40は、加入者行動分析機能部41と加入者行動モデル予測機能部42から構成される。
【0036】
加入者行動分析機能部41は、通信ネットワーク内に設置されたパケットキャプチャ装置や、加入者宅内に設置される通信端末(例えば、ホームゲートウエイ装置やセットトップボックス装置)などの外部装置において取得されて、前記時系列データ記憶部25に蓄積された、加入者が当該サービスを利用した際のシチュエーションデータである、当該サービスの各セッションの通信開始時間、通信終了時間、発側NWアドレス、着側NWアドレス、通信帯域の平均値、最大値、バースト特性などのトラヒック特性情報、通信されるコンテンツの各種属性情報等と、天候、気温、湿度などの気象データ、各種イベント情報などのデータを突き合わせた分析(例えば、数量化理論I類などの手法がある)によって、加入者行動モデルの構築を行う(ステップ103)。例えば、当該通信サービスでは、平日のピークトラヒックはX時頃であるが、平均に比べてY%増加する。一方、休日のピークトラヒックはXX時頃で、平均に比べてYY%増加となる。雨がUmm降れば、当該通信サービスのトラヒックはV%増加する。前日に比べて気温がUU度低ければ、当該通信サービスのトラヒックがVV%増加するなどのデータに裏付けられた加入者行動モデルが構築できる。日周期、週周期、月周期、年周期(季節変動)のような周期変動を評価する加入者行動モデルが構築できる。また、ある種のイベントとの相関関係を有する加入者行動モデルが構築可能である。
【0037】
加入者行動モデル予測機能部42は、前記加入者行動分析機能部41にて構築された加入者行動モデルに基づき、周期変動や各種イベント、パラメータとしての気象条件も考慮した、将来時点での加入者あたりの平均トラヒックボリュームに対してのピーク係数などを予測し、処理データ記憶部26に蓄積する(ステップ104)。
【0038】
ストリーム予測機能部50は、ストリームクラス分類計数機能部51と、ストリームクラス別頻度分析機能部52と、ストリームクラス別頻度予測機能部53から構成される。
【0039】
ストリームクラス分類計数機能部51は、対象とするサービスのトラヒックを形成する個々のストリームに対して属性把握により、適切に排他的クラス分類を行い、それぞれのクラス別の通信回数などを計数する機能を有する。当該の機能に必要なデータは、前記時系列データ記憶部25から読み出し、処理を行い、ストリームの排他的クラス別の属性情報を生成する(ステップ105)。前記排他的クラス分類とは、複数のクラスに含まれる要素は存在しないようなクラス分類として定義される。
【0040】
ストリームクラス別頻度分析機能部52は、前記ストリームクラス分類計数機能部51によって得られたストリームの排他的クラス別の属性情報と、利用回数データなどを用いた分析を行う機能部である。通信サービスの高品質化や多機能化に従い、排他的クラスのうちの低品質あるいは単機能なクラスに含まれる通信の回数は減少傾向となり、逆に、別の高品質あるいは多機能なクラスに含まれる通信の回数は増加傾向となっていく。多重回帰分析などによって、このようなストリームの排他的クラス間の相関関係の抽出を行い、処理データ記憶部26に蓄積する(ステップ106)。
【0041】
ストリームクラス別頻度予測機能部53は、前記ストリームクラス別頻度分析機能部52によって得られたストリームの排他的クラス別の相関関係と、ストリームクラス別のコンテンツリリース情報や利用動向などの情報と組合せて、将来時点でのそれぞれのクラスの利用頻度、あるいは、クラス間の占有率(シェア)を予測し、処理データ記憶部26に蓄積する(ステップ107)。
【0042】
予測結果統合処理機能部60は、前記加入者数予測機能部30で得られた指定の将来時点での加入者数予測値と、前記加入者行動予測機能部40で得られた同一の将来時点での加入者あたりの平均トラヒックボリュームに対してのピーク係数などの予測値と、前記ストリーム予測機能部50で得られた同一の将来時点での排他的クラス別の利用頻度、あるいは、クラス間の占有率(シェア)の予測値を処理データ記憶部26から取得して、当該新規サービスに直接起因するトラヒックボリュームのピークを予測する(ステップ108)。
【0043】
上記のように、本発明によれば、通信ネットワークにおける新規通信サービス、特に、新規イノベーション通信サービスに直接起因するトラヒックボリュームのピークを予測するにあたり、将来時点のサービス加入者数、加入者あたりの平均トラヒックボリュームに対してのピーク係数、ストリームの排他的クラス毎の利用頻度を従来よりも正確に予測することが可能であるため、通信ネットワークにおける新規通信サービスに直接起因するトラヒックボリュームのピークを正確に予測することが可能になる。
【0044】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。本実施の形態は、第1の実施の形態をより具体的に説明するものである。ここでは、新規通信サービスとして、映像配信サービスのうちVOD (Video On Demand)を事例として、本発明の適用例を具体的に示す。
【0045】
光回線を利用したVODサービスは、すでに日本国内の利用者が大きく伸びているが、ここでは、VODサービスを新規イノベーション通信サービスであると考える。それは、従来のレンタルビデオに比べて、外出の必要がなく即座に利用できることや返却する必要もないこと、CATVなどで行われていた多チャンネル放送に比べて、個人の趣味嗜好によるコンテンツ選択の自由度が高く、かつ、即座に視聴を開始できることにより、従来のサービスカテゴリに含まれない、全く新しい価値を提供する通信サービスであるというイノベーションサービスの定義を満たすと考えるためである。
【0046】
本実施の形態においても、装置構成は、第1の実施の形態と同様なので、図1を用いて説明する。
【0047】
将来時点での加入者数予測を行う加入者数予測機能部30について説明を行う。
【0048】
まず、構造変化点検出機能部31は、時系列データ記憶部25から、VODサービスの加入者数の実績データを読み出し、この時系列データから、VODサービスの四半期毎の加入者数の純増数が増加から減少に転じた時点TAを検出する。時点TAは、VODサービスの需要の構造変化点となるが、検出できない場合には、未だ構造変化点に至らないと判断する。
【0049】
次に、加入者数予測演算機能部32は、構造変化点に至らない場合には、VODサービスの加入者数の実績データを下に凸の関数でデータフィッティングを行い、将来の時点での加入者数の予測値とする。あるいは、構造変化点である時点TAが検出された場合には、時点TA以降の実績データを対数関数でデータフィッティングを行うことで、将来の時点での加入者数の予測値とする。
【0050】
図3は、本発明の第2の実施の形態における加入者数予測機能部による、あるイノベーションサービスの利用者数実績と予測線の例である。構造変化点以前では、下に凸の関数(点線)で近似を行い、構造変化点以降では、対数関数(実線)で近似し外挿を行っているが、実績値をかなり精度良く予測できている。
【0051】
次に、加入者行動を分析し、モデル構築と予測を行う、加入者行動予測機能部40について説明を行う。
【0052】
まず、加入者行動分析機能部41は、VODサービスの加入者の行動分析を次のように実施することが可能である。VODサーバが収容されたルータから送信されるVODサービスの全体トラヒックを継続的に測定することで、当該サービスのピーク時間とピークトラヒックボリュームがサンプルとして抽出できる。また、そのピークトラヒックボリュームを、当日のVODサービスの加入者数で割ることで、VODサービス加入者あたりのピークトラヒックボリュームとして、算出することができる。このVODサービス加入者あたりのピークトラヒックボリュームを、天候、気温、湿度などの気象データ、各種イベント情報などのデータを突き合わせた分析を行うこと(例えば、数量化理論I類などの手法がある)によって、加入者行動モデルの構築を行うことが可能である。これによって、図3のように、日々のVODサービスの加入者あたりのトラヒックボリュームの時系列データを分析することによって、例えば、VODサービスの加入者あたりのピークトラヒックは、冬季の悪天候による原因が多い、あるいは、特定のイベントが原因で平均的な前日に比べて倍増したような事例を積上げることで、VODサービス加入者あたりのピークトラヒックボリュームが増加する要因と、それを原因としてどの程度のトラヒック増加につながるか、の分析を行う。
【0053】
さらに、通信ネットワーク内に設置されたノードの各種測定機能や、パケットキャプチャ装置や、加入者宅内に設置される通信端末(例えば、ホームゲートウエイ装置やセットトップボックス装置)などの外部装置において、加入者単位にVODサービスを利用した際のシチュエーションデータとして、各セッションの通信開始時間、通信終了時間、発側NWアドレス、着側NWアドレス、通信帯域の平均値、最大値、バースト特性などのトラヒック特性情報、通信されるコンテンツの各種属性情報などを取得すれば、さらに詳細で具体的な加入者行動モデルの分析が可能となる。
【0054】
次に、加入者行動モデル予測機能部42は、前記加入者行動分析機能部41で分析された加入者行動モデルと、将来時点において、加入者行動モデルに影響を与える要因、例えば、想定されうる気象条件の変動幅や、予定されているイベントなどを考慮した、加入者あたりのピークトラヒックボリューム、あるいは、平均トラヒックボリュームに対してのピーク係数などを予測することができる。例えば、図3のように、VODサービスの加入者あたりのトラヒックボリュームの上限値を推定することができる。
【0055】
次に、ストリーム予測機能部50について説明を行う。
現在のVODサービスの映像品質には、大きくSD(Standard Definition)品質、HD(High Definition)品質の2つが存在しているが、SD品質の映像コンテンツは相対的に減少しており、今後はHD品質の映像コンテンツがさらに増加していくことは、疑う余地がない。さらに、3D映像といった立体視可能な映像コンテンツの普及も始っており、3D映像は通常の映像に比べて約2倍弱の情報量をもつが、高品質化や多機能化の志向により、視聴回数あたりのトラヒックは将来に渡って増大していくことは、通信トラヒックの中長期予測の上で考慮しなければならない。
【0056】
まず、ストリームクラス分類係数機能部51は、VODサービスのトラヒックの全体を構成するそれぞれのストリームを、排他的なクラスである、SD品質、HD品質、3D映像の3クラスに分類し、それぞれの通信回数・頻度などを計測する。また、それぞれのクラスのストリーム単位のトラヒックボリュームの計測を行う(あるいは、デフォルト値として記憶する)。
【0057】
ストリームクラス別頻度分析機能部52は、前記排他的なクラスのそれぞれの通信頻度を時系列的として多重回帰分析することなどにより、排他的なクラスであるSD品質、HD品質、3D映像のコンテンツのクラス間の相関関係の分析を行う。
【0058】
ストリームクラス別頻度予測機能部53は、前記排他的なクラス間の相関関係分析などに基づき、コンテンツクラス別のリリース情報や利用動向・トレンドなどの情報と組合せて、将来時点でのそれぞれの排他的クラスである、SD品質コンテンツ、HD品質コンテンツ、3D映像コンテンツの利用頻度、あるいは、これらの占有率(シェア)を予測する。これに基づき、例えば、図4のように翌年の加入者あたりのトラヒックボリュームの上限値の推定評価を行うことができる。
【0059】
最後に、予測結果統合処理機能部60は、前記加入者数予測機能部30で得られた指定の将来時点でのVODサービス加入者数予測値と、前記加入者行動予測機能部40で得られた同一の将来時点でのVODサービス加入者あたりの平均トラヒックボリュームに対してのピーク係数などの予測値と、前記ストリーム予測機能部50で得られた同一の将来時点でのVODサービスの排他的コンテンツクラスであるSD品質、HD品質、3D映像の利用頻度、あるいは、クラス間の占有率(シェア)の予測値を用いて、新規イノベーション通信サービスであるVODサービスに直接起因するトラヒックボリュームのピークを正確に予測することができる。
【0060】
第1〜第2の実施の形態の通信トラヒック予測装置10は、CPU、メモリおよび外部とのインタフェースを備えたコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。このようなコンピュータにおいて、本発明の通信トラヒック予測方法を実現させるためのプログラムは、フレキシブルディスク、CD−ROM、DVD−ROM、メモリカードなどの記録媒体に記録された状態で提供される。CPUは、記録媒体から読み込んだプログラムをメモリに書き込み、プログラムに従って第1〜第2の実施の形態で説明した処理を実行する。
【0061】
以上、本発明を、前記実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は、前記実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲を逸脱しない範囲において種々変更可能である。
【符号の説明】
【0062】
10 通信トラヒック予測装置
20 データ入出力・蓄積機能部
21 データ入出力部
22 操作入力部
23 画面表示出力部
24 主記憶部24
25 時系列データ記憶部
26 処理データ記憶部
27 出力データ保存部
30 加入者数予測機能部
31 構造変化点検出機能部
32 加入者数予測演算機能部
40 加入者行動予測機能部
41 加入者行動分析機能部
42 加入者行動モデル予測機能部
50 ストリーム予測機能部
51 ストリームクラス分類係数機能部
52 ストリームクラス別頻度分析機能部
53 ストリームクラス別予測機能部
60 予測結果統合処理機能部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通信ネットワークにおける新規通信サービスに直接起因するトラヒックボリュームのピークを予測する通信トラヒック予測装置であって、
通信トラヒック予測の対象となる時系列データを格納した時系列データ記憶手段と、
前記時系列データ記憶手段から予測対象のサービスの加入数実績データを読み込み、前記新規通信サービスの普及過程において、サービス加入者層の質的変化に対応する構造変化点を用いた回帰分析処理を行ってサービス加入者数予測曲線を算出するサービス加入者数予測手段と、
前記時系列データ記憶手段から取得した前記新規通信サービス加入者のサービス利用行動の履歴情報を利用しながら、将来時点での加入者のサービス利用行動を予測する加入者行動予測手段と、
前記時系列データ記憶手段からストリーム変動予測に必要なデータを取得し、前記新規通信サービスの高品質化・多機能化に基づくストリームの排他的クラス間の利用頻度の変遷を観測しながら、将来時点のストリームの排他的クラス間での利用頻度の占有率を予測するストリーム予測手段と、を備え、
前記サービス加入者数予測曲線は、サービス加入数の単位時間あたりの増加数が、所定の基準時点からの経過時間の負冪に比例する関数からなることを特徴とする通信トラヒック予測装置。
【請求項2】
前記時系列データ記憶手段は、
前記予測対象のサービスの時系列データとして、
セッション単位のトラヒック特性情報、通信されるコンテンツの各種属性情報を含み、
前記前記新規通信サービス加入者のサービス利用行動の履歴情報として、
気象データ、各種イベント情報を含み、
前記ストリーム予測に必要なデータとして、
コンテンツの排他的クラス別のストリーム帯域、視聴頻度、今後のコンテンツのリソース情報を含む
請求項1記載の通信トラヒック予測装置。
【請求項3】
前記サービス加入数予測手段は、
前記構造変化点として、
サービス加入者数が増加から減少に転じた時点、
または、
前記サービス加入数実績データから、時間軸を所定の基準時点から経過時間に変換し、対数変換を行い、該サービス加入者実績値の線形変換を行い、その傾きに変化が生じた時点、
のいずれかとする請求項1記載の通信トラヒック予測装置。
【請求項4】
通信ネットワークにおける新規通信サービスに直接起因するトラヒックボリュームのピークを予測する通信トラヒック予測方法であって、
サービス加入数予測手段が、通信トラヒック予測の対象となる時系列データを格納した時系列データ記憶手段から予測対象のサービスの加入数実績データを読み込み、前記新規通信サービスの普及過程において、サービス加入者層の質的変化に対応する構造変化点を用いた回帰分析処理を行ってサービス加入者数予測曲線を算出するサービス加入者数予測ステップと、
加入者行動予測手段が、前記時系列データ記憶手段から取得した前記新規通信サービス加入者のサービス利用行動の履歴情報を利用しながら、将来時点での加入者のサービス利用行動を予測する加入者行動予測ステップと、
ストリーム予測手段が、前記時系列データ記憶手段からストリーム変動予測に必要なデータを取得し、前記新規通信サービスの高品質化・多機能化に基づくストリームの排他的クラス間の利用頻度の変遷を観測しながら、将来時点のストリームの排他的クラス間での利用頻度の占有率を予測するストリーム予測ステップと、を行い、
前記サービス加入者数予測曲線は、サービス加入数の単位時間あたりの増加数が、所定の基準時点からの経過時間の負冪に比例する関数からなることを特徴とする通信トラヒック予測方法。
【請求項5】
前記サービス加入者数予測ステップにおいて、
前記時系列データ記憶手段から、前記予測対象のサービスの時系列データとして、セッション単位のトラヒック特性情報、通信されるコンテンツの各種属性情報を取得し、
前記加入者行動予測ステップにおいて、
前記時系列データ記憶手段から、前記前記新規通信サービス加入者のサービス利用行動の履歴情報として、気象データ、各種イベント情報を取得し、
前記ストリーム予測ステップにおいて、
前記時系列データ記憶手段から、前記ストリーム予測に必要なデータとして、コンテンツの排他的クラス別のストリーム帯域、視聴頻度、今後のコンテンツのリソース情報を取得する
請求項4記載の通信トラヒック予測方法。
【請求項6】
前記サービス加入数予測ステップにおいて、
前記構造変化点として、
サービス加入者数が増加から減少に転じた時点、
または、
前記サービス加入数実績データから、時間軸を所定の基準時点から経過時間に変換し、対数変換を行い、該サービス加入者実績値の線形変換を行い、その傾きに変化が生じた時点、
のいずれかとする請求項4記載の通信トラヒック予測方法。
【請求項7】
コンピュータを、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の通信トラヒック予測装置の各手段として機能させるための通信トラヒック予測プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−182677(P2012−182677A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−44400(P2011−44400)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】