説明

通信ネットワークシステム、通信端末およびNAT解決方法

【課題】 NAT機能を有するルータに接続されたネットワークの構成を変更するとルータの管理に負担がかかる。
【解決手段】 第1のIPアドレスを用いる第1の通信ネットワークと、第2のIPアドレスを用いる第2の通信ネットワークと、両通信ネットワーク間にてNAT処理を行う通信制御装置とを備える。第1の通信ネットワークの各通信端末は、他端末との通信開始時に、自端末の第1のIPアドレスを含み且つIPパケットのデータ領域に記述される通信開始要求メッセージを生成するメッセージ生成部と、他端末への伝送経路を検索する経路検索部と、当該伝送経路に通信制御装置が含まれるか否かを判定し、通信制御装置が含まれるとき、通信開始要求メッセージにおける第1のIPアドレスを通信制御装置の第2のIPアドレスに変換するアドレス変換部とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NAT(Network Address Translation)あるいはNAPT(Network Address Port Translation)機能を有するルータを介して接続された複数の通信ネットワークを含むシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インターネットのようなグローバルネットワークと、社内ネットワークのようなローカルネットワークとの間でIPパケットを交信させる際、両ネットワーク間にNAT機能を有するルータを介在させ、このルータにより、IPパケットのアドレス変換を行うことが知られている。NAT機能は、受信したIPパケットにおけるIPレイヤーに関する情報、すなわち該IPパケットのヘッダ領域に記述されている情報に着目し、その情報中の送信元および宛先のIPアドレスを、送信先のネットワークに対応したIPアドレスに統一するための変換を行うものである。
【0003】
ところで、VoIP(Voice over IP)を利用したIP電話サービスや、動画配信サービスなどの通信サービスでは、音声通信用のプロトコルとして、SIP(Session Initiation Protocol)あるいはH.323等が用いられ、例えばSIPの場合、上記の通話開始要求メッセージとしてInviteメッセージが作成される。このInviteメッセージは、宛先に送信されるIPパケットのデータ領域に記述され、メッセージ内には、送信元および宛先のIPアドレスが含まれる。
【0004】
しかしながら、上記のInviteメッセージが記述されたIPパケットを、NAT機能を持つルータを介して交信すると、該パケットのヘッダ領域のアドレス変換は行われるものの、データ領域内のInviteメッセージのIPアドレスは変換されないことから、適正な交信を行うことができないという不都合が生じる。
【0005】
この不都合を解消するための手法が、例えば、後述の特許文献1及び2に記載されている。特許文献1には、NAT機能を持ち、内部および外部ネットワーク間を接続するルータが、内部ネットワークに接続された装置に対して外部ネットワークで用いられるパブリックIPアドレスと同一アドレスを割り振るという手法が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、IPv4を適用するネットワークと、IPv6を適用するネットワークとを接続するIPアドレス変換装置に、RFC3303等で規定されているALG(Application Level Gateway)機能を与え、送信元から受信したSIPメッセージ内にIPアドレスがあるとき、これを送信先のネットワークに対応したIPアドレス形式に変換するという手法が開示されている。
【特許文献1】特開2003−273891号公報
【特許文献2】特開2004−165823号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の特許文献1及び2によれば、それぞれの手法により、NAT機能に係る上述の不都合が解消されることを期待できる。しかしながら、これらの手法では、アドレスの割り振りあるいはアドレス変換といった解決手段が、両ネットワーク間を接続するルータに与えることから、例えば、端末数の増減により各ネットワーク内の構成が変化する場合、ルータの管理者は、その都度、変化した構成についての情報を再設定するという作業を必要とされる。また、再設定作業の間、ネットワーク間の通信サービスが停止されることから、ユーザにとっても不都合が生じる。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、複数のネットワークがNAT機能を有するルータにより接続されたシステムにおいて、SIPあるいはH.323等の音声通信用のプロトコルが用いられる際の不都合を解消すると共に、ルータの管理にかかる負担を軽減し得る手法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る通信ネットワークシステムは、第1の通信ネットワークと、該第1の通信ネットワークと異なる通信プロトコルを適用される第2の通信ネットワークと、該第1および第2の両通信ネットワークに接続され且つ該両通信ネットワーク間にて交信されるIPパケットのヘッダ領域のアドレス変換を行う通信制御装置とを備え、前記第1の通信ネットワークは、第1のIPアドレスを割り当てられた複数の通信端末を有する複数の内部ネットワークと、該複数の内部ネットワーク間を接続する接続装置とを有し、前記第2の通信ネットワークは、第2のIPアドレスを割り当てられた通信端末を有し、前記第1の通信ネットワークの各通信端末は、他端末との通信開始時に、自端末の第1のIPアドレスを含み且つIPパケットのデータ領域に記述される通信開始要求メッセージを生成するメッセージ生成部と、前記他端末への伝送経路を検索する経路検索部と、前記経路検索部が検索した伝送経路に前記通信制御装置が含まれるか否かを判定し、前記通信制御装置が含まれるとき、前記メッセージ生成部が生成した通信開始要求メッセージにおける前記第1のIPアドレスを前記通信制御装置の第2のIPアドレスに変換するアドレス変換部と、前記通信開始要求メッセージが記述されたIPパケットを当該伝送経路へ出力するパケット送信部とを有する。
【0010】
本発明に係るNAT解決方法は、第1の通信ネットワークと、該第1の通信ネットワークと異なる通信プロトコルを適用される第2の通信ネットワークと、該第1および第2の両通信ネットワークに接続され且つ該両通信ネットワーク間にて交信されるIPパケットのヘッダ領域のアドレス変換を行う通信制御装置とを備え、前記第1の通信ネットワークが、第1のIPアドレスを割り当てられた複数の通信端末を有する複数の内部ネットワークと、該複数の内部ネットワーク間を接続する接続装置とを有し、前記第2の通信ネットワークが、第2のIPアドレスを割り当てられた通信端末を有するシステムにおいて、前記第1の通信ネットワークの各通信端末が、他端末との通信開始時に、自端末の第1のIPアドレスを含み且つIPパケットのデータ領域に記述される通信開始要求メッセージを生成し、前記他端末への伝送経路を検索し、検索した伝送経路に前記通信制御装置が含まれるか否かを判定し、前記通信制御装置が含まれるとき、前記生成した通信開始要求メッセージにおける前記第1のIPアドレスを前記通信制御装置の第2のIPアドレスに変換し、前記通信開始要求メッセージを記述したIPパケットを当該伝送経路へ出力するという方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、各通信端末に、IPパケットのデータ領域に対するIPアドレス変換機能を与えたことにより、第1及び第2の各通信ネットワーク内の構成に変化があっても、通信制御装置の管理上の負担を与え難くすることができる。また、各通信端末は、通信に利用する伝送経路に応じて、IPアドレス変換の実行の要否を判断することから、通信相手が自端末と同一ネットワークか否かに拘わらず、該通信相手に対し適切なIPパケットを送信することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
[実施例1]
以下、本発明の実施例について図面を用いて詳細に説明する。図1は、実施例のシステム構成を示すブロック図である。実施例のシステムは、インターネットのようなグローバルエリアネットワーク10と、社内ネットワークのようなローカルエリアネットワーク20と、これらの両ネットワーク10及び20に接続され、従来知られたNAT機能を有する通信制御装置であるルータ101とを備える。グローバルエリアネットワーク10では、本発明の第1または第2のIPアドレスとなるグローバルIPアドレスを用い、ローカルエリアネットワーク20では、グローバルエリアネットワーク10が用いるものと異なる第1または第2のIPアドレスとなるローカルIPアドレスを用いる。
【0013】
グローバルエリアネットワーク10には、図1に示すように、複数の内部ネットワークであるLAN200およびLAN201と、これらの両LANを接続するルータ100と、LAN200に接続された通信端末であるIP電話300とが設けられている。LAN200は、グローバルIPアドレスが「11.22.0.0/16」のネットワーク体系を持ち、LAN201は「10.10.0.0/16」のネットワーク体系を持つ。IP電話300は、SIPやH.323等の音声通信用のプロトコルを利用可能な電話機であり、自端末のグローバルIPアドレスとして「11.22.33.10」を有し、デフォルトゲートウェイとしてルータ100が設定されている。
【0014】
ルータ100は、「11.22.0.0/16」系のLAN200と、「10.10.0.0/16」系のLAN201とを通信可能に接続し、LAN200側のIPアドレスとして「11.22.33.1」、図1に示すように、LAN201側のIPアドレスとして「10.10.0.1」が割り当てられている。また、ルータ100は、NAT機能を有しない接続装置である。
【0015】
他方のローカルエリアネットワーク20には、複数の内部ネットワークであるLAN202およびLAN203と、これらの両LANを接続するルータ102と、LAN202に接続されたIP電話301と、LAN203に接続されたIP電話302とが設けられている。LAN202は、ローカルIPアドレスが「192.168.0.0/16」のネットワーク体系を持ち、LAN203は「172.16.0.0/16」のネットワーク体系を持つ。IP電話301および302は、IP電話300と同様に、SIPやH.323等の音声通信用のプロトコルを利用可能な電話機である。IP電話301は、自端末のローカルIPアドレスとして「192.168.0.10」を有し、IP電話302は、「172.16.0.10」を有する。また、これらのIP電話301およびIP電話302のデフォルトゲートウェイとして、ルータ102が設定されている。
【0016】
ルータ102は、「192.168.0.0/16」系のLAN202と、「172.16.0.0/16」系のLAN203とを通信可能に接続し、LAN200側のIPアドレスとして「192.168.0.2」、LAN203側のIPアドレスとして「172.16.0.1」が割り当てられている。このルータ102も、上述のルータ100と同様に、NAT機能を有しない接続装置である。
【0017】
ルータ101は、NAT機能を有し、グローバルエリアネットワーク10とローカルエリアネットワーク20との間でやり取りするIPパケットのIPレイヤー部分、すなわち該パケットのヘッダ領域のIPアドレスを、グローバルIPアドレスまたはローカルIPアドレスに変換する。なお、ルータ101は、ローカルIPアドレスとして「192.168.0.1」を持ち、グローバルIPアドレスとして「10.10.0.2」を持つ。
【0018】
また、ルータ101は、システム内の各ルータ101〜103に対するLANの接続状況、および、各ルータ101〜103におけるNAT機能の有無を表す図2に示すようなテーブルを有する。このテーブルを参照して、ルータ101は、例えば、自装置のグローバルIPアドレス「10.10.0.2」を宛先とするIPパケットを受信した場合、このIPパケットにNAT処理を行い、ローカルエリアネットワーク20の「192.168.0.0/16」系ネットワークにてIPアドレス「192.168.0.10」を持つIP電話301にパケットを転送する機能を持つ。
【0019】
IP電話300〜IP電話302は、それぞれ同様な構成を成すものであり、例えばIP電話301を例に挙げると、図1に示すように、他端末との通信を開始する際に、自端末のIPアドレスを含み且つIPパケットのデータ領域に記述される通信開始要求メッセージを生成するメッセージ生成部31と、他端末への伝送経路を検索する経路検索部32と、経路検索部32が検索した伝送経路にNAT機能を有するルータが含まれるか否かを判定し、それが含まれるとき、メッセージ生成部31が生成した通信開始要求メッセージに対する後述のアドレス変換処理を行うアドレス変換部33と、通信開始要求メッセージが記述されたIPパケットを当該伝送経路へ出力するパケット送信部34とを備える。本実施例の経路検索部32は、ルータ101が有する図2のテーブルと同様の情報を持ち、このテーブルに基づき伝送経路を検索する。
【0020】
図3に示すフローチャートに沿って、実施例のシステムの動作手順を説明する。ここでは、各IP電話300〜IP電話302が、音声通信用のプロトコルとしてSIPを用いるものとする。まず、ローカルエリアネットワーク20のIP電話301が、グローバルエリアネットワーク10のIP電話300と通話する場合を例に挙げて説明する。
【0021】
IP電話301がIP電話300との通話を開始するにあたって、IP電話301のメッセージ生成部31は、SIPに沿った通信開始要求メッセージであるInviteメッセージを生成する(ステップS1)。このとき経路検索部32は、図2のテーブルを参照し、通信相手であるIP電話300への伝送経路を検索する(ステップS2)。その検索手順を、図4に示すフローチャートに沿って説明する。
【0022】
IP電話301の経路検索部32は、通信相手となるIP電話機300のIPアドレス「11.22.33.10」に対応した内部ネットワークに接続されているルータを図2のテーブルから検索する(ステップA1)。ここで、IP電話300の「11.22.33.10」に対応する内部ネットワークとは、「11.22.0.0/16」系のLAN200を指し、図2のテーブルから、このLAN200に接続されているルータがルータ100であることがわかる(ステップA2)。
【0023】
続いて、経路検索部32は、ルータ100に接続されている他の内部ネットワークが「10.10.0.0/16」系のLAN201であることと(ステップA3)、このLAN201に対し上記のルータ100以外に接続しているルータは、ルータ101であることとを検出する(ステップA4)。
【0024】
さらに、図2のテーブルより、ルータ101には、自端末であるIP電話301が存在する「192.168.0.0/16」系のLAN202も接続されていることを検出する(ステップA5)。以上の検索結果により、IP電話301の経路検索部32は、自端末からIP電話300への伝送経路が、「LAN202→ルータ101→LAN201→ルータ100→LAN200」であることを認識する(ステップA6)。
【0025】
また、図5に、IP電話301が、同ローカルエリアネットワーク20内のIP電話302と通話する場合の伝送経路の検索手順を示す。IP電話機301の経路検索部32は、通信相手であるIP電話302のIPアドレスである「172.16.0.10」に対応する内部ネットワーク、すなわち「172.16.0.0/16」系のLAN203に接続されているルータを、図2のテーブルから検索する(ステップB1)。
【0026】
その結果、LAN203にはルータ102が接続されていることを検出し(ステップB2)、さらに、このルータ102が、自端末であるIP電話301が存在する「192.168.0.0/16」系のLAN202に接続されていることを検出する(ステップB3)。以上の検索結果から、経路検索部32は、IP電話301からIP電話302への伝送経路が、「LAN202→ルータ102→LAN203」であることを認識する(ステップB4)。
【0027】
上記のような手順にて、経路検索部32により伝送経路が検索されると、アドレス変換部33が起動し、当該伝送経路にNAT機能を有するルータが含まれるか否かを図2のテーブルに基づき判定する(図3:ステップS3)。ここでは、図2のテーブルから、NAT機能を有するルータはルータ101であることが判ることから、アドレス変換部33は、このルータ101が当該伝送経路上にあるか否かを判定することとなる。
【0028】
具体的には、例えば、図4に沿って説明したIP電話301とIP電話300との通話においては、その伝送経路にルータ101が含まれていると判定し(ステップS3:Yes)、伝送中にNAT処理が行われると認識する。また、図5に沿って説明したIP電話301とIP電話302との通話の際は、ルータ101を経由しないことから(ステップS3:No)、伝送中にNAT処理が行われないと認識する。
【0029】
IP電話301およびIP電話300間の通信のように、伝送中にNAT処理が行われると認識したとき、アドレス変換部33は、メッセージ生成部31が生成したInviteメッセージに含まれる自端末のIPアドレス、すなわち発呼元のIPアドレスを、ルータ101のグローバルIPアドレスに変換する(ステップS4)。また、IP電話301およびIP電話302間の通信のように、伝送中にNAT処理が行われない場合は、アドレス変換を行うことなく、後述のパケット送信処理へ移行する。
【0030】
図6に示すInviteメッセージの一例を用いて、上記ステップS4によるアドレス変換処理の手順を説明する。図示の例は、IP電話301からIP電話300への通信の際に生成されるInviteメッセージである。上記説明したように、NAT機能を有するルータ101を経由する場合、発呼元について記述された「From:”301”<sip:301@192.168.0.10>」なる情報のIPアドレス「192.168.0.10」を、ルータ101のグローバルIPアドレスである「10.10.0.2」に変換する。なお、仮に、当該伝送経路にてルータ101を経由しない場合、上記の発呼元のIPアドレスは「192.168.0.10」から変換されることはない。
【0031】
パケット送信部34は、上記ステップS4にてアドレス変換されたInviteメッセージ、あるいは、アドレス変換が不要のInviteメッセージを、IPパケットのデータ領域に記述して、これを当該伝送経路へ出力する(ステップS5)。
【0032】
以上説明した実施例によれば、各IP電話300〜302が、Inviteメッセージに対するアドレス変換機能を有することから、グローバルエリアネットワーク10あるいはローカルエリアネットワーク20の内部にてLAN構成の変化があっても、両ネットワーク間でNAT処理を行うルータ101を管理する上での負担を軽減することができる。また、各IP電話300〜302は、当該伝送経路にてNAT処理が行われるか否かを事前に判定することから、伝送経路に応じた適切なアドレス変換が可能となる。これにより、各内部ネットワークにおいて、ルータ100あるいは102のようなNAT機能を有しないルータによるLANの増設を実現し易くなる。
【0033】
[実施例2]
上記説明した実施例1では、経路検索部32が図2のテーブルに基づき伝送経路を検索したが、この検索方法に代えて、従来知られたICMP(Internet Control Message Protocol)に基づくトレースルート(Trace Route)コマンドによる検索処理を採用することができる。その手順を実施例2として、以下に説明する。なお、本実施例のシステム構成は図1に示すものと同様であるが、各IP電話300〜302には、図7に示すテーブル、すなわち各ルータ100〜102に割り当てられているIPアドレスおよびNAT機能の有無を示す情報が与えられている。
【0034】
本実施例による経路検索手順を説明する。まず、図8に示すシーケンス図に沿って、ローカルエリアネットワーク20のIP電話301が、他方のグローバルエリアネットワーク10に存在するIP電話300と通話するケースを説明する。IP電話301は、通信相手となるIP電話300のIPアドレスである「11.22.33.10」に宛てて、TTL(Time To Live)値を「1」に設定したIPパケットを送出する。このIPパケットは、IP電話301のデフォルトゲートウェイであるルータ102に送られる(ステップS11)。
【0035】
ルータ102は、IP電話301から送られたIPパケットを受信すると、設定されているTTL値「1」から「1」を差し引く。これにより、ルータ102でのTTL値は「0」となる。ルータ102は、TTL値が「0」となったことを認識すると、ICMPに従い、このIPパケットを破棄し(ステップS12)、破棄した旨を送信元のIP電話301に通知するために、ICMPにおけるタイプ3のメッセージであるTime Exceeded Messageを、図7のテーブルに基づき、IP電話301のIPアドレス「192.168.0.10」へ送信する(ステップS13)。IP電話301は、ルータ102からのTime Exceeded Messageを受信することにより、通信相手となるIP電話300への伝送経路にルータ102が存在することを把握する(ステップS14)。
【0036】
次に、IP電話301は、TTL値を「1」加算したIPパケット、すなわちTTL値「2」のIPパケットを、通信相手のIP電話300のIPアドレス「11.22.33.10」宛てに送出する。このIPパケットは、上記ステップS11と同様に、まず、デフォルトゲートウェイであるルータ102に送られる(ステップS15)。
【0037】
ルータ102は、IP電話機301からのIPパケットを受信すると、そのTTL値を「1」差し引き、これによりTTL値「1」となったIPパケットをルータ101に送信する(ステップS16)。ルータ101は、ルータ102から送られたIPパケットを受信すると、そのTTL値を「1」差し引く。これにより、TTL値は「0」となるため、ルータ101は、このIPパケットを破棄し(ステップS17)、上述のTime Exceeded Messageをルータ102を介してIP電話301へ送信する(ステップS18、S19)。
【0038】
ルータ101からのTime Exceeded Messageを受信したIP電話301は、通信相手となるIP電話300への伝送経路上において、ルータ102の次ホップとしてルータ101が存在することと(ステップS20)、図7のテーブルより、このルータ101がNAT機能を持つこととを把握する(ステップS21)。この時点で、IP電話301は、IP電話300へのIPパケットがNAT処理されることを認識するため、上述のトレースルートコマンドによるIPパケットの送出を終了する。その後、IP電話301は、IP電話300へのIPパケットに記述するInviteメッセージに対し、実施例1にて説明したアドレス変換(図3:ステップS4)を行うこととなる。
【0039】
また、図9のシーケンス図に沿って、IP電話301が、同ローカルエリアネットワーク20のIP電話302と通信するケースを説明する。IP電話301は、まず、通信相手のIP電話302のIPアドレス「172.16.0.10」に宛てて、TTL値を「1」に設定したIPパケットを送信する。このIPパケットは、上述のケースと同様に、IP電話301のデフォルトゲートウェイであるルータ102に送られる(ステップS21)。
【0040】
IP電話301からのIPパケットを受信したルータ102は、TTL値を「1」差し引き、これによりTTL値は「0」となるため、このIPパケットを破棄し(ステップS22)、IP電話301に対しICMPのTime Exceeded Messageを送信する(ステップS23)。IP電話機301はルータ102からのTime Exceeded Messageを受信することにより、伝送経路にてルータ102を通過することがわかる(ステップS24)。
【0041】
次に、IP電話301は、TTL値を加算して「2」に設定したIPパケットをIP電話302に宛てて送信する。このパケットも同様にルータ102へ送られ(ステップS25)、これを受信したルータ102が、TTL値を「1」差し引くことによりTTL値「1」となったIPパケットを、IP電話302へ送信する(ステップS26)。
【0042】
ルータ102からのIPパケットを受信したIP電話302は、このパケットが自端末宛てに送られたものと認識すると共に、パケットを破棄し(ステップS27)、ICMPにおけるタイプ0のメッセージであるEcho Reply Messageを、ルータ102を介してIP電話機301に送信する(ステップS28、S29)。IP電話302からのEcho Reply Messageを受信したIP電話301は、IP電話302までの経路ではルータ102のみを経由することと(ステップS30)、図7のテーブルより、このルータ102がNATを使用しないこととを把握する(ステップS31)。これにより、IP電話301は、IP電話302へのIPパケットに記述するInviteメッセージに対し、IPアドレスを変換しないと判断することとなる。
【0043】
実施例2によれば、各電話機の経路検索部32が行う経路検索に、トレースルートコマンドによる上述の手法を採用することから、グローバルエリアネットワーク10やローカルエリアネットワーク20のような内部ネットワークのLAN構成が変化しても、経路検索にあたって、この変化に柔軟に対処することができる。
【0044】
上記説明した各実施例では、ルータ101がNAT機能を有するものとして説明したが、NATに限らずNAPT(Network Address Port Translation)であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明による実施例のシステム構成を示すブロック図である。
【図2】実施例1におけるテーブルを説明するための説明図である。
【図3】実施例1の動作手順を示すフローチャートである。
【図4】実施例1における経路判定手順を示すフローチャートである。
【図5】実施例1における経路判定手順を示すフローチャートである。
【図6】実施例1のアドレス変換処理を説明するための説明図である。
【図7】実施例2におけるテーブルを説明するための説明図である。
【図8】実施例2における経路判定手順を示すシーケンス図である。
【図9】実施例2における経路判定手順を示すシーケンス図である。
【符号の説明】
【0046】
10 グローバルエリアネットワーク
20 ローカルエリアネットワーク
100〜103 ルータ
200〜203 LAN
300〜302 IP電話
31 メッセージ生成部
32 経路検索部
33 アドレス変換部
34 パケット送信部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の通信ネットワークと、該第1の通信ネットワークと異なる通信プロトコルを適用される第2の通信ネットワークと、該第1および第2の両通信ネットワークに接続され且つ該両通信ネットワーク間にて交信されるIPパケットのヘッダ領域のアドレス変換を行う通信制御装置とを備え、
前記第1の通信ネットワークは、第1のIPアドレスを割り当てられた複数の通信端末を有する複数の内部ネットワークと、該複数の内部ネットワーク間を接続する接続装置とを有し、
前記第2の通信ネットワークは、第2のIPアドレスを割り当てられた通信端末を有し、
前記第1の通信ネットワークの各通信端末は、
他端末との通信開始時に、自端末の第1のIPアドレスを含み且つIPパケットのデータ領域に記述される通信開始要求メッセージを生成するメッセージ生成部と、
前記他端末への伝送経路を検索する経路検索部と、
前記経路検索部が検索した伝送経路に前記通信制御装置が含まれるか否かを判定し、前記通信制御装置が含まれるとき、前記メッセージ生成部が生成した通信開始要求メッセージにおける前記第1のIPアドレスを前記通信制御装置の第2のIPアドレスに変換するアドレス変換部と、
前記通信開始要求メッセージが記述されたIPパケットを当該伝送経路へ出力するパケット送信部とを有することを特徴とする通信ネットワークシステム。
【請求項2】
前記第2の通信ネットワークは、第2のIPアドレスを割り当てられた複数の通信端末を有する複数の内部ネットワークと、該複数の内部ネットワーク間を接続する接続装置とを有し、
前記第2の通信ネットワークの各通信端末は、
他端末との通信開始時に、自端末の第2のIPアドレスを含み且つIPパケットのデータ領域に記述される通信開始要求メッセージを生成するメッセージ生成部と、
前記他端末への伝送経路を検索する経路検索部と、
前記経路検索部が検索した伝送経路に前記通信制御装置が含まれるか否かを判定し、前記通信制御装置が含まれるとき、前記メッセージ生成部が生成した通信開始要求メッセージにおける前記第2のIPアドレスを前記通信制御装置の第1のIPアドレスに変換するアドレス変換部と、
前記通信開始要求メッセージを記述したIPパケットを当該伝送経路へ出力するパケット送信部とを有することを特徴とする請求項1記載の通信ネットワークシステム。
【請求項3】
前記経路検索部は、前記各接続装置および前記通信制御装置と、該各装置に接続されたネットワークとを関連付けた情報に基づき当該伝送経路を検索することを特徴とする請求項1又は2記載の通信ネットワークシステム。
【請求項4】
前記経路検索部は、ICMP(Internet Control Message Protocol)に沿って、前記交信すべき他端末に対しTTL(Time To Live)値を漸増させてIPパケットを順次的に送出すること、および、該送出したIPパケットに対し当該TTL値の時間超過を示すICMPメッセージを受信することにより当該伝送経路を検索することを特徴とする請求項1又は2記載の通信ネットワークシステム。
【請求項5】
第1の通信ネットワークと、該第1の通信ネットワークと異なる通信プロトコルを適用される第2の通信ネットワークと、該第1および第2の両通信ネットワークに接続され且つ該両通信ネットワーク間にて交信されるIPパケットのヘッダ領域のアドレス変換を行う通信制御装置とを備えるシステムにおいて前記第1の通信ネットワークにて第1のIPアドレスを割り当てられた通信端末であって、
他端末との通信開始時に、自端末の第1のIPアドレスを含み且つIPパケットのデータ領域に記述される通信開始要求メッセージを生成するメッセージ生成部と、
前記他端末への伝送経路を検索する経路検索部と、
前記経路検索部が検索した伝送経路に前記通信制御装置が含まれるか否かを判定し、前記通信制御装置が含まれるとき、前記メッセージ生成部が生成した通信開始要求メッセージにおける前記第1のIPアドレスを前記通信制御装置の第2のIPアドレスに変換するアドレス変換部と、
前記通信開始要求メッセージを記述したIPパケットを当該伝送経路へ出力するパケット送信部とを有することを特徴とする通信端末。
【請求項6】
第1の通信ネットワークと、該第1の通信ネットワークと異なる通信プロトコルを適用される第2の通信ネットワークと、該第1および第2の両通信ネットワークに接続され且つ該両通信ネットワーク間にて交信されるIPパケットのヘッダ領域のアドレス変換を行う通信制御装置とを備え、前記第1の通信ネットワークが、第1のIPアドレスを割り当てられた複数の通信端末を有する複数の内部ネットワークと、該複数の内部ネットワーク間を接続する接続装置とを有し、前記第2の通信ネットワークが、第2のIPアドレスを割り当てられた通信端末を有するシステムにおいて、
前記第1の通信ネットワークの各通信端末が、
他端末との通信開始時に、自端末の第1のIPアドレスを含み且つIPパケットのデータ領域に記述される通信開始要求メッセージを生成し、前記他端末への伝送経路を検索し、検索した伝送経路に前記通信制御装置が含まれるか否かを判定し、前記通信制御装置が含まれるとき、前記生成した通信開始要求メッセージにおける前記第1のIPアドレスを前記通信制御装置の第2のIPアドレスに変換し、前記通信開始要求メッセージを記述したIPパケットを当該伝送経路へ出力することを特徴とするNAT解決方法。
【請求項7】
前記システムの前記第2の通信ネットワークが、第2のIPアドレスを割り当てられた複数の通信端末を有する複数の内部ネットワークと、該複数の内部ネットワーク間を接続する接続装置とを有し、
前記第2の通信ネットワークの各通信端末が、
他端末との通信開始時に、自端末の第2のIPアドレスを含み且つIPパケットのデータ領域に記述される通信開始要求メッセージを生成し、前記他端末への伝送経路を検索し、検索した伝送経路に前記通信制御装置が含まれるか否かを判定し、前記通信制御装置が含まれるとき、前記生成した通信開始要求メッセージにおける前記第2のIPアドレスを前記通信制御装置の第1のIPアドレスに変換し、前記通信開始要求メッセージを記述したIPパケットを当該伝送経路へ出力することを特徴とする請求項6記載のNAT解決方法。
【請求項8】
前記各通信端末が、前記各接続装置および前記通信制御装置と、該各装置に接続されたネットワークとを関連付けた情報に基づき当該伝送経路を検索することを特徴とする請求項6又は7記載のNAT解決方法。
【請求項9】
前記各通信端末が、ICMP(Internet Control Message Protocol)に沿って、前記交信すべき他端末に対しTTL(Time To Live)値を漸増させてIPパケットを順次的に送出すること、および、該送出したIPパケットに対し当該TTL値の時間超過を示すICMPメッセージを受信することにより当該伝送経路を検索することを特徴とする請求項6又は7記載のNAT解決方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−50405(P2006−50405A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−230761(P2004−230761)
【出願日】平成16年8月6日(2004.8.6)
【出願人】(000227205)NECインフロンティア株式会社 (1,047)
【Fターム(参考)】