説明

通信波搬送導波管

【課題】建物内に多数配置される無線端末にアクセスポイントからの電磁波を到達させ、同一チャンネルを同時に無線端末が利用した場合に干渉を防止し、電磁シールドを成し、屋内でのマルチパス干渉を防止し、電磁的セキュリティーを低コストで達成する通信波搬送システムを提供する。
【解決手段】本発明の通信波搬送導波管は、無線LANのアクセスポイントと無線端末との間を構成する伝送媒体であり、送受信アンテナを含む前記アクセスポイント、或いは前記アクセスポイントとUTPケーブル、及び他の手段で接続される送受信アンテナは、前記伝送媒体内部に設置され、前記伝送媒体は金属製の材質で構成され、矩形若しくは円形の開口形状であり、有効開口サイズは、伝播の対象とする電磁波の波長の1/2倍以上であり、更に、前記伝送媒体の室内側端部は、室内に向けて折り返しを設けた形状とし、前記伝送媒体の接合部は電磁波漏洩防止シールドがされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物内で普及している、携帯電話や無線LAN、携帯電話と無線LANを利用した無線IP電話、RFIDに代表される移動体通信機器を用いた通信技術において、電磁波同士の干渉や、電磁波が外部に漏洩することの電磁的セキュリティーを考慮した通信波搬送システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、無線LANは比較的電波の到達距離が短いシステムではあるが、アクセスポイントから数十m程度までは、携帯電話やノートパソコンやプリンタ等が利用するためには電磁波同士の干渉防止や電磁的セキュリティー対策が必要であり、また建物内では複数の携帯電話やノートパソコンやプリンタ等が無線LANを利用することから多数チャンネルが必要となる。
【0003】
また、複数の携帯電話やノートパソコンやプリンタ等が同一チャンネルを同時に利用するケースが多くなり、ここでも電磁波同士の干渉が生じることによる送信速度の低下が起こる。
【0004】
また、アクセスポイントから放射された電波は半径数十mまでは到達するため、電子データを傍受できる環境にある一方で、建物の外壁構造に用いられている鉄筋コンクリート構造では、20dB程度のシールド(遮蔽)性能を有いるが、一般的な窓開口では全くシールド性能を有していないため、一般の建物では、建物内外に関わらず電磁波は伝播するため電磁的セキュリティー対策が必要となる。
【0005】
このため、無線LANの同一チャンネル間干渉が発生しないセルを構成するために、内装に電磁シールド性能を有する構法が適用され、また、携帯電話用の基地局から放射された電波と屋内に設置した基地局との電波強度差を確保させた干渉防止や、屋内で発生した電磁波の外部漏洩量を抑制するための電磁シールドビル構造が提案されたりしている。
【0006】
しかし、電磁シールド構造は、電磁シールド材(金属箔、金属板、定電気抵抗繊維や粒子を石膏ボードやプラスチック材料、木などに混入成形した板材などの材料など)、シールド扉、設備開口部シールド構造、電気貫通部シールド構造などによって構成される空間であるが、ここに電磁シールド材として金属箔等を用いた場合、電磁波がシールド材に入射しても減衰せずに反射する為、マルチパス干渉の影響が増大し、これを防止するためには加えて、電波吸収体が必要となり、実現のためには高コストと専門技術が必要になる。
【0007】
また、電磁セキュリティー対策として、通信電波が屋外へ漏洩するのを防ぐための電磁波シールドを施すことは有効ではあるが、通常、オフィス等の一般居室には採光が必要となり、窓を設置するが、採光性能を満足したシールド材料の性能は現在40dB程度が限界であり、完全に遮蔽することは困難である。しかし、今日の盗聴等の漏洩技術は進歩が著しく、これを防止するためのシールド技術を、建物としての意匠性・機能性を保持した状態で実現するのは非常に困難である。
【0008】
更に、電波を輻射するための多数のスロットを設けた一本の線状の漏洩同軸ケーブルに、輻射する周波数帯即ち各チャンネル周波数帯等に対して、周波数毎に異なる専用区間を割り当て、各専用区間に、該当する単一周波数帯における輻射特性に合わせた条件で、スロットを設けた構造のものや、この多数のスロットを設けた線状漏洩同軸ケーブルからの漏洩伝送路や送受信アンテナを、無線通信端末が、建築内装構造や什器等の障害物によって見通せないことを防止すると共に受信信号による受信処理を確実に行うシステム等が考えられていた。
【0009】
しかし、放射電波が微弱であるため、多くの無線端末に電波を供給するには、敷設する漏洩同軸ケーブルが多数本必要になったり、放射電波が微弱であるために、携帯電話のように外部からの強い電波が到来する環境においては、屋内基地局との干渉防止を行うことが極めて困難であり、漏洩同軸ケーブルの構造上、必然的にマルチパスが発生し、DSSS方式である直接スペクトラム拡散方式や無線LAN規格IEEE802.11bやそれを利用した携帯電話無線IP電話システムやRFIDへの適用が困難である。また、現状の規制では、当技術を設置する場合、電波管理局において漏洩同軸ケーブルなるアンテナの設置に関する個別書類審査を要したりして煩雑な手続きが必要であった。
【0010】
また、無線LAN等のアクセスポイントを、電磁シールド性能を持つボックス形状の構造内に設置し、このボックス内でのマルチパスを防止するために、内部に電波吸収体を設けたもの等が考えられていたが、アクセスポイントをボックス内部に配する構造のため、比較的大きなサイズとなるため、設置位置の自由度が低く、建築的な意匠性を阻害する要因になったり、また多数のアクセスポイントに対して全てにこのボックスが必要となり、煩雑でありまた、高コストに結びつくものであった。
【特許文献1】特願2003ー83174
【特許文献2】特願2004ー44318
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、建物内に多数配置される無線端末にアクセスポイントからの電磁波を到達させ、同一チャンネルを同時に無線端末が利用した場合に干渉を防止し、電磁シールドを成し、屋内でのマルチパス干渉を防止し、電磁的セキュリティーを成すことを低コストで達成し、且つ放射電波の強度を干渉防止に必要なレベルで放射し、送信方式に限定されない伝送媒体の実現を達成する通信波搬送システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第一の発明は、無線LANのアクセスポイントと無線端末との間を構成する伝送媒体であることを特徴とする。
【0013】
このことにより、無線LANつまり、同一建物内、あるいは同一敷地内などの比較的狭い地域に分散設置された各種コンピューターを結び、様々なサービスを実現するシステムの総称のアクセスポイントと無線端末である携帯電話やノートパソコンやプリンタ等を、同一チャンネルを使用した時の干渉やマルチパス干渉また、屋内での電磁波の外部への漏洩を防ぐ等の電磁シールド乃至は電磁的セキュリティーを達成し、放射電波の干渉防止に必要なレベルで放射することを保持することを、送信方式に限定されない伝送媒体によって果たすことになる。また、本システムは市販のアクセスポイントを使用しているために、漏洩同軸ケーブ
ルのように、設置に関する個別書類審査は必要なく、またこの伝送媒体は建物において、内装仕上げ面に関わるのは端部だけであるので、建築的な意匠性を阻害することにはならない。
【0014】
第二の発明は、送受信アンテナを含む前記アクセスポイント、或いは前記アクセスポイントとUTPケーブル、及び他の手段で接続される送受信アンテナは、前記伝送媒体内部に設置されることを特徴とする。

【0015】
このことにより、送受信アンテナの元のアクセスポイントは、この送受信アンテナが、電磁シールド等の役割を果たす伝送媒体内部から電波を発信することとなり、確実に前記電磁シールド等の役割の元で電波の干渉等から保持することになる。
【0016】
第三の発明は、前記伝送媒体は金属製の材質で構成され、矩形若しくは円形の開口形状であることを特徴とする。
【0017】
このことにより、伝送媒体内部を伝播する電磁波はほぼ減衰することなく、無線端末に到達することになる。
【0018】
第四の発明は、前記伝送媒体の有効開口サイズは、伝播の対象とする電磁波の波長の1/2倍以上であることを特徴とする。
【0019】
このことにより、伝送媒体内を伝播する電磁波はほぼ減衰することなく無線端末に到達することになる。
【0020】
第五の発明は、前記伝送媒体の室内側端部は、室内に向けて折り返しを設けた形状とすることを特徴とする。
【0021】
このことにより、伝送媒体の端部では、放射される電波に指向性を持たせることができ、これによって放射範囲を限定させ、無線端末の受信範囲を設定でき、セル設定や干渉防止対策、電磁的セキュリティー対策における、アクセスポイントの設置計画が容易になると共に、建築計画を伴わない対策が可能となり、技術的、コスト的に容易な対策が可能になる。
【0022】
第六の発明は、前記伝送媒体は、空調用ダクト、金属製電気配管、金属製衛生配管を兼ねることができることを特徴とする。
【0023】
このことにより、セル設定や干渉防止対策、電磁的セキュリティー対策におけるアクセスポイントの設置計画がより容易になると共に、より建築計画を伴わない対策が可能になり、技術的、コスト的な負担をより軽減することになる。
【0024】
第七の発明は、前記伝送媒体の接合部は電磁波漏洩防止シールドがされていることを特徴とする。
【0025】
このことにより、伝送媒体内部における干渉防止対策や電磁的セキュリティー対策は徹底されることになる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の、通信波搬送導波管によって、無線LANつまり、同一建物内、あるいは同一敷地内などの比較的狭い地域に分散設置された各種コンピューターを結び、様々なサービスを実現するシステムの総称のアクセスポイントと無線端末である携帯電話やノートパソコンやプリンタ等を、同一チャンネルを使用した時の干渉やマルチパス干渉また、屋内での電磁波の外部への漏洩を防ぐ等の電磁シールド乃至は電磁的セキュリティーを達成し、放射電波の干渉防止に必要なレベルで放射することを保持することを、送信方式に限定されない伝送媒体である、電磁波搬送用導波管によって果たすことになる。また、本システムは市販のアクセスポイントを使用しているために、漏洩同軸ケーブルのように、設置に関する個別書類審査は必要なく、またこの導波管は建物において、内装仕上げ面に関わるのは端部だけであるので、建築的な意匠性を阻害することにはならなくなる。
【0027】
また、導波管内部を伝播する電磁波はほぼ減衰することなく、無線端末に到達することになり、導波管の端部では、放射される電波に指向性を持たせることができ、これによって放射範囲を限定させ、無線端末の受信範囲を設定でき、セル設定や干渉防止対策、電磁的セキュリティー対策における、アクセスポイントの設置計画が容易になると共に、建築計画を伴わない対策が可能となり、技術的、コスト的に容易な対策が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
図1は、本発明の通信波搬送導波管の果たすシステム的概略図である。図に示す1は電磁波搬送用導波管であり、鉄、アルミニウム、銅、銀等の箔若しくは板で構成され、矩形あるいは円形の開口形状をしている。
【0029】
この導波管1内の一方の端部に、送受信アンテナを含むアクセスポイント、あるいはアクセスポイントとUTPケーブル等で接続される送受信アンテナ2が設置される。そして、導波管の他端部付近に、携帯電話やノートパソコンやプリンタ等の無線端末3が位置することになる。
【0030】
そして、図2で示すように、導波管1は建築計画上は例えば天井裏6空間に設置され、その継ぎ目10はシールド処理される。そして、例えばアクセスポイントと接続したサーバーパソコン4から無線端末3へ電子情報を送る場合の電子データの流れは、サーバーパソコン4からUTPケーブルやSTPケーブル5を伝播し、アクセスポイント2に至り、ここからアンテナ等によって導波管1内を電磁波として伝播し、導波管1端部が室内側に向けて折り返し1' を設けた形状であるため、ここから電磁波はスポットライトの光のように指向性9を持たされて、室内7に放射される。このため、無線端末3の受信範囲を限定することになり、セル設定や干渉防止対策、及び電磁的セキュリティー対策となり、導波管1の途中にある無線端末8は利用が出来ないことにもなる。
【0031】
本技術は、アクセスポイント2から無線端末3に至る電磁波の伝送線路を導波管1に限定させた、電磁波搬送システムであるから、図3に示すように、この導波管1を建築計画上の天井板6’から上の天井裏空間6で縦横に継ぎ足して、シールド処理された継ぎ目10で橋渡すことによって、そしてまたその室内空間7側へ向けて伝播電磁波を放射する折り返し1’を多数設けることにより、室内空間7における通信可能な領域9は格段に広がることになるものである。
【0032】
また、導波管1は新たに設置させるだけのものではなく、従来から建築計画上において存在する所の空調ダクトや金属製電気配管や金属製衛生配管を兼ねることができる。この際導波管1同士の接合部はシールド処理することが、干渉や電磁的セキュリティーの面で重要であることには違いはない。更に、導波管1の有効開口サイズを搬送電磁波の波長の1/2倍以上とし、且つ導波管1の素材を上記の金属素材とすることで、導波管1内の電磁波はほぼ減衰せずに導波管1内を伝播することになる。
【0033】
このため、建物内部7のように内装壁や什器などの遮蔽物があっても、電波の減衰が少なくアクセスポイント2から離れた位置に無線端末3がある場合においても、送受信が可能になるものである。
【産業上の利用可能性】
【0034】
所謂、無線LANを使用した通信システムであるDSSS方式(IEEE802.11b、無線IP電話、Bluetooth(FH−DSSS方式)、OFDM方式(IEEE802.11a、IEEE802.11g)、CDMA方式(携帯電話)、TDMA方式、FDMA方式、TDMA−FDMA方式等、送信方式に限定されない伝送媒体として活用が効くものと思われる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の通信波搬送導波管の果たすシステム的概略図である。
【図2】本発明の通信波搬送導波管の果たすシステムの移動体通信機器を考慮した構成図である。
【図3】本発明の通信波搬送導波管の果たすシステムを拡散させた状態のイメージ図である。
【符号の説明】
【0036】
1 導波管
1’ 導波管室内側端部
2 アクセスポイント(送受信アンテナ)
3,8 無線端末
4 サーバーパソコン
5 UTPケーブル等
6 天井裏空間
6’ 天井面
7 室内空間
9 通信可能領域
10 継ぎ目

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線LANのアクセスポイントと無線端末との間を構成する伝送媒体であることを特徴とする通信波搬送導波管。
【請求項2】
送受信アンテナを含む前記アクセスポイント、或いは前記アクセスポイントとUTPケーブル、及び他の手段で接続される送受信アンテナは、前記伝送媒体内部に設置されることを特徴とする請求項1記載の通信波搬送導波管。
【請求項3】
前記伝送媒体は金属製の材質で構成され、矩形若しくは円形の開口形状であることを特徴とする請求項1、2記載の通信波搬送導波管。
【請求項4】
前記伝送媒体の有効開口サイズは、伝播の対象とする電磁波の波長の1/2倍以上であることを特徴とする請求項1、2、3記載の通信波搬送導波管。
【請求項5】
前記伝送媒体の室内側端部は、室内に向けて折り返しを設けた形状とすることを特徴とする請求項1、2、3、4記載の通信波搬送導波管。
【請求項6】
前記伝送媒体は、空調用ダクト、金属製電気配管、金属製衛生配管を兼ねることができることを特徴とする請求項1、2、3、4、5記載の通信波搬送導波管。
【請求項7】
前記伝送媒体の接合部は電磁波漏洩防止シールドがされていることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6記載の通信波搬送導波管。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−28549(P2008−28549A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−197122(P2006−197122)
【出願日】平成18年7月19日(2006.7.19)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Bluetooth
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】