説明

通信線検査方法、通信装置

【課題】金属屑や埃などのゴミが通信線に付着していることによる通信不良を、確実に検出する。
【解決手段】本発明に係る通信線検査方法では、通信信号の振幅電圧および周波数の組み合わせを複数用いて、通信線をテストする。また、通信信号を正常に送受信することのできる振幅電圧および周波数の組み合わせ範囲を、そのテスト結果に基づき特定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信装置を接続する通信線を検査する方法、および通信装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、QPI(QuickPath Interconnect)やPCI(Peripheral Component Interconnect)ExpressなどのLSI(Large Scale Integration)間を通信する通信インターフェースが高速化している。
【0003】
これにより、配線のインピーダンスに対するプリント基板の製造ばらつきの影響が大きくなってきている。このばらつきの影響により、配線のインピーダンスが変化し、信号波形が乱れてしまうという課題がある。また、通信インターフェースの配線長のばらつきの影響により、信号が受信されるタイミングがずれる可能性がある。さらには、通信信号の周波数が高いほど表皮効果に起因する抵抗損や基板材料の誘電正接に起因する誘電損が大きくなるため、振幅電圧の減衰が大きくなる。このため、通信信号の周波数が高いほど、信号を正しく受信することが難しくなる。
【0004】
上記のような課題を解決するため、出荷検査時に、通信インターフェースの振幅電圧と信号の送信タイミングを変化させて、送信したデータを正しく受信できるかを確認する必要がある。この確認を実施するための技術の1例として、下記非特許文献1で紹介されているASSET Intertech社製の通信インターフェース検査用ソフトウェア(製品名:Scanworks)がある。
【0005】
また、通信インターフェースの動作確認をするため、出荷検査時に、通信インターフェース上で使用される可能性のある周波数でデータを送受信することができるか否か検査する必要がある。この検査方法の1例として、下記非特許文献2で紹介されているPCI Express GEN2のリンク・トレーニングがある。リンク・トレーニングでは、非特許文献2の仕様で規定されている周波数である2.5GT/s(Transfer per Second)と5.0GT/sでリンクすることができるか否かをテストする。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】ASSET Intertech社、Fact Sheet on the IBIST QPI Toolkit for Scanworks,URL:「http://www.aSSet-intertech.com/pdfS/QPI_Validation_ToolSet.pdf」,平成22年8月30日検索
【非特許文献2】PCI EXPRESS BASE SPECIFICATION REV 2.0 P.184
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
情報処理装置は、埃などのゴミが少ないデータセンタのサーバールーム内だけではなく、家庭やオフィスといった周辺に埃や金属屑などのゴミの多い環境にも設置される。情報処理装置は、筐体内部の冷却のために用意された冷却ファンを使用して、外部の空気を筐体内部に取り込む。この時、ゴミが空気と一緒に筐体内部に入り、通信インターフェースの伝送路の一部と接触すると、浮遊容量や浮遊インダクタを生成して通信を阻害することがある。
【0008】
図11は、金属屑や埃などのゴミ1104が通信線1101に付着したときに与える影響を、浮遊容量1102と浮遊インダクタ1103の等価回路で示したものである。通信線1101にゴミ1104が付着すると、浮遊容量1102や浮遊インダクタ1103形成され、通信線1101のインピーダンスが変化する。これにより、通信波形が歪む可能性がある。
【0009】
図12は、図11の等価回路における通信線1101のインピーダンス対周波数特性の1例を示したものである。図12から分かるように、図11の等価回路は特定の周波数でインピーダンスが大きく増加する。この周波数は共振周波数と呼ばれる。
【0010】
通信インターフェース上の信号の周波数が図11の等価回路の共振周波数に近い周波数である場合、信号波形の振幅電圧が低下するため、送信した信号が正しく受信できなくなってしまう可能性がある。
【0011】
また、冷却ファンの風や情報処理装置の振動などの影響によりゴミ1104の位置がずれ、通信線1101との間の接触状態が変わる場合がある。このとき、ゴミ1104の位置に応じて通信線1101の共振周波数が変化する。これにより、ゴミ1104が移動する前の時点では通信インターフェース上で使用される周波数が図11の等価回路の共振周波数に近い周波数でなくとも、ゴミ1104の位置が変わることにより、共振周波数が通信インターフェース上で使用される周波数に近くなり、通信が阻害される可能性がある。
【0012】
上記非特許文献1で紹介されているScanworksでは、検査対象は通信インターフェース上で規定されている周波数のみである。Scanworksでは、通信インターフェースの振幅電圧と送信のタイミングを同時に変化させ、送信したデータが正しく受信できることを検査する。しかし、規定された周波数のみ検査するため、共振周波数が規定周波数から大きくずれている場合、通信線にゴミが付着していることが検出できない可能性がある。例えば、通信線にゴミが付着していても、ゴミの位置によっては通信線の共振周波数が規定周波数から大きくずれているため、Scanworksによる検査を実施する時点ではゴミを検出できない場合がある。しかし上述のように、機器を運用している途中でゴミの位置がずれ、検査時に検出できなかった通信障害が発生する可能性がある。
【0013】
上記非特許文献2で紹介されているPCI Expressのリンク・トレーニングでは、PCI Express仕様で規定されている2.5GT/sと5.0GT/sの2つの周波数でデータ送受信が正しく行われることを確認する。すなわちリンク・トレーニングでは、振幅電圧を一定として2種類の周波数しか検査しないため、共振周波数が規定周波数に近くても、振幅電圧の減衰が小さい場合、送信したデータを正しく受信できてしまうことがある。そのため、リンク・トレーニングを行っても、金属屑や埃などのゴミが通信線に付着していることを確実には検出できない可能性がある。
【0014】
すなわち、従来の通信線検査方法では、金属屑や埃などのゴミが通信線に付着していることによる通信不良を、確実に検出することが困難であった。
【0015】
本願発明者は、金属屑や埃などのゴミが通信線に付着していることによる通信不良が、通信インターフェースの仕様によって規定されている振幅電圧および周波数とは異なる振幅電圧および周波数においても発生すること、さらにはその通信不良が、機器の運用中に規定の振幅電圧および周波数においても発生し得ることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係る通信線検査方法では、通信信号の振幅電圧および周波数の組み合わせを複数用いて、通信線をテストする。また、通信信号を正常に送受信することのできる振幅電圧および周波数の組み合わせ範囲を、そのテスト結果に基づき特定する。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る通信線検査方法によれば、通信インターフェースが規定する振幅電圧および周波数によらず、複数の振幅電圧および周波数の組み合わせについて通信線をテストする。これにより、潜在的に通信不良を引き起こす可能性のある振幅電圧および周波数の組み合わせを特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施形態1に係るブレード型サーバシステムの内部構成を示す図である。
【図2】サーバブレード100とスイッチモジュール300それぞれの詳細構成を示す図である。
【図3】ループバック回路312の構成例を示す図である。ループバック回路312はスイッチング素子3121および3122を備える。
【図4】メモリ124が格納する、通信テスト時に用いる通信信号の振幅電圧と周波数の組み合わせを保持するテーブルである。
【図5】LSI120が通信線401の通信テストを実施する処理フローを示す図である。
【図6】図4で説明した振幅電圧および周波数の組み合わせテーブルを用いて実施形態1で説明した通信テストを実施した結果を示す図である。
【図7】メモリ124が保持する通信テストの結果をテーブル形式で示した図である。
【図8】図7に示すテスト結果のうちテスト結果が「OK」であるもののみを抽出したテーブルを示す図である。
【図9】1次テストの結果が「OK」であった振幅電圧と周波数の組み合わせに対して2次テストを実施した結果の例を示す図である。
【図10】図9に例示する2次テストの結果をテーブル形式で示した図である。
【図11】金属屑や埃などのゴミ1104が通信線1101に付着したときに与える影響を、浮遊容量1102と浮遊インダクタ1103の等価回路で示したものである。
【図12】図11の等価回路における通信線1101のインピーダンス対周波数特性の1例を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<実施の形態1>
図1は、本発明の実施形態1に係るブレード型サーバシステムの内部構成を示す図である。図1に示すブレード型サーバシステムは、1以上のサーバブレード100(ここでは3つのサーバブレード100a、100bおよび100cを例示した)、中継基板200、1以上のスイッチモジュール300(ここでは3つのスイッチモジュール300a、300bおよび300cを例示した)を備える。
【0020】
各サーバブレード100と各スイッチモジュールはそれぞれ同様の構成を備えるので、以下これらを総称するときは、その構成要素ともにアルファベット添字を省略する。
【0021】
サーバブレード100は、サーバ計算機としての機能を有するサーバ装置であり、CPU(Central Processing Unit)110、LSI120を備える。CPU110は、サーバブレード100の全体動作を制御する。LSI120は、他のサーバブレード100と通信する通信装置としての役割を有する。
【0022】
スイッチモジュール300は、各サーバブレードを接続する信号中継装置としての機能を有する装置であり、LSI310を備える。LSI310は、サーバブレード100間で通信信号を中継する通信装置としての役割を有する。
【0023】
通信線401〜409は、サーバブレード100とスイッチモジュール300をメッシュ状に接続する。中継基板200は、各通信線を配置するための回路基板である。各通信線401〜409の仕様は、ブレード型サーバシステム内で必要となる通信速度などに応じて適宜設計することができる。ここでは、PCI Expressで用いられるような差動通信路として構成されているものと仮定する。
【0024】
図2は、サーバブレード100とスイッチモジュール300それぞれの詳細構成を示す図である。ここでは記載の便宜のため、図1に示す通信線401に対応する機能部のみを示したが、実際には通信線の本数に対応する個数だけ同様の構成を備えることを付言しておく。
【0025】
LSI120は、コントローラ121、出力部122、入力部123、メモリ124を備える。コントローラ121は、LSI120が送受信する通信信号の振幅電圧と周波数を制御する。出力部122は、通信線401を介して通信信号を送信する。入力部123は、通信線401を介して通信信号を受信する。メモリ124は、後述する通信テストを実施する際に用いる通信信号の振幅電圧と周波数の組み合わせを記述したテーブル、およびテスト結果を保持する。
【0026】
LSI310は、入力部311、ループバック回路312、出力部313を備える。入力部311は、通信線401を介して通信信号を受信する。ループバック回路312は、入力部311が受信した通信信号を受け取り、そのまま出力部313に出力する。出力部313は、通信線401を介して通信信号を送信する。
【0027】
ループバック回路312を用いることにより、LSI120が送信した通信信号をそのまま応答としてLSI120に戻すことができる。LSI120は、所定のテストデータを記述した通信信号をスイッチモジュール310に対して送信し、同じテストデータを記述した通信信号を受信する。通信線401上で信号劣化がなければ、送信したテストデータと同じテストデータを受信するはずであるため、両テストデータが一致するか否かによって通信線401の通信品質をテストすることができる。
【0028】
なお、ループバック回路312はLSI120が通信テストを実施するとき以外は必要ないため、LSI310はループバック回路312の機能をON/OFFすることができるものとする。
【0029】
図3は、ループバック回路312の構成例を示す図である。ループバック回路312はスイッチング素子3121および3122を備える。各スイッチング素子は、例えばMOSFETを用いて構成されたスイッチング素子であり、ON/OFFすることにより入力部311と出力部313の間の接続をON/OFFすることができる。通信テストを実施するときのみ各スイッチング素子をONすることにより、必要なときのみループバック回路312の機能をONすることができる。
【0030】
なお、本実施形態1ではループバック回路312を用いて送信信号をそのままLSI120へ戻すようにしているが、その他の手法を用いて同様の機能を実現してもよい。すなわち、通信信号が受信側で劣化していないことをLSI120が確認できれば、その他の手法を用いることもできる。
【0031】
図4は、メモリ124が格納する、通信テスト時に用いる通信信号の振幅電圧と周波数の組み合わせを保持するテーブルである。通信線401〜409にゴミが付着すると、その接触状態に応じて浮遊容量と浮遊インダクタンスが変化して通信線の共振周波数が変化し、信号劣化特性がこれに併せて変化する。
【0032】
そこで本実施形態1では、通信線401〜409上で用いられる通信規格が採用している振幅電圧と周波数の組み合わせ以外の振幅電圧と周波数を用いて、より広範な範囲で通信テストを実施することとした。
【0033】
図5は、LSI120が通信線401の通信テストを実施する処理フローを示す図である。他のLSIおよび他の通信線についても、同様の手順を用いることができる。以下、図5の各ステップについて説明する。
(図5:ステップS500)
CPU110は、例えばサーバブレード100のオペレータなどからの指示に基づき、通信線401の通信テストを実施するようにLSI120へ指示する。LSI120がその指示を受け取ると、本処理フローが開始される。
(図5:ステップS501)
コントローラ121は、CPU110からステップS500の指示を受け取り、ループバック回路312をONにするようにスイッチモジュール300へ指示する。LSI310はその指示を受け取り、ループバック回路312のスイッチング素子3121および3122をONにする。
(図5:ステップS501:補足)
本ステップにおいて、コントローラ121からLSI310に対する指示は、通信線401を介して送信してもよいし、その他の適当な制御インターフェースなどを介して送信してもよい。
【0034】
(図5:ステップS502〜S503)
コントローラ121は、図4で説明したテーブルをメモリ124から読み出し、通信信号の振幅電圧と周波数の組み合わせを取得する(S502)。コントローラ121は、以下のステップS504〜S507の処理を、テーブルから取得した全ての振幅電圧および周波数の組み合わせについて実施する(S503)。
(図5:ステップS504)
コントローラ121は、テーブルが記述している振幅電圧および周波数の組み合わせを上から順番に取得し、その振幅電圧および周波数を用いて通信信号を送信するように、出力部122へ指示する。
(図5:ステップS505)
コントローラ121は、出力部122に対して、所定のテストデータを送信するように指示する。出力部122は、ステップS504で指示を受けた振幅電圧および周波数を用いて、テストデータを記述した通信信号をスイッチモジュール300へ送信する。
(図5:ステップS505:補足)
本ステップで用いるテストデータは、あらかじめコントローラ121またはメモリ124に保持させておいてもよいし、本ステップを実施する時点で例えばランダム数字列などを用いてコントローラ121が生成してもよい。
【0035】
(図5:ステップS506)
入力部123は、ステップS505で出力部122が送信した通信信号がループバック回路312を介して戻ってくると、これを受信する。コントローラ121は、ステップS505で送信したテストデータと、本ステップで受信した通信信号が記述しているテストデータとが一致しているか否かを判定する。一致していれば通信線401は通信不良を起こしていないと判断し、一致していなければ通信線401に通信不良が生じていると判断する。
(図5:ステップS507)
コントローラ121は、ステップS506の判定結果を、現在用いている振幅電圧および周波数に対するテスト結果として、メモリ124に格納する。
(図5:ステップS503〜S507:補足)
コントローラ121は、ステップS503〜S507を実施する各回において、振幅電圧と周波数の組み合わせ毎に1度のみテストデータを送信してもよいし、同一の振幅電圧と周波数の組み合わせについて複数回テストデータを送信してもよい。後者の場合、1度でもテストデータが一致しなかった場合は、その振幅電圧と周波数の組み合わせについては通信不良が発生したと判定する。
【0036】
(図5:ステップS508)
コントローラ121は、ループバック回路312をOFFにするようにスイッチモジュール300へ指示する。LSI310はその指示を受け取り、ループバック回路312のスイッチング素子3121および3122をOFFにする。指示の経路についてはステップS501と同様である。
(図5:ステップS509)
コントローラ121は、以上の通信テストの結果をCPU110へ報告する。CPU110は、その結果を例えばサーバブレード100のオペレータなどに通知する。またCPU110は、必要に応じて、通信不良が生じた通信線については、以後の通信において使用禁止とするようにコントローラ121へ指示するようにしてもよい。
【0037】
以上、通信信号の振幅電圧と周波数の複数の組み合わせを用いて、通信テストを実施する手順を説明した。本手法を用いることにより、通信規格で定められている範囲では検出できないゴミ等も検出することができる。いずれの範囲でゴミ等が見つからなければテスト合格とするかについては、例えば通信規格上定められている範囲の前後を含む所定範囲でテスト合格であればよいとするなど、要求されている通信品質に応じて適当な基準を定めればよい。
【0038】
<実施の形態1:まとめ>
以上のように、本実施形態1によれば、LSI120は、通信信号の振幅電圧と周波数の複数の組み合わせを用いて、通信線401〜409の通信テストを実施する。これにより、通信規格に準じた振幅電圧と周波数を用いて通信している時点では発見しにくい隠れた通信不良であっても、効率的に検出することができる。
【0039】
すなわち、図11〜図12を用いて先述したように、通信線に付着しているゴミの位置によっては、共振周波数が重なっていない場合、通信規格に準じた振幅電圧と周波数を用いて通信している限りは通信品質の劣化を検出できない可能性がある。本実施形態1によれば、通信規格に準じた振幅電圧と周波数の範囲を超えて通信テストを実施するので、非特許文献1〜2に記載されているように通信規格に準じた範囲で通信テストを実施している限りにおいては検出することが難しい通信不良であっても、検出することができる。
【0040】
<実施の形態2>
実施形態1では、通信信号の振幅電圧と周波数の複数の組み合わせを用いて通信テストを実施することを説明した。一方、極端に高い周波数や極端に低い振幅電圧を用いて通信テストを実施すると、通信線にゴミが付着しているか否かによらず通信不良が生じ易いといえる。そのため、実製品の出荷検査を実施する際には、どの範囲で正常に通信ができれば検査合格とすべきかについての基準があることが望ましい。
【0041】
そこで本発明の実施形態2では、実施形態1で説明した検査手法を評価用の通信線等に対して実施し、その製品が正常に通信できる振幅電圧および周波数の範囲をあらかじめ確定することにより、出荷検査のための基準を作成する。各装置の構成や検査手順は実施形態1と同様であるため、以下では本実施形態2に固有の事項を中心に説明する。
【0042】
図6は、図4で説明した振幅電圧および周波数の組み合わせテーブルを用いて実施形態1で説明した通信テストを実施した結果を示す図である。ここでは、7つの振幅電圧値と6つの周波数値を組み合わせた42通りの組み合わせについて通信テストを実施した例を示した。
【0043】
図6の○は、ステップS504〜S507を同一の振幅電圧および周波数の組み合わせに対して複数回実施し、送信したテストデータと受信したテストデータが毎回一致したことを示す。図6の×は、少なくともいずれかの回で送信したテストデータと受信したテストデータが一致しなかったことを示す。一般に、周波数があがるほど、また振幅電圧が低いほど、通信不良が生じ易い傾向にあることが分かる。
【0044】
図7は、メモリ124が保持する通信テストの結果をテーブル形式で示した図である。図6の○に相当する組み合わせを「OK」、図6の×に相当する組み合わせを「NG」で表している。コントローラ121は、ステップS509において、図7に示すようなテスト結果をCPU110に報告する。
【0045】
図8は、図7に示すテスト結果のうちテスト結果が「OK」であるもののみを抽出したテーブルを示す図である。実施形態1で説明した通信テストを、通信線にゴミ等が付着していないことがあらかじめ判明している評価用の装置に対して実施した場合、同様にゴミ等が付着していない装置に対して通信テストを実施すると、図8と同じ結果が得られるはずである。
【0046】
そこで本実施形態2では、実施形態1で説明した通信テストを1次テストとして上記評価用の装置に対して実施し、得られた結果を以後の出荷検査(2次テスト)時における合格判定基準として用いることとする。例えば製造過程などで通信線にゴミが付着してしまった場合、2次テストの結果は1次テストの結果よりも劣化すると考えられる。
【0047】
なお、1次テストの手順と2次テストの手順は、同一でよい。例えば実施形態1の図5で説明した手順を用いることができる。
【0048】
図9は、1次テストの結果が「OK」であった振幅電圧と周波数の組み合わせに対して2次テストを実施した結果の例を示す図である。ゴミ等が付着していない装置に対して1次テストを実施した結果が「OK」であった組み合わせについては、2次テストの結果も同様に「OK」となるはずである。
【0049】
図9に示すように、2次テストにおいていずれかの振幅電圧および周波数の組み合わせで通信不良が生じた場合、その通信不良を生じさせる原因となっているゴミ等が通信線に付着している可能性がある。そこで、その振幅電圧および周波数の組み合わせが通信仕様上は用いられない組み合わせであっても、2次テストは不合格として取り扱う。
【0050】
これは、その振幅電圧および周波数の組み合わせが通信仕様上は用いられない組み合わせであっても、図11〜図12で説明したように、ゴミが移動するなどによって通信線の共振周波数が変化し、結果として通信仕様と重なる範囲で通信不良を生じさせる可能性があるからである。
【0051】
図10は、図9に例示する2次テストの結果をテーブル形式で示した図である。図9の○に相当する組み合わせを「OK」、図9の×に相当する組み合わせを「NG」で表している。コントローラ121は、2次テストのステップS509において、図10に示すようなテスト結果をCPU110に報告する。
【0052】
以上では、製品出荷検査として2次テストを実施する例を説明したが、同様の2次テストを製品出荷後に実施することもできる。例えば、ユーザが通信テストを実施するように製品へ指示したとき、または製品起動時などにおいて、2次テストと同様の通信テストを実施し、その結果をユーザへ報告するようにしてもよい。テスト結果がNGであった場合は、ユーザは製品筐体内を清掃する、メーカサポートに問い合わせるなどして早期に不具合を解消するよう図ることができる。また、テスト結果がNGとなったときの詳細データを用いて、CPU110が不具合原因を解析することもできる。
【0053】
<実施の形態2:まとめ>
以上のように、本実施形態2では、評価用の装置を用いて1次テストを実施することにより、ゴミ等が付着していない場合に正常通信することのできる振幅電圧と周波数の範囲を特定し、これを以後の通信テストのための基準として用いる。これにより、客観的な基準で製品出荷検査を実施することができるので、効率よくテストを進めることができる。
【0054】
また、本実施形態2で説明した2次テストを、製品出荷後も実施できるように各装置を構成しておくことにより、製品出荷後に通信線にゴミが付着した場合でも、これを効果的に検出することができる。これにより、ユーザ環境が原因となって生じる通信不良を早期に発見することができる。
【0055】
<実施の形態3>
通信線にゴミが付着すると、浮遊容量や浮遊インダクタによって形成される共振周波数に近い周波数で通信するとき、振幅電圧は大きく減衰する。よって、実施形態2で説明した1次テストを合格した後に通信線にゴミが付着した場合、2次テストにおいて不合格となりやすいのは、いずれの周波数を用いる場合においても、最も低い振幅電圧を用いる組み合わせとなる。また、ゴミの影響による振幅電圧の減衰が小さいと、ゴミによって減衰した振幅電圧が十分に高く、送信データを正しく受信できてしまう場合がある。この場合はゴミの付着を確実に検出することができない。
【0056】
そこで実施形態2の2次テストにおいて、1次テストを合格した周波数と振幅電圧の組み合わせの中で、各周波数において、最も低い振幅電圧を用いる組み合わせを優先的にテストするようにしてもよい。これにより、ゴミをより確実に発見できるのみならず、実際にゴミが通信線に付着している場合にはこれを早い段階で検出できるので、通信テストの効率を高めることができる。
【0057】
<実施の形態4>
以上の実施形態1〜3で説明した通信テストにおいて、テスト効果をより高めるため、以下のような手法を用いることもできる。
(テスト効果を高める手法その1)
通信テストを実施する振幅電圧と周波数の組み合わせは、図11〜図12で説明したようなゴミの移動による通信不良を検出する観点から、通信規格で定められている範囲よりも広い範囲の組み合わせを用いることが望ましい。また、検出精度を高めるためには、できる限り広い組み合わせ範囲で通信テストを実施することが望ましい。
(テスト効果を高める手法その2)
通信線を差動伝送路として構成している場合、対になっている通信線のうちいずれかが断線すると、通信信号の振幅電圧は正常時の半分になる。この断線障害を確実に検出するため、通信テストを実施する振幅電圧の組み合わせ間の電圧間隔を、正常時における振幅電圧の半分よりも小さく設定してもよい。これにより、断線が生じるといずれかの組み合わせにおいて通信不良が必ず生じるので、差動伝送路の断線障害を確実に検出することができる。
【0058】
(テスト効果を高める手法その3)
通信テストを実施する周波数範囲を広く取ったとしても、例えば1.0GT/sから10.0GT/sまでの範囲において、1T/sずつ通信テストを実施するのは現実的でない。通信テストを実施する周波数の間隔を妥当な値に設定する必要がある。そこで、HIGH信号やLOW信号が連続することを想定して、通信規格上保障する最大周波数をその通信規格上連続することのできる最大ビット数で除算したものを、通信テストを実施する周波数の間隔として設定してもよい。
(テスト効果を高める手法その3:補足)
例えば、100MHzの通信信号において、通信規格上は同じ値のビットが最大で4つ連続する可能性があると仮定する。もし全てのビットが4つ連続した場合、信号波形は外観上25MHzであるように見える。本手法を用いると、より実際の信号波形に近い周波数帯で通信テストを実施できる点で、望ましいといえる。また、通信テストを実施する周波数間の間隔として用いる観点で妥当であるといえる。すなわち、通信テストとしての意義を確保しつつテスト回数を削減できるので、有利である。
【0059】
<実施の形態5>
以上の実施形態1〜4では、ブレード型サーバシステム内で用いられる差動伝送路をテストする例を説明したが、その他の通信線についてもゴミ等が付着することによって信号が劣化する点については同様であるため、実施形態1〜4と同様の手法を用いて検査することができる。
【0060】
例えば、コンピュータが備えるLAN(Local Area Network)ケーブルのコネクタ部分には、比較的ゴミが付着し易く、これにより通信不良を引き起こす可能性がある。このような通信不良を検査する際にも、本発明に係る手法は有効である。
【0061】
また、本発明に係る手法を用いて検査する対象は、差動伝送路に限られない。ゴミが付着することにより通信不良が生じるのは、他のタイプの通信線においても同様である。これらの通信線についても、振幅電圧と周波数の組み合わせを複数用いてテストすることにより、ゴミの付着を検出することができる。
【0062】
以上、本発明者によってなされた発明を実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【0063】
また、上記各構成、機能、処理部などは、それらの全部または一部を、例えば集積回路で設計することによりハードウェアとして実現することもできるし、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを実行することによりソフトウェアとして実現することもできる。各機能を実現するプログラム、テーブルなどの情報は、メモリやハードディスクなどの記憶装置、ICカード、DVDなどの記憶媒体に格納することができる。
【符号の説明】
【0064】
100:サーバブレード、110:CPU、120:LSI、121:コントローラ、122:出力部、123:入力部、124:メモリ、200:中継基板、300:スイッチモジュール、310:LSI、311:入力部、312:ループバック回路、3121および3122:スイッチング素子、313:出力部、401〜409:通信線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1通信装置と第2通信装置を接続する通信線を検査する方法であって、
前記第1通信装置から前記第2通信装置へ、テストデータを記述した第1テストデータ信号を送信する第1テストデータ送信ステップと、
前記第2通信装置が前記第1テストデータ信号を受信し、受信した前記第1テストデータ信号を応答として用いた第2テストデータ信号を前記第1通信装置へ送信する第2テストデータ送信ステップと、
前記第1通信装置が前記第2テストデータ信号を受信し、前記第1テストデータが記述しているテストデータの内容と、前記第2テストデータが記述しているテストデータの内容とが一致するか否かによって前記通信線の通信品質を判定する判定ステップと、
周波数と振幅電圧の組み合わせが異なる複数の前記第1テストデータ信号を用いて、前記第1テストデータ送信ステップ、前記第2テストデータ送信ステップ、および前記判定ステップを実行する繰り返しステップと、
前記繰り返しステップの結果に基づき、前記判定ステップにおいて前記テストデータの内容が一致する前記周波数および前記振幅電圧の範囲を特定する範囲特定ステップと、
を有することを特徴とする通信線検査方法。
【請求項2】
品質評価用の前記第1通信装置、前記第2通信装置、および前記通信線を用いて、前記第1テストデータ送信ステップ、前記第2テストデータ送信ステップ、前記判定ステップ、前記繰り返しステップ、および前記範囲特定ステップを実行する1次テストステップと、
品質評価用の前記第1通信装置、前記第2通信装置、および前記通信線を用いて特定した前記周波数および前記振幅電圧の範囲内において、出荷検査対象または出荷後の前記第1通信装置、前記第2通信装置、および前記通信線を用いて、前記第1テストデータ送信ステップ、前記第2テストデータ送信ステップ、前記判定ステップ、前記繰り返しステップ、および前記範囲特定ステップを実行する2次テストステップと、
を有することを特徴とする請求項1記載の通信線検査方法。
【請求項3】
前記2次テストステップ内で実行する前記繰り返しステップにおいて、前記周波数と組み合わせて用いる最も低い前記振幅電圧を優先的に用いて前記判定ステップを実行する
ことを特徴とする請求項2記載の通信線検査方法。
【請求項4】
前記判定ステップでは、
前記第1テストデータが記述しているテストデータの内容と、前記第2テストデータが記述しているテストデータの内容とが一致していない場合は、
当該判定ステップを実行する際に用いた前記周波数と前記振幅電圧を用いて信号送信することができる通信品質を前記通信線が有していないと判定し、その旨の通知を出力するか、または前記通信線を使用不可とする
ことを特徴とする請求項1記載の通信線検査方法。
【請求項5】
前記2次テストステップでは、
前記周波数および前記振幅電圧の範囲内において前記テストデータの内容が一致しない場合、出荷検査対象の前記第1通信装置、前記第2通信装置、および前記通信線を出荷不可と判定する
ことを特徴とする請求項2記載の通信線検査方法。
【請求項6】
前記繰り返しステップでは、
前記第1通信装置と前記第2通信装置が用いる通信仕様によって規定されている周波数範囲よりも広い範囲の周波数について、前記第1テストデータ送信ステップ、前記第2テストデータ送信ステップ、および前記判定ステップを実行する
ことを特徴とする請求項1記載の通信線検査方法。
【請求項7】
前記繰り返しステップでは、
前記第1通信装置と前記第2通信装置が用いる前記振幅電圧の2分の1よりも小さい電圧間隔で、前記第1テストデータ送信ステップ、前記第2テストデータ送信ステップ、および前記判定ステップを実行する
ことを特徴とする請求項1記載の通信線検査方法。
【請求項8】
前記繰り返しステップでは、
前記第1通信装置と前記第2通信装置が用いる通信仕様によって規定されている最大周波数を、前記通信仕様で規定されている連続可能な最大ビット数で除算した周波数間隔で、前記第1テストデータ送信ステップ、前記第2テストデータ送信ステップ、および前記判定ステップを実行する
ことを特徴とする請求項1記載の通信線検査方法。
【請求項9】
テストデータを記述した第1テストデータ信号を、通信線を介して宛先装置へ送信する送信部と、
前記宛先装置から、前記宛先装置が受信した前記第1テストデータ信号を応答として用いた第2テストデータ信号を受信する受信部と、
前記第1テストデータが記述しているテストデータの内容と、前記第2テストデータが記述しているテストデータの内容とが一致するか否かによって前記通信線の通信品質を判定する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
周波数と振幅電圧の組み合わせが異なる複数の前記第1テストデータ信号を用いて、前記送信部、前記受信部、および前記判定を繰り返し実行し、
前記繰り返しの結果に基づき、前記判定において前記テストデータの内容が一致する前記周波数および前記振幅電圧の範囲を特定する
ことを特徴とする通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−112764(P2012−112764A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−261193(P2010−261193)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】