説明

通気性耐水シート及びそれを用いた吸収体物品

【課題】 本発明は、微細繊維状セルロースと不織布からなる複合シート材の液体漏出防止性を向上させ、おむつ等の衛生材やメディカル材に利用可能なシート材を提供することである。
【解決手段】 不織布と微細繊維状セルロースからなる複合シート材1に撥水材2が積層されてなる通気性耐水シートであって、前記撥水材がオレフィン系撥水剤と合成樹脂系バインダーと架橋剤を含む通気性耐水シートであり、前記不織布がスパンメルト不織布、前記合成樹脂系バインダーがスチレンブタジエン樹脂、前記架橋剤が炭酸ジルコニウムアンモニウムであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に衛生用あるいはメディカル用製品に用いられる微細繊維状セルロースと不織布からなる複合シート材に撥水材を積層してなる通気性耐水シートに関するものである。また、本発明はこの通気性耐水シートを用いた吸収体物品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
衛生用あるいはメディカル用製品に用いられるシート状あるいはフィルム状材料には、液体を漏らさない一方で、ある程度の通気性が必要とされる。プラスチックフィルムは、液体を浸透させることは困難であるが、組織が緻密であるために通気性を有していない。すなわち、耐水性と通気性が要求されているおむつのバックシート(人体との非接触側)等のシート素材としてポリエチレン等の疎水性フィルムに炭酸カルシウム等のフィラーと異種ポリマーとの混合による相分離層を形成するなどの手段による微多孔質フィルムが使用されているが、透気度(JIS P 8117)100〜500S/100ml程度で実用上十分な通気性能を発揮するものとはいえないのが現状である。また、不織布や紙などは通気性は有しているが、液体の漏出を完全に防止することはできない。これらのシート材料の欠点を解決するシート材料としては、微細繊維状セルロース(Microfibrillated Cellulose)と不織布からなるシート材が提案されている(例えば、特許文献1参照)。そこで用いられる微細繊維状セルロースは平均繊維長が0.3mm以下であり、且つ15mL/g以上の抱水度を有する極めて細い繊維状セルロースであり、パルプ又はコットン繊維のスラリーを機械的処理によりに微細繊維化することによって得られものとバクテリアがつくりだすバクテリアセルロースとよばれるものが知られている。機械的処理方法としては高圧ホモジナイザー、グラインダー、リファイナー等による方法が挙げられる。この微細繊維状セルロースを溶媒に分散した分散液を不織布上に塗工して薄層を形成しておき、この薄層から脱溶媒することによって上記シート材が作製される。
【特許文献1】特開平10−248872
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記シート材料は、薄いため通風性もよく、防塵性やバクテリアバリアー性を有しているので、衛生用あるいはメディカル用材料としては優れた材料である。しかしながら、女性用品、子ども用及び大人用おむつ等の吸収体の用途としては、尿などの液体の漏出防止性が不十分であるため、実用に供されていない。本発明の目的は、微細繊維状セルロースと不織布からなる複合シート材の液体漏出防止性を向上させ、おむつ等の衛生材やメディカル材に利用可能なシート材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
微細繊維状セルロースと不織布からなる複合シート材の漏水性を高めるという課題に対して、本発明者は、撥水という機能を満たすと考えられる多くの材料系の中から、オレフィン系撥水剤と合成樹脂系バインダーを含む撥水材が有効であること、更に架橋剤、なかでもジルコニウム系架橋剤を添加することにより、長期的な漏水性が格段に向上することを見出し、本発明に到ったものである。
【0005】
すなわち本発明は、不織布と微細繊維状セルロースからなる複合シート材に撥水材が積層されてなる通気性耐水シートであって、撥水材がオレフィン系撥水剤と合成樹脂系バインダーと架橋剤を含むことを特徴とする通気性耐水シートである(請求項1)。前記不織布はスパンメルト不織布であることが好ましく(請求項2)、微細繊維状セルロースは、0.3mm以下の平均繊維長を有し、且つ15mL/g以上の抱水度を有するものであることが好ましい(請求項3)。
【0006】
前記合成樹脂系バインダーとしては、スチレンブタジエン樹脂であることが(請求項4)、前記架橋剤としては炭酸ジルコニウムアンモニウムからなることがそれぞれ好ましい(請求項5)。更に、本発明の通気性耐水シートは、カレンダー処理により通気性耐水シート自体が緻密化されていることが好ましい(請求項6)。また、本発明は、上記通気性耐水シートを吸収体物品のバックシート部分に用いたことを特徴とするものである(請求項7)。
【発明の効果】
【0007】
本発明おいては、オレフィン系撥水剤を含む合成樹脂系バインダーによる造膜効果により不織布と微細繊維状セルロースからなる複合シート材の耐漏水性を向上させることができたことに加え、炭酸ジルコニウム系架橋剤を加えることにより、更に長期的な耐漏水性を向上させることができた。更にこのシートをカレンダー処理したものは、シート全体が緻密化された結果、密度が上がり、一層の耐水性向上が確認された。また、カレンダー処理による効果として、通気性耐水シートが微多孔質フィルムに比べ嵩高である欠点を補うことと、平滑性の向上による印刷適正の向上が挙げられる。市販のおむつのバックシート部分をこの通気性耐水シートで置き換えたおむつを用いた乳幼児の着用試験によって、本発明の通気性耐水シートの耐漏水性と通気性が実用上十分なものであることが実証された。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の通気性耐水シートは、図1に示すように、不織布と微細繊維状セルロースからなる複合シート材1に撥水材2が積層されたシートである。また、本発明の通気性耐水シートは、図2に示すように、不織布と微細繊維状セルロースからなる複合シート材1の両面に撥水材2が積層されていてもよい。
【0009】
本発明で用いる不織布としては、羊毛やコットンなどの天然繊維、レーヨンやアセテートなどの化学繊維、合成繊維、ガラス繊維や炭素繊維などの無機繊維など、各種材料で得た不織布を挙げることができる。特に本発明では、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリエステル/ポリエチレン複合繊維、ポリエステル/低融点ポリエステル複合繊維などの合成繊維でつくられた不織布が好ましい。なかでも疎水性で比較的コストの安いポリプロピレン繊維で得られたスパンボンド製の不織布(以下、Sという)やポリプロピレン繊維で得られたメルトブロー製の不織布(以下、Mという)が好ましい。更に本発明では、上記SやMを組み合わせた、いわゆるスパンメルト不織布が好ましく、特にSMS又はSMMSは目付が低く緻密なため、本発明の目的には最適である。上記SとMは、それぞれ製法が異なることにより、繊維径等が異なり、性質も異なる。例えば、メルトブロー製の不織布(M)は0.5ミクロンから5ミクロンくらいの極細の繊維でできており、菌や小さな空気中のゴミなどを取ることができる一方、強度が弱いので、他の強度のある不織布でカバーし補強する必要がある。SMSとは、この強度の弱いメルトブロー製不織布(M)を、それよりも繊度は10〜50ミクロンと太く強度の強いスパンボンド製の不織布(S)で挟んだ三層構造になっている。また、SMMSとは、シートをより緻密にするために中間層にメルトブロー層を設けた四層構造の不織布である。
【0010】
本発明で用いる微細繊維状セルロースは、パルプ又はコットン繊維のスラリーを機械的に微細繊維化することによって得られたもの、あるいは、バクテリア(酢酸菌)が作りだすバクテリアセルロースとよばれるもの、などを挙げることができる。微細繊維状セルロースは、0.3mm以下の平均繊維長を有し、且つ15mL/g以上の抱水度を有する極めて細い繊維状セルロースであることが好ましい。微細繊維状セルロースの平均繊維長が0.3mmを越えた場合や抱水度が15mL/gより小さい場合は、不織布への浸透が難しくなり投錨効果がなくなり、微細繊維状セルロースと不織布の密着性が低下することと微細繊維状セルロース層において均一な地合が形成しにくくなる等の問題が生じる恐れがある。
なお、上記抱水度は次の方法で測定した。微細繊維状セルロース(0.5g)の水分散液50mLを遠心分離可能な試験管(内径30mm×長さ100mm、容積50mL)中に計り取り、これを2000×g(3300rpm)で10分間遠心分離して、沈積量(mL)を読み取り、次の式に従って抱水度を算出した。
抱水度(mL/g)=沈積量の容量(mL)/微細繊維状セルロースの量(g)
【0011】
本発明で用いる不織布における目付量は、10〜50g/mが好ましく、更に好ましくは12.0〜20g/mの範囲である。目付量が10g/mより少ない場合は強度不足となり、またおむつ等の吸収体物品に用いた場合には耐水性が低下して尿が漏れ易くなるため好ましくない。また、目付量が50g/mより多い場合はシートが厚く剛性が高くなり更にコストが高くなるため好ましくない。また、微細繊維状セルロースの目付量は、2.0〜20.0g/mが好ましく、更に好ましくは4.0〜10.0g/mの範囲にある。目付量が2.0g/mより少ない場合は、おむつ等の吸収体物品に用いた場合に耐水性が低下して尿が漏れ易くなるため好ましくない。一方、目付量が20.0g/mより多い場合は通気性が低下することとコストが高くなるため好ましくない。
【0012】
また、本発明を構成する複合シート材の製造方法としては、まず、微細繊維状セルロースを、水に分散、あるいは水及び水と相溶性のある有機溶媒からなる混合溶媒中に分散させた分散液を、不織布上に塗工して複合シート材を形成する。有機溶媒を混合して使用する場合にはメタノール、エタノール等が用いられる。
塗工する際の分散液の濃度は0.5〜2.0重量%の範囲にあることが好ましい。また、その際には不織布内の空気による影響を無くすため、基材となる不織布は水又は水を含んだ混合溶媒を包含させ、脱気状態にしておくと均一なシートを作製することができる。その後、このシートからこれに含まれている前記溶媒を除去し、乾燥することによって製造することができる。
【0013】
本発明を構成する撥水材は、オレフィン系撥水剤と合成樹脂系バインダーと架橋剤が含まれる。撥水剤としては、オレフィン(ワックス)系、アクリル系、フッ素系、シリコーン系等が知られているが、フッ素系、シリコーン系は高価な割には性能面でオレフィン系より優れておらず、アクリル系は通気性を阻害する傾向があるため、本発明ではオレフィン系撥水剤を用いることが必要である。オレフィン系撥水剤とは、ワックス系撥水剤とも呼ばれており、天然ワックス、合成ワックス、脂肪酸誘導体等を主成分とした撥水剤であり、一般的に固形分濃度が30〜50重量%のエマルジョンの形態のものを挙げることができる。
【0014】
合成樹脂系バインダーとしては、スチレンブタジエン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体などを挙げることができる。この中でも特に、スチレンブタジエン樹脂(SBR)が、造膜による耐水性向上とオレフィン系撥水剤との組み合わせ上、好ましい。
【0015】
架橋剤としては、ポリアミドエピクロロヒドリン樹脂、ポリアミンエピクロロヒドリン樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ケトン樹脂、グリオキザール、炭酸ジルコニウムアンモニウムなどを挙げることができる。特に、炭酸ジルコニウムアンモニウム中のカルボキシル基・ヒドロキシル基は、合成樹脂系バインダー及びオレフィン系撥水剤中の官能基と直接反応し架橋することにより、耐水性及び撥水性剤の持続効果が得られ、長時間の漏水防止効果が得られるため好ましい。
【0016】
本発明に用いる撥水材の成分であるオレフィン系撥水剤と合成樹脂系バインダーの相対的な比率は、重量比で40/60から70/30の範囲が好ましく、更に好ましくは45/55から60/40の範囲である。また、これに添加する架橋剤(特にジルコニウム系架橋剤)の量は、オレフィン系撥水剤と合成樹脂系バインダーの合計量100重量部に対して4重量部から2重量部の範囲である。4重量部より多く加えた場合は塗料のポットライフが短くなる欠点があり、2重量部未満の場合は耐水性及び撥水性で十分な効果が得られなくなるためである。
【0017】
次に本発明の通気性耐水シートを製造する工程を説明する。図3は不織布を基材として、不織布と微細繊維状セルロースからなる複合シート材を製造し、本発明の通気性耐水シートを製造する製造方法のフローチャートである。不織布の巻取原反はアンリールより製造ラインに供給される(基材巻き出し)。この基材は基材中の空気を脱気する目的で、水及び有機溶剤で充填・飽和される(基材の予備処理)。その後、基材上には予め調製した微細繊維状セルロースのスラリーをコーティングし(基材へのスラリーコーティング)、水及び有機溶媒を真空装置により脱液する(真空脱液)。次に、真空脱液された不織布/微細繊維状セルロースは、フェルトを介したプレス装置により搾水脱液(プレスによる搾液)された後に乾燥固定(乾燥固定)されるか、又はそのまま乾燥されて不織布と微細繊維状セルロースからなる複合シート材を製造する。
【0018】
以上の工程をともなう複合シート材の製造装置の概略図を図4に示す。巻出し装置824から巻出された基材(不織布)800は、ローラー822で運搬されるネットコンベア810上に配置される。充填飽和剤(基材中の空気を脱気する目的で用いるもの)804は、移動する基材800の動きと同期するように、充填飽和剤供給器814の狭窄部806で基材800の表面上に供給される。また、コーティングスラリー802は、移動する基材800の動きと同期するように、ヘッドボックス812から基材800の表面上に供給される。その後、基材800は、移動しながらコーティングローラー820とネットコンベア810の間を通過し、真空ポンプ(図示せず)などに接続された脱液装置850により、脱液されることによって、不織布と微細繊維状セルロースからなる複合シート材を得ることができる。
【0019】
次に図3のように、予め用意した撥水材塗料を上記複合シート材に塗工(撥水材塗工)することによって積層し、乾燥後(乾燥固定)にカレンダー処理(カレンダー処理)することにより、本発明の通気性耐水シートを製造する。本発明においては、カレンダー処理後に耐水性を向上させるため、熱処理されてもよいし、必要に応じて巻き取ってもよい。なお図3では、複合シート材の製造工程と撥水材の積層工程が連続工程となっているが、それぞれの工程を分離して通気性耐水シートを製造してもよい。
【0020】
次に上記製造工程における不織布と微細繊維状セルロースからなる複合シート材に撥水材を積層する方法について詳述する。まず、撥水材になる塗料を下記の要領で作製する。すなわち、オレフィン系撥水剤及び合成樹脂系バインダーを下記の配合で撹拌しながら混合して主剤を作成した後、複合シート材に塗工する直前に架橋剤を下記の配合で撹拌しながら添加し水を加えて所定の濃度及び粘度の塗料を作製する。
【0021】
撥水材の塗工法としては、エアーナイフ、メイヤーバー、グラビア、オフセットグラビア、マイクログラビア、フレキソ、リバースロール、ブレード、カーテン、ダイなどが挙げられるが、所定の塗工量が得られれば何れの塗工方式でも差し支えない。塗工量については1.0〜10.0g/mの範囲であることが好ましいが、更に好ましくは1.5〜3.0g/mの範囲である。1.0g/m未満の場合は耐水性及び撥水性で十分な性能が得られない場合があり、10.0g/mより多い場合では耐水性の性能はほとんど飽和状態であり、コストが高くなるためである。
なお本発明の複合シート材は、不織布面と微細繊維状セルロース面とを有するが、撥水材の塗工は親水性の高い微細繊維状セルロース面に対して行うのが効果的であるが、もちろん両面に行ってもよい。
【0022】
次に本発明の吸収体物品について詳述する。
本発明は、前記通気性耐水シートをバックシートに用いた吸収体物品である。
吸収体物品としては、使い捨て紙おむつ、女性用生理用品などを挙げることができ、バックシートとは図6に示すように人体と非接触面側に設けられるシートである。
吸収体物品として、使い捨て紙おむつを一例として説明する。
図5は、本実施の形態における使い捨て紙おむつを展開した平面図である。また、図6は、図5におけるA−Bの断面図である。
【0023】
図5及び図6に示すように、使い捨て紙おむつ(以下、紙おむつという。)は、紙おむつ本体30と、この紙おむつ本体30を人体に装着するための止着部40と、止着部40を係止させるための被着部50とを備えている。
【0024】
紙おむつ本体30は、人体との接触面側に設けられる透液性の不織布等からなるトップシート31と、装着時に外部側に設けられるバックシート32と、トップシート31とバックシート32との間に介装される吸収体33と、トップシート31側の吸収体33の両側部に、紙おむつ本体30の長手方向に沿って備えられるギャザーシート34、34と、このギャザーシート34、34よりも紙おむつ本体30の幅方向の内側の吸収体33上に、紙おむつ本体30の長手方向に沿うように備えられる突出部35、35と、により主に構成される。
【0025】
吸収体33としては、液保持性を有する木材パルプを粉砕したフラッフパルプを用いることができ、これに高吸水性ポリマーを併用したものが好ましい。特に、熱可塑性樹脂、フラッフパルプ及び高吸水性ポリマーの混合物を熱処理したものが好ましい。該高吸水性ポリマーは、フラッフパルプと混合して用いてもよく、フラッフパルプ中に部分的に存在させてもよい。上記高吸水性ポリマーとしては自重の20倍以上の液体を吸収して保持し得る保持性能を有し、且つゲル化する性質を有する粒子状のものが好ましい。このような高吸水性ポリマーとしては、例えば、デンプン系、セルロース系及び合成ポリマーがあり、特にデンプン−アクリル酸(塩)グラフト共重合体、デンプン−アクリロニトリル共重合体のケン化物、ナトリウムカルボキシメチルセルロースの架橋物及びアクリル酸(塩)重合体などが好ましく挙げられる。
【0026】
本発明では、上記のような吸収体物品(紙おむつ)において、人体に接触しないで装着時に外部側に設けられるバックシート32として前記通気性耐水シートを用いたものである。
このような吸収体物品のバックシートとして本発明の通気性耐水シートを用いることによって、十分な通気性を有しているため、人体皮膚のむれやかぶれの発現が極めて少なく、且つ十分な耐水性を有するため、尿などの水分が漏れない吸収体物品を得ることができる。
次に、本発明の通気性耐水シート及び吸収体物品について、実施例と比較例を用いて、更に詳細に説明する。
【実施例1】
【0027】
微細繊維状セルロースを下記のように調製した。
はじめに、広葉樹製晒クラフトパルプ(大昭和・丸紅インターナショナル社製 商品名:ピースリバーLBKP)をパルパーにて5重量%濃度にて20分間離解し、循環タンクに移送した後に3・5重量%濃度に調製した。3.5重量%のパルプスラリーを以下の条件によりダブル・ディスク・リファイナー(以下、DDRという)にて叩解して微細繊維状セルロースを調製した。条件は下記のとおりとした。メタルタッチ(固定刃と回転刃の接触)を起こさない状態でできるだけ負荷をかけた。
DDR機種:相川鉄工社製 AW14
ディスクプレート:刃幅2.0mm、溝幅3.0mm
DDRへのパルプ流量:1m/分
DDRの平均パス回数:100回
刃のクリアランス:0.23mm〜0.13mmの範囲
【0028】
調製した微細繊維状セルロースの特性は以下のとおりであった。
抱水度:27mL/g
平均繊維長:0.15mm
0.5重量%スラリーの粘度:320mPa.s
最終濃度:3.0重量%(シール水により希釈されため)
【0029】
<微細繊維状セルローススラリーの調製>
上記微細繊維状セルロースにエタノール/水=65/35(重量比)、微細繊維状セルロースの濃度0.7重量%となるようにエタノールを添加して微細繊維状セルローススラリーを調製した。
【0030】
<不織布>
以下の特性を有するポリプロピレン製のSMS(AVGOL社製)不織布を用いた。
目付量:15g/m
SMSの構成:スパンボンド(1)(5.0g/m
メルトブローン(5.0g/m
スパンボンド(2)(5.0g/m
耐水性:150mmH
【0031】
<不織布ヘの微細繊維状セルローススラリーのコーティング>
上記不織布(幅1,500mm、長さ10,000m)を図4に示す巻出し装置824に配置した。不織布はローラー822を介してセットされているネットコンベア810上に供給される。ネットコンベア810上で40m/分にて走行する不織布上に充填飽和剤供給機814から水を17kg/分の割合で供給して不織布を水で飽和させる予備処理を行った。このように供給された水からなる充填飽和剤は不織布の走行にしたがってコーターヘッダーの狭窄部806で塗布される。尚、コーティングローラー820とネットコンベア810とのクリアランスは、高さ調整装置により750μmに設定した。一方、コーティングスラリー802は貯蔵タンクからヘッドボックス812の液面高さが60mmとなるように供給される。上述の予備処理が完了した後、供給されたコーティングスラリー802を42kg/分の割合で、上述の不織布に供給した。これにより、不織布上に微細繊維状セルロース層を形成させた。
【0032】
次にこれを脱液装置850の上部に供給し、−30kPaの真空により脱液し、シリンダードライヤーで100℃の温度で乾燥して巻き取り複合シート材を得た。この装置では、脱液パートにおける排液及びドライパートの排気中のエタノールは溶剤回収装置にて回収し、再利用する。このため、ドライパートは完全密閉しエタノールの引火・燃焼を防ぐため、窒素ガスにて充填した。なお、複合シート材の物性は以下のとおりである。この結果、複合シートの耐水圧(400mmHO)は不織布の耐水圧(150mmHO)に比べ大幅に向上していることが確認された。
目付量:20g/m(SMS:15g/m、微細繊維状セルロース:5g/m
耐水圧:400mmH
【0033】
<撥水材塗料の作製>
オレフィン系撥水剤(明成化学工業株式会社製 商品名:ペトロックスP300)50重量部およびスチレンブタジエン樹脂(日本A&L株式会社製 商品名:スマーテックスPA3802)48重量部を撹拌しながら混合して主剤を作製した後、塗工する直前に炭酸ジルコニウム系架橋剤(日本軽金属株式会社製 商品名:ベイコート20)2重量部を撹拌しながら添加し水を加えて全固形分40重量%の塗料を作製した。このとき、塗料の粘度は95mPa・Sであり、ザーンカップ法で17秒であった。
【0034】
ここで用いたオレフィン系撥水剤、スチレンブタジエン樹脂および炭酸ジルコニウム系架橋剤の性質は下記のとおりである。
(明成化学工業株式会社製 商品名:ペトロックスP300)
成分:ワックス系エマルジョン
外観:白色液体
pH:8.5
イオン性:ノニオン
固形分濃度:34重量%
【0035】
(日本A&L株式会社製 商品名:スマーテックスPA3802)
成分:スチレン・ブタジエン・ラテックス
モノマー組成:ブタジエン30、スチレン59、MMA3、ACN5、酸3
Tg:21℃
平均粒径:200nm
外観:白色液体
pH:6.1
イオン性:アニオン
固形分濃度:48重量%
【0036】
(日本軽金属株式会社製 商品名:ベイコート20)
成分:炭酸ジルコニウムアンモニウム
化学式:(NH[Zr(CO(OH)
外観:無色−淡黄色透明な液体
pH:9.0〜9.5
イオン性:アニオン
固形分濃度:20重量%
【0037】
<撥水材の塗工による通気性耐水シートの作製>
前記で得た複合シート材の微細繊維状セルロース側の面に前記の撥水材塗料をフレキソコーターで下記の条件で塗工した。このときの塗工量は2.1g/mであった。
使用アニロックスロール:130線
塗工速度:100m/分
エアドライヤー乾燥温度:100℃
塗工後、カレンダー掛け(カレンダー掛け線圧:100kg/cm)を行い、その後乾燥機に120℃で30分間処理することにより本発明の通気性耐水シートを作製した。
【0038】
〔カレンダー掛け処理による効果〕
上記カレンダー掛け処理前後の物性値は下記表1のとおりである。処理前に比べて厚さは2/3以下に圧縮されており、通気性耐水シートを用いた製品が嵩張らないようにする効果がある。また、平滑度は1秒から5秒に向上し、より精細な絵柄の印刷が可能となった。なお、平滑度〔塗工面〕とは、不織布上に塗布積層した撥水材の表面の平滑度を意味し、平滑度〔非塗工面〕とは、その反対側面の平滑度である。
なお、表1の測定は次の方法に準じて行った。
厚さ:JIS P 8118
ガーレー透気度:JIS P 8117
平滑度:JIS P 8119
【0039】
【表1】

【0040】
この通気性耐水シートの物性を測定した結果を以下に示す。
SMS不織布目付量:15g/m
微細繊維状セルロース目付量:5g/m
撥水材塗工量:2.1g/m
撥水度(JIS P 8137):R10
耐水圧:488mmH
ガーレー透気度:2秒/100ml
【実施例2】
【0041】
実施例1において、撥水材を次のものに変更し、複合シートへの塗工量を2.0g/mにした以外は同様にして本発明の通気性耐水シートを得た。
【0042】
<撥水材塗料の作製>
オレフィン系撥水剤(明成化学工業株式会社製 商品名:ペトロックスP300)50重量部およびスチレンブタジエン樹脂(日本A&L株式会社製 商品名:スマーテックスPA3802)48重量部を撹拌しながら混合して主剤を作製した後、塗工する直前にポリアミドエピクロロヒドリン系架橋剤(住友化学工業株式会社製 商品名:スミレーズレジンSPI−203)2重量部を撹拌しながら添加し水を加えて全固形分40重量%の塗料を作製した。このとき、塗料の粘度は95mPa・Sであり、ザーンカップ法で17秒であった。
【0043】
ここで用いたポリアミドエピクロロヒドリン系架橋剤(住友化学工業株式会社製 商品名:スミレーズレジンSPI−203)の性質は下記のとおりである。
成分:ポリアミドエピクロロヒドリン
外観:無色−淡黄色透明な液体
pH:6.0〜8.0
イオン性:カチオン
固形分濃度:50重量%
【0044】
[比較例1]
実施例1で得られた複合シート材に対してカレンダー掛け(カレンダー掛け線圧:100kg/cm)を行い、撥水材が塗工されていない比較用のシートを得た。
【0045】
[比較例2]
実施例1で得られた複合シート材に、次のようにしてシリコーン系撥水剤(信越化学株式会社製 商品名:POLON MWS)のみを塗工し比較用のシートを得た。
上記シリコーン系撥水剤(信越化学株式会社製 商品名:POLON MWS)の性質は下記のとおりである。
成分:シリコーン系エマルジョン
外観:白色液体
イオン性:アニオン
固形分濃度:30重量%
【0046】
<シリコーン系撥水剤の塗工>
複合シート材の微細繊維状セルロース側の面に、上記のシリコーン系撥水剤を水で固形分濃度10重量%に希釈した塗料をバーによる手塗りをおこない塗工量2.1g/mのシートを作製した。塗工後、乾燥機に120℃で30分間処理した後、100kg/cmの線圧にてカレンダー処理を行った。
【0047】
[比較例3]
実施例1で得られた複合シート材に、次のようにしてフッ素系撥水撥油剤(ソルベイソレクシス株式会社製 商品名:SolveraPT5045)のみを塗工し比較用のシートを得た。
上記フッ素系撥水撥油剤(ソルベイソレクシス株式会社製 商品名:SolveraPT5045)の性質は下記のとおりである。
成分:フッ素系ディスパージョン
外観:透明琥珀色溶液
pH:7〜9
固形分濃度:20重量%
【0048】
<フッ素系撥水撥油剤の塗工>
複合シート材の微細繊維状セルロース側の面に、上記のフッ素系撥水撥油剤を水で固形分濃度10重量%に希釈した塗料をバーによる手塗りをおこない塗工量2.2g/mのシートを作製した。塗工後、乾燥機に120℃で30分間処理した後、100kg/cmの線圧にてカレンダー処理を行った。
【0049】
[比較例4]
実施例1で得られた複合シート材に、次のようにして実施例1で用いたオレフィン系撥水剤(明成化学工業株式会社製 商品名:ペトロックスP300)のみを塗工し比較用のシートを得た。
【0050】
<オレフィン系撥水剤の塗工>
複合シート材の微細繊維状セルロース側の面に、上記のオレフィン系撥水剤を水で固形分濃度10重量%に希釈した塗料をバーによる手塗りをおこない塗工量2.0g/mのシートを作製した。塗工後、乾燥機に120℃で30分間処理した後、100kg/cmの線圧にてカレンダー処理を行った。
【0051】
[比較例5]
実施例1で得られた複合シート材に、次のようにしてアクリル系撥水剤を用いた撥水材を塗工し比較用のシートを得た。
【0052】
<撥水材塗料の作製>
アクリル系撥水剤(サイデン化学工業株式会社製 商品名:サイビノールEK−752)50重量部およびスチレンブタジエン樹脂(日本A&L株式会社製 商品名:スマーテックスPA3802)48重量部を撹拌しながら混合して主剤を作成した後、塗工する直前にポリアミドエピクロロヒドリン系架橋剤(住友化学工業株式会社製 商品名:スミレーズレジンSPI−203)2重量部を撹拌しながら添加し水を加えて全固形分40重量%の塗料を作製した。このとき、塗料の粘度は95mPa・Sであり、ザーンカップ法で17秒であった。
【0053】
上記アクリル系撥水剤(サイデン化学工業株式会社製 商品名:サイビノールEK−752)の性質は下記のとおりである。
成分:アクリル重合体エマルジョン
外観:白色液体
pH:8.0〜9.0
イオン性:アニオン
固形分濃度:46重量%
【0054】
(撥水材塗料の塗工)
複合シート材の微細繊維状セルロース側の面に、前記の撥水材塗料をフレキソコーターで下記の条件で塗工した。このときの塗工量は2.3g/mであった。
使用アニロックスロール:130線
塗工速度:100m/分
エアドライヤー乾燥温度:100℃
塗工後、カレンダー掛け(カレンダー掛け線圧:100kg/cm)を行った後に乾燥機に120℃で30分間処理することにより比較用のシートを作製した。
【0055】
次に前記実施例1、実施例2及び比較例1〜5で得られたシートについて次の評価を行った。
〔通気性〕
実施例1、実施例2及び比較例1〜5で得られたシートの透気度をガーレーデンソメーター(JIS P 8117)を用いて測定した。結果は下記表2のとおりであった。表2から明らかなように、実施例1についてはカレンダー処理後も透気度は低く通気性は非常に良いが、実施例2は架橋剤の違いによりカレンダー処理後の通気性はやや悪くなっているが良好なレベルを保っている。一方、比較例5の撥水材は造膜しやすいため、カレンダー処理後の通気性は現行のバックシート(微多孔質フィルム)に近い透気度であり実用上問題を有していた。
【0056】
【表2】

【0057】
〔耐水性〕
実施例1、実施例2、比較例1〜5で得られたシートの耐水性試験を次の方法により実施した。すなわち、シートを濾紙の上に水を十分に含ませたワイパー紙(株式会社クレシア製 商品名:キムタオル)10枚を重ねて置き、更に5kgの重石を乗せて時間を追って濾紙に漏れた水を観察する方法を採った。
【0058】
耐水性試験の結果を下記表3に示した。表3から明らかなように、実施例1では5時間後まで濾紙への漏れはなく、耐水性が極めて良好であった。実施例2では、2時間まで漏れが観測されず、耐水性は実施例1に劣るものの比較的良好であった。一方、比較例1では、1分経過後に水漏れが起こり、比較例2〜5では、10〜15分経過後に水漏れが起こり、十分な耐水性を有するものとはいえなかった。上記耐水性試験の条件は、市販の子ども用おむつのバックシートの実使用条件よりも過酷な条件であるので、本発明による通気性耐水シート(実施例1及び実施例2)を市販の子ども用おむつのバックシートに用いても長時間漏れの恐れはなく、実使用に十分耐えられるものである。
【0059】
【表3】

【実施例3】
【0060】
実施例1で得られた通気性耐水シートが子ども用おむつのバックシート部分に適用できることを実証した例について述べる。おむつは市販のおむつのバックシート部分を本発明の通気性耐水シートに置きかえたものを、実際に乳幼児に着用させる実着用試験を実施した。評価としては、実際に着用して所定の時間経過後の、尿漏れや皮膚のむれやかぶれの発現を観察することとした。
【0061】
<試験用おむつの作製>
図5及び図6に示した構成の子ども用おむつ(商品名:「ムーニーのびーるフィット」ユニチャーム社製)のバックシート側から、バックシート(通気性フィルムと不織布のラミネート)全体を接合部にコールドスプレーを吹き付けながら注意して取り除き、改めて本発明による通気性耐水シートに置き換えた試験用の子ども用おむつ40枚を作成した。
【0062】
<乳幼児による実着用試験>
上記試験用おむつを40枚用意して、正常な排尿機構をもつ8人の乳幼児(男児4名、女児4名)に着用させた(1人当り5枚づつ使用)。着用者の保護者には使用状態を示す記録を依頼すると共に使用後のおむつは全て回収しバックシートからの漏れを確認した。装着時間は平均で3時間とした。その結果、40枚中の35枚についてはバックシートからの漏れが全く生じていなかった。また、3枚については後ろの部分に円形のにじみ出しが発生し、2枚についてはピンホール状のにじみ出しが発生したものの実用上問題となる程度のものではなかった。また、全ての乳幼児について着用中にムレやカブレなどが生じることはなかった。これらの結果から、本発明の通気性耐水シートをバックシートに用いた子ども用おむつは、十分実用に供しえるものであることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の通気性耐水シートの一例の模式的断面図である。
【図2】本発明の通気性耐水シートの一例の模式的断面図である。
【図3】本発明の通気性耐水シートの製造方法のフローチャートである。
【図4】本発明の通気性耐水シートの製造工程に用いる製造装置の模式図である。
【図5】本発明の吸収体物品の一例である使い捨て紙おむつを展開した平面図である。
【図6】図5におけるA−Bの断面図である。
【符号の説明】
【0064】
1 複合シート材
2 撥水材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不織布と微細繊維状セルロースからなる複合シート材に撥水材が積層されてなる通気性耐水シートであって、前記撥水材がオレフィン系撥水剤と合成樹脂系バインダーと架橋剤を含むことを特徴とする通気性耐水シート。
【請求項2】
前記不織布がスパンメルト不織布からなることを特徴とする請求項1に記載の通気性耐水シート。
【請求項3】
前記微細繊維状セルロースは、0.3mm以下の平均繊維長を有し、且つ15mL/g以上の抱水度を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の通気性耐水シート。
【請求項4】
前記合成樹脂系バインダーが、スチレンブタジエン樹脂からなることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の通気性耐水シート。
【請求項5】
前記架橋剤が炭酸ジルコニウムアンモニウムからなることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の通気性耐水シート。
【請求項6】
前記通気性耐水シートが、カレンダー処理されたことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の通気性耐水シート。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の通気性耐水シートをバックシートに用いたことを特徴とする吸収体物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−80747(P2008−80747A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−265880(P2006−265880)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(000153591)株式会社巴川製紙所 (457)
【出願人】(592034744)株式会社日本吸収体技術研究所 (28)
【Fターム(参考)】