説明

通行装置

【課題】地下鉄や地下街等の地下施設への浸水が発生している際に、地下施設から地上部への安全な避難経路を確保すること。
【解決手段】この通行装置100は、通路側壁201に所定の間隔を設けて取り付けられ、複数の通行装置100が階段203の傾斜に沿って階段状に配置される。この通行装置100は、平常時においては通路側壁201側へ格納されているが、使用時には展開して地上部への避難通路として使用される。例えば集中豪雨等によって通路200の出入口200Iから水Wが流れむような場合、通行装置100を展開し、通路側壁201から突出させる。そして、避難者Aのように、通行装置100が備える踏板2の上を通って地上部に避難する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下街や地下鉄等の地下施設への浸水時に、前記地下施設への出入通路を通って地上へ避難する際に使用する通行装置に関する。
【背景技術】
【0002】
台風や集中豪雨等によって増水すると、地下道や建物等に増水した水が流入し、通路や屋内が浸水する等の被害が発生するおそれがある。特に、最近の都市型浸水に見られるように、地上部での急激な水位の上昇への対応が遅れ、その結果、地下街のような地下施設に浸水する事例が発生している。今後も時間当り雨量の増加や総雨量の増加、あるいは局地的な大雨に起因して、都市型浸水の発生頻度が増加することが懸念される。
【0003】
地下施設に対する浸水被害に対しては、例えば、特許文献1には、路面下に掘り込んだ空間に防水板を格納しておき、増水時には、前記防水板を起立させて浸水を防止する防水装置が開示されている。また、止水板を通路の出入口に配置する、いわゆる落とし込み方式の防水装置は、比較的低コストで設置できるという観点から多くの場所で採用されており、浸水時には、地下施設の倉庫等の別区画に保管されている分割式の止水板を係員が人力で運び上げ、地下施設への出入口に設置している。
【0004】
【特許文献1】特開2004−92270号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、採用比率の高い止水板落とし込み方式の防水装置では、設置のタイミングを逃し、増水が加速していくと、もはや止水板を激しい流れに逆らって階段上部まで搬出し、地下施設の出入口に設置することは困難である。
【0006】
図14は、急激な水位の上昇に対して止水板の設置が間に合わない状態を示す概念図である。図14に示すように、急激に水位が上昇した場合には、止水板304を通路300の出入口300Iに設置することが間に合わず、階段303の上面を勢いよく水が流れ下る。通路300の出入口300Iから流れ下る水量が増えると、避難者Eのように外部に避難できる者がある一方、避難者F、Gの女性や子供のように、階段303の下で歩行が困難となって行き場をなくす者が出てくる。
【0007】
地下施設へ出入する通路300から浸水する場合に、前記通路300を通って地上部へ避難する場合、浸水水位の上昇とともに、自力で避難できる状況から階段303の側壁301に設置された手すり305につかまらないと階段を上がれない状況、さらに階段303を上ること自体が危険になる状況へと推移する。
【0008】
地下施設への浸水被害の特異性としては、避難経路が限定され、水の流入経路と避難経路とが重なる可能性が大きい点、一旦出入口からの浸水が始まると、水が一気に流れ込み避難時間の猶予がない点、機械、電気など設備機能が停止する点が指摘されている。このため、指摘されている前記条件下で、地上部への避難に重大な影響を及ぼす浸水状況が生じる前までに、速やかに地上部への避難が完了できることが地下施設への浸水に対しては重要である。さらに、あくまでも避難先は安全な地上部であることが重要である。
【0009】
そこで、この発明は、上記に鑑みてなされたものであって、地下施設への出入通路から地下施設へ浸水している状況において、地下施設から地上部への安全な避難経路を確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る通行装置は、地下施設への出入通路の側壁に、展開及び折り畳みが可能な踏板を取り付け、平常時には前記踏板の踏面を前記側壁に沿って折り畳み、また浸水時には前記踏板を展開して前記側壁から前記踏板を突出させ、かつ前記出入通路の地面から所定の高さに前記踏板を設置して避難経路とすることを特徴とする。
【0011】
この通行装置は、地下施設へ出入りするための出入通路の側壁に、展開及び折り畳みが可能な踏板を取り付け、浸水時には踏板を展開して前記側壁から前記踏板を突出させ、かつ前記出入通路の地面から所定の高さに前記踏板を設置して避難経路とする。このような構成により、地下施設から地上へ避難する避難者は、出入通路を流れる水の上に突出した踏板を通って地上部へ避難することができる。これによって、地下施設への出入通路から地下施設へ浸水している状況において、地下施設から地上部への安全な避難経路を確保することが可能となる。
【0012】
次の本発明に係る通行装置は、前記通行装置において、前記踏板を展開させたときに、前記踏板から前記出入通路側に張り出す張出部を備えることを特徴とする。
【0013】
この通行装置は、前記通行装置の構成を備えるので、前記通行装置と同様の作用、効果を奏する。さらにこの通行装置は、踏板を展開させたときに、踏板から出入通路側に張り出す張出部を備える。この張出部によって、地下施設から地上へ避難する避難者が、踏板から足を踏み外すおそれを低減できるので、地下施設から地上部へ避難する際の安全性がより向上する。
【0014】
次の本発明に係る通行装置は、前記通行装置において、前記踏板の踏面には、滑り止め手段が設けられることを特徴とする。
【0015】
この通行装置は、前記通行装置の構成を備えるので、前記通行装置と同様の作用、効果を奏する。さらにこの通行装置は、踏板の踏面に滑り止め手段を備える。これによって、踏板上を通行する避難者が踏板から足を滑らせるおそれが低減できるので、避難時の安全性がより向上する。特に、踏板は出入通路を流れる水がかかって滑りやすくなっていることが多いため、滑り止め手段は有用である。
【0016】
次の本発明に係る通行装置は、前記通行装置において、前記踏板を展開させたとき、前記踏板は、前記踏板の下方に設けられかつ前記踏板の前記側壁側の端部を支持する第1支持部材と、前記踏板の前記出入通路側の端部及び前記側壁を連結する第2支持部材とで支持される両持ち構造であることを特徴とする。
【0017】
この通行装置は、前記通行装置の構成を備えるので、前記通行装置と同様の作用、効果を奏する。さらにこの通行装置は、踏板を両持ちで支持する。これによって、踏板を片持ちで支持する場合と比較して、より大きな荷重を支持できるので、避難時の安全性が向上する。また、想定外の荷重が通行装置に加わった場合における安全性も向上する。
【0018】
次の本発明に係る通行装置は、前記通行装置において、前記踏板の前記出入通路側の端部は前記第1支持部材にピン結合されるとともに、前記踏板の前記側壁側の端部は前記第1支持部材に抜き差し可能なキーで支持されることを特徴とする。
【0019】
この通行装置は、前記通行装置の構成を備えるので、前記通行装置と同様の作用、効果を奏する。さらにこの通行装置は、踏板をピンと抜き差し可能なキーとで支持され、キーを抜くことで踏板を展開し、また折り畳む。これによって、簡単に踏板を展開し、また折り畳むことができるので、緊急時であっても迅速に踏板を展開することができる。
【0020】
次の本発明に係る通行装置は、前記通行装置において、前記踏板を展開させたときには、複数の前記踏板が前記出入通路の傾斜に沿って階段状に配置されることを特徴とする。
【0021】
この通行装置は、前記通行装置の構成を備えるので、前記通行装置と同様の作用、効果を奏する。さらにこの通行装置は、複数の踏板が出入通路の傾斜に沿って階段状に配置され、踏板の踏面は、ほぼ水平となる。これによって、踏面上での安定性が向上するので、より安全に避難することができる。
【0022】
次の本発明に係る通行装置は、前記通行装置において、前記踏板を展開させたときには、隣接する前記踏板の間に、踏み抜き防止部材が設けられることを特徴とする。
【0023】
この通行装置は、前記通行装置の構成を備えるので、前記通行装置と同様の作用、効果を奏する。さらにこの通行装置は、隣接する踏板間に踏み抜き防止部材を設ける。これによって、地下施設から地上へ避難する避難者が、踏板から足を踏み外すおそれを低減できるので、地下施設から地上部へ、より安全に避難することができる。
【0024】
次の本発明に係る通行装置は、前記通行装置において、前記踏板を展開させたときには、前記踏板の踏面が、前記出入通路の傾斜と平行に配置されることを特徴とする。
【0025】
この通行装置は、前記通行装置の構成を備えるので、前記通行装置と同様の作用、効果を奏する。さらにこの通行装置は、踏板の踏面を出入通路の傾斜と平行に配置する。これによって、隣接して配置される通行装置の踏板同士の段差を小さく抑えることができる。その結果、地下施設から地上へ避難する避難者が、踏板につまずくおそれを低減できるので、地下施設から地上部へ避難する際の安全性が向上する。
【発明の効果】
【0026】
この発明に係る通行装置は、地下施設への出入通路から地下施設へ浸水している状況において、地下施設から地上部への安全な避難経路を確保できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この発明を実施するための最良の形態(以下実施形態という)によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。以下の実施形態では、本発明に係る防水装置を、例えば地下鉄や地下街その他の地下施設へ出入りするための出入通路に配置した場合を説明する。ここで、上とは、重力の作用方向とは反対側をいい、下とは、重力の作用方向側をいう。
【0028】
(実施形態1)
実施形態1に係る防水装置は、地下鉄や地下街等の地下施設に通じる出入通路に配置されるものであり、地下施設への出入通路の側壁に、折り畳み可能な踏板を取り付け、浸水時には前記踏板を展開して前記側壁から前記踏板を突出させ、前記出入通路の地面から所定の高さに前記踏板を設置して避難経路とする点に特徴がある。次に、この実施形態に係る通行装置の構成について説明する。
【0029】
図1は、実施形態1に係る通行装置の構成を説明する全体構成図である。図2−1、図2−2、図2−3は、実施形態1に係る通行装置を展開した状態を示す説明図である。図3−1、図3−2、図3−3は、実施形態1に係る通行装置を格納した状態を示す説明図である。出入通路(以下通路という)200は、地下鉄や地下街等の地下施設に通じており、階段203を使って地下施設へ出入りできるようになっている。
【0030】
この実施形態に係る通行装置100は、通路200の側壁(以下通路側部という)202に、避難者の踏み幅程度の間隔を設けて取り付けられる。この実施形態においては、複数の通行装置100が階段203の傾斜に沿って階段状に配置される。この通行装置100は、平常時においては、図3−1〜図3−3に示すように通路側壁201側へ格納されているが、使用時には展開して地上部への避難通路として使用する。
【0031】
図1は、通路200へ浸水が始まっている状態を示している。例えば、集中豪雨等によって、水Wの水位が通路200のマウンドアップ204を超えると、通路200の出入口200Iから水Wが流れ込み、階段203を流れ下る。階段203を流れる水Wの水位が高くなった場合には、階段203を流れる水流の影響で、階段203を通って地上部に避難することは難しくなることがある。
【0032】
このような場合、図1、図2−1、図2−2に示すように、この実施形態に係る通行装置100の踏板2を展開し、通路側壁201から突出させる。ここで、踏板2は、階段203を流れる水Wの水面よりも上方に突出する。そして、図1に示す避難者Aのように、通行装置100が備える踏板2の上を通って地上部に避難する。これによって、階段203を流れる水流の影響を受けずに、安全かつ確実に地上部へ避難することができる。
【0033】
この実施形態では、避難者が通行装置100を通過する際に体を支持するための補助器具として、応急用手すり205を設けている。この応急手すり205は、手すり用支柱206によって、通常時に使用する手すり202よりも高い位置に設置される。この応急用手すり205によって、避難者は、通行装置100をより安全に通過することができる。なお、応急用手すり205及び手すり用支柱206は常時設置しておいてもよいし、これらを取り外し自在として通行装置100を使用するときに設置するようにしてもよい。次に、通行装置100の構成について、より詳細に説明する。
【0034】
図2−1に示すように、この実施形態に係る通行装置100は、第1支持部材である取付支持部材1と、踏板2と、第2支持部材である支持部材4とを含んで構成される。踏板2は、頂板2Pと、頂板2Pの踏面とは反対側に設けられる板状の踏板補強部材2Sとで構成される。これによって、踏板2の上に避難者が乗った場合における頂板2Pのたわみを抑制する。ここで、頂板2Pの周囲を、例えば蛍光塗料で塗装してもよい。このようにすることで、照明が切れたような状態には、頂板2Pの踏面を認識しやすくなるので、避難時の安全性が向上する。
【0035】
踏板2の第1の端部2t1と第2の端部2t2との間における踏板補強部材2Sには、通行装置100の格納時にストッパキー(キー)7が貫通するストッパキー挿入孔2hが設けられる。また、踏板2の踏面には、滑り止め手段を設けることが好ましい。例えば、踏板2の頂板2Pを金属板(パンチングメタル)で構成し、頂板2Pを打ち抜いた際に頂板2Pの表面から突出した部分を滑り止め手段として用いることができる。
【0036】
支持部材4は、第1の端部4t1が取付支持部材1の第1の端部1t1と回転ピン5によって回転可能にピン結合される。また、支持部材4の第2の端部4t2は、踏板2の第1端部2t1側における踏板補強部材2Sと、回転ピン6によって回転可能にピン結合される。支持部材4の第1の端部4t1と第2の端部4t2との間には、通行装置100の格納時にストッパキー7が貫通するストッパキー挿入孔4hが設けられる。
【0037】
取付支持部材1は、通行装置100の取付対象である通路側壁201に、例えばケミカルアンカー等によって固定される。取付支持部材1の第2の端部1t2には、ストッパキー7を挿入するためのストッパキー挿入孔1hが設けられる。通行装置100の展開時においては、図2−3に示すように、ストッパキー挿入孔1hに挿入されたストッパキー7に、踏板2の第2の端部2t2が載置される。踏板2の第2の端部2t2には鍔部2fが設けられており、鍔部2fがストッパキー7とかかり合うことにより、踏板2の脱落を防止する。ストッパキー7は、抜け落ち防止のため、一端部が鉤状(L字形状)になっている。
【0038】
図3−1〜図3−3に示すように、通行装置100の格納時(すなわち非使用時であり平常時)には、踏板2の第2の端部2t2がストッパキー7から取り外され、踏板2は、支持部材4の内部に格納される。そして、ストッパキー7を、取付支持部材1のストッパキー挿入孔1h、支持部材4のストッパキー挿入孔4h、及び踏板補強部材2Sのストッパキー挿入孔2hに貫通させて、取付支持部材1、支持部材4、及び踏板補強部材2Sを一体化して、踏板2が展開しないように固定する。これによって、図3−1、図3−2に示すように、通路側壁201から通路側への突き出しが抑えられるので、通行装置100の非使用時において、通路を通行する際の障害となることを最小限に抑えることができる。
【0039】
通行装置100の展開時、すなわち通行装置100の使用時には、まず、ストッパキー7を取付支持部材1のストッパキー挿入孔1h等から引き抜く。そして、支持部材4に設けられる支持部材引出取っ手4H(図1、図3−3参照)に手をかけて、図2−1の矢印A方向に向かって支持部材4を引き出す。次に、ストッパキー7を、取付支持部材1のストッパキー挿入孔1h、及び支持部材4のストッパキー挿入孔4hに貫通させる。その後、踏板2に設けられる踏板引出取っ手2Hに手をかけて図2−1中の矢印B方向に引き出してストッパキー7の上方まで引き上げ、踏板2の第2の端部2t2をストッパキー7上に載置する。これによって、通行装置100の踏板2を展開し、使用状態とすることができる。
【0040】
踏板2を展開し、通路側壁201から突出させると、通路200の地面(この実施形態では階段203の踏面)から所定の高さに踏板2が設置される。踏板2が設置される高さは、浸水時に通路200を流れる水の水面よりも踏板2が高くなるように設定する。踏板2が設置される高さは、例えば、通路200の地面から30cm程度とする。この程度の高さであれば、浸水時に踏板2が水面下になることはほとんどなく、また、踏板2へ乗る際の乗りにくさもほとんどない。
【0041】
この実施形態に係る通行装置100は、通路200の地下施設側から出入口200Iに向かって、順に展開させることができる。すなわち、展開を終えた通行装置100の踏板2上に乗ったまま、次の通行装置100を展開することができ、通行装置100を展開しながら避難することができる。これによって、通路200が浸水中でも、水中に降り立つことなく通行装置100を展開させることができるので、通行装置100の展開時及び避難時の安全性が向上する。
【0042】
図2−1に示すように、この実施形態に係る通行装置100が備える踏板2は、使用時において、ストッパキー7と、支持部材4の第2の端部4t2に設けられる回転ピン6とによって両持ちで支持される。これによって、踏板2を片持ちで支持する場合と比較して、より大きな荷重を支持できるので、避難時の安全性が向上する。そして、想定外の荷重が通行装置100に加わった場合(例えば2人が同時に踏板2に乗るような場合)における安全性も向上する。また、踏板2を両持ちとすれば、同じ強度が要求される場合には、踏板2を片持ちとするよりも、踏板2を両持ちとした方が軽量化することができる。さらに、踏板2を両持ちで支持することにより、踏板2の踏面よりも上方で踏板2を支持する必要はない。これによって、避難者が踏板2の上を通行する際につまずくおそれは極めて低くなるので、避難者は安全に避難することができる。
【0043】
この実施形態に係る通行装置100は、取付対象である通路側壁201から斜めに突出させた支持部材4と、取付支持部材1に支持されるストッパキー7とによって、踏板2を両持ちで支持する。通行装置100の支持部材4に水が衝突した場合(図2−1の矢印w)、支持部材4が持ち上げられるが、これによって、回転ピン6を介して支持部材4と連結される踏板2は通路側壁201に向かって動き、この動きは、ストッパキー7あるいは通路側壁201によって規制される。支持部材4とともに跳ね上げられることはない。これによって、水が支持部材4に衝突した場合でも、踏板2が跳ね上げられるおそれは極めて低くなるので、水流が激しい場合でも、安全に通行装置100を通って避難できる。
【0044】
また、この実施形態に係る通行装置100の踏板2は、取付対象である通路側壁201から斜めに突出させた支持部材4で支持される。これによって、通路200を流れる水の水面下に存在する通行装置100の構成部品を極力低減することができる。その結果、直接階段上に垂直に踏板の支持材を設ける場合と比較して、通路200を流れる水が通行装置100に衝突することによって踏板取付部に作用する荷重を減ずることができ、通行装置100を軽量化することができる。
【0045】
図4−1、図4−2は、この実施形態の変形例に係る取付支持部材のストッパキー挿入孔を示す説明図である。図4−1に示すように、この取付支持部材1'は、上部が開放された形状のストッパキー支持用切り欠き1h'を備える。そして、図4−2に示すように、このストッパキー支持用切り欠き1h'にストッパキー7を通し、これを介して取付支持部材1'が踏板2を支持する。このような構成によって、踏板2の踏面側に突出する取付支持部材1'を小さく抑える、あるいは突出をなくすことができるので、避難者が取付支持部材1'につまずくおそれをさらに低減することができる。これにより、避難時の安全性をより向上させることができる。
【0046】
以上、この実施形態では、地下施設へ出入りするための通路の側壁に、展開及び折り畳みが可能な踏板を取り付け、浸水時には踏板を展開して前記側壁から前記踏板を突出させ、かつ前記出入通路の地面から所定の高さに前記踏板を設置して避難経路とする。これによって、地下施設から地上へ避難する避難者は、通路を流れる水の上に突出した踏板を通って地上部へ避難することができる。その結果、地下施設へ出入りする通路から地下施設へ浸水している状況においても、避難者は通路を流れる水の水面よりも高い位置で地上部へ避難することが可能になるので、地下施設から地上部へ安全に避難することができる。
【0047】
また、体力が比較的少ない女性や子供、あるいは高齢者も、この実施形態に係る通行装置を通行して、安全かつ確実に地上部へ避難することができる。さらに、さらにこの実施形態に係る通行装置は、複数の踏板が出入通路の傾斜に沿って階段状に配置され、踏板の踏面は、ほぼ水平(重力の作用方向に対してほぼ直交する方向)となる。これによって、踏面上での安定性が向上するので、より安全に避難することができる。
【0048】
また、この実施形態に係る通行装置は、既存の通路の側壁に対して付加的に取り付けることができるので、避難経路がない地下施設へ出入りするための通路でも、簡単に避難経路を設けることができる。さらに、通路の出入口への止水板の設置が間に合わず、通路内部への水の流入が激しくなった後でも、この通行装置を通って地下施設から止水板を搬送することによって、通路の出入口へ止水板を設置することができる。なお、この実施形態で開示した構成は、以下の実施形態でも適宜適用できる。また、この実施形態で開示した構成と同様の構成を備えるものは、この実施形態と同様の作用、効果を奏する。
【0049】
(実施形態2)
実施形態2は、上記実施形態1とほぼ同様の構成であるが、踏板を通路側壁から突出させた状態における出入通路側の踏板の端部には、避難者の踏み外し防止用部材として機能する張出部が設けられる点が異なる。他の構成は、実施形態1と同様である。
【0050】
図5は、実施形態2に係る通行装置の構成を説明する全体構成図である。図6−1、図6−2は、実施形態2に係る通行装置を展開した状態を示す説明図である。図7−1、図7−2は、実施形態2に係る通行装置を格納した状態を示す説明図である。この実施形態に係る通行装置100aは、支持部材4aを除いて実施形態1に係る通行装置100(図2−1等参照)と同様の構成である。
【0051】
図6−1、図6−2に示すように、通行装置100aの支持部材4aの側板4Saは、回転ピン6によって踏板2と連結される部分から張り出す張出部4SFが設けられている。これによって、通行装置100aを展開した状態では、支持部材4aの前記張出部4SFが、踏板2から通路側壁201とは反対側に向かって張り出す。その結果、通行装置100aを通行する避難者が、踏板2から足を踏み外すおそれを低減できるので、避難時の安全性が向上する。なお、平常時には、図7−1、図7−2に示すように、支持部材4a内に踏板2が収納されて通路側壁201に寄せて通行装置100aが格納されるので、通路を通行する際の障害となることを最小限に抑えることができる。
【0052】
以上、この実施形態では、浸水時には通行装置の踏板を展開して、地下施設へ出入りする通路の側壁から前記踏板を突出させるとともに、張出部を踏板から通路に向かって張り出させ、かつ前記出入通路の地面から所定の高さに前記踏板を設置して避難経路とする。これによって、地下施設から地上へ避難する避難者が、踏板から足を踏み外すおそれを低減できるので、地下施設から地上部へ、より安全に避難することができる。なお、この実施形態で開示した構成は、以下の実施形態でも適宜適用できる。また、この実施形態で開示した構成と同様の構成を備えるものは、この実施形態と同様の作用、効果を奏する。
【0053】
(実施形態3)
実施形態3は、上記実施形態1とほぼ同様の構成であるが、隣接する通行装置の踏板同士の間に、踏み抜き防止部材を配置する点が異なる。他の構成は、実施形態1と同様である。
【0054】
図8は、実施形態3に係る通行装置の構成を説明する全体構成図である。図9−1、図9−2は、実施形態3に係る通行装置を展開した状態を示す説明図である。図9−3、図9−4は、踏み抜き防止部材の取り付け構造を示す説明図である。図10−1、図10−2は、実施形態3に係る通行装置を格納した状態を示す説明図である。この実施形態に係る通行装置100bは、踏板2b及び踏み抜き防止部材である踏み抜き防止板8を踏板2bに取り付ける点を除いて、実施形態1に係る通行装置100(図2−1等参照)と同様の構成である。
【0055】
図8、図9−1、図9−2に示すように、この通行装置100bは、踏板2bの、出入口200I側とは反対側に、踏み抜き防止板8が取り付けられている。この踏み抜き防止板8は、一方の端部が出入口200I側の通行装置100bの踏板2bに取り付けられる。そして、前記踏み抜き防止板8の他方の端部は、踏み抜き防止板8が取り付けられる通行装置100bよりも地下施設側(出入口200I側とは反対側)に隣接して配置される通行装置100bの踏板2bの踏面P上に載置される。
【0056】
図9−3、図9−4に示すように、踏板2bの踏板補強部材2Sbには、踏み抜き防止板8を取り付けるための取付孔2boが設けられる。また、図9−3、図9−4に示すように、踏み抜き防止板8は、踏板補強部材2Sbの取付孔2boと係合する取付部8hが設けられる。通行装置100bの使用時には、踏み抜き防止板8の取付部8hを踏板補強部材2Sbの取付孔2boに引っ掛け、前記取付孔2boと係合させ、図8、図9−1、図9−2に示すように、踏み抜き防止板8の取付部8hとは反対側の端部を、踏板2bの頂板2P上に載置する。
【0057】
これによって、通行装置100bの使用時には、隣接する通行装置100の踏板2b間を踏み抜き防止板8が覆う。これによって、避難者が通行装置100bを出入口200Iに向かって通行する際に、隣接する通行装置100の踏板2b間に足を踏み入れた場合でも、踏み抜き防止板8によって踏板2bから足を踏み外すことはない。これによって、避難時の安全性が向上する。なお、平常時には、図10−1、図10−2に示すように、支持部材4a内に踏板2bが収納され、かつ通路側壁201に寄せて通行装置100bが格納されるので、通路を通行する際の障害となることを最小限に抑えることができる。このとき、踏み抜き防止板8も支持部材4b内に収納される。
【0058】
以上、この実施形態では、浸水時には通行装置の踏板を展開して、地下施設へ出入りする通路の側壁から前記踏板を突出させるとともに、隣接する踏板同士の間に踏み抜き防止部材を配置し、かつ前記出入通路の地面から所定の高さに前記踏板を設置して避難経路とする。これによって、地下施設から地上へ避難する避難者が、踏板から足を踏み外すおそれを低減できるので、地下施設から地上部へ、より安全に避難することができる。なお、この実施形態で開示した構成は、以下の実施形態でも適宜適用できる。また、この実施形態で開示した構成と同様の構成を備えるものは、この実施形態と同様の作用、効果を奏する。
【0059】
(実施形態4)
実施形態4は、上記実施形態1とほぼ同様の構成であるが、避難者が通行する踏板の踏面が通路の階段の傾斜とほぼ平行になるようにする点が異なる。他の構成は、実施形態1と同様である。
【0060】
図11は、実施形態4に係る通行装置の構成を説明する全体構成図である。図12−1、図12−2は、実施形態4に係る通行装置を展開した状態を示す説明図である。図13−1、図13−2は、実施形態4に係る通行装置を格納した状態を示す説明図である。図11に示すように、この実施形態に係る通行装置100cは、使用時における踏板2cの踏面(頂板2Pの踏面に相当する)Pが、通路200の階段203の傾斜とほぼ平行になるように、通路側壁201に取り付けられる。
【0061】
この実施形態に係る通行装置100cは、通行方向における寸法が、実施形態1に係る通行装置100(図1等参照)よりも大きい。これによって、通路側壁201に取り付ける通行装置100cの数は、実施形態1に係る通行装置100よりも少なくてよい。この実施形態では、複数の通行装置100cを通路側壁201に取り付けているが、通路側壁201に取り付ける通行装置100cは単数としてもよい。
【0062】
図12−1、図12−2に示すように、頂板2Pの踏面には、滑り止め手段として、滑り止めの突起(以下滑り止め突起という)9が設けられる。なお、滑り止め手段としては、滑り止め突起9以外のものを用いてもよい。また、この実施形態においては、一つの通行装置100cに、通行方向に向かって複数の踏板2cを配置する。なお、踏板2cは一つの通行装置100cに対して1個としてもよい。
【0063】
複数の踏板2cは、ストッパキー7で支持されるが、ストッパキー7の撓みが大きくならないように、ストッパキー7は取付支持部材1cに複数箇所で支持される。この実施形態においては、踏板2cの1枚毎にストッパキー7cの支持部が設けられる。なお、隣接する踏板2cは、ストッパキー7cの引抜を考慮して、隣接する踏板2cの踏面Pが同一平面内に存在しないようにしてある。
【0064】
この実施形態に係る通行装置100cは、使用時における踏板2cの踏面Pが、通路200の階段203の傾斜とほぼ平行になるように構成されるので、隣接して配置される通行装置100cの踏板2c同士の段差を小さく抑えることができる。これによって、踏板2cを踏み外すおそれを低減できる。なお、平常時には、図13−1、図13−2に示すように、支持部材4c内に踏板2cが収納され、かつ通路側壁201に寄せて通行装置100cが格納されるので、通路を通行する際の障害となることを最小限に抑えることができる。
【0065】
以上、この実施形態では、浸水時には通行装置の踏板を展開して、地下施設へ出入りする通路の側壁から、踏板の踏面が通路の階段の傾斜とほぼ平行になるように、踏板を突出させ、かつ前記出入通路の地面から所定の高さに前記踏板を設置して避難経路とする。これによって、隣接して配置される通行装置の踏板同士の段差を小さく抑えることができるので、地下施設から地上へ避難する避難者が、踏板につまずくおそれを低減できる。その結果、避難者は、地下施設から地上部へ安全に避難することができる。また、通路の側壁に取り付ける通行装置の数を少なくすることができるので、設置工事時の手間を省くこともできる。なお、この実施形態で開示した構成と同様の構成を備えるものは、この実施形態と同様の作用、効果を奏する。
【産業上の利用可能性】
【0066】
以上のように、本発明に係る通行装置は、地下鉄や地下街等の地下施設への浸水が発生している際に有用であり、特に、地下施設から地上部への安全な避難経路を確保することに適している。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】実施形態1に係る通行装置の構成を説明する全体構成図である。
【図2−1】実施形態1に係る通行装置を展開した状態を示す説明図である。
【図2−2】実施形態1に係る通行装置を展開した状態を示す説明図である。
【図2−3】実施形態1に係る通行装置を展開した状態を示す説明図である。
【図3−1】実施形態1に係る通行装置を格納した状態を示す説明図である。
【図3−2】実施形態1に係る通行装置を格納した状態を示す説明図である。
【図3−3】実施形態1に係る通行装置を格納した状態を示す説明図である。
【図4−1】この実施形態の変形例に係る取付支持部材のストッパキー挿入孔を示す説明図である。
【図4−2】この実施形態の変形例に係る取付支持部材のストッパキー挿入孔を示す説明図である。
【図5】実施形態2に係る通行装置の構成を説明する全体構成図である。
【図6−1】実施形態2に係る通行装置を展開した状態を示す説明図である。
【図6−2】実施形態2に係る通行装置を展開した状態を示す説明図である。
【図7−1】実施形態2に係る通行装置を格納した状態を示す説明図である。
【図7−2】実施形態2に係る通行装置を格納した状態を示す説明図である。
【図8】実施形態3に係る通行装置の構成を説明する全体構成図である。
【図9−1】実施形態3に係る通行装置を展開した状態を示す説明図である。
【図9−2】実施形態3に係る通行装置を展開した状態を示す説明図である。
【図9−3】踏み抜き防止部材の取り付け構造を示す説明図である。
【図9−4】踏み抜き防止部材の取り付け構造を示す説明図である。
【図10−1】実施形態3に係る通行装置を格納した状態を示す説明図である。
【図10−2】実施形態3に係る通行装置を格納した状態を示す説明図である。
【図11】実施形態4に係る通行装置の構成を説明する全体構成図である。
【図12−1】実施形態4に係る通行装置を展開した状態を示す説明図である。
【図12−2】実施形態4に係る通行装置を展開した状態を示す説明図である。
【図13−1】実施形態4に係る通行装置を格納した状態を示す説明図である。
【図13−2】実施形態4に係る通行装置を格納した状態を示す説明図である。
【図14】急激な水位の上昇に対して止水板の設置が間に合わない状態を示す概念図である。
【符号の説明】
【0068】
1、1'、1c 取付支持部材
1h ストッパキー挿入孔
2、2b、2c 踏板
2h ストッパキー挿入孔
2bo 取付孔
2f 鍔部
2P 頂板
2S、2Sb 踏板補強部材
2h ストッパキー挿入孔
4、4a、4b、4c 支持部材
4h ストッパキー挿入孔
4SF 張出部
5 回転ピン
6 回転ピン
7、7c ストッパキー
8 踏み抜き防止板
100、100a、100b、100c 通行装置
200 通路(出入通路)
200I 出入口
201 通路側壁
203 階段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下施設への出入通路の側壁に、展開及び折り畳みが可能な踏板を取り付け、
平常時には前記踏板の踏面を前記側壁に沿って折り畳み、
また浸水時には前記踏板を展開して前記側壁から前記踏板を突出させ、かつ前記出入通路の地面から所定の高さに前記踏板を設置して避難経路とすることを特徴とする通行装置。
【請求項2】
前記踏板を展開させたときに、前記踏板から前記出入通路側に張り出す張出部を備えることを特徴とする請求項1に記載の通行装置。
【請求項3】
前記踏板の踏面には、滑り止め手段が設けられることを特徴とする請求項1又は2に記載の通行装置。
【請求項4】
前記踏板を展開させたとき、前記踏板は、
前記踏板の下方に設けられかつ前記踏板の前記側壁側の端部を支持する第1支持部材と、前記踏板の前記出入通路側の端部及び前記側壁を連結する第2支持部材とで支持される両持ち構造であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の通行装置。
【請求項5】
前記踏板の前記出入通路側の端部は前記第2支持部材にピン結合されるとともに、前記踏板の前記側壁側の端部は前記第1支持部材に抜き差し可能なキーで支持されることを特徴とする請求項4に記載の通行装置。
【請求項6】
前記踏板を展開させたときには、
複数の前記踏板が前記出入通路の傾斜に沿って階段状に配置されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の通行装置。
【請求項7】
前記踏板を展開させたときには、
隣接する前記踏板の間に、踏み抜き防止部材が設けられることを特徴とする請求項6に記載の通行装置。
【請求項8】
前記踏板を展開させたときには、
前記踏板の踏面が、前記出入通路の傾斜と平行に配置されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の通行装置。

【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図2−3】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図3−3】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図5】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図8】
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【図9−1】
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【図9−2】
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【図9−3】
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【図9−4】
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【図10−1】
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【図10−2】
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【図11】
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【図12−1】
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【図12−2】
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【図13−1】
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【図13−2】
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【図14】
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【公開番号】特開2007−204917(P2007−204917A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−21301(P2006−21301)
【出願日】平成18年1月30日(2006.1.30)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】