説明

通電加熱方法、通電加熱用電極および通電加熱装置

【課題】より簡易な構成で、ワーク全体を均等な温度で加熱することができる通電加熱方法、通電加熱用電極および通電加熱装置を提供する。
【解決手段】通電加熱装置1を用いた通電加熱方法は、略柱状のワーク10に対する通電加熱方法であって、通電開始時において、ワーク10を冷却するための部材であるヒートシンク6を、ワーク10の側面(外側面10bあるいは内側面10h)の、該側面(外側面10bあるいは内側面10h)の端から所定の範囲の部位として設定する側面端部(外側面端部10dあるいは内側面端部10f)に接触させるとともに、ワーク10に通電するための電極チップ5を、ワーク10の端面10aと側面(外側面10bあるいは内側面10h)の境界部であるエッジ部(外エッジ部10cあるいは内エッジ部10e)に対して帯状に接触させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークに対する通電加熱方法、通電加熱用電極および通電加熱装置の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
熱間鍛造により部品を製造する場合には、部品の元となる素材(以下、ワークと呼ぶ)を、全体的に均等な温度に加熱する必要がある。
このため従来、熱間鍛造を行う場合には、ワーク全体を均等な温度に加熱するための装置として、誘導加熱方式を採用した加熱装置(以下、誘導加熱装置と呼ぶ)が広く使用されている。
【0003】
誘導加熱装置では、ワーク全体を当該装置(より詳しくは誘導コイル)により取り囲んでワークを加熱するため、ワーク全体を取り囲むためのスペースが必要である。
このため、誘導加熱装置では、装置が比較的大型になるという課題があった。
また、熱間鍛造に用いる加熱装置は、電力の消費量が多大であるため、省エネルギーの観点等から、加熱効率の更なる向上が望まれていた。
【0004】
誘導加熱装置に比して加熱効率の更なる向上が見込まれる加熱装置としては、通電加熱方式を採用した加熱装置(以下、通電加熱装置と呼ぶ)が挙げられる。
通電加熱装置では、ワークに直接通電することにより、ワークを発熱(ジュール熱)させて加熱する構成であるため、誘導加熱方式に比して加熱効率が良いという特徴を有している。
またさらに、通電加熱装置では、加熱部たる電極をワークに対して局部的に付設する構成であるため、ワーク全体を加熱装置によって取り囲む必要がなく、誘導加熱装置に比して、装置の構成を簡易かつコンパクトにすることができるという特徴も有している。
【0005】
しかしながら、このような特徴を有する通電加熱装置では、ワークにおける電極を付設した部位の周囲においては、局部的に電流集中が生じて過度に加熱されてしまうため、ワーク全体を均等な温度に加熱することが困難であるという問題があった。そして、ワークの過度に加熱された部位では、溶融・空洞化・組織の変質等を招いてしまうため、通電加熱装置を採用することが実用上困難であった。
【0006】
そこで、通電加熱装置において、ワーク全体を均等な温度で加熱するための技術が種々検討されており、例えば、以下に示す特許文献1および特許文献2にその技術が開示され公知となっている。
【0007】
特許文献1に開示された従来技術では、ワークの両端周面に電極を接触させ、該電極の接触面積を段階的に少なくすることによって、主にワーク中間部分の加熱を促し、その後にワークの両端面に他の電極を接触させて加熱し、ワーク両端部の加熱不足分を補うことによって、ワーク全体を均等な温度に加熱する構成としている。
【0008】
また、特許文献2に開示された従来技術では、ワークの一端部に一対の電極を接触させるとともに、ワークの他端部にも一対の電極を接触させる(即ち、ワークの両端部に2個ずつ(合計4個)の電極を使用する)構成とし、スイッチにより、各電極への通電状態を切り替えることによって、ワーク全体を均等な温度に加熱する構成としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭52−74511号公報
【特許文献2】特開平6−136432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に開示された従来の通電加熱に係る技術では、通電加熱中に複数の電極を移動させたり、通電する電極を切り替えたりする必要があるため、通電加熱方法が複雑となっており、また通電加熱装置の構成も複雑になっていた。
このため、通電加熱方式を採用しつつ、より簡易にワーク全体を均等な温度に加熱することができる通電加熱に係る技術の開発が望まれていた。
【0011】
本発明は、斯かる現状の課題を鑑みてなされたものであり、より簡易な構成で、ワーク全体を均等な温度で加熱することができる通電加熱方法、通電加熱用電極および通電加熱装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0013】
即ち、請求項1においては、略柱状のワークに対する通電加熱方法であって、通電開始時において、前記ワークを冷却するための部材である冷却部材を、前記ワークの側面の、該側面の端から所定の範囲の部位として設定する側面端部に接触させるとともに、前記ワークに通電するための通電加熱用電極を、前記ワークの端面と前記側面の境界部であるエッジ部に対して帯状に接触させるものである。
【0014】
請求項2においては、通電加熱中において、前記通電加熱用電極の前記ワークに対する接触面積を、前記冷却部材から離間する方向に向けて拡大させ続けるものである。
【0015】
請求項3においては、前記通電加熱用電極の前記ワークに対して接触する部位である接触部は、前記ワークに対して最も接近させる部位である凸部と、前記ワークから最も離間させる部位である凹部と、前記凸部と前記凹部を接続する面である斜面と、を備え、通電開始時において、前記凸部を前記エッジ部に接触させるとともに、通電加熱中において、前記ワークを、前記凸部から前記凹部に向けて、前記斜面に倣うように変形させることによって、前記接触面積を拡大させるものである。
【0016】
請求項4においては、前記斜面は、凸曲面として形成されるものである。
【0017】
請求項5においては、前記ワークが円柱状であり、前記通電加熱用電極の前記接触部が前記ワークに接触する方向視において円形であり、前記凸部が前記接触部の外側端部に、前記ワークに接触する方向視において円環状に形成されるものである。
【0018】
請求項6においては、略柱状のワークに対する通電加熱に用いる通電加熱用電極であって、前記ワークに対して接触する部位である接触部は、前記ワークに対して最も接近させる部位である凸部と、前記ワークから最も離間させる部位である凹部と、前記凸部と前記凹部を接続する面である斜面と、を備えるものである。
【0019】
請求項7においては、前記斜面は、凸曲面として形成されるものである。
【0020】
請求項8においては、略柱状のワークに対する通電加熱に用いる通電加熱装置であって、前記ワークに対して通電するための通電加熱用電極を備え、前記通電加熱用電極の前記ワークに対して接触する部位である接触部が、前記ワークに対して最も接近させる部位である凸部と、前記ワークから最も離間させる部位である凹部と、前記凸部と前記凹部を接続する面である斜面と、を備えるものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0022】
請求項1においては、ワークと通電加熱用電極の接触部の近傍で、通電加熱の開始直後に、過加熱となる部位が生じることを防止できる。
【0023】
請求項2においては、電流集中により高温となる領域を、通電加熱中に変位させることができる。これにより、電流集中により高温となる領域が過加熱となることを防止できる。
【0024】
請求項3においては、電流集中により高温となる領域を、通電加熱中に変位させ続けることができる。これにより、通電加熱によって、ワークを均等な温度に加熱することができる。
【0025】
請求項4においては、電流集中により高温となる領域を、通電加熱中に変位させ続けるとともに、通電加熱用電極の寿命を確保できる。
【0026】
請求項5においては、通電加熱によって、円柱状のワークを、均等な温度に加熱することができる。
【0027】
請求項6においては、電流集中により高温となる領域を、通電加熱中に変位させ続けることができる。これにより、通電加熱によって、ワークを均等な温度に加熱することができる。
【0028】
請求項7においては、電流集中により高温となる領域を、通電加熱中に変位させ続けるとともに、通電加熱用電極の寿命を確保できる。
【0029】
請求項8においては、電流集中により高温となる領域を、通電加熱中に変位させ続けることができる。これにより、通電加熱によって、ワークを均等な温度に加熱することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第一および第二の実施形態に係る通電加熱装置の全体構成を示す模式図。
【図2】本発明の第一の実施形態に係る通電加熱装置におけるワークに対する電極チップおよびヒートシンクの配置状態を示す部分断面模式図。
【図3】本発明に係る通電加熱装置の加熱対象物たる中実のワークを示す模式図、(a)円柱状のワークを示す斜視模式図、(b)中実のワークにおいて規定するエッジ部および外側面端部の説明図、(c)略円柱状のワークを示す斜視模式図。
【図4】本発明に係る通電加熱装置の加熱対象物たる中実のワークを示す模式図、(a)三角柱状のワークを示す斜視模式図、(b)四角柱状のワークを示す斜視模式図。
【図5】本発明に係る通電加熱装置の加熱対象物たる中空のワークを示す模式図、(a)円管状のワークを示す斜視模式図、(b)中空のワークにおいて規定する外エッジ部、内エッジ部、外側面端部および内側面端部の説明図。
【図6】本発明の第一の実施形態に係る通電加熱装置におけるワークに対する電極チップおよびヒートシンクの配置状態を示す斜視模式図。
【図7】ワークに対するヒートシンクの配置状態を示す模式図、(a)ワークが中実である場合、(b)ワークが中空である場合。
【図8】円柱ワークに対する電極チップおよびヒートシンクの配置状態を示す斜視模式図、(a)エッジ部における電極チップの配置位置と外側面端部におけるヒートシンクの配置位置を示す図、(b)エッジ部における電極チップの接触位置と外側面端部におけるヒートシンクの接触位置の関係を示す図。
【図9】円管ワークに対する電極チップおよびヒートシンクの配置状態を示す斜視模式図、(a)外エッジ部における電極チップの接触位置と外側面端部におけるヒートシンクの接触位置の関係を示す図、(b)内エッジ部における電極チップの接触位置と内側面端部におけるヒートシンクの接触位置の関係を示す図。
【図10】窪みを有する円柱ワークのエッジ部における電極チップの接触位置と外側面端部におけるヒートシンクの接触位置の関係を示す図。
【図11】三角柱ワークに対する電極チップおよびヒートシンクの配置状態を示す斜視模式図、(a)エッジ部における電極チップの配置位置と外側面端部におけるヒートシンクの配置位置を示す図、(b)エッジ部における電極チップの接触位置と外側面端部におけるヒートシンクの接触位置の関係を示す図。
【図12】四角柱ワークのエッジ部における電極チップ(接触部が矩形状)の接触位置と外側面端部におけるヒートシンクの接触位置の関係を示す図。
【図13】四角柱ワークのエッジ部における電極チップ(接触部が分割された平行線状)の接触位置と外側面端部におけるヒートシンクの接触位置の関係を示す図。
【図14】四角柱ワークに用いる電極チップを示す斜視模式図、(a)図12に示す矩形状の接触部を有する電極チップを示す模式図、(b)図13に示す平行な二つの線状に分割された接触部を有する電極チップを示す模式図、(c)平行な二つの線状に分割され、スリットが形成された接触部を有する電極チップを示す模式図。
【図15】ワークに対する電極チップによる入熱状況とヒートシンクによる抜熱状況を示す模式図、(a)本発明に係る通電加熱方法の場合、(b)従来の通電加熱方法の場合。
【図16】本発明の第二の実施形態に係る通電加熱装置におけるワークに対する電極チップおよびヒートシンクの配置状態を示す部分断面模式図。
【図17】円柱ワークに対する電極チップおよびヒートシンクの配置状態を示す斜視模式図、(a)通電開始時におけるワークに対する電極チップの接触範囲を示す模式図、(b)通電加熱開始後におけるワークに対する電極チップの接触範囲の拡大状況を示す模式図。
【図18】本発明の第二の実施形態に係る通電加熱装置によるワークに対する通電加熱状況を示す模式図。
【図19】本発明の第二の実施形態に係る通電加熱装置における電極チップの第一の変形例を示す模式図、(a)部分断面模式図、(b)通電加熱の開始前後における接触部とエッジ部の接触状況を示す模式図。
【図20】本発明の第二の実施形態に係る通電加熱装置における電極チップの第二の変形例を示す部分断面模式図。
【図21】本発明の第二の実施形態に係る通電加熱装置による通電加熱結果を示す模式図、(a)通電加熱状況を示す模式図、(b)通電加熱結果を示す図。
【図22】従来の通電加熱装置による通電加熱結果を示す模式図、(a)通電加熱状況を示す模式図、(b)通電加熱結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
次に、発明の実施の形態を説明する。
まず始めに、本発明の第一の実施形態に係る通電加熱装置の全体構成について、図1および図2を用いて説明をする。
図1に示す如く、本発明の第一の実施形態に係る通電加熱装置1は、所定のワーク10に対して通電することにより生じる発熱(ジュール発熱)を利用して、該ワーク10を加熱することができる装置であり、変位装置2・2、電極ホルダ3・3、電源装置4、電極チップ5・5、ヒートシンク6・6等を備えている。
尚、本説明において「通電する」とは、所定の抵抗値を有するワーク10の両端部に所定の電圧を印加することによって、ワーク10に対して所定の電流を流すことを意味している。
【0032】
変位装置2は、電極ホルダ3および電極チップ5を変位させて、電極チップ5によりワーク10を押圧させるための装置であり、電極ホルダ3および電極チップ5を支持するための軸状の部位であって軸心方向に往復変位可能なシリンダ部2aを備えている。
尚、本発明の第一の実施形態に係る通電加熱装置1では、変位装置2を油圧シリンダにより構成している。
【0033】
通電加熱装置1では、一対の変位装置2・2を備えており、各シリンダ部2a・2aの端部同士を向かい合わせつつ、各シリンダ部2a・2aの軸心を同一軸心上に配置する構成としている。
尚、通電加熱装置1では、変位装置2を一対で(2個)備える構成としているが、変位装置2を1個のみ備える構成として、一方の電極ホルダ3および電極チップ5は変位可能であって、他方の電極ホルダ3および電極チップ5は通電加熱装置1の図示しない本体フレーム等に固定される構成であってもよい。
【0034】
電極ホルダ3は、電極チップ5を保持するための部位であって、シリンダ部2aの端部に固設されている。
そして、電極ホルダ3は、シリンダ部2aの軸心方向への往復変位に伴って、シリンダ部2aの軸心方向に往復変位される。
【0035】
電極チップ5は、ワーク10に直接接触させることによって、通電加熱装置1におけるワーク10に対する通電経路を形成するとともに、ワーク10を押圧する役目を果たす部位であり、図2に示すように、電極ホルダ3により保持される部位である基部5aと、ワーク10に接触させるための部位である接触部5bを備えている。
そして電極チップ5は、基部5aにおいて形成されるボルト孔(図示せず)にボルト(図示せず)を挿通するとともに、該ボルトを電極ホルダ3に形成したナット孔(図示せず)に螺合させることによって、電極ホルダ3において保持される構成としている。
【0036】
図1に示す如く、各電極チップ5・5は、その軸心を各シリンダ部2a・2aの軸心に略一致させた状態で、各電極ホルダ3・3において保持される構成としている。
このため、各電極チップ5・5の間(各シリンダ部2a・2aの軸心上)にワーク10を配置した状態で、各変位装置2・2を作動させて、各電極チップ5・5を近づける方向へ変位させることにより、各電極チップ5・5によって、ワーク10を長さ方向に対して圧縮する方向に押圧することができる構成としている。
このように通電加熱装置1においては、各電極チップ5・5でワーク10を挟圧することによって、ワーク10が保持される構成としている。
【0037】
また、図2に示すように、電極チップ5の接触部5bには、基部5aに接する側とは反対側において、ワーク10に接触させるための面である接触面5cが形成されている。
そして、接触面5cには、最も基部5aから離間した部位である凸部5dと、最も基部に接近した部位である凹部5eが形成されている。
【0038】
このような構成により、電極チップ5をワーク10に対して接触させるときにおいて、電極チップ5は、凸部5dにおいて、ワーク10と接触し、凹部5eは、ワーク10と接触しない。
【0039】
図1に示す如く、電源装置4は、ワーク10に印加するための所定の電圧を発生させるための電源部であり、配線7・7によって、各電極ホルダ3・3に対して電気的に接続されている。
電源装置4は、ワーク10に所定の電流を流すために、ワーク10が有する抵抗値に応じて、発生させる電圧を調整することができる。
そして、ワーク10に対して、各電極チップ5・5を接触させた状態で、電源装置4によって、各電極ホルダ3・3に所定の電圧を印加することによって、各電極チップ5・5を介して、ワーク10に通電することができる。
【0040】
ヒートシンク6は、ワーク10の温度に比して低い温度に維持される部材であって、ワーク10に接触させることによって、ワーク10から抜熱するための部材であり、ワーク10の外側面10bの形状に対応した形状を有する接触部6cが形成されている。
ヒートシンク6としては、例えば、ワークに比して熱伝達率の高い素材からなる冷し金や、内部に冷媒(水・空気等)を流通させる構成の冷し金、あるいは、ペルチェ素子等を採用することができる。
【0041】
またヒートシンク6は、第一ヒートシンク6aおよび第二ヒートシンク6bの二つまたはそれ以上の部位に分割できるように構成されている。
このためヒートシンク6は、ワーク10を電極チップ5・5により挟圧して保持している状態において、その後でヒートシンク6を外側面10bに対して接触させて、ワーク10から抜熱したり、あるいは、ワーク10を電極チップ5・5により挟圧して保持している状態において、ヒートシンク6の接触を中止させたりすることができる。
【0042】
そして、通電加熱装置1では、ワーク10に対してヒートシンク6を接触させるか否を選択したり、あるいは接触させる時間を調整することによって、ワーク10の冷却度合を調整する構成としている。
【0043】
このように、本発明の第一の実施形態に係る通電加熱装置1は、ワーク10の両端部にそれぞれ一つずつ(合計2個)付設するための電極チップ5・5を備えており、従来に比してより簡易な装置構成となっている。
また、通電加熱装置1では、ワーク10の全体を取り囲む必要がないため、通電加熱装置1自体の大きさも従来に比してコンパクトに構成されている。
【0044】
ここで、本発明に係る通電加熱装置の加熱対象物たるワークについて、図2〜図5を用いて説明をする。
本発明に係る通電加熱装置では、略柱状のワークを通電加熱の対象物としている。
ここで言う「略柱状」とは、直線状の軸心を有し、軸心方向における両端部に端面が形成されるとともに、各端面の縁部同士を接続する側面が形成される形状を意味しており、例えば、円柱や三角柱、四角柱等の多角形柱が含まれる。
また、ここで言う「略柱状」には、中実である形状だけでなく中空である形状も含み、例えば、円筒形状や角パイプ形状等も含まれる。
【0045】
まず、本発明に係る通電加熱装置の加熱対象物たる、中実のワークについて説明する。
本発明に係る通電加熱装置では、例えば、図3(a)に示すような、略円柱状のワーク10(以下、円柱ワーク10Pと呼ぶ)を、通電加熱の対象物とすることができる。
そして、本発明の第一の実施形態に係る通電加熱装置1では、図2に示すように、円柱ワーク10Pを通電加熱の対象物としている。
【0046】
図2および図3(a)に示す如く、円柱ワーク10Pでは、軸心方向における両端部に端面10a・10aが形成されており、また、各端面10a・10aに連続する外側面10bが形成されている。
【0047】
また、円柱ワーク10Pでは、端面10aと外側面10bの境界部(即ち、各面10a・10bが形成する稜線)近傍の範囲の外縁を外エッジ部10cとして規定している。
尚、ここでいう「外エッジ部」とは、図3(b)に示すように、端面10aにおける外側面10bとの境界部近傍の範囲X1のみならず、外側面10bにおける端面10aとの境界部近傍の範囲Y1も含む概念として規定している。
【0048】
また、円柱ワーク10Pでは、外側面10bにおける端面10aと外側面10bの境界部(即ち、各面10a・10bが形成する稜線)近傍の範囲を外側面端部10dとして規定している。
この外側面端部10dの範囲は、円柱ワーク10Pに通電したときに、外側面10bの端部において電流密度が不均一になる範囲に対応させており、その範囲の全部または一部を外側面端部10dとして設定するようにしている。
【0049】
尚、本発明に係る通電加熱装置の加熱対象物たるワーク10は、その軸心方向に直交する断面がいずれの部位においても完全に一致しているものでなくてもよい。
例えばワーク10は、図3(c)に示すような、略円柱状であって、両端面10a・10aに窪み10g・10gが形成されるような態様の円柱状のワーク10(以下、略円柱ワーク10Qと呼ぶ)も、加熱対象物とすることができる。
【0050】
また、その他(円柱状以外)の略柱状の形状を有する中実のワーク10においても、同様に、外エッジ部10c、外側面端部10d等を規定することができる。
例えば、本発明に係る通電加熱装置では、図4(a)に示すような、略三角柱状のワーク10(以下、三角柱ワーク10Rと呼ぶ)を、通電加熱の対象物とすることができる。
三角柱ワーク10Rでは、軸心方向における両端部に端面10a・10aが形成されており、また、各端面10a・10aに連続する3つの外側面10b・10b・10bが形成されている。
そして、三角柱ワーク10Rにおいては、端面10aと各外側面10b・10b・10bの境界部(即ち、各面10a・10b・10b・10bが形成する稜線)近傍の範囲を外エッジ部10cとして規定することができる。
【0051】
さらに、三角柱ワーク10Rにおいては、外側面10bにおける外エッジ部10c近傍の範囲を外側面端部10dとして規定することができる。
【0052】
あるいは、本発明に係る通電加熱装置では、図4(b)に示すような、略四角柱状のワーク10(以下、四角柱ワーク10Sと呼ぶ)を、通電加熱の対象物とすることができる。
四角柱ワーク10Sでは、軸心方向における両端部に端面10a・10aが形成されており、また、各端面10a・10aに連続する4つの外側面10b・10b・10b・10bが形成されている。
そして、四角柱ワーク10Sにおいては、端面10aと各外側面10b・10b・10b・10bの境界部(即ち、各面10a・10b・10b・10b・10bが形成する稜線)近傍の範囲を外エッジ部10cとして規定することができる。
【0053】
さらに、四角柱ワーク10Sにおいては、外側面10bにおける外エッジ部10c近傍の範囲を外側面端部10dとして規定することができる。
【0054】
次に、本発明に係る通電加熱装置の加熱対象物たる中空のワークについて説明する。
本発明に係る通電加熱装置では、例えば、図5(a)に示すような、略円管状の(中空である)ワーク10(以下、円管ワーク10Tと呼ぶ)を、通電加熱の対象物とすることができる。
円管ワーク10Tでは、軸心方向における両端部に端面10a・10aが形成されており、また、各端面10a・10aに連続する外側面10bと内側面10hが形成されている。
そして、円管ワーク10Tでは、端面10aと外側面10bの境界部(即ち、各面10a・10bが形成する稜線)近傍の範囲を外エッジ部10cとして規定するとともに、端面10aと内側面10hの境界部(即ち、各面10a・10hが形成する稜線)近傍の範囲を内エッジ部10eとして規定することができる。
【0055】
尚、ここでいう「内エッジ部」とは、図5(b)に示すように、端面10aにおける内側面10hとの境界部近傍の範囲X2のみならず、内側面10hにおける端面10aとの境界部近傍の範囲Y2も含む概念として規定している。
【0056】
さらに、円管ワーク10Tにおいては、内側面10hにおける内エッジ部10e近傍の範囲を内側面端部10fとして規定することができる。
この内側面端部10fの範囲は、円管ワーク10Tに通電したときに、内側面10hの端部において電流密度が不均一になる範囲に対応させており、その範囲の全部または一部を内側面端部10fとして設定するようにしている。
【0057】
尚、図3〜図5において示した各ワーク10は例示であり、本発明に係る通電加熱装置では、電極チップの形状や、ヒートシンクの形状をワーク10の形状に対応させることによって、その他の種々の「略柱状」のワーク10を通電加熱の対象物とすることができる。
【0058】
ここで、本発明に係る通電加熱装置におけるワークと電極チップとヒートシンクの位置関係について、図6〜図14を用いて説明をする。
図6および図7(a)に示す如く、ワーク10に対しては、各端面10a・10aに各電極チップ5・5の各接触部5b・5bを対面させて配置するとともに、各ヒートシンク6a・6bの各接触部6c・6cを、ワーク10の外側面10bに対面させて配置する。
【0059】
そして、例えば、図8(a)に示すように、円柱ワーク10Pに対する通電加熱に用いる電極チップ5は、接触部5bを略円環状に形成しておくのが好適である。
そして、円柱ワーク10Pに対して通電加熱をする場合においては、通電加熱の開始時において、ヒートシンク6の各接触部6c・6cを外側面端部10dに接触させるとともに、電極チップ5の接触部5bを、外エッジ部10cに接触させるようにしている。
尚、図8(b)に示すように、通電加熱開始時における接触部5bと外エッジ部10cの接触範囲を範囲αと規定し、ヒートシンク6と各面端部10d・10fの接触範囲を範囲βと規定する。
このような構成により、円柱ワーク10Pに対する通電加熱の開始時において、範囲αは、外エッジ部10cに沿って一定の幅で円形かつ帯状に形成するようにしている。
【0060】
また、このような構成により、本発明に係る通電加熱装置により円柱ワーク10Pの通電加熱を行う場合において、電極チップ5のワーク10に対する接触位置(範囲α)と、ヒートシンク6のワーク10に対する接触位置(範囲β)を意図的に接近させるようにしている。
【0061】
また、図9(a)に示すように、円管ワーク10Tに対して通電加熱をする場合においては、電極チップ5の接触部5bを円形の平板状に形成する構成とすることができる。
このとき、接触部5bの直径は、円管ワーク10Tの端面10aにおける軸心位置から外エッジ部10cまでの距離以上の大きさとしておく。
【0062】
そして、円管ワーク10Tに対して通電加熱をする場合において、ヒートシンク6の各接触部6c・6cを外側面端部10dに接触させるときには、通電加熱の開始時において、電極チップ5の接触部5bを、外エッジ部10cに接触させるようにしている。
このような構成により、円管ワーク10Tに対する通電加熱の開始時において、範囲αは、外エッジ部10cに沿って一定の幅で円形かつ帯状に形成するようにしている。
【0063】
あるいは、図9(b)に示すように、円管ワーク10Tに対して通電加熱をする場合において、ヒートシンク6を内側面端部10fに接触させるときには、通電加熱の開始時において、電極チップ5の接触部5bを、内エッジ部10eに接触させるようにしている。
このとき、接触部5bの直径は、円管ワーク10Tの端面10aにおける軸心位置から内エッジ部10eまでの距離以上の大きさとしておく。
このような構成により、円管ワーク10Tに対する通電加熱の開始時において、範囲αは、内エッジ部10eに沿って一定の幅で円形かつ帯状に形成するようにしている。
【0064】
また、このような構成により、本発明に係る通電加熱装置により円管ワーク10Tの通電加熱を行う場合において、電極チップ5のワーク10に対する接触位置(範囲α)と、ヒートシンク6のワーク10に対する接触位置(範囲β)を意図的に接近させるようにしている。
【0065】
また、図10に示すように、各端面10a・10aに窪み10g・10gを有する略円柱ワーク10Qでは、円管ワーク10Tと同様に、内エッジ部10eの存在を観念することができるため、円管ワーク10Tに対応する通電加熱装置と同様の構成の通電加熱装置を用いて通電加熱を行うことができる。
【0066】
即ち、略円柱ワーク10Qに対して通電加熱をする場合において、ヒートシンク6の各接触部6c・6cを外側面端部10dに接触させるときには、通電加熱の開始時において、電極チップ5の接触部5bを、外エッジ部10cに接触させる構成とすることができる。
また、略円柱ワーク10Qに対して通電加熱をする場合において、ヒートシンク6を内側面端部10fに接触させるときには、通電加熱の開始時において、電極チップ5の接触部5bを、内エッジ部10eに接触させる構成とすることができる。
【0067】
さらに、図11(a)に示すように、三角柱ワーク10Rに対して通電加熱をする場合においては、電極チップ5の接触部5bを略円環状に形成する構成とすることができる。
そして、三角柱ワーク10Rに対して通電加熱をする場合には、通電加熱の開始時において、ヒートシンク6の各接触部6c・6cを外側面端部10dに接触させるとともに、電極チップ5の接触部5bを、外エッジ部10cに接触させるようにしている。
このような構成により、三角柱ワーク10Rに対する通電加熱の開始時において、範囲αは、外エッジ部10cと重複する範囲において一定の幅で円形かつ帯状に形成するようにしている。
【0068】
また、このような構成により、本発明に係る通電加熱装置により三角柱ワーク10Rの通電加熱を行う場合において、電極チップ5のワーク10に対する接触位置(範囲α)と、ヒートシンク6のワーク10に対する接触位置(範囲β)を意図的に接近させるようにしている。
【0069】
図12に示すように、四角柱ワーク10Sに対して通電加熱をする場合においては、電極チップ5の接触部5bを図14(a)に示すような略矩形の環状に形成する構成とすることができる。
そして、図12に示すように、四角柱ワーク10Sに対して通電加熱をする場合には、通電加熱の開始時において、ヒートシンク6の各接触部6c・6cを外側面端部10dに接触させるとともに、電極チップ5の接触部5bを、外エッジ部10cに接触させるようにしている。
【0070】
また、図13に示すように、四角柱ワーク10Sに対して通電加熱をする場合においては、図14(b)に示すように、接触部5bを複数の位置に分割して設ける構成とすることが可能である。
そして、図13に示すように、このような接触部5bを有する電極チップ5を用いて四角柱ワーク10Sに対して通電加熱をする場合には、通電加熱の開始時において、電極チップ5の接触部5bを、外エッジ部10cに接触させるとともに、ヒートシンク6の各接触部6c・6cを接触部5bの接触している外エッジ部10cに隣接する各外側面端部10d・10dにのみ接触させる構成とすることが可能である。
【0071】
またさらに、図13に示す接触部5bを複数に分割する場合の分割態様は、図14(c)に示すように、接触部5bにおける凸部5dを間欠的なスリット状に形成する構成とすることも可能である。
【0072】
このように、本発明に係る通電加熱装置では、各エッジ部10c・10eの近傍における発熱(入熱とも呼ぶ)と、各側面10b・10hからの抜熱がバランスする構成であればよく、接触部5bの形状と端面10aの形状は必ずしも一致させる必要はない。
即ち、例えば、三角形である端面10aに対して接触させる電極チップ5の接触部5bは、図11(a)(b)に示すように三角形である必要はなく、電極チップ5の接触位置近傍において過度の発熱が生じた部位から抜熱できる位置にヒートシンク6を接触させて、通電加熱の開始時に過加熱となる部位が生じないような電極チップ5とヒートシンク6の配置関係を適宜選択することができる。
【0073】
ここで、本発明の第一の実施形態に係る通電加熱装置1を用いた通電加熱方法について、図15を用いて説明をする。
尚、本発明の第一の実施形態に係る通電加熱装置1では、図15(a)に示すように、円柱ワーク10Pを通電加熱の対象物としているため、ここでは、円柱ワーク10Pに対する通電加熱方法を例示して説明をする。
【0074】
図15(b)に示す如く、従来の通電加熱方法では、従来の電極チップ35を、ワーク10の端面10aにおける中央付近(即ち、外エッジ部10cから離間した位置)に接触させるようにしていた。
【0075】
即ち、従来の通電加熱方法では、従来のヒートシンク36の外側面10bに対する接触位置と、電極チップ35の端面10aに対する接触位置を、接近させようとする意図はなく、通電加熱の開始時において、ヒートシンク36の接触部36cを外側面端部10dに接触させたとしても、電極チップ35とヒートシンク36の各接触位置は、離間している状態となっていた。
【0076】
ヒートシンク36のワーク10に対する接触位置と、電極チップ35のワーク10に対する接触位置が離間している場合、図15(b)に示すように、ヒートシンク36によって、ワーク温度が過度に上昇した部位(図15(b)に示す高温領域H)から効率よく抜熱することができなかった。
このため、円柱ワーク10Pにおける電極チップ35の接触位置の近傍においては、通電加熱開始時に電流集中が生じて、その高温領域Hにおけるワーク温度が過度に上昇していた。
【0077】
一方、本発明の第一の実施形態に係る通電加熱装置1による通電加熱方法では、電極チップ5は、端面10aにおける外エッジ部10cに接触させるようにしており、また、ヒートシンク6は、外側面10bにおける外側面端部10dに接触させるようにしている。
【0078】
即ち、本発明の第一の実施形態に係る通電加熱装置1による通電加熱方法では、ワーク10の外側面10bに接触させるヒートシンク6と、電極チップ5の接触位置を、意図的に接近させるようにしており、通電加熱の開始時において、ヒートシンク6と電極チップ5の各接触位置が、接近している状態となっている。
【0079】
ヒートシンク6の円柱ワーク10Pに対する接触位置と、電極チップ5の円柱ワーク10Pに対する接触位置を接近させた場合、図15(a)に示すように、ヒートシンク6によって、ワーク温度の上昇部(図15(a)に示す高温領域H)から効率よく抜熱することができる。
このため、円柱ワーク10Pにおける電極チップ5の接触位置の近傍(高温領域H)においては、通電加熱開始時に電流集中が生じたとしても、その高温領域Hにおけるワーク温度の上昇を抑えることができる。
【0080】
このため、本発明の第一の実施形態に係る通電加熱装置1による通電加熱方法では、円柱ワーク10Pにおける電極チップ5の接触位置の近傍(高温領域H)において、ワーク温度が過度に上昇することを防止できる。
【0081】
尚、本説明では、円柱ワーク10Pを通電加熱の対象物とする通電加熱装置1による通電加熱方法を例示して説明をしたが、本発明に係る通電加熱方法の適用対象たるワーク10を円柱ワーク10Pに限定するものではなく、図8〜図14に示したように、各種の「略柱状」のワークに対応した電極チップおよびヒートシンクを用いるとともに、電極チップの接触位置(範囲α)と、ヒートシンクの接触位置(範囲β)を意図的に接近させる構成とすれば、種々の形状のワークについて、通電加熱開始時に、高温領域Hにおけるワーク温度の過度の上昇を防止できる。
【0082】
即ち、本発明の第一の実施形態に係る通電加熱装置1を用いた通電加熱方法は、略柱状のワーク10に対する通電加熱方法であって、通電開始時において、ワーク10を冷却するための部材であるヒートシンク6を、ワーク10の側面(外側面10bあるいは内側面10h)の、該側面(外側面10bあるいは内側面10h)の端から所定の範囲の部位として設定する側面端部(外側面端部10dあるいは内側面端部10f)に接触させるとともに、ワーク10に通電するための電極チップ5を、ワーク10の端面10aと側面(外側面10bあるいは内側面10h)の境界部であるエッジ部(外エッジ部10cあるいは内エッジ部10e)に対して帯状に接触させるものである。
このような構成により、ワーク10と電極チップ5の接触部の近傍で、通電加熱の開始直後に、過加熱となる部位が生じることを防止できる。
【0083】
次に、本発明の第二の実施形態に係る通電加熱装置について、図1および図16を用いて説明をする。
図1に示す如く、本発明の第二の実施形態に係る通電加熱装置21は、電極チップ25・25を備える点で、前述した本発明の第一の実施形態に係る通電加熱装置1と相違しており、その他の構成については、通電加熱装置1と共通している。
【0084】
図16に示す如く、本発明の第二の実施形態に係る通電加熱装置21に備えられる電極チップ25は、ワーク10に直接接触させることによって、通電加熱装置21におけるワーク10に対する通電経路を形成するとともに、ワーク10を押圧する役目を果たす部位であり、電極ホルダ3により保持される部位である基部25aと、ワーク10に接触させるための部位である接触部25bを備えている
また、電極チップ25の接触部25bには、基部25aに接する側と反対側の面において、ワーク10に接触するための面である接触面25cが形成されている。
そして、接触面25cには、最も基部25aから離間した部位である凸部25dと、最も基部に接近した部位である凹部25eが形成されている。
【0085】
また、電極チップ25では、凸部25dと凹部25eを、斜面25fによって連続される構成としている。
また、斜面25fは、基部25aを基準とした面の高さが、凸部25dから凹部25eに向けて単調減少する形状としている。即ち、斜面25fの形状は、凸部25dと凹部25eの間において、基部25aに対して平行な面を存在させない形状としている。
そして、斜面25fは、外エッジ部10cに接触する範囲を、凸曲面とする構成としている。
尚、本実施形態では、凸曲面である斜面25fを例示しているが、凸曲面の曲率半径を無限大にして、斜面25fを平らな面で構成することも可能であり、またあるいは、斜面25fに相当する部位を、凸部25dから凹部25fに向けて下っていく階段状の部位で構成することも可能である。
【0086】
次に、通電加熱装置21による通電加熱方法について、図1および図16〜図20を用いて説明をする。
尚、本発明の第二の実施形態に係る通電加熱装置21では、図1に示すように、円柱ワーク10Pを通電加熱の対象物としているため、ここでは、円柱ワーク10Pに対する通電加熱方法を例示して説明をする。
【0087】
通電加熱装置21による通電加熱方法では、まず始めに、図16に示すように、電極チップ25の凸部25dを端面10aの外エッジ部10cに接触させた状態で、電極チップ25によって、円柱ワーク10Pを挟圧する。
このときの凸部25dの端面10aに対する接触範囲は、図17(a)に示すように、外エッジ部10cに沿った円環状の範囲となっている。また、このときの凸部25dの端面10aに対する接触範囲を、図18に示すように、範囲S1と規定する。
【0088】
そして、電極チップ25・25が範囲S1で接触している状態で、円柱ワーク10Pに対して通電を開始する。
すると、端面10aに対する凸部25dの接触部の近傍において、電流集中が起こり、当該接触部の近傍において、高温領域H1が生じる。
尚、ここでいう「高温領域」は、過加熱となる温度(即ち、ワーク10を構成する材質の融点以上の温度)にまでは至っていないが、当該材質が軟化する温度に至っている部位を意味している。
【0089】
電極チップ25は、ヒートシンクとしての役割も果たすため、端面10aにおける電極チップ25の接触部位は、電極チップ25によって抜熱(冷却)される。
この結果、電極チップ25の接触部近傍において最も高温となる部位(即ち、高温領域H1)は、図18に示すように、端面10aから若干円柱ワーク10Pの内部に入った部位において生じることとなる。
また、この高温領域H1の周囲では、円柱ワーク10Pは軟化している。
【0090】
即ち、本発明の第二の実施形態に係る通電加熱装置21を用いた通電加熱方法は、ワーク10が円柱状の円柱ワーク10Pであり、電極チップ25の接触部25bが円柱ワーク10Pに接触する方向視において円形であり、凸部25dが接触部25bの外側端部に、円柱ワーク10Pに接触する方向視において円環状に形成されるものである。
このような構成により、通電加熱によって、円柱ワーク10Pを、均等な温度に加熱することができる。
【0091】
次に、各電極チップ25・25により円柱ワーク10Pを挟圧しながら継続して通電していると、軟化した高温領域H1が凸部25dの形状に沿うように変形して、電極チップ25と端面10aの接触面積が拡大するようになる。
このときの凸部25dの端面10aに対する接触範囲は、図17(b)に示すように、引き続き外エッジ部10cに沿った円環状の範囲となっており、また、接触面積が、外エッジ部10cを基準として、ヒートシンク6から離間する方向に拡大している。
また、このときの凸部25dの端面10aに対する接触範囲を、図18に示すように、範囲S1に比して広範囲である範囲S2と規定する。
【0092】
このときの電流集中の度合は、凸部25dの端面10aに対する接触範囲が範囲S1から範囲S2に拡大するのに伴って緩和されている。
また、通電加熱開始時(即ち、接触範囲がS1であったとき)の高温領域H1には、ヒートシンク6による抜熱の効果が及び、既に冷却が進んでいるため、最もワーク温度が高温となる部位が、接触面積の拡大された方向に(即ち、高温領域H1を基準としてヒートシンク6から離間する方向に)向けて変位して、新たな高温領域H2が生じる。
高温領域H2におけるワーク温度は、電流集中の緩和に伴って、通電加熱開始時の高温領域H1におけるワーク温度に比して低くなっており、また、高温領域H2の範囲も高温領域H1に比して縮小されている。
【0093】
そしてさらに、各電極チップ25・25により円柱ワーク10Pを挟圧しながら継続して通電していると、軟化した高温領域H2が凸部25dに沿ってさらに変形するため、電極チップ25と端面10aの接触面積がさらに拡大する。
このときの凸部25dの端面10aに対する接触範囲を、図18に示すように、範囲S2に比してさらに広範囲である範囲S3と規定する。
【0094】
このときの電流集中の度合は、凸部25dの端面10aに対する接触範囲が範囲S2から範囲S3に拡大するのに伴ってさらに緩和されている。
また、高温領域H2には、ヒートシンク6による抜熱の効果が及び、既に冷却が進んでいるため、最もワーク温度が高温となる部位が、接触面積の拡大された方向に(即ち、高温領域H2を基準としてヒートシンク6から離間する方向に)向けて変位して、新たな高温領域H3が生じる。
高温領域H3におけるワーク温度は、電流集中のさらなる緩和に伴って、高温領域H2におけるワーク温度に比してさらに低くなっており、また、高温領域H3の範囲も高温領域H2に比してさらに縮小されている。
【0095】
そして、やがて凸部25dの端面10aに対する接触面積は、電流集中の影響が無視できる面積にまで拡大されていく。
【0096】
このように、本発明の第二の実施形態に係る通電加熱装置21を用いた通電加熱方法によれば、通電加熱の進行に伴って、電極チップ25と端面10aとの接触面積を拡大させることができ、これにより、電流集中をより生じにくい状態に移行させることができる。
またこれと同時に、本発明の第二の実施形態に係る通電加熱装置21を用いた通電加熱方法によれば、高温領域の位置を、通電加熱の進行に伴って、通電開始時の電極チップ25と端面10aとの接触位置を基準として、ヒートシンク6から離間する方向に移動させることができ、これにより、特定の部位が過加熱の状態に至ることが防止できる。
そして、これらの相乗効果により、通電開始時から通電終了時に至るまで、入熱と抜熱のバランス状態を継続することが可能になり、ワーク10の電極チップ5・5の接触位置の近傍において、過度に加熱される部位が生じるのを確実に防止することができる。
【0097】
即ち、本発明の第二の実施形態に係る通電加熱装置21を用いた通電加熱方法は、通電加熱中において、電極チップ25の円柱ワーク10Pに対する接触面積を、ヒートシンク6から離間する方向に向けて拡大させ続けるものである。
このような構成により、電流集中により高温となる領域(高温領域)を、通電加熱中に変位させることができる。これにより、高温領域が過加熱となることを防止できる。
【0098】
また、このような通電加熱の過程において、電極チップ25と端面10aとの接触面積の拡大が止まることは、局部的に過度の加熱が生じる原因となるため、電極チップ25と端面10aとの接触面積は、通電加熱の開始時から通電加熱の終了時まで継続して拡大し続けることが望ましい。
このため、凸部25dと凹部25eを斜面25fで接続させることによって、通電加熱の開始時から通電加熱の終了時まで電極チップ25と端面10aとの接触面積を拡大させ続けることができる。
【0099】
即ち、本発明の第二の実施形態に係る通電加熱装置21が備える電極チップ25は、略柱状のワーク10(本実施形態では、円柱ワーク10P)に対する通電加熱に用いるものであって、円柱ワーク10Pに対して接触する部位である接触部25bは、円柱ワーク10Pに対して最も接近させる部位である凸部25dと、円柱ワーク10Pから最も離間させる部位である凹部25eと、凸部25dと凹部25eを接続する面である斜面25fと、を備えるものである。
【0100】
また、本発明の第二の実施形態に係る通電加熱装置21は、略柱状のワーク10(本実施形態では円柱ワーク10P)に対する通電加熱に用いるものであって、円柱ワーク10Pに対して通電するための通電加熱用電極たる電極チップ25を備え、電極チップ25の円柱ワーク10Pに対して接触する部位である接触部25bが、円柱ワーク10Pに対して最も接近させる部位である凸部25dと、円柱ワーク10Pから最も離間させる部位である凹部25eと、凸部25dと凹部25eを接続する面である斜面25fと、を備えるものである。
【0101】
そして、本発明の第二の実施形態に係る通電加熱装置21を用いた通電加熱方法において、電極チップ25の円柱ワーク10Pに対して接触する部位である接触部25bは、円柱ワーク10Pに対して最も接近させる部位である凸部25dと、円柱ワーク10Pから最も離間させる部位である凹部25eと、凸部25dと凹部25eを接続する面である斜面25fと、を備え、通電開始時において、前記凸部25dを外エッジ部10cに接触させるとともに、通電加熱中は、円柱ワーク10Pを、凸部25dから凹部25eに向けて、斜面25fに倣うように変形させることによって、接触面積を拡大させるものである。
【0102】
このような構成により、電流集中により高温となる領域(高温領域)を、通電加熱中に変位させ続けることができる。これにより、通電加熱によって、ワーク10(本実施形態では円柱ワーク10P)を均等な温度に加熱することができる。
【0103】
そして、電極チップ25の寿命を確保するためには、斜面25fを凸曲面で構成するのが好適である。
即ち、斜面25fを凸曲面で構成しておけば、電極チップ25と端面10aとの接触面積の拡大する際に、電極チップ25と端面10aが接触する部位における逃げ角度をより大きくすることができるため、電極チップ25の摩耗等を抑制することができる。
【0104】
即ち、本発明の第二の実施形態に係る通電加熱装置21を用いた通電加熱方法において、斜面25fは、凸曲面として形成されるものである。
また、本発明の第二の実施形態に係る通電加熱装置21が備える電極チップ25において、斜面25fは、凸曲面として形成されるものである。
このような構成により、電流集中により高温となる領域を、通電加熱中に変位させ続けるとともに、電極チップ25の寿命を確保できる。
【0105】
尚、本実施形態では、円柱ワーク10Pの軸心方向視において、電極チップ25の接触面25cの面積が、端面10aの面積に比して小さい場合を例示しており、凸部25dが端面10aと外側面10bの境界部(端面10aと外側面10bによって形成する稜線)よりも端面10a側における外エッジ部10cに接触する場合を例示しているが、例えば、図19(a)に示すように、円柱ワーク10Pの軸心方向視において、電極チップ25の接触面25cの面積が、端面10aの面積に比して大きくする構成であってもよい。
この場合、図19(b)に示すように、凸部25dが端面10aと外側面10bの境界部(端面10aと外側面10bによって形成する稜線)よりも外側面10b側における外エッジ部10cに接触する。
【0106】
また、本実施形態では、電極チップ25に斜面25fを形成する態様としているが、例えば、図20に示すように、円柱ワーク10Pの端面10aに斜面10sを形成するとともに、電極チップ25の接触部25bの接触面25cを平面状(即ち、凸部25d、凹部25e、斜面25fを設けない)に形成する構成とした場合であっても、上述した実施形態と同様に、通電加熱の進行に伴って電極チップ25とワーク10の接触面積を拡大させることが可能である。
【0107】
次に、本発明の第二の実施形態に係る通電加熱装置21を用いて通電加熱を行った場合のワーク10の温度について、図21および図22を用いて説明をする。
ここでは、従来の通電加熱装置31を用いて通電加熱をした場合のワーク10の温度と、本発明の第二の実施形態に係る通電加熱装置21を用いて通電加熱をした場合のワーク10の温度を比較して説明をする。
【0108】
図22(a)に示すような従来の通電加熱装置31を用いた場合、電極チップ35を、ワーク10の端面10aにおける中心部に接触させる構成としている。
この場合、図22(b)に示すように、ワーク10の長さ方向における略中央の部位(図22(a)における点C)のワーク温度と、ワーク10の長さ方向における端部(図22(a)における点D)のワーク温度が、大きく相違している。
また、端部(点D)におけるワーク温度の上昇度合が、略中央の部位(点C)におけるワーク温度の上昇度合に比して高く、端部(点D)近傍において、過度の加熱が生じている状況が確認できる。
【0109】
即ち、図22(b)に示す実験結果によれば、従来の通電加熱装置31では、簡易な装置構成であるが、ワーク10を全体的に均等な温度に加熱するのが困難であり、また電極チップ35の接触部位の近傍において、ワーク10の溶融および変質等を招いてしまうことが確認できる。
【0110】
一方、図21(a)に示すような本発明の第二の実施形態に係る通電加熱装置21を用いた場合、図21(b)に示すように、ワーク10の長さ方向における略中央の部位(図21(a)における点A)のワーク温度と、ワーク10の長さ方向における端部(図21(a)における点B)のワーク温度が、加熱中における温度上昇の傾向が異なるものの、端部(点B)において過度の加熱が生じている様子もなく、また、最終的な到達温度および到達時間は良く一致している。
【0111】
即ち、図21(b)に示す実験結果によれば、本発明の第二の実施形態に係る通電加熱装置21は、簡易な装置構成でありながら、ワーク10を全体的に均等な温度に加熱することが可能であり、また電極チップ35の接触部位の近傍において、ワーク10の溶融や組織の変質等を招くことがないということが確認できる。
【符号の説明】
【0112】
1 通電加熱装置(第一の実施形態)
5 電極チップ(第一の実施形態)
5b 接触部
6 ヒートシンク
10 ワーク
10a 端面
10b 外側面
10c 外エッジ部
10d 外側面端部
10e 内エッジ部
10f 内側面端部
10h 内側面
21 通電加熱装置(第二の実施形態)
25 電極チップ(第二の実施形態)
25b 接触部
25c 接触面
25d 凸部
25e 凹部
25f 斜面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略柱状のワークに対する通電加熱方法であって、
通電開始時において、
前記ワークを冷却するための部材である冷却部材を、
前記ワークの側面の、該側面の端から所定の範囲の部位として設定する側面端部に接触させるとともに、
前記ワークに通電するための通電加熱用電極を、
前記ワークの端面と前記側面の境界部であるエッジ部に対して帯状に接触させる、
ことを特徴とする通電加熱方法。
【請求項2】
通電加熱中において、
前記通電加熱用電極の前記ワークに対する接触面積を、
前記冷却部材から離間する方向に向けて拡大させ続ける、
ことを特徴とする請求項1に記載の通電加熱方法。
【請求項3】
前記通電加熱用電極の前記ワークに対して接触する部位である接触部は、
前記ワークに対して最も接近させる部位である凸部と、
前記ワークから最も離間させる部位である凹部と、
前記凸部と前記凹部を接続する面である斜面と、を備え、
通電開始時において、
前記凸部を前記エッジ部に接触させるとともに、
通電加熱中において、
前記ワークを、
前記凸部から前記凹部に向けて、前記斜面に倣うように変形させることによって、
前記接触面積を拡大させる、
ことを特徴とする請求項2に記載の通電加熱方法。
【請求項4】
前記斜面は、
凸曲面として形成される、
ことを特徴とする請求項3に記載の通電加熱方法。
【請求項5】
前記ワークが円柱状であり、
前記通電加熱用電極の前記接触部が前記ワークに接触する方向視において円形であり、
前記凸部が前記接触部の外側端部に、前記ワークに接触する方向視において円環状に形成される、
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の通電加熱方法。
【請求項6】
略柱状のワークに対する通電加熱に用いる通電加熱用電極であって、
前記ワークに対して接触する部位である接触部は、
前記ワークに対して最も接近させる部位である凸部と、
前記ワークから最も離間させる部位である凹部と、
前記凸部と前記凹部を接続する面である斜面と、を備える、
ことを特徴とする通電加熱用電極。
【請求項7】
前記斜面は、
凸曲面として形成される、
ことを特徴とする請求項6に記載の通電加熱用電極。
【請求項8】
略柱状のワークに対する通電加熱に用いる通電加熱装置であって、
前記ワークに対して通電するための通電加熱用電極を備え、
前記通電加熱用電極の前記ワークに対して接触する部位である接触部が、
前記ワークに対して最も接近させる部位である凸部と、
前記ワークから最も離間させる部位である凹部と、
前記凸部と前記凹部を接続する面である斜面と、を備える、
ことを特徴とする通電加熱装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate


【公開番号】特開2012−221893(P2012−221893A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89428(P2011−89428)
【出願日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】