説明

通電熱カシメ接合方法と装置

【課題】通電熱カシメ接合部の部品寸法精度を飛躍的に向上させることを課題とする。
【解決手段】被カシメ接合部を正負一対の電極で挟みつけて加圧・通電して熱カシメ接合する場合に,少なくとも一方の電極を電動モータのトルク電流により加圧力と位置決め・移動速度をクローズドループ方式で制御し,その通電熱カシメ過程中に一方の電極が予め設定された通電熱カシメ接合部のモデル厚さ寸法に達したとき又はモデル厚さ寸法の僅か手前の位置に達したときに,通電中の加熱電流を遮断すると共に,電動モータのトルク制限又はトルク制御を解除し位置制御に切り替える。これによって熱カシメ接合部の変位量が最終的にモデル厚さ寸法hに達するのを検出してトルク解除した状態で正規位置を保持することができる。モデル厚さ寸法のモニタリング精度を向上することによって部品品質向上とタクトタイムの短縮を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,モータ,リレーコイル,ソレノイド端末などの絶縁被膜電線(以下 被膜線という)を複数本束ねた被膜線とターミナル(以下 接続端子という)とをセットし,これを電極間で加圧し通電加熱しながら端子の接合部分の寸法高さを目標の部品高さ(以下 モデル厚さ寸法という)まで押し潰して通電熱カシメする場合に,前記接合部分の部品精度を向上させるために,被カシメ接合部の厚さ方向の寸法を常に目標のモデル厚さ寸法に確定させる品質管理機能を充実させた熱カシメ接合方法と装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来,エナメル線又は樹脂等の被膜を有する絶縁被膜電線と接続端子とを結合する場合または絶縁被膜電線を接続端子その他の金属チップ類に重ねあわせ,その重ね合わせた被接合部を,抵抗発熱を利用して熱カシメする場合,あるいは自動車用エンジンカバーなどマグネシウム系合金,アルミニウム系合金などの嵌め込み式の突起カシメ部材を,抵抗発熱を利用して塑性変形させて熱カシメする場合などに通電熱カシメ機が利用されてきた。
【0003】
エナメル線又は樹脂等の被膜を有する絶縁被膜電線と接続端子との結合は接合部分の十分な溶着力はもとより熱カシメ部分の厚さに寸法のバラツキがあってはならない。
【0004】
従来は通電熱カシメ機の電極加圧用のアクチュエータにはエアシリンダ又は電動モータが使用されてきたが,従来のエア方式による加圧方法の一つには,たとえば絶縁被膜で被覆された複数の電導線を束ねて接続端子のフック部(圧着接合部)に挿入し,このフック部を下側電極の断面三日月状の凹状溝に位置決めした後,上側電極を下降させて電極チップ先端の曲面状の凸部でフック部を加圧・加熱することでフック部の一部に陥没状の凹部を形成し同時にフック部内の電導線の一部の絶縁被膜を溶解除去して電導線とフック部を電気的に接合する方法が知られている(特許文献1,2)。
【0005】
また,従来,電動モータを加圧用のアクチュエータに使用した通電熱カシメ機には端子寸法管理を向上させるために,少なくとも一方の電極を電動モータで駆動し,電極位置決め,電極変位及び/又は熱カシメに必要な加圧力又は加熱電流を制御可能とし,通電カシメ中に,モータ出力で駆動する電極の変位量が予め設定した端子寸法に達するまで加圧・通電を行い,目標位置に来たときに通電と電極加圧を解除することで端子接合部の厚さ寸法の品質管理を行う方法が知られている(特許文献3,4)。
【0006】
前者のエアタイプの加圧機構では次のような問題があると考えられていた。
1.フック部を下側電極の断面凹状溝に位置決めする方法は,専用機と同様にフック部のサイズによって用途範囲が制約される。
2.またこの種の従来方式では陥没状の凹部の形状を曲面形状にすることで加圧変形を円滑にすることはできるが,位置決め精度が精密でなく接合部分の厚さ方向の寸法精度を高めるための品質管理上の対策については十分な配慮がなされていない。
3.また一般に試みられてきた従来方法には外部に変位センサー等を取り付けて電極の動きを測定し,実際に押し潰されたカシメ量と設定した被カシメ接合部の高さ寸法とを比較して目標値に有るかどうかモニタリングする方法もあるが,前記センサーからの信号の授受やエア供給や摺動部の動きにタイムラグが生じ,部品精度の向上に十分対応できない。
4.部品精度が悪い場合は接続端子とエナメル線の熱カシメ接合部の機械的性能(引張り強度・繰り返し曲げ強度)の低下,電気的機能(抵抗値の増加)の低下や機械的・電気的性能,後工程の組付け精度などいろいろのバラツキ量が増加し,これによってモータの性能を低下させなど様々な問題を誘引する。
【0007】
後者の電動タイプの加圧機構では,次のような点で品質管理上十分とはいえない。すなわち,エンコーダ又はリニアセンサを取り付けて機械的な動きで寸法測定を行うことで,たとえば図7の加圧シーケンスに示すように,実際の押し潰された端子カシメ量と設定した所定寸法とを比較してカシメ量が所定寸法に達したときに,電流を打ち切ると共にシーケンス上のホールドタイム(約1サイクル〜20サイクル)が終了するまで電動モータにトルクを発生させて電極が被カシメ接合部を加圧し続けるため,ホールド完了から電極開放までの間に発熱体のタングステン電極が300℃〜500℃の高温に加熱され,その発熱度合いや電極の冷却温度差等が原因し,被カシメ接合部のカシメ量が微妙に変化し,ときには電極開放時に被カシメ接合部がずれたりするなど,この部品精度上の問題はしばしば季節変化(夏期,冬期)の温度差によっても左右されることがあり,部品精度を上げるためにはまだ解決すべきいろいろな問題が残されていた。
【特許文献1】特開平7−256464号公報,
【特許文献2】特開平8−132245号公報,
【特許文献3】特開平11−121136号公報
【特許文献4】特開2002―134246号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明により解決しようとする問題点は,たとえば電気モータコイル端子等の接続端子とエナメル線との通電熱カシメによる端子接合部等の被カシメ接合部の厚さ方向の部品寸法のバラツキをなくすと共に,目標のモデル厚さ寸法の精度を確定しかつ検証できる品質管理の向上を図るための通電熱カシメ接合方法及び装置を簡易的に実現する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで,本発明は前記の目的を達成するために次のような技術的手段を講じてある。すなわち請求項1は,被カシメ接合部を正負一対の電極で挟みつけて加圧・通電して熱カシメする場合に,少なくとも一方の電極を電動モータのトルク電流により加圧力と位置決め・速度をクローズドループ方式で制御し,その通電熱カシメ過程中に前記一方の電極が予め設定された被カシメ接合部のモデル厚さ寸法に達したとき又はモデル厚さ寸法の近傍位置に達したときに,通電中の加熱電流を遮断すると共に,前記モータのトルク制限またはトルク制御から位置制御に切り替え,これによって前記接合部分の厚さ方向の寸法をモデル厚さ寸法に確定することを特徴とする。
【0010】
次に請求項2の発明は,複数の被膜線を結束して,その結束した前記被膜線を接続端子に挿入し,その挿入して形成された被カシメ接合部を正負一対の電極で挟みつけて加圧・通電して加熱し,前記被カシメ接合部の絶縁被膜を溶融除去して前記被膜線と前記端子とを結合する場合に,少なくとも一方の電極を電動モータのトルク電流により加圧力と位置決め・速度をクローズドループ方式で制御し,その通電熱カシメ中に前記電極が予め設定された通電熱カシメ接合部のモデル厚さ寸法又はモデル厚さ寸法の近傍位置に達したとき,通電中の加熱電流を遮断する共に前記トルク制限またはトルク制御を解除し位置制御に切り替える方法において,前記接合部分の厚さ方向の寸法が前記モデル厚さ寸法と一致するようフィードバック制御することを特徴とする。
【0011】
次に本発明の請求項3の発明は,複数の被膜線を結束して,その結束した前記被膜線を接続端子に挿入し,その挿入して形成された被カシメ接合部を支持するワーク治具と,前記ワーク治具の近傍に設置されたマニピュレータと,前記マニピュレータに支持された少なくとも一方の電極は電動モータで加圧駆動する正負一対の電極を有するアクチュエータユニットと,前記マニピュレータの複数軸と前記アクチュエータユニットの駆動軸及び加圧力,加熱電流,通電時間,電極位置決め,移動速度等のパラメータ情報にしたがってクローズドループ方式で制御するコントローラおよび前記コントローラからのデジタル信号で前記電極間にトランスを介して熱カシメ電力を供給する熱カシメ電源の開閉器を時間的に制御する加熱電源制御部と,前記被膜線と前記端子とを結合する通電熱カシメ過程中に,前記電極の変位量を変位センサーにより検出し,この変位センサーで検出した変位量があらかじめ前記コントローラに設定された通電熱カシメ接合部のモデル厚さ寸法に対応したβ基準値又は前記電極が前記モデル厚さ寸法の近傍位置に対応するα基準値とを演算(CPU)手段に取り込み,前記演算部によって比較演算した結果,前記変位量が前記β値又はα値に達したとき,前記演算部からの出力信号で前記加熱電源制御部と前記モータアンプを動作し通電中の加熱電流を遮断すると共に前記モータのトルク制限またはトルク制御を解除し,位置制御に切り替えるカシメ位置演算制御部とによって前記モデル厚さ寸法を確定する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の請求項1は従来,変位計からの外部信号で通電停止とモータ出力トルクを制御して電極の位置決めに対応してきた方法・装置と対比し,一方の可動電極が通電熱カシメ過程中において,予め設定された通電熱カシメ接合部のモデル厚さ寸法に達したとき又はモデル厚さ寸法の近傍位置に達したときに,通電中の加熱電流を打ち切ると共に,前記モータのトルク制限またはトルク制御から位置制御に切り替えることによって電極発熱温度の度合いや冷却温度の度合いに関係なくカシメ部分の潰し量のバラツキを抑制することで前記接合部分の厚さ方向の寸法をモデル厚さ精度に確定することができる。
【0013】
本発明の請求項2は,前記接合部分の厚さ方向の寸法が前記モデル厚さ寸法と一致するようフィードバック制御することにより通電熱カシメ過程中おいて従来の電動加圧方式と比較し目標位置を確認してからトルク制限またはトルク制御を解除し位置制御に切り替るため確実にモデル厚さ寸法に一致させることができ部品精度を飛躍的に向上させることができる。
【0014】
本発明の請求項3は通電熱カシメ過程中の前記電極の変位量とあらかじめ設定された通電熱カシメ接合部のモデル厚さ寸法に対応したβ基準値又は前記モデル厚さ寸法の近傍位置に対応したα基準値との比較結果をみて通電中の加熱電流を遮断すると共に前記モータの前記トルク制限またはトルク制御を解除し,以降は位置制御に切り替えてシーケンス制御を行うので,従来の外部の変位計で機械的に目視する電動加圧シーケンスと比較し計測目標位置をモータの位置制御で実際に見極めることができるため被カシメ接合部の厚さ寸法を正確にモニタリングすることができ一定のモデル厚さ寸法に品質精度を確定することができる。したがってモニタリングの精度を高めることにより加熱通電時間も加熱電流を上げることによって通電時間を短縮してモデル厚さ寸法hに到達させることも可能となり,タクトタイムの短縮化による生産性向上も可能となる通電熱カシメ接合装置を簡単かつ安価に製作できる利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
たとえば図1(A),(B),(C)の例に示するように電気モータコイル端子等のチューブ状の接合部分を有する銅製に錫めっきを施された接続端子W1とエナメル線(リード線)等の絶縁被覆された被覆線W2との通電熱カシメによる被カシメ接合部W3の外径の高さ寸法つまりカシメ加工前の前記接合部の厚さ寸法Hを品質上の目標とする接合部分のモデル厚さ寸法hと常に一定したカシメ後の接合部厚さを得ることができる品質管理上極めて有用な通電熱カシメ接合方法及び装置を実現する。
【実施例1】
【0016】
図1は本発明の実施例で,通電熱カシメ接合方法を実施するための装置のカシメ工程を示す。図2は本発明装置の制御構成を示す電気ブロック図である。図3は本発明の通電熱カシメ接合方法を実施する制御動作を示すシーケンスである。図4は本発明の装置に使用される正負対をなす電極の初期加圧位置を示す正面図である。図5は図4の平面図である。図6は本発明の装置による通電熱カシメ位置を示す正面図である。
【0017】
図に示す通電熱カシメ機1は本発明の通電熱カシメによる接合方法を実施するために用いた一つの例である。図の通電熱カシメ機1は一般に知られている定置形通電熱カシメ機または図では省略したがロボットまたはマニピュレータ等の自動装置に搭載されるサーボスポットCタイプガン,サーボスポットXタイプガンを問うものではない。
【0018】
図1及び図2において,本発明の通電熱カシメ機1は主要構成部分の一部に正負一対の電極2,3を持ち,そのうち一方の電極2は可動側の電極として,ボールねじBとナットNにより電動モータ4(サーボモータ)の回転運動を直線運動に変換するシステムから構成されたアクチュエータユニット5により駆動される。このアクチュエータユニット5の1軸及び/又は前記マニピュレータの持つ複数軸は共にコントローラ6によりクローズドループ方式で制御され,電極間の加圧力と溶接電流と通電時間,電極位置決め,移動速度,通電熱カシメ接合に必要な他のパラメータはすべて前記コントローラ6の主制御部7に記録・設定される。一方の電極2は主制御部7にしたがって相対する他方の固定側の電極との間で被カシメ接合部をクランプできるように,電動モータ4のトルク電流及びエンコーダ8からのパルス信号により同期制御が再現される構成になっている。
【0019】
本発明の通電熱カシメ機は前記アクチュエータユニット5の1軸又は2軸をドライブするモータアンプ9と,加熱電源制御部10と前記熱カシメ機の熱カシメ電源の電子スイッチを制御するコンタクタ11と,複数個の被カシメ接合部を位置固定して各被カシメ接合部のステータに巻かれた複数の被膜線W2を結束して,その結束した前記被膜線を接続端子W1に挿入した被カシメ接合部W3を所定位置で支持するワーク治具(図省略)とが備えられている。
この場合,接続端子の形状は外径10mm,内径6.0mmのチューブ端子で長さ10mmのものである。被覆線の太さは1mmのもので20本を前記端子チューブに挿入して形成した被カシメ接合部を実験に試みた。
【0020】
コンタクタ11は通電熱カシメ機1では電源とトランス12との主回路に介在し,通電熱カシメを行う際に主制御部7からの通電信号を受けて電子スイッチを動作させ,トランス12の主電流を制御し,通電熱カシメ機の二次側導体を介して前記一対の電極2,3の間に流す加熱電流の大きさや通電時間等を直接制御する。
【0021】
前記熱カシメ機1の可動側の電極2及び固定側の電極3は,各電極の先端に純タングステン又は銅タングステン等からなるチップ(図省略)が挿入される。このタングステン系の金属チップは電気抵抗値の高い,高融点の性質を有するもので,ほかにカーバイドやモリブデンと銅又は銀とを焼結した焼結金属も同様に利用可能である。
【0022】
可動側の電極2の位置検出は電動モータ4に内蔵させたエンコーダパルスで読み取る。この場合,可動側の電極2の全開放した原点位置から固定側の電極3を空加圧してトルク電流が流れた位置を基点(ゼロ)としてチップ原点セットを行う。
図1(A),(B),(C)のカシメ工程における基準値の設定について説明すると,そのチップ原点位置から被カシメ接合部の厚さHの寸法を逆算して求め,たとえばH寸法が10mmとすると,可動側の電極2がH寸法の10mmに達する寸前で電極移動が減速されてソフトランデングの位置決めがエンコーダパルスにより検出される。仮に品質目標のモデル厚さ寸法hを4.0mmとした場合,β基準値は4.0mmに対応する目標値がエンコーダパルスから検出される。またα基準値の場合は,前記モデル厚さ寸法hより僅か手前の位置たとえば0.1〜1.0mm程度手前の距離をα目標値としてカシメ量を逆算して求める。かくして製品のモデル厚さ寸法hに相当する前記β基準値又はモデル厚さ寸法hより手前にとったα基準値をコントローラのカシメ位置演算制御部13に設定する。前記電極2のストローク変位量が予め設定されたモデル厚さ寸法のβ値もしくはα値にあるか否かを前記エンコーダ8から時々刻々出力されるパルス数からカシメ位置演算制御部13の演算部で読み取る。
チップの磨耗による電極間の変位量を修正する場合も可動側の電極2の全開放した原点位置から固定側の電極3を空加圧してトルク電流が流れた位置を基点(ゼロ)としてチップ原点セットを行う。
【0023】
図2の制御構成図において,主制御部7にはカシメシーケンスの上記目標位置(前記β基準値又はα基準値)とカシメ時のトルク電流による加圧力,加熱電流値,通電時間その他通電熱カシメに必要なパターン及びパラメータが設定され,それらのパラメータにしたがって指令を行う。カシメ位置演算制御部13は,指令された前記基準値のカシメ位置とトルク電流停止位置指令を受け,電動モータ4のモータアンプ9への目標位置及びモータ速度などトルク制御を指令し,前記モータ4のエンコーダ8からのパルス信号からモデル厚さ寸法を検出して,目標値に達したときに加熱電源制御部に通電停止およびトルク制限またはトルク制御を切り,モデル厚さ位置への位置制御切り替えをモータアンプ9へ指令する。
【0024】
次に本発明の動作を図1,図2及び図3に基づいて説明する。
まず予め通電熱カシメする前に電極2,3の間に自動装置によりワークを挿入しない状態で,可動側の電極2と固定側の電極3同志または電極間に基準材を挿入してクランプし,その停止した時の可動側の電極移動量からエンコーダ8により電極の原点,ゼロ基点を検出し,そのデータをコントローラ6に記憶する。
【0025】
通電熱カシメ機のコントローラ6にはアクチュエータユニット5の通電熱カシメに必要な加圧力パターン,電流パターン,通電パターン等の諸動作のほか電極速度,電極位置決めなどのシーケンス上のパラメータ情報がテイーチングされる。
【0026】
通電熱カシメの対象となる被膜線接合端子は,予めワーク治具に設けた複数のモータセット位置に固定される。
【0027】
次いで,コントローラ6の主制御部7からの指令でカシメ位置演算制御部13はモータアンプ9へ目標位置とモータ速度などのトルク電流制御を指令しアクチュエータユニット5の電動モータ4を作動し,可動側の電極2は固定側の電極3に向けて下降する。
【0028】
この間,電極の移動量は電動モータ4からのエンコーダパルスを受けて検出する。主制御部7に設定された可動側の電極2の速度は電極先端が被カシメ接合部W3に接する高さH寸法の手前まで速く動作することができ,したがって可動側の電極2が被カシメ接合部W3と接する瞬間にスピードが減速され,実質的にソフトタッチで前記接合部W3に当接する。固定側の電極3との間で前記接合部W3を挟み付けて加圧する(図1(A),図3参照)。
【0029】
その後,加圧力として固定側の電極3と可動側の電極2との間にたとえば4kN〜10kNの高加圧力を得るためのトルク電流を発生させて5〜15サイクルの間で被カシメ接合部W3を機械的に押し潰される。主制御部7からの設定指令で加熱電流制御部10からの通電開始指令を受けコンタクタ11の開閉器を動作する。この場合,主制御部7の設定データにしたがってたとえば50〜200サイクルの間にトランス12から10kA〜20kA程度の加熱電流が流れる(図2,図3参照)。
【0030】
こうして,可動側の電極2と固定側の電極3に加熱電流が供給されると,前記被カシメ接合部と接する電極面が加速的に加熱され,この熱が接続端子及び被膜線に伝わって絶縁被膜を熱破壊して被膜線の絶縁被覆を溶解し圧接することができる(図1C参照)。
【0031】
なお,カシメ量は前記電極変位から前記モータのエンコーダパルスで検出され,カシメ量が次第に進みこれらのデータは打点毎に逐次モニタリングしてその目的の基準値に達したかどうかは演算部で比較算出される。その算出結果が前記基準値に達しなかったときはその差分をフィードバック制御し,目的のα基準値又はβ基準値に達するまで加圧力及び/又は加熱電流を継続し又は増減するなどの補正制御が行われる。
【0032】
本発明は一方的にトルク制御で目標値に設定されたカシメ位置まで加圧するのではなく,この熱カシメ過程中に,前記可動側の電極2の加圧力で前記接合部分が押し潰され電動モータ4のエンコーダからのパルス信号から検出値が目標位置のβ基準値又はα基準値を検出したときにカシメ位置演算制御部13から加熱電源制御部10からの指令でコンタクタ11が前記電極間の加熱電流を停止すると同時にカシメ位置演算制御部13からの指令でトルク制限またはトルク制御を切りモデル厚さ寸法のβ基準値又はその近傍のα基準値への位置制御の切り替えをモータアンプ9へ指令する点が従来方式とは明確に異なる(図1(B),同(C),図2,図3参照)。
【0033】
かくしてトルク電流と加熱電流がほぼ同時に遮断されると,ホールドタイム(たとえば0.5〜20サイクル範囲)が終了するまで電極間で通電熱カシメ接合部を保持する。この間電動モータのトルクは保持トルクの状態で電極位置が基準位置でキープされ,被カシメ接合部の厚さが一定に維持される。つまり,本発明は通電カシメ中に所定位置でトルク制限またはトルク制御を解除し位置制御に移行することによってタングステン電極の発熱温度変化及び/又は冷却温度変化にも影響されず前記接合部のモデル厚さ寸法hの許容差をモータエンコーダ分解の精度(たとえば1/100以下)に応じた値に確定することができる(図1(C),図3参照)。
【0034】
熱カシメ完了後は主制御部7からの指令で前記アクチュエータユニット5の電動モータ4が逆回転し可動側の電極2が原点まで全ストローク開放することによって,熱カシメの一サイクルが完了する。次いで,マニピュレータがアクチュエータユニット5をワーク治具から移動し所定位置で停止し,新しいワークの出し入れが行なわれ,以下同様に熱カシメサイクルが繰り返される。
【0035】
なお,前記アクチュエータユニット5の電極動作とマニピュレータ動作は同期させて移動することになる。チップの消耗量の測定は磨耗量に応じ任意回数(10回)に1回正負間電極2,3で空打ち加圧を行い,上述したように基点をリセットすることになる。
【0036】
本発明は,途中でトルクを解除した状態で切り替えた位置制御によって現在の熱カシメ接合部の厚さが最終的にモデル厚さ寸法hに一致するまで制御し確実に正規位置を検出し保持することができる。従来方式では一方的にトルク制御又はエア加圧制御で目標のモデル厚さ寸法まで継続的または経験的に加圧していたため部品寸法精度が安定しなかったのに対し,モデル厚さ寸法のモニタリング精度を向上することによって部品精度を高めるための品質管理が向上し,またタクトタイムを短縮することができ生産性を高めることができる。
【0037】
なお,本発明の通電熱カシメ機の実施例では正負対をなす電極の加圧面(被カシメ接合部と接する電極面)を平坦な形状で示したが,被カシメ接合部の大きさ形状により電極断面をU字型,V字型又は湾曲状,凸形など接続端子のフック形状・大きさ等に合わせて任意の形状を選択することができる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の通電熱カシメ接合方法及び装置は抵抗発熱を利用して加熱し電極加圧力によって相手部材に挿入したリベット部材,鋲部材等を塑性変形して圧接結合する電気リベッテイングのほか鍛造バルブなど熱間圧縮加工によって製作する電気アプセッテイングの用途にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施例で,通電熱カシメ接合方法を実施するための装置のカシメ工程を示す。
【図2】本発明装置の制御構成を示す電気ブロック図である。
【図3】本発明の通電熱カシメ接合方法を実施する制御動作を示すシーケンスである。
【図4】本発明の装置に使用される正負対をなす電極の初期加圧位置を示す正面図で,図1(A)に対応する。
【図5】図4の固定側の電極と被カシメ接合部に対応する平面図である。
【図6】本発明の装置による通電熱カシメ位置を示す正面図で,図1(C)に対応する。
【図7】従来の通電熱カシメ接合方法を実施する電動モータによる加圧制御動作を示すシーケンスである。
【符号の説明】
【0040】
1 通電熱カシメ機
2 一方の電極(可動側の電極)
3 他方の電極(固定側の電極)
4 電動モータ(サーボモータ)
5 アクチュエータユニット
6 コントローラ
7 主制御部
8 エンコーダ
9 モータアンプ
10 加熱電源制御部
11 コンタクタ
12 トランス
13 カシメ位置演算制御部
W1 接続端子
W2 被覆線
W3 被カシメ接合部
B ボールねじ N ナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被カシメ接合部を正負一対の電極で挟みつけて加圧・通電して熱カシメ接合する場合に,少なくとも一方の電極を電動モータのトルク電流により加圧力と位置決め・速度をクローズドループ方式で制御し,その通電熱カシメ過程中に前記一方の電極が予め設定された被カシメ接合部のモデル厚さ寸法に達したとき又はモデル厚さ寸法の近傍位置に達したときに,通電中の加熱電流を遮断すると共に,前記モータのトルク制限またはトルク制御から位置制御に切り替え,これによって前記接合部分の厚さ方向の寸法をモデル厚さ寸法に確定することを特徴とする通電熱カシメ接合部方法。
【請求項2】
複数の被膜線を結束して,その結束した前記被膜線を接続端子に挿入し,その挿入して形成された被カシメ接合部を正負一対の電極で挟みつけて加圧・通電して加熱し,前記被カシメ接合部の絶縁被膜を溶融除去して前記被膜線と前記端子とを結合する場合に,少なくとも一方の電極を電動モータのトルク電流により加圧力と位置決め・速度をクローズドループ方式で制御し,その通電熱カシメ中に前記電極が予め設定された被カシメ接合部のモデル厚さ寸法又はモデル厚さ寸法の近傍位置に達したとき,通電中の加熱電流を遮断する共に前記モータのトルク制限またはトルク制御を解除し位置制御に切り替える方法において,前記接合部分の厚さ方向の寸法が前記モデル厚さ寸法と一致するようフィードバック制御することを特徴とする通電熱カシメ接合方法。
【請求項3】
複数の被膜線を結束して,その結束した前記被膜線を接続端子に挿入し,その挿入して形成された被カシメ接合部を支持するワーク治具と,前記ワーク治具の近傍に設置されたマニピュレータと,前記マニピュレータに支持された少なくとも一方の電極は電動モータで加圧駆動する正負一対の電極を有するアクチュエータユニットと,前記マニピュレータの複数軸と前記アクチュエータユニットの駆動軸及び加圧力,加熱電流,通電時間,電極位置決め,移動速度等のパラメータ情報にしたがってクローズドループ方式で制御するコントローラおよび前記コントローラからのデジタル信号で前記電極間にトランスを介して熱カシメ電力を供給する熱カシメ電源の開閉器を制御する加熱電源制御部とを有し,前記被膜線と前記端子とを結合する通電熱カシメ過程中に,前記電極の変位量を変位センサーにより検出し,この変位センサーで検出した変位量があらかじめ前記コントローラに設定された通電熱カシメ接合部のモデル厚さ寸法に対応するβ基準値又は前記電極が前記モデル厚さ寸法の近傍位置に対応するα基準値とを演算部に取り込み,前記演算部によって比較演算した結果,前記変位量が前記β値又はα値に達したとき,前記演算部からの出力信号で前記加熱電源制御部を動作し通電中の加熱電流を遮断すると共に前記モータのトルク制限またはトルク制御を解除し,位置制御に切り替えるカシメ位置演算制御部とによって前記モデル厚さ寸法を確定する通電熱カシメ接合装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−7294(P2006−7294A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−189825(P2004−189825)
【出願日】平成16年6月28日(2004.6.28)
【出願人】(000151070)株式会社電元社製作所 (23)
【Fターム(参考)】