説明

速硬性高流動モルタル

【課題】 水硬性のモルタルの施工性に影響を及ぼす流動性状並びに凝結性状と施工後の耐久性に影響を及ぼす硬化体性状を共に向上させることを目的に、一定の高流動状態で可使時間を長時間確保でき、可使時間経過後は急速に凝結し、硬化後は収縮による亀裂も起らず、強度、硬度および耐摩耗性等の耐久性に優れる速硬性高流動モルタルを提供するものである。
【解決手段】 A;アルミナセメント、B;スラグ、C;硫酸カルシウム、D;石灰石粉、E;凝結遅延剤、及びF;減水剤を含有してなり、スラグの含有量がアルミナセメント100質量部に対し30〜150質量部である速硬性高流動モルタル。更に凝結促進剤を含有してなる前記の速硬性高流動モルタル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注水から凝結始発までの間は高い流動性を有し、凝結始発から終結までの時間が短い水硬性のモルタルに関する。
【背景技術】
【0002】
高い流動性を有するモルタルの代表的なものに、セメント系のセルフレベリング材が知られている。セルフレベリング材は、施工で容易に自己水平性が得られることが不可欠の条件であるが、施工作業や実用に適した性能も兼ね備えていることも必要である。セメント系セルフレベリング材では自己水平化のための高流動性を維持する上で、水の配合比率が比較的高い。その結果、硬化時の収縮が大きく、収縮に伴って硬化体の表面に亀裂が発生し易い。セルフレベリング性のポルトランドセメント−細骨材−分散剤(減水剤)系組成物に、膨張材とフライアッシュを加えると、収縮抑制や亀裂発生防止効果が得られることが知られている。(例えば、特許文献1参照。)しかし、硬化後の耐久性は必ずしも十分ではなかった。収縮抑制や亀裂発生防止効果はフライアッシュに代えて高炉スラグを用いても得ることができる。(例えば、特許文献2参照。)高炉スラグを使用すると、フライアッシュよりも水和反応活性が概して低いことから可使時間が確保し易いといった施工上の利点が見られる。また、セメントに速硬作用のあるアルミナセメントを用いれば、施工期間の短縮に繋がる硬化速度や初期強度を増進でき、耐酸性や硬度も向上する。アルミナセメントによる速硬性の付与は、一方で流動性を維持し難くなる傾向があるため、施工作業性の向上に繋がる可使時間を確保する上で凝結調整成分を加える技術も知られている。(例えば、特許文献3参照。)更に、収縮抑制用に、膨張成分として速硬性も有する石膏を用い、亀裂発生をより確実に防ぐ為に高炉スラグに加えて高分子エマルジョンを併用する技術も知られている。高分子エマルジョンの配合により、ベース体との付着強度や耐摩耗性も向上できる。(例えば、特許文献4、5参照。)しかるに、このような効果を充分得るのに必要な量での高分子エマルジョンの使用は、粘性の増加を引き起こすことがあり、硬化性状の低下にも繋がる水や分散剤の大幅な増量を行わずに、高い流動性を安定して確保するのは困難になる。
【特許文献1】特開昭56−84385号公報
【特許文献2】特開昭60−86065号公報
【特許文献3】特開2002−356463号公報
【特許文献4】特開平10−273357号公報
【特許文献5】特開2004−300017号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、水硬性のモルタルの施工性に影響を及ぼす流動性状並びに凝結性状と施工後の耐久性に影響を及ぼす硬化体性状を共に向上させることを目的に、一定の高流動状態で可使時間を長時間確保でき、可使時間経過後は急速に凝結し、硬化後は収縮による亀裂も起らず、強度、硬度および耐摩耗性等の耐久性に優れる速硬性高流動モルタルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、検討を重ねた結果、アルミナセメントを速硬性結合成分とするモルタルにおいて、硫酸カルシウム、石灰石粉及び特定量のスラグを用いて主に硬化体へ耐久性状を付与向上させ、併せて減水剤、凝結遅延剤又は凝結遅延剤と凝結促進剤の使用で主に流動性状と凝結性状を調整し、また特に、減水剤を特定のフロー作用のある異なる二種以上のものを用いることにより可使時間中の流動性状の変動をより少なくできたことから、前記課題を解決し、本発明を完成させた。
【0005】
即ち、本発明は、(1)A;アルミナセメント、B;スラグ、C;硫酸カルシウム、D;石灰石粉、E;凝結遅延剤、及びF;減水剤を含有してなり、スラグの含有量がアルミナセメント100質量部に対し30〜150質量部である速硬性高流動モルタル。(2)更に凝結促進剤を含有してなる前記(1)の速硬性高流動モルタル。(3)減水剤が、モルタル混練終了直後に最大フロー値が出現する減水剤とモルタル混練終了から30〜60分後に最大フロー値が出現する減水剤を併用したものである前記(1)又は(2)の速硬性高流動モルタル。
【発明の効果】
【0006】
本発明の速硬性高流動モルタルは、例えば1時間程度の可使時間なら容易に確保でき、その間は変動の少ない概ね一定の高い流動状態を示し、可使時間経過後は急速に凝結するので、施工作業上の制約を大きく軽減でき、施工後短時間で開放使用したい工事等には特に適する。また、本発明の速硬性高流動モルタルは硬化後も、高い強度発現性、硬度、耐摩耗性を示す他、水密性も比較的高く含有化学成分からも耐酸性等の化学的侵食抵抗性も高いことから、優れた耐久性を備えたものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の速硬性高流動モルタルに使用するアルミナセメントは、何れのアルミナセメントでも使用することができる。好ましくは、高い速硬性が得られることからAl23に対するCaOの割合がモル比で1.25〜1.45のモノカルシウムアルミネートを主成分とするアルミナセメントが好ましい。
【0008】
本発明の速硬性高流動モルタルに使用するスラグは、製鋼スラグを始めとする各種金属製錬工程で発生するスラグ、下水汚泥や都市ゴミなどを溶融したスラグなどが使用できる。この中でも含有化学成分が適し、品質面で安定したものの入手が容易であることから高炉スラグが好ましい。またスラグはブレーン比表面積が3000cm2/g以上のものが必要とされる反応活性を確保できることから望ましい。スラグを使用することでアルミナセメントの転移反応を抑制して強度低下を防ぐと共に、潜在水硬性物質として結合相形成に加わるため、アルミナセメントによる瞬結化を防いで可使時間を確保し易くすると共に、亀裂発生に繋がる大規模な収縮も起こさない。更には、硬化後の水密性や耐摩耗性を向上させることができる。スラグの配合量は、アルミナセメントの配合量100質量部に対し、30〜150質量部とする。スラグ配合量が30質量部未満では転移抑制や耐摩耗性向上が行えないので好ましくなく、また150質量部を超えるとスラグ過多となり、速硬性や初期強度発現性に支障を及ぼすので好ましくない。
【0009】
本発明の速硬性高流動モルタルに用いる硫酸カルシウムは、無水石膏、半水石膏、二水石膏等の天然石膏の他、化学石膏と称されているものの何れでも良く、更には硫酸カルシウムを主成分とする鉱物質物質や混合物でも良い。好ましくは反応活性が高いことから無水石膏を使用する。硫酸カルシウムは、エトリンガイト生成による初期強度発現性増進作用を付与し、また硬化促進作用や膨張作用も有する。硫酸カルシウムの配合量は、アルミナセメントの配合量100質量部に対し、10〜120質量部が好ましい。10質量部未満では配合効果が殆ど得られず、また120質量部を超えると凝結遅延を起し、速硬性が得難くなり、初期強度低下を起こすことがある。
【0010】
本発明の速硬性高流動モルタルに用いる石灰石粉は特に限定されないが、好ましくは粒径が90μm篩通過分が70重量%以上となる粉末とする。石灰石粉の使用により、増粘剤やポリマー樹脂を用いずともモルタルの材料分離に対する抵抗性を高めることができる他、注水後の液相中のカルシウムイオン濃度が高まるため凝結を促進する作用とスラグの水硬化を促して緻密な硬化体が得られ易くなる。石灰石粉の配合量は、アルミナセメントの配合量100質量部に対し、20〜80質量部が好ましい。20質量部未満では配合効果が殆ど得られず、また80質量部を超えると強度低下を起すことがある。
【0011】
本発明の速硬性高流動モルタルには、凝結遅延剤又は凝結遅延剤と凝結促進剤が配合される。好ましくは凝結遅延剤と凝結促進剤を併用する。凝結遅延剤と凝結促進剤の配合割合や量を調整することで可使時間を概ね自在に設定確保することができる。従って凝結遅延剤と凝結促進剤の具体的な使用量は、確保したい可使時間に応じて決定されるが、速硬性高流動モルタルとしての一般的な性状に支障を及ぼさない範囲での使用限界として、アルミナセメント100質量部に対し、凝結遅延剤では概ね1.0質量部、凝結促進剤では概ね0.5質量部をそれぞれ上限として挙げることができる。この範囲で、例えば可使時間を長く設定したい場合は、凝結促進剤に対する凝結遅延剤の配合割合を高くするほど、また凝結遅延剤の配合量を多くするほど、長くなる。本発明で使用可能な凝結遅延剤や凝結促進剤は、何れもモルタルやコンクリートに使用可能なものなら特に制約されない。具体例を示すと、凝結遅延剤は、クエン酸や酒石酸等のオキシカルボン酸塩、リン酸、ホウ酸、若しくはリチウム塩を除いたこれらのアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩が挙げられる。また、凝結促進剤としては、アルミナセメントとの相性が良いことからアルカリ金属の炭酸塩やアルカリ土類金属金属の炭酸塩が好ましく、その中でも−20〜50℃といった広範囲な温度で安定した促進作用を付与できるので炭酸リチウムがより好ましい。凝結促進剤を併用しない凝結遅延剤の使用でも可使時間は確保できるが、アルミナセメント100質量部に対し、概ね1.0質量部を超える量の使用は速硬性や初期強度発現性の低下などを起こすことがある。尚、凝結遅延剤と併用することなく凝結促進剤を使用すると可使時間の確保が極めて困難になる。
【0012】
本発明の速硬性高流動モルタルに用いる減水剤は何等限定されず、高性能減水剤や高性能AE減水剤であっても良い。また、液体でも可溶性粉体でも良い。減水剤を使用することで配合水量を著しく増やすことなく高い流動性を確保することができる。好ましくは、凝結始発まで流動性の変化を少なくする為に、モルタル乾粉への注水から殆ど時間を経ずして一般的な混練操作を行った場合に、モルタル混練終了直後に最大フロー値が出現する減水剤とモルタル混練終了から30〜60分後に最大フロー値が出現する減水剤を併用することが推奨される。モルタル混練終了直後に最大フロー値が出現する減水剤としては、例えばポリエチレングリコール基グラウト重合体を有効成分とする商品名「メルフラックスPP100F」(SKW社製)、メラミンスルホン酸系縮重合物を有効成分とする商品名「メルメントF10M」(SKW社製)、ナフタレンスルホン酸塩ホルムアルデヒドを有効成分とする商品名「マイティ100」(花王社製)、ポリアルキルアリルスルホン酸塩を有効成分とする商品名「セルフロー110P」(第一工業製薬社製)等を挙げることができる。また、モルタル混練終了から30〜60分後に最大フロー値が出現する減水剤は、例えば末端スルホン基を有するポリカルボン酸基含有多元ポリマーを有効成分とする商品名「コアフローNF100」(太平洋セメント社製)、ポリエーテルカルボン酸を有効成分とする商品名「メルフラックス1641F」(SKW社製)、カルボキシル基含有ポリエーテル系化合物を有効成分とする商品名「マイティ21P」(花王社製)等を挙げることができる。減水剤の配合方法は、所望の可使時間を得る上で詳細な配合量の調整を必要とされることがあるため作業効率を向上する上で、粉末状の減水剤を用い、アルミナセメント、硫酸カルシウム、スラグ及び石灰石粉等を含む混合物に添加することを推奨する。減水剤の配合量は、本モルタルを構成する水硬性及び潜在水硬性の材料100質量部に対し、固型分換算で0.2〜3質量部が好ましく、1〜2.5質量部が特に好ましい。0.2質量部未満では高い流動性の確保が困難となり、また最大フロー値の発現時期が異なる二種以上の減水剤を併用する場合は、減水剤の合計配合量のうち、5〜20重量%をモルタル混練終了から30〜60分後に最大フロー値が出現する減水剤にすると、凝結性状に影響を及ぼすことなく、変動の少ない流動性状を安定して得易くなる。
【0013】
また、本発明の速硬性高流動モルタルは、骨材などの前記以外の材料も本発明の効果を実質喪失させない範囲で使用できる。本モルタルに適した骨材は、粒径5mm以下の粒子含有率が85重量%以上且つ粗粒率3.0以下のものであるが、これ以外の骨材を使用しても良い。また使用できる骨材の成分も特に限定されない。骨材の配合量は本モルタルを構成する水硬性及び潜在水硬性の成分100質量部対し、70〜180質量部が好ましい。70質量部未満では高い流動性が得難くなり、また180質量部を超えると強度発現性が低下する。また、骨材以外にも配合可能な材料としては、例えば、何れもモルタルやコンクリートに使用可能な、各種ポルトランドセメント、石炭灰、珪石粉、硫酸カルシウム以外の膨張材、収縮低減剤、消泡剤、シリカフューム等のポゾラン反応物質、高性能AE減水剤以外のAE剤、増粘剤、ポリマー樹脂、水溶性高分子、繊維、顔料等を挙げることができる。
【0014】
本発明の速硬性高流動モルタルの製造方法は特に限定されないが、注水時の配合水量は、本モルタルを構成する水硬性及び潜在水硬性の成分100質量部に対し、15〜35質量部が好ましく、20〜30質量部がより好ましい。15質量部未満では混練抵抗が増し、成分的に均一化されたモルタルが得難くなり、速硬性や耐久性が低下し易くなり、作業性も低下する。また、35質量部を超えると材料分離が進み、硬化性状の発現が困難になる虞がある。
【実施例】
【0015】
何れも市販品のアルミナセメント、II型無水石膏、高炉スラグ(ブレーン比表面積4000cm2/g)、石灰石粉(90μm篩通過分が90重量%)、炭酸リチウム及び酒石酸ナトリウムカリウムから選定した材料を、表1に表す配合でレーディゲミキサーで約2分間混合し、粉末状混合物を得た。
【0016】
【表1】

【0017】
次いで、前記粉末状混合物に以下から選定された材料を加え、表2に表す配合となるようホバートミキサーで約1分間混合し、更に、前記粉末状混合物の23重量%に相当する量の水を加えて約2分間20℃の温度下で混練を行い、モルタル混練物を作製した。
細骨材(宇部産6号珪砂)
収縮低減剤(商品名;OND−HP、竹中油脂社製)
消泡剤(商品名;アジタンP−801、楠木化成社製)
分散剤I(商品名;メルフラックスPP100F、SKW社製)
分散剤II(商品名;コアフローNF100、太平洋セメント社製)
ポリマーエマルジョン(商品名;ビナパスRE5011L、旭化成ケミカルズ社製)
増粘剤(商品名;チローゼH20P2、信越化学工業社製)
【0018】
【表2】

【0019】
作製したモルタル混練物を、直径50mm、高さ51mmのフローコーンを用い、混練直後と混練後1時間経過のモルタルフローを測定し、流動性を評価した。また、該モルタル混練物から型枠成形にて4×4×16cmの供試体を作製し、JIS R 5201の試験方法に準じて材齢7日及び28日の供試体の圧縮強度と曲げ強度を測定した。また、該モルタル混練物を内寸が縦10cm、横20cm、高さ2cmの角皿容器に厚さ1cmとなるように流し込み、材齢8時間の硬度をショア硬度計により測定した。更に、耐摩耗性の評価として、該モルタル混練物から型枠成形にて直径10cmで厚さ1cmの円盤形供試体を作製し、テーパー式摩耗試験機(やすりの形式:S−42)を用い、荷重9.8N、回転速度60回転/分でこの供試体を1000回転させた時の供試体表面の摩耗量を測定した。以上の測定は全て20℃の恒温室内で行い、その結果は表3に表す。
【0020】
【表3】

【0021】
表3から、本発明の速硬性高流動モルタルは何れも高い流動性を示し、しかも1時間以上に渡って安定して高い流動状態を維持できていることがわかる。また、可使時間経過後は急速に凝結が進み、高い強度、硬度及び耐摩耗性を有する硬化体になることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明の速硬性高流動モルタルは、セルフレベリング材、間隙充填材、路床材の他、板状成形品や補修材としても好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
A;アルミナセメント、B;スラグ、C;硫酸カルシウム、D;石灰石粉、E;凝結遅延剤、及びF;減水剤を含有してなり、スラグの含有量がアルミナセメント100質量部に対し30〜150質量部である速硬性高流動モルタル。
【請求項2】
更に凝結促進剤を含有してなる請求項1記載の速硬性高流動モルタル。
【請求項3】
減水剤が、モルタル混練終了直後に最大フロー値が出現する減水剤とモルタル混練終了から30〜60分後に最大フロー値が出現する減水剤を併用したものである請求項1又は2記載の速硬性高流動モルタル。

【公開番号】特開2006−282442(P2006−282442A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−104027(P2005−104027)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(501173461)太平洋マテリアル株式会社 (307)
【Fターム(参考)】