説明

造形物及び造形物の製造方法

【目的】純金属の有する色彩を造形物の色彩として有効に活かすと共に、純金属の酸化を防ぎ、純金によるイオン効果や抗菌作用を得ることができる造形物に関し、そのような造形物を効率良く製造することができる製造方法に関する。
【解決手段】成型等により得られた透明な材料による透明造形物の片面に、一層又は複数層の純金属薄膜層を有し、一層又は複数層の最外殻の薄膜層は純金の薄膜層とすることにより、純金属の有する色彩を造形物の色彩として有効に活かすと共に、純金属の酸化を防ぎ、純金によるイオン効果や抗菌作用を得ることができる造形物を提供することができるのである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金、銀、銅、鉄やアルミニウムといった純金属の有する色彩を造形物の色彩として有効に活かすと共に、純金属の酸化を防ぎ、純金によるイオン効果や抗菌作用を得ることができる造形物に関し、そのような造形物を効率良く製造することができる製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明と関連した造形物の先行技術として、照明用としてのシェード、卓上用の容器、花器、金魚鉢、オブジェ等、立体状の形成を容易に加工できる多目的造形材を提供することを目的とし、金属をプラスチックフィルムにてラミネート加工し、金属とプラスチックフィルムを一体化することにより、金属とプラスチックフィルムの複合による双方の特性を兼ね合わせ持つ多目的造形材(特許文献1)が知られていた。
【0003】
【特許文献1】特開2000−272046
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の多目的造形材は、適度な厚さを有する金属板を簡易成型等で造形物を成型し、成型した金属製の造形物をプラスチックフィルムにてラミネート加工し、金属とプラスチックフィルムを一体化することにより、金属の塑性および堅牢性とプラスチックフィルムの柔軟性および耐水性等、複合による双方の特性を兼ね合わせ持つものである。
【0005】
しかしながら、立体的な造形物を制作するには金属部を立体的に成型してからプラスチックフィルムにてラミネート加工する必要があり、複雑な立体構造の造形物ではラミネート加工が難しく、細かな部分まできっちりとラミネート加工することは困難といった課題を有する。
【0006】
さらに、金属部の全面をプラスチックフィルムで覆うようにラミネート加工すると、金属の持つ抗菌作用等の金属イオン効果が得にくいといった課題を有する。
【0007】
さらには、ラミネート加工で使用するプラスチックフィルムは一般的には熱に対して弱く、食器皿やお茶碗といった熱湯を使用する食器等の造形物は制作が困難といった課題を有し、仮に制作が可能だとしても食器等の汚れを洗い落とす際には薄いプラスチックフィルムに傷を付けやすく、食器等の寿命が極端に短くなるといった課題を有する。
【0008】
本発明は、このような従来の構造が有していた課題を解決しようとするものであり、金属の持つ光沢等を活かしながらも複雑な立体構造を可能とし、金属の持つイオン効果が得られ、食器等にも利用できる造形物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の造形物は、食品衛生法でも許可されたペットボトル容器の材料として知られているポリエチレンテレフタレート(一般的にはポリエチレンと言われている。)等の透明な材料を使用し、成型等により作られた透明造形物の片面に、一層又は複数層の金属薄膜層を有することを特徴とする。
【0010】
又、成型等により作られた透明造形物の片面に、一層又は複数層の金属薄膜層を有し、一層又は複数層の最外殻の薄膜層は金の薄膜層であることを特徴とする。
【0011】
さらには、造形物の片面に一層のみの金属層を形成する場合は純金の薄膜層を形成し、複数層の金属層を形成する場合は最後に形成する最外殻の薄膜層を純金の薄膜層とし、純金の薄膜層以外の金属薄膜層の材料を、純銀、純銅、純鉄、又は純アルミニウムの純金属薄膜層としたことを特徴とする。
【0012】
本発明の造形物の製造方法は、前記で説明したポリエチレンテレフタレート等の透明な材料を成型等の手段により得られた透明造形物の片面に、金属薄膜層を形成する工程を1回又は複数回繰り返す工程としたことを特徴とする。
【0013】
又、透明造形物の片面に、金属薄膜層を形成する工程を1回又は複数回繰り返し、金属薄膜層を形成する最後の工程を金による薄膜層を形成する工程としたことを特徴とする。
【0014】
さらに、金属薄膜層を形成する最後の工程を純金による薄膜層を形成する工程とし、純金による薄膜層を形成する工程以外の純金属薄膜層を形成する工程は、純銀の薄膜層、純銅の薄膜層、純鉄の薄膜層、純アルミニウムの薄膜層を形成する工程としたことを特徴とする。
【0015】
さらには、純金属薄膜層の形成を終了した造形物の表面又は裏面のどちらか一面に艶消しスプレー等による艶消し処理を施したことを特徴とする。
【0016】
さらには、透明造形物を制作する型に微細な凹凸を設けて艶消し処理を施したことを特徴とする。
【0017】
さらには、前記の金属薄膜層を形成する工程を真空蒸着による工程としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明による造形物は、ポリエチレンテレフタレート等の透明な材料を成型等の手段により透明造形物を制作し、透明造形物の片面に一層又は複数層の金属薄膜層を真空蒸着等の手段にて形成することにより造形物を得ることができるので、精密な型を用いる成型等による透明造形物は細かな部分まできっちりと制作することが可能であり、真空蒸着等により金属薄膜層を形成すれば、やはり細かな部分まで金属薄膜が形成されるので、細かな部分まできっちりと再現することが可能といった利点を有する。
【0019】
さらに、金又は純金による金属薄膜層を最後に形成すれば、金又は純金による金属薄膜層はプラスチックフィルム等で覆われていないので、金又は純金の持つ抗菌作用等の金属イオン効果が期待できるといった利点を有する。
【0020】
さらには、ポリエチレンテレフタレート等の透明材料による透明造形物は、厚みを適当な厚さとすることが容易であるので、プラスチックフィルムに比較して熱や傷に対して強く、食器皿やお茶碗といった熱湯を使用する食器等の造形物も制作が容易で、食器等の汚れを洗い落とす際にも傷が付きにくいので、食器等の寿命が長くなるといった利点を有する。
【0021】
本発明による造形物により例えばお面を制作すれば、お面を表側から見れば最初に形成された金属薄膜の色が観察されて、その金属の持つ光沢や独特の味わい等の金属の色彩装飾が楽しめると共に、お面の裏側を金又は純金による薄膜層とすれば、このお面を顔に装着すれば金又は純金の持つイオン作用、抗菌作用等の金属イオン効果を顔に受けることが可能であるといった利点を有する。
【0022】
本発明による造形物により例えば招き猫等の飾り物を制作すれば、飾り物を表側から見れば前記のお面と同様に最初に形成された金属薄膜の色が観察されて、その金属の持つ光沢や独特の味わい等の金属の色彩装飾が楽しめると共に、飾り物の裏面を金又は純金の薄膜層とすれば抗菌作用等の金属イオン効果を期待できると共に、純鉄や純銅等の金属薄膜層の酸化を防止することができるといった利点を有する。
【0023】
本発明による造形物により例えば盃やコップ又はお皿といった食器を制作すれば、食器を外側から見れば前記のお面と同様、最初に形成された金属薄膜の色が観察されて、その金属の持つ光沢や独特の味わい等の金属の色彩装飾が楽しめると共に、食器の内側を金又は純金の薄膜層とすれば、食器が盃であれば金杯の雰囲気が楽しめると同時に金粉入りのお酒と同様に金の持つ抗菌効果等の金属イオン効果が期待でき、コップやお皿といった食器でも金の持つ抗菌効果等の金属イオン効果が期待できるといった利点を有する。
【0024】
本発明による造形物の表面又は裏面のどちらか一面に、艶消しスプレー等による艶消し処理を施せば、金属の持つ光沢を適度に抑えることが可能で、同じ金属でも艶消し処理の程度によりいろいろな趣の造形物を制作することができるといった利点を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明は、金、銀、銅、鉄やアルミニウムといった純金属の有する色彩を造形物の色彩として有効に活かせる造形物を提供できると共に、純金属の酸化を防ぎ、純金によるイオン効果や抗菌作用を得ることができる造形物を提供することを目的とし、そのような造形物を効率良く製造することができる製造方法を提供するものである。以下、図面及び参考写真を参照して詳細に説明する。
【0026】
図1は参考写真1で示す弥勒菩薩のお面の中央部を縦に切断した切断面を概略的に示す切断面の概略端面図であり、符号4の部分はお面の額部、符号5の部分がお面の鼻部、符号6の部分がお面の口部、符号7の部分がお面の顎部に該当する部位である。
【0027】
透明造形物1は食品衛生法でも許可されたペットボトル容器の材料として知られているポリエチレンテレフタレート(一般的にはポリエチレンと言われている。)等の透明な材料を用いて成型等の手段により制作され、成型等の手段により弥勒菩薩等のお面や招き猫等の飾り物、盃やお皿といった食器等に成型されるのである。
【0028】
成型された透明造形物1の片面(図1の例では弥勒菩薩の裏面。)に望ましくは純銀、純銅、純鉄、純アルミニウム等による純金属薄膜層2を蒸着等の手段により形成し、最後に純金による純金の薄膜層3を形成している。
【0029】
図1では透明造形物1及び純金属薄膜層のそれぞれの厚みはほぼ同等の厚みで記載されているが、実際には透明造形物1は1mm程度から数mm程度と比較的厚く、純金属薄膜層2及び純金の薄膜層3の厚みは数μm〜数十μmと極薄い厚みである。
【0030】
造形物を観察する方向から見える純金属の色は最初に形成する金属薄膜層の色であり、最初に純銀の薄膜層を形成すれば銀色に、最初に純銅の薄膜層を形成すれば銅の色となるのである(参考写真1参照)。
【0031】
造形物を観察する方向から観察した場合に金色に見せたい場合は、純金の薄膜層を1層のみ形成すれば良い(参考写真1参照)。
【0032】
最初に形成する純金属薄膜層2を純鉄や純銅による薄膜層とした場合、鉄や銅は空気に触れると酸化して錆びが発生するので、純金属薄膜層2を形成した後に純金の薄膜層3を形成することにより、金は空気に触れても酸化しないので純金属薄膜層の錆びを防止することができるのである。
【0033】
又、純金の薄膜層3を最後に形成することにより、金の持つイオン効果により人体の活性化や造形物及び純金の薄膜層3に触れている空気の抗菌作用等が期待できるのである。
【0034】
参考写真1は弥勒菩薩の顔をお面にした例であり、使用した純金属薄膜層2の材料は写真左側が純銅、中央が純金、右側が純銀であり、これをお面の裏側から観察すればすべて純金の薄膜層3が観察されるのである。
【0035】
又、お面の場合は顔に装着して使用するので安全の確保等の理由で目の部分は透明でなくてはならないが、目の部分のように透明にしたい部分は純金属薄膜層2又は純金の薄膜層3を形成する際にマスキングテープ等で透明にしたい部分をマスクして、薄膜層を形成した後にマスキングテープ等を剥がせばその部分を透明とすることが可能である。
【0036】
お面の裏側は純金の薄膜層3であるので、これを顔に装着した場合は金のイオン効果によりほんのりと暖かみを感じると同時に、金の抗菌作用により顔に装着するお面の裏面が清潔であるといった効果が期待できるのである。
【0037】
参考写真2は飾り物として招き猫を制作した例であり、参考写真2では金色の豪華な招き猫を制作したものである。
【0038】
このように飾り物としても透明造形物1に最初に形成する純金属薄膜層2の材料を変えることにより、それぞれ趣の異なる飾り物を制作することができるのである。
【0039】
参考写真3は食器としてお酒を飲む盃を制作した例であり、参考写真3では金色の豪華な金杯を制作したものである。
【0040】
このように食器としても実用的で豪華な食器が制作可能で、食器の使用目的により純金属薄膜層2の材料を変えることにより趣の異なる実用的な食器を制作することができるのである。
【0041】
参考写真の例では造形物の観察する側から見た金属薄膜の色は最初に形成する純金属薄膜層2の色のみであるが、純金属薄膜層2を形成する際に必要な箇所をマスキングテープ等でマスクして最初の純金属薄膜層2を形成し、次にマスキングテープを剥がして2回目の純金属薄膜層2又は金の薄膜層3を形成すれば、造形物を観察する側から観察すれば、それぞれの純金属薄膜層の模様が得られ、異なる色合いや色の形状を楽しむことができるのである。
【0042】
図2は本発明による造形物の製造方法示す概念図であり、抵抗加熱式による真空蒸着機による製造方法の例である。
【0043】
抵抗加熱式による真空蒸着機の構造は、真空容器8内の下部に原料を加熱するヒーターを兼ねたタングステン製等のボート9が固定され、真空容器8内の上部には純金属や純金が蒸着される試料10としてのお面や飾り物、食器といった透明造形物1が固定されている。
【0044】
この抵抗加熱式による真空蒸着機で純金属薄膜層2や純金の薄膜層3を形成するには、所定の割合に計量された薄膜層の原料11である純金属や純金を真空容器8内のヒーターを兼ねたボート9に収め、真空容器8内を所定の真空度となるようポンプ12にて排気した後、ボート9に所定の電流を流してヒーターを兼ねたボート9の温度を徐々に上げれば、純金属や純金の融点温度以上に達した時点で純金属や純金は溶解して気化し、透明造形物の試料10内側に付着して蒸着されるのである。
【0045】
蒸着作業が終了したら真空容器8内に空気を導入し、真空容器8内から純金属薄膜層2や純金の薄膜層3が形成された造形物を取り出すことにより、本発明の造形物を得ることができるのである。
【0046】
1回又は複数回の蒸着を繰り返した造形物の表面又は裏面のどちらか一面に艶消しスプレー等により微細な凹凸を形成して艶消し処理を施すことで、純金属薄膜層2又は金の薄膜層3の輝きを抑えることが可能で、渋みのある純金属や純金の色合いを出すことが可能である。
【0047】
艶消し処理として、透明造形物1を制作する型の表面に微細な凹凸を設けることにより艶消し処理とすることが可能で、この場合は薄膜層を形成した後の艶消し処理工程を省くことができると共に、純金属薄膜層2や金の薄膜層3を形成する面に微細な凹凸を設けることにより薄膜層の密着性を高めることができるのである。
【0048】
純金属薄膜層2等を形成する工程を真空蒸着による工程とすることで、真空容器8内で気化して試料10に蒸着されるので、試料10の細かな凹凸の部分まで極めて精巧に薄膜を形成することができるのである。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】:切断面の概略端面図。
【図2】:造形物の製造方法示す概念図。
【符号の説明】
【0050】
1:透明造形物
2:純金属薄膜層
3:純金の薄膜層
4:額部
5:鼻部
6:口部
7:顎部
8:真空容器
9:ボート
10:試料
11:原料
12:ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明造形物の片面に、一層又は複数層の金属薄膜層を有することを特徴とする造形物。
【請求項2】
透明造形物の片面に、一層又は複数層の金属薄膜層を有し、一層又は複数層の最外殻の薄膜層は金の薄膜層であることを特徴とする請求項1記載の造形物。
【請求項3】
一層又は最外殻の薄膜層を純金の薄膜層とし、純金の薄膜層以外の金属薄膜層の材料を、純銀又は純銅、純鉄、純アルミニウムの薄膜層としたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の造形物。
【請求項4】
透明造形物の片面に、金属薄膜層を形成する工程を1回又は複数回繰り返す工程としたことを特徴とする造形物の製造方法。
【請求項5】
透明造形物の片面に、金属薄膜層を形成する工程を1回又は複数回繰り返し、金属薄膜層を形成する最後の工程を金による薄膜層を形成する工程としたことを特徴とする請求項4記載の造形物の製造方法。
【請求項6】
金属薄膜層を形成する最後の工程を純金による薄膜層を形成する工程とし、純金による薄膜層を形成する工程以外の純金属薄膜層を形成する工程は、純銀の薄膜層又は純銅の薄膜層、純鉄の薄膜層、純アルミニウムの薄膜層を形成する工程としたことを特徴とする請求項4又は請求項5記載の造形物の製造方法。
【請求項7】
純金属薄膜層の形成を終了した造形物の表面又は裏面のどちらか一面に艶消し処理を施したことを特徴とする請求項4又は請求項5又は請求項6記載の造形物の製造方法。
【請求項8】
透明造形物を制作する型に微細な凹凸を設けて艶消し処理を施したことを特徴とする請求項4又は請求項5又は請求項6記載の造形物の製造方法。
【請求項9】
金属薄膜層又は純金属薄膜層を形成する工程を真空蒸着による工程としたことを特徴とする請求項4又は請求項5又は請求項6記載の造形物の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−970(P2012−970A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−154300(P2010−154300)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【出願人】(599078358)
【出願人】(599078369)
【Fターム(参考)】