説明

連続可変トランスミッション

連続可変トランスミッションであって、駆動ベルトと、それぞれに1対のプーリシーブ(8,9)が設けられた2つの調節可能なプーリ(7)とが設けられており、前記プーリシーブのうち、第1のプーリシーブ(9)は各プーリ(7)のプーリ軸(6)に固定されており、第2のプーリシーブ(8)は、プーリ軸(6)のスリーブ(25)に設けられることによって各プーリ軸(2;6)に対して軸方向に移動可能である。第2のプーリシーブ(8)の剛性は、第1のプーリシーブ(9)の剛性よりも大きく、これにより、作動中に、プーリシーブ(8;9)によってベルトに加えられる締付力の影響を受けて、第2のプーリシーブ(8)が第1のプーリシーブ(9)よりも少ない程度に軸方向に撓む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に乗用自動車において使用するための、2つのプーリの周囲に巻き掛けられた駆動ベルトを備えた連続可変トランスミッション若しくはCVTに関する。各プーリには、1対のプーリシーブ若しくはディスクが設けられており、そのうち一方のシーブはプーリの軸に固定されており、他方は、プーリ軸の周囲に取り付けられたスリーブに設けられることによってプーリ軸に対して軸方向に移動可能である。各プーリの移動可能なシーブは、移動手段によって、そのプーリの固定されたシーブに向かってプーリ軸上で付勢することができる。一般的に、このような移動手段は、液圧式に作動させられ、ピストン・シリンダアセンブリを有する。
【0002】
各プーリのシーブ対はV字形の溝を形成しており、この溝に、駆動ベルトの一部が、移動手段によってプーリシーブの間に加えられる締付力の影響を受けながら保持される。プーリ締付力は、伝達比、及びCVTによって伝達することができるトルクを決定する。
【0003】
各プーリの一方のシーブのみが軸方向に移動可能であるので、例えば欧州特許出願公開第0291129号明細書に記載されているように、プーリV字形溝は、1つ又は最大で2つの変速比に対してのみ、完全に整合させることができる、すなわち軸方向で一列に互いに位置決めすることができる。全ての他の変速比において、プーリV字形溝は、多かれ少なかれ整合していない。このような幾何学的に決定された軸方向プーリ不整合の結果、駆動ベルトは、プーリの間において僅かに傾斜した軌道をたどり、プーリのシーブ対の間に斜めに進入する。公知技術において、プーリは、作動中に最も高い動力がトランスミッションによって伝達される変速比においてV字形溝が互いに整合させられるように、トランスミッションに組み込まれている。
【0004】
別の欧州特許出願公開第1427953号明細書から、プーリシーブが、作動中に、すなわち動的に、締付力の影響を受けることによって弾性変形することが知られている。特に、シーブは、軸方向で互いから離れるように撓み、これにより、シーブの間の軸方向分離が増大する。このような相互のシーブ撓みは、プーリシーブの間における駆動ベルトのより半径方向外方の位置において最も顕著である。このような相互シーブ撓みの結果、駆動ベルトの半径方向位置(走行半径とも呼称される)は、プーリシーブの間における駆動ベルトの円弧状軌道に沿って多かれ少なかれ次第に減少する。
【0005】
本発明の根底にある洞察は、このような相互シーブ撓みが、プーリの2つのシーブの間で均一に分配されないということである。一般的に、移動可能なシーブは、固定されたシーブよりも大きな軸方向変形を生じる。その結果、従来技術において説明したように、駆動ベルトの半径方向位置が減少するのみならず、駆動ベルトの軸方向位置が、2つの変形しない、完全に剛性のシーブの間の理論的な位置に対して、移動させられる。異なる見方によれば、プーリシーブの間の相互シーブ撓みの非対称の分布により、プーリV字形溝の中央が、軸方向で、最も変形するシーブに向かってシフトする。
【0006】
実質的に同じ設計の2つのプーリがCVTにおいて使用されるとしても、プーリV字形溝の中心のこのような軸方向シフトは、両方のプーリに対して同じではないということが留意される。第1に、プーリV字形溝における駆動ベルトの半径方向位置、ひいては相互のシーブ撓みは、一般的に、2つのプーリの間で異なり、第2に、プーリは、通常、移動可能なシーブと固定されたシーブとが互いに軸方向で反対側になるようにトランスミッションに組み込まれている。その結果、軸方向プーリ整合(不整合)、及び駆動ベルトの傾斜した軌道は、作動中に影響される。本発明によれば、不整合の増大は、CVTの動力伝達効率を低下させる及び/又は駆動ベルトの機械的負荷を増大させるという点で、不都合である。
【0007】
本発明によれば、前記不都合な効果は、作動中に、固定されたシーブと移動可能なシーブとの軸方向変形が実質的に同じであるならば、すなわちプーリのシーブが、前記相互のシーブ撓みがシーブの間で対称的に分配されるように互いに等しい剛性を持つように設計されているならば、ほとんど回避される。
【0008】
択一的に、本発明によれば、不均一に分配された相互シーブ撓みでさえも、実際には、有利に利用され得る。特に、プーリの移動可能なシーブが、固定されたシーブよりも剛性に設計されているならば、すなわち、作動中に、移動可能なプーリシーブが、固定されたシーブよりも小さく変形するならば、作動中に相互シーブ撓みによって、幾何学的に決定された軸方向プーリ不整合を部分的に打ち消す、すなわち減じることができることが分かった。好適には、CVTの両プーリはこのように設計される。
【0009】
添付図面に関して発明を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】従来技術による2つの調節可能なプーリを備えた連続可変トランスミッションの概略的な断面図である。
【図2】トランスミッションの変速比に関する、プーリの幾何学的に決定された整合(不整合)を示すグラフである。
【図3】FEM分析によって近似された、公知のプーリ設計の弾性変形を示す図である。
【図4】FEM分析によって近似された、新規のプーリ設計の弾性変形を示す図である。
【0011】
図1に概略的に断面図で示された連続可変トランスミッション1は、従来技術による一次調節可能プーリ3及び二次調節可能プーリ7とともに、トランスミッションハウジング11の内部に設けられている。各プーリ3,7は1対のシーブを有しており、このシーブ対はそれぞれ、一次プーリ軸2と二次プーリ軸6とに配置されている。各プーリ3,7のシーブ対はV字形の周方向溝を形成しており、この溝に駆動ベルトの一部が保持されている。
【0012】
プーリ軸2,6は、トランスミッションハウジング11における軸受50,51に取り付けられている。各プーリ3,7の第1のシーブ4,9はそれぞれのプーリ軸2,6に固定されているのに対し、各プーリ3,7の第2のシーブ5,8は、このようなそれぞれの軸2,6の周囲に取り付けられたそれぞれのスリーブ20,25に配置されることによってそれぞれのプーリ軸2,6に対して軸方向に移動可能に設けられている。その結果、各プーリ3,7のシーブ対の間における駆動ベルト10の半径方向位置、ひいては変速比を設定することができる。
【0013】
軸方向に移動可能なシーブ5及び8のそれぞれには、駆動ベルト10に締付力を加えるための、液圧式に作動させられるピストン・シリンダアセンブリが設けられている。二次プーリ7の移動可能なシーブ8のためには、これはシングルピストン・シリンダアセンブリ26,27であり、一次プーリ3の移動可能なシーブ5のためには、これはダブルピストン・シリンダアセンブリである。ダブルピストン・シリンダアセンブリは、第1及び第2のシリンダ室13,14を有している。第1のシリンダ室13は、シリンダ19,24と、ピストン18と、一次プーリ軸2とによって取り囲まれている。第2のシリンダ室14は、シリンダ21と、ピストン17と、移動可能なシーブ5と、一次プーリ軸2のスリーブ20とによって取り囲まれている。移動可能なシーブ5及びそのスリーブ20が一次プーリ軸2に沿って軸方向に移動させられるように、ボア15及び16を通じてシリンダ室13及び14に対して流体を出入させることができる。二次プーリ7の移動可能なシーブ8のピストン・シリンダアセンブリ26,27は、同様の構成及び働きを有するが、追加的に、ピストン・シリンダアセンブリにおけるオイル圧力がない場合にも、駆動ベルト1に基本的な締付力を加えるために、シリンダ27の内部に円筒状のコイルばね100が設けられている。あるトランスミッション設計においては、一次プーリ3のシリンダ室13,14にもばねが設けられることが留意される。
【0014】
図2において、実線は、変速比に対する、プーリV字形溝の間の幾何学的に決定された不整合の大きさを示しており、変速比は、二次プーリ7における駆動ベルト10の半径方向位置を、一次プーリ3における駆動ベルト10の半径方向位置によって割ったものと定義される。図2に見られるように、プーリ3,7は、中間比(すなわち1:1の比)のそれぞれの側において、2つの変速比において整合させられているが(すなわち不整合=0)、プーリ3,7は、その他の全ての変速比において不整合であり、不整合の場合、駆動ベルト10はプーリV字形溝に斜めに進入する。プーリ3,7、すなわちプーリV字形溝が整合させられる変速比は、トランスミッション1の設計段階及び/又は組立て時に選択され、すなわち、ゼロ不整合X軸は、不整合曲線(すなわち図2における曲線)に関するあらゆる所望の位置においてY軸と交差させることができる。しかしながら、好適には、プーリV字形溝は、作動中にトランスミッションによって最も高い動力が伝達される変速比において互いに整合させられる。
【0015】
図3には、図1の公知の設計による二次プーリ7の弾性変形が、プーリシーブ8,9の間における駆動ベルト10の半径方向位置と、駆動ベルト10に加えられる締付力とに関して最大発生値を伴う作動条件について断面図で示されている。二次プーリ7の移動可能なシーブ8の軸方向撓みは、0.25mm、若しくは二次プーリ7の固定されたシーブ9の0.19mmの軸方向撓みの132%に達する。その結果、この二次プーリ7のV字形溝の中心は、少なくとも変形されていないプーリシーブ8′,9′に対して、図3において右側へ移動させられる。この効果は、前記不整合を、例えば図2におけるA点からB点へ増大させる。つまり、図2における点線は、変速比に関する、トランスミッションの作動中のプーリV字形溝の間の不整合の最大値を示している。
【0016】
本発明によれば、したがって、作動中にシーブが同じ程度に変形する、すなわち軸方向に同じ程度に撓むように、実質的に等しい剛性を備えた、プーリ3又は7の移動可能なシーブ5又は8及び固定されたシーブ4又は9を有することが好ましく、この場合、プーリV字形溝不整合は、幾何学的にのみ決定される。
【0017】
択一的に、本発明によれば、固定されたシーブ4又は9の剛性よりも大きな剛性を備えた移動可能なシーブ5又は8がトランスミッションに組み込まれる。このようなプーリ設計の例が図4に断面図で示されており、図4は、図3の場合と同じ作動条件における、プーリの弾性変形を示している。図1及び図3の公知のプーリ設計と比較して、この新規のプーリ設計においては、このシーブ8とスリーブ25との間に提供されたほぼ円錐形の1つ又は複数の支持リブ若しくは強化リブ、又はカラー104を用いることによって、著しく増大した剛性を有する移動可能なシーブ8が提供される。この手段によって、移動可能なシーブ8の軸方向撓みを、0.16mmに、若しくは固定されたシーブ9の0.19mmの軸方向撓みの84%のみに減じることができる。その結果、この二次プーリ7のV字形溝の中心は、少なくとも変形されていないプーリシーブ8′,9′に対して、図4において左側へ移動させられる。この効果は、前記不整合を、例えば図2におけるA点からC点へ減少させる。図2における破線は、図4の設計によるプーリ3,7が設けられたトランスミッションの作動中の、変速比に対するプーリV字形溝の間の不整合の最大値を示している。
【0018】
上記の例、及びこの例に関して言及された数は、強化カラー104を組み込むことによる公知のプーリ設計の最小限の変更に関し、それ自体は、単に、達成可能な肯定的結果を示していることが留意される。発明の最適な利用に完全に委ねられた、プーリ3,7の完全な再設計の場合、著しく改良された結果が実際に達成される。
【0019】
さらに、公知のプーリ設計から離れて、本発明は、上記のように移動可能なシーブ5,8を剛性化(すなわち強化)することによって、又は固定されたシーブ4,9の剛性を減じることによって(又はその両方によって)実現されてよいことが留意される。しかしながら、プーリシーブの剛性を減じることは第1に好ましくない。なぜならば、作動中のシーブの軸方向変形、その結果として、駆動ベルトの半径方向移動若しくは滑りが、これによって著しく増大され、パワートランスミッション全体の効率の不都合な低下を生じるからである。
【0020】
さらに、本発明による手段を実現することによって、作動中にプーリ3,7が整合させられる(すなわち不整合=0である)(2つの)変速比は、公知のトランスミッション設計に対して変化していることも留意される。この効果は、図2から、破線(本発明を表す)が、点線(従来技術を表す)と比較して、どこでゼロ不整合X軸と交差するかが比較されたときに、明らかである。この効果は、もちろん、トランスミッションの設計段階及び/又は組立て時にプーリ3,7の整合を反対方向に変更することによって補償されてよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続可変トランスミッション(1)であって、駆動ベルト(10)と、それぞれに2つのプーリシーブ(4,5;8,9)が設けられた2つの調節可能なプーリ(3,7)とが設けられており、前記プーリシーブのうち、第1のプーリシーブ(4;9)は各プーリ(3;7)のプーリ軸(2;6)に固定されており、第2のプーリシーブ(5;8)は、プーリ軸(2;6)のスリーブ(20;25)に設けられることによって各プーリ軸(2;6)に対して軸方向に移動可能である形式のものにおいて、2つのプーリ(3,7)のうちの少なくとも一方のプーリ(3;7)の、トランスミッションの作動中における第2のプーリシーブ(5;8)の最大軸方向変形が、前記少なくとも一方のプーリ(3;7)の第1のプーリシーブ(4;9)の対応する軸方向変形と実質的に同じであるか、又は該軸方向変形よりも小さいことを特徴とする、連続可変トランスミッション(1)。
【請求項2】
連続可変トランスミッション(1)であって、駆動ベルト(10)と、それぞれに2つのプーリシーブ(4,5;8,9)が設けられた2つの調節可能なプーリ(3,7)とが設けられており、前記プーリシーブのうち、第1のプーリシーブ(4;9)は各プーリ(3;7)のプーリ軸(2;6)に固定されており、第2のプーリシーブ(5;8)は、プーリ軸(2;6)のスリーブ(20;25)に設けられることによって各プーリ軸(2;6)に対して軸方向に移動可能である形式のものにおいて、両プーリ(3,7)の第2のプーリシーブ(5;8)の、トランスミッションの作動中における軸方向での最大弾性変形が、各プーリ(3;7)の第1のプーリシーブ(4;9)の対応する軸方向変形と実質的に同じであるか、又は該軸方向変形よりも小さいことを特徴とする、連続可変トランスミッション。
【請求項3】
連続可変トランスミッションであって、駆動ベルト(10)と、それぞれに2つのプーリシーブ(4,5;8,9)が設けられた2つの調節可能なプーリ(3,7)とが設けられており、前記プーリシーブのうち、第1のプーリシーブ(4;9)は各プーリ(3;7)のプーリ軸(2;6)に固定されており、第2のプーリシーブ(5;8)は、プーリ軸(2;6)のスリーブ(20;25)に設けられることによって各プーリ軸(2;6)に対して軸方向に移動可能である形式のものにおいて、2つのプーリ(3,7)のうちの少なくとも一方(3;7)及び好適には両方の、第2のプーリシーブ(5;8)の剛性が、2つのプーリ(3;7)のうちの少なくとも一方又は両方の、第1のプーリシーブ(4;9)の剛性と多くとも実質的に同じであり、好適には該剛性よりも小さいことを特徴とする、連続可変トランスミッション。
【請求項4】
前記2つの調節可能なプーリ(3,7)のそれぞれに、ピストン・シリンダアセンブリを有する液圧式に作動される移動手段が設けられており、前記ピストン・シリンダアセンブリのシリンダ(21;27)が、それぞれの第2のシーブ(5;8)に取り付けられているか、又はそれぞれの第2のシーブ(5;8)の一部である、請求項1から3までのいずれか1項記載の連続可変トランスミッション(1)。
【請求項5】
2つのプーリ(3;7)のうちの少なくとも一方のプーリの第2のプーリシーブ(5;8)と、該第2のプーリシーブ(5;8)のそれぞれのスリーブ(20;25)との間に、ほぼ円錐形の、1つ又は複数の支持リブ若しくは強化リブ、又はカラー(104)が設けられている、請求項1から4までのいずれか1項記載の連続可変トランスミッション。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−515923(P2013−515923A)
【公表日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−545878(P2012−545878)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際出願番号】PCT/NL2010/000179
【国際公開番号】WO2011/078657
【国際公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(390023711)ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング (2,908)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】