説明

連続焼鈍設備およびその設備における急冷焼入時の金属板の波状変形抑制方法

【課題】本発明の目的は、急冷焼入時に生じる金属板の波状変形を抑制可能な連続焼鈍設備およびその設備における急冷焼入時の金属板の波状変形抑制方法を提供することにある。
【解決手段】急冷焼入部を有する連続焼鈍設備において、前記急冷焼入部にて急冷焼入工程に付される鋼板4の張力を変えることができる張力変更手段としてのブライドルロール10、11を急冷焼入部前後に設けたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属板を連続的に通板して焼鈍処理を行う際に急冷焼入時の金属板に生じる波状変形を抑制する連続焼鈍設備およびその設備における金属板の波状変形抑制方法に関するものである。ここで、波状変形とは、例えば金属板の幅方向の端部や中央部でそれぞれ発生する耳波変形や中伸び変形をいう。
【背景技術】
【0002】
連続焼鈍炉の前半(加熱帯)での金属板の蛇行防止のため、連続焼鈍炉へ通板する前に金属板の形状を所定の数式を用いて平坦に矯正する矯正方法が開示されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
また、連続焼鈍ラインにおいて、焼鈍条件の異なる2種類の金属板をつなげて高能率に通板するために、材質(成分)調整したダミー材を前記両金属板の間に挿入する方法が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62−67122号公報
【特許文献2】特開昭63−69924号公報
【特許文献3】特開2006−104492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1、2に開示されたような矯正方法は、連続焼鈍炉の前半(加熱帯)での金属板の蛇行防止には有効であるが、急冷焼入時に生ずる金属板の波状変形に起因する連続焼鈍炉の後半での蛇行防止には無力である。当然、製品としての金属板の形状(品質)不良低減に対しても効果はない。
【0006】
また、上記特許文献3に開示されたようなダミー材の材質を変更する方法は、ダミー材の蛇行防止には効果があるが、製品の蛇行防止には無力である。また、ダミー材として、条件に適合する材質(成分)調整を行なったものを準備しなければならないため、コストアップとなる。
【0007】
本発明の目的は、上記課題を解決するものであり、急冷焼入時に生じる金属板の波状変形を抑制可能な連続焼鈍設備およびその設備における急冷焼入時の金属板の波状変形抑制方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に記載の発明は、急冷焼入部を有する連続焼鈍設備において、前記急冷焼入部にて急冷焼入工程に付される金属板の張力を変えることができる張力変更手段を、前記急冷焼入部近傍に設けたことを特徴とする連続焼鈍設備である。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記張力変更手段で前記金属板の張力が変えられることにより、前記急冷焼入工程での金属板の座屈固有モードが、前記急冷焼入工程前後の金属板に付与される張力と同等の大きさの張力が前記急冷焼入工程の金属板に付与された場合に発生する金属板の座屈固有モードよりも高次の座屈固有モードに移行するように構成されたものである。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、前記張力変更手段は、前記急冷焼入工程での金属板の張力が前記急冷焼入工程前後の金属板の張力より大きくなるように設置されたことを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、前記張力変更手段は、前記急冷焼入工程での金属板の張力が前記急冷焼入工程前後の金属板の張力より小さくなるように設置されたことを特徴とする。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4に記載の発明において、前記張力変更手段は、前記急冷焼入部前後に設けられたブライドルロールであることを特徴とする。
【0013】
請求項6に記載の発明は、連続焼鈍設備内の急冷焼入部にて急冷焼入工程に付される金属板の張力を、前記急冷焼入部近傍に設けられた張力変更手段により変えることを特徴とする連続焼鈍設備における急冷焼入時の金属板の波状変形抑制方法である。
【0014】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の発明において、前記張力変更手段で前記金属板の張力を変えることにより、前記急冷焼入工程での金属板の座屈固有モードが、前記急冷焼入工程前後の金属板に付与される張力と同等の大きさの張力が前記急冷焼入工程の金属板に付与された場合に発生する金属板の座屈固有モードよりも高次の座屈固有モードに移行するようにしたものである。
【0015】
請求項8に記載の発明は、請求項6または7に記載の発明において、前記張力変更手段により、前記急冷焼入工程での金属板の張力を前記急冷焼入工程前後の金属板の張力より大きくなるようにしたことを特徴とする。
【0016】
請求項9に記載の発明は、請求項6または7に記載の発明において、前記張力変更手段により、前記急冷焼入工程での金属板の張力を前記急冷焼入工程前後の金属板の張力より小さくなるようにしたことを特徴とする。
【0017】
請求項10に記載の発明は、請求項6乃至9に記載の発明において、前記張力変更手段は、前記急冷焼入部前後に設けられたブライドルロールであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明に係る連続焼鈍設備は、急冷焼入部を有する連続焼鈍設備において、前記急冷焼入部にて急冷焼入工程に付される金属板の張力を変えることができる張力変更手段を、前記急冷焼入部近傍に設けた構成であるため、急冷焼入時に生じる金属板の波状変形を抑制可能な連続焼鈍設備を実現できる。
【0019】
また、本発明に係る連続焼鈍設備における急冷焼入時の金属板の波状変形抑制方法は、連続焼鈍設備内の急冷焼入部にて急冷焼入工程に付される金属板の張力を、前記急冷焼入部近傍に設けられた張力変更手段により変えることを特徴とするものであるため、急冷焼入時に生じる金属板の波状変形を抑制可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る連続焼鈍設備の前提となる急冷焼入工程の構成を説明するためのものであり、(a)は模式正面図、(b)は温度イメージ図である。
【図2】図1に示す急冷焼入工程での鋼板の座屈固有モード解析結果(張力X=13MPaの場合)を説明するためのものであり、(a)は鋼板の平面図、(b)は鋼板の座屈固有モードの模式正面図である。
【図3】図1に示す急冷焼入工程での鋼板の座屈固有モード解析結果(張力X>13MPaの場合)を説明するための鋼板の座屈固有モードの模式正面図である。
【図4】図1に示す急冷焼入工程での鋼板の座屈固有モード解析結果(張力X<13MPaの場合)を説明するための鋼板の座屈固有モードの模式正面図である。
【図5】本発明に係る連続焼鈍設備の一実施形態を説明するための模式正面図である。
【図6】本発明に係る連続焼鈍設備の別の実施形態を説明するための模式正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
【0022】
(本発明に係る連続焼鈍設備の構成)
本発明に係る連続焼鈍設備は、急冷焼入部を有する連続焼鈍設備において、前記急冷焼入部にて急冷焼入工程に付される金属板の張力を変えることができる張力変更手段を、前記急冷焼入部近傍に設けたことを特徴とする。
【0023】
以上のような構成であるため、急冷焼入時に生じる金属板の波状変形を抑制可能な連続焼鈍設備を実現できる。
【0024】
(本発明に係る連続焼鈍設備における急冷焼入時の金属板の波状変形抑制方法)
本発明に係る連続焼鈍設備における急冷焼入時の金属板の波状変形抑制方法は、連続焼鈍設備内の急冷焼入部にて急冷焼入工程に付される金属板の張力を、前記急冷焼入部近傍に設けられた張力変更手段により変えることを特徴とするものである。
【0025】
以上のような方法であるため、急冷焼入時に生じる金属板の波状変形を抑制可能である。
【0026】
以下に、本発明に係る連続焼鈍設備の構成およびその設備における急冷焼入時の金属板の波状変形抑制方法に至った理由について説明する。
【0027】
本発明者達は、如何にしたら急冷焼入時に生じる金属板の波状変形を直接抑制可能か鋭意研究する中で、急冷焼入時に生じる金属板の波状変形を実験とシミュレーションの両面から検討した。
【0028】
まず初めに、本発明に係る連続焼鈍設備の前提となる急冷焼入工程の構成を図1に示す模式正面図を用いて説明する。図1(a)において、1は深さHになりように急冷焼入用の水2が貯蔵された水槽、3は水槽1の上部側に設置された一対の水噴出装置、4は一対の水噴出装置3の間を通り、水2の中に浸入し、ローラ5を介して右斜め上方に通板される幅W=1000mm、厚さt=1.5mmの鋼板、6は一対の水噴出装置3のスリットノズルから鋼板4の両面に噴出する水流である。図1(b)は、図1(a)に示すように鋼板4が通板され急冷焼入される際の鋼板4の対応する位置での温度イメージ図である。この鋼板4は、急冷焼入領域Lの間で急冷焼入温度Tq≒650℃から水2の温度≒25℃の温度勾配を受ける。この通板される鋼板4は、急冷焼入部(水噴出装置3及びその付帯設備)を有する連続焼鈍設備の急冷焼入工程を含めて全工程に亘って張力X=13MPaを受けている。このような急冷焼入工程を通過すると、鋼板4には前述したような波状変形が発生する。
【0029】
そこで、急冷焼入工程での上記波状変形は、どのような条件の時に発生するのか、座屈固有モード解析を実施した。その結果、急冷焼入工程での鋼板4が張力X=13MPaを受け、かつ、図2(a)に示す鋼板4の平面図のように、鋼板4の幅W方向の端部4a、4cと中央部4bの間に約200℃の温度差がある場合の座屈固有モード(図2(b)参照)が、急冷焼入工程での上記波状変形に相当することが判明した。
【0030】
上記シミュレーション(座屈固有モード解析)より、鋼板4の幅W方向の端部4a、4cと中央部4bの間に約200℃の温度差がある場合に上記波状変形が生ずることが判明したため、この温度差は固定したまま、急冷焼入工程での鋼板4に加わる張力Xを変えたならば、急冷焼入工程での鋼板4の座屈固有モードを変化させることができるのではないかという着想に至った。すなわち、急冷焼入工程での鋼板4に加わる張力Xを変えたならば、急冷焼入工程での上記波状変形を直接抑制できるのではないかという着想に至った。
【0031】
そこで、急冷焼入工程での鋼板4が、それぞれ張力X>13MPa、張力X<13MPaを受ける場合の座屈固有モード解析を実施した。その結果、図3、図4に示すように、いずれの場合とも、図2(b)に示す鋼板4の座屈固有モードが高次に移行することが分かった。すなわち、これは、急冷焼入工程前後の鋼板4に付与される張力(張力X=13MPa)と同等の大きさの張力が前記急冷焼入工程の鋼板4に付与された場合に発生する鋼板4の座屈固有モードを高次に移行させることが可能であることを物語っている。
【0032】
次に、上記のような急冷焼入工程前後の鋼板4に付与される張力(張力X=13MPa)と同等の大きさの張力が前記急冷焼入工程の鋼板4に付与された場合に発生する鋼板4の座屈固有モードを高次に移行させることが可能な具体例としての一実施形態を図5、図6を用いて以下に説明する。
【0033】
図5において、10、11は張力変更手段としてのブライドルロールである。また、図5において、図1に示す構成と同一な構成要素については、同一な符号を付して詳細な説明を省略する。ブライドルロール10、11の間隔Lは、急冷焼入領域Lを挟んでL>Lになるように急冷焼入部前後に設けられている。このように構成することで、ブライドルロール10、11で急冷焼入工程での鋼板4の張力Xを13MPaより大きくも小さくもすることが可能である。したがって、急冷焼入時に生じる鋼板4の波状変形を抑制可能な連続焼鈍設備を実現できる。また、ブライドルロール10、11は、ロールの回転速度を変えるができるため、鋼板4のサイズ(例えば、幅W=800〜1500mm、厚さt=0.6〜2.3mm)、材質によって波状変形が少なくなるような張力とする制御が可能である。
【0034】
図6において、15a、15bはガイドロールである。また、図6において、図5の場合と同様に、図1に示す構成と同一な構成要素については、同一な符号を付して詳細な説明を省略する。ガイドロール15a、15bは、急冷焼入部前に設けられている。このガイドロール15a、15bを鋼板4に対して矢印Cの方向に設置することにより、鋼板4を面外方向に拘束する。ガイドロール15a、15bとロール5の間隔は、急冷焼入領域Lを挟んで、Lより大きくなるように設定されている。また、ガイドロール15a、15bは上下移動可能であるため、ガイドロール15a、15bを用いて急冷焼入工程での鋼板4の張力Xを13MPaより大きくすることが可能である。したがって、このような構成にした場合にも、急冷焼入時に生じる鋼板4の波状変形を抑制可能な連続焼鈍設備を実現できる。また、このような構成を採用する場合にも、鋼板4のサイズ(例えば、幅W=800〜1500mm、厚さt=0.6〜2.3mm)、材質によって波状変形が少なくなるような張力とする制御が可能である。
【0035】
なお、本実施形態においては、鋼板と水冷を例に説明したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、本発明の技術思想は広く金属板全般、急冷焼入全般に適応可能である。
【0036】
また、本発明に係る連続焼鈍設備の構成およびその設備における急冷焼入時の金属板の波状変形抑制方法を用いたならば、急冷焼入時に生じる金属板の波状変形を抑制可能な連続焼鈍設備を実現できるばかりでなく、以下のようなさらなる作用効果も発揮される。すなわち、本発明を採用することにより、金属板の面外変形が小さくなり、形状修正するためのリコイラ、圧延等の後工程の省略も可能になる。また、金属板形状が安定することで、急冷焼入後の再加熱帯での蛇行を抑制(安定通板)することも可能になる。
【符号の説明】
【0037】
1:水槽
2:水
3:水噴出装置
4:鋼板
4a、4c:端部
4b:中央部
5:ロール
6:水流
10、11:ブライドルロール
15a、15b:ガイドロール



【特許請求の範囲】
【請求項1】
急冷焼入部を有する連続焼鈍設備において、前記急冷焼入部にて急冷焼入工程に付される金属板の張力を変えることができる張力変更手段を、前記急冷焼入部近傍に設けたことを特徴とする連続焼鈍設備。
【請求項2】
前記張力変更手段で前記金属板の張力が変えられることにより、前記急冷焼入工程での金属板の座屈固有モードが、前記急冷焼入工程前後の金属板に付与される張力と同等の大きさの張力が前記急冷焼入工程の金属板に付与された場合に発生する金属板の座屈固有モードよりも高次の座屈固有モードに移行するように構成された請求項1に記載の連続焼鈍設備。
【請求項3】
前記張力変更手段は、前記急冷焼入工程での金属板の張力が前記急冷焼入工程前後の金属板の張力より大きくなるように設置されたことを特徴とする請求項1または2に記載の連続焼鈍設備。
【請求項4】
前記張力変更手段は、前記急冷焼入工程での金属板の張力が前記急冷焼入工程前後の金属板の張力より小さくなるように設置されたことを特徴とする請求項1または2に記載の連続焼鈍設備。
【請求項5】
前記張力変更手段は、前記急冷焼入部前後に設けられたブライドルロールであることを特徴とする請求項1乃至4に記載の連続焼鈍設備。
【請求項6】
連続焼鈍設備内の急冷焼入部にて急冷焼入工程に付される金属板の張力を、前記急冷焼入部近傍に設けられた張力変更手段により変えることを特徴とする連続焼鈍設備における急冷焼入時の金属板の波状変形抑制方法。
【請求項7】
前記張力変更手段で前記金属板の張力を変えることにより、前記急冷焼入工程での金属板の座屈固有モードが、前記急冷焼入工程前後の金属板に付与される張力と同等の大きさの張力が前記急冷焼入工程の金属板に付与された場合に発生する金属板の座屈固有モードよりも高次の座屈固有モードに移行するようにした請求項6に記載の連続焼鈍設備における急冷焼入時の金属板の波状変形抑制方法。
【請求項8】
前記張力変更手段により、前記急冷焼入工程での金属板の張力を前記急冷焼入工程前後の金属板の張力より大きくなるようにしたことを特徴とする請求項6または7に記載の連続焼鈍設備における急冷焼入時の金属板の波状変形抑制方法。
【請求項9】
前記張力変更手段により、前記急冷焼入工程での金属板の張力を前記急冷焼入工程前後の金属板の張力より小さくなるようにしたことを特徴とする請求項6または7に記載の連続焼鈍設備における急冷焼入時の金属板の波状変形抑制方法。
【請求項10】
前記張力変更手段は、前記急冷焼入部前後に設けられたブライドルロールであることを特徴とする請求項6乃至9に記載の連続焼鈍設備における急冷焼入時の金属板の波状変形抑制方法。










【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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