説明

連続熱処理炉

【課題】被熱処理物の進行方向に直交する方向で生じる温度差を緩和し、高品質な熱処理品を得ることが可能な連続熱処理炉を提供する。
【解決手段】連続熱処理炉10は、入口部12A、加熱部12B、出口部12Dを含む炉本体12と、加熱部12Bに配設されるマッフル14と、マッフル14を介して被熱処理物を加熱するヒータ部16と、駆動手段によりマッフル14内を通過するベルト24とを含み、被熱処理物を収容する匣Sがベルト24上に配置され、匣Sを炉本体12内に搬送させることによって、被熱処理物への熱処理を連続的に行う。加熱部12Bは、昇温領域12b1および保温領域12b2を含み、ヒータ部16は、金属ヒータ20a,20bを含み、昇温領域12b1において、ベルト24の進行方向に直交する方向でみたときの金属ヒータ20a,20bの幅w1は、匣Sの幅w2と同等に形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、連続熱処理炉に関し、セラミック電子部品の製造に用いられるセラミック素体の焼成、セラミック素体への外部電極の焼付け、ガラス基板の熱処理等の各種熱処理に用いられ、メッシュベルトやローラチェーンベルト等のベルト式の連続熱処理炉に用いて好適な連続熱処理炉に関する。
【背景技術】
【0002】
図9の(A)は、この発明の背景となる従来のベルト式の連続焼成炉の一例を示す平面模式図であり、図9の(B)は、図9の(A)の線E−Eにおける拡大した断面的模式図である。
この従来のベルト式の連続焼成炉1は、図9の(A)に示すように、トンネル型の炉本体2を含む。炉本体2は、入口部2A,加熱部2B,冷却部2C,出口部2Dを有する。入口部2A,加熱部2B,冷却部2C,出口部2Dは、連続して水平方向に直線状に配置される。加熱部2Bおよび冷却部2Cの内部には、それぞれ、図9の(B)に示すように、ヒータ部3を備えた断熱部5および断面視矩形筒状のマッフル7が配設される。ヒータ部3は、マッフル7の上面7aの上方および下面7bの下方に配置される面状の金属ヒータ3a,3bを有する。断熱部5は、マッフル7の上面7aおよび下面7bと間隔を隔てて配設される断熱材5a,5bを有する。また、断熱部5は、マッフル7の両側面7c,7dと間隔を隔てて配設される断熱材5c,5dを有する。面状の金属ヒータ3a,3bは、それぞれ、断熱材5a,5bに一体的に組み込まれている。
【0003】
炉本体1には、ベルト駆動手段(図示せず)によって、マッフル7の内部を通過するように、無端環状に回転駆動される帯状のベルト9が配設される。ベルト9の上には、被熱処理物としてのたとえば被焼成物が収納された匣(さや)Sが載置される。ベルト駆動手段を駆動させることによって、ベルト9上に載置された匣Sを炉本体1のマッフル7内に連続的に搬送させながら、匣S内の被焼成物に焼成(熱処理)を行なっている。
【0004】
この従来のベルト式の連続焼成炉1では、たとえば図9の(A),(B)に示すように、ベルト9の進行方向と直交する平面、つまり、ベルト9の幅方向でみて、金属ヒータ3a,3bのヒータ幅(発熱部の幅)をw1とし、ベルト9上に載置される匣Sの幅をw2とし、ベルト9の幅をw3としたとき、w1>w3>w2となる構造を有している。また、金属ヒータ3a,3bのヒータ幅w1は、ベルト9の幅方向でみて、マッフル7の上面7aおよび下面7bの幅方向の長さと略同じ長さに形成されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この従来のベルト式の連続焼成炉1は、上記したように、ベルト9の幅方向でみて、被加熱物としての匣Sの幅w2およびベルト9の幅w3よりも金属ヒータ3a,3bの幅w1が広い構造となっている。
一方で、金属ヒータ3a,3bは、図10(A),(B)に示すように、金属ヒータ3a,3bの面全体がヒータ発熱部となって、面全体でマッフル7の上面7aおよび下面7bを加熱する。さらに、金属ヒータ3a,3bの特徴として、図10(C)に示すように、ヒータ発熱部からの熱出力がパルス的な熱出力分布となっているため、金属ヒータ3a,3bの側端面からの放熱は極めて小さいものとなっている。
【0006】
この金属ヒータ3a,3bが発熱すると、図10(B)に示すように、金属ヒータ3a,3bのヒータ幅w1と略同じ幅を有するマッフル7全体が加熱される[図10の(B)の加熱部H参照]。金属ヒータ3a,3bからの熱は、マッフル7の上面7aおよび下面7bに伝熱され、さらに、マッフル7の両側面7c,7dへと伝熱され、マッフル7全体へと伝熱される。この場合、匣Sは、マッフル7の下面7b側に載置されているため、匣Sへの伝導伝熱は、マッフル7の下面7bからの伝導伝熱が支配的なものとなっている。また、匣Sの幅w2よりも金属ヒータ3a,3bの幅w1が広く形成されているため、匣Sの幅方向の両端側には、マッフル7の両側面7c,7dからの伝熱も大きく、匣Sの幅方向の両端部の温度が高くなる。
【0007】
それゆえ、ベルト9の幅方向にみて、匣Sの幅w2よりもはみ出ている金属ヒータ3a,3bのはみ出し部分は、金属ヒータ3a,3bの発熱量と、被加熱物としての匣Sの蓄熱量とのバランスがとれていない部分となっている。
すなわち、ベルト9の幅方向でみて、匣Sの幅方向の一端部および他端部には、マッフル7の両側面7c,7dからの伝導伝熱による余剰熱量が生じる。この場合、被焼成物が収納された匣Sの幅方向でも温度差が生じるため、匣Sに収納された被焼成物の幅方向の中央部と幅方向の両端部に温度差が生じる。そのため、この温度差により被焼成物の幅方向で収縮量に差が発生し、これが原因で被焼成物に割れや反りなどの悪影響が発生する。このことは、入口部2A付近に位置する加熱部2Bの昇温領域において顕著なものとなり、また、被焼成物が大型の被焼成物になるほど顕著なものとなる。
したがって、この従来のベルト式の連続焼成炉1では、信頼性に優れた高品質な熱処理品としての焼成品が得られないという不具合を生じるものとなっている。
【0008】
それゆえに、この発明の主たる目的は、被熱処理物の進行方向に直交する方向で生じる温度差を緩和し、高品質な熱処理品を得ることが可能な連続熱処理炉を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1にかかる本発明は、入口部、複数の温度領域を有する加熱部および出口部を含む炉本体と、加熱部に配設されるマッフルと、炉本体内に配設され、マッフルを介して被熱処理物を加熱するヒータ部と、駆動手段により無端環状に回動され、その回動経路の少なくとも一部がマッフル内を通過するベルトとを含み、被熱処理物を収容する匣(さや)がベルト上に配置され、匣を炉本体内に搬送させることによって、被熱処理物への熱処理を連続的に行なう連続熱処理炉であって、加熱部は、昇温領域および保温領域を含み、ヒータ部は、加熱部に配設される金属ヒータを含み、加熱部の昇温領域の全体もしくは一部において、ベルトの進行方向に直交する平面でみたときに、金属ヒータの幅は、匣の幅と同等に形成されることを特徴とする、連続熱処理炉である。
請求項1にかかる本発明は、上記した構成を有することによって、マッフルから匣への伝導伝熱が支配的となる「昇温領域」において、金属ヒータからの発熱量と、金属ヒータからマッフルを介して匣に伝熱され、匣に蓄熱される蓄熱量とのバランスがとれるものとなる。そのため、匣の幅方向の温度差を軽減することができ、匣の幅方向の温度が略均一となる。この場合、金属ヒータの対向面となるマッフルからの伝導伝熱が支配的となり、当該対向面が主たる加熱面となる。特に、匣に対しては、マッフルの下面からの伝導伝熱が支配的なものとなる。そのため、匣に対しては、マッフルの両側面からの伝熱および放熱といった熱の授受が少なく、当該匣の幅方向の温度差を軽減することができる。
請求項2にかかる本発明は、請求項1にかかる発明に従属する発明であって、ヒータ部は、加熱部の保温領域において、ベルトの進行方向に直交する平面でみたときに、金属ヒータの幅が、匣の幅よりも広く形成される他の金属ヒータをさらに含むことを特徴とする、連続熱処理炉である。
請求項2にかかる本発明は、上記した構成を有することによって、マッフルから匣への輻射伝熱が支配的となる「保温領域」において、マッフルの両側面からの放熱の影響が小さいものとなる。匣の幅方向の温度差を軽減することができ、匣の幅方向の温度が略均一となる。つまり、金属ヒータからの発熱量と、匣に蓄熱される蓄熱量とのバランスがとれるものとなっている。
請求項3にかかる本発明は、入口部、複数の温度領域を有する加熱部および出口部を含む炉本体と、加熱部に配設されるマッフルと、炉本体内に配設され、マッフルを介して被熱処理物を加熱するヒータ部と、駆動手段により無端環状に回動され、その回動経路の少なくとも一部がマッフル内を通過するベルトとを含み、被熱処理物を収容する匣(さや)がベルト上に配置され、匣を炉本体内に搬送させることによって、被熱処理物への熱処理を連続的に行なう連続熱処理炉であって、加熱部は、昇温領域および保温領域を含み、ヒータ部は、加熱部に配設される棒状の非金属ヒータおよび面状の金属ヒータを含み、非金属ヒータは、発熱部と非発熱部を含み、加熱部の昇温領域において、ベルトの進行方向に直交する平面でみたときに、非金属ヒータの発熱部の幅は、匣の幅よりも広く形成され、加熱部の保温領域において、ベルトの進行方向に直交する平面でみたときに、金属ヒータの幅は、匣の幅よりも広く形成されることを特徴とする、連続熱処理炉である。
請求項3にかかる本発明は、上記した構成を有することによって、マッフルから匣への伝導伝熱が支配的となる「昇温領域」において、非金属ヒータの非発熱部による熱出力が鈍化する部位の放熱量を補償することができる。そのため、非金属ヒータからの発熱量と、非金属ヒータからマッフルを介して匣に伝熱され、匣に蓄熱される蓄熱量とのバランスがとれるものとなる。この場合、匣に対しては、マッフルの両側面からの伝熱が少なく、当該匣Wの幅方向の温度差を軽減することができる。そのため、匣Wの幅方向の温度が略均一となる。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、熱処理物の進行方向に直交する方向で生じる温度差を緩和し、高品質な熱処理品を得ることが可能な連続熱処理炉が得られる。
【0011】
この発明の上述の目的、その他の目的、特徴および利点は、図面を参照して行う以下の発明を実施するための形態の説明から一層明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明にかかる連続熱処理炉の実施の形態の一例を示す模式図であって、(A)はその平面模式図であり、(B)はその正面模式図である。
【図2】図1の連続熱処理炉の昇温領域におけるヒータ部のレイアウトの要部を示す模式図であって、図2の(A)は、図1の(A)の線A−Aにおける拡大した断面的模式図であり、図2の(B)は、昇温領域における被熱処理物の加熱メカニズムを示す断面的模式図である。
【図3】図1の連続熱処理炉の昇温領域および保温領域におけるヒータ部のレイアウトの要部を比較した模式図であって、図3の(A)は、昇温領域における被熱処理物の加熱メカニズムを示す断面的模式図であり、図3の(B)は、図1の(A)の線B−Bにおける拡大した断面的模式図であり、且つ、保温領域における被熱処理物の加熱メカニズムを示す断面的模式図である。
【図4】図1の連続熱処理炉を用いて被熱処理物を熱処理した場合の昇温領域,保温領域,降温領域の各温度ゾーン#1〜#10において、ベルトの幅方向でみたときの被熱処理物の幅方向中央部と幅方向端部の温度差を示すグラフである。
【図5】この発明にかかる連続熱処理炉の実施の形態の他の例を示す平面模式図である。
【図6】図5の連続熱処理炉の昇温領域におけるヒータ部のレイアウトの要部を示す模式図であって、図6の(A)は、図5の線C−Cにおける拡大した断面的模式図であり、図6の(B)は、昇温領域における被熱処理物の加熱メカニズムを示す断面的模式図である。図6の(C)は、図6の(A),(B)に示すヒータ部の熱出力分布を示す説明図である。
【図7】図5の連続熱処理炉の昇温領域および保温領域におけるヒータ部のレイアウトの要部を比較した模式図であって、図7の(A)は、昇温領域における被熱処理物の加熱メカニズムを示す断面的模式図であり、図7の(B)は、図5の線D−Dにおける拡大した断面的模式図であり、且つ、保温領域における被熱処理物の加熱メカニズムを示す断面的模式図である。
【図8】図5の連続熱処理炉を用いて被熱処理物を熱処理した場合の昇温領域,保温領域,降温領域の各温度ゾーン#1〜#10において、ベルトの幅方向でみたときの被熱処理物の幅方向中央部および幅方向両端部の3点の最大温度と最小温度の温度差を示すグラフである。
【図9】図9の(A)は、この発明の背景となる従来のベルト式の連続焼成炉の一例を示す平面模式図であり、図9の(B)は、図9の(A)の線E−Eにおける拡大した断面的模式図である。
【図10】図9の(A)に示す従来のベルト式の連続焼成炉の昇温領域におけるヒータ部のレイアウトの要部を示す模式図であって、図10の(A)は、図9の(A)の線C−Cにおける拡大した断面的模式図であり、図10の(B)は、昇温領域における被焼成物の加熱メカニズムを示す断面的模式図である。図10の(C)は、図10の(A),(B)に示すヒータ部の熱出力分布を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(この発明にかかる実施の形態)
図1は、この発明にかかる連続熱処理炉の実施の形態の一例を示す模式図であって、(A)はその平面模式図であり、(B)はその正面模式図である。
この連続熱処理炉10は、トンネル型の炉本体12を含む。炉本体12は、入口部A、加熱部12B、冷却部12C、出口部12Dを有する。入口部A、加熱部12B、冷却部12C、出口部12Dは、連続して水平方向に一直線状に配置される。
加熱部12Bおよび冷却部12Cの内部は、複数の温度ゾーン#1〜#10に区画されている。加熱部12Bおよび冷却部12Cの温度ゾーン#1〜#10には、それぞれ、図2の(A),(B)に示すように、断面視矩形筒状のマッフル14が配設される。マッフル14は耐熱金属からなり、匣Sを囲むように構成される。各温度ゾーン#1〜#10のマッフル14をさらに囲むように、ヒータ部16を有する断熱部18が配設される。
【0014】
ヒータ部16は、マッフル14の上面14aの上方に配置される面状の金属ヒータ20aおよびマッフル14の下面14bの下方に配置される面状の金属ヒータ20bを有する。断熱部18は、マッフル14の上面14aおよび下面14bと間隔を隔てて配設される断熱材22aおよび断熱材22bを有する。また、断熱部18は、マッフル14の両側面14c,14dと間隔を隔てて配設される断熱材22c,22dを有する。面状の金属ヒータ20a,20bは、それぞれ、断熱材22a,22bに一体的に組み込まれている。金属ヒータ20a,20bは、カンタルヒータ、白金ヒータ、タンタル系ヒータ、モリブデン系ヒータ、タングステン系ヒータなどが用いられる。
【0015】
炉本体10には、図1の(A),(B)に示すように、ベルト駆動手段(図示せず)によって、マッフル14の下面14aの内面上を通過するように、無端環状に回転駆動される帯状のベルト24が配設される。ベルト24は、図1の(B)に示すように、回転ローラ26,28間に架け設けられ、ベルト駆動手段で無端環状に回転駆動される。ベルト24は、たとえば金属線材を編み込むことにより構成されたメッシュベルトで形成されている。ベルト24としては、メッシュベルト以外にも、たとえばローラチェーンベルトを用いることも可能である。
【0016】
ベルト24の上には、被熱処理物としてのたとえば被焼成物(図示せず)が収納された匣Sが配置される。この匣Sは、アルミナなどの耐火物セラミック材料を用い、被熱処理物を収容する箱型の本体と、被熱処理物の汚染を防止するための蓋体とで構成されている。被熱処理物としては、たとえば脱バインダや焼成などの熱処理が施されるセラミック素体が予め匣Sに収納されている。
ベルト駆動手段を駆動させることによって、ベルト24上に配置された匣Sを炉本体10のマッフル14内に連続的に搬送させながら、匣S内の被焼成物に焼成(熱処理)を行なっている。
【0017】
この連続熱処理炉10では、マッフル14に、N2ガスやArガス等の不活性ガスを供給するためのガス供給口(図示せず)が設けられている。また、外気の流入を防ぐためのパージガス供給口(図示せず)が設けられている。マッフル14内に不活性ガスを導入することにより、マッフル14内は低酸素の非酸化性雰囲気とされる。マッフル14の長手方向の所定位置には、ガス排出口(図示せず)が設けられている。
また、マッフル14内の匣Sは、複数のヒータ部16の金属ヒータ20a,20bを調整することによって、所定の温度プロファイルを有するように制御されている。マッフル14内の匣Sの温度プロファイルが、炉本体12の入口部12Aの付近、つまり、匣Sの投入口付近から、徐々に昇温し、所定の高温状態に到達した後、徐々に降温するように設定され、かつ、ガス排出口の温度がバインダ樹脂の熱分解温度以下となるように調整されている。
【0018】
この連続熱処理炉10では、ベルト24上を炉本体12の入口部12Aの上流方向から搬送されてきた匣Sが、加熱部12Bの入口部12A付近のマッフル14内に供給されると、当該匣Sは、非酸化性雰囲気下で、ヒータ部16の金属ヒータ20a,20bにより徐々に加熱されながら昇温される。この温度領域を「昇温領域12b1」と称する。この「昇温領域12b1」は、大凡、炉本体12の加熱部12Bの温度ゾーン#1〜#4の範囲を含むものとなっている。
被焼成物中のバインダ成分としてのたとえばアクリル樹脂の分解ガスは、有機物の状態(例えばモノマーや炭化水素を含む成分)でガス排出口からファン等の排気手段(図示せず)により外部に強制的に吸引されて排気される。
【0019】
匣Sは、その後さらに加熱され、所定の炉本体12内の最高温度からたとえば±50℃以内となる一定時間保持され、焼成処理が施される。この炉本体12内の最高温度からたとえば±50℃以内となる一定時間保持される温度領域を「保温領域12b2」と称する。この「保温領域12b2」は、大凡、炉本体12の加熱部12Bの温度ゾーン#5〜#8の範囲を含むものとなっている。
【0020】
匣Sの温度は、その後、徐々に降温し、匣Sは、出口部12Dからマッフル14外に排出される。この徐々に降温する温度領域を「降温領域」と称する。この「降温領域」は、大凡、炉本体12の冷却部12Cの温度ゾーン#9〜#10の範囲を含むものとなっている。
【0021】
この連続熱処理炉10では、炉本体12の加熱部12Bの「昇温領域12b1」において、ヒータ部16の金属ヒータ20a,20bは、図2の(A)に示すように、ベルト24の進行方向と直交する平面でみたときに、つまり、ベルト24の幅方向でみて、金属ヒータ20a,20bのヒータ幅(発熱部の幅)をw1とし、ベルト24上に載置される匣Sの幅をw2としたとき、例えば、w1=w2となる構造を有している。また、金属ヒータ20a,20bのヒータ幅w1は、ベルト24の幅方向でみて、マッフル14の上面14aおよび下面14bの幅方向の長さよりも短く形成されている。
【0022】
そのため、金属ヒータ20a,20bからの発熱量と、金属ヒータ20a,20bからマッフル14を介して匣Sに伝熱され、匣Sに蓄熱される蓄熱量とのバランスがとれる。この「昇温領域12b1」では、図2の(B)に示すように、マッフル14から匣Sへの伝導伝熱が支配的となる。この場合、金属ヒータ20aおよび20bの対向面となるマッフル14の上面14a,下面14bからの伝導伝熱が支配的となり、当該対向面(上面14a,下面14b)が主たる加熱面となる[図2の(B)の加熱部H参照]。特に、匣Sに対しては、マッフル14の下面14bからの伝導伝熱が支配的なものとなる。つまり、匣Sに対しては、マッフル14の両側面14c,14dからの伝熱および放熱といった熱の授受が少なく、当該匣Sの幅方向の温度差を軽減することができる。そのため、匣Sの幅方向の温度が略均一となる。
【0023】
また、この連続熱処理炉10では、炉本体12の加熱部12Bの「保温領域12b2」において、ベルト24の進行方向に直交する平面でみたときの金属ヒータ20a,20bの幅w1が、匣Sの幅w2よりも広く形成されている。この場合、「保温領域12b2」では、図3の(B)に示すように、マッフル14から匣Sへの輻射伝熱が支配的となり、マッフル14内は均一な温度場を形成しやすいものとなる。そのため、マッフル14の両側面14c,14dからの放熱の影響も小さいものとなる。したがって、この「保温領域12b2」においても、金属ヒータ20a,20bからの発熱量と、匣Sに蓄熱される蓄熱量とのバランスがとれるものとなっている。
【0024】
図9および図10で示した従来の連続焼成炉1では、匣Sの幅方向の温度差により被焼成物の幅方向で収縮量に差が発生し、これが原因で被焼成物に割れや反りなどの悪影響が発生しやすいが、本実施例における連続焼成炉10では、そのような問題は発生しにくい。すなわち、この連続熱処理炉10では、熱処理物の進行方向に直交する幅方向で生じる温度差を緩和し、高品質な熱処理品を得ることができる。
【0025】
図4は、図1の連続熱処理炉を用いて被熱処理物を熱処理した場合の昇温領域,保温領域,降温領域の各温度ゾーン#1〜#10において、ベルトの幅方向でみたときの被熱処理物の幅方向中央部と幅方向端部の温度差を示すグラフである。この場合、図4に示すグラフのX座標には、炉本体12内に搬送される被熱処理物としての匣Sの入口部12A側からの距離を示し、Y座標軸には、ベルト24の進行方向に直交する平面でみたときの匣Sの幅方向の中央部と両端部との温度差を示している。パラメータには、金属センサ20a,20bのヒータ幅(発熱部の幅)を用い、ヒータ幅が400mm,360mm,340mm,320mm,304mm,280mmについて評価した。
図4に示すグラフによれば、温度ゾーン#1〜#4ではヒータ幅280mmのときの温度差が小さく、温度ゾーン#5〜#10ではヒータ幅400mmのときの温度差が小さいことがわかる。よって、温度ゾーン#1〜#4ではヒータ幅を280mmに設計し、温度ゾーン#5〜#10ではヒータ幅を400mmに設計すれば、匣Sの幅方向の温度差を低減することができる。なお、上記はあくまでも例示であって、温度ゾーン#1〜#3のヒータ幅を280mmとし、温度ゾーン#4〜#10のヒータ幅を360mmとしても匣Sの幅方向の温度差を低減することができる。
【0026】
(この発明にかかる他の実施の形態)
図5は、この発明にかかる連続熱処理炉の実施の形態の他の例を示す平面模式図である。この実施の形態は、図1〜図3で示した実施の形態と比べて、上記した「昇温領域12b1」において、炉本体12の加熱部12B内のヒータ部16の構造およびレイアウト構成が相違するものとなっている。すなわち、上述した図1〜図3の実施の形態では、ヒータ部16が金属ヒータ20a,20bで構成されたが、この実施の形態では、ヒータ部16が棒状の非金属ヒータ26a,26bで構成されている。
【0027】
一方の棒状の非金属ヒータ26aは、図6の(A),(B)に示すように、マッフル14の上面14aの上方に配設され、他方の棒状の非金属ヒータ26bは、マッフル14の下面14bの下方に配設される。これらの非金属ヒータ26a、26bは図5に示すように各温度ゾーンに2列に設けられている。この非金属ヒータ26a,26bは、それぞれ、図5および図6の(A),(B)に示すように、幅方向の中間部に発熱部28a,28bを有する。また、非金属ヒータ26a,26bの幅方向の両端側には、それぞれ、非発熱部30a,30bが設けられている。発熱部28a,28bに対する非発熱部30a,30bの割合は、それぞれ、たとえば15〜25%程度である。非金属ヒータの発熱部の長さは、たとえば500mmに形成される。
【0028】
炉本体12の加熱部12Bの「昇温領域12b1」において、ヒータ部16の非金属ヒータ26a,26bは、図6の(A)に示すように、ベルト24の進行方向と直交する平面、つまり、ベルト24の幅方向でみて、非金属ヒータ26a,26bの発熱部28a,28bの幅をw1とし、ベルト24上に載置される匣Sの幅をw2としたとき、例えば、w1=1.8×w2となる構造を有している。また、非金属ヒータ26a,26bの発熱部28a,28bの幅w1は、ベルト24の幅方向でみて、マッフル14の上面14aおよび下面14bの幅方向の長さよりも長く形成されている。
【0029】
非金属ヒータ26a,26bとしては、たとえば炭化珪素系セラミック発熱体または二珪化モリブデン系サーメット発熱体からなるものが好適に用いられる。非金属ヒータ26a,26bは、図6の(A),(B)に示すように、外部から加熱部12Bのマッフル14内に挿入さて用いられる。そのため、非金属ヒータ26a,26bの非発熱部30a,30bの幅方向の両端側は、常に、加熱部12Bの外の大気、または常温に近い雰囲気にさらされている。したがって、炉本体12の加熱部12B内にある非金属ヒータ26a,26bの発熱部28a,28bの中心部の温度と、非発熱部30a,30bの両端側の温度との間には、温度差が生じている。
【0030】
非金属ヒータ26a,26bは、図6の(C)に示すように、幅方向の両端部に非発熱部30a,30bを有する構造なので、発熱部28a,28bからの熱出力には、当該熱出力が両端側へと鈍化して垂れる部位が存在している。そのため、非金属ヒータ26a,26bでは、幅方向の両端からの放熱量が金属ヒータ20a,20bよりも多くなるものとなっている。
【0031】
金属ヒータ20a,20bに換えて非金属ヒータ26a,26bを用いるにあたり、非金属ヒータ26a,26bの発熱部28a,28bの幅w2を匣Sの幅w2の1.8倍に形成している。それによって、この実施の形態では、金属ヒータ20a,20bよりも多い放熱量を補償することができる。この場合、非金属ヒータ26a,26bは、それぞれ、非発熱部30a,30bを有し、当該非発熱部30a,30bによる熱出力が鈍化する部位が存在している。
そのため、発熱部28a,28bからマッフル14への伝導伝熱の際、匣Sと対向するマッフル14の下面14bおよび上面14aへの伝導伝熱が主たるものとなり、当該対向面(上面14a,下面14b)が主たる加熱面となる[図6の(B)の加熱部H参照]。特に、匣Sに対しては、マッフル14の下面14bからの伝導伝熱が支配的なものとなる。そして、マッフル14の両側面14c,14dへの伝導伝熱は、小さいものとなる。
【0032】
したがって、非金属ヒータ26a,26bからの発熱量と、非金属ヒータ26a,26bからマッフル14を介して匣Sに伝熱され、匣Sに蓄熱される蓄熱量とのバランスがとれるものとなっている。そのため、匣Sに対しては、マッフル14の両側面14c,14dからの伝熱が少なく、当該匣Sの幅方向の温度差を軽減することができる。そのため、匣Sの幅方向の温度が略均一となる。
【0033】
炉本体12の加熱部12Bの「保温領域12b2」においては、ヒータ部16は上記した非金属ヒータ26a、26bではなく、図1〜図3で示した実施の形態の「保温領域12b2」で示した金属ヒータ20a,20bと同様のものが用いられ、そのレイアウトも同様の構成となっている[図3の(B)参照]。すなわち、ヒータ部16としてのこの金属ヒータ20a,20bは、たとえば図7の(B)に示すように、幅寸法がw1>w2となる構造を有するものとなっている。
この場合、「保温領域12b2」では、図7の(B)に示すように、マッフル14から匣Sへの輻射伝熱が支配的となり、マッフル14内は均一な温度場を形成しやすいものとなる。そのため、マッフル14の両側面14c,14dからの放熱の影響も小さいものとなる。したがって、この「保温領域12b2」においても、金属ヒータ20a,20bからの発熱量と、匣Sに蓄熱される蓄熱量とのバランスがとれるものとなっている。
【0034】
そのため、この実施の形態の連続熱処理炉10においても、図1〜図3で示した実施の形態と同様、匣Sの幅方向の温度差により被焼成物の幅方向で収縮量に差が発生することや、被焼成物に割れや反りなどの悪影響が発生することを防止することができる。すなわち、この連続熱処理炉10では、熱処理物の進行方向に直交する方向で生じる温度差を緩和し、高品質な熱処理品を得ることができる。
【0035】
図8は、図5の連続熱処理炉を用いて被熱処理物を熱処理した場合の昇温領域,保温領域,降温領域の各温度ゾーン#1〜#10において、ベルトの幅方向でみたときの被熱処理物の幅方向中央部および幅方向両端部の3点の最大温度と最小温度の温度差を示すグラフである。この場合、図8に示すグラフのX座標には、炉本体12内に搬送される被熱処理物としての匣Sの入口部12A側からの距離を示し、Y座標軸には、ベルト24の進行方向に直交する方向でみたときの匣Sの幅方向の中央部と両端部との温度差を示している。
図8に示すグラフによれば、この実施の形態の連続熱処理炉10を用いた場合、匣Sの幅方向の温度差を軽減することができ、匣Sの幅方向の温度が略均一となっていることがわかった。
【符号の説明】
【0036】
10 連続熱処理炉
12 炉本体
12A 入口部
12B 加熱部
12b1 昇温領域
12b2 保温領域
12C 冷却部(降温領域)
12D 出口部
14 マッフル
16 ヒータ部
18 断熱部
20a,20b 金属ヒータ
22a,22b 断熱材
24 ベルト
26a,26b 非金属ヒータ
28a,28b 発熱部
30a,30b 非発熱部
S 匣(さや)
H 加熱部
w1 ヒータ部のヒータ幅(発熱部の幅)
w2 匣の幅
w3 ベルトの幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入口部、複数の温度領域を有する加熱部および出口部を含む炉本体、
前記加熱部に配設されるマッフル、
前記炉本体内に配設され、前記マッフルを介して被熱処理物を加熱するヒータ部、および
駆動手段により無端環状に回動され、その回動経路の少なくとも一部が前記マッフル内を通過するベルトを含み、
前記被熱処理物を収容する匣(さや)が前記ベルト上に配置され、前記匣を前記炉本体内に搬送させることによって、前記被熱処理物への熱処理を連続的に行なう連続熱処理炉であって、
前記加熱部は、昇温領域および保温領域を含み、
前記ヒータ部は、前記加熱部に配設される金属ヒータを含み、
前記加熱部の前記昇温領域の全体もしくは一部において、前記ベルトの進行方向に直交する平面でみたときに、前記金属ヒータの幅は、前記匣の幅と同等に形成されることを特徴とする、連続熱処理炉。
【請求項2】
前記ヒータ部は、前記加熱部の前記保温領域において、前記ベルトの進行方向に直交する平面でみたときに、前記金属ヒータの幅が、前記匣の幅よりも広く形成される他の金属ヒータをさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の連続熱処理炉。
【請求項3】
入口部、複数の温度領域を有する加熱部および出口部を含む炉本体、
前記加熱部に配設されるマッフル、
前記炉本体内に配設され、前記マッフルを介して被熱処理物を加熱するヒータ部、および
駆動手段により無端環状に回動され、その回動経路の少なくとも一部が前記マッフル内を通過するベルトを含み、
前記被熱処理物を収容する匣(さや)が前記ベルト上に配置され、前記匣を前記炉本体内に搬送させることによって、前記被熱処理物への熱処理を連続的に行なう連続熱処理炉であって、
前記加熱部は、昇温領域および保温領域を含み、
前記ヒータ部は、前記加熱部に配設される棒状の非金属ヒータおよび面状の金属ヒータを含み、
前記非金属ヒータは、発熱部と非発熱部を含み、
前記加熱部の前記昇温領域において、前記ベルトの進行方向に直交する平面でみたときに、前記非金属ヒータの発熱部の幅は、前記匣の幅よりも広く形成され、
前記加熱部の前記保温領域において、前記ベルトの進行方向に直交する平面でみたときに、前記金属ヒータの幅は、前記匣の幅よりも広く形成されることを特徴とする、連続熱処理炉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−233649(P2012−233649A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−103550(P2011−103550)
【出願日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】