説明

連続熱処理装置

【課題】 線径の細い金属線材の処理の場合にも破断の発生を防止することができ、なおかつ表面に擦り疵や掻き疵の発生がない、金属線材の連続熱処理装置を提供する。
【解決手段】 連続熱処理装置の熱処理炉13を構成する炉心管15を地表面に対して垂直に配置し、炉心管15の上側には巻き取りコイル12などを、また炉心管15の下側にはローラーに代えて繊維チューブ20などの支持装置をそれぞれ設置する。これにより、炉心管15内を搬送される金属線材18に加えられる張力を、金属線材18が炉心管15の内部に接触せずに搬送されるための最小の大きさとすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属線材を連続して熱処理するための連続熱処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ニッケル−鉄(Ni−Fe)合金、ニッケル−チタン(Ni−Ti)合金などの金属線材の製造においては、伸線加工の工程と熱処理工程とを交互に繰り返し行って、金属線材の平均直径(線径)を徐々に細く加工していくことが一般的である。この一連の加工により、所望の線径である最終線径の金属線材を得る。このときの金属線材の熱処理工程としては、伸線加工の工程と交互に行う複数回の中間熱処理の他に、最終線径に加工した後に行う仕上げの熱処理がある。いずれの熱処理の場合にも、発熱体と断熱体からなる熱処理炉の本体内部に管状の炉芯管を貫通させて取り付け、この炉芯管の内部に金属線材を長さ方向に搬送させることにより、この金属線材を連続的に熱処理する装置が用いられている。
【0003】
図4は従来の金属線材の連続熱処理装置の例を示す断面図である。この装置では、金属線材の巻き出しコイル41に巻回された金属線材48を矢印Dの向きに送り出して、溝付きローラー49を介して水平に配置した熱処理炉43の炉心管45の内部に搬送して熱処理を行う。熱処理された金属線材48は、炉心管45の右側から取り出されてもう一つの溝付きローラー49を介して金属線材の巻き取りコイル42により巻き取られる。炉心管45の外側にはヒーターである発熱体44および断熱体46が配置され、炉心管45と合わせて水平配置された熱処理炉43を構成している。また炉心管45には複数のガス注入口47が設けられており、ここから注入された不活性ガスを炉心管45の内部に充填させて金属線材48の酸化を防止している。このように、図4の左側から熱処理炉43の内部に金属線材を搬送してその右側から取り出すことにより、金属線材48の熱処理を連続して行うことができる。
【0004】
ところで管状の炉心管を有する熱処理炉の内部に金属線材を搬送させて加熱し、連続的に熱処理を行う際に、単位長さの金属線材に対して必要な熱処理を行うためには一定の昇温時間が必要となる。従って炉心管の長さと一定時間に熱処理可能な金属線材の長さとの関係は概ね比例関係となり、炉心管が短い場合は金属線材の搬送速度を炉心管の長さに合わせて遅くする必要がある。逆に、金属線材の搬送速度を速くして熱処理量を増加させるためには炉心管を長くすることが必要である。
【0005】
ところが、炉心管の長さを長くすると内部を搬送される金属線材が自身に加わる重力によって弛んだ状態となってしまい、搬送中に炉心管の内壁に接触してその表面に擦り疵や掻き疵が発生するという問題があった。特許文献1に記載の連続熱処理装置はこの問題を解決し、金属線材と炉心管の内面との接触を防止する効果が得られる方法である。特許文献1に記載の方法では、炉心管内での金属線材の搬送方向が地表面に対して垂直(鉛直)な向きとなるように炉心管を立てて配置し、金属線材が炉心管の内部を上下方向に搬送されるように配置している。この場合は金属線材に加わる重力の向きがその搬送方向と平行になることから、金属線材が炉心管の内面に接触する可能性が減少し、これにより擦り疵や掻き疵の発生を防ぐことができる。また特許文献1のように炉心管を垂直に立てた向きの熱処理炉を用いる場合は、同時に熱処理炉の設置面積を小さくできるという効果を得ることにもなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−92658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の連続熱処理装置においては、炉心管の内部を搬送させる金属線材が、熱処理の最中に破断することがあるという問題があった。特許文献1では装置のトラブルにより金属線材の搬送が停止する場合について言及しているが、実際には搬送の停止が起きなくても金属線材が破断する場合がある。このような搬送中の破断には金属線材の線径、熱処理温度、熱処理中に加えられる張力などが関与しており、一般に熱処理を行う金属線材の線径が小さい場合、熱処理温度が高い場合、および張力が大きい場合に破断が生じやすいと考えられる。
【0008】
ここで、金属線材の線径は処理する金属線材の製品仕様に関連するので、処理する対象を線径が大きな金属線材のみに限定することはできない。また熱処理温度が高温の場合は金属材料の軟化を招いて熱処理時の破断の原因となるのであるが、一方で熱処理温度を低くすれば熱処理の効果が減少して金属線材に必要な伸線加工を施すことができなくなる。これらのことから、金属線材に加える張力を低く抑えて金属線材の破断を防止する方法が検討課題となる。
【0009】
ここで図4に示した従来の連続熱処理装置の例においては、金属線材は炉心管の両側に配置された2個の溝付きローラーにより把持されて張力を付勢され、その状態で熱処理炉内を搬送されている。この熱処理装置の場合は炉心管が水平方向に設置されているため、炉心管が短い場合でも金属線材が弛むと炉心管の内面に接触してしまい、その表面に擦り疵や掻き疵が発生することとなる。従って、金属線材に付勢する張力を小さくすることはできない。一方、特許文献1に記載の連続熱処理装置においては炉心管が地表面に対して垂直に配置された構成であるため、金属線材の搬送方向が重力の向きと平行となる。従って、金属線材に付勢する張力を小さくしても、金属線材が弛んで炉心管の内面に接触するという問題は生じない。つまりこの場合は、水平方向に炉心管を配置した場合よりも金属線材に加えられる張力を小さくすることができ、従って線径がより細い金属線材の熱処理にも対応することが可能である。
【0010】
ところが、特許文献1に記載されているような従来の連続熱処理装置の場合には、その構成上、炉心管内を搬送される金属線材が垂直に搬送される場合であっても、やはり一定の大きさ以上の張力を付勢しなければならないという問題があった。特許文献1では必ずしも明示されていないが、このような熱処理装置においては炉心管の上下の両方の位置にそれぞれローラーを配置し、これらのローラーにより金属線材を把持してガイドするとともに、ローラーによって炉心管の外部での金属線材の搬送の向きを変更する構成とすることが一般的である。
【0011】
このような金属線材を把持するローラーとしては一般に溝付きローラーが用いられるが、ローラーによって金属線材を把持するとともにその搬送の向きを変更するには、ある程度の大きさの張力を金属線材に付勢しておくことが必要である。ここで金属線材の自重が加わる炉心管の上側のローラーでは、張力の付勢がなくてもその動作にとくに問題はない。しかし炉心管の下側のローラーでは、張力の付勢がないとローラーが空回りして金属線材の表面に擦り疵や掻き疵が発生する、もしくは金属線材がローラーから逸脱してガイドすることができなくなるといった問題が発生し、金属線材の連続熱処理を行うことができなくなってしまう。従って炉心管の下側のローラーを正しく機能させるには、炉心管内を搬送される金属線材に対してその自重による力よりも大きな張力を付勢することが必要であり、これにより熱処理の対象となる金属線材の線径には下限が生じてしまい、より細い金属線材の連続熱処理を行うことはできなかった。
【0012】
即ち、本発明の課題は、細い金属線材を用いた場合であっても表面に擦り疵や掻き疵の発生がなく、なおかつ熱処理による破断の発生を防止することのできる、連続熱処理装置を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために、本発明は、炉心管が地表面に対して垂直に配置された連続熱処理装置において、従来は炉心管の下側に配置していたローラーを廃止し、代わりに熱処理される金属線材を支持するための支持装置を設けたものである。この支持装置としては繊維チューブの使用が好適である。繊維チューブとは、内面に繊維質の材料を配置した円筒もしくは円輪状の部品であり、繊維質の材料によって内部を通過する金属線材を支持することで、金属線材に対して張力を付勢することなくガイドすることが可能である。
【0014】
この支持装置を用いることにより、炉心管内を搬送される金属線材には自重による以外の張力が付勢されることがなくなるので、線径がより細い金属線材を熱処理する場合でも、金属線材が破断することなく熱処理を実施することが可能となる。なお、金属線材の支持装置である繊維チューブの内径は、通過する金属線材に張力を付勢しないために、その線径よりも大きくすることが好適である。また繊維チューブに用いられる繊維質の材料としては、金属線材の表面に擦り疵や掻き疵を発生させないために比較的柔らかい材料を用いることが望ましい。炉心管の上部に巻き取りコイルを配置し、金属線材を炉心管の下側から上側に搬送させる場合は、炉心管の入り口に配置されるこの繊維質の材料にはとくに耐熱性が必要とされないので、ナイロンなどの化学繊維や綿などの天然繊維を用いることができる。逆に炉心管の上部に巻き出しコイルを配置して、金属線材を炉心管の上側から下側に搬送させる場合は、この繊維質の材料としてグラスウールやセラミックウールなどの難燃性もしくは不燃性の材料を用いることが好ましい。
【0015】
また、熱処理の際に金属線材を酸化させないために、炉心管の内部には不活性ガスを充填しておくことが望ましい。この不活性ガスとしては窒素やアルゴンが好適である。また前記炉心管のうち金属線材の出口側の端部に、不活性ガスを蓄積できる容器を設置することも好適である。この場合、熱処理が終了した金属線材はこの容器の内部に収納されることとなる。一般に熱処理が終了した金属線材はかなりの高温となっており、その冷却までの間に空気に触れると酸化が進行することが考えられるが、不活性ガスを蓄積した容器内にこの金属線材を収納し、そこで十分に冷却させてから取り出す構成とした場合は、熱処理時の金属線材の空気による酸化を完全に防ぐことができる。なお炉心管の上側には、従来の熱処理装置の場合と同じくローラーを設置してもよく、またローラーを廃止して金属線材の巻き取り、巻き出しを行うためのコイルを直接に設置しても構わない。以上記した本発明の方法を用いる場合は、線径が0.5mm以下の細い金属線材に対しても熱処理を行うことができる。
【0016】
即ち、本発明は、炉心管を有し、前記炉心管はその長さ方向が地表面に対して鉛直な向きに設置されており、前記炉心管の内部に金属線材を通過させて熱処理を行う連続熱処理装置であって、前記炉心管の上部に、前記金属線材の巻き取り、もしくは巻き出しを行うコイルを有し、前記炉心管の下部に前記金属線材を回動せずに支持する支持装置を有し、前記金属線材を連続して熱処理することを特徴とする連続熱処理装置である。
【0017】
また、本発明は、炉心管を有し、前記炉心管はその長さ方向が地表面に対して鉛直な向きに設置されており、前記炉心管の内部に金属線材を通過させて熱処理を行う連続熱処理装置であって、前記炉心管の上部にローラーを有し、前記炉心管の下部に前記金属線材を回動せずに支持する支持装置を有し、前記金属線材を連続して熱処理することを特徴とする連続熱処理装置である。
【0018】
さらに、本発明は、前記支持装置が繊維チューブからなることを特徴とする連続熱処理装置である。
【0019】
さらに、本発明は、前記炉心管の内部に不活性ガスを充填して前記熱処理を行うことを特徴とする連続熱処理装置である。
【0020】
さらに、本発明は、前記不活性ガスが窒素もしくはアルゴンから選択されたものであることを特徴とする連続熱処理装置である。
【0021】
さらに、本発明は、前記炉心管の内部を通過させる前記金属線材の出口側の前記炉心管の端部に、前記炉心管と連続して前記不活性ガスを蓄積する容器を設置したことを特徴とする連続熱処理装置である。
【0022】
さらに、本発明は、連続して熱処理する前記金属線材の平均直径が0.5mm以下であることを特徴とする連続熱処理装置である。
【発明の効果】
【0023】
以上述べた通り、本発明によれば、連続熱処理装置の炉心管を地表面に対して垂直に配置し、なおかつ炉心管の上側にはローラーもしくは巻き取り、巻き出しを行うコイルを、炉心管の下側にはローラーに代えて繊維チューブなどの支持装置をそれぞれ設置する。そしてこれらのローラー、コイルおよび支持装置によって炉心管内を搬送する金属線材をそれぞれ支持する構成とする。ここで炉心管の下側に配置された支持装置は金属線材に対して張力を付勢することがないので、炉心管内の金属線材に付勢される張力は、その自重による力のみとすることができる。この構成により、金属線材に加えられる張力を、金属線材が炉心管の内部に接触せずに搬送されるための最小の大きさにできるので、線径が0.5mm以下といった細い金属線材を用いた場合であっても表面に擦り疵や掻き疵の発生がなく、なおかつ熱処理による破断の発生を防止可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の連続熱処理装置の第1の例の断面図。
【図2】本発明の連続熱処理装置の第2の例の断面図。
【図3】本発明の連続熱処理装置の第3の例の断面図。
【図4】従来の連続熱処理装置の例の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0026】
図1は、本発明の連続熱処理装置の第1の例を示す断面図である。図1において、熱処理炉13は炉心管15が鉛直な向きに設置され、その外側にヒーターである発熱体14および断熱体16が配置されたものである。熱処理炉13の下方には金属線材の巻き出しコイル11が配置され、そこから巻き出された金属線材18は図1に示した矢印Aの向きに、炉心管15内を貫通して上方に引き出されている。熱処理炉13の上方には巻き取りコイル12が配置され、熱処理が終了した金属線材18が巻き取られている。また炉心管15には複数のガス注入口17が設けられており、ここから注入された不活性ガスが炉心管15内の空気を置換して熱処理雰囲気を不活性雰囲気とする。このことにより、熱処理中の金属線材18の酸化を防止することができる。なおここで用いられる不活性ガスとしては窒素やアルゴンが好適である。
【0027】
ここで巻き出しコイル11はその中心軸が地表面と垂直となる向きに配置することができ、その場合には熱処理の進行に伴い、巻き出しコイル11が回転せずにその側面から順次金属線材18が巻き出されることとなる。なお巻き出しコイル11は中心軸が地表面と水平となる向きに配置しても構わない。その場合は巻き出しコイル11から金属線材18が巻き出されるに従って、巻き出しコイル11が自由に回転するように設置される必要がある。いずれの場合にも金属線材18の巻き出しはスムーズに行われ、巻き出された金属線材18が巻き出しコイル11から引っ張り応力を受けることがないよう構成される必要がある。
【0028】
金属線材18の熱処理は、巻き取りコイル12を回転させて金属線材18が巻き取られることにより進行する。この際に、巻き取りコイル12より下側の金属線材18には、巻き出しコイル11と巻き取りコイル12の間の金属線材18自身の重力による張力のみが付勢されることとなる。繊維チューブ20は内側に繊維質の材料を配置した管状の部材であり、巻き出しコイル11から送り出される金属線材18が炉心管15の内面に接触しないように、熱処理炉13の内部に送り込む位置をガイドする機能のみを有し、金属線材18に張力を付勢するものではない。繊維チューブ20の繊維質の材料としては、ナイロンなどの化学繊維や綿などの天然繊維を用いることができる。なお、炉心管15内には単数もしくは複数のガス注入口17から不活性ガスが注入されて、金属線材18の酸化の防止が図られている。炉心管15内に注入された不活性ガスは炉心管15の2カ所の開口部から排出される。
【0029】
図2は、本発明の連続熱処理装置の第2の例を示す断面図である。図1の場合との相違は炉心管25の上方に溝付きローラー29が配置されていることのみであり、巻き取りコイル22は溝付きローラー29の斜め下側に配置されている。また矢印Bで示すように、金属線材28の搬送も図1の場合と同様に下方から上方の向きである。溝付きローラー29は金属線材28の表面に擦り疵や掻き疵を発生させることがないように、樹脂製のローラーとすることが好適である。なお金属線材28のうち、溝付きローラー29と巻き取りコイル22との間の領域にはこの両者によってある程度の張力が加えられることとなるが、この領域では金属線材28の温度が低いために破断することはない。
【0030】
また図3は、本発明の連続熱処理装置の第3の例を示す断面図である。図3の場合は巻き出しコイル31を熱処理炉33の上方に設置し、図3に矢印Cで示すように、金属線材38を炉心管35の上方から下方の向きに搬送している。熱処理炉33の下方には容器39を設置して、熱処理が終了した金属線材38がこの中に巻き落としコイル32としてとぐろを巻いて蓄積するように構成している。ここで容器39は炉心管35と連続しており、炉心管35に設けられたガス注入口37から注入された不活性ガスが容器39の中にも滞留するように構成されている。
【0031】
炉心管35から出てきたばかりの金属線材38は十分に熱く、そのまま空気に接触すれば酸化される可能性がある。しかし図3に示した第3の例の連続熱処理装置のように、熱処理を終えた金属線材38を空気に触れさせることなく、内部が不活性ガスにより満たされた容器39の中に蓄積させる構成とすることにより、金属線材38の酸化を防止することができる。金属線材38の回収は、容器39内にて十分に冷えた後に行えばよい。なお容器39は必ずしも密閉されている必要はなく、ガス注入口37から注入された不活性ガスがある程度、容器39の中に滞留する構造であれば、多少の隙間を有するものであっても構わない。例えば蓋のない深鍋のような形状であっても十分な効果が得られる。
【0032】
熱処理炉33には図1の場合と同様に、炉心管35の外側に発熱体34および断熱体36が配置されている。また炉心管35の下方には繊維チューブ40が配置されている。図3に示した構成の場合は、繊維チューブ40は容器39の内部に設置することとなり、上方から下方の向きに搬送される金属線材38が熱処理の最中に炉心管35の内面に接触しないようにガイドする役割を有している。なお図3の場合には、繊維チューブ40は炉心管35から出てきた直後のまだかなり高温の金属線材38に接触することとなるので、使用される繊維質の材料として十分な耐熱性が得られる材料を使用する必要がある。なお図3に示した第3の例の連続熱処理装置においては、金属線材38を蓄積する容器39を熱処理炉33の下方に設置しているが、逆に金属線材38の搬送方向を下方から上方の向きとして、巻き落としコイル32や容器39を熱処理炉33の上方に設置することも可能である。
【実施例】
【0033】
(実施例1)
内径100mm、厚さ5mm、長さ1mの耐熱ガラス管からなる炉芯管を用意し、床面に対して垂直方向に立てて設置した。次いでこの炉芯管の外周に、幅10mm、長さ0.8mのカーボンヒーターからなる発熱体を、炉心管の長さ方向にそれぞれ並列して配置した。使用したカーボンヒーターは17本であり、カーボンヒーターどうしは10mmの間隔を空けてそれぞれ配置している。なお炉心管の両端部からそれぞれ長さ100mmの領域にはカーボンヒーターが配置されていない。カーボンヒーターの外側は、厚さ200mmのセラミックスとグラスファイバーからなる耐熱体により被覆し、さらにその外周を厚さ1mmのSUS304のステンレス板によって囲んだ構成の熱処理炉とした。
【0034】
次いで作製した熱処理炉の上方にベークライト製の直径100mmのV溝付きローラーを配置し、熱処理炉の斜め下側には前記V溝付きローラーを介して金属線材を巻き取るための巻き取りコイルを配置した。また熱処理炉の下方には、金属線材を供給する巻き出しコイルを配置した。この巻き出しコイルは中心軸が床面と垂直となる向きに配置しており、V溝付きローラーの回転によって金属線材が巻き取られるにつれて、金属線材をスムーズに送り出すことが可能である。
【0035】
また炉心管の下方には金属線材の支持装置として繊維チューブを配置した。この繊維チューブは巻き出しコイルから送り出される金属線材が炉心管内に搬送される位置を炉心管の中心線上の位置に固定するもので、ナイロンからなる内径が5mmの円筒である。この繊維チューブは、内部を通過する金属線材に張力を与えることなく炉心管に送り込む位置を固定して、金属線材と炉心管の内面との接触を防止するものであって、炉心管に対して設置した位置が移動しないようにネジ止めにより固定した。このようにして構成した金属線材の連続熱処理装置は、図2に記載のものと同じ構成である。
【0036】
前記の連続熱処理装置を用いて、重量比でNiが52%、残分がFeからなる線径が0.5mmのNi−Fe合金の金属線材に対して、炉内温度:900℃、巻き取り速度:1m/minの条件にて連続熱処理を行った。その際に、金属線材の酸化を防止するために、熱処理炉内の炉芯管の上部より不活性ガスであるアルゴンガスを流量5ml/minにて流入させ、炉芯管内部をアルゴン雰囲気に置換した。
【0037】
その結果、この連続熱処理装置を用いて、金属線材が破断することなくかつ金属線材の表面に擦り疵や掻き疵を発生させずに連続熱処理を行うことができた。また熱処理を行った金属線材はその表面が酸化することもなかった。
【0038】
(実施例2)
実施例1と同じ連続熱処理装置を用いて、組成が実施例1と同一で、線径が0.3mmのNi−Fe合金の金属線材に対して、炉内温度:900℃、巻き取り速度:2m/minの条件にて連続して同様に熱処理を行った。また炉芯管内部をアルゴン雰囲気とするために、流量5ml/minのアルゴンガスを炉心管内に供給した。その結果、金属線材が破断することなく、かつ金属線材の表面に擦り疵や掻き疵を発生させずに、実施例1の場合と同様に連続熱処理を行うことができた。また熱処理を行った金属線材はその表面が酸化することもなかった。
【0039】
(実施例3)
内径80mm、厚さ2mm、長さ1.2mのSUS304のステンレス管からなる炉芯管を用意し、床面に対して垂直方向に立てて設置した。次いでこの炉芯管の外周に、幅10mm、長さ1mのセラミックスヒーターからなる発熱体を、炉心管の長さ方向にそれぞれ並列して配置した。使用したセラミックスヒーターは13本であり、セラミックスヒーターどうしは10mmの間隔を空けてそれぞれ配置している。なお炉心管の両端部からそれぞれ長さ100mmの領域にはセラミックスヒーターが配置されていない。セラミックスヒーターの外側は、厚さ150mmのセラミックスファイバーからなる耐熱体により被覆し、さらにその外周を厚さ1mmのSUS304からなる4枚のステンレス板によって囲んだ構成の熱処理炉とした。
【0040】
次いで作製した熱処理炉の上方に金属線材を連続して供給するための巻き出しコイルを配置した。この巻き出しコイルは中心軸が床面と平行となる向きに配置しており、一定速度で回転させることによって金属線材を炉心管内にスムーズに供給することが可能である。また巻き出しコイルから送り出される金属線材はその自重により張力が加えられているので炉心管内を真っ直ぐに搬送され、炉心管の内面に接触することはない。また熱処理炉の下方には容器を配置し、この容器の内部に金属線材が直径500mm程度のとぐろを巻いて巻き落とされて、巻き落としコイルを形成するようにした。この容器は炉心管と連続する構成としており、炉心管内に流入させた不活性ガスがこの容器内に滞留するようにしている。
【0041】
また炉心管の下方には金属線材の支持装置として容器内に繊維チューブを配置した。この繊維チューブは熱処理された金属線材が炉心管から出てくる位置を炉心管の中心線上の位置に固定するもので、内面にグラスウールを植設した内径が5mmの金属製の円筒である。この繊維チューブは、内部を通過する金属線材に張力を与えることなく炉心管内を搬送される位置を固定して、金属線材と炉心管の内面との接触を防止するものであって、炉心管に対して設置した位置が移動しないようにネジ止めにより固定した。このようにして構成した金属線材の連続熱処理装置は、図3に記載のものと同じ構成である。なお熱処理された金属線材が前記繊維チューブを通過することによる繊維チューブの変形等は確認されなかった。
【0042】
前記の連続熱処理装置を用いて、原子数比でNiが51%、残分がTiからなる線径が0.4mmのNi−Ti合金の金属線材に対して、炉内温度:600℃、巻き落し速度:0.5m/minの条件にて連続熱処理を行った。その際に、金属線材の酸化を防止するために、熱処理炉内の炉芯管の上部より不活性ガスである窒素ガスを流量5ml/minにて流入させ、炉芯管内部を窒素雰囲気に置換した。また炉芯管内部を置換した窒素ガスが熱処理炉の下方に設置した容器内に流入することで、この容器内も窒素ガスにより充填されるようにした。
【0043】
なお、熱処理炉の上方に巻き出しコイルを安全に配置するために、荷重0.5トン未満の電動チェーンブロックを使用した。また巻き出しコイルの配置作業を容易にするために、最上段の高さが1mの階段と転落防止用の手すりを設置した。なお金属線材の連続熱処理の最中は巻き出しコイルの配置位置を常に調整し、巻き出しコイルからの金属線材の離線位置が常に炉心管の中心線の延長線上に位置するようにした。
【0044】
その結果、この連続熱処理装置を用いて、金属線材が破断することなく、かつ金属線材の表面に擦り疵や掻き疵を発生させずに連続熱処理を行うことができた。また熱処理を行った金属線材はその表面が酸化することもなかった。
【0045】
(実施例4)
実施例3と同じ連続熱処理装置を用いて、組成が実施例3と同一で、線径が0.25mmのNi−Ti合金の金属線材に対して、炉内温度:600℃、巻き取り速度:1m/minの条件にて連続して同様に熱処理を行った。また炉芯管内部を窒素雰囲気とするために、流量5ml/minの窒素ガスを炉心管内に供給した。その結果、金属線材が破断することなく、かつ金属線材の表面に擦り疵や掻き疵を発生させずに、実施例3の場合と同様に連続熱処理を行うことができた。また熱処理を行った金属線材はその表面が酸化することもなかった。
【0046】
本発明によれば、前記の各実施例によって確認された通り、線径が0.5mm以下の細い金属線材に対しても、熱処理中の破断や表面への擦り疵や掻き疵の発生のない、良好な連続熱処理を実施することができる。また本発明によれば、熱処理装置の炉心管を縦方向に配置することができるので、設置面積をを小さくできるという副次的な効果を得ることもできる。また、上記説明は、本発明の実施の形態について説明するためのものであって、これによって特許請求の範囲に記載の発明を限定するものではない。また、本発明の各部構成は上記実施の形態に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0047】
11,21,31,41 巻き出しコイル
12,22,42 巻き取りコイル
13,23,33,43 熱処理炉
14,24,34,44 発熱体
15,25,35,45 炉心管
16,26,36,46 断熱体
17,27,37,47 ガス注入口
18,28,38,48 金属線材
19,29,49 溝付きローラー
20,30,40 繊維チューブ
32 巻き落としコイル
39 容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉心管を有し、
前記炉心管はその長さ方向が地表面に対して鉛直な向きに設置されており、
前記炉心管の内部に金属線材を通過させて熱処理を行う連続熱処理装置であって、
前記炉心管の上部に、前記金属線材の巻き取り、もしくは巻き出しを行うコイルを有し、
前記炉心管の下部に前記金属線材を回動せずに支持する支持装置を有し、
前記金属線材を連続して熱処理することを特徴とする連続熱処理装置。
【請求項2】
炉心管を有し、
前記炉心管はその長さ方向が地表面に対して鉛直な向きに設置されており、
前記炉心管の内部に金属線材を通過させて熱処理を行う連続熱処理装置であって、
前記炉心管の上部にローラーを有し、
前記炉心管の下部に前記金属線材を回動せずに支持する支持装置を有し、
前記金属線材を連続して熱処理することを特徴とする連続熱処理装置。
【請求項3】
前記支持装置が繊維チューブからなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の連続熱処理装置。
【請求項4】
前記炉心管の内部に不活性ガスを充填して前記熱処理を行うことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の連続熱処理装置。
【請求項5】
前記不活性ガスが窒素もしくはアルゴンから選択されたものであることを特徴とする請求項4に記載の連続熱処理装置。
【請求項6】
前記炉心管の内部を通過させる前記金属線材の出口側の前記炉心管の端部に、前記炉心管と連続して前記不活性ガスを蓄積する容器を設置したことを特徴とする請求項4または請求項5に記載の連続熱処理装置。
【請求項7】
連続して熱処理する前記金属線材の平均直径が0.5mm以下であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の連続熱処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−216002(P2010−216002A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−67644(P2009−67644)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】