説明

連続鋳造用浸漬ノズル及び連続鋳造方法

【課題】旋回付与機構を使用しなくても、浸漬ノズル内から吐出する直前に浸漬ノズル内の流れを旋回させる。
【解決手段】円筒状のノズル本体1における底部1a近傍の側面1bの対向位置に2つの吐出孔2を有し、浸漬ノズル内下降流に円周方向の旋回流速を付与する旋回流付与機構を内部に有していない連続鋳造用浸漬ノズルである。吐出孔2の幅Wをノズル本体1の底部1aの内径dよりも小さくする。水平面に投影した吐出孔2の側壁2aの中心線がノズル本体1の横断面の中心を通らず、かつ水平面に投影した2つの吐出孔2をノズル本体1の横断面の中心に対して点対称に開孔する。
【効果】浸漬ノズル内に旋回流付与機構を設けなくても、吐出孔における流速分布が均一で、鋳型内流動が安定する浸漬ノズルを得ることができ、旋回流付与機構がもたらす非金属介在物による閉塞や、大がかりな電磁撹拌のような旋回流付与機構を用いる必要がない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの吐出孔を有する連続鋳造用の浸漬ノズル、及びこの浸漬ノズルを用いて鋼等を連続鋳造する方法に係り、鋳型内溶融金属の流動を安定に保ち、高品質な鋳片の製造を可能とするものである。
【背景技術】
【0002】
連続鋳造においては、鋳型内流動を空間的に均一かつ時間的に安定したものに制御することが、鋼の表面品質を良好に保つ観点から重要である。
【0003】
この目的を達成する方法の一つとして、浸漬ノズルの改善に関する発明、例えば発明者らによる旋回流付与型浸漬ノズルが提案されている(例えば特許文献1)。
【0004】
前記特許文献1の旋回流付与型浸漬ノズルは、単なるアイデアに留まっていた旋回流付与型浸漬ノズルの旋回羽根の仕様や旋回流ノズルの形状を明らかにしたもので、鋳型内電磁攪拌を不要とできるものである。
【0005】
しかしながら、発明者のその後の実験、研究によれば、特許文献1で提案した旋回流付与型浸漬ノズルは、長期間の使用により捩り板状旋回羽根部に非金属介在物が付着し、閉塞に至る場合があることが判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−239690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする問題点は、特許文献1で提案した旋回流付与型浸漬ノズルは、長期間の使用により捩り板状旋回羽根部に非金属介在物が付着し、閉塞に至る場合があるという点である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の連続鋳造用浸漬ノズルは、
旋回付与機構を使用しなくても、浸漬ノズル内から吐出する直前に浸漬ノズル内の流れを旋回させて、旋回流付与型浸漬ノズルと同等の吐出流の均等化や鋳型内流動の安定化に対する効果を得るようにするために、
円筒状のノズル本体における底部近傍の側面の対向位置に2つの吐出孔を有し、浸漬ノズル内下降流に円周方向の旋回流速を付与する旋回流付与機構を内部に有していない連続鋳造用浸漬ノズルであって、
前記吐出孔の幅をノズル本体底部の内径よりも小さくすると共に、水平面に投影した前記吐出孔側壁の中心線がノズル本体横断面の中心を通らず、かつ水平面に投影した2つの前記吐出孔をノズル本体横断面の中心に対して点対称に開孔したことを最も主要な特徴としている。
【0009】
本発明では、円筒状のノズル本体の底部近傍に設ける2つの吐出孔を前記のように構成するので、浸漬ノズルの内部から吐出しようとする流れを旋回させる作用が生じる。従って、浸漬ノズル内の下降流に円周方向の旋回流速を付与する旋回流付与機構を有さなくても、旋回流付与型浸漬ノズルが有する吐出孔における流速分布の均等化や鋳型内流動の安定化の効果が生じる。
【0010】
ここで旋回流付与機構とは、浸漬ノズルに内装された捩り板状の羽根や、浸漬ノズル本体の内壁に掘られた螺旋状の溝、あるいは電磁気力を利用した撹拌装置などをいう。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、浸漬ノズルの内部から吐出しようとする流れを旋回させる作用が生じるので、浸漬ノズル内に旋回流付与機構を設けなくても、吐出孔における流速分布が均一で、鋳型内流動が安定する浸漬ノズルを得ることができる。従って、旋回流付与機構がもたらす非金属介在物による閉塞や、大がかりな電磁撹拌のような旋回流付与機構を用いる必要が無くなり、適用が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第2及び第3の本発明の連続鋳造方法に使用する本発明の浸漬ノズルを示した図で、(a)は縦断面図、(b)は(a)のA−A断面図、(c)は(a)の矢視B図である。
【図2】第1〜第3の本発明の連続鋳造方法に使用する本発明の浸漬ノズルを示した図1と同様の図である。
【図3】吐出流角度のみが図1と異なる浸漬ノズルに、旋回羽根を取付けた浸漬ノズルを示した図1と同様の図である。
【図4】図3に示した浸漬ノズルに取付けた旋回羽根を示した図で、(a)は正面図、(b)は平面図である。
【図5】吐出孔を横長とし、底部の内底面に衝立状突起を設けた浸漬ノズルを示した図で、(a)は縦断面図、(b)は(a)のA−A断面図、(c)は(a)の矢視B図、(d)は(b)のC−C断面図である。
【図6】水平面に投影した際にノズル本体横断面の中心に設けた吐出孔が略正方形状の通常の浸漬ノズルを示した図1と同様の図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明では、旋回付与機構を使用しなくても、旋回流付与型浸漬ノズルと同等の吐出流の均等化や鋳型内流動の安定化に対する効果を得るようにするという目的を、吐出孔の開孔形状を工夫すること等によって実現した。
【実施例】
【0014】
以下、本発明について説明する。
本発明の連続鋳造用浸漬ノズルは、図1に示すように、円筒状のノズル本体1における底部1a近傍の側面1bの対向位置に、2つの吐出孔2を有し、浸漬ノズル内下降流に円周方向の旋回流速を付与する旋回流付与機構を内部に有さない浸漬ノズルである。
【0015】
そして、吐出孔2の幅Wをノズル本体1の底部1aの内径dよりも小さくしている。また、水平面に投影した吐出孔2の側壁2aの中心線Lがノズル本体1の横断面の中心Cを通らず、かつ水平面に投影した2つの吐出孔2をノズル本体1の横断面の中心Cに対して点対称となる位置に開孔している。
【0016】
本発明では、2つの吐出孔2を前記のようにノズル本体1に形成するので、浸漬ノズルに旋回流付与機構を有さなくとも、浸漬ノズルの内部から吐出しようとする流れに旋回作用が生じ、吐出孔2における流速分布の均等化や鋳型内流動の安定化が図れる。
【0017】
本発明の浸漬ノズルは、旋回流形成手段を設ける場合ほどには強い旋回作用が得られないので、ノズル本体1の内部を流れる下降流がノズル本体1の内底面1aaに当たって強い渦を生じ易くなる。ノズル本体1の底部1aで強い渦が生じると、本発明のように吐出孔2の幅Wが浸漬ノズルの内径dに比べて比較的小さい場合には、吐出孔2における流速分布が不均一になり、吐出流の最大流速が過大となりやすく、鋳型内流動が乱れ易くなる。さらに、吐出孔2の形状と吐出流の流速分布が乖離し、本発明の意図通りに鋳型内流動を形成できなくなる場合がある。
【0018】
そこで、ノズル本体1の底部1aにおける渦の発生を抑えるため、図2に示すように、ノズル本体1の内底面1aaに、前記内底面1aaを二分する位置に衝立状突起3を設け、前記吐出孔2の側壁となすことが望ましい。この衝立状突起3は、水平面に投影した角度が0°もしくは20°以下の方向に延び、長さL1が30mm以上、幅W1が5mm〜15mm、高さH1が10mm〜40mmにすることが必要である。
【0019】
この衝立状突起3を設けることにより、浸漬ノズル内に旋回流発生機構を持たないゆえにノズル本体1の底部1aで強い渦が発生しやすいという弱点を補うことができる。
【0020】
前記衝立状突起3の延びる方向を、吐出孔2の側壁となす水平面に投影した角度が0°もしくは20°以下とするのは、ノズル本体1の底部1aで発生する渦の回転軸の方向が通常は吐出孔2の側壁2aと平行だからである。すなわち、回転軸の方向が吐出孔2の側壁2aと平行の渦を抑制するには、衝立状突起3の延びる方向が渦の回転軸の方向と同じ(すなわち前記角度が0°)にするのが最も好ましいからである。また、前記角度が0°でない場合にも両者がなす角度を20°以下とすることによって、渦の発生を抑制する効果が発揮されるからである。
【0021】
また、前記衝立状突起3の長さL1を30mm以上とするのは、同長さL1が30mm未満であると渦防止効果が不足するからである。同長さL1の上限値は、通常、浸漬ノズルの底部1aの内径dとなる。また、同幅W1を5mm〜15mmとするのは、5mm未満であると耐久性に劣り、15mmを超えると渦防止効果が弱くなるからである。
【0022】
なお、衝立状突起3の幅W1は高さH1方向の上から下まで同一であっても良いが、浸漬ノズルの製造を容易にする観点からは、上端部の幅が最も小さく下端部の幅が最も大きい形状とすることが望ましい。そのような場合には、幅W1の平均値が上記規定範囲に入ればよい。
【0023】
また、同高さH1を10mm〜40mmとするのは、10mm未満では渦抑制効果が不十分であり、40mmを超えると耐久性が低下するとともに渦抑制効果がかえって弱まるからである。
【0024】
前記衝立状突起3は、それによって隔てられたノズル本体1の底部1aの面積が均等になるように、浸漬ノズルの底面を二分する位置に設けることが、渦抑制効果を高める観点から好ましい。
【0025】
ノズル本体1の内底面1aaを二分する位置に衝立状突起3を設けた浸漬ノズルは、2つの吐出流が鋳型の厚み方向に均等に開孔していないので、衝立状突起3により二分された内底面1aaの一方の側に吐出孔2の一方が大きく開孔している(図2(b)参照)。
【0026】
また、衝立状突起3は吐出孔2の側壁2aと概ね平行に設置され、通常、浸漬ノズルは吐出孔2の側壁2aを鋳型の幅方向(鋳型長辺と平行)に設置するので、衝立状突起3は概ね鋳型の幅方向に設置されることになる。
【0027】
従って、衝立状突起3を設けた本発明の浸漬ノズルを用いて連続鋳造する場合には、タンディッシュに備えたストッパーまたは鋳型幅方向に摺動するスライディングゲートにより、浸漬ノズルへの流量制御を行いつつ連続鋳造することが望ましい。これが第1の本発明の溶融金属の連続鋳造方法である。
【0028】
この連続鋳造において、浸漬ノズル内の流量制御機構として、ストッパーまたは鋳型幅方向に摺動するスライディングゲートを採用することが望ましいのは、以下の理由による。
【0029】
すなわち、浸漬ノズル内の下降流が鋳型の厚み方向に偏ると、衝立状突起3により二分された内底面1aaのどちらか一方に下降流が偏り、この偏った内底面側に大きく開孔している吐出孔2からの吐出流が多くなり、鋳型内の偏流を引き起こすからである。
【0030】
浸漬ノズル内の下降流が鋳型厚み方向に偏る現象は、鋳型厚み方向に摺動するスライディングゲートで浸漬ノズルに供給する溶融金属の流量を制御した場合に明確に生じるため、ストッパーまたは鋳型幅方向に摺動するスライディングゲートを用いるのである。
【0031】
前記本発明の連続鋳造用浸漬ノズルを用いて溶融金属の連続鋳造を行うに際し、その効果をより明確に発揮させるためには、前記本発明の連続鋳造用浸漬ノズルに、更に以下の条件を加えることが望ましい。
【0032】
すなわち、前記本発明の連続鋳造用浸漬ノズルの吐出孔2の幅Wを、ノズル本体1の底部1aの内径dに対しW/d=0.35〜0.80の範囲とするのである。また、吐出孔2の上壁2bは、曲率半径Rが40〜150mmの面で、図1又は図2に示すように、出口に向けて徐々にノズル本体1の底部1aの内径部分が大きくなる形状、もしくは、下向20°〜75°の傾斜を有する面とするのである。さらに、吐出孔2の下壁2cは、上向75°〜下向15°の傾斜を有する面とし、吐出孔2の下壁2cの最も高い点から10〜50mm下方にノズル本体1の内底面1aaを存在させるのである。
【0033】
そして、連続鋳造に際しては、この連続鋳造用浸漬ノズルの、吐出孔出口における平均流速が0.5m/sec〜1.5m/secとなる条件で溶融金属を供給するのである。これが第2の本発明の溶融金属の連続鋳造方法である。
【0034】
この第2の本発明方法において、使用する浸漬ノズルの吐出孔2の幅Wをノズル本体1の底部1aの内径dに対しW/d=0.35〜0.80の範囲に規定するのは、W/dの値が0.80を超えると、吐出しようとする流れを旋回させる作用が弱まるからである。W/dの上限値のより好ましい値は0.7、さらに好ましい値は0.6である。
【0035】
本来、W/dの値は、小さくなるほど吐出しようとする流れが浸漬ノズル内で旋回流を形成する作用が強まって好ましいが、一方、W/dの値が0.35未満となると吐出孔2の幅が小さくなりすぎて非金属介在物による閉塞を生じ易くなるので好ましくない。
【0036】
また、吐出孔2の上壁2bの形状は、曲率半径Rが40mm〜150mmの面で、出口に向けて徐々にノズル本体1の底部1aの内径部分が広がるようにするのが最も好ましい。これは、ノズル本体1の底部1aに当たって二つの吐出孔2に分配される流れが、吐出孔2の上壁2bから剥離することなく円滑に吐出するのに適した形状だからである。
【0037】
その際、曲率半径Rが40mmよりも小さいと、ノズル本体1の底部1aの内径部分の広がりが急激過ぎて流れの剥離が生じ易くなる。反対に曲率半径Rが150mmよりも大きいと、吐出孔2の上壁2b部の浸漬ノズルの肉厚が小さくなり過ぎて、耐火物の亀裂が生じ易くなる。発明者の調査結果によると、曲率半径Rのより好ましい範囲は、60mm〜120mmである。
【0038】
吐出孔2の上壁2bの形状を、前記のような曲面に成形することが難しい場合には、次善の策として、吐出孔2上壁2bを、下向20°〜75°の傾斜を有する平面としても良い。この角度が下向20°よりも小さい場合は、吐出孔2の上壁2bからの流れの剥離が生じ易くなり、下向75°よりも大きい場合は、遠心力に対して吐出孔2の上壁2bの傾斜が大き過ぎて、吐出しようとする流れが浸漬ノズル内に旋回流を形成する作用が弱まってしまう。
【0039】
吐出孔2の上壁2bを、このような平面で構成する場合には、2段階もしくは3段階の複数の傾斜面を組み合わせて、曲率半径Rが40mm〜150mmの曲面の形状に近づけることが好ましい。そのように複数の傾斜面を組み合わせた場合には、その平均角度が下向20°〜75°の範囲に入るようにする。発明者の調査結果によると、吐出孔2の上壁2bを傾斜面とする場合のより好ましい傾斜角は、下向45°〜60°である。
【0040】
また、吐出孔2の下壁2cを上向75°〜下向15°の傾斜を有する面とするのは、吐出孔2の上壁2bの下向き角度(曲率半径Rを有する曲面の場合はその平均下向き角度)よりも小さくするか、もしくは上向きに成形することが、吐出孔2における流速分布を均等化する点で有利だからである。発明者の調査結果によると、吐出孔2の下壁2cの角度のより好ましい範囲は、上向35°〜上向5°である。
【0041】
また、吐出孔2の下壁2cの最も高い点から10mm〜50mm下方にノズル本体1の内底面1aaを存在させるのは、前記内底面1aaで跳ね上がって吐出孔2へ達する流れの存在が、2つの吐出孔2からの吐出流を均等に分配する作用を有するからである。
【0042】
吐出孔2の下壁2cの最も高い点は、吐出孔2の下壁2cが下向きの角度を有する場合は、吐出孔2の下壁2cとノズル本体1の底部1aの内径dが交わるライン上にある。また、吐出孔2の下壁2cが上向きの角度を有する場合は、吐出孔2の下壁2cとノズル本体1の底部1aの外径が交わるライン上にある。
【0043】
吐出孔2の下壁2cの最も高い点とノズル本体1の内底面1aaとの高さの差が、10mm未満の場合は、吐出流の分配を均等化する作用が十分ではなく、50mmを超えると無用に浸漬ノズルの長さが長くなり、上記作用が低減してしまう。発明者の調査結果によると、吐出孔1の下壁1cの最も高い点とノズル本体1の内底面1aaとの高さの差のより好ましい範囲は、15mm〜30mmである。
【0044】
また、第2の本発明方法において、吐出孔2の出口の平均流速が0.5m/sec〜1.5m/secとなる条件で溶融金属を供給するのは、0.5m/sec未満の場合は溶融金属の流量に対して吐出孔2の面積が大きすぎ、吐出流速を均一に保つのが難しいからである。反対に、平均流速が1.5m/secを超えると鋳型内流動が乱れ易くなるからである。
【0045】
吐出孔2の出口における平均流速は、浸漬ノズルが用いられる代表的条件における溶鋼の時間当り流量に応じて、吐出孔2の面積を適正な値に設計することによって、上記適正な範囲に調整することができる。なお、吐出孔2の出口における平均流速は、溶鋼の時間当り流量を吐出孔2の総開孔面積で除することによって求めることができる。
【0046】
衝立状突起3を設けた本発明の浸漬ノズルが、さらに第2の本発明方法で規定する条件を満たすようにすれば、吐出孔2における流速分布が均一かつ安定する。例えばフルスケールの水モデル実験によって吐出孔2における流速分布を測定した場合、任意の3分間の時間平均流速が負、すなわち吸い込み流となる領域が存在しなかった。そして、任意の吐出孔2の出口の測定点における時間平均流速が、吐出孔2の出口全面の平均流速に対して、±50%の範囲内になった。
【0047】
前記±50%の範囲内であると、部分的に過大な吐出流速が生じて鋳型内流動が乱されたり、吐出流速が部分的に小さすぎてアルミナ等の非金属介在物が付着するという問題を解消できる。
【0048】
また、前記本発明の連続鋳造用浸漬ノズルに加えて、或いは、前記第2の本発明の連続鋳造方法に使用する連続鋳造用浸漬ノズルに加えて、更に以下の条件を加えた場合は、鋳型短辺での反転表面流を形成する流動パターンの安定化が図れる。
【0049】
すなわち、前記本発明の連続鋳造用浸漬ノズルの吐出孔2を、高さHが幅Wの1.5倍〜3.0倍である縦長形状とし、吐出流が流出する上下方向の角度が平均で下向15°〜下向45°となるようにするのである。
【0050】
そして、吐出流が鋳型内における鋳型短辺から鋳型長辺の1/4の長さを隔てた地点(以下、鋳型内1/4幅という。)の鋳型短辺と平行な鉛直断面において形成する時間平均流速の極大値が、20cm/sec〜60cm/secの範囲内となるようにして溶融金属の連続鋳造を行うのである。これが第3の本発明の連続鋳造方法であるが、この第3の本発明の連続鋳造方法は、垂直鋳型を有するスラブの連続鋳造機を用いて実施する。
【0051】
この第3の本発明方法において、使用する浸漬ノズルの吐出孔2の高さHが幅Wの1.5倍〜3.0倍の縦長形状とするのは、スラブの連続鋳造機に適用するからである。すなわち、スラブの連続鋳造用鋳型の場合に吐出流が流出する領域は、幅が狭く上下方向に広い(すなわち幅は鋳型厚み−凝固シェル厚×2に相当する数10cmで、上下方向には少なくとも深さ10数mに亘って鋳片内に溶融金属が存在する)。従って、そのような領域の溶融金属に安定した流動を付加するには、吐出流もまた縦長であることが好ましいからである。
【0052】
また、吐出流が流出する上下方向の角度が、平均で下向15°〜下向45°となるようにするのは、前記下向き角度が15°よりも小さいと吐出流と鋳型短辺からの反転表面流との干渉が生じるからである。また、下向き角度が45°よりも大きいと鋳型短辺近傍で上昇流が十分に形成されず、鋳型短辺からの反転表面流を維持することが難しいからである。
【0053】
つまり、前記上下方向の角度が平均で下向15°〜下向45°となるようにすれば、鋳型短辺近傍に達した吐出流の一部が鋳型短辺に沿った上昇流となり、浸漬ノズルに向けて反転する表面流を形成するのに適するからである。この鋳型短辺での反転表面流を形成する流動パターンの安定化を第3の本発明方法では目指しているのである。
【0054】
吐出流が流出する上下方向の角度は、吐出孔2の上壁2bや下壁2cの形状や角度、上壁2bや下壁2cの厚み、ノズル本体1の底部1aの形状、吐出孔2の縦横比等の影響を受けて変化する。
【0055】
一般的な傾向として、吐出孔2の上壁2aや下壁2bの角度が下向きに大きいほど、前記上下方向の角度は大きな下向き角度を有する流れとなり、吐出孔2の上壁2bや下壁2cの厚みが大きいほど、吐出孔2の上壁2bや下壁2cの角度の影響を受け易くなる。
【0056】
また、ノズル本体1の底部1aの内底面1aaが凹面状の場合は、吐出流の一部が上向きに跳ね上げられ、下向きの角度が小さくなる。このノズル本体1の底部1aの内底面1aa形状の影響は、吐出孔2が横長であるほど大きく現れる。
【0057】
上記の複雑な影響を推定することは容易でないので、フルスケールの水モデル実験によって実験的に求めることで、容易で誤差が小さい推定が可能になる。
【0058】
発明者は、フルスケールの水モデル実験により、鋳型内1/4幅の鋳型短辺に平行な鉛直断面において吐出流が形成する流速分布を測定し、時間平均流速がピークとなる位置と、浸漬ノズルの吐出孔の位置関係から、吐出流が流出する上下方向の角度を求めた。むろん、精度の高い数値流動解析によっても同様の結果が得られることは言うまでもない。
【0059】
ここで言う位置関係とは、高さ方向の位置関係と、鋳型幅方向の位置関係の総称である。吐出孔における流速分布を測定し、時間平均流速がピークとなる部位の高さを、浸漬ノズルの吐出孔の代表高さとして定義する。
【0060】
本発明においては、このように実験的に求められる吐出流の上下方向流出角度が、適正な範囲内に収まるよう、試行錯誤を重ねて浸漬ノズルを設計するのである。
【0061】
第3の本発明方法において、前記時間平均流速の極大値を20cm/sec〜60cm/secの範囲内とするのは、20cm/sec未満では吐出流の運動エネルギーが小さすぎて鋳型内に安定した流動パターンを形成することができないからである。また、60cm/secを超えると鋳型内の流動が激しくなり過ぎるからである。
【0062】
ここで、前記の時間平均流速の極大値とは、例えばフルスケールの水モデル実験によって同断面内の流速分布を、測定点1点につき5分間測定し、その時間の平均値が最も大きくなる点における平均流速として得られる。むろん、精度の高い数値流動解析によっても同様の結果が得られることは言うまでもない。
【0063】
前記の時間平均流速の極大値は、吐出孔における流速や吐出孔の横幅と鋳型厚みとの関係、吐出流の鋳型厚み方向への広がりの影響を受ける。一般的な傾向として、吐出孔における流速が大きいほど、前記の極大値も大きくなるが、鋳型厚みに対して吐出孔の横幅が大きい場合や、吐出流の鋳型厚み方向への広がりが大きい場合は、鋳型内1/4幅に到達するまでの間の減衰が大きくなる。
【0064】
第3の本発明の連続鋳造方法では、このように実験的に求められる鋳型内1/4幅の鋳型長辺に垂直な鉛直断面において形成する時間平均流速の極大値が、適正な範囲内に収まるよう、試行錯誤を重ねて浸漬ノズルを設計するのである。
【0065】
第3の本発明の連続鋳造方法において、垂直鋳型を有するスラブの連続鋳造機に、前記の浸漬ノズルを適用するのは、縦長の吐出孔から流出する縦長の吐出流が鋳型内の溶融金属を効率良く移動させて鋳型内流動パターンを形成するには、その流動形成領域すなわち鋳型が垂直であることが望ましいからである。
【0066】
以下、本発明の効果を確認するために行った、実験結果について説明する。下記表1及び図1、図2に本発明の実施例を、下記表2及び図3〜図6に本発明の比較例を示す。
【0067】
下記表1に記した吐出孔における最大流速及び吐出孔における最小流速とは、前記水モデル実験装置を用いて吐出孔における流速を吐出孔の幅方向と高さ方向の各5点、計25点を各点3分間測定した各点の時間平均流速の中で最も大きな値と最も小さな値を示す。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

【0070】
図1は実施例Aを示した図であり、この実施例Aの浸漬ノズルは、請求項1に係る発明の浸漬ノズル、請求項4、5に係る発明を実施する浸漬ノズルの要件を満たしたものである。
【0071】
この実施例Aは、吐出孔2での流速分布が均一となり、吐出流角度のみが実施例Aと異なる浸漬ノズルに、図4に示す厚さ13mmの板を180°捩った形状の旋回羽根4を設けた比較例Cの旋回流付与型浸漬ノズルの鋳型内流動と同等の安定したものとなった。しかも、旋回流付与機構(旋回羽根4)を設けていないので、ノズル閉塞に強いノズルとなった。
【0072】
図2は実施例Bを示した図であり、この実施例Bの浸漬ノズルは、請求項1、2に係る発明の浸漬ノズル、請求項3〜5に係る発明を実施する浸漬ノズルの要件を全て満たしたものである。
【0073】
この実施例Bは、請求項2で規定する衝立状突起3を設けているので、実施例Aよりもさらに高いレベルの吐出孔2での流速分布の均一性及び安定性が得られた。また、第1の本発明の連続鋳造方法を満たすので、2つの吐出孔2への流量の分配が均等となって、実施例Aおよび比較例Cと同様に優れた鋳型内流動の安定度が得られた。
【0074】
実施例Bにおいて、仮に第1の本発明の連続鋳造方法を満たさない場合(スライディングゲートの摺動方向が鋳型厚み方向の場合)は、鋳型内流動は安定しても、2つの吐出孔2への流量の分配が不均等になり易くなる。従って、鋳型幅方向の流速が浸漬ノズルを挟んで一方で大きく、もう一方で小さい不均等な流速分布になり易い。
【0075】
一方、図3に示した前記比較例Cは、浸漬ノズル内に旋回羽根4を有するので、本発明の実施例A、Bと同等の安定した鋳型内流動が得られる。しかしながら、浸漬ノズル内に設けた旋回羽根4部において非金属介在物の付着による閉塞が発生し易くなる。
【0076】
図5は比較例Dの浸漬ノズルで、水平面に投影した際にノズル本体1の横断面の中心に設けた吐出孔2を横長としたノズル本体1の底部1aの内底面1aaに衝立状突起3を設けたものである。この比較例Dは、衝立状突起3と横長の吐出孔2との相乗効果によって吐出孔2における流速分布の均一性が高いが、吐出孔2をさらに工夫して縦長とした本発明の実施例A、Bに比べると、鋳型内流動の安定性において劣っていた。
【0077】
図6は比較例Eの浸漬ノズルで、水平面に投影した際にノズル本体1の横断面の中心に設けた吐出孔2が、幅90mm、高さ95mmの略正方形状の通常の浸漬ノズルである。この比較例Eは、実施例A、Bおよび比較例C、Dに比べて鋳型内流動は最も不安定であり、吐出孔2の流速分布は最も不均一であった。
【0078】
本発明は上記の例に限らず、各請求項に記載された技術的思想の範疇であれば、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0079】
1 ノズル本体
1a 底部
1aa 内底面
1b 側面
2 吐出孔
2a 側壁
2b 上壁
2c 下壁
3 衝立状突起

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状のノズル本体における底部近傍の側面の対向位置に2つの吐出孔を有し、浸漬ノズル内下降流に円周方向の旋回流速を付与する旋回流付与機構を内部に有していない連続鋳造用浸漬ノズルであって、
前記吐出孔の幅をノズル本体底部の内径よりも小さくすると共に、水平面に投影した前記吐出孔側壁の中心線がノズル本体横断面の中心を通らず、かつ水平面に投影した2つの前記吐出孔をノズル本体横断面の中心に対して点対称に開孔したことを特徴とする連続鋳造用浸漬ノズル。
【請求項2】
前記ノズル本体の内底面に、前記吐出孔の側壁となす、水平面に投影した角度が0°もしくは20°以下の方向に延びた、長さが30mm以上、幅が5mm〜15mm、高さが10mm〜40mmの、底面を二分する衝立状突起を有することを特徴とする請求項1に記載の連続鋳造用浸漬ノズル。
【請求項3】
タンディッシュに備えたストッパーまたは鋳型幅方向に摺動するスライディングゲートにより、請求項2に記載の連続鋳造用浸漬ノズルへの流量制御を行いつつ連続鋳造することを特徴とする溶融金属の連続鋳造方法。
【請求項4】
吐出孔の幅Wがノズル本体底部の内径dに対しW/d=0.35〜0.80の範囲にあり、吐出孔の上壁は曲率半径Rが40〜150mmの面を出口に向けて徐々にノズル本体底部の内径部分が大きくなる形状、もしくは下向20°〜75°の傾斜を有する面で、吐出孔の下壁は上向75°〜下向15°の傾斜を有する面であり、吐出孔の下壁の最も高い点から10〜50mm下方にノズル本体の内底面がある、請求項1又は2に記載の連続鋳造用浸漬ノズルの、吐出孔出口における平均流速が0.5m/sec〜1.5m/secとなる条件で溶融金属を供給して連続鋳造することを特徴とする溶融金属の連続鋳造方法。
【請求項5】
吐出孔は、高さHが幅Wの1.5倍〜3.0倍である縦長形状で、吐出流が流出する上下方向の角度が平均で下向15°〜下向45°であり、吐出流が鋳型内における鋳型短辺から鋳型長辺の1/4の長さを隔てた地点の鋳型短辺と平行な鉛直断面において形成する時間平均流速の極大値が20cm/sec〜60cm/secの範囲内である、請求項1又は2に記載の連続鋳造用浸漬ノズル、又は請求項4に記載の連続鋳造方法に使用する連続鋳造用浸漬ノズルを、垂直鋳型を有するスラブの連続鋳造機に適用して溶融金属の連続鋳造を行うことを特徴とする溶融金属の連続鋳造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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